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特開2024-1530直腸固有筋膜近接神経検査方法、及び神経検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001530
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】直腸固有筋膜近接神経検査方法、及び神経検査装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20231227BHJP
   A61B 5/05 20210101ALI20231227BHJP
【FI】
A61B10/00 B
A61B5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100239
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 健吾
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA00
4C127CC04
4C127DD03
4C127FF03
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】直腸の周囲にある神経と神経以外の組織と区別して検査することのできる検査方法、及び検査装置を提供すること。
【解決手段】直腸1を包む直腸固有筋膜2と近接する神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えるステップ1と、尿道50内に挿入されたバルーン11の形状変化を検出する歪センサ21が、内尿道筋51の収縮反応を検知するステップ2と、神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えたときに、内尿道筋51の収縮反応を検知した場合は、低周波電気刺激を与えた対象が神経であると判断し、内尿道筋51の収縮反応を検知しない場合は、低周波電気刺激を与えた対象が神経以外の組織であると判断するステップ3、を有すること。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直腸を包む直腸固有筋膜と近接する神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えるステップ1と、
尿道内に挿入されたバルーンの形状変化を検出する検査手段が、内尿道筋の収縮反応を検知するステップ2と、
前記神経、または前記神経以外の組織に対して、前記低周波電気刺激を与えたときに、前記内尿道筋の収縮反応を検知した場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断し、前記内尿道筋の収縮反応を検知しない場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経以外の組織であると判断するステップ3、
を有することを特徴とする直腸固有筋膜近接神経検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法において、
前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断した場合には、操作者に対して注意情報を出力するステップ4を有すること、
を特徴とする直腸固有筋膜近接神経検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、
前記検査手段が、尿を排出するための膀胱留置カテーテルに一体的に付設されていること、
を特徴とする神経検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載する神経検査装置において、
前記検査手段が、
(a)前記バルーンの表面に貼付された圧電センサ、歪センサ、
(b)バルーン内から流出する空気量を計測する流量計、
(c)バルーン内の圧力を計測する圧力計、
(a)、(b)、(c)の少なくともいずれか1つを有すること、
を特徴とする神経検査装置。
【請求項5】
請求項3に記載する神経検査装置において、
前記神経または前記神経以外の組織に対して前記低周波電気刺激を与えるための電気刺激付与部と、
前記電気刺激付与部を動作させるためのスイッチと、
が電気メスに備えられていること、
を特徴とする神経検査装置。
【請求項6】
請求項2に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、
前記注意情報を伝える表示手段または音出力手段が、電気メスに付設されていること、
を特徴とする神経検査装置。
【請求項7】
請求項6に記載する検査装置において、
前記低周波電気刺激を与えるためのスイッチが、電気メスに備えられていること、
を特徴とする神経検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直腸固有筋膜近接神経を検査するための神経検査方法、及びその検査に用いる神経検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直腸癌の手術について、非特許文献1に基づいて説明する。直腸癌の手術においては、根治性と機能保存を両立させることが大事である。
図1(非特許文献1のFig.1を一部デフォルメしている)に直腸及びその周辺組織の断面図を示す。直腸1の周囲には、直腸間膜の脂肪を包む薄い膜である直腸固有筋膜2がある。また、直腸固有筋膜2の外周には、Denonvilliers筋膜(DVF)3が存在する。DVF3の外側は、複数の膜に分かれている。また、下腹神経と直腸固有筋膜2の間には、下腹神経前筋膜5が存在する。下腹神経前筋膜5は、直腸固有筋膜2を裏打ちし、下腹神経の腹側を覆い、さらに骨盤神経叢と直腸固有筋膜2との境界となり、DVF3の外側に連続する。DVF3の図中左側には、神経の集合体である神経叢4が存在し、その一部が下腹神経6として、DVF3の下側に存在する。
【0003】
神経温存の剥離層のメルクマールとなるのは、DVF3 と下腹神経前筋膜5である。前壁のDVF3 と下腹神経前筋膜5は連続する層であり,これらの内側で剥離をすれば自律神経を膜に覆われた状態で温存した手術が可能である。腫瘍の進展により剥離層を選択することが必要であるが、下腹神経前筋膜5とDVF3 の前後のどちらの層で剥離が行われているかを手術中、常に認識しておくことが,神経損傷を防ぐために大事である。
このように、従来の直腸癌の摘出手術においては、DVF3と下腹神経前筋膜5の中間位置で剥離する手術を行うときに、経験により剥離位置を決定する必要があるため、神経を損傷させることなく剥離を行うことは経験に乏しい外科医にとって困難さを伴うものであった。
【0004】
そのため、神経と筋膜とを区別する検査方法の開発が強く望まれている。
神経を検査する方法としては、非特許文献2に、甲状腺・副甲状腺手術における反回神経障害をなくすために、表面電極付挿入チューブを用いる検査方法が近年普及していることが記載されている。刺激電極を組織に接触させ、電気刺激を与えて、声帯筋活動をモニターすることにより、神経と神経以外の組織とを区別する検査方法が記載されている。
このような方法が直腸癌手術においても、確立することを願って、本発明者は研究を行っている。
【0005】
非特許文献3には、雌雑種犬を用いた実験で、下腹神経に電気刺激を加えたことで、尿道内圧反応波形に変化が生じると報告している。
すなわち、図2に示すように、膀胱100から尿を排泄するための尿道101に、先端近くにバルーン103を備えるチューブ102を挿入し装着する。そして、バルーン103に所定圧力の空気を注入してバルーン103を膨らませて尿道を塞ぐ。一方、バルーンの前後において、第1電極104が下腹神経に接続され、第2電極105が陰部神経に接続されている。
第1電極104または第2電極105により低周波の電流を流し、陰部神経または下腹神経に対して電気刺激を与えると、尿道筋が収縮し、バルーン103が押圧されて、バルーン103内の空気圧が上昇する。その空気圧の変化を圧力計で測定している。
図3に、例えば下腹神経に対して電気刺激を与えた場合の、実験結果を示す。(A)では、2Hzの低周波電流を流し、(B)では、4Hzの低周波電流を流し、(C)では、8Hzの低周波電流を流し、(D)では、10Hzの低周波電流を流している。各々のバルーン103の内圧の変化をグラフで示している。グラフの縦軸は、1目盛りが10mH2Oである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】絹笠祐介 臨床解剖研究会記録 NO.13 2013.2 「外科医からみた直腸周囲の筋膜解剖と機能温存直腸癌手術のための剥離層」
【非特許文献2】荒木幸仁、塩谷彰浩 耳喉頭頸 85巻8号 2013.7「術中反回神経モニタリング」
【非特許文献3】塩谷尚 日泌尿会誌 1979;70:867-873「下腹および陰部神経刺激に対する尿道内圧反応」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、尿道筋に関しては、陰部神経または下腹神経に対して電気刺激を与えることにより収縮し、尿道内の圧力が変化することが知られていたが、直腸の周囲に存在する神経叢14は、単一の神経のみならず複数の神経により構成されるため、尿道内圧を変化するとは考えられておらず、尿道内圧の変化により直腸の周囲に存在する神経叢14をモニタリングする手段はなかった。
【0008】
そこで、本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法、及び神経検査装置は、直腸の周囲にある神経と神経以外の組織と区別して検査することのできる検査方法、及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法は、以下の構成を有している。
(1)直腸を包む直腸固有筋膜と近接する神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えるステップ1と、尿道内に挿入されたバルーンの形状変化を検出する検査手段が、内尿道筋の収縮反応を検知するステップ2と、前記神経、または前記神経以外の組織に対して、前記低周波電気刺激を与えたときに、前記内尿道筋の収縮反応を検知した場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断し、前記内尿道筋の収縮反応を検知しない場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経以外の組織であると判断するステップ3、を有することを特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法において、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断した場合には、操作者に対して注意情報を出力するステップ4を有すること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置は、以下の構成を有している。
(3)(1)または(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、前記検査手段が、前記尿を排出するための膀胱留置カテーテルに一体的に付設されていること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する神経検査装置において、前記検査手段が、(a)前記バルーンの表面に貼付された圧電センサ、歪センサ、(b)バルーン内から流出する空気量を計測する流量計、(c)バルーン内の圧力を計測する圧力計、(a)、(b)、(c)の少なくともいずれか1つを有すること、を特徴とする。
【0012】
(5)(3)に記載する神経検査装置において、前記神経または前記神経以外の組織に対して前記低周波電気刺激を与えるための電気刺激付与部と、前記電気刺激付与部を動作させるためのスイッチと、が電気メスに備えられていること、を特徴とする。
(6)(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、前記注意情報を伝える表示手段または音出力手段が、前記電気メスに付設されていること、を特徴とする。
(7)(6)に記載する神経検査装置において、前記低周波電気刺激を与えるためのスイッチが、電気メスに備えられていること、を特徴とする。
【0013】
上記構成を有する直腸固有筋膜近接神経検査方法は、以下のような作用、効果を奏する。
(1)直腸を包む直腸固有筋膜と近接する神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えるステップ1と、尿道内に挿入されたバルーンの形状変化を検出する検査手段が、内尿道筋の収縮反応を検知するステップ2と、前記神経、または前記神経以外の組織に対して、前記低周波電気刺激を与えたときに、前記内尿道筋の収縮反応を検知した場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断し、前記内尿道筋の収縮反応を検知しない場合は、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経以外の組織であると判断するステップ3、を有することを特徴とするので、直腸癌の手術において、直腸固有筋膜の外周部と、神経・神経以外の組織とを電気メスを用いて剥離する前に、電気メスで切る対象に対して、低周波の電流を流して電気刺激を与え、内尿道筋の収縮反応を検知したときは、対象物が神経であると術者が判断できるため、間違えて神経を損傷する恐れが少ない。
ここで、直腸の周囲に存在する神経叢14は、尿道から離れているため、尿道内圧が変化する量は少ないが、内尿道筋の収縮反応を直接検出することにより、正確かつ精度よく神経を確認することができる。
【0014】
神経に対して、低周波電気的刺激(100Hz以下の低周波数の電気的刺激)を与えたときに、内尿道筋の収縮が始めに起こる。そして、内尿道筋の収縮に伴い、内尿道筋に当接して膨張させられているバルーンの収縮変形が起こる。そして、バルーンの収縮に伴いバルーン内の空気圧が上昇し、空気が体外に流動し、体外に設置された圧力計で尿道内圧の上昇が計測される。
非特許文献3では、尿道に近い下腹神経または陰部神経に低周波電気刺激を与えているため、バルーンの内圧が比較的大きく変化しているが、直腸固有筋膜近くの神経は尿道から少し離れているため、低周波電気刺激の反応が弱くなる可能性がある。そのため、本発明では、内尿道筋の内周前面に膨らませたバルーン外周を当接させ、内尿道筋が収縮反応したときに、バルーン外周の微小変位を直接計測することにより、確実かつ精度よく内尿道筋の収縮反応を検出可能としている。
【0015】
すなわち、尿道に挿入装着するバルーンの外周に微小変位を計測するセンサを取りつける。制御装置は、バルーンを膨らませて内尿道筋と全周が強く密着した状態のセンサ出力を初期値として記憶する。そして、直腸周囲の組織に低周波電気刺激を与えたときのセンサ(例えば、微小変位を計測可能な歪センサ)の出力変化により、内尿道筋が収縮反応を起こしたか否かを、尿道内圧を介さずに直接計測できるため、直腸から尿道まで距離があっても、精度よく神経か否かを検査することができる。
【0016】
(2)(1)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法において、前記低周波電気刺激を与えた対象が前記神経であると判断した場合には、操作者(例えば、手術を行う術者)に対して注意情報を出力するステップ4を有すること、を特徴とするので、
内尿道筋の収縮反応をバルーン表面の変位により検知しているので、リアルタイムで検査結果を術者に注意情報として伝達できるため、手術中でも術者は迅速な判断をすることができ、手術時間を延長することなく、合併症率の軽減が期待できる。
【0017】
また、上記構成を有する本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置は、以下のような作用、効果を奏する。
(3)(1)または(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、前記検査手段が、前記尿を排出するための膀胱留置カテーテルに一体的に付設されていること、を特徴とするので、直腸癌の手術は長時間要するため、尿を排出するための膀胱留置カテーテルを患者に装着して行われる。このとき、膀胱留置カテーテルに検査手段を取りつけることにより、患者は身体的負担の追加なく検査を遂行することができる。
【0018】
(4)(3)に記載する神経検査装置において、前記検査手段が、(a)前記バルーンの表面に貼付された圧電センサ、歪センサ、(b)バルーン内から流出する空気量を計測する流量計、(c)バルーン内の圧力を計測する圧力計、(a)、(b)、(c)の少なくともいずれか1つを有すること、を特徴とするので、バルーンを膨張させて内尿道筋の内周に密着させたときに、圧電センサの計測する圧力値、または歪センサ(歪ゲージ)が計測する歪値を初期値として制御装置に記憶する。内尿道筋が収縮反応したときに、内尿道筋の密着しているバルーン外周の微小圧力変化、または微小変位を計測することにより、確実かつ精度よく内尿道筋の収縮反応を検出可能としている。
また、バルーンが収縮するときに、バルーンから外部に空気が流出する。この空気の流出を高精度の流量計で検出することにより、確実かつ精度よく内尿道筋の収縮反応を検出可能としている。
また、尿道内圧の変化は、エダップテクノメド株式会社が販売するAQUARIUS(登録商標)LTを用いることにより、尿道内圧の変化を測定することも可能であり、それを用いれば、バルーン内の空気の圧力変化により、確実かつ精度よく内尿道筋の収縮反応を検出可能である。
【0019】
(5)(3)に記載する神経検査装置において、前記低周波電気刺激を与えるためのスイッチが、電気メスに備えられていること、を特徴とするので、術者は、手術中に対象とする組織に電気メスの先端を当接させ、検査用スイッチを動作させるだけで、電気メスが当接している組織が神経であるか、神経以外の組織であるかを判別できるため、手術を迅速かつ安心して行うことができる。
【0020】
(6)(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、前記注意情報を伝える表示手段または音出力手段が、前記電気メスに付設されていること、を特徴とするので、手術中、術者の全神経が電気メス周辺に集中されているが、表示手段または音出力により、電気メスが当接している組織が神経であるか、神経以外の組織であるかを確認できるため、手術を迅速かつ安心して行うことができる。
【0021】
(7)(6)に記載する神経検査装置において、前記低周波電気刺激を与えるためのスイッチが、電気メスに備えられていること、を特徴とするので、スイッチと表示手段または音出力手段が共に電気メスに設けられているため、術者の確認作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】直腸及びその周辺組織の断面図である。
図2】膀胱から尿を排泄するための尿道に、先端近くにバルーンを備えるチューブを挿入し装着した図である。
図3図2の実験結果を示す図である。
図4】本発明の神経検査装置が付設された膀胱留置カテーテルである。
図5】(a)は、図4のA部拡大図であり、(b)は、歪センサを3列、合計12か所に増やした場合を示す図である。
図6】バルーンを中央位置で切断したときの断面図である。
図7】本発明の電気メスの構成を示す図である。
図8】電気メスの先端のメス部の拡大斜視図である。
図9】本神経検査装置の制御構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法、及び神経検査装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図4に、本発明の神経検査装置が付設された膀胱留置カテーテル10を示す。膀胱留置カテーテル10は、排尿用ファネル16と、排尿用ファネル16に接続されたカテーテルチューブ14と、を備えている。また、カテーテルチューブ14の先端付近に、空気を注入して膨らませた状態として、内尿道筋51の内面に密着して尿漏れを防止するためのバルーン11が、備えられる。図4に示すバルーン11は、空気を注入して膨らませた状態を示しているが、バルーン11は、尿道への挿入時は萎んだ状態であり、挿入後に空気を注入して膨張させる。なお、図4では、バルーン11を簡易的に図示しており、詳細は図5を以って後述する。
【0024】
カテーテルチューブ14の先端には、尿採取チューブ18が備えられ、尿採取チューブ18の側面には、尿採取チューブ18内に尿を流入させるための流入孔13が開口されている。尿採取チューブ18は、バルーン11を貫通してカテーテルチューブ14に連通している。これにより、流入孔13から取り入れられた尿は、カテーテルチューブ14を通り、排尿用ファネル16を介して、排尿バッグ(不図示)に排出される。カテーテルチューブ14には、信号線15が併設されており、信号線15の先端は後述する歪センサ(歪ゲージ)に接続されている。また、信号線15の他端は制御装置12に接続されている。
【0025】
次に、図4のA部拡大図を図5(a)に示し、バルーン11について詳細に説明する。図4(a)は、バルーン11が尿道50内に挿入され、空気が注入されて膨張し、バルーン11の外周面が、尿道50の内面を形成する内尿道筋51に密着している状態を示している。図6に、バルーン11を中央位置で切断したときの断面図を示す。
バルーン11の外周部には、4個の歪センサ21A、21B、21C、21Dが、円周方向において90度ごとに付設されている。歪センサ21A、21B、21C、21Dは、内尿道筋51に密着した状態で配置されている。すなわち、バルーン11及び歪センサ21A、21B、21C、21Dが内尿道筋51を少し外側に拡大している状態となるまで、バルーン11に空気を注入して膨張させている。
【0026】
歪センサ21A、21B、21C、21Dは、内尿道筋51が収縮反応を起こしたとき、すなわち、図6中の矢印に示す方向である円周方向に、内尿道筋51に対応するバルーン11の表面に歪が発生した場合に精度よく検出ができるように配置されている。
歪センサ21A、21B、21C、21Dを4か所に付設しているのは、内尿道筋51が全体として収縮反応を起こすとは限らず、部分的に収縮反応を起こした場合でも、確実に検出できるようにするためである。なお、必ずしも4個の歪センサを付設する必要はなく、精度の高い歪センサを用い、1個から3個付設することとしても良い。
【0027】
図5(b)に、歪センサを3列、合計12か所に増やした場合を示す。内尿道筋51は、尿道の特定の箇所に存在するため、図5(a)のように、1列4か所では、患者によっては、歪センサ21が適切に内尿道筋51と密着できない可能性がある。それを避けるために、図5(b)では、3列の歪センサ21A、21B、21C、21D、22A、22B、22C、22D、23A、23B、23C、23Dを備えている。このように、12か所に歪センサを備えることにより、内尿道筋51の収縮反応が部分的に発生した場合でも、確実に検出できる利点がある。
【0028】
次に、電気メス30について図7に基づいて説明する。電気メス30は、先端にあるメス部35から300~400kHzという高周波電流を細い金属製のメス先からヒトに流入(アーク放電)させることにより、組織などを切開・凝固する医療機器である。電気メス用のメススイッチ31の他に、神経検査用の検査スイッチ32が並列して設けられている。メススイッチ31は、押圧することにより対象となる組織の切断等の手術を行うものであり、検査スイッチ32は、対象となる組織に、電流を流し、低周波数の電気的刺激を与えるためのスイッチである。
【0029】
図8に、電気メス30の先端のメス部35の拡大斜視図(図7のB部を拡大して斜視図で示したもの)を示す。メス部35の中心には、高周波電流を流すための手術用電極36が備えられている。手術用電極36の外側には絶縁樹脂部37が配置されている。絶縁樹脂部37には、電気刺激付与部としての第1電極38と第2電極39が所定の間隔で設けられている。
検査スイッチ32を押圧することにより、第1電極38から対象組織を介して第2電極39に低周波電流が流れる。本実施例では、低周波電流として、2Hz~50Hzの電流を用いている。
図7に示す電気メス30の上部には、検査結果を表示するための緑色LED33と赤色LED34が備えられている。
【0030】
ここで、本実施例では、手術用電極36と、検査用の電極である第1電極38、第2電極39とを同じ平面で固定しているが、第1電極と第2電極とを備える絶縁樹脂部37が、手術用電極36に対して、手術用電極36の中心軸に沿って前進・後退できるようにしても良い。検査のときには、絶縁樹脂部37を前進させて検査を行い、手術のときには後退させることにより、術者(操作者の一例)の手術用電極36の使い勝手を向上させることができる。
【0031】
図9に、本神経検査装置の制御構成図を示す。制御装置12には、膀胱留置カテーテル10が接続されることより、第1列の歪センサ21A、21B、21C、21Dが接続されている。なお、膀胱留置カテーテル10が、図5(b)に示すバルーン11を備える場合には、制御装置12に、第1列の歪センサ21A、21B、21C、21D、第2列の歪センサ22A、22B、22C、22D、及び第3列の歪センサ23A、23B、23C、23Dが接続されている。
また、制御装置12には、電気メス30が接続されており、手術用電極36、第1電極38、第2電極39、表示手段である緑色LED33、赤色LED34が接続されている。また、メススイッチ31、検査スイッチ32が接続されている。
【0032】
次に、上記構成を有する神経検査装置の作用について説明する。
術者は、直腸癌の手術において、DVF13と下腹神経前筋膜5の中間位置で剥離を行う場合に、直腸固有筋膜の外周部と、神経・神経以外の組織とを電気メス30を用いて剥離する前に、電気メス30で切ろうとする対象組織に対して、電気メス30の先端の第1電極38及び第2電極39を密着させ、検査スイッチ32を押圧する。これにより、対象組織に低周波の電流が流れ電気刺激が与えられる。
そして、対象組織が神経である場合には、内尿道筋51の収縮が始めに起こる。そして、内尿道筋51の収縮に伴い、内尿道筋51に当接して膨張させられているバルーン11の収縮変形が起こる。そして、バルーン11の収縮に伴いバルーン11の外周に付設されている歪センサ21が内尿道筋51の収縮反応を検出して制御装置12に対して出力する。
【0033】
歪センサ21が内尿道筋51の収縮反応を検出したときには、制御装置12は、現在電気メス30の第1電極38及び第2電極39が接触している対象組織が神経であると判断して、赤色LED34を点灯して術者に注意情報を伝達する。
また、歪センサ21が内尿道筋51の収縮反応を検出しないときには、制御装置12は、現在電気メス30の第1電極38及び第2電極39が接触している対象組織が神経以外の組織であると判断して、緑色LED33を点灯して術者に安全確認情報を伝達する。
術者は、DVF3と下腹神経前筋膜5の中間位置で剥離を行う場合に、剥離しようとする箇所の周囲の組織を複数個所検査することにより、剥離可能な剥離線を決定することができる。すなわち、検査により、赤色LED34が点灯した組織(神経)を避け、緑色LED33が点灯した神経以外の組織に沿って剥離線を決定することにより、神経を損傷する恐れを回避することができる。
【0034】
本実施例では、歪センサ21を使用しているが、他の検査手段として、(a)前記バルーンの表面に貼付された圧電センサ(b)バルーン内から流出する空気量を計測する流量計、(c)バルーン内の圧力を計測する圧力計、を使用することも可能であるし、必要に応じて、それらの検査手段を併用しても良い。
圧電センサを用いる場合、バルーンを膨張させて内尿道筋51の内周に密着させたときに、圧電センサの計測する圧力値を初期値として制御装置に記憶する。内尿道筋51が収縮反応したときに、内尿道筋51の密着しているバルーン外周の微小圧力変化、または微小変位を計測することにより、確実かつ精度よく内尿道筋51の収縮反応を検出可能としている。
また、流量計を用いる場合、バルーンが収縮するときに、バルーンから外部に空気が流出する。この空気の流出を高精度の流量計で検出することにより、確実かつ精度よく内尿道筋51の収縮反応を検出可能としている。
また、圧力計としては、尿道内圧の変化は、エダップテクノメド株式会社が販売するAQUARIUS(登録商標)LTを用いることにより、尿道内圧の変化を測定することも可能であり、それを用いれば、バルーン内の空気の圧力変化により、確実かつ精度よく内尿道筋51の収縮反応を検出可能である。
【0035】
以上詳細に説明したように、本実施例の直腸固有筋膜近接神経検査方法、神経検査装置によれば、以下の効果を奏する。
(1)直腸1を包む直腸固有筋膜2と近接する神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えるステップ1と、尿道50内に挿入されたバルーン11の形状変化を検出する検査手段(例えば、歪センサ21)が、内尿道筋51の収縮反応を検知するステップ2と、神経、または神経以外の組織に対して、低周波電気刺激を与えたときに、内尿道筋51の収縮反応を検知した場合は、低周波電気刺激を与えた対象が神経であると判断し、内尿道筋51の収縮反応を検知しない場合は、低周波電気刺激を与えた対象が神経以外の組織であると判断するステップ3、を有することを特徴とするので、直腸癌の手術において、直腸固有筋膜2の外周部と、神経・神経以外の組織とを電気メス30を用いて剥離する前に、電気メス30で切る対象に対して、低周波の電流を流して電気刺激を与え、内尿道筋51の収縮反応を検知したときは、対象物が神経であると術者が判断できるため、間違えて神経を損傷する恐れが少ない。直腸の周囲に存在する神経叢4は、尿道50から離れているため、尿道内圧が変化する量は少ないが、内尿道筋51の収縮反応を直接検出することにより、正確かつ精度よく神経を確認することができる。
【0036】
神経に対して、低周波電気的刺激(100Hz以下の低周波数の電気的刺激)を与えたときに、内尿道筋51の収縮が始めに起こる。そして、内尿道筋51の収縮に伴い、内尿道筋51に当接して膨張させられているバルーン11の収縮変形が起こる。そして、バルーン11の収縮に伴いバルーン11内の空気圧が上昇し、空気が体外に流動し、体外に設置された圧力計で計測される。
特許文献3では、尿道に近い下腹神経または陰部神経に低周波電気刺激を与えているため、バルーン11の内圧が比較的大きく変化しているが、直腸固有筋膜2の近くの神経は尿道50から少し離れているため、低周波電気刺激の反応が弱くなる可能性がある。そのため、本実施例では、内尿道筋51の内周前面に膨らませたバルーン11の外周を密着して当接させ、内尿道筋51が収縮反応したときに、バルーン11の外周の微小変位を計測することにより、確実かつ精度よく内尿道筋51の収縮反応を検出可能としている。
【0037】
すなわち、尿道50に挿入装着するバルーン11の外周に微小変位を計測する歪センサ21を取りつける。制御装置12は、バルーン11を膨らませて内尿道筋51と全周が強く密着した状態の歪センサ21の出力を初期値として記憶する。そして、直腸1の周囲の組織に低周波電気刺激を与えたときの微小変位を計測可能な歪センサ21の出力変化により、内尿道筋51が収縮反応を起こしたか否かを、尿道内圧を介さずに直接計測できるため、直腸1から尿道50まで距離があっても、精度よく神経か否かを検査することができる。
【0038】
(2)(1)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法において、低周波電気刺激を与えた対象が神経であると判断した場合には、術者に対して注意情報を出力するステップ4を有すること、を特徴とするので、内尿道筋51の収縮反応をバルーン11の表面の変位により検知しているので、リアルタイムで検査結果を術者に注意情報として伝達できるため、手術中でも術者は迅速な判断をすることができ、手術時間を延長することなく、合併症率の軽減が期待できる。
【0039】
また、上記構成を有する本発明の直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置は、以下の効果を奏する。
(3)(1)または(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、検査手段である歪センサ21が、尿を排出するための膀胱留置カテーテル10に一体的に付設されていること、を特徴とするので、直腸癌の手術は長時間要するため、尿を排出するための膀胱留置カテーテル10を患者に装着して行われる。このとき、膀胱留置カテーテル10に検査手段(歪センサ21)を取りつけることにより、患者は身体的負担の追加なく検査を遂行することができる。
【0040】
(5)(3)に記載する神経検査装置において、神経または神経以外の組織に対して低周波電気刺激を与えるための電気刺激付与部(例えば、第1電極38および第2電極39)と、電気刺激付与部(第1電極38および第2電極39)を動作させるためのスイッチ(検査スイッチ32)と、が電気メス30に備えられていること、を特徴とするので、術者は、手術中に対象とする組織に電気メス30の先端を当接させ、検査スイッチ32を動作させるだけで、電気メス30が当接している組織が神経であるか、神経以外の組織であるかを判別できるため、手術を迅速かつ安心して行うことができる。
【0041】
(6)(2)に記載する直腸固有筋膜近接神経検査方法で用いられる神経検査装置において、注意情報を伝える表示手段である赤色LED34が、電気メス30に付設されていること、を特徴とするので、手術中、術者の全神経が電気メス30の周辺に集中されているが、赤色LED34により、電気メス30が当接している組織が神経であるか、神経以外の組織であるかを確認できるため、手術を迅速かつ安心して行うことができる。
本実施例では、赤色LED34により術者に注意情報を伝達しているが、制御装置12または電気メス30に音出力手段を設け、警報音を発生させることにより注意情報を伝達しても良い。
【0042】
(7)(6)に記載する神経検査装置において、低周波電気刺激を与えるための検査スイッチ32が、電気メス30に備えられていること、を特徴とするので、検査スイッチ32と表示手段である赤色LED34が共に電気メスに設けられているため、術者の確認作業を容易にすることができる。
【0043】
以上、本発明に係る直腸固有筋膜近接神経検査方法、及び神経検査装置に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施例では、術者が電気メス30により各箇所を確認した内容を、術者が記憶して術者が自分の記憶により、剥離線を決定しているが、カメラにより対象物を画像として記憶させておき、次に、術者が神経・神経以外の組織に対して、第1電極38,第2電極39を用いて複数個所検査を行い、それらの検査位置と検査結果を、前に記憶していた画像上に検査結果を表示すると共に、それらの検査結果から、剥離線をAIコンピュータが指示するシステムにしても良い。
【符号の説明】
【0044】
1 直腸
2 直腸固有筋膜
3 Denonvilliers筋膜(DVF)
4 神経叢
10 膀胱留置カテーテル
11 バルーン
12 制御装置
21 歪センサ
30 電気メス
32 検査スイッチ
33 緑色LED
34 赤色LED
35 メス部
36 手術用電極
37 絶縁樹脂部
38 第1電極
39 第2電極
50 尿道
51 内尿道筋
図1
図2
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図9