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  • 特開-電動車用インバータ内蔵モータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153310
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電動車用インバータ内蔵モータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241022BHJP
   H02K 11/33 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02K11/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067119
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 光気
(72)【発明者】
【氏名】榎本 真也
【テーマコード(参考)】
5H611
5H770
【Fターム(参考)】
5H611BB01
5H611BB06
5H611TT02
5H611UA04
5H770AA21
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770PA11
5H770PA42
5H770QA09
5H770QA28
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】モータ軸と直交する方向の幅を抑え、小型化が可能な電動車用インバータ内蔵モータを提供する。
【解決手段】本発明の電動車用インバータ内蔵モータは、3相モータとインバータとを備える。
そして、上記3相モータが、円筒形のハウジング内に配置され、
上記インバータが、3相別体のディスクリート半導体の組み合わせで構成され、
上記ディスクリート半導体が、上記ハウジング内のステータコアよりも軸方向外側に位置し、上記ハウジングの内周面に周方向に並んでインバータ回路を形成していることとしたため、モータ軸と直交する方向の幅を抑え、小型化が可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータとインバータとを備える電動車用インバータ内蔵モータであって、
上記3相モータが、円筒形のハウジング内に配置され、
上記インバータが、3相別体のディスクリート半導体の組み合わせで構成され、
上記ディスクリート半導体が、上記ハウジング内のステータコアよりも軸方向外側に位置し、上記ハウジングの内周面に周方向に並んでインバータ回路を形成していることを特徴とする電動車用インバータ内蔵モータ。
【請求項2】
上記ハウジングが、その外径側に冷却路を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動車用インバータ内蔵モータ。
【請求項3】
ディスクリート半導体のパッケージが、上記ハウジングにはんだで固定されていることを特徴とする請求項2に記載の電動車用インバータ内蔵モータ。
【請求項4】
軸方向に延びる溝が、上記ハウジングの内周面に周方向に複数並んで形成され、
上記溝の底面が平坦であり、その底面に上記ディスクリート半導体のパッケージが固定されていることを特徴とする請求項3に記載の電動車用インバータ内蔵モータ。
【請求項5】
上記溝は、周方向に切った断面形状が内部の幅よりも開口幅が狭い形状であり、
上記溝の開口幅が、上記ディスクリート半導体のパッケージの幅よりも狭いことを特徴とする請求項4に記載の電動車用インバータ内蔵モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車用インバータ内蔵モータに係り、更に詳細には、モータとインバータとが1つのハウジング内に配置された電動車用インバータ内蔵モータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)のバッテリには直流の電気が蓄えられているため、インバータを使って交流に変換した上で電流の周波数を調整し、モータの回転速度をコントロールする必要がある。
【0003】
3相モータの制御は、6つのパワートランジスタ(IGBT)とダイオードとを組み合わせて行う必要があり、用途に応じて使用するパワー半導体が決まっているため、予め複数の機能が組み合わされたパワー半導体モジュールが普及しており、このパワー半導体モジュールを用いるのが一般的である。
【0004】
特許文献1には、円筒形のハウジングの側壁に平坦な台座を配置し、この台座上にインバータをレイアウトしたモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3786356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハウジングの外側にインバータ用のスペースを確保する場合、特に後輪駆動用のモータでは、インバータをモータ上方にレイアウトすると、全体の高さが高くなって後部座席や荷室が狭くなり、また、インバータをモータの前方又は後方にレイアウトすると、車両中央に配置されたバッテリに干渉し易くなって、衝突安全性の確保が困難である。
【0007】
加えて、円筒形のハウジングに平坦な台座を配置すると、ハウジングの周方向両サイドに平坦な台座との間にデッドスペースが生じ、大型化してしまう。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータ軸と直交する方向の幅を抑え、小型化が可能な電動車用インバータ内蔵モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、パワー半導体モジュールを使用せずに、レイアウトの自由度が高い小さなディスクリート半導体を用いてハウジング内にインバータ回路を形成することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の電動車用インバータ内蔵モータは、3相モータとインバータとを備える。
そして、上記3相モータが、円筒形のハウジング内に配置され、
上記インバータが、3相別体のディスクリート半導体の組み合わせで構成され、
上記ディスクリート半導体が、上記ハウジング内のステータコアよりも軸方向外側に位置し、上記ハウジングの内周面に周方向に並んでインバータ回路を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レイアウトの自由度が高い小さなディスクリート半導体を用いることとしたため、ステータコアよりも軸方向外側のハウジング内にインバータ回路を形成することができ、モータ軸と直交する方向の幅を抑えた、小型化が可能な電動車用インバータ内蔵モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の電動車用インバータ内蔵モータのハウジング端部の例を示す斜視図である。
図2】溝の形状の例を示す、ハウジングの端部を周方向に切った断面図である。
図3】挿入実装用のディスクリート半導体の形状を示す図である。
図4】非絶縁内蔵パッケージ構造のディスクリート半導体をはんだ接合する際の層構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電動車用インバータ内蔵モータについて詳細に説明する。
本発明の電動車用インバータ内蔵モータは、1つのハウジング内に3相モータとインバータとを備える。
【0014】
上記ハウジング1は、図1に示すように、円筒形をしており、(図示しない)3相モータ(以下、単に「モータ」ということがある。)のステータコアの外周を覆う。上記ハウジングの軸方向端部14、すなわち、ステータコアを覆っているモータ部15よりも軸方向外側に上記モータを制御するインバータを備え、モータとインバータとを一体化する。
【0015】
上記3相モータを制御するインバータは、少なくともUVW相、P/N用の6個のパワートランジスタ(IGBT)と、ダイオードとの組み合わせで構成され、複数個のパワー半導体を必要とする。
【0016】
本発明のインバータは、予め上記パワー半導体を複数個組合わせたインバータ回路を1つのパッケージに集積化したパワーモジュールではなく、3相別体のディスクリート半導体2を組み合わせてインバータ回路を形成している。
【0017】
上記パワートランジスタ(IGBT)やダイオードなどのディスクリート半導体2は、1つの半導体素子で構成した、所謂、個別半導体であり、上記パワー半導体モジュールに比してその大きさが小さく、レイアウトの自由度が高い。
【0018】
本発明においては、このディスクリート半導体を用いてインバータ回路を形成することとしたため、ディスクリート半導体をハウジングの内周面に配置しても該ディスクリート半導体がハウジングの中心方向に大きく張り出すことがない。
【0019】
このため、ハウジングの軸方向端部の内周面に、ディスクリート半導体をハウジング内周面の形状に合わせて周方向に並べて配置することにより、モータロータやその軸とディスクリート半導体との干渉を避けることができ、インバータとモータとを1つのハウジング内で近接させて配置することができる。
【0020】
したがって、インバータとモータと電気的に接続するケーブルを少なくすることができるのに加えて、ハウジングの外側上部にインバータ用のスペースが設ける必要がないので、モータとインバータとを合わせたユニット全体の高さが低くなり、小型化することができるので後部座席や荷室を広くすることが可能である。
【0021】
上記ハウジングは、その円筒の外径側に冷却路13を備えることが好ましい。
本発明のインバータ内蔵モータは、ディスクリート半導体がハウジングの内周面に配置されているので、そのすぐ外径側に冷却路が配置されていることで、モータだけでなくディスクリート半導体をも冷却することができ、インバータ用の冷却路を別に設ける必要がないので小型化できる。
【0022】
上記冷却路は、冷却媒体が周方向に流れるらせん状であっても、軸方向に流れて端部で折り返すつづら折り状であってもよい。
【0023】
上記冷却路は、インナーハウジングに形成したらせん状又はつづら折り状の溝をアウターハウジングで覆った2重構造のハウジングとすることなどにより形成できる。
【0024】
ディスクリート半導体2は、そのパッケージを接着剤などでハウジングの内周面に固定してもよいが、パッケージ21をはんだ3でハウジングに固定することが好ましい。
【0025】
はんだは接着剤に比べて熱伝導率が高いので冷却効率が向上し、加えて、ディスクリート半導体のパッケージをハウジングの内周面に固定することで、パッケージの接合面全体が伝熱パスとなり、伝熱パスを拡大できるので、ディスクリート半導体で発生する熱がハウジングを介して冷却媒体に伝わり易くなって、冷却効率が向上する。
【0026】
また、ハウジングの内周面が弧を描いていると、上記パッケージとの接着面が小さくなって、伝熱パスが小さくなる。
【0027】
したがって、ハウジングの内周面に、軸方向に延びる平坦な底面を有する溝12を形成し、ハウジングの接合面の形状を上記パッケージの側面形状に合わせ、この溝の底面にディスクリート半導体のパッケージを固定することが好ましい。
【0028】
そして、1つの溝に1つのディスクリート半導体を配置することで、すべてのディスクリート半導体の伝熱パスを拡大でき、効率よく冷却することが可能になる。
【0029】
このような、軸方向に延びる底面が平坦な複数の溝は、それぞれディスクリート半導体を配置する箇所に形成され、ハウジングの内周面の周方向に並んで形成される。
【0030】
上記溝は、周方向に切った断面形状が内部の幅よりも開口幅が狭く、かつその開口幅が、そこに配置するディスクリート半導体のパッケージの幅よりも狭いことが好ましい。
【0031】
これにより、ディスクリート半導体がハウジングの中心方向に脱落することがなく、はんだ接合の信頼性を向上させることができる。
【0032】
上記開口幅が狭い溝の形状としては、ディスクリート半導体のパッケージが引っかかり脱落しなければよく、例えば、図2に示すような、台形や周方向両側から庇121が突出した形状などを挙げることができる。
【0033】
上記ディスクリート半導体のパッケージの幅よりも開口幅が狭い溝に配置できるディスクリート半導体としては、図3に示すような、端子がパッケージの一端面から出ている挿入実装用のディスクリート半導体を挙げることができる。
【0034】
このようなディスクリート半導体とハウジングとのはんだ接合は、溝の端から、上記ディスクリート半導体をその端子側から挿入し、そのディスクリート半導体と溝の底面との間の隙間にシート状のはんだを挿入してハウジングを加熱することで行うことができる。
【0035】
つまり、はんだは、溶融すると、その表面張力によって丸まって上記隙間を拡げる方向に膨らむので、ディスクリート半導体のパッケージの側面と溝の底面とを濡らすと共に、ディスクリート半導体を溝の開口部に押し付けるので、ディスクリート半導体が所望の位置にしっかりと固定され、接合の信頼性が向上する。
【0036】
上記ディスクリート半導体が溝の開口部に当接したときの、ディスクリート半導体のパッケージの側面と溝の底面とを隙間は、1mm以下であることが好ましい。
【0037】
隙間が1mm以下であることで、溶融はんだの表面張力によりディスクリート半導体が溝の開口部に押し付けられるため、上記隙間を調節することではんだ厚を調節でき、接合信頼性を向上させることができる。
【0038】
本発明においては、はんだ接合によって上記ディスクリート半導体の冷却効率を向上させるため、その端子のみを導通部とし、パッケージ側面の電極を非導通部として、ディスクリート半導体とハウジングとの導通を防止する。
【0039】
上記ディスクリート半導体は、絶縁体内蔵パッケージ構造であっても、非絶縁内蔵パッケージ構造であってもよい。
【0040】
絶縁体内蔵パッケージ構造のディスクリート半導体は、パッケージの表面にメッキ処理された金属電極を有し、そのままモータハウジングにはんだ接合することができる。
【0041】
これに対し、非絶縁内蔵パッケージ構造のディスクリート半導体は、パッケージの表面の外側で絶縁構造を取ってはんだ接合する必要がある。
【0042】
具体的には、図4に示す層構造となるように、銅層を表面及び裏面に有するセラミック板などの絶縁性のセラミック基板を2枚のシート状のはんだの間に挟み、上記銅層をはんだ接合することで、非絶縁内蔵パッケージ構造のディスクリート半導体とハウジングとの導通を防止することができる。
【0043】
また、上記パッケージ側面の電極は、はんだ付け性をよくするためにスズ(Sn)やニッケル(Ni)などでメッキが施された金属で形成されていることが多い。この電極は、パッケージの外装材に用いられるエポキシ樹脂などのプラスチックに比してはんだに対する濡れ性がよいので、上記パッケージの側面の電極を接合面としてハウジングに密着させることで冷却性を向上させることができる。
【0044】
一方、ハウジングが、アルミニウムで鋳造されている場合など、はんだ濡れ性がよくないものである場合は、上記ディスクリート半導体を接合する溝の平坦な底面を、スズ(Sn)やニッケル(Ni)などのはんだ濡れ性が優れる金属でメッキ処理を行う。
【0045】
これにより、ディスクリート半導体とハウジングの両方のはんだ濡れ性が向上するので、さらに、接合の信頼性が向上する。
【0046】
上記のように、本発明によれば、モータ軸と直交する方向の幅を抑えた、小型化が可能な電動車用インバータ内蔵モータを提供することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 ハウジング
12 溝
121 庇
13 冷却路
14 端部
15 モータ部
2 ディスクリート半導体
21 パッケージ
22 端子
23 電極
3 はんだ
4 めっき層
51 セラミック板
52 銅層
図1
図2
図3
図4