(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152695
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ビフィズス菌の増殖用組成物および増殖方法ならびに乳酸および/またはピルビン酸の増加用組成物および増加方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20241018BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20241018BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20241018BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20241018BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241018BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20241018BHJP
C12Q 1/689 20180101ALN20241018BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241018BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20241018BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L33/17
A61K31/702
A61K38/16
A61P1/14
A61P43/00 121
C12N1/20 A ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064335
(22)【出願日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2023065413
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】門田 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】北浦 靖之
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD09
4B018MD20
4B018MD21
4B018MD31
4B018MD58
4B018MD87
4B018ME11
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4C084AA02
4C084BA44
4C084CA15
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4C084NA05
4C084ZA731
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4C086AA02
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4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA73
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】 ビフィズス菌を効果的に増殖させることができる技術、および、腸内の乳酸および/またはピルビン酸を効果的に増加させることができる技術を提供する。
【解決手段】 オリゴ糖およびタンパク質を有効成分とする、ビフィズス菌の増殖用組成物。本発明によれば、ビフィズス菌の菌数を効果的に増加させることができる。よって、ビフィズス菌において知られる有用な作用(便秘の改善などの整腸効果や、感染症予防やアレルギー疾患の予防・改善などの免疫賦活効果等)を期待することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴ糖およびタンパク質を有効成分とする、ビフィズス菌の増殖用組成物。
【請求項2】
オリゴ糖およびタンパク質を有効成分とする、腸内の乳酸および/またはピルビン酸の増加用組成物。
【請求項3】
前記オリゴ糖が、1-ケストース、ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群から選択される1以上のオリゴ糖である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記オリゴ糖が1-ケストースである、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
オリゴ糖およびタンパク質をヒトまたは動物に摂取させる工程を有する、ビフィズス菌を増殖させる方法(医療行為を除く)。
【請求項6】
オリゴ糖およびタンパク質をヒトまたは動物に摂取させる工程を有する、腸内の乳酸および/またはピルビン酸を増加させる方法(医療行為を除く)。
【請求項7】
前記オリゴ糖が、1-ケストース、ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群から選択される1以上のオリゴ糖である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴ糖が1-ケストースである、請求項5または請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖およびタンパク質を用いる、ビフィズス菌の増殖用組成物および増殖方法、ならびに腸内の乳酸および/またはピルビン酸の増加用組成物および増加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビフィドバクテリウム科(ビフィズス菌)はヒトや動物の腸内に常在し、その代謝産物である乳酸により腸内環境を酸性にし、いわゆる悪玉菌の増殖を防ぐなど有用な働きをすることが知られている。
【0003】
また、ビフィズス菌を含む腸内細菌が代謝により産生する乳酸やピルビン酸は、近年、小腸のマクロファージに直接作用し、病原性細菌に対する抵抗性を増加させることが報告されており(非特許文献1)、免疫活性化作用が期待される有用な物質である。
【0004】
そこで、腸内のビフィズス菌を増殖させる物質、あるいは腸内において乳酸やピルビン酸を増加させる物質が研究開発されており、例えば、特許文献1には、1-ケストースの純度が90重量%以上であるオリゴ糖を有効成分とする、腸内環境下ビフィズス菌増殖剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国立大学法人 大阪大学および国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、トップ>ニュース>プレスリリース>腸内細菌がつくる乳酸・ピルビン酸により免疫が活性化される仕組みを解明、掲載日 平成31年1月24日、最終更新日 平成31年1月24日、[令和4年5月6日検索]、インターネット<URL: https://www.amed.go.jp/news/release_20190124-01.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示すように、1-ケストースについては腸内のビフィズス菌を増加させる効果を有することが知られていたが、これと併用することで、より効果的にビフィズス菌を増加させられる物質については、知られていなかった。
【0008】
一方、タンパク質は、糖質、脂質と並ぶ三大栄養素であり、生命維持に欠かせない食品成分である。従来は、スポーツ選手等が身体作りのために積極的に摂取する傾向であったが、近年は、健康の維持・増進あるいは美容等のために、高齢者を含め、強度の運動を日常的に行わない人々の間でも積極的に摂取されるようになってきている。しかしながら、タンパク質を多く摂取した場合は、腸内のビフィズス菌数の低下やいわゆる悪玉菌の増殖を招き腸内環境が悪化することが報告されており(Chunlong Mu, et al. Temporal microbiota changes of high-protein diet intake in a rat model. Anaerobe 2017;47:218-225.)、課題となっていた。
【0009】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、ビフィズス菌を効果的に増殖させることができ、タンパク質を多く摂取しても腸内環境を良好に保ちうる技術を提供することを目的とする。また、腸内の乳酸および/またはピルビン酸を効果的に増加させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、オリゴ糖とタンパク質とを同時に摂取することにより、それぞれ単独では目立った効果を示さない摂取量においても、腸内のビフィズス菌を顕著に増殖させられること、および、腸内の乳酸やピルビン酸を顕著に増加させられることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0011】
(1)本発明に係るビフィズス菌の増殖用組成物は、オリゴ糖およびタンパク質を有効成分とする。
【0012】
(2)本発明に係る腸内の乳酸および/またはピルビン酸の増加用組成物は、オリゴ糖およびタンパク質を有効成分とする。
【0013】
(3)本発明において、オリゴ糖は、1-ケストース、ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖からなる群から選択される1以上であってもよい。
【0014】
(4)本発明において、オリゴ糖は、1-ケストースであってもよい。
【0015】
(5)本発明に係るビフィズス菌を増殖させる方法(本発明において、単に「増殖方法」という場合がある)は、オリゴ糖およびタンパク質をヒトまたは動物に摂取させる工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0016】
(6)本発明に係る腸内の乳酸および/またはピルビン酸を増加させる方法(本発明において、単に「増加方法」という場合がある)は、オリゴ糖およびタンパク質をヒトまたは動物に摂取させる工程を有する。本方法は、医療行為を除くものであってもよい。
【0017】
(7)本発明において、オリゴ糖の摂取量は、1日あたり0.02g/kg体重以上であり、かつ、タンパク質の摂取量は、1日あたり0.1g/kg体重以上であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ビフィズス菌の菌数を効果的に増加させることができる。よって、ビフィズス菌において知られる有用な作用(便秘の改善などの整腸効果や、感染症予防やアレルギー疾患の予防・改善などの免疫賦活効果等)を期待することができる。
【0019】
本発明によれば、タンパク質とともにオリゴ糖を摂取することにより、ビフィズス菌の菌数を効果的に増加させられることから、タンパク質の多量摂取による腸内環境の悪化を抑制し、腸内環境を良好に保つ効果を期待することができる。
【0020】
本発明によれば、腸内において乳酸やピルビン酸を効果的に増加させることができる。よって、腸内の乳酸やピルビン酸において知られる有用な作用(例えば、腸内のpH低下による有害菌の増殖抑制作用や便秘改善作用、上述の免疫活性化作用等)を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】1-ケストースおよび/またはカゼイン高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィズス菌の占有率を示す箱ひげ図である。
【
図2】1-ケストースおよび/またはカゼイン高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィドバクテリウム属の占有率を示す箱ひげ図である。
【
図3】1-ケストースおよび/またはカゼイン高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の相対濃度を示す棒グラフである。
【
図4】1-ケストースおよび/またはホエイ高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィドバクテリウム科の占有率を示す箱ひげ図である。
【
図5】1-ケストースおよび/またはホエイ高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィドバクテリウム属の占有率を示す箱ひげ図である。
【
図6】1-ケストースおよび/またはホエイ高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の相対濃度を示す棒グラフである。
【
図7】1-ケストースおよび/または大豆タンパク高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィズス菌の占有率を示す箱ひげ図である。
【
図8】1-ケストースおよび/または大豆タンパク高含有飼料を摂取させたラットの盲腸内容物におけるビフィドバクテリウム属の占有率を示す箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明においては、「ビフィズス菌の増殖用組成物」ならびに「腸内の乳酸および/またはピルビン酸の増加用組成物」をまとめて、あるいはこれら組成物のうちのいずれかを指して、「本組成物」という場合がある。
【0023】
本発明はオリゴ糖およびタンパク質を有効成分としており、当該有効成分は、腸内細菌のうちビフィズス菌の増殖を促進し、その数を増加させる作用を有する。
【0024】
ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae)に属する細菌をいう(渡辺 幸一、ビフィズス菌の分類法の現状と動向、腸内細菌学雑誌、2016年、第30巻、第129-139頁)。ビフィズス菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、ガードネレラ属(Gardnerella)、アロスカルドビア属(Alloscardovia)、エアリスカルドヴィア属(Aeriscardovia)、パラスカルドビア属(Parascardovia)、スカルドビア属(Scardovia)ボンビスカルドビア属(Bombiscardovia)、ガリスカルドビア属(Galliscardovia)、ネオスカルドビア属(Neoscardovia)、シュードスカルドビア属(Pseudoscardovia)などを例示することができる。このうち、ビフィズス菌の基準属はビフィドバクテリウム属であり、ビフィドバクテリウム属としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・ガリカム(Bifidobacterium gallicum、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・アンギュラタム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・ガリナラム(Bifidobacterium gallinarum)、ビフィドバクテリウム・プロラム(Bididoacterium pullorum)、ビフィドバクテリウム・ボウム(Bifidobacterium boum、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム・マグナム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム・メリシカム(Bifidobacterium merycicum)、ビフィドバクテリウム・ミニマム(Bifidobacterium minimum)などを例示することができる。
【0025】
本発明はオリゴ糖およびタンパク質を有効成分としており、当該有効成分は、腸内の乳酸および/またはピルビン酸を増加させる作用を有する。乳酸(lactic acid)は、化学式C3H6O3で示されるカルボン酸の1種である。ピルビン酸(pyruvic acid)は、化学式C3H4O3で示されるカルボン酸の1種である。乳酸やピルビン酸は、生体内では、糖質が解糖系(嫌気的代謝)で代謝・分解されて生成する。腸内の乳酸やピルビン酸は、主に腸内細菌によってつくられることが知られている(非特許文献1)。したがって、本組成物は、乳酸やピルビン酸を産生する腸内細菌に対して作用し、その細菌数を増加させる、あるいは、その乳酸・ピルビン酸の産生活性を向上させることにより、腸内の乳酸やピルビン酸を増加させるという作用機序が考えられる。
【0026】
オリゴ糖は、最小単位である単糖が比較的少数結びついた糖をいい、少糖類とも呼ばれる。オリゴ糖における単糖の重合数は、例えば、2個以上または3個以上、30個以下、25個以下、20個以下、15個以下、十数個以下、10個以下などを例示することができる。本発明において、オリゴ糖は、胃や小腸でほとんど消化吸収されることなく大部分がそのまま大腸に到達するもの(いわゆる難消化性オリゴ糖)、あるいは胃や小腸で消化吸収され得るが、未消化部分があってこれが大腸に到達するもの(難消化性と易消化性との中間に位置するオリゴ糖)が好ましい。オリゴ糖として、具体的には、例えば、トレハロース、ラクトース、1-ケストース、ラクチュロース、ラクトスクロース、マルトシルトレハロース、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、キシロオリゴ糖などを例示することができる。
【0027】
1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより作ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1-ケストース含有反応液を得る。この1-ケストース含有反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1-ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1-ケストース溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。
【0028】
また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。すなわち、本発明の1-ケストースとして、1-ケストースを含有するオリゴ糖などの1-ケストース含有混合物を用いてもよい。1-ケストース含有混合物を用いる場合、1-ケストースの純度は70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、90%以上を例示することができる。
【0029】
なお、本発明において、1-ケストース等の特定のオリゴ糖の「純度」とは、糖の総質量を100とした場合の、当該オリゴ糖の質量%をいう。
【0030】
ラクチュロースは、フルクトースの4位のヒドロキシル基にガラクトースがβ結合した二糖類(4-O-β-D-Galactopyranosyl-β-D-fructofuranose)であり、ラクツロースとも呼ばれる。ラクチュロースは、一般に、乳糖を出発物質として異性化法によって工業的に作ることができ、本発明では、このようにして生産された市販品を用いることができる。また、生乳を殺菌して得られる牛乳等には微量に含まれている。本発明のラクチュロースは、ラクチュロースを含有するオリゴ糖などのラクチュロース含有混合物を用いてもよい。係る混合物において、ラクチュロースの純度は70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上を例示することができる。
【0031】
ラクトスクロースは、ガラクトース、グルコースおよびフラクトース各1分子が結合してなる3糖であり、ガラクトシルスクロース(4G-β-D-Galactosylsucrose)、ラクトシルスクロースとも呼ばれる。ラクトスクロースは、乳糖およびショ糖を原料として、レバンスクラーゼを作用させて酵素合成することができるほか、同原料にβ-フラクトフラノシダーゼを作用させて糖転移反応により工業生産されている。本発明では、このようにして生産された市販品を用いることができる。市販品には、酵素反応ないし副反応で生じる単糖、2糖、他の3糖(1-ケストース)、4糖なども含まれる場合があるが、本発明では、係るラクトスクロース含有混合物を用いてもよい。係る混合物において、ラクトスクロースの純度は、例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上などを例示することができる。
【0032】
イソマルトオリゴ糖は、グルコース分子が重合してなるオリゴ糖であってα-1,6結合を有するものをいう。天然には伝統的な発酵食品に微量ながら広く含まれ、工業的にはスターチを原料として微生物酵素反応によって製造されている。本発明では、このようにして生産された市販品を用いることができる。市販品は、イソマルトオリゴ糖と他の糖(グルコースやマルトース等)との混合物である場合がある。また、種々の重合度のイソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、イソマルトテトラオース等)の混合物である場合がある。本発明では、係るイソマルトオリゴ糖含有混合物を用いてもよい。係る混合物において、イソマルトオリゴ糖の純度は、例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上などを例示することができる。
【0033】
ガラクトオリゴ糖は、乳糖の非還元末端ガラクトースにガラクトースが1~複数個結合してなるオリゴ糖である。天然には母乳や牛乳中に含まれ、工業的には乳糖に微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させて生産されている。本発明では、このようにして生産された市販品を用いることができる。市販品は、グルコース末端に、複数のガラクトースが伸長した2糖から6糖あるいは8糖までの異性体の混合物である場合がある。また、ガラクトオリゴ糖と他の糖(ガラクトース、グルコース、ラクトース等)との混合物である場合がある。本発明では、係るガラクトオリゴ糖含有混合物を用いてもよい。係る混合物において、ガラクトオリゴ糖の純度は、例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上などを例示することができる。
【0034】
タンパク質は、アミノ酸が直鎖状に重合(通常100個程度以上)してなる物質である。本組成物の有効成分であるタンパク質は、ヒトや動物の生体に摂取可能なタンパク質である。すなわち、食用となるタンパク質であればよく、その大きさ、種類、アミノ酸配列、アミノ酸組成、由来生物等はどのようなものであってもよい。また、タンパク質は人工合成されたものでもよく、動植物等の生物に由来するものであってもよい。例えば、食用タンパク質は、一般に、動植物に由来し、その種類やアミノ酸配列、アミノ酸組成は様々に異なるが、本発明では、後述する実施例に示すように、乳由来のカゼイン、乳由来のホエイタンパク質、大豆由来のタンパク質など、様々に異なるタンパク質を用いても、同様にビフィズス菌の増殖効果や乳酸・ピルビン酸の増加効果が得られることが判っている。
【0035】
従来、食用とされるタンパク質としては、例えば、アルブミン、コラーゲン、グルテン、コラーゲン、ゼラチン、ムチン、カゼイン、ホエイタンパク質などを例示することができる。また、由来生物に着目して言えば、例えば、大豆や小麦、豆類由来などの植物性タンパク質、卵由来や乳由来、動物の筋由来、動物の皮由来、動物の腱由来などの動物性タンパク質などを例示することができる。
【0036】
なお、本発明では、タンパク質として、タンパク質を比較的多く含有する飲食物を用いてもよい。
【0037】
有効成分は、ヒトまたは動物に摂取させることにより使用する。すなわち、本発明は、オリゴ糖およびタンパク質をヒトまたは動物に摂取させる工程を有する、ビフィズス菌を増殖させる方法、ならびに、腸内の乳酸および/またはピルビン酸を増加させる方法も提供する。
【0038】
ヒトまたは動物に有効成分を摂取させる手法は、有効成分が腸管内腔に到達する投与方法であればよい。具体的には、例えば、固体、半固体ないし液体状の有効成分を経口摂取させる態様や、有効成分を経腸栄養剤に添加して、これを、胃や小腸などの消化管に挿入したチューブを経由して経腸栄養法により投与する態様を例示することができる。
【0039】
オリゴ糖とタンパク質とは同時に摂取させる態様で用いられるが、ここでいう「同時に」とは、時間的に厳密な「同時」をいうものではなく、両者の摂取においては一定程度の間隔が空いていてもよい。オリゴ糖とタンパク質とを別々に摂取させる場合、当該摂取対象者における飲食物の消化吸収ないし代謝の速度にもよるが、24時間程度の間隔以内に両者を摂取することが好ましい。
【0040】
本組成物の形態としては、医薬品や食品添加剤、飼料添加物、サプリメントなどの健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、特別用途食品(人工乳栄養乳児用または病者用食品等)、乳幼児食品、菓子や飲料、加工食品などの通常の飲食物の形態、飼料等を挙げることができる。医薬品や食品添加剤、飼料添加物、サプリメントの形態とする場合、その剤型としては、例えば、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、ドリンク剤等の固形または液状の剤型を挙げることができる。飲食物の形態とする場合は、通常の製造過程で、有効成分を添加して製造することができる。
【0041】
本発明において、オリゴ糖の摂取量(投与量)としては、例えば、1日あたり0.0216g/kg体重以上を挙げることができる。係る摂取量に関し、1-ケストースでは腸内ビフィズス菌が増殖しないとの報告がある(Watanabe A, et al. Experimental Determination of the Threshold Dose for Bifidogenic Activity of Dietary 1-Kestose in Rats. Foods. 2019;9(1):4.)が、本発明(オリゴ糖とタンパク質との同時投与)によれば顕著に高いビフィズス菌増殖効果を有するため、当該摂取量でも有効と考えられる。すなわち、オリゴ糖の摂取量(投与量)としては、例えば、1日あたり0.02g/kg体重以上、0.03g/kg体重以上、0.04g/kg体重以上、0.05g/kg体重以上、0.06g/kg体重以上、0.07g/kg体重以上、0.08g/kg体重以上、0.09g/kg体重以上、0.1g/kg体重以上、0.11g/kg体重以上、0.12g/kg体重以上、0.13g/kg体重以上、0.14g/kg体重以上、0.15g/kg体重以上、0.16g/kg体重以上、0.17g/kg体重以上、0.18g/kg体重以上、0.19g/kg体重以上、0.2g/kg体重以上、を例示することができる。係る有効成分の摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。
【0042】
一方、タンパク質の摂取量(投与量)としては、例えば、1日あたり0.1g/kg体重以上、0.2g/kg体重以上、0.3g/kg体重以上、0.4g/kg体重以上、0.5g/kg体重以上、0.6g/kg体重以上、0.7g/kg体重以上、0.8g/kg体重以上、0.9g/kg体重以上、1.0g/kg体重以上、1.2g/kg体重以上、1.3g/kg体重以上、1.4g/kg体重以上、1.5g/kg体重以上、1.6g/kg体重以上、1.7g/kg体重以上、1.8g/kg体重以上、1.9g/kg体重以上、2.0g/kg体重以上、2.1g/kg体重以上、2.2g/kg体重以上、2.3g/kg体重以上、2.4g/kg体重以上、2.5g/kg体重以上、2.6g/kg体重以上、2.7g/kg体重以上、2.8g/kg体重以上、2.9g/kg体重以上、3.0g/kg体重以上、3.1g/kg体重以上、3.2g/kg体重以上、3.3g/kg体重以上、3.4g/kg体重以上、3.5g/kg体重以上、3.6g/kg体重以上、3.7g/kg体重以上3.8g/kg体重以上、を挙げることができる。係る有効成分の摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。
【0043】
本発明において、「腸内細菌を増殖させる」とは、腸管内における当該細菌の数を増加させることをいう。
【0044】
例えば、腸におけるビフィズス菌の菌数は、糞便あるいは盲腸内容物(以下、「糞便等」という。)中の当該細菌の菌数と相関していると考えられるため、糞便等の中の当該細菌の菌数を計測することにより、腸において当該細菌の菌数が増加したか否かを確認することができる。具体的には、例えば、本組成物の摂取前後の糞便等、または、摂取した個体からの糞便等と摂取していない個体からの糞便等とを試料として、ビフィズス菌に特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCR法を行って16S rRNA遺伝子(16S rDNA)コピー数を計測する。16S rDNAコピー数とビフィズス菌の菌数とは相関関係にあるため、このコピー数は、菌数の指標とすることができる。よって、ビフィズス菌の16S rDNAコピー数を計測した結果、摂取後の試料におけるコピー数が摂取前よりも大きければ、あるいは、摂取した個体からの試料におけるコピー数が摂取していない個体よりも大きければ、本組成物によりビフィズス菌の菌数が増加した(増殖が促進された)と判断することができる。
【0045】
ビフィズス菌の16S rDNAに特異的なプライマーは、公知の塩基配列に基づいて設計することができる。例えば、後述する実施例に示すビフィドバクテリウム属の16S rDNAの部分配列(配列番号1)に基づいて設計することができる。
【0046】
また、後述する実施例に示すように、有効成分の摂取前後の糞便等、または、摂取した個体からの糞便等と摂取していない個体からの糞便等とを試料として、次世代シークエンサーにより試料中の細菌由来16S rDNAの網羅的解析を行い、ビフィズス菌の16S rDNAの部分配列(配列番号1)と相同性の高い配列データの存在比率を算出する。なお、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae))における16S rRNA遺伝子配列の相同性は90%以上であるという報告がある(渡辺 幸一、ビフィズス菌の分類法の現状と動向、腸内細菌学雑誌、2016年、第30巻、第129-139頁)。当該存在比率は、ビフィズス菌の16S rDNAコピー数、すなわちビフィズス菌の菌数と相関関係にあるといえる。よって、摂取後の試料における当該配列データの存在比率が摂取前よりも大きければ、あるいは、摂取した個体の試料における当該配列データの存在比率が摂取していない個体のものよりも大きければ、本発明によりビフィズス菌の菌数が増加したと判断することができる。
【0047】
腸内の乳酸やピルビン酸の量は、糞便あるいは盲腸内容物(以下、「糞便等」という。)中の乳酸・ピルビン酸の量と相関していると考えられるため、糞便等における乳酸・ピルビン酸量を測定することにより、腸においてこれら有機酸が増加したか否かを確認することができる。具体的には、例えば、有効成分の摂取前後の糞便等、または、摂取した個体からの糞便等と摂取していない個体からの糞便等とを試料として、ガスクロマトグラフ質量分析計により、これら有機酸の含有量を測定する。その結果、摂取後の試料における乳酸・ピルビン酸の量が摂取前よりも大きければ、あるいは、摂取した個体からの試料における乳酸・ピルビン酸の量が摂取していない個体よりも大きければ、本発明により、腸内の乳酸・ピルビン酸が増加したと判断することができる。
【0048】
以下、本発明について各実施例に基づいて説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0049】
<評価試料>
(1)オリゴ糖
オリゴ糖は、下記の5種類を用いた。
[1-1]1-ケストース
1-ケストースは、「純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物(物産フードサイエンス社)」(粉体)を用いた。
【0050】
[1-2]ラクチュロース
ラクチュロースは、「ミルクオリゴ糖 ラクチュロース」(ラクチュロース97%以上含有、粉末品)(ニチガ)を用いた。
【0051】
[1-3]ラクトスクロース
ラクトスクロースは、「LS-55P」(ラクトスクロース55.0~60.0%含有、粉末品)(塩水港精糖)を用いた。
【0052】
[1-4]イソマルトオリゴ糖
イソマルトオリゴ糖は、「イソマルト900P」(イソマルトオリゴ糖85%以上含有、粉末品)(昭和産業)を用いた。本品の糖組成は、単糖(グルコース)6%、二糖(イソマルトースほか)38%、三糖(イソマルトトリオース、パノース)29%、四糖(イソマルトテトラオースほか)27%、である(木村一雅ら、Milk science Vol.67, No. 2, 2018, pp.88-101)。
【0053】
[1-5]ガラクトオリゴ糖
ガラクトオリゴ糖は、「オリゴメイト55NP」(固形分中にガラクトオリゴ糖55%以上含有、粉末品)(ヤクルト薬品工業)を用いた。本品の糖組成は、単糖(ガラクトース9%、グルコース22%)31%、二糖(ラクトースほか)22%、三糖(4’-ガラクトシルラクトース)33%、四糖以上のガラクトオリゴ糖8%、である(木村一雅ら、Milk science Vol.67, No. 2, 2018, pp.88-101)。
【0054】
(2)タンパク質
タンパク質は、下記の3種類を用いた。
[2-1]カゼイン
製品名;SureProtein(登録商標)LACTIC CASEIN 720(nzmp)
製品仕様:スキムミルクを原料とする酸カゼイン。外観:クリーム色、顆粒状(粒度30メッシュ)。密度:0.67g/mL。栄養成分(製品100g中) エネルギー(kJ):1520。蛋白質(N×6.38)(g):86.9。水分(g):11.5。脂質(g):1.2。炭水化物(g):0.1。灰分(g):1.8。
[2-2]ホエイタンパク質
製品名;SureStart(登録商標)WHEY PROTEIN ISOLATE 895(nzmp)
製品仕様;蛋白質(N×6.38)乾燥重量当り(% m/m):95.0以上。灰分(% m/m):4.0以下。水分(% m/m):5.5以下。脂質(% m/m):1.0以下。ラクトース(% m/m):1.0以下。pH(5%、20℃):6.5以上。
[2-3]大豆タンパク質
製品名;SUPRO(登録商標)661 Isolated Soy Protein(Solae)
製品仕様;栄養成分(製品100g中) カロリー:381kcal。蛋白質(N×6.25)(g):87.5。水分(g):4.3。灰分(g):4.4。脂質(g):3.1。炭水化物(g):1g以下。
【0055】
カゼインおよび大豆タンパク質のアミノ酸組成を表1に示す。
【表1】
【0056】
<実施例1>1-ケストースとカゼインとの併用
(1)ラットの飼育
28匹のSprague-Dawley(SD)系雄性ラット(日本エスエルシー社)を7匹ずつ4つの群に分け、表2に示す飼料および水をそれぞれ自由摂取させながら、2週間飼育した。飼育条件は温度23±1℃、明期12時間(8:00~20:00)および暗期12時間(20:00~8:00)とした。
【表2】
【0057】
飼料の組成を下記に示す。
《標準飼料の組成(単位は質量%)》コーンスターチ 39.7486、ミルクカゼイン 20、アルファ化コーンスターチ 13.2、グラニュー糖 10、精製大豆油 7、セルロースパウダー 5、ミネラルミックス 3.5、ビタミンミックス 1、L-シスチン 0.3、重酒石酸コリン 0.25、第3ブチルヒドロキノン 0.0014。
《高タンパク飼料の組成》標準飼料に、タンパク質の最終含有量が50%(w/w)となるようカゼインを添加混合した飼料。
【0058】
すなわち、「対照群」は1-ケストースを摂取せず、タンパク質の摂取量が普通である群、「ケストース群」は1-ケストースを摂取し、タンパク質の摂取量が普通である群、「タンパク群」は1-ケストースを摂取せず、タンパク質の摂取量が大きい群、「ケストース2%+タンパク群」は1-ケストースを摂取し、タンパク質の摂取量が大きい群である。なお、高タンパク飼料を摂取させるとラットは飲水量が大きくなるため、「ケストース2%+タンパク群」では、1-ケストースの摂取量がケストース群より大きくなった。
【0059】
飼育期間中は毎日、飼料の摂取量および飲水量を記録し、当該記録に基づき、タンパク質および1-ケストースの摂取量(各成分の実質的な摂取量)を算出した。また、ラットにおける薬物の摂取量は、下記の式1により、ヒト成人における摂取量に換算できることが報告されている(特開2014-526521号公報の段落[0065]、Shannon Reagan-Shawら、The FASEB Journal、Vol.22、2007年3月、第659~661頁)。そこで、当該式1により、ラットにおける1日の1-ケストースおよびタンパク質の摂取量を、ヒト成人におけるものに換算した。それらの算出結果を表1の右側に示す。
《式1》ヒト成人における1日の1-ケストースまたはタンパク質の摂取量(g/kg体重)=ラットにおける1日の1-ケストースまたはタンパク質の摂取量(g/kg体重)×6/37
【0060】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例1(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸の内容物を採取して凍結保存した。〈Shunsuke Takahashiら、PLosONE、第9巻、第8号、e105592、2014年8月:参考文献1〉に記載の方法に従って、盲腸内容物から総DNAを抽出した。具体的には、まず、4Mのグアニジンチオシアネート、100mMのトリスHCl(pH9.0)および40mMのEDTAを含む水溶液に、氷上で融解した盲腸内容物100mgを懸濁し、FastPrep FP100A(MP Biomedicals)を用いてジルコニアビーズで粉砕して懸濁液を得た。Magtration System 12GC(Precision System Science)およびGC series MagDEA DNA 200(Precision System Science)を用いて、この懸濁液からDNAを抽出した。DNAの濃度を分光測光器ND-1000(NanDrop Technologies)を用いて測定し、10ng/μLとなるように調製して、これを盲腸内容物総DNAとした。
【0061】
上記参考文献1に記載の方法に従い、盲腸内容物に含まれる細菌の種類と存在比率の網羅的解析を行った。すなわち、まず、盲腸内容物総DNAを鋳型として、下記配列番号2および3のユニバーサルプライマーを用いてDual-index法(Hisada Takayoshiら、Arch Microbiol、197巻、第7号、第919‐34頁、2015年6月)によりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、細菌由来の16S rDNAのV3-V4領域を増幅した。
フォワードプライマー(341f):CCTACGGGAGGCAGCAG(配列番号2)
リバースプライマー(R806):GGACTACHVGGGTWTCTAAT(配列番号3)
【0062】
続いて、次世代シークエンサーMiSeq(Illumina)によりPCR増幅産物の塩基配列をペアエンド法により解読した。得られた塩基配列データはデータの質(クオリティ)が低いものおよびキメラ配列由来のものを排除した。決定した塩基配列についてデータベースによる検索を行い、同一性が97%以上で検出される分類群を1菌種(属)として同定した。ビフィズス菌として同定された配列(16S rDNAの部分配列)のうちの一つを配列番号1に示す。
【0063】
[配列番号1]
TGGGGAATATTGCACAATGGGCGCAAGCCTGATGCAGCGACGCCGCGTGCGGGATGGAGGCCTTCGGGTTGTAAACCGCTTTTGTTCAAGGGCAAGGCACGGCTTCGGGCCGTGTTGAGTGGATTGTTCGAATAAGCACCGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGGTGCGAGCGTTATCCGGATTTATTGGGCGTAAAGGGCTCGTAGGCGGTTCGTCGCGTCCGGTGTGAAAGTCCATCGCCTAACGGTGGATCTGCGCCGGGTACGGGCGGGCTGGAGTGCGGTAGGGGAGACTGGAATTCCCGGTGTAACGGTGGAATGTGTAGATATCGGGAAGAACACCAATGGCGAAGGCAGGTCTCTGGGCCGTTACTGACGCTGAGGAGCGAAAGCGTGGGGAGCGAACAGGAT
【0064】
占有率は、総リード数に占める各菌種(属、科)のリード数の割合を百分率として算出した。なお、クオリティのチェックは参考文献1に、キメラ配列のチェックは〈Robert C. Edgarら、BIOINFORMATICS、第27巻、16号、第2194-2200頁、2011年6月〉に、データベースによる検索は〈Hisada Takayoshiら、Arch Microbiol、197巻、第7号、第919‐34頁、2015年6月〉に、それぞれ記載の方法に準じて行った。この網羅的解析におけるビフィズス菌(Bifidobacteriaceae)およびビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の占有率(各群(N=7)における中央値)を
図1および
図2にそれぞれ示す。
【0065】
図1に示すように、ビフィズス菌の占有率は、対照群では0.1%であったのに対してケストース群では0.3%であり、対照群よりもやや大きかった。タンパク群では0.0%であり、対照群よりも小さかった。一方、ケストース2%+タンパク群では占有率が31.2%であり、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、1-ケストースとカゼインを高い割合で含有する飼料(カゼイン高含有飼料)とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、1-ケストースおよびカゼイン高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも、遥かに大きかった。また、
図2に示すように、ビフィドバクテリウム属の占有率の値も、各群につき、ビフィズス菌に係る占有率の値とすべて同じであった。これらの結果から、1-ケストースとタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内のビフィズス菌の菌数を効果的に増加させられることが明らかになった。
【0066】
(3)乳酸およびピルビン酸の定量
本実施例1(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の濃度(Absorbance Unit;au)をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS/MS)を用いて測定した。続いて、各群毎に測定値の平均を算出し、対照群の平均値を1とした時の相対値を算出して、棒グラフに表した。その結果を
図3に示す。
【0067】
図3に示すように、乳酸濃度は、ケストース群およびタンパク群では対照群よりも小さかったのに対して、ケストース2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。ピルビン酸濃度も、ケストース群では対照群と同等であり、タンパク群では対照群よりもやや大きい程度であったのに対して、ケストース2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、1-ケストースとカゼイン高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、乳酸およびピルビン酸の盲腸内濃度が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、1-ケストースおよびカゼイン高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合の乳酸およびピルビン酸の増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。この結果から、1-ケストースとタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内の乳酸およびピルビン酸の量を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0068】
<実施例2>1-ケストースとホエイタンパク質との併用
(1)ラットの飼育
実施例1(1)に記載の方法によりラットを飼育した。ただし、1-ケストースを摂取し、タンパク質の摂取量が大きい群として「ケストース2%+タンパク群」の他に「ケストース1%+タンパク群」を設定した。また、高タンパク飼料には、カゼインに換えてホエイタンパク質を配合した。各群に摂取させた飼料および水ならびに1-ケストースおよびタンパク質の摂取量の算出結果を表3に示す。
【表3】
【0069】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例2(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、実施例1(2)に記載の方法によりメタ16S解析を行い、ビフィズス菌およびビフィドバクテリウム属の占有率(各群(N=7)における中央値)を求めた。その結果を
図4および
図5に示す。
【0070】
図4に示すように、ビフィズス菌の占有率は、対照群では0.1%であったのに対してケストース群では6.5%、タンパク群では0.4%であり、いずれも対照群よりやや大きい程度であった。これらに対して、ケストース1%+タンパク群およびケストース2%+タンパク群ではそれぞれ占有率が23.2%および46.2%であり、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、1-ケストースとホエイタンパク質を高い割合で含有する飼料(ホエイ高含有飼料)とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、1-ケストースおよびホエイ高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。また、
図5に示すように、ビフィドバクテリウム属の占有率の値も、各群につき、ビフィズス菌に係る占有率の値とすべて同じであった。これらの結果から、1-ケストースとタンパク質とを同時に摂取することにより、タンパク質の種類にかかわらず、腸内のビフィズス菌の菌数を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0071】
(3)乳酸およびピルビン酸の定量
本実施例2(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の濃度(au)をGC-MS/MSを用いて測定した。続いて、各群毎に測定値の平均を算出し、対照群の平均値を1とした時の相対値を算出して、棒グラフに表した。その結果を
図6に示す。
【0072】
図6に示すように、乳酸濃度は、ケストース群およびタンパク群では対照群よりも小さかったのに対して、ケストース1%+タンパク群およびケストース2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。ピルビン酸濃度も、ケストース群およびタンパク群では対照群と同等以下であったのに対して、ケストース1%+タンパク群およびケストース2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、1-ケストースとホエイ高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、乳酸およびピルビン酸の盲腸内濃度が顕著に大きかった。この結果から、タンパク質の種類にかかわらず、1-ケストースとタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内の乳酸およびピルビン酸の量を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0073】
<実施例3>1-ケストースと大豆タンパク質との併用
(1)ラットの飼育
実施例1(1)に記載の方法によりラットを飼育した。ただし、高タンパク飼料には、カゼインに換えて大豆タンパク質を配合した。
【0074】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例3(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、実施例1(2)に記載の方法によりメタ16S解析を行い、ビフィズス菌およびビフィドバクテリウム属の占有率(各群(N=7)における中央値)を求めた。その結果を
図7および
図8に示す。
【0075】
図7に示すように、ビフィズス菌の占有率は、対照群では0.1%であったのに対してケストース群では6.5%、タンパク群では0.4%であり、いずれも対照群よりやや大きかった。これらに対して、ケストース2%+タンパク群では46.4%であり、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、1-ケストースと大豆タンパク質を高い割合で含有する飼料(大豆タンパク高含有飼料)とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、1-ケストースおよび大豆タンパク質高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。
【0076】
また、
図8に示すように、ビフィドバクテリウム属の占有率の値も同様の傾向であり、対照群では0.1%、ケストース群では0.2%、タンパク群では0%であったのに対して、ケストース2%+タンパク群では12.3%であり、ケストース2%+タンパク群でのみ、突出して大きかった。すなわち、1-ケストースと大豆タンパク高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、ビフィドバクテリウム属の占有率が顕著に大きかった。
【0077】
これらの結果から、タンパク質の種類にかかわらず、1-ケストースとタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内のビフィズス菌の菌数を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0078】
<実施例4>他のオリゴ糖とカゼインとの併用
(1)ラットの飼育
実施例1(1)に記載の方法によりラットを飼育した。ただし、オリゴ糖は、1-ケストースに換えてラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖を用いた。
【0079】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例4(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、実施例1(2)に記載の方法によりメタ16S解析を行い、ビフィズス菌およびビフィドバクテリウム属の占有率(各群(N=7)における中央値)を求めた。
【0080】
その結果、各種オリゴ糖群およびタンパク群におけるビフィズス菌の占有率は、いずれも対照群よりやや大きい程度であった。これらに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群の占有率は、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖とカゼイン高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、各種オリゴ糖およびカゼイン高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。ビフィドバクテリウム属の占有率の値も、各群につき、ビフィズス菌に係る占有率の値とすべて同様であった。これらの結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内のビフィズス菌の菌数を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0081】
(3)乳酸およびピルビン酸の定量
本実施例4(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の濃度(au)をGC-MS/MSを用いて測定した。続いて、各群毎に測定値の平均を算出し、対照群の平均値を1とした時の相対値を算出して、棒グラフに表した。
【0082】
その結果、乳酸濃度およびピルビン酸濃度は、各種オリゴ糖群およびタンパク群では対照群と同等以下であったのに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖とカゼイン高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、乳酸およびピルビン酸の盲腸内濃度が顕著に大きかった。この結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、腸内の乳酸およびピルビン酸の量を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0083】
<実施例5>他のオリゴ糖とホエイタンパク質との併用
(1)ラットの飼育
実施例1(1)に記載の方法によりラットを飼育した。ただし、オリゴ糖は、1-ケストースに換えてラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖を用いた。また、高タンパク飼料には、カゼインに換えてホエイタンパク質を配合した。
【0084】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例5(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、実施例1(2)に記載の方法によりメタ16S解析を行い、ビフィズス菌およびビフィドバクテリウム属の占有率(各群(N=7)における中央値)を求めた。
【0085】
その結果、各種オリゴ糖群およびタンパク群におけるビフィズス菌の占有率は、いずれも対照群よりやや大きい程度であった。これらに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群の占有率は、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖とホエイ高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、各種オリゴ糖およびホエイ高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。ビフィドバクテリウム属の占有率の値も、各群につき、ビフィズス菌に係る占有率の値とすべて同様であった。これらの結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、タンパク質の種類にかかわらず、腸内のビフィズス菌の菌数を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0086】
(3)乳酸およびピルビン酸の定量
本実施例5(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の濃度(au)をGC-MS/MSを用いて測定した。続いて、各群毎に測定値の平均を算出し、対照群の平均値を1とした時の相対値を算出して、棒グラフに表した。
【0087】
その結果、乳酸濃度およびピルビン酸濃度は、各種オリゴ糖群およびタンパク群では対照群と同等以下であったのに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖とホエイ高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、乳酸およびピルビン酸の盲腸内濃度が顕著に大きかった。この結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、タンパク質の種類にかかわらず、腸内の乳酸およびピルビン酸の量を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0088】
<実施例6>他のオリゴ糖と大豆タンパク質との併用
(1)ラットの飼育
実施例1(1)に記載の方法によりラットを飼育した。ただし、オリゴ糖は、1-ケストースに換えてラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖を用いた。また、高タンパク飼料には、カゼインに換えて大豆タンパク質を配合した。
【0089】
(2)メタ16S解析によるビフィズス菌数の確認
本実施例6(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、実施例1(2)に記載の方法によりメタ16S解析を行い、ビフィズス菌およびビフィドバクテリウム属の占有率(各群(N=7)における中央値)を求めた。
【0090】
その結果、各種オリゴ糖群およびタンパク群におけるビフィズス菌の占有率は、いずれも対照群よりやや大きい程度であった。これらに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群の占有率は、対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖とホエイ高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、ビフィズス菌の占有率が顕著に大きかった。また、その増加の程度は、各種オリゴ糖および大豆タンパク高含有飼料のそれぞれを単独で摂取させた場合のビフィズス菌増加効果を足し合わせたものよりも遥かに大きかった。ビフィドバクテリウム属の占有率の値も、各群につき、ビフィズス菌に係る占有率の値とすべて同様であった。これらの結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、タンパク質の種類にかかわらず、腸内のビフィズス菌の菌数を顕著に増加させられることが明らかになった。
【0091】
(3)乳酸およびピルビン酸の定量
本実施例6(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸内容物における乳酸およびピルビン酸の濃度(au)をGC-MS/MSを用いて測定した。続いて、各群毎に測定値の平均を算出し、対照群の平均値を1とした時の相対値を算出して、棒グラフに表した。
【0092】
その結果、乳酸濃度およびピルビン酸濃度は、各種オリゴ糖群およびタンパク群では対照群と同等以下であったのに対して、各種オリゴ糖2%+タンパク群では対照群よりも顕著に大きかった。すなわち、各種オリゴ糖と大豆タンパク高含有飼料とを同時に摂取したラットでは、乳酸およびピルビン酸の盲腸内濃度が顕著に大きかった。この結果から、各種オリゴ糖(ラクチュロース、ラクトスクロース、イソマルトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖)とタンパク質とを同時に摂取することにより、タンパク質の種類にかかわらず、腸内の乳酸およびピルビン酸の量を顕著に増加させられることが明らかになった。