(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015274
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】寸法安定性が向上したポリエーテルケトンケトン製部品
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C08G65/40
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023206982
(22)【出願日】2023-12-07
(62)【分割の表示】P 2020513690の分割
【原出願日】2018-09-10
(31)【優先権主張番号】1758296
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブリュレ ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】デクラエメール ナディーヌ
(72)【発明者】
【氏名】イリオポウロス イリアス
(57)【要約】
【課題】高温での寸法安定性含む高い寸法安定性を示す熱可塑性材料製の部品を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリエーテルケトンケトンを含み、ポリエーテルケトンケトンは、少なくとも部分的に結晶質であり、結晶質ポリエーテルケトンケトンの少なくとも50質量%が形態1のものである、部品に関する。本発明はまた、そのような部品を製造する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルケトンケトンを含み、ポリエーテルケトンケトンは、少なくとも部分的に結晶質であり、明細書4頁27行~5頁17行に記載したプロトコールに従って判断したとき、結晶質ポリエーテルケトンケトンの少なくとも50質量%が形態1のものである、部品。
【請求項2】
結晶質ポリエーテルケトンケトンの少なくとも80質量%、好ましくは、少なくとも90質量%、より特定すると、好ましくは本質的に全部が、形態1のものである、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
ポリエーテルケトンケトンが、少なくとも10質量%、好ましくは、少なくとも15質量%の結晶質ポリエーテルケトンケトンを含む、請求項1または2に記載の部品。
【請求項4】
ポリエーテルケトンケトンが、テレフタル酸単位を含み、イソフタル酸単位を含んでもよく、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対するテレフタル酸単位の質量割合は、35%から100%まで、好ましくは、55%から85%までである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の部品。
【請求項5】
ポリエーテルケトンケトンが、部品の少なくとも30質量%、好ましくは、少なくとも50質量%、より好ましくは、少なくとも70質量%、理想的には、少なくとも80質量%に相当する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の部品。
【請求項6】
好ましくは繊維を含む充填材、1種または複数の他のポリアリールエーテルケトン、添加剤、およびこれらの組合せから選択される1種または複数の追加要素も含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の部品。
【請求項7】
空中もしくは宇宙輸送飛行体の部品、または掘削設備の部品、または乗物エンジンもしくは反応器と接触もしくは接近して配置される部品、または摩擦を受ける部品である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の部品。
【請求項8】
器具、飛行体、またはシステムにおける請求項1から7までのいずれか1項に記載の部品の使用であって、部品は、200℃以上、230℃以上、260℃以上、または280℃以上の連続動作温度に曝される、使用。
【請求項9】
器具、飛行体、またはシステムにおける請求項1から7までのいずれか1項に記載の部品の使用であって、部品は、200℃以上、250℃以上、300℃以上、または320℃以上の最大温度に曝される、使用。
【請求項10】
請求項1から7までの1項に記載の部品を製造する方法であって、
- ポリエーテルケトンケトンを用意するステップと、
- ポリエーテルケトンケトンを造形し、ポリエーテルケトンケトンを形態1として少なくとも部分的に結晶化するステップと
を含む方法。
【請求項11】
造形を射出成形、射出/圧縮成形、または押出しによって行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
造形する段階の後に熱処理の段階を含む、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した高温寸法安定性を示すポリエーテルケトンケトン製部品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、高い融点、優ぐれた機械的性質、非常に良好な耐薬品性を示すポリマーである。
このため、PEKKは、たとえば、航空宇宙産業などの、要求の厳しい技術分野に特に有利なポリマーである。
PEKKは、テレフタル酸およびイソフタル酸から誘導される異なる単位を含むことができる。PEKKの融点や結晶化動態などの一部の性質は、これらの各単位の割合に左右される。
Gardner et al., in Polymer, 33, 2483-2495 (1992)における論文Structure, crystallisation and morphology of poly(aryl ether ketone ketone)は、PEKKについて、形態1および形態2と呼ばれる2種の結晶質形態の存在を記載している。
一部の用途では、高温での寸法安定性を含む良好な寸法安定性を示す部品が要求される。より詳細には、部品は、高温に曝されても、反り、曲がり、縮み、または伸びタイプの重大な変形を被ってはならない。
したがって、高温での寸法安定性含む高い寸法安定性を示す熱可塑性材料製の部品を提供することが求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、第一に、ポリエーテルケトンケトンを含み、ポリエーテルケトンケトンは、少なくとも部分的に結晶質であり、結晶質ポリエーテルケトンケトンの少なくとも50質量%が形態1のものである、部品に関する。
一部の実施形態によれば、結晶質ポリエーテルケトンケトンの少なくとも80質量%、好ましくは、少なくとも90質量%、より特定すると、好ましくは本質的に全部が、形態1のものである。
一部の実施形態によれば、ポリエーテルケトンケトンは、少なくとも10質量%、好ましくは、少なくとも15質量%の結晶質ポリエーテルケトンケトンを含む。
一部の実施形態によれば、ポリエーテルケトンケトンは、テレフタル酸単位を含み、イソフタル酸単位を含んでもよく、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対するテレフタル酸単位の質量割合は、35%から100%まで、好ましくは、55%から85%までである。
【0004】
一部の実施形態によれば、ポリエーテルケトンケトンは、部品の少なくとも30質量%、好ましくは、少なくとも50質量%、より好ましくは、少なくとも70質量%、理想的には、少なくとも80質量%に相当する。
一部の実施形態によれば、部品は、好ましくは繊維を含む充填材、1種または複数の他のポリアリールエーテルケトン、添加剤、およびこれらの組合せから選択される1種または複数の追加要素も含む。
一部の実施形態によれば、部品は、空中もしくは宇宙輸送飛行体の部品、または掘削設備の部品、または乗物エンジンもしくは反応器と接触もしくは接近して配置されることになっている部品、または摩擦を受けることになっている部品である。
本発明はまた、器具、飛行体、またはシステムにおける上記部品の使用であって、部品は、200℃以上、230℃以上、260℃以上、または280℃以上の連続動作温度に曝される、使用に関する。
一部の実施形態によれば、使用は、部品が200℃以上、250℃以上、300℃以上、または320℃以上の最大温度に曝される、器具、飛行体、またはシステムにおいてなされる。
【0005】
本発明はまた、上述のとおりの部品を製造する方法であって、
- ポリエーテルケトンケトンを用意するステップと、
- ポリエーテルケトンケトンを造形し、ポリエーテルケトンケトンを形態1として少なくとも部分的に結晶化するステップと
を含む方法に関する。
一部の実施形態によれば、造形は、射出成形、射出/圧縮成形、または押出しによって行われる
一部の実施形態によれば、方法は、造形する段階の後に熱処理の段階を含む。
本発明によって、従来技術において示されている要求に対処することが可能になる。本発明は、より詳細には、高温での高い寸法安定性、すなわち、クリープに対するより良好な耐性を示す熱可塑性材料製の部品を提供する。したがって、部品は、広い動作温度範囲において使用することができる。
【0006】
これは、PEKKを変換することによって実現されるため、得られる部品において、PEKKは、主として(実際はむしろ、本質的に、またはもっぱら)形態1として結晶化される。
例として、T単位含有率60%(以下で定義する)を示すPEKKは、およそ320℃での射出による使用が可能になるため、特に有利なグレードである。しかし、従来、その結晶化が非常に緩慢なために、金型の温度を、(およそ160℃であるガラス転移温度より低いレベルである)およそ80~140℃、特に80~120℃に調節する必要がある。非常に緩慢な結晶化は、ガラス転移温度より高い温度では、芳しくない性質を有する非晶質の部品をもたらす。本発明では、高温、特に、およそ160℃~300℃の間での、このグレードのPEKKの部品の性質を強化することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ここで、本発明について、以下の記述においてより詳細かつ非限定的に説明する。
PEKKは、次式Iおよび/または次式IIの繰返し単位の連続物を含むポリマーである。
【化1】
これらの式において、nは、整数である。
式Iの単位は、イソフタル酸から誘導される単位(またはI単位)であり、式IIの単位は、テレフタル酸から誘導される単位(またはT単位)である。
本発明において使用するPEKKでは、T単位とI単位の合計に対するT単位の質量割合は、0%から5%まで、5%から10%まで、10%から15%まで、15%から20%まで、20%から25%まで、25%から30%まで、30%から35%まで、35%から40%まで、40%から45%まで、45%から50%まで、50%から55%まで、55%から60%まで、60%から65%まで、65%から70%まで、70%から75%まで、75%から80%まで、80%から85%まで、85%から90%まで、90%から95%まで、または95%から100%までの様々となる場合がある。
【0008】
35%から100%まで、特に55%から85%まで、より詳細にはさらに60%から80%までの範囲が、特に適している。本特許出願において示すすべての範囲において、別段言及しない限り、境界を含める。
T単位とI単位の合計に対するT単位の質量割合の選択は、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)の溶融温度の調整を可能にする要素の1つである。T単位とI単位の合計に対するT単位の所与の質量割合は、重合の際に、それ自体が知られている方法で、反応物のそれぞれの濃度を調整することによって実現することができる。
固体状態では、PEKKは、非晶質形態として、または部分的に結晶質形態として存在する場合がある。結晶質画分は、特に、形態1または形態2である場合がある。結晶質形態、より厳密には、形態1および/または形態2であるPEKKの質量割合は、X線回折法分析によって求めることができる。
例として、分析は、Nano-inXider(登録商標)型の装置において、次の条件:
- 波長:銅Kα1主線(1.54オングストローム)
- 発生装置の出力:50kV-0.6mA
- 観測方式:透過
- カウント時間:10分
を用い、広角X線散乱(WAXS)によって行うことができる。
【0009】
そうして、回折角の関数としての散乱強度のスペクトルが得られる。このスペクトルによって、スペクトル上に、非晶質ハローに加えてピークが目に見えるとき、結晶の存在を確認することが可能になる。
このスペクトルでは、結晶中の形態1および/または形態2の存在を、スペクトルにおいて一方または他方の形態に特徴的な一式のピークを識別することにより確認することも可能になる。
形態1に特徴的な主要なピークは、次の角度位置(2θ):18.6°、-20.6°、-23.1°、-28.9°にある。
形態2に特徴的な主要なピークは、次の角度位置(2θ):15.5°、-17.7°、-22.6°、-28.0°にある。
スペクトルにおいて、形態1に特徴的な上記の主要なピークの面積(A1と表記)、形態2に特徴的な上記の主要なピークの面積(A2と表記)、および非晶質ハローの面積(AHと表記)を測定することができる。
【0010】
PEKK中の結晶質PEKKの(質量による)割合は、(A1+A2)/(A1+A2+AH)の比によって推定される。
PEKKの結晶質相中の形態1の結晶の(質量による)割合は、(A1)/(A1+A2)の比によって推定される。
PEKKの結晶質相中の形態2の結晶の(質量による)割合は、(A2)/(A1+A2)の比によって推定される。
本発明において使用するPEKKでは、結晶質PEKKの質量割合は、特に、1%から5%まで、5%から10%まで、10%から15%まで、15%から20%まで、20%から25%まで、25%から30%まで、30%から35%まで、35%から40%まで、40%から45%まで、または45%から50%までの様々となる場合がある。たとえば、PEKKは、40%未満、より好ましくは、30%未満の割合で結晶質であることが好ましい。
高い機械的性能品質を有する部品を利用可能にするために、結晶質PEKKの含有率は、比較的高い、たとえば、5%以上、10%以上、またはなお15%以上であることが有利である。
本発明において使用するPEKKでは、結晶質PEKK全体に対する形態1のPEKKの質量割合は、特に、50%から55%まで、55%から60%まで、60%から65%まで、65%から70%まで、70%から75%まで、75%から80%まで、80%から85%まで、85%から90%まで、90%から95%まで、または95%から100%までの様々となる場合がある。たとえば、形態1のこの質量割合は、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%になる場合がある。結晶質PEKKは、特に、本質的に形態1のPEKKから構成される(実際はむしろ、からなる)場合がある。
【0011】
本発明の部品のPEKKは、96%硫酸中にて、0.005g/mlの濃度で、0.4~1.5dl/g、好ましくは、0.6~1.12dl/gの固有粘度を示すことが有利である。
本発明による部品は、本質的にPEKKから構成される、実際はむしろ、PEKKからなる場合がある。
あるいは、本発明による部品は、上述のとおりのPEKKと、特に、充填材(繊維を含める)および/または機能性添加剤などの他の成分とを含む場合もある。機能性添加剤の中でも、特に、1種または複数の界面活性剤、UV安定剤、熱安定剤、および/または殺生剤を含むことが可能である。
PEKKは、1種または複数の他のポリマー、特に、PAEK(ポリアリールエーテルケトン)のファミリーに属するまたは属さない熱可塑性樹脂と組み合わせることもできる。そのようなPAEKとしては、特に、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(PEEKEK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)、これらの、互いまたは他のPAEKファミリーメンバーとの混合物および共重合体を挙げることができる。
【0012】
PEKKは、存在するすべてのポリマーの、質量で、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%に相当することが好ましい。
詳細な実施形態では、(考えられる充填材または機能性添加剤を除き)PEKKだけがポリマーとして存在する。
本発明による部品は、充填材、特に強化用繊維を含む複合部品である場合がある。複合部品は、質量で、1%から99%まで、好ましくは、30%から90%まで、特に、50%から80%まで、より特別な例では、60%から70%までの充填材、特に、強化用繊維を含む場合がある。
非繊維充填材は、特に、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、ガラスビーズ、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブなどの無機充填材である場合がある。
【0013】
繊維充填材は、「短」繊維または強化用繊維(長もしくは連続繊維)である場合がある。
繊維充填材は、特に、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、シリカ繊維、金属繊維、たとえば、鋼繊維、アルミニウム繊維、もしくはホウ素繊維、セラミック繊維、たとえば、炭化ケイ素もしくは炭化ホウ素繊維、合成有機繊維、たとえば、アラミド繊維もしくはポリ(p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、またはさらに、PAEK繊維、またはさらに、こうした繊維の混合物である場合がある。
繊維充填材は、炭素繊維またはガラス繊維、より特定すると、炭素繊維であることが好ましい。
繊維は、サイズ処理されていないことが好ましい。サイズ処理されている場合、繊維は、熱安定性であるサイズ剤(換言すると、300℃を超える、特に350℃を超える温度、特に375℃の温度に少なくとも20分間曝されても、PEKKと著しく反応しうる反応性実在物を生じさせないサイズ剤)によってサイズ処理されていることが好ましい。
【0014】
強化用繊維は、一方向繊維の形で、たとえば、炭素繊維では直径がたとえば6~10μmである、数千の個々のフィラメント(通常は、3000~48000)が寄せ集められている加工糸の形で提供されることが好ましい。このタイプの繊維は、ロービングの名称で知られている。
それでも、強化用繊維は、異なった方法で、たとえば、マットの形で、または他に、ロービングを織ることにより得られる布の形で編成されていてもよい。
本発明による部品は、少なくとも、PEKKの用意するステップと、PEKKを造形するステップとを含む方法に従って製造することができる。
PEKKの造形は、熱可塑性樹脂を造形する従来のいずれかの方法に従って行うことができ、したがって、ポリマーを溶融させる段階を含む。
造形は、特に、任意選択で、熱成形または機械加工によって補完される、押出し、射出成形、射出/圧縮成形、またはコーティングによって行うことができる。
【0015】
PEKKは、最初に、好ましくは、粉体、粒体、またはフレークの形で、および/または分散系、特に水性分散系の形で提供される。
PEKKが溶融状態にあるとき、添加剤、充填材、および部品の他の任意選択の構成要素は、たとえば、押出機において配合することにより、PEKKと混合することができる。別法として、PEKKは、固体状態、たとえば、粉体の形で、添加剤、充填材、および他の任意選択の構成要素と混合することもできる。
部品は、強化用繊維を含むとき、たとえば、PEKK(および添加剤または他の任意選択の構成要素)の水性分散系の浴に強化用繊維を導入し、循環させることにより生産することができる。引き続いて、PEKKが含浸した繊維を浴から取り出し、たとえば赤外炉において乾燥させることにより、水を除去することができる。引き続いて、乾燥させた含浸繊維を、PEKKが溶融するまで加熱して、PEKKによる繊維のコーティングを可能にすることができる。別法として、連続繊維を、PEKK粉体の流動床において循環させ、次いで、PEKKが溶融するまで全体を加熱することによってコーティングすることもできる。得られたコーティングされた繊維は、引き続いて、適切な場合、たとえばカレンダー加工によって、造形され、寸法が加減される。したがって、含浸ロービング、含浸織布、またはさらに繊維/母材混合物の一方向シートを得ることが可能である。
【0016】
別法として、先行する段落において記載したとおりに取得した物体は、半製品としても使用され、その半製品から、本発明に適性に従う部品が順を追って調製される。この調製は、特に、半製品を金型に入れるまたは垂らしかけることにより最初に予備成形物を製造することによって実施することができる。複合部品は、溶融によって半製品が継ぎ合わせられるように予備成形物をオートクレーブにおいて圧力下で徐々に加熱する段階である、圧密化によって得ることができる。引き続いて、半製品を、たとえば手動もしくは自動式ドレープ成形または自動式繊維配置によって継ぎ合わせ、圧密化によって造形して、本発明の部品を得ることができる。複合部品の諸部分を、オートクレーブにおいて新たな熱サイクルによって同時に圧密化する、または複合部品の諸部分を局部加熱によって互いに溶接することも可能である。
部品中の結晶質PEKKの含有率ならびに結晶質PEKK中の形態1の割合は、特に、製造工程の間に適用する温度条件に従って調整することができる。たとえば、射出成形の場合では、金型の温度を調節することが、上記パラメーターの調節を可能にする要素である。
一部の場合では、適切な造形の後に、熱処理またはアニーリングを適用することができる。このような後続の熱処理は、造形後、PEKKがもっぱら非晶質形態である、または高い含有率の形態2を含む結晶質形態であるときに、特に使用しなければならない。
【0017】
他の場合では、熱処理またはアニーリングは適用されない。これにより、このような段階の間に起こりうる変形のリスクを回避することが可能になる。このような熱処理またはアニーリングの回避を可能にするために、造形に適するパラメーター(たとえば成形の場合では金型の温度、冷却勾配など)の選択を適合させることができる。
一般に、工程の間の比較的高い温度(たとえば、射出成形の場合では金型の温度)の適用は、最終部品中に形態1の結晶質PEKKが存在するのに好都合であり、これは、造形前のPEKK中の結晶質形態がどんな性質であろうと当てはまる。
形態1の結晶質PEKKの所望の含有率を実現するために工程の間に適用される温度の閾値は、特に、PEKKの性質、より特定すると、T単位の、T単位とI単位の合計に対する割合に応じて決まる。たとえば、射出成形の場合において、一定の金型温度(通常、結晶質PEKKについては200℃より高い)では、T単位の含有率が高い場合、形態1がより高い割合で存在する。
【0018】
指標として、T単位の含有率に応じた、形態1の結晶質PEKKおよび形態2の結晶質PEKKのおおよその融点を、以下の表に掲載する。
【表1】
これらの値は、大部分が形態1および大部分が形態2である試料における示差走査熱量測定(DSC)によって取得した。
さらに、形態1の結晶の出現を促進するために、造形後または可能性のあるアニーリング後の冷却速度を、任意選択で調整することもできる。これは、(たとえば、50℃/時以下、30℃/時以下、または10℃/時以下の速度での)緩徐な冷却が、形態1の結晶の出現に好都合であるためである。
【0019】
本発明による部品は、いかなる産業物資または消費者物資の部品にもなりうる。特に、本発明による部品は、医療用具の部品になりうる。
好ましい実施形態では、本発明による部品は、その使用の際に比較的高い温度に曝される部品である。特に、本発明による部品は、空中もしくは宇宙輸送飛行体の部品、または(炭化水素分野のための)掘削設備の部品、またはエンジン(たとえば、海上、陸上、または空中乗物エンジン)もしくは反応器と接触もしくは接近して配置されるいずれかの部品、特に、封止材、コネクタ、被覆、および構造部品にすることができる。本発明による部品は、摩擦を受けることになっている部品、換言すると、使用の際に1つまたは複数の表面と可動接触する部品にもなりうる。そのような部品は、特に、支持体、リング、弁座、ギア、ピストン、ピストンリング、弁ガイド、圧縮機翼、封止材、およびエンジン部材である場合がある。
詳細な実施形態では、本発明による部品は、使用の際に、200℃以上、230℃以上、260℃以上、または280℃以上の連続動作温度に曝される。
連続動作温度は、部品が100000時間後にその最初の性質の50%を保持する最大温度である。連続動作温度は、UL 746 B規格に従って求めることができる。
詳細な実施形態では、本発明による部品は、使用の際に、200℃以上、250℃以上、300℃以上、または320℃以上の最大温度に曝される。この最大温度は、部品が、その使用全体の間に、短時間でも曝される最も高い温度である。
連続動作温度、特に最大温度についての許容される閾値は、PEKKの融点次第、すなわち、特に、PEKKにおける、T単位の、T単位とI単位を合わせたものに対する割合次第となりうることを留意すべきである。
したがって、最大温度は、使用するPEKKの形態1の融点マイナス5℃以下、好ましくは,使用するPEKKの形態1の融点マイナス10℃以下、より好ましくは、使用するPEKKの形態1の融点マイナス20℃以下、より好ましくは、使用するPEKKの形態1の融点マイナス30℃以下、より好ましくは、使用するPEKKの形態1の融点マイナス40℃以下であることが有利である。
【実施例0020】
以下の実施例によって、本発明について限定することなく説明する。
(実施例1)
ISO 527 1BA規格に従うダンベルを、T単位の相対的含有率80%を示す、ArkemaによるKepstan(登録商標)8002基準固体であるPEKK粒体から、射出によって製造する。
AとBの2タイプのダンベルを、次のパラメーター、すなわち、385℃の射出温度、ダンベルAについては273℃、ダンベルBについては265℃の金型温度を用いて調製する。
サイクル時間(金型の中に存在する時間)は、40秒とする。成形後、ダンベルを外し、放置して周囲温度に冷ます。
両方の場合において、WAXSによって求められた結晶化度は、14%である。
WAXS測定によって、結晶が、ダンベルA(本発明による)では100%形態1であり、ダンベルB(比較用)では15%の形態1と85%の形態2であると判断することが可能になる。
【0021】
DSCによって、ダンベルAの融点は、365℃で測定され、ダンベルBの融点は、359℃で測定される。
動的機械分析(DMA)測定では、50~350℃の範囲にかけて、ダンベルAとB間に、弾性率の有意差は明らかになっていない。
最後に、2タイプのダンベルにおいて、異なる温度で、応力下におけるひずみ(クリープ)の測定をモニターする。これを行うために、所与の応力をかけることにより張力試験を実施し、検討中の温度で各ダンベルのひずみをモニターする。
結果を以下の表に要約する。
【表2】
【0022】
上の表において、試料は、そのひずみが20分の最大持続時間まで変化しなくなるとき、安定しているとみなしている。
本発明による部品(ダンベルA)は、320℃より高い温度で、比較用部品(ダンベルB)より耐クリープ性があることがわかる。
【0023】
(実施例2)
ISO 527 1BA規格に従うダンベルを、T単位の相対的含有率60%を示す、ArkemaによるKepstan(登録商標)6002基準固体であるPEKK粒体から、射出によって製造する。
AとBの2タイプのダンベルを、次のとおりに調製する。両方のタイプのダンベルについて、射出温度340℃、金型温度80℃。
射出後、ダンベルは、非晶質形態である。引き続いて、ダンベルを熱処理:
- ダンベルAについては280℃で2時間
- ダンベルBについては225℃で2時間
にかける。
両方の場合において、WAXSによって求められた結晶化度は、13%である。
WAXS測定によって、結晶が、ダンベルA(本発明による)では95%の形態1と5%の形態2であり、ダンベルB(比較用)では15%の形態1と85%の形態2であると判断することが可能になる。
【0024】
2タイプのダンベルにおいて、先行する実施例と同じようにして、異なる温度で、応力下におけるひずみ(クリープ)の測定をモニターする。
結果を以下の表に要約する。
【表3】
【0025】
上の表において、試料は、そのひずみが20分の最大持続時間まで変化しなくなるとき、安定しているとみなしている。
本発明による部品(ダンベルA)は、285℃以上の温度で、比較用部品(ダンベルB)より耐クリープ性があることがわかる。
ポリエーテルケトンケトンが、テレフタル酸単位を含み、イソフタル酸単位を含んでもよく、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対するテレフタル酸単位の質量割合は、35%から100%までである、請求項1から3のいずれか1項に記載の部品。
空中もしくは宇宙輸送飛行体の部品、または掘削設備の部品、または乗物エンジンもしくは反応器と接触もしくは接近して配置される部品、または摩擦を受ける部品である、請求項1から6のいずれか1項に記載の部品。