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特開2024-153252推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法
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  • 特開-推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法 図1
  • 特開-推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法 図2
  • 特開-推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法 図3
  • 特開-推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153252
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】推進装置、航空機、および、推進装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64D 35/06 20060101AFI20241022BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20241022BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20241022BHJP
   B64U 30/24 20230101ALI20241022BHJP
【FI】
B64D35/06
B64D27/24
B64U50/19
B64U30/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067029
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】上妻 央
(72)【発明者】
【氏名】高畑 良一
(72)【発明者】
【氏名】大野 友幹
(57)【要約】
【課題】 二重反転プロペラを有する推進装置であって、故障時の揚力や推力の低下を抑制しつつ、不要なロールモーメントやピッチングモーメントも抑制できる推進装置を提供する。
【解決手段】 第1プロペラと第2プロペラを同軸配置した二重反転プロペラを有する推進装置であって、前記第1プロペラを正転方向に回転させる駆動力を発生させる第1モータと、前記第1モータの駆動力を前記第1プロペラに伝達する第1クラッチと、前記第2プロペラを反転方向に回転させる駆動力を発生させる第2モータと、前記第2モータの駆動力を前記第2プロペラに伝達する第2クラッチと、前記第1プロペラと前記第2プロペラの回転を同期させるギアと、を有し、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および、前記ギアは、接続を解除可能である推進装置。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プロペラと第2プロペラを同軸配置した二重反転プロペラを有する推進装置であって、
前記第1プロペラを正転方向に回転させる駆動力を発生させる第1モータと、
前記第1モータの駆動力を前記第1プロペラに伝達する第1クラッチと、
前記第2プロペラを反転方向に回転させる駆動力を発生させる第2モータと、
前記第2モータの駆動力を前記第2プロペラに伝達する第2クラッチと、
前記第1プロペラと前記第2プロペラの回転を同期させるギアと、を有し、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および、前記ギアは、接続を解除可能であることを特徴とする推進装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推進装置において、
正常時には、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチを接続するとともに、前記ギアの接続を解除することを特徴とする推進装置。
【請求項3】
請求項1に記載の推進装置において、
前記第1モータの異常時には、前記第1クラッチの接続を解除し、前記第2クラッチを接続するとともに、前記ギアを接続することを特徴とする推進装置。
【請求項4】
請求項1に記載の推進装置において、
前記第1プロペラの異常時には、前記第1プロペラおよび前記第2プロペラを停止することを特徴とする推進装置。
【請求項5】
請求項1に記載の推進装置を複数備えた航空機であって、
ある推進装置の第1プロペラの異常時には、
当該推進装置のギアを解除し、当該推進装置の第1プロペラを停止し、第2プロペラを回転させるとともに、
他の推進装置のギアを解除し、他の推進装置の第2プロペラを停止し、第1プロペラを回転させることを特徴とする航空機。
【請求項6】
第1プロペラと第2プロペラを同軸配置した二重反転プロペラを有する推進装置の制御方法であって、
前記推進装置は、
前記第1プロペラを正転方向に回転させる駆動力を発生させる第1モータと、
前記第1モータで発生した駆動力を前記第1プロペラに伝達する第1クラッチと、
前記第2プロペラを反転方向に回転させる駆動力を発生させる第2モータと、
前記第2モータで発生した駆動力を前記第2プロペラに伝達する第2クラッチと、
前記第1プロペラと前記第2プロペラの回転を同期させるギアと、を有し、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および、前記ギアは、接続を解除可能であり、
前記第1モータの異常時には、前記第1クラッチの接続を解除し、前記第2クラッチを接続するとともに、前記ギアを接続することを特徴とする推進装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重反転プロペラを有する推進装置、それを備えた航空機、および、二重反転プロペラを有する推進装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の推進装置(ロータ)を備えた従来の航空機として、特許文献1の電動垂直離着陸機(eVTOL機)が知られている。このeVTOL機は、同文献の図1図2等に示されるように、複数の推進装置(ロータ)を備えており、同文献の段落0038で「1つのVTOLロータ20に関連する電気系統又は機械系統が故障すると、そのVTOLロータ20は停止する。この場合、停止したVTOLロータ20と対をなす他のVTOLロータ20を回転させたままにすると、他のVTOLロータ20が発生させる反力が打ち消されずに機体に作用する。すると、機体にヨーモーメントが発生する。また、停止したVTOLロータ20と対をなす他のVTOLロータ20を回転させたままにすると、左右のVTOLロータ20の推力のバランスが崩れる。すると、機体にロールモーメントとピッチングモーメントが発生する。このような事態を避けるために、対をなす一方のVTOLロータ20が故障等で停止した場合は、他方のVTOLロータ20を停止させる必要がある。このようにすることで、反力(トルク反力)のバランスが崩れることに起因するヨーモーメント、及び、推力のバランスが崩れることに起因するロールモーメントとピッチングモーメントを抑制することができる。」と説明されるように、何れかの推進装置(ロータ)が故障しても、ロールモーメントとピッチングモーメントを抑制しつつ飛行を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-157287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のeVTOL機では、1つのロータの故障時に正常なロータを含む2つのロータが停止するため、ロータ故障に対する冗長性がロータ数に比例して向上せず、また、本来は停止不要な正常なロータも停止するため揚力や推力が過剰に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、二重反転プロペラを有する推進装置であって、故障時の揚力や推力の低下を抑制しつつ、不要なロールモーメントやピッチングモーメントも抑制できる推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1プロペラと第2プロペラを同軸配置した二重反転プロペラを有する推進装置であって、前記第1プロペラを正転方向に回転させる駆動力を発生させる第1モータと、前記第1モータの駆動力を前記第1プロペラに伝達する第1クラッチと、前記第2プロペラを反転方向に回転させる駆動力を発生させる第2モータと、前記第2モータの駆動力を前記第2プロペラに伝達する第2クラッチと、前記第1プロペラと前記第2プロペラの回転を同期させるギアと、を有し、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、および、前記ギアは、接続を解除可能である推進装置とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の推進装置によれば、故障時の揚力や推力の低下を抑制しつつ、不要なロールモーメントやピッチングモーメントも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例の航空機を上から見た模式図。
図2】一実施例の航空機の機能ブロック図。
図3】一実施例の航空機の二重反転プロペラの回転機構の概略図。
図4】一実施例の航空機の故障発生時の制御フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明の推進装置と航空機の一実施例を説明する。
【0010】
図1は、本実施例に係る航空機1を上から見た模式図である。ここに例示するように、本実施例の航空機1は、二重反転プロペラで推力を発生させるマルチロータ航空機であり、人や荷物を載せるための胴体10と、4つの推進装置20(左前推進装置20FL、右前推進装置20FR、左後推進装置20RL、右後推進装置20RR)と、制御装置30を備える。なお、図1では、4つの推進装置20を備えた航空機1を例示しているが、推進装置20の数はこの例に限定されるものではない。
【0011】
図2は、航空機1の機能ブロック図である。なお、各々の推進装置20の構成は略同等であるので、以下では、右前推進装置20FRと右後推進装置20RRの構成を詳細に説明することとし、左前推進装置20FLと左後推進装置20RLの詳細説明は省略する。
【0012】
ここで示されるように、右前推進装置20FRは、1つの駆動部21と、2つの電気コンポーネント22を有する。また、右後推進装置20RRは、1つの駆動部21と、2つの電気コンポーネント22と、電気コンポーネント22に電力を供給するための2つのバッテリ23を有する。なお、バッテリ23は、バッテリを持たない推進装置20へも電力を供給する。
【0013】
<駆動部21>
駆動部21は、二重反転構成のプロペラを回転させることで推力を発生させる機能部であり、上プロペラ21aと、下プロペラ21bと、ギア21cと、上下2つのクラッチ21dを有する。
【0014】
上プロペラ21aと下プロペラ21bは、等しい回転速度で互いに逆方向に回転する同軸配置のプロペラであり、例えば、上プロペラ21aが所定の回転速度で正転方向(例えば、上面視で時計方向)に回転する場合には、下プロペラ21bは同等の回転速度で反転方向(例えば、上面視で反時計方向)に回転する。これにより、上プロペラ21aによるヨーモーメントと、下プロペラ21bによるヨーモーメントが相殺し、駆動部21全体としてのヨーモーメントの発生を解消している。
【0015】
ギア21cは、上プロペラ21aと下プロペラ21bを接続して、両プロペラを同期回転させる機構である。このギア21cは、制御装置30からの指令に応じて、上下プロペラの接続を解除する機能を有する。
【0016】
クラッチ21dは、後述するモータ22aで発生させた駆動力を各プロペラに伝達する機構である。このクラッチ21dは、制御装置30からの指令に応じて、モータ22aとプロペラとの接続を解除する機能を有する。
【0017】
<電気コンポーネント22>
電気コンポーネント22は、駆動部21に駆動力を提供する機能部であり、モータ22aと、インバータ22bと、コンデンサ22cを有する。なお、図2に示すように、本実施例では、上プロペラ21a用の電気コンポーネント22と、下プロペラ21b用の電気コンポーネント22を個別に設けることで、冗長性を向上させている。
【0018】
モータ22aは、プロペラを回転させる駆動力を発生させる回転電機であり、クラッチ21dを介して上プロペラ21aまたは下プロペラ21bと接続されている。
【0019】
インバータ22bとコンデンサ22cは、バッテリ23からの直流電力を交流電力に変換してモータ22aに供給するための電気回路である。
【0020】
<二重反転プロペラの回転機構>
図3は、二重反転プロペラの回転機構の概略図である。ここに示すように、各々の推進装置20では、上プロペラ21aと下プロペラ21bが同軸配置されている。上プロペラ21aの上方には、上プロペラ21a用のクラッチ21dとモータ22aが配置されている。同様に、下プロペラ21bの下方には、下プロペラ21b用のクラッチ21dとモータ22aが配置されている。
【0021】
また、上プロペラ21aと下プロペラ21bの間には、上プロペラ21aと下プロペラ21bを同じ回転速度で互いに逆方向に回転させるギア21cが設けられている。ギア21cの構成としては、図3に例示するように、上プロペラ21aの回転軸下端に設けた上傘歯車と、下プロペラ21bの回転軸上端に設けた下傘歯車と、上傘歯車と下傘歯車の双方に接触する中継傘歯車を組み合わせたものが挙げられるが、ギア21cの構成はこの例に限定されない。なお、図3の例では、中継傘歯車を右方向に移動させることで、上プロペラ21aと下プロペラ21bの同期回転を解除することができる。
【0022】
さらに、上プロペラ21aの先端と下プロペラ21bの先端の間には、プロペラの通過周期を検出するプロペラ検出センサ31が配置されており、プロペラ通過周期の異常から、プロペラの羽根の欠落等の異常を検出することができる。
【0023】
<推進装置故障時の制御フローチャート>
図4は、何れかの推進装置20が故障した場合の制御フローチャートである。
【0024】
ステップS1は、推進装置20が正常である時の駆動部21の制御状態を示している。ここに示すように、推進装置20の正常時には、制御装置30は、ギア21cを解除し、上下2つのクラッチ21dを共に接続した状態に制御する。これにより、上プロペラ21aが上側のモータ22aによって独立駆動され、下プロペラ21bが下側のモータ22aによって独立駆動される状態となる。
【0025】
推進装置20が故障すると、ステップS2では、制御装置30は、故障した部位を特定する。そして、電気コンポーネント22の故障であれば、ステップS3へ進み、プロペラの故障であれば、ステップS4へ進む。なお、電気コンポーネント22の故障は、モータ22aの負荷の異常や、インバータ22bの出力の異常などから検出することができ、プロペラの故障は、プロペラ検出センサ31で検出した、プロペラ通過周期の異常から検出することができる。
【0026】
ステップS3では、制御装置30は、ギア21cを接続するとともに、故障した電気コンポーネント22側のクラッチ21dを解除する。これにより、正常な電気コンポーネント22から供給される駆動力によって、上下プロペラを逆方向に同期回転させることができるため、揚力や推力を維持しつつ、ヨーモーメントの発生を抑えることができる。なお、クラッチ21dの接続を解除しているため、故障側のモータ22aは正常側のモータ22aの負荷にはならない。
【0027】
ステップS4では、制御装置30は、ギア21cを解除し、故障したプロペラ側のモータ22aを停止するとともに、故障したプロペラの反転プロペラ側のモータ22aも停止する。鳥と衝突するなどしてプロペラの羽根が破損した場合、すなわち、上下プロペラの形状が相違する場合には、ステップS3のようにギア接続して両プロペラを回転させると、不要なヨーモーメントが発生するため、本ステップでは、ギア接続を解除し、故障プロペラと対になっている、反転しているプロペラを停止させることでヨーモーメントの発生を抑制する。
【0028】
なお、本ステップで停止する反転プロペラは、同じ推進装置20の反転プロペラである必要はなく、他の推進装置20の反転プロペラであっても良い。例えば、図1の右前推進装置20FRの上プロペラ21aが故障した場合であれば、そのプロペラと対角位置にある、左後推進装置20RLの下プロペラ21bを停止させても良い。これにより、右前推進装置20FRの上下プロペラを停止する場合に比べ、不要なヨーモーメントの発生をより抑制することができる。
【0029】
上記したように、本発明の推進装置によれば、ステップS1~S4の制御により、電気品故障時は対の正常なプロペラを停止させずヨーモーメントの発生を抑制することで、推力の低下を抑え冗長性を向上させることができる。また、ギアの切り離しにより、プロペラ故障時にもヨーモーメントの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 航空機
10 胴体
20 推進装置
21 駆動部
21a 上プロペラ
21b 下プロペラ
21c ギア
21d クラッチ
22 電気コンポーネント
22a モータ
22b インバータ
22c コンデンサ
23 バッテリ
30 制御装置
31 プロペラ検出センサ
図1
図2
図3
図4