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特開2024-152688ホスファゼン系誘導体、組成物及びそれの電気化学デバイスにおける使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152688
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ホスファゼン系誘導体、組成物及びそれの電気化学デバイスにおける使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6593 20060101AFI20241018BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
C07F9/6593 CSP
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063907
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】112114098
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519380314
【氏名又は名称】中國石油化學工業開發股▲分▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】502250743
【氏名又は名称】國立成功大學
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CHENG KUNG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン 正雄
(72)【発明者】
【氏名】陳 建州
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 志偉
(72)【発明者】
【氏名】李 偉英
(72)【発明者】
【氏名】李 俊欽
【テーマコード(参考)】
4H050
5H029
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB91
4H050WA15
4H050WA23
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造プロセスの複雑度を増加させずに、電気化学的安定性が高く、添加量が少なく、且つ、良好なサイクル状態で、リチウムイオン電池の安全性を改善できる電解液添加剤を提供する。
【解決手段】式(I)の構造のホスファゼン系誘導体、及び該ホスファゼン系誘導体を含む添加剤を提供する。

【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体。
【化1】
(式中、nは、3~6の整数であり、R1~R2は、独立に式(I-1)または式(I-2)で表される基より選択される。)
【化2】
(式中、Aは、-R3-O-R4、-R3-CH3-m(OR4m、-CH3-m(OR4mまたは
【化3】
であり、R3は、非置換またはC1-C8アルキル基で置換されたC1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、R5は、C1-C3アルキル基であり、R6は、C1-C3アルキレン基であり、R7は、C1-C3アルキル基であり、xは、1または2であり、mは、2または3であり、pは、連結したベンゼン環における炭素に結合したAの数であり、且つpは、0~3の整数であり、
Bは、C1-C8アルコキシ基またはC1-C8アルキル基であり、且つqは、0~3の整数であり、且つ、0<p+q≦5である。)
【請求項2】
1~R2は、式(I-1)で表される基であり、Aは、-R3-O-R4、且つR3は、C1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、pは、0または1であり、Bは、C1-C8アルコキシ基であり、且つqは、0または1であり、且つ、0<p+q≦2である、請求項1に記載のホスファゼン系誘導体。
【請求項3】
以下の化合物(1-1)~(1-4)からなる群より選択される1つである、請求項2に記載のホスファゼン系誘導体。
【化4】
【化5】
【請求項4】
電解質、非水系溶媒及び添加剤を含み、前記添加剤は、請求項1に記載のホスファゼン系誘導体を含む、電気化学デバイスに用いられる組成物。
【請求項5】
1~R2は、式(I-1)で表される基であり、Aは、-R3-O-R4であり、且つR3は、C1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、pは、0または1であり、Bは、C1-C8アルコキシ基であり、且つqは、0または1であり、且つ、0<p+q≦2である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
以下の化合物(1-1)~(1-4)からなる群より選択される1つである、請求項5に記載の組成物。
【化6】
【化7】
【請求項7】
前記組成物の全重量に対して、前記電解質の含有量は、9.95~19.95重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物の全重量に対して、前記添加剤の含有量は、0.05~20.0重量%である、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
前記電解質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、フルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記非水系溶媒は、カーボネート類、フラン類、エーテル類、チオエーテル類及びニトリル類からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項11】
前記非水系溶媒は、エーテル系高分子、ポリメタクリレート(polymethacrylate)系高分子、ポリアクリレート系高分子及びフッ素系高分子からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に配置された請求項4に記載の組成物を含む、電気化学デバイス。
【請求項13】
リチウムイオン二次電池である、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに用いられる組成物に関し、特に電気化学デバイスに適用される組成物におけるホスファゼン系誘導体基系添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子、エネルギー貯蔵、生物医学、電気自動車等の設備及び機器において、リチウム電池が広く応用されているため、それらに対応して使用される電池は、高いエネルギー密度と高い安全性を有し、また、長時間にわたって使用した後も高い蓄電量及び高い放電量を保持できる等の利点を有することが望ましい。したがって、これらの特性要求を満たすリチウムイオン電池(Lithium ion battery)は、徐々に関連の学界と業界に注目される。
【0003】
リチウムイオン電池(Lithium ion battery)は、軽い質量、高いエネルギー密度、優れたサイクル特性及び高出力等の利点を有し、電動工具、電気自動車等の高出力の製品に徐々に応用される。電気自動車の動力源である電池に必要とされる安全性及びコストの考慮に基づき、固体電解質、コロイド電解質、及び難燃性電解液の選択は、リチウムイオン電池の安全性向上の注目点となっている。しかし、固体/コロイド電解質材料は、電解液漏れのリスクを解決できるが、その界面層のインピーダンスは、依然として各界において解決すべき問題であり、また、それは短時間で商品化できる製品技術ではない。したがって、適切な難燃性電解液の選択は、現在、製造業者にとって興味を持っている方向の1つである。
【0004】
一つの文献(Journal of Power Source, Volume 119-121, 1 June 2003, Pages 383-387)には、リン酸トリフェニル(TPP)及びリン酸トリブチル(TBP)などの有機リン酸塩化合物を含有する難燃剤は、満充電状態でリチウムイオン電池に優れた熱安全性を提供することが開示されている。しかし、ほとんどのリン含有化合物の分子基が大きく、過剰なリン含有化合物の添加量がリチウムイオン電解液の粘度を増加させ、イオン導電率を低下させ、リチウムイオン電池のレート性能に多大な悪影響を与える。もう一つの文献(Journal of Power Source, Volume 278, 15 March 2015, Pages 190-196)には、高効率難燃添加剤(エトキシ)ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(N335OCH2CH3、PFPNとも称する)が開示され、それが合成されており、且つ、充電式リチウム電池の安全性保護添加剤とされている。PFPN添加剤は、今まで全ての文献報告において最も効果的な難燃添加剤の1つであると考えられる。充放電試験により、PFPN添加剤は、グラファイト負極及びLiCoO2に対して良好な電気化学的適合性カソードが示された。同時に、配合されたPFPN添加剤は、LiCoO2電極の4.5Vの高いカットオフ電圧でのサイクル性能を大幅に向上させることができ、高圧リチウムイオン電池に対する有望な応用性を示す。
【0005】
しかし、フッ素含有ホスファゼン系PFPN添加剤は、従来のリン酸エステル系難燃剤よりも優れた効果を有するが、その市場価格が高すぎ、電池メーカーの導入意欲に影響を与える。したがって、低い価格を有し、製造プロセスが簡単で、且つ電池の安全性を顕著に改善できる電解液添加剤を提供することは、現時点で業界において解決すべき問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術の様々な欠点に鑑み、本発明は、製造プロセスの複雑度を増加させずに、電気化学的安定性が高く、添加量が少なく、且つ、良好なサイクル状態で、リチウムイオン電池の安全性を改善できる電解液添加剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体を提供する。
【0008】
【化1】
(式中、nは、3~6の整数であり、R1~R2は、独立に式(I-1)または式(I-2)で表される基より選択される。)
【0009】
【化2】
(式中、Aは、-R3-O-R4、-R3-CH3-m(OR4m、-CH3-m(OR4m、または
【0010】
【化3】
であり、R3は、非置換またはC1-C8アルキル基で置換されたC1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、R5は、C1-C3アルキル基であり、R6は、C1-C3アルキレン基であり、R7は、C1-C3アルキル基であり、xは、1または2であり、mは、2または3であり、pは、連結したベンゼン環における炭素に結合したAの数であり、且つ、pは、0~3の整数であり、
Bは、C1-C8アルコキシ基またはC1-C8アルキル基であり、且つqは、0~3の整数であり、且つ、
0<p+q≦5である。)
【0011】
本発明のホスファゼン系誘導体の一つの具体的な実施態様において、nは、3であり、且つ、R1~R2は、式(I-1)で表される基であり、Aは、-R3-O-R4であり、且つ、R3は、C1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、pは、0または1であり、Bは、C1-C8アルコキシ基であり、且つqは、0または1であり、且つ、0<p+q≦2である。
【0012】
本発明のホスファゼン系誘導体の一つの具体的な実施態様において、前記R1~R2が式(I-1)で表される基より選択される場合、前記ホスファゼン系誘導体は、以下の化合物(1-1)~(1-4)からなる群より選択される1つである。
【0013】
【化4】
【0014】
【化5】
【0015】
本発明は、さらに電気化学デバイスに用いられる組成物を提供し、前記組成物は、電解質、非水系溶媒及び添加剤を含み、前記添加剤は、本発明のホスファゼン系誘導体を含む。
【0016】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体におけるnは、3であり、且つ、R1~R2は、式(I-1)で表される基であり、Aは、-R3-O-R4であり、且つ、R3は、C1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、pは、0または1であり、Bは、C1-C8アルコキシ基であり、且つ、qは、0または1であり、且つ、0<p+q≦2である。
【0017】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記R1~R2が式(I-1)で表される基より選択される場合、前記ホスファゼン系誘導体は、以下の化合物(1-1)~(1-4)からなる群より選択される1つである。
【0018】
【化6】
【0019】
【化7】
【0020】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記組成物の全重量に対して、前記電解質の含有量は、9.95~19.95重量%である。
【0021】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記組成物の全重量に対して、前記添加剤の含有量は、0.05~20.0重量%である。
【0022】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記電解質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、フルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0023】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記非水系溶媒は、カーボネート類、フラン類、エーテル類、チオエーテル類、及びニトリル類からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0024】
本発明の組成物の一つの具体的な実施態様において、前記非水系溶媒は、エーテル系高分子、ポリメタクリレート(polymethacrylate)系高分子、ポリアクリレート系高分子、及びフッ素系高分子からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0025】
本発明は、正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に配置された本発明に記載の組成物を含む、電気化学デバイスをさらに提供する。
【0026】
本発明の電気化学デバイスの一つの具体的な実施態様において、リチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の電気化学デバイスに用いられる組成物は、新規なホスファゼン誘導体基系添加剤を含み、また、この添加剤の使用により、従来のリチウムイオン電池の安全性が好ましくないという欠陥を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A-1D】図1A-1Dは、それぞれ、本発明の式1-1~式1-4化合物のNMRスペクトルである。
【0029】
図2A-2E】図2A-2Eは、それぞれ、1Cサイクル寿命試験において、電池の電解液に、式1-1化合物を添加しない、または5%、10%、15%及び20%の式1-1化合物を添加し、25℃の環境温度での試験結果である。
【0030】
図3A-3E】図3A-3Eは、それぞれ、レート充放電試験において、電池の電解液に、式1-1化合物を添加しない、または5%、10%、15%及び20%の式1-1化合物を添加し、25℃の環境温度で、それぞれ、0.1C、0.2C、0.3C、0.5C及び1Cという異なるレートで充放電試験を行った結果である。
【0031】
図4A-4B】図4A-4Bは、それぞれ、NMC622三元系電池の釘刺し試験における電池電圧及び温度観測曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を特定の具体的な実施例により説明し、当業者は、本明細書の開示内容から本発明の利点及び効果を容易に理解できる。本発明は、他の異なる実施形態により実施又は応用することができ、本明細書における各項の詳細も異なる観点及び応用に基づき、本発明の開示する要旨から逸脱しない限り、異なる修飾及び変更を付与することができる。また、本明細書における全ての範囲及び値は、包括的であり、組み合わされ得る。本明細書に記載の範囲内の任意の数値または点、例えば、任意の整数を、最小値または最大値として、下位範囲などを導き出すことができる。
【0033】
一つの具体的な実施態様において、本発明は、式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体を提供する。
【0034】
【化8】
(式中、nは、3~6の整数であり、R1~R2は、独立に式(I-1)または式(I-2)で表される基より選択される。)
【0035】
【化9】
(式中、Aは、-R3-O-R4、-R3-CH3-m(OR4m、-CH3-m(OR4mまたは
【0036】
【化10】
であり、R3は、非置換またはC1-C8アルキル基で置換されたC1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、R5は、C1-C3アルキル基であり、R6は、C1-C3アルキレン基であり、R7は、C1-C3アルキル基であり、xは、1または2であり、mは、2または3であり、pは、連結したベンゼン環における炭素に結合したAの数であり、且つpは、0~3の整数であり、
Bは、C1-C8アルコキシ基またはC1-C8アルキル基であり、且つqは、0~3の整数であり、且つ、
0<p+q≦5である。)
【0037】
一つの具体的な実施態様において、本発明の炭素原子数の範囲は、下限値から上限値まで広げることができ、例えば、C1-C8とは、炭素原子数が、1、2、3、4、5、6、7または8であることを意味する。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体である化合物は、表1から選択されるが、これらに限定されるものでない。
【0039】
【表1】
【0040】
もう一つの具体的な実施態様において、本発明の式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体は、以下の化合物であることが好ましい。
【0041】
【化11】
【0042】
もう一つの具体的な実施態様において、本発明は、本発明のホスファゼン系誘導体基系添加剤を含有する、電気化学デバイスに用いられる組成物を提供し、また、前記添加剤の使用により、より好ましい安全性を有する電気化学デバイスを提供する。一つの具体的な実施例において、本発明の組成物は、電解質、非水系溶媒及び添加剤を含み、前記添加剤は、本発明の式(I)の構造のホスファゼン系誘導体を含む。
【0043】
【化12】
(式中、nは、3~6の整数であり、R1~R2は、独立に式(I-1)または式(I-2)で表される基より選択される。)
【0044】
【化13】
(式中、Aは、-R3-O-R4、-R3-CH3-m(OR4m、-CH3-m(OR4mまたは
【0045】
【化14】
であり、R3は、非置換またはC1-C8アルキル基で置換されたC1-C8アルキレン(またはアルキリデン)基であり、R4は、C1-C8アルキル基であり、R5は、C1-C3アルキル基であり、R6は、C1-C3アルキレン基であり、R7は、C1-C3アルキル基であり、xは、1または2であり、mは、2または3であり、pは、連結したベンゼン環における炭素に結合したAの数であり、且つ、pは、0~3の整数であり、
Bは、C1-C8アルコキシ基またはC1-C8アルキル基であり、且つ、qは、0~3の整数であり、且つ、
0<p+q≦5である。)
【0046】
一つの具体的な実施態様において、本発明の炭素原子数の範囲は、下限値から上限値まで広げることができ、例えば、C1-C8とは、炭素原子数が、1、2、3、4、5、6、7または8であることを意味する。
【0047】
一つの具体的な実施態様において、本発明の組成物における添加剤に含まれる式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体である化合物は、前記の表1から選択されるが、これらに限定されるものでない。
【0048】
もう一つの具体的な実施態様において、本発明の組成物における添加剤に含まれる式(I)の構造を有するホスファゼン系誘導体は、以下の化合物であることが好ましい。
【0049】
【化15】
【0050】
本発明の組成物において、各成分の含有量は、実際の応用に応じて変更することができ、本明細書に記載の含有量に限定されない。
【0051】
一つの具体的な実施態様において、前記組成物の全重量に対して、本発明の組成物における電解質の含有量は、約9.95~19.95重量%であり、例えば、9.95、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0、17.0、18.0、19.0または19.95重量%である。
【0052】
一つの具体的な実施態様において、前記組成物の全重量に対して、本発明の組成物における添加剤の含有量は、約0.05~20.0重量%であり、例えば、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0、17.0、18.0、19.0または20.0重量%である。
【0053】
本発明の組成物において、非水系溶媒の含有量は、前記組成物における他の成分の含有量の変更に応じて変更することができ、前記非水系溶媒の含有量と組成物における他の成分を合わせて、全含有量が100重量%であればよく、即ち、前記非水系溶媒の用途の一つは、前記組成物を100重量%にするまで補充することである。一つの具体的な実施例において、本発明の組成物における非水系溶媒の含有量は、約65.0~90.0重量%であり、例えば、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89または90重量%である。一つの具体的な実施態様において、本発明の組成物における非水系溶媒の含有量は、約80.0~90.0重量%である。
【0054】
本発明に適用される電解質は、当技術分野において常用されるものである。本発明の組成物の一つの具体的な実施例において、前記電解質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、フルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0055】
本発明の組成物における非水系溶媒において、その形態として、液状、及び非液状、例えば、固体状又はゲル状であってもよいが、これらに限定されるものでない。
【0056】
液状非水系溶媒の態様において、当技術分野において常用されるものを選択することができ、例えば、カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、またはメチルエチルカーボネート(methylethyl carbonate))、フラン類(例えば、テトラヒドロフラン)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル(diethyl ether))、チオエーテル類(例えば、メチルスルホラン(methyl-sulfolane))、及びニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)からなる群より選択される少なくとも1つである。本発明の組成物の一つの具体的な実施例において、前記非水系溶媒は、カーボネート類、フラン類、エーテル類、チオエーテル類、及びニトリル類からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0057】
非液状非水系溶媒の態樣において、その材質は、高分子化合物であってもよく、例えば、エーテル系高分子(例えば、ポリエチレンオキサイド(polyethyleneoxide)、またはその架橋体)、ポリメタクリレート(polymethacrylate)系高分子、ポリアクリレート(polyacrylate)系高分子、フッ素系高分子(例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride、PVDF)、及びフッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoro propylene)コポリマー)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。本発明の組成物の一つの具体的な実施例において、前記非水系溶媒は、エーテル系高分子、ポリメタクリレート(polymethacrylate)系高分子、ポリアクリレート系高分子、及びフッ素系高分子からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0058】
本発明の組成物は、上記電解質及び本発明のホスファゼン系誘導体基系添加剤を上記液状非水系溶媒に溶解すること、または電解質及び本発明のホスファゼン系誘導体基系添加剤をそれぞれ液状非水系溶媒に溶解してから混合することにより、得ることができる。使用する非水系溶媒が固体状である場合、予め、有機溶媒(例えば、アルカン類、ケトン類、アルデヒド類、アルコール類、エーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ケロシンまたはこれらの組み合わせ)を使用し、電解質、本発明のホスファゼン系誘導体基系添加剤及び前記固体状の非水系溶媒を溶解して均一に混合してから、加熱して有機溶媒を蒸発させ、本発明の組成物を得ることができる。
【0059】
もう一つの具体的な実施態様において、本発明は、前記組成物を電気化学デバイスに適用することで、従来の電気化学デバイスとは異なる電気化学デバイスを得ることができる。即ち、本発明は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された本発明に記載の組成物とを含む電気化学デバイスも提供する。
【0060】
一つの具体的な実施例において、本発明の電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池である。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明の諸々の性質及び効果を詳細に説明する。これらの詳細な実施例は、本発明の性質を説明するためのものに過ぎず、本発明は、特定の実施例に例示したものに限定されるものではない。
【0062】
製造例1
1.式1-1化合物の製造:
本発明の式1-1化合物は、以下の合成スキーム1より製造することができる。具体的には、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(1g、2.87mmol、1eq)と、アセトン(20mL)とを混合して溶液aを形成し、4-(2-メトキシエチル)フェノール(3.94g、25.9mmol、9eq)と、アセトン(60mL)とを混合して溶液bを形成した後、K2CO3(3.58g、25.9mmol、9eq)を上記溶液bに入れて、溶液cを形成した。溶液cを溶液aに入れて、70℃の油浴下で4日間凝縮還流させた。反応終了後、固体をろ去し、減圧蒸留して溶媒を除去した後、粗生成物を得た。粗生成物をメタノール及び水による洗浄を繰り返した後に凍結乾燥し、粉末形態の式1-1化合物を得た。式1-1化合物のNMRスペクトルを図1Aに示す。
<合成スキーム1>
【0063】
【化16】
【0064】
2.電気化学デバイスに用いられる組成物の製造
エチレンカーボネート(EC)をジエチルカーボネート(DEC)またはジメチルカーボネート(DMC)に等重量比で溶解して混合し、EC:DEC:DMC(1:1:1)またはEC:DEC(1:1)の混合溶液を得た。次に、重量モル濃度で計算した後、11.8重量%のLiPF6電解質を前記混合溶液に入れた。最後に、重量で計算し、5重量%または7重量%の添加剤(前記方法により製造された式1-1化合物)を入れ、撹拌して均一に混合し、電気化学デバイスに用いられる組成物を製造した。
【0065】
製造例2~4
式1-2~1-4化合物の製造:
4-(2-メトキシエチル)フェノールを、バニリルブチルエーテル(vanillyl butyl ether)、バニリルエチルエーテル(vanillyl ethyl ether)及びヒドロキノンモノメチルエーテル(4-methoxyphenol)に変更した以外は、前記製造例1の式1-1化合物と同じ製造方法で、それぞれ式1-2、式1-3及び式1-4化合物を製造した。式1-2~式1-4化合物のNMRスペクトルをそれぞれ図1B~1Dに示す。
【0066】
実施例1:電解液の難燃性試験
製造例1で得られた式1-1化合物を電解液に用いて難燃性試験を行い、試験方式は、以下のとおりである。
1.式1-1化合物及び市販の難燃剤PFPN(ペンタフルオロエトキシシクロトリホスファゼン)を、0や5重量%の量で、それぞれ、市販の電解液(EC:DEC=1:1、1M LiPF6)に溶解し、測定対象の電解液を製造した。
2.10mlの測定対象の電解液を20mlのサンプル瓶に入れた。長さ4cm、幅1cmのガラスクロスを、前記電解液内に10秒間完全に浸漬した後に取り出し、ダブルクリップでガラスクロスの一端を試験管立てに固定した。
3.固定の火源(市販のブタンライター由来)を、ガラスクロスにおける固定端に対する非固定端に3秒間接触させた後に除去し、火炎が完全に消えるまで燃焼現象を観察し続け、燃焼時間を記録する。この時間は、火源が取り除かれてから火が完全に消えるまでの時間(自己消火時間)として計算される。
試験結果:難燃性試験の結果を以下の表2にまとめた。添加濃度及び自己消火時間の結果から、式1-1化合物は、確実に電解液の難燃能力を向上させる効果を有し、また、使用量が5%である場合、効果が市販の難燃剤PFPNよりも優れていることを示した。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例2:LiFePO4コインセルのサイクル寿命試験
1.電池の組み立て:
LiFePO4を正極とし、リチウム金属シートを負極とし、市販のセパレータフィルム(CelgardR 2325)及び電解液(1M LiPF6がEC/DEC(1:1)にある)を用いて、コインセルを構成して試験を行った。
2.1Cサイクル寿命試験:
前記組み立てられた電池の電解液に、式1-1化合物を、それぞれ、添加なしで0%(対照群とする)、または5%、10%、15%及び20%を添加し、環境温度25℃で、(1)1C定電流で4.0Vまで充電し、次に、(2)1C定電流の放電条件で2.5Vまで放電し、上記工程(1)及び(2)を繰り返して電池を充電及び放電し、最初の250サイクルの電池容量の劣化状況(充放電試験装置:Acutech Systems BAT-750B)を記録した。試験結果は、図2A~2Eに示すように、式1-1化合物の添加の有無、または添加量の割合にかかわらず、電池の250サイクル以内のサイクル寿命に対して、いずれも顕著な影響がないことが明らかになった。以下の表3に、式1-1化合物の異なる添加割合での250サイクル数のサイクル試験における最初の5サイクル及び最後の5サイクルの電池容量、ならびにその電池容量保持率を記録した。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例3:レート充放電試験
前記実施例2で組み立てられたコインセルについて、その電解液に、式1-1化合物を、それぞれ、添加なしで0%(対照群とする)、または5%、10%、15%及び20%を添加し、25℃の環境温度で、それぞれ0.1C、0.2C、0.3C、0.5C及び1Cの異なるレートで充放電試験(充放電試験装置:Acutech Systems BAT-750B)を行った。試験結果は、図3A~3Eに示すように、式1-1化合物の添加の有無、または添加量の割合にかかわらず、同一の充放電レートでの比容量に顕著な差異がないことが明らかになった。以下の表4に、式1-1化合物の異なる添加割合における、0.1C及び1Cレートでの放電比容量を例示的に記録した。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例4:NMC622三元系電池の性能試験及び釘刺し試験
本試験のラミネートセルは、正極:LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2/負極:人造黒鉛である電池(単に「NMC622三元系電池」とも称する)を使用し、前記電池の設計は、以下の表5のように示す。
【0073】
【表5】
【0074】
7重量%の式1-1化合物が添加された前記ラミネートセルを試験群とし、及び難燃剤が添加されていないものを対照群とし、充放電装置(CT-4008T-5V6A-S1、新威(NEWARE)社)を用いて電池性能試験(分析設備:Keysight 34972A LXI)を行い、また、釘刺し試験を行った。釘刺し試験の設備は、カスタマイズ製品であり、この設備では、金属箱内にスチール製釘及び制御装置が増設され、その外に温度及び電圧モニターが設置され、また、検知回路が設備内に設けられている。釘刺し試験は、IEC60086-4:2000、UL1642-2007及びUL2054等の基準における釘径及び釘刺し速度に対する規定を満たす。電池性能試験の工程は、以下の表6のように示し、釘刺し試験のパラメーターは、以下の表7のように示す。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
電池性能試験及び釘刺し試験の結果を以下の表8、図4A及び4Bに示す。釘刺し試験において、式1-1化合物を添加した試験群は、発火及び発煙がなく、且つ表面温度を30℃に維持し、顕著に上昇せず、電池電圧が顕著に変化しないことが観察され、これに反して、いかなる添加剤も含まない対照群は、発火、燃焼、発煙し、且つ表面温度が急激に上昇し、電圧が0Vまで低下することが観察された。試験群及び対照群の釘刺し試験における電圧変化及び温度変化を、それぞれ、図4A及び4Bのように示す。以上の結果から、本発明の式1-1化合物で調製された電解液は、いかなる添加剤も含まない電解液に比べて、電池釘刺し安全試験における結果が向上していることが明らかになった。
【0078】
【表8】
【0079】
上記の実施例から、本発明のホスファゼン系誘導体をリチウム二次電池の電解液添加剤とすれば、電池の性能に顕著な影響を与えないほか、電解液の難燃化において市販の難燃剤PFPNより優れた効果を達成することができ、電池が外力を受けて破壊される時の安全性を顕著に向上させることができることが明らかになった。したがって、本発明のホスファゼン系誘導体は、実際に効果が顕著で、且つ広く応用できる革新的な物質である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B