(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153138
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】熱転写シート
(51)【国際特許分類】
B41M 5/40 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
B41M5/40 440
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066792
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武尊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正和
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111BA03
2H111BA08
2H111BA53
2H111BA54
2H111BA61
2H111BA64
(57)【要約】
【課題】熱溶融転写方式の熱転写シートにおいて、耐熱滑性層にシリコーン系化合物を用いずに、耐スティッキング性(耐熱性、滑性)に優れ、ヘッドカスの付着による印字欠陥もなく良好な印画を得ることができ、さらに高感度な熱溶融性の熱転写インク層とした場合でも、耐ブロッキング性に優れる熱転写シートを提供すること。
【解決手段】熱転写シートの耐熱滑性層として、離型性に優れた特定の長鎖アルキルペンダント型樹脂と、融点が100~130℃の範囲、かつ酸価が17~30mgKOH/gの範囲である特定の炭化水素系合成ワックスを、長鎖アルキルペンダント型樹脂/炭化水素系合成ワックスの質量比率が35/65~75/25で配合したものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に熱溶融性の熱転写インク層を有し、前記基材のもう一方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートであって、前記耐熱滑性層は、長鎖アルキル基を側鎖に有する長鎖アルキルペンダント型樹脂と、炭化水素系合成ワックスからなり、前記長鎖アルキルペンダント型樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合物と炭素数12~22個の直鎖状のアルキル基を有する単官能イソシアネートとの反応生成物であり、前記炭化水素系合成ワックスは、酸化エチレン・プロピレン共重合ワックスおよび/または酸化フィッシャートロプシュワックスであって、前記炭化水素系合成ワックスの融点が100~130℃の範囲、かつ酸価が17~30mgKOH/gの範囲であり、前記耐熱滑性層の前記長鎖アルキルペンダント型樹脂と前記炭化水素系合成ワックスの配合は、長鎖アルキルペンダント型樹脂/炭化水素系合成ワックスの質量比率が35/65~75/25の範囲であることを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記炭化水素系合成ワックスの重量平均分子量(Mw)が、2,500~9,500の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記耐熱滑性層の膜厚が0.02~0.20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記耐熱滑性層のテープ剥離力が2.0N/25mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項5】
前記耐熱滑性層が、耐熱滑性層塗工液を所定厚さで塗工した後、前記炭化水素系合成ワックスの融点以上の温度で前記耐熱滑性層を加熱乾燥して、前記耐熱滑性層の前記長鎖アルキルペンダント型樹脂と前記炭化水素系合成ワックスとが均一に相溶した塗膜とすることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融転写方式で印字(又は印画)するために用いる熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より熱溶融転写方式で用いる熱転写シートは、一般的に基材フィルムの片面に熱溶融性の熱転写インク層が形成され、もう一方の面に耐熱滑性層が形成されたものである。この耐熱滑性層としては、熱転写プリンターで印字した時の耐スティッキング性や、熱転写シートをロール状として保存した時の熱転写インク層との耐ブロッキング性改善のため、滑剤としてシリコーンオイルを用いたり、耐熱性や離型性に優れるシリコーン変性樹脂等のシリコーン系化合物を用いることが提案されている(特許文献1、2、3)。
【0003】
これらのシリコーン系化合物を用いた耐熱滑性層は、耐スティッキング性、耐ブロッキング性に優れているが、塗膜強度が不充分である為に、連続印字の際にサーマルヘッドとの摩擦や機械的な応力によって、耐熱滑性層の構成物が脱落してサーマルヘッドに付着する、いわゆる「ヘッドカス」が発生する場合がある。このヘッドカスの堆積が多くなると、サーマルヘッドからの熱が熱転写シートに充分伝わらずに印字欠陥が生じてしまう。
【0004】
また、シリコーン系化合物を用いた耐熱滑性層は、遊離シリコーン成分の移行の問題がある。これは、熱転写シートの製造方法として、基材フィルムの片面に耐熱滑性層を形成してからロール状に一旦巻き取り、その後にもう一方の面に熱転写インク層を形成することによって製造する場合、シリコーン系化合物を熱転写シートの耐熱滑性層に用いると、その巻き取り時、もしくは巻き取ったロール状での保管時に、耐熱滑性層中に含まれている遊離シリコーン成分が、熱転写インク層を形成する前の基材フィルム面に移行し、熱転写インク層の形成時にインクがはじいて塗布面不良が生じたり、熱転写インク層を形成したあとに基材フィルムとの密着不良を生じたりする場合がある。また、製造した熱転写シートをロール状で保存したときに遊離シリコーン成分が熱転写インク層側に移行し、印字時に転写不良が生じたり、転写したインク層の被転写体への密着不良が生じるといった問題もある。
【0005】
一方、シリコーン系化合物を用いない耐熱滑性層として、特許文献4には水酸基含有熱可塑性樹脂とポリイソシアネートとの反応生成物からなる耐熱性微粒子と、バインダーとしてポリビニルブチラール又はポリビニルアセトアセタール樹脂とからなる熱転写シートが提案されている。この熱転写シートの耐熱滑性層は、耐スティッキング性に優れており、シリコーン成分を含まないため、遊離シリコーン成分による転写不良や密着性不良の発生はない。しかしながら、耐熱滑性層の離型性が悪いため、熱溶融性の熱転写インク層の高感度化(低印字エネルギー化)に伴い、軟化点の低い樹脂材料などを用いる場合、熱転写シートをロール状で保存したときの耐ブロッキング性が劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-82086
【特許文献2】特開平4-16390
【特許文献3】特開平5-64987
【特許文献4】特開平6-135166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱溶融転写方式の熱転写シートにおいて、耐熱滑性層に遊離シリコーン成分を含むシリコーン系化合物を用いずに、耐スティッキング性(耐熱性、滑性)に優れ、ヘッドカスの付着による印字欠陥もなく良好な印字(又は印画)を得ることができ、さらに高感度な熱溶融性の熱転写インク層とした場合でも、耐ブロッキング性に優れる熱転写シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に熱溶融性の熱転写インク層を有し、前記基材のもう一方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートであって、前記耐熱滑性層は、長鎖アルキル基を側鎖に有する長鎖アルキルペンダント型樹脂と、炭化水素系合成ワックスからなり、前記長鎖アルキルペンダント型樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合物と炭素数12~22個の直鎖状のアルキル基を有する単官能イソシアネートとの反応生成物であり、前記炭化水素系合成ワックスは、酸化エチレン・プロピレン共重合ワックスおよび/または酸化フィッシャートロプシュワックスであって、前記炭化水素系合成ワックスの融点が100~130℃の範囲、かつ酸価が17~30mgKOH/gの範囲であり、前記耐熱滑性層の前記長鎖アルキルペンダント型樹脂と前記炭化水素系合成ワックスの配合は、長鎖アルキルペンダント型樹脂/炭化水素系合成ワックスの質量比率が35/65~75/25の範囲であることを特徴とする熱転写シートである。
【0009】
本発明の熱転写シートの一態様において、前記炭化水素系合成ワックスの重量平均分子量(Mw)は、2,500~9,500の範囲とすることができる。
【0010】
本発明の熱転写シートの一態様において、前記耐熱滑性層の膜厚は0.02~0.20μmの範囲とすることができる。
【0011】
本発明の熱転写シートの一態様において、前記耐熱滑性層のテープ剥離力は2.0N/25mm以下とすることができる。
【0012】
本発明の熱転写シートの一態様において、前記耐熱滑性層が、耐熱滑性層塗工液を所定厚さで塗工した後、前記炭化水素系合成ワックスの融点以上の温度で前記耐熱滑性層を加熱乾燥して、前記耐熱滑性層の前記長鎖アルキルペンダント型樹脂と前記炭化水素系合成ワックスとが均一に相溶した塗膜とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱転写シートは、耐熱滑性層中に転写不良や密着性不良の原因となる遊離シリコーン成分などの移行成分がなく、生産時の不具合の発生や印画時の品質低下がない。また、耐熱滑性層は耐スティッキング性(耐熱性、滑性)に優れ、ヘッドカスの発生も抑制され、ヘッドカスの付着による印字欠陥もなく良好な印字(又は印画)を得ることができる。さらに軟化点の低い樹脂を用いた高感度な熱溶融性の熱転写インク層とした場合でも、耐ブロッキング性に優れる熱転写シートを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の熱転写シートの一態様を示す断面概略図である。
【
図2】本発明の実施例における耐熱性評価及び印字スリップ評価に使用する印字パターンAとその印字方向、印字長さを示す図である。
【
図3】本発明の実施例におけるヘッドカス評価に使用する印字パターンBとその印字方向、印字長さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の熱転写シートの実施形態について、詳しく説明する。
【0016】
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に熱溶融性の熱転写インク層を有し、前記基材のもう一方の面に耐熱滑性層を有する層構成である。
【0017】
(基材)
本発明の熱転写シートの基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム等の各種プラスチックフィルムを使用することができる。これらの中でも、物性面、加工性、コストなどの観点からポリエチレンテレフタレートフィルムを用いるのが好ましい。基材の厚さは通常は2~12μm程度であり、熱伝達を良好にするためには、2~6μmの範囲が好ましい。
【0018】
また、基材の熱転写インク層を形成する側の面、及び耐熱滑性層を形成する側の面には、必要に応じて各層との密着性を上げるための表面処理を施してもよい。表面処理としては、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0019】
(耐熱滑性層)
本発明の熱転写シートの耐熱滑性層は、離型性に優れた特定の長鎖アルキルペンダント型樹脂と、特定範囲の融点および酸価を有する炭化水素系合成ワックスを特定の質量比率で配合し、耐熱滑性層の形成時に長鎖アルキルペンダント樹脂と炭化水素系合成ワックスが均一に相溶した塗膜を形成することで、長鎖アルキルペンダント型樹脂の離型性を損なわずに、耐熱滑性層と基材フィルムとの密着性、膜強度、滑性を向上することができ、耐スティッキング性(耐熱性、滑性)及び耐ブロッキング性に優れた熱転写シートの耐熱滑性層を得ることができる。
【0020】
長鎖アルキルペンダント型樹脂は、主鎖ポリマーに長鎖アルキル基がペンダント状に側鎖として存在しているものであり、例えば、長鎖アルキル基を有するビニルモノマーの単独重合物及び他のビニルモノマーとの共重合物や、ビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合物、ポリエチレンイミン及び水酸基含有セルロース誘導体などの活性水素を有するポリマーに、長鎖アルキル基を有する単官能イソシアネートを反応させた反応生成物などが挙げられる。これらの長鎖アルキルペンダント型樹脂は離型性に優れ、粘着テープの剥離剤としても広く用いられている。
【0021】
本発明に用いる長鎖アルキルペンダント型樹脂は、熱転写シートの耐熱滑性層としての耐熱性、膜強度、基材密着性、離型性などの観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合物に長鎖アルキル基を有する単官能イソシアネートを反応させた反応生成物である長鎖アルキルペンダント型樹脂を用いる。
【0022】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合物は、従来公知のものであり、そのエチレン含有率は10~90モル%、好ましくは20~70モル%の範囲である。また、その平均重合度は通常300~3,000であり、好ましくは500~2,500の範囲である。
【0023】
前記長鎖アルキル基を有する単官能イソシアネートの長鎖アルキル基は、直鎖状のものが好ましく、耐熱性、離型性および樹脂の溶剤溶解性の観点から、炭素数は12~22の範囲が好ましく、炭素数14~18の範囲がより好ましい。
【0024】
本発明に用いる長鎖アルキルペンダント型樹脂の重量平均分子量(Mw)は、耐熱性、膜強度、樹脂の溶剤溶解性の観点から、10~30万の範囲が好ましく、12万~25万の範囲がより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算値である。
【0025】
本発明の耐熱滑性層には、耐熱滑性層に滑性を付与するために炭化水素系合成ワックスを配合する。炭化水素系合成ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブチレンワックス、エチレン・プロピレン共重合ワックス、エチレン・ブチレン共重合ワックス等のポリオレフィンワックス、およびフィッシャートロプシュワックスなどが挙げられる。本発明で用いる炭化水素系合成ワックスは、前記長鎖アルキルペンダント型樹脂との親和性の観点から、前記炭化水素系合成ワックスを酸化処理した酸化タイプの炭化水素系合成ワックスを用いるのが好ましく、特に熱安定性および溶剤溶解性の観点から、エチレン骨格を主成分とする酸化エチレン・プロピレン共重合ワックスおよび/または酸化フィッシャートロプシュワックスを用いるのが好ましい。
【0026】
前記炭化水素系合成ワックスの酸化処理は、酸素酸化や化学薬品酸化等の方法により炭化水素骨格中にヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、エステル基、ヒドロ過酸化物基等の官能基を導入するものであり、これらの官能基を有していることで、前記長鎖アルキルペンダント型樹脂との親和性が良好となり、溶剤溶解性も向上するものである。
【0027】
本発明で用いる炭化水素系合成ワックスの融点は、100~130℃の範囲が好ましく、100~110℃の範囲がより好ましい。融点が100℃未満であると耐熱滑性層の耐熱性が低下し、高エネルギーで印字した場合、熱融着により基材フィルムの破れが生じやすい。一方、融点が130℃を越える場合、耐熱滑性層の塗膜形成時に炭化水素系合成ワックスの融点以上の温度で加熱乾燥したとき、熱転写シートで一般的に用いる薄膜フィルム(2~6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)では熱収縮が大きく、熱ジワにより熱転写インク層の塗布面不良が発生し、生産性が低下してしまう。なお、炭化水素系合成ワックスの融点は、示差走査熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/分で測定した吸熱ピーク温度である。
【0028】
本発明で用いる炭化水素系合成ワックスの酸価は、17~30mgKOH/gの範囲が好ましい。酸価が17mgKOH/g未満の場合、長鎖アルキルペンダント型樹脂との親和性、密着性が低下し、耐熱滑性層として長鎖アルキルペンダント型樹脂と炭化水素系合成ワックスが均一に相溶した強靭な塗膜が形成できないため、ヘッドカス発生が増加する。一方、酸価が30mgKOH/gを超える場合、耐熱性が低下し、さらに滑性が低下する場合がある。なお、炭化水素系合成ワックスの酸価はJIS K5902に準じて測定された値である。
【0029】
本発明で用いる炭化水素系合成ワックスの重量平均分子量(Mw)は、900~9,500の範囲が好ましく、2,500~9,500の範囲がより好ましい。この範囲であると溶剤への溶解性を確保でき、長鎖アルキルペンダント型樹脂とも相溶しやすく、ヘッドカス発生を抑制することができる。また、炭化水素系合成ワックスが適度な溶融粘度となり、サーマルヘッドからの熱エネルギーにより溶融したときに効果的な滑性を付与することができる。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算値である。
【0030】
本発明の耐熱滑性層を構成する長鎖アルキルペンダント型樹脂と炭化水素系合成ワックスの配合量は、長鎖アルキルペンダント型樹脂/炭化水素系合成ワックスの質量比率が35/65~75/25の範囲が好ましく、40/60~60/40の範囲がより好ましい。長鎖アルキルペンダント型樹脂の質量比率が35/65未満の場合、耐熱滑性層の離型性が悪くなり耐ブロッキング性が低下する。一方、75/25を超える場合、耐熱性、滑性が悪くなり耐スティッキング性が低下する。
【0031】
本発明の耐熱滑性層の膜厚は、膜の均一性および生産性の観点から0.02~0.20μmの範囲が好ましい。この範囲であれば、容易に均一な塗膜を形成し、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0032】
本発明の耐熱滑性層は、日東電工製31Bテープとのテープ剥離力が2.0N/25mm以下であるのが好ましい。テープ剥離力が前記値以下であれば、たとえ高感度な熱溶融性の熱転写シートをロール状として保存した場合でも、耐ブロッキング性に優れたものとなる。なお、テープ剥離力は、耐熱滑性層と日東電工製31Bテープを貼り合せて23±2℃で10分放置後に、測定温度23±2℃、剥離角度180°、剥離速度1,200mm/分の条件でテープ側を剥がした際の剥離力を測定した値である。
【0033】
本発明の耐熱滑性層には、サーマルヘッド上に付着するヘッドカスなどの汚染物質を除去することを目的として、本発明の効果を損なわない範囲で無機微粒子などを適宜配合することができる。
【0034】
本発明の耐熱滑性層の形成方法としては、構成成分である長鎖アルキルペンダント型樹脂および炭化水素系合成ワックスを溶剤に溶解させた塗工液として、基材フィルムの上に所定の厚みとなるように均一に塗工し、加熱乾燥して塗膜を形成することができる。また、この塗膜形成時の加熱乾燥温度を炭化水素系合成ワックスの融点以上の温度として溶融させることで、炭化水素系合成ワックスと長鎖アルキルペンダント型樹脂とが、さらに相溶して、より均一で強靭な連続塗膜として耐熱滑性層を形成することができる。
【0035】
本発明の耐熱滑性層の塗工液の塗工法としては、例えば、グラビアコーター、バーコーター、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0036】
(熱転写インク層)
本発明の熱転写シートの熱転写インク層は、サーマルヘッドにより耐熱滑性層側から加熱されたときに軟化もしくは溶融し、その軟化もしくは溶融した部分が被転写体に転写するものである。このような熱転写インク層は、特に限定されず、従来から一般的に熱転写シートの熱溶融性インクとして使用されているものを適用することができる。この熱溶融性インクの構成材料としては、従来公知の熱溶融性のワックス、熱可塑性樹脂および着色剤を用いることができる。
【0037】
熱溶融性のワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油などの植物系ワックス、蜜ロウ、ラノリン、鯨ロウなどの動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンなどの鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油系ワックス、合成ワックスとしてポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの合成炭化水素系ワックス、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体などの変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体などの水素化ワックス、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、1、2-ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸、及び脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド、ポリオレフィン、スチレン樹脂などが挙げられる。
【0039】
着色剤としては、顔料でも染料でもよく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒煙、鉄黒、アニリンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、カドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、バーミリオン、ベンガラ、アゾ系顔料、アリザリンレーキ、キナクリドン、コチニールレーキペリレン、イエローオーカー、オーレオリン、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、クロムイエロー、ジンクイエロー、ネイプルスイエロー、ニッケルイエロー、アゾ系顔料、グリニッシュイエロー、ウルトラマリン、紺青、群青、コバルト、フタロシアニン、アントラキノン、インジコイド、シナバーグリーン、カドミウムグリーン、クロムグリーン、フタロシアニン、アゾメチン、ペリレン及びアルミニウム顔料などの顔料、並びに、ジアリールメタン染料、トリアリールメタン染料、チアゾール染料、メロシアニン染料、ピラゾロン染料、メチン染料、インドアニリン染料、アセトフェノンアゾメチン染料、ピラゾロアゾメチン染料、キサンテン染料、オキサジン染料、チアジン染料、アジン染料、アクリジン染料、アゾ染料、スピロピラン染料、インドリノスピロピラン染料、フルオラン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料及びキノフタロン染料などの染料が挙げられる。
【0040】
また、熱溶融性インクには、必要に応じて、分散剤、レベリング剤、充填剤などの公知の各種添加剤を適宜配合することができる。
【0041】
熱転写インク層は、熱溶融性の着色インク層を単層でもよいが、必要に応じて、基材と着色インク層との間に、基材からの着色インク層の剥離を容易にする機能を有する剥離層を形成してもよい。また、必要に応じて、熱溶融性の着色インク層の上に、被転写体との接着性を向上する機能を有する接着層を形成してもよい。これら剥離層、接着層の構成材料も、従来公知の熱溶融性のワックス、熱可塑性樹脂、各種添加剤を用いることができる。
【0042】
熱転写インク層の膜厚は、必要な印字濃度と熱感度の調和がとれるように適宜決定することができ、通常は0.5~5.0μmの範囲が好ましい。
【0043】
これらの熱転写インク層は、従来公知の方法により基材上に形成することができ、例えば、熱溶融性インクの構成材料をトルエンやMEK等の溶剤に公知手法により分散もしくは溶解した塗工液を、基材の耐熱滑性層を形成した面の反対面の上に、グラビアコーターなどの公知の塗工方法により所定の塗布量となるように均一に塗工し、溶剤を乾燥することにより形成することができる。
【実施例0044】
以下に、実施例と比較例を示して本発明の熱転写シートを詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0045】
<耐熱滑性層の塗工液作製>
下記の材料を使用して、表1に記載の配合量で混合し、50℃に加温しながら攪拌して、樹脂と炭化水素系合成ワックスを溶解させた後、室温まで冷却して耐熱滑性層の塗工液1~17を各々作製した。
(耐熱滑性層の塗工液材料)
[長鎖アルキルペンダント型樹脂A];
エチレン-ビニルアルコール共重合物(エチレン含有率45モル%)とテトラデシルイソシアネート(炭素数14)の反応生成物、重量平均分子量(Mw)15万
[長鎖アルキルペンダント型樹脂B];
エチレン-ビニルアルコール共重合物(エチレン含有率50モル%)とオクタデシルイソシアネート(炭素数18)の反応生成物、重量平均分子量(Mw)22万
[炭化水素系合成ワックスA];
酸化エチレン・プロピレン共重合ワックス、融点102℃、酸価26mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)3,100
[炭化水素系合成ワックスB];
酸化エチレン・プロピレン共重合ワックス、融点100℃、酸価18mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)2,600
[炭化水素系合成ワックスC];
酸化エチレン・プロピレン共重合ワックス、融点103℃、酸価17mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)4,200
[炭化水素系合成ワックスD];
酸化エチレン・プロピレン共重合ワックス、融点129℃、酸価20mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)9,500
[炭化水素系合成ワックスE];
酸化フィッシャートロプシュワックス、融点102℃、酸価30mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)2,700
[炭化水素系合成ワックスF];
酸化ポリエチレンワックス、融点94℃、酸価26mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)2,800
[炭化水素系合成ワックスG];
酸化エチレン・プロピレン共重合ワックス、融点101℃、酸価14mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)2,000
[炭化水素系合成ワックスH];
酸化ポリエチレンワックス、融点93℃、酸価33mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)2,200
【0046】
【0047】
<剥離層の塗工液作製>
下記の配合で熱転写シートに用いる剥離層の塗工液を調整した。
(剥離層塗工液)
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(軟化点70℃) 1.0質量部
ポリエチレンワックス(融点88℃) 4.0質量部
トルエン 95.0質量部
【0048】
<熱溶融性着色インク層の塗工液作製>
下記の配合で熱転写シートに用いる熱溶融性着色インク層の塗工液を調整した。
(熱溶融性着色インク層塗工液)
熱可塑性ポリエステル樹脂(軟化点60℃) 6.0質量部
カーボンブラック 6.0質量部
顔料分散剤 0.6質量部
メチルエチルケトン 70.0質量部
トルエン 17.4質量部
【0049】
(実施例1)
<熱転写シートの作製>
[耐熱滑性層の形成]
厚さ4.5ミクロンのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの一方の面に、耐熱滑性層の塗工液1を乾燥後の塗布厚さが0.05μmになるようにグラビアコーティング法にて塗布し、配合した炭化水素系合成ワックスの融点より5℃高い温風で加熱乾燥して耐熱滑性層を形成した。
[剥離層の形成]
前記PETフィルムの耐熱滑性層を形成した反対の面に、剥離層塗工液を乾燥後の塗布厚さが0.6μmになるようにバーコーティング法により塗布し、60℃の温風で加熱乾燥して剥離層を形成した。
[熱溶融性着色インク層の形成]
前記剥離層を形成した上に、熱溶融性着色インク層塗工液を乾燥後の塗布厚さが1.2μmになるようにグラビアコーティング法により塗布し、60℃の温風で加熱乾燥して熱溶融性着色インク層を形成し、耐熱滑性層/基材/剥離層/着色インク層の層構成の熱転写シートを得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液2に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0051】
(実施例3)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液3に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液4に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0053】
(実施例5)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液5に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0054】
(実施例6)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液6に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0055】
(実施例7)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液7に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0056】
(実施例8)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液8に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0057】
(実施例9)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液9に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0058】
(実施例10)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液10に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0059】
(実施例11)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液11に変更し、耐熱滑性層の乾燥後の塗布厚さを0.20μmにした以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0060】
(実施例12)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液12に変更し、耐熱滑性層の乾燥後の塗布厚さを0.02μmにした以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0061】
(比較例1)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液13に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0062】
(比較例2)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液14に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0063】
(比較例3)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液15に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0064】
(比較例4)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液16に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0065】
(比較例5)
実施例1の耐熱滑性層の塗工液を塗工液17に変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを得た。
【0066】
<耐熱性評価>
実施例1~12、比較例1~5の熱転写シートを用いて、下記印字条件で印字を行い、印字後の熱転写シートの印字抜け跡部分を目視確認し、下記評価基準に従って評価を行った。評価結果を表2に示した。(○以上であれば、実使用上問題ない)
(印字条件)
プリンター:Zebra社製110Xi4
印字速度:76mm/sec
印字エネルギー:20、30(最大)
被転写体:リンテック社製FR1415(PETフィルム)
印字パターン:印字パターンA(
図2にパターン図を示す)
(評価基準)
◎:印字エネルギー30で基材に破れがない
○:印字エネルギー20で基材に破れがない
×:印字エネルギー20で基材に破れがある
【0067】
<印字スリップ評価>
実施例1~12、比較例1~5の熱転写シートを用いて、下記印字条件で印字を行い、印字長さと印字後の熱転写シートの印字抜け跡の長さを測定し、スリップ率を下記計算式1で算出して、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
(印字条件)
プリンター:Zebra社製110Xi4
印字速度:76mm/sec
印字エネルギー:30(最大)
被転写体:リンテック社製FR1415(PETフィルム)
印字パターン:印字パターンA(
図2にパターン図を示す)
(計算式1)
スリップ率(%)={[熱転写シートの印字抜け跡長さ]/[印字長さ]}×100
(評価基準)
◎:スリップ率が98.5%以上
○:スリップ率が95.0%以上、98.5%未満
×:スリップ率が95.0%未満
【0068】
<ヘッドカス評価>
実施例1~12、比較例1~5の熱転写シートを用いて、下記印字条件で各々50m連続印字を行い、サーマルヘッドへのヘッドカスの付着状態をマイクロスコープで拡大観察(20倍)、及び印字物の印字欠陥(白抜け等)の有無を目視確認し、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
(印字条件)
プリンター:イシダ製BP-4300
印字速度:100mm/sec
印字エネルギー:95%
被転写体:リンテック社製FR1415(PETフィルム)
印字パターン:印字パターンB(
図3にパターン図を示す)を繰り返し印字(50m連続)
(評価基準)
○:サーマルヘッドにヘッドカスの著しい付着はなく、印字欠陥は全くない
×:サーマルヘッドにヘッドカスの著しい付着があり、印字欠陥が発生している
【0069】
<耐ブロッキング性評価>
実施例1~12、比較例1~5の熱転写シートを各々、90mm幅の短冊状にカットしつつ、熱転写シートの長手方向に100mN/mm幅の張力が作用した状態で、外径35mmの紙管に熱転写インク層面を内側にして300m巻き取ってロール状にし、45℃、85%RHで96時間保存した後、常温に取り出して1日以上放置した後に、熱転写シートを巻き解いてブロッキング状態(裏移り)を目視確認し、下記基準で従って評価した。評価結果を表2に示した。(○以上であれば、実使用上問題ない)
(評価基準)
◎:巻芯まで巻き解くことができ、耐熱滑性層側に熱転写インクの移行(裏移り)も見られなかった
○:巻芯まで巻き解くことができるが、巻芯部から0.5m未満でごく僅かに裏移りが見られた
×:巻芯部より0.5m以上手前から裏移りが見られた
【0070】
<テープ剥離力評価>
実施例1~12、比較例1~5の耐熱滑性層までを形成したPETフィルムを各々、耐熱滑性層面が上になるようにSUS板にPETフィルムを固定して、耐熱滑性層面に日東電工製31Bテープ(25mm幅)を貼り付けて、前記テープの上面から2kg・fのゴムローラーで1往復して圧着し、23±2℃で10分放置した後に引張試験機を用いて、前記日東電工製31Bテープを剥離角度180°、剥離速度1,200mm/分で剥離させて、その剥離力を測定し、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
(評価基準)
◎:剥離力が1.5N/25mm以下
○:剥離力が1.5Nを超え、2.0N/25mm以下
×:剥離力が2.0N/25mmを超える
【0071】