(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153159
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】グラフェン粉末、グラフェン分散液、組成物およびそれを用いた形成物
(51)【国際特許分類】
C01B 32/182 20170101AFI20241022BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20241022BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241022BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C01B32/182
C01B32/194
C08K3/04
C08L63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066878
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 善英
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC08A
4G146AC08B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AC28A
4G146AC28B
4G146AD11
4G146BA02
4G146BB02
4G146BB12
4G146BC41
4G146CA15
4J002CD051
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA107
4J002EP038
4J002FB086
4J002FD117
4J002FD148
4J002GH00
(57)【要約】
【課題】塗布性に優れたグラフェン粉末および耐腐食性に優れた組成物を提供すること。
【解決手段】X線光電子分光法による酸素/炭素の元素比(O/C比)が0.05以上0.60以下であり、JIS K5101(2004)に準拠した100gあたりの吸油量が500g以上10000g以下であるグラフェン粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光法による酸素/炭素の元素比(O/C比)が0.05以上0.60以下であり、JIS K5101(2004)に準拠した100gあたりの吸油量が500g以上10000g以下であるグラフェン粉末。
【請求項2】
前記グラフェン粉末の、JIS K5101(2004)に準拠した100gあたりの吸油量が3000g以上6000g以下である請求項1記載のグラフェン粉末。
【請求項3】
BET測定法により測定される比表面積が100m2/g以上1000m2/g以下である請求項2記載のグラフェン粉末。
【請求項4】
前記グラフェン粉末の1層の平均厚さが0.3nm以上10nm以下である請求項3記載のグラフェン粉末。
【請求項5】
前記グラフェン粉末が、窒素を含む表面処理剤で修飾されている請求項4記載のグラフェン粉末。
【請求項6】
前記グラフェン粉末のX線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の元素の比(N/C比)が、0.005以上0.200以下である請求項5記載のグラフェン粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のグラフェン粉末が、有機溶媒に分散されてなるグラフェン分散液。
【請求項8】
前記有機溶媒が、芳香族炭化水素系溶媒および/またはアルコール系溶媒を含む請求項7記載のグラフェン分散液。
【請求項9】
請求項8記載のグラフェン分散液と、硬化性樹脂および/またはその前駆体とを含む組成物。
【請求項10】
前記組成物中の総固形分に対して、グラフェン含有量が0.01重量%以上5.0重量%以下である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
請求項10記載の組成物を、基材上に設けてなる形成物。
【請求項12】
前記基材が、金属である請求項11記載の形成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン粉末およびそれを用いた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン粉末は、炭素原子からなる二次元結晶であり、2004年に発見されて以来、非常に注目されている素材である。グラフェン粉末の薄層シート構造は、金属腐食原因物質である酸素や水の透過を抑制することができる。かかるグラフェン粉末の機能を活用した用途の一例として耐腐食性塗料が挙げられ、グラフェン粉末を用いることにより、耐腐食性のさらなる向上が期待されている。
【0003】
グラフェン粉末を工業的に利用するために、電気抵抗が低く、塗布性および分散性に優れるグラフェン粉末の分散液が用いられている。グラフェン粉末の分散液としては、例えば、グラフェン粉末がN-メチルピロリドンを50質量%以上含む溶媒に分散した分散液であって、N-メチルピロリドンでグラフェン重量分率0.000013に調整した希釈液の、波長270nmにおける重量吸光係数が25000cm-1以上200000cm-1以下であるグラフェン分散液(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、グラフェン分散液の製造方法としては、例えば、還元工程、微細化工程、有機溶媒混合工程、強撹拌工程、水分除去工程を有するグラフェンを分散液にする製造方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/047521号
【特許文献2】国際公開第2017/047523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラフェン粉末の応用範囲を広げる上では、グラフェン粉末を様々な形状に成形する技術が求められており、そのために、グラフェン粉末を単層または複数層の薄層状態に分散させた分散液とすることが有効である。しかし、分散液中において、薄層状態のグラフェンは積層凝集しやすく、さらに凝集したシート状のグラフェン同士は絡まり合いやすい傾向にある。特許文献1や特許文献2に記載された技術に対しても、様々な組成物中へのさらなる分散性の向上が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、分散性に優れたグラフェン粉末、および耐腐食性に優れる硬化物を得ることのできる組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、X線光電子分光法による酸素/炭素の元素比(O/C比)が0.05以上0.60以下であり、JIS K5101(2004)に準拠した100gあたりの吸油量が500g以上10000g以下であるグラフェン粉末である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグラフェン粉末は分散性が高く、耐腐食性に優れる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<グラフェン粉末>
本発明のグラフェン粉末は、X線光電子分光法による酸素/炭素の元素比(O/C比)が0.05以上0.60以下であり、JIS K5101(2004)に準拠した100gあたりの吸油量が500g以上10000g以下であることを特徴とする。本発明においては、グラフェン粉末の分散性を評価する指標として、吸油量に着目した。
【0010】
本発明におけるグラフェン粉末の吸油量は、グラフェン粉末の剥離状態によって変化する。十分に剥離した薄層グラフェンであれば、表面間の相互作用によりグラフェン同士のネットワークを形成しやすいグラフェン数が多く、グラフェン間に吸着するアマニ油量が多くなり、グラフェン粉末の吸油量は多くなる。一方、剥離が不十分な場合、積層数の増加や凝集の形成によって単位重量あたりのグラフェン数が少なく、グラフェン層間に吸着するアマニ油量が少なくなり、グラフェン粉末の吸油量は少なくなる。JIS K5101(2004)に準拠したグラフェン100gあたりの吸油量が500gより少ない場合、グラフェン粉末の剥離度が低く、グラフェン粉末の多くが積層凝集した状態であり、グラフェン粉末の分散性が低く、グラフェン分散液としたときの塗布性が低下し、塗膜抵抗が高くなる。1000g以上が好ましく、2000g以上がより好ましく、3000g以上がさらに好ましい。JIS K5101(2004)に準拠したグラフェン100gあたりの吸油量が10000gより多い場合、グラフェン同士のネットワークが強固となり、溶媒への分散が困難になる。8000g以下が好ましく、6000g以下がさらに好ましい。本発明のグラフェン粉末の吸油量は、後述する測定例1に記載する方法により測定することができる。
【0011】
JIS K5101(2004)に準拠したグラフェン100gあたりの吸油量を500g以上10000g以下にするためには、グラフェン粉末を十分に剥離することが有効であり、例えば、後述する好ましい製造方法によりグラフェン粉末を製造することができる。
【0012】
本発明のグラフェン粉末のX線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)は、0.05以上0.60以下である。O/C比はグラフェン粉末上の官能基量を表し、分散性とグラフェン機能性の指標となる。より分散性を高める観点から、O/C比は0.08以上がより好ましい。また、グラフェンの導電性、バリア性、熱伝導性等の機能性をより高める観点から、0.30以下がより好ましく、0.25以下がさらに好ましい。
【0013】
本発明のグラフェン粉末のO/C比は、後述する測定例2に記載する方法により測定することができる。グラフェン粉末のO/C比の調整は、例えば、原料となる酸化グラフェンの酸化度や、還元反応条件による還元度の調整により、前述の範囲に容易に調整することができる。
【0014】
本発明のグラフェン粉末においては、BET測定法により測定される比表面積(以下、単に「比表面積」ということがある)が100m2/g以上1000m2/g以下であることが好ましい。グラフェン粉末の比表面積はグラフェン粉末の厚さとグラフェン粉末の剥離度を反映しており、大きいほどグラフェン粉末が薄く、剥離度が高いことを示している。グラフェン粉末の比表面積を100m2/g以上とすることで、グラフェン粉末が薄層状態に剥離し、グラフェン同士のネットワークを形成しやすく、分散液としたときの塗工が容易な状態となる。150m2/g以上がさらに好ましい。グラフェン粉末の比表面積を1000m2/g以下とすることで、過剰なグラフェンネットワークを抑制し、溶媒への分散が容易な状態となる。700m2/g以下がより好ましく、300m2/g以下がさらに好ましい。本発明のグラフェン粉末の比表面積は、後述する測定例3に記載する方法により測定することができる。
【0015】
本発明のグラフェン粉末の1層の厚さは、0.3nm以上10nm以下であることが好ましい。グラフェン粉末の1層の厚さの理論上最小値は0.3nmであり、単層のグラフェンであることを示している。一方、グラフェン粉末の1層の厚さを10nm以下とすることで、グラフェン粉末が厚く積層凝集して分散性が低下することを防止できる。8nm以下がより好ましく、7nm以下がさらに好ましい。本発明のグラフェン粉末の1層の厚さは、後述する測定例4に記載する方法により測定することができる。
【0016】
本発明のグラフェン粉末においては、窒素を含む表面処理剤で修飾されていることが好ましい。窒素原子は表面処理剤に正の電荷をもたらし、グラフェンの有する負電荷に対し、静電的に吸着することができる。表面処理剤はグラフェン表面の溶媒との親和性を高めることで分散性を高めることに寄与する。
【0017】
窒素原子は、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩、含窒素環状に由来することが好ましい。これらに由来する窒素原子を2種以上有してもよいし、それぞれに由来する窒素原子を2つ以上有してもよい。
【0018】
表面処理剤は、低分子であっても高分子であってもよい。耐腐食性をより向上させる観点からは、低分子が好ましく、耐久性をより向上させる観点からは、高分子が好ましい。ここで、低分子とは分子量1,000未満の化合物を指し、高分子とは分子量1,000以上の化合物を指す。表面処理剤は2種以上用いてもよい。
【0019】
表面処理剤が低分子である場合、表面処理剤をグラフェンに付着させやすくするために、窒素を含む芳香族化合物が好ましく用いられる。窒素を含む芳香族化合物としては、例えば、2-ハロゲン化アニリン、3-ハロゲン化アニリン、4-ハロゲン化アニリン、ベンジルアミン、フェニルエチルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、アニリン、p-トルイジン、m-トルイジン、o-トルイジン、1-アミノアントラセン、2-アミノアントラセン、9-アミノアントラセン、1-アミノピレン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-イソプロピルアニリン、4-エチルアニリン、4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、4-ニトロアニリン、ジフェニルアミン、N-メチルジフェニルアミン、2,4,6-トリメチルアニリン、4-メトキシアニリン、N-メチルベンジルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、ベンズアミド、ドーパミン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンやこれらの塩類などが挙げられる。
【0020】
また、1,6-ジアミノピレン、1,8-ジアミノピレン、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,2-フェニレンジアミン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、1,2,4-トリアミノベンゼンなどのポリアミンも挙げられる。
【0021】
直鎖状または分岐状のポリエーテルアミンも好ましく用いられ、単体で常温において液状またはワックス状であることが好ましい。またグラフェンが表面に有するポリエーテルアミンは、分散性と耐腐食性と密着性を高める観点から、アミノ基を1つ以上有することが好ましく、2つ以上有していることがより好ましい。
【0022】
前記ポリエーテルアミンの重量平均分子量は140以上10,000以下が好ましい。重量平均分子量が140以上であればグラフェンの表面への付着性に優れ、200以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。また、重量平均分子量が10,000以下であれば付着し過ぎによるダマ化の懸念が少なく、8,000以下がより好ましく6,000以下がさらに好ましい。
【0023】
前記ポリエーテルアミンはポリオキシエチレンおよび/またはポリオキシプロピレン構造を含むことが好ましい。これらの構造は界面活性作用を生じやすくし、溶媒や樹脂とグラフェンとの親和性を高められる。かかる構造を含む市販品の例として、日油株式会社製PEG#200、#300、#400、#600、#1000、#2000、“ユニオックス”(登録商標)M-400、M-550、M-1000、“ユニオール”(登録商標)D-200、D-250、D-400G、D-700、D-1000、D-1200、D-2000、D-4000などが挙げられる。
【0024】
本発明のグラフェン粉末のX線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の原子比(N/C比)は、前述の表面処理剤が含有する窒素の付着量の指標となる。窒素原子を含有する表面処理剤がグラフェンに付着していることにより、グラフェン粉末の溶媒に対する分散性を高め、塗布性を向上することができる。グラフェン粉末のN/C比は、0.005以上が好ましく、0.007以上がより好ましく、0.010以上がさらに好ましい。一方、グラフェン粉末のN/C比は、意図しない凝集を抑制する観点から、0.200以下が好ましく、0.100以下がより好ましく、0.050以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明のグラフェン粉末のN/C比は、後述する測定例5に記載する方法により測定することができる。グラフェン粉末のN/C比は、例えば表面処理剤の付着量により、前述の範囲に容易に調整することができる。
【0026】
<グラフェン分散液>
本発明のグラフェン粉末は、有機溶媒を用いてグラフェン分散液とすることができる。後述する硬化性樹脂および/またはその前駆体を溶解可能であり、揮発可能であるものが好ましく、組成物の塗工性に応じて適宜選択することができる。具体的には、鉱油、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、芳香族炭化水素系溶媒およびアルコール系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。芳香族炭化水素系溶媒としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、メシチレン、クメン、テトラメチルベンゼン、n-ヘキシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、アニソール、フェニルシクロヘキサン、ハロゲン化ベンゼン、などが挙げられ、アルコール系溶媒としては、ヘキサノール、ペンタノール、n-ブタノール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0027】
本発明においては、グラフェンの分散性の指標として、グラフェン濃度を0.0065重量%に調整した時の吸光度を測定した。
【0028】
グラフェンの吸光度は、グラフェンの剥離状態および凝集状態によって変化し、単層で凝集のないグラフェンが最も吸光度が高く、積層数の増加や凝集の形成に伴って吸光度は低くなる。波長500nmにおける吸光度が小さいと、グラフェンの剥離度が低く、グラフェンの多くが積層凝集した状態となる。グラフェンの波長500nmにおける吸光度は、1.0以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.6以上がさらに好ましい。一方、グラフェン分散液の過分散による凝集を抑制し、溶媒への分散性を向上させる観点から、グラフェンの波長500nmにおける吸光度は、2.5以下が好ましい。
【0029】
グラフェン分散液の吸光度は、後述する測定例6に記載する方法により測定することができる。また、グラフェン分散液の吸光度を前述の範囲にする手段としては、例えば、後述の製造方法によりグラフェン分散液を得る方法などが挙げられる。
【0030】
<硬化性樹脂および/またはその前駆体>
本発明のグラフェン分散液とともに硬化性樹脂および/またはその前駆体とを含む組成物が好ましく用いられる。硬化性樹脂とは、溶媒の揮発または反応により硬化する樹脂を指し、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、塗料組成物用の市販の硬化性樹脂を好適に用いることができる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、塗工性および取り扱い性の観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂や、これらの変性物として、アクリル変性エポキシ樹脂や、ウレタン変性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100以上5,000以下が好ましい。エポキシ当量が100以上であれば、組成物から得られる塗膜の強度を向上させることができる。一方、エポキシ当量が5,000以下であれば、組成物を効率よく硬化させることができる。
【0032】
硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有する場合、エポキシ樹脂硬化剤をさらに含有することが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、多官能アミン化合物やポリアミドアミン化合物などが挙げられ、市販のエポキシ樹脂硬化剤を用いることができる。これらを2種以上含有してもよい。エポキシ樹脂硬化剤の活性水素当量は、30以上5,000以下が好ましい。活性水素当量が30以上であれば、組成物から得られる塗膜の強度を向上させることができる。一方、活性水素当量が5,000以下であれば、組成物を効率よく硬化させることができる。
<組成物>
前記組成物には、さらに溶媒や任意の添加剤を含有してもよい。溶媒としては、前記の硬化性樹脂および/またはその前駆体を溶解可能であり、揮発可能であるものが好ましく、組成物の塗工性に応じて適宜選択することができる。
【0033】
本発明の組成物におけるグラフェンの含有量は、組成物の総固形分中、0.01重量%以上5.0重量%以下が好ましい。グラフェンの含有量を0.01重量%以上とすることにより、グラフェンによる遮蔽効果と導電ネットワーク形成により、耐腐食性および耐久性をより向上させることができる。グラフェンの含有量は、組成物の固形分中、0.1重量%以上がより好ましく、0.3重量%以上がさらに好ましい。一方、グラフェンの含有量を5.0重量%以下とすることにより、意図しない凝集を抑制し、耐腐食性および耐久性をより向上させることができる。グラフェンの含有量は、組成物の固形分中、2.5重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下がさらに好ましい。
【0034】
<形成物>
前記組成物を基材上に膜状に形成して得られる形成物も好ましく用いられる。用いられる基材は特に限定されるものではないが、シートやフィルムあるいは金属板などを基材として用いることができる。
【0035】
<グラフェンの製造方法>
本発明のグラフェン粉末は、例えば、酸化グラフェンと表面処理剤とを溶媒中で混合した後に、酸化グラフェンを微細化し、その後に還元処理を施すことにより作製することができる。
【0036】
[酸化グラフェン]
酸化グラフェンの製造方法としては、例えば、ハマーズ法等が挙げられる。また、市販の酸化グラフェンを購入してもよい。酸化グラフェンの作製方法として、ハマーズ法を用いる場合を以下に例示する。
【0037】
氷浴中、黒鉛(石墨粉)と硝酸ナトリウムを濃硫酸中に入れて撹拌しながら、過マンガン酸カリウムを温度が上がらないように徐々に添加し、25~50℃の温度範囲に保ちながら、0.2~5時間撹拌する。その後、イオン交換水を加えて希釈して懸濁液とし、80~100℃の温度範囲で5~50分間撹拌する。その後、過酸化水素とイオン交換水を加えて1~30分間撹拌して、酸化グラフェン水分散液を得る。得られた酸化グラフェン水分散液を濾過、洗浄し、酸化グラフェンウエットケーキを得る。
【0038】
黒鉛としては、天然黒鉛が好ましく、メッシュ数は5,000以下が好ましい。天然黒鉛10gに対して、硝酸ナトリウム添加量は2~8g、濃硫酸添加量は150~300ml、過マンガン酸カリウム添加量は10~40g、過酸化水素添加量は40~80gが好ましく、イオン交換水添加量は過酸化水素添加量の10~20倍が好ましい。酸化グラフェンの酸化度は、例えば、酸化剤である硝酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムの添加量により、所望の範囲に調整することができる。具体的には、黒鉛に対する硝酸ナトリウムの添加量の比(硝酸ナトリウム/黒鉛)は、0.200以上0.800以下が好ましく、黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの添加量の比(過マンガン酸カリウム/黒鉛)は、1.0以上4.0以下が好ましい。
【0039】
[表面処理工程]
次に、酸化グラフェンと表面処理剤とを混合し、酸化グラフェンに表面処理剤を付着させる。酸化グラフェンと表面処理剤を良好に混合するためには、酸化グラフェンと表面処理剤のいずれもが溶媒中に分散している状態で混合することが好ましい。この際、酸化グラフェンと表面処理剤はいずれも完全に溶解している事が好ましいが、一部が溶解せずに固体のまま分散していてもよい。
混合方法としては、ディスパー撹拌式、ローター/ステーター式などを採用した分散機が好ましい。このような分散機としては、例えば、“ラボ・リューション”(登録商標)ホモディスパー2.5型(プライミクス社)、ディスパーサーPH91(エスエムテー社)、“シルバーソンミキサー”(登録商標)L5M-A(シルバーソンニッポン社)などが挙げられる。
【0040】
[微細化工程]
次に、溶媒中で酸化グラフェンを微細化することが好ましい。微細化方法としては、例えば、酸化グラフェン分散液に超音波を印加する方法、圧力を印加した酸化グラフェン分散液をセラミックボールに衝突させる方法、圧力を印加した酸化グラフェン分散液同士を衝突させる液―液せん断型の湿式ジェットミルを用いる方法などが挙げられる。
【0041】
[還元工程]
次に、溶媒中で酸化グラフェンを還元する。還元方法としては、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられる。これらの中でも、還元後の洗浄の容易さから、無機還元剤が好ましく、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムなどがより好ましい。
【0042】
[濾過濃縮工程]
次に、還元工程で得られたグラフェン分散液を濾過濃縮する。濾過濃縮工程は、還元されたグラフェン分散液の溶媒の一部を吸引濾過により除去する工程である。吸引濾過としては、グラフェンのスタックを抑制する観点から、減圧吸引濾過が好ましい。また、得られたグラフェン分散体を溶媒に分散して濾過濃縮をするという操作を複数回繰り返してもよい。本発明においては、濾過濃縮工程を2回以上6回以下行うことが好ましい。
【0043】
[乾燥工程]
次に、濾過濃縮工程で得られたグラフェン分散体を乾燥する。乾燥工程は、濾過濃縮工程で残った溶媒を除去して粉末化する工程である。乾燥としては、熱風乾燥や真空乾燥が挙げられるが、グラフェン粉末のスタックを抑制する観点から凍結乾燥が好ましい。
【0044】
<グラフェン分散液の製造方法>
本発明のグラフェン分散液は、例えば、グラフェン粉末を溶媒に分散することにより作製することができる。
【0045】
[分散工程]
乾燥工程で得られたグラフェン粉末を有機溶媒に分散させる。本発明においては、分散工程を経たグラフェン分散液は、再度濾過濃縮することが好ましく、グラフェン同士のスタックを解消し、分散性をより向上させることができる。
【0046】
分散工程において、グラフェン粉末を有機溶媒に混合したスラリーを、ディスパー撹拌式、ローター/ステーター式などを採用した分散機で撹拌することが好ましい。スラリーを撹拌する時の周速が高いほど、せん断力により積層したグラフェンをより効率的に剥離しやすいため、スタックを解消し、分散性をより向上させることができる。分散工程において得られたグラフェン分散液の固形分濃度は、後述する測定例12に記載する方法により測定することができる。
【0047】
<組成物の製造方法>
次に、グラフェン分散液を用いた組成物の製造方法の例を説明する。例えば、グラフェン分散液を硬化性樹脂および/またはその前駆体、無機粒子、ならびに必要に応じて溶媒や任意の添加剤と混合する方法や、無機粒子、硬化樹脂および/またはその前駆体を含有する市販されている塗料組成物にグラフェンを混合する方法などが挙げられる。前者の方法において、無機粒子とグラフェン分散液を同時に添加して混合してもよいし、別々に添加して混合してもよい。グラフェンの分散性をより高める観点から、硬化性樹脂および/またはその前駆体を溶媒に溶解した溶液に、グラフェンおよび無機粒子を混合することが好ましい。
【0048】
混合装置としては、例えば、ビーズミル、ホモディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、サンドミルなどのミキサーや混練機などが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物が硬化性樹脂前駆体を含有する場合、主剤(例えばエポキシ樹脂)と硬化剤(例えばエポキシ樹脂硬化剤)は、使用直前まで別々の容器に保存されていてもよい。この場合、グラフェンおよび無機粒子は、主剤とともに含有されていてもよいし、硬化剤とともに含有されていてもよい。
【0050】
無機粒子としては、塗料用に一般的に用いられる体質顔料などが挙げられる。本発明の組成物を保護用塗料として用いる場合、保護する対象との関係により、犠牲防食効果の高い材料を選択することにより、硬化物の耐腐食性をより向上させることができる。例えば、鉄鋼の保護用塗料に用いる場合には、無機材料として亜鉛粒子を選択することにより、犠牲防食効果により、硬化物の耐腐食性および耐久性をより向上させることができる。
【0051】
無機粒子は、亜鉛、酸化鉄、マイカ、タルク、ベントナイト、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ステンレス、ガラス、アルミニウムを含むことが好ましい。これらを2種以上含んでもよい。
【0052】
無機粒子の形状としては、例えば、球状、フレーク状、薄片状、繊維状、不定形状などが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、マイカ、タルク、ベントナイト、薄片状酸化チタン、ステンレスフレーク、ガラスフレーク、アルミフレークは、扁平な形状により遮蔽効果が高く、硬化物の耐腐食性をより向上させることができる。また、亜鉛粒子は、犠牲防食効果が高く、硬化物の耐腐食性をより向上させることができる。亜鉛粒子とともにタルク、ベントナイト、ガラスフレークなどを組み合わせることが好ましく、組成物の粘度や、組成物から得られる塗膜の機械的物性を所望の範囲に容易に調整することができる。
【0054】
無機粒子の平均粒径は、ピンホールなどの欠陥を抑制し、硬化物の耐腐食性をより向上させる観点から、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。一方、無機粒子による遮蔽効果や犠牲防食効果を高め、硬化物の耐腐食性および耐久性をより向上させる観点から、1.0μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましく、5.0μm以上がさらに好ましい。なお、無機粒子の平均粒径は、既知の粒子粉砕技術を用いて前記範囲に容易に調整できる。また、所望の粒径を有する市販の無機粒子を購入して用いることができる。
【0055】
本発明の形成物は、本発明の組成物を基材上に設けてなるものであり、本発明の組成物を基材に所望の形状に成形したものを指す。例えば、乾燥前および乾燥後の塗膜や注型体である。以下にその具体例を示す。
【0056】
本発明のグラフェン分散液を含有する組成物は、塗布や注型などで成形し、乾燥または反応により硬化することで、グラフェンの導電性、バリア性、熱伝導性などの機能を付与したコンポジット材料として利用することができる。
【0057】
本発明の組成物は、塗布性に優れるため、基材上に膜状に形成して得られる形成物として用いることが好ましい。また、金属基材に対して膜状に組成物を形成することで、バリア性や熱伝導性、電磁波遮蔽性等の効果が得られやすくなる。
【0058】
本発明のグラフェンは、樹脂中での混合性と結合性に優れるため、特に塗膜やフィルム形状で用いた場合に、その効果が得られやすい。塗膜やフィルムを形成した際、樹脂の効果に伴う収縮等の影響によりグラフェンと樹脂との界面に応力がかかり、欠点を生じやすい場合があるが、本発明のグラフェンを用いることでグラフェンと樹脂の結合性が高められ、欠点の発生を抑制しすることができる。さらに、本発明のグラフェンは分散性・混合性に優れるため、グラフェンが均一に分布することでグラフェンの機能性を効率よく発揮することができる。
【0059】
従って、本発明のグラフェン分散液を含有する組成物は、例えば、コーティング膜、電極、熱伝導体として好適に利用できる。コーティング膜としては、例えば耐腐食塗料、防水塗料、ガスバリア膜、耐衝撃膜、電磁シールド膜などの利用が挙げられる。電極としては、電池用電極、センサー用電極などの利用が挙げられる。熱伝導体としては、電子機器等の放熱材料、配管等の散熱被覆材、建造物の冷却や凍結防止材などの利用が挙げられる。
【0060】
前記金属基材として、例えば、ガスバリア用の金属蒸着フィルム、アルミ箔や銅箔などの電極機材、各種電子部品などの金属筐体や部材、鋼鉄製の筐体や構造物(乗り物、建造物、工場設備等)が挙げられる。
【0061】
本発明の組成物は、基材上に塗布し、乾燥することにより形成される塗膜として好適に用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケーター塗布、バーコート塗布、スピンコート塗布、ローラー塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などが挙げられる。乾燥方法は、溶媒と樹脂および用途に応じて適宜選択するができ、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥などが挙げられる。
【0062】
本発明の組成物を、例えば亀裂の中に注入し、乾燥および/または架橋反応により硬化させて用いてもよい。注入および硬化方法としては、既知の手法を用いることができる。
【0063】
本発明の組成物を、基材上に膜状に形成してなる形成物は、耐腐食性および耐久性に優れる。耐腐食性の指標のひとつとして、水蒸気透過率や酸素透過率が低いことが好ましい。具体的には、後述する測定例9に記載の方法により測定した水蒸気透過率は、300g/m2・24h以下が好ましく、250g/m2・24h以下がより好ましく、225g/m2・24h以下がさらに好ましい。水は酸素のキャリアとなるため、水蒸気透過率が低いほど、酸素透過率も低くなる傾向にある。
【0064】
耐腐食性の別の指標として、腐食の起きにくさを表す腐食電位が低いことが好ましい。具体的には、後述する測定例10に記載の方法により測定した腐食電位は、-0.9V以下が好ましく、-1.0V以下がより好ましい。
【0065】
耐久性の指標として、後述する測定例11に記載の方法により耐塩水噴霧試験を行ったときの、スコア3(切れ込み部の赤錆の幅が2mm)に到達する時点までの時間がより長いことが好ましい。耐塩水噴霧試験スコア3到達時間は、亜鉛による犠牲防食効果の存在下では大きく延長される。このため、組成物が亜鉛を含まない場合においては、耐塩水噴霧試験スコア3到達時間は、500h以上が好ましく、600h以上がより好ましく、700h以上がさらに好ましい。一方、組成物が亜鉛を含む場合においては、耐塩水噴霧試験スコア3到達時間は、2,000h以上が好ましく、2,500h以上がより好ましい。
【実施例0066】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。
[測定例1:吸油量]
各実施例および比較例により作製したグラフェン粉末について、JIS K5101-13-1:2004に準拠して吸油量を測定した。ISO150に規定する酸価5.0~7.0mgKOH/gのものに代えて、試薬1級アマニ油(富士フイルム和光純薬社)を使用した。
【0067】
[測定例2:X線光電子分光法によるO/C比の測定]
各実施例および比較例により作製したグラフェン粉末について、X線光電子分光分析装置Quantera SXM (アルバック・ファイ社)を用いて光電子スペクトル測定した。励起X線は、monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)とし、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°とした。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピークに帰属した。O1sピークとC1sピークの面積比からO/Cを算出し、得られた値の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求めた。
【0068】
[測定例3:BET測定法による比表面積の測定]
各実施例および比較例により作製したグラフェン粉末について、HM Model-1210(Macsorb社製)を用いて比表面積を測定した。測定はJIS Z8830(2013)に準拠し、吸着ガス量の測定方法はキャリアガス法で、吸着データの解析は一点法で測定した。脱気条件は、100℃×180分とした。
【0069】
[測定例4:グラフェン粉末の平均厚さ]
各実施例および比較例により作製したグラフェン粉末を有機溶媒で0.01重量%に希釈し、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)を用いて、回転速度40m/s(せん断速度:毎秒20000)で60秒間処理してグラフェン希釈液を得た。グラフェン希釈液をマイカ基板上に滴下、乾燥し、グラフェンを基板上に付着させた。基板上のグラフェンを、原子間力顕微鏡(Dimension Icon;Bruker社)を用いて、視野範囲1~10μm四方程度に拡大観察して、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚さを測定した。各グラフェンの厚さは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とし、さらに10個のグラフェンの厚さの算術平均値を求めることにより、グラフェン粉末の1層の平均厚さを算出した。
【0070】
[測定例5:X線光電子分光法によるN/C比の測定]
各実施例および比較例により作製したグラフェン粉末について、X線光電子分光分析装置Quantera SXM (アルバック・ファイ社)を用いて、光電子スペクトル測定した。励起X線は、monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)とし、X線径は200μm、光電子脱出角度は45°とした。炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属した。N1sピークとC1sピークの面積比からN/Cを算出し、得られた値の小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求めた。
【0071】
[測定例6:吸光度]
各実施例および比較例により作製したグラフェン分散液について、“UV7”(登録商標)分光光度計(メトラー・トレド社)を用いて吸光度を測定した。セルは光路長10mmの石英製を用いた。各実施例および比較例により作製したグラフェン分散液に、グラフェン濃度が0.0065重量%となるように各実施例および比較例で用いた有機溶媒を加え、出力130W、発振周波数40kHzの超音波洗浄機(ASU-6M、アズワン社)を用いて出力設定Highで10分間処理した希釈液を用いて、濃度調整に用いた有機溶媒で事前にベースライン測定をした上で測定した。
【0072】
[測定例7:塗膜抵抗]
各実施例および比較例により作製したグラフェン分散液を、後述する評価例1で記載した方法で塗布し、熱風乾燥炉を用いて80℃で1時間乾燥した後、200℃で2時間乾燥して溶媒を除去し、乾燥塗布膜を得た。乾燥塗布膜にしたグラフェンについて、低抵抗率計“ロレスタ-GX”(登録商標)MCP-T700(日東精工アナリテック社)を用いて塗膜抵抗を測定した。
【0073】
[測定例8:欠陥の数]
各実施例および比較例により作製した組成物を、A4サイズ50μm厚のPETフィルム上に、スプレーを用いて塗布した後、室温で乾燥し、1週間静置して硬化させ、100μm厚の硬化膜を形成した。得られた硬化膜の表面を、光学顕微鏡を用いて、100倍に拡大観察し、無作為に選択した10箇所について、ひび割れ(クラック)、孔(ピンホール)などの欠陥の有無を観察し、欠陥の認められた箇所の数により耐腐食性を評価した。欠陥の認められた箇所が少ないほど、耐腐食性に優れる。
【0074】
[測定例9:水蒸気透過率]
測定例8と同様にして、A4サイズ50μm厚のPETフィルム上に100μm厚の硬化膜を形成した。硬化膜面を下に向け、PETフィルム側を引き上げながら硬化膜を剥離した。得られた硬化膜を12cm角に裁断し、チャンバーのパッキンに触れる部位をアルミテープで保護して、水蒸気透過率測定器PERMATRAN-W 3/33MG+(MOCON社)に設置した。等圧法、チャンバー内温度20℃、相対湿度90%の条件下で水蒸気透過率を測定した。水蒸気透過率が低いほど、耐腐食性に優れる。
【0075】
[測定例10:腐食電位]
各実施例および比較例により作製した組成物を、15cm×7cm×0.8cm厚の大きさのサンドブラスト処理した一般構造用圧延鋼板(材質:SS400)に、スプレーガンを用いて塗布し、室温で乾燥し、1日静置し、硬化膜を形成した。硬化膜の厚さは80±10μmとなるように調整した。硬化膜が形成されていない基材露出箇所には、刷毛を用いて、市販の防錆塗料(日本ペイント社“ジンキー”(登録商標)8000HB)を塗り、乾燥後1週間静置して硬化させ、試験板を得た。ポテンショスタットModel1480A(Solartron analytical社)の作用極に試験板、対極に白金電極、参照極に銀塩化銀電極を接続した。試験板を、500mLビーカー中に入れた室温の3.5重量%塩化ナトリウム水溶液(pH=7)300mL中に浸漬し、測定を開始した。測定は、まず初期900秒間Open Circuitで安定化させた後、次に電圧掃引モードで-0.2Vから+0.5Vまで0.003V/sの速度で掃引し、電流値を測定した。得られた電流値の絶対値をプロットし、電流値が極小となった時の電圧を腐食電位とした。腐食電位が低い(絶対値が大きい)ほど、耐腐食性に優れる。
【0076】
[測定例11:耐塩水噴霧時間]
測定例10と同様にして試験板を得た。当該試験板の中央部に、長さ5cm、深さ0.5~1.0mmの直線状の切れ込みを入れ、塩水噴霧試験装置(STP-30 スガ試験機社)にセットした。35℃に加温された5重量%塩化ナトリウム水溶液(pH=7)を用いて、塩水噴霧試験を開始した後、各サンプルの錆の発生状況に応じて下記の通りスコア付けを行い、その経時変化を記録し、スコア3に到達した時間から、耐久性を評価した。
スコア0:初期状態に近く赤錆が観察されない。亜鉛を用いている場合は、犠牲防食効果により白錆が見られるが赤錆は見られない状態を指す。
スコア1:切れ込み箇所全体に赤錆が見られる。
スコア2:切れ込み箇所全体に幅2mm未満の赤錆が見られ、かつ切れ込み部周辺に硬化膜の膨れまたは切れ込み箇所以外に孔食が生じ赤錆が見られる箇所が一つ以上ある。
スコア3:切れ込み部周辺に複数の膨れや孔食が見られ、かつ切れ込み部の赤錆の幅が2mm以上である。
【0077】
[測定例12:固形分濃度]
各実施例および比較例により作製したグラフェン分散液を重量既知のアルミカップに乗せて重量を測定した後、温度を120℃に設定したホットプレート上で1.5時間加熱して溶媒を揮発させた。加熱前のグラフェン分散液の重量と、加熱前後の重量差から算出した溶媒揮発量から、グラフェン分散液の固形分濃度を算出した。これを3回繰り返し、平均値を求めた。
【0078】
合成例1により作製した酸化グラフェンウエットケーキの固形分濃度は、温度を100℃に調整する他はグラフェン分散液の固形分濃度測定と同様にして測定した。
【0079】
[評価例1:ペースト塗布性]
各実施例および比較例により作製したグラフェン分散液を、ドクターブレード(300μm)を用いて厚さ130μmの“カプトン”(登録商標)ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社)上に塗布し、塗布膜表面の目視観察により、分散性の評価指標となる塗布性を5段階で評価した。判断基準は以下の通りとし、3点以上であれば分散性が良好であると判断した。
5点:塗布膜表面の塗布ムラやカスレが認められない
4点:塗布膜表面の面積の概ね95%に塗布ムラやカスレが認められない
3点:塗布膜表面の面積の概ね90%以上95%未満に塗布ムラやカスレが認められない
2点:塗布膜表面の面積の概ね80%以上90%未満に塗布ムラやカスレが認められない
1点:塗布膜表面に塗布ムラやカスレが多い。
【0080】
[合成例1:酸化グラフェン分散液の作製方法]
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間撹拌し、混合液の温度を20℃以下に保持した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃の水浴中で4時間撹拌し、その後イオン交換水500mlを入れて、得られた懸濁液を90℃でさらに15分間撹拌を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間撹拌し、酸化グラフェン分散液を得た。得られた酸化グラフェン分散液を濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返し、吸引濾過により濃縮して酸化グラフェンウエットケーキを作製した。作製した酸化グラフェンウエットケーキの、測定例12により測定した固形分濃度は45重量%であった。得られた酸化グラフェンウエットケーキ11.1g(酸化グラフェン固形分5g)にイオン交換水988.9gを混合し、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを用いて、回転数10000rpmで30分間撹拌して、酸化グラフェン濃度0.5重量%の酸化グラフェン分散液1000gを得た。
【0081】
[実施例1]
(グラフェン粉末の作製方法)
表面処理剤混合工程:合成例1により作製した酸化グラフェン分散液1000gに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.5に調整し、表面処理剤としてドーパミン塩酸塩2.5gを混合し、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを使用して、回転数10000rpmで30分間撹拌した。
【0082】
微細化工程:表面処理後の酸化グラフェン分散液を、超音波装置UP400S(hielscher社)を使用して、出力300Wで超音波を30分間印加した。
【0083】
還元工程:微細化処理後の酸化グラフェン分散液に25.0gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れて、40℃に保温して、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを使用して、回転数10000rpmで30分間撹拌して還元反応を行い、グラフェン分散液を得た。
【0084】
濾過濃縮:得られたグラフェン分散液を、減圧吸引濾過器を用いて濾過し、グラフェン分散体を得た。得られたグラフェン分散体100.0gにイオン交換水1000gを混合し、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを使用して、回転数10000rpmで10分間撹拌し、再分散を実施した。得られたグラフェン再分散液に、2回目の濾過濃縮工程を実施してグラフェン分散体を得た。測定例12により測定したグラフェン分散体のグラフェン固形分濃度は3.0重量%であった。
【0085】
乾燥工程:得られたグラフェン分散体10gにイオン交換水90gを混合し、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを使用して、回転数10000rpmで5分間撹拌し、再分散を実施した。得られたグラフェン分散液100gを、1000mLのナス型フラスコに入れ、ナス型フラスコ内壁に薄く付着するように液体窒素で凍結させ、“EYELA”(登録商標)凍結乾燥機FDU-1200(東京理科器械社)を用いて、温度―30℃以下、圧力30Pa以下の条件で12時間凍結乾燥を実施し、グラフェン粉末を得た。必要量のグラフェン粉末が得られるまで、この操作を複数回実施した。
【0086】
得られたグラフェン粉末について、測定例1~5に記載の方法によりグラフェン粉末の物性を測定し、結果を表2に記載した。
【0087】
(グラフェン分散液の作製方法)
得られたグラフェン粉末3.0gとn-ブタノール197.0gを混合し、ローター/ステーター式シルバーソンミキサーL5M-Aを使用して、回転数10000rpmで10分間撹拌してグラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液の固形分濃度は1.5重量%であった。
【0088】
得られたグラフェン分散液について、測定例6~7に記載の方法によりグラフェン分散液の物性を測定し、結果を表2に記載した。また、評価例1に記載の方法により、グラフェン分散液を評価し、その結果を表2に記載した。
【0089】
(組成物の作製方法)
エポキシ樹脂としてDIC(株)製“エピクロン”(登録商標)1050(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450-500g/eq)8.2gを秤量し、18gのキシレンおよび2gのn-ブタノールを加え、90℃に加温して溶解させた後、ラボ・リューションホモディスパー2.5型を用いて、回転数3,000rpmで20分間撹拌した。得られた溶液に、林純薬工業(株)製亜鉛粉末(平均粒径10μm)80gと、前述の方法により得られたグラフェン分散液6.7g(組成物中の固形総重量に対しグラフェン固形分0.1重量%)を添加し、ラボ・リューションホモディスパー2.5型を用いて、回転数3,000rpmで30分間撹拌した。エポキシ樹脂硬化剤としてハリマ化成グループ株式会社製ニューマイド515(商品名)11.7g(ポリアミドアミン、活性水素当量185、固形分70重量%、固形重量8.2g)を添加し、ベントナイト3.5gを加えて、さらにラボ・リューションホモディスパー2.5型を用いて、回転数3,000rpmで10分間撹拌して均一化し、組成物を作製した。
【0090】
得られた組成物について、測定例8~11に記載の方法により耐腐食性および耐久性を評価し、その結果を表2に記載した。
【0091】
[実施例2]
合成例1の酸化グラフェン分散液の作製、実施例1のグラフェン粉末およびグラフェン分散液の作製において、分散方法をラボ・リューションホモディスパー2.5型に変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0092】
[実施例3]
実施例1のグラフェン分散液の作製において、有機溶媒をキシレンに変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0093】
[実施例4]
酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した。実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0094】
[実施例5]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0095】
[実施例6]
酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した。実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0096】
[実施例7]
酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した。実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0097】
[実施例8]
酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した。実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0098】
[実施例9]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤を1,4-フェニレンジアミンに変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0099】
[実施例10]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤をアニリン塩酸塩に変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0100】
[実施例11]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、表面処理工程で表面処理剤をフェニルエチルアミン塩酸塩に変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0101】
[比較例1]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0102】
[比較例2]
実施例1のグラフェン粉末の作製において、酸化度を変更したこと以外は合成例1と同様にして酸化グラフェン分散液を作製した以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0103】
[比較例3]
合成例1の酸化グラフェン分散液の作製、実施例1のグラフェン粉末およびグラフェン分散液の作製において、分散方法をマグネチックスターラーに変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0104】
[比較例4]
合成例1の酸化グラフェン分散液の作製、実施例1のグラフェン粉末およびグラフェン分散液の作製において、分散方法をマグネチックスターラーに変えて、乾燥工程の凍結乾燥を温度80℃で12時間の熱風乾燥に変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0105】
[比較例5]
合成例1の酸化グラフェン分散液の作製、実施例1のグラフェン粉末およびグラフェン分散液の作製において、分散方法をマグネチックスターラーに変えて、乾燥工程の凍結乾燥を真空度―0.1MPa、温度60℃で12時間の真空乾燥に変えた以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0106】
[比較例6]
合成例1の酸化グラフェン分散液の作製、実施例1のグラフェン粉末およびグラフェン分散液の作製において、分散方法をマグネチックスターラーに変えて、表面処理工程で表面処理剤を混合しなかった以外は同様にして、グラフェン粉末およびグラフェン分散液を作製した。得られたグラフェン粉末、グラフェン分散液および組成物について、前述の方法により評価した結果を表2にまとめる。
【0107】
【0108】