(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152766
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電池特性解析装置、電池特性測定装置および電池解析システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20241018BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241018BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20241018BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
H02J7/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130042
(22)【出願日】2024-08-06
(62)【分割の表示】P 2022011638の分割
【原出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 将紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】間 広文
(57)【要約】
【課題】本発明は、電池の性能を簡単な方法で測定することを目的とする。
【解決手段】電池特性解析装置14は、解析対象の電池Bj(jは1~nのいずれかの整数)に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路24から、電池Bjの減衰振動電流についての減衰振動データを取得する。電池特性解析装置14は、減衰振動データに基づいて電池Bjのインピーダンス実部を求め、または、電池Bjのインピーダンス実部および出力電圧を求める。電池特性解析装置14は、電池Bjのインピーダンス実部に基づいて、または、インピーダンス実部および出力電圧に基づいて、電池Bjの劣化度を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路から、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを取得し、
前記減衰振動データに基づいて前記電池のインピーダンス実部を求め、または、前記電池のインピーダンス実部および出力電圧を求めることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池特性解析装置であって、
前記インピーダンス実部に基づいて、または、前記インピーダンス実部および前記出力電圧に基づいて、前記電池の劣化度を求めることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池特性解析装置であって、
複数の前記電池のそれぞれについて前記減衰振動データを取得し、
複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データに基づいて、
複数の前記電池のそれぞれについて、前記インピーダンス実部を求めて、または前記インピーダンス実部および前記出力電圧を求めて機械学習データを求め、
前記機械学習データに基づいて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求めることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電池特性解析装置であって、
複数の前記電池のそれぞれについて、前記出力電圧の緩和電圧を求めて前記機械学習データを生成することを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項5】
解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、
前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電池に流れる減衰振動電流に応じた値を複数の異なるタイミングで摘出し、
複数の異なるタイミングで摘出された前記減衰振動電流に応じた値に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路は、
1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、
前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、
前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、
前記制御部は、
前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項7】
解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、
前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電池に前記減衰振動電流を複数回に亘って流し、複数回に亘って流れる前記減衰振動電流のそれぞれの時間波形を測定し、
各測定回ごとに異なるタイミングで前記減衰振動電流に応じた値を摘出し、
各測定回ごとに摘出された値に基づいて、前記減衰振動回路の特性を解析するための回路解析情報を生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路は、
1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、
前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、
前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、
前記制御部は、
前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧から、前記減衰振動電流に応じた値を摘出することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の電池特性測定装置を複数備える電池解析システムであって、
前記減衰振動回路が、直列接続された複数の前記電池のそれぞれに接続されており、
各前記減衰振動回路は、
前記容量性素子に並列接続された抵抗素子を備え、
前記電池解析システムは、
前記容量性素子に対する前記電池の放電状態を制御して、複数の前記電池の充電状態を均等化させることを特徴とする電池解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性解析装置、電池特性測定装置および電池解析システムに関し、特に、電池に流れる減衰振動電流に基づいて、電池の特性を解析する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の電力を用いて走行するハイブリッド自動車や電気自動車等の電動自動車が広く用いられている。電動自動車に対しては、電力供給事業者等が提供する電力供給網に接続された充電装置が、サービスステーションや駐車場等に設けられている。電動自動車の電池は充電装置によって充電される。
【0003】
また、工場、オフィス、イベント会場等では、フォークリフト、運搬車等、電池を利用した電動装置が用いられている。複数の電動装置を工場やオフィス等の敷地内のあらゆる場所で用いるため、局所的に構築された電力供給網の要所に充電装置が接続された充電システムが開発されている。
【0004】
電動自動車や充電システムに関しては、電力供給網に接続された複数の充電装置を制御する技術が知られている。この技術では、制御装置が各充電装置から電池の充電状態を表す情報を取得し、各充電装置における電池の充電状態に応じて、制御装置が各充電装置を制御する。特許文献1には、このような技術を用いた分散型電源システムが記載されている。この分散型電源システムは、複数の電力変換部(充電装置)と、各電力変換部を制御する制御部(制御装置)とを備えている。各電力変換部には電池が接続されている。制御部は、複数の電力変換部のそれぞれから、電池のSOC(State Of Charge)を取得し、SOCに応じて各電力変換部の充放電制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-116428号公報
【特許文献2】特開2018-179652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、電池の性能は使用と共に劣化する。そこで、充電装置が電池の劣化度合いを測定し、制御装置が各充電装置で測定された電池の劣化度合いの情報を収集するシステムが考えられる。電池の劣化度合いの測定としては、例えば、特許文献2に記載されているように、周波数の変化に対するインピーダンスの変化を測定するものがある。しかし、電池に印加する信号電圧の周波数を広い範囲で掃引する必要があり、測定が困難となる場合がある。
【0007】
本発明は、電池の性能を簡単な方法で測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路から、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを取得し、前記減衰振動データに基づいて前記電池のインピーダンス実部を求め、または、前記電池のインピーダンス実部および出力電圧を求めることを特徴とする。
【0009】
望ましくは、前記インピーダンス実部に基づいて、または、前記インピーダンス実部および前記出力電圧に基づいて、前記電池の劣化度を求める。
【0010】
望ましくは、複数の前記電池のそれぞれについて前記減衰振動データを取得し、複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データに基づいて、複数の前記電池のそれぞれについて、前記インピーダンス実部を求めて、または前記インピーダンス実部および前記出力電圧を求めて機械学習データを求め、前記機械学習データに基づいて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求める。
【0011】
望ましくは、複数の前記電池のそれぞれについて、前記出力電圧の緩和電圧を求めて前記機械学習データを生成する。
【0012】
また、本発明は、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電池に流れる減衰振動電流に応じた値を複数の異なるタイミングで摘出し、複数の異なるタイミングで摘出された前記減衰振動電流に応じた値に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする。
【0013】
望ましくは、前記減衰振動回路は、1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、前記制御部は、前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧に基づいて、前記減衰振動データを生成する。
【0014】
また、本発明は、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電池に前記減衰振動電流を複数回に亘って流し、複数回に亘って流れる前記減衰振動電流のそれぞれの時間波形を測定し、各測定回ごとに異なるタイミングで前記減衰振動電流に応じた値を摘出し、各測定回ごとに摘出された値に基づいて、前記減衰振動回路の特性を解析するための回路解析情報を生成することを特徴とする。
【0015】
望ましくは、前記減衰振動回路は、1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、前記制御部は、前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧から、前記減衰振動電流に応じた値を摘出する。
【0016】
また、本発明は、前記電池特性測定装置を複数備える電池解析システムであって、前記減衰振動回路が、直列接続された複数の前記電池のそれぞれに接続されており、各前記減衰振動回路は、前記容量性素子に並列接続された抵抗素子を備え、前記電池解析システムは、前記容量性素子に対する前記電池の放電状態を制御して、複数の前記電池の充電状態を均等化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電池の性能を簡単な方法で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】各信号、減衰振動電流および減衰振動電圧の時間波形を示す図である。
【
図4】各電池に対応して設けられた各測定器を制御部と共に示す図である。
【
図6】応用実施形態に係る電池特性測定装置の構成を示す図である。
【
図7】減衰振動回路の共振周波数を測定する場合の電池特性測定装置の状態を示す図である。
【
図8】減衰振動電圧と共にトータル摘出信号を示す図である。
【
図10】鉛電池についての緩和電圧の例を示す図である。
【
図11】基準測定装置によって測定された劣化パラメータと、電池解析システムによって測定された鉛電池のインピーダンス実部の測定値とを対応付けたグラフである。
【
図13】リチウムイオン電池の機械学習データと、リチウムイオン電池の機械学習モデルを示す図である。
【
図14】電池容量の劣化度に対して、インピーダンス実部の変化を対応付けたグラフである。
【
図15】電池解析システムの動作タイミングの例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
各図を参照して本発明の各実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。本明細書における上下左右等の方向を示す用語は、図面における方向を示す。これらの用語は、各構成要素を配置する際の姿勢を限定するものではない。
【0020】
図1には、本発明の実施形態に係る電池解析システム100の構成が示されている。電池解析システム100は、電池特性測定装置10、ストレージコンピュータ12および電池特性解析装置14を備えている。電池特性測定装置10、ストレージコンピュータ12および電池特性解析装置14のそれぞれは、通信回線で接続された別々のコンピュータによって構成されてよい。また、電池解析システム100は、1つのハードウエアで一体的に構成されてもよい。さらに、電池特性測定装置10、ストレージコンピュータ12および電池特性解析装置14の中から選択された2つが、1つのハードウエアで一体的に構成されてもよい。
【0021】
電池特性測定装置10には、解析対象の複数n個の電池B1~Bnが接続されている。本実施形態では、電池B1~Bnは直列に接続されており、各電池の両端が電池特性測定装置10に接続されている。電池解析システム100では、各電池の特性の解析に必要な特性データを電池特性測定装置10が各電池について測定し、ストレージコンピュータ12に送信する。ストレージコンピュータ12は特性データを記憶する。電池特性解析装置14は、ストレージコンピュータ12から各電池の特性データを読み込み、各電池の特性の解析を行う。
【0022】
図2には、電池特性測定装置10の構成のうち、1つの電池Bj(jは1~nのうちいずれかの整数)の特性データを取得する部分である測定器20の構成が制御部22と共に示されている。測定器20は、減衰振動回路24およびドライブユニット26を備えている。減衰振動回路24は、1次インダクタ28、容量性素子30、抵抗素子32およびスイッチング素子34を備えている。
【0023】
1次インダクタ28は巻線で構成されてよい。また、1次インダクタ28はドライブユニット26における2次インダクタ38に結合し、2次インダクタ38と共にトランスを構成する。2次インダクタ38もまた、巻線で構成されてよい。容量性素子30は、受動素子であるコンデンサであってよい。また、容量性素子30は、バリキャップ等、容量性の能動素子であってもよい。
【0024】
1次インダクタ28の一端は電池Bjの正極に接続され、他端は容量性素子30の一端に接続されている。容量性素子30の他端は、スイッチング素子34の一端に接続され、スイッチング素子34の他端は、電池Bjの負極に接続されている。容量性素子30には抵抗素子32が並列接続されている。電池Bjの正極と負極との間の経路には、1次インダクタ28、容量性素子30、抵抗素子32およびスイッチング素子34によって減衰振動回路24が構成されている。減衰振動回路24は、抵抗成分を含む共振回路を含む。解析対象の電池Bjが鉛電池である場合には、減衰振動回路24の共振周波数は2kHz~30kHzであってよい。解析対象の電池Bjがリチウムイオン電池である場合には、減衰振動回路24の共振周波数は200kHz~30MHzであってよい。
【0025】
ドライブユニット26は、駆動アンプ36、2次インダクタ38、検出アンプ40およびピークホールド回路42-1~42-3を備えている。2次インダクタ38は、1次インダクタ28に結合している。2次インダクタ38の一端は接地されている。2次インダクタ38の他端は、検出アンプ40の入力端子に接続されている。検出アンプ40の出力端子は、ピークホールド回路42-1~42-3のそれぞれの入力端子に接続されている。
【0026】
制御部22は駆動アンプ36に駆動信号P0を出力し、駆動アンプ36は駆動信号P0をスイッチング素子34に出力する。駆動信号P0は、ローからハイに立ち上がり、予め定められた時間だけハイを維持した後に、ハイからローになる。駆動信号P0がハイのときにスイッチング素子34はオンになる。スイッチング素子34は、駆動信号P0に従ってパルス的に導通する。ここで、パルス的に導通するとは、スイッチング素子34がオフからオンになり、予め定められた時間だけオンの状態を維持した後に、オンからオフになる動作をいう。
【0027】
スイッチング素子34がパルス的に導通することで、電池Bjの正極から1次インダクタ28、容量性素子30、抵抗素子32およびスイッチング素子34によって構成される減衰振動回路24に、電池Bjの出力電圧に基づくパルス電圧が印加される。これによって、減衰振動回路24には、共振周波数で振動しながら減衰する減衰振動電流が流れる。減衰振動電流の減衰は、抵抗素子32による損失や、1次インダクタ28に含まれる抵抗成分等に基づくものである。
【0028】
1次インダクタ28に流れる減衰振動電流に応じて、2次インダクタ38には減衰振動波形を有する誘導起電力が発生する。制御部22からピークホールド回路42-1~42-3には、それぞれ、ピークホールド信号PH1~PH3が出力される。駆動信号P0が立ち上がり、スイッチング素子34が導通した時、またはその後、ピークホールド信号PH1~PH3は、ピークホールド信号PH1、PH2、PH3の順にステップ状に立ち上がり、所定時間だけ経過した後に立ち下がる。ピークホールド回路42-1~42-3は、ピークホールド信号PH1~PH3に応じて順に、2次インダクタ38に発生した誘導起電力の値を摘出し、それぞれ、制御部22に摘出信号S1~S3を出力する。
【0029】
制御部22は、電池Bjに取り付けられた温度センサ50から電池温度Tmpを取得する。制御部22は、摘出信号S1~S3のそれぞれの時間波形を示す情報、電池温度Tmp、電池ID(IDentification)および、これらの情報が取得された時刻(タイムスタンプ)を含む特性データ(減衰振動データ)を生成し、ストレージコンピュータ12(
図1)に送信する。特性データは、減衰振動電流についての情報を含む減衰振動データである。ストレージコンピュータ12は、制御部22から送信された特性データを記憶する。なお、特性データは、摘出信号S1~S3のそれぞれの時間波形を示す情報に代えて、または、摘出信号S1~S3のそれぞれの時間波形を示す情報と共に、摘出信号S1~S3のそれぞれの絶対値の最大値Pm1~Pm3を含んでもよい。
【0030】
図3(a)~(h)には、減衰振動電流Iaの時間波形と、電池解析システム100で用いられる各信号の時間波形が示されている。
図3(a)には駆動信号P0が示されている。
図3(b)には減衰振動電流Iaが示されている。駆動信号P0は、時刻t0にローからハイに立ち上がり、時刻t0から時間Tonだけハイを維持した後、時刻t0+Tonにハイからローに立ち下がる。減衰振動電流Iaは、時刻t0以降、減衰しながら正弦波状に振動する。
【0031】
図3(c)には、ピークホールド信号PH1が減衰振動電圧Eaと共に示され、
図3(d)には、摘出信号S1が減衰振動電圧Eaと共に示されている。ここで、減衰振動電圧Eaは、減衰振動電流Iaに応じて2次インダクタ38に現れる誘導起電力である。減衰振動電圧Eaは、減衰振動電流Iaに応じた値を有し、減衰振動電流Iaと同様の時間波形を有する。ピークホールド信号PH1は、時刻t0に立ち上がり、時刻t0+Tonに駆動信号P0と共に立ち下がる。ピークホールド回路42-1は、ピークホールド信号PH1がハイを維持している間、現時点からピークホールド信号PH1がハイとなった時刻t0に遡るまでの間の減衰振動電圧Eaの最大値を示す摘出信号S1を制御部22に出力する。
【0032】
図3(e)および(g)には、それぞれ、ピークホールド信号PH2およびPH3が減衰振動電圧Eaと共に示され、
図3(f)および(h)には、それぞれ摘出信号S2およびS3が減衰振動電圧Eaと共に示されている。ピークホールド信号PH2、PH3は、それぞれ、駆動信号P0が立ち上がった時から時間τ2、時間τ3が経過した時刻t2、時刻t3に立ち上がり、時刻t1+Tonに駆動信号P0と共に立ち下がる。
【0033】
ピークホールド回路42-2は、ピークホールド信号PH2がハイを維持している間、現時点からピークホールド信号PH2がハイとなった時刻t2に遡るまでの間の減衰振動電圧Eaの最大値を示す摘出信号S2を制御部22に出力する。ピークホールド回路42-3は、ピークホールド信号PH3がハイを維持している間、現時点からピークホールド信号PH3がハイとなった時刻t3に遡るまでの間の減衰振動電圧Eaの最大値を示す摘出信号S3を制御部22に出力する。
【0034】
このように、制御部22Aは、電池Bjに流れる減衰振動電流Iaに応じた値(減衰振動電圧Eaの値)を3つ(複数)の異なるタイミングで摘出して摘出信号S1~S3を取得し、摘出信号S1~S3に基づいて、特性データ(減衰振動データ)を生成する。摘出信号S1~S3は、3つの(複数の)異なるタイミングで摘出された減衰振動電流Iaに応じた値である。
【0035】
図1に示されている電池特性解析装置14は、ストレージコンピュータ12から、上記の特性データを読み込む。電池特性解析装置14は、次のような処理に基づいて、特性データに基づいて、電池Bjの出力電圧Vbおよびインピーダンス実部Rhfを求める。ここで、インピーダンス実部とは、ある周波数について電池の内部インピーダンスを複素数で表したときの実数部をいう。
【0036】
電池特性解析装置14は、摘出信号S3の絶対値の最大値Pm3と、摘出信号S2の絶対値の最大値Pm2に基づいて、(数1)に従って、インピーダンス実部Rhfを求める。
【0037】
(数1)Rhf=ln(Pm2/Pm3)・ar-br
【0038】
ここで、lnは自然対数を示す。定数arおよびbrは、減衰振動回路24の特性に基づいて予め定められる。(数1)は、減衰振動電流Iaおよび減衰振動電圧Eaのピークが時間経過と共に減衰する際の時定数が、電池Bjのインピーダンス実部に応じて定まることから導かれる。
【0039】
電池特性解析装置14は、(数2)に従って電池Bjの出力電圧Vbを求める。
【0040】
(数2)Vb=(1/√δ)・k・N・Pm1,δ=exp(-Rhf・tr/(2Lr))
【0041】
ここで、Pm1は、摘出信号S1の絶対値の最大値である。kは、検出アンプ40のゲイン、Nは、2次インダクタ38を構成する巻線の、1次インダクタ28を構成する巻線に対する巻線比、trは、時刻t0から摘出信号S1の絶対値が最大になるまでの時間、Lrは1次インダクタの自己インダクタンスである。
【0042】
電池特性測定装置10は、時間経過と共に順次、特性データを取得し、時間経過と共に、順次、特性データをストレージコンピュータ12に送信する。電池特性解析装置14は、時間経過と共に順次、ストレージコンピュータ12に記憶された特性データに基づいて、時間経過と共に順次、電池Bjのインピーダンス実部Rhfおよび出力電圧Vbを求める。電池特性解析装置14は、電池Bjのインピーダンス実部Rhfおよび出力電圧Vbを時刻と対応付けて記憶してもよいし、電池Bjのインピーダンス実部Rhfおよび出力電圧Vbをストレージコンピュータ12に時刻と対応付けて記憶させてもよい。
【0043】
電池特性解析装置14は、後述する処理に基づいて、インピーダンス実部Rhfおよび出力電圧Vbに基づいて、電池Bjの劣化度を求めてもよい。
【0044】
本実施形態に係る電池解析システム100では、ストレージコンピュータ12に各電池の出力電圧Vbが記憶されている場合には、電池特性測定装置10の制御部22が、電池B1~Bnの出力電圧Vbを均等化する処理を実行してもよい。この処理は、電池B1~Bnのうち出力電圧Vbが最も大きいBjについて、電池Bjから容量性素子30への放電状態を制御して、電池B1~Bnの充電状態を均等化させるものである。
図4には、電池B1~Bnに対応して設けられた測定器20-1~20-nが制御部22と共に示されている。測定器20-1~20-nのそれぞれは、
図2に示された測定器20と同様の構成を有している。
【0045】
図5には、電池B1~Bnのそれぞれの特性データを取得する第1モードの動作と、電池B1~Bnのそれぞれの出力電圧Vbを均等化する第2モードの動作において、制御部22から測定器20-1~20-nのそれぞれの駆動アンプ36に出力される駆動信号P0の時間波形が示されている。
【0046】
第1モードの動作では、制御部22から測定器20-1~20-nに、駆動信号P0の3つのパルス、すなわち、摘出信号S1~S3を取得するための3つのパルスが順に出力される。上記の動作によって、測定器20-1~20-nのそれぞれは特性データを取得する。電池特性解析装置14は特性データに基づいて、電池B1~Bnのそれぞれの出力電圧Vbを求める。
【0047】
図5には、測定器20-jに接続された電池Bjの出力電圧Vbが他の電池と比べて大きい例が示されている。第2モードの動作において、制御部22は、電池B1~Bnのうち、出力電圧Vbが最も大きい電池Bjが接続された測定器20-jに出力される駆動信号P0をハイにする。また、制御部22は、測定器20-jを除く測定器に出力される駆動信号P0をローにする。これによって、電池Bjおよび測定器20-jの減衰振動回路24に減衰振動電流が流れた後、電池Bjによって容量性素子30が充電され、電池Bjの出力電圧Vbが低下する。
【0048】
電池解析システム100では、第1モードの動作と第2モードの動作が繰り返される。これによって、電池B1~Bnの出力電圧Vbが同一値に収束し、特定の電池における電気的な負担が大きくなることが回避される。
【0049】
図6には、本発明の応用実施形態に係る電池特性測定装置10Aの構成が示されている。電池特性測定装置10Aは、1つの電池に対応する摘出信号S1~S3を取得する処理を、制御部22Aが、電池B1~B3のそれぞれについて時分割で実行するものである。
【0050】
電池特性測定装置10Aは、3つの電池B1~B3がそれぞれ接続された測定器20A-1~20A-3を備えている。測定器20A-1は、
図2に示された測定器20-1から、ピークホールド回路42-2および43-3を取り除き、2次インダクタ38の下端を接地する代わりに、測定器20A-2の2次インダクタ38の一端に接続したものである。
【0051】
測定器20A-2は、
図2に示された測定器20から、検出アンプ40およびピークホールド回路42-1~42-3を取り除き、2次インダクタ38の上端を測定器20A-1の2次インダクタ38の下端に接続し、下端を接地する代わりに、測定器20A-3の2次インダクタ38の上端に接続したものである。測定器20A-3は、
図2に示された測定器20から、検出アンプ40およびピークホールド回路42-1~42-3を取り除き、2次インダクタ38の上端を測定器20A-2の2次インダクタ38の下端に接続したものである。このように、測定器20A-1~20A-3の2次インダクタ38は直列接続され、測定器20A-1の2次インダクタ38の上端が、検出アンプ40に接続され、測定器20A-3の2次インダクタ38の下端が接地されている。
【0052】
測定器20A-3の駆動アンプ36と制御部22Aとの間には、縦続接続された遅延回路52-1および52-2が挿入され、測定器20A-2の駆動アンプ36と制御部22Aとの間には、遅延回路52-1が挿入されている。
【0053】
制御部22Aは、駆動信号P0を時間帯を異ならせて3回に亘って立ち上げ、立ち下げる。遅延回路52-1は、駆動信号P0を遅延時間D1だけ遅延させて、遅延回路52-2および測定器20A-2の駆動アンプ36に出力する。遅延回路52-2は、遅延回路52-1から出力された駆動信号P0を遅延回路D2だけ遅延させて、測定器20A-3の駆動アンプ36に出力する。遅延時間D1およびD2は、測定器20A-1~20A-3のそれぞれの駆動アンプ36に入力される駆動信号P0がハイになっている時間帯が重ならないように決定されている。
【0054】
制御部22Aは、測定器20A-1の駆動アンプ36に入力される駆動信号P0が1回目に立ち上がり、立ち下がると共に、摘出信号S1を取得するためのピークホールド信号PH1のパルスをピークホールド回路42-1に出力する。これによって、ピークホールド回路42-1は、電池B1に対する摘出信号S1を制御部22Aに出力する。制御部22Aは、測定器20A-1の駆動アンプ36に入力される駆動信号P0が2回目に立ち上がり、立ち下がると共に、摘出信号S2を取得するためのピークホールド信号PH2のパルスをピークホールド回路42-1に出力する。これによって、ピークホールド回路42-1は、電池B1に対する摘出信号S2を制御部22Aに出力する。制御部22Aは、駆動信号P0が3回目に立ち上がり、立ち下がると共に、摘出信号S3を取得するためのピークホールド信号PH3のパルスをピークホールド回路42-1に出力する。これによって、ピークホールド回路42-1は、電池B1に対する摘出信号S3を制御部22Aに出力する。
【0055】
測定器20A-2については、制御部22Aは測定器20A-1に対して遅延時間D1だけ遅れて、測定器20A-1に対する動作と同様の動作をピークホールド回路42-1に実行させる。これによって、ピークホールド回路42-1は、電池B2に対する摘出信号S1~S3を制御部22Aに出力する。測定器20A-3については、制御部22Aは測定器20A-1に対して遅延時間D1+D2だけ遅れて、測定器20A-1に対する動作と同様の動作を実行する。これによって、ピークホールド回路42-1は、電池B3に対する摘出信号S1~S3を制御部22Aに出力する。
【0056】
制御部22Aは、電池B1~B3のそれぞれについて特性データを生成し、電池B1~B3のそれぞれに対して取得された特性データを、ストレージコンピュータ12に送信する。電池特性解析装置14は、電池B1~B3のそれぞれに対して取得された特性データに基づいて、電池B1~B3のそれぞれについてインピーダンス実部Rhfおよび出力電圧Vbを求める。
【0057】
ここでは、3つの電池B1~B3について特性データを取得する構成について説明した。電池特性測定装置10Aは、2つの、あるいは4つ以上の電池について特性データを取得する構成に変形可能である。この場合、各電池に対応して測定器20A-2と同様の測定器を設け、前段の測定器と次段の測定器との間に、駆動信号P0を遅延させる遅延回路が設けられる。
【0058】
図7には、測定器20Bの減衰振動回路24の共振周波数を測定する場合の電池特性測定装置10Bの状態が示されている。測定器20Bは、
図6に示された測定器20A-1と同様の構成を有している。電池特性測定装置10Bには、電池Bjの代わりに基準電池BSが接続されている。
図7に例示されている基準電池BSは、電池B0、基準コンデンサC0、基準インダクタL0および基準抵抗素子R0を備えている。電池B0の正極には、基準インダクタL0の一端が接続されている。基準コンデンサC0および基準抵抗素子R0は直列接続されている。基準コンデンサC0の基準抵抗素子R0とは反対側の一端は基準インダクタL0の他端に接続され、基準抵抗素子R0の基準コンデンサC0とは反対側の端子は、電池B0の負極に接続されている。基準コンデンサC0、基準インダクタL0および基準抵抗素子R0の素子定数は既知である。基準コンデンサC0、基準インダクタL0および基準抵抗素子R0の素子定数は、ストレージコンピュータ12に記憶され、制御部22Bまたは電池特性解析装置14が、これらの素子定数を読み込んでもよい。
【0059】
制御部22Bは、駆動アンプ36に所定の時間間隔で駆動信号P0のパルスを繰り返し出力する。制御部22Bは、駆動信号P0に同期させて、ピークホールド回路42-1にピークホールド信号PHのパルスを繰り返し出力する。
【0060】
制御部22Bは、ピークホールド信号PHのパルスを出力するのが何回目であるかに応じて、ピークホールド回路42-1に出力するピークホールド信号PHのパルスの立ち上がりを遅延させる。すなわち、制御部22Bは、第p回目のピークホールド信号PHのパルスをピークホールド回路42-1に出力する場合には、駆動信号P0の立ち上がりに対してp・ΔTだけ立ち上がりを遅延させたピークホールド信号PHのパルスをピークホールド回路42-1に出力する。ピークホールド信号PHのパルスの立ち下がりは、それに同期する駆動信号P0のパルスの立ち下がりと同時であってよい。ピークホールド回路42-1は、制御部22Bから繰り返し出力されるピークホールド信号PHのパルスに応じて、順次、摘出信号Sを制御部22Bに出力する。
【0061】
このような処理によれば、制御部22Bから駆動信号P0のパルスが繰り返し出力されるのに伴って、スイッチング素子34が繰り返しパルス的に導通し、減衰振動回路24に減衰振動電流Iaが繰り返し流れる。摘出信号Sが取得されるタイミングが、減衰振動電流が減衰振動回路24に流れる度に時間ΔTずつ遅れるように、摘出信号Sが取得される。
【0062】
図8には、減衰振動電圧Eaと共にトータル摘出信号ΣSが示されている。トータル摘出信号ΣSは、ピークホールド信号PHのパルスの立ち上がりを時間ΔTずつ遅延させながら繰り返し取得された一連の摘出信号Sを、時間軸上で連ねたものである。トータル摘出信号ΣSは、減衰振動電圧Eaのピーク値を保持する時間波形を示している。制御部22Bは、トータル摘出信号ΣSに基づいて、減衰振動電圧Eaの周波数を求める。基準電池BSの各素子定数および測定器20Bに含まれる容量性素子30の容量が既知である場合、制御部22Bは、トータル摘出信号ΣSに基づいて、1次インダクタ28のインダクタンス値を求めてもよい。また、ストレージコンピュータ12を介してトータル摘出信号ΣSを電池特性解析装置14が取得し、電池特性解析装置14が減衰振動電圧Eaの周波数、または、1次インダクタ28のインダクタンス値を求めてもよい。測定器20Bによって求められた各値は、基準電池BSに代えて解析対象の電池Bjが接続されたときに、電池Bjの劣化度の解析のためのデータとして用いられてもよい。また、測定器20Bによって求められた1次インダクタ28のインダクタンス値は、(数2)のLrとして用いられてよい。
【0063】
このように、
図7に示される電池特性測定装置10Bでは、制御部22Bがスイッチング素子34を複数回に亘って導通させ、スイッチング素子34が導通する毎に、減衰振動回路24に流れる減衰振動電流につき、時間軸上の異なる位置で摘出信号Sが取得される。すなわち、制御部22Bは、スイッチング素子34を複数回に亘って導通させ、基準電池BS(電池)に減衰振動電流を複数回に亘って流す。制御部22Bは、複数回に亘って流れる減衰振動電流の時間波形のそれぞれを測定し、各測定回ごとに異なるタイミングで減衰振動電流に応じた値を摘出信号Sとして摘出する。制御部22Bは、各測定回ごとに摘出された摘出信号Sに基づいて、トータル摘出信号ΣSを生成する。トータル摘出信号ΣSは、減衰振動回路24の特性を解析するための回路解析情報としての意味を持つ。
【0064】
トータル摘出信号ΣSを取得して、減衰振動電流Iaの周波数、あるいは、1次インダクタ28のインダクタンス値を求める処理は、
図6に示されている電池特性測定装置10Aで実行されてもよい。制御部22Aは、測定器20A-1の駆動アンプ36に所定の時間間隔で駆動信号P0のパルスを繰り返し出力する。
【0065】
制御部22Aから測定器20A-1、20A-2、20A-3の順に、駆動信号P0のパルスが時分割で出力されるように、遅延回路52-1および52-2は駆動信号P0のパルスを遅延させる。制御部22Aは、測定器20A-1の駆動アンプ36に入力される駆動信号P0のパルスに同期させて、測定器22A-1に対応するピークホールド信号PHのパルスをピークホールド回路42-1に出力する。また、制御部22Aは、測定器20A-2の駆動アンプ36に入力される駆動信号P0のパルスに同期させて、測定器22A-2に対応するピークホールド信号PHのパルスをピークホールド回路42-1に出力する。さらに、制御部22Aは、測定器20A-3の駆動アンプ36に入力される駆動信号P0のパルスに同期させて、測定器22A-3に対応するピークホールド信号PHのパルスをピークホールド回路42-1に出力する。
【0066】
制御部22Aは、測定器20A-1~20A-3のそれぞれについて、ピークホールド信号PHのパルスを出力するのが何回目であるかに応じて、ピークホールド回路42-1に出力するピークホールド信号PHのパルスの立ち上がりを遅延させる。このような処理によって、測定器22A-1~22A-3のそれぞれについて次のような動作が実行される。すなわち、制御部22Bから駆動信号P0のパルスが繰り返し出力されるのに伴って、スイッチング素子34が繰り返しパルス的に導通し、減衰振動回路24に減衰振動電流が繰り返し流れる。摘出信号Sが取得されるタイミングが、減衰振動回路24に減衰振動電流が流れる度に時間ΔTずつ遅れるように、摘出信号Sが取得される。
【0067】
ここでは、3つの測定器20A-1~20A-3のそれぞれについてトータル摘出信号ΣSを取得して、減衰振動電流の周波数、あるいは、1次インダクタ28のインダクタンス値を求める処理について説明した。処理対象の測定器の数は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。電池特性測定装置の構成は、前段の測定器と次段の測定器との間に、駆動信号P0を遅延させる遅延回路が設けられた構成とすればよい。
【0068】
図9には、電池特性解析装置14に構成される電池劣化解析器60の構成が示されている。電池劣化解析器60は、鉛電池の劣化度を求めるために用いられる。電池劣化解析器60には、時間経過と共に順次取得されるインピーダンス実部Rhf、電池の出力電圧Vbおよび電池温度Tmpが入力される。ここで、出力電圧Vbとしては、電池に負荷電流が流れている状態(オン状態)から、負荷電流が遮断された状態(オフ状態)になったときに、時間経過と共に増加する緩和電圧が電池劣化解析器60に入力される。あるいは、オフ状態からオン状態になったときに、時間経過と共に減少する緩和電圧が電池劣化解析器60に入力される。
【0069】
電池劣化解析器60は、インピーダンス実部Rhf、電池の出力電圧Vbの緩和電圧および電池温度Tmpのうち少なくともいずれかを、予め構築された機械学習モデルに当て嵌めて、劣化度としてSOH_RおよびSOH_Cを求める。SOH_Rは、例えば、新品の電池に対して、インピーダンス実部Rhfが増加した割合(何%増加したか)を示す値として定義される。この場合、SOH_Rが大きい程、電池の劣化度が大きい。SOH_Cは、例えば、新品の電池に対して、放電容量(mAh)が減少した割合(何%減少したか)を示す値として定義される。SOH_Cが大きい程、電池の劣化度が大きい。
【0070】
機械学習モデルは、例えば、使用開始からの充電電荷量および放電電荷量の積算値(使用量)が異なる複数の電池について機械学習データを求めることで構築されてよい。例えば、使用量が異なる複数の電池のそれぞれについて、電池特性解析装置14が特性データを取得する。さらに、使用量が異なる複数の電池のそれぞれについてSOH_RおよびSOH_Cが、電池解析システム100とは別の装置等によって実測される。そして、特性データと実測されたSOH_RおよびSOH_Cとを、電池特性解析装置14が機械学習アルゴリズムによって対応付けて、機械学習データを求める。機械学習データは、ストレージコンピュータ12に記憶され、ストレージコンピュータ12から電池劣化解析器60に読み込まれる。
【0071】
図10の上段には、鉛電池についての緩和電圧の例が示されている。横軸は時間を示し縦軸は電池の出力電圧を示す。出力電圧62-1は新品の電池の緩和電圧を示し、出力電圧62-2は、使用量が0でない劣化電池の緩和電圧を示す。電池は時間40secでオフ状態からオン状態となって、その出力電圧が減少している。また、電池は、時間240secでオン状態からオフ状態となって、その出力電圧が増加している。
【0072】
図10の下段には、本発明の実施形態に係る電池解析システム100によって測定された鉛電池のインピーダンス実部の測定結果が示されている。横軸は時間を示し縦軸はインピーダンス実部を示している。インピーダンス実部64-1は、新品の電池の値を示し、インピーダンス実部64-2は、使用量が0でない劣化電池の値を示す。
図10の下段には、
図10の上段に示されるように出力電圧が変動した場合であっても、インピーダンス実部の変動が小さいことが示されている。
【0073】
図11には、基準となる一般的な測定装置(基準測定装置)によって測定された劣化パラメータと、本実施形態に係る電池解析システム100によって測定された鉛電池のインピーダンス実部の測定値とを対応付けたグラフが示されている。横軸は基準測定装置による劣化パラメータを示す。
図11における劣化パラメータは値が小さい程、劣化度が大きい。縦軸は、電池解析システム100によって測定されたインピーダンス実部を示す。基準測定装置によって測定された劣化パラメータが小さい程、すなわち、劣化度が大きい程、インピーダンス実部が大きい傾向が示されている。鉛電池の機械学習モデルは、このような傾向を利用するものであってよい。
【0074】
図12には、電池特性解析装置14に構成される電池劣化解析器70の構成が示されている。電池劣化解析器70は、リチウムイオン電池の劣化度を求めるために用いられる。電池劣化解析器70には、時間経過と共に順次取得されるインピーダンス実部Rhf、電池の出力電圧Vbおよび電池温度Tmpが入力される。出力電圧Vbとしては緩和電圧が電池劣化解析器70に入力される。
【0075】
電池劣化解析器70は、インピーダンス実部Rhf、電池の出力電圧Vbの緩和電圧および電池温度Tmpのうち少なくともいずれかを、予め構築された機械学習モデルに当て嵌めて、劣化度としてSOH_R、SOH_CおよびSOH_Sを求める。SOH_Sは、例えば、電池の活物質における金属析出量を示す。金属析出量が大きい程、電池の劣化度が大きい。SOH_Rは、例えば、新品の電池に対して、インピーダンス実部が減少した割合(何%減少したか)を示す値として定義される。この場合、SOH_Rが大きい程、電池の劣化度が大きい。SOH_Cは、例えば、新品の電池に対して、放電容量(mAh)が減少した割合(何%減少したか)を示す値として定義される。SOH_Cが大きい程、電池の劣化度が大きい。
【0076】
機械学習モデルは、例えば、使用量が異なる複数の電池について機械学習データを求めることで構築されてよい。例えば、使用量が異なる複数の電池のそれぞれについて、電池特性解析装置14が特性データを取得する。さらに、使用量が異なる複数の電池のそれぞれについてSOH_R、SOH_CおよびSOH_Sが、電池解析システム100とは別の装置等によって実測される。そして、特性データと実測されたSOH_R、SOH_CおよびSOH_Sとを、電池特性解析装置14が機械学習アルゴリズムによって対応付けて、機械学習データを求める。機械学習データは、ストレージコンピュータ12に記憶され、ストレージコンピュータ12から電池劣化解析器60に読み込まれる。
【0077】
図13には、リチウムイオン電池の機械学習データと、リチウムイオン電池の機械学習モデルによって得られる結果の例が示されている。
図13の上段には、機械学習データを示すグラフが示されている。上段の左側のグラフには、新品の電池と、使用量が異なる3つの劣化電池A~Cについて、出力電圧と放電容量とを対応付けた機械学習データが示されている。横軸は放電容量を示し縦軸は出力電圧を示す。上段の右側のグラフには、新品の電池と、使用量が異なる3つの劣化電池A~Cについて、機械学習データとして緩和電圧が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は出力電圧を示す。
【0078】
図13の下段には、リチウムイオン電池の機械学習モデルによって得られる結果の例が示されている。
図13の下段の左側には、放電容量の実測値を与えることで、その予測値が得られるグラフ(機械学習モデルに基づくグラフ)が示されている。横軸は放電容量の実測値を示し、縦軸は予測値を示す。実測値と予測値とがグラフ上の直線によって対応付けられている。
図13の下段の右側には、劣化電池A~Cとは使用量が異なる電池ついて、インピーダンス実部の実測値を与えることで、その予測値が得られるグラフ(機械学習モデルに基づくグラフ)が示されている。横軸はインピーダンス実部の実測値を示し、縦軸は予測値を示す。実測値と予測値とがグラフ上の直線によって対応付けられている。電池劣化解析器70は、
図13に示されている機械学習モデルに基づいて、SOC_RおよびSOH_Cを求めてよい。
【0079】
図14には、電池容量の劣化度に対して、インピーダンス実部の変化を対応付けたグラフが示されている。インピーダンス実部は、本発明の実施形態に係る電池解析システム100によって測定されたものである。白丸で示されるインピーダンス実部が測定された電池は、黒丸で示されるインピーダンス実部が測定された電池に比べて金属析出量が大きい。
図14に示されているように、金属析出量が多い電池では、電池容量の減少に対するインピーダンス実部の減少が大きい。すなわち、リチウムイオン電池では、電池の劣化度が大きい程、インピーダンス実部が減少するという傾向が強くなる。リチウムイオン電池の機械学習モデルは、このような傾向を利用するものであってよい。
【0080】
図15には、電池解析システム100の動作タイミングの例が概念的に示されている。
図15の上段には、直列接続された複数の電池B1~Bnの負荷電流が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は負荷電流を示す。負荷電流が正であることは、電池B1~Bnから電力が出力されていることを示し、負荷電流が負であることは、電池B1~Bnに電力が供給されていることを示す。
図15の下段には、電池B1~Bnのうちの2つの出力電圧Vbが示されている。横軸は時間を示し、縦軸は出力電圧を示す。
【0081】
電池解析システム100は、随時、各電池のインピーダンス実部および出力電圧を求める。また、電池解析システム100は、随時、複数の電池の出力電圧を均等化する処理を実行する。
図15の下段に示されているように、2つの電池の出力電圧は時間経過と共に同一値に収束している。
【0082】
図15の上段に示されている例では、時刻T1に負荷電流が0から正の値になり、時刻T2に負荷電流が正の値から0になっている。すなわち、各電池は、時刻T1にオフ状態からオン状態となり、時刻T2にオン状態からオフ状態になる。したがって、時刻T1および時刻T2において、各電池について緩和電圧が測定され、機械学習データがストレージコンピュータ12に記憶されてよい。
【0083】
電池解析システム100によれば、電池特性測定装置のスイッチング素子のオンオフによって、各電池に減衰振動電流が流れ、減衰振動電流に基づいて電池の性能が測定される。したがって、測定用の信号の周波数を掃引させる必要がなく、各電池の性能を簡単な方法で測定することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 電池特性測定装置、12 ストレージコンピュータ、14 電池特性解析装置、20,20-1~20-n,20A-1~20A-3,20B 測定器、22,22A,22B 制御部、24 減衰振動回路、26 ドライブユニット、28 1次インダクタ、30 容量性素子、32 抵抗素子、34 スイッチング素子、36 駆動アンプ、38 2次インダクタ、40 検出アンプ、42-1~42-3 ピークホールド回路、50 温度センサ、52-1,52-2 遅延回路、60,70 電池劣化解析器、62-1,62-2 出力電圧、64-1,64-2 インピーダンス実部、B1~Bn 電池、B0 基準電池、L0 基準インダクタ、C0 基準コンデンサ、R0 基準抵抗素子。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路から、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを取得する処理を、複数の前記電池のそれぞれについて実行し、
複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データが示す減衰振動電流の時間波形に基づいて、複数の前記電池のそれぞれについて出力電圧を求めて機械学習データを求め、
複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧を求め、前記機械学習データによって構築された機械学習モデルに複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧を当て嵌めて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求めることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池特性解析装置であって、
複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データが示す減衰振動電流に基づいて、複数の前記電池のそれぞれについて出力電圧に加えてインピーダンス実部を求めて、前記機械学習データを求め、
複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧に加えてインピーダンス実部を求め、前記機械学習データによって構築された機械学習モデルに複数の前記電池とは異なる電池のインピーダンス実部および出力電圧を当て嵌めて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求めることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池特性解析装置であって、
複数の前記電池のそれぞれの出力電圧は、複数の前記電池のそれぞれの負荷電流を変化させたことに基づく変化を伴う電圧であり、
複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧は、複数の前記電池とは異なる電池の負荷電流を変化させたことに基づく変化を伴う電圧であることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池特性解析装置であって、
複数の前記電池のそれぞれの出力電圧、および複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧は、緩和電圧であることを特徴とする電池特性解析装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池特性解析装置と共に動作する電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路と、
前記減衰振動データを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電池に流れる減衰振動電流に応じた値を複数の異なるタイミングで摘出し、
複数の異なるタイミングで摘出された前記減衰振動電流に応じた値に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路は、
1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、
前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、
前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、
前記制御部は、
前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池特性解析装置と共に動作する電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路と、
前記減衰振動データを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電池に前記減衰振動電流を複数回に亘って流し、複数回に亘って流れる前記減衰振動電流のそれぞれの時間波形を測定し、
各測定回ごとに異なるタイミングで前記減衰振動電流に応じた値を摘出し、
各測定回ごとに摘出された値に基づいて、前記減衰振動回路の特性を解析するための回路解析情報を生成することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電池特性測定装置であって、
前記減衰振動回路は、
1次インダクタ、容量性素子およびスイッチング素子を備え、
前記電池の正極と負極との間を結ぶ経路に、前記1次インダクタ、前記容量性素子および前記スイッチング素子が設けられ、
前記スイッチング素子がパルス的に導通することで、前記電池に流れる電流が減衰振動し、
前記制御部は、
前記1次インダクタに結合する2次インダクタに現れる電圧から、前記減衰振動電流に応じた値を摘出することを特徴とする電池特性測定装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の電池特性測定装置を複数備える電池解析システムであって、
前記減衰振動回路が、直列接続された複数の前記電池のそれぞれに接続されており、
各前記減衰振動回路は、
前記容量性素子に並列接続された抵抗素子を備え、
前記電池解析システムは、
前記容量性素子に対する前記電池の放電状態を制御して、複数の前記電池の充電状態を均等化させることを特徴とする電池解析システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の関連技術は、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路から、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを取得し、前記減衰振動データに基づいて前記電池のインピーダンス実部を求め、または、前記電池のインピーダンス実部および出力電圧を求める。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明は、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路から、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを取得する処理を、複数の前記電池のそれぞれについて実行し、複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データが示す減衰振動電流の時間波形に基づいて、複数の前記電池のそれぞれについて出力電圧を求めて機械学習データを求め、複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧を求め、前記機械学習データによって構築された機械学習モデルに複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧を当て嵌めて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求めることを特徴とする。望ましくは、複数の前記電池のそれぞれについて取得された前記減衰振動データが示す減衰振動電流に基づいて、複数の前記電池のそれぞれについて出力電圧に加えてインピーダンス実部を求めて、前記機械学習データを求め、複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧に加えてインピーダンス実部を求め、前記機械学習データによって構築された機械学習モデルに複数の前記電池とは異なる電池のインピーダンス実部および出力電圧を当て嵌めて、複数の前記電池とは異なる電池の劣化度を求める。望ましくは、複数の前記電池のそれぞれの出力電圧は、複数の前記電池のそれぞれの負荷電流を変化させたことに基づく変化を伴う電圧であり、複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧は、複数の前記電池とは異なる電池の負荷電流を変化させたことに基づく変化を伴う電圧である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
望ましくは、複数の前記電池のそれぞれの出力電圧、および複数の前記電池とは異なる電池の出力電圧は、緩和電圧である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、本発明は、前記電池特性解析装置と共に動作する電池特性測定装置であって、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電池に流れる減衰振動電流に応じた値を複数の異なるタイミングで摘出し、複数の異なるタイミングで摘出された前記減衰振動電流に応じた値に基づいて、前記減衰振動データを生成することを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、本発明は、前記電池特性解析装置と共に動作する電池特性測定装置であって、解析対象の電池に流れる電流を減衰振動させる減衰振動回路と、前記電池の減衰振動電流についての減衰振動データを生成する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電池に前記減衰振動電流を複数回に亘って流し、複数回に亘って流れる前記減衰振動電流のそれぞれの時間波形を測定し、各測定回ごとに異なるタイミングで前記減衰振動電流に応じた値を摘出し、各測定回ごとに摘出された値に基づいて、前記減衰振動回路の特性を解析するための回路解析情報を生成することを特徴とする。