(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153300
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ε-カプロラクタムの製造方法およびポリアミド6の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 201/12 20060101AFI20241022BHJP
C07C 27/02 20060101ALI20241022BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20241022BHJP
C07D 223/10 20060101ALI20241022BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C07D201/12
C07C27/02
C07C31/20 A
C07D223/10
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067101
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公哉
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC41
4H006AC91
4H006BA05
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC38
4H006FE11
4H006FG24
4H039CA60
4H039CE20
4H039CL30
(57)【要約】
【課題】
ポリアミド6を主成分とする複合素材の解重合において、ポリアミド6以外の成分を事前に分離する必要がなく、さらに比熱容量の高い水の少量使用での実施でも高収率でε-カプロラクタムを製造可能であることから、エネルギー消費量の少ないε-カプロラクタムの製造方法を提供すること。
【解決手段】
ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材(A)と、290℃以上350℃以下の温度の水(B)とを接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積を2,000以下の条件で接触させる、ε-カプロラクタムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材(A)と、290℃以上350℃以下の温度の水(B)とを接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積を2,000以下の条件で接触させる、ε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項2】
複合素材(A)におけるポリアミド6以外の樹脂の構成成分も有価物として得る、請求項1に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項3】
複合素材(A)と水(B)とを接触させる際の圧力が7.5MPa以上30MPa以下である、請求項1または2に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項4】
複合素材(A)と水(B)とを接触させる際に、さらに銅化合物を含む、請求項1または2に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項5】
反応温度Y℃での滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積が60,000以下となる条件で接触させる、請求項1または2に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項6】
銅化合物が有機銅塩、および無機銅塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項7】
前記ε-カプロラクタム以外の有価物がグリコールである、請求項2に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項8】
複合素材(A)がポリアミド6と、ポリエステル、およびポリウレタンの少なくとも一方とを含む、請求項1または2に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載のε-カプロラクタムの製造方法によりε-カプロラクタムを得る工程、および得られたε-カプロラクタムを重合してポリアミド6を得る工程を含む、ポリアミド6の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ε-カプロラクタムの製造方法およびポリアミド6の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題をトリガーに地球環境問題に対する関心が高まり、持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきている。地球環境問題には、地球温暖化をはじめ、資源枯渇、水不足などがある。地球環境問題の多くは産業革命以降の急速な人間活動による、資源消費量と地球温暖化ガス排出量の増大が原因にある。
【0003】
そのため、持続可能な社会構築のためには、プラスチックなどの化石資源循環利用、および地球温暖化ガス排出量低減に関する技術がますます重要となる。
【0004】
繊維、フィルム、エンジニアリングプラスチックとして各分野で多量に使用されているポリアミド6の再資源化方法としては、リン酸触媒の存在下、過熱水蒸気を吹き込むことでε-カプロラクタムを得る方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、同様の方法を用いたポリアミド6複合素材のケミカルリサイクルにより、高純度、高収率でε-カプロラクタムを回収する方法が開示されている(例えば特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
また、酸や塩基などの触媒を用いずにポリアミド6の解重合を行う方法として、ポリアミド6と過熱水を280℃から320℃の温度で接触させてε-カプロラクタムを回収する方法が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-217746号公報
【特許文献2】特開2008-31127号公報
【特許文献3】特開2008-179816号公報
【特許文献4】特開平10-510280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたε-カプロラクタムの回収方法はポリアミド6の解重合収率が80%以上と高収率な反応ではあるものの、解重合反応に長時間を要する。さらにポリアミド6繊維に対して約10倍量と多量の過熱水蒸気が必要であるため、化石資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減を両立するには課題の残る技術である。また、本手法はリン酸を触媒として用いた反応であるため、プラスチック中に含まれる添加剤や廃プラスチックにおける付着不純物による触媒失活など、不純物の影響を受けやすい反応である。実際、本発明者らがカリウム塩を含むポリアミド6を原料に、特許文献1記載の方法と同条件、類似条件で回収実験を行った場合、収率が大幅に低下することが見出された。これはカリウム塩によるリン酸触媒作用の失活のためではないかと本発明者らは推測している。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3にはポリアミド6を主成分とする複合素材からε-カプロラクタムを回収する方法が開示されているが、高純度、高収率でε-カプロラクタムを回収するためには、複合素材を多量のアルカリ水溶液やジメチルホルムアミドなどの有機溶媒を用いてポリアミド6以外の成分を除去する前処理が必須の技術であり、これら前処理に用いた多量の溶剤の精製・再利用には多大なエネルギーが必要となる。
【0009】
一方、特許文献4に開示されたε-カプロラクタムの回収方法は解重合反応に用いているのは水のみで、上記リン酸のような触媒を用いていないため、添加剤や付着不純物などによる反応失活は起こらない利点がある。しかしながら、開示されているε-カプロラクタムの回収方法は、比熱容量が4.2kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと非常に高い水をポリアミド6に対して約10倍量と多量に用いて長時間反応を行っているため、解重合反応および低濃度のε-カプロラクタム水溶液からのε-カプロラクタムの回収において多量のエネルギーを要する。また、同一条件または類似の条件で単純に水の使用量を下げてもε-カプロラクタムの回収率は低下するのみであった。これは単純に水の使用量を下げただけでは、解重合により生成したε-カプロラクタムとε-カプロラクタムの加水開環により生成する線状オリゴマーの熱力学的平衡点が線状オリゴマー側に移動したためであると本発明者らは推測している。さらに、特許文献4にはポリアミド6を主成分とする、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材の同時解重合については何ら言及されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材(A)と、290℃以上350℃以下の温度の水(B)とを接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積を2,000以下の条件で接触させる、ε-カプロラクタムの製造方法。
(2)複合素材(A)におけるポリアミド6以外の樹脂の構成成分も有価物として得る、上記(1)に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(3)複合素材(A)と水(B)とを接触させる際の圧力が7.5MPa以上30MPa以下である、上記(1)または(2)に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(4)複合素材(A)と水(B)とを接触させる際に、さらに銅化合物を含む、上記(1)から(3)のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(5)反応温度Y℃での滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積が60,000以下となる条件で接触させる、上記(1)から(4)のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(6)銅化合物が有機銅塩、および無機銅塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(4)または(5)に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(7)前記ε-カプロラクタム以外の有価物がグリコールである、上記(2)から(6)のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(8)複合素材(A)がポリアミド6と、ポリエステル、およびポリウレタンの少なくとも一方とを含む、上記(1)から(7)のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
(9)上記(1)から(8)のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法によりε-カプロラクタムを得る工程、および得られたε-カプロラクタムを重合してポリアミド6を得る工程を含む、ポリアミド6の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ポリアミド6を主成分とする複合素材の解重合において、ポリアミド6以外の成分を事前に分離する必要がなく、さらに比熱容量の高い水の少量使用での実施でも高収率でε-カプロラクタムを製造可能であることから、エネルギー消費量の少ないε-カプロラクタムの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材(A)と、290℃以上350℃以下の温度の水(B)とを接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積を2,000以下の条件で接触させる。
【0014】
(1)複合素材(A)
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる複合素材(A)と、290℃以上350℃以下の水(B)とを接触させてε-カプロラクタムを製造する方法である。
【0015】
本発明に用いられるポリアミド6とは、6-アミノカプロン酸および/またはε-カプロラクタムを主たる原料とするポリアミド樹脂である。本発明の目的を損なわない範囲で、他の単量体が共重合されたものでも良い。ここで、「主たる原料とする」とは、ポリアミド樹脂を構成する単量体単位の合計100モル%中、6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を合計50モル%以上含むことを意味する。6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0016】
共重合される他の単量体としては、例えば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2、2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2、6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、1、3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1、3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上共重合しても良い。
【0017】
また、これらポリアミド6は重合度調節剤、末端基調整剤などが付加されていても良い。重合度調節剤、末端基調整剤としては、例えば酢酸や安息香酸などを挙げることができる。
【0018】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、ポリアミド6の重合度には特に制限はないが、樹脂濃度0.01g/mLの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲であることが好ましい。相対粘度がこのような好ましい範囲にあることにより少量の水との反応効率が高くなる傾向がある。
【0019】
本発明における複合素材(A)は、ポリアミド6を主成分とし、少なくとも2種類の樹脂からなる素材であれば特に制限はない。ここでの、「ポリアミド6を主成分」とは、複合素材(A)を構成する樹脂におけるポリアミド6の含有量が50質量%以上であることを意味する。ポリアミド6の含有量は60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。ポリアミド6の含有量がこれら範囲にあることにより、ε-カプロラクタムを環境低負荷に製造することができる。複合素材(A)におけるポリアミド6含有量の分析方法としては、例えば複合素材(A)が衣類であり品質表示タグに記載の原料樹脂の種類の名称と混合率表記の確認が可能であれば品質表示タグで判断する方法が挙げられる。また、品質表示タグでの判断が困難な繊維製品の場合はJISで定められた繊維混用率の試験方法(JIS L 1030-1、2)が挙げられる。さらに、それらのいずれでもポリアミド6含有量の確認が困難な場合は全反射測定法(ATR法)によるポリアミド6の特性波数を用いた分析方法などが挙げられる。
【0020】
本発明における複合素材(A)は、例えば2種類以上の樹脂を同時に紡糸し1本の繊維とする複合繊維、短繊維同士を混ぜ合わせる混紡糸や長繊維同士を合わせて使用する混繊糸、芯糸を鞘糸が保護するカバーリング糸、これらを一部または全部に用いた布帛や紐体、その他の繊維構造体、さらにはポリアミド6繊維製品を他の樹脂製繊維で補修した補修材、ポリアミド6繊維だけでなく他の樹脂が部材の一部として含まれる衣類などの繊維部材、ポリアミド6フィルム上に他の樹脂がラミネート、コーティング等により積層された多層フィルム、ポリアミド6を含む屋内外用の構造物や自動車部品などのモジュール、ポリアミド6と少なくとも1種類以上の他の樹脂を溶融混練して得られる樹脂組成物などを例示できる。
【0021】
複合素材(A)に含まれるポリアミド6以外の樹脂の具体例としては、ポリアミド6以外のポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、変成ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、四フッ化ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。中でも、ポリエステル、ポリウレタンが好ましい。すなわち、本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、複合素材(A)がポリアミド6と、ポリエステル、およびポリウレタンの少なくとも一方とを含むことが好ましい。なお、これら樹脂は2種類以上用いても良い。
【0022】
以下、好ましく例示できるポリエステル、ポリウレタンについて詳細を説明する。
【0023】
本発明におけるポリエステルは、ポリエステルの構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、およびジオールを主原料として重縮合して得られる。ここで主原料とは、ポリマー中のジカルボン酸、そのエステル形成性誘導体、およびジオールの構成単位が、合計で80モル%以上であることを指す。この構成単位の合計は、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0024】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、2、6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4、4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4、4’-ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル-4、4’-ジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、またはそれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0025】
ここで言うエステル形成性誘導体とは、先に述べたジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等である。なお、ここでのジカルボン酸の低級アルキルエステルとは、前記ジカルボン酸と炭素数1~4のアルコール、または炭素数2~4のジオールとのエステルをいう。ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル等が好ましく用いられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、ジカルボン酸同士の酸無水物、ジカルボン酸と酢酸との酸無水物が好ましく用いられる。ジカルボン酸のハロゲン化物としては、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物等が好ましく用いられる。
【0026】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、繊維、樹脂、フィルムに使用されるポリエステル原料として使用量が多いことから、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましい。芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、2、6-ナフタレンジカルボン酸、またはそれらのジメチルエステルがより好ましい。
【0027】
ジオールの例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA-エチレンオキシド付加物等が挙げられる。中でも、得られるポリエステルの汎用性が高い点で、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0028】
また、ジカルボン酸、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、およびジオールをそれぞれ単独で用いても良く、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0029】
本発明におけるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート等が挙げられる。ここで、「/」は共重合体を表す。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。さらに、汎用性に優れ、リサイクル原資としての回収量が多い点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
【0030】
本発明で使用されるポリエステルの固有粘度は0.4~2.0dl/gであることが好ましい。ここで、ポリエステルの固有粘度は、o-クロロフェノールを溶媒として25℃で測定した値である。ポリエステルの固有粘度がこのような好ましい範囲にあることにより少量の水との反応効率が高くなり、複合素材の解重合に要するエネルギーが低くなる傾向がある。本発明で使用されるポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合は、固有粘度が0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.6~1.3dl/gであることがさらに好ましい。本発明で使用されるポリエステルがポリプロピレンテレフタレートである場合は、固有粘度が0.6~2.0dl/gであることがより好ましく、0.7~1.6dl/gであることがさらに好ましい。本発明で使用されるポリエステルがポリブチレンテレフタレートである場合は、固有粘度が0.6~2.0dl/gであることがより好ましく、0.8~1.8dl/gであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明におけるポリウレタンとしては、ポリウレタンの構成成分であるポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものが使用でき、特に限定されない。また、ポリマージオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤として低分子量ジアミンからなるポリウレタンウレア、ポリマージオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤として低分子量ジオールからなるポリウレタン、鎖延長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。
【0032】
本発明で使用されるポリマージオールはポリエーテル系ジオール、ポリエステル系ジオール、およびポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0033】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)、および3-メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG、THFおよび2,3-ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、ネオペンチルグリコールとTHFの共重合体に代表される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用しても良い。
【0034】
また、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、例えばポリプロピレンポリオールをアジピン酸などのジカルボン酸と重縮合することにより得られる側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、ポリカーボネートジオール等も使用することができる。
【0035】
上記ポリマージオールは単独で使用しても良いし、2種類以上混合もしくは共重合して使用しても良い。
【0036】
本発明で使用されるポリマージオールの分子量は、実用強度を保持する観点から、数平均分子量が1,000以上8,000以下のものが好ましく、1,800以上6,000以下がより好ましい。
【0037】
本発明で使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5-ナフタレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。特にポリウレタン糸の黄変を抑制したい場合には、脂環族ジイソシアネートを用いることが好ましい。これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明において、ポリウレタンの分子量は実用強度を保持し、水(B)との反応を容易にする観点から、数平均分子量として30,000以上150,000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量は溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定し、ポリメタクリル酸メチルにより換算したものである。
【0039】
本発明において、複合素材(A)は、複合素材の廃棄物であっても良い。複合素材の廃棄物としては、ポリアミド6製品、ポリアミド6製品製造過程で発生する産業廃棄物、あるいはポリアミド6製品使用済み廃棄物などが挙げられる。ポリアミド6製品としては、例えば古着、ユニホーム、スポーツウエアおよびインナーウエアなどの衣料用繊維構造物、カーテン、カーペット、ロープ、網、ベルトおよびシートなどの産業用繊維構造物、住宅建材用成形部品、電気電子成形部品、航空機部品、産業用機械部品、フィルム製品、押出成形品、現場重合成形品、RIM成形品などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑、切削加工時の切り屑なども廃棄物の対象となる。
【0040】
(2)ε-カプロラクタムの製造方法
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、複合素材(A)と290℃以上350℃以下の温度の水(B)とを接触させる際、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積を2,000以下の条件で接触させる。
【0041】
ここで用いられる水(B)に特に制限はなく、水道水、イオン交換水、蒸留水、井戸水など、どのような水を用いても良い。共存する塩の影響による副反応を抑制するとの観点から、水(B)がイオン交換水や蒸留水であることが好ましい。
【0042】
また、水(B)としては290℃以上350℃以下の温度の水が用いられる。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点と言い、臨界点より低い温度および圧力の熱水を亜臨界水と言う。本発明に用いる水(B)の温度は290℃以上350℃以下であり亜臨界水に該当する。この亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴がある。亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となり、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなることから優れた加水分解作用を有する。
【0043】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、水(B)の温度は300℃以上340℃以下であることが好ましく、320℃以上340℃以下であることがさらに好ましい。このような好ましい範囲にあることで反応時の装置腐食を抑制できる傾向にある。
【0044】
また、水(B)の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましく例示できる。具体的には、複合素材(A)と水(B)を接触させる際の圧力が7.5MPa以上30MPa以下であることが好ましく、8.0MPa以上25MPa以下であることがより好ましく、10.0MPa以上22MPa以下であることがさらに好ましい。このような圧力範囲にあることにより、上記した水のイオン積が高くなる傾向にある。水(B)をこのような圧力範囲とするための方法としては、例えば、圧力容器内部を加圧して密閉する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧する方法としては、例えば、水(B)に加え気体を封入する方法が挙げられる。このような気体としては、空気、アルゴン、窒素などが挙げられる。中でも、酸化反応などの副反応を抑制するとの観点から、窒素、アルゴンが好ましい。気体加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上が好ましい。
【0045】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、水(B)と複合素材(A)の質量比(水(B):複合素材(A))をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積が2,000以下の条件で接触させること特徴とする。XとYの積は1,600以下の条件とすることが好ましく、1,300以下の条件とすることがさらに好ましく、1,200以下の条件とすることが特に好ましい。XとYの積の下限には特に制限はないが、好ましくは300、より好ましくは320、特に好ましくは340である。また、水(B)と複合素材(A)におけるポリアミド6の質量比をXa:1、反応温度をY℃とした場合、XaとYの積が2,000以下の条件とすることが好ましく、1,600以下の条件とすることがより好ましく、1,300以下の条件とすることがさらに好ましく、1,200以下の条件とすることが特に好ましい。さらに、XaとYの積の下限には特に制限はないが、好ましくは300、より好ましくは320、特に好ましくは340である。本発明は、上述のとおり、化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減の両立を目的としたポリアミド6を主成分とする複合素材からの省エネルギーでのε-カプロラクタムの製造に関するものである。水の比熱容量は4.3kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと、他の有機溶剤と比べると非常に高いため、省エネルギーで製造するためには、水の使用量を減らすことが重要である。一方で、ポリアミド6と水との反応ではε-カプロラクタムの生成に加え、副反応としてε-カプロラクタムと水との反応による線状オリゴマー生成の副反応が進行する。したがって、単純に使用する水の量を減らした場合は線状オリゴマーが多量に生成するため、ε-カプロラクタムの生成効率は大幅に低下する。そこで、本発明者らは、ポリアミドと水との反応によるε-カプロラクタムの生成反応、および線状オリゴマー生成の副反応の熱力学的平衡点を解析し、本発明のε-カプロラクタムの製造方法においては、XとYの積、好ましくはXaとYの積をこれら条件範囲とすることにより、線状オリゴマーの副生を抑制し、ε-カプロラクタムの生成効率を大幅に向上させることができるため、ε-カプロラクタムの生成効率と省エネルギーを両立することができることを見出し本発明に至った。
【0046】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、反応温度Y℃での滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積が60,000以下となる条件で接触させることが好ましい。前記XとYとZの積は、より好ましくは40,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下であり、特に好ましくは20,000以下である。また、XとYとZの積の下限に特に制限はないが、5,000であることが好ましく、8,000であることがより好ましく、9,000であることが特に好ましい。さらに、XaとYとZの積が60,000以下の条件で接触させることがより好ましく、40,000以下の条件がさらに好ましく、30,000以下の条件が特に好ましい。XaとYとZの下限についても特に制限はないが、5,000であることがより好ましく、8,000であることがさらに好ましく、9,000であることが特に好ましい。XとYとZの積、またはXaとYとZの積をこのような好ましい条件範囲とすることで、より省エネルギーでε-カプロラクタムを製造することができる。
【0047】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、複合素材(A)におけるポリアミド6以外の樹脂の構成成分も有価物として得ることが好ましい。多量のアルカリ水溶液や有機溶媒を用いた前処理を行うことなく、複合素材(A)を構成するポリアミド6およびポリアミド6以外の樹脂も同時に解重合可能である。ここでの有価物とは、ポリアミド6以外の樹脂の構成成分であれば特に制限はなく、好ましくは再生樹脂の重合に用いることが出来る重合の主原料を挙げることができる。中でも、前記ε-カプロラクタム以外の有価物がグリコールであることが好ましい。ポリアミド6以外の樹脂の構成成分を有価物として得ることにより、複合素材を処理した際に発生する廃棄物量を大幅に低減でき、化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量の低減の両立をより高いレベルで可能とすることができる。
【0048】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、複合素材(A)と水(B)とを接触させる際に、さらに銅化合物を含むことが好ましい。銅化合物が反応系中に存在することにより、複合素材(A)と水(B)の反応によるε-カプロラクタムの生成効率が大幅に向上する傾向にある。銅化合物は複合素材(A)と水(B)を接触させて反応させる際に添加しても良く、あらかじめ溶融混練などにより複合素材(A)と銅化合物を混合したものを反応に用いても良い。また、銅化合物は、複合素材(A)の構成成分として含まれる銅化合物であっても良い。
【0049】
銅化合物における銅の価数は1価、2価のいずれでも良い。また、銅化合物は水和物であっても良い。また、2種以上の銅化合物を併用して用いても良い。
【0050】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法において、銅化合物は、特に限定されないが、有機銅塩、および無機銅塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0051】
有機銅塩の例としては、例えば、ギ酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ウンデシル酸銅、ラウリン酸銅、トリデシル酸銅、ミリスチン酸銅、ペンタデシル酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、ノナデシル酸銅、アラキジン酸銅、ヘンイコシル酸銅、ベヘン酸銅、トリコシル酸銅、リグノセリン酸銅、セロチン酸銅、モンタン酸銅、メリシン酸銅、安息香酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、フタル酸銅、サリチル酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅などが挙げられる。
【0052】
無機銅塩の例としては、硫酸銅、炭酸銅、硝酸銅、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅などの銅ハロゲン化物、水酸化銅、酸化銅などが挙げられる。
【0053】
中でも、銅化合物が、有機銅塩、硫酸銅、炭酸銅、硝酸銅、銅ハロゲン化物、水酸化銅、および酸化銅からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、有機銅塩、銅ハロゲン化物、水酸化銅、および酸化銅から選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。これらの銅化合物であることにより、複合素材(A)との混和性に優れることから複合素材中に凝集することなく分散しやすくなり、より少量での添加でε-カプロラクタムの収率が向上しやすくすることができる。
【0054】
これらの銅塩、すなわち、有機銅塩、および無機銅塩の銅の価数は1価、2価のいずれでも良い。また、2種以上の銅塩を併用しても良い。これらの銅塩は水和物であっても良い。
【0055】
本発明のε-カプロラクタムの製造には、バッチ式および連続方法など公知の各種反応方法を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0056】
(3)ε-カプロラクタムの回収方法
本発明において、ε-カプロラクタムの回収方法には特に制限はなく、何れの方法も採用できる。例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応が終了してから水とともに留出させε-カプロラクタム水溶液を得る。解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともにε-カプロラクタム水溶液を得ることができる。得られたε-カプロラクタム水溶液は、例えば、蒸留により水と分離することで純度の高いε-カプロラクタムを回収することができる。また、回収したε-カプロラクタム水溶液中に水に不溶の成分があれば事前に固液分離などの公知の方法により分離し、蒸留分離に供することもできる。
【0057】
さらに高純度のε-カプロラクタムを得る方法としては、回収したε-カプロラクタムを精密蒸留する方法、微量の水酸化ナトリウムを添加して減圧蒸留する方法、活性炭処理する方法、イオン交換処理する方法、再結晶する方法などの精製方法と組み合わせることができる。これら方法により、蒸留分離では分離困難な不純物も効率的に除去することができる。
【0058】
(4)ポリアミド6およびその成形品
本発明のポリアミド6の製造方法は、本発明のε-カプロラクタムの製造方法によりε-カプロラクタムを得る工程、および得られたε-カプロラクタムを重合してポリアミド6を得る工程を含む。
【0059】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法によりε-カプロラクタムを得る工程については、上述のとおりである。本発明のε-カプロラクタムの製造方法では、純度の高いε-カプロラクタムを得ることができる。そのため、得られたε-カプロラクタムは、ポリアミド6の重合原料として用いることができる。
【0060】
次に、得られたε-カプロラクタムを重合してポリアミド6を得る工程について、説明する。ポリアミド6は、例えば、ε-カプロラクタムを少量の水の存在下に加熱溶融重合する通常公知の方法によって製造することができる。
【0061】
また、このようにして得られたポリアミド6は、必要に応じて繊維状充填材や各種添加剤と溶融混練することによりポリアミド6樹脂組成物を製造し、射出成形や押出成形などの通常公知の方法でシートやフィルムなどの各種成形品を得ることができる。
【0062】
本発明のポリアミド6およびその成形品は、その優れた特性を活かし、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靭性および剛性が要求される航空機用部品、電気・電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、電気・電子部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、抵抗器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、スイッチ、ナイフスイッチ、多極ロッド、モーターケース、テレビハウジング、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、ICやLED対応ハウジング、コンデンサー座板、ヒューズホルダー、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどの電気部品、コネクタ、SMT対応のコネクタ、カードコネクタ、ジャック、コイル、コイルボビン、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレー、リレーケース、リフレクター、小型スイッチ、電源部品、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、SiパワーモジュールやSiCパワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボナアンテナ、コンピューター関連部品などの電子部品などが挙げられる。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0064】
≪評価方法≫
(ε-カプロラクタムの収率(HPLC))
ε-カプロラクタム収率(HPLC)の算出は高速液体クロマトグラフィー測定により実施した。測定条件を下記する。
装置 : 島津株式会社製 LC-10Avpシリーズ
カラム : Mightysil RP-18GP150-4.6
検出器 : フォトダイオードアレイ検出器(UV=205nm)
流速 : 0.5mL/min
カラム温度 : 40℃
移動相 : 0.1%酢酸水溶液/アセトニトリル(混合比:90wt%/10wt%)
サンプル : 反応混合物を0.1g量り取り、約10gの脱イオン水で希釈、濾過により脱イオン水に不溶な成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製した。
ε-カプロラクタムの定量 : 絶対検量線法にポリアミド6に対するε-カプロラクタム量を定量した。
【0065】
(エチレングリコールの収率(GC))
エチレングリコール収率(GC)の算出はガスクロマトグラフィー測定により実施した。測定条件を下記する。
装置 : 島津製作所製 GC-2010
カラム : アジレントテクノロジー社製 DB-5 0.32mm×30m(0.25μm)
キャリア―ガス : ヘリウム
検出器 : 水素炎イオン化検出器(FID)
サンプル : 反応混合物を約1.2g量り取り、約5gのメタノールで希釈、濾過によりメタノールに不溶な成分を分離除去することによりガスクロマトグラフィー分析サンプルを調製した。
エチレングリコールの定量 : 絶対検量線によりポリエチレンテレフタレートに対するエチレングリコール量を定量した。
【0066】
[参考例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)CM1017)20.0g、脱イオン水60.0gを仕込んだ。水とポリアミド6の質量比は3:1である。
【0067】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は10.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。
【0068】
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタム収率は78%であった。
【0069】
[実施例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6繊維(東レ株式会社製)とポリウレタン系弾性繊維(東レ・オペロンテックス社製ライクラ)を84/16の質量比で組み合わせて編み込んだ生地23.8g(内訳:ポリアミド6繊維20.0g、ポリウレタン繊維3.8g)、脱イオン水60.0gを仕込んだ。水と複合素材の質量比(X:1)は2.5:1、水とポリアミド6の質量比(Xa:1)は3:1である。
【0070】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は10.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は807、XaとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は12,100、XaとYとZの積は14,400である。
【0071】
回収した反応混合物の液体クロマトグラフィー分析により算出したε-カプロラクタム収率は78%であった。参考例1との比較により、ポリアミド6繊維とポリウレタン系弾性繊維からなる複合素材を用いても、ポリアミド6単独と同等の収率でε-カプロラクタムが得られていることが分かる。
【0072】
複合素材に対する水の質量比(X)、反応温度(Y)、ε-カプロラクタム収率、および、固定値である水の比熱(4.2kJ/kg・K)、複合素材の比熱(0.6kcal/kg・K)、溶解熱(10kcal/kg)、分解熱(29kcal/kg)、単位時間当たり必要加熱量の20%放熱する前提で算出した、ε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要な加熱熱量は1,646kcal/kg-Lcmであった。
【0073】
また、複合素材に対する水の質量比(X)、反応温度(Y)、ε-カプロラクタム収率、および滞留時間(Z)と前記の固定値を用いて算出した、ε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要なエネルギーは1,728kcal/kg-Lcmであった。
【0074】
また、上記反応により回収した反応混合物に対し、0.5倍重量のシクロヘキサンを加え70℃で1時間加熱撹拌を行い熱シクロヘキサン可溶成分の抽出実施、室温にまで冷却後にシクロヘキサン層を回収し、エバポレーターでシクロヘキサンを留去、80℃で真空乾燥に処することによりシクロヘキサン抽出成分を1.1g得た。得られた抽出成分のNMR分析の結果、抽出成分はポリウレタンの構成成分であるポリテトラメチレングリコールであった。
【0075】
さらに、熱シクロヘキサン抽出における水層を減圧30mmHg、加熱温度55℃で水の蒸留分離を行い、濃縮ε-カプロラクタム水溶液を得て、さらに減圧5mmHg、加熱温度150~170℃で蒸留し、留出ε-カプロラクタムを得た。濃縮、蒸留収率は92.7%であった。留出ε-カプロラクタムのHPLC不純物は0.47%であり、ポリアミド6の重合原料として使用可能な品質であった。
【0076】
[実施例2~9、比較例1~4]
原料に実施例1と同様にポリアミド6繊維とポリウレタン系弾性繊維の質量比が84/16の生地を用い、生地に対する水の量、反応温度、反応時間を変更して実施例1と同様の方法にて解重合を行いε-カプロラクタムの製造を行った。反応条件およびε-カプロラクタム収率、ε-カプロラクタム1kgを製造するに要した加熱熱量、エネルギーを表1に示す。
【0077】
【0078】
表1よりXとYの積を2,000以下、さらにはXとYとZの積を60,000以下とすることによりε-カプロラクタム製造に要するエネルギー量を大幅に抑制しつつ、高収率でε-カプロラクタムを製造可能であることが分かる。
【0079】
[実施例10]
300gのポリアミド6製布地を30gのポリエチレンテレフタレート製糸でミシンによる縫製を行ったナイロン繊維加工布地を5cm角に裁断して裁断屑を得た。
【0080】
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに前記裁断屑22.0g(内訳:ポリアミド6が20.0g、ポリエチレンテレフタレートが2.0g)、脱イオン水60.0gを仕込んだ。水と複合素材の裁断屑との質量比(X:1)は2.7:1、水とポリアミド6の質量比Xa:1は3:1である。
【0081】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は10.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は873、XaとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は13,091、XaとYとZの積は14,400である。
【0082】
回収した反応混合物の液体クロマトグラフィー分析により算出したε-カプロラクタム収率は64%、ガスクロマトグラフィー分析により算出したエチレングリコール収率は85%であった。
【0083】
複合素材に対する水の質量比(X)、反応温度(Y)、ε-カプロラクタム収率、および固定値である水の比熱(4.2kJ/kg・K)、複合素材の比熱(0.6kcal/kg・K)、溶解熱(10kcal/kg)、分解熱(29kcal/kg)、単位時間当たり必要加熱量の20%放熱する前提で算出した、ε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要な加熱熱量は1,988kcal/kg-Lcmであった。
【0084】
また、複合素材に対する水の質量比(X)、反応温度(Y)、ε-カプロラクタム収率、および滞留時間(Z)と前記の固定値を用いて算出した、ε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要なエネルギーは2,088kcal/kg-Lcmであった。
【0085】
また、上記反応により回収した反応混合物を減圧30mmHg、加熱温度55℃で水の蒸留分離を行い、濃縮ε-カプロラクタム水溶液を得て、さらに減圧5mmHg、加熱温度100~120℃で蒸留し、留出エチレングリコールを得た。さらに減圧5mmHg、加熱温度150~170℃で蒸留し、留出ε-カプロラクタムを得た。濃縮、蒸留収率は91.55%であった。留出ε-カプロラクタムのHPLC不純物は0.46%であり、ポリアミド6の重合原料として使用可能な品質であった。
【0086】
[実施例11]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに実施例10に記載の裁断屑22.0g(内訳:ポリアミド6が20.0g、ポリエチレンテレフタレートが2.0g)、脱イオン水60.0g、および酸化銅(I)0.08gを仕込んだ。水と複合素材の裁断屑との質量比(X:1)は2.7:1、水とポリアミド6の質量比Xa:1は3:1である。
【0087】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は10.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は873、XaとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は13,091、XaとYとZの積は14,400である。
【0088】
回収した反応混合物の液体クロマトグラフィー分析により算出したε-カプロラクタム収率は77%、ガスクロマトグラフィー分析により算出したエチレングリコール収率は91%であった。
【0089】
実施例10と同様に算出したε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要な加熱熱量は1,653kcal/kg-Lcm、ε-カプロラクタムを1kg製造するのに必要なエネルギーは1,736kcal/kg-Lcmであった。
【0090】
実施例10との比較により複合素材と水を接触させて反応させる際に銅化合物が存在することによりε-カプロラクタムがさらに高効率、省エネルギーで得られることが分かる。
【0091】
[実施例12~15]
原料に実施例10、11と同様に裁断屑を用い、裁断屑に対する水の量、反応温度を変更して実施例10、11と同様の方法にて解重合を行いε-カプロラクタムの製造を行った。反応条件およびε-カプロラクタム収率、ε―カプロラクタム1kgを製造するに要した加熱熱量、エネルギーを表2に示す。
【0092】
【0093】
表1、2よりXとYの積を2,000以下、さらにはXとYとZの積を60,000以下とすることにより複合素材に因らず、ε-カプロラクタム製造に要するエネルギー量を大幅に抑制しつつ、高収率でε-カプロラクタムを製造可能であることが分かる。
【0094】
[実施例16]ポリアミド6の重合
試験管に実施例1に記載の方法で回収したε-カプロラクタム10g、安息香酸2.16mg、イオン交換水10.0gを量り取った。試験管をオートクレーブ内に仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、ジャケット温度を250℃に設定し、加熱を開始した。内圧が1.0MPaに到達した後、内圧を1.0MPaで3時間保持した。その後1.5時間かけて内圧を常圧に放圧、内温が228℃に到達した時点で加熱を停止した。重合完了後、試験管からポリマーを回収し破砕処理を行った。破砕ポリマーを95℃熱水中で15時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のポリマーは80℃で24時間真空乾燥に処して、融点226℃、ηr=2.75のポリアミド6樹脂を得た。