(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153183
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/861 20060101AFI20241022BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241022BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01L29/91 C
H01L29/91 F
H01L29/06 301M
H01L29/06 301V
H01L29/91 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066921
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】520366927
【氏名又は名称】ウィル セミコンダクター (シャンハイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 喜久雄
(72)【発明者】
【氏名】新井 寛己
(57)【要約】
【課題】リカバリー損失を低減する。
【解決手段】半導体基材12の表面上に形成されたアノード電極20と、裏面上に形成されたカソード電極22と、アノード電極20側に形成されたP層16と、カソード電極22側に形成されたN層14と、P層16と、N層14の間に配置され、N層14よりキャリア濃度が高いN+層26と、半導体基材12の表面より裏面側に向けて伸び、P層16を貫通し、N+層26まで伸び、周辺のN+層26の間に絶縁膜32が形成されるとともに、内部に配置された導電材34がアノード電極20に接続されるアノードトレンチ30と、を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基材と、
前記半導体基材の一方側の表面上に形成されたアノード電極と、
前記半導体基材の他方側の表面上に形成されたカソード電極と、
前記半導体基材内の前記アノード電極側に形成されたP層と、
前記半導体基材内の前記P層の前記カソード電極側に形成されたN層と、
前記P層と、前記N層の間に配置され、前記N層よりキャリア濃度が高いN+層と、
前記半導体基材の一方側の表面より他方側の表面に向けて伸び、前記P層を貫通し、前記N+層まで伸び、周辺の前記N+層の間に絶縁膜が形成されるとともに、内部に配置された導電材が前記アノード電極に接続されるアノードトレンチと、
を含む半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記アノードトレンチは、前記N+層を貫通して前記N層にまで伸び、周辺の前記N層および前記N+層の間に絶縁膜が形成される、
半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置であって、
前記半導体基材は、シリコンウエハから構成される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、特にリカバリー損失の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、PN接合を用いた電流制御を利用する。ダイオードは、PN接合を有し、P側のアノードから、N側のカソードへの電流を許容し、反対方向の電流を遮断する。そして、導通時はアノードから正孔、カソードから電子というキャリアを大量に注入し、導通時の順方向電圧降下VFを下げている。
【0003】
一方、リカバリー時は、注入された正孔と電子(キャリア)をアノードとカソードにそれぞれ排出するため、大量のキャリアがあると、リカバリー損失Errが大きくなる。
【0004】
特許文献1では、ライフタイムキラーを設けて内部のキャリアを消滅させることで、キャリアの排出を速くすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2017/146148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ライフタイムキラーは、半導体の結晶欠陥を形成することにより設けられ、その処理のために大規模な装置と作業工程が必要になる。さらに、ライフタイムキラーを設けることで、温度特性が悪くなることやリーク電流が大きくなるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体装置は、
半導体基材と、
前記半導体基材の一方側の表面上に形成されたアノード電極と、
前記半導体基材の他方側の表面上に形成されたカソード電極と、
前記半導体基材内の前記アノード電極側に形成されたP層と、
前記半導体基材内の前記P層の前記カソード電極側に形成されたN層と、
前記P層と、前記N層の間に配置され、前記N層よりキャリア濃度が高いN+層と、
前記半導体基材の一方側の表面より他方側の表面に向けて伸び、前記P層を貫通し、前記N+層まで伸び、周辺の前記N+層の間に絶縁膜が形成されるとともに、内部に配置された導電材が前記アノード電極に接続されるアノードトレンチと、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の半導体装置によれば、N+層を有することで、ターンオフ時に残留するキャリアを比較的低濃度にでき、ターンオフ時に損失を低減することができる。また、アノードトレンチによる電界によって、耐圧を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】実施形態に係る半導体装置(ダイオード)の断面構成を示す模式図である。
【
図1B】実施形態に係る半導体装置(ダイオード)の平面構成を示す模式図である。
【
図2】一般的なダイオードのリカバリー時の電圧電流波形を示す。
【
図3】実施形態のダイオードのリカバリー損失Errと、順方向電圧降下VFの関係を示す図である。
【
図4】N+層におけるピークキャリア濃度と、VFおよび耐圧の関係を示す図である。
【
図5】実施形態に係る半導体装置の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について以下に説明する。なお、以下の実施形態は本開示を限定するものではなく、また複数の例示を選択的に組み合わせてなる構成も本開示に含まれる。
【0011】
「半導体装置の構成」
図1Aは、実施形態に係る半導体装置の断面構成を示す模式図である。また、
図1Bは、実施形態に係る半導体装置の平面図である。なお、
図1Bでは、上面のアノード電極20を省略して示してある。この例では、半導体装置10は、ダイオードである。
【0012】
半導体装置10は、半導体基材12を含む。半導体基材12は、例えばシリコン(Si)ウエハから構成されるが、SiCや、酸化ガリウムなど、他の半導体でもよい。また、本実施形態では、Nタイプの不純物がドープされたFZ(Floating Zone)法によるNタイプFZウエハが採用されている。
【0013】
半導体基材12として、Nタイプが採用されているため、半導体基材12の大部分はそのままN層14となる。N層14は、通常N-ドリフト層と呼ばれる。
【0014】
一方側の表面(以下、表面という)からPタイプの不純物をドープすることで、N層14の表面側にキャリア(正孔)を含むP層16が形成する。P層16がアノード領域を構成する。ここで、本実施形態では、Nタイプの不純物をドープすることで、N層14の表面側にキャリア(電子)を含むN+層26を形成し、その後P層16を形成する。このため、N層14とP層16の間にN+層26が形成されている。N+層26は、N層14よりキャリア濃度が高い。
【0015】
半導体基材12の表面上、すなわちP層16上にアノード電極20が形成されている。アノード電極20は、アルミニウムなど金属で構成するとよい。
【0016】
半導体基材12の他方側の表面(以下、裏面という)、すなわちN層14の裏面側には、N層14より不純物濃度が高い裏面N+層24を介し、カソード電極22が形成されている。カソード電極22もアノード電極20と同様に金属で形成することができる。裏面N+層24は、カソード電極22からの電子の注入をスムーズにする。
【0017】
さらに、半導体基材12の表面より裏面側に向けて伸びるアノードトレンチ30が設けられている。また、
図1Bに示すように、アノードトレンチ30は、アノード領域を構成するP層16の周辺を取り囲んでいる。この例では、P層16が3つに分割されている。半導体基材12の両側に配置されている。アノードトレンチ30は、周辺のN+層26に比較的均一な電界を印加できるように、平面視で均一に配置されるとよい。
【0018】
アノードトレンチ30は、半導体基材12の表面から里目面方向に伸びる溝状の穴を有し、穴の周面には絶縁膜32が形成され、内部には導電材34が埋め込まれている。導電材34は、上部でアノード電極20と直接接続されている。導電材34は、アノード電極20と同じくアルミニウムなどの金属で構成することができるが、ポリシリコンなどで構成することもできる。また、絶縁膜32は、異方性エッチングなどで半導体基材12に穴を形成した後、周辺のシリコンを酸化することで形成することができるが、その他の方法で形成してもよい。また、絶縁膜32は、頂面(アノード電極20に接する面)以外全部に形成するとよい。すなわち、絶縁膜32は、P層16、N+層26、N層14との間に設けられる。
【0019】
このような半導体装置10は、ダイオードとして機能する。アノード電極20とカソード電極22との間に正の順方向電圧を印加することで順方向電流が流れる。アノード電極20とカソード電極22との間に逆方向電圧を印加した場合、印加電圧が耐圧以下であれば電流は流れない。
【0020】
順方向電圧を印加した場合、アノード電極20から正孔が供給され、カソード電極22から電子が供給される。アノード電極20から供給された正孔は、N+層26において電子と再結合し、一部が消滅した後N層14に入る。また、N層14には、カソード電極22から電子が流入して電導度変調が起こり低VFとなる。すなわち、N+層26によりP層16からN層14に移動するホールが減少する。また、このN層14に入る正孔の量は、N+層26のキャリア濃度によって調整が可能であり、ターンオフ時においてP層16、N層14に残留するキャリアの量を適切ものに設定することができる。従って、オン時におけるVFを適切なものに維持しながら、ターンオフ時におけるスイッチング損失を抑制することができる。
【0021】
なお、本実施形態に係る半導体装置10は、そのままダイオードとして使用できるが、ダイオードを組み込んだ各種素子に利用することができる。
【0022】
「リカバリー波形」
図2は、一般的なダイオードのオンからオフに切り替わるリカバリー時の電圧電流波形を示す図である。まず、導通時にはアノード電極20とカソード電極22間の電圧は、順方向電圧降下VFであり、PタイプおよびNタイプのキャリアが十分ある状態において所定の小さな電圧となっており、所定の順方向電流IFが流れる。この例では、電圧Vrrはカソード電圧となる。
【0023】
ここで、逆方向電圧をかけることで、電流IFは直線的に減少する。これはN層14から正孔がP層16を介しアノード電極20へ、電子がカソード電極22に引き抜かれることによって行われる。この際、電流Irrは一旦大きく負にふれた後0に近づき、カソード電圧Vrrは、大きく正にふれた後、印加電圧に落ち着く。
【0024】
リカバリー時のエネルギー損失は、Vrr*Irr*時間であり、Vrrが正になったときから、Irrが0になるまでの期間の損失がリカバリー損失Errとなる。
【0025】
なお、本実施形態では、ターンオフ時において残留するキャリア濃度が低いため、電流Irrが0になるまでの時間が短く、従って損失Errが小さくなる。
【0026】
図3は、実施形態に係る半導体装置におけるN+層26のキャリア濃度と、VFおよびErrの関係を示す図である。このように、N+層26のキャリア濃度が低いと損失Errが大きくなり、高いとVFが大きくなる。本実施形態では、N+層26のキャリア濃度を適切に設定することで、VFとErrを適切な値に設定する。
【0027】
各種の検討によれば、半導体装置10では、N+層26のピークキャリア濃度を1e17~3e17/cm3程度に設定することで、所望の特性が得られることがわかっている。
【0028】
なお、使用条件において順方向電圧の印加の時間が長い場合には、N+層26のキャリア濃度を低くし、オンオフが繰り返されるような場合には、キャリア濃度を高くするとよい。
【0029】
「耐圧について」
ここで、N+層26を設けると、ダイオードの耐圧が小さくなる。これはN+層26により逆方向でのキャリアの移動が容易になるためである。
【0030】
本実施形態では、アノードトレンチ30を有する。特に、アノードトレンチ30は、N+層26を貫通して、N層14にまで伸びている。アノードトレンチ30内は、アノード電極20の電圧となっており、従って逆方向電圧が印加された場合には、N+層26内の電子がアノードトレンチ30からN層14の方に引き離され、空乏層がN+層26内からN層14まで広がる。これによって、半導体装置10の耐圧を向上することができる。
【0031】
図5には、本実施形態の半導体装置10におけるキャリア濃度と、耐圧およびVFの関係を示す図である。このように、本実施形態では、N+層26を設けても十分高い耐圧を維持することができる。
【0032】
なお、2つのアノードトレンチ30の間のメサ領域の幅を1μm、アノードトレンチ30の深さを5μmとし、アノードトレンチ30の下端をN層14まで伸ばした場合に、
図5のような耐圧が得られた。
【0033】
アノードトレンチ30の深さが十分でないと、N+層26の空乏層が十分でなく、耐圧が小さくなる。このため、耐圧を大きくしたい場合には、アノードトレンチ30がN+層26を貫通し、N層14にまで至るとよい。なお、耐圧をそれほど大きくしなくてよい場合には、アノードトレンチ30をN+層26内で終端させてもよい。
【0034】
このように、本実施形態では、N+層26を設け、ここにおけるキャリア濃度を調整することで、VFとErrのトレードオフに対して適切な設定が可能になる。また、アノードトレンチを設けることで耐圧を十分なものにできる。
【0035】
<製造工程>
図5は、実施形態に係る半導体装置10の製造工程を示す図である。まず、半導体基材12を用意する(S11)。半導体基材12としては、例えばFZ(浮遊帯(Floating Zone))シリコンウエハであって、Nタイプのものが利用される。
【0036】
表面側からのPタイプの不純物をドープ(インプランテーション)し(S12)、これを拡散して(S13)、P-のP層16を形成する。表面側からのNタイプの不純物をドープ(インプランテーション)し(S14)、これを拡散して(S15)、N+のN+層26を形成する。
【0037】
次に、アノードトレンチ30を形成する(S16)。コンタクトを形成し(S17)、表面上に表面電極、すなわちアノード電極20を形成する(S18)。
【0038】
次に、裏面側を研磨し(S19)、その後Nタイプの不純物をドープして(S20)、裏面N+層24を形成する。レーザアニール(S21)によって、不純物を拡散した後、裏面電極、すなわちカソード電極22を形成する(S22)。
【0039】
このようにして、半導体装置10が形成され、次にこれについて各種検査を行い(S18)、製造工程を終了する。
【符号の説明】
【0040】
10 半導体装置、12 半導体基材、14 N層、16 P層、20 アノード電極、22 カソード電極、24 裏面N+層、26 N+層、30 アノードトレンチ、32 絶縁膜、34 導電材。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図4には、本実施形態の半導体装置10におけるキャリア濃度と、耐圧およびVFの関係を示す図である。このように、本実施形態では、N+層26を設けても十分高い耐圧を維持することができる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
なお、2つのアノードトレンチ30の間のメサ領域の幅を1μm、アノードトレンチ30の深さを5μmとし、アノードトレンチ30の下端をN層14まで伸ばした場合に、図4のような耐圧が得られた。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
このようにして、半導体装置10が形成され、次にこれについて各種検査を行い(S23)、製造工程を終了する。