(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153251
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】積層体、プリント基板、及びプリント基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
H05K3/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067028
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 淳
【テーマコード(参考)】
5E314
【Fターム(参考)】
5E314AA32
5E314AA33
5E314AA36
5E314BB06
5E314BB11
5E314BB12
5E314CC01
5E314CC15
5E314DD02
5E314EE01
5E314EE03
5E314FF05
5E314FF19
5E314GG11
5E314GG17
5E314GG24
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、プリント基板製造用であり、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ない積層体を提供すること、並びに、銅配線の表面の平滑性が高く、銅配線のパターンが高精度であり、かつ、レジスト層の残渣が少ないプリント基板、及び当該プリント基板の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の積層体は、プリント基板製造用の積層体であって、銅層と、レジスト層と、前記銅層と前記レジスト層を接着する分子間相互作用層と、を有し、前記銅層の前記分子間相互作用層側の表面粗さRaが、0.3μm以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板製造用の積層体であって、
銅層と、
レジスト層と、
前記銅層と前記レジスト層を接着する分子間相互作用層と、を有し、
前記銅層の前記分子間相互作用層側の表面粗さRaが、0.3μm以下である
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記分子間相互作用層が、含窒素ヘテロ環化合物を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記含窒素ヘテロ環化合物が、含窒素ヘテロ環と、窒素原子又は酸素原子を含有する官能基と、を併せ持つ化合物であり、
前記含窒素ヘテロ環中の窒素原子の数が、2~4であり、当該窒素原子の少なくとも一つが水素原子と結合している
ことを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記官能基が、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2であり、Rが、アルキル基を表す
ことを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記含窒素ヘテロ環化合物が、下記一般式1又は一般式2で表される構造を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の積層体。
【化1】
[式中、W
1~W
7は、炭素原子又は窒素原子を表す。W
1~W
7のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Y
1~Y
5は、炭素原子又は窒素原子を表す。Y
1~Y
5のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Z
1は、-COOH、-NH
2、-OH、-NHR又は-NR
2を表す。Z
2は、-COOH、-OH、-NHR又は-NR
2を表す。Rは、アルキル基を表す。
Lは、単結合又は連結基を表す。]
【請求項6】
前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記銅層が、少なくともZnを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記レジスト層が、感光性樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
銅配線を有するプリント基板であって、
前記銅配線の表面粗さRaが、0.3μm以下であり、
前記銅配線の上にレジスト層の残渣がない
ことを特徴とするプリント基板。
【請求項10】
レジスト層を用いるプリント基板の製造方法であって、
工程(A):表面粗さRaが0.3μm以下の銅層の表面を、薬液にて洗浄する工程と、
工程(B):前記洗浄後の銅層の直上に、分子間相互作用層を形成する工程と、
工程(C):前記分子間相互作用層の直上に、感光性樹脂を含有するレジスト層を形成する工程と、
工程(D):前記レジスト層を露光及び現像によりパターニングする工程と、
工程(E):前記銅層をエッチングによりパターニングする工程と、
工程(F):前記レジスト層及び前記分子間相互作用層を剥離する工程と、を有する
ことを特徴とするプリント基板の製造方法。
【請求項11】
前記工程(B)における前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内である
ことを特徴とする請求項10に記載のプリント基板の製造方法。
【請求項12】
前記工程(A)で使用する前記薬液の25℃におけるpHが、2以下である
ことを特徴とする請求項10に記載のプリント基板の製造方法。
【請求項13】
前記工程(A)で使用する前記薬液が、ギ酸、塩化水素、硫酸及び硝酸のうち少なくとも一つを含有する水溶液である
ことを特徴とする請求項10に記載のプリント基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、プリント基板、及びプリント基板の製造方法に関する。
より詳しくは、プリント基板製造用であり、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ない積層体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データ社会化の進展により、銅配線が高密度かつ高精細であるプリント基板が求められている。プリント基板の製造工程において、エッチングによる銅配線のパターニングの前に、銅層の表面にエッチングレジスト層が接合される。高密度かつ高精細である銅配線を形成するために、銅層とエッチングレジスト層との間に高い密着性が求められる。
【0003】
従来は、銅層とエッチングレジスト層の密着性を高めるために、銅層の表面を粗面化し、アンカー効果による接着を行っていた。しかしながら、粗面化された銅層の表面は、5G、6Gなどの通信技術で用いる短波長な電波に対して伝送損失の原因になり得る。そのため、粗面化されていない平滑な銅層とエッチングレジスト層との密着性を高める技術が求められている。
【0004】
平滑な銅層とエッチングレジスト層との密着性を高める方法として、銅層とエッチングレジスト層との間に、有機材料を用いた接着層を設けることが考えられる。例えば特許文献1では、平滑な金属層と樹脂層の接着性を高めることができる材料として、トリアゾール化合物を含有する表面処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の表面処理剤を接着層に用いた場合、プリント基板の製造時の高温プロセスにおいてクラックやボイドが発生する頻度が高くなったり、絶縁樹脂層が剥離しやすくなったりすることが分かった。
【0007】
従来技術の上記問題の原因について鋭意検討したところ、いずれの問題も、剥離したエッチングレジスト層の一部が銅層上で接着層を介して残渣となってしまっていることが原因であることが分かった。
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、プリント基板製造用であり、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ない積層体を提供することである。また、本発明の他の解決課題は、銅配線の表面の平滑性が高く、銅配線のパターンが高精度であり、かつ、レジスト層の残渣が少ないプリント基板、及び当該プリント基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した。その結果、本発明者は、表面粗さRaが0.3μm以下である銅層とレジスト層との間に分子間相互作用層を設けることによって、上記課題を解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.プリント基板製造用の積層体であって、
銅層と、
レジスト層と、
前記銅層と前記レジスト層を接着する分子間相互作用層と、を有し、
前記銅層の前記分子間相互作用層側の表面粗さRaが、0.3μm以下である
ことを特徴とする積層体。
【0011】
2.前記分子間相互作用層が、含窒素ヘテロ環化合物を含有する
ことを特徴とする第1項に記載の積層体。
【0012】
3.前記含窒素ヘテロ環化合物が、含窒素ヘテロ環と、窒素原子又は酸素原子を含有する官能基と、を併せ持つ化合物であり、
前記含窒素ヘテロ環中の窒素原子の数が、2~4であり、当該窒素原子の少なくとも一つが水素原子と結合している
ことを特徴とする第2項に記載の積層体。
【0013】
4.前記官能基が、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2であり、Rが、アルキル基を表す
ことを特徴とする第3項に記載の積層体。
【0014】
5.前記含窒素ヘテロ環化合物が、下記一般式1又は一般式2で表される構造を有する
ことを特徴とする第2項に記載の積層体。
【0015】
【0016】
[式中、W1~W7は、炭素原子又は窒素原子を表す。W1~W7のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Y1~Y5は、炭素原子又は窒素原子を表す。Y1~Y5のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Z1は、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2を表す。Z2は、-COOH、-OH、-NHR又は-NR2を表す。Rは、アルキル基を表す。
Lは、単結合又は連結基を表す。]
【0017】
6.前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内である
ことを特徴とする第1項に記載の積層体。
【0018】
7.前記銅層が、少なくともZnを含有する
ことを特徴とする第1項に記載の積層体。
【0019】
8.前記レジスト層が、感光性樹脂を含有する
ことを特徴とする第1項に記載の積層体。
【0020】
9.銅配線を有するプリント基板であって、
前記銅配線の表面粗さRaが、0.3μm以下であり、
前記銅配線の上にレジスト層の残渣がない
ことを特徴とするプリント基板。
【0021】
10.レジスト層を用いるプリント基板の製造方法であって、
工程(A):表面粗さRaが0.3μm以下の銅層の表面を、薬液にて洗浄する工程と、
工程(B):前記洗浄後の銅層の直上に、分子間相互作用層を形成する工程と、
工程(C):前記分子間相互作用層の直上に、感光性樹脂を含有するレジスト層を形成する工程と、
工程(D):前記レジスト層を露光及び現像によりパターニングする工程と、
工程(E):前記銅層をエッチングによりパターニングする工程と、
工程(F):前記レジスト層及び前記分子間相互作用層を剥離する工程と、を有する
ことを特徴とするプリント基板の製造方法。
【0022】
11.前記工程(B)における前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内である
ことを特徴とする第10項に記載のプリント基板の製造方法。
【0023】
12.前記工程(A)で使用する前記薬液の25℃におけるpHが、2以下である
ことを特徴とする第10項に記載のプリント基板の製造方法。
【0024】
13.前記工程(A)で使用する前記薬液が、ギ酸、塩化水素、硫酸及び硝酸のうち少なくとも一つを含有する水溶液である
ことを特徴とする第10項に記載のプリント基板の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の上記手段により、プリント基板製造用であり、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ない積層体を提供することができる。
【0026】
また、本発明の上記手段により、銅配線の表面の平滑性が高く、銅配線のパターンが高精度であり、かつ、レジスト層の残渣が少ないプリント基板、及び当該プリント基板の製造方法を提供することができる。
【0027】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0028】
エッチングレジスト層の残渣は、クラックやボイドの原因となる。また、エッチングレジスト層の残渣は、銅との密着性を担保するように設計されることが多い絶縁樹脂層と銅との接触を妨げることによって、絶縁樹脂層を剥離しやすくさせてしまう。
【0029】
残渣の原因を検討した結果、接着層に原因があることが分かった。特許文献1に記載の表面処理剤は、トリアゾール化合物が銅層及びエッチングレジスト層と共有結合することによって、強力な接着力を発揮している。この技術では、銅層とエッチングレジスト層の密着性を担保でき、ひいては所望の銅配線の形成を可能にする。しかし、このような共有結合による強力な接着は、接着力が強すぎて、エッチングレジスト層がきれいに剥離されることを妨げ、エッチングレジスト層の残渣の原因になる。
【0030】
これに対し、本発明の積層体は、銅層とレジスト層との間に、これらを接着する分子間相互作用層を有する。分子間相互作用層は、表面粗さRaが0.3μm以下と平滑性が高い銅層を用いた場合であっても、所望の銅配線を形成するのに十分なレベルの密着性を、銅層とレジスト層との間に生じさせることができる。また、分子間相互作用は、共有結合と比べて接着力が適度に弱い。そのため、分子間相互作用層は、エッチングレジスト層の剥離を妨げにくく、エッチングレジスト層の剥離後の残渣を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】含窒素ヘテロ環化合物の配位状態を示す模式図
【
図2】銅配線パターンの形成工程を示す図(銅張積層板)
【
図3】銅配線パターンの形成工程を示す図(分子間相互作用層の形成)
【
図4】銅配線パターンの形成工程を示す図(レジスト層の形成)
【
図5】銅配線パターンの形成工程を示す図(レジスト層のパターニング)
【
図6】銅配線パターンの形成工程を示す図(銅層のエッチング)
【
図7】銅配線パターンの形成工程を示す図(レジスト層及び分子間相互作用層の剥離)
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の表面改質剤は、プリント基板製造用の積層体であって、銅層と、レジスト層と、前記銅層と前記レジスト層を接着する分子間相互作用層と、を有し、前記銅層の前記分子間相互作用層側の表面粗さRaが、0.3μm以下であることを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0033】
本発明の積層体の実施形態としては、前記分子間相互作用層が、含窒素ヘテロ環化合物を含有することが好ましい。含窒素ヘテロ環化合物は、窒素原子が銅層の成分と強く相互作用しやすいことにより、密着向上性が高い。
【0034】
本発明の積層体の実施形態としては、前記含窒素ヘテロ環化合物が、含窒素ヘテロ環と、窒素原子又は酸素原子を含有する官能基と、を併せ持つ化合物であり、前記含窒素ヘテロ環中の窒素原子の数が、2~4であり、当該窒素原子の少なくとも一つが水素原子と結合していることが好ましい。これによって、水素原子と結合している窒素原子が金属と相互作用し、配位結合を形成して銅層との密着性がより良好となる。
【0035】
本発明の積層体の実施形態としては、前記官能基が、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2であり、Rが、アルキル基を表すことが好ましい。これによって、前記官能基が、レジスト層が含有する樹脂の極性基と水素結合やイオン結合をすることができる。その結果、含窒素ヘテロ環化合物が、π-π相互作用やファンデルワールス力よりも強い相互作用力で、レジスト層と密着できる。特に、前記含窒素ヘテロ環化合物が、前記一般式1又は一般式2で表される構造を有することが、銅層とレジスト層との間の密着性向上の点で好ましい。
【0036】
本発明の積層体の実施形態としては、前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内であることが好ましい。当該合計量が0.001at%以上であることによって、これらの原子がきっかけとなってレジスト層の剥離が好適に行われやすくなる。当該合計量が1.000at%以下であることによって、銅層とレジスト層との密着性や、銅層と絶縁樹脂層との接着性が、損なわれにくい。
【0037】
本発明の積層体の実施形態としては、前記銅層が、少なくともZnを含有することが好ましい。これによって、Znがきっかけとなってレジスト層の剥離がより好適に行われやすくなる。
【0038】
本発明の積層体の実施形態としては、前記レジスト層が、感光性樹脂を含有することが好ましい。これによって、フォトリソグラフィによるレジスト層のパターニングが可能となる。
【0039】
本発明のプリント基板は、銅配線を有するプリント基板であって、前記銅配線の表面粗さRaが、0.3μm以下であり、前記銅配線の上にレジスト層の残渣がないことを特徴とする。
【0040】
本発明のプリント基板の製造方法は、レジスト層を用いるプリント基板の製造方法であって、上記工程(A)~(F)を有することを特徴とする。
【0041】
本発明のプリント基板の製造方法の実施形態としては、前記工程(B)における前記銅層の前記分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、0.001~1.000at%の範囲内であることが好ましい。当該合計量が0.001at%以上であることによって、これらの原子がきっかけとなってレジスト層の剥離が好適に行われやすくなる。当該合計量が1.000at%以下であることによって、銅層とレジスト層との密着性や、銅層と絶縁樹脂層との接着性が、損なわれにくい。
【0042】
本発明のプリント基板の製造方法の実施形態としては、洗浄性の観点から、前記工程(A)で使用する前記薬液の25℃におけるpHが、2以下であることが好ましい。
【0043】
本発明のプリント基板の製造方法の実施形態としては、洗浄性の観点から、前記工程(A)で使用する前記薬液が、ギ酸、塩化水素、硫酸及び硝酸のうち少なくとも一つを含有する水溶液であることが好ましい。
【0044】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0045】
[本発明の積層体の概要]
本発明の積層体は、プリント基板製造用の積層体であって、銅層と、レジスト層と、前記銅層と前記レジスト層を接着する分子間相互作用層と、を有する。前記銅層の前記分子間相互作用層側の表面粗さRaは、0.3μm以下である。
【0046】
図4は、積層体6の概略断面図である。
図4に例示される積層体6は、絶縁層1と、銅層2と、分子間相互作用層3と、レジスト層4とを有する。
【0047】
[分子間相互作用層]
本発明に係る「分子間相互作用層」とは、銅層及びレジスト層の少なくとも一方と、共有結合形成以外の手段を主な密着手段として密着する層のことをいう。
【0048】
「共有結合形成以外の手段」とは、主に分子間相互作用であるが、分子間相互作用とアンカー効果等による吸着との複合であってもよい。分子間相互作用には、静電的相互作用、ファンデルワールス力、水素結合、電荷移動相互作用、疎水性相互作用等が含まれる。
【0049】
積層体の銅層とレジスト層とが分子間相互作用層によって接着されていることは、接着されている銅層とレジスト層との間にケイ素原子(Si)が存在しないことによって確認できる。ケイ素原子(Si)が存在しないことは、二次イオン質量分析(SIMS:secondary ion mass spectrometry)によって確認できる。ケイ素原子(Si)が存在する場合は、ケイ素原子(Si)を含む化合物を介した共有結合によって、銅層とレジスト層とが接着しているとみなす。
【0050】
分子間相互作用層は、少なくとも後述の銅層の成分との分子間相互作用が可能な化合物(以下、「化合物A」ともいう。)を、含有する。分子間相互作用層が含有する化合物Aは、一種でも二種以上でもよい。分子間相互作用層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、化合物A以外の化合物を含有し得る。
【0051】
化合物Aは、非感光性であることが好ましい。「非感光性」とは、分子間相互作用層を形成する工程における通常の条件下では、光を吸収して、分子内の結合が開裂したり、分子同士が重合したりすることがない性質のことをいう。
【0052】
化合物Aは、含窒素化合物であることが好ましく、含窒素ヘテロ環化合物であることがより好ましい。これらの化合物は、窒素原子が銅層の成分と強く相互作用しやすいことにより、密着向上性が高い。
【0053】
含窒素ヘテロ環化合物は、含窒素ヘテロ環と、窒素原子又は酸素原子を含有する官能基と、を併せ持つ化合物であることが好ましい。
【0054】
含窒素ヘテロ環中の窒素原子の数は、2~4であり、当該窒素原子の少なくとも一つが水素原子と結合していることが好ましい。これによって、水素原子と結合している窒素原子が金属と相互作用し、配位結合を形成して銅層との密着性がより良好となる。
【0055】
窒素原子又は酸素原子を含有する官能基としては、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2が好ましい。当該官能基は、特に、-COOH、-NH2又は-NR2が好ましい。なお、Rはアルキル基を表す。これによって、前記官能基が、レジスト層が含有する樹脂の極性基と水素結合やイオン結合をすることができる。その結果、含窒素ヘテロ環化合物が、π-π相互作用やファンデルワールス力よりも強い相互作用力で、レジスト層と密着できる。
【0056】
含窒素ヘテロ環化合物は、下記一般式1又は一般式2で表される構造を有することが、銅層とレジスト層との間の密着向上性の点で好ましい。
【0057】
【0058】
[式中、W1~W7は、炭素原子又は窒素原子を表す。W1~W7のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Y1~Y5は、炭素原子又は窒素原子を表す。Y1~Y5のうち、2~4個が、窒素原子を表し、少なくとも1つが、NHを表す。
Z1は、-COOH、-NH2、-OH、-NHR又は-NR2を表す。Z2は、-COOH、-OH、-NHR又は-NR2を表す。Rは、アルキル基を表す。
Lは、単結合又は連結基を表す。]
【0059】
W1~W7は、縮合環を形成する。
【0060】
Y1~Y7は、縮合環を形成する。
【0061】
Lが表す連結基は、例えば、炭素原子、窒素原子、硫黄原子、酸素原子を含む原子又は原子団である。Lが表す連結基の具体的な例として、-O-、-S-、-N(R)-、-CO-、-SO2-、アルキレン基、アリーレン基、これらの組合せ等が挙げられる。Rは、水素原子、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。アルキレン基の例には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、1,4-シクロヘキシレン基、ドデシレン基、ヘキサデシレン基、2-エチルヘキシレン基、2-ヘキシルデカレン基等が含まれる。アリーレン基の例には、フェニレン基、ナフチレン基等が含まれる。
【0062】
一般式1又は一般式2で表される構造を有する含窒素ヘテロ環化合物は、
図1に示すように、その分子骨格が、分子間相互作用層3において、垂直方向(分子間相互作用層3の厚さ方向)に配位しやすい。
図1では、後述の例示化合物(1)を例に、含窒素ヘテロ環化合物の配向の様子を示している。含窒素ヘテロ環化合物の分子骨格が垂直方向に配位することによって、含窒素ヘテロ環化合物の環骨格中の窒素原子が、銅層2の金属と相互作用する。これによって、含窒素ヘテロ環化合物が有する官能基であるアルキルアミノ基が、レジスト層4に近づくことができる。その結果、含窒素ヘテロ環化合物は、レジスト層4とも相互作用する。含窒素ヘテロ環化合物は、このように銅層2及びレジスト層3の両方ともと相互作用することによって、これらの密着性を向上させる。
【0063】
一般式1又は一般式2で表される構造を有する含窒素ヘテロ環化合物を以下に例示する。本発明に係る含窒素ヘテロ環化合物は、これらに限定されるものではない。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
[銅層]
銅層は、銅又は銅合金を主成分とする層である。「主成分」とは、50質量%以上含有される成分のことをいう。
【0068】
銅合金は、銅の他に、金、銀、白金、亜鉛、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、スズ、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム、アルミニウム、鉛、モリブデン等を含み得る。銅合金における銅の割合は、50at%以上であることが好ましい。
【0069】
本発明の積層体が有する銅層は、分子間相互作用層側の表面粗さRaが、0.3μm以下であることを特徴とする。これによって、当該銅層から形成される銅配線は、製造時の高温プロセスにおけるクラック及びボイドの原因や、5Gや6Gの通信技術で用いる短波長な電波の伝送損失の原因になりにくい。
【0070】
表面粗さRaは、JIS B 0601:2013で定義された算術平均粗さである。表面粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡(キーエンス社製、LASER MICROSCOPE VK-X100)を用いて測定できる。
【0071】
銅層の分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの合計量が、表層に存在する元素の全量を100at%として、0.001~1.000at%の範囲内であることが好ましい。当該合計量が0.001at%以上であることによって、これらの原子がきっかけとなってレジスト層の剥離が好適に行われやすくなる。当該合計量が1.000at%以下であることによって、銅層とレジスト層との密着性や、銅層と絶縁樹脂層との接着性が、損なわれにくい。
【0072】
銅層が、少なくともZnを含有することが好ましい。銅層の分子間相互作用層側の表層に存在するZnの量は、表層に存在する元素の全量を100at%として、0.001~0.100at%の範囲内であることが好ましい。Znの量が0.100at%以上であることによって、Znがきっかけとなってレジスト層の剥離が好適に行われやすくなる。Znの量が0.100at%以下であることによって、銅層とレジスト層との密着性や、銅層と絶縁樹脂層との接着性が、損なわれにくい。
【0073】
銅層の表面の元素組成は、以下の手順で測定できる。
まず、表面の元素組成が既知であるサンプルを用いて、元素量の検量線を作成する。0.1at%以上の範囲の検量線は、X線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)のデータを用いて作成する。0.1at%未満の範囲の検量線は、二次イオン質量分析(SIMS:secondary ion mass spectrometry)のデータを用いて作成する。次いで、測定対象の銅層の表面の元素組成を、XPS及びSIMSで分析する。この分析値と検量線から、銅層の表面の元素組成を求める。
【0074】
XPSは、以下の条件で行う。
XPS測定装置 :Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)
X線源 :単色化したAl-Kα線、100μm、25W、15kV
信号の取り出し角:45度
分析領域 :500μm×500μm
【0075】
XPSでは、まず、結合エネルギーが-20~1270eVの範囲を、Pass Energy=224eVでワイドスキャン測定し、いかなる元素が検出されるかを求める。次に、検出された全ての元素について、Pass Energy=140eVで、ナロースキャン測定を行う。ワイドスキャンとナロースキャンは、同一試料の異なる位置で測定する。銅層の表面の元素組成の定量には、アルバック・ファイ社製の解析ソフトであるMultiPakを用いる。各元素のスペクトルに対して、バックグラウンドを、銅以外の元素はShirley法で求め、銅は直線法で求める。得られたピーク面積から相対感度係数法を用いることで、銅層の表面の元素組成を得る。
【0076】
SIMSでは、以下の条件で、各種金属イオン強度を測定する。
装置 :TRIFT5 nanoTOF(アルバック・ファイ社製)
一次イオン :Bi3
++
一次イオン電流:2.0pA
データ収集時間:60sec
繰り返し周波数:8.2kHz
帯電中和 :ON
二次イオン極性:Positive
質量走査範囲 :m/z=0.5~2000
【0077】
銅層は、金属箔、めっき等であってもよく、真空成膜法等により形成した膜であってもよい。
【0078】
銅層の厚さは、特に限定されない。銅層の厚さは、例えば、形成する銅配線パターンの厚さに応じた厚さとすればよい。
【0079】
銅層は、絶縁層の上に銅層が形成された銅張積層板の銅層であってもよい。この場合、銅張積層板の絶縁層は、例えば樹脂シートやプリプレグである。
【0080】
[レジスト層]
レジスト層は、銅層のエッチングに対するレジストとして機能する層である。レジスト層には、例えば、アルカリ可溶性樹脂を含む紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化性アクリル樹脂、ポリイミド等が好ましく用いられる。
【0081】
レジスト層は、感光性樹脂を含有することが好ましい。これによって、フォトリソグラフィによるレジスト層のパターニングが可能となる。感光性樹脂を含有するレジスト層は、露光により感光した部分がパターンとなるネガ型であってもよく、露光により感光していない部分がパターンとなるポジ型のいずれであってもよい。
【0082】
[プリント基板の製造方法]
本発明の積層体は、プリント基板の製造に用いられる。プリント基板には、電子部品が実装される前の状態であるプリント配線板(PWB)と、電子部品が実装された後の状態であるプリント回路板(PCB)と、が含まれる。
【0083】
本発明の積層体を用いたプリント基板の製造においては、例えば以下の工程を有する銅配線パターンの形成が行われる。
工程(A):表面粗さRaが0.3μm以下の銅層の表面を、薬液にて洗浄する工程
工程(B):前記洗浄後の銅層の直上に、分子間相互作用層を形成する工程
工程(C):前記分子間相互作用層の直上に、感光性樹脂を含有するレジスト層を形成する工程
工程(D):前記レジスト層を露光及び現像によりパターニングする工程
工程(E):前記銅層をエッチングによりパターニングする工程
工程(F):前記レジスト層及び前記分子間相互作用層を剥離する工程
【0084】
【0085】
工程(A)では、表面粗さRaが0.3μm以下の銅層の表面を、薬液にて洗浄する。これによって、分子間相互作用層3と銅層2との相互作用の阻害となる、銅層2の表面に付着している汚れ、酸化防止剤、酸化被膜等を除去できる。
図2は、絶縁層1の上に銅層2が形成された銅張積層板5を用いた例を示している。
【0086】
工程(A)で使用する薬液の25℃におけるpHは、洗浄性の観点から、2以下であることが好ましい。
【0087】
工程(A)で使用する薬液は、洗浄性の観点から、ギ酸、塩化水素、硫酸及び硝酸のうち少なくとも一つを含有する水溶液であることが好ましい。
【0088】
工程(A)の後に、銅層2の表面を水洗してもよい。
【0089】
絶縁層1は、プリント基板の基材となる絶縁性の層である。絶縁層1は、樹脂等の絶縁材からなり、紙やガラスなどの基材に樹脂を含浸させたプリプレグであってもよい。
【0090】
工程(B)では、洗浄後の銅層2の直上に、分子間相互作用層3を形成する(
図3参照。)。具体的には、銅層2の直上に分子間相互作用層形成用組成物を塗布して、分子間相互作用層3を形成する。
【0091】
分子間相互作用層形成用組成物は、銅層の成分との分子間相互作用が可能な化合物(化合物A)を、含有する。
【0092】
当該組成物は、溶媒として、少なくとも水又はアルコール類を含有することが、溶解性の点で好ましい。当該アルコールの例としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等が挙げられる。
【0093】
溶媒には、水又はアルコール類を二種以上併用してもよい。具体的には、水とアルコールの質量比を100:0~50:50の範囲内とすることが好ましく、100:0~75:25の範囲内とすることがより好ましい。
【0094】
工程(B)で用いる分子間相互作用層形成用組成物における化合物Aの含有量は、例えば0.001~0.1質量%である。
【0095】
分子間相互作用層形成用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分の例としては、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、酸、塩基、pH調整剤等が挙げられる。
【0096】
工程(B)と次の工程(C)の間に、分子間相互作用層3が形成された銅張積層板5を水洗する工程を有することが好ましい。これによって、銅層2との相互作用が不十分で余分である分子間相互作用層形成用組成物の成分を除去できる。
【0097】
工程(C)では、分子間相互作用層3の直上に、感光性樹脂を含有するレジスト層4を形成する(
図4参照。)。この状態の積層体6は、絶縁層1と、銅層2と、分子間相互作用層3と、レジスト層4と、を備える。
【0098】
レジスト層4は、ドライフィルムレジストの貼合や、液状のレジスト材料の塗布により形成できる。
【0099】
工程(D)では、レジスト層4を、露光及び現像によりパターニングする(
図5参照。)。具体的には、まず、レジスト層4を任意のパターン状に露光できるフォトマスクを用いて、レジスト層4を露光する。その後、現像液を用いて、レジスト層4のうち不要な部分を溶解除去することで、レジスト層4をパターニングする。
【0100】
現像後には、レジスト層4を水洗することが好ましい。
【0101】
露光条件及び現像条件は、特に限定されず、従来公知のものを適用することができる。
【0102】
工程(E)では、レジスト層4を介して、銅層2をエッチングによりパターニングする(
図6参照。)。具体的には、エッチング液を用いたウェットエッチングにより、レジスト層4が除去された部分の分子間相互作用層3及び銅層2を溶解する。これによって、銅層2をパターニングする。このとき、銅層2と一緒に分子間相互作用層3もパターニングされてもよい。
【0103】
エッチング条件は、特に限定されず、従来公知のものを適用することができる。
【0104】
工程(F)では、銅張積層板5から、レジスト層4及び分子間相互作用層3を剥離する(
図7参照。)。
【0105】
レジスト層4及び分子間相互作用層3の剥離方法は特に限定されないが、剥離液を用いて剥離することが好ましい。当該剥離液は、特に限定されず、従来公知のものを適用することができる。
【0106】
以上の工程により、銅配線パターン7を形成できる。
【0107】
この銅配線パターン7の形成方法では、分子間相互作用層3を用いることで、工程(E)での銅層2とレジスト層4との密着性が高い。これにより、銅層2とレジスト層4の間へのエッチング液の浸み込みを防止でき、高密度かつ高精細な銅配線パターン7を形成できる。
【0108】
[プリント基板]
本発明の積層体を用いることによって、表面粗さRaが0.3μm以下である銅配線を有し、当該銅配線の上にレジスト層の残渣がないプリント基板を製造できる。
【0109】
このようなプリント基板は、銅配線の表面粗さRaが0.3μm以下であることによって、短波長な電波の伝送損失を起こしにくいため、5Gや6Gの通信技術に好適に使用できる。また、このようなプリント基板は、銅配線の上にレジスト層の残渣がないため、製造時の高温プロセスにおいてクラックやボイドが発生する頻度が低い。さらに、このようなプリント基板は、銅配線の上にレジスト層の残渣がないため、銅配線の上に形成された絶縁樹脂層等が剥離しにくい。
【実施例0110】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0111】
[処理液及び銅張積層板の準備]
<処理液の調製>
エタノール20質量%及びイオン交換水80質量%からなる溶媒に、表Iに記載の化合物を20質量ppmとなるように添加し、処理液1~26を調製した。処理液1~24は、分子間相互作用層形成用組成物である。
【0112】
【0113】
比較化合物A及びBは、それぞれ以下の構造を有する化合物である。比較化合物A及びBは、銅層が含有する成分及びレジスト層が含有する成分と共有結合を形成する化合物である。
【0114】
【0115】
<銅張積層板の銅層の表面粗さRaの調整>
絶縁層の上に金属層が形成された銅張積層板(パナソニック社製、R-1766)に対し、硫酸過水系エッチング液でハーフエッチング処理をした。エッチング時間を調整して、銅層が下記の表面粗さRaを有する銅張積層板A~Cを作製した。
【0116】
銅張積層板A:表面粗さRa=0.25μm
銅張積層板B:表面粗さRa=0.10μm
銅張積層板C:表面粗さRa=0.35μm
【0117】
[実施例1]
<積層体及びプリント配線板の作製>
下記のとおり工程(A)~(C)を行い、積層体1を作製した。
【0118】
〔工程(A)〕
上記で作製した銅張積層板Aを、塩酸洗浄液(サンワ化学工業社製、CP-30)で洗浄した。次いで、銅張積層板Aを、薬液(塩酸、pH1.1)とスプレー型の洗浄装置を用いて洗浄した。次いで、銅層を水洗した。
【0119】
〔工程(B)〕
銅層の上に、上記で調製した処理液1を、スプレー方式の塗布装置を用いて塗布した。その後、処理液を塗布した面を水洗した。その後、この加工物を、PVAローラーにて水切りし、80℃のエアナイフにて乾燥させて、厚さ5nmの分子間相互作用層を形成した。
【0120】
〔工程(C)〕
分子間相互作用層の上に、ドライフィルムレジスト(旭化成社製、AK-4034)を、ホットロールラミネーターにより、ラミネートした。ラミネートの条件は、ロール温度:105℃、エアー圧力:0.35MPa、及びラミネート速度:1.5m/minとした。使用したドライフィルムレジスト(旭化成社製 AK-4034)は、一方の面にポリエチレンテレフタレートフィルムからなる支持体を有し、もう一方の面にポリエチレンフィルムからなる保護層を有するものである。ラミネートは、保護層を剥離しながら、保護層があった面を接着層を介して銅層と接着させるようにして行った。これにより、エッチングレジストとなるレジスト層を形成した。
【0121】
上記工程(A)~(C)により、銅層と、分子間相互作用層と、レジスト層とを有する積層体1を作製した。
【0122】
<積層体2~7の作製>
積層体1の作製において、銅張積層板及び処理液を表IIに示すとおりに変更した以外は同様にして、積層体2~7を作製した。なお、積層体5及び6は、分子間相互作用層の代わりに共有結合層を有する。積層体7の作製においては工程(B)を行わなかったため、積層体7は分子間相互作用層を有さない。
【0123】
<プリント配線板の作製>
作製した各積層体を用いて、下記のとおり工程(D)~(F)を行い、プリント配線板を作製した。
【0124】
〔工程(D)〕
積層体のレジスト層に、クロムガラスマスク及び平行光露光機(オーク社製、HMW-801)を用いて、露光した。露光条件には、ドライフィルムレジストの推奨条件である、60mj/cm2を採用した。
【0125】
露光後のレジスト層から支持体を剥離した。その後、炭酸ナトリウム(Na2CO3)1質量%の水溶液からなる現像液、及びアルカリ現像機を用いて、レジスト層の未露光部分を溶解除去することにより、現像した。現像条件は、温度:30℃、及び現像時間:3分間とした。次いで、この加工物を水洗した。
【0126】
以上の操作により、エッチング後の銅配線パターンの回路幅が140μm、回路長が760mmとなるように、レジスト層をパターニングした。
【0127】
〔工程(E)〕
ディップ方式にて、塩化水素(HCl)2質量%及び塩化第二鉄(FeCl3)2質量%の水溶液からなるエッチング液を用いて、分子間相互作用層(又は共有結合層)及び銅層をエッチングした。エッチングの条件は、温度:30℃、及びディップ時間:1分とした。
【0128】
以上の操作により、分子間相互作用層(又は共有結合層)及び銅層をパターニングした。
【0129】
〔工程(F)〕
水酸化ナトリウム(NaOH)3質量%の水溶液からなる剥離液を用いて、温度:50℃の条件で、銅張積層板からレジスト層及び分子間相互作用層(又は共有結合層)を剥離した。
【0130】
以上の操作により、プリント配線板を作製した。
【0131】
<レジスト層の密着性の評価>
プリント配線板上の銅配線パターンを顕微鏡にて観察を行い、下記の基準でレジスト層の密着性を評価した。評価した結果は表IIに示すとおりである。「AA」及び「A」を実用上問題ないとした。
【0132】
AA:銅配線の残存率が97%以上である。
A :銅配線の残存率が95%以上97%未満である。
B :銅配線の残存率が95%未満である。
【0133】
<レジスト層の剥離性の評価>
プリント配線板上の銅配線パターンを顕微鏡にて観察を行った。この観察の結果と、工程(F)に要した時間に基づいて、下記の基準でレジスト層の剥離性を評価した。評価した結果は表IIに示すとおりである。「AA」及び「A」を実用上問題ないとした。
【0134】
AA:レジスト層の残渣がなく、レジスト層の剥離完了までの時間が短縮された。
A :レジスト層の残渣がないが、レジスト層の剥離完了までの時間が短縮されなかった。
B :レジスト層の残渣がある。
【0135】
<伝送損失の評価>
低誘電ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム(パナソニック社製、多層基板材料MEGTRON7、厚さ60μm)を用いて、ストリップ線路を形成した。このプリント配線板の銅箔に形成されている回路に、Keysight Technologies社製のネットワークアナライザN5291Aを用いて高周波信号を伝送し、伝送損失を測定した。特性インピーダンスは50Ωとした。30GHzの周波数における伝送損失に基づいて、下記の基準で伝送損失を評価した。評価した結果は表IIに示すとおりである。「AA」及び「A」を実用上問題ないとした。
【0136】
AA:伝送損失が、-25dB/760mm超である。
A :伝送損失が、-28dB/760mm超、-25dB/760mm以下である。
B :伝送損失が、-28dB/760mm以下である。
【0137】
【0138】
実施例1の結果から、本発明の積層体は、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ないことが分かる。また、本発明の積層体を用いて作製したプリント基板は、銅配線の表面の平滑性が高く、銅配線のパターンが高精度であり、かつ、レジスト層の残渣が少ないことが分かる。
【0139】
[実施例2]
実施例1と同様にして、表IIIに示す処理液を用いて、積層体8~31を作製し、評価した。評価した結果は表IIIに示すとおりである。
【0140】
【0141】
実施例2の結果から、分子間相互作用層に例示化合物(1)~(24)のいずれかを含有させることによって、銅層の平滑性が高くありながら銅層とレジスト層とが所望の銅配線を形成するのに十分な密着性を有し、かつ、レジスト層の剥離後の残渣が少ない積層体を作製できることが確認できる。
【0142】
[実施例3]
実施例1と同様にして、表IVに示す処理液を用いて、積層体32~42を作製し、評価した。評価した結果は表IVに示すとおりである。
【0143】
なお、実施例3においては、工程(A)での銅張積層板の薬液洗浄において、薬液(塩酸、pH1.1)の代わりに、表Vに示す薬液を用いた。表Vに示す薬液のpHは、25℃における値である。また、表Vに示す薬液での薬液洗浄の時間を、表Vに示すとおりに調整した。
【0144】
薬液Aは、塩化水素の0.4質量%水溶液(塩酸)である。
薬液Bは、塩化水素の5質量%水溶液(塩酸)である。
薬液Cは、炭酸ナトリウムの5質量%水溶液である。
薬液Dは、ギ酸の0.01質量%水溶液である。
薬液Eは、硫酸の0.05質量%水溶液である。
薬液Fは、硝酸の0.04質量%水溶液である。
【0145】
積層体32~42に用いた銅層の、分子間相互作用層側の表層に存在するZn、Cr、Ni、及びSnの、表層に存在する元素の全量を100at%とした元素量[at%]を、以下の方法で、工程(A)と工程(B)の間で測定した。
【0146】
まず、表面の元素組成が既知であるサンプルを用いて、元素量の検量線を作成した。0.1at%以上の範囲の検量線は、X線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)のデータを用いて作成した。0.1at%未満の範囲の検量線は、二次イオン質量分析(SIMS:secondary ion mass spectrometry)のデータを用いて作成した。
【0147】
次いで、測定対象の銅層の表面の元素組成を、XPS及びSIMSで分析した。この分析値と検量線から、銅層の表面の元素組成を求めた。
【0148】
XPSは、以下の条件で行った。
XPS測定装置 :Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)
X線源 :単色化したAl-Kα線、100μm、25W、15kV
信号の取り出し角:45度
分析領域 :500μm×500μm
【0149】
XPSでは、まず、結合エネルギーが-20~1270eVの範囲を、Pass Energy=224eVでワイドスキャン測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。次に、検出された全ての元素について、Pass Energy=140eVで、ナロースキャン測定を行った。ワイドスキャンとナロースキャンは、同一試料の異なる位置で測定した。銅層の表面の元素組成の定量には、アルバック・ファイ社製の解析ソフトであるMultiPakを用いた。各元素のスペクトルに対して、バックグラウンドを、銅以外の元素はShirley法で求め、銅は直線法で求めた。得られたピーク面積から相対感度係数法を用いることで、銅層の表面の元素組成を得た。
【0150】
SIMSでは、以下の条件で、各種金属イオン強度を測定した。
装置 :TRIFT5 nanoTOF(アルバック・ファイ社製)
一次イオン :Bi3
++
一次イオン電流:2.0pA
データ収集時間:60sec
繰り返し周波数:8.2kHz
帯電中和 :ON
二次イオン極性:Positive
質量走査範囲 :m/z=0.5~2000
【0151】
測定した結果は表Vに示すとおりである。表V中の「-」は、元素量が上記測定方法での検出限界(0.001at%)未満であることを示す。
【0152】
【0153】
【0154】
実施例3の結果から、以下のことが確認できる。
・工程(A)での薬液の種類や洗浄時間を変更することによって、銅層の表面の異種金属(Cu以外の金属)の量を調整できること。
・銅層の表面の異種金属が少ない程、銅層とレジスト層との密着性が良好となる傾向があること。
・銅層の表面の異種金属が多い程、レジスト層の剥離性が良好となる傾向があること。
【0155】
さらに、上記のことから、工程(A)の条件によってレジスト層の密着性及び剥離性を制御できることが確認できる。