(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152690
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】炭素インジェクションランスを備えた冶金炉
(51)【国際特許分類】
F27B 3/10 20060101AFI20241018BHJP
F27B 3/08 20060101ALI20241018BHJP
F27D 3/18 20060101ALI20241018BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20241018BHJP
C21B 11/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F27B3/10
F27B3/08
F27D3/18
F27D7/06 B
C21B11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063949
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】2034558
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】524140189
【氏名又は名称】メティックス(プロプライエタリ)リミテッド
【氏名又は名称原語表記】METIX(PROPRIETARY)LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】516199072
【氏名又は名称】エスエムエス グループ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】レーター、ガブリエル ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】サンヤンギャレ、エドウイン ティナーシェ
(72)【発明者】
【氏名】ステイン、ペトリュス パウルス アルベルトゥス
(72)【発明者】
【氏名】ドラミニ、センベラ
(72)【発明者】
【氏名】ターブランシュ、ゲラルドゥス ショルツ
(72)【発明者】
【氏名】ホワイトヘッド、マーク
(72)【発明者】
【氏名】フランケンベルガー、アーンド
【テーマコード(参考)】
4K012
4K045
4K055
4K063
【Fターム(参考)】
4K012CA09
4K045AA04
4K045BA02
4K045RA09
4K045RA10
4K045RB02
4K045RB16
4K045RC06
4K055AA03
4K055MA02
4K055MA08
4K055MA11
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA02
4K063CA03
4K063DA22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、炉に関し、特に、製鋼用のサブマージドアーク炉に関する。
【解決手段】冶金炉10は、還元性雰囲気が封入された密閉容器12を備える。容器は、装入物16にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極14.3を備える。装入物は、上面22を有する溶融金属20を含む。炭素インジェクションランス28.1は、その動作位置において、容器外の入口端30から容器に設けられたポート32を通って容器内の出口端34まで延在し、そこで上面22よりも下方で終端する。入口端30は、炭素供給源に接続される。ランスは、動作位置と、出口端34が容器外にある後退位置との間で移動可能である。炉は、後退位置にあるときのランスのための気密筐体38.1をさらに備える。筐体は、容器上に、ポートを覆って気密的に位置し、容器内の還元性雰囲気を維持する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性雰囲気を維持する密閉炉容器であって、該容器内の装入物にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極を備え、前記装入物が上面を有する溶融金属と前記上面上のスラグ層と供給材料とを含む、密閉炉容器と、
動作位置にあるときに前記容器外の入口端から前記容器に設けられたポートを通って前記容器内の出口端まで延在し、そこで前記溶融金属の上面よりも下方で終端する少なくとも1本の炭素インジェクションランスであって、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記入口端は浸炭剤供給源に接続され、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスは、前記動作位置と、前記出口端が前記容器外にある後退位置との間で選択的に移動可能である、少なくとも1本の炭素インジェクションランスと、
前記後退位置にあるときの前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスのための気密筐体であって、前記容器上に前記ポートを覆って気密的に位置し、前記容器内の還元性雰囲気を維持する気密筐体と、を備える、冶金炉。
【請求項2】
前記容器に設けられたそれぞれのポートを通って延在する複数の炭素インジェクションランスと、各炭素インジェクションランスのためのそれぞれの気密筐体とを備える、請求項1に記載の冶金炉。
【請求項3】
各炭素インジェクションランスの入口端が、それぞれの浸炭剤供給源に接続されている、請求項2に記載の冶金炉。
【請求項4】
前記複数の炭素インジェクションランスが、少なくとも、第1の組の炭素インジェクションランスと第2の組の炭素インジェクションランスとに分けられ、前記第1の組の炭素インジェクションランスの入口端と前記第2の組の炭素インジェクションランスの入口端とが、それぞれの浸炭剤供給源に接続されている、請求項2に記載の冶金炉。
【請求項5】
運転中、浸炭剤が、前記炭素インジェクションランスの入口端に連続的に供給され、出口端で吐出される、請求項3または請求項4に記載の冶金炉。
【請求項6】
前記浸炭剤が、前記第1の組の炭素インジェクションランスの入口端と前記第2の組の炭素インジェクションランスの入口端とに順次交互に供給される、請求項4に記載の冶金炉。
【請求項7】
前記容器が、長方形に構成され、対向端間に延びる主軸を有する長方形の基部と、互いに対向する立上り側壁と、互いに対向する立上り端壁と、屋根とを備える、先行する請求項のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項8】
前記主軸上に位置する複数の離隔された電極を備える、請求項7に記載の冶金炉。
【請求項9】
前記容器が、円形に構成され、基部と、円形の側壁と、円形の屋根とを備える、請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項10】
前記主軸と同心の円上に位置する複数の離隔された電極を備える、請求項9に記載の冶金炉。
【請求項11】
前記ポートが前記屋根に画成され、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスが、前記動作位置と前記後退位置との間を垂直または斜めに移動可能である、請求項7から請求項10のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項12】
前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスが、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記動作位置に対応する第1の位置と前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記後退位置に対応する第2の位置との間でラック上を移動可能なそれぞれのキャリッジ上に取り付けられ、前記キャリッジと前記ラックとが前記気密筐体内に取り付けられている、先行する請求項のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項13】
前記気密筐体が、細長いものであり、加圧された不活性ガスのための選択的に操作可能な前記筐体内への導入口と、選択的に操作可能な前記筐体からの排気口と、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの少なくとも一部を前記筐体から取り出すことができる選択的に開閉可能な扉とを備える、請求項1から請求項12のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項14】
前記筐体内に取り付けられた、前記ポートのための蓋であって、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスが前記後退位置にあるときに、開位置と閉位置との間で選択的に移動可能である蓋、を備える、請求項1から請求項13のうちのいずれか一項に記載の冶金炉。
【請求項15】
冶金炉の運転方法であって、前記冶金炉が、還元性雰囲気を維持する密閉炉容器であって、該容器内の装入物にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極を備え、前記装入物が上面を有する溶融金属と前記上面上のスラグ層と供給材料とを含む、密閉炉容器を備え、前記方法は、
動作位置にあるときに前記容器外の入口端から前記容器に設けられたポートを通って前記上面よりも下方の出口端まで延在する炭素インジェクションランスを用いて、浸炭剤を前記装入物に注入することと、
前記出口端が前記容器外に位置するように前記炭素インジェクションランスを第2の後退位置へ選択的に後退させることと、
前記後退位置にあるときの前記炭素インジェクションランスのための気密筐体であって、前記容器上に前記ポートを覆って気密的に位置する気密筐体を用いて、前記容器内の還元性雰囲気を維持することと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉に関し、特に、製鋼用のサブマージドアーク炉に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のサブマージドアーク炉(SAF)による鋼の製造においては、直接還元鉄(DRI)から炭素を0~2.5%含有する溶銑浴が作られる。この炭素含有量は、当該溶銑を下流のSAFによる製鋼において高炉(BF)溶銑の代替として使用するには低すぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、上述の欠点を少なくとも緩和し得るかまたは公知の炉および方法の有用な代替となり得ると本出願人が考える、炉および炉の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、
還元性雰囲気を維持する密閉炉容器であって、該容器内の装入物にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極を備え、装入物が上面を有する溶融金属と該上面上のスラグ層と供給材料とを含む、密閉炉容器と、
動作位置にあるときに上記容器外の入口端から上記容器に設けられたポートを通って上記容器内の出口端まで延在し、そこで上記溶融金属の上面よりも下方で終端する少なくとも1本の炭素インジェクションランスであって、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記入口端は浸炭剤供給源に接続され、前記少なくとも1本の炭素インジェクションランスは、上記動作位置と、上記出口端が上記容器外にある後退位置との間で選択的に移動可能である、少なくとも1本の炭素インジェクションランスと、
上記後退位置にあるときの上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスのための気密筐体であって、上記容器上に上記ポートを覆って気密的に位置し、上記容器内の還元性雰囲気を維持する気密筐体と、を備える、冶金炉が提供される。
【0005】
炉は、サブマージドアーク炉(SAF)として動作するものであってもよく、オープンアーク炉(open arc furnace)として動作するものであってもよい。
【0006】
浸炭剤は、乾燥微粉砕浸炭剤の形態であってもよく、SAFを利用する製鋼用途において、炭素インジェクションランスは、直接還元鉄(DRI)の溶銑浴中の炭素含有量を4%より高くするために用いられてもよく、それにより、下流のSAFによる製鋼において高炉(BF)代替溶銑供給部として使用され得る。浸炭剤は、石炭、コークス、黒鉛、純炭素などの形態であってもよい。
【0007】
冶金炉は、上記容器に設けられたそれぞれのポートを通って延在する複数の炭素インジェクションランスと、各炭素インジェクションランスのためのそれぞれの気密筐体とを備えていてもよい。
【0008】
いくつかの実施形態において、各炭素インジェクションランスの入口端が、それぞれの浸炭剤供給源に接続されていてもよい。
【0009】
他の実施形態において、上記複数の炭素インジェクションランスが、少なくとも、第1の組の炭素インジェクションランスと第2の組の炭素インジェクションランスとに分けられてもよく、上記第1の組の炭素インジェクションランスの入口端と上記第2の組の炭素インジェクションランスの入口端とが、それぞれの浸炭剤供給源に接続されていてもよい。
【0010】
運転中、上記浸炭剤が、上記炭素インジェクションランスの入口端に連続的に供給され、出口端で吐出されてもよい。
【0011】
他の実施形態において、上記浸炭剤が、上記第1の組の炭素インジェクションランスの入口端と上記第2の組の炭素インジェクションランスの入口端とに順次交互に供給されてもよい。
【0012】
上記容器が、長方形に構成され、対向端間に延びる主軸を有する長方形の基部と、互いに対向する立上り側壁と、互いに対向する立上り端壁と、屋根とを備えていてもよい。
【0013】
冶金炉は、上記主軸上に位置する複数の離隔された電極を備えていてもよい。
【0014】
他の実施形態において、上記容器が、円形に構成され、中心主軸を有する基部と、円形の側壁と、円形の屋根とを備えていてもよい。
【0015】
これらの実施形態において、複数の離隔された電極が、上記主軸と同心の円上に位置していてもよい。
【0016】
上記ポートは、上記容器における、側壁などの任意の適切な部分に画成されればよいが、上記屋根に画成されることが好ましい。上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスは、上記動作位置と上記後退位置との間を垂直方向に移動可能であってもよく、斜めに移動可能であってもよい。
【0017】
上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスが、上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記動作位置に対応する第1の位置と上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの前記後退位置に対応する第2の位置との間でラック上を移動可能なそれぞれのキャリッジ上に取り付けられ、上記キャリッジと上記ラックとが上記気密筐体内に取り付けられていてもよい。
【0018】
上記気密筐体が、細長いものであってもよく、加圧された不活性ガスのための選択的に操作可能な上記筐体内への導入口と、選択的に操作可能な上記筐体からの排気口と、上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの少なくとも一部を上記筐体から取り出すことができる選択的に開閉可能な扉とを備えていてもよい。
【0019】
上記ポートのための蓋が上記筐体内に取り付けられていてもよい。蓋は、上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスが前記後退位置にあるときに、開位置と閉位置との間で選択的に移動可能であってもよい。
【0020】
冶金炉の運転方法であって、冶金炉が、還元性雰囲気を維持する密閉炉容器であって、該容器内の装入物にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極を備え、装入物が上面を有する溶融金属と該上面上のスラグ層と供給材料とを含む、密閉炉容器を備え、前記方法は、
動作位置にあるときに上記容器外の入口端から上記容器に設けられたポートを通って上記上面よりも下方の出口端まで延在する炭素インジェクションランスを用いて、浸炭剤を上記装入物に注入することと、
上記出口端が上記容器外に位置するように上記炭素インジェクションランスを後退位置へ選択的に後退させることと、
上記後退位置にあるときの上記炭素インジェクションランスを格納するための気密筐体であって、上記容器上に上記ポートを覆って気密的に位置する気密筐体を用いて、上記容器内の還元性雰囲気を維持することと、を含む方法も、本発明の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
ここで、以下の添付の図面を参照しながら、単に例示の目的で、本発明をさらに説明する。
【
図1】
図1は、屋根を有する容器と当該屋根を貫通して容器内まで延在する炭素インジェクションランスとを備える冶金炉の例示的な実施形態の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、容器に対して動作位置にあるランスを示す、
図1のII線断面図である。
【
図3】
図3は、ランスが容器に対して後退位置にある状態の、同様の図である。
【
図4】
図4は、動作位置にあるランスが通って容器内まで延在するポートを画成する屋根の領域の拡大断面図である。
【
図5】
図5は、ランスが後退位置にある状態の、
図4と同様の図である。
【
図6】
図6は、ポートが蓋で閉じられた状態の、
図5と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1~
図3に、冶金炉の例示的な実施形態を全体として参照符号10で示す。
【0023】
冶金炉10は、還元性雰囲気が封入および維持される密閉炉容器12を備える。容器は、容器のチャンバ18内の装入物16(
図2および
図3に示す)にエネルギーを供給する少なくとも1つの電極14.1~14.6を備える。装入物16は、上面22を有する溶融金属20と、該上面上のスラグ層24と、供給材料26とを含む。少なくとも1本の炭素インジェクションランス28.1~28.4が、それが動作位置(
図2に示す)にあるときに、容器外の入口端30から容器に設けられたポート32を通って容器内の出口端34まで延在し、そこでランスは溶融金属20の上面22よりも下方で終端している。ランスの入口端30は、浸炭剤供給源36(
図1に示す)に接続されている。上記少なくとも1本のランスは、上記動作位置と、出口端34が容器12の外にある後退位置(
図3に示す)との間で選択的に移動可能である。炉は、後退位置にあるときの上記少なくとも1本のランスのための気密筐体38.1~38.4をさらに備える。筐体は、容器上にポート32を覆って気密的に位置しており、容器内の還元性雰囲気を維持する。
【0024】
図1~
図3に示す例示的な本実施形態において、炉容器12は、長方形に構成されており、対向端間に延びる主軸42を有する長方形の基部40を備えている。容器は、互いに対向する立上り側壁44および46と、互いに対向する立上り端壁48および50と、屋根52とをさらに備える。
【0025】
図1~
図3に示す例示的な本実施形態において、炉10は、長手方向軸42上に、互いに離隔された6つの電極14.1~14.6を備える。
【0026】
典型的には、炉は、公知の方法で炉構成部材を支持するための鉄骨構造もしくは鉄骨フレーム(図示せず)を備える建物(図示せず)内に配置されている。また、炉制御およびプロセス制御用の中央制御装置(これも図示せず)を備えた制御室(これも図示せず)も設けられている。炉システムからのすべての必要な測定値が、制御室内のヒューマンマシンインタフェース(HMI)上に表示される。
【0027】
炉は、複数の同様の炭素インジェクションランスを備えていてもよい。いくつかの実施形態では10本のランスが設けられる場合もあるが、図示した実施形態においては、4本のランス28.1~28.4が設けられている。これらの炭素インジェクションランスは同様の構成であるので、炭素インジェクションランス28.1のみをさらに詳細に説明する。ランス28.1は、管状に構成され、その中空部は浸炭剤のための入口端30と出口端34との間に延在している。浸炭剤は、供給源36によって供給され、不活性ガスに同伴された乾燥微粉砕浸炭剤の形態である。
図1、
図2、および
図4~
図6に最もよく示されているように、ランス28.1は、第1の永久部品60と第2の交換可能な消耗部品62とを備え、これらは相互に協働するフランジ64で流体密に接合されている。この消耗部品は、高アルミナ質キャスタブルで外面被覆された厚肉鋼管から構成される。
【0028】
したがって、冶金炉10は、製鋼に必要な固体供給材料16(
図2および
図3に示す)のための従来の供給システム(図示せず)に加えて、微粉砕浸炭剤を受け入れ、貯蔵し、および取り扱うための供給源36に接続されている。上記複数の炭素インジェクションランス28.1~28.4は、上記溶融金属の上面22よりも低い位置で装入物に浸炭剤を注入する働きをする。
【0029】
炭素インジェクションランス28.1は、マスト上の垂直ラック67上の可動キャリッジ66に担持され、マストと垂直ラック67は両方とも筐体38.1内に位置している。インジェクションランスの第1の部品62は、好ましくは、空気圧で動作する自動ロック式クランプ装置によって、可動キャリッジ66上に固定されている。ランスの入口端30は、空気圧で作動される連結装置によって粉体搬送管路68.1に接続されている。クランプ装置および連結装置はローカル制御盤から制御される。
【0030】
キャリッジ66は、マストに取り付けられ且つキャリッジ66の上下両端に連結された頑丈な(heavy-duty)2列無端チェーンによって、必要に応じて選択的に移動可能である(上昇または下降)。このチェーンは、インバータ制御のギア付きモータユニット(図示せず)によって駆動され、運転中にキャリッジがマストを上下移動する際、可変速度と良好な位置制御を実現する。エンコーダがキャリッジ66の位置を監視し、固定リミットスイッチが最終端位置信号を出す。
【0031】
したがって、上述のように選択的に移動可能なキャリッジにより、炭素インジェクションランス28.1もまた、その第2端34が溶融金属20の上面22よりも下方に位置する動作位置(
図2に示す)とランスの第2の部品60を整備または交換することができる後退位置(
図3に示す)との間で選択的に移動可能である。
【0032】
冶金炉は、後退位置にあるときの各炭素インジェクションランスのためのそれぞれの気密筐体38.1~38.4をさらに備える。これらの筐体は同様の構成であるので、以下では筐体38.1のみをより詳細に説明する。例示的な本実施形態において、気密筐体38.1は、炉の屋根52上にポート32を覆って気密的に取り付けられている。筐体は、マストとラックと後退位置にあるときのインジェクションランス28.1とを収容するために細長いものになっている。筐体は、加圧された不活性ガスのための選択的に操作可能な筐体内への導入口70と、選択的に操作可能な筐体からの排気口72と、上記少なくとも1本の炭素インジェクションランスの少なくとも一部を筐体から取り出すことができる選択的に開閉可能な扉74とを備える。筐体は、圧力開放弁76をさらに備える。運転時、チャンバ18内の圧力よりも高い圧力で不活性ガスが充填された筐体38.1は、ランス28.1が第1の位置にあるとき、ポート32を「塞ぐ」。このように塞がれたポート32は、ランスが動作位置にある間、チャンバ18内のガスがチャンバから流出または漏出するのを防止する。また、筐体と塞がれたポートとが、酸素がチャンバに流入するのも防止し、それにより、容器内の還元性雰囲気を維持する。
【0033】
冶金炉は、ポート32のための選択的に操作可能な蓋78をさらに備える。蓋78は、筐体38.1内に取り付けられており、空気圧式アクチュエータ83によって選択的に駆動される回転軸82によりヒンジ80を中心として回動可能である。したがって、蓋は、開位置(
図2~
図5に示す)と、筐体38.1内の炭素インジェクションランス28.1が後退位置にあるときの閉位置(
図6に示す)との間で選択的に移動可能である。
図6に示すように、第2端が第2の位置になると、空気圧式アクチュエータ83が蓋78を閉位置へ回動させ、蓋がポート32を封止する。そして、保守作業中、筐体38.1は炉のフューム抽出システムへの接続によって排気口72から不活性ガスが排気され、ランスをさらに冷却し且つ窒息の危険を取り除くために新鮮な空気が筐体内に導入される。筐体38.1の扉74が開かれ、ランスを取り出して、第2の部品62を新しい第2の部品に交換し、新しいランスを形成することができる。
【0034】
いくつかの実施形態(図示せず)では、各インジェクションランスがそれぞれの搬送管路を介してそれぞれの浸炭剤供給源に接続されてもよい。これらの実施形態では、ランスが動作位置にある状態で、浸炭剤を連続的に各ランスに供給して面22よりも下方に吐出させることができる。
【0035】
他の実施形態では、上記複数のランスが少なくとも第1の組のランスと第2の組のランスとに分けられてもよい。これは
図1に示されており、筐体38.1および38.3内のランスが第1の組に含まれ、筐体38.2および38.4内のランスが第2の組に含まれる。第1の組のランスは、搬送管路68.1を介して第1の供給源部36.1に接続され、第2の組のランスは、搬送管路68.2を介して第2の供給源部36.2に接続される。この実施形態では、ランスが動作位置にある状態で、浸炭剤を連続的にすべてのランスに供給し、面22よりも下方に吐出させることができる。あるいは、浸炭剤は、第1の組の炭素インジェクションランスの入口端と第2の組の炭素インジェクションランスの入口端とに、順次交互に供給される。
【0036】
やはり
図1を参照して、供給源36は、粉末状浸炭剤のための第1および第2の外部受入貯蔵サイロ80および82を備えていてもよい。各貯蔵サイロの真下にはインジェクションディスペンサ84および86がある。インジェクションディスペンサの出口は、上記二組のインジェクションランスに供給する粉末状浸炭剤搬送管路68.1および68.2に接続されている。
【0037】
サイロ内の材料のレベルは、フルレングスレベルレーダー型プローブ(図示せず)によって継続的に監視される。サイロの頂部には、セルフクリーニング式の排除空気フィルタ(displacement air filter)90および92が取り付けられている。充填、流動化、および排気に起因して排除された空気は、粉塵が大気中に排出されるのを防ぐこれらのフィルタを通過する。また、サイロには、過剰圧力検知送信機と過剰圧力破裂板ユニットとが装備されている。
【0038】
インジェクションディスペンサは圧力容器である。両ディスペンサは、自立型フレームによって支持されており、内容物を測定するためのロードセル(図示せず)上に取り付けられている。この測定は、注入流量と、粉体流制御弁位置と、ディスペンサ内のレベルの高低とを制御するために用いられる。ディスペンサには、排気管路、加圧管路、および流動化管路へのフランジ接続部と、圧力測定用の計器とが装備されている。
【0039】
隔離と材料流制御のための一連の弁が、ディスペンサの下方に位置している。ディスペンサは、第1の組および第2の組のインジェクションランスに供給するための粉体搬送管路68.1および68.2に接続されている。粉体搬送管路は、必要に応じて、交換を容易にするためのクイックリリース接続部を有する頑丈なショットブラストホースを備える。
【0040】
粉末状浸炭剤の搬送、流動化、および注入のための輸送ガスとして、窒素が使用される。窒素の圧力および流量は、一組の弁(図示せず)によって制御される。
【0041】
ランス28.1の第1の位置においての炭素注入中、実際の注入速度は、粉体インジェクションディスペンサが取り付けられた上述のロードセルによって測定され、制御システムによって算出される。実際に達成された注入速度は継続的に所要の注入速度と比較される。測定速度と所要速度との差は、インジェクションディスペンサの下方にある材料流制御弁を調節するために利用される。この弁は自動的に開閉し、予め設定された速度を維持するために実際の注入速度を増減させる。
【0042】
供給源36は、該供給源がほとんど空になるか、ランス交換が必要になるか、または、システムに不具合が生じるかして、注入が不可能になるかまたは不可能とみなされるまで、一方または両方のディスペンサからの注入を継続する。注入は、材料レベルが下限に達すると自動的に停止され、オペレータが制御システムから停止シーケンスを開始すると停止され、また、不具合が生じた場合に自動的に停止される。
【0043】
ランス28.1は、キャリッジ66がランス28.1を第2の位置に向かって移動させることによって後退を開始し、第2端34が装入物およびスラグ表面から離れる。第2端がスラグ表面に接触しなくなると、インジェクションディスペンサ遮断弁が閉じられ、ディスペンサからの粉体の流出が止まる。粉体搬送管路68.1に残っている粉体は、ランスを通過してスラグ表面に吹き付けられる。ランスからすべての粉体が排出されると、輸送ガスは、粉体搬送管路68.1を確実にからにするために、流量を増して短時間流れ続け、その後停止する。ランスは、後退して留め置かれる位置に向かって、移動を続ける。インジェクションランスは、その使用可能期間の終わりに達した場合、または早期に故障もしくは閉塞した場合、扉74から取り出すことができる。上述のように、新しい第2の部品62を装着することができる。その後、新しいランスが筐体38.1に挿入されてキャリッジ66に接続され、入口端30が搬送管路68.1に接続される。
【0044】
整備に必要な場合は、新しいランスが動作位置に向かって下降される。出口端34が高温のスラグ表面に進入する前に、粉体輸送ガスがオンに切り替えられ、ガス流量が安定するまでランスは一時停止し、その後、インジェクションディスペンサの粉体排出弁が開き、粉体が粉体搬送管路68.1に流出してランスを流れることが可能になる。粉体の最小流量が確立されると、ランスが装入物中に押し下げられ、出口端34が溶融金属20の面22よりも下方の所定位置にある状態になる。ランス出口を閉塞させないように、粉体の流れは、ランスがスラグに進入するより前に確立され、ランスがスラグから離れるまで維持される。
【外国語明細書】