(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152799
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】薬液注入装置および薬液注入システム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A61M5/142 530
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130938
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2020571291の分割
【原出願日】2020-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019021757
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518234173
【氏名又は名称】株式会社サーキュラス
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
(72)【発明者】
【氏名】吹越 由美子
(72)【発明者】
【氏名】金高 利雄
(57)【要約】
【課題】薬液容器から造影剤を吸引して注入を行う方式であっても、濃度の異なる複数種類の造影剤を予め用意することなく様々な造影剤濃度の薬液注入を実施でき、かつ、その濃度変更を操作性よく行うことが可能な薬液注入装置等を提供する。
【解決手段】
この薬液注入装置は注入ヘッドと制御ユニットとを備え、少なくとも第1の薬液に関しては、薬液容器から第1の薬液を第1のシリンジ内に吸引する薬液注入装置であって、上記制御ユニットは、上記第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、上記第1および第2の薬液の混和条件に関する情報を表示する処理と、上記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理と、変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示する処理とを行うように構成されている。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の薬液が充填された第1のシリンジおよび第2の薬液が充填された第2のシリンジを保持し、第1および第2の薬液を混和して注入可能な注入ヘッドと、
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供する制御ユニットと、
を備え、
少なくとも前記第1の薬液に関しては、薬液容器から第1の薬液を前記第1のシリンジ内に吸引する薬液注入装置であって、
前記制御ユニットは、
前記第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、前記第1および第2の薬液の混和条件に関する情報を表示する処理と、
前記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理と、
変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示する処理と、
を行うように構成されている、薬液注入装置。
【請求項2】
前記混和条件に関する情報が希釈率である、請求項1に記載の薬液注入装置。
【請求項3】
さらに、
前記薬液容器に付されたデータ保持媒体の情報を読み取るデータ読取りユニットを備える、
請求項1または2に記載の薬液注入装置。
【請求項4】
前記データ保持媒体はICタグである、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項5】
制御ユニットは、
前記薬液容器からの薬液の吸引が行われた場合に、
吸引量、および、薬液容器内の薬液残量の少なくとも一方の情報を表示する処理を行う、
請求項1~4のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の薬液注入装置と、
前記第1および第2のシリンジに接続される薬液回路と、
を備える薬液注入システム。
【請求項7】
前記薬液回路は、
前記第1のシリンジに接続される流路および第2のシリンジに接続される流路を少なくとも含み、複数の被検者に対する検査のために複数回使用されるマルチユース部分と、
前記マルチユース部分に取り外し自在に接続され、1人の被検者ごとに交換されるシングルユース部分と、
を含むものである、
請求項6に記載の薬液注入システム。
【請求項8】
さらに、
前記薬液容器として、薬液ボトルを備える、
請求項6または7に記載の薬液注入システム。
【請求項9】
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供するコンピュータに、
第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、第1および第2の薬液の混和条件に関する情報をディスプレイに表示させる処理と、
前記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理と、
変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示する処理と、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項10】
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供するコンピュータの制御方法であって、
コンピュータが、第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、第1および第2の薬液の混和条件に関する情報をディスプレイに表示させるステップと、
コンピュータが、前記造影剤の濃度の変更を受け付けるステップと、
コンピュータが、変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示するステップと、
を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影剤などの薬液を被検者に送達する薬液注入装置およびそれを備えたシステムに関し、特には、薬液容器から造影剤を吸引して注入を行う方式であっても、濃度の異なる複数種類の造影剤を予め用意することなく様々な造影剤濃度の薬液注入を実施でき、かつ、その濃度変更を操作性よく行うことが可能な薬液注入装置およびそれを備えた薬液注入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の画像診断装置として、CT(Computed Tomography)スキャナ、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、超音波診断装置、血管造影(アンギオグラフィ)撮像装置等が知られている。このような撮像装置を使用する際、患者に造影剤や生理食塩水など(以下、これらを単に「薬液」とも言う)を注入することがある。
【0003】
薬液は、一般的には、シリンダおよびピストンを有するシリンジに充填されている。シリンジに充填されている薬液を注入するのに、薬液注入装置が一般に用いられる。薬液注入装置は、シリンジ保持機構とピストン駆動機構とを有し、シリンジがシリンジ保持機構に保持された状態でピストン駆動機構によってピストンを前進させることによって、シリンジに充填されている薬液を被検者に注入することができる。なお、他の態様としては、シリンジではなく、薬液バッグや薬液ボトルのような容器に収容された薬液を被検者に向けて注入する装置等も従来公知である。
【0004】
造影剤としては、CT検査やMRI検査などの種別に応じて異なる種類のものが用いられ、例えばCT検査であれば、ヨウ素を含むヨード造影剤が使用される。また、同じヨード造影剤であっても、ヨード含有量の異なる複数種類のものが市販されている(例えば、240mgI/mL、300mgI/mL、320mgI/mL、350mgI/mL、370mgI/mLなど)。
【0005】
薬液注入装置としては、造影剤が充填されたシリンジと生理食塩水が充填されたシリンジとを保持し、それらを同時注入することで造影剤を希釈して注入を行うものも知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
造影剤と生理食塩水との希釈注入としては、例えば、350mgI/mLの造影剤を用い混和比率は50%に設定し所定の注入速度および注入量で薬液注入を行う、といったように注入条件が設定される。一方で、病院施設や手技によっては、例えば、350mgI/mLの造影剤ではなく300mgI/mLの造影剤で注入プロトコルを設定することが望まれるような場合もある。装着されている造影剤の載せ替えることなく、混和条件を変更することで対応しようとする場合、例えば、混和比率を50%から40%に変更する(一例)ことによって、300mgI/mL相当の造影剤が装着されているように注入条件の設定が可能となる。
【0008】
しかしながら、上記の設定方式では、造影剤の濃度を直感的に変更することは困難である。薬液注入装置に装着されているシリンジまたは造影剤ボトル等を350mgI/mLのものから300mgI/mLのものに変更すればこうした問題は回避できるが、この場合、予め複数種類のシリンジを用意しておかなければならない、作業の手間が煩雑であるといった問題が生じうる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、薬液容器から造影剤を吸引して注入を行う方式であっても、濃度の異なる複数種類の造影剤を予め用意することなく様々な造影剤濃度の薬液注入を実施でき、かつ、その濃度変更を操作性よく行うことが可能な薬液注入装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため本発明の一形態は以下のとおりである:
第1の薬液が充填された第1のシリンジおよび第2の薬液が充填された第2のシリンジを保持し、第1および第2の薬液を混和して注入可能な注入ヘッドと、
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供する制御ユニットと、
を備え、
少なくとも前記第1の薬液に関しては、薬液容器から第1の薬液を前記第1のシリンジ内に吸引する薬液注入装置であって、
前記制御ユニットは、
前記第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、前記第1および第2の薬液の混和条件に関する情報を表示する処理と、
前記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理と、
変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示する処理と、
を行うように構成されている、薬液注入装置。
【0011】
(用語の説明)
「薬液」とは、例えば、造影剤、生理食塩水、またはそれらを混合したものをいう。
「造影剤」の具体例としては、ヨード濃度240mgI/mLの造影剤(例えば、37℃において粘度3.3Pa・s、比重1.268~1.296)、ヨード濃度300mgI/mLの造影剤(例えば、37℃において粘度6.1mPa・s、比重1.335~1.371)、ヨード濃度350mgI/mLの造影剤(例えば、37℃において粘度10.6mPa・s、比重1.392~1.433)等がある。
「生理食塩水」の具体例としては、生理食塩水20ml中に塩化ナトリウム180mgを含有した生理食塩水(例えば、20℃において粘度0.9595mPa・s、比重1.004~1.006)等がある。
「注入プロトコル」とは、どのような薬液を、どの程度の量、どの程度の注入速度および注入時間で注入するかを示すものである。どの程度の圧力で注入を行うかという圧力条件が注入プロトコルに含まれることもある。
「ICタグ」とは、ICチップおよびアンテナ等を有し電波を受けて働く非接触型の小型の電子デバイスのことをいい、本明細書の文脈ではRFIDタグと同義の場合がある。
「制御ユニット」とは、CPUおよびメモリ等を有し演算処理を行うものまたはそれを含むユニットであり、「コントローラ」、「コントローラユニット」、「コントローラ回路(制御回路)」、「コントローラモジュール(制御モジュール)」、「プロセッサ部」、「プロセッサユニット」、「プロセッサモジュール」等と呼ぶこともできる。「制御ユニット」は、マイクロコンピュータ、マイクロコントローラ、プログラマブル論理コントローラ、特定応用向け集積回路、他のプログラム可能な回路などを有するものとして構成することができる。本明細書において、「制御ユニット」は、物理的に1つの構成であってもよいが、2つまたは3以上の制御部が機能的に協働して1つの「制御ユニット」を構成するものであってもよい。
【0012】
「コンピュータプログラム」は、それを記憶した記憶媒体を所定の装置・デバイス・機構等で読み出し、それらのコンピュータを所定の機能で動作させるものであってもよい。この場合、コンピュータプログラムを記憶した記憶媒体は本発明の一形態を構成することになる。また、コンピュータプログラムは、通信ネットワーク(一例でインターネット)を介して提供されるものであってもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分プログラムであってもよい。
【0013】
「部(「エレメント」または「モジュール」等としても表現できる)」-本明細書で例えば「(機能の名称)」+「部」で表わされるものは、コンピュータによって実現される機能として実現可能なものである。このような「部(エレメント)、モジュール等」」は、システムにおけるいずれの機器に備わっていてもよい。また、必ずしも1つの機器内に備わっている必要はなく、相当する機能が2つ以上の機器に分散して備えられていてもよい。さらに、通信ネットワーク(例えばインターネット)を介して、所定の1つまたは複数の「部」のみが外部のサーバ等に備えられていてもよい。
【0014】
なお、本明細書で云う各種の構成要素(デバイス、装置、部、モジュールなど)は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として構成されていること、一つの構成要素が複数の部材で構成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等であってもよい。各種構成要素は、その機能を実現するように構成されていればよく、ハードウェアにより実現するものでも、コンピュータプログラムにより実現されるものでも何れでも構わない。例えば、ある構成要素が、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより実現された設定装置、これらの組合せ、等として実現することができる。
【0015】
「グラフィカルユーザインターフェース」(GUI)とは、例えば、画面上のアイコン、画像ボタン、プルダウンメニュー、または数値入力ウィンドウなどの1つまたは複数を、カーソルによりまたはタッチパネルの場合にはタッチすることにより、視覚的に操作できるインターフェースのことをいう。
【0016】
「アイコン」とは 、(i)所定の情報を表示しかつ操作者によって選択することができるものと、(ii)単に所定の情報を表示するためのものであって選択できるようには構成されていないものとの両方を含むものであってもよい。画面に表示される全てまたは一部のアイコンは、それぞれの表示箇所をタッチペンあるいは操作者の指等でタッチすることで、または、画面上のカーソルによって、選択可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薬液容器から造影剤を吸引して注入を行う方式であっても、濃度の異なる複数種類の造影剤を予め用意することなく様々な造影剤濃度の薬液注入を実施でき、かつ、その濃度変更を操作性よく行うことが可能な薬液注入装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】注入ヘッドおよびそれに装着される薬液シリンジを示す斜視図である。
【
図3】薬液注入装置および撮像装置のブロック図である。
【
図4】マルチユース対応の薬液回路を模式的に示す図である。
【
図5】グラフィカルユーザインターフェースの画面の一例(薬液情報表示)である。
【
図6】グラフィカルユーザインターフェースの画面の一例(吸引後表示)である。
【
図7A】グラフィカルユーザインターフェースの画面の一例(条件設定)である。
【
図7B】グラフィカルユーザインターフェースの画面の一例(条件変更)である。
【
図8】グラフィカルユーザインターフェースの画面の他の一例(条件変更)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態の薬液注入装置について図面を参照しながら説明する。
【0020】
本発明の一形態に係る薬液注入装置100は、
図1~
図3に示すように、一例で可動式スタンド111の上部に保持された注入ヘッド110と、ケーブル102で注入ヘッド110に接続されたコンソール150とを備えている。この例では、注入ヘッド110には、2つのシリンジ200A、200Bが並列に取外し自在に装着される。注入ヘッド110とコンソール150とは無線方式で接続されていてもよい。
【0021】
なお、以下の説明では、シリンジ200A、200Bを区別せずに単に「シリンジ200」ということもある。また、以下の説明では、図面に表された1つの具体的な形態に基づいて説明を行うが、薬液注入装置やシリンジ等については下記に説明するもの以外にも種々変更可能である。
【0022】
〔シリンジおよび薬液回路〕
シリンジ200A、200B(
図2参照)に充填される薬液としては、造影剤および生理食塩水などが挙げられる。例えば、一方のシリンジ200Aに造影剤が充填され、もう一方のシリンジ200Bに生理食塩水が充填されていてもよい。生理食塩水の代わりに、シリンジAの造影剤とは異なる他の造影剤等が充填されてもよい。
【0023】
シリンジ200は、中空筒状のシリンダ部材221と、そのシリンダ部材221にスライド自在に挿入されたピストン部材222とを有している。シリンダ部材221は、その基端部にシリンダフランジ221aが形成されるとともに先端部に導管部221bが形成されたものであってもよい。ピストン部材222をシリンダ部材221内に押し込むことにより、シリンジ内の薬液が導管部221bを介して外部に押し出される。
【0024】
図3に示すように、少なくとも一方のシリンジ200に関し、シリンダ部材221の一部にデータ保持媒体225が付されていてもよい。このデータ保持媒体225には、シリンジに関する情報(シリンジの識別情報、シリンジの耐圧、シリンダ部材の内径、ピストン部材のストローク等)や、該シリンジに充填された薬液の情報(名称(例えば製品名)、ヨード量などの成分情報、消費期限、薬液容量等)が記憶されていてもよい。データ保持媒体は、そのタグに固有のユニークIDを有していてもよい。データ保持媒体は、シリンジサイズ、シリンジの製造番号、および薬剤標準化コードから選ばれる少なくとも1つの情報を有していてもよい。なお、データ保持媒体としては、例えば、RFID(Radio frequency identification)タグやICタグと呼ばれる無線通信で情報が読取り可能な媒体を利用することができる。他の例として、バーコードのような、印刷、刻印またはディスプレイ表示されたコード情報を読み取るものであってもよい。データ保持媒体を貼り付ける位置としては、一例で、シリンダ部材の外周面であってもよく、具体的には、外周面のうちシリンダフランジ211aの付近であってもよい。
【0025】
なお、シリンジは予め薬液が充填されたプレフィルドタイプであってもよいし、空のシリンジに薬液を吸引して使用する吸引式のものであってもよい。吸引式の場合、造影剤等の薬液を収容した薬液容器(一例でボトル)から、データ保持媒体等の情報が読み込まれてもよい(詳細下記)。
【0026】
吸引式の場合、限定されるものではないが例えば
図4に示すような薬液回路880を用いるものであってもよい。薬液回路880は、一方のシリンジ200Aからの薬液が流れる第1の流路881aと、他方のシリンジ200Bからの薬液が流れる第2の流路881bとを有している。これらの流路はコネクタ883のところで合流するようになっている。コネクタ883としては、例えば、内部で旋回流を生じさせて2つの薬液を混合する機能を備えたミキシングデバイスであってもよい。コネクタ883からの薬液は、第3の流路881cを経由して送られ、その末端に接続された留置針885を通じて被検者の血管内部へと送出される。
【0027】
この薬液回路880は、複数の被検者に対して共通に複数回使用されるマルチユース部分880Mと、それに対して取外し自在に接続されるシングルユース部分880Sとを含むものであってもよい。シングルユース部分880Sは、一人の被検者に対する使用が終わった後、取り外され廃棄される部分である。
【0028】
第1の流路881aの途中には、吸引時、第1の薬液容器890Aからの薬液が流れる流路882aが接続されている。同様に、第2の流路881bの途中には、吸引時、第2の薬液容器890Bからの薬液が流れる流路882bが接続されている。これらの流路に加えて、幾つかの所定の一方弁(不図示)が設けられていることで、各シリンジ200A、200Bのピストン部材を引いたときにそれぞれの薬液容器890A、890B(以下、これらを区別せず薬液容器890ということもある)から、必要に応じ、所定量の薬液がシリンジ内へと吸引されるようになっている。一方、それぞれのシリンジ200A、200Bから薬液を被検者側に押し出す際には、流路882a、882bへの逆流は防止されるようになっている。薬液回路880の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、薬液容器890A、890Bにつながる流路882a、882bの一方または双方にエアセンサ等の検出手段を設け、薬液容器内の薬液が無くなった場合にはそれを検知できる構成とすることも好ましい。
【0029】
〔注入ヘッド〕
注入ヘッド110は、
図2に示すように、一例として前後方向に長く延びるような筐体を有しており、この筐体の上面前端側には、それぞれシリンジ200A、200Bが載せられる2つの凹部120aが形成されている。凹部120aはシリンジ保持部として機能する部分である。
【0030】
凹部120aに対しては、シリンジ200が直接装着されてもよいし、または、所定のシリンジアダプタを介して装着されてもよい。
図2では、各シリンジ200のシリンダフランジ221aおよびその近傍を保持するシリンジアダプタ121、122が一例として図示されている。シリンジアダプタの形状や機能は特定のものに限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。注入ヘッド110の筐体には、注入ヘッド110に各種動作を行わせるための複数の物理ボタンも設けられている。
【0031】
注入ヘッド110は、また、
図2および
図3に示すように、シリンジ200のピストン部材222を押し込む機能を少なくとも有するピストン駆動機構130を有している。ピストン駆動機構130は二系統設けられており、各機構130は独立して動作する。ピストン駆動機構130は、例えばシリンジ内への薬液吸引のために、ピストン部材222を後退させる機能を有するものであってもよい。2つのピストン駆動機構130は同時に駆動されてもよいし、別々のタイミングで駆動されてもよい。
【0032】
ピストン駆動機構130は、詳細な図示は省略するが、駆動モータ(不図示)と、その駆動モータの回転出力を直線運動に変換する運動変換機構(不図示)と、その運動変換機構に連結され、ピストン部材222を前進および/または後退させるシリンジプレッサー(ラム部材)とを有するものであってもよい。このようなピストン駆動機構としては、薬液注入装置で一般に用いられる公知の機構を用いることができる。なお、モータ以外のアクチュエータを駆動源としてもよい。
【0033】
典型的なピストン駆動機構の動作としては、次のようなものが挙げられる:薬液注入(ラム部材の前進)および薬液吸引(ラム部材の後退)。「薬液注入」では、所定のモータ制御信号にしたがってモータを動作させラム部材を前進させることにより、設定された注入プロトコル(注入条件)に従った薬液注入を行う。「薬液吸引」では、所定の制御信号にしたがってモータを動作させピストン部材を後退させることにより、シリンジ内に薬液を吸引する。薬液バッグや薬液ボトル内の薬液を被検者に向けて送り出すための機構としては、ピストン駆動機構ではなく、例えばチューブを押しつぶして薬液を送るチューブポンプ等の駆動機構が利用されてもよい。
【0034】
なお、ピストン駆動機構130は、ラム部材がピストン部材220を押圧する力を検出するためのロードセル(不図示)を有していてもよい。ロードセルの検出結果を利用して、例えば、薬液を注入しているときの薬液の圧力の推定値を求めることができる。この推定値の算出は、針のサイズ、薬液の濃度、注入条件なども考慮して行われる。他にも、ロードセル(不図示)を用いるのではなく、駆動モータ(不図示)のモータ電流に基づいて圧力の算出を行うものであってもよい。
【0035】
シリンジにデータ保持媒体225が付されている場合には、注入ヘッド110は、
図3に示すように、同データ保持媒体225の情報を読み取るおよび/または同データ保持媒体225に情報を書き込むリーダ/ライタ145を有していてもよい。このリーダ/ライタ145は、シリンジ200が装着される凹部120aに設けられていてもよい。なお、リーダ/ライタ145は、データ保持媒体225の情報を読み取る機能のみを有するものであってもよい。
【0036】
注入ヘッド110は、
図3に示すように、ピストン駆動機構130やリーダ/ライタ145の動作を制御するための制御部144を有していてもよい。また、例えば、データ保持媒体225から読み取られた情報を記憶する記憶部146を有していてもよい。制御部144は、プロセッサおよびメモリ等を有する制御回路として構成することができる。
【0037】
なお、
図3の例ではシリンジ200(200A、200B)が用いられているが、薬液がシリンジ以外の薬液収容体(不図示)に収容される構成であってもよい。薬液収容体としては、例えば、薬液バッグ、薬液ボトル等であってもよい。
【0038】
(薬液容器用のデータ読取り手段)
図3に示すように、薬液容器890A、890Bのうちいずれかまたは双方にデータ保持媒体892が設けられていてもよい。データ保持媒体892としては、例えば、RFIDタグやICタグであってもよいし、バーコード等を利用してもよい。データ保持媒体に記憶される情報としては、薬液の種類、製品名、製造会社名、使用期限、容量、濃度、製造番号、製造年月日等のうち1つまたは組合せであってもよい。なお、薬液容器890としては、例えば、薬液ボトル、薬液バッグ等が挙げられ、具体的な外形などはどのようなものであっても構わない。データ保持媒体892は、例えば薬液ボトルの周壁面の一部に設けられていてもよい。
【0039】
薬液容器890を保持するために、
図3に模式的に示すように、薬液注入装置100にはホルダ181A、181Bが設けられていてもよい。この例では、ホルダ181Aとホルダ181Bとは別体に構成され、それぞれが薬液容器890を保持するものとなっているが、ホルダ181A、181Bが1つの部品として一体的に構成され2つの薬液容器890A、890Bを保持する構成となっていてもよい。
【0040】
薬液容器890の情報を読み取るために、データ読取りデバイス183が設けられていてもよい。データ読取りデバイス183としては、薬液容器890に付されたデータ保持媒体892の種別に応じて、例えば、バーコードリーダであってもよいし、ICタグリーダ等であってもよい。当然ながら、その他のデータ保持媒体およびデータ読取りデバイス183を用いるようにしてもよい。データ保持媒体892とデータ読取りデバイス183との位置関係に関し、限定されるものではないが、薬液容器890を所定箇所にセットした状態で、データ読取りデバイス183がデータ保持媒体892に対向するようになっていてもよい。データ読取りデバイス183によって読み取られた情報は、薬液注入装置100の注入ヘッド110およびコンソール150の少なくとも一方によって参照される。
【0041】
〔コンソール〕
コンソール150は、一例で検査室に隣接した操作室内に置かれて使用されるものであってもよい。コンソール150は、所定の画像を表示する表示デバイス(ディスプレイ)151と、その筐体前面に設けられた操作パネル159と、筐体内に配置された制御回路(詳細下記)などを有している。操作パネル159は、1つまたは複数の物理ボタンが配置された部分であり、操作者によって操作される。表示デバイス151は、タッチパネル式表示デバイスであってもよいし、表示機能のみのディスプレイであってもよい。コンソール150は、音および/または音声を出力するためのスピーカ等(不図示)を有していてもよい。また、他の表示デバイスが注入ヘッドに設けられていてもよい。
【0042】
コンソール150は、
図3のブロック図では、接続されている各部の動作を制御する制御部155と、注入処理部153と、種々のデータが記憶される記憶部154と、所定の外部機器と接続するためのインターフェースとを有するものとして描かれている。コンソール150は、操作者によって操作される入力装置157を有していてもよい。
【0043】
注入処理部153は、注入プロトコルの作成や注入の実行などを制御する部分であり、一例として、設定画面表示機能、注入プロトコル作成機能、注入制御機能、履歴生成機能、および、履歴出力機能を含むものであってもよい。なお、
図3では注入処理部153を制御部155とは別に示しているが、注入処理部153の機能が制御部154の一部として設けられていてもよい。
【0044】
設定画面表示機能は、注入プロトコルを設定するための情報、具体的には、注入プロトコル設定用のGUIを表示デバイス151に表示させる機能に相当するものであってもよい。注入プロトコル設定用のGUIは、薬液注入装置、撮像装置、またはその他のコンピュータの任意の記憶装置内に格納されていてもよい。
【0045】
プロトコル作成機能は、例えば、操作者による表示デバイス151のタッチパネル等への入力操作を受け付け、その内容が反映された注入プロトコルを作成する機能に相当するものであってもよい。このように操作者によって入力される条件としては、例えば、薬液の種類、薬液の注入速度、薬液の注入量、患者の身体情報、撮像を行う患者の身体区分、および撮像部位などから選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0046】
注入制御機能は、作成された注入プロトコルにしたがってピストン駆動機構130の動作を制御する機能に相当するものであってもよい。注入制御機能は、ピストン駆動機構130の一方のみを動作させること、および、両方を同時に動作させることを行うものであってもよい。
【0047】
履歴生成機能は、注入履歴データや吸引履歴データを生成する機能に相当するものであってもよい。「注入履歴データ」としては、例えば、注入作業ごとに固有の識別情報である注入作業ID、注入開始および終了の日時、薬液注入装置の識別情報、前述の注入条件である薬液や撮像部位の識別情報などであってもよい。これらはテキストデータであってもよい。また、横軸と縦軸との一方が経過時間で他方が注入速度の経時グラフの画像データなどであってもよい。注入履歴データとしては、シリンジのデータ保持媒体から取得した、または操作者によって手動で入力された、または外部ネットワーク等から入力された薬液の情報やシリンジの情報であってもよい。「吸引履歴データ」としては、例えば、上記同様注入作業ごとに固有の識別情報である注入作業IDが含まれてもよいし、吸引を実施した日時、吸引条件に関する情報、薬液容器の情報、薬液情報、薬液注入装置の識別情報などが含まれてもよい。
【0048】
履歴出力機能は、注入履歴データ等を外部に送信する機能に相当するものであってもよい。具体的には、外部の所定の機器および/またはネットワークにデータを送信するものであってもよい。シリンジ等のデータ保持媒体から取得した、薬液容器のデータ保持媒体から取得した、または操作者によって手動で入力された、または外部ネットワーク等から入力された薬液の情報やシリンジの情報が、薬液注入装置から病院内の医療情報システムに送信されてもよい。
【0049】
記憶部154には、例えば、表示デバイス151に表示される画像やGUIのデータなどが記憶されていてもよい。また、注入条件および/または吸引条件を設定するための計算式などを含むアルゴリズムや、注入プロトコルのデータが記憶されていてもよい。注入速度は、一定であってもよいし、時間とともに変化するものであってもよい。このような注入プロトコルに関する情報は、インターフェースを介して接続された外部機器から入力されてもよい。また、コンソール150がスロット(不図示)を有し、そこに差し込まれる外部記憶媒体を通じて入力されてもよい。
【0050】
〔撮像装置〕
撮像装置300(
図3)は、例えばX線CTスキャナ、MRI装置、またはアンギオグラフィ装置、PET装置、超音波診断装置などであり、患者の透視画像を撮像する撮像部303bと、患者を載せるベッド304と、それらの動作を制御する制御部303aとを有するものであってもよい。なお、
図1、
図2に示している薬液注入装置はこの例では、CT検査用のものであるが、薬液注入装置としては撮像装置の種別に応じて適宜それに対応したものが使用される。
【0051】
〔動作〕
以上のように構成された本実施形態の薬液注入システムの動作例について以下説明する。なお、以下では、造影剤を薬液容器890Aから吸引することについてのみ言及するが、当然ながら、本発明においては、シリンジ200B内へ薬液容器890Bから生理食塩水を吸引することも可能である。
【0052】
まず、ホルダ181A、181Bにそれぞれ薬液容器890A、890Bをセットし、各薬液容器890A、890Bに対して薬液回路880の流路882a、882bを接続する。注入ヘッド110には、シリンジ200A、200Bがセットされる。特に限定されるものではないが、シリンジ200Bには既に生理食塩水が充填されており、シリンジ200Aが空の状態であるものとする。
【0053】
ホルダ181Aに対して薬液容器890Aがセットされた状態で、データ読取りデバイス183によって薬液容器890Aのデータ保持媒体892の情報が読み取られる。なお、この読取り動作は、例えば、薬液容器890Aがホルダ181Aにセットされると自動的に実施されるものであってもよい。
【0054】
コンソール150は、読み取った上記情報を、例えば
図5に示すような画面で表示デバイス151に表示する。この例では、薬液容器内の薬液情報520が表示されている。具体的には、造影剤の製品名、造影剤の濃度、造影剤の容量(残量)のうち1つまたは複数が表示されるようになっている。このように薬液容器890Aの薬液情報が装置によって読み取られ、それが表示されるようになっている構成によれば、操作者は表示内容を見て、セットされた薬液容器890Aが正しいものであるか等を確認することができる。
【0055】
図6は、薬液容器890Aからシリンジ200Aに吸引を行う際に表示される画面の一例である。この例では、画面上に、造影剤の製品名、造影剤の濃度情報513の情報が表示され、また、速度情報521、吸引量情報523も表示されている。限定されるものではないが、画面上のアイコン531を押すことで吸引が開始されるようになっていてもよい。吸引が終了した後の画面には薬液容器890Aの残量が表示されるようになっていることが好ましく、
図6では、ボトル形状に表示された残量表示部525が一例として描かれている。この例では、当初500mlであった容量から60mlの吸引が行われたため、残量440mlとなっている。このように、吸引後の残量が表示される構成によれば、例えば、薬液容器890Aが視認しにくいような位置に配置されている場合や、ホルダ181Aにセットした状態では容器残量が確認しにくくなるような構造の場合であっても、良好に残量の確認を行うことができ好ましい。
【0056】
薬液容器および/またはそれに収容された薬液に関する情報が表示される表示デバイスとしては、コンソール以外にも他の任意の機器(例えば注入ヘッド)であってもよい。具体的な例として、薬液ボトルがボトルキーパ(ホルダ)にセットされる構成では、薬液ボトルのセット時に薬液ボトルに付されたラベルなどの内容が視認できなくなるケースも想定される。これに対して、本実施形態のような構成によれば確実に薬液容器および/またはそれに収容された薬液に関する情報を確認することが可能となる。
【0057】
表示デバイスに薬液容器および/またはそれに収容された薬液に関する情報を表示することで、残量容量を常に監視して次の検査を手動および/または自動で行うことができる。吸引した回数をカウントしたり、必要量が不足したら補充(吸引)したり、設定量を読み取り適正な容量を吸引したりすることができる。薬液容器の残量が所定値以下となった場合、例えば「薬液ボトルを交換してください」のようなメッセージが表示されるようになっていてもよい。
【0058】
薬液容器のデータ保持媒体から読み取った情報を用いて、種々の条件設定(例えば注入条件の設定)を行うようにしてもよい。このような構成によれば、操作者が例えば薬液ボトルのラベルを見てそこから読み取った情報を手動で装置に入力する場合と比較して、より正確に条件等の設定を行うことが可能となる。
【0059】
図7Aは、注入プロトコルを設定するグラフィカルユーザインターフェースの一例である。この種のインターフェースとしては従来種々のものが提案されており、いずれの方式を用いてもよいため詳細な説明は省略するが、
図7Aでは、人体を模した人体画像540が表示されている。人体画像540には、複数の身体区分アイコン540a~540dが含まれ、各身体区分アイコンは選択することができるようになっている。例えば、胸部のアイコン540bを選択すると、それに対応して、事前に設定された薬液条件が読み込まれて表示される。一例として、
図7Aでは、注入プロトコル表示部542に、注入速度(5.0mL/sec)および注入量(20mL)の情報を含む条件画像541が表示されている。
【0060】
図7Aの画面では、さらに、シリンジ残量情報533、プレッシャーリミット情報534、造影剤濃度情報535、希釈率情報536が表示されている。
【0061】
シリンジ残量情報533では、シリンジAの残量が150mL、シリンジBの残量が150mLであることが表示されている。プレッシャーリミット情報534は、シリンジの耐圧が300psiであることを示している。造影剤濃度情報535は、造影剤のヨード量が350mgI/mLであることを示している(なお、当該部分の数値は、条件設定の際の基準濃度となる値であって、実際にシリンジ内に入っている造影剤濃度とは異なる値であってもよい)。希釈率情報536は、造影剤と生理食塩水との混和比率が1:1で希釈率が50であることを示している。
【0062】
図7Aの画面では、造影剤濃度情報535の部分が選択可能なアイコンとなっており、このアイコンをタッチすることで、造影剤のヨード量を変更することができる。例えば、350mgI/mL→300mgI/mL→240mgI/mLのように幾つかの濃度が順に切り替わっていくトグル表示となっていてもよい。候補として表示する濃度の数としては、当然ながら、必ずしも3つに限らず適宜増減してもよい。上記のような選択方式に代えて、テンキー(不図示)が表示され、そのテンキーを介して濃度の数値が入力されるものであってもよい。また、画面上に複数の候補を含むプルダウンメニューが表示され、その中から1つを選ぶ方式であってもよい。
【0063】
上記機能により例えば350mgI/mLを300mgI/mLに変更した場合、本実施形態の構成では,それに応じてあたかも300mgI/mL の造影剤を使用しているかのように薬液の希釈率が自動的に変更される(この場合、希釈率が50%→40%に変更)。変更後の画面は、例えば
図7Bのように、造影剤濃度情報535の数値は「300」に変更され、かつ、希釈率情報536′の数値は「40%」に変更されている。
【0064】
上記の構成によれば、実際にシリンジ200Aに入っている造影剤は350mgI/mLのものであるにもかかわらず、造影剤濃度(符号535参照)を直接変更して、希釈率(符号536′)を変更することで300mgI/mLのもののように使用することができる。このような態様は、薬液容器890Aを変更することなく複数の患者に対して注入を行うようなマルチユース方式に特に有用である。
【0065】
なお、
図7Bの画面の状態のように、造影剤濃度を変更した場合であっても、画面上に、実際にシリンジに充填されている造影剤の濃度情報513が表示され続けることが、一形態において、好ましい。こうすることで、実際の造影剤濃度(この例では350mgI/mL)と、変更後の造影剤濃度(この例では300mgI/mL)との両方を1つの画面で確認できるためである。
【0066】
注入プロトコルの設定の完了後、操作者による所定の一または複数の入力があった場合に、薬液注入を開始する。薬液注入を開始するまでの手順や、薬液注入中のピストン駆動機構130の動作等については、従来公知の種々の方式を使用することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の薬液注入装置によれば、薬液容器890から造影剤等をシリンジ200に吸引して薬液注入を行うものであるが、造影剤濃度をグラフィカルユーザインターフェース上で変更可能であり、それに応じて自動的に希釈率が変更され、所望の濃度の薬液を注入するものであるので、濃度の異なる造影剤を予め複数種類用意しておく必要はない。
【0068】
上述した実施形態のように薬液ボトル(一例)から薬液の吸引を行う構成において、仮に350mgI/mLの造影剤が500mL入った薬液ボトルを例えば100mLのみ使用した後に取り外し、350mgI/mLの薬液ボトルをセットし直すとなると、そのような作業は、作業の手間や薬液の清潔を保つ観点等から好ましくない。特に、薬液ボトルを加温する装置の場合には、ボトルを再度温め直す必要も生じる。これに対して、本実施形態の構成によれば、薬液容器890を交換することなく、所望の濃度の造影剤注入を実施することができるため好適である。
【0069】
上記では、本発明について具体的な例を示して説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である:
・例えば、グラフィカルユーザインターフェースの例として示した画面に関し、画面中の表示要素のすべてが必須ではなく、適宜増減させてもよい。
・グラフィカルユーザインターフェースの内容は、必ずしも1台または1箇所で表示されるものに限らず、必要に応じて、複数台または複数箇所で表示されるような構成としてもよい。
【0070】
上記実施形態では複数のシリンジが注入ヘッドに保持される例について説明したが、本発明の一形態としては、薬液容器から1本のシリンジ内に、第1の薬液(例えば造影剤)および第2の薬液(例えば生理食塩水)を所定の量ずつ引き入れて、所望濃度の薬液を準備することができる構成としてもよい。注入ヘッドは一筒式でも多筒式であってもよい。
【0071】
(GUIの具体的な一例)
グラフィカルユーザインターフェースに関しても種々変更可能であるが、例えば
図7A等に示した条件画像541は、より具体的には
図8のようなものであってもよい。
図8の例では、混和された薬液の注入速度(5.0mL/sec)および注入量(80mL)が表示されるとともに、造影剤と生理食塩水のそれぞれの注入条件表示547a、547bが示されている。例えば、注入条件表示547aは、3.0mL/sec、50mLと表示され、注入条件表示547bは、2.0mL/sec、30mLと表示されている(表示されている数値はあくまで一例である)。
【0072】
条件画像541は単に設定条件を表示するだけのものではなく、所定の動作を開始させるための入力を受け付けるユーザインターフェースとして機能するものであってもよい。例えば、造影剤の注入量を示している画像部分543がアイコンとなっており、そこをタッチすると(あるいは、それに付随する操作者からの所定の入力を伴って)、シリンジ内への吸引動作が開始されるようになっていてもよい。当然ながら、生理食塩水についても同様のユーザインターフェースとなっていてもよい。
【0073】
(造影剤濃度情報に関連する表示態様の例)
図7A、
図7Bでは、実際の薬液容器内の造影剤の濃度情報513と、条件設定に使用されうる情報である造影剤濃度情報535との2つが画面に表示されている例を示した。これに関連して、薬液注入装置は次のように構成されていてもよい:
造影剤濃度情報535として複数の選択肢(例えば350mgI/mL、300mgI/mL、240mgI/mL)が表示されうることは前述したとおりであるが、この表示に関し、実際の造影剤濃度(符号513)よりも高濃度の選択肢は表示されないように構成されていてもよい。例えば、300mgI/mLが使用されている場合には、350mgI/mLの選択肢は表示されないこととなる。このような表示態様とすることでより使い勝手のよいものとなる。同様に、実際の造影剤濃度よりも高濃度の選択肢(値)を入力できない構成としてもよいし、また、そのような選択肢(値)が入力された場合には、報知を行う、その旨の情報を記録する、および/または外部の所定の機器にデータ送信するといった動作を行うようにしてもよい。
【0074】
また、実際の造影剤濃度(符号513)と条件設定のための造影剤濃度(符号535)とを対比し、その結果に応じて所定の制御を行うように薬液注入装置が構成されていてもよい。例えば、両者が同一の場合と、異なる場合とで、薬液注入装置の所定の発光デバイスや画面上の所定の表示を異ならせるようにしてもよい。具体的には、両者が同一の場合、第1の色、第1の発光パターン、および/または第1の形状で画面上の表示(一例で、造影剤濃度情報535や希釈率情報536)を表し、異なる場合には、第2の色、第2の発光パターン、および/または第2の形状で表すようにしてもよい。
【0075】
(付記)
本出願は、以下の発明を開示する:
1.第1の薬液が充填された第1のシリンジ(200A)および第2の薬液が充填された第2のシリンジ(200B)を保持し、第1および第2の薬液を混和して注入可能な注入ヘッド(110)と、
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供する制御ユニット(150、155)と、
を備え、
少なくとも前記第1の薬液に関しては、薬液容器(890)から第1の薬液を前記第1のシリンジ(200)内に吸引する薬液注入装置であって、
前記制御ユニット(150、155)は、
前記第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報(513)、および、前記第1および第2の薬液の混和条件に関する情報(536)を表示する処理と、
前記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理(350mgI→300mgI)と、
変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報(536′)を表示する処理と、
を行うように構成されている、薬液注入装置。
【0076】
2.前記混和条件に関する情報が希釈率である、上記記載の薬液注入装置。
【0077】
3.さらに、
前記薬液容器(890)に付されたデータ保持媒体の情報を読み取るデータ読取りユニット(183)を備える、上記記載の薬液注入装置。このユニットはデータ書き込みを行うものであってもよい。
【0078】
4.前記データ保持媒体はICタグである、上記記載の薬液注入装置。
【0079】
5.制御ユニットは、前記薬液容器(890)からの薬液の吸引が行われた場合に、吸引量(523)、および、薬液容器内の薬液残量(525)の少なくとも一方の情報を表示する処理を行う、上記記載の薬液注入装置。
【0080】
6.上記記載の薬液注入装置と、前記第1および第2のシリンジに接続される薬液回路(880)と、を備える薬液注入システム。
【0081】
7.前記薬液回路は、
前記第1のシリンジに接続される流路および第2のシリンジに接続される流路を少なくとも含み、複数の被検者に対する検査のために複数回使用されるマルチユース部分(880M)と、
前記マルチユース部分に取り外し自在に接続され、1人の被検者ごとに交換されるシングルユース部分(880S)と、
を含むものである、
上記記載の薬液注入システム。
【0082】
7.さらに、前記薬液容器として、薬液ボトルを備える、上記記載の薬液注入システム。
【0083】
A1.第1の薬液が充填された第1の薬液収容体および第2の薬液が充填された第2の薬液収容体を保持し、第1および第2の薬液を混和して注入可能な注入ヘッドと、
薬液の注入プロトコルを設定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供する制御ユニットと、
を備え、
少なくとも前記第1の薬液に関しては、薬液容器から第1の薬液を前記第1のシリンジ内に吸引する薬液注入装置であって、
前記制御ユニットは、
前記第1の薬液である造影剤の濃度に関する情報、および、前記第1および第2の薬液の混和条件に関する情報を表示する処理と、
前記造影剤の濃度の変更を受け付ける処理と、
変更後の造影剤濃度に対応して第1のおよび第2の薬液の混和条件を変更するとともに、変更後の混和条件に関する情報を表示する処理と、
を行うように構成されている、薬液注入装置。
【0084】
本出願は、上記発明の技術的思想を制御方法の発明およびコンピュータプログラムの発明として表現したものも開示する。なお、上記記載の括弧内の符号は本発明を何ら限定するものではない。
【符号の説明】
【0085】
100 薬液注入装置
110 注入ヘッド
130 ピストン駆動機構
150 コンソール
151 表示デバイス
200(200A、200B) シリンジ
221 シリンダ部材
222 ピストン部材
225 データ保持媒体
300 撮像装置
880 薬液回路
880M マルチユース部
880S シングルユース部
881a、881b、881c 流路
883 コネクタ
885 留置針
890(890A、890B) 薬液容器
892 データ保持媒体
【手続補正書】
【提出日】2024-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液容器からシリンジへ薬液を吸引し、かつ、前記シリンジ内の薬液を注入可能な注入ヘッドと、
グラフィカルユーザインターフェースを提供する制御ユニットと、
を備える薬液注入装置であって、
前記制御ユニットは、
前記薬液容器から薬液の吸引が行われた場合に、吸引後の前記薬液容器内の薬液の残量を表示する処理を行うように構成されている、薬液注入装置。
【請求項2】
前記薬液容器を保持するホルダをさらに有する、請求項1に記載の薬液注入装置。
【請求項3】
さらに、
前記薬液容器に付されたデータ保持媒体の情報を読み取るデータ読取りユニットを備える、
請求項1または2に記載の薬液注入装置。
【請求項4】
前記データ保持媒体はICタグまたはバーコードである、請求項3に記載の薬液注入装置。
【請求項5】
前記ユーザインターフェースは、吸引を表すアイコンを含み、前記アイコンが操作されることで前記薬液容器から前記シリンジへの吸引動作が開始されるように構成される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の薬液注入装置と、
前記シリンジに接続される薬液回路と、
を備える薬液注入システム。
【請求項7】
前記薬液回路は、
前記シリンジに接続される流路を少なくとも含み、複数の被検者に対する検査のために複数回使用されるマルチユース部分と、
前記マルチユース部分に取り外し自在に接続され、1人の被検者ごとに交換されるシン
グルユース部分と、
を含むものである、
請求項6に記載の薬液注入システム。
【請求項8】
さらに、
前記薬液容器として、薬液ボトルを備える、
請求項6または7に記載の薬液注入システム。
【請求項9】
薬液容器からシリンジへ薬液を吸引し、かつ、前記シリンジ内の薬液を注入可能な注入ヘッドを備える薬液注入装置にグラフィカルユーザインターフェースを提供するコンピュータに、
前記薬液容器から薬液の吸引が行われた場合に、吸引後の前記薬液容器内の薬液の残量を表示する処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項10】
薬液容器からシリンジへ薬液を吸引し、かつ、前記シリンジ内の薬液を注入可能な注入ヘッドを備える薬液注入装置にグラフィカルユーザインターフェースを提供するコンピュータの制御方法であって、
コンピュータが、前記薬液容器から薬液の吸引が行われた場合に、吸引後の前記薬液容器内の薬液の残量を表示させるステップを含む、制御方法。