(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153387
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】車載燃料タンク装置、及び多目的車両
(51)【国際特許分類】
F02M 37/50 20190101AFI20241022BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241022BHJP
B60K 15/03 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F02M37/50
F02M37/00 301J
F02M37/00 301E
B60K15/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067252
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 祐介
【テーマコード(参考)】
3D038
【Fターム(参考)】
3D038CA22
3D038CB04
3D038CC03
3D038CC07
3D038CC11
(57)【要約】
【課題】タンク内の液面変動による燃料ポンプの燃料吸い込みの不安定化が部品点数を増やすことなく簡単な構造で抑制される、車載燃料タンク、及びそのような車載燃料タンクを備えた多目的車両を提供する。
【解決手段】車載燃料タンク装置は、天井部51と側部52と底部53とを有するメインタンク50Aと、燃料をエンジンに供給する燃料ポンプ7とを備え、底部53は第1領域53aと第2領域53bに区分けされ、第1領域53aの少なくとも一部は傾斜面として形成され、第2領域53bの少なくとも一部は、傾斜面に沿って流れる燃料を溜めるサブタンク50Bとして凹状に形成され、サブタンク50B内に燃料ポンプ7の吸引フィルタ70が配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載燃料タンク装置であって、
天井部と側部と底部とを有するメインタンクと、
燃料をエンジンに供給する燃料ポンプと、
を備え、
前記底部は第1領域と第2領域に区分けされ、前記第1領域の少なくとも一部は傾斜面として形成され、前記第2領域の少なくとも一部は、前記傾斜面に沿って流れる燃料を溜めるサブタンクとして凹状に形成され、前記サブタンク内に前記燃料ポンプの吸引フィルタが配置されている車載燃料タンク装置。
【請求項2】
前記サブタンクの底面は平坦に形成されており、前記吸引フィルタは、前記サブタンクの前記底面に平行に配置される平面フィルタである請求項1に記載の車載燃料タンク装置。
【請求項3】
前記第1領域と前記第2領域との境界領域の少なくとも一部には、前記境界領域より上方に突き出した堰止め部が形成されている請求項1に記載の車載燃料タンク装置。
【請求項4】
前記境界領域における前記堰止め部の両端と前記側部との間には、前記第1領域から前記第2領域への燃料の流れを許す平坦部が形成されている請求項3に記載の車載燃料タンク装置。
【請求項5】
前記燃料ポンプの燃料送出口が前記天井部に設けられ、ブリーザ機能を有する第1開口部及び第2開口部が前記燃料送出口を挟んで前記天井部に設けられている請求項1に記載の車載燃料タンク装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の車載燃料タンク装置を備えた多目的車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンに燃料を供給する車載燃料タンク装置、及びこの車載燃料タンク装置を備えた多目的車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車載燃料タンクには、エンジンに燃料を供給する燃料ポンプが備えられており、燃料ポンプは、タンクの下部に設けられた吸引フィルタを通じて燃料を吸い込み、タンクの外に送り出す。車両の傾斜地走行時や旋回時には、タンク内の液面が変動し、燃料ポンプによる燃料吸い込みが不安定となる。これを抑制するために、タンク内にセパレータや別体のサブタンクが設けられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンに供給される燃料を貯留する車載燃料タンクが開示されている。この車載燃料タンクは、タンク本体と、タンク本体に配置された燃料ポンプと、燃料ポンプに接続されるとともにタンク本体の底部に取り付けられた燃料フィルタと、燃料フィルタの上面側に取り付けられたサブタンクとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による車載燃料タンクでは、吸引フィルタである燃料フィルタがサブタンクで覆われているため、タンク内の液面変動によって燃料ポンプの燃料吸い込みが不安定となる問題は抑制されるが、サブタンクが別体で製作され、タンク本体に固定されなければならず、コスト的な問題がある。
【0006】
本発明の目的は、タンク内の液面変動による燃料ポンプの燃料吸い込みの不安定化が部品点数を増やすことなく簡単な構造で抑制される、車載燃料タンク、及びそのような車載燃料タンクを備えた多目的車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車載燃料タンク装置は、天井部と側部と底部とを有するメインタンクと、燃料をエンジンに供給する燃料ポンプとを備え、前記底部は第1領域と第2領域に区分けされ、前記第1領域の少なくとも一部は傾斜面として形成され、前記第2領域の少なくとも一部は、前記傾斜面に沿って流れる燃料を溜めるサブタンクとして凹状に形成され、前記サブタンク内に前記燃料ポンプの吸引フィルタが配置されている。
【0008】
この構成によれば、タンク内の液面変動による燃料ポンプの燃料吸い込みの不安定化を抑制するサブタンクが、メインタンクの底部の凹状形状によって作り出されるので、別体でサブタンクを製作することに比べて、コスト的に有利である。しかも、サブタンクは、メインタンクの底部の部分的な凹みだけで形成されているとともに、サブタンクに燃料が流れ込み易いように、メインタンクの底部のサブタンク以外の領域には傾斜面が形成されている。これにより、燃料吸い込みの不安定化はさらに効果的に抑制される。
【0009】
本発明の1つでは、前記サブタンクの底面は平坦に形成されており、前記吸引フィルタは、前記サブタンクの前記底面に平行に配置される平面フィルタである。この構成では、サブタンクの底面に吸引フィルタを這わせることができ、サブタンクの容量が少なくても、効率的な燃料の吸い込みが実現する。
【0010】
本発明の1つでは、前記第1領域と前記第2領域との境界領域の少なくとも一部には、前記境界領域より上方に突き出した堰止め部が形成されている。この構成では、サブタンクから傾斜面の方にサブタンクで溜められた燃料が逆流することが抑制される。
【0011】
さらに、前記境界領域における前記堰止め部の両端と前記側部との間には、前記第1領域から前記第2領域への燃料の流れを許す平坦部が形成されている。この平坦部により、堰止め部による傾斜面からサブタンクへの燃料の流れ込みの制限が抑制され、サブタンクへの燃料の流れ込みとサブタンクからの燃料の逆流とのバランスが好適に設定することができる。
【0012】
燃料タンクには、ブリーザ機能が必要である。特に、急傾斜地走行や急旋回走行が多くなる多目的車両では、ブリーザ機能を有する複数の開口が十分な間隔をとって配置されることが好ましい。このことから、本発明の1つでは、前記燃料ポンプの燃料送出口が前記天井部に設けられ、ブリーザ機能を有する第1開口部及び第2開口部が前記燃料送出口を挟んで前記天井部に設けられている。
【0013】
本発明は、車載燃料タンク装置以外に、当該車載燃料タンク装置を備えた多目的車両も対象としている。多目的車両は、一般道路以外のオフロード、岩地や凸凹道や農地なども走行するので、本発明による車載燃料タンク装置が有する、上述した種々の特徴及び作用効果が好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】車載燃料タンク装置を搭載した多目的車両の側面図である。
【
図3】車載燃料タンク装置の車体側面からの概略断面図である。
【
図4】堰止め部の輪郭を示すIV-IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を用いて、本発明による車載燃料タンク装置の一例を搭載した多目的車両(ユーティリティービークル)を説明する。
図1は、多目的車両の側面図であり、
図2は多目的車両の動力系統及び燃料系統を示す平面図である。なお、本明細書では、特に断りがない限り、
図1及び
図2における矢印Fの方向は車体前後方向(走行方向)に関して前向きの方向を意味し、
図1及び
図2における矢印Bの方向は車体前後方向(走行方向)に関して後向きの方向を意味する。また、
図2における矢印Lの方向は車体横断方向に関して左向きの方向を意味し、
図2における矢印Rの方向は車体横断方向に関して右向きの方向を意味する。さらに、
図1における矢印Uの方向は機体の鉛直方向(地上高さ方向)に関して上向きの方向を意味し、
図1における矢印Dの方向は機体の鉛直方向(地上高さ方向)に関して下向きの方向を意味する。
【0016】
多目的車両は、荷の運搬やオフロード走行などの多様な走行目的に使用可能な車両として構成されている。この多目的車両は、フレーム構造である車体10に、駆動可能かつ操向操作可能な左右一対の前車輪11と、駆動可能な左右一対の後車輪12とが備えられている。車体10の中央の上方には、運転者が搭乗して運転操作を行う運転部13が設けられ、車体10の後部の上方には、荷を積載可能、且つ、ダンプ操作可能な荷台14が設けられている。車体10の中央部に位置する運転部13は、ROPS(ロールオーバープロテクションシステム)15によって外囲されている。
【0017】
運転部13には、前車輪11の操向操作用のステアリングハンドル21、変速操作用の変速レバー22、搭乗者が着座可能な運転座席23、図示しないアクセルペダル等が配置されている。
【0018】
図2に示すように、動力系統要素として、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジン(以下、エンジンと略称する)30と、エンジン30の出力を変速して前車輪11及び後車輪12に伝達する変速装置31とが備えられている。変速装置31の構成は従来技術であることから詳述されないが、変速レバー22の操作により、変速比の異なる複数の変速状態が作り出される。変速装置31から出力された後輪動力は、後輪用差動機構32を介して左右の後車輪12に伝達される。変速装置31から出力された前輪動力は、プロペラシャフト33と前輪用差動機構34を介して左右の前車輪11に伝達される。
【0019】
エンジン30の横側方には、車載燃料タンク装置(以下、燃料タンクと略称する)5が配置されている。エンジン30と燃料タンク5とは、燃料供給路4によって接続されている。エンジン30と燃料タンク5は、運転座席23と荷台14との境界付近の下方に配置されている。燃料タンク5内の燃料は、燃料供給路4を通して図示しない燃料噴射装置(インジェクタ)に供給される。燃料は燃料噴射装置によってエンジン吸気路に噴射され、エンジン30の気筒内の燃焼室に供給される。
【0020】
図3に燃料タンク5の概略断面が示されている。燃料タンク5は、タンク本体50と、燃料ポンプ7とカットオフバルブユニット6とを備えている。タンク本体50は、天井部51と側部52と底部53とを有するボックス体であり、内部に燃料を収容する。タンク本体50は、メインタンク50Aとサブタンク50Bとに区分けされている。メインタンク50Aは、天井部51と大部分の側部52と大部分の底部53とから構成され、サブタンク50Bは、側部52の後方下方領域の一部と底部53の後方領域の一部とから構成されている。
【0021】
天井部51には、ブリーザ部として機能する第1開口部54と第2開口部55とが形成されている。第1開口部54に接続している第1管56と、第2開口部55と接続する第2管57とは、合流部58に接続している。合流部58から合流管59がキャニスタ8まで延びている。合流管59には、カットオフバルブユニット6が介装されている。カットオフバルブユニット6は、合流管59の一部となる介装菅として形成されたアダプタ部61と、このアダプタ部61から着脱可能な、あるいはアダプタ部61とともに着脱可能なカットオフバルブ60とを有する。このカットオフバルブ60は、第1管56と第2管57とのために、つまり第1開口部54と第2開口部55とのために、共通して利用される共通カットオフバルブである。第1開口部54は天井部51の走行方向での前端付近に位置し、第2開口部55は天井部51の走行方向での前端付近に位置している。これにより、第1開口部54と第2開口部55との間隔は十分に長く、車体10の傾斜時または転倒時の燃料漏れ防止に貢献している。燃料供給路4の天井部51との貫通部(燃料供給接続口)は、第1開口部54と第2開口部55との間で、第2開口部55の近くに位置している。
【0022】
底部53は、走行方向で前側に位置する第1領域53aと走行方向で後側に位置する第2領域53bに区分けされ、第1領域53aの少なくとも一部は傾斜面(前が後より高い傾斜面)として形成され、第2領域53bの少なくとも一部は、当該傾斜面に沿って流れる燃料を溜めるように凹状に形成されている。
【0023】
この凹状に形成された燃料溜め領域が、サブタンク50Bとして機能する。つまり、サブタンク50Bは、上方が開放され(メインタンク50Aと連通している)、第1領域53aの傾斜面に沿って流れる燃料を溜める。
【0024】
サブタンク50Bには燃料ポンプ7の吸引口として機能する吸引フィルタ70が配置されている。この吸引フィルタ70は平面フィルタとして形成されており、平坦に形成されているサブタンク50Bの底面に対して実質的に平行に、かつ近接して配置される。
【0025】
図3、及び
図3のIV-IV線断面輪郭線を示す
図4から明らかなように、第1領域53aと第2領域53bとの境界領域53cの少なくとも一部には、境界領域53cの傾斜面より上方に突き出した屈曲状の堰止め部53dが形成されている。堰止め部53dは車体横断方向に延びており、サブタンク50Bから第1領域53aへ燃料が流れ出ることを制限している。
【0026】
また、
図4から明らかなように、境界領域53cにおける堰止め部53dの両端とタンク本体50の側部52との間には、第1領域53aの傾斜面に沿って燃料がサブタンク50Bに流れ込み易くするための平坦部53eが残されている。
【0027】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、合流管59の終端はキャニスタ8に接続されていたが、直接外部に開放されていてもよい。
【0028】
(2)上述した実施形態では、堰止め部53dが他の部分から連続的に屈曲した屈曲部として形成されていたが、堰止め部53dは、別体で製作した後に、接着や溶接などの接合処理によって、タンク本体50の底部53に一体化させる構成であってもよい。
【0029】
(3)上述した実施形態では、ブリーザ機能を有する開口部が天井部51に2つ形成されていたが、3つ以上であってもよい。その際、合流部58を複数設け、カットオフバルブ60を複数設けてもよいが、開口部の数よりは少なくすることで、コストを低減する。
【0030】
(4)上述した実施形態では、燃料ポンプ7の本体部も燃料タンク5内に配置されていたが、燃料ポンプ7は燃料タンク5外に配置されてもよい。サブタンク50Bに配置されている吸引フィルタ70と燃料タンク5は、燃料タンク5内を通過する吸引管で接続される。
【0031】
(5)上述した実施形態では、燃料タンク5は、エンジン30の近くに配置されていたが、燃料タンク5は、エンジン30から離れて配置されてもよいし、車体10の前部や後部など任意の位置に配置してもよい。
【0032】
(6)上述した実施形態では、本発明による燃料タンク5を搭載した多目的車両が説明されている。この多目的車両には、全地形対応車(ATV)、バギー、オフロード車、農作業車、土木作業車なども含まれている。もちろん、本発明による燃料タンク5は、内燃機関を用いたその他の車両に搭載することができる。
【0033】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明による車載燃料タンク装置は、ガソリン等の液体燃料を用いた種々の車両に搭載可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 :前車輪
2 :後車輪
3 :運転部
4 :燃料供給路
5 :燃料タンク
6 :カットオフバルブユニット
7 :燃料ポンプ
8 :キャニスタ
36 :燃料供給路
50 :タンク本体
50A :メインタンク
50B :サブタンク
51 :天井部
52 :側部
53 :底部
53a :第1領域
53b :第2領域
53c :境界領域
53d :堰止め部
53e :平坦部
54 :第1開口部
55 :第2開口部
56 :第1管
57 :第2管
58 :合流部
59 :合流管
60 :カットオフバルブ(共通カットオフバルブ)
61 :アダプタ部
70 :吸引フィルタ