(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153362
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】抗ウイルス組成物、抗ウイルス製品及び塗膜
(51)【国際特許分類】
A01N 37/06 20060101AFI20241022BHJP
C09D 201/08 20060101ALI20241022BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20241022BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20241022BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241022BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20241022BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20241022BHJP
C08L 101/08 20060101ALI20241022BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241022BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20241022BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241022BHJP
A01N 61/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
A01N37/06
C09D201/08
C09D129/04
C09D133/02
C09K3/00 S
A01P1/00
A01N31/02
C08L101/08
C08L29/04 B
C08L33/02
C08L101/00
A01N61/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067201
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB03
4H011BB06
4H011BB19
4H011DH02
4J002AA01Y
4J002AA06W
4J002BE02X
4J002BG01W
4J002GC00
4J002GH01
4J002GL00
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4J038CE021
4J038CE022
4J038CG031
4J038MA08
4J038MA14
4J038NA27
4J038PA18
4J038PB01
4J038PB02
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】高い抗ウイルス効果を持続できる抗ウイルス製品を製造できる抗ウイルス組成物、抗ウイルス製品及び塗膜を提供する。
【解決手段】カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を有する複合体を含み、60℃の水中に4重量%の濃度で溶解し1時間撹拌した後の溶出率が30重量%以下である、抗ウイルス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を有する複合体を含み、
60℃の水中に4重量%の濃度で溶解し1時間攪拌した後の溶出率が30重量%以下である、抗ウイルス組成物。
【請求項2】
前記複合体が前記カルボン酸系樹脂と前記ビニルアルコール系樹脂との架橋体を含む、請求項1に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項3】
前記ビニルアルコール系樹脂の架橋度が10モル%以上である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項4】
前記ビニルアルコール系樹脂の重合度が300以上5000以下である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項5】
前記ビニルアルコール系樹脂のケン化度が60モル%以上99.8モル%以下である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項6】
前記ビニルアルコール系樹脂が変性ポリビニルアルコールである、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項7】
前記カルボン酸系樹脂がポリアクリル酸である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
金属及び金属塩の合計含有量が0.001重量%以下である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項9】
金属及び金属塩を含まない、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物及び基材を含有する、抗ウイルス製品。
【請求項11】
25℃の水に17時間浸漬後の抗ウイルス活性値が2.0以上である、請求項10に記載の抗ウイルス製品。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物を含む、塗膜。
【請求項13】
25℃の水に17時間浸漬後の抗ウイルス活性値が2.0以上である、請求項12に記載の塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス組成物、及び、該抗ウイルス組成物を含む抗ウイルス製品及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス等の様々なウイルス等による感染症は、人間の生命を脅かすことから、世界的にその対策が急がれている。このような観点から、抗ウイルス性の材料の需要は高まる一方であり、あらゆる製品において抗ウイルス性が求められている。
【0003】
このような抗ウイルス性を有する材料としては、例えば、特許文献1のようにカルボキシル基を有するビニル系重合体からなる抗ウイルス粒子等が知られている。特許文献1では、所定量のH型カルボキシル基及び架橋構造を有するビニル系共重合体はインフルエンザウイルスに対して高い不活性化機能を発揮するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カルボン酸系化合物を含む抗ウイルス材料は、例えば、壁紙等とした際の抗ウイルス効果の持続性に問題がある。
【0006】
本発明は、高い抗ウイルス効果を持続できる抗ウイルス製品を製造できる抗ウイルス組成物、抗ウイルス製品及び塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示(1)は、カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を含有する複合体を含み、60℃の水に4重量%の濃度で溶解し1時間撹拌した後の溶出率が30重量%以下である、抗ウイルス組成物である。
本開示(2)は、前記複合体が前記カルボン酸系樹脂と前記ビニルアルコール系樹脂との架橋体を含む、本開示(1)の抗ウイルス組成物である。
本開示(3)は、前記ビニルアルコール系樹脂の架橋度が10モル%以上である、本開示(1)又は(2)の抗ウイルス組成物である。
本開示(4)は、前記ビニルアルコール系樹脂の重合度が300以上5000以下である、本開示(1)~(3)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(5)は、前記ビニルアルコール系樹脂のケン化度が60モル%以上99.8モル%以下である、本開示(1)~(4)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(6)は、前記ビニルアルコール系樹脂が変性ポリビニルアルコールである、本開示(1)~(5)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(7)は、前記カルボン酸系樹脂がポリアクリル酸である、本開示(1)~(6)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(8)は、金属又は金属塩の含有量が0.001重量%以下である、本開示(1)~(7)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(9)は、金属又は金属塩を含まない、本開示(1)~(8)の何れかとの任意の組み合わせの抗ウイルス組成物である。
本開示(10)は、本開示(1)~(9)の何れかの抗ウイルス組成物及び基材を含有する、抗ウイルス製品である。
本開示(11)は、25℃の水に17時間浸漬後の抗ウイルス活性値が2.0以上である、本開示(10)の抗ウイルス製品である。
本開示(12)は、本開示(1)~(9)の何れかの抗ウイルス組成物を含む、塗膜である。
本開示(13)は、25℃の水に17時間浸漬後の抗ウイルス活性値が2.0以上である、本開示(12)の塗膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を有する複合体を用いることで、カルボン酸系樹脂が水やアルコール等に溶出することを抑えることができることを見出した。更に、カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を有する複合体について、60℃の水中に4重量%の濃度で1時間撹拌した後の溶出率が30重量%以下であることで、水やアルコールといった水系溶剤と接触した際にも高い抗ウイルス効果を持続できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
ここで、ウイルスは、細胞に入り込み細胞が増殖するための要素を利用して増殖するものであり自己増殖するものではなく、「抗ウイルス」とは病原体ウイルスを不活化して感染力を失わせる、あるいは、感染力を低下させ、感染しても細胞中で増殖できない状態とすることを意味する。一方、細菌は適度な栄養や水分により細胞分裂して自己増殖するものであり、「抗菌」とは細菌の増殖を抑制することを意味し、両者は全く異なるものである。
なお、抗ウイルス効果とは、ウイルスの細胞への感染力を失わせる、あるいは、感染力を低下させ、感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。
【0010】
上記抗ウイルス組成物は、カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂を含有する複合体を含む。
上記複合体を含むことで、カルボン酸系樹脂が水やアルコール等に溶出することを抑えることができる。
【0011】
上記複合体は、上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂の混合樹脂を含むものであってもよく、上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂が結合した複合樹脂を含むものであってもよく、これらの両方を含むものであってもよい。
また、上記複合樹脂は、上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂の主鎖を構成する構成単位が共重合した共重合体であってもよく、直鎖状に結合したブロック共重合体であってもよく、主鎖を構成する上記カルボン酸系樹脂又は上記ビニルアルコール系樹脂に、該主鎖とは異なる樹脂であって側鎖を構成する上記カルボン酸系樹脂又は上記ビニルアルコール系樹脂が分岐状に結合したグラフト共重合体であってもよい。また、上記カルボン酸系樹脂と上記ビニルアルコール系樹脂とが架橋構造を形成した架橋体であってもよい。更に、これらを複数組み合わせたものであってもよい。
なかでも、抗ウイルス効果の持続性をより高めることができることから、上記複合体は、上記カルボン酸系樹脂と上記ビニルアルコール系樹脂との架橋体を含むことが好ましく、上記カルボン酸系樹脂と上記ビニルアルコール系樹脂との架橋体であることがより好ましい。
【0012】
上記複合体は、上記カルボン酸系樹脂を含有する。
上記カルボン酸系樹脂を含有することで、抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0013】
上記カルボン酸系樹脂は、エチレン性不飽和二重結合を有する不飽和カルボン酸に由来する構成単位を有する重合体を意味する。
上記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
なかでも、上記カルボン酸系樹脂は、抗ウイルス効果の観点から、アクリル酸に由来する構成単位を有することが好ましい。
【0014】
上記カルボン酸系樹脂は、エチレン性不飽和二重結合を有する他の不飽和単量体に由来する構成単位を有していてもよい。
上記他の不飽和単量体としては、スチレン、αーメチルスチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体;塩化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2ーエチルヘキシル、メタクリル酸2ーエチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。
【0015】
上記カルボン酸系樹脂は、上記他の不飽和単量体に由来する構成単位を有するものであってもよく、上記不飽和カルボン酸に由来する構成単位からなるものであってもよい。なかでも、抗ウイルス効果の観点から、上記不飽和カルボン酸に由来する構成単位からなるものであることが好ましく、アクリル酸に由来する構成単位からなるポリアクリル酸であることがより好ましい。
【0016】
上記カルボン酸系樹脂における上記不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、10モル%以上であることが好ましく、100モル%以下であることが好ましい。また、上記カルボン酸系樹脂における上記不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、100モル%であることがより好ましい。
【0017】
上記カルボン酸系樹脂におけるアクリル酸に由来する構成単位の含有量は、10モル%以上であることが好ましく、100モル%以下であることが好ましい。また、上記カルボン酸系樹脂におけるアクリル酸に由来する構成単位の含有量は、抗ウイルス効果の観点から、100モル%であることがより好ましい。
上記カルボン酸系樹脂における各単量体に由来する構成単位の含有量は、カルボン酸系樹脂を作製する際の各単量体の配合比から求めることができる。
【0018】
上記カルボン酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000以上であることが好ましく、100000以上であることがより好ましく、1000000以下であることが好ましく、500000以下であることがより好ましい。
上記重量平均分子量(Mw)は、例えば、GPCにより測定することができる。
【0019】
上記カルボン酸系樹脂におけるカルボキシル基の含有量は、10重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。
上記カルボキシル基の含有量は、カルボン酸系樹脂中のCOOHの重量割合を意味し、カルボン酸系樹脂を作製する際の各単量体の配合比及び各単量体中のカルボキシル基の割合から求めることができる。
【0020】
上記複合体における上記カルボキシル基量は、10モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましい。
上記カルボキシル基の含有量は、複合体中のカルボン酸系樹脂の含有量(モル%)を意味し、カルボン酸系樹脂の分子量、含有量、ビニルアルコール系樹脂の重合度、含有量から求めることができる。
【0021】
上記抗ウイルス組成物における上記カルボン酸系樹脂の含有量は、15重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。上限としては例えば、90重量%以下である。
【0022】
上記抗ウイルス組成物の表面pHは5.0以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。
上記表面pHは抗ウイルス組成物の表面をpH計を用いて測定することで得ることができる。
【0023】
上記カルボン酸系樹脂を作製する方法は特に限定されない。
例えば、上記不飽和カルボン酸等を含む原料モノマー組成物に有機溶剤等を加えてモノマー混合液を調製し、更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して上記原料モノマー組成物を重合させる方法が挙げられる。
重合させる方法は特に限定されない。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、界面重合法、溶液重合法等が挙げられる。
【0024】
上記複合体は、ビニルアルコール系樹脂を含有する。
上記ビニルアルコール系樹脂を含有することで、水やアルコール等と接触した際にも抗ウイルス効果の持続性を向上することができる。
【0025】
上記ビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル単位及びビニルアルコール単位からなるポリビニルアルコールであってもよく、更に他の構成単位を含む変性ポリビニルアルコールであってもよく、これらの両方を含むものであってもよい。
上記ビニルアルコール系樹脂が変性ポリビニルアルコールであることにより、加工性が向上させたり、耐水性を向上させたりすることができる。
【0026】
上記ビニルアルコール系樹脂の重合度は、耐水性及び加工特性の観点から、300以上であることが好ましく、5000以下であることが好ましい。
上記ビニルアルコール系樹脂の重合度は、500以上であることがより好ましく、3000以下であることがより好ましい。
なお、上記重合度は、JIS K6726に準拠して測定される。
【0027】
上記ビニルアルコール系樹脂のケン化度は、60.0モル%以上であることが好ましく、99.8モル%以下であることが好ましい。
上記ビニルアルコール系樹脂のケン化度が60.0モル%以上であると、上記カルボン酸系樹脂との間で架橋構造が形成しやすくなり、抗ウイルス効果の持続性を向上させることができる。また、ケン化度が99.8モル%以下であると加工性が良好なものとできる。
上記ビニルアルコール系樹脂のケン化度は、80.0モル%以上であることがより好ましく、99.5モル%以下であることがより好ましい。
上記ケン化度は、JIS K6726に準拠して測定される。ケン化度は、ケン化によるビニルアルコール単位に変換される単位のうち、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を示す。
上記ケン化度の調整方法は特に限定されない。ケン化度は、ケン化条件、すなわち加水分解条件により適宜調整可能である。
【0028】
上記ビニルアルコール系樹脂は、変性ポリビニルアルコールを含んでいてもよい。
変性ポリビニルアルコールとしては、スルホン酸基、アミノ基、ピロリドン環基等の変性基を有する構成単位やエチレン単位等の変性構造のうちの少なくとも1つを有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0029】
上記変性ポリビニルアルコールにおける上記変性構造の割合は、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、50モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましい。
上記変性構造の割合は、上記変性ポリビニルアルコールの全構成単位のモル数に対する上記エチレン単位等の変性構造のモル数の割合を意味する。
上記変性構造の割合は、例えば、NMRにより測定することができる。
【0030】
上記複合体における上記ビニルアルコール系樹脂の構成単位量は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましい。
上記ビニルアルコール系樹脂の構成単位量は、複合体中のビニルアルコール系樹脂の含有量(モル%)を意味し、カルボン酸系樹脂の分子量、含有量、ビニルアルコール系樹脂の重合度、含有量から求めることができる。
【0031】
上記抗ウイルス組成物における上記ビニルアルコール系樹脂の含有量は、1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、90重量%以下であることが好ましく、85重量%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、上記複合体が上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂の架橋体を含む場合、上記ビニルアルコール系樹脂の架橋度は10モル%以上であることが好ましい。
上記架橋度が10モル%以上であると、抗ウイルス効果の持続性をより向上することができる。
上記ビニルアルコール系樹脂の架橋度は、20モル%以上が好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、80モル%以下である。
なお、上記架橋度は、上記ビニルアルコール系樹脂の側鎖の官能基に対するアセチル基以外のエステル結合の割合を意味し、例えば、ゲルNMRにより測定することができる。
【0033】
上記ビニルアルコール系樹脂を作製する方法は特に限定されない。
例えば、ビニルエステルを重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化、すなわち加水分解する方法が挙げられる。ケン化には、一般にアルカリ又は酸が用いられる。
【0034】
上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0035】
上記ビニルエステルの重合方法は特に限定されない。この重合方法として、溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等が挙げられる。
【0036】
上記ビニルエステルを重合する際に用いる重合触媒としては、例えば、2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-ブチルペルオキシジカーボネート、ジ-セチルペルオキシジカーボネート及びジ-s-ブチルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。上記重合触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記ビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステルと他の不飽和モノマーとの重合体をケン化したものであってもよい。
他の不飽和モノマーとしては、上記ビニルエステル以外のモノマーであって、ビニル基等の不飽和二重結合を有するモノマーが挙げられる。具体的には、例えば、オレフィン類、(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸類の塩及びエステル、(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルアミド類、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、アリル化合物、ビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル、スルホン酸基含有化合物、アミノ基含有化合物等が挙げられる。
【0038】
オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン及びイソブテン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸類の塩及びエステルとしては、マレイン酸、イタコン酸、メチレンマロン酸等の塩及びエステル等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミド類としては、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
N-ビニルアミド類としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル及びn-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。
ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。アリル化合物としては、酢酸アリル及び塩化アリル等が挙げられる。
ビニルシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
スルホン酸基含有化合物としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の(メタ)アクリルアミドアルカンスルホン酸及びその塩、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩等が挙げられる。
アミノ基含有化合物としては、アリルアミン、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0039】
上記抗ウイルス組成物は、上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂に加えて、その他の樹脂を含有してもよい。このような樹脂を併用することで、接着性、柔軟性、耐久性等を付与することができる。
上記その他の樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール(ブチラール樹脂等)、セルロース類、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、レーヨン、ナイロン、アラミド等が挙げられる。
【0040】
上記抗ウイルス組成物が、その他の樹脂を含有する場合、上記カルボン酸系樹脂及び上記ビニルアルコール系樹脂の合計含有量は特に限定されないが、0.1重量%以上が好ましく、50重量%以上が好ましい。上記合計含有量を0.1重量%以上とすることで、効果の即効性を高く保つことができ、50重量%以下とすることで、アルカリ性が強くない範囲で安全に使用することができる。
上記合計含有量は、0.5重量%以上がより好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0041】
上記抗ウイルス組成物には、必要に応じて、可塑剤、顔料、界面活性剤、滑剤、酸化防止剤、密着性付与剤のような添加剤を添加してもよい。
【0042】
また、抗ウイルス組成物の黄変を防ぐという利点があることから、上記抗ウイルス組成物における金属及び金属塩の合計含有量は0.01重量%以下であることが好ましい。
上記金属及び金属塩の合計含有量は0.001重量%以下であることがより好ましい。
また、抗ウイルス組成物の黄変を防ぐという利点があることから、上記抗ウイルス組成物は金属及び金属塩を含まないことが更に好ましい。
【0043】
上記抗ウイルス組成物は、抗ウイルス活性値が2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。
これにより、高い抗ウイルス効果を実現することが可能となる。
なお、上記抗ウイルス活性値は、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ブランク品(抗ウイルス無加工品)のウイルス感染価の常用対数値と抗ウイルス加工品のウイルス感染価の常用対数値との差を算出することで求められる。
【0044】
抗ウイルス組成物は、抗ウイルス組成物の作用によって、各種ウイルスに対して抗ウイルス効果を有し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対して優れた抗ウイルス効果を発揮する。
【0045】
エンベロープウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス[例えば、SARSウイルス、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)]、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルスなどが挙げられる。
【0046】
ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、ネコカリシウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【0047】
上記抗ウイルス組成物は、60℃の水中に4重量%の濃度で溶解し1時間撹拌した後の溶出率が30重量%以下である。
上記範囲とすることで、抗ウイルス効果の持続性を向上させることができる。
上記溶出率は20重量%以下であることがより好ましい。上記溶出率の下限は特に限定されず、例えば、0重量%以上である。
なお、上記溶出率は、例えば、上記抗ウイルス組成物を60℃の水中に4重量%の濃度で溶解し1時間撹拌した後、水から取り出して乾燥し、浸漬前の重量と浸漬後の重量を測定し、その減少率により求めることができる。
上記溶出率は、抗ウイルス組成物を作製する際の乾燥時間や乾燥温度等の乾燥条件、樹脂成分の配合比、カルボン酸系樹脂の分子量、ビニルアルコール系樹脂の重合度、ケン化度、変性種等により調整することができる。
【0048】
上記抗ウイルス組成物を作製する方法としては、例えば、上記カルボン酸系樹脂、上記ビニルアルコール系樹脂、及び、必要に応じて添加される添加剤とを水等の溶剤に加えて混合し、加熱して乾燥する方法が挙げられる。
【0049】
乾燥する際の温度は、60℃以上であることが好ましい。上記範囲とすることで、抗ウイルス組成物の溶出率を低減することができる。
また、乾燥する際の温度は、100℃以上であることがより好ましい。上記範囲とすることで、上記カルボン酸系樹脂と上記ビニルアルコール系樹脂との架橋を促進して、溶出率をより低減することができる。
乾燥する際の温度の上限は特に限定されず、例えば、200℃である。
【0050】
乾燥時間は、30分以上が好ましく、60分以上がより好ましく、180分以下が好ましく、120分以下がより好ましい。
上記範囲とすることで、溶出率を低減することができる。
【0051】
上記抗ウイルス組成物の形態としては、特に限定されるものではなく、繊維、不織布等の布帛、メッシュ、フィルム、塗膜、シート状、塊状、粒子状、棒状、板状、スポンジ状、溶液状、塗料、ゲル状、クリーム状等の各種形状が挙げられる。なかでも、不織布等の布帛、シート状、塗膜、粒子状が好ましい。また、水又はアルコール等の有機溶剤及び水の混合物に、溶解又は分散させ、スプレーする方法も好ましく使用できる。
【0052】
上記抗ウイルス組成物の形態が粒子状である場合、粒子状の抗ウイルス組成物のD90粒子径は、2μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましく、3μm以上が更に好ましく、3.5μm以上が更により好ましく、25μm以下が好ましく、22μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましく、18μm以下が更により好ましく、16μm以下が特に好ましく、14μm以下が特により好ましく、12μm以下が最も好ましい。D90粒子径が2μm以上であると、抗ウイルス組成物全体の表面積が小さくなり、凝集性が低減され、抗ウイルス組成物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、抗ウイルス性が向上する。D90粒子径が25μm以下であると、抗ウイルス組成物の凝集を防止し且つ表面積を増加させてウイルスとの接触を容易にして、抗ウイルス組成物の抗ウイルス効果を向上させることができる。
【0053】
粒子状の抗ウイルス組成物のD50粒子径は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、1.5μm以上が更に好ましく、2.0μm以上が更により好ましく、14μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、11μm以下が更に好ましい。
【0054】
粒子状の抗ウイルス組成物において、D50粒子径を上記の範囲、好ましくは0.5~14μmとし、かつ、D90粒子径を上記の範囲とすることによって、抗ウイルス組成物中にD50粒子径から大きく離れた粒子径を有する粗大粒子が含まれることを低減することができる。
また、抗ウイルス組成物の粒子径をより適正な範囲に調整することによって、抗ウイルス組成物の抗ウイルス効果を効果的に発現させることができる。
【0055】
上記D90粒子径及びD50粒子径はそれぞれ、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%及び50%となる粒子径(90%累積粒子径及び50%累積粒子径)をいう。抗ウイルス組成物が複数種類の抗ウイルス組成物を含む場合、抗ウイルス組成物のD90粒子径及びD50粒子径は、抗ウイルス組成物全体を基準として測定された値とする。
【0056】
また、上記抗ウイルス組成物の用途としては、壁紙、床材、カーテン、衣類、洗濯糊、柔軟剤、石鹸、ごみ箱、食品包装材、絆創膏、包帯、フィルター(空気清浄器)、寝具(毛布、布団、シーツ)、座席用シート(カーシート、列車シート、航空機シート)、スポンジ(清掃用、食器洗い、ろ過材)、おむつ、清掃用具、汚染拡散防止材、スプレー、ウェットティッシュ等が挙げられる。
【0057】
上記抗ウイルス組成物は、抗ウイルス効果を付与したい基材に含有させて用いられてもよい。上記抗ウイルス組成物を含有する基材は、抗ウイルス製品として抗ウイルス効果を発現する。
上記抗ウイルス組成物及び基材を含有する抗ウイルス製品もまた本発明の1つである。
【0058】
抗ウイルス組成物を含有させる基材としては、抗ウイルス組成物を含有させることができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、塗料、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0059】
塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料(例えば、調合ペイント、油ワニスなど)、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。塗料には、紫外線などの放射線の照射によって重合してバインダー成分を生成する光硬化性塗料も含まれる。
【0060】
塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、塗料中に抗ウイルス組成物を含有させる方法としては、例えば、抗ウイルス組成物と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0061】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0062】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【0063】
上記抗ウイルス製品は、上記抗ウイルス組成物を被塗工物に塗工して、乾燥した塗膜であってもよい。
上記抗ウイルス組成物を含む塗膜もまた本発明の1つである。
上記塗膜では、被塗工物に対して容易にかつ広範囲に抗ウイルス性を付加することが可能となる。なお、上記塗膜には、抗ウイルス組成物を含有するシートも含まれる。
上記塗膜を作製する方法としては、上記抗ウイルス組成物をコーティング、スプレー等で被塗工物に塗工した後、乾燥する方法等が挙げられる。
上記被塗工物としては、紙、金属、プラスチックなどの材質に使用でき、シート、フィルム等の平坦面やドアノブ、つり革、手すり等の平坦でない面にも使用できる。
【0064】
上記抗ウイルス組成物を含む抗ウイルス製品は、抗ウイルス活性値が2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。
これにより、高い抗ウイルス効果を実現することが可能となる。
なお、上記抗ウイルス活性値は、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ブランク品(抗ウイルス加工剤の無添加品)のウイルス感染価の常用対数値と加工品(抗ウイルス加工剤の添加品)のウイルス感染価の常用対数値との差を算出することで求められる。
【0065】
また、上記抗ウイルス組成物を含む抗ウイルス製品は、25℃の水に17時間浸漬した後の抗ウイルス活性値が2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。
これにより、抗ウイルス効果の持続性を実現することが可能となる。
なお、上記抗ウイルス活性値は、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ブランク品(抗ウイルス加工剤の無添加品)のウイルス感染価の常用対数値と加工品(抗ウイルス加工剤の添加品)のウイルス感染価の常用対数値との差を算出することで求められる。
【0066】
上記抗ウイルス組成物を含む抗ウイルス製品は、25℃の水に17時間浸漬する前後の抗ウイルス活性値の減少率が60%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
上記減量率は以下の式に基づいて算出できる。
減少率=(浸漬前の抗ウイルス製品の抗ウイルス活性値-浸漬後の抗ウイルス製品の抗ウイルス活性値)/(浸漬前の抗ウイルス製品の抗ウイルス活性値)×100
【0067】
また、上記抗ウイルス組成物は、粒子状として使用する場合は、抗ウイルス性を短期間で発現することができ、取扱性、安全性に優れるほか、溶媒に分散、溶解等させることで少量でも優れた抗ウイルス性を発現することができる。
【0068】
上記抗ウイルス組成物は、繊維状に成形して布帛として使用してもよい。また、未処理の繊維の表面に上記抗ウイルス組成物を付与することで上記抗ウイルス組成物を表面に有する繊維を作製し、その繊維から通常の方法で布帛にしても良い。更に、未処理の布帛に上記抗ウイルス組成物を付与することで、上記抗ウイルス組成物を布帛の表面に有する加工布帛としてもよい。
上記加工布帛は、通常の布帛に対して容易に抗ウイルス性を付加することが可能となる。
上記加工布帛において、上記抗ウイルス組成物を付与する方法としては、ディッピングする方法、スプレーする方法、印刷する方法、塗布する方法等が挙げられる。
また、上記布帛としては、織物、編物、不織布を問わずあらゆる布帛組織が含まれる。また、布帛の素材としては、綿、麻、羊毛等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維等が挙げられる。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、高い抗ウイルス効果を持続できる抗ウイルス製品を製造できる抗ウイルス組成物、抗ウイルス製品及び塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
カルボン酸系樹脂としてPAA-1(ポリアクリル酸、分子量25000、富士フイルム和光純薬工業製)、ビニルアルコール系樹脂としてPVOH-1(ポリビニルアルコール、ケン化度99.3モル%、重合度1700、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「S125」)を濃度10重量%となるように水に添加して混合して水溶液を得た。なお、ポリアクリル酸及びポリビニルアルコールの配合比は表1の通りとした。その後、得られた水溶液をシャーレ上に固形分の厚さが250μmとなるように塗工して80℃で60分間加熱して乾燥し、抗ウイルス組成物を得た。得られた抗ウイルス組成物の一部を乳鉢等で粒径10μm程度に粉砕し、抗ウイルス組成物粉末を得た。
【0072】
(実施例2~15)
カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂の種類及び配合比を表1の通りとし、130℃で30分間加熱して乾燥した以外は実施例1と同様にして、抗ウイルス組成物を得た。なお、カルボン酸系樹脂及びビニルアルコール系樹脂としては、以下のものを用いた。
<カルボン酸系樹脂>
PAA-2(ポリアクリル酸、分子量250000、富士フイルム和光純薬工業製)
PVOH-2(ポリビニルアルコール、ケン化度88.0モル%、重合度500、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「S205」)
PVOH-3(ポリビニルアルコール、ケン化度98.5モル%、重合度500、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「S107」)
PVOH-4(ポリビニルアルコール、ケン化度95.0モル%、重合度1000、変性構造:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸基、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「U2012」)
PVOH-5(ポリビニルアルコール、ケン化度95.0モル%、重合度1000、変性構造:ピロリドン環基、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「U4005」)
PVOH-6(ポリビニルアルコール、ケン化度88.0モル%、重合度1700、セキスイスペシャリティケミカルズアメリカ製「S523」)
【0073】
(比較例1)
PAA-1を濃度10重量%となるように水に添加して混合して水溶液を得た。その後、得られた水溶液をシャーレ上に固形分の厚さが250μmとなるように塗工して130℃で30分間加熱して乾燥し、抗ウイルス組成物を得た。
【0074】
(比較例2)
PAA-2を使用し比較例1と同様の方法で抗ウイルス組成物を得た。
【0075】
(比較例3)
PVOH-2を使用し比較例1と同様の方法で抗ウイルス組成物を得た。
【0076】
(比較例4)
PVOH-1を使用し比較例1と同様の方法で抗ウイルス組成物を得た。
【0077】
(評価)
実施例、比較例で得られた抗ウイルス組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0078】
(1)架橋度
得られた抗ウイルス組成物に含まれるポリビニルアルコールについて、NMR装置(JEOL社製「ECZ-400R」)を用い、試料を重水に20重量%の濃度で12時間膨潤させ、シングルパルス法によるゲルNMR法により測定し、ポリビニルアルコールの側鎖官能基に対するアセチル基以外のエステル結合の割合(モル%)を測定することで架橋度を評価した。
【0079】
(2)溶出率
得られた抗ウイルス組成物を試験片とし、60℃の水中に4重量%の濃度となるように調整して投入し1時間撹拌した後、試験片を取り出して乾燥した。浸漬前の試験片の重量(W1)と浸漬後の試験片の重量(W2)を測定し、以下の式により溶出率を算出した。
溶出率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0080】
(3)抗ウイルス活性値
(3-1)抗ウイルス組成物
実施例、比較例で得られた抗ウイルス組成物と水を混合してなる処理溶液を、ポリエステル樹脂繊維100重量%からなるトリコット生地に浸漬させた後、手動のマングルで絞り、120℃で20分間に亘って乾燥させ、試験片を作製した。試験片において抗ウイルス組成物粉末が1.0g/m2含有されるように処理溶液内の抗ウイルス組成物粉末濃度や絞り条件を調整した。
【0081】
得られた試験片について、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスの抗ウイルス試験をISO18184に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラーク法によりウイルス感染価(常用対数値)(PFU/試験片)を算出した。
【0082】
抗ウイルス組成物を含有させないこと以外は上記と同様の要領で試験片を作製し、上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/試験片)を算出した。
【0083】
抗ウイルス組成物を含有しない試験片のウイルス感染価から抗ウイルス組成物を含有する試験片のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0084】
(3-2)塗膜
実施例、比較例で得られた抗ウイルス組成物5gを紫外線硬化型アクリル塗料(コートテック社製 商品名「AI-N2」)95g中に添加して均一に混合し塗料を作製した。塗料をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯8を用いて厚み18μmに塗工して塗工層を形成した。
【0085】
UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量500mJ/cm2となるように照射して紫外線硬化型アクリル塗料を硬化させて厚み18μmの塗膜を形成した。
【0086】
得られた塗膜について、一辺が5.0cmの平面正方形状を切り出すことによって試験塗膜を作製した。
更に、得られた塗膜について、一辺が5.0cmの平面正方形状を切り出し、水に17時間浸漬した後、水を切って浸漬後の試験塗膜を作製した。
【0087】
得られた試験塗膜について、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスの抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラーク法により試験塗膜のウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。
【0088】
抗ウイルス組成物を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。
【0089】
(4)表面pH
得られた抗ウイルス組成物の表面に精製水を400μL滴下し、2時間静置後、pH計(アズワン製、平面型pH計FPH70)を用いて表面上の水滴のpHを測定した。(初期値)更に、抗ウイルス組成物の試験片を60℃の水中に4重量%の濃度で溶解し1時間撹拌した後、試験片を取り出して乾燥した抗ウイルス組成物の表面pHを同様に測定した。(溶解後)
なお、表面pHは値が低いほど抗ウィルス効果に優れているといえる。
【0090】
【0091】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、高い抗ウイルス効果を持続できる抗ウイルス製品を製造できる抗ウイルス組成物、抗ウイルス製品及び塗膜を提供することができる。