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特開2024-152677金型、その製造方法及びそれを用いた成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152677
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】金型、その製造方法及びそれを用いた成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20241018BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20241018BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20241018BHJP
   C25D 3/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C25D7/00 F
C25D5/12
C25D5/16
C25D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063544
(22)【出願日】2024-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2023065123
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303028734
【氏名又は名称】オーエム産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 宜幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 千紗
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 真梨奈
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昴弥
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA12
4K023BA08
4K023CA09
4K023DA04
4K024AA03
4K024AA12
4K024AB02
4K024AB03
4K024BA02
4K024BB07
4K024CA02
4K024DA04
4K024DA07
4K024FA01
4K024GA08
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】孔を多数有する多層めっき皮膜が形成され、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性に優れた金型を提供する。
【解決手段】導電性金属からなる基材の上に孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された金型であって、前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする多孔質めっき層を形成した後、前記多孔質めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、前記多層めっき皮膜に形成された孔の平均径が、面積荷重平均値で1~300μmであり、かつ前記多孔質めっき層の厚みが1~500μm、前記表面めっき層の厚みが0.01~150μmである、金型である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属からなる基材の上に孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された金型であって、
前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする多孔質めっき層を形成した後、前記多孔質めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、
前記多層めっき皮膜に形成された孔の平均径が、面積荷重平均値で1~300μmであり、かつ
前記多孔質めっき層の厚みが1~500μm、前記表面めっき層の厚みが0.01~150μmである、金型。
【請求項2】
前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする前記多孔質めっき層を形成し、前記多孔質めっき層の上にCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuを主成分とする中間めっき層を形成し、前記中間めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、前記中間めっき層の厚みが0.01~150μmである、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金型の製造方法であって、
Niイオンを含有するめっき液中で前記多孔質めっき層を形成する多孔質めっき工程と、
Niイオン、Coイオン、Wイオン、Crイオン、Rhイオン、Ruイオン、Irイオン又はPdイオンを含有するめっき液中で前記表面めっき層を形成する表面めっき工程とを備え、
前記多孔質めっき層を、Niイオンを0.01~1mol/L含有するpHが6以上の液中で、10A/dm以上の陰極電流密度で電気めっきを施すことにより形成する、金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の金型にゴム又は樹脂を充填してから硬化又は固化させた後に、得られた成形品を前記金型から離型させることにより、表面に多数の突起が形成された成形品を製造する方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された金型及びそれを用いた成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成形品や樹脂成形品の表面に多数の微細な突起を形成することにより撥水・撥油効果や摩擦係数の変化が得られることが知られている。このような微細な突起が形成された成形品の製造方法としては、表面に孔を多数有する金型を用いてゴムや樹脂を成形する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、表面に多孔質Niめっき層が形成された手型を用いてポリ塩化ビニルを成形して得られた表面に毛状突起が形成された手袋は、水に濡れた場合に乾き易く汚れが付き難かったと記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された手型は、成形後の樹脂の剥離性が十分ではなく、剥離時に成形品が破損することや、めっき層が剥離して成形品に付着して撥水性が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-64122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、孔を多数有する多層めっき皮膜が形成され、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性に優れた金型及びその製造方法を提供することを目的とする。また、表面に多数の微細な突起が形成され、高い撥水性を有するゴム成形品及び樹脂成形品を生産性良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、導電性金属からなる基材の上に孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された金型であって、前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする多孔質めっき層を形成した後、前記多孔質めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、前記多層めっき皮膜に形成された孔の平均径が、面積荷重平均値で1~300μmであり、かつ前記多孔質めっき層の厚みが1~500μm、前記表面めっき層の厚みが0.01~150μmである、金型を提供することによって解決される。
【0008】
前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする前記多孔質めっき層を形成し、前記多孔質めっき層の上にCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuを主成分とする中間めっき層を形成し、前記中間めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、前記中間めっき層の厚みが0.01~150μmであることが好ましい。
【0009】
上記課題は、前記金型の製造方法であって、Niイオンを含有するめっき液中で前記多孔質めっき層を形成する多孔質めっき工程と、Niイオン、Coイオン、Wイオン、Crイオン、Rhイオン、Ruイオン、Irイオン又はPdイオンを含有するめっき液中で前記表面めっき層を形成する表面めっき工程とを備え、前記多孔質めっき層を、Niイオンを0.01~1mol/L含有するpHが6以上の液中で、10A/dm以上の陰極電流密度で電気めっきを施すことにより形成する、金型の製造方法を提供することによっても解決される。
【0010】
前記金型にゴム又は樹脂を充填してから硬化又は固化させた後に、得られた成形品を前記金型から離型させることにより、表面に多数の突起が形成された成形品を製造する方法が前記金型の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0011】
孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された本発明の金型は、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性に優れる。本発明の金型の製造方法によれば、このような金型を生産性良く製造することができる。さらに、このような金型を用いることにより、表面に多数の微細な突起が形成され、高い撥水性を有するゴム成形品及び樹脂成形品を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1~4における金型に形成された多層めっき皮膜の表面を撮影した光学顕微鏡像である。
図2】実施例5及び6並びに比較例1における金型に形成された多層めっき皮膜の表面を撮影した光学顕微鏡像である。
図3】実施例1~4におけるシリコーンゴムシート表面(金型から剥離した面)を撮影した光学顕微鏡像及びレーザー顕微鏡像である。
図4】実施例5及び6並びに比較例1におけるシリコーンゴムシート又はポリプロピレンシートの表面(金型から剥離した面)を撮影した光学顕微鏡像及びレーザー顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金型は、導電性金属からなる基材の上に孔を多数有する多層めっき皮膜が形成されたものであって、前記多層めっき皮膜が、前記基材の上にNiを主成分とする多孔質めっき層を形成した後、前記多孔質めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成してなるものであり、前記多層めっき皮膜に形成された孔の平均径が、面積荷重平均値で1~300μmであり、かつ前記多孔質めっき層の厚みが1~500μm、前記表面めっき層の厚みが0.01~150μmであるものである。当該金型は、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性に優れる。したがって、このような金型を用いることにより、表面に多数の微細な突起が形成され、高い撥水性を有するゴム成形品や樹脂成形品を生産性良く製造することができる。
【0014】
前記金型の製造方法は特に限定されないが、Niイオンを含有するめっき液中で前記多孔質めっき層を形成する多孔質めっき工程と、Niイオン、Coイオン、Wイオン、Crイオン、Rhイオン、Ruイオン、Irイオン又はPdイオンを含有するめっき液中で前記表面めっき層を形成する表面めっき工程とを備え、前記多孔質めっき層を、Niイオンを0.01~1mol/L含有するpHが6以上の液中で、10A/dm以上の陰極電流密度で電気めっきを施すことにより形成する方法が好ましい。
【0015】
本発明で用いられる基材は導電性金属からなるものであればよく、その材料は特に限定されない。中でも、Fe、Al、Cu又はこれらを主成分とする合金が挙げられ、中でも、Fe、Feを主成分とする合金が好ましい。Feを主成分とする合金としては、ステンレス鋼、合金工具鋼(SKD材等)、構造用炭素鋼(SCM材等)、時効処理鋼(マルエージング鋼等)等の鋼材が挙げられる。本発明において、「主成分とする」とは50質量%以上含有するという意味である。基材の形状は特に限定されず、成形品に合わせて適宜決定すればよい。
【0016】
本発明で用いられる基材は多層構造体であってもかまわない。この場合、多層めっき皮膜が形成される面、すなわち表層が導電性金属からなる層であればよく、他の層は導電性金属からなる層であってもかまわないし、セラミックス、樹脂などのような非金属材料からなる層であってもかまわないし、シリコンなどのような導電性の低い半金属材料からなる層であってもかまわない。ここでいう半金属材料とは、一定の導電性を示すが、通常の電気めっきを施すことができるほどの導電性を有していないものをいう。前記多層構造体の表層の導電性金属からなる層は、非金属材料に電気めっきを施す前に行う一般的な方法により形成すればよく、例えば、無電解Niめっきを施すことによりNiを主成分とするめっき層を形成する方法等が採用される。
【0017】
前記多孔質めっき工程において、Niイオンを含有するめっき液中で前記導電性金属からなる基材の上にNiを主成分とする多孔質めっき層を形成する。多孔質めっき層を形成する際に用いられるめっき液は、Niイオンを0.01~1mol/L含有することが好ましい。Niイオンの含有量が0.01mol/L未満であると、多孔質めっき層の強度が低下するおそれがある。Niイオンの含有量は0.05mol/L以上がより好ましく、0.08mol/L以上がさらに好ましい。一方、Niイオンの含有量が1mol/Lを超えると、基材の上に多孔質めっき層を形成することができないおそれがある。Niイオンの含有量は0.8mol/L以下がより好ましく、0.5mol/L以下がさらに好ましい。このとき、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、めっき液にNiイオン以外の金属イオンが含まれていてもかまわないが、めっき液がNiイオンを0.01~1mol/L含有し、実質的にNiイオン以外の金属イオンを含有しないことが好ましい。めっき液にNiイオン以外の金属イオンが含まれていると、得られる多孔質めっき層の耐食性が低下するおそれがあるからである。このような観点から、前記多孔質めっき層に含まれるNiの含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上が最も好ましい。
【0018】
上記めっき液のpHは6以上であることが好ましい。めっき液のpHが6未満であると均質な多孔質めっき層を形成することができないおそれがある。めっき液のpHは7以上であることがより好ましく、7.5以上であることがさらに好ましく、8以上であることが特に好ましい。一方、pHの上限は特に限定されず、pHは通常14以下であり、好ましくは12以下であり、より好ましくは9.5以下である。
【0019】
めっき液のpHを上記の範囲に調整する方法は特に限定されず、アンモニア;水酸化ナトリウム等の金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸塩などをめっき液に添加する方法を挙げることができる。上述したように、めっき液にNiイオン以外の金属イオンが含まれていることは好ましくない。pHの調整にアンモニアを用いることによって、めっき液にNiイオン以外の金属イオンが含まれることを防ぐことができる。この観点から、めっき液が、アンモニアを用いてpHが6以上に調整された液であることが好ましい。ここでいうアンモニアは、解離してアンモニウムイオンになっているものを含まない。アンモニアを用いてpHを調整する場合、その方法は特に限定されず、めっき液にアンモニアの水溶液を添加する方法や、めっき液にアンモニアガスを吹き込む方法が例示される。
【0020】
このとき、めっき液がアンモニアを0.2~30mol/L含有することが好ましい。ここでいうアンモニアの含有量とは、めっき液に添加したアンモニアのモル数からめっき液1Lあたりのアンモニア濃度を算出して得られた値である。アンモニアの含有量が0.2mol/L未満であると、めっき液のpHが6以上にならないおそれがある。アンモニアの含有量は0.3mol/L以上であることがより好ましく、0.5mol/L以上であることがさらに好ましい。一方、アンモニアの含有量が30mol/Lを超えると、製造コストが上昇するとともに、臭気により作業環境が悪化して工業的な実施が困難になるおそれがある。アンモニアの含有量は20mol/L以下であることがより好ましく、10mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0021】
めっき液が、アンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを0.2~10mol/L含有することが好ましい。上記イオンの含有量が0.2mol/L未満であると、めっき液の液抵抗が大きくなり、高電流密度で電気Niめっきを行った際に短時間でめっき液の温度が上昇し、めっき品の連続生産が困難になるおそれがある。上記イオンの含有量は0.5mol/L以上であることがより好ましい。一方、上記イオンの含有量が10mol/Lを超えるめっき液を得ようとすると、アンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンのイオン源としてのアンモニウム塩やアルカリ金属塩を大量に溶解させなければならず、製造コストが上昇するおそれがある。上記イオンの含有量は5mol/L以下であることがより好ましい。
【0022】
Niイオン、アンモニウムイオン及びアルカリ金属イオンのカウンターアニオンの種類は特に限定されない。カウンターアニオンとしては、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;スルファミン酸イオン;酢酸イオン;硝酸イオン;クエン酸イオンなどを挙げることができる。中でも入手容易で安価な観点から、めっき液が、前記カウンターアニオンとして、塩化物イオン、硫酸イオン、スルファミン酸イオン及び酢酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含有することが好ましく、塩化物イオン及び/又は硫酸イオンを含有することがより好ましい。
【0023】
基材に電気めっきを施す際の陰極電流密度は10A/dm以上であることが好ましい。ここで陰極電流密度とは、電気Niめっきを施す際に基材(カソード)に流した電流値を当該基材1dmあたりの電流値に換算した値のことである。陰極電流密度が10A/dm未満であると、均質な多孔質めっき層を形成することができないおそれがある。陰極電流密度は12A/dm以上であることがより好ましい。一方、陰極電流密度の上限は特に限定されず、陰極電流密度は通常1000A/dm以下であり、好ましくは500A/dm以下であり、より好ましくは300A/dm以下である。
【0024】
めっき時間は特に限定されず、多孔質めっき層が所望の厚みになるように適宜設定することができる。めっき液の温度も特に限定されないが、温度が高すぎると溶媒の蒸発によるめっき液の組成の変化が懸念されるので、温度は通常50℃以下である。
【0025】
また、前記多孔質めっき層の形成方法として、国際公開第2015/060449号に記載された多孔質Niめっき層の形成方法を採用することもできる。
【0026】
こうして形成される多孔質めっき層の厚みは1~500μmである必要がある。厚みが1μm未満であると、前記金型を用いて得られる成形品に形成される突起が短くなりすぎて撥水性が不十分になるとともに、多孔質めっき層が脆くなり基材から剥がれやすくなる。多孔質めっき層の厚みは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。一方、多孔質めっき層の厚みが500μmを超えると製造コストが上昇する。多孔質Niめっき層の厚みは300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。ここで、多孔質めっき層の厚みとは、基材表面から多孔質めっき層の凸部までの厚さを意味し、実施例に記載された方法により測定される。
【0027】
前記表面めっき工程において、Niイオン、Coイオン、Wイオン、Crイオン、Rhイオン、Ruイオン、Irイオン又はPdイオンを含有するめっき液中で前記多孔質めっき層の上にNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdを主成分とする表面めっき層を形成する。中でも、前記表面めっき層として、Ni又はCrを主成分とする層が好ましい。前記表面めっき層に含まれるNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPdの含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上が最も好ましい。
【0028】
前記表面めっき層を形成する際のめっき方法は特に限定されず、公知の電気めっき浴を用いて電気めっきを施すことができる。例えば、Niを主成分とする表面めっき層の形成に用いられるめっき浴として、ワット浴、ウッド浴、スルファミン酸Ni浴、有機酸Ni浴;Crを主成分とする表面めっき層の形成に用いられるめっき浴として、シュウ酸浴、硫酸浴、塩化物浴等の3価クロムめっき浴、サージェント浴、混合触媒浴、HEEF浴、フッ化浴等の6価クロムめっき浴が挙げられる。電流密度やめっき時間は、表面めっき層が所望の膜厚となるように適宜設定される。電気めっきを施すことにより形成される表面めっき層としては、電気Niめっき層、電気Ni-W合金めっき層、電気Ni-Co合金めっき層、電気Ni-Mn合金めっき層、電気Ni-Mo合金めっき層、電気Ni-Sn合金めっき層、電気Ni-Fe合金めっき層、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)複合電解Niめっき(電解Niめっきの中にPTFEの粒子を分散させたもの)層等のNiを主成分とする表面めっき層;電気W-Ni合金めっき層等のWを主成分とする表面めっき層;電気Co-Ni合金めっき層等のCoを主成分とする表面めっき層;Crめっき層、Cr-C合金めっき層等のCrを主成分とする表面めっき層;Pd-Ni合金めっき層等のPdを主成分とする表面めっき層等が挙げられる。
【0029】
前記表面めっき層は、無電解めっきによって形成されたものであってもかまわない。無電解めっきを施すことにより形成される表面めっき層としては、無電解Niめっき層、無電解Ni-Pめっき層、無電解Ni-Bめっき層、無電解Ni-W-Pめっき層、無電解Ni-W-Bめっき層、無電解Ni-Co-Pめっき層、無電解Ni-Sn-Pめっき層、PTFE複合無電解Niめっき(無電解Niめっきの中にPTFEの粒子を分散させたもの)層等のNiを主成分とする表面めっき層等が挙げられる。
【0030】
こうして形成される表面めっき層の厚みは0.01~150μmである必要がある。表面めっき層の厚みが0.01μm未満であると多層めっき皮膜が基材から剥がれやすくなるとともに、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性が不十分になる。前記表面めっき層の厚みは、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。一方で前記表面めっき層が厚すぎると製造コストが高くなる。前記表面めっき層の厚みは、120μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、40μm以下がよりさらに好ましく、20μm以下が特に好ましい。本発明において表面めっき層の厚みとは、表面めっき処理により付着したNi、Co、W、Cr、Rh、Ru、Ir又はPd等を含む付着物の重量を、付着物の密度とめっき面積で割って算出された厚さのことをいい、実施例に記載された方法(重量法)により測定される。ここで、めっき面積は表面の凹凸を考慮しない。
【0031】
前記多層めっき皮膜に対する補強効果が得られる点やゴム成形品や樹脂成形品の剥離性がさらに向上する点から、前記多孔質めっき層と前記表面めっき層の間に、Cu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuを主成分とする中間めっき層を形成することが好ましい。すなわち、前記多層めっき皮膜が、前記基材の上に前記多孔質めっき層を形成し、前記多孔質めっき層の上にCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuを主成分とする中間めっき層を形成し、前記中間めっき層の上に前記表面めっき層を形成してなるものであることが好ましい。前記多孔質めっき層に直径1μm未満の孔が残存していてもゴム成形品や樹脂成形品の撥水性に寄与する突起は形成されない。前記中間めっき層を形成するとこのような孔が析出物で埋まるため撥水性を低下させることなく、剥離性をさらに向上させることができるものと考えられる。中でも、前記中間めっき層として、Cuを主成分とする層が好ましい。前記中間めっき層に含まれるCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuの含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上が最も好ましい。前記中間めっき層は単層であっても多層であっても構わない。後者の一例として、前記多孔質めっき層の上にCuを主成分とする第1中間めっき層を形成し、第1中間めっき層の上にNiを主成分とする第2中間めっき層を形成し、第2中間めっき層の上にCrを主成分とする表面めっき層を形成してなる多層めっき皮膜が挙げられる。このような第2中間めっき層を形成することにより、表面めっき層を形成する際に使用する強酸性のクロムめっき液(サージェント浴)に起因する第1中間めっき層中のCuの溶出が抑制される。
【0032】
多孔質めっき工程後表面めっき工程前に、中間めっき工程として、Cuイオン、Snイオン、Znイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオン、Niイオン、Irイオン又はRuイオンを含有するめっき液中で前記多孔質めっき層の上にCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRuを主成分とする前記中間めっき層を形成することができる。中間めっき層を形成する際のめっき方法は特に限定されず、公知の電気めっき浴を用いて電気めっきを施すことができる。例えば、Cuを主成分とする中間めっき層の形成に用いられるめっき浴として、硫酸Cu浴、ピロリン酸Cu浴等が挙げられ、中でも硫酸Cu浴が好ましい。Niを主成分とする中間めっき層の形成に用いられるめっき浴として、表面めっき層の形成に用いられるものとして上述したものが挙げられる。電流密度やめっき時間は、中間めっき層が所望の膜厚となるように適宜設定される。中間めっき層は、無電解めっきによって形成されたものであってもかまわない。
【0033】
こうして形成される中間めっき層の厚み(中間めっき層が多層の場合は総厚み)は0.01~150μmである。中間めっき層の厚みが0.01μm未満であると多層めっき皮膜が基材から剥がれやすくなるとともに、ゴム成形品や樹脂成形品の剥離性が不十分になる。中間めっき層の厚みは、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、5μm以上がよりさらに好ましく、7μm以上が特に好ましい。一方で表面めっき層の厚みが厚いと製造コストが高くなる。中間めっき層の厚みは、120μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、40μm以下がよりさらに好ましく、20μm以下が特に好ましい。本発明において中間めっき層の厚みとは、中間めっき処理により付着したCu、Sn、Zn、Co、Fe、Pd、Ni、Ir又はRu等を含む付着物の重量を、付着物の密度とめっき面積で割って算出された厚さのことをいい、実施例に記載された方法(重量法)により測定される。ここで、めっき面積は表面の凹凸を考慮しない。
【0034】
前記多層めっき皮膜は、前記多孔質めっき層、前記中間めっき層及び前記表面めっき層のみを形成してなるものであってもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、これらの層以外の他の層をさらに形成してなるものであってもよい。前記他の層として、前記基材と前記多孔質めっき層の間に形成される下地めっき層(例えば、無電解Niめっき層)等が挙げられる。
【0035】
前記多層めっき皮膜の具体的な層構成としては、
多孔質めっき層/電気Cuめっき層(第1中間)/電気Niめっき層(第2中間)/Crめっき層(表面)、
多孔質めっき層/電気Cuめっき層(中間)/電気Niめっき層(表面)、
多孔質めっき層/電気Cuめっき層(中間)/無電解Niめっき層(表面)、
多孔質めっき層/Crめっき層(表面)、
多孔質めっき層/PTFE複合無電解Niめっき(表面)、
等が挙げられる。
【0036】
こうして得られる多層めっき皮膜の厚みが10~1000μmであることが好ましい。厚みが10μm未満であると、前記金型を用いて得られる成形品に形成される突起が短くなりすぎて撥水性が不十分になるおそれや、多孔質めっき層が脆くなり基材から剥がれやすくなるおそれがある。前記多層めっき皮膜の厚みは20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、40μm以上がよりさらに好ましく、50μm以上が特に好ましい。一方、多層めっき皮膜の厚みが1000μmを超えると、脆くなるとともに、製造コストが上昇する。前記多層めっき皮膜の厚みは500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、150μm以下が特に好ましい。ここで、前記多層めっき皮膜の厚みとは、基材表面から前記多層めっき皮膜の凸部までの厚みをいう。
【0037】
前記多層めっき皮膜に形成される孔の平均径が、面積荷重平均値で1~300μmである必要がある。孔の平均径が1μm未満であると、得られるゴム成形品や樹脂成形品に突起が形成されず、撥水性が不十分になる。孔の平均径は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。一方、孔の平均径が300μmを超えると、得られるゴム成形品や樹脂成形品の撥水性が不十分になるとともに、多層めっき皮膜の強度が低下する。孔の平均径は200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。ここで、孔の平均径は、めっき品の表面のレーザー顕微鏡写真の中から複数の孔を選び、それら孔の直径を計測し面積荷重平均することによって得られる。孔が円形でない場合には、円相当径を直径とする。
【0038】
前記多層めっき皮膜に形成される孔の深さは1~200μmであることが好ましい。前記孔の深さがこのような範囲であることにより、得られる成形品の撥水性がさらに向上する。前記深さは5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。前記孔の深さは実施例に記載された方法により測定される。
【0039】
前記多層めっき皮膜に形成される孔の間隔が0.1~1000μmであることが好ましい。前記間隔がこのような範囲であることにより、得られる成形品の撥水性がさらに向上する。前記間隔は、1μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、5μm以上が特に好ましい。一方、前記間隔は、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、200μm以下が特に好ましい。ここで言う孔の間隔は、隣接する2つの孔の中心軸間の距離を指す。前記孔の間隔は実施例に記載された方法により測定される。
【0040】
こうして得られる、孔を多数有する多層めっき皮膜が形成された本発明の金型はゴム成形品や樹脂成形品の剥離性に優れる。このような金型を用いることにより、表面に多数の微細な突起が形成され、高い撥水性を有するゴム成形品や樹脂成形品を生産性良く製造することができる。
【0041】
前記金型にゴム又は樹脂を充填してから硬化又は固化させた後に、得られた成形品を前記金型から離型させることにより、表面に多数の突起が形成された成形品を製造する方法が前記金型の好適な実施態様である。
【0042】
材料のゴムや樹脂は特に限定されず、ゴムとしては、シリコーンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ウレタン系ゴム、フッ素系ゴムなどが挙げられる。樹脂としては、エポキシ樹脂;ポリウレタン;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリアセタール;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリスチレンやABSなどのスチレン系樹脂;フロロポリマー;ポリフェニレンサルファイド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンエーテル;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0043】
前記金型に前記材料のゴム又は樹脂を充填してから硬化又は固化させる。硬化又は固化の方法は特に限定されず、材料の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、材料としてシリコーンゴムを用いた場合、シリコーンゴム(主剤)と硬化剤を混合した後、得られた混合物を前記金型に充填した後、加熱する方法等が採用される。得られた硬化物を前記金型から離型させることにより、表面に多数の突起が形成された成形品を得ることができる。本発明の金型を用いた場合には、硬化又は固化して得られた成形品を容易に離型することが可能であるとともに、表面に多数の突起が形成された成形品は高い撥水性を有する。このような成形品は、手袋、調理器具、レジャー用品、スポーツ用品、自動車等、様々な用途に用いられる。
【実施例0044】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0045】
実施例1
(多孔質Niめっき液の調製)
イオン交換水にNiCl・6HO(0.1mol/L)と(NHSO(2.0mol/L)を溶解させて得られた水溶液に28質量%アンモニア水を加えてpH8.5の多孔質Niめっき液を調整した。
【0046】
(中間層Cuめっき液の調製)
イオン交換水にHSO(210g/L)、36質量%HCl(0.2ml/水1L)、CuSO・5HO(150g/L)、JCU社製添加剤「CU-BRITE21MU」(5ml/L)「STB」(0.5ml/L)を添加することにより中間層Cuめっき液を調製した。
【0047】
(表面層Niめっき液の調製)
イオン交換水にNiSO・6HO(240g/L)、NiCl・6HO(45g/L)、HBO(30g/L)を添加することにより表面層Niめっき液を調製した。
【0048】
(前処理)
基材として、縦120mm、横70mm、厚み3mmの長方形の鋼板を用いた。当該基材をユケン工業株式会社製の電解脱脂剤「パクナTHE-210」(50g/L)とNaOH(3g/L)が溶解した50℃の水溶液に浸漬した。そして、基材をカソードとして、陰極電流密度5A/dmで60秒間通電することにより脱脂処理を行った後、流水で洗浄し、さらに純水で洗浄した。こうして脱脂処理された基材を、イオン交換水に株式会社JCU社製活性化剤「V-34C」(70ml/水1L)と36質量%塩酸(70ml/水1L)を添加して得られた50℃の処理液に30秒間浸漬させることにより活性化処理を行った後、流水で洗浄し、さらに純水で洗浄した。こうして活性化処理された基材をイオン交換水に36質量%塩酸(100ml/水1L)を添加して得られた20℃の洗浄液に60秒間浸漬させることにより酸化皮膜の除去を行った後、純水で洗浄した。
【0049】
(多孔質めっき層の形成)
前処理された基材を20℃の多孔質Niめっき液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度15A/dmで70分間、多孔質Niめっき処理を行った後、純水で洗浄した。こうして多孔質Niめっき処理された基材を80℃の純水に泡が出なくなるまで浸漬させることよりガス抜きを行った。多孔質めっき層の断面の電子顕微鏡観察を行い、その厚みを測定した。3か所測定し、その平均値を多孔質めっき層の厚みとした。結果を表1に示す。
【0050】
(中間めっき層の形成)
多孔質めっき層が形成された基材を20℃の中間層Cuめっき液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度2A/dmで20分間、中間層Cuめっき処理を行った後、純水で洗浄した。こうして中間層Cuめっき処理された基板を80℃の純水に泡が出なくなるまで浸漬させることよりガス抜きを行った。中間めっき層の厚みA(μm)を下記式を用いて重量法により測定した。結果を表1に示す。

A=(10000×B)/(C×D)

B:めっき処理により基材に付着した付着物の重量(g)
C:めっき面積(cm
D:8.94g/cm(Cuの20℃における密度)
【0051】
(表面めっき層の形成)
中間めっき層が形成された基材を60℃の表面層Niめっき液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度2A/dmで5分間、表面層Niめっき処理を行った後、さらに純水で洗浄した。こうして表面層Niめっき処理された基板にエアーを吹き付けて乾燥させた。表面めっき層の厚みを、DとしてNiの20℃における密度8.91g/cmを用いた以外は中間めっき層と同様にして、重量法により測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(多層めっき皮膜の評価)
(1)表面観察
キーエンス社製の光学顕微鏡「VHX-6000」を用い、得られた金型の多層めっき皮膜表面を撮影し光学顕微鏡像を得た。得られた光学顕微鏡像を図1に示す。
【0053】
(2)孔径、孔深さ及び孔間隔
得られた多層めっき皮膜表面の光学顕微鏡像から複数の孔を選び、それら孔の直径を計測し面積荷重平均した。孔が円形でない場合には、円相当径を直径とした。孔深さをオリンパス社製3D測定レーザー顕微鏡「OLS5100」により測定した。3か所測定し、その平均値を孔深さとした。また、孔間隔を前記レーザー顕微鏡により測定した。3か所測定し、その平均値を孔間隔とした。結果を表1に示す。
【0054】
(シリコーンゴムシートの作製)
こうして得られた金型の多層めっき皮膜が形成された面にイチネンケミカルズ社製離型剤「潤滑スプレーEX」をスプレー塗布した後、横20mm、縦60mm、深さ1mmの凹部が形成されたアルミニウム製の上型をクリップで固定した。信越化学工業社製シリコーンゴム「KE106」(主剤)10質量部と信越化学工業社製硬化剤「CAT-RG」1質量部を混合した後、混合物を多層めっき皮膜が形成された金型と上型の間のキャビティ―中に充填した。混合物が充填された金型を真空装置内(圧力0.06Mpa)に5分間静置した後、当該装置から取り出して大気中でさらに5分間静置することにより混合物中の泡を除去した。混合物が充填された金型を100℃のオーブン内に30分間静置することにより熱処理を行った。当該金型をオーブンから取り出して大気中で5分間冷却した後、上型を外して多層めっき皮膜からシート状のシリコーンゴムシートを剥離した。このときの離型性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A シート全体が剥がしやすく、シートの剥離面に多層めっき皮膜が付着していなかった
B シートの周囲部分が若干剥がしにくいが、シートの剥離面に多層めっき皮膜が付着していなかった
C シートの周囲部分が剥がしにくいが、シートの剥離面に多層めっき皮膜が付着していなかった
D シートの周囲部分が剥がしにくいうえに、周囲以外の部分も若干剥がしにくく、シートの剥離面に多層めっき皮膜が僅かに付着しているのが顕微鏡で確認された
E シート全体が剥がしにくく、シートの剥離面に多層めっき皮膜が付着しているのが目視で確認された
【0055】
(シリコーンゴムシートの評価)
キーエンス社製の光学顕微鏡「VHX-6000」およびオリンパス社製3D測定レーザー顕微鏡「OLS5100」を用いて得られたシリコーンゴムシート表面(多層めっき皮膜から剥離した面)の光学顕微鏡像及びレーザー顕微鏡像を得た。得られた光学顕微鏡像、レーザー顕微鏡像及びレーザー顕微鏡像から求めた突起の高さを図3及び表1に示す。得られたシリコーンゴムシートの表面(多層めっき皮膜から剥離した面)の状態を以下の基準で評価した。
A 異物が確認されなかった
B 多層めっき皮膜が僅かに付着しているのが顕微鏡で確認された
C 多層めっき皮膜が付着しているのが顕微鏡で確認された
D 多層めっき皮膜が付着しているのが目視で確認された
【0056】
得られたシリコーンゴムシートに水を垂らして撥水性を目視により下記の基準で評価した。
A シリコーンゴムシートに垂らした水が水玉となって風を当てると滑り落ちた
B シリコーンゴムシートの多層めっき皮膜が付着した部分に垂らした水が付着して風を当てても除去されなかった
【0057】
同じ金型を用いて上記と同様の方法でシリコーンゴムシートの作製をさらに5回繰り返した。5回目は、離型剤を塗布せずにシートを作製した。得られた各シートのレーザー顕微鏡像及び突起の高さを図3及び表1に示す。
【0058】
(剥離後の多層めっき皮膜の評価)
前記光学顕微鏡を用い、シリコーンゴムシートの作製を5回行った後の金型の多層めっき皮膜表面を撮影し光学顕微鏡像を得た。得られた光学顕微鏡像を図1に示す。このときの多層めっき皮膜表面の状態を以下の基準で評価した。
A 異物が確認されなかった
B 異物が僅かに確認された
C 異物が確認された
D めっき層の剥離及びシリコーンゴムシートの付着が確認された
【0059】
実施例2、3
中間めっき層を形成する際の通電時間を15分間(実施例2)又は5分間(実施例3)に変更した以外は実施例1と同様にして金型の作製及び評価、並びに得られた金型を用いたシリコーンゴム成形品の作製及び評価を行った。結果を表1、図1及び3に示す。
【0060】
実施例4
中間めっき層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして金型の作製及び評価、並びに得られた金型を用いたシリコーンゴム成形品の作製及び評価を行った。結果を表1、図1及び3に示す。
【0061】
実施例5
(表面層Crめっき液の調製)
イオン交換水に無水クロム酸(250g/L)、HSO(2.5ml/L)を添加することにより表面層Crめっき液を調製した。
【0062】
多孔質めっき層を形成する際の通電時間を90分間に変更した以外は実施例1と同様にして「多孔質めっき層の形成」まで行った後、多孔質めっき層が形成された基材を室温の表面層Crめっき液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度30A/dmで3分間、表面層Crめっき処理を行った後、純水で洗浄した。こうして表面層Crめっき処理された基板を80℃の純水に泡が出なくなるまで浸漬させることよりガス抜きを行った。こうして得られた金型の評価、並びに当該金型を用いたシリコーンゴム成形品の作製及び評価を行った。結果を表1、図2及び4に示す。なお、表面めっき層の厚みは、DとしてCrの20℃における密度7.19g/cmを用いた以外は実施例1と同様にして、重量法により測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例6
基材を縦67mm、横50mm、厚み0.3mmの長方形の鉄板に変更したこと、多孔質Niめっき処理を行う際の陰極電流密度を20A/dmに通電時間を20分間に変更したこと、多孔質Niめっき処理された基材を純水に浸漬させることによりガス抜きを行う代わりに前記基材を室温の純水に浸漬させて超音波洗浄を行ったこと、中間層Cuめっき処理を行う際の陰極電流密度を3A/dmに通電時間を8分間に変更したこと、中間層Cuめっき処理された基材を純水に浸漬させることによりガス抜きを行う代わりに前記基材を室温の純水に浸漬させて超音波洗浄を行ったこと、表面層Niめっき処理を行う際の陰極電流密度を4A/dmに通電時間を3分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして金型の製造、各めっき層の厚みの測定及び多層めっき皮膜の評価を行った。結果を表1、図2及び4に示す。
【0064】
(ポリプロピレンシートの作製)
こうして得られた金型を、多層めっき皮膜が形成された面を上にして、200℃のホットプレートの上に載置した。前記金型の上に、縦40mm、横20mm、厚み0.3mmの長方形のポリプロピレンシートを載置し、2分間放置した。縦67mm、横100mm、厚み0.3mmの長方形のステンレス製の板で前記ポリプロピレンシートを上から約10秒押圧し、金型とポリプロピレンシートの間にエアポケットがないことを確認した後(エアポケットが確認された場合は消失するまで押圧を行った)、前記ポリプロピレンシートが密着した前記金型をホットプレートから下ろし、大気中(室温)で冷却した。冷却中、前記ポリプロピレンシートの一部が金型から剥離した。前記金型を室温まで冷却した後、前記ポリプロピレンシートの金型に張り付いた部分を剥離させた。このときの離型性をシリコーンゴムシートと同じ基準で評価した。剥離したポリプロピレンシートをシリコーンゴムシートと同様に評価した。また、剥離後の多層めっき皮膜を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例1
表面めっき層及び中間めっき層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして金型の作製及び評価、並びに得られた金型を用いたシリコーンゴム成形品の作製及び評価を行った。結果を表1、図2及び4に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
多孔質めっき層、中間めっき層及び表面めっき層が形成された実施例1~3、6の金型を用いた場合、得られたシリコーンゴムシート又はポリプロピレンシートの剥離性が良好であった。このとき、中間めっき層が厚いほど成形品(シリコーンゴムシート)を剥離し易く、中間めっき層が最も厚い実施例1の金型を用いた場合、極めて剥離し易かった。中間めっき層が最も薄い実施例3の金型を用いた場合、剥離したシートに僅かに多層めっき皮膜が付着していることが顕微鏡像から確認されるとともに、金型表面にも異物が付着していることが光学顕微鏡像から確認された。中間めっき層が厚い実施例1、2及び6の金型を用いた場合、シリコーンゴムシート又はポリプロピレンシートへの多層めっき皮膜の付着や金型表面の異物の付着は確認されなかった。
【0068】
多孔質めっき層及び表面めっき層が形成された実施例4又は5の金型を用いた場合、実施例1~3の金型よりは劣るものの、得られたシリコーンゴム成形品の剥離性が良好であった。実施例4の金型を用いた場合、シートに僅かに多層めっき皮膜が付着していることが顕微鏡像から確認されるとともに、剥離後の金型表面にも異物が付着していることが顕微鏡像から確認され、付着物の量は実施例3の金型を用いた場合と比較して多かった。
【0069】
一方、多孔質めっき層のみが形成された比較例1の金型を用いた場合、得られたシリコーンゴムを剥離し難く、シートに多孔質めっき皮膜が付着していることが確認された。また、金型の多孔質めっきが剥離していることが目視で確認されるとともに、シリコーンゴムシートが金型表面に付着していることが顕微鏡像から確認された。
【0070】
得られたシリコーンゴム又はポリプロピレンシートの突起が形成された面(多層めっき皮膜から剥離した面)に水をかけて撥水性を目視で確認したところ、実施例1~6の金型を用いて得られた成形品は、撥水性が良好であったのに対して、比較例1の金型を用いて得られた成形品では、めっき皮膜が付着した部分に水が留まり、撥水性が不十分であった。また、実施例1~6の金型を用いて成形品の製造を繰り返しても突起の高さに大きな変化は確認されなかった。特に、実施例1及び6の金型を用いた場合、離型剤を塗布しなくても、成形品を容易に剥離することができ、シートや金型への付着物も確認されなかった。一方、比較例1の金型を用いた場合、シリコーンゴムシートの作製を繰り返すと突起の高さが大きく低下し、突起の形成が困難になることが確認された。
図1
図2
図3
図4