IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人島根大学の特許一覧 ▶ 学校法人帝京大学の特許一覧

<>
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図1
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図2
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図3
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図4
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図5
  • 特開-患部の疼痛を治療するための組成物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152645
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】患部の疼痛を治療するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241018BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/04
A61P29/00
A61P25/02
A61P43/00 111
A61K9/127
A61K9/107
A61K9/10
A61K47/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056277
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023066676
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】熊橋 伸之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA19
4C076AA22
4C076AA65
4C076BB11
4C076CC01
4C076EE24
4C084AA17
4C084MA21
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA24
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA081
4C084ZA082
4C084ZA211
4C084ZA212
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB151
4C084ZB152
4C084ZC511
4C084ZC512
(57)【要約】
【課題】関節の疼痛に対する新規治療薬を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る患部の疼痛を治療するための組成物は、ATP受容体遮断薬を含み、前記患部に注射投与によって投与され、前記患部は関節である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部の疼痛を治療するための組成物であって、
前記組成物は、ATP受容体遮断薬を含み、
前記患部に注射投与によって投与され、
前記患部は関節である、組成物。
【請求項2】
前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した、徐放性を有する粒子を形成する生分解性ポリマーをさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーは、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸からなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記粒子は、リポソーム、エマルジョンおよびサスペンジョンからなる群から選択される1種以上の形態である、
請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記粒子の平均粒子径は、100nm以上、30μm以下である、
請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ATP受容体遮断薬は、P2X受容体遮断薬を含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記疼痛は、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種に随伴する症状である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記粒子は、前記関節に注射投与された場合、該関節の関節腔内における前記ATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が300nM以上で1週間以上維持されるための放出速度を有している、
請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記注射投与は、1週間に1回以下の頻度で行われる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ATP受容体遮断薬は、前記患部における疼痛の原因部位において発現しているATP受容体に対する選択的な遮断薬である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患部の疼痛を治療するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内の変形性膝関節症(以下、「膝OA」)患者の数は約2000万人と推定されており、関節リウマチ患者の数(70万人)の約30倍にのぼる。膝OAは、整形外科の中で治療が必要な患者数が多い疾患の一つである。
【0003】
膝OA治療の基本は鎮痛であり、現在、疼痛で外来を受診した膝OA患者のうち、進行が初期の患者に対しては、ヒアルロン酸(以下、「HA」)製剤やステロイド剤などの関節内注射が行われている。
【0004】
非特許文献1には、関節液検体中のATP量と関節痛の程度との相関性について記載されている。特許文献1には、関節炎症患者の関節液検体中のATP濃度またはATP量を測定することによって、関節痛の程度を評価する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-186183号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kumahashi et. al.," Correlation of changes in pain intensity with synovial fluid adenosine triphosphate levels after treatment of patients with osteoarthritis of the knee with high-molecular-weight hyaluronic acid", The Knee,p. 160-164,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のヒアルロン酸製剤は薬効が短期間であり、除痛は緩徐で且つ軟骨保護作用の効果も少ないため、通常無菌状態である関節内に週1回、5回連続投与する必要がある。このため、頻回な注射による患者への負担と、関節内投与に伴う関節内の感染のリスクが課題であり、関節の疼痛の治療により有効な薬剤が求められている。
【0008】
本発明の一態様は、関節の疼痛に対する新規治療薬を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、P2X受容体遮断薬が、関節の疼痛に対して、優れた除痛効果と軟骨の変性予防効果とを併せ持つ新規治療薬と成り得ることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様に係る組成物は、患部の疼痛を治療するための組成物であって、前記組成物は、ATP受容体遮断薬を含み、前記患部に注射投与によって投与され、前記患部は関節である構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、関節の疼痛に対する新規治療薬を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】製造例3の薬物封入PLGAナノ粒子および製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子の薬物放出率の測定結果を示す図である。
図2】製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子の散乱強度別粒度分布の測定結果を示す図である。
図3】実施例で行なった実験における注射剤の注射回数を示す図である。
図4】実施例および比較例の結果を示す図であり、注射剤投与後6週目の膝関節腫脹幅の計測結果を示す図である。
図5】実施例および比較例の結果を示す図であり、術前(薬剤投与前)から注射剤投与後5週目までの膝荷重分布の計測結果を示す図である。
図6】実施例および比較例の結果を示す図であり、注射剤投与後6週目の膝関節の組織学的スコアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0014】
<1.患部の疼痛を治療するための組成物>
本発明の一態様に係る患部の疼痛を治療するための組成物(以下、単に「疼痛治療用組成物」という場合がある。)は、患部の疼痛の治療用途に用いられる医薬組成物であり、ATP受容体遮断薬を有効成分として含み、治療対象者(以下、「患者」ともいう。)の患部に注射投与によって投与され、前記患部は関節である。ここで、前記「疼痛」は、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種に随伴する症状である。
【0015】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物によれば、ATP受容体遮断薬を有効成分として含むことにより、治療対象者における関節の疼痛を治療することができる。また、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物を変形性関節症の早期段階で使用すれば進行期となった場合に行われる人工膝関節などの手術が不要になり、本人への負担、ならびに医療費削減となり、医療経済ならびに患者への福音をもたらす。ここで、「治療」とは、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物が投与された治療対象者において関節の疼痛を完治または軽減させること、関節の疼痛の悪化を抑制することを含む。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物による除痛の治療効果は、関節液のATP濃度、患者の痛みの主観的評価であるVAS(痛みなし:0mm,痛み最大:100mm)などの評価によって可能となる。
【0016】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、さらに、軟骨の変性予防効果も併せ持つ。軟骨の変性は関節の疼痛発生の一因であるので、軟骨の変性を予防することは、関節の疼痛が悪化することを防ぐことにもつながる。ここで、「予防」とは、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物が投与された治療対象者において関節の軟骨の変性を抑制すること、または軟骨の変性の進行を遅延させることを含む。前記「軟骨の変性」は、生化学的にはプロテオグリカンの減少、およびTypeIIコラーゲンの減少が認められる状態をいう。例えば、臨床においては、単純X線像や磁気共鳴映像法(MRI)などによって軟骨の変性の有無を確認することができる。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物による軟骨の変性予防効果は、例えば、臨床においては、単純X線像やMRIなどによって確認することができる。
【0017】
軟骨の変性が進行すると外科手術によって関節を人工関節に置き換える処置が必要になる場合がある。しかし、軟骨の変性を予防することができれば、そのような手術が不要となる。このように、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、軟骨の変性予防薬としての側面も有している。軟骨の変性予防の観点では、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、関節の疼痛を訴える患者に対して、より早い段階で適用されることが好ましい。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、変形性関節症の早期段階からも使用可能であり、手術へ至る可能性を軽減できる可能性がある。従って、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、例えば、早期変形性膝関節症の患者に適用することがより好ましい。変形性関節症の早期段階で使用すれば進行期となった場合に行われる人工膝関節などの手術が不要になり、本人への負担、ならびに医療費削減となり、医療経済ならびに患者への福音をもたらす。
【0018】
本発明者らは、鋭意検討の結果、膝OA患者の滑膜において、痛みのないヒト膝滑膜と比較しP2X受容体が、多く発現していることを初めて見出した。変形性膝関節症の初期の痛みは滑膜炎に伴う痛みであるため、滑膜にあるP2X受容体をターゲットにすることで初期の段階での加療が可能となり、手術が必要な進行期への移行を予防できる最大のメリットがある。この知見に基づいて、本発明者らは、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物による除痛および軟骨変性予防の作用機序を次のように考えている。
【0019】
まず、除痛について説明する。関節の疼痛は、損傷軟骨細胞からATPが放出されたATPが、滑膜内のP2X受容体と結合し、神経のC繊維を刺激することで出現する。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の有効成分であるATP受容体遮断薬は、滑膜内のP2X受容体の機能をブロックして、C繊維への刺激を防ぐことで、除痛効果をもたらすと考えらえる。
【0020】
次に、軟骨変性予防効果について説明する。関節内の上昇したATPは、滑膜上のP2X受容体と結合し、滑膜細胞から軟骨変性サイトカインであるPGE2やIL-6などを放出させる(参考文献1:Human rheumatoid synoviocytes express functional P2X7 receptors. Caporali F, Capecchi PL, Gamberucci A, Lazzerini PE, Pompella G, Natale M, Lorenzini S, Selvi E, Galeazzi M, Laghi Pasini F.J Mol Med (Berl). 2008 Aug;86(8): 937-49.)。早期変形性膝関節症患者においては、進行が早い患者の血清IL-6が高いことが報告されている(参考文献2:The factors associated with pain severity in patients with knee osteoarthritis vary according to the radiographic disease severity: a cross-sectional study.Shimura Y, Kurosawa H, Sugawara Y, Tsuchiya M, Sawa M, Kaneko H, Futami I, Liu L, Sadatsuki R, Hada S, Iwase Y, Kaneko K, Ishijima M. Osteoarthritis Cartilage. 2013 Sep;21(9):1179-84)。放出された炎症性サイトカインは正常軟骨細胞を損傷させる。損傷された軟骨細胞はATPを放出する。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の有効成分であるATP受容体遮断薬は、滑膜上のP2X受容体の機能をブロックして、滑膜からの軟骨変性サイトカインPGE2やIL-6の放出を防ぐことで、軟骨変性予防効果をもたらすと考えらえる。もう一つの機序として軟骨や滑膜細胞からの関節内へのATP放出を抑制し関節内のATP濃度の上昇を抑制し、軟骨細胞のアポトーシスを防いでいる可能性がある。さらに、発明者らは、P2X受容体の知見から、疼痛の原因となりうる部位には滑膜のみならず軟骨細胞にも同ATP受容体も発現していると予想し、疼痛の原因部位に発現しているATP受容体をターゲットとしてその機能を選択的に遮断することで疼痛を治療するという着想を得て、本発明を完成させた。
【0021】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物による上述の効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」などの達成にも貢献するものである。本疼痛治療用組成物の開発により、関節痛に苦しむ多くの患者を救い、生活の質を向上させ、人としての生活の質を元通りにできる可能性がある。
【0022】
(疼痛治療用組成物の態様)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、液剤であってもよく、凍結乾燥製剤であってもよい。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬が徐放性粒子の形態であるか否かに関わらず、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物が液剤として提供される場合は、冷凍保存されることが好ましい。取扱いの利便性の観点から、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、凍結乾燥製剤として、用時懸濁することがより好ましい。但し、徐放性粒子がリポソームである場合は、この限りではなく、冷蔵保存が好ましい。
【0023】
(ATP受容体遮断薬)
ヒトATP受容体は、イオンチャネル内蔵型のP2Xファミリーと、G蛋白共役型のP2Yファミリーとに大別される。ヒトP2Xファミリーは、P2X、P2X、P2X、P2X、P2X、P2XおよびP2Xの7種類が知られている。また、ヒトP2Yファミリーは、P2Y、P2Y、P2Y、P2Y、P2Y11、P2Y12、P2Y13およびP2Y14の8種類が知られている。
【0024】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬の範疇には、患部における疼痛の原因となりうる部位(例えば、滑膜、軟骨)で発現しているATP受容体に対するあらゆる選択的遮断薬が含まれる。例えば、変形性関節症の初期の痛みは滑膜炎に伴う痛みであるため、滑膜で発現しているP2X受容体を選択的に遮断するあらゆる物質(例えば、低分子化合物)を、本発明におけるATP受容体遮断薬として使用可能である。中でも、ATP受容体遮断薬の患部における濃度は、該患部に発現しているATP受容体に対する50%阻害濃度(IC50)以上となることが好ましい。また、ATP受容体遮断薬は、生理食塩水に溶解して注射投与可能であるか、あるいは、生体に適用可能なリポソーム、エマルジョン、およびサスペンジョンの形態で注射投与可能であることが望ましい。また、P2X受容体に対する特異性を担保する観点から、ATP受容体に対するIC50を手掛かりにして、使用するATP受容体遮断薬の種類を決定してもよい。そのようなATP受容体遮断薬としては、例えば、AZ10606120二塩酸塩(P2X受容体遮断薬、アストラゼネカ株式会社より入手可能)、A438079塩酸塩(P2X受容体遮断薬、TOCRIS Bioscienceより入手可能)、A740003(P2X受容体遮断薬、MedChemExpressより入手可能)、AZ 11645373(P2X受容体遮断薬、アストラゼネカ株式会社より入手可能)、A804598(P2X受容体遮断薬、MedChemExpressより入手可能)などを挙げることができる。ATP受容体遮断薬は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0025】
ATP受容体の中でも、P2X受容体は、膝OA患者の滑膜において正常なヒト膝滑膜と比較し、多く発現している。このため、ATP受容体遮断薬の標的にP2X受容体を含むことが好ましい。すなわち、ATP受容体遮断薬は、P2X受容体遮断薬を含むことが好ましい。P2X受容体を標的とすることで、膝OA患者の滑膜に正常滑膜と比較しP2X受容体が多く発現している滑膜に対してATP受容体遮断薬を作用させることが可能になる。その結果、膝OAの病態を有する膝滑膜にATP受容体遮断薬が作用することによって疼痛を軽減させることができる。また、ATP受容体遮断薬は、滑膜上のP2X受容体の機能をブロックして、滑膜からの軟骨変性サイトカインPGE2やIL-6の放出を防ぐことで、軟骨変性予防効果をもたらすと考えらえる。さらに軟骨や滑膜細胞からの関節内へのATP放出を抑制し関節内のATP濃度の上昇を抑制し、軟骨細胞のアポトーシスを防いでいる可能性がある。
【0026】
(ATP受容体遮断薬の好ましい態様)
ATP受容体遮断薬の態様は特に限定されないが、前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した、徐放性を有する粒子を形成する生分解性ポリマーをさらに含むことが好ましい。本明細書では、前記「徐放性を有する粒子」を、「徐放性粒子」と呼ぶ場合がある。なお、前記「前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した」は、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬の全量の内、徐放粒子化されたATP受容体遮断薬が少なくとも一部含まれていればよいことを意味する。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、徐放粒子化されたATP受容体遮断薬と徐放粒子化されていないATP受容体遮断薬との両方を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に徐放性粒子としてATP受容体遮断薬が含まれていることにより、従来の注射剤と比較して、例えば以下のメリットを有する。
・関節内のATP受容体遮断薬の至適濃度を一定に長期間維持することが可能となる。その結果、注射回数を低減することが可能となる。これにより、頻回な注射による患者への負担と、関節内投与に伴う関節内の感染のリスクを大幅に低減することが可能となる。
・選択的分子標的薬とすることができ、全身血流への移行も極めて少ないため、関節以外の他臓器への影響を低減することが可能となる。
【0028】
徐放性粒子は、リポソーム、エマルジョンおよびサスペンジョンからなる群から選択される1種以上の形態であることが好ましい。前記徐放性粒子の形態は特に限定されず、封入する薬物の種類に応じて、所望の薬物の封入率および薬物の放出率が達成できる形態を適宜選択すればよい。徐放性粒子は、リン脂質、コレステロールを含んでいてもよいし、ポリエチレングリコール(PEG)を含んでいてもよい。ATP受容体遮断薬が、例えば、AZ10606120二塩酸塩である場合、薬物の封入率および薬物の放出率の観点から、前記徐放性粒子は、エマルジョンの形態であることが好ましく、W/O/W型のエマルジョンの形態であることがより好ましい。薬物の放出速度は、一般的に、PLGAの乳酸とグリコール酸の割合を変更することで変化する。乳酸・グリコール酸共重合体の分解・消失速度は、乳酸・グリコール酸共重合体の組成または分子量によって大きく変化する。一般的には、乳酸・グリコール酸共重合体中のグリコール酸分率が低いほど分解・消失が遅いため、グリコール酸分率を低くするかまたは分子量を大きくすることによって、封入薬物の放出期間を長くすることができる。逆に、乳酸・グリコール酸共重合体中のグリコール酸分率を高くするかまたは分子量を小さくすることによって、封入薬物の放出期間を短くすることもできる。
【0029】
徐放性粒子を形成する生分解性ポリマーは、末端に遊離のカルボキシル基を有する生分解性ポリマーであることが好ましい。末端に遊離のカルボキシル基を有する生分解性ポリマーは、公知の生分解性ポリマーを好適に用いることができる。例えば、特開平9-132524号公報に記載の生分解性ポリマーであり、具体例としては、例えば、α-ヒドロキシ酸類、通常、α-ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)、ヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)などの1種以上から無触媒脱水重縮合で合成された重合体、共重合体、あるいはこれらの混合物、ポリ-α-シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン-マレイン酸共重合体など)などが用いられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよい。また、上述したα-ヒドロキシ酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D-体、L-体、DL-体のいずれも用いることができる。
【0030】
前記生分解性ポリマーの重量平均分子量は、約3,000~約30,000であることが好ましく、約5,000~約25,000であることがより好ましく、約7,000~約20,000であることが特に好ましい。また、生分解性ポリマーの分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、約1.2~約4.0であることが好ましく、約1.5~約3.5であることがより好ましい。
【0031】
末端に遊離のカルボキシル基を有する生分解性ポリマーは、安全性の観点から、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸からなる群から選択される少なくとも1種である、ことが好ましい。特に好ましくは、乳酸単独重合体であるポリ乳酸、または乳酸・グリコール酸共重合体である。これらの生分解性ポリマーは、生分解の最終産物が、水と二酸化炭素となり、生体に対して毒性を及ぼさないためである。
【0032】
生分解性ポリマーとして乳酸・グリコール酸共重合体を用いる場合、その組成率(乳酸/グリコール酸)(モル%)は約100/0~約50/50が好ましく、約90/10~約60/40であることがより好ましく、約80/20~約70/30であることが特に好ましい。
【0033】
乳酸・グリコール酸共重合体の分解・消失速度は、乳酸・グリコール酸共重合体の組成または分子量によって大きく変化する。一般的には、乳酸・グリコール酸共重合体中のグリコール酸分率が低いほど分解・消失が遅いため、グリコール酸分率を低くするかまたは分子量を大きくすることによって、封入薬物の放出期間を長くすることができる。逆に、乳酸・グリコール酸共重合体中のグリコール酸分率を高くするかまたは分子量を小さくすることによって、封入薬物の放出期間を短くすることもできる。比較的長期間(例えば1カ月間)型の徐放性粒子とするためには、上述した組成率および重量平均分子量の範囲の乳酸・グリコール酸共重合体を選択することが好ましい。上述した組成率および重量平均分子量の範囲の乳酸・グリコール酸共重合体を選択することで、初期バーストの抑制が容易になると共に、有効量のATP受容体遮断薬を適切なタイミング(例えば、投与後24時間)で放出を開始させることができる。
【0034】
(徐放性を有する粒子の好ましい平均粒子径)
前記徐放性粒子の平均粒子径は特に限定されないが、十分な封入量を確保する観点から100nm以上であることが好ましい。また、日本薬局方の製剤総則に記載の医薬品(注射により投与する製剤)としてのレギュレーションの規定によれば、懸濁性注射剤中の粒子の最大粒子径は、通例、150μm以下である。取扱い性の観点から、30μm以下であることが好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、前記「平均粒子径」は、平均粒子径が1μm以下の場合は、ゼータサイザー(Malvern Panalytical製)を用いた動的光散乱(DLS)法によって測定した値をいい、平均粒子径が1μmよりも大きい場合は、コールターカウンターを用いて測定した値をいう。
【0036】
(徐放性を有する粒子の製造方法)
前記徐放性粒子の製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造することができる。例えば、後述する実施例に示した、リモートローディング法、逆相蒸発法、液中乾燥法、およびW/O/Wエマルション法のいずれかの方法によって製造することができる。これらの方法の中から、封入する薬物の種類に応じて、所望の薬物の封入率および薬物の放出率が達成できる製造方法を適宜選択すればよい。
【0037】
(その他の成分)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、前述したATP受容体遮断薬以外の成分を含有していてもよい。ATP受容体遮断薬以外の有効成分として、ATP受容体遮断薬以外の関節の除痛効果を有する薬剤(例えば、ヒアルロン酸製剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など)を含んでいてもよい。また、有効成分以外の成分としては、薬学的に許容され得る成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、溶媒などであり得る。これらの添加剤は、医薬品の製造において一般的に使用される添加剤を、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物においても好適に用いることができる。
【0038】
(ATP受容体遮断薬およびその他の成分の含有量)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中のATP受容体遮断薬の量は、特に限定されず、適宜設定することができる。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は関節内に注射投与されるため、通常、1回の投与あたり約2~3ml程度の液量が投与される。このため、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中のATP受容体遮断薬の量は、例えば、1回の投与で使用される液量において、関節腔内へ注入するATP受容体遮断薬の濃度が300nM以上、30μM以下の範囲となる量を含むように適宜調整すればよい。
【0039】
また、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中のATP受容体遮断薬以外の成分の量は、特に限定されず、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中のATP受容体遮断薬の量に応じて適宜調整すればよい。
【0040】
(疼痛治療用組成物の製造方法)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、ATP受容体遮断薬と、必要に応じてその他の成分とを原料として、公知の注射剤の製造手法により製剤することができる。
【0041】
(ATP受容体遮断薬の好ましい投与量)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物を投与対象者へ投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与対象者へのATP受容体遮断薬の投与量に制限はない。ATP受容体遮断薬の種類、効果の持続期間などに応じて、適宜設定することができる。例えば、ATP受容体遮断薬が、AZ10606120二塩酸塩である場合、良好な除痛効果が得られることから、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、1回の投与で、関節腔内へ注入するATP受容体遮断薬の濃度が300nM以上、30μM以下の関節腔内至適濃度の範囲となるように投与されることが好ましく、10μM以上、30μM以下の範囲となるように投与されることがより好ましく、20μM以上、30μM以下の範囲となるように投与されることがさらに好ましく、25μM以上、30μM以下の範囲となるように投与されることが最も好ましい。なお、前記至適濃度の上限値30μMは、AZ10606120二塩酸塩による副作用の出現の観点から決定された値である。
【0042】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中にATP受容体遮断薬が徐放性粒子として含まれている場合は、良好な除痛効果が得られることから、徐放性粒子は、関節に注射投与された場合、当該関節の関節腔内におけるATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が、300nM以上の至適濃度の範囲で1週間以上維持されるための放出速度を有していることが好ましい。これにより、関節腔内におけるATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度は、上記至適濃度の範囲内で、1週間以上維持され得る。前記至適濃度の上限値は、ATP受容体遮断薬による副作用の出現の観点から決定することができ、例えば、30μMである。なお、関節腔内におけるATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度は、関節腔内の液を回収し、限外ろ過膜でナノ粒子を分離し、ろ液中のATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度を経時的に測定する方法によって測定することができる。関節の関節腔内におけるATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が、300nM以上の至適濃度の範囲で維持される期間の上限は特に限定されないが、例えば、5週間以下である。
【0043】
(疼痛治療用組成物の投与経路)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、患部の関節(すなわち、疼痛を有している関節)の関節腔内に注射投与によって直接投与される。関節腔内への注射投与は、公知の方法によって行えばよい。患部の関節の関節腔内に直接投与することによって、以下のメリットを享受することができる。内服薬では関節内への至適濃度の維持が難しい。患部のみに注射を行うことで罹患部位のみに至適濃度の薬液を注入可能となる。また関節外への漏出が少ないので、全身への副作用への軽減が図れる。
【0044】
前記「関節」の種類は特に限定されず、全身のあらゆる関節が、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与の対象となる。
【0045】
(疼痛治療用組成物の投与対象者)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与対象者の一例として、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種の疾患に罹患していることが疑われる、または罹患していることが確定した対象などが挙げられる。このような投与対象者は、関節の軟骨の変性の所見が認められるが、関節の疼痛の自覚症状がない対象であってもよい。また、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与対象者は、関節の疼痛の自覚症状がある対象などであってもよい。
【0046】
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与対象者(または投与対象)としては、特に限定されず、ヒトであってもよく、非ヒト哺乳動物であってもよい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、およびラットが挙げられる。
【0047】
(疼痛治療用組成物の好ましい投与スケジュール)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物を投与対象者へ投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与対象者への投与頻度に制限はない。ATP受容体遮断薬の関節内での薬剤維持期間を考慮して、投与頻度を適宜設定すればよい。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬が徐放性粒子の形態ではない場合は、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の注射投与は、1週間に1回以下の頻度で行われ得る。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の注射投与の頻度は、基本的には1週間に1回までであるが、疼痛が強い場合は週1回、5週連続で行ってよい。一方、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬が徐放性粒子の形態である場合は、関節内のATP受容体遮断薬の至適濃度を一定に長期間維持することが可能となるため、一回の注射投与のみでよい。
【0048】
また、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与期間の長さは、投与対象者の症状の程度に応じて、適宜設定すればよい。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬が徐放性粒子の形態ではない場合は、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の注射投与は、例えば、一回のみの投与であってもよく、又は週1回以下の頻度で行われ、患者の疼痛の程度に応じて5週連続で行ってもよい。本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物は、有効成分としてATP受容体遮断薬を含むことにより、関節内注射後、早期(例えば、投与後1週間以内)から除痛効果が得られる。一方、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物に含まれているATP受容体遮断薬が徐放性粒子の形態である場合は、関節内のATP受容体遮断薬の至適濃度を一定に長期間維持することが可能となるため、一回のみの注射投与でよい。
【0049】
投与間隔および投与期間は、上述した範囲で適宜組み合わせることができる。例えば、ATP受容体遮断薬が、AZ10606120二塩酸塩である場合、良好な除痛効果および軟骨の変性予防効果が得られることから、週1回5週連続投与することが好ましい。
【0050】
また、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物中にATP受容体遮断薬が徐放性粒子として含まれている場合は、関節内のATP受容体遮断薬の至適濃度を一定に長期間維持することが可能となる。その結果、注射回数を低減することが可能となる。従って、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の投与間隔を5週間に1回とすることが可能となる。例えば、ATP受容体遮断薬が、AZ10606120二塩酸塩である場合、1回の投与で少なくとも5週間にわたって良好な除痛効果および軟骨の変性予防効果が得られる(図5、6)。投与回数を低減できることは、頻回な注射による患者への負担と、関節内投与に伴う関節内の感染のリスクを大幅に低減することが可能となるのみならず、所定期間あたりのATP受容体遮断薬に対する総曝露量を大幅に低減させることができる。例えば、関節内でのATP受容体遮断薬の至適濃度を維持するために、30μMの濃度のATP受容体遮断薬を5週間に1回のみ投与する場合、30μMの濃度のATP受容体遮断薬を週1回5週連続(計5回、30μM×5)投与する場合と比較して、所定期間あたりのATP受容体遮断薬に対する総曝露量を大幅に低減させることができる。このため、ATP受容体遮断薬による副作用を大幅に低減することができる。
【0051】
(医薬品製品)
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物を備えた医薬品製品もまた、本発明の範疇に含まれる。その効果等は本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物について説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0052】
本発明の一態様に係る医薬品製品は、患部の疼痛を治療する用途に用いられる。本発明の一態様に係る医薬品製品は、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の用量、用法などを記載した添付文書を含む。当該添付文書には、前記疼痛治療用組成物が、患部に注射投与によって投与されること、1回の投与で、関節腔内へ注入するATP受容体遮断薬の濃度が300nM以上、30μM以下の範囲となるように投与すること、および前記注射投与は、5週間に1回以上、1週間に1回以下の頻度で、且つ5週間以下の期間行われることが記載されていることが好ましい。
【0053】
また、前記疼痛治療用組成物は、例えば、1回分の投与量毎に別々の容器(バイアルなど)に収容されていてもよい。本発明の一態様に係る医薬品製品は、1回分の投与量の疼痛治療用組成物を収容した容器を、治療期間中に必要な投与回数分(例えば、5回分)備えていてもよい。
【0054】
〔まとめ〕
本発明の一態様は以下である。
[1]患部の疼痛を治療するための組成物であって、前記組成物は、ATP受容体遮断薬を含み、前記患部に注射投与によって投与され、前記患部は関節である、組成物。
[2]前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した、徐放性を有する粒子を形成する生分解性ポリマーをさらに含む、[1]に記載の組成物。
[3]前記生分解性ポリマーは、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸からなる群から選択される少なくとも1種である、[2]に記載の組成物。
[4]前記粒子は、リポソーム、エマルジョンおよびサスペンジョンからなる群から選択される1種以上の形態である、[2]に記載の組成物。
[5]前記粒子の平均粒子径は、100nm以上、30μm以下である、[2]~[4]のいずれか1つに記載の組成物。
[6]前記ATP受容体遮断薬は、P2X受容体遮断薬を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
[7]前記疼痛は、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種に随伴する症状である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の組成物。
[8]前記粒子は、前記関節に注射投与された場合、該関節の関節腔内における前記ATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が300nM以上で1週間以上維持されるための放出速度を有している、[2]に記載の組成物。
[9]前記注射投与は、1週間に1回以下の頻度で行われる、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10]前記ATP受容体遮断薬は、前記患部における疼痛の原因部位において発現しているATP受容体に対する選択的な遮断薬である、[1]に記載の組成物。
【0055】
<2.患部の疼痛の治療方法>
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物を利用した患部の疼痛の治療方法もまた、本発明の範疇に含まれる。
【0056】
すなわち、本発明の一態様に係る患部の疼痛の治療方法は、以下である。
[11]ATP受容体遮断薬を含む、患部の疼痛を治療するための組成物を、投与対象者(例えば、ヒト、または、非ヒト動物)の患部に注射投与によって投与する工程を含み、前記患部は関節である、患部の疼痛の治療方法。
[12]前記ATP受容体遮断薬は、前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した、徐放性を有する粒子を形成する生分解性ポリマーをさらに含む、[11]に記載の患部の疼痛の治療方法。
[13]前記生分解性ポリマーは、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸からなる群から選択される少なくとも1種である、[12]に記載の患部の疼痛の治療方法。
[14]前記粒子は、リポソーム、エマルジョンおよびサスペンジョンからなる群から選択される1種以上の形態である、[12]に記載の患部の疼痛の治療方法。
[15]前記粒子の平均粒子径は、100nm以上、30μm以下である、[12]~[14]のいずれか1つに記載の患部の疼痛の治療方法。
[16]前記ATP受容体遮断薬は、P2X受容体遮断薬を含む、[11]~[15]のいずれか1つに記載の患部の疼痛の治療方法。
[17]前記疼痛は、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種に随伴する症状である、[11]~[16]のいずれか1つに記載の患部の疼痛の治療方法。
[18]前記粒子は、前記関節に注射投与された場合、該関節の関節腔内における前記ATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が300nM以上で1週間以上維持されるための放出速度を有している、[12]に記載の患部の疼痛の治療方法。
[19]前記注射投与は、1週間に1回以下の頻度で行われる、[11]~[18]のいずれか1つに記載の患部の疼痛の治療方法
[20]前記ATP受容体遮断薬は、前記患部における疼痛の原因部位において発現しているATP受容体に対する選択的な遮断薬である、[11]に記載の患部の疼痛の治療方法。
【0057】
疼痛治療用組成物の投与対象者、投与経路、製剤および処方などは、本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物について説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0058】
<3.その他>
本発明の一態様に係る疼痛治療用組成物の製造のためのATP受容体遮断薬の使用もまた、本発明の範疇に含まれる。
【0059】
すなわち、本発明の一態様に係る使用は、以下である。
[21]疼痛治療用組成物の製造のためのATP受容体遮断薬の使用。
[22]前記ATP受容体遮断薬は、前記ATP受容体遮断薬の少なくとも一部を封入した、徐放性を有する粒子を形成する生分解性ポリマーをさらに含む、[21]に記載の使用。
[23]前記生分解性ポリマーは、乳酸・グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸からなる群から選択される少なくとも1種である、[22]に記載の使用。[24]前記粒子は、リポソーム、エマルジョンおよびサスペンジョンからなる群から選択される1種以上の形態である、[22]に記載の使用。
[25]前記粒子の平均粒子径は、100nm以上、30μm以下である、[22]~[24]のいずれか1つに記載の使用。
[26]前記ATP受容体遮断薬は、P2X受容体遮断薬を含む、[21]~[25]のいずれか1つに記載の使用。
[27]前記疼痛は、変形性関節症、痛風、およびリウマチからなる群から選択される少なくとも1種に随伴する症状である、[21]~[26]のいずれか1つに記載の使用。[28]前記粒子は、前記関節に注射投与された場合、該関節の関節腔内における前記ATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が300nM以上で1週間以上維持されるための放出速度を有している、[22]に記載の使用。
[29]前記ATP受容体遮断薬は、前記患部における疼痛の原因部位において発現しているATP受容体に対する選択的な遮断薬である、[21]に記載の使用。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0061】
<1.薬物封入徐放性マイクロカプセルの調製>
(薬物)
ATP受容体遮断薬として、P2X受容体遮断薬(AZ10606120二塩酸塩、以下「AZ10606120」と称する場合がある)を用いた。
【0062】
〔製造例1:リモートローディング法によるリポソームへの薬物封入〕
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC):Cholesterol:DSPE-PEG(2k)-OMe=54:40:6(モル比)の混合脂質(25mmol)に、クロロホルム4mLとイソプロピルエーテル4mLとを添加し、溶解した。その後、250mM 硫酸アンモニウム水溶液4mLを加えた。軽くソニケーションし、油中水(W/O)型のエマルションを作成した。有機溶媒をエバポレーター(東京理化器械株式会社製)にて除去することで、250mM 硫酸アンモニウム水溶液を封入したリポソームを調製した。このリポソームをエクストルーダー(エボニックインダストリーズ製)にセットしたポアサイズ200nmおよび100nmのヌクレオポアフィルタを順次通過させ、所定のサイズのリポソームを調製した。SephadexG-25を充填したゲル濾過カラムを用いて、リポソームに未封入の硫酸アンモニウム水溶液をリン酸緩衝液(PBS)に置換した。このリポソーム懸濁液に薬物を添加した。なお、薬物添加量は、150μg/mg(リポソーム脂質)となるように添加した。薬物添加後、60℃の温浴で30分間インキュベーションを行った。インキュベーション後、このリポソーム懸濁液を氷上に置き、冷却した。その後、SephadexG-25を充填したゲル濾過カラムを用いて、未封入の薬物を除去して、製造例1の薬物封入リポソームを得た。
【0063】
(粒子径、薬物封入量、および薬物封入率の測定)
HPLCを用いて薬物封入量およびリポソーム脂質量を定量した。
HPLCの測定条件(日立HPLC:ELITE LaChrom L-2000シリーズ)
・FLOW 0.25mL/分
・カラム YMC-C18,150×3.0,3.0μm
・移動相A:2mM 酢酸アンモニウム水溶液、移動相B:アセトニトリル
・グラジエントパターン:
0.0分- A:70%,B:30%
9.5分- A:5%,B:95%
12.5分- A:5%,B:95%
12.6分- A:70%,B-30%
18.0分- A:70%,B-30%
・サンプル注入量:10μL
【0064】
UHPLCにて脂質濃度を測定し、脂質回収率を算定した。
UHPLCの測定条件(Thermo UHPLC:Ultimate3000)
・FLOW 0.8mL/分
・カラム YMC-C18,50×2.0,1.9μm
・移動相 2mM 酢酸アンモニウム水溶液/2mM 酢酸アンモニウム in メタノール=49:1(体積比)
・サンプル注入量:5μL
【0065】
薬物封入リポソームの薬物封入率は、次の方法によって測定した。リポソーム懸濁液にHPLC用移動相(2mM 酢酸アンモニウム水溶液:アセトニトリル=7:3)を添加してリポソームを崩壊させ、リポソーム内に封入されている薬物をHPLCにより定量した。仕込みの薬物量を100%として薬物封入率を算出した。
【0066】
薬物封入リポソームの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(Malvern Panalytical製)を用いて、動的光散乱(DLS)法によって測定した。
【0067】
〔製造例2:逆相蒸発法によるリポソームへの薬物封入〕
DSPC:Cholesterol:DSPE-PEG(2k)-OMe=54:40:6(モル比)の混合脂質(25mmol)にクロロホルム4mLとイソプロピルエーテル4mLとを添加し、溶解した。その後、1mMの薬物を1mL加えた。軽くソニケーションし、W/O型のエマルションを作成した。有機溶媒をエバポレーター(東京理化器械株式会社製)にて除去することで、薬物を封入したリポソームを調製した。このリポソームをエクストルーダー(Liposofast、Avanti Polar Lipids製)にセットしたポアサイズ200nmおよび100nmのヌクレオポアフィルタを順次通過させ、所定のサイズのリポソームを調製した。SephadexG-25を充填したゲル濾過カラムを用いて、リポソームに未封入の薬物を除去するとともに外水相をリン酸緩衝液(PBS)に置換して、製造例2の薬物封入リポソームを得た。
【0068】
(粒子径、薬物封入量、および薬物封入率の測定)
製造例1と同じ方法で、薬物封入量、リポソーム脂質量および脂質濃度を定量し、薬物封入率を算出した。また、製造例1と同じ方法で薬物封入リポソームの平均粒子径を測定した。なお、製造例2の薬物封入リポソームについては、平均粒子径の異なる2ロットについて薬物封入量および薬物封入率を測定した。
【0069】
≪結果≫
製造例1および2の薬物封入リポソームの平均粒子径、薬物の封入量および封入率は以下の通りであった。
【表1】
【0070】
製造例1の薬物封入リポソームは薬物の封入率が非常に低く、AZ10606120を封入したリポソームの調製にリモートローディング法を適用できないと考えられた。逆相蒸発法では、AZ10606120の封入率が10~17%の薬物封入リポソームを調製することができた。
【0071】
〔製造例3:液中乾燥法によるPLGAナノ粒子の調製〕
AZ10606120の封入効率が高い徐放性マイクロカプセルの調製方法として、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)への薬物封入方法の検討を行った。
【0072】
ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)(重量平均分子量約5,000、組成率(乳酸/グリコール酸)(モル%)は50/50)を0.5mg試験管に秤取し、アセトンを50μL加え、そこに20mMの薬物を10μL添加し溶解させた。その後、0.5%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を2mL滴下した。40℃に設定した温浴にエバポレーターで有機溶媒を除去し、全量を回収して、製造例3の薬物封入PLGAナノ粒子を得た。
【0073】
(粒子径、薬物封入率および薬物放出率の測定)
ゼータサイザー(Malvern Panalytical製)を用いた動的光散乱(DLS)法によって作製した薬物封入PLGAナノ粒子の粒子径を測定した。その後、調製した粒子をPBS溶液で希釈した。このナノ粒子懸濁液の一部を超遠心機(CS-100GXL、日立工機製)(15℃、40分、50,000rpm)で沈殿させ、上清の未封入薬物量をHPLCで定量した。なお、PLGAナノ粒子への薬物封入量は、仕込み薬物量から未封入薬物量を差し引くことで算出した。
【0074】
PBSに懸濁したナノ粒子を調製し、インキュベーション前の未封入薬物と、37℃の温浴で24時間インキュベートした後の未封入薬物とを定量し、薬物放出率を算出した。
【0075】
HPLC測定条件(日立HPLC:ELITE LaChrom L-2000シリーズ)
・カラム:YMC-C18 180×3.0(5μm)
・カラムオーブン温度:40℃
・検出器:UV検出器、検出波長:254nm
・ポンプ条件:
溶離液A 0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)
溶離液B 0.1%TFA溶解アセトニトリル溶液
0分:溶離液A 50%、溶離液B 50%
10分:溶離液A 50%、溶離液B 50%
流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:5.0μL
【0076】
〔製造例4:W/O/Wエマルション法によるPLGAナノ粒子の調製〕
PLGA(重量平均分子量約5,000、組成率(乳酸/グリコール酸)(モル%)は50/50)を100mg/mLになるように酢酸エチルに溶かし、この溶液を80μL取り、共栓試験管に入れた。そこに酢酸エチルを20μL加え、ボルッテクスミキサーでよく攪拌した。0.1%F68水溶液に溶かした10mMの薬物を5μL添加し、1分間ソニケーションした(Duty cycle:20%,Output control dial:1)。5%ブドウ糖溶液で調製した0.1%F68水溶液200μLを加え、さらに同条件で1分間ソニケーションした。次に、5%ブドウ糖溶液で調製した0.1%F68水溶液1mLをスターラーチップの入ったビーカーに用意し、マグネチックスターラーを用いて撹拌した(約500rpm)。撹拌中の溶液に共栓試験管に入っている溶液を、200μL用チップを用いて一滴ずつ滴下した。40℃に設定した温浴で加温しながら、エバポレーターで有機溶媒を除去した。全量を採取し、1mL(有機溶媒除去と共に気化した一部の水を戻すため)になるように超純水を添加して、製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子を得た。
【0077】
(粒子径、薬物封入率および薬物放出率の測定)
ゼータサイザー(Malvern Panalytical製)を用いた動的光散乱(DLS)法によって作製した薬物封入PLGAナノ粒子の粒子径を測定した。その後、調製したナノ粒子をPBS溶液で希釈した。封入量を求めるためにナノ粒子懸濁液を遠心機(CT15RE、日立工機製)を用いて遠心操作(4℃,10分,10,000rpm)し、ナノ粒子を沈殿物として得た。この時の上清中にある未封入薬物量をHPLCで定量した。なお、PLGAナノ粒子への薬物封入量は、仕込み薬物量から未封入薬物量を差し引くことで算出した。
【0078】
PBSに懸濁したナノ粒子を調製し、インキュベーション前の未封入薬物と、37℃の温浴で24時間インキュベートした後の未封入薬物とを定量し、薬物放出率を算出した。
HPLC測定条件
・カラム:YMC-C18 180×3.0(5μm)
・カラムオーブン温度:40℃
・検出器:UV検出器、検出波長:254nm
・ポンプ条件:
溶離液A 0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)
溶離液B アセトニトリル(CHCN)
0分:溶離液A 60%、溶離液B 40%
5分:溶離液A 60%、溶離液B 40%
流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:5.0μL
【0079】
≪結果≫
製造例3および4の薬物封入PLGAナノ粒子の平均粒子径、薬物の封入量および封入率は以下の通りであった。
【表2】
【0080】
液中乾燥法およびW/O/Wエマルション法のいずれの方法によっても、高い封入率でAZ10606120をPLGAナノ粒子に封入することができた。封入率の観点で、AZ10606120を封入した徐放性マイクロカプセルの調製方法として、W/O/Wエマルション法が最も適していることが明らかになった。
【0081】
製造例3の薬物封入PLGAナノ粒子および製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子の薬物放出率の測定結果を図1に示す。製造例3の薬物封入PLGAナノ粒子および製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子のいずれも、薬物が37℃下、PBS中でほとんど放出されないことが確認できた。特に、製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子は、特に初期バースト量が低く、優れた薬物保持能力を有していることが確認できた。この結果は、In vitroの放出試験では、薬物封入PLGAナノ粒子からほとんど薬物が放出されないことを示すものである。薬物封入PLGAナノ粒子は薬物保持力が高く安定な製剤であることが示された。
【0082】
製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子の散乱強度別粒度分布の測定結果を図2に示す。製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子は、粒子径ピークが299.8nmであった。また、分子の均一性を示す指標である多分散度係数(Polydispersity Index)は、0.149であり、粒子が比較的均一であることが確認できた。
【0083】
<2.関節の疼痛の治療効果の確認>
〔実施例1〕
患部の疼痛治療用組成物として、AZ10606120を蒸留水に溶解して、30μMの濃度のAZ10606120を含む実施例1の注射剤を調製した。
【0084】
動物実験は、島根大学動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号IZ30-128)。日本白色家兎の両膝の外側半月板を部分切除し、ウサギ膝OAモデルを作製した。このウサギ膝OAモデルに対して、右膝には生理食塩水(対照群)を0.3ml、左膝には実施例1の注射剤(薬剤群)を0.3ml、それぞれ関節腔内に投与した。図3は、実験における注射剤の注射回数を示す図である。図3に示すように、実施例1の注射剤は、週1回5回連続投与した。生理食塩水も右膝に週1回5回連続投与した。ウサギ膝OAモデルは、投与を開始してから6週目に安楽死させた。
【0085】
〔実施例2〕
患部の疼痛治療用組成物として、製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子をPBSに溶解して、薬物封入PLGAナノ粒子を含む実施例2の注射剤を調製した。
【0086】
図3に示すように、実施例1の注射剤の代わりに実施例2の注射剤を初回の1回のみ投与したこと以外は、実施例1と同じ実験を行った。
【0087】
〔比較例1〕
1%ヒアルロン酸ナトリウム注射液を、比較例1の注射剤とした。
【0088】
図3に示すように、実施例1の注射剤の代わりに比較例1の注射剤を週1回5回連続投与したこと以外は、実施例1と同じ実験を行った。
【0089】
〔比較例2〕
製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子の担体成分であるPLGAのみを、実施例2の注射剤に含まれているPLGAと同じ濃度になるようにPBSで調整して、比較例2の注射剤とした。
【0090】
図3に示すように、実施例1の注射剤の代わりに比較例2の注射剤を初回の1回のみ投与したこと以外は、実施例1と同じ実験を行った。
【0091】
≪治療効果の評価結果≫
膝関節腫脹幅、膝荷重分布、組織学的スコアについて、左右の膝で比較した。
【0092】
膝関節腫脹幅については、注射剤投与後6週目の膝関節幅を計測した。結果を図4に示す。図4のグラフは、ウサギ膝OAモデル3~5匹の平均値を示している。有意差は、Mann-Whitney U検定によって評価した。
【0093】
膝荷重分布は、薬物投与による疼痛の軽減度合いの指標となる。薬物投与によって疼痛が軽減されると薬物投与側の左膝の荷重量が対照群の右膝の荷重量よりも増えるため、荷重分圧が大きくなる。膝荷重分布については、インキャパシタンステスター(荷重分圧装置)(Linton Instrumentation製)を用いて、術前(薬剤投与前)および注射剤投与後の毎週5週目まで、右膝(生理食塩水投与側)および左膝(薬剤投与側)のそれぞれの荷重量を測定し、以下の式から荷重分圧を算出した。
【0094】
【数1】
【0095】
実施例および比較例の実験群とは別に、正常群として、外側半月板を部分切除の手術をしていない正常のウサギ(9匹)の左右の膝それぞれの荷重量を測定し荷重分圧を算出した。
【0096】
結果を図5に示す。図5のグラフは、ウサギ膝OAモデル1~5匹の平均値を示している。有意差は、反復測定分散分析(Repeated measures ANOVA)によって評価した。
【0097】
組織学的スコアについては、投与を開始してから6週目に安楽死させたウサギから膝関節を採取し、ホルマリン固定を行い、パラフィン切片を作製した。パラフィン切片に対して、サフラニンO染色を行い、Modified Mankin score(参考文献:Mankin HJ, Dorfman H, Lippiello L, Zarins A. Biochemical and metabolic abnormalities in articular cartilage from osteo-arthritic human hips. J Bone Joint Surg Am 1971; 53:523-536.およびPineda S, Pollack A, Stevenson S, Goldberg V, Caplan A. A semiquantitative scale for histologic grading of articular cartilage repair. Acta Anat 1992;143:335-340.)を用いて、膝関節の内側および外側を、左右でそれぞれ比較した。Modified Mankin scoreは、正常が0点であり、組織の変性度合いに応じて点数が高くなり、最大が14点である。
【0098】
結果を図6に示す。図6のグラフは、ウサギ膝OAモデル3~5匹の平均値を示している。有意差は、Mann-Whitney U検定によって評価した。
【0099】
HA製剤を投与した比較例1の実験群、およびPLGAを投与した比較例2の実験群は共に、膝関節腫脹幅、膝荷重分布、組織学的スコアのすべてにおいて、薬剤の注射前後で差がなかった。一方、AZ10606120を投与した実施例1の実験群、およびAZ10606120封入PLGAナノ粒子を投与した実施例2の実験群は共に、膝関節腫脹幅、膝荷重分布、組織学的スコアのすべてにおいて、薬剤の注射後に有意に改善していた。また、右膝の対照群と比較して滑膜炎と軟骨変性が少ないというマクロ所見が認められた。
【0100】
以上から、ATP受容体遮断薬としてのP2X受容体遮断薬が、従来のHA製剤よりも優位性をもって、関節の疼痛の除痛効果を奏することが確認できた。さらに、P2X受容体遮断薬には軟骨変性予防効果も認められた。
【0101】
また、AZ10606120封入PLGAナノ粒子を投与した実施例2の実験群は、1回の投与で、AZ10606120を投与した実施例1の実験群と同等の成績が得られた。PLGAを担体として用いることで、P2X受容体遮断薬を徐放化することができ、前記関節に注射投与された場合、P2X受容体遮断薬の遊離薬物濃度を、関節腔内至適濃度の範囲(300nM以上、30μM以下)で一定に長期間(少なくとも5週間)維持できる可能性がある。このことから、製造例4の薬物封入PLGAナノ粒子は、ATP受容体遮断薬の遊離薬物濃度が上記関節腔内至適濃度の範囲で一定に1週間以上維持されるための放出速度を有していることが確認できた。
【0102】
また、本実験中に動物の死亡例が無かったことから、P2X受容体遮断薬を関節腔内に投与することの安全性も確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の一態様に係る患部の疼痛を治療するための組成物は、患部の関節の疼痛の治療に寄与することができる。また、本発明の一態様に係る患部の疼痛を治療するための組成物は、患部の関節の軟骨の変性予防に寄与することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6