(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153353
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01N 13/18 20100101AFI20241022BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F01N13/18
B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067188
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 新
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004BA05
3G004DA01
3G004FA04
3G004GA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接部材の曲がる方向をコントロール可能な溶接方法を提供する。
【解決手段】第1部品及び第2部品が溶接された溶接部材の製造方法は、周方向に延びるメイン溶接部が形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することを備える。メイン溶接部の溶接開始点から、メイン溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、メイン溶接部において生じる変形への寄与度が高い位置を、変形点とする。変形点は、当該溶接部材を熱歪みさせる方向に寄与する位置に配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部品及び第2部品が溶接された溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品及び前記第2部品が並ぶ方向に延びる当該溶接部材の軸を中心とする周方向に延びるメイン溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを備え、
前記メイン溶接部は、溶接開始点から溶接終了点まで延び、
前記メイン溶接部の前記溶接開始点から、前記メイン溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記メイン溶接部において生じる変形への寄与度が高い位置を、変形点とし、
前記変形点は、当該溶接部材を熱歪みさせる方向に寄与する位置に配置される、溶接部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品に対し前記第2部品を仮固定するためのサブ溶接部が1つ以上形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを更に備え、
前記メイン溶接部は、前記サブ溶接部の形成後に形成される、溶接部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記サブ溶接部は、2つ又は3つ形成される、溶接部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記サブ溶接部は、2つ形成され、
2つの前記サブ溶接部は、前記周方向において互いに略180°隔てて配置される、溶接部材の製造方法。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記メイン溶接部は、全周溶接により形成され、
前記メイン溶接部の前記溶接開始点は、前記サブ溶接部と重ならない位置に配置される、溶接部材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記変形点は、前記メイン溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点である、溶接部材の製造方法。
【請求項7】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品及び前記第2部品は、筒状の部品であり、
前記第1部品に前記第2部品の端部が挿入され、
前記メイン溶接部及び前記サブ溶接部は、前記第1部品と前記第2部品とが重なる部分に形成される、溶接部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記メイン溶接部の形成後に、当該溶接部材が熱歪みする方向と反対の方向に当該溶接部材を熱歪みさせる調整溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを更に備える、溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキ装置が備える、軸方向に直交する側面を有するリングと、リングの側面が当接する当接面を有するプレートと、をレーザ溶接により溶接する溶接方法が開示されている。この溶接方法では、側面と当接面が当接した状態で、リングの軸を中心とする周方向に等間隔に離れて並ぶ4つ以上の点状の溶接部を形成し、その後周方向に沿った円形状の溶接部を形成するように、プレートとリングとを溶接することで、ブレーキ装置の熱歪みを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した溶接方法では、2つの部品を溶接して形成される溶接部材の円形状の溶接部において生じる変形が抑制されることで溶接部材の熱歪みが低減されるが、溶接部材の熱歪みによって当該溶接部材の曲がる方向をコントロールすることは困難である。
【0005】
本開示の一局面は、溶接部材の曲がる方向をコントロール可能な溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、第1部品及び第2部品が溶接された溶接部材の製造方法であって、第1部品及び第2部品が並ぶ方向に延びる当該溶接部材の軸を中心とする周方向に延びるメイン溶接部が形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することを備える。メイン溶接部は、溶接開始点から溶接終了点まで延びる。メイン溶接部の溶接開始点から、メイン溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置し、メイン溶接部において生じる変形への寄与度が高い位置を、変形点とする。変形点は、当該溶接部材を熱歪みさせる方向に寄与する位置に配置される。
【0007】
このような構成によれば、メイン溶接部の変形点が配置される位置を調節することにより、溶接部材の曲がる方向をコントロールすることができる。
【0008】
本開示の一態様は、第1部品に対し第2部品を仮固定するためのサブ溶接部が1つ以上形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することを更に備えてもよい。メイン溶接部は、サブ溶接部の形成後に形成されてもよい。このような構成によれば、サブ溶接部による第1部品及び第2部品の仮固定により、メイン溶接部を形成する際に、第1部品と第2部品との位置がずれることを抑制することができる。その結果、メイン溶接部の形成時に変形点が配置される位置がずれることを抑制することができる。
【0009】
本開示の一態様では、サブ溶接部は、2つ又は3つ形成されてもよい。このような構成によれば、サブ溶接部が1つの場合と比較して、メイン溶接部を形成する際に、第1部品と第2部品との位置がずれることをより強く抑制することができる。
【0010】
本開示の一態様では、サブ溶接部は、2つ形成されてもよい。2つのサブ溶接部は、周方向において互いに略180°隔てて配置されてもよい。このような構成では、2つのサブ溶接部による第1部品及び第2部品の仮固定により、2つのサブ溶接部を結ぶ直線と直交する、第1方向及び第1方向と反対の第2方向に、メイン溶接部において生じる熱歪みの方向が規制されやすい。これにより、上記直線よりも第1方向側にメイン溶接部の変形点を配置して、第1方向への熱歪みを生じさせたり、上記直線よりも第2方向側にメイン溶接部の変形点を配置して、第2方向への熱歪みを生じさせたりすることができる。その結果、溶接部材の曲がる方向がコントロールしやすくなる。
【0011】
本開示の一態様では、メイン溶接部は、全周溶接により形成されてもよい。メイン溶接部の溶接開始点は、サブ溶接部と重ならない位置に配置されてもよい。このような構成によれば、全周溶接により形成されたメイン溶接部を有する溶接部材の曲がる方向をコントロールすることができる。
【0012】
本開示の一態様では、変形点は、メイン溶接部の溶接開始点及び溶接終了点である溶接終始点であってもよい。このような構成によれば、メイン溶接部の溶接終始点が配置される位置を調節することにより、溶接部材の曲がる方向をコントロールすることができる。
【0013】
本開示の一態様では、第1部品及び第2部品は、筒状の部品であってもよい。第1部品に第2部品の端部が挿入されてもよい。メイン溶接部及びサブ溶接部は、第1部品と第2部品とが重なる部分に形成されてもよい。このような構成によれば、筒状の第1部品及び第2部品の溶接により形成される溶接部材の曲がる方向をコントロールすることができる。
【0014】
本開示の一態様は、メイン溶接部の形成後に、当該溶接部材が熱歪みする方向と反対の方向に当該溶接部材を熱歪みさせる調整溶接部が形成されるように、第1部品と第2部品とを溶接することを更に備えてもよい。このような構成によれば、メイン溶接部の形成後に、調整溶接部を形成することにより、溶接部材の曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部において生じる変形を、調整溶接部において生じる変形によって相殺させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1Aは、サブ溶接部が形成された状態を模式的に示す中心軸に沿った断面図であり、
図1Bは、第1実施形態の溶接部材を模式的に示す中心軸に沿った断面図である。
【
図2】
図2Aは
図1BのIIA-IIA断面図であり、
図2B~
図2Eは、
図2Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図3】
図3Aは、第1実施形態の変形例におけるメイン溶接部のみの形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図であり、
図3Bは、所定の方向への熱歪みにより溶接部材が曲がる様子を模式的に示す中心軸に沿った断面図である。
【
図4】第1実施形態の変形例における1つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図5】
図5Aは、第1実施形態の変形例における3つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
図5Bは、
図5Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図6】
図6Aは、第1実施形態の変形例における4つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
図6Bは、
図6Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図7】第1実施形態の変形例における円弧であるメイン溶接部のみの形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図8】第1実施形態の変形例における2つのサブ溶接部及び円弧であるメイン溶接部の形成により生じる熱歪みの方向を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図9】
図9Aは、サブ溶接部が形成された状態を模式的に示す中心軸に沿った断面図であり、
図9Bは、メイン溶接部が形成された状態を模式的に示す中心軸に沿った断面図であり、
図9Cは、第2実施形態の溶接部材を模式的に示す中心軸に沿った断面図である。
【
図10】
図10Aは
図9CのXA-XA断面図であり、
図10B~
図10Eは、
図10Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向、及び、当該熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図11】第2実施形態の変形例におけるメイン溶接部のみの形成により生じる熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図12】第2実施形態の変形例における1つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図13】
図13Aは、第2実施形態の変形例における3つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
図13Bは、
図13Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向、及び、当該熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図14】
図14Aは、第2実施形態の変形例における4つのサブ溶接部及びメイン溶接部の形成により生じる熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
図14Bは、
図14Aに示す例とは周方向において異なる位置に溶接終始点が配置される場合の熱歪みの方向、及び、当該熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図15】第2実施形態の変形例における円弧であるメイン溶接部のみの形成により生じる熱歪みを相殺する調整溶接部の配置を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図16】線状であるサブ溶接部の変形例を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図17】線の長さが異なるサブ溶接部の変形例を示す中心軸に直交する断面図である。
【
図18】メイン溶接部の形成方法の変形例を示す中心軸に直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1Bに示す溶接部材100は、車両に搭載される車載部品である。車載部品としては、例えば、車両に搭載された内燃機関からの排気ガスを通過させるための流路の少なくとも一部を構成する排気系部品が挙げられる。
【0017】
図1A及び
図1Bに示すように、溶接部材100は、第1部品1と、第2部品2と、サブ溶接部SWと、メイン溶接部MWと、を備える。本実施形態では、溶接部材100は、直線状に延びる中心軸Aを有する。溶接部材100は、中心軸Aに沿って並んで配置される第1部品1及び第2部品2が、例えばアーク溶接によって溶接されることで製造される。
【0018】
第1部品1及び第2部品2は、径が一定の円筒状に形成された管である。第1部品1の内径は、第2部品2の外径よりも大きい。なお、第1部品の内径は、第2部品の外径と略同一の大きさであってもよい。第1部品1の端部と第2部品の端部との間には、径方向において、隙間がないことが好ましいが、隙間があってもよい。第1部品1及び第2部品2の中心軸は、溶接部材100の中心軸Aと一致する。本実施形態では、第1部品1及び第2部品2は、第1部品1の一方の端部側の開口に第2部品2の端部が挿入された状態で接続される。
【0019】
サブ溶接部SWは、第1部品1と第2部品2とが重なる部分に、中心軸Aを中心とする周方向における所定の位置に1つ以上形成され、第1部品1に対し第2部品2を仮固定する。サブ溶接部SWは、第1部品1と第2部品2との外周面を周回する溶接経路が部分的に溶接されることにより形成される。
図2A~
図2Eに示すように、本実施形態では、サブ溶接部SWの形状は、点状であり、サブ溶接部SWは、例えば、アーク溶接により2つ形成される。2つのサブ溶接部SWは、中心軸Aに沿って見たとき、各サブ溶接部SWの中心点を基準に、周方向において互いに略180°隔てて配置される。すなわち、2つのサブ溶接部SWは、中心軸Aを中心として対向する。
【0020】
これにより、溶接経路は、2つのサブ溶接部SWを結ぶ直線Lによって、図面において、当該直線Lよりも上方に位置する第1溶接経路、及び、当該直線Lよりも下方に位置する第2溶接経路の2つの経路に区分けされる。以下の説明では、図面において、直線Lと直交する方向のうち、上方(すなわち、第1溶接経路側)に向かう方向を第1方向D1と称し、第1方向D1と反対の下方(すなわち、第2溶接経路側)に向かう方向を第2方向D2と称する。
【0021】
図1Bに示すように、メイン溶接部MWは、第1部品1と第2部品2とが重なる部分に周方向に延びるように形成され、第1部品1と第2部品2とを接合する。すなわち、メイン溶接部MWは、仮固定された第1部品1と第2部品2とを、仮固定の接合以上に強固な接合により本固定する。メイン溶接部MWは、中心軸Aに沿った方向において、サブ溶接部SWが形成される位置と同じ位置に形成される。
図2A~
図2Eに示す例では、メイン溶接部MWの溶接方向は時計回りである。なお、溶接方向は反時計回りであってもよい。本実施形態では、メイン溶接部MWは、溶接経路に沿って全周溶接することにより形成される。全周溶接では、溶接開始点及び溶接終了点が重なり合う。以下では、メイン溶接部MWにおける溶接開始点及び溶接終了点を溶接終始点Sと称する。すなわち、
図2A~
図2Eに示すように、中心軸Aに直交する断面において、メイン溶接部MWの形状は、溶接経路が閉じた円である。なお、「溶接開始点及び溶接終了点が重なり合う」状態には、溶接開始点及び溶接終了点が全部又は一部重なっている状態が含まれる。
【0022】
メイン溶接部MWの溶接終始点Sは、周方向において、サブ溶接部SWと重ならない位置に配置されることが好ましい。なお、溶接終始点Sは、周方向において、サブ溶接部SWと重なる位置に配置されていてもよい。「溶接終始点Sは、周方向において、サブ溶接部SWと重なる」状態には、溶接終始点S及びサブ溶接部SWが全部又は一部重なっている状態が含まれる。
【0023】
[1-2.溶接部材の製造方法]
次に、溶接部材100の製造方法について、
図1A、
図1B及び
図2Aを用いて説明する。具体的には、溶接部材100の製造方法に含まれる第1部品1と第2部品2との溶接方法について説明する。
【0024】
まず、第1部品1の一方の端部側の開口に第2部品2の端部を挿入して、第1部品1及び第2部品2を接続する。そして、
図1A及び
図2Aに示すように、中心軸Aを中心として対向する2つのサブ溶接部SWが形成されるように、周方向において部分的に、第1部品1と第2部品2とを溶接する。
【0025】
次に、
図1B及び
図2Aに示すように、サブ溶接部SWの形成後に、当該サブ溶接部SWの上に重ねてメイン溶接部MWが形成されるように、周方向に沿って、第1部品1と第2部品2とを全周溶接する。このとき、第1部品1及び第2部品2の接合位置にて溶接部材100が曲げたい方向に意図して曲がるように、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが配置される位置を調節して、メイン溶接部MWの溶接を開始する。換言すると、第1部品1及び第2部品2の接合位置のうち、溶接部材100に熱歪みを生じさせたい方向にメイン溶接終始点Sが配置されるように溶接の開始位置を調節して、メイン溶接部MWの溶接を開始する。
【0026】
メイン溶接部MWの溶接としてのアーク溶接では、溶接部の形成により、当該溶接部において変形が生じやすい。また、全周溶接では、溶接部の溶接開始点から、溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置する点、特に溶接終始点において、溶接が重なり、溶接の熱が溶接対象物に伝わる時間が長くなるため、熱容量が増加しやすい。このため、サブ溶接部SWが形成されない状態において、アーク溶接による全周溶接により形成されるメイン溶接部MWでは、当該メイン溶接部MWにおいて生じる変形の中心となる位置が、溶接終始点Sとなる。変形の中心となる位置とは、例えば、溶接部のうち熱歪みで変形する量が最も多い部分である。したがって、
図3Aに示すように、サブ溶接部SWによる仮固定がない場合は、当該メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。以後、所定の方向への熱歪みとは、溶接部材100における接合位置の両側の区間が、当該所定の方向に傾くように、溶接部材100が曲がることを意味する(
図3B参照)。
【0027】
一方、本実施形態では、メイン溶接部MWの形成前に、周方向において互いに略180°隔てて配置される2つのサブ溶接部SWが形成され、第1部品1及び第2部品2が仮固定される。これにより、メイン溶接部MWにおいて生じる熱歪みの方向が、第1方向D1及び第2方向D2に規制されやすくなる。このため、本実施形態では、メイン溶接部MWにおいて生じる熱歪みの方向は、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向ではなく、第1方向D1及び第2方向D2の何れかとなる。つまり、本実施形態では、溶接終始点Sは、メイン溶接部MWにおいて生じる変形の中心となる位置ではなく、メイン溶接部MWにおいて生じる変形への寄与度が高い位置として機能する。
【0028】
このため、
図2A~
図2Dに示すように、直線Lよりも第1方向D1側の第1溶接経路上に溶接終始点Sが配置されるようにメイン溶接部MWを形成することで、第1方向D1への熱歪みを生じさせることができる。なお、第1溶接経路上であれば、溶接終始点Sの周方向における位置が異なる場合でも、第1方向D1への熱歪みを生じさせることが可能である。
【0029】
また、
図2Eに示すように、直線Lよりも第2方向D2側の第2溶接経路上に溶接終始点Sが配置されるようにメイン溶接部MWを形成することで、第2方向D2への熱歪みを生じさせることができる。なお、第2溶接経路上の溶接終始点Sの位置については、1例しか図示していないが、第1溶接経路上と同様に、第2溶接経路上であれば、溶接終始点Sの周方向における位置が異なる場合でも、第2方向D2への熱歪みを生じさせることが可能である。
【0030】
すなわち、溶接経路のうち、第1溶接経路上の位置が、溶接部材100を第1方向D1へ熱歪みさせるのに寄与する位置であり、第2溶接経路上の位置が、溶接部材100を第2方向D2へ熱歪みさせるのに寄与する位置である。上述したように第1溶接経路又は第2溶接経路に溶接終始点Sを配置することで、メイン溶接部MWにおいて生じる第1方向D1又は第2方向D2への熱歪みを意図して生じさせ、溶接部材100の曲がる方向をコントロールすることが可能である。
【0031】
[1-3.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)第1実施形態では、周方向において互いに略180°隔てて配置されるように、2つのサブ溶接部SWが形成される。そして、2つのサブ溶接部SWの形成後に、全周溶接によりメイン溶接部MWが形成される。このため、2つのサブ溶接部SWによる第1部品1及び第2部品2の仮固定により、メイン溶接部MWにおいて生じる熱歪みの方向が、第1方向D1及び第2方向D2に規制されやすい。したがって、第1溶接経路上にメイン溶接部MWの溶接終始点Sを配置して、第1方向D1への熱歪みを生じさせたり、第2溶接経路上にメイン溶接部MWの溶接終始点Sを配置して、第2方向D2への熱歪みを生じさせたりすることができる。
【0032】
このように、第1溶接経路及び第2溶接経路の何れかの溶接経路上に溶接終始点Sを配置させることで、溶接部材100の曲がる方向を容易にコントロールすることができる。
【0033】
(1b)第1実施形態では、メイン溶接部MWの形成前に、サブ溶接部SWが形成され、第1部品1及び第2部品2が仮固定される。このため、サブ溶接部SWによって、メイン溶接部MWを形成する際に第1部品1と第2部品2との位置がずれることを抑制することができる。その結果、溶接終始点Sの配置される位置精度が向上し、それに伴い、溶接部材100の曲がる方向をコントロールする精度を向上させることができる。
なお、第1実施形態では、溶接終始点Sが変形点の一例に相当する。
【0034】
[1-4.他の実施形態]
以上、本開示の第1実施形態について説明したが、本開示は、上記第1実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0035】
(2a)上記第1実施形態では、サブ溶接部SWが2つ形成されていたが、サブ溶接部の数はこれに限定されるものではない。
例えば、
図3Aに示すように、サブ溶接部SWが1つも形成されていなくてもよい。具体的には、メイン溶接部MWの形成前に、サブ溶接部SWが形成されない構成であってもよい。すなわち、メイン溶接部MWのみが形成されていてもよい。この場合、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。このため、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが配置される位置を調節することにより、溶接部材100の曲がる方向を容易にコントロールすることができる。
【0036】
また、例えば、
図4に示すように、サブ溶接部SWが1つ形成されていてもよい。具体的には、1つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接終始点Sと1つのサブ溶接部SWとの溶接経路上における相対的な位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。このため、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが配置される位置を調節することにより、溶接部材100の曲がる方向を容易にコントロールすることができる。
【0037】
また、例えば、
図5A及び
図5Bに示すように、サブ溶接部SWが3つ周方向に沿って等間隔に並ぶように形成されていてもよい。具体的には、3つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接経路上における溶接終始点Sの位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向へ熱歪みが生じる。このため、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが配置される位置を調節することにより、溶接部材100の曲がる方向を容易にコントロールすることができる。
【0038】
また、例えば、
図6A及び
図6Bに示すように、サブ溶接部SWが4つ周方向に沿って等間隔に並ぶように形成されていてもよい。具体的には、4つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接経路上における溶接終始点Sの位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向へ熱歪みが生じる。このため、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが配置される位置を調節することにより、溶接部材100の曲がる方向を容易にコントロールすることができる。
【0039】
(2b)第1実施形態では、メイン溶接部MWは、全周溶接により形成されていたが、メイン溶接部を形成する方法はこれに限定されるものではない。例えば、メイン溶接部は、部材の外周面を周回する溶接経路のうちの所定の長さの区間が溶接されることにより形成されてもよい。具体的には、
図7に示すように、中心軸Aに直交する断面において、メイン溶接部MWaの形状は、溶接経路が閉じない円弧であってもよい。
【0040】
円弧状の溶接では、溶接部の溶接開始点から、溶接部における周方向の略中央までの範囲において、溶接の熱が溶接対象物に伝わる時間が長くなるため、熱容量が増加しやすい。円弧状のメイン溶接部MWaでは、メイン溶接部MWaの溶接開始点S1aから、メイン溶接部MWaにおける周方向の略中央までの範囲に位置する変形点Tが、メイン溶接部MWaにおいて生じる変形の中心となる位置である。メイン溶接部の溶接開始点から、メイン溶接部における周方向の略中央までの範囲は、例えばメイン溶接部の周方向の角度が360度であるときは溶接開始点から略180度の範囲であり、メイン溶接部の周方向の角度が180度であるときは溶接開始点から略90度の範囲である。このため、
図7に示すように、サブ溶接部SWを有せず、メイン溶接部MWaのみが形成される場合では、当該メイン溶接部MWaの形成により、中心軸Aから変形点Tに向かう方向への熱歪みが生じる。
【0041】
なお、便宜上、
図7及び
図8において、変形点Tをメイン溶接部MWaの中心となる位置に図示している。しかし、変形点Tは、メイン溶接部MWaの溶接開始点S1aから、メイン溶接部MWaにおける周方向の略中央までの範囲において変形の中心となる位置であれば、当該中心となる位置に限られない。また、溶接開始点S1aの位置は、
図7及び
図8に図示する位置に限定されず、円弧の他方の端部に位置してもよい。
【0042】
一方、
図8に示すように、メイン溶接部MWaの形成前に、周方向において互いに略180°隔てて配置される2つのサブ溶接部SWが形成され、第1部品1及び第2部品2が仮固定される場合は、上述した第1実施形態と同様に、メイン溶接部MWaにおいて生じる熱歪みの方向が、第1方向D1及び第2方向D2に規制されやすくなる。このため、メイン溶接部MWaにおいて生じる熱歪みの方向は、中心軸Aから変形点Tに向かう方向ではなく、第1方向D1及び第2方向D2の何れかとなる。つまり、変形点Tは、メイン溶接部MWaにおいて生じる変形の中心となる位置ではなく、メイン溶接部MWaにおいて生じる変形への寄与度が高い位置として機能する。
【0043】
このため、
図8に示すように、直線Lよりも第1方向D1側の第1溶接経路上に変形点Tが配置されるようにメイン溶接部MWaを形成することで、第1方向D1への熱歪みを生じさせることができる。また、図示は省略するが、直線Lよりも第2方向D2側の第2溶接経路上に変形点Tが配置されるようにメイン溶接部を形成することで、第2方向D2への熱歪みを生じさせることができる。したがって、上述した第1実施形態と同様に、第1溶接経路又は第2溶接経路に変形点Tを配置することで、溶接部材100の曲がる方向をコントロールすることができる。
【0044】
[2.第2実施形態]
上述した特開2021-165560号公報に開示される溶接方法では、2つの部品を溶接して形成される溶接部材の熱歪みの低減が十分にできない場合があるため、溶接部材の熱歪みを抑制するための新たな方法が望まれている。
【0045】
以下に、溶接部材の熱歪みを抑制するための新たな方法を説明する。詳細は後述するが、メイン溶接部MWの形成後に、
図9Cに示す調整溶接部CWを形成し、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールすることで、溶接部材100aの熱歪みを抑制する。
【0046】
図9A~
図9C及び
図10Aに示すように、第2実施形態では、溶接部材100aが調整溶接部CWを備える点が第1実施形態の溶接部材100と異なる。その他、溶接部材100aの基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と共通する構成については同一符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と相違する構成を中心に説明する。
【0047】
[2-1.構成]
図9Cに示すように、調整溶接部CWは、第1部品1と第2部品2とが重なる部分、具体的には、中心軸Aに沿った方向において、サブ溶接部SW及びメイン溶接部MWが形成される位置と同じ位置に形成される。調整溶接部CWは、第1部品1と第2部品2との外周面を周回する溶接経路が部分的に溶接されることにより形成される。
図10Aに示すように、本実施形態では、調整溶接部CWの形状は、周方向に沿って所定の長さ延びる線状であり、調整溶接部CWは、例えば、アーク溶接により1つ形成される。調整溶接部CWは、2つのサブ溶接部SWの形成後のメイン溶接部MWの形成により生じる方向への熱歪みと反対の方向への熱歪みを発生可能な溶接経路上の位置に配置される。
【0048】
[2-2.溶接部材の製造方法]
次に、溶接部材100aの製造方法について、
図9A~
図9C及び
図10Aを用いて説明する。具体的には、溶接部材100aの製造方法に含まれる第1部品1と第2部品2との溶接方法について説明する。
【0049】
まず、第1部品1の一方の端部側の開口に第2部品2の端部を挿入して、第1部品1及び第2部品2を接続する。そして、
図9A及び
図10Aに示すように、中心軸Aを中心として対向する2つのサブ溶接部SWが形成されるように、第1部品1と第2部品2とを周方向において部分的に溶接する。
【0050】
次に、
図9B及び
図10Aに示すように、サブ溶接部SWの形成後に、当該サブ溶接部SWの上に重ねてメイン溶接部MWが形成されるように、周方向に沿って、第1部品1と第2部品2とを全周溶接する。
【0051】
次に、
図9C及び
図10Aに示すように、メイン溶接部MWの形成後に、当該メイン溶接部MWの上に重ねて調整溶接部CWが形成されるように、更に第1部品1と第2部品2とを周方向において部分的に溶接する。このとき、2つのサブ溶接部SWの形成後のメイン溶接部MWの形成により生じる第1方向D1又は第2方向D2への熱歪みと反対の方向への熱歪みを発生可能な溶接経路上の位置に、調整溶接部CWを形成する。
【0052】
具体的には、
図10A~
図10Dに示すように、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが直線Lよりも第1方向D1側の第1溶接経路上に配置される場合は、調整溶接部CWを、直線Lよりも第2方向D2側の第2溶接経路上の略中央に配置させる。これにより、メイン溶接部MWの形成により生じる第1方向D1への熱歪みが、調整溶接部CWの形成により生じる第2方向D2への熱歪みによって相殺されやすくなる。
【0053】
また、
図10Eに示すように、メイン溶接部MWの溶接終始点Sが直線Lよりも第2方向D2側の第2溶接経路上に配置される場合は、調整溶接部CWを、直線Lよりも第1方向D1側の第1溶接経路上の略中央に配置させる。これにより、メイン溶接部MWの形成により生じる第2方向D2への熱歪みが、調整溶接部CWの形成により生じる第1方向D1への熱歪みによって相殺されやすくなる。
【0054】
上述したように、メイン溶接部MWの形成後に、調整溶接部CWを形成し、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールすることで、溶接部材100aの熱歪みが抑制される。
【0055】
[2-3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)第2実施形態では、2つのサブ溶接部SW及びメイン溶接部MWの形成後に、溶接部材100aが熱歪みする第1方向D1又は第2方向D2と反対の方向に溶接部材100aを熱歪みさせる調整溶接部CWが形成される。このため、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる変形を、調整溶接部CWにおいて生じる変形によって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0056】
[2-4.他の実施形態]
以上、本開示の第2実施形態について説明したが、本開示は、上記第2実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0057】
(4a)上記第2実施形態では、サブ溶接部SWが2つ形成されていたが、サブ溶接部の数はこれに限定されるものではない。
例えば、
図11に示すように、サブ溶接部SWが1つも形成されていなくてもよい。具体的には、メイン溶接部MWの形成前に、サブ溶接部SWが形成されない構成であってもよい。すなわち、メイン溶接部MW及び調整溶接部CWが形成されていてもよい。この場合、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。このため、調整溶接部CWは、当該調整溶接部CWの周方向における中心点が、中心軸Aに沿って見たとき、溶接終始点Sに対し、周方向において略180°隔てて配置される。具体的には、調整溶接部CWの周方向における中心点は、溶接終始点S及び中心軸Aを結ぶ直線の延長線上に配置される。すなわち、調整溶接部CWと溶接終始点Sとは、中心軸Aを中心として対向する。これにより、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みを、調整溶接部CWにおいて生じる当該方向と反対の方向への熱歪みによって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0058】
また、例えば、
図12に示すように、サブ溶接部SWが1つ形成されていてもよい。具体的には、1つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成され、更にその後、調整溶接部CWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接終始点Sと1つのサブ溶接部SWとの溶接経路上における相対的な位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向へ熱歪みが生じる。このため、調整溶接部CWと溶接終始点Sとは、中心軸Aを中心として対向するように配置される。これにより、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みを、調整溶接部CWにおいて生じる当該方向と反対の方向への熱歪みによって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0059】
また、例えば、
図13A及び
図13Bに示すように、サブ溶接部SWが3つ周方向に沿って等間隔に並ぶように形成されていてもよい。具体的には、3つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成され、更にその後、調整溶接部CWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接経路上における溶接終始点Sの位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向へ熱歪みが生じる。このため、調整溶接部CWと溶接終始点Sとは、中心軸Aを中心として対向するように配置される。これにより、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みを、調整溶接部CWにおいて生じる当該方向と反対の方向への熱歪みによって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0060】
また、例えば、
図14A及び
図14Bに示すように、サブ溶接部SWが4つ周方向に沿って等間隔に並ぶように形成されていてもよい。具体的には、4つのサブ溶接部SWの形成後、メイン溶接部MWが形成され、更にその後、調整溶接部CWが形成されてもよい。この場合も、メイン溶接部MWの形成により、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みが生じる。なお、溶接経路上における溶接終始点Sの位置が変わった場合でも、中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向へ熱歪みが生じる。このため、調整溶接部CWと溶接終始点Sとは、中心軸Aを中心として対向するように配置される。これにより、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる中心軸Aから溶接終始点Sに向かう方向への熱歪みを、調整溶接部CWにおいて生じる当該方向と反対の方向への熱歪みによって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0061】
(4b)上記第2実施形態では、メイン溶接部MWは、全周溶接により形成されていたが、メイン溶接部を形成する方法はこれに限定されるものではない。例えば、メイン溶接部は、部材の外周面を周回する溶接経路のうちの所定の長さの区間が溶接されることにより形成されてもよい。具体的には、
図15に示すように、中心軸Aに直交する断面において、メイン溶接部MWaの形状は、溶接経路が閉じない円弧であってもよい。調整溶接部CWの周方向の長さは、円弧状のメイン溶接部MWの周方向の長さよりも短い。
【0062】
円弧状の溶接では、溶接部の溶接開始点から、溶接部における周方向の略中央までの範囲に位置する点において、溶接の熱が溶接対象物に伝わる時間が長くなるため、熱容量が増加しやすい。円弧状のメイン溶接部MWaでは、メイン溶接部MWaの溶接開始点S1aから、メイン溶接部MWaにおける周方向の略中央までの範囲に位置する変形点Tが、メイン溶接部MWaにおいて生じる変形の中心となる位置である。メイン溶接部の溶接開始点から、メイン溶接部における周方向の略中央までの範囲は、例えばメイン溶接部の周方向の角度が360度であるときは溶接開始点から略180度の範囲であり、メイン溶接部の周方向の角度が180度であるときは溶接開始点から略90度の範囲である。このため、
図15に示すように、サブ溶接部SWを有せず、メイン溶接部MWaが形成後、調整溶接部CWが形成される場合では、当該メイン溶接部MWaにより、中心軸Aから変形点Tに向かう方向への熱歪みが生じる。このため、調整溶接部CWと変形点Tとは、中心軸Aを中心として対向するように配置される。これにより、溶接部材100aの曲がる方向をコントロールして、メイン溶接部MWにおいて生じる中心軸Aから変形点Tに向かう方向への熱歪みを、調整溶接部CWにおいて生じる当該方向と反対の方向への熱歪みによって相殺させることができる。したがって、溶接部材100aの熱歪みを抑制することができる。
【0063】
なお、便宜上、
図15において、変形点Tをメイン溶接部MWaの中心となる位置に図示している。しかし、変形点Tは、メイン溶接部MWaの溶接開始点S1aから、メイン溶接部MWaにおける周方向の略中央までの範囲において変形の中心となる位置であれば、当該中心となる位置に限られない。また、溶接開始点S1aの位置は、
図15に図示する位置に限定されず、円弧の他方の端部に位置してもよい。
【0064】
(4c)上記第2実施形態では、調整溶接部CWの形状が線状であったが、調整溶接部の形状はこれに限定されるものではない。例えば、調整溶接部は、点状に形成されていてもよい。
【0065】
(4d)上記第2実施形態では、調整溶接部CWは1つであったが、例えば、調整溶接部は複数形成されていてもよい。
【0066】
[3.第1実施形態及び第2実施形態において共通する他の実施形態]
(5a)上記各実施形態では、サブ溶接部SWの形状が点状であったが、サブ溶接部の形状はこれに限定されるものではない。例えば、サブ溶接部は、周方向に沿って延びる線状に形成されていてもよい。例えば、
図16に示すように、線状に形成されたサブ溶接部SWaが複数設けられる場合、各サブ溶接部SWaは、重ならないように互いに間隔を空けて、等間隔に並ぶように配置されてもよい。
図16に示す3つのサブ溶接部SWaは、周方向の長さが同一であってもよい。また、例えば、
図17に示すように、重ならないように互いに間隔を空けて並ぶ3つのサブ溶接部SWb1~SWb3は、周方向の長さが異なってもよい。
【0067】
また、複数のサブ溶接部が設けられる場合、複数のサブ溶接部は、等間隔に配置されていなくてもよい。また、例えば、点状のサブ溶接部及び線状のサブ溶接部の両方が設けられてもよい。
【0068】
(5b)上記各実施形態では、メイン溶接部は、周方向における一度の動作により全周溶接が行われていたが、例えば、全周溶接は、複数回に分けて溶接することにより行われてもよい。例えば、
図18に示すように、2つのサブ溶接部SWの形成後、各溶接開始点S1,S2が重なるように、2回に分けた溶接によりメイン溶接部MWbが形成されてもよい。この場合も、直線Lよりも第1方向D1側の第1溶接経路上に各溶接開始点S1,S2が配置されるようにメイン溶接部MWbを形成することで、第1方向D1への熱歪みを生じさせることができる。なお、図示は省略するが、メイン溶接部MWbの形成後、直線Lよりも第2方向D2側の第2溶接経路上の略中央に調整溶接部CWを形成してもよい。これにより、メイン溶接部MWの形成により生じる第1方向D1への熱歪みが、調整溶接部CWの形成により生じる第2方向D2への熱歪みによって相殺することができる。
【0069】
(5c)上記各実施形態では、第1部品1及び第2部品2は、第1部品1の一方の端部側の開口に第2部品2の端部が挿入された状態で接続されていた。しかし、例えば、第1部品及び第2部品は、第1部品の一方の端部と第2部品の端部とが突き合わされた状態で接続されていてもよい。この場合、サブ溶接部、メイン溶接部及び調整溶接部は、第1部品と第2部品とが接続される部分に形成される。
【0070】
また、第1部品1及び第2部品2は、第2部品2の一方の端部側の開口に第1部品1の端部が挿入されてもよい。
【0071】
(5d)上記各実施形態では、第1部品1及び第2部品2が円筒状の部品であったが、第1部品及び第2部品の形状はこれに限定されるものではない。例えば、第1部品及び第2部品は、円以外の形状の筒状の部品であってもよいし、中実の部品であってもよい。中実の部品は、板状、ブロック状、柱状等であってもよい。
【0072】
(5e)上記各実施形態では、溶接部材100の中心軸Aは直線状に延びていたが、例えば、溶接部材の中心軸は曲がっていてもよい。
【0073】
(5f)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0074】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
第1部品及び第2部品が溶接された溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品及び前記第2部品が並ぶ方向に延びる当該溶接部材の軸を中心とする周方向に延びるメイン溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを備え、
前記メイン溶接部は、溶接開始点から溶接終了点まで延び、
前記メイン溶接部の前記溶接開始点から、前記メイン溶接部における前記周方向の略中央までの範囲に位置し、前記メイン溶接部において生じる変形への寄与度が高い位置を、変形点とし、
前記変形点は、当該溶接部材を熱歪みさせる方向に寄与する位置に配置される、溶接部材の製造方法。
【0075】
[項目2]
項目1に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品に対し前記第2部品を仮固定するためのサブ溶接部が1つ以上形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを更に備え、
前記メイン溶接部は、前記サブ溶接部の形成後に形成される、溶接部材の製造方法。
【0076】
[項目3]
項目2に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記サブ溶接部は、2つ又は3つ形成される、溶接部材の製造方法。
【0077】
[項目4]
項目3に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記サブ溶接部は、2つ形成され、
2つの前記サブ溶接部は、前記周方向において互いに略180°隔てて配置される、溶接部材の製造方法。
【0078】
[項目5]
項目2から項目4までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記メイン溶接部は、全周溶接により形成され、
前記メイン溶接部の前記溶接開始点は、前記サブ溶接部と重ならない位置に配置される、溶接部材の製造方法。
【0079】
[項目6]
項目5に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記変形点は、前記メイン溶接部の前記溶接開始点及び前記溶接終了点である溶接終始点である、溶接部材の製造方法。
【0080】
[項目7]
項目2から項目5までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記第1部品及び前記第2部品は、筒状の部品であり、
前記第1部品に前記第2部品の端部が挿入され、
前記メイン溶接部及び前記サブ溶接部は、前記第1部品と前記第2部品とが重なる部分に形成される、溶接部材の製造方法。
【0081】
[項目8]
項目1から項目7までのいずれか1項に記載の溶接部材の製造方法であって、
前記メイン溶接部の形成後に、当該溶接部材が熱歪みする方向と反対の方向に当該溶接部材を熱歪みさせる調整溶接部が形成されるように、前記第1部品と前記第2部品とを溶接することを更に備える、溶接部材の製造方法。
【符号の説明】
【0082】
1…第1部品、2…第2部品、100,100a…溶接部材、A…中心軸、CW…調整溶接部、L…直線、MW,MWa,MWb…メイン溶接部、S…溶接終始点、S1,S1a,S2…溶接開始点、SW,SWa,SWb1~SWb3…サブ溶接部、T…変形点。