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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153248
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】熱加工システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/067 20060101AFI20241022BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20241022BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20241022BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20241022BHJP
   B23K 10/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B23K9/067
B23K9/12 331J
B23K9/073 560
B23K9/10 Z
B23K10/00 502C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067022
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】山口 耕作
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082BA01
4E082CA01
4E082DA01
4E082EA02
4E082EA13
4E082EB02
4E082EE08
4E082FA14
(57)【要約】
【課題】回生電力を有効に活用することで、エネルギー効率の向上を図った熱加工システムを提供する。
【解決手段】溶接システムS1は、モータM1を有し、モータM1で動作するロボットA1と、ロボットA1の制御を行うロボット制御装置E1と、溶接電力(熱加工用の加工電力)を発生させる電源装置B1と、コンデンサC1と、を備える。コンデンサC1は、モータM1の減速時に発生する回生電力によって充電される。コンデンサC1に蓄積された電力は、溶接(熱加工)の開始時に利用される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを有し、当該モータで動作するロボットと、
前記ロボットの制御を行うロボット制御装置と、
熱加工用の加工電力を発生させる電源装置と、
コンデンサと、
を備え、
前記コンデンサは、前記モータの減速時に発生する回生電力によって充電され、
前記コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時に利用される、熱加工システム。
【請求項2】
前記コンデンサは、空走区間での前記モータの減速時に発生する回生電力により充電され、
前記空走区間は、前記ロボットが熱加工を行わずに第1作業位置から第2作業位置まで移動する区間であり、
前記コンデンサに蓄積された電力は、前記第2作業位置での作業開始時に利用される、請求項1に記載の熱加工システム。
【請求項3】
前記熱加工は、アーク熱を用いた加工であり、
前記電源装置は、絶縁トランスと、当該絶縁トランスの二次側に接続され且つ熱加工の開始時のアークスタートを補助するスタート回路を含み、
前記スタート回路は、前記コンデンサを含み、
前記コンデンサに蓄積された電力は、前記アークスタートの補助電力として利用される、請求項1または請求項2に記載の熱加工システム。
【請求項4】
前記電源装置は、インバータ回路を含み、
前記コンデンサは、前記インバータ回路の一次側に接続されており、
前記コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時の前記加工電力に重畳する電力に利用される、請求項1または請求項2に記載の熱加工システム。
【請求項5】
前記コンデンサを第1コンデンサとして、前記回生電力によって充電可能な第2コンデンサをさらに備え、
前記電源装置は、前記絶縁トランスの一次側に接続されたインバータ回路を含み、
前記第2コンデンサは、前記インバータ回路の一次側に接続されており、
前記第2コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時の前記加工電力に重畳する電力に利用され、
前記回生電力は、前記第2コンデンサよりも前記第1コンデンサに優先して供給される、請求項3に記載の熱加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶接ロボットを用いた自動溶接が普及している。例えば、特許文献1には、溶接ロボットを用いた溶接システムの一例が開示されている。特許文献1に記載の溶接システム(ロボット制御システム)は、プログラム制御された多関節ロボットによってワークにアーク溶接を行う。ロボット制御システムは、ロボット(例えばマニピュレータ)と、ロボット制御装置と、溶接電源等を含む溶接機とを備える。ロボットは、ロボットモータを含み、このロボットモータの駆動により、多関節アームの移動等が制御される。ロボットモータは、ロボット制御装置によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-10941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータは、その減速時において、発電機となって回生電力を発生させることが知られている。このような回生電力は、特許文献1に記載されたロボットモータにおいても同様に発生する。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、回生電力を有効に活用することで、エネルギー効率の向上を図った熱加工システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によって提供される溶接システムは、モータを有し、当該モータで動作するロボットと、前記ロボットの制御を行うロボット制御装置と、熱加工用の加工電力を発生させる電源装置と、コンデンサと、を備え、前記コンデンサは、前記モータの減速時に発生する回生電力によって充電され、前記コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時に利用される。
【0007】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記コンデンサは、空走区間での前記モータの減速時に発生する回生電力により充電され、前記空走区間は、前記ロボットが熱加工を行わずに第1作業位置から第2作業位置まで移動する区間であり、前記コンデンサに蓄積された電力は、前記第2作業位置での作業開始時に利用される。
【0008】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記熱加工は、アーク熱を用いた加工であり、前記電源装置は、絶縁トランスと、当該絶縁トランスの二次側に接続され且つ熱加工の開始時のアークスタートを補助するスタート回路を含み、前記スタート回路は、前記コンデンサを含み、前記コンデンサに蓄積された電力は、前記アークスタートの補助電力として利用される。
【0009】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記電源装置は、インバータ回路を含み、前記コンデンサは、前記インバータ回路の一次側に接続されており、前記コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時の前記加工電力に重畳する電力に利用される。
【0010】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記コンデンサを第1コンデンサとして、前記回生電力によって充電可能な第2コンデンサをさらに備え、前記電源装置は、前記絶縁トランスの一次側に接続されたインバータ回路を含み、前記第2コンデンサは、前記インバータ回路の一次側に接続されており、前記第2コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時の前記加工電力に重畳する電力に利用され、前記回生電力は、前記第2コンデンサよりも前記第1コンデンサに優先して供給される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の熱加工システムは、コンデンサを備え、当該コンデンサは、モータの減速時に発生する回生電力によって充電される。そして、コンデンサに蓄積された電力は、熱加工の開始時に、利用される。これにより、ロボットの動作によって発生する回生電力を熱加工の作業に有効利用できるため、エネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る溶接システムの全体構成例を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る溶接システムの溶接ロボットを示す概略図である。
図3】第1実施形態に係る溶接システムの溶接電源およびロボット制御装置の構成例を示す回路図である。
図4】第1実施形態に係る溶接システムの動作例を示すタイミングチャートである。
図5】第2実施形態に係る溶接システムの溶接電源およびロボット制御装置の構成例を示す回路図である。
図6】第2実施形態の変形例に係る溶接システムの溶接電源の構成例を示す回路図である。
図7】第3実施形態に係る溶接システムのロボット制御装置の構成例を示す回路図である。
図8】溶接ロボットの他の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の熱加工システムの好ましい実施の形態として、アーク溶接を行う溶接システムを例に、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。なお、本開示の熱加工システムは、アーク溶接以外の溶接(プラズマ溶接あるいは抵抗溶接等)を行う溶接システムであってもよいし、切断(溶断)を行う切断システム(例えばアーク切断あるいはプラズマ切断等)であってもよい。
【0014】
図1図3は、第1実施形態に係る溶接システムS1を示している。溶接システムS1は、図1に示すように、ロボットA1と、電源装置B1と、ロボット制御装置E1と、溶接トーチT1と、コンデンサC1を備える。溶接システムS1は、アーク熱を利用した溶接を行う。この例において、溶接システムS1は、ロボットA1によって溶接トーチT1を移動させつつ、電源装置B1から電力を供給して、溶接トーチT1とワークWとの間にアークを発生させて、アーク溶接を行う。なお、溶接システムS1が消耗電極式の溶接を行う場合、図示しないワイヤ送給装置から溶接トーチT1に溶接ワイヤが送給される。
【0015】
ロボットA1は、ロボット制御装置E1によって制御され、溶接トーチT1を移動させる。溶接トーチT1は、ロボットA1に取り付けられている。ロボットA1は、モータM1を有し、当該モータM1で動作する。また、溶接システムS1のロボットA1は、図2に示すように、台車11を備える。
【0016】
台車11は、溶接作業のために溶接トーチT1を移動させる。溶接トーチT1は、台車11に取り付けられており、台車11とともに移動する。例えば、台車11は、レール上に置かれ、レールに沿って移動する(走行する)。台車11は、モータM1による車輪の回転により、移動する。台車11は、複数の溶接作業位置の間を移動する。図2に示す例では、各区間G1は、溶接区間であり、この区間G1では、ロボットA1(台車11)は、溶接を行いながら移動する。区間G1の開始地点P11,P21は、溶接開始位置であり、区間G1の終了地点P12,P22は、溶接終了位置である。つまり、各区間G1では、ロボットA1は、対応する開始地点P11,P21で溶接を開始して、溶接を継続しつつ、対応する終了地点P12,P22まで移動する。その後、各終了地点P12,P22で溶接を停止する。一方、区間G2は、空走区間であり、この区間G2では、ロボットA1(台車11)は、溶接を行わずに移動する。つまり、区間G2では、前回の溶接作業位置の終了地点P12から次の溶接作業位置の開始地点P21まで、溶接を行うことなく移動する。台車11は、複数の区間G1と複数の区間G2とを交互に繰り返しながら移動する。台車11は、各区間G1では、例えばCP(Continuous Path)制御により制御され、区間G2では、例えばPTP(Point to Point)制御により制御される。このような各区間G1,G2での制御により、区間G2での台車11の移動速度は、区間G1での台車11の移動速度よりも早い。
【0017】
モータM1には、ロボット制御装置E1から駆動電力が供給される。モータM1は、供給される駆動電力により、台車11の車輪を回転させ、台車11を移動させる。また、モータM1は、減速時において、発電機として作動して回生電力を発生させる。回生電力は、ロボット制御装置E1に出力される。
【0018】
コンデンサC1は、モータM1の減速時に発生する回生電力によって充電される。本実施形態では、コンデンサC1は、図1および図3に示すように、電源装置B1(後述のスタート回路26)に設けられる。
【0019】
電源装置B1は、溶接電力(溶接電流および溶接電圧等)を発生させ、溶接トーチT1に供給する。溶接電力は、特許請求の範囲に記載の「加工電力」の一例である。図3に示すように、電源装置B1は、整流平滑回路21、インバータ回路22、トランス23、整流回路24、平滑回路25およびスタート回路26を含む。
【0020】
整流平滑回路21は、電力系統Kから入力される交流電力を整流し且つ平滑する。図3に示す例では、整流平滑回路21は、複数のダイオードおよびコンデンサを含む。整流平滑回路21により交流電力が直流電力に変換され、当該直流電力がインバータ回路22に出力される。
【0021】
インバータ回路22は、例えばフルブリッジ型のPWM制御インバータであり、図3に示すように、複数のスイッチング素子を備える。インバータ回路22は、図示しない制御回路から入力される駆動信号によって各スイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路21から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。インバータ回路22は、直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0022】
トランス23は、インバータ回路22が出力する高周波電圧を変圧して、整流回路24に出力する。トランス23は、一次巻線および二次巻線を備える。一次巻線の各端子は、インバータ回路22の各出力端子にそれぞれ接続される。二次巻線の各端子は、整流回路24の各入力端子にそれぞれ接続される。インバータ回路22の出力電圧は、一次巻線と二次巻線の巻き数比に応じて変圧されて、整流回路24に入力される。二次巻線は一次巻線に対して絶縁されているので、溶接部(溶接トーチT1およびワークW)と電力系統Kの混触を防止し、作業者を感電の危険性から守る。
【0023】
整流回路24は、トランス23から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。平滑回路25は、整流回路24から出力される直流電力を平滑化して出力する。平滑回路25から出力される平滑後の直流電力が、先述の溶接電力に相当する。
【0024】
スタート回路26は、トランス23の二次側(平滑回路25の出力側)に接続され、溶接開始時のアークスタート(アークの発生)を補助する。本実施形態において、コンデンサC1は、スタート回路26の一部である。スタート回路26は、アークスタート時に、溶接電力(溶接電流)に補助電力(補助電流)を重畳させる。これにより、アークの発生をより安定させることができる。スタート回路26は、このアークスタートの補助において、コンデンサC1に蓄積された電力を利用して、補助電力を発生させる。
【0025】
ロボット制御装置E1は、電源装置B1と協調して、溶接システムS1の自動溶接を制御する。ロボット制御装置E1は、ロボットA1の動作を制御する。ロボット制御装置E1は、モータM1に駆動電力を供給することで、モータM1の駆動を制御する。ロボット制御装置E1は、図3に示すように、整流平滑回路31、モータインバータ32、絶縁コンバータ33、消費回路34、切替回路35および制御部37を含む。
【0026】
整流平滑回路31は、電力系統Kから入力される交流電力を整流し且つ平滑する。図3に示す例では、整流平滑回路31は、例えば複数のダイオードおよびコンデンサを含む。整流平滑回路31により交流電力が直流電力に変換され、当該直流電力がモータインバータ32に出力される。
【0027】
モータインバータ32は、モータM1に駆動電力を供給する。モータインバータ32は、三相交流インバータであり、図3に示すように、複数のスイッチング素子を備える。複数のスイッチング素子の各々には、ダイオードが逆並列に接続されている。当該ダイオードは、スイッチング素子とは別に設けてもよいし、スイッチング素子の寄生ダイオード成分を用いてもよい。また、モータインバータ32は、モータM1の減速時において、モータM1が発生させた回生電力を、電力系統K側に出力する。回生電力は、モータインバータ32の各ダイオードにより、整流されて出力される。
【0028】
絶縁コンバータ33は、回生電力が入力されると、当該回生電力を、電源装置B1(スタート回路26)のコンデンサC1に供給する。絶縁コンバータ33により、ロボット制御装置E1と電源装置B1とは、絶縁される。
【0029】
消費回路34は、回生電力が入力されると、当該回生電力を消費する。図示された例では、消費回路34は、抵抗R1により構成される。この例と異なり、消費回路34は、電力を消費するものであれば、抵抗に限定されない。
【0030】
切替回路35は、制御部37によって制御され、回生電力の出力先を切り替える。切替回路35は、複数の切替部SW1~SW4および2つのダイオードD1,D2を含む。
【0031】
図示された例では、各切替部SW1~SW4はそれぞれ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。各切替部SW1~SW4は、MOSFETに限定されず、他のスイッチング素子(例えばバイポーラトランジスタおよびIGBT等)であってもよいし、機械スイッチであってもよい。各切替部SW1~SW4のオンオフの切り替えは、制御部37によって制御される。なお、図3と異なる例において、2つの切替部SW1,SW4の代わりに、双方向のスイッチング素子を用いてもよい。
【0032】
ダイオードD1は、切替部SW1に直列に接続され、切替部SW1と整流平滑回路31との間に接続されている。ダイオードD1のアノードは、整流平滑回路31に接続され、ダイオードD1のカソードは、切替部SW1に接続されている。ダイオードD2は、切替部SW4に直列に接続され、切替部SW4と整流平滑回路31との間に接続されている。ダイオードD2のアノードは、切替部SW4に接続され、ダイオードD2のカソードは、整流平滑回路31に接続されている。ダイオードD1と切替部SW1との直列回路と、ダイオードD2と切替部SW4との直列回路とは、互いに並列に接続されている。
【0033】
制御部37は、切替回路35の各切替部SW1~SW4の切り替えを行うことで、回生電力の出力先を制御する。制御部37は、回生信号Sn1、消費信号Sn2および一次側回生信号Sn3を生成し、これらの信号を用いて、各切替部SW1~SW4の切り替えを行う。具体的には、図3に示すように、制御部37は、切替部SW1に回生信号Sn1の反転信号を出力し、切替部SW2に回生信号Sn1とPWM信号との論理積を出力し、切替部SW3に消費信号Sn2に出力し、切替部SW4に一次側回生信号Sn3を出力する。回生信号Sn1、消費信号Sn2および一次側回生信号Sn3はそれぞれ、例えばハイレベルの状態とローレベルの状態とを有する。そして、各切替部SW1~SW4は、入力される信号がハイレベルの場合にオンとなり、入力される信号がローレベルの場合にオフとなるように構成される。なお、反対に、入力される信号がローレベルの場合にオフとなり、入力される信号がハイレベルの場合にオンとなるように構成してもよい。
【0034】
制御部37は、モータM1の駆動時(加速時および等速時)において、回生信号Sn1、消費信号Sn2および一次側回生信号Sn3をそれぞれローレベルにする。これにより、切替部SW1がオンとなり、各切替部SW2~SW4がそれぞれオフ状態となるので、電力系統Kから整流平滑回路31およびモータインバータ32を介して、駆動電力がモータM1に出力される。
【0035】
また、制御部37は、ロボットA1をPTP制御している際の、モータM1の減速時において、回生信号Sn1をハイレベルにし、消費信号Sn2および一次側回生信号Sn3をローレベルにする。これにより、各切替部SW1,SW3,SW4はオフとなり、切替部SW2はオンとオフとが(PWM信号に応じて)交互に切り替わるので、モータM1からモータインバータ32を介して出力される回生電力が、絶縁コンバータ33を介して、コンデンサC1に充電される。なお、コンデンサC1が満充電である場合には、一次側回生信号Sn3をハイレベルにして、切替部SW4をオンにすることで、回生電力を整流平滑回路31のコンデンサに供給する。また、回生電力を、コンデンサC1の充電にも、整流平滑回路31のコンデンサの充電にも用いない場合には、消費信号Sn2をハイレベルにして、切替部SW3をオンにすることで、回生電力を消費回路34に供給する(消費回路34で消費する)。制御部37は、各切替部SW1~SW4の切り替えにより、回生電力の出力先を、コンデンサC1、消費回路34あるいは整流平滑回路31のコンデンサに切り替えることができる。
【0036】
次に、溶接システムS1の動作例について、図4を参照して、説明する。図4(a)は、ロボットA1(台車11)の制御シーケンスであって、上記CP制御と上記PTP制御との切り替わりを示す。図4(b)は、ロボットA1の動作速度の変化、すなわちモータM1の回転数の変化を示す。図4(c)は、回生信号Sn1のハイレベルとローレベルとの切り替わりを示す。図4(d)は、コンデンサC1の電圧、すなわちコンデンサC1の蓄電量の変化を示す。図4(e)は、電源装置B1のインバータ回路22の動作状態の切り替わりを示す。なお、インバータ回路22の動作状態において、オンとは、インバータ回路22に駆動信号が入力され、高周波電力を出力している状態であり、一方、オフとは、インバータ回路22に駆動信号が入力されず、高周波電力を出力していない状態である。図4(f)は、溶接トーチT1に供給される溶接電流の変化を示す。
【0037】
図4(a)に示すように、ロボットA1は、各区間G1でCP制御され、各区間G2でPTP制御される。このため、図4(b)に示すように、各区間G2でのロボットA1の動作速度は、各区間G1でのロボットA1の動作速度よりも速い。各区間G2でのロボットA1の動作速度が速いので、各溶接作業位置での開始地点P11,P21に到達する前の地点Pxから(すなわち各区間G2の終盤において)、ロボットA1(モータM1)は、大きく減速する。この減速時において、ロボット制御装置E1の制御部37は、図4(c)に示すように、回生信号Sn1をハイレベルにする。回生信号Sn1がハイレベルとなり、モータM1の減速によって発生した回生電力がコンデンサC1に供給される。したがって、図4(d)に示すように、コンデンサC1の電圧(蓄電量)が増加する。
【0038】
その後、ロボットA1が、各溶接作業位置での開始地点P11,P21に到達すると、ロボットA1は、CP制御に切り替わり、且つ、図4(c)に示すように回生信号Sn1は、ローレベルに切り替わる。そして、図4(e)に示すように、インバータ回路22がオンとなり、溶接が開始され、図4(f)に示すように、溶接電流が出力される。この溶接の開始時には、電源装置B1は、スタート回路26のコンデンサC1に蓄積された電力を使って、溶接電力に補助電力を重畳させる。このため、溶接開始の溶接電流が大きくなり、アーク発生の失敗が抑制される。なお、図4(f)に示す破線は、補助電力が重畳されない場合の溶接電流の変化を示している。
【0039】
以上のように、溶接システムS1では、コンデンサC1は、モータM1の減速時に発生する回生電力によって充電され、コンデンサC1に蓄積された電力は、溶接の開始時に、利用される。このように、溶接システムS1では、ロボットA1の動作によって発生する回生電力を溶接作業に有効に利用できる。したがって、溶接システムS1は、エネルギー効率を向上させることができる。特に、溶接システムS1では、電源装置B1は、コンデンサC1を有するスタート回路26を備えており、当該コンデンサC1は、回生電力によって充電される。そして、電源装置B1は、コンデンサC1に蓄積された電力を、アークスタートの補助電力(すなわち溶接開始時に溶接電力に重畳する補助電力)として利用する。
【0040】
溶接システムS1と異なる構成であって、スタート回路26のコンデンサC1を、回生電力を用いず、電源装置B1において電力系統Kから供給される電力により充電する構成では、当該コンデンサC1の充電は、溶接開始直前に無負荷電圧が出力される期間(例えば溶接ワイヤがワークWに接触しない期間)で行われる。この場合、溶接ワイヤまたはワークWが変形するなどの異常が発生すると、溶接開始前に溶接ワイヤがワークWに接触する可能性があり、この時は無負荷電圧によるコンデンサC1の充電が行われず、アークスタートが失敗する可能性が高まる。このことから、溶接システムS1では、コンデンサC1に蓄積された電力をアークスタートの補助電力として利用することで、回生電力によって得られるエネルギーを有効に活用しつつ、アークスタート性を向上することができる。
【0041】
溶接システムS1では、コンデンサC1は、区間G2(空走区間)でのモータM1の減速時に発生する回生電力により充電される。この構成によれば、コンデンサC1への充電は、区間G2(空走区間)にのみ行われるので、区間G1(溶接区間)でのロボットA1の軌跡精度に悪影響を及ぼすことを抑制できる。したがって、溶接システムS1は、溶接品質の低下を抑制できる。また、先述の通り、溶接システムS1では、区間G2でのモータM1の減速後に、溶接が開始される。したがって、溶接システムS1では、回生電力発生直後の溶接開始時に、コンデンサC1に蓄積された電力が利用される。このため、コンデンサC1に不必要に電力を蓄積しておく必要がない。また、先述の通り、溶接システムS1では、区間G2(空走区間)でのロボットA1(台車11)の移動速度は、区間G1(溶接区間)でのロボットA1(台車11)の移動速度よりも早い。つまり、区間G2(空走区間)でのモータM1の回転数は、区間G1(溶接区間)でのモータM1の回転数よりも高い。そのため、区間G2(空走区間)での減速時に得られる回生電力は、区間G1(溶接区間)での減速時に得られる回生電力よりも大きい。したがって、次の溶接作業に向けて、十分な電力量をコンデンサC1に充電することができる。また、溶接システムS1と異なる構成であって、回生電力をすべて消費回路34(抵抗R1)で消費する構成においては、消費回路34の電力耐量は、区間G2(空走区間)での最大の回生電力に合わせて設計しなければならない。このことから、溶接システムS1は、回生電力をすべて消費回路34で消費させる場合と比較して、消費回路34の電力耐量を抑制することができるので、消費回路34のコストを低減することができる。
【0042】
以下に、本開示の熱加工システム(溶接システム)の他の実施形態および変形例について、説明する。各実施形態および各変形例における各部の構成は、技術的な矛盾が生じない範囲において相互に組み合わせ可能である。
【0043】
図5は、第2実施形態に係る溶接システムS2の電源装置B1およびロボット制御装置E1の各構成を示している。溶接システムS2は、溶接システムS1と比較して、次の点で異なる。第1に、溶接システムS2の電源装置B1は、スタート回路26を備えていない。第2に、溶接システムS2のコンデンサC1は、トランス23の一次側に接続されている。第3に、ロボット制御装置E1の構成(主にコンデンサC1への回生電力の供給路)が異なる。
【0044】
図5に示すように、コンデンサC1は、トランス23の一次側であって、整流平滑回路21とインバータ回路22との間に接続されている。また、コンデンサC1の一端は、ダイオードを介して、インバータ回路22の高電位側の接続線に接続され、コンデンサC1の他端は、インバータ回路22の低電位側の接続線に接続されている。
【0045】
また、図5に示すように、コンデンサC1が、トランス23の一次側に接続されているため、ロボット制御装置E1は、絶縁コンバータ33を備えていない。回生電力は、切替部SW2およびダイオードを介して、電源装置B1のコンデンサC1に供給される。なお、切替部SW2に直列に接続されたダイオードは、電源装置B1からロボット制御装置E1に電流が流れることを阻止する。このような構成では、切替部SW2には、回生信号Sn1とPWM信号との論理積ではなく、回生信号Sn1が入力される。
【0046】
溶接システムS2では、インバータ回路22がオンとなり、溶接電力の出力を開始すると、その開始時において、コンデンサC1に蓄積された電力が重畳される。したがって、溶接システムS2は、溶接システムS1と同様に、ロボットA1の動作によって発生する回生電力を溶接作業に有効に利用できるので、エネルギー効率を向上させることができる。また、溶接システムS2では、溶接システムS1と同様に、コンデンサC1に蓄積された電力が、溶接開始時の溶接電力に重畳されるので、溶接開始の溶接電流が大きくなり、アーク発生の失敗が抑制される。つまり、溶接システムS2は、溶接システムS1と同様に、回生電力によって得られるエネルギーを有効に活用して、アークスタート性を向上することができる。
【0047】
上記第2実施形態では、溶接システムS2の電源装置B1は、スタート回路26を備えていない例を示したが、この例と異なり、スタート回路26を備えていてもよい。図6は、このような変形例に係る溶接システムS21の電源装置B1の構成例を示している。図6に示すように、溶接システムS21は、電源装置B1に2つのコンデンサC11,C12を備える。
【0048】
2つのコンデンサC11,C12はそれぞれ、回生電力によって充電可能である。なお、回生電力によって充電可能なコンデンサの数は、3つ以上であってもよい。図6に示すように、コンデンサC11は、溶接システムS1のコンデンサC1と同様に、スタート回路26に設けられている。コンデンサC12は、溶接システムS2のコンデンサC1と同様に、トランス23の一次側(整流平滑回路21とインバータ回路22との間)に設けられている。
【0049】
溶接システムS21では、モータM1の減速時において発生した回生電力は、まず、コンデンサC11の充電に利用される。そして、コンデンサC11が満充電となると、あるいは、既にコンデンサC11が満充電であった場合、コンデンサC12の充電に利用される。このように、溶接システムS21では、回生電力は、コンデンサC12よりもコンデンサC11に優先して供給される。なお、この例と異なり、回生電力は、コンデンサC11よりもコンデンサC12に優先して供給されてもよい。
【0050】
溶接システムS21は、2つのコンデンサC11,C12を備えている。この構成によれば、回生電力の供給先を、2つのコンデンサC11,C12の一方にしている状態で、この一方のコンデンサC11,C12が満充電になると、回生電力の供給先を、2つのコンデンサC11,C12の他方に切り替えることができる。これにより、回生電力を消費回路34で消費させる頻度を抑制することができる。つまり、溶接システムS21は、モータM1の減速時に発生する回生電力を無駄なく利用することができる。
【0051】
図7は、第3実施形態に係る溶接システムS3のロボット制御装置E1の構成例を示している。溶接システムS3は、溶接システムS1と比較して、コンデンサC1がロボット制御装置E1に設けられている点で異なる。
【0052】
図7に示すように、溶接システムS3では、コンデンサC1は、切替部SW2に直列に接続されている。そして、切替部SW2とコンデンサC1との直列回路が、モータインバータ32に対して並列に接続されている。また、当該直列回路は、切替部SW1とモータインバータ32との間に接続されている。
【0053】
溶接システムS3では、モータM1の減速時において発生した回生電力は、ロボット制御装置E1に設けられたコンデンサC1に供給される。そして、コンデンサC1に蓄積された電力は、溶接の開始時において、電源装置B1によって利用される。したがって、溶接システムS3においても、溶接システムS1と同様に、ロボットA1の動作によって発生する回生電力を溶接作業に有効に利用できるので、エネルギー効率を向上させることができる。このように、本開示の熱加工システムは、コンデンサC1を電源装置B1に設けるかロボット制御装置E1に設けるかを何ら限定されない。
【0054】
なお、溶接システムS3において、ロボット制御装置E1は、ダイオードD1,D2および切替部SW4を備えず、切替部SW1に対して逆並列に接続されたダイオード(還流ダイオード)を設けてもよい。なお、切替部SW1がトランジスタである場合、先述の還流ダイオードは、切替部SW1の寄生ダイオードであってもよい。このような構成では、コンデンサC1の充電が進み、コンデンサC1の電圧が、整流平滑回路31のコンデンサの電圧よりも大きくなると、回生電力は、先述の還流ダイオードを通して、整流平滑回路31のコンデンサに供給される。さらに、整流平滑回路31のコンデンサの電圧が所定値以上に大きくなると、整流平滑回路31のコンデンサの電圧上昇を抑えるため、切替部SW3をオンにして(消費信号Sn2をハイレベルにして)、回生電力を消費回路34に消費させる。
【0055】
上記第1ないし第3実施形態(変形例を含む)と異なる例において、ロボットは、多関節ロボットであってもよい。図8は、このような変形例に係る溶接システムのロボットA2を示している。当該ロボットA2は、上記溶接システムS1,S2,S21,S3のロボットA1の代わりに用いられる。
【0056】
図8に示すように、ロボットA2は、マニピュレータ13を備える。マニピュレータ13は、多関節ロボットであり、台車11と同様に、溶接作業のために溶接トーチT1を自動的に移動させる。マニピュレータ13は、フロア等にベース部材が固定され、ベース部材に複数のアームが順に軸を介して連結されている。最先端のアームには、溶接トーチT1が取り付けられている。マニピュレータ13は、ベース部材に設けられたモータM1および各アームに設けられた各モータM2が、ロボット制御装置E1からの駆動信号に応じてそれぞれ回転駆動することで、溶接トーチT1を移動させる。図8において、モータM1および各モータM2の回転軸を、想像線(二点鎖線)で示している。なお、ロボットA2は、マニピュレータ13を載置するスライダをさらに備えていてもよい。当該スライダは、載置されたマニピュレータ13を移動させるスライド機構(例えば直動機構)を含んでおり、当該スライダを備える例では、モータM1は、当該スライド機構を動作させるものであってもよい。
【0057】
図8に示す溶接システムでは、ロボットA2に設けられたモータM1の減速時に発生する回生電力は、コンデンサC1に供給され、コンデンサC1の充電に利用される。なお、モータM1の減速時に発生する回生電力に加えてあるいは変えて、各モータM2の減速時に発生する回生電力を、コンデンサC1に供給し、コンデンサC1の充電に利用してもよい。ただし、モータM1で発生する回生電力は、各モータM2で発生する回生電力よりも大きく、モータM1で発生する回生電力で、コンデンサC1を充電するのに、必要な電力量を十分に確保することが可能である。そのため、モータM1で発生する回生電力のみを利用する構成では、エネルギー効率を向上するとともに、さらに各モータM2で発生する回生電力を用いる構成よりも溶接システムの構成を簡単にすることができる。
【0058】
上記第1ないし第3実施形態(変形例を含む)と異なる例において、コンデンサC1(コンデンサC11,C12)に蓄積された電力を、溶接開始位置の検出のための電源(例えば高電圧電源またはレーザセンサ用電源)に供給してもよいし、TIG溶接の場合には、スタート時に高周波を印加するための高周波電源に供給してもよい。つまり、本開示の熱加工システムにおいて、コンデンサC1(コンデンサC11,C12)に蓄積された電力は、溶接(熱加工)の開始時に利用するエネルギーに利用すれば、当該電力の利用先は何ら限定されない。
【0059】
上記第1ないし第3実施形態(変形例を含む)では、電源装置B1が、コンデンサC1に蓄積された電力を利用する例を示したが、この例と異なり、電源装置B1以外のものが利用してもよい。例えば、溶接作業の開始時において、ロボット制御装置E1が利用してもよいし、図示しない周辺機器(例えばワイヤ送給装置や冷却装置等)が利用してもよいし、ワークWを予熱するための電磁誘導加熱装置(IH:Induction Heating)が利用してもよい。
【0060】
上記第1ないし3実施形態(変形例を含む)では、区間G2(空走区間)でのモータM1の減速時に発生する回生電力を、コンデンサC1(コンデンサC11,C12)に充電する例を示したが、この回生電力に加えてあるいは変えて、区間G1(溶接区間)でのモータM1の減速時に発生する回生電力を、コンデンサC1(コンデンサC11,C12)に充電してもよい。
【0061】
上記第1ないし第3実施形態(変形例を含む)と異なる例において、ロボットA1,A2は、ワークWを溶接トーチT1の代わりに移動させるもの(例えばスライダおよびポジショナ等)であってもよいし、溶接トーチT1を移動させる機構とワークWを移動させる機構との両方を含むもの(協調制御するロボット)であってもよい。
【0062】
本開示に係る熱加工システムは、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示の熱加工システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0063】
S1,S2,S21,S3:溶接システム(熱加工システム)、A1,A2:ロボット、B1:電源装置、C1,C11,C12:コンデンサ、E1:ロボット制御装置、G2:区間(空走区間)、G2:区間、M1,M2:モータ、22:インバータ回路、23:トランス、26:スタート回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8