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特開2024-152681ホウレンソウ系統MSA-S021-1336M
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152681
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ホウレンソウ系統MSA-S021-1336M
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/02 20180101AFI20241018BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20241018BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241018BHJP
   A01H 1/02 20060101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241018BHJP
   A01G 22/15 20180101ALI20241018BHJP
【FI】
A01H6/02
A01H5/10
C12N5/04
C12N5/10
A01H1/02 Z
C12Q1/6895 Z
C12Q1/6869 Z
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063705
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】63/459,356
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/233,093
(32)【優先日】2023-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500195035
【氏名又は名称】セミニス・ベジタブル・シーズ・インコーポレイテツド
【氏名又は名称原語表記】Seminis Vegetable Seeds,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ミューセン,ヨハネス・テオドルス・ヘンドリクス
【テーマコード(参考)】
2B022
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
4B063QA12
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
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4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AA89X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA41
4B065CA53
(57)【要約】
【課題】本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの種子および植物を提供する。
【解決手段】したがって、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物、種子、植物部分および組織培養物、ならびにそのような植物をそれら自体または別の植物、例えば別の遺伝子型のホウレンソウ植物と交配することによって生産されるホウレンソウ植物を生産するための方法に関する。本発明はさらに、そのような交配によって生産された種子および植物に関する。本発明はさらに、導入された有益なまたは望ましい形質を含むホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物、種子、植物部分および組織培養物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含み、前記系統の種子の標本はNCMA受託番号202210003で寄託されているホウレンソウ植物。
【請求項2】
請求項1に記載の植物を生産するホウレンソウ種子。
【請求項3】
前記植物が前記ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物である、請求項1に記載の植物。
【請求項4】
前記植物が雑種ホウレンソウ植物である、請求項1に記載の植物。
【請求項5】
前記種子が前記ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの種子である、請求項2に記載の種子。
【請求項6】
前記種子が雑種ホウレンソウ植物の種子である、請求項2に記載の種子。
【請求項7】
請求項1に記載の植物の植物部分であって、前記植物部分は前記植物の細胞を含む、植物部分。
【請求項8】
請求項1に記載の植物の生理学的および形態学的特徴のすべてを有するホウレンソウ植物。
【請求項9】
請求項1に記載の植物の再生可能な細胞の組織培養物。
【請求項10】
請求項1に記載の植物を栄養繁殖させる方法であって、
(a)請求項1に記載の植物から繁殖させることができる組織を収集する工程と、
(b)前記組織からホウレンソウ植物を繁殖させる工程と
を含む、方法。
【請求項11】
ホウレンソウ系統に形質を導入する方法であって、
(a)請求項1に記載の植物を反復親として利用して、形質を含む供与植物と前記植物を交配させることによって、F子孫を生産する工程と、
(b)前記形質を含むF子孫を選別する工程と、
(c)選別された前記F子孫を、工程(a)において前記反復親として使用された同じ系統の植物と戻し交配して、戻し交配子孫を生産する工程と
(d)前記形質を含み、ならびに、そうでなければ、工程(a)において使用された前記反復親系統の形態学的および生理学的特徴のすべてを含む戻し交配子孫を選別する工程と、
(e)工程(c)および(d)を3回以上反復して、選別された第4代以上の戻し交配子孫を生産する工程と
を含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって生産されたホウレンソウ植物。
【請求項13】
追加された形質を含むホウレンソウ植物を生産する方法であって、前記形質を付与する導入遺伝子を請求項1に記載の植物に導入する工程を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって生産されたホウレンソウ植物。
【請求項15】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含み、前記系統の種子の標本はNCMA受託番号202210003で寄託されており、導入遺伝子をさらに含むホウレンソウ植物。
【請求項16】
前記導入遺伝子が、雄性不稔性、除草剤耐性、虫害抵抗性、病虫害抵抗性、病害抵抗性、改変された脂肪酸代謝、環境ストレス耐性、改変された炭水化物代謝および改変されたタンパク質代謝からなる群から選択される形質を付与する、請求項15に記載の植物。
【請求項17】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含み、前記系統の種子の標本はNCMA受託番号202210003で寄託されており、単一遺伝子座変換をさらに含むホウレンソウ植物。
【請求項18】
前記単一遺伝子座変換が、雄性不稔性、除草剤耐性、虫害抵抗性、病虫害抵抗性、病害抵抗性、改変された脂肪酸代謝、環境ストレス耐性、改変された炭水化物代謝および改変されたタンパク質代謝からなる群から選択される形質を付与する、請求項17に記載の植物。
【請求項19】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来するホウレンソウ植物の種子を生産するための方法であって、
(a)請求項1に記載の植物をそれ自体または異なるホウレンソウ植物と交配させる工程と、
(b)ホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物の種子を形成させる工程と
を含む、方法。
【請求項20】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物の種子を生産する方法であって、
(a)請求項1に記載の植物をそれ自体または異なるホウレンソウ植物と交配することによって生産された種子からホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物を生産する工程と、
(b)前記ホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物をそれ自体または異なるホウレンソウ植物と交配させて、さらなるホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物の種子を得る工程と
を含む、方法。
【請求項21】
工程(a)に記載の植物を少なくとも1世代生産するために前記工程(b)からの前記種子を使用して(a)および(b)の前記生産および交配工程を反復して追加のホウレンソウ系統MSA-S021-1336M由来のホウレンソウ植物の種子を生産する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
食物を生産する方法であって、
(a)請求項1に記載の植物を得る工程であって、前記植物は成熟するまで栽培されている、工程と、
(b)前記植物から、食物として使用することができる植物部分を収集する工程と
を含む、方法。
【請求項23】
請求項1に記載の植物もしくはその子孫植物またはその部分の遺伝子型を決定する方法であって、前記植物またはその部分からの核酸の試料中の少なくとも第1の多型を検出する工程を含む、方法。
【請求項24】
前記検出する工程が、DNA配列決定または遺伝子マーカー分析を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記検出の結果をコンピュータ可読媒体に保存する工程、または前記検出の結果を送信する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2023年4月14日に出願された米国仮出願第63/459,356号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、植物育種の分野に関し、より具体的には、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの開発に関する。
【背景技術】
【0003】
野菜育種の目標は、様々な望ましい形質を単一の品種中に統合することである。このような望ましい形質には、より大きな収量、昆虫または病害に対する抵抗性、環境ストレスに対する耐性、および栄養価を含む、栽培者または消費者によって有益または望ましいと考えられる任意の形質が含まれ得る。
【0004】
育種技術は、植物の受粉の方法を利用する。2つの一般的な受粉の方法が存在し、植物からの花粉が同じ植物の花にまたは同じ遺伝子型の別の植物の花に転移される場合、植物は自家受粉する。花粉が異なる遺伝子型の植物の花から植物に到達した場合、植物は他家受粉する。
【0005】
自家受粉され、多くの世代にわたって型に関して選別されてきた植物は、ほとんどすべての遺伝子座でホモ接合性になり、何世代にもわたって同じ特徴を示す子孫の均一な集団であるホモ接合性植物を産生する。異なる遺伝子型の2つのこのようなホモ接合性植物間での交配は、多くの遺伝子座についてヘテロ接合性である雑種植物の均一な集団を産生する。逆に、各々がいくつかの遺伝子座でヘテロ接合性である2つの植物の交配は、遺伝的に異なり、均一でない雑種植物の集団を産生する。その結果生じる不均一性は、性能を予測不可能にする。
【0006】
均一な品種の開発には、ホモ接合性自殖植物の開発、これらの自殖植物の交配および交配の評価が必要である。系統育種および循環選抜は、育種集団から自殖植物を開発するために使用されてきた育種方法の例である。それらの育種方法は、2つ以上の植物または様々な他の幅広い起源からの遺伝的背景を組み合わせて育種プールとし、所望の表現型の自殖および選別によって新しい系統およびそれに由来する雑種が育種プールから開発される。新しい系統および雑種を評価して、それらのうちのどれが商業的可能性を有するかを決定する。
【発明の概要】
【0007】
一態様において、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mのホウレンソウ植物を提供する。このような植物のすべての生理学的および形態学的特徴を有するホウレンソウ植物も提供される。例えば、この植物の花粉、胚珠、胚、種子、接ぎ穂、台木、果実および細胞を含む、これらのホウレンソウ植物の部分も提供される。
【0008】
本発明の別の態様では、追加された遺伝的形質を含むホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物が提供される。遺伝的形質は、例えば、顕性または潜性対立遺伝子である遺伝子座を含み得る。本発明の一実施形態では、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物は、単一遺伝子座変換を含むと定義される。本発明の特定の実施形態では、追加された遺伝子座は、例えば除草剤耐性、虫害抵抗性、病害抵抗性および改変された炭水化物代謝などの1つまたは複数の形質を付与する。さらなる実施形態では、形質は、戻し交配によって系統のゲノムに導入された天然に存在する遺伝子、天然のもしくは誘導された変異、または遺伝子形質転換技術を通じて植物もしくはその任意の前世代の先祖に導入された導入遺伝子によって付与され得る。形質転換を通じて導入される場合、遺伝子座は、単一の染色体位置に組み込まれた1つまたは複数の遺伝子を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、単一遺伝子座変換は、植物ゲノムに対する1つまたは複数の部位特異的変化、例えば、限定されないが、1つまたは複数のヌクレオチド修飾、欠失または挿入を含む。単一の遺伝子座は、単一の染色体位置に組み込まれたまたは変異した1つまたは複数の遺伝子またはヌクレオチドを含み得る。一実施形態では、遺伝子工学技術によって単一遺伝子座変換が導入され得、その方法には、例えば、人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集(GEEN)が含まれる。人工ヌクレアーゼには、Casエンドヌクレアーゼ;ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN);ホーミングエンドヌクレアーゼとしても知られる操作されたメガヌクレアーゼ;および当業者に周知のDNAまたはRNAガイドゲノム編集のための他のエンドヌクレアーゼが含まれるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの種子にも関する。本発明の種子は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの種子の本質的に均質な集団として提供され得る。種子の本質的に均質な集団は、一般に、相当な数の他の種子を含まない。したがって、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの種子は、種子の少なくとも約98%、99%またはそれより多くを含めて、全種子の少なくとも約97%を形成すると定義され得る。MSA-S021-1336Mと命名されたホウレンソウ植物の本質的に均質な集団を提供するために、種子集団を別々に成長させ得る。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、系統MSA-S021-1336Mのホウレンソウ植物の再生可能な細胞の組織培養物が提供される。組織培養物は、好ましくは、出発植物の生理学的および形態学的特徴のすべてを発現することができ、出発植物と実質的に同じ遺伝子型を有する植物を再生することができるホウレンソウ植物を再生することができる。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの生理学的および形態学的特徴のいくつかの例としては、本明細書の表に記載されている形質が挙げられる。このような組織培養物中の再生可能な細胞は、例えば、胚、分裂組織、子葉、花粉、葉、葯、根、根端、雌しべ、花、種子および茎に由来し得る。さらに、本発明は、本発明の組織培養物から再生されたホウレンソウ植物であって、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mのすべての生理学的および形態学的特徴を有する植物を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、ホウレンソウの種子、植物、その部分および果実を生産するための方法が提供され、この方法は、一般に、第1の親ホウレンソウ植物を第2の親ホウレンソウ植物と交配させることを含み、第1または第2の親植物の少なくとも1つは、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物またはその子孫植物である。一実施形態では、本発明は、ホウレンソウの種子、植物およびそれらの部分を生産するための方法であって、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫植物を自殖させることを含む、方法を提供する。別の実施形態では、ホウレンソウの種子、植物およびそれらの部分を生産するための方法は、第1のホウレンソウ植物を異なる別個の遺伝子型の第2のホウレンソウ植物と交配して、その親の1つとしてホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物を有する雑種を提供する、雑種ホウレンソウ種子または植物を調製するための方法としてさらに例示され得る。これらの方法において、交配または自殖は種子の産生をもたらす。種子の産生は、種子が採取されるか否かにかかわらず生じる。
【0013】
本発明の一実施形態では、「交配」における第1の工程は、例えば媒介昆虫によって媒介されて受粉が起こるように、しばしば近接して、第1および第2の親ホウレンソウ植物の種子を植えることを含む。ある実施形態では、第1および第2の親植物が同じ遺伝子型の植物である場合、第1および第2の親植物の交配は、自殖または自家受粉と呼ばれることがある。あるいは、手作業で花粉を移動させることができる。植物が自家受粉または自殖される場合、植物栽培以外の直接的な人間の介入を必要とせずに受粉が起こり得る。
【0014】
第2の工程は、第1および第2の親ホウレンソウ植物の種子を、花をつける植物に栽培するか、または成長させることを含み得る。第1および第2の親植物が異なる遺伝子型の植物であるいくつかの実施形態では、第3の工程は、例えば花の雄しべを取り去ること(すなわち、花粉を死滅させるか、または除去すること)によって、植物の自家受粉を防止することを含み得る。
【0015】
雑種交配のための第4の工程は、第1の親ホウレンソウ植物と第2の親ホウレンソウ植物の間での他家受粉を含み得る。さらに別の工程は、親ホウレンソウ植物の少なくとも1つから種子を収穫することを含む。ホウレンソウ植物または雑種ホウレンソウ植物(hybrid spinach plant)を生産するために、収穫された種子を成長させることができる。
【0016】
本発明は、第1の親ホウレンソウ植物を第2の親ホウレンソウ植物と交配することを含む方法によって、または第1の親ホウレンソウ植物もしくは第2の親ホウレンソウ植物の自家受粉によって生産されたホウレンソウ種子および植物であって、第1または第2の親ホウレンソウ植物の少なくとも1つがホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物またはその子孫植物である、ホウレンソウ種子および植物も提供する。本発明の一実施形態では、本方法によって生産されたホウレンソウ種子および植物は、本発明による植物を別の別個の植物と交配することによって生産された第1世代(F)雑種ホウレンソウ種子および植物である。本発明はさらに、このようなF雑種ホウレンソウ植物の植物部分およびその使用方法を企図する。したがって、本発明のある例示的な実施形態は、F雑種ホウレンソウ植物およびその種子を提供する。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物を生産する方法であって、(a)ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する子孫植物を調製する工程であって、前記調製する工程は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物をそれ自体または第2の植物と交配することを含む、工程と、(b)前記子孫植物をそれ自体または第2の植物と交配して、後続世代の子孫植物の種子を生産する工程とを含む、方法を提供する。さらなる実施形態では、本方法は、(c)後続世代の子孫植物の前記種子から後続世代の子孫植物を成長させる工程および後続世代の子孫植物をそれ自体または第2の植物と交配させる工程、ならびにこれらの工程をさらに3~10世代反復して、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物を生産する工程をさらに含み得る。ある実施形態では、植物のそれ自体との交配は、自殖または自家受粉と呼ばれることがある。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物またはその子孫植物は自殖系統であり得、上述の反復される交配工程は、自殖系統を生産するのに十分な同系交配を含むと定義され得る。この方法では、工程(b)および(c)による持続的交配のために、工程(c)から生じる特定の植物を選別することが望ましい場合があり得る。1つまたは複数の望ましい形質を有する植物を選別することにより、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物であって、この系統または雑種の望ましい形質のいくつかを有するのみならず、他の選別された形質を潜在的に有する、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物が得られる。
【0018】
ある実施形態では、本発明は、(a)ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物を得る工程であって、前記植物は成熟するまで栽培されている、工程と、(b)前記植物から少なくとも1つのホウレンソウを収集する工程とを含む、食物または飼料を生産する方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに別の態様では、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの遺伝的相補物が提供される。「遺伝的相補物(genetic complement)」という語句は、その配列の発現が、本事例ではホウレンソウ植物の、またはその植物の細胞もしくは組織の表現型を規定するヌクレオチド配列の集合体を指すために使用される。したがって、遺伝的相補物は、細胞、組織または植物の遺伝的構成を表し、雑種遺伝的相補物は、雑種細胞、組織または植物の遺伝的構成を表す。したがって、本発明は、本明細書に開示されているホウレンソウ植物細胞に一致して遺伝的相補物を有するホウレンソウ植物細胞、ならびにこのような細胞を含有する種子および植物を提供する。
【0020】
植物の遺伝的相補物は、遺伝的マーカープロファイルによって、およびその遺伝的相補物の発現に特徴的な表現型形質の発現、例えば、アイソザイムタイピングプロファイルによって評価され得る。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mは、例えば、単純配列長多型(SSLP)(Williams et al.,Nucleic Acids Res.,1 8:6531-6535,1990)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、DNA増幅フィンガープリンティング(DAF)、配列が特徴付けられた増幅領域(SCAR)、任意にプライムされるポリメラーゼ連鎖反応(AP(Arbitrary Primed)-PCR)、増幅断片長多型(AFLP)(欧州特許第534 858号、その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる)および一塩基多型(SNP)(Wang et al.,Science,280:1077-1082,1998)などの多くの周知の技術のいずれによっても同定され得ることが理解される。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のホウレンソウ植物の一倍体遺伝子相補物の、第2のホウレンソウ植物、好ましくは別の別個のホウレンソウ植物の一倍体遺伝子相補物との組み合わせによって形成される、ホウレンソウ植物細胞、組織、植物および種子によって表される雑種遺伝的相補物を提供する。別の態様では、本発明は、本発明の雑種遺伝的相補物を含む組織培養物から再生されたホウレンソウ植物を提供する。
【0022】
さらにまた別の態様では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物、またはその子孫植物、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、前記植物またはその部分からの核酸の試料中に少なくとも第1の多型を検出することを含む、方法を提供する。一実施形態では、検出することは、DNA配列決定または遺伝子マーカー分析を含む。さらに別の実施形態では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物、またはその子孫植物、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫の染色体のセット中に少なくとも第1の多型を検出することを含む、方法を提供する。一実施形態では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物もしくはその子孫植物、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、植物またはその部分から得られた少なくとも第1のヌクレオチド配列を、参照植物から得られた少なくとも第1の参照ヌクレオチド配列と比較すること、および第1のヌクレオチド配列と第1の参照配列との間の少なくとも1つの多型を検出することを含む、方法を提供する。本発明の方法は、ある実施形態では、本明細書に記載されている核酸の試料中に複数の多型を検出することを含み得る。本方法は、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多型または複数の多型を検出する工程の結果をコンピュータ可読媒体に保存すること、または少なくとも1つの多型または複数の多型を検出した結果を送信することをさらに含み得る。本発明は、特定の実施形態において、本発明の方法によって生産されたコンピュータ可読媒体をさらに提供する。
【0023】
本発明の一態様に関して本明細書で論述されるいずれの実施形態も、特に明記しない限り、本発明の他の態様にも適用される。
【0024】
「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用されている装置または方法に対する平均の標準偏差を含むことを示すために使用される。特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、択一のみを指すことが明示的に示されていない限り、またはその選択肢が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用される。特許請求の範囲において「含む」という単語またはその他の非限定的な言語と共に使用される場合、「a」および「an」という単語は、特に別段の明記がなければ、「1つまたは複数の」を表す。「含む(comprise)」、「有する(have)」および「含む(include)」という用語は、非限定的な連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」および「含む(including)」などの、これらの動詞の1つまたは複数の任意の形態または時制も非限定的である。例えば、1つまたは複数の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」または「含む(includes)」任意の方法は、それらの1つまたは複数の工程のみを有することに限定されず、他の列挙されていない工程も包含する。同様に、1つまたは複数の形質を「含む(comprises)」、「有する(has)」または「含む(includes)」任意の植物は、それらの1つまたは複数の形質のみを有することに限定されず、他の列挙されていない形質を包含する。
【0025】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および提供される任意の特定の例は、本発明の特定の実施形態を示しているが、例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの植物、種子および誘導体に関する方法および組成物を提供する。この系統は、本明細書の以下に記載されている特性に関して、環境影響の範囲内で均一性および安定性を示す。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mは、十分な種子の収量を提供する。別個の第2の植物と交配することによって、均一なF子孫を得ることができる。
【0027】
ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mは、参照により本明細書に組み入れられる米国仮出願第63/496,102号に記載されているペロノスポラ・エフサ(Peronospora effusa)への広域スペクトル抵抗性を付与する形質を含む。
【0028】
A.ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの生理学的および形態学的特徴
【0029】
本発明の一態様によれば、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの生理学的および形態学的特徴を有する植物が提供される。このような植物の生理学的および形態学的特徴の説明が以下の表に提示されている。
【0030】
【表1】
【0031】
B.ホウレンソウ植物の育種
本発明の一態様は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mを任意の第2の自殖ホウレンソウ系統と交配させることを含む、雑種ホウレンソウ植物の種子を生産するための方法に関する。他の実施形態では、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫植物は、それ自体とまたは任意の第2の植物と交配され得る。一実施形態では、それ自体との植物の交配は、自殖または自家受粉と呼ばれることがある。このような方法をホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの繁殖のために使用することができ、またはホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物を生産するために使用することができる。ある実施形態では、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mに由来する植物またはその子孫が、新たなホウレンソウ品種の開発のために使用され得る。
【0032】
1つまたは複数の出発品種を使用した新品種の開発は、当技術分野で周知である。本発明によれば、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫を交配した後、そのような周知の方法に従って複数世代の育種を行うことによって、新規な品種が作出され得る。任意の第2の植物と交配することによって、新たな品種が作出され得る。新規な系統を開発する目的で交配するためのこのような第2の植物を選択する際には、それ自体が1つもしくは複数の選択された望ましい特徴を示すか、または雑種に組み合わされたときに所望の(1または複数の)特徴を示す植物を選択することが望ましい場合があり得る。最初の交配が行われたら、新しい品種を生産するために同系交配および選別が行われる。均一な系統の開発のためには、しばしば、5世代以上の自殖および選別を伴う。
【0033】
新品種の均一な系統は、二重一倍体によっても開発され得る。この技術は、複数世代の自殖および選別を必要とせずに、何世代にもわたって同じ特徴を示す系統の作出を可能にする。このようにして、何世代にもわたって同じ特徴を示す系統をわずか1世代で作製することができる。一倍体胚は、小胞子、花粉、葯培養物または子房培養物から作製され得る。次いで、一倍体胚は、自律的に、または化学的処理(例えば、コルヒチン処理)によって倍加させ得る。あるいは、一倍体胚を一倍体植物に成長させ、染色体倍加を誘導するために処理し得る。いずれの場合も、稔性ホモ接合性植物が得られる。本発明によれば、ホモ接合性系統を達成するために、本発明の植物およびその子孫に関連してこのような技術のいずれもが使用され得る。
【0034】
自殖植物を改良するために、戻し交配も使用することができる。戻し交配は、特定の望ましい形質を、1つの自殖または非自殖源からその形質を欠く自殖体に移す。これは、例えば、まず、上位自殖体(superior inbred)(A)(反復親)を、問題の形質に対する適切な1つの遺伝子座または複数の遺伝子座を保有する供与自殖体(非反復親)に交配することによって達成することができる。次いで、この交配の子孫を上位反復親(A)に戻し交配した後、得られた子孫において、非反復親から導入されるべき所望の形質について選別する。所望の形質についての選別を伴う5以上の戻し交配世代の後、子孫は、導入されている特徴を有するが、大部分のまたはほとんどすべての他の遺伝子座については上位親と同様である。最後の戻し交配世代は、導入されている形質について純粋な育種子孫を与えるために自殖される。
【0035】
本発明の植物は、これらの植物の遺伝的背景の優れた性質(elite nature)に基づいた新しい系統の開発に特によく適している。新規なホウレンソウ系統を開発する目的でホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫と交配するための第2の植物を選択する際には、それ自体が1つもしくは複数の選択された望ましい特徴を示すか、または雑種に組み合わされたときに所望の(1または複数の)特徴を示す植物を選択することが典型的には好ましいであろう。望ましい形質の例は、特定の実施形態では、高い種子収量、高い種子発芽、実生の成長力、高い果実収量、病害耐性または抵抗性、ならびに土壌および気候条件に対する適応性を含み得る。果実の形状、色、手触りおよび味などの消費者志向の形質は、本発明によって開発されたホウレンソウ植物の新しい系統に組み込まれ得る形質の他の例である。
【0036】
C.本発明のさらなる実施形態
本発明のある態様では、本明細書に記載の植物は、少なくとも第1の所望の遺伝的形質を含むように改変されて提供される。このような植物は、一実施形態では、戻し交配技術を介して植物中に導入された遺伝子座に加えて、品種の形態学的および生理学的特徴の本質的にすべてが回復される戻し交配と呼ばれる植物育種技術によって開発され得る。本明細書で使用される単一遺伝子座が変換された植物という用語は、戻し交配と呼ばれる植物育種技術によってまたは遺伝子工学によって開発されたホウレンソウ植物であって、それぞれ戻し交配または遺伝子工学技術を介して品種に導入された単一遺伝子座に加えて、品種の形態学的および生理学的特徴の本質的にすべてが回復または保存されている、ホウレンソウ植物を指す。形態学的および生理学的特徴の本質的にすべてによって、戻し交配、導入遺伝子の導入または遺伝子工学技術の適用中に生じ得る偶発的な変異形質を除いて、同じ環境で比較されたときにそれ以外に存在する植物の特徴が回復または保存されていることが意味される。
【0037】
本品種を改善し、または本品種に特徴を導入するために、本発明とともに戻し交配法を使用することができる。所望の特徴に対する遺伝子座に寄与する親ホウレンソウ植物は、非反復親または供与親と呼ばれる。この用語は、非反復親が戻し交配プロトコルにおいて1回使用され、したがって繰り返されないという事実を指す。非反復親からの1つの遺伝子座または複数の遺伝子座が導入される親ホウレンソウ植物は、戻し交配プロトコルにおいて複数回使用されるので、反復親として知られている。
【0038】
典型的な戻し交配プロトコルでは、関心対象の元の品種(反復親)は、導入されるべき関心対象の単一の遺伝子座を保有する第2の品種(非反復親)と交配される。次いで、この交配から得られた子孫は反復親に再び交配され、非反復親由来の単一の導入された遺伝子座に加えて、反復親の形態学的および生理学的特徴の本質的にすべてが、変換された植物において回復されているホウレンソウ植物が得られるまでこのプロセスが反復される。
【0039】
適切な反復親の選択は、戻し交配手順を成功させるための重要な工程である。戻し交配プロトコルの目標は、元の品種中の単一の形質または特徴を変更または置換することである。これを達成するために、反復品種の単一の遺伝子座は、元の品種の所望の遺伝的構成の、したがって元の品種の所望の生理学的および形態学的構成の残りの本質的にすべてを保持しながら、非反復親からの所望の遺伝子座で改変されるか、または置換される。個別の非反復親の選択は、戻し交配の目的に依存し、主な目的の1つは、何らかの商業的に望ましい形質を植物に追加することである。正確な戻し交配プロトコルは、改変されている特徴または形質および反復親と非反復親間の遺伝的距離に依存する。導入されている特徴が顕性対立遺伝子である場合、戻し交配法は単純化されるが、潜性対立遺伝子または加算性対立遺伝子(additive allele)(潜性と顕性の間)も導入されることがあり得る。この場合には、所望の特徴が首尾よく導入されたかどうかを決定するために子孫の試験を導入することが必要となり得る。
【0040】
一実施形態では、本明細書に記載の植物が反復親である戻し交配の子孫ホウレンソウ植物は、(i)非反復親からの所望の形質、および(ii)同じ環境条件で成長させたときに5%有意水準で決定された場合にホウレンソウ反復親の生理学的および形態学的特徴のすべてを含む。
【0041】
2つより多くの親から新しい品種を開発することもできる。修正された戻し交配として知られるこの技術は、戻し交配中に異なる反復親を使用する。元の反復親をある種のより望ましい特徴を有する品種に置き換えるために修正された戻し交配が使用され得、またはそれぞれから異なる望ましい特徴を得るために複数の親が使用され得る。
【0042】
特定の形質に関連する分子マーカーの開発により、ここに示されるような確立された生殖系列に追加の形質を追加することが可能であり、最終的な結果は、新しい1つまたは複数の形質の追加を有する実質的に同じ基本生殖質である。例えば、Moose and Mumm,2008(Plant Physiol.,147:969-977)および他の場所に記載されているような分子育種は、単一または複数の形質またはQTLを形質の優れた系統に統合するための機構を提供する。この分子育種によって促進された、形質の優れた系統中への1つの形質または複数の形質の移動は、隣接または関連マーカーアッセイを使用した統合されたゲノム断片の同定の機構による、形質の優れた系統中への関心対象の特定の形質に関連する特定のゲノム断片の組込みを包含し得る。ここに示される実施形態では、例えば、1、2、3または4つのゲノム遺伝子座が、この方法論を介して形質の優れた系統中に組み込まれ得る。追加の遺伝子座を含有するこの形質の優れた系統を形質の優れた別の親系統とさらに交配させて雑種子孫を作製すると、少なくとも8つの別個の追加の遺伝子座を雑種中に組み込むことが可能である。これらの追加の遺伝子座は、例えば、病害抵抗性または果実品質形質などの形質を付与し得る。一実施形態において、各遺伝子座は、別個の形質を付与し得る。別の実施形態において、遺伝子座は、雑種において形質を付与するために、ホモ接合性であり、各親系統中に存在する必要があり得る。さらに別の実施形態では、所望の形質の単一の頑強な表現型を付与するために、複数の遺伝子座が組み合わされ得る。
【0043】
新しい自殖体の開発において日常的に選択されていないが、戻し交配技術によって改善することができる多くの単一遺伝子座形質が同定されてきた。単一遺伝子座形質は遺伝子導入性であってもよく、または遺伝子導入性でなくてもよく、これらの形質の例には、除草剤抵抗性、細菌性、真菌性またはウイルス性病害抵抗性、虫害抵抗性、改変された脂肪酸または炭水化物代謝、および変化した栄養品質が含まれるが、これらに限定されない。これらは、一般に核を介して遺伝する遺伝子を含む。
【0044】
単一の遺伝子座が顕性形質として作用する場合、直接選別が適用され得る。この選別プロセスのために、最初の交配の子孫は、戻し交配の前にウイルス抵抗性または対応する遺伝子の存在についてアッセイされる。選別は、所望の遺伝子および抵抗性形質を有さない任意の植物を排除し、その形質を有する植物のみがその後の戻し交配において使用される。次いで、このプロセスは、すべての追加の戻し交配世代に対して反復される。
【0045】
育種のためのホウレンソウ植物の選択は、必ずしも植物の表現型に依存せず、代わりに遺伝子調査に基づくことができる。例えば、関心対象の形質に密接に遺伝的に関連する適切な遺伝的マーカーを利用することができる。これらのマーカーの1つを、特定の交配の子孫における形質の存在または非存在を同定するために使用することができ、継続的な育種のための子孫の選別において使用することができる。この技術は、一般にマーカー利用選別と呼ばれる。植物における関心対象の形質の相対的な存在または非存在を同定することができる任意の他の種類の遺伝的マーカーまたは他のアッセイも、育種目的に有用であり得る。マーカー利用選別のための手順は、当技術分野で周知である。このような方法は、潜性形質および可変的表現型の場合に、または従来のアッセイがより高価であり、時間がかかり、またはその他不利であり得る場合に特に有用である。さらに、種子、実生または植物段階で望ましい遺伝子型を含む植物を同定するために、栽培品種の純度を同定または評価するために、生殖質コレクションの遺伝的多様性のカタログを作るために、確立された栽培品種内の特定の対立遺伝子またはハプロタイプを監視するために、マーカー利用選別が使用され得る。
【0046】
本発明に従って使用され得る遺伝子マーカーの種類には、単純配列長多型(SSLP)(Williams et al.,Nucleic Acids Res.,1 8:6531-6535,1990)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、DNA増幅フィンガープリンティング(DAF)、配列が特徴付けられた増幅領域(SCAR)、任意にプライムされるポリメラーゼ連鎖反応(AP(Arbitrary Primed)-PCR)、増幅断片長多型(AFLP)(欧州特許第534 858号、その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる)および一塩基多型(SNP)(Wang et al.,Science,280:1077-1082,1998)が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0047】
本発明の特定の実施形態では、マーカー利用選別は、所望の形質を含むホウレンソウ系統を生産するための戻し交配育種スキームの効率を増大させるために使用される。この技術は、一般に、マーカー利用戻し交配(MABC)と呼ばれる。この技術は当技術分野で周知であり、例えば、表現型スクリーニングプロトコルを補完または置換し得る、所望の遺伝子座の存在を同定するための前景選別(foreground selection);リンケージドラッグを最小限に抑えるための組換え選別;および反復親ゲノム回復を最大化するための背景選別を含む、3以上のレベルの選別の使用を含み得る。
【0048】
D.遺伝子工学によって得られた植物
様々な遺伝子工学または遺伝子編集技術が開発されており、植物に形質を導入するために当業者によって使用され得る。特許請求される発明のある態様では、単一の遺伝子座、部位特異的修飾または導入遺伝子を改変するか、または列挙された品種もしくはその先祖のゲノムに導入することによって、ホウレンソウ植物に形質が導入される。遺伝子およびポリヌクレオチドを修飾し、欠失させ、または植物のゲノムDNA中に挿入するための遺伝子工学の方法は、当技術分野で周知である。
【0049】
本発明の特定の実施形態では、植物ゲノムの部位特異的修飾を通じて、改良されたホウレンソウ系統を作出することができる。ある実施形態において、部位特異的修飾は、遺伝子編集と称される場合があり得る。部位特異的修飾を導入するための遺伝子工学の方法には、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(例えば、米国特許出願公開第2011-0203012号を参照);人工または天然のメガヌクレアーゼ;TALE-エンドヌクレアーゼ(例えば、米国特許第8,586,363号および同第9,181,535号を参照);およびCRISPR/Cas系のRNAガイドエンドヌクレアーゼなどのRNAガイドエンドヌクレアーゼ(例えば、米国特許第8,697,359号および同第8,771,945号および同第10,266,850号を参照)などの配列特異的ヌクレアーゼを利用することが含まれる。したがって、本発明の一実施形態は、ゲノム修飾を実施するためのヌクレアーゼまたは任意の関連タンパク質を利用することに関する。このヌクレアーゼは、鋳型によるゲノム編集(templated-genomic editing)のためのドナー鋳型DNA内にまたは別個の分子もしくはベクター内に異種性に提供され得る。組換えDNA構築物は、改変されるべき植物ゲノム内の部位にヌクレアーゼを誘導するための1つまたは複数のガイドRNAをコードする配列も含み得る。単一の遺伝子座を改変または導入するためのさらなる方法は、例えば、ホウレンソウ植物ゲノムに塩基対修飾を導入するために一本鎖オリゴヌクレオチドを利用することを含む(例えば、Sauer et al.,Plant Physiol,170(4):1917-1928,2016を参照)。
【0050】
単一の遺伝子座の部位特異的改変または導入のための方法は当技術分野において周知であり、上述のもののような配列特異的ヌクレアーゼ、またはゲノムDNAを切断して遺伝子座に二本鎖切断(DSB)または切れ目を生成するタンパク質とガイドRNAとの複合体を利用する方法が含まれる。ある実施形態において、部位特異的改変を生成させるための方法は、遺伝子編集と称される場合がある。当技術分野においてよく理解されているように、ヌクレアーゼ酵素によって導入されたDSBまたは切れ目を修復するプロセス中に、ドナー鋳型、導入遺伝子または発現カセットポリヌクレオチドは、DSBまたは切れ目の部位においてゲノム中に組み込まれ得る。組み込まれるDNA中のホモロジーアームの存在は、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)を通じた修復プロセス中に、植物ゲノム中への挿入配列の採用および標的化を促進し得る。
【0051】
本発明の別の実施形態において、遺伝子形質転換は、選択された導入遺伝子を本発明の植物中に挿入するために使用され得、あるいは、戻し交配によって導入され得る導入遺伝子の調製のために使用され得る。当業者に周知であり、多くの作物種に適用可能な植物の形質転換のための方法には、電気穿孔、微粒子銃、アグロバクテリウム(Agrobacterium)によって媒介される形質転換およびプロトプラストによる直接的DNA取り込みが含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
電気穿孔による形質転換を行うために、細胞の懸濁培養物または胚形成性カルスなどのいずれかの脆弱な組織を使用してもよく、あるいは未成熟胚または他の組織化された組織を直接形質転換してもよい。この技術では、選択された細胞の細胞壁をペクチン分解酵素(ペクトリアーゼ)に曝露することによって選択された細胞の細胞壁を部分的に分解するか、または制御された様式で組織に機械的に傷をつける。
【0053】
形質転換するDNAセグメントを植物細胞に送達するための効率的な方法は、微粒子銃である。この方法では、粒子は核酸で被覆され、推進力によって細胞内に送達される。例示的な粒子には、タングステン、白金、および好ましくは金から構成される粒子が含まれる。砲撃のために、懸濁液中の細胞はフィルターまたは固体培養培地上で濃縮される。あるいは、未成熟胚または他の標的細胞は、固体培養培地上に配置され得る。砲撃される細胞は、マクロプロジェクタイル停止プレートの下に適切な距離で配置される。
【0054】
加速によって植物細胞中にDNAを送達するための方法の例示的な実施形態は、遺伝子銃粒子送達システム(Biolistics Particle Delivery System)であり、ステンレス鋼またはNytexスクリーンなどのスクリーンを通して、DNAまたは細胞で被覆された粒子を標的細胞で覆われた表面上に推進させるために使用することができる。スクリーンは、粒子が大きな凝集体中のレシピエント細胞に送達されないように粒子を分散させる。微粒子銃技術は広く適用可能であり、実質的に任意の植物種を形質転換するために使用され得る。
【0055】
アグロバクテリウムによって媒介される移入は、遺伝子座を植物細胞中に導入するための別の広く適用可能なシステムである。この技術の利点は、DNAを完全な植物組織中に導入することができ、それによってプロトプラストからの無傷の植物の再生の必要性を回避することである。現代のアグロバクテリウム形質転換ベクターは、大腸菌(E.coli)およびアグロバクテリウム中で複製することができ、便利な操作を可能にする(Klee et al.,Nat.Biotechnol.,3(7):637-642,1985)。さらに、アグロバクテリウムによって媒介される遺伝子導入のためのベクターの最近の技術的進歩は、様々なポリペプチドコード遺伝子を発現することができるベクターの構築を容易にするために、ベクターにおける遺伝子および制限部位の配置を改善している。記載されたベクターは、挿入されたポリペプチドコード遺伝子の直接発現のための、プロモーターおよびポリアデニル化部位に隣接する便利なマルチリンカー領域を有する。さらに、武装したTi遺伝子および武装解除したTi遺伝子の両方を含有するアグロバクテリウムを形質転換のために使用することができる。
【0056】
アグロバクテリウムによって媒介される形質転換が効率的である植物株においては、遺伝子座導入の容易かつ明確化された性質のため、アグロバクテリウムによって媒介される形質転換が選択される方法である。DNAを植物細胞中に導入するための、アグロバクテリウムによって媒介される植物組込みベクターの使用は、当技術分野で周知である(Fraley et al.,Nat.Biotechnol.,3:629-635,1985;米国特許第5,563,055号)。
【0057】
植物プロトプラストの形質転換はまた、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール処理、電気穿孔およびこれらの処理の組み合わせに基づく方法を使用して達成することができる(例えば、Potrykus et al.,Mol.Gen.Genet.,199:183-188,1985;Omirulleh et al.,Plant Mol.Biol.,21(3):415-428,1993;Fromm et al.,Nature,312:791-793,1986;Uchimiya et al.,Mol.Gen.Genet.,204:204,1986;Marcotte et al.,Nature,335:454,1988)。植物の形質転換および外来遺伝要素の発現は、Choiらに例示されている(Plant Cell Rep.,13:344-348,1994)およびEllul et al.(Theor.Appl.Genet.,107:462-469,2003)。
【0058】
多数のプロモーターが、選択可能マーカー、スコア化可能マーカー、有害生物耐性、病害抵抗性、栄養強化のための遺伝子および農学的に興味深い任意の他の遺伝子を含むがこれらに限定されない関心対象の任意の遺伝子に対して、植物遺伝子発現のための有用性を有する。植物遺伝子発現に有用な構成的プロモーターの例には、単子葉植物(例えば、Dekeyser et al.,Plant Cell,2:591,1990;Terada and Shimamoto,Mol.Gen.Genet.,220:389,1990を参照)を含む大部分の植物組織において構成的な高レベル発現を付与する(例えば、Odel et al.,Nature,313:810,1985を参照)カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)P-35Sプロモーター;CaMV 35Sプロモーターの直列に重複したバージョン、強化された35Sプロモーター(P-e35S);ノパリンシンターゼプロモーター(An et al.,Plant Physiol.,88:547,1988);オクトピンシンターゼプロモーター(Fromm et al.,Plant Cell,1:977,1989);米国特許第5,378,619号に記載されているようなゴマノハグサ(figwort)モザイクウイルス(P-FMV)プロモーター;P-FMVのプロモーター配列が直列に重複している、FMVプロモーターの強化されたバージョン(P-eFMV);カリフラワーモザイクウイルス19Sプロモーター;サトウキビ桿状(bacilliform)ウイルスプロモーター;ツユクサ(commelina)黄色斑紋ウイルスプロモーター;および植物細胞中で発現することが知られている他の植物ウイルスプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
(1)熱(Callis et al.,Plant Physiol.,88:965,1988)、(2)光(例えば、エンドウマメ(pea)rbcS-3Aプロモーター、Kuhlemeier et al.,Plant Cell,1:471,1989;トウモロコシrbcSプロモーター、Schaffner and Sheen,Plant Cell,3:997,1991;またはクロロフィルa/b結合タンパク質プロモーター、Simpson et al.,EMBO J.,4:2723,1985)、(3)ホルモン、例えば、アブシジン酸(Marcotte et al.,Plant Cell,1:969,1989)、(4)傷(例えば、wunl,Siebertz et al.,Plant Cell,1:961,1989)または(5)化学物質、例えばジャスモン酸メチル、サリチル酸もしくは解毒剤(Safener)によって制御されるプロモーターを含む、環境シグナル、ホルモンシグナル、化学シグナルまたは発達シグナルに応答して制御される様々な植物遺伝子プロモーターも、植物細胞中の作動可能に連結された遺伝子の発現のために使用することができる。器官特異的プロモーター(例えば、Roshal et al.,EMBO J.,6:1155,1987;Schernthaner et al.,EMBO J.,7:1249,1988;Bustos et al.,Plant Cell,1:839,1989)を使用することも有利であり得る。
【0060】
本発明の植物に導入され得る例示的な核酸には、例えば、別の種からのDNA配列もしくは遺伝子が含まれ、または同じ種に起源を有するかもしくは同じ種に存在するが、古典的な生殖もしくは育種技術ではなく遺伝子工学的方法によってレシピエント細胞に組み込まれる遺伝子もしくは配列さえ含まれる。しかしながら、「外因性」という用語は、形質転換されている細胞中に通常は存在しない遺伝子、またはおそらくは、形質転換DNAセグメントもしくは遺伝子に見られるような形態、構造などで単に存在しない遺伝子、または通常は存在し、天然の発現パターンとは異なる様式で発現すること、例えば過剰発現することを望む遺伝子を指すことも意図される。したがって、「外因性」遺伝子またはDNAという用語は、類似の遺伝子がそのような細胞中に既に存在し得るかどうかにかかわらず、レシピエント細胞に導入される任意の遺伝子またはDNAセグメントを指すことが意図される。外因性DNAに含まれるDNAの種類には、植物細胞内に既に存在するDNA、別の植物由来のDNA、異なる生物由来のDNA、または外部で生成されたDNA、例えば、遺伝子のアンチセンスメッセージを含有するDNA配列、または遺伝子の合成もしくは改変バージョンをコードするDNA配列が含まれ得る。
【0061】
数千ではないにしても数百の異なる遺伝子が知られており、本発明によるホウレンソウ植物に潜在的に導入され得る。ホウレンソウ植物に導入することを選択し得る特定の遺伝子および対応する表現型の非限定的な例には、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)(B.t.)遺伝子などの虫害耐性のための、真菌性病害防除のための遺伝子などの有害生物耐性のための、グリホサート耐性を付与する遺伝子などの除草剤耐性のための1つまたは複数の遺伝子、および収量、栄養強化、環境耐性もしくはストレス耐性、または植物生理学、成長、発達、形態もしくは(1または複数の)植物産物の任意の望ましい変化などの品質改良のための遺伝子が含まれる。例えば、構造遺伝子には、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる国際公開第99/31248号、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,689,052号、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,500,365号および米国特許第5,880,275号に記載されているようなバチルス(Bacillus)昆虫防除タンパク質遺伝子を含むがそれに限定されない、虫害耐性を付与する任意の遺伝子が含まれる。別の実施形態では、構造遺伝子は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,633,435号に記載されているアグロバクテリウム株CP4グリホサート耐性EPSPS遺伝子(aroA:CP4)または参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,463,175号に記載されているグリホサート酸化還元酵素遺伝子(GOX)を含むがこれらに限定されない遺伝子によって付与される、除草剤グリホサートに対する耐性を付与することができる。
【0062】
あるいは、DNAコード配列は、例えば、アンチセンスまたは共抑制によって媒介される機構を介して内因性遺伝子の発現の標的化された阻害を引き起こす非翻訳可能なRNA分子をコードすることによってこれらの表現型に影響を及ぼすことができる(例えば、Bird et al.,Biotech.Gen.Engin.Rev.,9:207,1991を参照)。RNAは、所望の内因性mRNA産物を切断するように操作された触媒性RNA分子(すなわち、リボザイム)でもあり得る(例えば、Gibson and Shillito,Mol.Biotech.,7:125,1997を参照)。したがって、関心対象の表現型または形態変化を発現するタンパク質またはmRNAを産生する任意の遺伝子が、本発明の実施に有用である。
【0063】
E.遺伝子型決定
本発明のある態様では、植物の遺伝子型または遺伝子フィンガープリントが調べられ得る。植物遺伝子型または遺伝子フィンガープリントの決定、分析、比較および性質決定のために当業者が利用可能な多くの実験室ベースの技術が存在する。このような技術の非限定的な例には、アイソザイム電気泳動、制限断片長多型(RFLP)、ランダム増幅多型DNA(RAPD)、任意にプライムされるポリメラーゼ連鎖反応(AP-PCR)、DNA増幅フィンガープリンティング(DAF)、配列が特徴付けられた増幅領域(SCAR)、増幅断片長多型(AFLP)、単純反復配列(SSR)および一塩基多型(SNP)が含まれる。ある実施形態では、配列に基づく方法は、遺伝子型決定ツールとして、特定の植物種のゲノムにわたってランダムに分布するSNPを利用し得る(Elshire et al.,PloS One,6(5):e19379,2011;Poland et al.,PloS One,7(2):e32253,2012;Truong et al.,PloS One 7(5):e37565,2012)。ハイスループットシーケンシングプラットフォームは当技術分野で公知であり、任意のそのようなハイスループットシーケンシングプラットフォームを本発明の方法に従って使用し得る。その非限定的な例には、次世代シーケンシング、単一分子シーケンシングおよびナノポアシーケンシングが含まれる。ある実施形態において、遺伝子型を決定する方法は、種子、植物または植物部分の遺伝子フィンガープリンティングを含み得る。遺伝子フィンガープリンティングの方法は当技術分野で公知である。次いで、フィンガープリンティングから得られたデータは、特定の実施形態では、単独でおよび/または組み合わせて使用される場合、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫のある形質または多型を同定または選別することができる遺伝子マーカーを選択するために使用され得る。いくつかの実施形態では、DNAフィンガープリンティングは、その遺伝子型に固有であり得るDNAのある領域のヌクレオチド配列に基づいて植物遺伝子型のほぼ確実な正体を決定するために使用され得る、当技術分野で公知の任意の実験室技術を指し得る。いくつかの実施形態では、関心対象の植物の遺伝子型または配列を1つまたは複数の参照植物の遺伝子型または配列と比較すると、1つの多型または複数の多型が検出され得る。ある実施形態では、参照植物は、関心対象の植物の遺伝子型または配列と比較して異なる遺伝子型または配列を有する任意の植物であり得る。参照植物として利用され得る植物の非限定的な例には、親系統の植物および関連する品種または種の植物が含まれる。特定の実施形態では、参照植物の遺伝子型または配列は、限定されるものではないが、親系統のゲノム配列もしくはその部分、関連する植物品種もしくは種のゲノム配列もしくはその部分、親系統の新たに組み立てられたゲノム配列もしくはその部分、または関連する植物品種もしくは種の新たに組み立てられたゲノム配列もしくはその部分を含み得る。
【0064】
ある態様では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物もしくはその子孫、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、前記植物またはその部分からの核酸の試料中に少なくとも第1の多型を検出することを含む、方法を提供する。一実施形態では、検出することは、DNA配列決定または遺伝子マーカー分析を含む。いくつかの態様では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物もしくはその子孫、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mまたはその子孫の染色体のセット中に少なくとも第1の多型を検出することを含む、方法を提供する。一実施形態では、本発明は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの染色体の少なくとも第1のセットを含む植物もしくはその子孫、またはそれらの部分の遺伝子型を決定する方法であって、植物またはその部分から得られた少なくとも第1のヌクレオチド配列を、参照植物から得られた少なくとも第1の参照ヌクレオチド配列と比較すること、および第1のヌクレオチド配列と第1の参照配列との間の少なくとも1つの多型を検出することを含む、方法を提供する。本発明の方法は、ある実施形態では、本明細書に記載されている複数の多型を検出することを含み得る。本方法は、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多型または複数の多型を検出する工程の結果をコンピュータ可読媒体に保存すること、または少なくとも1つの多型または複数の多型を検出した結果を送信することをさらに含み得る。本発明は、特定の実施形態において、本発明の方法によって生産されたコンピュータ可読媒体をさらに提供する。いくつかの実施形態では、検出された1つの多型または複数の多型は、ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mもしくはその子孫の形態学的および生理学的特徴の発現を示すか、またはそれをもたらし得る。
【0065】
本明細書で使用される場合、「多型」は、1つまたは複数の個体の集団中の1つまたは複数の遺伝子座における核酸配列の1つまたは複数の変動の存在を指す。変動は、1つもしくは複数の塩基変化、1つもしくは複数のヌクレオチドの挿入または1つもしくは複数のヌクレオチドの欠失を含み得るが、これらに限定されない。多型は、核酸複製におけるランダムなプロセスから、突然変異誘発を介して、移動性ゲノム要素の結果として、コピー数多型から、ならびに不等交差、ゲノム重複および染色体切断および融合などの減数分裂のプロセスの間に生じ得る。変動は一般に見出され得るか、または集団内で低頻度で存在し得、前者は一般的な植物育種においてより大きな有用性を有し、後者はまれであるが重要な表現型変動に関連し得る。有用な多型には、一塩基多型(SNP)、DNA配列中の挿入または欠失(インデル)、DNA配列の単純反復配列(SSR)、制限断片長多型およびタグSNPが含まれ得る。遺伝的マーカー、遺伝子、DNA由来配列、ハプロタイプ、RNA由来配列、プロモーター、遺伝子の5’非翻訳領域、遺伝子の3’非翻訳領域、マイクロRNA、siRNA、QTL、サテライトマーカー、導入遺伝子、mRNA、ds mRNA、転写プロファイルおよびメチル化パターンは、多型を構成し得る。
【0066】
ある実施形態では、本発明の1つの多型または複数の多型に関する情報は、様々な媒体に保存または提供され得る。このような媒体の非限定的な例には、データベースおよびコンピュータ可読媒体が含まれる。いくつかの実施形態では、媒体は、当業者が1つの多型または複数の多型を調査または照会し、有用な情報を得ることを可能にする形態の記述的注釈(descriptive annotation)も含有し得る。
【0067】
本明細書で使用される場合、「データベース」は、テキストファイル、データベースファイル、スプレッドシートファイルおよび画像ファイルなどのコンピュータファイル、印刷された一覧表、および図表による表現(graphical representation)ならびにデジタルおよび画像データコレクションの組み合わせを含む、回収可能な収集されたデータの任意の表現を指す。本発明の一態様では、データベースは、コンピュータ検索可能情報を保存し得るメモリシステムを指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「コンピュータ可読媒体」は、コンピュータによって直接読み取られ得る、および/またはアクセスされ得る任意の媒体を指す。コンピュータ可読媒体の非限定的な例には、フロッピーディスク、ハードディスク、記憶媒体および磁気テープなどの磁気記憶媒体;CD-ROMなどの光記憶媒体、RAM、DRAM、SRAM、SDRAM、ROMなどの電気記憶媒体;およびPROM(EPROM、EEPROM、フラッシュEPROM)、ならびに磁気/光記憶媒体などのこれらの任意の混成物が含まれる。当技術分野で公知の任意のコンピュータ可読媒体が、本発明の1つの多型または複数の多型に関する情報を含むコンピュータ可読媒体を作成するために使用され得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「記録された」という用語は、データベースまたはコンピュータ可読媒体に情報を保存するためのプロセスの結果を指す。当業者は、本発明の1つの多型または複数の多型に関する情報を含むコンピュータ可読媒体を生成するために、コンピュータ可読媒体に情報を記録するための現在公知の方法のいずれをも容易に採用し得る。様々なデータ記憶構造が当技術分野で公知であり、このようなコンピュータ可読媒体を作成するために当業者に利用可能である。データ記憶構造の選択は、一般に、保存された情報にアクセスするために選択された手段に基づく。さらに、本発明の1つの多型または複数の多型に関する情報をコンピュータ可読媒体に保存するために、様々なデータプロセッサプログラムおよびフォーマットが使用され得る。
【0070】
本発明は、ある態様では、本発明の1つの多型または複数の多型に関する情報を含むシステム、特にコンピュータベースのシステムをさらに提供する。このようなコンピュータベースのシステムは、ある実施形態では、本発明の多型を同定するように設計される。本明細書で使用される場合、「コンピュータベースのシステム」は、1つの多型または複数の多型を分析するために使用されるハードウェア、ソフトウェアおよびメモリを指す。当技術分野で公知の任意のコンピュータベースのシステムが、本発明による使用に適切であり得る。
【0071】
F.定義
本明細書の説明および表では、いくつかの用語が使用されている。明細書および特許請求の範囲の明確かつ一貫した理解を提供するために、以下の定義が提供される。
【0072】
対立遺伝子:その対立遺伝子のすべてが1つの形質または特徴に関連する遺伝子座の1つまたは複数の代替形態のすべて。二倍体細胞または生物では、与えられた遺伝子の2つの対立遺伝子は、一対の相同染色体上の対応する遺伝子座を占める。
【0073】
戻し交配:育種家が雑種子孫、例えば第1世代雑種(F)を、雑種子孫の親の1つに戻して繰り返し交配するプロセス。戻し交配は、1つまたは複数の単一遺伝子座変換または導入遺伝子を1つの遺伝的背景から別の遺伝的背景に導入するために使用することができる。
【0074】
交配:2つの親植物の交配。
【0075】
他家受粉:異なる植物由来の2つの配偶子の結合による受精。
【0076】
二倍体:2組の染色体を有する細胞または生物。
【0077】
雄しべを取り去る:植物の雄性器官の除去、または雄性不稔性を付与する細胞質もしくは核の遺伝因子もしくは化学剤による雄性器官の不活性化。
【0078】
酵素:生物学的反応において触媒として作用することができる分子。
【0079】
雑種:2つの非同質遺伝子植物の交配の第1世代子孫。
【0080】
遺伝子型:細胞または生物の遺伝的構成。
【0081】
一倍体:二倍体中の2組の染色体のうちの1組を有する細胞または生物。
【0082】
連鎖:同じ染色体上の対立遺伝子は、それらの伝達が独立していた場合に偶然に予想されるより頻繁に一緒に分離する傾向がある現象。
【0083】
マーカー:好ましくは共顕性の様式で遺伝し(二倍体ヘテロ接合体中の遺伝子座の両方の対立遺伝子が容易に検出可能である)、環境分散成分がない、すなわち、1の遺伝率を有する容易に検出可能な表現型。
【0084】
表現型:特徴が遺伝子発現の顕現である、細胞または生物の検出可能な特徴。
【0085】
子孫:2つの個々の植物の育種の結果としてまたは自殖から生じた、植物の1つの子孫または複数の子孫。育種に使用される2つの個々の植物は、同じ遺伝子型の植物であってもよく、または2つの別個の遺伝子型の植物であってもよい。自殖の間、いくつかの実施形態では、同じ植物が雄性配偶子および雌性配偶子の両方の供与体として機能し得る。子孫は、例えば、F世代、F世代、または任意の後続世代の種子もしくは植物、またはそれらの部分であり得る。
【0086】
量的形質遺伝子座(QTL):量的形質遺伝子座(QTL)は、通常は連続的に分布する数値で表現可能な形質をある程度調節する遺伝子座を指す。
【0087】
抵抗性:本明細書で使用される場合、「抵抗性」および「耐性」という用語は、指定された生物的有害生物、病原体、非生物的影響または環境条件に対して症状を示さない植物を記述するために交換可能に使用される。これらの用語は、いくつかの症状を示すが、許容され得る収量で販売可能な産品をなお生産することができる植物を記述するためにも使用される。抵抗性または耐性と称されるいくつかの植物は、たとえその植物が発育を阻害され、収量が低下されるとしても、作物をなお生産することができるという意味において抵抗性または耐性であるに過ぎない。
【0088】
再生:組織培養からの植物の発達。
【0089】
王立園芸協会(RHS)カラーチャート値:RHSカラーチャートは、任意の色の正確な特定を可能にする標準化された基準である。チャート上の色の指定は、その色相、輝度および彩度を記述する。色は、グループ名、シート番号および文字、例えば黄色-橙色グループ19Aまたは赤色グループ41Bを特定することによって、RHSカラーチャートによって正確に命名される。
【0090】
自家受粉(自殖):植物の葯から同じ植物の柱頭または同じ遺伝子型の別の植物の柱頭への花粉の移動。
【0091】
単一遺伝子座変換された(変換)植物:戻し交配と呼ばれる植物育種技術または遺伝子座の遺伝子工学によって開発された植物であって、単一遺伝子座の特徴に加えて、ホウレンソウ品種の形態学的および生理学的特徴の本質的にすべてが回復されている植物。
【0092】
実質的に等価な:比較された場合に、平均から統計学的に有意な差(例えば、p=0.05)を示さない特徴。
【0093】
組織培養物:同一のもしくは異なる種類の単離された細胞または植物の部分に組織化されたこのような細胞の集合を含む組成物。
【0094】
導入遺伝子:形質転換または部位特異的修飾によってホウレンソウ植物のゲノムに導入された配列を含む遺伝子座。
【0095】
G.寄託情報
上記で開示され、特許請求の範囲に列挙されたホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの少なくとも625の種子の寄託が、Provasoli-Guillard National Center for Marine Algae and Microbiota(NCMA)、60 Bigelow Drive、East Boothbay、Maine、04544 USAによって行われた。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの寄託された種子の寄託日は2022年10月6日である。ホウレンソウ系統MSA-S021-1336Mの寄託された種子の受託番号は、NCMA受託番号202210003である。特許が発行された際には、寄託物に対するすべての制限が取り除かれ、寄託物は、米国特許法施行規則§1.801-1.809の要件のすべてを満たすことが意図される。寄託物はブダペスト条約に基づいて受け入れられ、30年の期間、最後の請求後5年間または特許の有効期間のうちより長いものの期間にわたって寄託機関に保管され、必要であればその期間中に交換される。
【0096】
前述の発明は、明確さおよび理解のために例示および例によってある程度詳細に説明されているが、ある種の変更および改変が、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲内で実施され得ることは明らかであろう。
【0097】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【外国語明細書】