(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153167
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】セメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/02 20060101AFI20241022BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20241022BHJP
C04B 7/52 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C04B7/02
C04B7/44
C04B7/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066889
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 潤
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 博胤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 裕美
(72)【発明者】
【氏名】細川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112KA00
4G112KA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】セメントクリンカの新規製造方法を提供すること。
【解決手段】次の工程(a)~(c);
(a)セメントクリンカ原料をマイクロ波照射装置の反応管内に充填する工程と、
(b)セメントクリンカ原料にシングルモードのマイクロ波を照射して焼成し、焼成物を得る工程と、
(c)焼成物を粉砕して粉砕物を得る工程
を含む、セメントクリンカの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(a)~(c);
(a)セメントクリンカ原料をマイクロ波照射装置の反応管内に充填する工程と、
(b)セメントクリンカ原料にシングルモードのマイクロ波を照射して焼成し、焼成物を得る工程と、
(c)焼成物を粉砕して粉砕物を得る工程
を含む、セメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
工程(c)後、粉砕物を工程(a)~(c)に順次供する工程(d)を含む、請求項1記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項3】
工程(d)を1回又は2回以上行う、請求項1記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
1回当たりのマイクロ波の照射により、1000℃以上の温度で1~5分間焼成する、請求項1記載のセメントクリンカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカは、ロータリキルンにセメントクリンカ原料を投入し、1450℃前後の高温で焼成して製造されている(特許文献1)。しかし、当該製造方法により、約6割が原料である石灰石(CaCO3)に由来し、残りの4割がクリンカ焼成や粉砕等で消費される化石エネルギーに由来するCO2が排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、パリ協定の達成に向け、日本では2050年温室効果ガス実質ゼロ、2030年温室効果ガス50%削減の目標を掲げていることから、セメントクリンカの新たな製造方法の創製が望まれている。
本発明の課題は、セメントクリンカの新規製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、セメントクリンカ原料の熱源について種々検討し、マイクロ波はエネルギーロスが少なく、対象物を直接加熱できるという特性に着目した。そして、マイクロ波の中でもシングルモードのマイクロ波はエネルギー(電界又は磁界、以下、同様である。)を局所的に集中できるため、短時間で所望の温度での加熱を完了できるとの知見を得た。そして、マイクロ波照射装置のキャビティに設けられた反応管内において、シングルモードのマイクロ波のエネルギー強度が極大でかつ均一となる位置にセメントクリンカ原料を充填したうえでマイクロ波を照射することにより、セメントクリンカ原料が選択的かつ直接的に加熱されるため、生焼け状態にならずに短時間で効率よくセメントクリンカを製造できることを見出した。なお、本明細書において「生焼け状態」とは、焼成が不十分なため、セメントクリンカ中のフリーライム(以下、「f.CaO」とも称する。)の含有量が1質量%を超える状態をいう。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕次の工程(a)~(c);
(a)セメントクリンカ原料をマイクロ波照射装置の反応管内に充填する工程と、
(b)セメントクリンカ原料にシングルモードのマイクロ波を照射して焼成し、焼成物を得る工程と、
(c)焼成物を粉砕して粉砕物を得る工程
を含む、セメントクリンカの製造方法。
〔2〕工程(c)後、粉砕物を工程(a)~(c)に順次供する工程(d)を含む、前記〔1〕記載のセメントクリンカの製造方法。
〔3〕工程(d)を1回又は2回以上行う、前記〔1〕記載のセメントクリンカの製造方法。
〔4〕1回当たりのマイクロ波の照射により、1000℃以上の温度で1~5分間焼成する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載のセメントクリンカの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セメントクリンカの新規な製造方法を提供することができる。本発明によれば、生焼け状態にならずに短時間で効率よくセメントクリンカを製造することが可能であり、また従来の炉を用いたセメントクリンカの製造方法に比べて化石エネルギー由来のCO2発生を大幅に削減することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に適用可能なマイクロ波照射装置の一例を示す図である。
【
図2】セメントクリンカを用いて調製されたセメントペーストの積算発熱量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメントクリンカの製造方法は、工程(a)~(c)を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
<工程(a)>
本工程は、セメントクリンカ原料をマイクロ波照射装置の反応管内に充填する工程である。
マイクロ波は、電磁界分布によりマルチモードと、シングルモードとに分類される。マルチモード型マイクロ波照射装置として、例えば、電子レンジが知られている。本発明者らは、マルチモード型マイクロ波照射装置を用いてセメントクリンカの製造を試みたところ、生焼け状態のセメントクリンカが製造されたことから、セメントクリンカ原料の周囲に加熱補助材を設置するか、あるいはセメントクリンカ原料を事前に予備加熱することを要することが確認された。その要因について、マルチモードのマイクロ波は、マルチモードキャビティ内の様々な方向に向かって発振されるため、セメントクリンカ原料を集中的に加熱し難いことにあると推測された。そこで、本発明者らは、マイクロ波としてシングルモードを選択したうえで、シングルモードキャビティに設けられた反応管内でマイクロ波のエネルギー強度が極大でかつ均一となる位置にセメントクリンカ原料を充填してマイクロ波を照射することにより、セメントクリンカ原料のみを集中的に加熱できるため、生焼け状態にならずに短時間で効率よくセメントクリンカを製造できることを見出した。
【0011】
(セメントクリンカ原料)
セメントクリンカ原料としては、セメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料であれば特に限定されない。例えば、カルシウム含有原料(CaO源)、ケイ素含有原料(SiO2源)、アルミニウム含有原料(Al2O3源)、鉄含有原料(Fe2O3源)を挙げることができる。カルシウム含有原料としては、例えば、石灰石、生石灰、消石灰が挙げられ、ケイ素含有原料としては、例えば、珪石を挙げることができる。アルミニウム含有原料としては、例えば、粘土が挙げられ、鉄含有原料としては、例えば、鉄滓、鉄ケーキを挙げることができる。また、石炭灰、建設発生土、汚泥、スラグ、焼却灰等の廃棄物や副産物を代替原料として使用することもできる。建設発生土としては、例えば、建設現場や工事現場等で副次的に発生する土壌、土砂(例えば、地盤の掘削により生じるボーリング廃土等)、残土を挙げることができる。汚泥としては、例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥、建設汚泥を挙げることができる。焼却灰としては、例えば、都市ごみ焼却灰を挙げることができる。
【0012】
セメントクリンカ原料は、焼成反応促進の観点から、各種原料を混合して用いることができる。混合方法は特に限定されず、手混合でも、混合機を使用してもよい。混合機は、工業用の混合機を使用することができる。
また、セメントクリンカ原料は粉砕してもよく、粉砕には粉砕機を使用することができる。粉砕機としては、工業用の粉砕機を用いることが可能であり、例えば、ボールミル、ディスクミルを挙げることができる。
【0013】
(マイクロ波照射装置)
【0014】
本発明に係る製造方法に適用可能なマイクロ波照射装置の一例を
図1に示す。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
図1(a)に示されるマイクロ波照射装置10は、シングルモードのマイクロ波を発振するマイクロ波発生器1と、内部に筒状の空間を有するシングルモードキャビティ2と、該シングルモードキャビティを貫通し、セメントクリンカ原料を充填するための反応管3とを備える。なお、マイクロ波照射装置は、市販の装置を使用しても、また製造スケール等に応じたものを製作しても構わない。
【0015】
マイクロ波発生器におけるマイクロ波発生源としては、例えば、マグネトロン、クライストロン、半導体固体素子を挙げることができる。半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器としては、例えば、ガンダイオード、アバランシェダイオード(インパットダイオード)等を用いたマイクロ波発生器が挙げられる。また、MHz帯では、コイルとコンデンサからなるLC回路による発振回路も用いることができる。また、これらの素子と周波数制御機構をパッケージ化したVCO(Voltage Controlled Oscillator)やPLL(Phase Lockd Loop)回路等も挙げることができる。なお、マイクロ波照射装置には、マイクロ波発生器によって発振されたマイクロ波の出力を増幅するマイクロ波増幅器を備えてもよい。
【0016】
シングルモードキャビティの形状は筒状であれば特に限定されず、例えば、円筒型や楕円型であっても、筒中心軸に対して垂直な断面形状が多角形である多角筒型であってもよい。即ち、シングルモードキャビティの軸(例えば、円筒型の場合は円筒の中心軸)方向に沿ってシングルモードのマイクロ波のエネルギー強度が極大でかつ均一な定在波を形成できればよい。なお、シングルモードキャビティの大きさは、製造スケール等に応じて適宜選択することができる。
【0017】
シングルモードキャビティの材質は、電気抵抗率の小さいものが好ましく、通常金属製である。例えば、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、黄銅、ステンレス又はこれらの合金を挙げることができる。また、樹脂やセラミック、金属の表面に電気抵抗率の小さい物質をめっき、蒸着等によりコーティングしてもよい。コーティングには、銀、銅、金、スズ、ロジウムを含む材を用いることができる。
【0018】
反応管は有底筒体であれば特に限定されず、例えば、有底円形状の有底円筒体でも、有底角柱状の有底角筒体でもよい。
反応管の内径は、製造スケールやマイクロ波の周波数等により適宜選択可能であるが、例えば、有底円筒体の反応管を使用して周波数2.45GHz帯のマイクロ波を照射する場合、25mm以下が好ましく、5~15mmが更に好ましい。
反応管の材質は、マイクロ波損失が少なく、かつ高い耐熱性を有すれば特に限定されないが、例えば、ガラス、石英、ポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。
【0019】
セメントクリンカ原料は、シングルモードのマイクロ波のエネルギー強度が極大でかつ均一となる反応管の内部に充填される。例えば、
図1(b)に、シングルモードキャビティの軸方向であって、シングルモードのマイクロ波のエネルギー強度が極大でかつ均一となる位置にセメントクリンカ原料を充填する方法の一例を示す。即ち、反応管3の下部に石英棒4を設置して嵩上げしたうえで、石英棒4の上部にセメントクリンカ原料5を載置した後、更にセメントクリンカ原料が動かないように上部に石英棒4を載置して加圧し、セメントクリンカ原料の充填位置を調整する。
【0020】
<工程(B)>
本工程は、セメントクリンカ原料にシングルモードのマイクロ波を照射して焼成し、焼成物を得る工程である。シングルモードのマイクロ波をセメントクリンカ原料に照射することで、セメントクリンカ原料のみを集中的に直接加熱できるため、生焼け状態にならずに充分に焼成することができる。
【0021】
マイクロ波の周波数は、例えば、2.45GHz帯、5.8GHz帯、915MHz帯を挙げることができるが、その他の周波数帯も適宜用いることができる。
【0022】
マイクロ波発生器からシングルモードキャビティ内に発振されたマイクロ波は、シングルモードの定在波を形成する。定在波は特に限定されないが、例えば、TM0n0モード(nは1以上の整数である。)、TEmn0モード(m及びnは1以上の整数である、)を挙げることができる。中でも、TM0n0モード(nは前記と同義である。)が好ましく、TM010モードが更に好ましい。TM010モードの定在波は、例えば、シングルモードキャビティの軸(例えば、円筒型の場合は円筒の中心軸)方向に沿って電界強度が極大となるため、被処理対象物の設置位置を決定しやすいという利点がある。なお、定在波が形成されているか否かは、電界モニターからの信号に基づき判断することができる。定在波が形成されていない場合には、マイクロ波発生器から発振されるマイクロ波の周波数を変化させるか、あるいはキャビティの内径を調整することにより、定在波が形成されるようフィードバック制御を行ってもよい。
【0023】
シングルモードキャビティは、伝送路型と共振器型とに分類されるが、より高いエネルギー密度を与えられる点で、共振器型が好ましい。この場合、シングルモードにおけるQ値は、セメントクリンカ原料を選択的にかつ集中的に加熱する観点から、500以上が好ましく、1000以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「Q値」とは、共振周波数と半値幅との比をいい、Q値が高いほど損失が小さく、エネルギーの増幅効率が高いことを意味する。
【0024】
マイクロ波の照射は、セメントクリンカ中のフリーライム(以下、「f.CaO」とも称する。)の含有量が1質量%以下となるように行えばよい。ここで、本明細書において「フリーライムの含有量」は、「セメント協会法標準試験方法 JCAS I-01-1997(遊離酸化カルシウムの定量方法 A法)」に準拠して測定するものとする。
例えば、1回当たりのマイクロ波の照射により、1000℃以上の温度において、好ましくは1~5分間、より好ましくは1~4分間、更に好ましくは1~3分間セメントクリンカ原料を焼成することができる。マイクロ波を照射したときの温度は、2000℃を超えないことが好ましく、1700℃を超えないことが更に好ましい。かかる温度における保持時間は、30秒以内が好ましく、20秒以内が更に好ましい。なお、温度は、反応管に挿入した温度計や熱電対、サーモグラフィにより測定することができる。マイクロ波発生器の出力は、上記した照射条件となるように適宜選択することができる。
【0025】
マイクロ波の照射は、複数回行っても構わない。マイクロ波の照射を複数回行う場合、セメントクリンカ原料の生焼けを防止しつつ、短時間で効率よくセメントクリンカを製造する観点から、マイクロ波をセメントクリンカ原料に1回照射し、後述する工程(C)を行った後、工程(d)に供することが好ましい。
【0026】
<工程(C)>
本工程は、焼成物を粉砕して粉砕物を得る工程である。これにより、セメントクリンカを製造することができる。
焼成物の粉砕は、例えば、すり鉢、工業用の粉砕機を使用することができる。粉砕機の具体例としては、上記と同様のものを挙げることができる。また、ダイアモンド砥石等を用いた工業用の研削機による研削も行うことができる。粉砕時間は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して粉砕物のブレーン比表面積を測定したときに、2000~4000(cm2/g)になることを目安に設定すればよい。
【0027】
<工程(d)>
本工程は、工程(c)で得られた粉砕物についてf.CaOの含有量を分析し、f.CaOの含有量が1質量%を超える場合、工程(c)で得られた粉砕物を、工程(a)から工程(c)まで順次供する工程である。工程(b)における焼成が不充分であると、セメントクリンカが生焼け状態になって、エーライトの含有量が低く、セメントクリンカ中のf.CaOの含有量が多くなるため、早期強度の発現が不充分となり、セメントの品質が低下する。そのため、本工程は、エーライトに富み、f.CaOの含有量が1質量%以下に低減されたセメントクリンカとするために行う。
【0028】
本工程においては、工程(c)で得られた粉砕物を、マイクロ波照射装置の反応管内に充填し、シングルモードのマイクロ波を照射して焼成して焼成物を得、焼成物を粉砕すればよい。粉砕後、粉砕物のf.CaOの含有量を分析し、粉砕物のf.CaOの含有量が1質量%以下であるか否かを確認する。そして、f.CaOの含有量が1質量%を超える場合、粉砕物のf.CaOの含有量が1質量%以下になるまで、工程(a)から工程(c)までを繰り返し行う。このように、本工程は、工程(c)で得られた粉砕物のf.CaOの含有量が1質量%以下になるまで、1回又は2回以上行うことができる。なお、本工程における、粉砕物の反応管への充填方法、マイクロ波の照射及び焼成物の粉砕に係る操作は、上記において説明したとおりである。
【0029】
このようにして、セメントクリンカを製造することができる。
本発明の方法により製造されるセメントクリンカは、その鉱物相等により用途を適宜選択することができるが、ポルトランドセメントクリンカとして使用することが好ましい。ポルトランドセメントクリンカとしては特に限定されないが、例えば、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカを挙げることができる。中でも、普通ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカが好ましい。
【0030】
セメントクリンカの鉱物相は、エーライト(3CaO・SiO2:「C3S」とも称する。)、ビーライト(2CaO・SiO2:「C2S」とも称する。)、アルミネート(3CaO・Al2O3:「C3A」とも称する。)及びフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3:「C4AF」とも称する。)から選択される1又は2以上の鉱物を含むことが好ましく、少なくともエーライト及びビーライトを含むことが更に好ましい。なお、セメントクリンカ中に含まれる鉱物相の同定は、粉末X線回折(XRD)装置を用い、XRD測定を実施してリートベルト解析を行えばよい。
【0031】
本発明により製造されるセメントクリンカは、ビーライトに富む一方、f.CaOの含有量が低減されている。セメントクリンカ原料の焼成温度を低く設定すると、セメントクリンカ原料の焼成反応が遅いため、ビーライトの含有量が高く、f.CaOの残存量も高くなりやすく、他方焼成温度を高く設定すると、セメントクリンカ原料の焼成反応が促進されるため、セメントクリンカ中のビーライトの含有量が低く、f.CaO残存量も低くなることは知られている。即ち、ビーライトの増加とf.CaOの低減は、相反する特性であるため、従来ビーライトを増量しつつ、f.CaO量を低減させることは難しかった。しかるところ、本発明者らは、セメントクリンカ原料にシングルモードのマイクロ波を照射して焼成することで、意外にも、ビーライトに富み、f.CaO含有量が低減されたセメントクリンカを製造できることを見出したものである。具体的には、例えば、普通ポルトランドセメントクリンカである場合、ビーライトの含有量は通常20質量%以上、好ましくは21質量%以上であり、f.CaOの含有量は1質量%以下、好ましくは0.7質量%以下とすることができる。また、低熱ポルトランドセメントクリンカである場合、ビーライトの含有量は通常60質量%以上、好ましくは63質量%以上であり、f.CaOの含有量は通常0.7質量%以下、好ましくは0.3質量%以下とすることができる。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
1.セメントクリンカの化学組成の分析
蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)を用いて蛍光X線分析(検量線法)し、SiO2、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO、SO3、Na2O、K2O、TiO2及びその他微量元素の含有率を求めた。
【0034】
2.セメントクリンカの鉱物相の分析
粉末X線回折(XRD)装置(D8-Advance A-25型、Bruker AXS社製)を用いて、XRD測定を実施し、リートベルト解析を行った。そして、XRDパターンより同定された鉱物の理論プロファイルを、粉末XRDの結果から得られた実測プロファイルにフィッティングすることにより各鉱物相の含有率を求めた。
【0035】
粉末XRD測定条件
・使用X線 :CuKα
・管球条件 :管電圧40kV-管電流40mA
・走査範囲 :5~65°
・ステップ幅:0.023°/step
・測定時間 :0.13秒/step
・リートベルト解析ソフト:TOPAS Version5.0(Bruker AXS社製)
【0036】
3.フリーライム(f.CaO)の分析
「セメント協会法標準試験方法 JCAS I-01-1997(遊離酸化カルシウムの定量方法 A法)」に準拠して測定した。
【0037】
実施例1
表1に示す化学組成のセメントクリンカ(OPCクリンカ)となるように、各原料試薬をポリ袋へ投入し、袋混合した後、振動型ディスクミルを用いて60秒間混合粉砕してセメントクリンカ原料を調製した。なお、カルシウム源として炭酸カルシウム試薬を用い、その他試薬は酸化物ないし炭酸塩を用いた。
<工程(a)>
本工程では、
図1(a)と同様の構成を備えるシングルモード(空洞共振器)型マイクロ波照射装置を使用し、このマイクロ波照射装置の有底円筒状の石英製反応管(内径φ10mm)内にセメントクリンカ原料0.5gを次の方法により充填した。即ち、
図1(b)に示されるように、シングルモードのマイクロ波のエネルギー強度が極大かつ均一となる位置にセメントクリンカ原料を充填できるように、反応管下部に石英棒を設置して嵩上げしたうえで、石英棒上面にセメントクリンカ原料を詰め込んだ後、セメントクリンカ原料上面に石英棒を載置して押さえた。
<工程(b)>
次いで、マイクロ波発生器から反応管内のセメントクリンカ原料にマイクロ波を照射して焼成した。マイクロ波の照射条件は、周波数2.45GHz、70~90W、1000℃以上での保持時間2分間とした。このときの温度をサーモグラフィにて監視した。焼成時の最高温度は1700℃であり、この温度での保持時間は上記した2分のうちの15秒であった。定在波は、TM
010のシングルモードである。
<工程(c)>
焼成物を反応管から取り出し冷却した後、すり鉢を用いて粉砕した。そして、焼成の終点を判断するべく粉砕物について湿式滴定分析を行った。粉砕物は、f.CaOの含有量が9質量%であり、1質量%を超えていたため、次の工程(d)を行った。
<工程(d)>
工程(c)で得られた粉砕物を、工程(a)と同様の操作によりマイクロ波照射装置の反応管に充填し、工程(b)と同一条件で粉砕物にマイクロ波を照射して焼成し、焼成物を工程(C)と同様の操作により粉砕して粉砕物を得た。この粉砕物について湿式滴定分析を行ったところ、f.CaOの含有量が1質量%を超えていたため、工程(a)から工程(C)までをもう一度行い、粉砕物を得た。この粉砕物について湿式滴定分析を行ったところ、f.CaOの含有量が1質量%以下であることを確認した。この粉砕物を、普通ポルトランドセメントクリンカ(OPCクリンカ)として回収した。
得られた普通ポルトランドセメントクリンカ(OPCクリンカ)について鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0038】
実施例2
CaO源をCa(OH)2に、Al2O3源を高炉スラグに、それぞれ置き換え、鉱化剤としてCaF2(調合原料100gに対し、CaF2を1000ppm)とCaSO4(調合原料100gに対し、CaSO4を1質量%)を添加したこと以外は、表1に示す化学組成のセメントクリンカ(OPC+クリンカ)となるように、実施例1と同様の操作によりセメントクリンカ原料を調製した。次いで、このセメントクリンカ原料を、実施例1と同様の操作により工程(a)から工程(d)に供して粉砕物を得、この粉砕物を普通ポルトランドセメントクリンカ(OPC+クリンカ)として回収した。
得られた普通ポルトランドセメントクリンカ(OPC+クリンカ)について鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0039】
実施例3
表1に示す化学組成のセメントクリンカ(LPCクリンカ)となるように、実施例1と同様の操作によりセメントクリンカ原料を調製した。次いで、このセメントクリンカ原料を、実施例1と同様の操作により工程(a)から工程(d)に供して粉砕物を得、この粉砕物を低熱ポルトランドセメントクリンカ(LPCクリンカ)として回収した。
得られた低熱ポルトランドセメントクリンカ(LPCクリンカ)について鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0040】
比較例1
実施例1で調製したセメントクリンカ原料を、炉内温度1000℃に加熱した電気炉に入れ1000℃で30分間焼成した後、1500℃まで昇温し、1500℃で30分間焼成した。焼成物を電気炉から取り出し冷却した後、5mm以下に粗粉砕し、150秒ディスクミルで粉砕した。
粉砕物を普通ポルトランドセメントクリンカ(OPCクリンカ)として回収し、鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0041】
比較例2
実施例2で調製したセメントクリンカ原料を、炉内温度1000℃に加熱した電気炉に入れ1000℃で30分間焼成した後、1400℃まで昇温し、1400℃で30分間焼成したこと以外は、比較例1と同様に操作により粉砕物を得た。
粉砕物を普通ポルトランドセメントクリンカ(OPC+クリンカ)として回収し、鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0042】
比較例3
実施例3で調製したセメントクリンカ原料を、炉内温度1000℃に加熱した電気炉に入れ1000℃で30分間焼成した後、1450℃まで昇温し、1450℃で30分間焼成したこと以外は、比較例1と同様に操作により粉砕物を得た。
粉砕物を低熱ポルトランドセメントクリンカ(LPCクリンカ)として回収し、鉱物相の分析を行った。その結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
試験例
各実施例及び比較例で得られたセメントクリンカに、SO
3量が2.0質量%になるように二水石膏を添加し、セメントを作製した。なお、実施例2及び比較例2で得られた普通ポルトランドセメントクリンカ(OPC+クリンカ)は、既にSO
3量が2質量%を超過していたため、SO
3量1.2質量%の二水石膏を添加した。粉砕の目安は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠したブレーン比表面積が3200±100(cm
2/g)に設定した。
次いで、各セメントについて、セメントと水とをW/C=0.5で混合し、セメントペーストを調製し、発熱量を測定した。なお、発熱量は、等温熱量測定装置(TAM Air、TA Instruments社製)を用い、7日間(168h)までの積算発熱量を測定した。その結果を
図2の(a)~(c)に示す。
【0046】
図2の結果から、実施例で得られたセメントクリンカから試製したセメントは、比較例(従来の炉を用いた製造方法)で得られたセメントクリンカから試製したセメントと同等の水和反応を示すことが確認された。また、両者の積算発熱量の時系列変化に差異がないことが分かる。