(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153074
(43)【公開日】2024-10-28
(54)【発明の名称】挿耳装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066784
(22)【出願日】2023-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】722011010
【氏名又は名称】藤池 弘
(72)【発明者】
【氏名】藤池 弘
【テーマコード(参考)】
5D005
【Fターム(参考)】
5D005BA10
(57)【要約】
【課題】挿耳装置装を装着することにより外耳道内の音波の伝わり方が変化することに起因する、挿耳装置装着時における違和感の緩和および解消。
【解決手段】壁面から僅かに内側に固体振動子を配置することにより、挿耳装置装着時の両端閉塞共振を抑制する。また、ヘルムホルツ共鳴器により挿耳装置を装着した状態で非装着時の外耳道外部の媒質の挙動を物理的に再現する。さらに、挿耳装置装着時の両端閉塞共振抑制と非装着時の媒質挙動を再現を互いに損なわないように、固体振動子とヘルムホルツ共鳴器の開口部部を一致または近接させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間と、複数の固体要素からなる集合体を有し、前記集合体は前記空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されている挿耳装置。
【請求項2】
挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な第一の空間と、第二の空間と、管路と、複数の固体要素からなる集合体を有し、前記第二の空間は前記管路と連通し、前記管路は第一の空間に連通し、前記集合体は前記第一の空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されている挿耳装置。
【請求項3】
挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な第一の空間と、第二の空間と、管路と、 複数の固体要素からなる集合体を有し、前記第二の空間は前記管路と連通し、前記管路は第一の空間に連通し、前記集合体は前記第一の空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されて、前記管路が第一の空間に接続する開口部が前記集合体の近傍に有る挿耳装置。
【請求項4】
挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間を形成する壁面および壁面近傍に、他の繊維と長さが異なるものを含む複数の繊維から構成された繊維ユニットを複数含み、上記繊維ユニットを構成する繊維は他の繊維または繊維ユニットとの絡まりを有し、少なくとも一部の上記繊維ユニットは長手方向が概ね前記壁面に沿った向きで配置されており、上記繊維および繊維ユニットは隙間を有する集合体を形成しており、前記集合体は1mm平方あたり100個以上の上記繊維ユニットを有する挿耳装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヤホン、補聴器、聴覚検査装置のプローブなど人間の耳に装着して用いられる挿耳装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、挿耳装置を耳に装着すると、耳の穴に蓋をしたことになるため、外耳道内の音波の伝わり方が変化することが知られている。
【0003】
それに対し、特許文献1、2 などの解決方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの文献では製造時に固定された周波数での音の吸収手段は開示されているが、挿耳装置を耳に装着することで発生する複数の周波数に関する固定端反射の影響抑制や、外耳道形状の個人差、左右の外耳道形状の差異、挿耳装置の装着位置の個人および左右での差異、さらにはこれらが装着位置が装着の都度変化することにに起因する吸収すべき音の周波数の相違の解決手段については記載が見当らない。また挿耳装置を装着した際に消失する非装着時の自由端反射による作用の再現については記載が見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、挿耳装置装を装着することにより外耳道内の音波の伝わり方が変化することに起因する、挿耳装置装着時における違和感の緩和および解消である。
【0008】
挿耳装置非装着時の外耳道内の音波の伝わり方を
図1に示す。
図1は外耳道および鼓膜を模式的に示したものであり、1は外耳道、2は鼓膜、3は音の伝わり方における外耳道の開放端の位置である。
【0009】
図1に示した通り、挿耳装置非装着時には、外耳道は鼓膜を固定端、外耳道の出口を開放端とする片側が閉じた管路を形成している。このため前記の管路の長さの4倍の波長の波を基本波とし、基本波の3/4倍の波長、5/4倍の波長、および更に高次の波長の共鳴が発生する。4はこの基本波を媒質(すなわち空気)の移動量に着目して示しており、2本の点線4の上下の距離が大きい部分では媒質の移動距離が大きく、小さい部分では移動距離が小さく、上下が一致している部分では移動が起こらないことを示している。なお、媒質が空気であるため、発生する波は縦波であり、上記の媒質の移動は管路に沿った方向となる。さらに、媒質の圧力変化に着目すると、鼓膜近傍では最大であり、自由端ではほぼ0となる。これは、高次の波についても当てはまる。
【0010】
一方、挿耳装置非装着時の外耳道内の音波の伝わり方は
図2に示す通りとなる。5はイヤーピース,6は挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間を示している。イヤホン等では空間6に電気信号を音声に変換する装置が音響的に接続されるが、
図2では省略している。
【0011】
図2に示した通り、挿耳装置装着時では、鼓膜および挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間の壁面を固定端とする両側が閉じた管路を形成している。このため前記の管路の長さの2倍の波長の波を基本波とし、管路長と等しい波長、管路長の1/2の波長、1/4の波長の波および更に高次の波長に相当する共振周波数を有する共鳴が生じる。7は
図1の4に相当するものであり、基本波における媒質(すなわち空気)の移動量の大小を上下の線の間隔として示している。7で示す様に、鼓膜と挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間の壁面の2箇所が固定端となっており媒質移動が起こらない。さらに、媒質の圧力変化に着目すると、鼓膜と挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間の壁面の2箇所で最大となり、その中間ではほぼ0となる。これは、基本波のみでなく、高次の波についても当てはまる。
【0012】
図1,2を比較することにより、挿耳装置の装着時における外耳道内の音波の伝わり方は非装着時と差異があることが判る。相違点を媒質すなわち空気の振動に着目して整理すると、非装着時は外耳道出口側の空気は振幅が大きく圧力変動はほぼ0であるのに対し、装着時には圧力変動が大きく振幅はほぼ0という点が異なることが判る。また、共鳴をもたらしている外耳道出口側で発生している反射波に着目して整理すると、装着時は逆位相の反射波が発生し、非装着時は同位相の反射波が発生していることが判る。
【0013】
さらに、上記の説明から、これらの共鳴の共振周波数は、外耳道形状の個人差、左右の差異、挿耳装置の装着位置の個人および左右での差異、さらにはこれらが装着位置の都度変化の影響を受けることが判る。
【0014】
以上説明したように、挿耳装置の装着時には外耳道内の音波の伝わり方に非装着時との差異に起因する、挿耳装置装着時における違和感の緩和および解消である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願に掛かる第一の発明は、挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間と、複数の固体要素からなる集合体を有し、前記集合体は前記空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されていることを特徴とする。
【0016】
本出願に掛かる第二の発明は、挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な第一の空間と、第二の空間と、管路と、複数の固体要素からなる集合体を有し、前記第二の空間は前記管路と連通し、前記管路は第一の空間に連通し、前記集合体は前記第一の空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されていることを特徴とする。
【0017】
本出願に掛かる第三の発明は、挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な第一の空間と、第二の空間と、管路と、 複数の固体要素からなる集合体を有し、前記第二の空間は前記管路と連通し、前記管路は第一の空間に連通し、前記集合体は前記第一の空間の壁面に接触してまたは壁面の近傍に配置されて、前記管路が第一の空間に接続する開口部が前記集合体の近傍に有ることを特徴とする。
【0018】
本出願に掛かる第四の発明は、挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間を形成する壁面および壁面近傍に、他の繊維と長さが異なるものを含む複数の繊維から構成された繊維ユニットを複数含み、上記繊維ユニットを構成する繊維は他の繊維または繊維ユニットとの絡まりを有し、少なくとも一部の上記繊維ユニットは長手方向が概ね前記壁面に沿った向きで配置されており、上記繊維および繊維ユニットは隙間を有する集合体を形成しており、前記集合体は1mm平方あたり100個以上の上記繊維ユニットを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本出願に掛かる第一の発明は、挿耳装置の装着時に外耳道および外耳道と連通可能な挿耳装置内の空間である両側閉塞気柱で起こる共鳴では、基本波のみならず高次の波に対しても固定端では圧力変動が最大であり媒質移動が最小であることに着目している。このため、一箇所に設けた手段で基本波および高次の波の全てに対して抑制効果が得られることが判る。そこで、固定端で抑制効果を発揮する構成を考えると媒質の振動に共鳴する固体が適していることが判る。いま、イヤホンなどの挿耳装置で多用される細かい網からなる音響抵抗を用いた場合を考えると、媒質移動が殆ど発生しないことから音響抵抗による圧力損失が期待できず共鳴の抑制効果も期待できないことが判る。一方、この場所に共振可能な固体を置いた場合、媒質の圧力変動が大きいことから媒質の共鳴のエネルギーが固体の振動に良好に変換されることが期待できる。厳密には、完全な固定端では媒質移動が起こらないため、固定端である壁面から僅かに内側に前記固体とインピーダンス整合する圧力変動および媒質移動となる箇所が存在し、その近傍に前記の固体すなわち固体振動子を配置することが最適となる。
【0020】
本出願に掛かる第二の発明は、エネルギー蓄積による非線形性および位相を含めて、挿耳装置を装着した際に消失する非装着時の自由端反射による作用を再現することに着目している。イヤホンや補聴器などの音波発生手段を有する挿耳装置においては、非装着時の外界を入力とし鼓膜を出力とした頭部伝達関数を再現する様に音波発生装置の出力を調整することが広く行われている、しかしながらこの調整は頭部伝達関数のゲイン特性のみに着目しており、本出願の発明者が調査した範囲では位相特性まで再現することを開示した文書は見当たらなかった。また、非装着時に外耳道で発生する共鳴は共鳴現象であるため共振先鋭度が小さいことは保証されておらず、発散的になる可能性すなわち発散性まで考慮した再現方法に関する記述も見当たらなかった。これらを考慮すると、挿耳装置を装着した状態で外耳道外部の媒質の挙動を物理的に再現する事により従来の方法よりも正確に非装着状態を再現できるという効果が期待できる。
【0021】
そこで、本出願に掛かる第二の発明は、管路と第二の空間により第一の空間に接続するヘルムホルツ共鳴器を構成することにより挿耳装置を装着した状態で非装着時の外耳道外部の媒質の挙動を物理的に再現する事を意図している。すなわち、このヘルムホルツ共鳴器の固有振動数が第一の空間の共振周波数の内の一つと等しくなるようにすることで、ヘルムホルツ共鳴器の出口を境界に、境界を挟む両側がヘルムホルツ共鳴器の固有振動に対して共役にできることから、前記ヘルムホルツ共鳴器により、非装着時の共鳴を位相および発散性まで含めて高い精度で再現できるという効果を有する。
【0022】
本出願に掛かる第三の発明は、前記第一の発明と第二の発明をその効果を減じることなく組み合わせる効果を得るためのものである。すなわち、第一の発明の固定端反射の抑止位置と第二の発明の外界の媒質が再現される箇所を一致または少なくとも近接させることにより、2つの発明の効果を最大の状態で組み合わせるという効果を有する。
【0023】
本出願に掛かる第四の発明は、前記固体振動振動子の集合体の効果的な構成に関するものである。前記の様に構成する事により挿耳装置に最適な振動子の集合体が構成できる。この構成と効果の関係は後述する実施例1において具体例を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は挿耳装置非装着時の外耳道内の音波の伝わり方を模式的に示した説明図である。
【
図2】
図2は挿耳装置装着時の外耳道内の音波の伝わり方を模式的に示した説明図である。
【
図3】
図3は本発明装置の1実施例であるカナル型イヤホンの外観を示した説明図である。(実施例1)
【
図4】
図4は
図3のイヤホンを反対側から見た様子を示した説明図である。(実施例1)
【
図5】
図5は音響ユニットの内部構造を示した説明図である。(実施例1)
【
図6】
図6は固体共振ユニット19の顕微鏡写真である。(実施例1)
【
図9】
図9はイヤホンの吸音手段として例示されることが多い不織布の一例の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0025】
図3は本発明装置の実施例であるカナル型イヤホンの外観であって、8はケース本体、9はケース本体と合わせて筐体を形成するフェースプレート、10はノズル、5は
図2にも記載したイヤーピースであり素材が柔軟なことからノズルを外耳道に対し密着および保持の機能を持つ。11はコネクターであり内部にあるドライバーユニットと電気的に接合されており、外部から供給される電気信号をドライバーユニットに伝達する。12は操作ボタンであって外気と外耳道の連通を制御する弁(不図示)に連結しており、通常は外気と外耳道は遮断されており、押し込むまたは傾けることにより連通する。
【0026】
図4は、
図3のイヤホンを反対側から見た図であり、イヤホン外形を破線で、主要内部部品を実線で示したものである。13は可聴域全体の周波数に渡って電気信号を音声に変換するドライバーであり、14は可聴域の高音側を主に出力するドライバー、15は低音側を主に出力するドライバーである。いずれのドライバーもバランスドアーマチュア型であり、周波数域が異なるドライバーを組み合わせて用いることにより供給される電気信号を入力とし発生する空気の振動を出力とする伝達関数を適切なものとすることが可能となっている。16はノズルおよび前記ドライバーが係合される音響ユニットである。17はローパスフィルター用チャンバーであり内部が空洞(不図示)となっており、空洞は低音側ドライバー出口と連通している。さらに、
図3において12で示した操作ボタンと連結した弁が設けられている。また、前記空洞は音響ユニット16と接する壁面に形成された長さ3ミリメートル、断面形状が0.2ミリメートルの正方形を成す溝と音響ユニット16の壁面から形成される細管(不図示)と接続しており、ドライバーユニット15およびチャンバー17内部の空洞、前記細管が共振周波数20Hzのヘルムホルツ共鳴器を形成しており、低音用ドライバー15の出力を設計意図に合わせた特性とするローパスフィルターとして作用する。
【0027】
図5は、
図4の音響ユニット16を破線で示したものに、その内部構造を実線のワイヤーフレーム表示で示したものである。18は主気室であり、ノズル10の内部配管(
図5に破線で記載)と共に挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間を形成する。主気室にはその底部に当たる壁面に接触した状態で固体共振ユニット19が配置されている。固体共振ユニット19は本出願に掛かる第一、第二、第三の発明の固体要素からなる集合体であり、本出願に掛かる第四の発明の繊維ユニットである。固体共振ユニット19は主気室18の壁面と主気室18の壁面に設けられた爪20によって保持されており、組み立て時には、主気室18のノズル側開口部から挿入された後、僅かに変形させることにより
図5に示された位置に配置され、その後自らの復元力およびピンセットなどで元の形に復元することにより
図19に示したドーナツ状の形状に整形された状態で配置される。固体共振ユニット19の略中心部に設けられた穴は、穴にピンセットなどの先端を挿入できることから、配置および整形作業がし易くなるとともにドライバーやチャンバーを設ける際の通路としても活用することにより装置の小型化が可能となる効果を有する。この実施例では、低音用ユニットで発生しローパスユニットを経由した音波が、固体共振ユニット19に設けられた穴の背後に開けられた主気室壁面の開口部(不図示)に接続している。また、鼓膜から固体共振ユニットに至る経路が、屈曲したノズル10(
図3記載)と音響ユニット内の主気室18に分割された構造となっているため、ノズルを外耳道に対して適切に配置できるとともに固体共振ユニットの配置および整形が容易であるという利点を有している。
【0028】
図5に示した21および22は一方が
図4に示したドライバー13及び14に接続し、もう一方が主気室18に接続している管路である。23は空洞であり細管24を経由して主気室18に接続している。空洞23の容積30立方ミリメートル、細管24は長さ2mm、直径0.5mmであり、共振周波数が挿耳装置非装着時の外耳道共鳴の基本波の標準的共振周波数である3kHzのヘルムホルツ共鳴器を形成している。さらに細管24の主気室側開口部が挿耳装置非装着時の外耳道の共鳴における自由端とほぼ同一の位置に配置されていることにより、挿耳装置非装着時に非装着時の外気と同等の振る舞いをするため、挿耳装置装着時における違和感の緩和および解消効果が一層高まるという効果を有する。
【0029】
図6は
図5に示した固体共振ユニット19の顕微鏡写真である。
図6の下部に並ぶ直線は寸法把握用スケールであり1mm間隔で配列している。
図7は
図6の左下部分の拡大図であり、
図8はイヤホンの周波数特性調整用に多用される音響抵抗の一例の顕微鏡写真であり、
図6同様、下部に並ぶ直線は寸法把握用スケールであり1mm間隔で配列している。さらに、
図9はイヤホンの吸音手段として例示されることが多い不織布の一例の顕微鏡写真であり、
図6同様、下部に並ぶ直線は寸法把握用スケールであり1mm間隔で配列している。
【0030】
図6と
図8、
図9の比較から判るように、本発明の固体共振ユニット19は従来用いられている部材すなわち音響抵抗や不織布と大きく相違する。以下、
図6、7を用いてこの相違点を発明の効果に結びつく各要素に分けて説明する。第一に本発明の固体共振ユニットは長さが異なる複数の繊維から構成された繊維ユニットを複数含んでいる。
図6、7より従来用いられている部材を構成する繊維よりも各段に細い繊維から構成されていることが判る。このことに加えユニットを構成していることから、非常に高い周波数で共振する素子として作用する単独の繊維から細いユニットから比較的低周波数で共振する繊維ユニットまで広範な周波数の吸収作用を実現できるという効果を有することが判る。また、繊維は他の繊維または繊維ユニットとの絡まりを有している、ここでいう絡まりとは固着していない接触を意味しており、これにより、異なる固有振動数を持つ単独の繊維もしくは繊維ユニットが接触した状態で周囲の気体に共振した際に、単独の繊維もしくは繊維ユニット相互の摩擦により、高いエネルギー吸収性能を発揮し、外耳道およびイヤホンの主気室などの空気に対し大きな制振効果を得ることができることが判る。さらに上記繊維ユニットの長手方向が概ね前記壁面に沿った向きで配置されていることから固体共振ユニットが管路の壁面近傍に配置されていることと相まって縦波に対して効率的に振動可能とすることができる。さらに、隙間を持った状態で多数の繊維ユニットを配置することにより、周波数帯域を広げることとそれぞれの帯域で大きな吸収作用を実現することが可能である。また、固体共振ユニットは厚さを持つため、挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な空間の壁面に接触した状態で配置された場合に、固体振動子とインピーダンス整合する圧力変動および媒質移動となる箇所近傍に固体振動子を配置することが可能となる。
【0031】
本実施例では、固体共振ユニットとして、株式会社 春日が販売するキョンセームを外形2.5mm内径1mmの同心円状に打ち抜き、厚さ約1mmのドーナツ形としたものを、銀面側を挿耳装置内部にあって使用時に外耳道と連通可能な第一の空間を形成する壁面に向けて配置した。
【0032】
このような実施形態を採用することにより、挿耳装置装着時の違和感の緩和および解消が可能となる。また、広い周波数帯域に渡って均一性のある抑制効果を実現できることから、完全な共鳴防止が実現できない場合であっても他の方法に比較し自然な聴こえ方を実現するという効果が得られる。また、高音の明瞭性向上やステレオ再生における定位の自然さの向上という効果が得られる。
【0033】
上記説明では挿耳装置としてイヤホンを選択したが、マイクロフォンおよび増幅器を付加して補聴器とすることや、聴覚検査用の電気信号をコネクタを介して入力し聴覚検査装置のプローブとすること、さらにはドライバーに替えて聴覚検査用の音波を入力するためのパイプを用いることにより聴覚検査装置のプローブとすることなどが可能である。
実施例1は挿耳装置を装着した状態で非装着時の外耳道外部の媒質の挙動を物理的に再現するヘルムホルツ共鳴器がひとつであるが、複数用いることでより正確に非装着時の外耳道外部の媒質の挙動を物理的に再現することが可能である。この場合、第二以降のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数を、片側開放気柱の共振周波数である、第一のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数の3/4倍、5/4倍、7/4倍、9/4倍、11/4倍、13/4倍、15/4倍、17/4倍、19/4倍、21/4倍、23/4倍、25/4倍、27/4倍、29/4倍の周波数の中から選択することで良好な効果が得られる。なお、 第二以降のヘルムホルツ共鳴器の共振周波数は前記数列より算出される周波数に対して多少の差異があっても実用上充分な効果を有する。
このような実施形態を採用することにより、実施例1の形態以上に、挿耳装置装着時の違和感の緩和および解消が可能となる。特に、広い周波数帯域に渡って均一性のある抑制効果を実現できることから、完全な共鳴防止が実現できない場合であっても他の方法に比較し自然な聴こえ方を実現するという効果が得られる。また、実施例1の形態以上に、高音の明瞭性向上、ステレオ再生における定位の自然さの向上の効果が得られる。