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特開2024-153333パラメータ調整装置及びパラメータ調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153333
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】パラメータ調整装置及びパラメータ調整方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20241022BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G05B13/02 A
G05B11/32 F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067152
(22)【出願日】2023-04-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】平野 寿明
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA30
5H004GB12
5H004HA07
5H004HB07
5H004KB01
5H004KB12
5H004KB32
5H004KC01
5H004KC31
5H004KC34
5H004LA12
(57)【要約】
【課題】少ない計算量で制御パラメータを決定する。
【解決手段】パラメータ調整装置30は、閉ループ制御システム1から、第1制御パラメータの初期値を設定したフィードバック補償器22と、第2制御パラメータの初期値を設定したフィードフォワード補償器23との制御により制御対象10に入力される入力データ及び制御対象10が出力する出力データを取得する取得部322と、入力データと、第2目標値と出力データとの偏差をフィードバック補償器22に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、第1制御パラメータに調整する第1調整部323と、入力データと、第2目標値をフィードフォワード補償器23に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、第2制御パラメータに調整する第2調整部324と、を有する。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得する取得部と、
前記入力データと、所定の応答特性に設計された規範モデル及び前記出力データに基づく第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整する第1調整部と、
前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整する第2調整部と、
を有するパラメータ調整装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記規範モデルの逆伝達関数に前記出力データを入力することにより、前記第2目標値を取得する、
請求項1に記載のパラメータ調整装置。
【請求項3】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、
前記フィードフォワード補償器は、前記制御対象のモデルの一次遅れ系伝達関数と前記規範モデルとを用いた伝達関数を含み、
前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値、前記積分器の積分ゲインの初期値及び前記微分器の微分ゲインの初期値を前記フィードバック補償器に設定し、前記第2制御パラメータの初期値として、前記一次遅れ系伝達関数のパラメータの初期値を前記フィードフォワード補償器に設定した前記閉ループ制御システムから前記入力データ及び前記出力データを取得する、
請求項1又は2に記載のパラメータ調整装置。
【請求項4】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、
前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値と前記積分器の積分ゲインの初期値とを前記フィードバック補償器に設定した前記閉ループ制御システムから、前記入力データ及び前記出力データを取得する、
請求項1又は2に記載のパラメータ調整装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記制御対象である前記車両の操舵部に入力される操舵角を前記入力データとして取得し、前記車両のヨーレートを前記出力データとして取得する、
請求項1又は2のいずれか一項に記載のパラメータ調整装置。
【請求項6】
コンピュータが実行する、
車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得するステップと、
前記入力データと、所定の応答特性に設計された規範モデル及び前記出力データに基づく第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整するステップと、
前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整するステップと、
を有するパラメータ調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ調整装置及びパラメータ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のパラメータ調整装置は、制御対象への入力データと制御対象の出力データと所望の応答特性を示す規範モデルとに基づいて、当該入力データを決定するためのフィードバック補償器及びフィードフォワード補償器の制御パラメータを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-112300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のパラメータ調整装置においては、規範モデルを含む評価関数の最適化問題を、非線形最適化手法を用いて解くことにより制御パラメータを決定する。このため、選択した最適化手法の複雑度が大きければ大きいほど、計算量が多くなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、少ない計算量で制御パラメータを決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るパラメータ調整装置は、車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得する取得部と、前記入力データと、所定の応答特性に設計された規範モデル及び前記出力データに基づく第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整する第1調整部と、前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整する第2調整部と、を有する。
【0007】
前記取得部は、前記規範モデルの逆伝達関数に前記出力データを入力することにより、前記第2目標値を取得してもよい。
【0008】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、前記フィードフォワード補償器は、前記制御対象のモデルの一次遅れ系伝達関数と前記規範モデルとを用いた伝達関数を含み、前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値、前記積分器の積分ゲインの初期値及び前記微分器の微分ゲインの初期値を前記フィードバック補償器に設定し、前記第2制御パラメータの初期値として、前記一次遅れ系伝達関数のパラメータの初期値を前記フィードフォワード補償器に設定した前記閉ループ制御システムから前記入力データ及び前記出力データを取得してもよい。
【0009】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値と前記積分器の積分ゲインの初期値とを前記フィードバック補償器に設定した前記閉ループ制御システムから、前記入力データ及び前記出力データを取得してもよい。
【0010】
前記取得部は、前記制御対象である前記車両の操舵部に入力される操舵角を前記入力データとして取得し、前記車両のヨーレートを前記出力データとして取得してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様に係るパラメータ調整方法は、コンピュータが実行する、車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得するステップと、前記入力データと、所定の応答特性に設計された規範モデル及び前記出力データに基づく第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整するステップと、前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少ない計算量で制御パラメータを決定するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るパラメータ調整システムSを説明するための図である。
図2】二自由度制御器20の構成を示す図である。
図3】パラメータ調整装置30の構成を示す図である。
図4】第1制御パラメータを調整するためのブロック図である。
図5】第2制御パラメータを調整するためのブロック図である。
図6】パラメータ調整装置30における処理シーケンスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<パラメータ調整システムSの概要>
図1は、本実施形態に係るパラメータ調整システムSを説明するための図である。図1に示すパラメータ調整システムSは、閉ループ制御システム1とパラメータ調整装置30とを備える。閉ループ制御システム1は、制御対象10と二自由度制御器20とを有する。パラメータ調整システムSは、パラメータ調整装置30が、制御対象10に入力された入力データと制御対象10が出力した出力データとに基づいて、二自由度制御器20が有する補償器の制御パラメータを調整するためのシステムである。
【0015】
閉ループ制御システム1は、例えば、車両に搭載された制御システムである。閉ループ制御システム1においては、車両が備える制御対象10の出力データと、出力データの目標値である第1目標値とに基づいて、二自由度制御器20が制御対象10への入力データを決定する処理を実行する。一例として、制御対象10が車両の操舵部である場合、入力データはタイヤの操舵角であり、出力データはヨーレートである。二自由度制御器20は、PID(Proportional-Integral-Differential)制御器を有するフィードバック補償器と、制御対象のモデルの一次遅れ系伝達関数と所定の応答特性に設計された規範モデルとを用いたフィードフォワード補償器とを有する。
【0016】
パラメータ調整装置30は、例えば、1又は複数の情報処理装置である。パラメータ調整装置30は、制御対象10から取得した一組の入力データ及び出力データに基づいて、二自由度制御器20が有するフィードバック補償器及びフィードフォワード補償器の制御パラメータを調整する処理を実行する。パラメータ調整装置30は、一組の入力データ及び出力データを二自由度制御器20から取得してもよい。一組の入力データ及び出力データは、一回の実験により得られたデータであり、例えば、二自由度制御器20を一定時間(例えば15秒)動作させることにより制御対象10に入力された複数の入力データと、当該複数の入力データに基づいて制御対象10が出力した複数の出力データである。制御パラメータは、例えば、フィードバック補償器が有するPID制御器のパラメータ、及びフィードフォワード補償器が有する一時遅れ系伝達関数のパラメータである。
【0017】
制御パラメータを最適値に調整するためには、対象の制御器の評価関数の出力値が最小になるように制御パラメータを決定することが考えられる。制御器の評価関数は、例えば、VRFT(Virtual Reference Feedback Tuning)又はFRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)等のデータ駆動制御を用いて設計できる。VRFTを用いた評価関数においては、最小二乗法等の線形最適化を用いることにより、評価関数の出力値を最小にするための制御パラメータを決定できる。一方で、FRITを用いた評価関数においては、ガウスニュートン法等の非線形最適化を用いることにより評価関数の出力値を最小にするための制御パラメータを決定する。このため、FRITを用いた評価関数の場合には、VRFTを用いた評価関数よりも計算の複雑度が大きいことにより計算量が大きくなる。
【0018】
そこで、パラメータ調整装置30は、VRFTに基づくフィードバック補償器の評価関数の出力値及びVRFTに基づくフィードフォワード補償器の評価関数の出力値が、それぞれ最小になるように制御パラメータを決定し、二自由度制御器20に設定する。このように動作することで、パラメータ調整装置30は、最小二乗法を用いて制御パラメータを調整できるため、非線形最適化を用いた制御パラメータの調整よりも計算量を少なくすることができる。
以下、二自由度制御器20及びパラメータ調整装置30の構成及び動作を詳細に説明する。
【0019】
<二自由度制御器20の構成>
図2は、二自由度制御器20の構成を示す図である。二自由度制御器20は、規範モデル21と、フィードバック補償器22と、フィードフォワード補償器23と、を有する。図2においては、入力データu(s)、出力データy(s)及び第1目標値r(s)が示されている。
【0020】
規範モデル21は、所定の応答特性に設計されたモデルであり、規範モデル21をTとすると、式(1)のように与えることができる。
【数1】
【0021】
フィードバック補償器22は、比例器と積分器と微分器とを含み、制御対象10の出力データy(s)及び出力データy(s)の第1目標値r(s)に基づいてフィードバック制御する。第1目標値r(s)は、車両が備えるECU(Electronic Control Unit)から取得してもよいし、パラメータ調整装置30から取得してもよい。フィードバック補償器22をCfb、フィードバック補償器22が有するPID制御器の比例ゲインをk、積分ゲインをk、微分ゲインをkとすると、フィードバック補償器22は、式(2)のように表現できる。
【数2】
以下の説明においては、比例ゲインK、積分ゲインK及び微分ゲインKを第1制御パラメータという。
【0022】
フィードフォワード補償器23は、制御対象10のモデルの一次遅れ系伝達関数と規範モデルTとを用いた伝達関数を含み、第1目標値r(s)に基づいてフィードフォワード制御する。制御対象10が車両の操舵部である場合、フィードフォワード補償器23(Cff)は、車速vと式(1)に示す規範モデルTと式(3)に示す車両モデルの一次遅れ系伝達関数Pとを用いて、式(4)のように表現できる。
【数3】
式(3)及び式(4)に示す変数T及び変数Kは、車両の重心位置から前輪までの距離l、重心位置から後輪までの距離l、前輪のコーナリングパワーK、後輪のコーナリングパワーK、ヨー慣性モーメントIを用いて、式(5)及び式(6)のように表される。
【数4】
以下の説明においては、変数Tと、変数K/車速vとを第2制御パラメータという。
【0023】
<パラメータ調整装置30の構成>
図3は、パラメータ調整装置30の構成を示す図である。パラメータ調整装置30は、記憶部31と制御部32とを有する。制御部32は、送信部321と取得部322と第1調整部323と第2調整部324とを有する。
【0024】
記憶部31は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体を有する。記憶部31は、制御部32が実行するプログラムを記憶している。記憶部31は、制御部32がフィードバック補償器22及びフィードフォワード補償器23の制御パラメータを調整するための各種の情報を記憶している。一例として、記憶部31は、第1制御パラメータの初期値と第2制御パラメータの初期値とを記憶している。
【0025】
制御部32は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサである。制御部32は、記憶部31に記憶されたプログラムを実行することにより、送信部321、取得部322、第1調整部323及び第2調整部324として機能する。制御部32は、1つのプロセッサで構成されていてもよいし、複数のプロセッサ又は1以上のプロセッサと電子回路との組み合わせにより構成されていてもよい。
以下、制御部32により実現される各部の構成を説明する。
【0026】
送信部321は、フィードバック補償器22に第1制御パラメータの初期値を送信することにより、第1制御パラメータの初期値を設定する。送信部321は、例えば、第1制御パラメータの初期値として、比例器の比例ゲインKの初期値、積分器の積分ゲインKの初期値及び微分器の微分ゲインKの初期値をフィードバック補償器22に設定する。
【0027】
送信部321は、フィードフォワード補償器23に第2制御パラメータの初期値を送信することにより、第2制御パラメータの初期値を設定する。送信部321は、例えば、第2制御パラメータの初期値として、一次遅れ系伝達関数Pのパラメータである「変数T」の初期値及び「変数K/車速v」の初期値をフィードフォワード補償器23に設定する。
【0028】
送信部321は、後述する第1調整部323が調整した第1制御パラメータをフィードバック補償器22に送信することにより、第1制御パラメータを最適値に更新する。送信部321は、後述する第2調整部324が調整した第2制御パラメータをフィードフォワード補償器23に送信することにより、第2制御パラメータを最適値に更新する。
【0029】
取得部322は、閉ループ制御システム1から、フィードバック補償器22とフィードフォワード補償器23との制御により制御対象10に入力される入力データ及び制御対象10が出力する出力データを取得する。具体的には、制御対象10が車両の操舵部である場合、取得部322は、車両の操舵部に入力される操舵角を入力データとして取得し、車両のヨーレートを出力データとして取得する。取得部322は、入力データ及び出力データを、閉ループ制御システム1が有する制御対象10又は二自由度制御器20のいずれか一方から取得する。
【0030】
取得部322は、例えば、送信部321が第1制御パラメータの初期値を設定したフィードバック補償器22と、送信部321が第2制御パラメータの初期値を設定したフィードフォワード補償器23との制御による制御対象10の入力データ及び出力データを取得する。制御対象10の入力データ及び出力データは、閉ループ制御システム1を一定時間動作させることにより二自由度制御器20から制御対象10に入力された複数の入力データ、及び当該複数の入力データに基づいて制御対象10が出力した複数の出力データ(いわゆる一組の入力データ及び出力データ)である。
【0031】
取得部322は、第1制御パラメータの初期値として、比例ゲインKの初期値と積分器の積分ゲインKの初期値をフィードバック補償器22に設定した閉ループ制御システムから、入力データ及び出力データを取得してもよい。すなわち、取得部322は、比例ゲインKの初期値と積分ゲインKの初期値を設定し、微分ゲインKの初期値を設定していないフィードバック補償器22の制御による入力データ及び出力データを取得してもよい。取得部322がこのように動作することで、閉ループ制御システム1は、入力データ及び出力データを算出するための計算量を少なくできる。
【0032】
また、取得部322は、規範モデルTの逆伝達関数1/Tに出力データを入力することにより、第2目標値を取得してもよい。第2目標値は、第1調整部323及び第2調整部324が制御パラメータの最適解を算出するために用いる、出力データの目標値である。
【0033】
第1調整部323は、VRFTに基づく第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、フィードバック補償器22の第1制御パラメータを、第1評価関数の最小値に対応する第1制御パラメータに調整する。第1評価関数は、入力データと、規範モデルT及び出力データに基づく第2目標値と出力データとの偏差をフィードバック補償器22に入力して得られた値と、の差を示す。
以下、第1調整部323が第1制御パラメータを調整する方法を詳細に説明する。
【0034】
図4は、第1制御パラメータを調整するためのブロック図である。図4においては、第2目標値r、入力データu、出力データyが示されている。第2目標値rは、出力データyを規範モデルTの逆伝達関数「1/T」に入力することで得られる。また、図4に示すフィードバック補償器22及び制御対象10は、閉ループ制御システム1が有するフィードバック補償器22及び制御対象10と同じである。
【0035】
第1評価関数J1は、プレフィルタFを用いて式(7)のように表現できる。第1評価関数J1の出力値が最小になるときに、フィードバック補償器22(式(7)に示すCfb)に含まれるPID制御器の各ゲインが最適な値になると考えられる。プレフィルタFは、一例として、式(8)のように与える。また、偏差eを式(9)のように与える。
【数5】
【0036】
そして、式(2)を変形して式(10)のように表し、式(7)の右辺に式(9)及び式(10)を用いて展開すると、式(11)のように表される。
【数6】
【0037】
ここで、疑似逆行列Aは式(12)のように表されるため、式(12)を用いて第1制御パラメータである比例ゲインk、積分ゲインk、微分ゲインkを式(13)のように求めることができる。
【数7】
第1調整部323がこのように動作することで、フィードバック補償器22の第1制御パラメータの最適値を、最小二乗法を用いて算出することができる。その結果、FRIT等の非線形最適化を用いた制御パラメータの調整よりも少ない計算量で第1制御パラメータの最適値を算出することができる。
以上、第1調整部323が第1制御パラメータを調整する方法を説明した。
【0038】
第2調整部324は、VRFTに基づく第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、フィードフォワード補償器23の第2制御パラメータを、第2評価関数の最小値に対応する第2制御パラメータに調整する。第2評価関数は、入力データと、第2目標値rをフィードフォワード補償器23に入力して得られた値との差を示す。
以下、第2調整部324が第2制御パラメータを調整する方法を詳細に説明する。
【0039】
図5は、第2制御パラメータを調整するためのブロック図である。図5においては、第2目標値r、入力データu、出力データyが示されている。図5に示すフィードフォワード補償器23及び制御対象10は、閉ループ制御システム1が有するフィードバック補償器22及び制御対象10と同じである。
【0040】
第2評価関数J2は、式(14)のように表現できる。第2評価関数J2の出力値が最小になるときに、フィードフォワード補償器23(式(14)に示すCff)に含まれる車両モデルの一次遅れ伝達関数のパラメータが最適な値になると考えられる。
【数8】
【0041】
式(4)を変形して式(15)のように表し、式(14)の右辺に式(15)を用いて展開すると、式(16)のように表される。
【数9】
【0042】
そして、式(12)及び式(16)から、疑似逆行列を用いて式(17)のように第2制御パラメータである「変数T」及び「変数K/車速v」を求めることができる。
【数10】
第2調整部324がこのように動作することで、フィードフォワード補償器23の第2制御パラメータの最適値を、最小二乗法を用いて算出することができる。その結果、非線形最適化を用いた制御パラメータの調整よりも少ない計算量で第2制御パラメータの最適値を算出することができる。
以上、第2調整部324が第2制御パラメータを調整する方法を説明した。
【0043】
<パラメータ調整装置30における処理シーケンス>
図6は、パラメータ調整装置30における処理シーケンスの例を示す図である。図6に示す処理シーケンスは、パラメータ調整装置30が第1制御パラメータ及び第2制御パラメータを変更する動作を示す。
【0044】
第1調整部323及び第2調整部324は、一時遅れ系の規範モデルTをプレフィルタFに設定する(S11)。送信部321は、記憶部31に記憶された第1制御パラメータの初期値をフィードバック補償器22に設定し(S12)、記憶部31に記憶された第2制御パラメータの初期値をフィードフォワード補償器23に設定する(S13)。取得部322は、閉ループ制御システム1から、一組の入力データ及び出力データを取得する(S14)。
【0045】
第1調整部323は、最小二乗法を用いることにより、第1評価関数J1の出力値を最小値にする第1制御パラメータを算出する(S15)。第2調整部324は、最小二乗法を用いることにより、第2評価関数J2の出力値を最小値にする第2制御パラメータを算出する(S16)。送信部321は、第1調整部323が算出した第1制御パラメータをフィードバック補償器22に送信し、第2調整部324が算出した第2制御パラメータをフィードフォワード補償器23に送信することにより、第1制御パラメータ及び第2制御パラメータを変更する(S17)。
【0046】
<パラメータ調整装置30による効果>
以上説明したように、パラメータ調整装置30は、車両の制御対象10と、制御対象10の出力データ及び出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器22と、第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器23と、を有する閉ループ制御システム1から、フィードバック補償器22の第1制御パラメータの初期値を設定したフィードバック補償器22と、フィードフォワード補償器23の第2制御パラメータの初期値を設定したフィードフォワード補償器23との制御により制御対象10に入力される入力データ及び制御対象が出力する出力データを取得する取得部322を有する。
【0047】
そして、パラメータ調整装置30が有する第1調整部323が、入力データと、所定の応答特性に設計された規範モデル21及び出力データに基づく第2目標値と出力データとの偏差をフィードバック補償器22に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数J1の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、第1評価関数J1の最小値に対応する第1制御パラメータに調整し、パラメータ調整装置30が有する第2調整部324が、入力データと、第2目標値rをフィードフォワード補償器23に入力して得られた値との差を示す第2評価関数J2の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、第2評価関数J2の最小値に対応する第2制御パラメータに調整する。
【0048】
パラメータ調整装置30がこのように構成されることで、線形最適化手法である最小二乗法を用いて二自由度制御器20の制御パラメータを更新することができるため、非線形最適化を用いたパラメータ制御よりも計算量を少なくすることができる。その結果、例えば、FRITを用いたパラメータ制御よりも少ない計算量で、車両の操舵角及びヨーレートを制御することができる。さらに、パラメータ調整装置30においては、一組の入力データ及び出力データ(すなわち1回の実験データ)に基づいて制御パラメータを算出することができるため、走行中に制御パラメータを算出することを防げる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0050】
1 閉ループ制御システム
10 制御対象
20 二自由度制御器
21 規範モデル
22 フィードバック補償器
23 フィードフォワード補償器
30 パラメータ調整装置
31 記憶部
32 制御部
321 送信部
322 取得部
323 第1調整部
324 第2調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得し、所定の応答特性に設計された規範モデルの逆伝達関数に前記出力データを入力することにより第2目標値を取得する取得部と、
前記入力データと、前記第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整する第1調整部と、
前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整する第2調整部と、
を有するパラメータ調整装置。
【請求項2】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、
前記フィードフォワード補償器は、前記制御対象のモデルの一次遅れ系伝達関数と前記規範モデルとを用いた伝達関数を含み、
前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値、前記積分器の積分ゲインの初期値及び前記微分器の微分ゲインの初期値を前記フィードバック補償器に設定し、前記第2制御パラメータの初期値として、前記一次遅れ系伝達関数のパラメータの初期値を前記フィードフォワード補償器に設定した前記閉ループ制御システムから前記入力データ及び前記出力データを取得する、
請求項1に記載のパラメータ調整装置。
【請求項3】
前記フィードバック補償器は、比例器と積分器と微分器とを含み、
前記取得部は、前記第1制御パラメータの初期値として、前記比例器の比例ゲインの初期値と前記積分器の積分ゲインの初期値とを前記フィードバック補償器に設定した前記閉ループ制御システムから、前記入力データ及び前記出力データを取得する、
請求項1に記載のパラメータ調整装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記制御対象である前記車両の操舵部に入力される操舵角を前記入力データとして取得し、前記車両のヨーレートを前記出力データとして取得する、
請求項1に記載のパラメータ調整装置。
【請求項5】
コンピュータが実行する、
車両の制御対象と、前記制御対象の出力データ及び前記出力データの第1目標値に基づいてフィードバック制御するフィードバック補償器と、前記第1目標値に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード補償器と、を有する閉ループ制御システムから、前記フィードバック補償器の第1制御パラメータの初期値を設定した前記フィードバック補償器と、前記フィードフォワード補償器の第2制御パラメータの初期値を設定した前記フィードフォワード補償器との制御により前記制御対象に入力される入力データ及び前記制御対象が出力する出力データを取得し、所定の応答特性に設計された規範モデルの逆伝達関数に前記出力データを入力することにより第2目標値を取得するステップと、
前記入力データと、前記第2目標値と前記出力データとの偏差を前記フィードバック補償器に入力して得られた値と、の差を示す第1評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第1評価関数の最小値に対応する前記第1制御パラメータに調整するステップと、
前記入力データと、前記第2目標値を前記フィードフォワード補償器に入力して得られた値との差を示す第2評価関数の最小値を、最小二乗法を用いて求めることにより、前記第2評価関数の最小値に対応する前記第2制御パラメータに調整するステップと、
を有するパラメータ調整方法。