(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152682
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】扉ハンドル装置
(51)【国際特許分類】
E05B 5/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
E05B5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063725
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2023066440
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000131511
【氏名又は名称】株式会社シブタニ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】石橋 芳男
(72)【発明者】
【氏名】中 利友
(57)【要約】
【課題】扉の意匠性をより向上させることが可能でありながら電気錠との併用性に優れた扉ハンドル装置とする。
【解決手段】扉ハンドル装置は、ハンドル台座20と、ハンドル台座20に支持されたハンドル軸11回りに収納凹部21に収納された倒伏状態と、収納凹部21に対して所定の限界角度θまで起立させられた完全起立状態との間を回動可能に設けられたハンドル10と、倒伏状態で起立命令信号を受けたときにハンドル10を電動駆動で中途起立状態まで正転させ、倒伏命令信号を受けたときにハンドル10を倒伏状態まで復帰させる駆動機構30と、を備える。ハンドル10が倒伏状態から中途起立状態まで正転させられることにより、ハンドル10の一端側10aとハンドル台座20の一端側20aとの間に手を挿し込み可能な空間が開放される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル台座と、
前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の限界角度まで起立させられた完全起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、
前記倒伏状態で起立命令信号を受けたときに前記ハンドルを電動駆動で中途起立状態まで正転させ、倒伏命令信号を受けたときに前記ハンドルを倒伏状態まで復帰させる駆動機構と、を備え、
前記ハンドルが前記倒伏状態から前記中途起立状態まで正転させられることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放される扉ハンドル装置。
【請求項2】
前記駆動機構が、前記ハンドルを前記倒伏状態に復帰させる方へ常時付勢するハンドル付勢部材を有し、かつ前記倒伏命令信号を受けたときに前記ハンドル付勢部材の付勢による前記ハンドルの逆転を許した後、前記ハンドルの正転を許す状態で待機するようになっており、
前記倒伏状態にある前記ハンドルの一端側とは反対側が前記ハンドル台座に設けた逃げ部へ押し込まれることにより、又は前記ハンドルの一端側に設けた引上げ部が手前に引かれることにより前記ハンドルが前記中途起立状態まで正転させられる請求項1に記載の扉ハンドル装置。
【請求項3】
前記駆動機構が、前記ハンドルの前記中途起立状態からの逆転による逆入力を遮断するクラッチと、前記クラッチで遮断されたハンドル側の駆動機構要素を前記ハンドル付勢部材の付勢に抗して前記中途起立状態まで復帰させる方へ付勢する弾性部材と、を有する請求項2に記載の扉ハンドル装置。
【請求項4】
扉の戸先に彫り込まれるケースと、
前記ハンドルとは別体に設けられ、前記中途起立状態と前記完全起立状態との間の前記ハンドルの回動によって揺動させられるレバー部材とをさらに備え、
前記ケースにラッチ錠が収められており、
前記ハンドルが、前記駆動機構に押されるハンドルアーム部を有し、
前記レバー部材が、前記中途起立状態から前記完全起立状態への前記ハンドルの正転に応じて前記ラッチ錠を仮締め解除状態に移行させるように設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載の扉ハンドル装置。
【請求項5】
前記駆動機構が、前記ハンドルを正転させる駆動源となるモータと、前記ケースの厚み方向と直交する方向に前記ハンドルアーム部を押す出力部材と、モータ側から入力された回転を減速して前記出力部材に伝達する歯車減速機と、を有し、
前記モータ及び前記歯車減速機が前記ケースに収められており、
前記歯車減速機に属する各歯車軸が、前記ケースの厚み方向に延びており、
前記モータが、前記ケースの厚み方向と直交する方向に延びるモータ軸を有し、かつ前記ケースの厚み方向と直交する方向に前記歯車減速機と重なる位置に配置されている請求項4に記載の扉ハンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、扉面に配置されるハンドル台座及びハンドルを備える扉ハンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の玄関や、廊下の壁面に設置される点検口扉に開き戸を採用する場合、開扉時に扉の仮締めを解除して扉を開くことができるようにするため、扉ハンドルが扉面に設置されている。扉の意匠性を重視する場合、扉ハンドルとして平面ハンドルが採用されている。平面ハンドルは、扉に彫り込まれるハンドル台座と、ハンドル台座にハンドル軸回りに起伏動可能に支持されたハンドルとを有する。閉扉時には、ハンドルがハンドル台座の収納凹部に収納されるため、ハンドルが扉面において目立ちにくくなる。収納凹部に収納されたハンドルの一端側と収納凹部の一端側との間は、手前から手を収納凹部内へ挿し込むためのプル操作窓になっている。開扉時には、プル操作窓に挿し込んだ手をハンドルの一端側に掛け、そのハンドルを手前に引いて起立させることにより、ラッチ錠を仮締め解除状態に移行させ、扉を開くことができる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような扉ハンドルは、ハンドル台座の収納凹部の一端側と倒伏状態のハンドルの一端側との間まで手を挿し込めるだけの深さと開口面積を要するため、収納凹部の寸法が扉の厚み方向に大きくなり、閉扉時もプル操作窓からハンドル台座の収納凹部が窪んで視える点で扉の意匠性を損ねる問題がある。
【0005】
また、近年では、扉を本締めする錠として、電気的に施解錠切り替え動作を行う電気錠が広まっている。電気錠では、無線携帯器との交信で無線携帯器の認証が成功したときに解錠を行うキーレス仕様やハンズフリー仕様のものが一般的である。この種の電気錠と平面ハンドルを併用した場合、無線携帯器の認証エラー等により解錠に失敗していても、これに気づかない扉前の人物が扉を開けようとしてハンドルを引いてしまう可能性がある。
【0006】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、扉の意匠性をより向上させることが可能でありながら電気錠との併用性に優れた扉ハンドル装置とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、この発明は、ハンドル台座と、前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の限界角度まで起立させられた完全起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、前記倒伏状態で起立命令信号を受けたときに前記ハンドルを電動駆動で中途起立状態まで正転させ、倒伏命令信号を受けたときに前記ハンドルを倒伏状態まで復帰させる駆動機構と、を備え、前記ハンドルが前記倒伏状態から前記中途起立状態まで正転させられることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放される扉ハンドル装置、という構成1を採用した。
【0008】
上記構成1によると、ハンドルの電動駆動でハンドルの一端側とハンドル台座の一端側間に手を挿し込み可能な空間が開放されるので、ハンドル台座の一端側に手を挿し込み可能な深い空間をあらかじめ設ける必要がなく、また、収納凹部の一端側とハンドルの一端側との間に距離を取ってプル操作窓を設けることも不要になる。このため、閉扉時、ハンドル台座が彫り込まれた扉面においてハンドルの奥側に収納凹部が窪んで視えず、扉の意匠性がより向上させられる。また、ハンドルの起伏動が駆動機構に対する起立命令信号と倒伏命令信号に基づくので、上記構成1に係る扉ハンドル装置を電気錠と併用する場合には、起立命令信号と電気錠の解錠とを連係させ、倒伏命令信号と電気錠の施錠とを連係させることが可能である。これにより、解錠権限の認証失敗時には、ハンドルが自動的に中途起立状態にならないようにして、扉前の人物が電気錠の認証失敗に気づかないままハンドルを引いてしまう事態を防止することが可能であり、また、解錠後は任意の施錠時期までハンドルを駆動機構で中途起立状態に維持し、施錠時期に合わせてハンドルが自動的に倒伏状態に戻るようにすることが可能であるので、上記構成1に係る扉ハンドル装置は電気錠との併用性に優れる。
【0009】
上記構成1において、前記駆動機構が、前記ハンドルを前記倒伏状態に復帰させる方へ常時付勢するハンドル付勢部材を有し、かつ前記倒伏命令信号を受けたときに前記ハンドル付勢部材の付勢による前記ハンドルの逆転を許した後、前記ハンドルの正転を許す状態で待機するようになっており、前記倒伏状態にある前記ハンドルの一端側とは反対側が前記ハンドル台座に設けた逃げ部へ押し込まれることにより、又は前記ハンドルの一端側に設けた引上げ部が手前に引かれることにより前記ハンドルが前記中途起立状態まで正転させられる、という構成2を採用してもよい。
【0010】
上記構成2によると、電源喪失が起こっても、ハンドルの反対側を押す、又はハンドルの一端側に設けた引上げ部を適宜工具等に係合させて手前に引く手動操作で倒伏状態から中途起立状態まで正転させ、その後、ハンドルの一端側に手を掛けて完全起立状態まで正転させ、扉を開くことができる。なお、倒伏命令信号を受けたときに手を挿し込んでいても、ハンドル付勢部材の付勢力が適切に設定されていれば、手を負傷する事故の発生も防止できる。
【0011】
上記構成2において、前記駆動機構が、前記ハンドルの前記中途起立状態からの逆転による逆入力を遮断するクラッチと、前記クラッチで遮断されたハンドル側の駆動機構要素を前記ハンドル付勢部材の付勢に抗して前記中途起立状態まで復帰させる方へ付勢する弾性部材と、を有する、という構成3を採用してもよい。
【0012】
上記構成3によると、ハンドルが中途起立状態にある場合にハンドルを強制的に逆転させる方向の外力がハンドルに負荷されたとしても、その駆動機構に対する逆入力をクラッチで遮断してハンドルの逆転を許し、負荷側に対してハンドルを逃がして負荷側や駆動機構の損傷を防止することができ、その逆入力の解消に応じてハンドルを弾性部材の付勢で自ずと中途起立状態まで復帰させることができる。
【0013】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、扉の戸先に彫り込まれるケースと、前記ハンドルとは別体に設けられ、前記中途起立状態と前記完全起立状態との間の前記ハンドルの回動によって揺動させられるレバー部材とをさらに備え、前記ケースにラッチ錠が収められており、前記ハンドルが、前記駆動機構に押されるハンドルアーム部を有し、前記レバー部材が、前記中途起立状態から前記完全起立状態への前記ハンドルの正転に応じて前記ラッチ錠を仮締め解除状態に移行させるように設けられている、という構成4を採用してもよい。
【0014】
上記構成4によると、駆動機構を収めるケースとラッチ錠の錠ケースを兼用し、ケースの戸先への彫り込みを彫込型ラッチ錠と同様にすることができながら、中途起立状態と完全起立状態間のハンドルの回動とラッチ錠とをレバー部材を介して連係させることができる。
【0015】
上記構成4において、前記駆動機構が、前記ハンドルを正転させる駆動源となるモータと、前記ケースの厚み方向と直交する方向に前記ハンドルアーム部を押す出力部材と、モータ側から入力された回転を減速して前記出力部材に伝達する歯車減速機と、を有し、前記モータ及び前記歯車減速機が、前記ケースに収められており、前記歯車減速機に属する各歯車軸が、前記ケースの厚み方向に延びており、前記モータが、前記ケースの厚み方向と直交する方向に延びるモータ軸を有し、かつ前記ケースの厚み方向と直交する方向に前記歯車減速機と重なる位置に配置されている、という構成5を採用してもよい。
【0016】
上記構成5によると、モータ等を収めるのに必要なケースの厚み方向の寸法を抑えることができ、ひいてはケースを扉の戸先に彫り込んで扉の内部に配置するのに必要な扉の厚みを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
このように、この発明は、上記構成1の採用により、扉の意匠性をより向上させることが可能でありながら電気錠との併用性に優れた扉ハンドル装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)はこの発明の実施形態に係る扉ハンドル装置の倒伏状態を示す横断面図、(b)は同扉ハンドル装置の倒伏状態を前記(a)とは異なる切断面で示す横断面図、(c)は同扉ハンドル装置の中途開放状態を前記(b)と同一切断面で示す横断面図、(d)は同扉ハンドル装置の完全開放状態を前記(a)と同一切断面で示す横断面図
【
図2】(a)は
図1のハンドル及びハンドル台座の倒伏状態を示す正面図、(b)は同ハンドルを
図1とは異なる切断面で示す横断面図、(c)は同ハンドルの背面図
【
図4】
図3のラッチ錠の仮締め解除状態を示す部分縦断正面図
【
図6】
図3のケース内の出力部材付近を示す部分断面図
【
図9】(a)は
図3の回路基板を示す正面図、(b)は同回路基板を示す背面図
【
図10】(a)は
図1の扉ハンドル装置の待機状態におけるハンドルの位相を示す模式図、(b)は同待機状態における原動側のギヤの位相を示す模式図、(c)は同待機状態における従動側のギヤと出力部材の位相を示す模式図
【
図11】(a)は
図10の待機状態から中途起立状態まで電動駆動したときのハンドルの位相を示す模式図、(b)は同電動駆動したときの原動側のギヤの位相を示す模式図、(c)は同電動駆動したときの従動側のギヤと出力部材の位相を示す模式図
【
図12】(a)は
図11の中途起立状態から電動駆動を反転させたときのハンドルの位相を示す模式図、(b)は同反転させたときの原動側のギヤの位相を示す模式図、(c)は同反転させたときの従動側のギヤと出力部材の位相を示す模式図
【
図13】(a)は
図12の中途起立状態から倒伏状態まで電動駆動したときのハンドルの位相を示す模式図、(b)は同倒伏状態まで電動駆動したときの原動側のギヤの位相を示す模式図、(c)は同倒伏状態まで電動駆動したときの従動側のギヤと出力部材の位相を示す模式図
【
図14】(a)は
図12の中途起立状態からハンドルを強制的に倒伏状態にしたときのハンドルの位相を示す模式図、(b)は同強制的に倒伏状態にしたときの原動側のギヤの位相を示す模式図、(c)は同強制的に倒伏状態にしたときの従動側のギヤと出力部材の位相を示す模式図
【
図15】
図1の倒伏状態のハンドルを手動操作で中途起立状態にする際の操作位置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一例としての実施形態に係る扉ハンドル装置を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1~
図3に例示する扉ハンドル装置(以下、「この扉ハンドル装置」という。)は、開き戸からなる扉Dを吊元側とは反対の戸先側から開く際にハンドル10を手前に引いて扉Dの仮締めを解除し、そのままハンドル10を更に手前に引いて扉Dを開けるようにする用途を想定したものであって、ハンドル台座20を扉Dに彫り込み、閉扉時には、ハンドル台座20の収納凹部21にハンドル10を収納することができ(
図1(a)、(b)、
図2(a)参照)、開扉時には、ハンドル10を収納凹部21から手前側に起立させることができるものである(
図1(c)、(d)参照)。ここで、彫り込むとは、扉Dの内部空間と外部間を貫通する扉Dの開口部から扉Dの内部に入れ込むことを意味する。
【0021】
この扉ハンドル装置は、
図1、
図3に示すように、ハンドル10と、ハンドル台座20と、ハンドル10をハンドル軸11回りに起伏動させる駆動機構30と、扉Dの戸先に彫り込まれるケース40と、を備える。ケース40には、駆動機構30の電動駆動源からハンドル10までの駆動力伝達経路と、ラッチ錠50とが収められている。なお、
図1(a)、
図1(d)において、ケース40内のラッチ錠50を構成する各部品の断面図は省略している。
【0022】
この扉ハンドル装置は、プッシュプルハンドルのプルハンドルとして扉Dに備え付けられている。そのプッシュプルハンドルのプッシュハンドル60は、従来周知のものであるので、その詳細の説明を省略すると共に、
図1(a)以外での図示を省略する。
【0023】
ケース40は、扉Dの戸先に彫り込まれる箱型の錠ケースを兼ねている。ケース40の厚み方向は、扉Dの厚み方向に一致し、
図1における上下方向に対応する。ケース40は、厚み方向の一方に開放部を設けた箱状のケース本体40aと、この開放部を覆う平板状のケースカバー40bを組み合わせた構造になっている。ケース40の長手方向は、扉Dの縦方向に一致し、
図3における上下方向に対応する。ケース40の幅方向は、ケース40の厚み方向及び長手方向に対して直交する方向であり、
図1~
図3の各図における左右方向に対応する。扉Dの縦方向は、扉Dの開閉中心となるヒンジ軸(図示省略)に沿った方向であり、建物の玄関等における人の出入口に設置される扉Dの場合、一般に、水平に対する垂直方向に対応する。以下、特に言及しない限り、ケース40の厚み方向、長手方向、幅方向のことを、それぞれ単に「厚み方向」、「長手方向」、「幅方向」という。
【0024】
ラッチ錠50は、扉Dの戸先から枠側のストライク(図示省略。以下、同じ。)に突入したラッチボルト51により扉Dを閉扉状態に保つ仮締め状態と、扉Dの開放を許す仮締め解除状態との間を手動操作に応じて移行させることができる機構であり、扉Dをデッドボルトで施錠する本締め機能をもたない。扉Dの施錠は、シリンダー錠、サムターン錠等の本締め錠(図示省略)で行うようになっている。その本締め錠として電気錠を採用することができる。
【0025】
図1、
図3に示すラッチ錠50は、反転ラッチ式のものであって、厚み方向に延びる第一の揺動軸52と、第一の揺動軸52を中心として揺動する第一のリンク部材53と、第一の揺動軸52とは異なる位置で厚み方向に延びる第二の揺動軸54と、第二の揺動軸54を中心として揺動する第二のリンク部材55と、第二のリンク部材55を付勢するリターンスプリング56と、を有する。リターンスプリング56の付勢により、第二のリンク部材55が、ラッチボルト51に係合してストライクからの退避を阻止する仮締め状態(
図3に示す状態)に保たれる。第一の揺動軸52に対して第一のリンク部材53の一端側が幅方向(
図3例では右方向)に押されることにより、第一のリンク部材53の他端側が第二のリンク部材55を蹴り、これにより、第二のリンク部材55が、
図4に示すようにリターンスプリング56の付勢に抗してラッチボルト51から脱出し、ラッチボルト51のストライクからの退避を許すラッチ解除状態に移行させられる。第一のリンク部材53の一端側が幅方向に押されなくなると、リターンスプリング56の付勢によりラッチ錠50が
図3の仮締め状態に復帰させられる。
【0026】
ハンドル台座20は、
図1に示すように、ハンドル台座20の周縁部から厚み方向に扉Dの内部側へ凹んだ収納凹部21を有する。ハンドル台座20の周縁部は、扉面(扉Dを厚み方向に手前側から視たときに現れる扉Dの正面)の構成要素である扉パネルと重なり、扉面に露出する面付け部位である。ハンドル台座20の周縁部以外の部位は、扉面に露出しないように彫り込まれる。
【0027】
ハンドル10は、ハンドル台座20に支持されたハンドル軸11回りに収納凹部21に収納された倒伏状態(
図1(a)、(b)、
図2(a)参照。以下、単に「倒伏状態」という。)と、倒伏状態からハンドル軸11回りに所定の限界角度θまで起立させられた完全起立状態(
図1(d)参照。以下、単に「完全起立状態」という。)との間を回動可能に設けられている。なお、所定の限界角度θは、倒伏状態からハンドル10を手前側に起立させ切ったときまでのハンドル台座20の周縁部に対する傾斜角度である。
【0028】
ハンドル10は、
図2に示すように、ハンドル軸11と直交する一方向に突き出たハンドルアーム部12と、把持板部13と、ハンドル軸11を保持する複数の軸支持部14と、を一体に有する。
【0029】
ハンドル10が倒伏状態にあるとき、把持板部13の正面がハンドル10の正面を形成すると共に、把持板部13の正面とハンドル台座20の周縁部の正面が同一面上に位置するように設定されている。
【0030】
ハンドル軸11は、長手方向に延びている。ハンドル軸11は、各軸支持部14に挿通されると共に、長手方向の両端部においてハンドル台座20に支持されている。
【0031】
ハンドルアーム部12は、
図1、
図3に示すように、ケース40に形成された第一のスリット41に厚み方向に挿し込まれる。
【0032】
駆動機構30は、倒伏状態(
図1(a)、(b)参照)で起立命令信号を受けたときにハンドル10を電動駆動で所定の中途起立状態(
図1(c)参照)まで正転させ、倒伏命令信号を受けたときにハンドル10を倒伏状態まで復帰させる機構である。中途起立状態にあるハンドル10は、ハンドル台座20に対する倒伏状態から完全起立状態までの傾斜角θよりも浅い所定の傾斜角度を成す。ハンドル10が駆動機構30によって倒伏状態から中途起立状態まで正転させられることにより、ハンドル一端側10a(把持板部13のうちで起立する部分であり、
図1(a)においてハンドル軸11より右側を指す。)とハンドル台座一端側20a(ハンドル台座20のうちで倒伏時のハンドル一端側10aに対向する領域近傍を指す。)との間に
図1(c)のように手を挿し込み可能な空間が開放される。
【0033】
図1(a)、(d)、
図2(c)、
図3に示すように、ハンドル軸11は、レバー部材70の貫通孔に挿通されている。レバー部材70は、ハンドル10とは別体に設けられており、ハンドル軸11を中心としてハンドル10に対して揺動自在に配置されている。レバー部材70は、ハンドル軸11に対してケース40側の揺動部位において、ラッチ錠50を仮締め解除状態に移行させる操作の入力端である第一のリンク部材53と幅方向に対向するようにケース40内に挿入されている。ハンドル10が倒伏状態にあるとき(
図1(a)参照)、ラッチ錠50が仮締め状態にあり(
図3参照)、このとき、レバー部材70は、ラッチ錠50の第一のリンク部材53の一端側を幅方向(
図3例では右方向)に押していない状態にある。ハンドル10が倒伏状態から中途起立状態まで正転させられると、レバー部材70は、ハンドル軸11に対して把持板部13側において把持板部13の背面に沿って接触した状態になる(
図1(c)参照)。中途起立状態にあるハンドル10が手動操作で手前側に引かれて完全起立状態まで正転させられる間、レバー部材70が前述の接触部において把持板部13から押されることにより、レバー部材70が第一のリンク部材53の一端側を幅方向(
図3例では右方向)に押す方へハンドル軸11回りに正転させられ、これにより、ラッチ錠50が仮締め解除状態に移行させられる。
【0034】
なお、レバー部材70とハンドル付勢部材33の長手方向の位置を所定に保つため、ハンドル軸11は、管状のスペーサ80にも挿通されている。スペーサ80は、長手方向に対向する軸支持部14同士の間に位置している。
【0035】
駆動機構30は、ハンドル10を正転させる駆動源となるモータ31と(
図1、
図3参照)、ハンドル10のハンドルアーム部12を押す出力部材32と、ハンドル10を逆転方向に常時付勢するハンドル付勢部材33と(
図2参照)、を有する。
【0036】
図2(b)、(c)に示すように、ハンドル付勢部材33は、ねじりコイルばねになっており、そのコイル部にハンドル軸11が挿通されている。ハンドル付勢部材33は、把持板部13の背面と収納凹部21(
図1参照)との間に介在し、ハンドル10を倒伏状態に復帰させる方へ常時付勢するように配置されている。
【0037】
モータ31は、
図3に示すように、ケースの厚み方向と直交する方向に延びるモータ軸31aを有する。モータ軸31aに固定されたピニオンギヤ31bは、中継ギヤ34と噛み合っている。中継ギヤ34の歯車軸は、
図3、
図5に示すように、厚み方向に延びており、モータ軸31aと食い違い軸になっている。モータ軸31aがケースの厚み方向と直交する方向に延びる配置により、モータ31を収めるのに必要なケース40の厚み方向の寸法を抑えることができる。
【0038】
駆動機構30は、中継ギヤ34から入力された回転を減速して出力部材32に伝達する歯車減速機35を有する。歯車減速機35は、中継ギヤ34と噛み合うインプットギヤ35aと、インプットギヤ35aと噛み合う原動側のギヤ35bと、後述のクラッチを介して原動側のギヤ35bに連動して回転する従動側のギヤ35cと、を有する。インプットギヤ35aは、歯車軸35dを中心に回動する。原動側のギヤ35bと従動側のギヤ35cは、共通の歯車軸35eを中心として互いに相対回動し得るように配置されている。これら歯車軸35d、35eは、厚み方向に延びている。歯車減速機35の各歯車軸35d、35eがケースの厚み方向に延びる配置により、モータ31側から入力された回転を減速してトルクを増大させる歯車減速機35を収めるのに必要なケース40の厚み方向の寸法を抑えることができる。
【0039】
出力部材32は、
図3、
図6に示すように、従動側のギヤ35cと噛み合い、従動側のギヤ35cの正逆転に応じて幅方向に直動する。ケース40は、厚み方向に対向する両側壁に形成された一対の第一のスリット41と、厚み方向一方側の側壁に形成された第二のスリット42とを有する。第一のスリット41は、出力部材32の第一の突起32aを幅方向に案内する。また、第二のスリット42は、幅方向に真っすぐ延びる板縁からなり、出力部材32の第二の突起32bを幅方向に案内する。出力部材32は、第一のスリット41に挿し込まれたハンドルアーム部12に幅方向に係脱する。
【0040】
モータ31を駆動源とした正転方向の入力回転が歯車減速機35で減速されることに伴い増大するトルクが出力部材32に伝達され、その出力部材32のラックギヤにおいて幅方向の推進力に変換され、出力部材32がハンドルアーム部12を幅方向(
図3においては右方向)に押すことにより、ハンドル10(
図1参照)がハンドル軸11回りに正転させられる。歯車減速機35でトルク増大を図ることにより、モータ31の出力を抑えてモータサイズを厚み方向に抑えることができる。また、出力部材32の移動方向が厚み方向と直交する方向としての幅方向に設定されているため、出力部材32の移動に要する空間の寸法を厚み方向に抑えてケース40の厚み方向の寸法を抑えることができる。なお、
図1において、駆動機構30は、モータ31と出力部材32のみを抜粋して図示している。
【0041】
モータ31は、厚み方向と直交する方向としての幅方向に歯車減速機35と重なる位置に配置されている。このため、モータ31と歯車減速機35の収容に必要なケース40の厚み方向の寸法を抑えることができる。また、モータ31と歯車減速機35は、ラッチ錠50と長手方向に重なる位置に配置されている。このため、ラッチ錠50の収容に必要なケース40の幅方向の寸法を活かしてモータ31と歯車減速機35をケース40に収め、モータ31と歯車減速機35の収容に必要なケース40の幅方向の寸法を抑えることができる。
【0042】
駆動機構30は、歯車減速機35の原動側のギヤ35bと従動側のギヤ35cとの間でハンドル10の中途起立状態(
図1(c)参照)からの逆転による逆入力を遮断するクラッチと、このクラッチで遮断されたハンドル10側の駆動機構要素としての従動側のギヤ35cをハンドル付勢部材33の付勢に抗して中途起立状態まで復帰させる方へ付勢する弾性部材36(
図3、
図6参照)と、を有する。
【0043】
従動側のギヤ35cは、厚み方向に延びる第一の丸軸部35fを有する。ケース40には、厚み方向と直交する方向に第一の丸軸部35fと重なる位置において厚み方向に延びる第二の丸軸部37が設けられている。弾性部材36は、ねじりコイルばねになっている。弾性部材36のうち、一方のばねアーム部は、第一の丸軸部35fに嵌合されたループ状端部を有し、また、他方のばねアーム部は、第二の丸軸部37に嵌合されたループ状端部を有し、また、コイル部は、ケース40に対して第二の丸軸部37回りに自由に移動可能に配置されている。第二の丸軸部37は、従動側のギヤ35cの歯車軸35eに対して幅方向の一方側(
図3において右側)に寄った位置かつ長手方向の一方側(
図3において上側)に寄った位置に配置されている。従動側のギヤ35cの回動に応じて弾性部材36が第二の丸軸部37回りに移動する。第二の丸軸部37の中心軸線と歯車軸35eの中心軸線とを含む仮想平面に対して第一の丸軸部35fの中心軸線が幅方向の他方側(
図3において左側)に寄った位置かつ長手方向の一方側(
図3において上側)に寄った位置にあるとき、弾性部材36は従動側のギヤ35cを正転方向(
図3において反時計回りの方向)に付勢する。前述の仮想平面に対して第一の丸軸部35fの中心軸線が幅方向の一方側(
図3において右側)に寄った位置かつ長手方向の他方側(
図3において下側)に寄った位置にあるとき、弾性部材36は従動側のギヤ35cを逆転方向(
図3において時計回りの方向)に付勢する。
【0044】
前述のクラッチは、
図5~
図8に示すように、歯車軸35e回りに回動する原動側のギヤ35bと一体的に回動可能に常に噛み合う一対の係合子35gと、従動側のギヤ35cと一体に設けられた複数の第一の係合面35h及び第二の係合面35iと、を有する。
【0045】
一対の係合子35gは、
図5、
図6、
図8に示すように、歯車軸35eの中心軸線と直交する一直線方向に移動可能に配置されている。原動側のギヤ35bは、各係合子35gと噛み合いかつ各係合子35gを前述の一直線方向に案内する伝達面35jを有する。一対の係合子35gの互いの間には、互いを前述の一直線方向に離す方へ付勢するコイルばね35kが介在している。
【0046】
図7に示すように、歯車軸35e回りの周方向に間隔をおいて隣り合う第一の係合面35hと第二の係合面35i間ごとに一つの係合子35gが配置されている。原動側のギヤ35bが正転(
図7において時計回り方向に回転)することにより、係合子35gが第一の係合面35hに係合して従動側のギヤ35cに正転トルクを伝達し、原動側のギヤ35bが逆転(
図7において反時計回り方向に回転)することにより、係合子35gが第二の係合面35iに係合して従動側のギヤ35cに逆転トルクを伝達する。一方、係合子35gが第一の係合面35h及び第二の係合面35iのいずれとも係合していない非係合状態にある限り、従動側のギヤ35cがハンドル側からの逆入力で回動させられても、その回動が原動側のギヤ35bに伝達されない遮断状態にあるため、原動側のギヤ35bに対して従動側のギヤ35cは自由に回動することができる。
【0047】
なお、係合子35gと第一の係合面35h又は第二の係合面35iの係合時に係合子35gに作用する反力が所定値を超えると、一対の係合子35g間で前述のコイルばね35kが圧縮されて一対の係合子35gが互いに接近する。これにより、クラッチ、ハンドル等の組立誤差等があっても、クラッチ等の破損を防止することができる。
【0048】
原動側のギヤ35bと従動側のギヤ35cは、
図3、
図5、
図6に示すように回路基板38を間において厚み方向に対向している。回路基板38は、モータ31の正逆回転を制御するための所要のデバイス、電極、端子等を有する。回路基板38がモータ31に通電する電流の方向に応じてモータ31が正転又は逆転する。この通電は、回路基板38上の制御部が起立命令信号を受けたときにモータ31を正転させる方向に行い、その制御部が倒伏命令信号を受けたときにモータ31を逆転させる方向に行うようになっている。その起立命令信号は、前述の本締め錠が解錠されることを契機として、駆動機構30を電気的に制御する制御部に入力される信号である。例えば、本締め錠が電気錠である場合、解錠権限の認証成功によって電気錠の制御部から発出される解錠信号を起立命令信号として回路基板38上の制御部に入力する態様が挙げられる。また、倒伏命令信号は、本締め錠が施錠されることを契機として、駆動機構30を電気的に制御する制御部に入力される信号である。例えば、本締め錠がサムターンである場合、サムターンが施錠位置まで回されたことを電気的に検知したときに発出される施錠信号を倒伏命令信号として回路基板38上の制御部に入力する態様が挙げられる。なお、駆動機構30の電源は、電力配線とバッテリのいずれから取ってもよく、特に限定されない。
【0049】
回路基板38には、両基板面間に亘って貫通する孔が形成されている。この孔は、歯車軸35eの周囲に係合子35g及び第一の係合面35h、第二の係合面35iを配置する空間を得るために形成されている。回路基板38の両基板面のうち、従動側のギヤ35cに近い側の基板面には、
図9(a)に示すように、従動側のギヤ35cの位相を検知するための第一の電極38aと、第二の電極38bと、第一のCOM電極38cとが互いに離れた位置に設けられている。また、回路基板38の両基板面のうち、原動側のギヤ35bに近い側の基板面には、
図9(b)に示すように、原動側のギヤ35bの位相を検知するための第三の電極38dと、第二のCOM電極38eとが互いに離れた位置に設けられている。
【0050】
一方、原動側のギヤ35bのうち、回路基板38に厚み方向に近い側の端面には、
図5、
図8に示すように、第三の電極38dと第二のCOM電極38eとの間を原動側のギヤ35bの位相に応じて通電状態と非通電状態に切り替えるための端子板39aが固定されている。また、従動側のギヤ35cのうち、回路基板38に厚み方向に近い側の端面には、
図5、
図7に示すように、第一の電極38aと第一のCOM電極38cとの間を従動側のギヤ35cの位相に応じて通電状態と非通電状態に切り替え、また、第二の電極38bと第一のCOM電極38cとの間を従動側のギヤ35cの位相に応じて通電状態と非通電状態に切り替えるための端子板39bが固定されている。従動側の端子板39bは、回路基板38の第一の電極38a及び第二の電極38bと同時に電気的に繋がることはできないものである。
【0051】
この扉ハンドル装置において、ハンドル10がハンドル付勢部材33(
図2参照)によって倒伏状態に維持されており、駆動機構30(
図3参照)が所定の動作を完全に終了して停止している待機状態にあるときのハンドル10と、出力部材32と、原動側のギヤ35bと、従動側のギヤ35cとの位相関係を
図10に模式的に示す。
図10に示す待機状態は、この扉ハンドル装置がハンドル10を電動駆動する制御上の中立位置にある状態に相当する。
【0052】
待機状態にあるとき、出力部材32(
図10(a)、(c)参照)は、ハンドルアーム部12から幅方向の他方側(
図10において左側。以下、単に「左側」という)に離れた位置にあり、また、弾性部材36の付勢で従動側のギヤ35cから左側へ押されているが、第二のスリット42の左側の端部42Lにおいて第二の突起32bの左端が当接することで左側への移動を規制されている。
【0053】
また、待機状態にあるとき、係合子35g(
図10(c)参照)は、第一の係合面35hの近くに位置し、第二の係合面35iから遠く離れた位置にある。
【0054】
また、待機状態にあるとき、原動側の端子板39a(
図10(b)参照)は、回路基板38の第三の電極38dと第二のCOM電極38eとに電気的に繋がっている状態にあり、これら両電極38d、38e間が通電状態にある。また、両電極38d、38e間が通電状態にあること、すなわち、原動側のギヤ35bの位相が待機状態に対応する中立位置になっていることは、回路基板38上において電気的に検知されている。また、従動側の端子板39b(
図10(c)参照)は、回路基板38の第一の電極38a及び第一のCOM電極38cと電気的に繋がっているが、第二の電極38bとは電気的に繋がっておらず、第一の電極38aと第一のCOM電極38c間が通電状態にあり、第二の電極38bと第一のCOM電極38c間が非通電状態にある。
【0055】
この扉ハンドル装置が待機状態のときに起立命令信号を受けると、モータ31(
図3参照)が正転を開始し、これに伴い、中継ギヤ34、インプットギヤ35aを介したモータ31側から原動側のギヤ35bへの回転入力が生じて原動側のギヤ35bが正転(
図3、
図10(b)において反時計回り方向に回転)し、原動側のギヤ35bと一体的に係合子35gも正転し、係合子35gが従動側のギヤ35cの第一の係合面35hに係合して正転トルクを伝達し、これ以降、従動側のギヤ35cも正転(
図10(c)において反時計回り方向に回転)し、これに伴って出力部材32が右側に直動し、やがて、ハンドルアーム部12に右側に向かって係合してハンドルアーム部12を右側へ押し始め、ハンドル10が正転(
図10(a)において時計回り方向に回転)し始め、従動側のギヤ35cに対する弾性部材36の付勢方向が変化し始める。これまでに原動側の端子板39a(
図10(b)参照)が第三の電極38dと電気的に繋がっていない状態となり、第三の電極38dと第二のCOM電極38e間が非通電状態に切り替わる。
【0056】
図11に示すように、原動側のギヤ35b(
図11(b)参照)の正転が待機状態に比して所定の角度(図示例では正転方向に90°)まで継続すると、従動側の端子板39b(
図11(c)参照)が回路基板38の第二の電極38bと第一のCOM電極38cとに電気的に繋がり、これら両電極38b、38c間が通電状態に切り替わる。このとき、ハンドル10(
図11(a)参照)は、待機状態に比して所定の傾斜角度(図示例では正転方向に30°)まで起立した中途起立状態にあり、また、弾性部材36が従動側のギヤ35c(
図11(c)参照)を正転方向に付勢しており、また、出力部材32は、弾性部材36の付勢で従動側のギヤ35cから右側へ押されているが、第二のスリット42の右側の端部42Rにおいて第二の突起32bの右端が当接することで右側への移動を規制されている。
【0057】
第二の電極38bと第一のCOM電極38c間が通電状態に切り替わったこと、すなわち、原動側のギヤ35bが中途起立状態に対応の位相にあることが回路基板38上において電気的に検知されたとき、モータ31(
図3参照)が正転を停止し、逆転を開始する。これに伴い、中継ギヤ34、インプットギヤ35aを介したモータ31側から原動側のギヤ35bへの入力回転の方向が反転し、
図12に示すように、原動側のギヤ35bが逆転(
図12(b)において時計回り方向に回転)し、原動側のギヤ35bと一体的に係合子35gも逆転する。このまま原動側のギヤ35b(
図12(b)参照)の逆転が進むと、原動側の端子板39aが回路基板38の第三の電極38dと第二のCOM電極38eとに電気的に繋がり、これら両電極38d、38e間が通電状態に切り替わる。この切り替わりが回路基板38上において電気的に検知されたとき、モータ31が逆転を停止する。このモータ逆転期間の逆転開始時点(
図11(c)参照)では、係合子35gと従動側のギヤ35cの第二の係合面35iとの間に逆転方向の空送距離がある。このため、このモータ逆転期間の逆転開始時点から逆転停止時点(
図12(c)参照)まで係合子35gが第二の係合面35iに係合して従動側のギヤ35cに逆転トルクを伝達することはなく空送し、したがって、弾性部材36の付勢方向が変化せず、ハンドル付勢部材33(
図2(b)参照)の付勢による出力部材32(
図12(a)参照)の左側移動及びハンドル10の逆転も生じない。すなわち、このモータ逆転期間の逆転停止時点では、原動側のギヤ35bと係合子35g(
図12(b)参照)が前述の中立位置に対応の位相(
図10に示す原動側のギヤ35bと同じ位相)に復帰しているが、弾性部材36の付勢に勝る外力の負荷でハンドル10(
図12(a)参照)が強制的に倒伏させられない限り、ハンドル10と従動側のギヤ35c(
図12(c)参照)と出力部材32は、
図11(a)、(c)の位相のままである。
【0058】
図12に示す中途起立状態にあるとき、この扉ハンドル装置が倒伏命令信号を受けると、モータ31(
図3参照)が逆転を開始し、これに伴い、中継ギヤ34、インプットギヤ35aを介したモータ31側から原動側のギヤ35bへの回転入力が生じる。このため、
図13に示すように原動側のギヤ35bが逆転(
図13(b)において時計回り方向に回転)し始め、原動側のギヤ35bと一体的に係合子35g(
図13(c)参照)も逆転し始める。このとき、係合子35gが従動側のギヤ35cの第二の係合面35iの近傍にあるため、速やかに第二の係合面35iに係合して従動側のギヤ35cに逆転トルクを伝達し、これ以降、従動側のギヤ35cも逆転(
図13(c)において時計回り方向に回転)し、弾性部材36の付勢方向が変化し、出力部材32が左側に直動し、これに伴い、ハンドル付勢部材33(
図2(b)参照)の付勢でハンドル10が逆転(
図13(a)において反時計回り方向に回転)する。この原動側のギヤ35b(
図13(b)参照)の逆転が所定の角度(図示例では逆転方向に90°)まで継続すると、従動側の端子板39b(
図13(c)参照)が回路基板38の第一の電極38aと第一のCOM電極38cとに電気的に繋がり、これら両電極38a、38c間が通電状態に切り替わる。このとき、ハンドル10(
図13(a)参照)は倒伏状態にある。第一の電極38aと第一のCOM電極38c間が通電状態に切り替わったこと、すなわち、原動側のギヤ35bが倒伏状態に対応の位相にあることが回路基板38上において電気的に検知されたとき、モータ31(
図3参照)が逆転を停止し、正転を開始する。このモータ31の正転中、原動側のギヤ35bと係合子35gが従動側のギヤ35cに対して空転する。モータ31は、原動側のギヤ35b及び係合子35gの位相が
図10に示す待機状態の位相になるまで正転を継続し、第三の電極38d(
図10(b)参照)と第二のCOM電極38eが通電状態に切り替わると、正転を停止し、これにより、この扉ハンドル装置の待機状態への復帰動作が完了する。
【0059】
この扉ハンドル装置が
図12に示す中途起立状態にある場合に、弾性部材36の付勢に勝る外力がハンドル10(
図12(a)参照)に負荷されことによりハンドル10が強制的に逆転(
図12(a)において反時計回り方向に回転)させられる可能性がある。例えば、扉前の人物が中途起立状態からハンドル10に手を掛けて扉を手前側へ引く際に突風等で扉が不意に手前側へ急開放した場合、その人物の胴体にハンドル10一端側10aが強く当たってハンドル10に逆転方向の外力(駆動機構に対する逆入力)が与えられる可能性がある。このような逆入力によってハンドル10が強制的に逆転させられると、ハンドルアーム部12に蹴られる出力部材32が左側に移動し、従動側のギヤ35c(
図12(c)参照)が逆転(
図12(c)において時計回り方向に回転)することになる。そして、
図14に示すように、ハンドル10(
図14(a)参照)が倒伏状態まで強制的に逆転させられたとしても、従動側のギヤ35c(
図14(c)参照)の第二の係合面35iが係合子35gから逆転方向(
図14(c)において時計回り方向)に遠ざかり、第一の係合面35hが係合子35gに接近するも係合しないため、係合子35g及び原動側のギヤ35b(
図14(b)参照)が逆転しない。また、出力部材32(
図14(c)参照)の第二の突起32bの左端が第二のスリット42の左端部42Lまで到達することはなく、弾性部材36の付勢方向の変化は従動側のギヤ35cを正転させる方向の範囲内に留まる。このようにハンドル10(
図14(a)参照)の強制的な逆転が倒伏状態まで許されることにより、外力負荷側(例えば人物)にハンドル10が強く当たることが防止されると共に駆動機構30(
図3参照)の破損が防止される。また、ハンドル10(
図14(a)参照)に対する外力の負荷がなくなることに伴い、弾性部材36の付勢でハンドル10が自ずと正転し、この扉ハンドル装置が
図12(a)に示す中途起立状態まで復帰することになる。
【0060】
また、この扉ハンドル装置が
図10に示す待機状態にある場合に駆動機構30(
図3参照)の電源を喪失(停電、バッテリー切れ)する可能性がある。その電源喪失時、
図15に示すように、倒伏状態にあるハンドル一端側10aとはハンドル軸11に対して反対側(
図15において左端側)の端部(ハンドル他端側10b)をハンドル台座20の収納凹部21内に設けた逃げ部20bへ押す、又はハンドル一端側10aに設けた凹部、凸部、孔部、フック部、切欠き部等からなる引上げ部10cに起立用ツール80等の適宜工具等を係合させて手前に引く手動操作を行えば、ハンドル10が中途起立状態まで正転させられる。なお、起立用ツールはクリップ等を適宜曲げたものでもよいので緊急時などでもハンドルを起立させることができる。このため、把持板部13と収納凹部21との間に開放された空間に手を挿し込み、把持板部13に手を掛けて
図1(d)に示す完全起立状態までハンドル10を引くことができる。この場合、
図10(c)に示すハンドルアーム部12が
図11(c)の位置まで右側へ移動して出力部材32から右側へ離脱するので、出力部材32とモータ31(
図3参照)間の駆動経路上における位相が変化することはなく、ハンドル10から手を離せば、ハンドル付勢部材33(
図2(b)参照)の付勢によりハンドル10が自ずと倒伏状態に戻り、この扉ハンドル装置が
図10に示す待機状態に戻ることになる。
【0061】
上述のように、この扉ハンドル装置は、ハンドル台座20と、ハンドル台座20に支持されたハンドル軸11回りにハンドル台座20側に倒伏された倒伏状態(
図1(a)、
図10参照)と、ハンドル台座20に対して所定の限界角度θまで起立させられた完全起立状態(
図1(d)参照)との間を回動可能に設けられたハンドル10と、を備えるものである。
【0062】
この扉ハンドル装置は、特に、倒伏状態で起立命令信号を受けたときにハンドル10を電動駆動で中途起立状態まで正転させ(
図1(c)、
図11、
図12参照)、倒伏命令信号を受けたときにハンドル10を倒伏状態まで復帰させる(
図13参照)駆動機構30を備え、ハンドル10が倒伏状態から中途起立状態まで正転させられることによりハンドル10の一端側10aとハンドル台座20の一端側20aとの間に手を挿し込み可能な空間が開放されるように設けられていることにより(
図1(c)、
図11、
図12、
図15参照)、ハンドル台座20の一端側20aに手を挿し込み可能な深い空間をあらかじめ設ける必要がなく、また、収納凹部21の一端側とハンドル10の一端側10aとの間に距離を取ってプル操作窓を設けることも不要になるため、閉扉時、ハンドル台座20が彫り込まれた扉面においてハンドル10の奥側に収納凹部21が窪んで視えず、扉Dの意匠性をより向上させることができ、また、ハンドル10の起伏動が駆動機構30(
図1、
図3参照)に対する起立命令信号と倒伏命令信号に基づくので、この扉ハンドル装置を電気錠と併用する場合には、起立命令信号と電気錠の解錠とを連係させ、倒伏命令信号と電気錠の施錠とを連係させることができ、ひいては、解錠権限の認証失敗時にハンドル10(
図1(c)、
図11、
図12参照)が自動的に中途起立状態にならないようにして、扉前の人物が電気錠の認証失敗に気づかないままハンドル10を引いてしまう事態を防止することができ、また、解錠後は任意の施錠時期までハンドル10(
図1、
図3参照)を駆動機構30で中途起立状態に維持することもでき(
図1(c)、
図11、
図12参照)、また、施錠時期に合わせてハンドル10が自動的に倒伏状態に戻るようにすることもできる(
図13参照)。このように、この扉ハンドル装置は、扉の意匠性をより向上させることが可能でありながら電気錠との併用性に優れたものとすることができる。
【0063】
また、この扉ハンドル装置は、駆動機構30(
図1、
図3参照)がハンドル10を倒伏状態に復帰させる方へ常時付勢するハンドル付勢部材33(
図2(b)参照)を有し、かつ倒伏命令信号を受けたときにハンドル付勢部材33の付勢によるハンドル10の逆転を許した後(
図13参照)、ハンドル10の正転を許す状態で待機するようになっており(
図10参照)、倒伏状態にあるハンドル10(
図15参照)の一端側10aとは反対側が収納凹部21へ押し込まれることにより、又はハンドル10の一端側10aに設けた引上げ部10cに適宜工具等を係合させて手前に引くことによりハンドル10が中途起立状態まで正転させられるように設けられていることにより、電源喪失が起こっても、ハンドル10の反対側を押す、又はハンドル10の一端側10aに設けた引上げ部10cに適宜工具を係合させて手前に引く手動操作で倒伏状態から中途起立状態まで正転させ(
図15参照)、その後、ハンドル10の一端側10aに手を掛けて完全起立状態まで正転させ(
図1(d)参照)、扉を開くことができる。
【0064】
また、この扉ハンドル装置は、駆動機構30(
図3、
図14参照)がハンドル10の中途起立状態からの逆転による逆入力を遮断するクラッチとしての原動側のギヤ35b、従動側のギヤ35c及び係合子35gと、クラッチで遮断されたハンドル10側の駆動機構要素としての従動側のギヤ35cをハンドル付勢部材33(
図2(b)参照)の付勢に抗して中途起立状態まで復帰させる方へ付勢する弾性部材36(
図3、
図14参照)と、を有することにより、ハンドル10が中途起立状態にある場合にハンドル10を強制的に逆転させる方向の外力がハンドル10に負荷されたとしても、その駆動機構30に対する逆入力をクラッチで遮断してハンドル10の逆転を許し、負荷側に対してハンドル10を逃がして負荷側や駆動機構30の損傷を防止することができ、その逆入力の解消に応じてハンドル10を弾性部材36の付勢で自ずと中途起立状態まで復帰させることができる。
【0065】
また、この扉ハンドル装置は、扉D(
図1、
図3参照)の戸先に彫り込まれるケース40をさらに備え、駆動機構30がハンドル10を正転させる駆動源となるモータ31と、ケース40の厚み方向と直交する方向としての幅方向にハンドル10を押す出力部材32(
図11、
図12参照)と、モータ31(
図1、
図3参照)側から入力された回転を減速して出力部材32に伝達する歯車減速機35と、を有し、モータ31及び歯車減速機35がケース40に収められており、歯車減速機35に属する各歯車軸35e、35dがケース40の厚み方向に延びており、モータ31がケース40の厚み方向と直交する方向に延びるモータ軸31aを有し、かつケース40の厚み方向と直交する方向としての幅方向に歯車減速機35と重なる位置に配置されていることにより、モータ31等を収めるのに必要なケース40の厚み方向の寸法を抑えることができ、ひいてはケース40を扉Dの戸先に彫り込んで扉Dの内部に配置するのに必要な扉Dの厚みを抑えることができる。
【0066】
また、この扉ハンドル装置は、ハンドル10(
図1~
図4参照)とは別体に設けられ、中途起立状態と完全起立状態との間のハンドル10の回動によって揺動させられるレバー部材70をさらに備え、ケース40にラッチ錠50が収められており、ハンドル10が出力部材32に押されるハンドルアーム部12を有し、レバー部材70が中途起立状態から完全起立状態へのハンドル10の正転に応じてラッチ錠50を仮締め解除状態に移行させるように設けられていることにより、モータ31等を収めるケース40とラッチ錠50の錠ケースを兼用し、ケース40の戸先への彫り込みを彫込型ラッチ錠と同様にすることができながら、中途起立状態と完全起立状態間のハンドル10の回動とラッチ錠50とをレバー部材70を介して連係させることができる。
【0067】
この扉ハンドル装置では、扉Dに彫り込まれるケース40の厚みを抑える目的で歯車減速機35の大径な原動側のギヤ35b等の各歯車軸35e等を厚み方向に向けたが、許容されるケースの厚みによっては、原動側のギヤ等の歯車軸を長手方向や幅方向に変更することも可能である。また、同目的から出力部材32を厚み方向に直交する方向に直動するものとしたが、出力部材を回転カムに変更すること、例えば、従動側のギヤと同軸上で回転するカムに変更したり、従動側のギヤを回転カム兼用に変更したりすることも可能であり、直動にする方が効率よくハンドルアーム部を押すことができる。
【0068】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0069】
例えば、今回開示された実施形態では、モータ軸31aはケース40の長手方向に延びるように配置したが、本発明はこれに限るものではなく、ケース40の厚み方向と直交する方向であれば幅方向又は斜め方向に延びるように配置したものであってもよい。
【0070】
また、今回開示された実施形態では、ハンドル10の一端側10aはハンドル軸11よりも吊元側に配置した構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、例えばハンドルの一端側10aをハンドル軸11よりも戸先側に配置した構成等に適宜変更してもよい。
【0071】
また、今回開示された実施形態では、ハンドル台座20は収納凹部21を有し扉D内に彫り込まれるように配置したが、本発明はこれに限るものではなく、ハンドル台座は収納凹部を有さず扉Dの面上に面付け配置した構成であってもよい。
【0072】
また、今回開示された実施形態に基づいて以下の付記発明が開示され又は容易に得られる。
【0073】
[付記発明1]
認証用情報が予め登録されたものと合致すると認証されたときに認証成功情報を発する認証装置と、
ハンドル台座と、
前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の角度まで起立させられた起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、
前記倒伏状態で前記認証成功情報が発せられたときに前記ハンドルを電動駆動で起立状態まで正転させる駆動機構と、を備え、
前記ハンドルが前記倒伏状態から前記起立状態まで正転させられることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放される扉ハンドル装置。
【0074】
付記発明1において、認証用情報とは、操作者が保有する電子キー、ICカードのほか、指紋、声紋、虹彩、静脈パターン、顔輪郭や目鼻立ち等の顔認証用情報等を意味し、適宜選択可能である。その他の構成は前述の実施形態と同様に構成すればよい。
【0075】
付記発明1によると、
図16に示すようにドアDまたは枠側に設けた認証装置において認証成功した場合は、引手としてのハンドルが起立して手を挿し込み可能な空間が開放されるので開扉できるのに対して、認証成功しない場合はハンドルが起立しないので、扉の自重が大きい場合やマグネットキャッチなどで扉が枠に吸着されている場合等では開扉することができない。したがって、ラッチ装置やデッドボルト等の機械的な施解錠装置を設けなくても、ハンドルの起立倒伏動作そのものを、簡易的な施解錠の機能として提供することができる。
【0076】
付記発明1において、前記駆動機構が、前記ハンドルの前記起立状態からの逆転による逆入力を遮断するクラッチと、前記クラッチで遮断されたハンドル側の駆動機構要素をハンドル付勢部材の付勢に抗して前記起立状態まで復帰させる方へ付勢する弾性部材と、を有する構成としても良い。これにより、ハンドルが起立して手を挿し込んでドアを開扉している途中で、突風によってドアが操作者側に向かって急激に開いてきたとしても、ハンドルはドアに対して剛体的に起立しているものではなく、起立状態からの逆転による逆入力を遮断して倒伏方向に逃げることができるので、ハンドルが操作者の胴体などに衝突しても負傷を抑制できる。
【0077】
なお、前記認証装置の発する認証成功情報又は認証失敗情報をもとに、デッドボルト等による施解錠を行う電気錠を別途有してもよいことは言うまでも無い。
【0078】
[付記発明2]
デッドボルトを有する施解錠装置と、
前記デッドボルトによる施解錠状態を検出し施錠信号又は解錠信号を発する施解錠状態検出器と、
ハンドル台座と、
前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の角度まで起立させられた起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、
前記倒伏状態で前記解錠信号が発せられたときに、前記ハンドルを電動駆動で起立状態まで正転させる駆動機構と、を備え、
前記ハンドルが前記倒伏状態から前記起立状態まで正転させられることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放される扉ハンドル装置。
【0079】
付記発明2において、
図17に示すように、ケース40内にはデッドボルト100を有する施解錠装置101と、デッドボルト100による施解錠状態を検出し施錠信号又は解錠信号を発する施解錠状態検出器102と、ハンドルが倒伏状態で解錠信号が発せられたときに、ハンドルを電動駆動で起立状態まで正転させる駆動機構30が配設されている。施解錠装置101は、シリンダー錠110や図示しないサムターンに連動して、デッドボルト100を出没することでドアDを施解錠する。なお、ハンドルやハンドル台座等の構成は前述の実施形態と同様に構成すればよい。
【0080】
ここで付記発明2において、シリンダー錠110やサムターンを操作し、デッドボルト100が没入し解錠状態となると、施解錠状態検出器102は解錠信号を発し、駆動機構30はハンドルが倒伏状態で解錠信号が発せられたときに、ハンドルを電動駆動で起立状態まで正転させることにより、ハンドルを操作できるようになり、ドアDを開くことができる。
【0081】
付記発明2において、前記起立状態で前記施錠信号が発せられたときに、前記ハンドルを電動駆動で倒伏状態まで復帰させるように構成してもよい。さらに、前述の実施形態と同様に、ハンドルの起立状態に応じて仮締め解除するラッチ錠50を追加してもよい。
【0082】
付記発明2によると、電子キーや生体認証を用いずに、シリンダー錠やサムターン錠などで機械的に施解錠する場合でも、施解錠状態検出器102から発出される施錠信号又は解錠信号に基づき、施解錠装置101のデッドボルトの施解錠状態に連動してハンドルを起立、倒伏させることができるので、高い意匠性と操作性を両立することができる。
【0083】
付記発明2において、前記駆動機構が、前記ハンドルを前記倒伏状態に復帰させる方へ常時付勢するハンドル付勢部材を有し、かつ前記施錠信号が発せられたときに、前記ハンドル付勢部材の付勢により前記ハンドルを前記ハンドル台座側へ倒伏させるとともに、前記ハンドルの起立を許すように構成してもよい。これにより、前記駆動機構が、前記ハンドルを前記倒伏状態に復帰させるときに、ハンドルとハンドル台座との間に手が挟まっても、ハンドル付勢部材の付勢力を適宜設定しておけば、手の負傷を回避できる。
【0084】
[付記発明3]
ハンドル台座と、
前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の角度まで起立させられた起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、
前記倒伏状態で起立命令信号を受けたときに前記ハンドルを電動駆動で起立状態まで正転させ、倒伏命令信号を受けたときに前記ハンドルを倒伏状態まで復帰させる駆動機構と、を備え、
前記ハンドルが前記倒伏状態から前記起立状態まで正転させられることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放されるとともに、
前記ハンドルが前記起立状態を所定時間以上継続した場合に、自動的に前記ハンドルを倒伏状態まで復帰させる扉ハンドル装置。
【0085】
ハンドルが起立した状態のまま放置されると、解錠状態である事が第三者に容易に分かってしまうため、そのままハンドルを引っ張られると開扉されてしまう。一方、付記発明3によると、解錠状態で扉を開けなかった場合に、予め設定された所定時間に達するとタイマー手段を有する制御装置(図示省略)により自動的にハンドルを倒伏状態にすることができるため、仮にハンドルが倒伏しただけの解錠状態であったとしても、引手としてのハンドルが収納されてしまうため、開扉することができない。したがって、ラッチ装置やデッドボルト等の施解錠装置を必ずしも設けなくても、ハンドルの起立倒伏動作そのものを、簡易的な施解錠の機能として提供することができる。
【0086】
[付記発明4]
ハンドル台座と、
前記ハンドル台座に支持されたハンドル軸回りに前記ハンドル台座側に倒伏された倒伏状態と、前記ハンドル台座に対して所定の限界角度まで起立させられた完全起立状態との間を回動可能に設けられたハンドルと、
扉の戸先に彫り込まれるケースと、
前記ハンドルとは別体に設けられたレバー部材と、を備え、
前記倒伏状態にある前記ハンドルの一端側とは反対側が前記ハンドル台座に設けた逃げ部へ押し込まれることにより、又は前記ハンドルの一端側に設けた引上げ部が手前に引かれることにより前記ハンドルの一端側と前記ハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が開放される中途起立状態まで前記ハンドルが正転させられるようになっており、
前記ケースにラッチ錠が収められており、
前記レバー部材が、前記中途起立状態と前記完全起立状態との間の前記ハンドルの回動によって揺動させられ、かつ前記中途起立状態から前記完全起立状態への前記ハンドルの正転に応じて前記ラッチ錠を仮締め解除状態に移行させるように設けられている扉ハンドル装置。
【0087】
特許文献1のようにハンドルとラッチを操作するレバーが一体的に回動するように構成された扉ハンドル装置だと、手を挿し込めない倒伏状態から手を挿し込める中途起立状態まで起立させる途中でラッチ錠が操作されてしまい扉の仮締めが解除されてしまうことがある。また、ラッチを操作するレバーにラッチ錠側から反発力が作用するため、停電時などにハンドルの一端側とは反対側を手で押し込んでハンドルを中途起立状態まで起立させるのに必要なトルクが大きくなり手動での起立が困難になる。これを回避するため、ラッチを操作するレバー長を短くすると、中途起立状態から扉の仮締めが解除される完全起立状態までに必要なハンドルのストローク(回動角)が大きくなってしまい、開扉時の操作性が悪くなる。
【0088】
これに対して、付記発明4は前述の実施形態から駆動機構30を除いたものであり、付記発明4によると、ラッチ錠に連動するレバー部材70とハンドル10とが別体に設けられて分割されていることから、倒伏状態から
図15に示す中途起立状態までハンドル10の回動動作がラッチ錠に伝達しないので、停電時などにハンドルの一端側とは反対側を手で押し込み中途起立状態まで起立させる際にもごく軽い力で起立させることができる。そして、中途起立状態から完全起立状態までハンドルを小さなストロークだけ回動すればレバー部材70がラッチ錠を解錠できるので、開扉時の操作性がよくなる。このように、たとえ電源がなくてもハンドルの一端側とハンドル台座の一端側との間に手を挿し込み可能な空間が容易に開放されるので、さらにわずかにハンドルを引くだけでラッチ錠を解錠でき、開扉時の操作性を改善できる。そのため、例えば防火扉用のハンドルなど、電源を用意することが困難な用途にも適用させることができる。また、住宅等の扉においても、停電時等の緊急時においても、ドアを開けることができる。なお、ハンドルの一端側に設けた引上げ部10cを起立用ツール80などで引いてもよい。
【0089】
なお上記付記発明1ないし4は、上記例示に限定されるものではなく、本明細書に記載の事項と適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 ハンドル
10a ハンドルの一端側
10b ハンドルの他端側
10c 引上げ部
11 ハンドル軸
12 ハンドルアーム部
20 ハンドル台座
20a ハンドル台座の一端側
20b 逃げ部
21 収納凹部
30 駆動機構
31 モータ
31a モータ軸
32 出力部材
33 ハンドル付勢部材
35 歯車減速機
36 弾性部材
40 ケース
50 ラッチ錠
70 レバー部材
80 起立用ツール