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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152640
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】舗装工事用刷毛
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/35 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
E01C19/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049067
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023065998
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 哲司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正典
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛行
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AB01
2D052AD12
2D052BA18
(57)【要約】
【課題】 未塗布箇所の発生が少ない舗装工事用刷毛を提供することを課題とする。
【解決手段】 毛束保持部と、前記毛束保持部に保持される毛束とを有する刷毛であって、前記毛束は、少なくも前記毛束保持部よりも毛先側で、前記毛束の毛幅方向に沿って直線状に伸びる互いに平行な第一部分毛束と第二部分毛束とに分かれており、前記第一部分毛束と前記第二部分毛束とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いている舗装工事用刷毛を提供することによって、上記の課題を解決する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛束保持部と、前記毛束保持部に保持される毛束とを有する刷毛であって、
前記毛束は、少なくも前記毛束保持部よりも毛先側で、前記毛束の毛幅方向に沿って直線状に伸びる互いに平行な第一部分毛束と第二部分毛束とに分かれており、
前記第一部分毛束と前記第二部分毛束とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いている、
舗装工事用刷毛。
【請求項2】
前記第一部分毛束と前記第二部分毛束とが、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向くように、前記毛束保持部に保持されているか、曲がっているか、若しくはその双方である、請求項1記載の舗装工事用刷毛。
【請求項3】
前記第一部分毛束を構成する毛の本数と、前記第二部分毛束を構成する毛の本数とが、本数比で3:7~7:3の範囲にある、請求項1又は2記載の舗装工事用刷毛。
【請求項4】
前記第一部分毛束及び前記第二部分毛束の毛幅方向左右端に、それぞれ毛幅方向が前記第一部分毛束及び前記第二部分毛束の毛幅方向と直交する左側部小刷毛及び右側部小刷毛を有しており、前記左側部小刷毛及び前記右側部小刷毛の毛束が、少なくとも前記第一部分毛束及び前記第二部分毛束の側面を覆い、さらに自身の毛幅方向に沿って延在している、請求項1又は2記載の舗装工事用刷毛。
【請求項5】
前記毛束保持部に人が把持するための柄が連結されているか、自走車両との連結部を有している、請求項1又は2記載の舗装工事用刷毛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床版防水工法などの舗装工事を実施する際に用いられる舗装工事用の刷毛に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋や高架道路の床版には、その上にアスファルト混合物などを舗設するに先立って、防水層を構築することが行われている。防水層を構築する工法には、大別して、床版上に防水能を有するシートを貼り付けるシート系防水工法と、床版上に防水材を塗布又は吹き付けるなどして防水層を構築する塗膜系防水工法とがあり、塗膜系防水工法においては、床版上に防水材を塗布するに際して比較的に長い柄のついた大型の刷毛が用いられている。
【0003】
図15は、塗膜系防水工法において、従来から用いられている大型の刷毛の一例を示す斜視図である。図に見られるとおり、大型の刷毛100は、毛束保持部101と、毛束保持部101に取り付けられた柄102とで構成されている。毛束保持部101には毛束103が下向きに直線状に植え込まれ主刷毛を構成している。毛束保持部101に植え込まれている毛束103の毛幅方向の長さWは、通常1m弱であり、使用に際しては、人ひとりが柄102をもって毛束保持部101を手前側に引き寄せることによって毛束103による塗布が行われる。104a、104bは、毛束103の左右端部と接して設けられた横漏れ防止用の側部刷毛である。
【0004】
図16(A)(B)は、上記の刷毛100を用いて防水材を塗布する様子を示す概略平面図である。図に示すとおり、毛束保持部101と毛束103で構成される主刷毛と、その両サイドに取り付けられている側部刷毛とで囲まれた領域内に所定量の防水材Asを流し込み、その後、刷毛100を図中矢印で示す手前方向に引くことによって、防水材Asが順次施工面上に塗布されていく。
【0005】
しかしながら、本発明者らが経験したところによれば、上記した従来の刷毛を用いて防水材を塗布すると、塗布面となるコンクリート床版の表面粗さの程度にもよるが、いわゆる塗り残しと呼ばれる未塗布箇所が散見されることがあった。防水材の塗布作業においては、塗布した防水材の上に作業者が乗ることができず、また、防水材の温度低下に伴う粘性の増大が著しいので、基本的に塗布作業は刷毛を一方向に移動させる一回の塗布で行わなければならないという制約がある。したがって、上述したような未塗布箇所の発生はある程度仕方のないことと考えられていた。とはいえ、未塗布箇所の存在は、防水材を塗布して構築される防水層の防水能にも影響を及ぼすので、上記大型の刷毛による塗布後に未塗布箇所を発見すると、作業者は、その都度、小さな手持ち用の刷毛で未塗布箇所に防水材を塗布しているのが現状である。
【0006】
因みに、上述したような人の手作業による塗布ではなく、比較的大型の機械を用いて防水材を塗布することも、例えば特許文献1、2に見られるように従来から提案されているが、刷毛部分の構造が上述した従来の大刷毛と同じである限り、同様の不都合が生じるものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63-90469号公報
【特許文献2】特開2020-143469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するために為されたもので、未塗布箇所の発生が少ない舗装工事用刷毛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、鋭意研究努力を重ねた結果、本発明者らは、従来の刷毛を用いて防水材を塗布したときに発生する未塗布箇所は、主として、施工面上に存在する小さな凸部の刷毛進行方向前方側の斜面に多く見られること、また、施工面上に存在する小さなピンホール部分にも見られることを見出した。
【0010】
この知見に基づき、さらに研究努力を重ねた結果、本発明者らは、刷毛の進行方向前方側の斜面部分に未塗布箇所の発生が多いのは、従来の刷毛は毛が全て下方を向いており、そのような刷毛を一方向に移動させると、刷毛の毛が全て刷毛の進行方向とは逆向きになびく結果、一方向、一回だけの塗布では、凸部の進行方向前方側の斜面部分に塗り残しが発生するのはないかと考えた。
【0011】
そして、刷毛を構成する毛の向きに関し種々試行錯誤を重ねた結果、刷毛を構成する毛を少なくとも前後2列に分け、その向きを毛先側に向かうに連れて両者間の間隔が大きくなる向きにすると、一方向、一回だけの塗布であるにも関わらず、刷毛の進行方向前方側の斜面部分における塗り残し箇所の発生を大きく減少させることができることを見出した。また、刷毛を構成する毛を上記のように少なくとも前後2列に分けると、意外にも、ピンホール部分における塗り残し箇所の発生も大幅に減少させることができることを見出した。本発明は斯かる知見に基づいて為されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、毛束保持部と、前記毛束保持部に保持される毛束とを有する刷毛であって、前記毛束が、少なくも前記毛束保持部よりも毛先側で、前記毛束の毛幅方向に直線状に伸びる互いに平行な第一部分毛束と第二部分毛束とに分かれており、前記第一部分毛束と前記第二部分毛束とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いている、舗装工事用刷毛を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0013】
上述したとおり、本発明の舗装工事用刷毛においては、毛束が第一部分毛束と第二部分毛束とに分かれ、両毛束は、毛先側に向かうに連れて両毛束間の間隔が大きくなる方向を向いていることを特徴としているが、両毛束は、直線状の毛を毛先側に向かうに連れて両毛束間の間隔が大きくなる方向を向くように毛束保持部に保持されていても良いし、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向くように曲がっていても良いし、又はその双方であっても良い。
【0014】
因みに、第一部分毛束と第二部分毛束とが、毛先側に向かうに連れて両毛束間の間隔が大きくなる方向を向くように毛束保持部に保持されているとは、第一部分毛束を構成する毛と、第二部分毛束を構成する毛とを、互いの間隔が毛先側に向かうに連れて大きくなるような向きに毛束保持部に植え込み、保持させることを意味している。また、第一部分毛束と第二部分毛束とが、毛先側に向かうに連れて両毛束間の間隔が大きくなる方向を向くように曲がっているとは、文字どおり、第一部分毛束及び/又は第二部分毛束を構成する毛が当初から所定の曲率で曲がっているか、適宜のタイミングで曲がり癖が付けられたことを意味している。
【0015】
なお、第一部分毛束を構成する毛の本数と、第二部分毛束を構成する毛の本数には特段の制限はなく、刷毛として使用できる限り何本であっても良いが、好適な一態様においては、第一部分毛束を構成する毛の本数と、第二部分毛束を構成する毛の本数とはほぼ等しいのが好ましく、本数比で3:7~7:3の範囲、より好ましくは4:6~6:4の範囲にあるのが良い。
【0016】
好適な一態様において、本発明の舗装工事用刷毛は、第一部分毛束及び第二部分毛束の毛幅方向左右端に、それぞれ毛幅方向が前記第一部分毛束及び前記第二部分毛束の毛幅方向と直交する左側部小刷毛及び右側部小刷毛を有しており、前記左側部小刷毛及び前記右側部小刷毛の毛束が、少なくとも前記第一部分毛束及び前記第二部分毛束の側面を覆い、さらに自身の毛幅方向に沿って延在している。本発明の舗装工事用刷毛が、このような小刷毛を第一及び第二部分毛束の左右方向両端に有している場合には、刷毛側面からの防水材の漏出を防止し、定められた塗布幅で防水材を無駄なく施工面上に塗布することができる。
【0017】
本発明の舗装工事用刷毛は、通常、毛束保持部に人が把持することができる柄を取り付け、作業者がこの柄を持つことによって一方向に移動させ、手作業で防水材の塗布を行う際に用いられる。しかし、場合によっては、適宜の連結部材を毛束保持部に取り付けて、自走する車両の後部などに連結し、車両の進行とともに塗布作業が行えるようにしても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る舗装工事用刷毛によれば、細かな凹凸やピンホールのある施工面に対しても、一方向、一回の塗布で、未塗布箇所の発生少なく、防水材を塗布することができるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の舗装工事用刷毛の一例を示す斜視図である。
図2図1の舗装工事用刷毛を上下反転させた斜視図である。
図3】毛束保持部と毛束だけを取り出して示す部分拡大側面図である。
図4】本発明の舗装工事用刷毛における毛束の他の一例を示す部分拡大側面図である。
図5】本発明の舗装工事用刷毛における毛束の他の一例を示す部分拡大側面図である。
図6】第一部分毛束及び第二部分毛束の厚みと毛先間の距離との関係を示す部分拡大側面図である。
図7】左右側部小刷毛を取り付けた状態を示す斜視図である。
図8】第一部分毛束及び第二部分毛束と左右側部小刷毛の毛束との関係を示す平面図である。
図9】第一部分毛束及び第二部分毛束と右側部小刷毛の毛束との関係を示す部分拡大右側面図である。
図10】防水材の塗布工程を示す平面図である。
図11】防水材の塗布工程を示す平面図である。
図12】防水材の塗布工程を示す平面図である。
図13】他の例における第一部分毛束及び第二部分毛束と右側部小刷毛の毛束との関係を示す部分拡大右側面図である。
図14】右側部小刷毛を施工面と接触させたときの状態を示す部分拡大右側面図である。
図15】従来の刷毛の一例を示す斜視図である。
図16】従来の刷毛を用いる塗布作業の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明に係る舗装用材料散布車について説明するが、本発明が、図示のものに限られないことはいうまでもない。
【0021】
図1は、本発明に係る舗装工事用刷毛の一例を示す斜視図であり、図2は同じ刷毛を上下反転させた斜視図である。図1及び図2において、1は本発明に係る舗装工事用刷毛(以下、単に「刷毛」ということがある)であり、2は毛束保持部、3は毛束保持部に取り付けられた柄である。
【0022】
本例の刷毛1においては、毛束保持部2は3枚の板状部材2a、2b、2cを重ね合わせた構造であり、中央の板状部材2bの下部には金属枠4が取り付けられている。5は毛束であり、毛束5の根元側は金属枠4内に植え込まれ、保持されている。一方、毛束5の毛先側は、第一部分毛束5と第二部分毛束5とに分かれている。
【0023】
図1及び図2に示すとおり、第一部分毛束5と第二部分毛束5は、図中、両矢印で示す毛束5の毛幅方向D5に沿って直線状に伸びる毛束であり、第一部分毛束5と第二部分毛束5とは互いに平行である。なお、6及び6は、それぞれ第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛先である。
【0024】
本例においては、便宜上、塗布時に刷毛1を進行させる方向(図1においては右向きの方向)の前方側の部分毛束を第一部分毛束5とし、塗布時に刷毛1を進行させる方向の後方側の部分毛束を第二部分毛束5としている。ただし、この呼び方は適宜変更しても良い。
【0025】
第一部分毛束5の毛幅W5と、第二部分毛束5との毛幅W5とは基本的に同じである。また、第一部分毛束5と、第二部分毛束5とは、構成する毛の材質、太さ、毛足の長さにおいて、基本的に同じであるが、異なっていても良い。さらに、それぞれの部分毛束を構成する毛の本数も大略同じであるのが好ましいが、厳密に同一である必要はなく、第一部分毛束5を構成する毛と、第二部分毛束5を構成する毛は、本数比で、3:7~7:3の範囲にあれば良く、より好ましくは4:6~6:4の範囲にあれば良い。
【0026】
図3は、毛束保持部2と毛束5だけを取り出して示す部分拡大側面図である。図3に示すとおり、第一部分毛束5と、第二部分毛束5とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いており、第一部分毛束5と第二部分毛束5との毛先6、6側の間隔hは、根元側の間隔hよりも大きい。第一部分毛束5と第二部分毛束5との間には、毛先部に向かうに連れて間隔が大きくなる空間Vが形成されている。
【0027】
なお、本例の刷毛1においては、第一部分毛束5を構成する毛と第二部分毛束5を構成する毛は、共に根元部が直線状であり、その直線状の部分を金属枠4内に植え込むことによって毛束保持部2に保持されている。ただし、毛束保持部2よりも毛先側の箇所(図では線Xと交差する箇所)で、第一部分毛束5を構成する毛と第二部分毛束5を構成する毛は、互いに離れる向きに曲がっている。その結果、第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いている。
【0028】
ただし、第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いておれば良く、その向かせ方の具体的な仕方には種々の変更が可能である。
【0029】
例えば、図4は、図3と同様に毛束保持部2と毛束5だけを取り出して示す部分拡大側面図であるが、この例における第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、いずれも直線状のまっすぐな毛を、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向くように金属枠4内に植え込むことによって毛束保持部2に保持されている。このため、第一部分毛束5を構成する毛と、第二部分毛束5を構成する毛とは、毛束保持部2の金属枠4の下端(図中線Xで示す位置)を出たところから、互いの間隔が大きくなる方向を向いている。なお、第一部分毛束5と第二部分毛束5との間に毛先部に向かうに連れて間隔が大きくなる空間Vが形成されている点は先に述べた例と同じである。
【0030】
図5は、図3及び図4と同様に、毛束保持部2と毛束5だけを取り出して示す部分拡大側面図である。この例における第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、いずれも緩やかに曲がる複数本の毛を、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向くように金属枠4内に植え込むことによって毛束保持部2に保持されている。これにより、第一部分毛束5を構成する毛と、第二部分毛束5を構成する毛とは、毛束保持部2の金属枠4の下端(図中線Xで示す位置)を出たところから、互いの間隔が大きくなる方向を向いている。なお、第一部分毛束5と第二部分毛束5との間に、毛先部に向かうに連れて間隔が大きくなる空間Vが形成されている点は先に述べた例と同じである。
【0031】
このように、第一部分毛束5と第二部分毛束5とを、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向かせる具体的な仕方には様々な変更が可能である。
【0032】
なお、第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いておれば良く、その毛先6及び6間の間隔hには特段の制限はないが、図6に示すとおり、第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛幅方向と直交する方向の毛先6及び6における厚みを、それぞれh及びhとすると、h≧h/2、h≧h/2であるのが好ましく、さらにh≦(h+h)であるのが好ましい。
【0033】
<h/2、又はh<h/2であると、必ずしも所期の効果が得られないという訳ではないが、間隙の大きさが小さすぎて、第一部分毛束5と第二部分毛束5とを毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向かせることの技術的意義が薄れてしまう可能性があるので好ましくない。また、h>(h+h)であると、間隙の大きさが大きすぎて、第一部分毛束5による一度目の塗りと、第二部分毛束5による二度目の塗りとの間に、第一部分毛束5と第二部分毛束5の間にある防水材の温度が低下し、所期の効果が得られない可能性があるので好ましくない。
【0034】
図7は、図1に示す刷毛1の第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛幅方向左右端に、左側部小刷毛と右側部小刷毛を取り付けた状態を示す斜視図である。図7において、7a、7bは、それぞれ左側部小刷毛及び右側部小刷毛であり、8aは左側部小刷毛7aの毛束保持部、9a(図7では見えない)はその金属枠、10aは左側部小刷毛7aの毛束である。同様に、8bは右側部小刷毛7bの毛束保持部、9bはその金属枠、10bは右側部小刷毛7bの毛束である。なお、本明細書において、左右とは、図7に示す刷毛1を施工時に進行させる方向(図では柄3の方向)を向いた左右をいうものとする。
【0035】
図8は、図7に示す刷毛1の毛束部分のみを取り出して示す平面図であり、便宜上、柄3の一部も併せて示してある。図中、D5は、第一部分毛束5と第二部分毛束5の毛幅方向であり、D7aは左側部小刷毛7aの毛束10aの毛幅方向、7Dbは右側部小刷毛7bの毛束10bの毛幅方向である。
【0036】
図に示すとおり、左側部小刷毛7aの毛幅方向D7aは第一部分毛束5と第二部分毛束5の毛幅方向D5と直交しており、右側部小刷毛7bの毛幅方向D7bも、第一部分毛束5と第二部分毛束5の毛幅方向D5と直交している。また、左側部小刷毛7aの毛束10a及び右側部小刷毛7bの毛束10bは、第一部分毛束5と第二部分毛束5のそれぞれ左右の側面を覆い、さらに自身の毛幅方向D7a又はD7bに沿って延在している。延在する長さは、施工時における刷毛1の進行方向前方、すなわち、柄3側に向かう方が、進行方向後方に向かう方よりも長くなっているのが好ましい。これは施工時、第一部分毛束5よりも刷毛1の進行方向前方側に防水材Asが流し込まれるので、第一部分毛束5よりも進行方向前方側で防水材Asが刷毛1の側方に流れ出ることを防止するためである。また、毛束10a、10bが第一部分毛束5と第二部分毛束5の側面を覆っているので、第一部分毛束5と第二部分毛束5の間の空間Vから防水材Asが側方に流れ出ることも防止される。これらにより、定められた塗布幅で防水材Asを無駄なく施工面上に塗布することができる。
【0037】
図9は、図7の部分拡大右側面図である。第一部分毛束5及び第二部分毛束5と毛束10bの位置関係が見てとれるよう、右側部小刷毛7bは輪郭線のみで表してある。
【0038】
図9に示すとおり、右側部小刷毛7bの毛束10bは、刷毛1の第一部分毛束5と第二部分毛束5の側面を覆い、さらに毛束10bの毛幅方向に延在している。前述したとおり、毛束10bが第一部分毛束5を超えて延びる長さの方が、第二部分毛束5を超えて延びる長さよりも長い。
【0039】
なお、右側部小刷毛7bは、その毛束10bの毛先11bが、第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛先6及び6と同一平面上に位置するように刷毛1に取り付けても良いが、毛束10bの毛先11bが、第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛先6及び6よりも図中dで示す長さだけ下方に位置するように取り付けるのが好ましい。毛束10bの毛先11bが、第一部分毛束5及び第二部分毛束5の毛先6及び6よりも長さdだけ下方に位置していると、施工時、右側部小刷毛7bの毛束10bは、第一部分毛束5及び第二部分毛束5よりも強く施工面Sに押し付けられることになるので、防水材Asの側方からの漏れをより有効に防止することができるという利点が得られる。因みに、長さdは1mm以上、15mm以下の範囲にあるのが好ましく、2mm以上、10mm以下の範囲にあるのがより好ましい。
【0040】
以上、右側部小刷毛7bとその毛束10bについて述べたが、上述したことは左側部小刷毛7aの毛束10aについても同様である。
【0041】
施工に際しては、図10に示すように、第一部分毛束5及び第二部分毛束5と、左右側部小刷毛の毛束10a及び10bとで囲まれた領域Aに塗布すべき防水材Asの所定量を流し込み、柄3を持って、刷毛1全体を図中右方向に引けば良い。防水材Asは、まず、第一部分毛束5と接触し、そこで一部が施工面上に塗布されるが、全量が塗布されてしまうことはなく、余剰の防水材Asが、順次、第一部分毛束5と第二部分毛束5との間に形成されている空間Vに進入する。図11はこの状態を表している。
【0042】
さらに刷毛1を図中右方向に移動させると、空間V内の防水材Asは、たちまちに第二部分毛束5と接触し、第一部分毛束5によって既に一度防水材Asが塗布された施工面上に、第二部分毛束5によってさらに防水材Asが塗布されることになる。図12はこの状態を表している。
【0043】
このように、施工面が第一部分毛束5と第二部分毛束5という2つの毛束によって、短時間の間に二度塗りされることが、一方向に一回だけの塗布でありながら、未塗布箇所の発生が大幅に低減される理由ではないかと考えられる。
【0044】
このとき、第一部分毛束5と第二部分毛束5の向きが、二度塗りが効果的に実現されることに大きく寄与していると考えられる。すなわち、第一部分毛束5と第二部分毛束5とは、毛先側に向かうに連れて互いの間隔が大きくなる方向を向いているので、刷毛1を施工面上に載置すると、刷毛1の進行方向前方側に位置する第一部分毛束5は、毛先が刷毛1の進行方向前方側に傾斜した状態で施工面と当接する。刷毛1の進行方向後方側に位置する第二部分毛束5は、逆に、毛先が刷毛1の進行方向後方側に傾斜した状態で施工面に当接することになる。
【0045】
この状態で、刷毛1全体を図中右方向に引くと、最初に防水材Asと接する第一部分毛束5は、毛先が刷毛1の進行方向前方側に傾斜しているので、接触した防水材Asの一部は塗布されるが、残余の防水材Asが第一部分毛束5と第二部分毛束5との間に形成されている空間Vに進入することになる。
【0046】
一方、後続する第二部分毛束5は、毛先が刷毛1の進行方向後方側に傾斜した状態で施工面に当接しているので、空間Vに進入してきた防水材Asを、効果的に施工面上に押し広げ、第一部分毛束5が塗り残した箇所を充分に補完して、塗布を完成させる。施工面上の凸部の刷毛進行方向前方側の斜面における塗り残しは、このような短時間の2度塗りによって有効に防止されるのではないかと考えられる。
【0047】
また、第一部分毛束5による一度目の塗りによって、仮に、ピンホール内の空気が膨張し、はじけることで未塗布部分が生じたとしても、すぐに第二部分毛束5による二度目の塗りで未塗布部分は覆われてしまうので、ピンホール部分に生じる塗り残しも低減される。
【0048】
防水材Asは、約200℃近くに加熱された状態で塗布されることが多く、施工面上に薄く引き伸ばされると直ちに温度が低下し、粘性が著しく増大する。本発明に係る舗装工事用刷毛1によれば、このような防水材Asに温度低下の時間を与えず、第一部分毛束5と第二部分毛束5とが順次通過するだけの極めて短時間の間に、二度塗りすることが可能であり、極めて画期的である。
【0049】
図13は、左右側部小刷毛7a、7bの取り付け方の他の一例を示す部分拡大右側面図である。図9におけると同様に、第一部分毛束5及び第二部分毛束5との位置関係が見てとれるよう、右側部小刷毛7bは輪郭線のみで表してある。
【0050】
図13に示す例においては、右側部小刷毛7bは、刷毛1の毛束保持部2に対し、水平軸の回りに角度αだけ下向きに傾けて取り付けてある。図に示さない左側部小刷毛7aについても同様である。このように左側部小刷毛7a及び右側部小刷毛7bを刷毛1に対し角度αだけ傾けて取り付けておくと、施工時には左側部小刷毛7a及び右側部小刷毛7bの毛束10a、10bを施工面Sに押し当てることになるので、結果として、図14に示すとおり、第一部分毛束5が第二部分毛束5に対し、角度αだけ上向きに傾くことになる。このため、第一部分毛束5の毛先6及と施工面Sとの距離が大きくなり、より大量の防水材Asが第一部分毛束5と第二部分毛束5との間の空間V内に進入し、二度塗りの効果を増大させることが可能となる。
【0051】
なお、角度αとしては、0度より大きければ何度でも良いが、余りに小さいと傾けることによる所期の効果が得られ難いと思われるので、少なくとも3度以上であるのが良い。一方、αが余りに大きいと、第一部分毛束5の上方に傾く角度が大きくなり過ぎるので、20度以下が好ましく、15度以下がより好ましい。
【0052】
<試験1>
図15に示す従来の刷毛と、図7に示す本発明に係る舗装工事用刷毛1とを用いて、防水材をコンクリート面上に塗布する試験を行った。詳細は以下のとおり。
【0053】
<使用した刷毛の諸元>
1.従来品の刷毛
・主たる毛束
毛幅:80cm
毛足:4.5cm
毛の種類:サボテン
・左側部小刷毛及び右側部小刷毛
毛幅:15cm
毛足:5.5cm
毛の種類:サボテン
【0054】
2.発明品の刷毛
・主たる毛束が第一部分毛束と第二部分毛束とに分かれている点を除いて、従来品の刷毛と同じ。
・第一部分毛束と第二部分毛束の毛先部における間隔h:3cm
【0055】
予め表面を切削したコンクリート面(粗面度:1.4mm、下地水分カウント値:144)を用意し、上記従来品の刷毛、及び発明品の刷毛を用いて、防水材Asを塗布した。防水材Asとしては塗布用加熱アスファルト(商品名『フレッシュコート』 ニチレキ株式会社製、加熱温度191℃)を用いた。塗布量は、1.2kg/mを目安とした。なお、粗面度は『舗装調査・試験法便覧』、公益社団法人日本道路協会、平成31年版、S022-1のサンドパッチング法によって、また、下地水分は、『建設機械施工』、Vol.65、No.8(2013年)、82~85頁に記載されている電気抵抗式水分計で測定した。
【0056】
塗布は、各刷毛の進行方向前方に、加熱した防水材を流し込み、各刷毛を一方向に移動させて、流し込んだ防水材上を一回だけ通過させることにより行った。塗布後、塗布面に残る塗り残し箇所を目視にて観察したところ、従来品の刷毛で塗布した施工面には白く残る未塗布箇所が多数見られたのに対し、発明品の刷毛で塗布した施工面では白く残る未塗布箇所の数は明らかに減少しており、発明品の刷毛を用いることで、未塗布箇所の数を有意に減少させることができることが確認された。
【0057】
<試験2>
予め表面を切削したコンクリート面を隣接させて2区画用意し、隣接する一方の区画1には「従来品の刷毛」を用いて、また、隣接する他方の区画2には「発明品の刷毛」を用いて、それぞれ防水材Asを塗布し、塗布後、未塗布箇所の数を調べる試験を行った。塗布の仕方は試験1におけると同様に、各刷毛の進行方向前方に、加熱した防水材を流し込み、各刷毛を一方向に移動させて、流し込んだ防水材上を一回だけ通過させることにより行った。また、塗布に先立ち、各区画の粗面度及び下地水分を試験1におけると同様の方法で測定した。
【0058】
使用した「従来品の刷毛」及び「発明品の刷毛」の諸元は、それぞれ、試験1で用いた「従来品の刷毛」及び「発明品の刷毛」と同じであった。ただし、防水材Asとしては、塗布用加熱アスファルト(商品名『スーパーフレッシュコート』 ニチレキ株式会社製、加熱温度255℃)を用いた。塗布量は、試験1におけると同様に1.2kg/mを目安とした。塗布後、区画1内に設定した各30cm×30cmの大きさの塗布面(1)、(2)、(3)、及び区画2に設定した同じく各30cm×30cmの大きさの塗布面(4)、(5)、(6)に残る塗り残し箇所の数を作業員2名が各々目視にてカウントし、その平均値(1未満は四捨五入)を該当する塗布面における未塗布箇所数とした。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の「気泡発生数(個)」の項に示すとおり、ピンホール内に閉じ込められた空気が膨張することによって生じると考えられる気泡の発生は、従来品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(1)、(2)、(3)、及び発明品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(4)、(5)、(6)のいずれにも認められなかった。
【0061】
一方、未塗布箇所数に関しては、従来品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(1)、(2)、(3)には、30cm×30cmあたり平均で50個もの未塗布箇所がカウントされたのに対し、発明品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(4)、(5)、(6)には、30cm×30cmあたり平均で1個の未塗布箇所しかカウントされなかった。この結果は、発明品の刷毛が、未塗布箇所の減少に極めて効果的であることを示している。
【0062】
なお、従来品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(1)、(2)、(3)において、未塗布箇所の数に大きなバラツキが見られたが、これは粗面度の測定値には現れないコンクリート切削面の局所的な粗さの違いによるものと考えられる。発明品の刷毛を用いて防水材Asを塗布した塗布面(4)、(5)、(6)にも粗面度の測定値には現れない局所的な粗さの違いはあったと思われるが、カウントされた未塗布箇所の数は1個以下であった。このことは、本発明の刷毛が局所的な粗さの違いのあるコンクリート切削面に対しても、未塗布箇所の低減に極めて効果的であることを示している。
【0063】
なお、本発明の舗装工事用刷毛は、主として、コンクリート床版やその他のコンクリート構造物などの表面研削による凹凸が比較的多い施工面上に防水材を塗布する際に用いて特に好適であるが、それら以外の施工面上に防水材を塗布する際に用いても良いことは勿論である。また、塗布対象も、加熱したアスファルトに限られず、舗装工事において施工面上に塗布される材料であれば、どのような材料の塗布に使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したとおり、本発明に係る舗装工事用刷毛によれば、一方向に一回だけの塗布によって、コンクリート床版などの切削コンクリート表面上に防水材などの舗装用材料を未塗布箇所少なく塗布することができる。本発明の刷毛は舗装工事の効率化に大きく寄与するものであり、その産業上の利用可能性は多大である。
【符号の説明】
【0065】
1 舗装工事用刷毛
2 毛束保持部
3 柄
4 金属枠
5 毛束
第一部分毛束
第二部分毛束
、6 毛先
7a 左側部小刷毛
7b 右側部小刷毛
8a、8b 毛束保持部
10a、10b 毛束
11a、11b 毛先
100 刷毛
101 毛束保持部
102 柄
103 毛束
104a 左側部小刷毛
104b 右側部小刷毛
D 毛幅方向
V 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16