(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152976
(43)【公開日】2024-10-28
(54)【発明の名称】離型剤塗布方法および離型剤塗布システム
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20241021BHJP
B22D 17/14 20060101ALI20241021BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20241021BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20241021BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20241021BHJP
B22C 23/02 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B22D17/20 D
B22D17/14
B22D17/22 T
B22C3/00 H
B22C9/06 D
B22C23/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060607
(22)【出願日】2023-04-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 光朗
(72)【発明者】
【氏名】仲 猛宏
(72)【発明者】
【氏名】村本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】吉原 宗徳
(72)【発明者】
【氏名】臂 昌憲
(72)【発明者】
【氏名】行廣 弘司
(72)【発明者】
【氏名】福島 将貴
【テーマコード(参考)】
4E093
4E094
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NB01
4E094CC52
(57)【要約】
【課題】型締めした状態で効率的かつ歩留まりよく離型剤を塗布する。
【解決手段】この離型剤塗布方法では、真空吸引機構41を稼働させることでダイカスト用金型1の反給湯口側から真空吸引を開始する第一工程と、第一工程と同時に、もしくは第一工程の実行後に、ダイカスト用金型1に形成された離型剤供給穴42からキャビティ1a内に離型剤を供給する第二工程と、第一工程と第二工程を実行して所定時間が経過した後に、スリーブ30が備える給湯口32の近傍に設置されたエア供給部35からエアブローを開始することで、給湯口32をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぐ第三工程と、真空吸引機構41を停止させることで、キャビティ1a等の内部に離型剤を充満させる第四工程と、離型剤供給穴42からのキャビティ1a内への離型剤の供給を停止する第五工程と、エア供給部35からのエアブローを停止させる第六工程を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型とによってキャビティが画成されるダイカスト用金型の該キャビティに金属溶湯を充填することでダイカスト品を得るダイカスト法を実行可能なダイカスト装置において、前記ダイカスト用金型が型締めされた状態で前記ダイカスト用金型のキャビティ画成面に対して離型剤を塗布する際に実行される離型剤塗布方法であって、
前記ダイカスト装置には、前記ダイカスト用金型に給湯口を備えるスリーブが設置されるとともに、前記ダイカスト用金型の反給湯口側に真空吸引機構が設置されており、また、
前記スリーブは、ビスケット形成部、ランナー形成部およびゲート形成部を介してキャビティと連通して形成されており、
前記真空吸引機構を稼働させることで前記ダイカスト用金型の反給湯口側から真空吸引を開始する第一工程と、
前記第一工程と同時に、もしくは前記第一工程の実行後に、前記ダイカスト用金型に形成された離型剤供給穴からキャビティ内に離型剤を供給する第二工程と、
前記第一工程と前記第二工程を実行して所定時間が経過した後に、前記スリーブが備える前記給湯口の近傍に設置されたエア供給部からエアブローを開始することで、前記給湯口をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぐ第三工程と、
前記真空吸引機構を停止させることで、キャビティ、ゲート形成部、ランナー形成部、ビスケット形成部および前記スリーブの内部に離型剤を充満させる第四工程と、
前記離型剤供給穴からのキャビティ内への離型剤の供給を停止する第五工程と、
前記エア供給部からのエアブローを停止させる第六工程と、
を実行することで、前記ダイカスト用金型が型締めされた状態でキャビティ画成面に対する離型剤の塗布を完了してダイカスト法を実行可能な状態とすることを特徴とする離型剤塗布方法。
【請求項2】
請求項1に記載の離型剤塗布方法であって、
前記第二工程で実行されるキャビティ内への離型剤の供給が、キャビティの給湯口側に形成されたランナー形成部に接続した前記離型剤供給穴から行われることを特徴とする離型剤塗布方法。
【請求項3】
請求項1に記載の離型剤塗布方法であって、前記第三工程で実行されるエアブローを行う前記エア供給部が、前記給湯口に対して斜めに角度をつけた状態のエアブローを行うことを特徴とする離型剤塗布方法。
【請求項4】
固定型と可動型とによってキャビティが画成されるダイカスト用金型の該キャビティに金属溶湯を充填することでダイカスト品を得るダイカスト法を実行可能なダイカスト装置を用いて、前記ダイカスト用金型が型締めされた状態で前記ダイカスト用金型のキャビティ画成面に対して離型剤を塗布することができる離型剤塗布システムであって、
前記ダイカスト装置には、前記ダイカスト用金型に給湯口を備えるスリーブが設置されるとともに、前記ダイカスト用金型の反給湯口側に真空吸引機構が設置されており、また、
前記スリーブは、ビスケット形成部、ランナー形成部およびゲート形成部を介してキャビティと連通して形成されており、
前記ダイカスト装置が、
前記真空吸引機構を稼働させることで前記ダイカスト用金型の反給湯口側から真空吸引を開始し、
真空吸引の開始と同時に、もしくは真空吸引の実行後に、前記ダイカスト用金型に形成された離型剤供給穴からキャビティ内に離型剤を供給し、
真空吸引と離型剤の供給を実行して所定時間が経過した後に、前記スリーブが備える前記給湯口の近傍に設置されたエア供給部からエアブローを開始することで、前記給湯口をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぎ、
前記真空吸引機構を停止させることで、キャビティ、ゲート形成部、ランナー形成部、ビスケット形成部および前記スリーブの内部に離型剤を充満させ、
前記離型剤供給穴からのキャビティ内への離型剤の供給を停止し、
前記エア供給部からのエアブローを停止させる動作を実行することで、前記ダイカスト用金型が型締めされた状態でキャビティ画成面に対する離型剤の塗布を完了してダイカスト法を実行可能な状態とできることを特徴とする離型剤塗布システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤塗布方法および離型剤塗布システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、固定型と可動型とによってキャビティが画成されるダイカスト用金型を備えるダイカスト装置を用いて、キャビティに金属溶湯を充填することでダイカスト品を得るダイカスト法が公知である。この種のダイカスト装置では、ダイカスト法を実行する際にダイカスト用金型のキャビティ画成面に対して離型剤を塗布することが行われている。
【0003】
従来の一般的なダイカスト装置では、ダイカスト用金型を構成する固定型と可動型を型開き状態とし、スプレーロボットが有するスプレーガンで固定型と可動型のキャビティ画成面に離型剤を吹き付けることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-66653号公報
【特許文献2】特開2004-17142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、固定型と可動型を型開き状態として行われる離型剤塗布方法の場合、ダイカスト用金型を構成する固定型と可動型を型開き状態とするための時間的なロスが生じるため、生産性を向上させる点において課題が残されていた。また、固定型と可動型を型開きした状態で離型剤を吹き付ける方法は、離型剤のロスが多く歩留まりの悪いものであった。これら従来技術に存在する課題から、ダイカスト用金型を構成する固定型と可動型を型締め状態とした上で、キャビティに対して効率的に離型剤を塗布できる方法が求められていた。
【0006】
なお、出願人が調査したところ、キャビティを画成する固定型と可動型を型締めした状態で離型剤を塗布する手法を開示する先行技術文献として、上掲した特許文献1および2が存在していた。すなわち、特許文献1には、型内から離型剤を供給し、給湯口から離型剤を排出することで離型剤の流れを変え、キャビティに対して離型剤の塗布を行う技術が開示されており、また、特許文献2には、スリーブ、キャビティ、オーバーフロー間で正逆可能に離型剤を塗布する技術が開示されていた。
【0007】
しかし、特許文献1に開示された離型剤塗布方法は、給湯口から離型剤を排出させる方法であるため、作業環境の悪化や大量の離型剤が必要となる等といった課題が存在しており、特許文献2に開示された離型剤塗布方法は、真空経路の複雑化や大型化を招く等といった課題が存在していた。つまり、特許文献1および2に代表される従来技術に係る離型剤塗布方法には、改善の余地が残されていた。
【0008】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであって、その目的は、ダイカスト用金型を構成する固定型と可動型を型締めした状態でキャビティに離型剤を塗布することができ、かつ、効率的かつ歩留まりよくキャビティ画成面に離型剤を塗布することができる離型剤塗布方法と、この離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明に係る離型剤塗布方法は、固定型(10)と可動型(20)とによってキャビティ(1a)が画成されるダイカスト用金型(1)の該キャビティ(1a)に金属溶湯(2)を充填することでダイカスト品を得るダイカスト法を実行可能なダイカスト装置(100)において、前記ダイカスト用金型(1)が型締めされた状態で前記ダイカスト用金型(1)のキャビティ(1a)画成面に対して離型剤を塗布する際に実行される離型剤塗布方法であって、前記ダイカスト装置(100)には、前記ダイカスト用金型(1)に給湯口(32)を備えるスリーブ(30)が設置されるとともに、前記ダイカスト用金型(1)の反給湯口側に真空吸引機構(41)が設置されており、また、前記スリーブ(30)は、ビスケット形成部(1b)、ランナー形成部(1c)およびゲート形成部(1d)を介してキャビティ(1a)と連通して形成されており、前記真空吸引機構(41)を稼働させることで前記ダイカスト用金型(1)の反給湯口側から真空吸引を開始する第一工程(ステップS10)と、前記第一工程(ステップS10)と同時に、もしくは前記第一工程(ステップS10)の実行後に、前記ダイカスト用金型(1)に形成された離型剤供給穴(42)からキャビティ(1a)内に離型剤を供給する第二工程(ステップS11)と、前記第一工程(ステップS10)と前記第二工程(ステップS11)を実行して所定時間が経過した後に、前記スリーブ(30)が備える前記給湯口(32)の近傍に設置されたエア供給部(35)からエアブローを開始することで、前記給湯口(32)をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぐ第三工程(ステップS12)と、前記真空吸引機構(41)を停止させることで、キャビティ(1a)、ゲート形成部(1d)、ランナー形成部(1c)、ビスケット形成部(1b)および前記スリーブ(30)の内部に離型剤を充満させる第四工程(ステップS13)と、前記離型剤供給穴(42)からのキャビティ(1a)内への離型剤の供給を停止する第五工程(ステップS14)と、前記エア供給部(35)からのエアブローを停止させる第六工程(ステップS15)と、を実行することで、前記ダイカスト用金型(1)が型締めされた状態でキャビティ(1a)画成面に対する離型剤の塗布を完了してダイカスト法を実行可能な状態とすることを特徴とするものである。
【0011】
本発明に係る離型剤塗布方法では、前記第二工程(ステップS11)で実行されるキャビティ(1a)内への離型剤の供給が、キャビティ(1a)の給湯口側に形成されたランナー形成部(1c)に接続した前記離型剤供給穴(42)から行われることとすることができる。
【0012】
また、本発明に係る離型剤塗布方法では、前記第三工程(ステップS12)で実行されるエアブローを行う前記エア供給部(35)が、前記給湯口(32)に対して斜めに角度をつけた状態のエアブローを行うことができる。
【0013】
本発明に係る離型剤塗布システムは、固定型(10)と可動型(20)とによってキャビティ(1a)が画成されるダイカスト用金型(1)の該キャビティ(1a)に金属溶湯(2)を充填することでダイカスト品を得るダイカスト法を実行可能なダイカスト装置(100)を用いて、前記ダイカスト用金型(1)が型締めされた状態で前記ダイカスト用金型(1)のキャビティ(1a)画成面に対して離型剤を塗布することができる離型剤塗布システムであって、前記ダイカスト装置(100)には、前記ダイカスト用金型(1)に給湯口(32)を備えるスリーブ(30)が設置されるとともに、前記ダイカスト用金型(1)の反給湯口側に真空吸引機構(41)が設置されており、また、前記スリーブ(30)は、ビスケット形成部(1b)、ランナー形成部(1c)およびゲート形成部(1d)を介してキャビティ(1a)と連通して形成されており、前記ダイカスト装置(100)が、前記真空吸引機構(41)を稼働させることで前記ダイカスト用金型(1)の反給湯口側から真空吸引を開始し、真空吸引の開始と同時に、もしくは真空吸引の実行後に、前記ダイカスト用金型(1)に形成された離型剤供給穴(42)からキャビティ(1a)内に離型剤を供給し、真空吸引と離型剤の供給を実行して所定時間が経過した後に、前記スリーブ(30)が備える前記給湯口(32)の近傍に設置されたエア供給部(35)からエアブローを開始することで、前記給湯口(32)をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぎ、前記真空吸引機構(41)を停止させることで、キャビティ(1a)、ゲート形成部(1d)、ランナー形成部(1c)、ビスケット形成部(1b)および前記スリーブ(30)の内部に離型剤を充満させ、前記離型剤供給穴(42)からのキャビティ(1a)内への離型剤の供給を停止し、前記エア供給部(35)からのエアブローを停止させる動作を実行することで、前記ダイカスト用金型(1)が型締めされた状態でキャビティ(1a)画成面に対する離型剤の塗布を完了してダイカスト法を実行可能な状態とできることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダイカスト用金型を構成する固定型と可動型を型締めした状態でキャビティに離型剤を塗布することができ、かつ、効率的かつ歩留まりよくキャビティ画成面に離型剤を塗布することができる離型剤塗布方法と、この離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを示す断面図であり、特に、離型剤塗布システムを構成するダイカスト装置のダイカスト用金型に対して金属溶湯が充填される前の状態が示されている。
【
図2】本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを示す断面図であり、特に、離型剤塗布システムを構成するダイカスト装置のダイカスト用金型に対して金属溶湯が充填された後の状態が示されている。
【
図3】本実施形態に係る離型剤塗布方法を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
まず、本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムの構成例について、
図1および
図2を用いて説明を行う。ここで、
図1および
図2は、本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを示す断面図であり、特に、
図1には離型剤塗布システムを構成するダイカスト装置100のダイカスト用金型1に対して金属溶湯2が充填される前の状態が示されており、
図2には離型剤塗布システムを構成するダイカスト装置100のダイカスト用金型1に対して金属溶湯2が充填された後の状態が示されている。
図1および
図2に示されるように、ダイカスト用金型1は、ダイカスト法を実行するダイカスト装置100の主要構成部材として設けられている。
【0018】
本実施形態に係るダイカスト用金型1は、固定ダイス12と固定ホルダ11とを備える固定型10と、可動ダイス22と可動ホルダ21とを備える可動型20とを有している。固定ダイス12と可動ダイス22とによって、キャビティ1aが画成される。
【0019】
また、ダイカスト用金型1には、スリーブ30が設けられている。スリーブ30は、金属溶湯2が導入される給湯口32を備えており、スリーブ30内部は、ビスケット形成部1b、ランナー形成部1c、およびゲート形成部1dを介してキャビティ1aと連通している。
【0020】
スリーブ30内には、プランジャーチップ31が設けられている。プランジャーチップ31は、スリーブ30内を進退可能である。さらに、プランジャーチップ31の前進方向対向位置であるビスケット形成部1bの位置には、分流子40が設けられている。
【0021】
給湯口32からスリーブ30内にアルミニウム溶湯等の金属溶湯2が供給された状態で、プランジャーチップ31がスリーブ30内を前進して金属溶湯2を押圧すると、金属溶湯2は鋳込口であるビスケット形成部1b、ランナー形成部1c、およびゲート形成部1dを介してキャビティ1aに充填される。なお、
図1に示される状態から、
図2に示される状態へとプランジャーチップ31を前進させることにより、プランジャーチップ31によって押圧されてスリーブ30内を送られてきた金属溶湯2が、分流子40に衝突する。そして、分流子40に衝突した金属溶湯2は、分流子40によってランナー形成部1cおよびゲート形成部1dへと導かれるように構成されている。
【0022】
上述したように、本実施形態に係るダイカスト装置100は、ダイカスト用金型1の給湯口側に給湯口32を備えたスリーブ30を有している。一方で、本実施形態のダイカスト用金型1の反給湯口側には、真空吸引機構41が設置されている。この真空吸引機構41は、キャビティ1aから空気を吸引してダイカスト用金型1の反給湯口側へと空気を抜くことで、キャビティ1aに対して真空吸引を行うことができる。キャビティ1aは、ゲート形成部1d、ランナー形成部1c、およびビスケット形成部1bを介してスリーブ30内部と連通しているので、真空吸引機構41による真空吸引は、キャビティ1aだけでなく、ゲート形成部1d、ランナー形成部1c、ビスケット形成部1b、およびスリーブ30内部の空気も吸引することとなる。
【0023】
また、本実施形態のダイカスト用金型1では、固定型10に対して離型剤供給穴42が形成されている。この離型剤供給穴42は、離型剤をキャビティ1a内に供給するための穴となっており、離型剤供給穴42には、離型剤供給部43が接続されている。離型剤供給部43は、離型剤供給穴42を経由してキャビティ1a内に離型剤を供給できる機構として構成されており、例えば、スプレーガンと同様の離型剤噴出機構や、ポンプ等の固液混合体の吐出機構を有するものである。なお、本実施形態では、離型剤供給穴42が固定型10に対して形成されている場合の形態例を示しているが、本発明に係る離型剤供給穴については、可動型20側に設けることとしてもよい。
【0024】
さらに、本実施形態の離型剤供給穴42は、キャビティ1aの給湯口側に形成されたランナー形成部1cに接続して形成されている。つまり、本実施形態では、離型剤がキャビティ1aの給湯口側から供給される構成が採用されている。なお、
図1および
図2では図示を省略しているが、離型剤供給穴42における離型剤供給部43との反接続側、つまり、ランナー形成部1cとの接続側の部位に対しては、電磁弁等を設けることで、離型剤の逆流や金属溶湯2の穴内部への侵入を防止する機構を設けることができる。
【0025】
さらに、本実施形態に係るダイカスト装置100では、スリーブ30が備える給湯口32の近傍に対して、エア供給部35が設置されている。エア供給部35の先端からは、
図1および
図2で模式的に示すように、エアブローを行うことが可能となっている。エア供給部35によって行われるエアブローは、給湯口32に対してエアカーテンを形成することになるので、スリーブ30内から給湯口32を介して空気や離型剤が漏れ出すことを好適に防止することができるようになっている。また、本実施形態では、エアブローを行うエア供給部35は、給湯口32に対して斜めに角度をつけた状態で設置されている。したがって、エア供給部35によって行われるエアブローは、給湯口32を閉鎖するエアカーテンを形成するだけでなく、スリーブ30内に存在する空気や離型剤を給湯口側から反給湯口側へとキャビティ1aの方向に押し出す作用も発揮し得るものである。
【0026】
以上、
図1および
図2を用いて、本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムの構成例を説明した。つぎに、
図3を参照して、
図1および
図2で示された本実施形態に係る離型剤塗布システムを用いて実行される離型剤塗布方法の具体的な手順を説明する。ここで、
図3は、本実施形態に係る離型剤塗布方法を説明するためのフローチャート図である。
【0027】
図3で示すように、本実施形態に係る離型剤塗布方法では、まず初めに、真空吸引機構41を稼働させることでダイカスト用金型1の反給湯口側から真空吸引を開始する第一工程(ステップS10)を実行する。この第一工程(ステップS10)の実行によって、キャビティ1aから空気が吸引されてキャビティ1aに対する真空吸引が行われる。
【0028】
また、第一工程(ステップS10)と同時に、もしくは第一工程(ステップS10)の実行後に、ダイカスト用金型1に形成された離型剤供給穴42からキャビティ1a内に離型剤を供給する第二工程(ステップS11)が実行される。第一工程(ステップS10)と第二工程(ステップS11)が実行されることで、ランナー形成部1cに接続した離型剤供給穴42からは、離型剤供給部43から供給される離型剤が送り込まれ、また同時に、離型剤にはキャビティ1aに向けた真空吸引力が作用することになるので、離型剤はキャビティ1aに向けて供給されることとなる。このとき、離型剤供給部43から供給される離型剤は、ダイカスト用金型1の周辺環境や型条件、例えば、温度や湿度、型形状等に応じて離型剤の種類や粘度、供給量等の条件が調整されている。したがって、例えば本実施形態の場合は、真空吸引されているキャビティ1a内に導入された離型剤は、霧状に拡散してキャビティ1a内に広がるので、キャビティ1aを画成する内面に対して離型剤が満遍なく均質な状態で塗布されることとなる。また、本実施形態では、キャビティ1aが真空吸引された状態で離型剤が導入されるので、金属溶湯2が侵入するキャビティ1aだけでなく、キャビティ1aを形成する型締めされた固定型10と可動型20の接合面の僅かな隙間に対しても離型剤が適度に入り込むことになる。このような離型剤の塗布状況は、ダイカスト法の実施により製造されるダイカスト品の品質向上に寄与するとともに、ダイカスト用金型1の寿命向上やトラブル発生頻度の低下等にも寄与することとなる。
【0029】
続いて、第一工程(ステップS10)と第二工程(ステップS11)を実行して所定時間が経過した後に、スリーブ30が備える給湯口32の近傍に設置されたエア供給部35からエアブローを開始することで、給湯口32をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぐ第三工程(ステップS12)が実行される。このエアブローによる給湯口32へのエアカーテンの形成により、スリーブ30内から給湯口32を介して空気や離型剤が漏れ出すことを好適に防止する状態が実現する。
【0030】
そして、第三工程(ステップS12)が実行された後に、真空吸引機構41を停止させることで、キャビティ1a、ゲート形成部1d、ランナー形成部1c、ビスケット形成部1bおよびスリーブ30の内部に離型剤を充満させる第四工程(ステップS13)と、離型剤供給穴42からのキャビティ1a内への離型剤の供給を停止する第五工程(ステップS14)と、が実行される。これら第四工程(ステップS13)と第五工程(ステップS14)が実行されるときには、給湯口32にはエアカーテンが形成されているので、キャビティ1aからスリーブ30内部までの金属溶湯2の侵入経路中には、離型剤が充満するとともに給湯口32から離型剤や空気が漏れ出すことが無い状態となっている。さらにこのとき、エアカーテンを形成するエア供給部35は、給湯口32に対して斜めに角度をつけた状態のエアブローを実行しているので、スリーブ30内に存在する潤滑剤は、給湯口側から反給湯口側に向けて押し込まれる。つまり、離型剤は、キャビティ1a等の金属溶湯2が侵入する空間の内壁面に対して効率よく塗布される状態が維持されることとなる。
【0031】
その後、エア供給部35からのエアブローを停止させる第六工程(ステップS15)が実行されることで、ダイカスト用金型1が型締めされた状態でキャビティ1a画成面に対する離型剤の塗布が完了し(END;ステップS16)、ダイカスト装置100がダイカスト法を実行可能な状態とすることができる。
【0032】
なお、本実施形態に係る離型剤塗布方法では、上述した第二工程(ステップS11)で実行されるキャビティ1a内への離型剤の供給が、キャビティ1aの給湯口側に形成されたランナー形成部1cに接続した離型剤供給穴42から行われるので、上述した第一工程(ステップS10)から第六工程(ステップS15)までの離型剤塗布方法を実行した際に、キャビティ1aに対して離型剤を効率的かつ歩留まりよく塗布することが可能となっている。
【0033】
上述した本実施形態に係る離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムによれば、ダイカスト装置100が、真空吸引機構41を稼働させることでダイカスト用金型1の反給湯口側から真空吸引を開始し、真空吸引の開始と同時に、もしくは真空吸引の実行後に、ダイカスト用金型1に形成された離型剤供給穴42からキャビティ1a内に離型剤を供給し、真空吸引と離型剤の供給を実行して所定時間が経過した後に、スリーブ30が備える給湯口32の近傍に設置されたエア供給部35からエアブローを開始することで、給湯口32をエアブローによって形成されるエアカーテンで塞ぎ、真空吸引機構41を停止させることで、キャビティ1a、ゲート形成部1b、ランナー形成部1c、ビスケット形成部1dおよびスリーブ30の内部に離型剤を充満させ、離型剤供給穴42からのキャビティ1a内への離型剤の供給を停止し、エア供給部35からのエアブローを停止させる動作を実行することで、ダイカスト用金型1が型締めされた状態でキャビティ画成面に対する離型剤の塗布を完了してダイカスト法を実行可能な状態とすることができる。したがって、本実施形態に係る離型剤塗布方法および離型剤塗布システムによれば、ダイカスト用金型1を構成する固定型10と可動型20を型締めした状態でキャビティ1aに離型剤を塗布することができるので、時間的なロスの少ない生産性を向上したダイカスト法の実施が可能となる。また、上述した本実施形態によれば、効率的かつ歩留まりよくキャビティ1a画成面に離型剤を塗布することができる離型剤塗布方法と、この離型剤塗布方法を実行可能な離型剤塗布システムを実現することができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0035】
例えば、本発明に係る離型剤供給穴は、真空吸引機構41が接続されるダイカスト用金型1の上面と給湯口32の概略中間位置に設けることが好ましい。かかる位置に対して本発明に係る離型剤供給穴を設けることによって、エアカーテンを継続させながら真空吸引を停止することとも相まって、離型剤をキャビティ1a内からスリーブ30内に渡って広く満遍なく塗布することが可能となる。
【0036】
また例えば、本発明に係る離型剤供給穴は、ゲート形成部1d直前のランナー形成部1cであって、キャビティ1aの幅方向(
図1の紙面奥行方向)に対して複数箇所設けることができる。このような位置に複数の離型剤供給穴42を設けることによって、離型剤をキャビティ1a内の隅々に渡って確実に塗布することが可能となる。
【0037】
また例えば、本発明に係る離型剤供給穴は、ダイカスト用金型1のキャビティ1a形状に応じて、ゲート形成部1d直前のランナー形成部1c以外の任意の箇所に設置することも可能である。
【0038】
また例えば、本発明に係る離型剤供給穴には、ランナー形成部1cと面一となるような形状のバルブユニットを設けることができる。当該バルブユニットは、主に離型剤供給配管と、離型剤供給穴42を開閉する弁体と、弁体を閉方向に付勢するバネにより構成することができる。
【0039】
さらに、バルブユニットについては、ランナー形成部1cに対して、キャビティ1a側からネジ式構造を形成することによって着脱可能に設けることができる。
【0040】
さらに、バルブユニットの弁体の金属溶湯2と接する表面には、ランナー形成部1cと面一となるようなフラットな形状を形成しておくことで、スムーズな金属溶湯2の流れを実現し、かつ、離型剤供給穴42への金属溶湯2の侵入を確実に防ぐことができる。
【0041】
さらに、離型剤供給配管内における弁体の裏側に対して、離型剤が通過可能な金属製のフィルターを設けることで、金属溶湯2の侵入をより確実に防止することができる。
【0042】
さらに、弁体については、離型剤の液圧によって開方向へ移動するよう構成することができる。このような弁体構造の採用によって、弁体開閉用の駆動源が必要なく、小型化、軽量化を図ることができる。
【0043】
さらに、上記の弁体については、離型剤の液圧のみで開くこともあり、弁体の開方向への変位量は0.3mm程度となっている。これにより、離型剤を霧状に噴霧することが可能となる。なお、弁体の変位量は、0.2mm~1.0mm程度とするのが好ましい。
【0044】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
1 ダイカスト用金型、1a キャビティ、1b ビスケット形成部、1c ランナー形成部、1d ゲート形成部、2 金属溶湯、10 固定型、11 固定ホルダ、12 固定ダイス、20 可動型、21 可動ホルダ、22 可動ダイス、30 スリーブ、31 プランジャーチップ、32 給湯口、35 エア供給部、40 分流子、41 真空吸引機構、42 離型剤供給穴、43 離型剤供給部、100 ダイカスト装置。