(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153145
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電気化学測定装置および金属材料の電気化学測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20241022BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20241022BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20241022BHJP
G01N 27/401 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N27/26 351J
G01N27/30 311Z
G01N27/28 301Z
G01N27/401 313A
G01N27/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066852
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 歩夢
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 昌信
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕樹
(57)【要約】
【課題】特定の溶液中での金属材料の耐食性(腐食特性)を評価するために用いる電気化学測定装置において、溶液中のコンタミが低いレベルに抑えられ、金属材料の耐食性を高精度に評価できる電気化学測定装置を提供する。
【解決手段】溶液を収容するセル1と、このセル1内の溶液に浸漬される参照電極2および対極3を備え、セル1がフッ素樹脂で構成され、参照電極2が可逆水素電極からなり、好ましくは、参照電極2の支持管は、基材であるガラス製の筒体の外側がフッ素樹脂で被覆された構成を有する。アルカリ水溶液またはフッ化物イオン(F
-)を含む酸性水溶液中での金属材料の電気化学測定において、溶液中でのガラス由来および参照電極2の内部液由来のコンタミ(ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、塩化物イオン(Cl
-)など)が極めて低いレベルに抑えられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中で金属材料の電気化学測定を行う装置であって、
溶液を収容するセル(1)と、該セル(1)内の溶液に浸漬される参照電極(2)および対極(3)を備え、
セル(1)がフッ素樹脂で構成され、参照電極(2)が可逆水素電極からなることを特徴とする電気化学測定装置。
【請求項2】
参照電極(2)である可逆水素電極の支持管は、基材であるガラス製の筒体の外側がフッ素樹脂で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項3】
参照電極(2)である可逆水素電極の支持管は、その先端部の液絡部がセラミック多孔質体で構成され、該セラミック多孔質体の空隙率が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項4】
セル(1)に付属する蓋体(4)およびコネクタ(5)がフッ素樹脂で構成されることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項5】
さらに、参照電極(2)である可逆水素電極に供給する水素ガスの温度を制御することで、該可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構(6)を備え、
該内部液温度制御機構(6)は、前記可逆水素電極に供給する水素ガスを加熱する加熱手段(60)と、前記可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段(61)と、該測温手段(61)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、加熱手段(60)による水素ガスの加熱温度を制御する制御手段(62)を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項6】
内部液温度制御機構(6)は、さらに、セル(1)内の溶液の温度を測定する測温手段(63)を備え、制御手段(62)は、測温手段(61)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段(63)で測定されるセル(1)内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度となるように、加熱手段(60)による水素ガスの加熱温度を制御することを特徴とする請求項5に記載の電気化学測定装置。
【請求項7】
さらに、参照電極(2)である可逆水素電極に供給する水素ガスの流量を制御することで、該可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構(7)を備え、
該内部液温度制御機構(7)は、前記可逆水素電極に供給する水素の流量を調整する流量調整手段(70)と、前記可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段(71)と、該測温手段(71)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、流量調整手段(70)による水素ガスの流量調整を制御する制御手段(72)を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項8】
内部液温度制御機構(7)は、さらに、セル(1)内の溶液の温度を測定する測温手段(73)を備え、制御手段(72)は、測温手段(71)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段(73)で測定されるセル(1)内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度となるように、流量調整手段(70)による水素ガスの流量調整を制御することを特徴とする請求項7に記載の電気化学測定装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の電気化学測定装置を用い、燃料電池または水電解装置に用いる金属材料の電気化学測定を行うことを特徴とする金属材料の電気化学測定方法。
【請求項10】
参照電極(2)である可逆水素電極内の内部液の温度を、セル(1)内の溶液の温度に対して±5℃以内とすることを特徴とする請求項9に記載の金属材料の電気化学測定方法。
【請求項11】
セル(1)内の溶液の温度を90℃以下とすることを特徴とする請求項9に記載の金属材料の電気化学測定方法。
【請求項12】
セル(1)内の溶液は、アルカリ水溶液またはフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の金属材料の電気化学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の溶液中での金属材料の耐食性(腐食特性)を評価するために用いる電気化学測定装置であって、特に、燃料電池や水電解装置に用いられる金属材料(特にセパレータ用の材料)の耐食性を評価するのに好適な電気化学測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みとして、水素を燃料として利用するための社会的整備が進められている。なかでも、水を電気分解することにより、純度が高く利用価値の高い水素ガスを生成する水電解装置(固体高分子形水電解装置、アニオン交換膜形水電解装置など)や、水素ガスを燃料として発電を行う燃料電池(固体高分子形燃料電池など)の普及が進んでいる。
水電解装置(水電解セル、特に固体高分子形水電解装置の水電解セル)や燃料電池を構成するセパレータには、プレス加工可能なSUS304やSUS316Lなどのステンレス鋼、ステンレス鋼よりも一般的な耐食性が高く、かつ軽量であるチタン(Ti)などの各種金属材料に電気伝導性の優れた表面処理を施したものが使用される。これらのなかでも、今後は経済性の面から金属材料にステンレス鋼を用いるものが主流になると予想される。また、アニオン交換膜形水電解装置の水電解セルでは、ニッケル、ニッケル合金、電気伝導性に優れた表面処理ステンレス鋼の使用が検討されている。
【0003】
水電解装置(特に固体高分子形水電解装置)の水電解中や燃料電池(特に固体高分子形燃料電池)の発電中には、MEA(膜・電極接合体)のプロトン伝導性膜として使用されるパーフルオロスルホン酸高分子膜の劣化により、硫酸イオン(SO4
2-)やフッ化物イオン(F-)イオンが遊離する。これらイオンが、セパレータ/多孔質輸送層またはセパレータ/ガス拡散層の界面に濃縮し、フッ化物イオンを含む酸性環境となるため、水電解装置や燃料電池に用いられる金属材料には、そのような環境下での耐食性が必要となる。このため、そのような環境下で使用される材料については、模擬環境、すなわちフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液中での耐食性(腐食特性)を評価するための電気化学測定が行われる。
【0004】
また、水電解装置(特にアニオン交換膜形水電解装置)の水電解には、電解液としてアルカリ性の水溶液(一般的には水酸化カリウムなどの水溶液)を使用することから、セパレータはアルカリ性環境にさらされるため、そのような環境下での耐食性が必要となる。このため、そのような環境下で使用される材料については、模擬環境、すなわちアルカリ水溶液中での耐食性(腐食特性)を評価するための電気化学測定が行われる。
【0005】
一般に、水電解装置や燃料電池に用いられる金属材料の電気化学測定は、評価対象となる金属材料に対して参照電極との間の電位を制御した状態で行われる。この電気化学測定は、評価対象となる金属材料を作用電極とし、この作用電極と、対極(白金電極)と、電位の基準となる参照電極(一般には銀/塩化銀電極)を同一の試験溶液(上記フッ化物イオンを含む酸性水溶液またはアルカリ水溶液(フッ化物イオンを含まない))に浸漬させる三電極セルを用い、60℃~80℃程度の加温状態で実施される(例えば、特許文献1)。一般に三電極セルの材質としてはガラスが用いられる。
例えば、非特許文献1では、三電極セルを用いて1M H2SO4+2ppm F-溶液中70℃で各種ステンレス鋼の電気化学測定(アノード分極試験、定電位分極試験)を実施し、測定した電流値の大小から固体高分子形燃料電池環境における耐食性の序列を明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Wang,G.Teeter,J.Turner,「Investigation of a Duplex Stainless Steel as Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell Bipolar Plate Material」,Journal of the Electrochemical Society,152(3),B99-B104(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが試験および検討を重ねた結果、上述した金属材料の電気化学測定において、試験溶液(フッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液またはアルカリ水溶液(フッ化物イオンを含まない))にコンタミが発生し、これが耐食性評価の精度に影響を及ぼしていることが判明した。
したがって本発明の目的は、溶液中での金属材料の耐食性(腐食特性)を評価するために用いる電気化学測定装置において、溶液中のコンタミが低いレベルに抑えられ、金属材料の耐食性を高精度に評価することができる電気化学測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、試験溶液中のコンタミが電気化学測定の精度に及ぼす影響について調査・検討した結果、コンタミの主体が塩化物イオン(Cl-)とその他の特定の元素成分であり、このコンタミにより以下のような問題が生じ、耐食性評価の精度を低下させていることが判明した。
(i)塩化物イオン(Cl-)が試料(作用電極)の腐食を加速させ、腐食電流の測定精度を低下させる。特に、試料としてステンレス鋼を用いた場合には、極微量な塩化物イオン(Cl-)の混入であっても試料の腐食が促進される。
(ii)電気化学測定に供した試験溶液について、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)や誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により作用電極からの溶出金属の定量を行う場合に、コンタミがその分析結果に悪影響を及ぼす。
(iii)電気化学試験に供した試料(試験片)について、のちに接触抵抗の測定試験を行うが、コンタミにより接触抵抗が増加し、高精度な測定ができない。
【0010】
上述した金属材料の電気化学測定において、試験溶液に生じたコンタミの成分を調べたところ、その主体は塩化物イオン(Cl-)とガラス成分の一部(ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)など)であり、また、発生源としては、前者は参照電極(一般には銀/塩化銀電極)の内部液由来の塩化物イオン(Cl-)であり、後者は電気化学測定装置のセルや参照電極を構成しているガラス由来の成分であることが判った。
【0011】
従来の電気化学測定装置では、一般に参照電極として銀/塩化銀電極などが用いられているが、その液絡部から試験溶液中に溶出する内部液(KCl溶液)が塩化物イオン源であり、これがコンタミとして試験溶液中に含まれていることが判った。また、従来の電気化学測定装置ではガラス製セルが使用されているが、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解セルにおける金属セパレータ材料の電気化学測定では、試験溶液温度が80℃程度と比較的高温であるために、試験溶液がフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液の場合、セルのガラスが試験液中のフッ化物イオン(F-)により汚染され、試験溶液中にガラス成分の一部がコンタミとして溶出することが判った。また、参照電極を構成する筒体もガラス製であり、この筒体からも試験溶液中にガラス成分の一部がコンタミとして溶出することが判った。また、試験溶液がアルカリ水溶液の場合には、言うまでもなくセルや参照電極を構成する筒体のガラス成分が試験溶液に溶け出し、コンタミとなる。
【0012】
そこで、本発明では、以上のようなコンタミ対策として、参照電極に内部液が塩化物を含まない可逆水素電極を用いることで、塩化物イオンの発生源をなくすことにより、参照電極の内部液由来のコンタミ(塩化物イオン)が生じないようにし、さらに、セルをフッ素樹脂で構成し、好ましくは参照電極を構成するガラス製の筒体にフッ素樹脂被覆を施すことにより、ガラス由来のコンタミ(ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)など)を極低いレベルに抑えるようにしたものである。
すなわち、上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
[1]溶液中で金属材料の電気化学測定を行う装置であって、
溶液を収容するセル(1)と、該セル(1)内の溶液に浸漬される参照電極(2)および対極(3)を備え、
セル(1)がフッ素樹脂で構成され、参照電極(2)が可逆水素電極からなることを特徴とする電気化学測定装置。
[2]上記[1]の電気化学測定装置において、参照電極(2)である可逆水素電極の支持管は、基材であるガラス製の筒体の外側がフッ素樹脂で被覆されていることを特徴とする電気化学測定装置。
【0014】
[3]上記[1]または[2]の電気化学測定装置において、参照電極(2)である可逆水素電極の支持管は、その先端部の液絡部がセラミック多孔質体で構成され、該セラミック多孔質体の空隙率が40%以下であることを特徴とする電気化学測定装置。
[4]上記[1]~[3]のいずれかの電気化学測定装置において、セル(1)に付属する蓋体(4)およびコネクタ(5)がフッ素樹脂で構成されることを特徴とする電気化学測定装置。
【0015】
[5]上記[1]~[4]のいずれかの電気化学測定装置において、さらに、参照電極(2)である可逆水素電極に供給する水素ガスの温度を制御することで、該可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構(6)を備え、
該内部液温度制御機構(6)は、前記可逆水素電極に供給する水素ガスを加熱する加熱手段(60)と、前記可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段(61)と、該測温手段(61)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、加熱手段(60)による水素ガスの加熱温度を制御する制御手段(62)を備えることを特徴とする電気化学測定装置。
[6]上記[5]の電気化学測定装置において、内部液温度制御機構(6)は、さらに、セル(1)内の溶液の温度を測定する測温手段(63)を備え、制御手段(62)は、測温手段(61)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段(63)で測定されるセル(1)内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度となるように、加熱手段(60)による水素ガスの加熱温度を制御することを特徴とする電気化学測定装置。
【0016】
[7]上記[1]~[4]のいずれかの電気化学測定装置において、さらに、参照電極(2)である可逆水素電極に供給する水素ガスの流量を制御することで、該可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構(7)を備え、
該内部液温度制御機構(7)は、前記可逆水素電極に供給する水素の流量を調整する流量調整手段(70)と、前記可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段(71)と、該測温手段(71)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、流量調整手段(70)による水素ガスの流量調整を制御する制御手段(72)を備えることを特徴とする電気化学測定装置。
[8]上記[7]の電気化学測定装置において、内部液温度制御機構(7)は、さらに、セル(1)内の溶液の温度を測定する測温手段(73)を備え、制御手段(72)は、測温手段(71)で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段(73)で測定されるセル(1)内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度となるように、流量調整手段(70)による水素ガスの流量調整を制御することを特徴とする電気化学測定装置。
【0017】
[9]上記[1]~[8]のいずれかの電気化学測定装置を用い、燃料電池または水電解装置に用いる金属材料の電気化学測定を行うことを特徴とする金属材料の電気化学測定方法。
[10]上記[9]の電気化学測定方法において、参照電極(2)である可逆水素電極内の内部液の温度を、セル(1)内の溶液の温度に対して±5℃以内とすることを特徴とする金属材料の電気化学測定方法。
[11]上記[9]または[10]の電気化学測定方法において、セル(1)内の溶液の温度を90℃以下とすることを特徴とする金属材料の電気化学測定方法。
[12]上記[9]~[11]のいずれかの電気化学測定方法において、セル(1)内の溶液は、アルカリ水溶液またはフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液であることを特徴とする金属材料の電気化学測定方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気化学測定装置は、参照電極に内部液が塩化物を含まない可逆水素電極を用いることで、塩化物イオンの発生源をなくすことができ、これにより参照電極の内部液由来のコンタミ(塩化物イオン)を実質的になくすことができる。さらに、セルをフッ素樹脂で構成し、好ましくは参照電極を構成するガラス製の筒体にフッ素樹脂被覆を施すことにより、ガラス由来のコンタミ(ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)など)を極低いレベルに抑えることができる。これらの結果、試験溶液中でのコンタミが極めて低いレベルに抑えられ、試験溶液中の溶出金属の分析精度、試料の接触抵抗の測定精度、腐食電流の測定精度などが向上し、金属材料の耐食性(腐食特性)を的確に評価することができる。このため本発明の電気化学測定装置は、燃料電池や水電解装置に用いる金属材料(特にセパレータ用の材料)の耐食性を評価するための電気化学測定装置として特に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の電気化学測定装置の一実施形態を模式的に示す説明図
【
図2】本発明の電気化学測定装置が備える参照電極の一実施形態を示す正面面
【
図4】本発明の電気化学測定装置が備える参照電極の他の実施形態を示すもので、筒体の先端部の部分拡大縦断面図
【
図5】可逆水素電極(参照電極)の内部液温度を制御するための内部液温度制御機構を備える本発明装置の一実施形態を模式的に示す説明図
【
図6】可逆水素電極(参照電極)の内部液温度を制御するための内部液温度制御機構を備える本発明装置の他の実施形態を模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電気化学測定装置は、特定の溶液中での金属材料の耐食性(腐食特性)を評価するために用いる装置であり、この電気化学測定装置は、基本的には、セル内の溶液(以下「試験溶液」という場合がある。)中で試験対象試料に電位を印加し、その電気的レスポンス(腐食電流など)を測定するために使用されるが、さらに、セル内の溶液中への溶出金属の定量分析などを行うためにも使用され、それらの測定・分析結果に基づき、金属材料の耐食性(腐食特性)を評価することができる。ここで、金属材料の電気化学測定を行う特定の溶液(試験溶液)としては、例えば、「フッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液」、「アルカリ水溶液」が挙げられる。
【0021】
図1は、本発明の電気化学測定装置の一実施形態を模式的に示すもので、装置の使用状態を示す説明図(セルを縦断面した状態の説明図)である。
この電気化学測定装置は、溶液y(例えば「フッ化物イオン(F
-)を含む酸性水溶液」や「アルカリ水溶液」)を収容するセル1(試験槽)と、このセル1内の溶液yに浸漬される参照電極2および対極3を備え、装置使用時には、図示するように試験対象金属材料である試料x(作用電極)も溶液yに浸漬される。これらの構成は、従来使用されている公知の測定装置と同様である。
【0022】
セル1は上部が開放したビーカー状の容器であり、上部開口に蓋体4が装着される。この蓋体4には、上記参照電極2や対極3などを取り付けるための複数の取付孔40が貫設されている。参照電極2、対極3および試料xは、それぞれ取付孔40を通じてセル1内に挿し込まれ、コネクタ5を介して蓋体4に支持される。すなわち、コネクタ5は、参照電極2、対極3および試料xを蓋体4に支持させる役目をする。また、コネクタ5は、溶液yの蒸発防止のため、取付孔40の上端を塞ぐ役目もする。
また、蓋体4には、温度計を取り付けるための取付孔(図示せず)が貫設されてもよい。温度計は、その取付孔を通じてセル1内に挿し込まれる。温度計を挿し込むことで、例えば液温を制御しようとするときに、液温を正確に評価することができる。
【0023】
本発明装置では、セル1がフッ素樹脂で構成される。従来装置のセルはガラス製であるが、さきに述べたようにガラス製のセルにフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液やアルカリ水溶液を入れるとガラス成分(ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)など)が溶出してコンタミとなることが判った。これに対して、本発明装置が備えるフッ素樹脂製のセル1はフッ化物イオン(F-)を含む酸性水溶液やアルカリ水溶液に対して安定であり、ガラス由来の溶出成分のようなコンタミを生じることがない。
また、セル1に付属する蓋体4およびコネクタ5は、溶液yが直に接する部材ではないが、蒸発した溶液yが付着することになるので、これらの部材もフッ素樹脂で構成されることが好ましい。
【0024】
本発明装置では、参照電極2は可逆水素電極(Reversible Hydrogen Electrode,RHE)からなる。参照電極2は、その内部液の一部(イオン)が液絡部から溶液y中に極微量リークするが、可逆水素電極は塩化物を含まないため、溶液y中への塩化物イオン(Cl-)の混入をなくすことができる。なお、この可逆水素電極は、通常、シングルジャンクション型電極である。
さらに、本発明装置では、ガラス由来の溶出成分によるコンタミを生じないようにするため、若しくはそのようなコンタミを極低いレベルに抑えるため、参照電極2である可逆水素電極の支持管は、基材であるガラス製の筒体の外側がフッ素樹脂で被覆されることが好ましい。なお、可逆水素電極の支持管自体をフッ素樹脂で構成することも検討されたが、フッ素樹脂製の筒体(支持管)と液絡部を構成するセラミック多孔質体との熱膨張差が大きいため、筒体の内部液が試験溶液中に多量に漏洩し、使用に耐え得ないことが判った。これに対して、筒体の基材であるガラス製の筒体は熱膨張率がセラミック多孔質体に近く、そのような問題は生じない。
【0025】
図2および
図3は、本発明装置の参照電極2(可逆水素電極)の一実施形態を示すものであり、
図2は正面図、
図3は
図2中のA部(支持管の先端部)の部分拡大縦断面図である。
参照電極2である可逆水素電極は、支持管20、この支持管20の先端側の内部に配される白金電極21(白金黒化した電極)、この白金電極21に接続される白金導線22、支持管20内に沿って配され、先端部から白金電極21に水素ガスを供給する水素ガス導入管23、支持管20の先端部の液絡部(ジャンクション)を構成するセラミック多孔質体24、支持管20内に充填される内部液25などで構成されている。この内部液は、溶液y(試験溶液)と同じpHの電解質(通常は溶液yと同じ溶液)である。
図2のその他の構成としては、230はガス導入管23の先端部のガス吐出口、231はガス導入管23に水素ガスを供給するガス導入口、26は支持管20内の水素ガスを排出するガス排出口である。以上のような参照電極2(可逆水素電極)の構成は、従来使用されている公知の可逆水素電極と同様である。
なお、支持管2は基材である筒体が透明なガラス製であるため、
図2では、支持管2内に配される白金電極21、白金導線22、水素ガス導入管23、セラミック多孔質体24などは実線で表してある。
【0026】
支持管20は、基材であるガラス製の筒体27の外側にフッ素樹脂被覆層28が形成されている。溶液yと接触するガラス基材(筒体27)表面をなるべく少なくするという観点から、フッ素樹脂被覆層28は、少なくとも、溶液yと接触する支持管20表面(蒸発した溶液yが付着する支持管20表面を含む)の主要部に形成されることが好ましい。
本実施形態では、ガス導入口231よりも下部側(先端側)の支持管(筒体)部分に対して、筒体先端面を除く周面全体(
図2に示す範囲)にフッ素樹脂被覆層28が形成されている。
このフッ素樹脂被覆層28は、フッ素樹脂製の熱収縮用チューブを筒体27に被せた後、これを熱収縮させることにより形成したものであるため、筒体27の先端面にはフッ素樹脂被覆層28がなく、この部分でガラス基材が溶液yと接触するが、この程度の接触範囲であればガラス成分の溶出は無視できる程度であり、問題ない。
【0027】
フッ素樹脂被覆層28は、上述したようにフッ素樹脂製の熱収縮用チューブを筒体27に被せた後、ヒートガンなどにより熱収縮させる方法、フッ素樹脂を塗装(液体塗料のスプレー塗装、粉体塗装など)する方法など、任意の方法で形成することができる。
フッ素樹脂を塗装する方法では、筒体27の先端面にもフッ素樹脂被覆層28を形成することができる。
図4は、その場合の実施形態を示すもので、支持管20の先端部の部分拡大縦断面図である。この実施形態では、フッ素樹脂被覆層28は、筒体27の周面だけでなく筒体27の先端面にも形成されている。
【0028】
セル1およびフッ素樹脂被覆層28(さらには、蓋体4やコネクタ5など)を構成するフッ素樹脂の種類に特別な制限はない。使用可能なフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0029】
以上のように本発明装置は、参照電極2に内部液が塩化物を含まない可逆水素電極を用いることで、塩化物イオンの発生源をなくすとともに、セル1がフッ素樹脂で構成され、さらに好ましくは、参照電極2(可逆水素電極)の支持管20の基材であるガラス製の筒体27の外側がフッ素樹脂で被覆されることにより、溶液y中への塩化物イオン(Cl-)の混入をなくし、かつガラス由来のコンタミ(ボロン(B)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)など)の発生を極低いレベルに抑えることができる。すなわち、溶液y中に含まれる塩化物イオン(Cl-)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の定量分析において、溶液y中の塩化物イオン(Cl-)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の各定量分析値を0.1mgL-1未満(定量限界)とすることができる。
【0030】
参照電極2の支持管先端の液絡部は、通常、本実施形態のようなセラミック多孔質体24で構成されるが、このセラミック多孔質体24は、空隙率が大きすぎると内部液が多量に流出して支持管20の内部液が不足する場合がある。このため、セラミック多孔質体24の空隙率は40%以下が好ましく、38%以下がより好ましい。
また、電位の変化による測定精度の低下を防止するために、参照電極2である可逆水素電極内の内部液を試験溶液(溶液y)に対して所定範囲内の温度、好ましくは試験溶液(溶液y)に対して±5℃以内の温度、より好ましくは±3℃以内の温度に保つことが望ましい。ここで、可逆水素電極には水素ガスを通すが、ドライな室温ガスを通すと可逆水素電極の内部液の温度が低下し、内部液の温度を試験溶液に対して所定範囲内の温度(好ましくは±5℃以内の温度、より好ましくは±3℃以内の温度)に維持することができなくなる場合がある。
このため、本発明装置は参照電極2である可逆水素電極の内部液の温度を制御するための内部液温度制御機構を備えることが好ましい。
【0031】
図5は、可逆水素電極(参照電極)の内部液温度を制御するための内部液温度制御機構を備える本発明装置の一実施形態を模式的に示すものであり、この実施形態は、可逆水素電極(参照電極2)に供給する水素ガスの温度を制御することで、可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構6(手段)を備えた装置を示している。
この実施形態の装置では、水素ボンベ8からガス配管9を通じて可逆水素電極(参照電極2)に水素ガスが供給される。ガス配管9には、流量調整手段10(流量調整器)とレギュレータ11が設けられ、流量調整手段10により水素ガスの流量(供給量)が調整される。また、セル1の外面に沿ってヒータ12が付設され、このヒータ12によりセル1内の溶液(試験液)が加熱される。
ガス配管9は、後述するように輸送中の水素ガスをヒータで加熱する関係上、熱伝導率が高い金属製(例えば、ステンレス鋼製)とするのが好ましい。
流量調整手段10は、例えば、流量計やマスフローコントローラ(MFC)などで構成することができるが、これらに限定されない。
【0032】
内部液温度制御機構6は、可逆水素電極(参照電極2)に供給する水素ガスを加熱する加熱手段60と、可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段61と、この測温手段61で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、加熱手段60による水素ガスの加熱温度を制御する制御手段62(コントローラ)などで構成されている。
加熱手段60の構成は特に限定されないが、本実施形態ではガス配管9を覆うようにその長手方向に沿って設けられたヒータ(電気ヒータなど)で構成されている。なお、加熱手段60は、例えば、ガス配管9の途中に設けられる加熱装置などで構成してもよく、この場合には、加熱装置の下流側のガス配管9を保熱構造とするのが好ましい。
測温手段61は、通常、可逆水素電極(参照電極2)内に挿入される熱電対で構成される。
【0033】
本実施形態の内部液温度制御機構6は、さらに、セル1内の溶液の温度を測定する測温手段63を備えるとともに、加熱手段60で加熱されて可逆水素電極に導入される直前の水素ガス(ガス配管9内の水素ガス)の温度を測定する測温手段64を備えている。なお、この測温手段64は必須ではないが、より精度よく温度制御を行う点から備えているのが好ましい。
測温手段63,64は、通常、それぞれ熱電対で構成される。測温手段63を構成する熱電対の外側にはフッ素樹脂被覆層65が形成されている。このフッ素樹脂被覆層65を構成するフッ素樹脂の種類については、さきに説明したフッ素樹脂被覆層28と同様である。
測温手段61,63,64を構成する熱電対は、測温対象内に配置して直接温度を測定する接触式の温度センサであるが、測温手段61,63,64は、そのような接触式の温度センサに代えて非接触式の温度センサで構成してもよい。
測温手段61,63,64で測定された温度情報は制御手段62に入力され、制御手段62は、これら温度情報に基づき加熱手段60による水素ガスの加熱温度を制御する。
【0034】
具体的には、測温手段61により可逆水素電極の内部液の温度が測定され、その温度情報が制御手段62に入力され、制御手段62は、その温度情報に基づいて、可逆水素電極の内部液が所定の温度となるように、加熱手段60による水素ガスの加熱温度を制御する。
また、本実施形態では、測温手段63によりセル1内の溶液の温度が測定され、その温度情報が制御手段62に入力され、制御手段62は、その温度情報と測温手段61による可逆水素電極の内部液の温度情報に基づいて、測温手段61で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段63で測定されるセル1内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度、好ましくは±5℃以内の温度(さらに好ましくは±3℃以内の温度)となるように、加熱手段60による水素ガスの加熱温度を制御する。
また、本実施形態では、制御手段62が加熱手段60による水素ガスの加熱温度をより精度良く制御できるようにするために、測温手段64により、加熱手段60で加熱されて可逆水素電極に導入される直前の水素ガス(ガス配管9内の水素ガス)の温度が測定され、その温度情報が制御手段62に入力され、制御手段62は、その温度情報に基づき加熱手段60による水素ガスの加熱温度を制御する。
【0035】
図6は、可逆水素電極(参照電極)の内部液温度を制御するための内部液温度制御機構を備える本発明装置の他の実施形態を模式的に示すものであり、この実施形態は、可逆水素電極(参照電極2)に供給する水素ガスの流量を制御することで、可逆水素電極の内部液の温度を制御する内部液温度制御機構7(手段)を備えた装置を示している。ここで、可逆水素電極の内部液の温度は、同電極内に供給される水素ガスの流量で調整することができ、水素ガスの流量が増加するにしたがって内部液の温度は低下する。
この実施形態の装置でも、水素ボンベ8からガス配管9を通じて可逆水素電極(参照電極2)に水素ガスが供給される。ガス配管9には、流量調整手段70(流量調整器)とレギュレータ11が設けられ、流量調整手段70により水素ガスの流量(供給量)が調整される。また、セル1の外面に沿ってヒータ12が付設され、このヒータ12によりセル1内の溶液(試験液)が加熱される。
【0036】
内部液温度制御機構7は、可逆水素電極(参照電極2)に供給する水素の流量を調整する上記流量調整手段70と、可逆水素電極の内部液の温度を測定する測温手段71と、この測温手段71で測定される可逆水素電極の内部液の温度が所定の温度となるように、流量調整手段70による水素ガスの流量調整を制御する制御手段72(コントローラ)などで構成されている。
流量調整手段70は、例えば、流量計やマスフローコントローラ(MFC)などで構成することができるが、これらに限定されない。
測温手段71は、通常、可逆水素電極(参照電極2)内に挿入される熱電対で構成される。
本実施形態の内部液温度制御機構7は、さらに、セル1内の溶液の温度を測定する測温手段73を備えている。この測温手段73も、通常、熱電対で構成される。測温手段73を構成する熱電対の外側にはフッ素樹脂被覆層74が形成されている。このフッ素樹脂被覆層74を構成するフッ素樹脂の種類については、さきに説明したフッ素樹脂被覆層28と同様である。
測温手段71,73を構成する熱電対は、測温対象内に配置して直接温度を測定する接触式の温度センサであるが、測温手段71,73は、そのような接触式の温度センサに代えて非接触式の温度センサで構成してもよい。
【0037】
測温手段71,73で測定された温度情報は制御手段72に入力され、制御手段72は、これら温度情報に基づき流量調整手段70による水素ガスの流量調整を制御する。
具体的には、測温手段71により可逆水素電極の内部液の温度が測定され、その温度情報が制御手段72に入力され、制御手段72は、その温度情報に基づいて、可逆水素電極の内部液が所定の温度となるように、流量調整手段70による水素ガスの流量調整を制御する。すなわち、内部液の温度を下げたいときには水素ガスの流量を多くし、内部液の温度を上げたいときには水素ガスの流量を少なくする。水素ガスの流量と内部液の温度との関係は予め求められ、制御手段72に記憶(設定)されており、制御手段72は、その関係に基づき流量調整手段70による水素ガスの流量調整を制御する。
また、本実施形態では、測温手段73によりセル1内の溶液の温度が測定され、その温度情報が制御手段72に入力され、制御手段72は、その温度情報と測温手段71による可逆水素電極の内部液の温度情報に基づいて、測温手段71で測定される可逆水素電極の内部液の温度が、測温手段73で測定されるセル1内の溶液の温度に対して所定範囲内の温度、好ましくは±5℃以内の温度(さらに好ましくは±3℃以内の温度)となるように、流量調整手段70による水素ガスの流量調整を制御する。
【0038】
次に、本発明装置の好ましい使用条件と、本発明装置を用いた電気化学測定方法について説明する。
本発明装置を使用する場合、試験温度が高すぎると(例えば100℃以上)、試験溶液が沸騰してしまうのでセル内部の内圧が高くなる恐れがある。このため、試験温度すなわち試験溶液(溶液y)の温度は90℃以下、より好ましくは80℃以下とするのがよい。また、試験溶液(溶液y)の温度の下限については、溶液が凍結しない温度である0℃以上とするのがよい。試験溶液の温度を制御するには、
図5や
図6の実施形態のようにセル1に付設したヒータによる加熱を行うほかに、恒温槽で加熱するようにしてもよい。
また、上述したように、電位の変化による測定精度の低下を防止するために、参照電極2である可逆水素電極内の内部液を試験溶液に対して所定範囲内の温度とするのがよく、好ましくは試験溶液に対して±5℃以内の温度、さらに好ましくは±3℃以内の温度とするのがよい。可逆水素電極内の内部液の温度制御は、例えば、
図5や
図6の実施形態のような内部液温度制御機構を用いればよい。
【0039】
本発明装置は、様々な金属材料の耐食性(腐食特性)を評価するための電気化学測定に使用することができるが、特に、燃料電池(なかでも固体高分子形燃料電池など)や水電解装置(なかでも固体高分子形水電解装置やアニオン交換膜形水電解装置など)に用いる金属セパレータ材料の耐食性(腐食特性)を評価するための電気化学測定装置として好適である。この場合(
図1参照)、溶液yを所定の模擬環境、すなわち所定濃度のフッ化物イオン(F
-)を含む酸性水溶液またはアルカリ水溶液(フッ化物イオン(F
-)を含まない)として、金属セパレータ材料(候補材料)を試料xとする電気化学測定が行われ、その結果である腐食電流や溶液yの溶出金属の分析結果などにより、試験対象金属材料の耐食性(腐食特性)が評価される。
【実施例0040】
図1に示すような構造を有する発明例と比較例の電気化学測定装置を用い、セルおよび参照電極の構成成分の溶出(参照電極の内部液の滲出を含む)試験を行った。発明例1,2と比較例1,2の装置構成は以下の通りである。
・発明例1
セル1をフッ素樹脂(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体;PFA)で構成するとともに、蓋体4およびコネクタ5もフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE)で構成した。さらに、参照電極2であるシングルジャンクション型の可逆水素電極の支持管20は、基材であるガラス製の筒体27の外側に、
図2および
図3に示すようなフッ素樹脂被覆層28を設けた。このフッ素樹脂被覆層28は、ガラス製の筒体27にフッ素樹脂(PTFE)の熱収縮チューブを被せ、これを熱収縮させることで形成した。参照電極2の先端のセラミック多孔質体24は、線径が0.4mm、空隙率が30%のものとした。
・発明例2
セル1をフッ素樹脂(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体;PFA)で構成するとともに、蓋体4およびコネクタ5もフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE)で構成した。参照電極2であるシングルジャンクション型の可逆水素電極の支持管20はガラス製である。参照電極2の先端のセラミック多孔質体24は、線径が0.4mm、空隙率が30%のものとした。
【0041】
・比較例1
セルおよび蓋は発明例と同様の構成とし、参照電極はガラス管製のダブルジャンクション型飽和KCl銀/塩化銀電極とした。この参照電極の外筒は、基材であるガラス製の筒体の外側に、発明例と同様のフッ素樹脂被覆層を設けた。参照電極2の先端のセラミック多孔質体24は、線径が2.2mm、空隙率が42%のものとした。
・比較例2
セルおよび蓋がガラスで構成されている従来装置であり、参照電極はガラス管製のダブルジャンクション型飽和KCl銀/塩化銀電極とした。従来装置であるので、この参照電極の外筒には、比較例1のようなフッ素樹脂被覆層は設けなかった。参照電極2の先端のセラミック多孔質体24は、線径が2.2mm、空隙率が42%のものとした。
なお、発明例、比較例ともに、セルの蓋体において作用電極、対極が挿入される箇所は、試験溶液の蒸発防止のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のロッドで密栓した。
【0042】
溶出試験に使用する試験溶液として、硫酸にフッ化物イオン(F-)が2ppmになるようにNaF粉末を試薬の状態で添加し、硫酸濃度でpH3に調整した水溶液を作製し、この試験溶液をセルに400mL注いだ後、恒温水槽中で試験溶液が353K(80℃)になるように昇温し、その温度で溶出試験を1週間行った。
溶出試験後、試験溶液にコンタミした成分について、ガラス由来成分であるホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)についてはICP-AESにより、塩化物イオン(Cl-)についてはイオンクロマトグラフにより、それぞれ定量分析を行った。比較のために、溶出試験前の試験溶液についても同様の分析を行った。その定量分析結果を表1に示す。
なお、ICP-AESによるホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の定量限界、イオンクロマトグラフによる塩化物イオン(Cl)の定量限界は、それぞれ<0.1mgL-1である。ガラス由来のホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の溶出量が0.5mgL-1未満のものを「合格」、塩化物イオン(Cl-)が0.1mgL-1未満のものを「合格」とし、最終的には、これら評価項目をすべて満足する場合に、総合評価を「合格」とした。
【0043】
表1によれば、発明例1では試験溶液中へのホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、塩化物イオン(Cl-)の溶出量はいずれも0.1mgL-1未満であった。そのため、総合評価は「合格」とした。
また、発明例2では試験溶液中へのホウ素(B)、アルミニウム(Al)、塩化物イオン(Cl-)の溶出量はいずれも0.1mgL-1未満であった。また、ケイ素(Si)の溶出量は0.5mgL-1未満であった。そのため、総合評価は「合格」とした。
これに対して比較例1では、試験溶液中へのホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の溶出量はいずれも0.1mgL-1未満であったが、塩化物イオン(Cl-)の溶出量は13.1mgL-1であった。そのため、総合評価は「不合格」とした。
比較例2では、試験溶液中へのホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の溶出量はそれぞれ、B:0.3mgL-1、Al:0.2mgL-1、Si:1.3mgL-1であった。また、塩化物イオン(Cl-)の溶出量は13.1mgL-1であった。したがって、総合評価は「不合格」とした。
以上の試験結果より、発明例では、試験溶液中へのホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、塩化物イオン(Cl-)の溶出量が、要求される水準を満たすことが分かった。
【0044】