(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153178
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】回転力伝達装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
F16D 7/04 20060101AFI20241022BHJP
G03G 15/20 20060101ALI20241022BHJP
G03G 21/16 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F16D7/04 A
G03G15/20 535
G03G21/16 147
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066910
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168217
【弁理士】
【氏名又は名称】大村 和史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌太郎
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
【Fターム(参考)】
2H033AA13
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB30
2H033BB37
2H033BE00
2H171FA04
2H171FA19
2H171FA26
2H171GA32
2H171LA04
2H171LA08
2H171LA13
2H171QA03
2H171QA08
2H171QA24
2H171QB02
2H171QB15
2H171QB32
2H171QC03
2H171QC22
2H171QC36
2H171SA11
2H171SA14
2H171SA22
2H171SA26
2H171UA03
2H171UA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ギヤの端面削れを防止できる回転力伝達装置を提供する。
【解決手段】回転力伝達装置104は、第1ギヤ122の第2ギヤ124側の側面に設けられたスリーブ130、第1ラチェット部190を有し、スリーブよりも第2ギヤ側に設けられた第1ラチェット部材132、スリーブと第1ラチェット部材との間に設けられ、第1ラチェット部材を第2ギヤ側に付勢する付勢部材134、第1ラチェット部と係合する第2ラチェット部208を有し、第2ギヤの第1ギヤ側の側面に設けられた第2ラチェット部材136、およびスリーブと第2ラチェット部材との軸方向距離が一定となるように規制するカバー部材138を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ回転軸上に並んで配置された第1ギヤと第2ギヤとを備える回転力伝達装置であって、
前記第1ギヤと共に回転するように当該第1ギヤの前記第2ギヤ側の側面に設けられたスリーブ、
前記第2ギヤ側の端部に第1ラチェット部を有し、前記回転軸の軸方向に移動可能であってかつ前記スリーブと共に回転するように前記スリーブよりも前記第2ギヤ側に設けられた第1ラチェット部材、
前記スリーブと前記第1ラチェット部材との間に設けられ、前記第1ラチェット部材を前記第2ギヤ側に付勢する付勢部材、
前記第1ギヤ側の端部に前記第1ラチェット部と係合する第2ラチェット部を有し、前記第2ギヤと共に回転するように当該第2ギヤの前記第1ギヤ側の側面に設けられた第2ラチェット部材、および
前記回転軸の軸方向おける前記スリーブと前記第2ラチェット部材との距離が一定となるように規制するカバー部材を備える、回転力伝達装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、
筒状の基体、
前記基体の一方端部に設けられ、前記第2ラチェット部材の前記第2ギヤ側への移動を規制する第1規制部、および
前記基体の他端部に設けられ、前記スリーブの前記第1ギヤ側への移動を規制する第2規制部を備える、請求項1記載の回転力伝達装置。
【請求項3】
前記第2規制部は、前記回転軸の軸方向に延びる突出片と前記突出片の先端部から前記回転軸側に向かって突出する爪部とを有する複数の係止爪によって構成され、
前記第1ギヤは、前記第2ギヤ側の側面に前記複数の係止爪の開きを規制する開き規制部を有する、請求項2記載の回転力伝達装置。
【請求項4】
前記開き規制部は、前記第1ギヤに対して前記スリーブを連結するためのスリーブ連結部の周縁部から前記第2ギヤ側に突出する筒状に形成されている、請求項3記載の回転力伝達装置。
【請求項5】
請求項1記載の回転力伝達装置、および
前記回転力伝達装置から回転力を伝えられる定着ユニットを備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は回転力伝達装置および画像形成装置に関し、特にたとえば、同じ回転軸上に並んで配置された第1ギヤと第2ギヤとを備える、回転力伝達装置およびそれを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転力伝達装置(駆動装置)の一例が特許文献1に開示される。特許文献1の技術では、正逆回転可能な駆動源により駆動される第1ギヤと、第2ギヤと、第1ギヤと第2ギヤとの間の駆動伝達経路に設けられた一方向クラッチユニットとを備える。一方向クラッチユニットは、入力側係合部を有し、第1ギヤから駆動が入力される入力ギヤと、出力側係合部を有し、第2ギヤに駆動を出力する出力ギヤと、入力ギヤと出力ギヤとの間に配置され、入力側係合部と係合可能な第1係合部と、出力側係合部と係合可能な第2係合部とを有し、駆動源の正回転時に第1係合部と入力側係合部とが係合すると共に第2係合部と出力側係合部とが係合することで入力ギヤの駆動を出力ギヤに伝達し、駆動源の逆回転時に第2係合部と出力側係合部との係合が外れることで入力ギヤと出力ギヤとの間の駆動伝達を実質的に解除する駆動伝達部材と、出力ギヤと駆動伝達部材との何れか一方の部材に設けられ、他方の部材に対して弾性的に当接する弾性当接部とを有する。入力ギヤおよび出力ギヤのそれぞれは、はす歯ギヤであり、駆動源の正回転時に入力ギヤおよび出力ギヤに生じるスラスト力の方向が互いに向き合う方向となるように、入力ギヤおよび出力ギヤの歯のねじれ方向が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ギヤの歯先に設けたはす歯の向きを逆にすることで、歯先に生じるスラスト力によってギヤが軸方向に偏る力を弱めている。しかしながら、回転によって発生するスラスト力は、回転方向における回転負荷のばらつきによって変動する。このため、バランスをとるのが難しく、ギヤが軸方向に移動してしまって端面削れを引き起こす恐れがある。
【0005】
それゆえに、この開示の主たる目的は、新規な、回転力伝達装置および画像形成装置を提供することである。
【0006】
この開示の他の目的は、ギヤの端面削れを防止できる、回転力伝達装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の開示は、同じ回転軸上に並んで配置された第1ギヤと第2ギヤとを備える回転力伝達装置であって、第1ギヤと共に回転するように当該第1ギヤの第2ギヤ側の側面に設けられたスリーブ、第2ギヤ側の端部に第1ラチェット部を有し、回転軸の軸方向に移動可能であってかつスリーブと共に回転するようにスリーブよりも第2ギヤ側に設けられた第1ラチェット部材、スリーブと第1ラチェット部材との間に設けられ、第1ラチェット部材を第2ギヤ側に付勢する付勢部材、第1ギヤ側の端部に第1ラチェット部と係合する第2ラチェット部を有し、第2ギヤと共に回転するように当該第2ギヤの第1ギヤ側の側面に設けられた第2ラチェット部材、および回転軸の軸方向おけるスリーブと第2ラチェット部材との距離が一定となるように規制するカバー部材を備える、回転力伝達装置である。
【0008】
第1の開示では、第1ラチェット部と第2ラチェット部との間に所定値以上の回転負荷が作用したとき、付勢部材の付勢力に抗って第1ラチェット部材が第2ラチェット部材から離れる方向に移動することで、第1ラチェット部と第2ラチェット部との係合が解除される。この際、カバー部材によってスリーブと第2ラチェット部材との軸方向距離が一定となるように規制されていることから、ラチェット機構が作動してスラスト方向の力が発生しても、発生したスラスト力は、第1ギヤおよび第2ギヤには伝わらない。
【0009】
第1の開示によれば、スリーブと第2ラチェット部材との軸方向距離が一定となるように規制するカバー部材を備えるので、ラチェット機構(トルクリミッタ機構)の作動時に発生するスラスト力が第1ギヤおよび第2ギヤに伝わることを防止できる。したがって、第1ギヤおよび第2ギヤの端面削れを適切に防止でき、延いては第1ギヤおよび第2ギヤの変形に起因する回転ムラの発生を効果的に防止できる。
【0010】
第2の開示は、第1の開示に従属し、カバー部材は、筒状の基体、基体の一方端部に設けられ、第2ラチェット部材の第2ギヤ側への移動を規制する第1規制部、および基体の他端部に設けられ、スリーブの第1ギヤ側への移動を規制する第2規制部を備える。
【0011】
第3の開示は、第2の開示に従属し、第2規制部は、回転軸の軸方向に延びる突出片と突出片の先端部から回転軸側に向かって突出する爪部とを有する複数の係止爪によって構成され、第1ギヤは、第2ギヤ側の側面に複数の係止爪の開きを規制する開き規制部を有する。
【0012】
第4の開示は、第3の開示に従属し、開き規制部は、第1ギヤに対してスリーブを取り付けるためのスリーブ連結部の周縁部から第2ギヤ側に突出する筒状に形成されている。
【0013】
第5の開示は、第1の開示に係る回転力伝達装置、および回転力伝達装置から回転力を伝えられる定着ユニットを備える、画像形成装置である。
【発明の効果】
【0014】
この開示によれば、第1ギヤおよび第2ギヤの端面削れを適切に防止でき、延いては第1ギヤおよび第2ギヤの変形に起因する回転ムラの発生を効果的に防止できる。
【0015】
この開示の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この開示の第1実施例である回転力伝達装置を備える画像形成装置の内部構造を示す概略断面図である。
【
図2】定着ユニットを取り外した状態の画像形成装置を示す斜視図である。
【
図7】回転力伝達装置の構成を示す分解斜視図である。
【
図8】回転力伝達装置が備える伝達機構の構成を示す分解斜視図である。
【
図10】伝達機構が備えるスリーブを示す斜視図である。
【
図11】伝達機構が備える第1ラチェット部材を示す第1斜視図である。
【
図12】第1ラチェット部材を示す第2斜視図である。
【
図13】伝達機構が備える第2ラチェット部材を示す斜視図である。
【
図15】伝達機構が備えるカバー部材を示す斜視図である。
【
図17】第1ラチェット部と第2ラチェット部とが係合した状態の回転力伝達装置の内部構造を示す図解図である。
【
図18】第1ラチェット部と第2ラチェット部との係合が解除された状態の回転力伝達装置の内部構造を示す図解図である。
【
図19】回転力伝達装置の緩衝動作を説明するための図解図である。
【
図20】第1ラチェット部と第2ラチェット部との係合が解除された状態の伝達機構を示す断面図である。
【
図21】第2実施例の回転力伝達装置を示す斜視図である。
【
図22】第2実施例の回転力伝達装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施例]
図1および
図2を参照して、この開示の一実施例である画像形成装置10は、電子写真方式によって用紙(記録媒体)に多色または単色の画像を形成する。詳細は後述するように、画像形成装置10は、装置本体12に設けられる回転力伝達装置104を備えており、この回転力伝達装置104を介して、モータ102からの駆動力(回転力)が着脱ユニットの一例である定着ユニット46に伝えられる。
【0018】
先ず、画像形成装置10の基本構成について概略的に説明する。なお、この明細書では、ユーザの立ち位置に対向する面、つまり操作ユニット26が設けられる側の面を前面(正面)として画像形成装置10およびその構成部材の前後方向(奥行方向)を規定する。また、画像形成装置10およびその構成部材の左右方向(横方向)は、ユーザから画像形成装置10を見た状態を基準として規定する。
【0019】
図1および
図2に示すように、この実施例では、画像形成装置10は、複写機能、プリンタ機能、スキャナ機能およびファクシミリ機能などを有する複合機(MFP:Multifunction Peripheral)である。画像形成装置10は、画像形成部30等を備える装置本体12、およびその上方に配置される画像読取装置14を含む。
【0020】
画像読取装置14は、透明材によって形成される原稿載置台16を備える。原稿載置台16の上方には、ヒンジ等を介して原稿押えカバー18が開閉自在に取り付けられる。この原稿押えカバー18には、原稿載置トレイ20に載置された原稿を画像読取位置22に対して1枚ずつ自動的に給紙するADF(自動原稿送り装置)24が設けられる。また、原稿載置台16の前面側には、ユーザによる印刷指示等の入力操作を受け付ける操作ユニット26が設けられる。この操作ユニット26には、タッチパネルディスプレイ等のディスプレイおよび各種の操作ボタン等が適宜設けられる。
【0021】
また、画像読取装置14には、光源、複数のミラー、結像レンズおよびラインセンサ等を備える画像読取部28が内蔵される。画像読取部28は、原稿表面を光源によって露光し、原稿表面から反射した反射光を複数のミラーによって結像レンズに導く。そして、結像レンズによって反射光をラインセンサの受光素子に結像させる。ラインセンサでは、受光素子に結像した反射光の輝度や色度が検出され、原稿表面の画像に基づく画像データが生成される。ラインセンサとしては、CCD(Charge Coupled Device)またはCIS(Contact Image Sensor)等が用いられる。
【0022】
装置本体12には、CPUおよびメモリ等を含む制御部(図示せず)および画像形成部30などが内蔵される。制御部は、ユーザによる操作ユニット26への入力操作などに応じて、画像形成装置10の各部位に制御信号を送信し、画像形成装置10に種々の動作を実行させる。
【0023】
画像形成部30は、露光ユニット32、現像器34、感光体ドラム36、クリーナユニット38、帯電器40、中間転写ベルトユニット42、二次転写ローラ44および定着ユニット46等を備え、給紙トレイ48または手差し給紙トレイ50から搬送される用紙上に画像を形成し、画像形成済みの用紙を排紙トレイ52に排出する。用紙上に画像を形成するための画像データとしては、画像読取部28で読み取った画像データまたは外部コンピュータから送信された画像データ等が利用される。
【0024】
なお、画像形成装置10において扱われる画像データは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の4色のカラー画像に応じたものである。このため、現像器34、感光体ドラム36、クリーナユニット38および帯電器40のそれぞれは、各色に応じた4種類の潜像を形成するように4個ずつ設けられ、これらによって4つの画像ステーションが構成される。
【0025】
感光体ドラム36は、導電性を有する円筒状の基体の表面に感光層が形成された像担持体であり、帯電器40は、この感光体ドラム36の表面を所定の電位に帯電させる部材である。また、露光ユニット32は、レーザ出射部および反射ミラー等を備えたレーザスキャニングユニット(LSU)として構成され、帯電された感光体ドラム36の表面を露光することによって、画像データに応じた静電潜像を感光体ドラム36の表面に形成する。現像器34は、感光体ドラム36の表面に形成された静電潜像を4色(YMCK)のトナーによって顕像化するものである。また、クリーナユニット38は、現像および画像転写後における感光体ドラム36の表面に残留したトナーを除去する。
【0026】
中間転写ベルトユニット42は、中間転写ベルト54、駆動ローラ56、従動ローラ58、および4つの中間転写ローラ60などを備え、感光体ドラム36の上方に配置される。中間転写ベルト54は、可撓性を有する無端状のベルトであって、駆動ローラ56および従動ローラ58等の複数のローラによって張架されて、その表面(外周面)が感光体ドラム36の表面に当接するように配置される。この中間転写ベルト54は、駆動ローラ56の回転駆動に伴い、所定方向に回転(周回移動)する。中間転写ローラ60は、中間転写ベルト54を挟んで各感光体ドラム36と対向する位置のそれぞれに配置される。画像形成時には、この中間転写ローラ60を用いて、各感光体ドラム36に形成された各色のトナー像を中間転写ベルト54に順次重ねて転写することで、中間転写ベルト54上に多色のトナー像が形成される。
【0027】
二次転写ローラ44は、中間転写ベルト54を挟んで駆動ローラ56と対向するように設けられる。この二次転写ローラ44と中間転写ベルト54との間の二次転写ニップ部を用紙が通過することによって、中間転写ベルト54に形成されたトナー像が用紙に転写される。
【0028】
定着ユニット46(定着装置)は、定着ベルト62および加圧ローラ64等を備え、二次転写ローラ44の上方(用紙搬送方向の下流側)に配置される。定着ユニット46は、装置本体12に対して着脱可能である。定着ベルト62内には、定着パッド76および熱源82など(
図3参照)が設けられており、定着ベルト62は、熱源82によって所定の定着温度となるように加熱される。また、加圧ローラ64は、定着パッド76との間で定着ベルト62を押圧するように設けられる。この加圧ローラ64と定着ベルト62との間の定着ニップ部Nを用紙が通過することによって、用紙に転写されたトナー像が溶融、混合および圧接されて、用紙に対してトナー像が熱定着される。
【0029】
また、装置本体12には、定着ユニット46の背面側(装置本体12の右奥部)に定着ユニット駆動装置100が固定的に設けられる。装置本体12に定着ユニット46を装着すると、定着ユニット46と定着ユニット駆動装置100とが連結され、加圧ローラ64は、定着ユニット駆動装置100から回転駆動力を受けて回転駆動される。定着ユニット46および定着ユニット駆動装置100の具体的構成については後述する。
【0030】
このような装置本体12内には、給紙トレイ48または手差し給紙トレイ50からの用紙をレジストローラ68、二次転写ローラ44および定着ユニット46を経由させて排紙トレイ52に送るための第1用紙搬送路L1が形成される。また、用紙に対して両面印刷を行う際に、片面印刷が終了して定着ユニット46を通過した後の用紙を、二次転写ローラ44の用紙搬送方向の上流側において第1用紙搬送路L1に戻すための第2用紙搬送路L2が形成される。この第1用紙搬送路L1および第2用紙搬送路L2には、用紙に対して補助的に推進力を与えるための複数の搬送ローラ66が適宜設けられる。
【0031】
次に、
図3を参照して、定着ユニット46の構成について説明する。定着ユニット46は、定着ベルト62と加圧ローラ64とを備え、これらの間に形成される定着ニップ部Nに用紙を通過させることによって、用紙にトナー像を定着させる。ただし、定着ユニット46の具体的構成については、適宜変更可能であり、他の方式のものを採用することもできる。
【0032】
具体的には、
図3に示すように、定着ユニット46は、定着ベルト62等を有するヒータユニット70と加圧ローラ64とを含む。ヒータユニット70が備える各部材および加圧ローラ64は、図示しない定着フレームによって所定の配置態様で一体的に保持される。
【0033】
ヒータユニット70は、略円筒状に形成されて前後方向(用紙の幅方向)に延びる定着ベルト62を備える。定着ベルト62としては、たとえば、ポリイミド等の合成樹脂またはニッケル等の金属によって形成された帯状の基材の表面に離型層を設けたものが用いられる。このような定着ベルト62は、その軸線回りに回転可能に設けられており、その内径は、たとえば30mmである。また、定着ベルト62の内部には、定着パッド76、支持部材78、反射板80および熱源82などが設けられる。
【0034】
定着パッド76は、定着ベルト62の内周面と摺接するように固定的に設けられる固定部材であって、定着ベルト62の軸方向に沿って延びる長板状に形成される。定着パッド76は、その外周面(少なくとも定着ベルト62との摺接面)に摺接シート76aを有しており、この摺接シート76aには、定着ベルト62との摩擦力を低減するための摺動オイルが塗布される。定着パッド76の長さは、定着ベルト62の軸方向長さ(幅)と同じ大きさである。
【0035】
支持部材78は、定着パッド76を定着ベルト62の内周面に押し当てながら支持する部材であって、その両端部は定着フレームに固定されている。この実施例では、支持部材78は、断面略L字状に形成されており、定着パッド76が固定される長板状の固定部78aと、固定部78aの幅方向端部から立設される長板状の立設部78bとを有している。また、支持部材78には、熱源82側の面を覆うように、薄板状の反射板80が取り付けられる。
【0036】
熱源82は、定着ベルト62を加熱するための部材であって、定着ベルト62の軸方向に沿って延びるように設けられる。熱源82としては、ハロゲンランプ等のランプヒータが用いられる。この実施例では、熱源82は、定着ベルト62の軸方向中央部を加熱する第1ランプヒータ82aと、定着ベルト62の軸方向両端部を加熱する第2ランプヒータ82bとを含む。
【0037】
加圧ローラ64は、定着ベルト62を挟んで定着パッド76と対向する位置に配置される回転体である。加圧ローラ64は、定着ベルト62の軸方向と平行に延びるように設けられ、定着パッド76との間で定着ベルト62を押圧することで、定着ベルト62との間に定着ニップ部Nを形成する。
【0038】
加圧ローラ64のローラ軸(図示せず)の後端部には、ギヤ(図示せず)が設けられる。このギヤに後述する回転力伝達装置104の出力ギヤ124が連結されることで、加圧ローラ64のローラ軸にモータ102(
図4参照)が連結され、加圧ローラ64は、モータ102からの駆動力を受けて回転駆動される。また、この加圧ローラ64の回転駆動に伴い、定着ベルト62が加圧ローラ64の回転方向と逆方向に従動回転する。すなわち、加圧ローラ64は、定着ベルト62の外周面と当接して定着ベルト62との間に定着ニップ部Nを形成すると共に、この定着ニップ部Nを介して定着ベルト62に回転駆動力を伝達することによって、定着ベルト62を従動回転させる。
【0039】
また、定着ユニット46は、定着ベルト62の表面温度を検出するサーモパイル等の温度センサ94を備える。さらに、定着ニップ部Nの用紙搬送方向における下流側には、定着ベルト62に対する用紙の巻き付きを防止するための剥離板96が設けられる。
【0040】
続いて、定着ユニット駆動装置100の構成について説明する。
図4に示すように、定着ユニット駆動装置100は、定着ユニット46に回転駆動力を与えるための装置であって、モータ102(駆動源)および回転力伝達装置104を備える。回転力伝達装置104は、ピニオンギヤ106および中間ギヤ108を介してモータ102に連結されており、これらモータ102、回転力伝達装置104、ピニオンギヤ106および中間ギヤ108等は、フレーム110によって所定の配置態様で保持される。モータ102からの駆動力は、ピニオンギヤ106、中間ギヤ108および回転力伝達装置104を介して、定着ユニット46の加圧ローラ64に伝達される。
【0041】
図5および
図6に示すように、回転力伝達装置104は、同じ回転軸120(支軸)上に並んで配置された合成樹脂製の入力ギヤ122(第1ギヤ)と出力ギヤ124(第2ギヤ)とを備える。また、回転軸120には、入力ギヤ122の後面側および出力ギヤ124の前面側のそれぞれに、金属製のEリング128が取り付けられており、これらEリング128によって入力ギヤ122および出力ギヤ124の軸方向位置が規制される。
【0042】
装置本体12に定着ユニット46を装着したときには、加圧ローラ64のローラ軸の後端部に設けられたギヤと、回転力伝達装置104の出力ギヤ124とが噛み合わされる。そして、回転力伝達装置104は、モータ102からの駆動力によって入力ギヤ122と出力ギヤ124とが回転軸120を中心に第1方向X(正回転方向)に回転することで、定着ユニット46の加圧ローラ64に対して回転力を伝える。
【0043】
ここで、定着ベルト62の破損等によって定着ユニット46がロック状態になったときに、定着ユニット駆動装置100に高負荷がかかることによるギヤの破損を防止するため、トルクリミッタ機構を備えることが好ましい。また、装置本体12に対する定着ユニット46の装着時に、加圧ローラ64のギヤと回転力伝達装置104の出力ギヤ124とが噛み合う際の衝撃によるギヤの破損を防止するため、この衝撃を和らげる緩衝機構を設けることが好ましい。
【0044】
そこで、この実施例では、回転力伝達装置104に以下の構成を採用することで、部品の共有化による省部品化および低コスト化を図りつつ、回転力伝達装置104をトルクリミッタ機構(ラチェット機構)および緩衝機構として機能させるようにした。さらに、回転力伝達装置104が備える伝達機構126をカバー部材138によって一体化して、トルクリミッタ機構が作動してスラスト方向(軸方向)の力が発生しても、発生したスラスト力を入力ギヤ122および出力ギヤ124に伝えないようにすることで、入力ギヤ122および出力ギヤ124の端面削れを防止するようにした。以下、回転力伝達装置104の構成について具体的に説明する。
【0045】
図5~
図7に示すように、回転力伝達装置104は、上述の入力ギヤ122および出力ギヤ124に加えて、入力ギヤ122と出力ギヤ124との間に設けられる伝達機構126を備える。伝達機構126は、入力ギヤ122の回転力を出力ギヤ124に伝える機構であって、詳細は後述するように、スリーブ130、第1ラチェット部材132、コイルばね134、第2ラチェット部材136およびカバー部材138を含む。伝達機構126の後端部(具体的にはスリーブ130の後端部)には、入力ギヤ122に形成された嵌合孔122a(スリーブ連結部の一例)に嵌合される嵌合突起160が形成される。伝達機構126は、嵌合孔122aと嵌合突起160とが嵌め合わされることで入力ギヤ122に連結されて、入力ギヤ122と共に回転軸120を中心に回転する。一方、伝達機構126の前端部(具体的には第2ラチェット部材136の前端部)には、出力ギヤ124に形成された嵌合孔124aに嵌合される嵌合突起204が形成される。出力ギヤ124は、嵌合孔124aと嵌合突起204とが嵌め合わされることで伝達機構126に連結されて、伝達機構126と共に回転軸120を中心に回転する。
【0046】
図8および
図9に示すように、伝達機構126は、スリーブ130、第1ラチェット部材132(第2のスリーブ)、コイルばね134および第2ラチェット部材136を含み、これらの部材は、カバー部材138によって装置本体12への取付前に予め一体化(ユニット化)される。このように、コイルばね134を含む伝達機構126をユニット化しておくことで、装置本体12に対する伝達機構126の取付作業(組立作業)を容易に行うことができる。
【0047】
図8および
図9と共に
図10を参照して、スリーブ130は、入力ギヤ122と共に回転軸120を中心に回転するように、入力ギヤ122の前面(出力ギヤ124側の側面)に連結される。具体的には、スリーブ130は、合成樹脂製であって、中央部に回転軸120が挿通される挿通孔150aが形成された短円筒状の基部150を備える。基部150の前端部には、2つの係止爪152(抜止部)が形成される。係止爪152は、基部150の前端部から前方に突出して回転軸120の軸方向に延びるように形成され、その先端部には、外方に突出する掛け部152aが形成される。また、スリーブ130は、基部150を囲繞するように形成された円筒状の筒部154と、筒部154を囲繞するように形成された円筒状の第1保持部156を備える。基部150、筒部154および第1保持部156のそれぞれの後端部は、円環板状の連結部158によって連結されている。さらに、連結部158の後面には、入力ギヤ122に形成された嵌合孔122aに嵌合される断面略台形状の2つの嵌合突起160(入力ギヤ122との係合部)が形成される。
【0048】
筒部154の外周面には、第1係合部162が形成される。この実施例では、第1係合部162は、回転軸120の周方向に所定間隔で並び、かつ回転軸120の軸方向に延びる略矩形板状の複数の突条によって構成される。また、連結部158の周縁部には、第1保持部156よりも外方に突出する鍔状の第1係止部164が形成されており、第1係止部164の周縁部には、前方に向かって突出する短円筒状の返し部164aが形成される。さらに、第1係止部164の前面には、前方に突出するように断面矩形状の第1ばね規制部164bが形成される。また、第1係止部164の後面周縁部には、周方向に所定間隔で並ぶ複数(この実施例では4つ)の被係止部166が形成される。この被係止部166には、後述するカバー部材138の係止爪214(第2規制部)が係合される。
【0049】
図8および
図9と共に
図11および
図12を参照して、第1ラチェット部材132は、回転軸120の軸方向に移動可能であってかつスリーブ130と共に回転軸120を中心に回転するように、スリーブ130よりも前側(出力ギヤ124側)に設けられる。具体的には、第1ラチェット部材132は、合成樹脂製であって、中央部に回転軸120が挿通される挿通孔170aが形成された短円筒状の基部170を備える。また、第1ラチェット部材132は、基部170を囲繞するように形成された円筒状の筒部172を備え、基部170の後端部と筒部172の中央部とは円環板状の連結部174によって連結されている。
【0050】
基部170および連結部174には、スリーブ130の係止爪152と回転軸120の軸方向に係合する2つの係止孔176が形成される。係止孔176は、基部170の後部および連結部158の内周縁部を基部170の厚み方向に切り欠いて形成された断面矩形状の孔である。この実施例では、係止孔176の回転軸120の周方向における長さW2は、係止爪152の回転軸120の周方向における長さW1よりも大きい値に設定されている。すなわち、係止爪152と係止孔176とには、W1とW2との差分だけ回転軸120の周方向に移動可能な回転遊びが形成されている。つまり、係止爪152は、係止孔176に対して、W1とW2との差分以内の範囲、つまり回転軸120の周方向に所定距離だけ移動可能な回転遊びを持って取り付けられる。
【0051】
そして、係止孔176に係止爪152が嵌め入れられて、係止爪152の掛け部152aが連結部174の内周縁部に係止されることで、第1ラチェット部材132は、スリーブ130に対して回転軸120の軸方向(前側)に抜け止めされた状態で一体化される。また、回転軸120の軸方向における係止孔176の長さを係止爪152の掛け部152aの長さよりも大きくしておくことで、第1ラチェット部材132は、回転軸120の軸方向に移動可能にスリーブ130と一体化される。
【0052】
また、筒部172の後部の内周面には、スリーブ130の第1係合部162と係合される第2係合部178が形成される。この実施例では、第2係合部178は、回転軸120の周方向に所定間隔で並び、かつ回転軸120の軸方向に延びる複数の溝部によって構成される。溝部のそれぞれは、2つの突起180によって形成されている。第1係合部162と第2係合部178とが係合されることで、スリーブ130の回転力が第1ラチェット部材132に伝達される。
【0053】
この実施例では、第2係合部178の回転軸120の周方向における長さW4(第2幅)は、第1係合部162の回転軸120の周方向における長さW3(第1幅)よりも大きい値に設定されている。すなわち、第1係合部162と第2係合部178とは、W3とW4との差分だけ回転軸120の周方向に移動可能な回転遊びを持って係合している。この回転遊びの大きさα(
図19参照)は、出力ギヤ124のピッチに換算して1ピッチ分以上3ピッチ分以下に相当する大きさに設定される。つまり、第2係合部178は、回転軸120の周方向に所定距離だけ移動可能な回転遊びを持って第1係合部162と係合する。なお、上述の係止爪152と係止孔176との周方向の遊びの大きさは、αと同じか少し大きい値に設定される。そのため、回転遊びの大きさαは、第1係合部162と第2係合部178の周方向における長さの差分で規定されると言える。
【0054】
筒部172の前端部の外周面には、短円筒状の第2保持部182が設けられる。また、第2保持部182の前端部には、外方に突出する鍔状の第2係止部184が形成されており、第2係止部184の周縁部には、後方に向かって突出する短円筒状の返し部184aが形成される。さらに、第2係止部184の後面には、後方に突出するように断面矩形状の第2ばね規制部184bが形成される。
【0055】
さらに、筒部172の前端部には、第1ラチェット部190が形成される。第1ラチェット部190は、周方向に並ぶノコ歯状の複数の歯190aによって構成される。複数の歯190aのそれぞれは、第1傾斜面190bと、その反対側に形成される第2傾斜面190cとを有する。第1傾斜面190bは、伝達機構126を第1方向Xに回転させて、モータ102からの駆動力を後述する第2ラチェット部材136に伝えるときに、第2ラチェット部208を押す側の面に形成される。回転軸120の軸方向に対する第2傾斜面190cの第2傾斜角θ2は、第1傾斜面190bの第1傾斜角θ1よりも大きい値に設定される。すなわち、この実施例の第1ラチェット部190は、回転軸120の軸方向に対して第1傾斜角θ1で傾斜する複数の第1傾斜面190bと、複数の第1傾斜面190bの間に形成され、回転軸120の軸方向に対して第1傾斜角θ1よりも大きい第2傾斜角θ2で傾斜する複数の第2傾斜面190cとを有する。第1傾斜角θ1は、たとえば2度以上15度以下の大きさに設定されることが好ましく、第2傾斜角θ2は、たとえば60度以上80度以下の大きさに設定されることが好ましい。
【0056】
図8および
図9に戻って、付勢部材の一例であるコイルばね134は、金属製の線材が軸方向に所定間隔をあけて螺旋状に巻かれた汎用の圧縮コイルばねであって、スリーブ130と第1ラチェット部材132との間に挟み込まれるように設けられる。具体的には、コイルばね134の後端部は、スリーブ130の第1保持部156に外嵌めされることで第1保持部156によって保持され、コイルばね134の前端部は、第1ラチェット部材132の第2保持部182に外嵌めされることで第2保持部182によって保持される。この際、コイルばね134の後端部134aがスリーブ130の第1係止部164に当接すると共に、コイルばね134の前端部134bが第1ラチェット部材132の第2係止部184に当接する。そして、スリーブ130および第1ラチェット部材132は、コイルばね134の圧縮に対する復元力によって回転軸120の軸方向に互いに離れる方向に付勢される。つまり、コイルばね134は、第1ラチェット部材132を出力ギヤ124側(第2ラチェット部材136側)に向けて付勢する。
【0057】
また、コイルばね134は、スリーブ130および第1ラチェット部材132に装着される際、拡径方向に少し捩じった状態にされる。そしてこの状態で、コイルばね134を形成する線材の一方端部134c(一方端面)とスリーブ130の第1ばね規制部164bとが回転軸120の周方向に当接することで、この一方端部134cの周方向位置が規制される。また、コイルばね134を形成する線材の他端部134d(他端面)と第1ラチェット部材132の第2ばね規制部184bとが回転軸120の周方向に当接されることで、この他端部134dの周方向位置が規制される。これにより、コイルばね134は、捩りに対する復元力によって第1係合部162と第2係合部178との係合が離れる方向、つまり第2係合部178(溝部)を形成する両側面のうちの一方の側面178aに第1係合部162(突条)を当接させる方向に、スリーブ130および第1ラチェット部材132を付勢する(
図19参照)。なお、側面178aは、スリーブ130が第1方向Xに回転するときに第1係合部162が当接する側面178bと反対側の側面である。そのため、コイルばね134は、捩りに対する復元力によって、第1係合部162よりも第1方向X側に第2係合部との回転遊びが生じるように、スリーブ130および第1ラチェット部材132を付勢するとも言える。
【0058】
図8および
図9と共に
図13および
図14を参照して、第2ラチェット部材136は、出力ギヤ124と共に回転軸120を中心に回転するように、出力ギヤ124の後面(入力ギヤ122側の側面)に連結される。具体的には、第2ラチェット部材136は、合成樹脂製であって、中央部に回転軸120が挿通される挿通孔200aが形成された円環板状の基部200を備える。基部200の前面には、前方に突出する第1短筒部202が形成される。この第1短筒部202の前端面には、出力ギヤ124に形成された嵌合孔124aに嵌合される断面略台形状の4つの嵌合突起204(つまり出力ギヤ124との係合部)が形成される。第2ラチェット部材136は、嵌合孔124aと嵌合突起204とが嵌め合わされることで出力ギヤ124に連結固定されて、出力ギヤ124と共に回転軸120を中心に回転する。また、基部200の前面周縁部は、後述するカバー部材138の係止部212(第1規制部)と当接する当接面200bとなる。
【0059】
また、基部200の後面には、後方に突出する第2短筒部206が形成される。この第2短筒部206の後端面(つまり第2ラチェット部材136の入力ギヤ122側の端部)には、第1ラチェット部190と係合する第2ラチェット部208が形成される。第2ラチェット部208は、周方向に並ぶノコ歯状の複数の歯208aによって構成される。複数の歯208aのそれぞれは、第1ラチェット部190の第1傾斜面190bおよび第2傾斜面190cのそれぞれと係合する第3傾斜面208bおよび第4傾斜面208cとを有する。すなわち、この実施例の第2ラチェット部208は、回転軸120の軸方向に対して第1傾斜角θ1で傾斜しかつ複数の第1傾斜面190bのそれぞれと係合する複数の第3傾斜面208bと、回転軸120の軸方向に対して第2傾斜角θ2で傾斜しかつ複数の第2傾斜面190cのそれぞれと係合する複数の第4傾斜面208cとを有する。
【0060】
図8および
図9と共に
図15および
図16を参照して、カバー部材138は、コイルばね134を含む伝達機構126を一体化して、回転軸120の軸方向おけるスリーブ130と第2ラチェット部材136との距離(間隔)が一定となるように規制する部材である。具体的には、カバー部材138は、合成樹脂製であって、回転軸120の軸方向に延びる円筒状の基体210を備える。この基体210は、スリーブ130、第1ラチェット部材132、コイルばね134および第2ラチェット部材136の外側面の略全体を覆うように伝達機構126に取り付けられる。
【0061】
また、基体210の一方端部(前端部)には、内方に突出する円環板状の係止部212(第1規制部の一例)が形成される。係止部212の中央部には、第2ラチェット部材136の嵌合突起204が前方に突出するように、第1短筒部202が挿通される挿通孔212aが形成される。この係止部212は、第2ラチェット部材136の基部200の当接面200bと当接することで、第2ラチェット部材136の出力ギヤ124側への移動を規制する。
【0062】
さらに、基体210の他端部(後端部)には、後方に突出する複数(この実施例では4つ)の係止爪214(第2規制部の一例)が形成される。複数の係止爪214は、回転軸120の軸方向に延びる突出片214aと、突出片214aの先端部から回転軸120側(径方向内側)に向かって突出する爪部214bとを有する。複数の係止爪214は、スリーブ130の被係止部166に係合することで、スリーブ130の入力ギヤ122側への移動を規制する。
【0063】
図17に示すように、上述のような回転力伝達装置104では、定着ユニット46を駆動させるときには、モータ102からの駆動力を受けて入力ギヤ122が第1方向Xに回転される。これに伴ってスリーブ130および第1ラチェット部材132が第1方向Xに回転し、第1ラチェット部190の第1傾斜面190bが第2ラチェット部208の第3傾斜面208bを押すことで、第2ラチェット部材136および出力ギヤ124が第1方向Xに回転される。これにより、定着ユニット46の加圧ローラ64にモータ102の駆動力が伝達されて、加圧ローラ64が正回転方向(用紙を排紙トレイ52に向かって搬送する方向)に回転される。
【0064】
一方、
図18に示すように、モータ102の駆動時に定着ユニット46がロック状態になって第1ラチェット部190と第2ラチェット部208との間に所定値以上の回転負荷が作用したときには、コイルばね134の付勢力に抗って第1ラチェット部材132が第2ラチェット部材136から離れる方向(後方)に移動することで、第1ラチェット部190と第2ラチェット部208との係合が解除される。第1ラチェット部190と第2ラチェット部208との間に所定値以上の回転負荷が作用したときに、第1ラチェット部材132が第2ラチェット部材136から離れる方向に移動するのは、第1ラチェット部190および第2ラチェット部208が第1傾斜面190bおよび第3傾斜面208bを有するからである。すなわち、この実施例では、第1ラチェット部材132、コイルばね134および第2ラチェット部材136の3部品でトルクリミッタ機構が構成される。
【0065】
また、この実施例では、
図19に示すように、第1係合部162と第2係合部178とを回転軸120の周方向に回転遊びを持って係合させると共に、コイルばね134によって第1係合部162と第2係合部178との係合が離れる方向にスリーブ130および第1ラチェット部材132を付勢して、第2係合部178の一方の側面178aに第1係合部162を当接させている。これにより、モータ102が停止しているフリー状態においては、回転遊びの大きさα分の周方向距離だけ回転力が伝達されない非伝達区間が形成され、第1ラチェット部材132がスリーブ130に対して第2方向Yに空転可能となる。したがって、装置本体12に定着ユニット46を装着するとき、つまりモータ102が停止しているフリー状態において加圧ローラ64のギヤと回転力伝達装置104の出力ギヤ124とが噛み合わせる際には、第1ラチェット部材132、第2ラチェット部材136および出力ギヤ124がスリーブ130に対して空転可能であるので、この噛み合わせ時の衝撃を和らげることができる。すなわち、この実施例では、スリーブ130、第1ラチェット部材132およびコイルばね134の3部品で緩衝機構が構成される。さらに、定着ユニット46が何らかの原因でロック状態(加圧ローラ64が回転しない状態)になっても、回転遊びがあるため装置本体12から定着ユニット46を簡単に取り外すことができる。
【0066】
さらに、この実施例では、
図9および
図20に示すように、カバー部材138によって伝達機構126が一体化されており、スリーブ130と第2ラチェット部材136との軸方向距離が一定となるように規制されている。このため、軸方向における伝達機構126の全体長さLは、第1ラチェット部190と第2ラチェット部208とが係合している通常状態(
図9の状態)と、トルクリミッタ機構が作動して第1ラチェット部190と第2ラチェット部208との係合が解除される離間状態(
図20の状態)とで変化しない。したがって、トルクリミッタ機構が作動してスラスト方向の力が発生しても、発生したスラスト力は、入力ギヤ122および出力ギヤ124には伝わらないので、入力ギヤ122および出力ギヤ124の端面がEリング128に押し付けられた状態で摺接することで発生する端面削れが防止される。
【0067】
以上のように、この実施例によれば、スリーブ130と第2ラチェット部材136との軸方向距離が一定となるように規制するカバー部材138を備えるので、トルクリミッタ機構(ラチェット機構)の作動時に発生するスラスト力が入力ギヤ122および出力ギヤ124に伝わることを防止できる。したがって、入力ギヤ122および出力ギヤ124の端面が削れて変形することを適切に防止でき、延いては入力ギヤ122および出力ギヤ124の変形に起因する回転ムラの発生を効果的に防止できる。
【0068】
また、この実施例によれば、回転力伝達装置104がトルクリミッタ機構および緩衝機構として機能するので、定着ユニット46がロック状態になったときのギヤの破損を適切に防止できる上、定着ユニット46の装着時におけるギヤの破損を適切に防止できる。
【0069】
さらに、この実施例によれば、コイルばね134をトルクリミッタ機構において圧縮ばねとして機能させると共に、緩衝機構においてトーションばねとして機能させて、1つのコイルばね134を両機構で共用している。また、第1ラチェット部材132をトルクリミッタ機構および緩衝機構の構成部品として共用している。したがって、省部品化、低コスト化および小型化を図ることができる。
【0070】
[第2実施例]
次に、
図20および
図21を参照して、この開示の第2実施例である回転力伝達装置104について説明する。この第2実施例では、回転力伝達装置104が備える入力ギヤ122の構成が上述の第1実施例と異なる。その他の部分については同様であるので、上述の第1実施例と共通する部分については、同じ参照番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0071】
図20および
図21に示すように、第2実施例では、入力ギヤ122の前面(出力ギヤ124側の側面)には、カバー部材138が備える複数の係止爪214の開き、つまり径方向外側への変形を規制するための開き規制部220が形成される。開き規制部220は、入力ギヤ122に対してスリーブ130を取り付けるための嵌合孔122a(スリーブ連結部)の周縁部から前側(出力ギヤ124側)に突出する円筒状に形成され、複数の係止爪214の外側面を覆うように配置される。このような開き規制部220を入力ギヤ122が有することで、スリーブ130の被係止部166に対する複数の係止爪214の係合が意図せず解除されてしまうことを防止できる。
【0072】
この第2実施例によれば、入力ギヤ122が開き規制部220を有するので、スリーブ130に対する複数の係止爪214の係合外れが適切に防止され、カバー部材138によるスリーブ130と第2ラチェット部材136との軸方向距離の規制をより確実に実行できる。
【0073】
なお、上述の実施例では、画像形成装置として、複写機、ファクシミリおよびプリンタ等を組み合わせた複合機を例示したが、画像形成装置は、複写機、ファクシミリおよびプリンタ等のいずれか、またはこれらの少なくとも2つを組み合わせた複合機であってもよい。また、画像形成装置は、モノクロ機であってもよい。
【0074】
また、上述の各実施例では、回転力伝達装置を定着ユニット駆動装置に適用したが、回転力伝達装置は、画像形成装置の他の回転力伝達部に適用することもできるし、画像形成装置以外の他の装置が備える回転力伝達部に適用することもできる。
【0075】
さらに、上で挙げた具体的な形状、数値および材質などは、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 …画像形成装置
12 …装置本体
30 …画像形成部
46 …定着ユニット
64 …加圧ローラ
100 …定着ユニット駆動装置
102 …モータ(駆動源)
104 …回転力伝達装置
120 …回転軸
122 …入力ギヤ(第1ギヤ)
122a …嵌合孔(スリーブ連結部)
124 …出力ギヤ(第2ギヤ)
126 …伝達機構
130 …スリーブ
132 …第1ラチェット部材
134 …コイルばね(付勢部材)
136 …第2ラチェット部材
138 …カバー部材
190 …第1ラチェット部
208 …第2ラチェット部
210 …基体
212 …係止部(第1規制部)
214 …係止爪(第2規制部)
220 …開き規制部