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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153352
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20241022BHJP
   F01N 13/18 20100101ALI20241022BHJP
   F01N 13/10 20100101ALI20241022BHJP
【FI】
B23K9/00 501P
F01N13/18
F01N13/10
B23K9/00 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067187
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 新
【テーマコード(参考)】
3G004
4E081
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004BA05
3G004DA01
3G004FA04
3G004GA06
4E081YC06
4E081YX04
4E081YX07
(57)【要約】
【課題】少なくとも3つの部品を溶接して形成される溶接部材の熱歪みによる影響を抑制する。
【解決手段】溶接部材の製造方法は、周方向に延びる第1溶接部が形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することと、周方向に延びる第2溶接部が形成されるように、第2部品と第3部品とを溶接することを備える。第1溶接部の溶接開始点から、第1溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、第1溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第1変形点とする。第2溶接部の溶接開始点から、第2溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、第2溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第2変形点とする。第2変形点は、第1変形点に対し、周方向において少なくとも90°隔てて配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部品、第2部品及び第3部品が溶接された溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品、前記第2部品及び前記第3部品が並ぶ方向に延びる当該溶接部材の軸を中心とする周方向に延びる第1溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することと、
前記周方向に延びる第2溶接部が形成されるように、前記第2部品と前記第3部品とを溶接することと、
を備え、
前記第1溶接部及び前記第2溶接部は、溶接開始点から溶接終了点までそれぞれ延び、
前記第1溶接部の前記溶接開始点から、前記第1溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記第1溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第1変形点とし、
前記第2溶接部の前記溶接開始点から、前記第2溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記第2溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第2変形点とし、
前記第2変形点は、前記第1変形点に対し、前記周方向において少なくとも90°隔てて配置される、溶接部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部の前記周方向の長さと、前記第2溶接部の前記周方向の長さとは、略同じである、溶接部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部及び前記第2溶接部は、全周溶接により形成される、溶接部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1変形点は、前記第1溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点であり、
前記第2変形点は、前記第2溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点である、溶接部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
当該溶接部材は、車両に搭載される車載部品である、溶接部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部は、前記軸を中心とする第1周方向に沿った溶接により形成され、
前記第2溶接部は、前記軸を中心とする、前記第1周方向とは反対の第2周方向に沿った溶接により形成される、溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円形状の嵌合孔が形成される底壁部を有する有底円筒状のドラム本体と、嵌合孔に圧入して組み付けられる嵌挿部を有する軸状のシャフトと、を溶接してクラッチドラムを形成する溶接方法が開示されている。この溶接方法では、嵌合孔と嵌挿部の接合部が嵌挿部の軸を中心とする周方向に等角度となる4つの範囲(第1~第4範囲)に分割される。そして、各範囲の溶接の開始点及び終了点が重なるように、第1範囲、軸を挟んで第1範囲と対向する第2範囲、第1範囲と第2範囲との間に位置する第3範囲、軸を挟んで第3範囲と対向する第4範囲の順に接合部を全周溶接することで、クラッチドラムの熱歪みを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-103274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した溶接方法では、周方向に沿った1度の動作で接合部を全周溶接する方法と比較して、溶接時間が増加する。また、溶接の開始点及び終了点では、溶接時の溶け込み量がばらつきやすいため、上述した溶接方法のように、溶接の開始点及び終了点が重なるラップ部が多くなると、溶接の品質が低下しやすいという問題があった。
【0005】
ところで、3つ以上の部品を溶接することで形成される溶接部材の場合、溶接箇所は複数存在する。このため、複数の溶接箇所を有する溶接部材において、溶接時間の増加及び溶接の品質低下を抑制しつつ、当該溶接部材の熱歪みによる影響を抑制できる方法が望まれている。
【0006】
本開示の一局面は、少なくとも3つの部品を溶接して形成される溶接部材の熱歪みによる影響を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、第1部品、第2部品及び第3部品が溶接された溶接部材の製造方法である。溶接部材の製造方法は、第1部品、第2部品及び第3部品が並ぶ方向に延びる溶接部材の軸を中心とする周方向に延びる第1溶接部が形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することを備える。また、溶接部材の製造方法は、周方向に延びる第2溶接部が形成されるように、第2部品と第3部品とを溶接することを備える。第1溶接部及び第2溶接部は、溶接開始点から溶接終了点までそれぞれ延びる。第1溶接部の溶接開始点から、第1溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、第1溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第1変形点とする。第2溶接部の溶接開始点から、第2溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、第2溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第2変形点とする。第2変形点は、第1変形点に対し、周方向において少なくとも90°隔てて配置される。
【0008】
このような構成では、第1溶接部において生じる変形が、第2溶接部において生じる変形によって相殺されやすくなる。したがって、第1部品、第2部品及び第3部品の3つの部品を溶接して形成される溶接部材の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0009】
本開示の一態様では、第1溶接部の周方向の長さと、第2溶接部の周方向の長さとは、略同じであってもよい。このような構成によれば、第1溶接部において生じる変形量と、第2溶接部において生じる変形量と、が略同じとなりやすいため、溶接部材の熱歪みによる影響が抑制されやすい。
【0010】
本開示の一態様では、第1溶接部及び第2溶接部は、全周溶接により形成されてもよい。このような構成によれば、全周溶接により形成された第1溶接部及び第2溶接部を有する溶接部材の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0011】
本開示の一態様では、第1変形点は、第1溶接部の溶接開始点及び溶接終了点である溶接終始点であってもよい。第2変形点は、第2溶接部の溶接開始点及び溶接終了点である溶接終始点であってもよい。このような構成によれば、第1溶接部において生じる変形が、第2溶接部において生じる変形によって相殺されやすくなる。したがって、第1部品、第2部品及び第3部品の3つの部品を溶接して形成される溶接部材の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0012】
本開示の一態様では、当該溶接部材は、車両に搭載される車載部品であってもよい。このような構成によれば、第1部品、第2部品及び第3部品を溶接して形成される車載部品の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0013】
本開示の一態様では、第1溶接部は、軸を中心とする第1周方向に沿った溶接により形成されてもよい。第2溶接部は、軸を中心とする、第1周方向とは反対の第2周方向に沿った溶接により形成されてもよい。このような構成では、各溶接部の溶接方向を周方向に沿って互いに反対向きとなる方向とすることによって、各溶接部の冷却に伴い各溶接部が収縮する方向、すなわち、各溶接部が各部品を周方向に引っ張る力の向きが反対となる。このため、第1溶接部において生じる変形が、第2溶接部において生じる変形によって更に相殺されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】溶接部材を模式的に示す断面図である。
図2図2A図1のIIA―IIA断面図であり、図2B図1のIIB-IIB断面図である。
図3】溶接部を3つ以上有する溶接部材の変形例において、各溶接部の溶接終始点の位置を模式的に示す図である。
図4】溶接部を3つ以上有する溶接部材の変形例において、各溶接部の溶接方向の向きを模式的に示す図である。
図5】円弧である各溶接部の変形例において、各溶接部の変形点の位置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.構成]
図1に示す溶接部材100は、車両に搭載される車載部品である。車載部品としては、例えば、車両に搭載された内燃機関からの排気ガスを通過させるための流路の少なくとも一部を構成する排気系部品が挙げられる。
【0016】
図1に示すように、溶接部材100は、第1部品1と、第2部品2と、第3部品3と、第1溶接部W1と、第2溶接部W2と、を備える。本実施形態では、溶接部材100は、直線状に延びる中心軸Aを有する。溶接部材100は、中心軸Aに沿って並んで配置される第1部品1、第2部品2及び第3部品3が、例えばアーク溶接によって溶接されることで製造される。
【0017】
第1部品1及び第3部品3は、径が一定の円筒状に形成された管である。
第2部品2は、第1部品1と第3部品3との間に配置される円筒状の部品である。第1部品1、第2部品2及び第3部品3の中心軸は、溶接部材100の中心軸Aと一致する。第2部品2は、第1部品1と接続する第1端部21及び第3部品3と接続する第2端部22が、端部に向かうに従い縮径するテーパ状に形成されている。本実施形態では、第1部品1、第2部品2及び第3部品3は、第2部品2の第1端部21側の開口に第1部品1の端部が挿入され、第2部品2の第2端部22側の開口に第3部品3の端部が挿入された状態で接続される。
【0018】
第1溶接部W1は、第1部品1と第2部品2とが重なる部分に中心軸Aを中心とする周方向に延びるように形成され、第1部品1と第2部品2とを接合する。本実施形態では、図2Aに示すように、第1溶接部W1は、中心軸Aを中心とする第1周方向に沿った溶接により形成される。すなわち、第1溶接部W1は、周方向に沿って時計回りに溶接機が移動することによって形成される。つまり、第1溶接部W1の溶接方向は、第1周方向(時計回りの方向)である。
【0019】
第2溶接部W2は、第2部品2と第3部品3とが重なる部分に周方向に延びるように形成され、第2部品2と第3部品3とを接合する。本実施形態では、図2Bに示すように、第2溶接部W2は、中心軸Aを中心とする、第1周方向とは反対の第2周方向に沿った溶接により形成される。すなわち、第2溶接部W2は、周方向に沿って反時計回りに溶接機が移動することによって形成される。つまり、第2溶接部W2の溶接方向は、第2周方向(反時計回りの方向)である。
【0020】
本実施形態では、第1溶接部W1は、第1部品1と第2部品2との外周面を周回する溶接経路に沿って全周溶接することにより形成され、第2溶接部W2は、第2部品2と第3部品3との外周面を周回する溶接経路に沿って全周溶接することにより形成される。全周溶接では、溶接開始点及び溶接終了点が重なり合う。以下では、溶接部における溶接開始点及び溶接終了点を溶接終始点と称する。すなわち、図2A及び図2Bに示すように、中心軸Aに直交する断面において、第1溶接部W1及び第2溶接部W2の形状は、それぞれ溶接経路が閉じた円である。本実施形態では、第1溶接部W1の周方向の長さと、第2溶接部W2の周方向の長さとは、略同じである。なお、「溶接開始点及び溶接終了点が重なり合う」状態には、溶接開始点及び溶接終了点が全部又は一部重なっている状態が含まれる。
【0021】
本実施形態では、図2Aに示す第1溶接部W1の第1溶接終始点S1に対し、図2Bに示す第2溶接部W2の第2溶接終始点S2は、中心軸Aに沿って見たとき、周方向において略180°隔てて配置される。具体的には、第2溶接部W2を中心軸Aに沿って移動させて第1溶接部W1と重ねたとき、第2溶接終始点S2は、第1溶接終始点S1及び中心軸Aを結ぶ直線の延長線上に配置される。すなわち、第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2とは、中心軸Aを中心として対向する。
【0022】
[2.溶接部材の製造方法]
次に、溶接部材100の製造方法について、図2A及び図2Bを用いて説明する。具体的には、溶接部材100の製造方法に含まれる第1部品1と第2部品2との溶接方法及び第2部品2と第3部品3との溶接方法について説明する。
【0023】
まず、第2部品2の第1端部21側の開口に第1部品1の端部を挿入して、第1部品1及び第2部品2を接続する。そして、図2Aに示すように、第1溶接部W1が形成されるように、第1周方向に沿って、第1部品1と第2部品2とを全周溶接する。
【0024】
次に、第2部品2の第2端部22側の開口に第3部品3の端部を挿入して、第2部品2及び第3部品3を接続する。そして、図2Bに示すように、第2溶接部W2が形成されるように、第2周方向に沿って、第2部品2と第3部品3とを全周溶接する。このとき、第1溶接部W1の第1溶接終始点S1に対し、周方向において略180°隔てて配置される第2溶接終始点S2から、第2溶接部W2の溶接を開始する。これにより、第2溶接部W2を中心軸Aに沿って移動させて第1溶接部W1と重ねたとき、第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2とは、中心軸Aを中心として対向する位置に配置される。
【0025】
アーク溶接では、溶接部の形成により、当該溶接部において熱歪みによる変形が生じやすい。また、全周溶接では、溶接部の溶接開始点から、溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置する点、特に溶接終始点において、溶接が重なり、溶接の熱が溶接対象物に伝わる時間が長くなるため、熱容量が増加しやすい。このため、アーク溶接による全周溶接により形成される第1溶接部W1では、当該第1溶接部W1において生じる変形の中心となる位置が、第1溶接終始点S1となる。また、同じくアーク溶接による全周溶接により形成される第2溶接部W2では、当該第2溶接部W2において生じる変形の中心となる位置が、第2溶接終始点S2がとなる。変形の中心となる位置とは、例えば、溶接部のうち熱歪みで変形する量が最も多い部分である。
【0026】
第1溶接部W1の形成により、中心軸Aから第1溶接終始点S1に向かう図2Aに示す第1方向D1への熱歪みによる変形が生じる。そして、第1溶接部W2の形成により、中心軸Aから第2溶接終始点S2に向かう図2Bに示す第2方向D2への熱歪みによる変形が生じる。上述したように、第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2とは、中心軸Aを中心として対向する位置に配置されるため、第1方向D1は、第2方向D2とは反対向きの方向である。
【0027】
また、上述したように、第1溶接部W1の周方向の長さと、第2溶接部W2の周方向の長さとが、略同じであるため、第1溶接部W1において生じる変形量と、第2溶接部W2において生じる変形量と、が略同じとなりやすい。更に、上述したように、第1溶接部W1及び第2溶接部W2の溶接方向が、周方向に沿って互いに反対向きである。このため、各溶接部W1,W2の冷却に伴い各溶接部W1,W2が収縮する方向、すなわち、第1溶接部W1が第1部品1及び第2部品2を周方向に引っ張る力の向きと、第2溶接部W2が第2部品2及び第3部品3を周方向に引っ張る力の向きと、が反対となる。
【0028】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)本実施形態では、溶接部材100には、第1溶接部W1の形成により、第1方向D1への熱歪みが生じ、第2溶接部W2の形成により、第2方向D2への熱歪みが生じる。しかし、第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2とが、中心軸Aを中心として対向する位置に配置されるように、第1溶接部W1及び第2溶接部W2がそれぞれ形成される。すなわち、第1方向D1は、第2方向D2とは反対向きの方向である。このため、第1溶接部W1において生じる第1方向D1への熱歪みによる変形が、第2溶接部W2において生じる第2方向D2への熱歪みによる変形によって相殺されやすくなる。
【0029】
したがって、第1~第3部品1,2,3の3つの部品を溶接して製造され、全周溶接により形成される2つの溶接部W1,W2を有する溶接部材100において、溶接時間の増加及び溶接の品質低下を抑制しつつ、当該溶接部材100の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0030】
(3b)本実施形態では、第1溶接部W1の周方向の長さと、第2溶接部W2の周方向の長さとが、略同じであるため、第1溶接部W1において生じる熱歪みによる変形量と、第2溶接部W2において生じる熱歪みによる変形量と、が略同じとなりやすい。このため、溶接部材100の熱歪みによる影響が抑制されやすい。
【0031】
(3c)本実施形態では、第1溶接部W1及び第2溶接部W2の溶接方向が、周方向に沿って互いに反対向きである。これにより、各溶接部W1,W2の冷却に伴い各溶接部W1,W2が収縮する方向、すなわち、第1溶接部W1が第1部品1及び第2部品2を周方向に引っ張る力の向きと、第2溶接部W2が第2部品2及び第3部品3を周方向に引っ張る力の向きと、が反対となる。このため、第1溶接部W1において生じる熱歪みによる変形が、第2溶接部W2において生じる熱歪みによる変形によって更に相殺されやすくなる。
【0032】
なお、本実施形態では、第1溶接終始点S1が第1変形点の一例に相当し、第2溶接終始点S2が第2変形点の一例に相当し、中心軸Aが軸の一例に相当する。
【0033】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0034】
(4a)上記実施形態では、第1溶接部W1の第1溶接終始点S1に対し、第2溶接部W2の第2溶接終始点S2が、中心軸Aに沿って見たとき、周方向において180°隔てて配置されていた。しかし、第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2との周方向における相対的な位置はこれに限定されるものではない。
【0035】
例えば、第2溶接部W2の第2溶接終始点S2は、第1溶接部W1の第1溶接終始点S1に対し、周方向において少なくとも90°隔てて配置されていてもよい。具体的には、第2溶接部W2を中心軸Aに沿って移動させて第1溶接部W1と重ねたとき、第2溶接終始点S2は、第1溶接終始点S1及び中心軸Aを結ぶ直線と、第2溶接終始点S2及び中心軸Aを結ぶ直線と、がなす角度が90°以上かつ270°以下となる範囲に配置されていてもよい。
【0036】
また、例えば、全周溶接における溶接経路を周方向に等角度となる4つの範囲に分割した場合、第2溶接終始点S2は、第1溶接終始点S1が配置される第1範囲に対し、残りの2つの範囲(すなわち、第3範囲及び第4範囲)を挟んで対面する第2範囲に配置されていてもよい。
【0037】
上述したような第1溶接終始点S1と第2溶接終始点S2との周方向における相対的な位置の場合でも、本実施形態の溶接部材100同様に、溶接部材の熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0038】
(4b)上記実施形態では、溶接部材100が、第1溶接部W1及び第2溶接部W2の2つの溶接部を有する構成を例示したが、例えば、溶接部材は、溶接部を3つ以上有するように4つ以上の部品が溶接されて形成されてもよい。
【0039】
例えば、溶接部材が溶接部を3つ以上有する場合、全ての溶接部の各溶接終始点(すなわち、各溶接部において生じる変形の中心となる位置)において、隣合う溶接部の各溶接終始点が、中心軸Aを中心として対向する位置に配置されていなくてもよい。具体的には、図3に示す溶接部材100aのように、第1位置に配置される各溶接終始点S1a,S2a,S5aの総数と、第2位置に配置される各溶接終始点S3a,S4a,S6aの総数と、が同じ場合、隣合う溶接部の一部では、各溶接終始点が中心軸Aを中心として対向していなくてもよい。第2位置は、第1位置に対し、周方向において少なくとも90°隔てて配置される位置である。すなわち、溶接終始点S1a及び溶接終始点S2aと、溶接終始点S3a及び溶接終始点S4aと、のように、隣合う溶接部の各溶接終始点が、中心軸Aに沿って見て重なるように配置されていてもよい。この場合も、本実施形態の溶接部材100同様に、溶接部材100aの熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0040】
また、例えば、溶接部材が溶接部を3つ以上有する場合、全ての溶接部において、隣合う溶接部の溶接方向が、周方向に沿って互いに反対向きでなくてもよい。具体的には、図4に示す溶接部材100bのように、第1周方向に沿って形成される各溶接部W1b,W2b,W3bの総数と、第2周方向に沿って形成される各溶接部W4b,W5b,W6bの総数と、が同じ場合、隣合う溶接部の一部では、溶接方向が周方向に沿って互いに反対向きでなくてもよい。すなわち、溶接部W1b及び溶接部W2bと、溶接部W2b及び溶接部W3bと、溶接部W4b及び溶接部W5bと、溶接部W5b及び溶接部W6bと、のように、隣合う溶接部の溶接方向が、周方向に沿って同じ向きであってもよい。この場合も、本実施形態の溶接部材100同様に、溶接部材100bの熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0041】
なお、溶接部材の溶接部の数が偶数の場合は、上述したように熱歪みが相殺されやすい効果が得られる。また、溶接部の数が奇数の場合であっても、中心軸方向から見て同一の位置に全ての溶接部の溶接終始点がある場合、又は、周方向に沿って同じ向きに全ての溶接部が形成される場合と比べて、熱歪みによる影響を抑制することができる。
【0042】
(4c)上記実施形態では、第1溶接部W1及び第2溶接部W2は、それぞれ全周溶接により形成されていたが、溶接部を形成する方法はこれに限定されるものではない。例えば、溶接部は、部材の外周面を周回する溶接経路のうちの所定の長さの区間が溶接されることにより形成されてもよい。具体的には、図5A及び図5Bに示すように、中心軸Aに直交する断面において、第1溶接部W1c及び第2溶接部W2cの形状は、それぞれ溶接経路が閉じない円弧であってもよい。第1溶接部W1cの周方向の長さと、及び第2溶接部W2cの周方向の長さとは、略同じである。
【0043】
円弧状の溶接では、溶接部の溶接開始点から、溶接部における周方向の略中央までの範囲において、溶接の熱が溶接対象物に伝わる時間が長くなるため、熱容量が増加しやすい。円弧状の第1溶接部W1cでは、第1溶接部W1cの溶接開始点S1cから、第1溶接部W1cにおける周方向の略中央までの範囲に位置する第1変形点T1が、第1溶接部W1cにおいて生じる変形の中心となる位置である。また、円弧状の第2溶接部W2cでは、第2溶接部W2cの溶接開始点S2cから、第2溶接部W2cにおける周方向の略中央までの範囲に位置する第2変形点T2が、第2溶接部W2cにおいて生じる変形の中心となる位置である。第1溶接部の溶接開始点から、第1溶接部における周方向の略中央までの範囲は、例えば第1溶接部の周方向の角度が360度であるときは溶接開始点から略180度の範囲であり、第1溶接部の周方向の角度が180度であるときは溶接開始点から略90度の範囲である。なお、第2溶接部の溶接開始点から、第2溶接部における周方向の略中央までの範囲も、第1溶接部と同様である。
【0044】
なお、便宜上、図5Aにおいて、第1変形点T1を第1溶接部W1cの中心となる位置に図示している。しかし、第1変形点T1は、第1溶接部W1cの溶接開始点S1cから、第1溶接部W1cにおける周方向の略中央までの範囲において変形の中心となる位置であれば、当該中心となる位置に限られない。同様に、図5Bにおいて、第2変形点T2を第2溶接部W2cの中心となる位置に図示している。しかし、第2変形点T2は、第2溶接部W2cの溶接開始点S2cから、第2溶接部W2cにおける周方向の略中央までの範囲において変形の中心となる位置であれば、当該中心となる位置に限られない。また、溶接開始点S1c及び溶接開始点S2cの位置は、図5A及び図5Bに図示する位置に限定されず、円弧の両端部のいずれかの位置であればよい。
【0045】
図5Aに示す第1溶接部W1cの第1変形点T1に対し、図5Bに示す第2溶接部W2cの第2変形点T2は、中心軸Aに沿って見たとき、周方向において略180°隔てて配置される。具体的には、第2溶接部W2cを中心軸Aに沿って移動させて第1溶接部W1cと重ねたとき、第2変形点T2は、第1変形点T1及び中心軸Aを結ぶ直線の延長線上に配置される。すなわち、第1変形点T1と第2変形点T2とは、中心軸Aを中心として対向する。なお、第2溶接部W2cの第2変形点T2は、第1溶接部W1cの第1変形点T1に対し、周方向において少なくとも90°隔てて配置されてもよい。
【0046】
第1溶接部W1cには、中心軸Aから第1変形点T1に向かう図5Aに示す第1方向D1cへの熱歪みによる変形が生じる。そして、第2溶接部W2cには、中心軸Aから第2変形点T2に向かう図5Bに示す第2方向D2cへの熱歪みによる変形が生じる。上述したように、第1変形点T1と第2変形点T2とは、中心軸Aを中心として対向する位置に配置されるように、第1溶接部W1c及び第2溶接部W2cがそれぞれ形成される。すなわち、第1方向D1cは、第2方向D2cとは反対向きの方向である。このため、第1溶接部W1cにおいて生じる第1方向D1cへの熱歪みによる変形が、第2溶接部W2cにおいて生じる第2方向D2cへの熱歪みによる変形によって相殺されやすくなる。
【0047】
(4d)上記実施形態では、第1溶接部W1の周方向の長さと、第2溶接部W2の周方向の長さとが、略同じであったが、例えば、第1溶接部及び第2溶接部は、周方向の長さが異なるように形成されていてもよい。
【0048】
(4e)上記実施形態では、第1溶接部W1及び第2溶接部W2の溶接方向が、周方向に沿って互いに反対向きであったが、例えば、第1溶接部及び第2溶接部の溶接方向は、周方向に沿って同じ向きであってもよい。
【0049】
(4f)上記実施形態では、第1部品1、第2部品2及び第3部品3は、第2部品2の第1端部21の開口に第1部品1の端部が挿入され、第2部品2の第2端部22の開口に第2部品2の端部が挿入された状態で接続されていた。しかし、例えば、第1部品、第2部品及び第3部品は、第2部品の第1端部と第1部品の端部とが突き合わされた状態にあり、第2部品の第2端部と第2部品の端部とが突き合わされた状態で接続されていてもよい。この場合、第1溶接部は、第1部品と第2部品とが接続される部分に形成され、第2溶接部は、第2部品と第3部品とが接続される部分に形成される。
【0050】
また、第1部品1、第2部品2及び第3部品3は、第2部品2の第1端部21が第1部品1の一方の端部側の開口に挿入され、第2部品2の第2端部22が第3部品3の一方の端部側の開口に挿入されてもよい。
【0051】
(4g)上記実施形態では、第1部品1、第2部品2及び第3部品3が円筒状の部品であったが、第1部品、第2部品及び第3部品の形状はこれに限定されるものではない。例えば、第1部品、第2部品及び第3部品は、円以外の形状の筒状の部品であってもよいし、中実の部品であってもよい。中実の部品は、板状、ブロック状、柱状等であってもよい。
【0052】
(4h)上記実施形態では、溶接部材100の中心軸Aは直線状に延びていたが、例えば、溶接部材の中心軸は曲がっていてもよい。
【0053】
(4i)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0054】
[5.本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
第1部品、第2部品及び第3部品が溶接された溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品、前記第2部品及び前記第3部品が並ぶ方向に延びる当該溶接部材の軸を中心とする周方向に延びる第1溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することと、
前記周方向に延びる第2溶接部が形成されるように、前記第2部品と前記第3部品とを溶接することと、
を備え、
前記第1溶接部及び前記第2溶接部は、溶接開始点から溶接終了点までそれぞれ延び、
前記第1溶接部の前記溶接開始点から、前記第1溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記第1溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第1変形点とし、
前記第2溶接部の前記溶接開始点から、前記第2溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記第2溶接部において生じる変形の中心となる位置を、第2変形点とし、
前記第2変形点は、前記第1変形点に対し、前記周方向において少なくとも90°隔てて配置される、溶接部材の製造方法。
【0055】
[項目2]
項目1に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部の前記周方向の長さと、前記第2溶接部の前記周方向の長さとは、略同じである、溶接部材の製造方法。
【0056】
[項目3]
項目1又は項目2に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部及び前記第2溶接部は、全周溶接により形成される、溶接部材の製造方法。
【0057】
[項目4]
項目3に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1変形点は、前記第1溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点であり、
前記第2変形点は、前記第2溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点である、溶接部材の製造方法。
【0058】
[項目5]
項目1から項目4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
当該溶接部材は、車両に搭載される車載部品である、溶接部材の製造方法。
【0059】
[項目6]
項目1から項目5までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1溶接部は、前記軸を中心とする第1周方向に沿った溶接により形成され、
前記第2溶接部は、前記軸を中心とする、前記第1周方向とは反対の第2周方向に沿った溶接により形成される、溶接部材の製造方法。
【符号の説明】
【0060】
1…第1部品、2…第2部品、3…第3部品、21…第1端部、22…第2端部、100,100a,100b…溶接部材、A…中心軸、D1,D1c…第1方向、D2,D2c…第2方向、S1,S1c…第1溶接終始点、S1a~S6a…溶接終始点、S2,S2c…第2溶接終始点、T1…第1変形点、T2…第2変形点、W1,W1c…第1溶接部、W1b~W6b…溶接部、W2,W2c…第2溶接部。
図1
図2
図3
図4
図5