(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152647
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ペルヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3-ジカルボン酸ジメチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/52 20060101AFI20241018BHJP
C07C 69/753 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07C67/52
C07C69/753 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058779
(22)【出願日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023064547
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】半田 康春
(72)【発明者】
【氏名】畑 優
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD15
4H006BB11
4H006BJ30
4H006KC20
(57)【要約】
【課題】
下記一般式(4)で表される化合物を除去、乃至より低減することが可能なペルヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3-ジカルボン酸ジメチル(下記式(1)で表される化合物)の製造方法を提供すること。
【解決手段】
下記式(1)で表される化合物の製造方法であって、下記式(1)で表される化合物を晶析溶液から晶析する工程を含み、前記晶析溶液は、下記式(1)で表される化合物、炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を下記式(1)で表される化合物1重量部に対し0.5~7重量部、並びに下記式(2)で表される化合物を下記式(1)で表される化合物に対する含量で0.3~6%含む製造方法によれば、前記課題が解決可能であることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下式(1):
で表される化合物の製造方法であって、
前記式(1)で表される化合物を晶析溶液から晶析する工程を含み、
前記晶析溶液は、前記式(1)で表される化合物、炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を前記式(1)で表される化合物1重量部に対し0.5~7重量部、並びに以下式(2):
で表される化合物を前記式(1)で表される化合物に対する含量で0.3~6%含む、製造方法。
【請求項2】
以下式(1):
で表される化合物の含量が90%以上であり、以下式(3):
で表される化合物の含量が0.2~5%であり、以下一般式(4):
(式中、nは1または2を示す。)
で表される化合物の合計含量が0.2%以下である、結晶性組成物。
【請求項3】
以下式(2):
で表される化合物の含量が3%以下である、請求項2に記載の結晶性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3-ジカルボン酸ジメチルの製造方法、及び該製造方法によって得られる結晶性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
以下式(1):
【0003】
【化1】
で表されるペルヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3-ジカルボン酸ジメチル等のペルヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン-2,3-ジカルボン酸誘導体は、耐熱性、透明性及び寸法安定性に優れるポリエステル樹脂の原材料として知られている(例えば、非特許文献1)。また、上記式(1)で表される化合物(なお、以下において「(一般)式(○)で表される化合物」を「式(○)化合物」と称する場合がある(○は式番号を表す)。)を工業的に製造する方法としては、例えば、特許文献1に記載される方法が知られており、該製造方法によれば、副生するジシクロペンタジエン重合物由来の不純物の生成が抑制された、比較的高純度の式(1)化合物が製造可能であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Polymer Chemistry Edition, vol.10, 3191-3204(1972)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した特許文献記載の製造方法と、必要に応じ蒸留、精留等とを組み合わせることにより、前述したジシクロペンタジエン重合物由来の不純物の内、高分子量成分の含量の低減は可能である一方、低分子量の不純物、具体的には以下一般式(4):
【0007】
【化2】
(式中、nは1または2を示す。)
で表される化合物は式(1)化合物と沸点が近しく、蒸留、精製等を繰り返しても前記した特許文献以上に除去することは困難であった。
【0008】
本発明は式(4)化合物を除去、またはより低減することが可能な式(1)化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記する工程を含む式(1)化合物の製造方法によれば、前記課題が解決可能であることを見出した。具体的には、本発明は以下の発明を含む。
【0010】
〔1〕
以下式(1):
【0011】
【化3】
で表される化合物の製造方法であって、
前記式(1)で表される化合物を晶析溶液から晶析する工程を含み、
前記晶析溶液は、前記式(1)で表される化合物、炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を前記式(1)で表される化合物1重量部に対し0.5~7重量部、並びに以下式(2):
【0012】
【化4】
で表される化合物を前記式(1)で表される化合物に対する含量で0.3~6%含む、製造方法。
【0013】
〔2〕
以下式(1):
【0014】
【化5】
で表される化合物の含量が90%以上であり、以下式(3):
【0015】
【化6】
で表される化合物の含量が0.2~5%であり、以下一般式(4):
【0016】
【化7】
(式中、nは1または2を示す。)
で表される化合物の合計含量が0.2%以下である、結晶性組成物。
【0017】
〔3〕
以下式(2):
【0018】
【化8】
で表される化合物の含量が3%以下である、〔2〕に記載の結晶性組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、式(4)化合物の残存量が大幅に低減された式(1)化合物の製造方法が提供可能となる。
【0020】
また、本発明の製造方法によって得られた式(1)化合物は、式(4)化合物をほとんど含まない。また、式(4)化合物が大幅に低減され、且つ以下式(3):
【0021】
【化9】
で表される化合物を一定量含む本発明の結晶性組成物は、耐ブロッキング性に優れることが判明した。よって、本発明によれば、必要に応じ耐ブロッキング性に優れる式(1)化合物を主成分として含む結晶性組成物を提供することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。また、本発明における「含量」とは、特に断りがない限り、後述する実施例の項にて記載する条件によって測定されたガスクロマトグラフの面積百分率値である。なお、晶析溶液中の含量については該溶液のガスクロマトグラフの面積百分率値では正しい含量が算出できない場合があるため、「式(1)化合物に対する含量」(後述する実施例の項にて記載する条件によって測定されたガスクロマトグラフの面積百分率値を用い、{(式(●)化合物の面積百分率値)/[(式(●)化合物の面積百分率値)+(式(1)化合物の面積百分率値)]}×100で算出した値(●は1以外の式番号を表す))を「含量」として用いる。
【0023】
<本発明の式(1)化合物の製造方法>
本発明の製造方法は式(1)化合物を、該化合物、炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、及び式(2)化合物を含む晶析溶液から晶析する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の製造方法に供される式(1)化合物は公知の製造方法によって製造することが可能である。なお、晶析に供する式(1)化合物には、耐ブロッキング性に優れる式(1)化合物を含む結晶性組成物の提供の観点からは、更に式(3)化合物が含まれていてもよく、その含量は、式(1)化合物に対する含量で、例えば1.5~6.5%である。
【0025】
本発明にて用いられる炭素数5~10の脂肪族炭化水素は分岐を有していてもよく、またハロゲン原子を有する脂肪族炭化水素であってもよい。具体的に例えばn-ペンタン、n-ヘキサン、1-クロロヘキサン、1-ブロモヘキサン、3-メチルペンタン、2-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、1-クロロヘプタン、1-ブロモヘプタン、2-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,3,3-テトラメチルブタン、n-ノナン、2-メチルオクタン、2,2-ジメチルヘプタン、2,2,3-トリメチルヘキサン、2,2,3,3-テトラメチルペンタン、n-デカン、2-メチルノナン、2,2-ジメチルオクタン、2,2,3-トリメチルヘプタン、2,2,3,3-テトラメチルヘキサン、4-プロピルヘプタン、3,4-ジエチルヘキサンなどが挙げられる。また、本発明にて用いられる炭素数6~9の芳香族炭化水素はハロゲン原子を有していてもよく、具体的に例えばベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、トルエン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、α-クロロ-p-キシレン、4-クロロ-o-キシレン、α-ブロモ-p-キシレン、4-ブロモ-o-キシレン、メシチレンなどが挙げられる。これら炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素の中でも、炭素数5~10の脂肪族炭化水素が好ましく、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、n-オクタンがより好ましい。また、晶析溶液に含まれる炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の含量(2種以上含まれる場合にはそれらの合計含量)は、式(1)化合物の1重量部に対し0.5~7重量部、好ましくは1~6重量部である。
【0026】
本発明にて用いられる式(2)化合物は、本発明に供する式(1)化合物に含まれていてもよく、別途合成し本発明を実施する際に晶析溶液に添加してもよいが、本発明に供する式(1)化合物に含まれているものを用いるほうがより容易に本発明が実施可能である。式(2)化合物を含む式(1)化合物は、例えば前記特許文献1の方法にて製造可能である。
【0027】
晶析溶液に含まれる式(2)化合物は、晶析溶液中に、式(1)化合物に対する含量で0.3~6%含まれている必要があり、好ましくは0.5~4.5%である。式(2)化合物の含量が0.3%未満である場合、式(4)化合物を低減できない場合があり、6%より多い場合、式(1)化合物の収率が低下する場合がある。
【0028】
式(1)化合物を晶析する方法は常法により実施可能である。具体的に例えば、式(1)化合物、前記炭素数5~10の脂肪族炭化水素及び炭素数6~9の芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物及び式(2)化合物を反応器に入れ、その後内温を60~80℃とし、式(1)化合物を完溶させた後、0.05~0.3℃/分で-5~10℃まで冷却することにより結晶を析出させ、得られた結晶を-5~10℃でろ別することによって実施することができる。
【0029】
晶析する工程は必要に応じ繰り返し実施してもよい。また、得られた結晶は必要に応じ乾燥してもよいし、吸着、水蒸気蒸留、再結晶などの通常の精製操作を適宜実施してもよい。
【0030】
<本発明の結晶性組成物>
本発明の結晶性組成物は式(1)化合物を主成分として含み、式(3)化合物を副成分として含み、且つ式(4)化合物を殆ど含まない。本発明の結晶性組成物に含まれる式(1)化合物の含量は、通常90%以上であり、好ましくは94%以上である。また、その上限は特に限定されないが、例えば99.5%以下であり、好ましくは99%以下である。
【0031】
本発明の結晶性組成物に含まれる式(3)化合物の含量は0.2~5%である必要があり、好ましくは0.5~3.5%である。
【0032】
本発明の結晶性組成物に含まれる式(4)化合物の含量は0.2%以下である必要があり、好ましくは0.1%以下である。
【0033】
本発明の結晶性組成物に含まれる式(2)化合物の含量は特に限定されないが、典型的には3%以下であり、好ましくは2%以下である。式(2)化合物の含量を低減することにより、より高純度の結晶性組成物が提供可能となる。
【0034】
このような本発明の結晶性組成物は、耐ブロッキング性に優れるとの特徴を有する。
【実施例0035】
以下、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下実施例等で使用した式(1)化合物は特許文献1(特開2021-161067号公報)に記載の方法に基づいて製造したものである。
【0036】
〔1〕ガスクロマトグラフィー(GC)分析
・装置:島津製作所社製 ガスクロマトグラフ GC-2014相当
・カラム:Agilent社製 DB-5HT(膜厚0.10μm×内径0.25mm×長さ30.0m)
・カラム温度:70℃(1min)→10℃/min→160℃(2min)→10℃/min→210℃(2min)→10℃/min→350℃(2min)
・気化室温度:300℃
・検出器温度:360℃
・検出器:FID
・キャリアー:N2(50ml/min)
・燃焼ガス:水素(40ml/min),空気(400ml/min)
・注入量:1μL
・サンプル調製方法:
10mLメスフラスコに試料約100mgを秤量し、トルエンでメスアップした液をサンプル液とした。
なお、ガスクロマトグラフの面積百分率値は、GC分析から得られるクロマトグラムにおいて、トルエンのピークを除いた後、式(1)~式(4)化合物のピーク面積値をそれぞれ百分率で表したものを意味する。
【0037】
〈耐ブロッキング性試験〉
チャック式ポリ袋に試料80gを入れ、その上に2.0kPaの荷重を均一にかけて60℃の雰囲気下で5日間静置した。その後、試料を取り出して目視にてブロッキングの有無を確認し、ブロッキングがない状態を○、ブロッキングがある状態を×として耐ブロッキング性を評価した。
【0038】
<実施例1>
撹拌装置及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、式(1)化合物を250g(純度(式(1)化合物含量、ガスクロマトグラフの面積百分率):94.4%、式(2)化合物含量:4.0%(式(1)化合物に対する含量:4.1%)、式(3)化合物含量:1.1%(式(1)化合物に対する含量:1.2%)、式(4)化合物含量:0.5%(式(1)化合物に対する含量:0.5%))及び溶媒としてのn-ヘプタンを500g(式(1)化合物1重量部に対して、2重量部)添加した後、内容物を50℃まで昇温し、同温度で1時間撹拌して結晶を完溶させて晶析溶液を得た。得られた晶析溶液を0.2℃/分で冷却し25℃とした時点で、結晶が析出した。その後、同温度で1時間撹拌した。更に0℃まで冷却し、同温度で1時間攪拌した後、濾過し、内圧1.9kPaの減圧下、内温45~50℃で4時間乾燥することで式(1)化合物を含む結晶性組成物198gを得た。得られた結晶性組成物の組成(各成分の含量)を表1に示す。また、耐ブロッキング性試験の結果を表2に示す。
【0039】
<実施例2~10>
使用する式(1)化合物、添加する溶媒の種類及び添加する溶媒の量を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして結晶性組成物を得た。得られた結晶性組成物の組成(各成分の含量)を表1に示す。また、耐ブロッキング性試験の結果を表2に示す。
【0040】
<比較例1~4>
使用する式(1)化合物、添加する溶媒の種類及び添加する溶媒の量を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と実施したが、0℃まで冷却し、同温度で1時間撹拌した後も結晶は析出しなかった。
【0041】
<参考例1~2>
固化した式(1)化合物を粉砕し、得られた粉体について耐ブロッキング性試験を実施した。結果を表2に示す。参考例1では、固化した式(1)化合物として実施例1で使用した式(1)化合物を用い、参考例2では、固化した式(1)化合物として実施例6で使用した式(1)化合物を用いた。
【0042】
【0043】