(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153339
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】水耕栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20241022BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20241022BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067160
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】523144221
【氏名又は名称】TSホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】都築 力
(72)【発明者】
【氏名】国枝 詩織
(72)【発明者】
【氏名】西村 有絵
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB11
2B314MA12
2B314MA52
2B314PB02
2B314PD44
(57)【要約】
【課題】栽培期間を短くする水耕栽培方法を提供する。
【解決手段】水耕栽培方法は、植物の種子が発根するまでの液温を20℃~26℃に保持して発根を促進させる低液温保持期間と、前記種子が発根した後の液温を29℃~31℃に保持する高液温保持期間を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の種子が発根するまでの液温を20℃~26℃に保持して発根を促進させる低液温保持期間と、
前記種子が発根した後の液温を29℃~31℃に保持する高液温保持期間を含む水耕栽培方法。
【請求項2】
前記低液温保持期間における液温は水温であり、前記低液温保持期間では温度調整された水を流すことにより、前記液温を20℃~26℃に保持する請求項1に記載の水耕栽培方法。
【請求項3】
前記高液温保持期間は、定植する前の第1期間と、定植してから収穫する迄の第2期間を含む請求項2に記載の水耕栽培方法。
【請求項4】
前記高液温保持期間は、温度調整された水を流すことにより、前記液温を29℃~31℃に保持する請求項2に記載の水耕栽培方法。
【請求項5】
前記植物が、葉菜類である請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の水耕栽培方法。
【請求項6】
前記植物は、葉菜類のレタスである請求項5に記載の水耕栽培方法。
【請求項7】
前記植物は、葉菜類の小松菜である請求項5に記載の水耕栽培方法。
【請求項8】
前記植物は、葉菜類の水菜である請求項5に記載の水耕栽培方法。
【請求項9】
前記植物は、葉菜類のチンゲンサイである請求項5に記載の水耕栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物工場では、工場内に水耕栽培装置を配置して、光・熱及び空気環境を制御することにより、野菜等の植物を計画的に生産することができる。野菜等の植物の水耕栽培方法では、光・熱及び空気環境を制御の他、水温管理等を行うことも公知である(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1の段落0035~0037では、「タネマキモード」及び「ハツガモード」においては、1日中、水温を20℃にするとともに、「イクセイモード」においては、昼及び夜の水温を20℃及び約15℃でそれぞれ管理するとしている。ここで、「タネマキモード」は、種まきから発芽までの状態を管理する制御モードとしている。なお、このモードの期間内には、種まき後における発根を含む。また、「ハツガモード」は、発芽してから根が所定の長さに伸びるまでの状態を管理する制御モードとしている。「イクセイモード」は、根が伸びてから収穫までの状態を管理する制御モードとしている。
【0004】
特許文献2の段落0071では、「液温は栽培期間中常に一定である必要はなく、20~30℃、好ましくは23~27℃の範囲内で変動してもよく、……栽培期間中に期間を区切った間隔で変動するように制御されていてもよい。」としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-6862号公報
【特許文献2】特開2017-60441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された水温管理は、「ハツガモード」では1日中、水温を20℃とするとともに「イクセイモード」では、昼及び夜の水温を20℃及び15℃とするため、ハツガ後の成長スピードを早くすることが期待できない問題がある。
【0007】
特許文献2は、従来の一般的な温度管理について述べている。従来の液温に関する温度管理では、播種してから収穫するまでの栽培期間を短縮するための、液温管理については開示されていない。
【0008】
植物工場においては、播種をしてから収穫までの栽培期間が長くなるほど生産コストが上がるため、生産コストの低減のために、栽培期間の短縮化が望まれている。
本発明の目的は、上記課題を解決して、栽培期間を短くする水耕栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、本発明の水耕栽培方法は、植物の種子が発根するまでの液温を20℃~26℃に保持して発根を促進させる低液温保持期間と、前記種子が発根した後の液温を29℃~31℃に保持する高液温保持期間を含むものである。本明細書では、液温は、水温または、水で希釈された培養液の温度を含む。
【0010】
また、前記低液温保持期間における液温は水温であり、前記低液温保持期間では温度調整された水を流すことにより、前記液温を20℃~26℃に保持してもよい。
また、前記高液温保持期間は、定植する前の第1期間と、定植してから収穫する迄の第2期間を含むものとしてもよい。
【0011】
また、前記高液温保持期間は、温度調整された水を流すことにより、前記液温を29℃~31℃に保持してもよい。
また、前記植物が、葉菜類であってもよい。
【0012】
また、前記植物が、レタス、小松菜、水菜、或いはチンゲンサイであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、栽培期間を短くすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は比較例1及び比較例2における1~11日目の発根率及び発芽率の表、(b)は実施例1及び実施例2における1~11日目の発根率及び発芽率の表である。
【
図2】比較例3及び比較例4における1~11日目の発根率及び発芽率の表である。
【
図3】実施例3における1~5日目の発根率及び発芽率の表である。
【
図4】実施例4~実施例6における1~5日目の発根率及び発芽率の表である。
【
図5】(a)は実施例7及び実施例8における1~3日目の発根率及び発芽率の表、(b)は比較例5及び比較例6における1~3日目の発根率及び発芽率の表である。
【
図6】比較例7、比較例8及び実施例9の平均重量、最大重量、葉の平均枚数の表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。
本実施形態における水耕栽培方法は、植物工場、特に、閉鎖型植物工場で行われることが好ましい。閉鎖型植物工場は、太陽光が入らず、外気が入らない閉じた空間を有する工場であって、例えば、クリーンルームを有する。
【0016】
(水耕栽培方法の方式について)
水耕栽培方法に使用する水耕栽培装置は、NFT(Nutrient Film Technique)方式、或いはDFT(Deep Flow Technique)方式のいずれであってもよい。
【0017】
DFT方式は、水深が5cm程度の栽培ベッドに培養液または水を溜めて、植物の種子を保持した発泡製の培地パネルを浮かべることにより、前記植物の栽培ができる。この方式は、前記培養液または水の容量を多くできるとともに安定した栽培が可能であるため、好ましい。前記培養液または水は、間断で供給されるとともに、オーバーフロー分の培養液または水は回収されて、再び前記栽培ベッドに供給される。
【0018】
NFT方式は、勾配を持つ栽培ベッドに培養液または水を常時流すとともに、回収して循環が行われる方式である。培養液量または水量はDFT方式に比べ少ない利点がある。使用する培養液または水の量が少ないため、その温度管理も容易となる利点もある。また、根が水没しないため、根により空気中の酸素を吸収可能となっている。
【0019】
DFT方式、及びNFT方式のいずれの水耕栽培装置も、循環させるために回収した培養液または水を、ヒーター等の加熱手段、及び、加熱後の培養液または水の温度を検出する温度センサを有する温度管理機を備えることが好ましい。前記温度管理機は、水の温度、または水で希釈された培養液の温度を、後述する栽培期間において、予め設定された温度に制御する。なお、液温の保持は、温度調整された水を流す方法以外の方法であってもよい。
【0020】
(培養液)
培養液は、植物の栽培に適した成分を含有するものであれば特に限定するものではない。培養液には、通常、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、ホウ素、銅、亜鉛、モリブデン及び塩素より選択される複数の元素が含まれる。培養液の供給は、発芽した後の植物の育成を行うために、植物の種子が発芽が確認された際に、行われる。
【0021】
(光源)
植物が光合成をするための光源は、例えば、LED(発光ダイオード)、蛍光灯、白熱電球、ナトリウムランプ、水銀灯、メタルハライドランプ、プラズマランプ、或いは無電極ランプ等の人工光源が用いられる。発光色は特に限定されないが、白色光であったり、赤や青の波長の光源を組み合わせてもよい。
【0022】
点灯時間は、所定の時間内で連続点灯する。例えば、6時~22時までは連続点灯を行った後、22時から翌日の6時までは消灯する等を、栽培期間中行えば良い。前記点灯時間は、例示であって、限定するものではない。
【0023】
光源で植物を照射する際、その光合成有効光量子束密度は150μmolm-2s-1以上であることが好ましい。光合成有効光量子束密度の上限値は特に限定するものではない。ここで、光合成有効光量子束密度は、単位時間に単位面積を通過する光量子のうち、光合成に有効な400nm~700nmまでの波長域の光量子の数を意味する。
【0024】
(栽培期間の液温)
栽培期間は、低液温保持期間と、高液温保持期間に分けることができる。低液温保持期間は、前記栽培ベッドに水を供給するため、水温(液温)を20℃~26℃に保持する期間である。この期間は、播種された植物の種子が発根するまでの期間であって、発根を促進させる期間である。この温度は、前記温度管理機の制御により保持される。
【0025】
高液温保持期間は、液温を29℃~31℃に保持する期間である。この液温は、31℃が好ましいが、前述の温度範囲であればよい。この温度は、前記温度管理機の制御により保持される。また、高液温保持期間は、植物の発根後の発芽を促すとともに定植されるまでの植物を育成する第1期間と、定植してから収穫する迄の植物を育成する第2期間を含んでいてもよい。
【0026】
第1期間は、前記栽培ベッドに水を供給するため、水温または、水で希釈した培養液の温度(液温)を29℃~31℃に保持する期間となる。また、第2期間は、前記水で希釈された前記培養液の温度(液温)を29℃~31℃に保持する期間となる。
【0027】
(室温)
室温は、液温に悪影響がでない温度が好ましく、例えば、常温であればよい。本実施形態では、20℃としている。
【0028】
(植物について)
本発明の植物の種子は、葉菜類が好ましい。葉菜類の植物としては、レタス、小松菜、水菜、チンゲンサイ、ホウレンソウ、サラダナ、ルッコラ、ビート、春菊、白菜等がある。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
<1.実施例1、実施例2、比較例1~比較例4>
(実施例1、実施例2の栽培条件)
実施例1の植物として、サニーレタス(レッドファイヤー(商品名):タキイ種苗(株))を使用するとともに、実施例2の植物として小松菜(タキイ種苗(株))を使用した。
【0030】
各植物の栽培数を11個にするとともに、栽培日数を定植前の11日間にした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした状態にした。
水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製等の培地パネルに、植物の種子をセットし、前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を20℃で保持した。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった。水温を20℃で保持する期間は、低液温保持期間である。
【0031】
そして、実施例1及び実施例2とも、種子が発根した際に、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより水温31℃で保持するとともに、前記栽培ベッド内の水を循環することにより、流水とした。なお、低液温保持期間中の前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった。水温を31℃で保持する期間は、高液温保持期間である。
【0032】
なお、この水温を20℃から31℃に上げるタイミングは、種苗会社が公開している発芽率に対して80%以上発根したときとした。高液温保持期間中の前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった。
図1(b)では、実施例1及び実施例2の「2日目」において、20℃から31℃に上げるタイミングとしている。
【0033】
LEDライトは、JAPANマグネット(150μmolm-2s-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO2環境は、約1500ppmとし、栽培期間中は培養液を使用せずに水のみで行った。
【0034】
(比較例1、比較例2の栽培条件)
比較例1の植物として、サニーレタス(レッドファイヤー(商品名):タキイ種苗(株))を使用するとともに、比較例2の植物として小松菜(タキイ種苗(株))を使用した。
【0035】
各植物の栽培数を11個にするとともに、栽培日数を11日間にした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした状態にする。
水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製等の培地パネルに、植物の種子をセットし、前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を20℃で保持した。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均19℃)。
【0036】
LEDライトは、JAPANマグネット(150μmolm-2s-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO2環境は、約1500ppmとし、栽培期間中は水のみで行い、培養液を使用せずに行った。
【0037】
(比較例3、比較例4の栽培条件)
比較例3及び比較例4では、水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製等の培地パネルに、植物の種子をセットし、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を31℃で保持した。これとともに、前記栽培ベッド内の水を循環することにより、流水とした。
【0038】
なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった。他の栽培条件は、比較例1及び比較例2と同じとした。
(発芽率:実施例1、実施例2と比較例1~比較例4との比較)
図1(a)は、比較例1及び比較例2において播種した1日目から11日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
【0039】
図1(b)は、実施例1及び実施例2において播種した1日目から11日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
図2は、比較例3及び比較例4において播種した1日目から11日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
【0040】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、比較例1及び実施例1のサニーレタスの種子は、「7日目」で発芽率が100%になるとともに、発根及び発芽のタイミングもほぼ同時となった。
図2に示す比較例4の小松菜は、発芽しない種子もあった。また、
図2に示す比較例3及び比較例4では、発芽のタイミングにバラつきがみられる。
【0041】
なお、従来から、25℃以上の高温では、発芽率の低下と種子の休眠を誘発するものとされている。従って、比較例3及び比較例4では、「4日目」以降では、発根していないものがいくつか見られた。
【0042】
(発根後の成長スピード:実施例1、実施例2と比較例1~比較例4との比較)
図1(a)の比較例1及び比較例2の水温20℃は、播種から発芽するまでの水温として従来から推奨されている温度である。
【0043】
一方、実施例1及び実施例2は、発根するまでは、比較例1及び比較例2と同栽培条件であるが、水温31℃にした「2日目」以降の「4日目」の発芽率を見ると、比較例1及び比較例2に比して明らかに成長スピードが速くなっていることが確認できた。すなわち、実施例1及び実施例2における高液温保持期間では、成長スピードが促進されていることが分かる。
【0044】
また、実施例1及び実施例2では、栽培ベッド内の水温を一定に保持するため、高液温保持期間中、ヒータポンプを入れて水流を発生させている。これにより、栽培ベッド内の水の溶存酸素が動くため、さらに、成長スピードが促進されているものと推測される。なお、公知の文献によれば、水温が高温の場合、溶存酸素不足により、根腐れを起こすことが知られているが、本実施例においては、根腐れは、生じていないことが確認された。
【0045】
<2.実施例3>
(実施例3の栽培条件)
実施例3の植物として、サニーレタス(レッドファイヤー(商品名):タキイ種苗(株))を使用した。栽培数を11個にするとともに、栽培日数を、定植前の6日間にした。
【0046】
温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした。水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製の培地パネルに植物の種子をセットし、前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を26℃で保持した。なお、低液温保持期間中の前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均25℃)。水温を26℃で保持する期間は、低液温保持期間である。
【0047】
そして、実施例3は、種子が発根した際に、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより水温31℃で保持するとともに、前記栽培ベッド内の水を循環することにより、流水とした。なお、高液温保持期間中の前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均30℃)。水温を31℃で保持する期間は、高液温保持期間である。
【0048】
なお、
図3の「1日目」において、種苗会社が公開している発芽率に対して種子が80%以上発根したため、水温を26℃から31℃に上げた。LEDライトは、JAPANマグネット(150μmolm
-2s
-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO
2環境は、約1500ppmとし、栽培期間中は培養液を使用せずに水のみで行った。
【0049】
(発根後の成長スピード:実施例3と実施例1との比較)
図3は、実施例3において播種した1日目から5日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
【0050】
サニーレタスの実施例3では、「1日目」で、発根率が100%となった。サニーレタスの実施例1では、「1日目」は、発根率が0%であるため、実施例3の方が、発根が速いことが確認された。また、高液温保持期間の「4日目」の発芽率について、実施例1と実施例3とを比較すると、実施例3が「4日目」で90.9%で、実施例1が81.8%となっていることにより、実施例3の方が成長スピードが促進されていることが分かる。
【0051】
このことから、低液温保持期間中の水温20℃の実施例1よりも水温26℃とした実施例3の方が発根後の成長スピードが速くなることが確認された。このことから、総合的に栽培期間の短縮化を期待することができることになる。
【0052】
<3.実施例4~実施例6>
(実施例4~実施例6の栽培条件)
実施例4、実施例5及び実施例6の植物として、小松菜、水菜及びチンゲン菜(いずれも:タキイ種苗(株))を使用した。
【0053】
各植物の栽培数を11個にするとともに、栽培日数を定植前の10日間にした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした。
水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製の培地パネルに、植物の種子をセットし、前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を26℃で保持した。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均25℃)。水温を26℃で保持する期間は、低液温保持期間である。
【0054】
そして、実施例4~実施例6とも、種子が発根した際に、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより水温31℃で保持するとともに、前記栽培ベッド内の水を循環することにより、流水とした。なお、高液温保持期間中の前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均30℃)。水温を31℃で保持する期間は、高液温保持期間である。
【0055】
なお、この水温を26℃から31℃に上げるタイミングは、種苗会社が公開している発芽率に対して80%以上発根したときとした。
図4では、実施例4及び実施例5は、「1日目」において、26℃から31℃に上げるタイミングとしている。また、実施例6は、「2日目」において、26℃から31℃に上げるタイミングとしている。
【0056】
LEDライトは、JAPANマグネット(150μmolm-2s-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO2環境は、約1500ppmとし、栽培期間中は培養液を使用せず水のみで行った。
【0057】
(発根率、及び発根後の成長スピード:実施例4~実施例6)
図4は、実施例4~実施例6において播種した1日目から5日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
【0058】
図4の実施例4の小松菜は「2日目」で発根率が100%であるのに対して、
図1(b)の実施例2は、「7日目」で100%となっている。また、実施例4は、「4日目」で発芽率が「100%」であるのに対して、実施例2では「7日目」で「100%」である。このことから、発根率及び発根後の成長スピードは、実施例2の場合より、低液温保持期間の水温を26℃としたほうが、速くなることが分かる。
【0059】
また、一般的に発芽適温については、15℃~25℃のうち、より低温の方が良いとされている。しかし、実施例4~実施例6の「2日目」及び「3日目」で分かるように、26℃付近で発芽を促した方が、発芽を早くできることが示されている。
【0060】
このことは、水温が26℃以上であると、根の呼吸が盛んになるとともに光合成をたくさん行うため、成長スピードが早くなることが推察される。また、葉菜の多品種に亘って、この効果が期待できる。このことから、栽培期間の短縮化が期待できる。また、本実施例においては、根腐れは、生じていないことが確認された。
【0061】
<4.実施例7、実施例8、比較例5、比較例6>
実施例7、実施例8、比較例5及び比較例6は、種子が発根してから発芽するまでの水温を比較するためのものである。実施例7、実施例8、比較例5及び比較例6により、播種された種子の発根のタイミングを揃えるための水の適温の例が示される。
【0062】
(実施例7、実施例8の栽培条件)
実施例7の植物として、サニーレタス(レッドファイヤー(商品名):タキイ種苗(株))を使用するとともに、実施例8の植物としてリーフレタス(タキイ種苗(株))を使用した。
【0063】
各植物の栽培数を100個にするとともに、栽培日数を4日間にした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした状態にした。
水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製の培地パネルに、植物の種子をセットし、前記栽培ベッド内の水の水温(液温)を、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより26℃で保持した。前記栽培ベッド内の水を循環することにより、流水とした。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均25℃)。水温を26℃で保持する期間は、低液温保持期間である。
【0064】
LEDライトは、JAPANマグネット(150μmolm-2s-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO2環境は、約1500ppmとし、栽培期間中は培養液を使用せずに水のみで行った。
【0065】
(比較例5、比較例6の栽培条件)
比較例5の植物として、サニーレタス(レッドファイヤー(商品名):タキイ種苗(株))を使用するとともに、比較例6の植物としてリーフレタス(タキイ種苗(株))を使用した。各植物の栽培数を100個にするとともに、栽培日数を4日間にした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室温を20℃にした状態にする。
【0066】
水耕栽培方法は、水温を31℃で保持する以外の栽培条件は、実施例7、実施例8と同じとした。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温よりも1℃低くなった(培地平均30℃)。
【0067】
(発根率、及び発芽率:実施例7、実施例8、比較例5、比較例6)
図5(a)は、実施例7及び実施例8において播種した1日目から3日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
【0068】
図5(b)は、比較例5及び比較例6において播種した1日目から3日目を経過する迄の発根率及び発芽率を表で表したものである。
サニーレタスの発根率を実施例7と比較例5で比較すると、「3日目」では実施例7が91%であるのに対して、比較例5では15%と、発根率が極端に悪くなっている。このため、発根のタイミングを揃えるには、実施例7の水温26℃の方が、好ましいことが分かる。
【0069】
リーフレタスの実施例8と比較例6とを比較すると、実施例8の方が、「1日目」で98%、「2日目」で100%の発根率となった。これに対して比較例6では「1日目」で79%、「2日目」で98%、「3日目」で99%と徐々に発根率が上昇しているが、発根のタイミングを揃えるには、実施例8の水温26℃の方が、好ましいことが分かる。
【0070】
多数個播種した種子の発根のタイミングを揃えることができれば、多数の種子の発芽の成長スピードも前述のように早まることから、総合的に栽培期間の短縮化を期待することができることになる。
【0071】
<5.比較例7、比較例8及び実施例9>
実施例9と比較例7により、同じ栽培期間で栽培した際の収量の比較の結果が示される。また、実施例9と比較例8により、収量を同じ程度とした場合に、栽培期間の短縮化についての結果が示される。
【0072】
(比較例7、比較例8及び実施例9の栽培条件:共通事項)
比較例7、比較例8及び実施例9の植物として、リーフレタス(グリーンウェーブ(商品名):タキイ種苗(株))を使用した。
【0073】
各植物の栽培数は、播種では24個にした。また、定植から収穫までの株数は、15株とした。なお、定植は、播種してから10日後に行った。定植間隔は170mmピッチ以上とした。温度調整が可能なクリーンルームにおいて、室内の温度を20℃に保持するように送風を行うとともにその温度を保持するようにした。
【0074】
水耕栽培方法は、DFT方式とし、ウレタンスポンジ製等の培地パネルに植物の種子をセットし、栽培ベッド内の水または培養液を循環した。すなわち、播種してから本葉が8割未満に達する前までは、水を循環させるとともに、本葉が8割以上となった場合には、水で希釈した下記の培養液を循環させた。
【0075】
(培養液の成分)
硝酸カルシウム(43%)、硝酸カリウム(12.6%)、硫酸マグネシウム(20.3%)、リン酸二水素カリウム(13%)、その他(鉄、銅、マンガン等を含む化合物成分、11.1%)
循環させる水または培養液における比較例7、比較例8及び実施例9の液温については、後述する。
【0076】
LEDライトは、JAPANマグネット(275μmolm-2s-1)を使用した。また、06:00~22:00を点灯時間とするとともに、22:00~06:00を消灯時間とした。CO2環境は、約1500ppmとした。
【0077】
(比較例7、比較例8及び実施例9の栽培条件:液温と栽培日数)
比較例7、比較例8及び実施例9は、同日に播種した。
そして、比較例7では、播種日から収穫日までを35日とするとともに、液温を20℃で保持した。比較例8では、播種日から収穫日までを(35+α)日とするとともに、液温を20℃で保持した。なお、比較例8の収穫日は、後述する実施例9で収穫した株と同程度の葉の枚数になった日とした。αは、実施例9と比較例8との収穫日との差である。
【0078】
実施例9では、播種から発根までを水温(液温)26℃で保持するとともに、発根した後から収穫日までの期間中、水温または水で希釈した培養液の温度(液温)を31℃で保持した。前記液温は、ヒータポンプ(300W)を温度管理機で制御することにより行った。なお、前記培地パネルの表面部分は、空気に触れているため、水温26℃のとき、培地平均は1℃低い、25℃になるとともに、水温31℃のときは、培地平均は1℃低い30℃となった。水温26℃で保持する期間は、低液温保持期間である。また、水温31℃で保持する期間は、高液温保持期間である。
【0079】
ここで、実施例9において、液温26℃で保持する期間は、低液温保持期間となる。また、実施例9において、液温31℃で保持する期間は、高液温保持期間となる。高液温保持期間には、発根後の発芽を促すとともに定植されるまでの第1期間と、定植してから収穫するまでの植物を育成する第2期間を含む。
【0080】
(実施例9と比較例7との比較)
図6に示すように、実施例9における播種から35日目の5株の平均重量は246.36g、最大重量303.68gとなった。一方、比較例7における播種から35日目の5株の平均重量は165.97g、最大重量220.82gとなった。葉の平均枚数は、実施例9と比較例7は同数の25枚であった。
【0081】
この両者の比較の結果、実施例9の方が比較例7よりも、平均重量及び最大重量とも収穫量が大きいことが分かる。
(実施例9と比較例8との比較)
図6に示すように、比較例8の5株の平均重量、及び最大重量は、実施例9で収穫した株の平均枚数25と同程度の葉の枚数28のときに収穫したときのものである。なお、比較例8では、35日を経過してα=4日目で、収穫した。比較例8では、葉の枚数は、実施例9よりも若干多いが、葉の大きさは小さく、張りのない葉も存在した。
【0082】
比較例8の平均重量は245.91g、最大重量は297.14gであった。従って、比較例8において、平均重量と、最大重量を、実施例9と同程度の大きさの株にするためには、実施例9よりも栽培期間を4日ほど延長する必要があることが分かる。この結果、比較例8では、4日分のランニングコストを要する。逆に言うと、実施例9では、4日分のランニングコストのカットができることになる。
【0083】
このことは、下記のような利点がある。収穫するまでの栽培期間が、比較例8の常温栽培法で39日,実施例9における栽培法では35日である。このことから、実施例9における栽培の場合、前記常温栽培より約7ヶ月で1サイクル多く栽培できる。この結果、年間の収量(収益)に大きく貢献することになる。そして、年間の収量(収益)が増えると、設備の簿価が早くなる。一般的に植物工場はイニシャルコストが高く、黒字経営になるまで時間がかかることが懸念事項とされている。しかし、収穫サイクルを早めることができれば、設備投資にも有利である。
【0084】
また、栽培期間が長いほど、リスクも大きくなる。例えば停電による水の供給が止まってしまうことや、栽培植物が病気(根腐れなど)になり他の植物に感染してしまうことなどが挙げられる。このような点からも、栽培期間の短縮は植物工場運営するにあたり非常に重要である。