(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153445
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20241022BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067347
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 拳人
(72)【発明者】
【氏名】油井 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 太一
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040BB02
4D040BB52
4D040BB91
(57)【要約】
【課題】アンモニア態窒素が溶存された被処理水を安定に生物処理する水処理方法を提供する。
【解決手段】水処理方法は、生物処理槽10においてアンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理工程と、生物処理槽10に流入する前記被処理水の一部を第1測定槽24に流入させ、アルカリ性条件下で、前記被処理水に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして第1測定槽24の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C
1を測定する第1測定工程と、生物処理槽10で生物処理された処理水の一部を第2測定槽32に流入させ、アルカリ性条件下で、前記処理水に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして第2測定槽32の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C
2を測定する第2測定工程と、前記アンモニアガス濃度C
1及び前記アンモニアガス濃度C
2に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御する制御工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理槽において、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理工程と、
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定工程と、
前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定工程と、
前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御する制御工程と、を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記制御工程は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定工程を有し、
前記制御工程は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することを特徴とする請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記第1測定槽の水理学的滞留時間、及び前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記生物処理工程の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項6】
アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理槽と、
第1測定槽を有し、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として前記第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定装置と、
第2測定槽を有し、前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として前記第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定装置と、
前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御する制御装置と、を有することを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することを特徴とする請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定手段を有し、
前記制御装置は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することを特徴とする請求項7に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記第1測定槽の水理学的滞留時間、前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を処理する水処理方法及び水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公共水域にアンモニア態窒素が溶存された排水が流入すると富栄養化を引き起こすため、アンモニア態窒素は生物学的処理によって除去されている。硝化脱窒処理では、好気条件において硝化菌がアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素または硝酸態窒素態へ酸化し、無酸素条件において脱窒菌が水素供与体存在下で亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を窒素ガスへ還元する。これら2つの微生物反応を化学式で表すと、例えば、以下のようになる。
硝化:NH3 + 2O2 → NO3
- + 2H+ + H2O …(式1)
脱窒:NO3
- + 2H2 → 0.5N2 + 2OH- + H2O …(式2)
【0003】
硝化菌は温度やpH、アンモニア態窒素濃度といった環境変動に対する感受性が高く、低濃度の化学物質によって阻害を受けやすい。また、硝化菌はアンモニア態窒素もしくは亜硝酸態窒素をエネルギー源、無機炭素を炭素源とする独立栄養性菌であるため増殖速度が遅く、硝化菌の活性が低下すると回復までに時間を要する。硝化を安定させ処理水質を守るためには、硝化の異常を検知し、早期対応することが重要である。
【0004】
硝化の異常は、例えば、被処理水流量、被処理水中のアンモニア態窒素濃度、処理水中のアンモニア態窒素濃度をオンライン測定し、流入アンモニア負荷(kg-N/m3/day)およびアンモニア除去率をモニタリングすることで検知できる。被処理水流量は流量センサを用いて簡便にオンライン測定できる。一方、溶存アンモニア態窒素濃度を測定する従来方法としては、インドフェノール青吸光光度法、中和滴定法、イオンクロマトグラフ法などが用いられてきた。これらの方法は人手によってサンプリングおよび分析を行わなければならず、連続的なアンモニア態窒素濃度の測定が不可能である。オンライン測定方法には、隔膜電極を用いたアンモニアセンサーが実用されている。ただし、電極部は溶液に浸漬するため、電極部に付着する汚れを人手によって定期的に洗浄しなければならない。電量滴定法でもオンライン測定が可能だが、ろ過処理によって被処理水のSS成分等を除去しなければならず、人手によるろ過装置の交換が必要である。また、測定に用いる電解液のランニングコストが高いという欠点がある。したがって、保守管理が容易かつランニングコストが安価な溶存アンモニア態窒素濃度のオンライン測定方法が求められている。
【0005】
一般的に、非接液センサは汚れの影響が少なく、測定に伴うコストが低い。溶存アンモニア態窒素濃度を非接液で測定する方法として、例えば、特許文献1には、硝化脱窒工程で発生したN2ガスを検出する方法が提案されている。また、例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7には、採取したサンプル水をアルカリ条件で保持し、発生するNH3ガスをNH3ガスセンサーで測定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-43226号公報
【特許文献2】特開昭55-7667号公報
【特許文献3】特開昭57-196147号公報
【特許文献4】特開昭63-165751号公報
【特許文献5】特開平3-61856号公報
【特許文献6】特開平8-299988号公報
【特許文献7】特開2022-37285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を安定に生物処理するには、被処理水中のアンモニア態窒素濃度の変動に応じて、適切な生物処理の条件を設定して、運転する必要がある。しかし、従来には溶存アンモニア態窒素濃度を測定する簡便な方法がないため、被処理水中のアンモニア態窒素の濃度を速やかに把握して、適切な生物処理条件を設定することが困難となっている。
【0008】
そこで、本開示の目的は、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を安定に生物処理することが可能な水処理方法及び水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態に係る水処理方法は、生物処理槽において、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理工程と、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定工程と、前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定工程と、前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御する制御工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記水処理方法において、前記制御工程は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することが好ましい。
【0011】
また、前記水処理方法は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定工程を有し、前記制御工程は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することが好ましい。
【0012】
また、前記水処理方法において、前記第1測定槽の水理学的滞留時間、及び前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることが好ましい。
【0013】
また、前記水処理方法において、前記生物処理工程の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0014】
また、本開示の実施形態に係る水処理装置は、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理槽と、第1測定槽を有し、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として前記第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定装置と、第2測定槽を有し、前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として前記第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定装置と、前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御する制御装置と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、前記水処理装置において、前記制御装置は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することが好ましい。
【0016】
また、前記水処理装置は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定手段を有し、前記制御装置は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することが好ましい。
【0017】
また、前記水処理装置において、前記第1測定槽の水理学的滞留時間、前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記水処理装置において、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を安定に生物処理することが可能な水処理方法及び水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】第1測定装置及び第2測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】第1測定装置及び第2測定装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図4】NH
3およびNH
4
+の各pHにおける存在比を示す。
【
図5】本実施形態に係る水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図6】本実施形態に係る水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図7】実験例1の模擬排水中のアンモニア態窒素濃度と気相部中のアンモニアガス濃度の関係を示す図である。
【
図8】実験例2の模擬排水中のカルシウム濃度(0~400mg-Ca/L)に対する気相部中のアンモニアガス濃度を示す図である。
【
図9】実験例3及び4における気相部中のアンモニアガス濃度の時間変化を示す図である。
【
図10】実験例1の覆蓋されている測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度の測定結果と、実験例9の覆蓋されていない測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の実施形態について以下説明する。本実施形態は本開示を実施する一例であって、本開示を限定するものではない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す水処理装置1は、生物処理槽10、第1測定装置12、第2測定装置14、制御装置16、流量計18、被処理水供給ポンプ20を有する。生物処理槽10の底部には散気装置22が設置されている。なお、
図1に示す第1測定装置12及び第2測定装置14については、第1測定槽24及び第2測定槽32のみを描画し、その他の構成については省略している。
【0023】
図2は、第1測定装置及び第2測定装置の一例を示す概略構成図である。第1測定装置12は、第1測定槽24、pH計26a、アンモニアガス濃度計28a、撹拌機30を有する。アンモニアガス濃度計28aは第1測定槽24の気相部に設置されている。第2測定装置14は、第2測定槽32、pH計26b、アンモニアガス濃度計28b、撹拌機30を有する。アンモニアガス濃度計28bは第2測定槽32の気相部に設置されている。アンモニアガス濃度計28a,28bは、第1測定槽24の気相部や第2測定槽32の気相部に接続した配管に設置されてもよい。
【0024】
また、第1測定装置12及び第2測定装置14は、pH調整剤供給装置を有する。pH調整剤供給装置は、例えば、アルカリ剤貯留槽34、アルカリ剤供給ポンプ36a,36b、アルカリ剤供給配管38a,38bを備えるアルカリ剤供給装置39と、酸剤貯留槽40、酸剤供給ポンプ42a,42b、酸剤供給配管44a,44bを備える酸剤供給装置45とを有する。pH計26aとアルカリ剤供給ポンプ36a、及びpH計26bとアルカリ剤供給ポンプ36bとは、有線または無線で電気的に接続されている。アルカリ剤供給ポンプ36a,36bは、例えば、pH計26a,26bのpH値を読み取り、第1測定槽24及び第2測定槽32の槽内がアルカリ条件に保たれるように稼働する。なお、本実施形態では、1つのpH調整剤供給装置を第1測定装置12及び第2測定装置14の両方に用いているが、第1測定装置12及び第2測定装置14それぞれに1つずつのpH調整剤供給装置を用意してもよい。
【0025】
生物処理槽10には配管46aが接続されている。配管46aには流量計18及び被処理水供給ポンプ20が設置されている。また、生物処理槽10には配管46bが接続されている。配管46aには、配管46cの一端が接続され、第1測定槽24には、配管46cの他端が接続されている。また、第1測定槽24には、配管46dの一端が接続され、生物処理槽10には、配管46dの他端が接続されている。配管46bには、配管46eの一端が接続され、第2測定槽32には、配管46eの他端が接続されている。また、第2測定槽32には、配管46fの一端が接続され、生物処理槽10には、配管46fの他端が接続されている。アルカリ剤貯留槽34にはアルカリ剤供給配管38aの一端が接続され、第1測定槽24にはアルカリ剤供給配管38aの他端が接続されている。また、アルカリ剤貯留槽34にはアルカリ剤供給配管38bの一端が接続され、第2測定槽32にはアルカリ剤供給配管38bの他端が接続されている。アルカリ剤供給配管38aにはアルカリ剤供給ポンプ36aが設置され、アルカリ剤供給配管38bにはアルカリ剤供給ポンプ36bが設置されている。酸剤貯留槽40には酸剤供給配管44aの一端が接続され、第1測定槽24には酸剤供給配管44aの他端が接続されている。また、酸剤貯留槽40には酸剤供給配管44bの一端が接続され、第2測定槽32には酸剤供給配管44bの他端が接続されている。酸剤供給配管44aには酸剤供給ポンプ42aが設置され、酸剤供給配管44bには、酸剤供給ポンプ42bが設置されている。
【0026】
制御装置16は、有線または無線の電気的接続等によって、アンモニアガス濃度計28a,28b、流量計18、被処理水供給ポンプ20と接続されている。制御装置16は、例えば、プログラムを演算するCPU、プログラムや演算結果を記憶するROMおよびRAMから構成されるマイクロコンピュータと電子回路等で構成され、ROM等に記憶された所定のプログラムを読み出し、当該プログラムを実行して、水処理装置1の動作を制御する。詳細は後述するが、例えば、アンモニアガス濃度計28a,28bにより測定されたアンモニアガス濃度に基づいて、被処理水供給ポンプ20の稼働を制御する。
【0027】
本実施形態に係る水処理装置1の動作の一例について説明する。
【0028】
被処理水供給ポンプ20を稼働させ、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を配管46aから、生物処理槽10に流入させる。生物処理槽10内では、散気装置22によって空気等の酸素含有気体の供給が行われ、被処理水と微生物を含む汚泥とが混合される。生物処理槽10内では、被処理水中のアンモニア態窒素が、好気条件で、微生物によって生物処理(例えば、硝化処理)される。生物処理槽10による生物処理工程は、硝化処理のみに限定されず、硝化処理を含む生物処理であればよい。生物処理槽10内で生物処理された処理水は、配管46bから排出される。
【0029】
また、本実施形態では、配管46aを通る被処理水の一部が第1サンプル液として、配管46cから第1測定槽24に流入し、配管46bを通る処理水の一部が第2サンプル液として、配管46eから第2測定槽32に流入する。pH計26a,26bにより第1サンプル液及び第2サンプル液のpHが随時測定され、測定されたpH値に基づいて、アルカリ剤供給ポンプ36a,36bが稼働する。アルカリ剤供給ポンプ36a,36bの稼働により、アルカリ剤貯留槽34から第1測定槽24及び第2測定槽32に所定量のアルカリ剤が供給され、第1測定槽24及び第2測定槽32それぞれの槽内がアルカリ性条件に保たれる。なお、第1測定槽24では、第1サンプル液とアルカリ剤が撹拌機30により撹拌され、第2測定槽32では、第2サンプル液とアルカリ剤が撹拌機30により撹拌される。
【0030】
第1測定槽24では、アルカリ性条件にして、第1サンプル液中に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガス(NH3)として気相部に移行させて、アンモニアガス濃度計28aによりアンモニアガス濃度C1を測定する(第1測定工程)。また、第2測定槽32でも同様に、アルカリ性条件にして、第2サンプル液中に溶存しているアンモニア態窒素の一部をアンモニアガス(NH3)として気相部に移行させて、アンモニアガス濃度計28bによりアンモニアガス濃度C2を測定する(第2測定工程)。
【0031】
図3は、第1測定装置及び第2測定装置の他の一例を示す概略構成図である。
図3に示す第1測定装置12及び第2測定装置14は、pH計を具備していない。第1測定装置12及び第2測定装置14では、流入水量に対し一定の比率でアルカリ剤を添加し、槽内をアルカリ性条件として、アンモニアガス濃度C
1及びアンモニアガス濃度C
2を測定する。
【0032】
サンプル液中においてアンモニア態窒素は、NH
3及びNH
4
+として存在し、平衡関係は下式で表せられる。
【化1】
【0033】
図4に、NH
3およびNH
4
+の各pHにおける存在比を示す。NH
4
+の酸解離定数(pKa)は9.25であり、溶存アンモニア態窒素におけるNH
3の存在比はpH8において8%、pH9において36%、pH10において85%、pH11において98%である。溶存しているNH
3の一部はアンモニアガス(NH
3ガス)として揮発する。NH
3の存在比率が高いとアンモニアガスとして揮発するNH
3の量も多くなる。測定槽内は、アルカリ性条件であればよいが、溶存するアンモニア態窒素が低濃度でも、アンモニアガスをアンモニアガス濃度計により容易に測定できる点で、測定槽内のpHを10以上にすることが好ましく、11以上にすることがより好ましい。
【0034】
制御装置16は、アンモニアガス濃度C1及びC2に基づいて、生物処理槽10における生物処理の運転を制御する(制御工程)。ここで、アンモニアガス濃度計28a,28bにより測定されたアンモニアガス濃度C1及びC2に関して、例えば、アンモニアガス濃度C1に比べてアンモニアガス濃度C2が小さければ、処理水中のアンモニア態窒素が十分に除去されていると言えるため、生物処理が正常に行われていると推定されるが、両者の差がほとんどなければ、生物処理は進行しておらず、異常であると推定される。例えば、制御装置16は、アンモニアガス濃度C1とC2の差が所定値以下である場合(或いは、C2/C1の比が所定値以上である場合)、生物処理が異常であると推定されるため、被処理水供給ポンプ20の出力を下げ、生物処理槽10へ供給される被処理水の流量を下げる。これにより、生物処理槽10の流入アンモニア負荷が下がるため、アンモニア態窒素の処理能力を上げることが可能となる。その後、制御装置16は、アンモニアガス濃度C1とC2の差が所定値を超えた場合(或いは、C2/C1の比が所定値未満となった場合)、生物処理が正常に行われていると推定されるため、被処理水供給ポンプ20の出力を上げて、被処理水の流量を回復させる。なお、被処理水の流量制御は、被処理水供給ポンプ20を制御する場合に限られず、例えば、配管46aに設置したバルブの開閉度により調整してもよい。
【0035】
生物処理反応の運転条件の制御項目は、生物処理槽10へ流入する被処理水の流量に限定されず、例えば、生物処理槽10内の温度、生物処理槽10内のpH、生物処理槽10内の無機炭素濃度、生物処理槽10内の汚泥濃度等が挙げられる。例えば、制御装置16は、前述したように、アンモニアガス濃度C1及びC2から生物処理が異常であると推定される場合には、生物処理槽10内に蒸気を供給する装置(不図示)を稼働させ、生物処理槽10内に蒸気を供給して、生物処理槽10内の温度を上げて、アンモニア態窒素の処理能力を上げてもよい。また、例えば、制御装置16は、前述したように、アンモニアガス濃度C1及びC2から生物処理が異常であると推定される場合には、生物処理槽10内にpH調整剤を供給する装置(不図示)を稼働させて、生物処理槽10内のpHを調整して(例えばpH7.5~8.0)、槽内の無機炭素濃度を高め、アンモニア態窒素の処理能力を上げてもよい。また、制御装置16は、前述したように、アンモニアガス濃度C1及びC2から生物処理が異常であると推定される場合には、生物処理槽10内に重炭酸塩もしくは炭酸塩を供給する装置(不図示)を稼働させて、生物処理槽10内の無機炭素濃度を高め、アンモニア態窒素の処理能力を上げてもよい。また、例えば、制御装置16は、前述したように、アンモニアガス濃度C1及びC2から生物処理が異常であると推定される場合には、例えば、生物処理槽10に生物汚泥を供給する装置(不図示)を稼働させて、生物処理槽10内の生物汚泥量を高めて、アンモニア態窒素の処理能力を上げてもよい。また、その後、アンモニアガス濃度C1及びC2から生物処理反応が正常に行われていると推定された場合には、生物処理の運転条件を元の状態に戻す。なお、上記の運転条件の制御は一例であって、例えば、アンモニアガス濃度C1とC2の差や比の増減に応じて、運転条件を制御してもよい。
【0036】
このように、被処理水側から検知したアンモニアガス濃度及び生物処理した処理水側から検知したアンモニアガス濃度に基づいて、アンモニア態窒素が溶存した被処理水における生物処理の運転条件を制御することで、例えば、被処理水中のアンモニア態窒素濃度が変動しても、適切な生物処理の条件を設定することができるため、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を安定に生物処理することができる。なお、本実施形態では、アンモニア態窒素が溶存した被処理水や処理水に非接触なアンモニアガス濃度計を使用しているため、濃度計のセンサ部の汚れやスケールを洗浄する必要がなく、保守管理が容易である。
【0037】
制御装置16は、アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度D2を、アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、生物処理の運転条件を制御してもよい。以下に、制御方法の一例を説明する。制御装置16に、溶存アンモニア態窒素濃度とアンモニアガス濃度との相関情報を予め記憶させておく。そして、制御装置16は、当該相関情報を使用して、アンモニアガス濃度計28aにより検出されたアンモニアガス濃度C1から溶存アンモニア態窒素濃度を求める(これを被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1とする)。また、制御装置16は、当該相関情報を使用して、アンモニアガス濃度計28bにより検出されたアンモニアガス濃度C2から溶存アンモニア態窒素濃度を求める(これを処理水中のアンモニア態窒素濃度D2とする)。制御装置16は、処理水中のアンモニア態窒素濃度D2を被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1で除して(D2/D1)、アンモニア除去率(1-D2/D1)を求める。制御装置16は、アンモニア除去率が予め設定した計画値から外れる場合には、生物処理の運転条件について、例えば、前述した生物処理が異常であると推定される場合と同様の制御を行う。その後、制御装置16は、アンモニア除去率が予め設定した計画値の範囲になった場合に、生物処理の運転条件を元の状態に戻す。なお、制御装置16は、アンモニア除去率の増減に応じて、生物処理の運転条件を制御してもよい。
【0038】
制御装置16は、アンモニア除去率、及び被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1に生物処理槽10に流入する被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、生物処理の運転条件を制御してもよい。以下に、制御方法の一例を説明する。制御装置16は、前述したように、被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1及び処理水中のアンモニア態窒素濃度D2から、アンモニア除去率を算出する。また、制御装置16は、流量計18により検出された被処理水の流量に被処理水中のアンモニア態窒素濃度D1を乗じて、流入アンモニア負荷を算出する。制御装置16は、アンモニア除去率及び流入アンモニア負荷それぞれが、予め設定した計画値から外れる場合には、生物処理の運転条件について、例えば、前述した生物処理が異常であると推定される場合と同様の制御を行う。その後、制御装置16は、アンモニア除去率及び流入アンモニア負荷それぞれが、予め設定した計画値の範囲になった場合に、生物処理反応の運転条件を元の状態に戻す。なお、制御装置16は、アンモニア除去率の増減及び流入アンモニア負荷の増減に応じて、生物処理の運転条件を制御してもよい。
【0039】
アンモニア除去率の計画値は、例えば、90%~100%の範囲であることが好ましく、95%~100%の範囲であることがより好ましい。流入アンモニア負荷の計画値は、活性汚泥法では例えば0.1~0.3kg-N/m3/dayの範囲であることが好ましく、生物膜法(例えば固定床式や流動床式)やグラニュール法では例えば0.5~1.0kg-N/m3/dayの範囲であることが好ましい。
【0040】
以下に、生物処理槽10、第1測定装置12及び第2測定装置14について詳述する。なお、以下では、測定装置と称する場合には、第1測定装置12及び第2測定装置14のうちの少なくともいずれか一方を指し、測定槽と称する場合には、第1測定槽24及び第2測定槽32ののうちの少なくともいずれか一方を指すこととする。
【0041】
生物処理槽10は、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理することができれば如何なる態様のものでもよい。例えば、活性汚泥法、膜分離活性汚泥法(MBR)、固定床または流動床による生物膜法、あるいはグラニュール法等によりアンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理槽等が挙げられる。また、アンモニア態窒素が溶存された被処理水の生物処理は、例えば、硝化法、硝化脱窒法、循環式硝化脱窒法、嫌気的アンモニア酸化法(例えば、アナモックス法)等が挙げられる。生物処理槽10は、単一の槽に限定されず、後述するように、複数の槽から構成されていてもよい。
【0042】
測定装置を構成する測定槽は、覆蓋されていることが好ましい。測定槽が覆蓋されていることで、空気の混入によるアンモニアガス濃度の希釈が抑制され、アンモニアガス濃度計によるアンモニアガス検出感度を高めることができる。
【0043】
測定槽にヒータを設置して、測定槽内を加温することが好ましい。これにより、測定槽内の気相部のアンモニアガス濃度を高めることができる。また、測定槽内の気相部をブロワーによって循環させてもよい。この場合には、測定槽を完全に密閉することが望ましい。測定槽内への空気の混入を防ぐために、第1測定槽24に接続された配管46dや第2測定槽32に接続された配管46fは水封されていることが好ましい。例えば、配管46dや配管46fに、水を溜めた水槽を設けたり、配管46dや配管46fを生物処理槽10の水面より下まで伸ばしたり、配管46dや配管46fをS字型にしたりして、これらの配管を水封する。
【0044】
第1測定槽24への第1サンプル液の流入、第2測定槽32への第2サンプル液の流入は、それぞれ連続的であっても、間欠的であってもよい。
【0045】
第1測定槽24の水理学的滞留時間、第2測定槽32の水理学的滞留時間はそれぞれ、生物処理槽10の水理学的滞留時間の1/4以下であることが好ましい。測定槽の水理学的滞留時間を生物処理槽10の水理学的滞留時間の1/4以下とすることで、例えば、生物処理槽10での生物処理の異常をより速やかに検知できる。
【0046】
アンモニアガス濃度計28a,28bの結露を避けるため、アンモニアガス濃度計28a,28bの前にミストセパレータを設置してもよい。アンモニアガス濃度計28a,28bとしては、例えば、電気化学式、半導体式、又は接触燃焼式のアンモニアガス濃度計が挙げられる。アンモニアガス濃度の測定は、オンラインで行ってもよいし、マニュアル(手動)で行ってもよい。
【0047】
アルカリ性条件下で、第1測定槽24から排出される第1サンプル液や第2測定槽32から排出される第2サンプル液は、生物処理槽10へ返送させることが好ましい。生物処理槽10では、例えば、上記式1の通り、アルカリが消費される。したがって、第1測定槽24から排出される第1サンプル液及び第2測定槽32から排出される第2サンプル液を、配管46d及び46fから生物処理槽10へ返送することで、生物処理槽10にアルカリを補給できる。アンモニアガス測定のために測定槽へ供給するアルカリ剤は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0048】
第1測定槽24及び第2測定槽32の槽内にはスケールが析出する場合があるため、槽内を定期的に洗浄することが好ましい。例えば、酸剤供給ポンプ42a,42bを定期的に稼働させ(例えば、1日に1回)、酸剤貯留槽40から第1測定槽24及び第2測定槽32に所定量の酸剤を供給して、スケールを除去し、槽内を洗浄する。
【0049】
測定槽に酸剤を供給して、槽内を洗浄した後の排水については、例えば、脱窒槽に供給することが好ましい。脱窒槽では、上記式2の通り、アルカリが生成されるため、測定槽内のスケール洗浄後の排水を脱窒槽に供給することで、脱窒槽に酸を補給できる。槽内洗浄のために測定槽に供給する酸は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、アスコルビン酸、リンゴ酸などが挙げられる。これらの中では、少量の添加でpHを低下させられる塩酸或いは硝酸が好ましい。
【0050】
図5は、本実施形態に係る水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
図5に示す水処理装置2において、
図1に示す水処理装置1と同様の構成については同一の符号を付している。
図5に示す水処理装置2では、前述した第1測定装置及び第2測定装置を兼用する単一測定装置50を備える。単一測定装置50は、第1測定槽及び第2測定槽を兼用する単一測定槽52を有する。なお、
図5では、単一測定装置50を構成する単一測定槽52のみを描画し、それ以外の構成については不図示とするが、前述した第1測定装置や第2測定装置と同様に、例えば、pH計、アンモニアガス濃度計、撹拌機、アルカリ剤供給装置、酸剤供給装置等を備えている。
【0051】
図5に示すように、配管46aには配管46kの一端が接続され、単一測定槽52には配管46kの他端が接続されている。配管46bには配管46mの一端が接続され、単一測定槽52には配管46mの他端が接続されている。単一測定槽52には配管46nの一端が接続され、生物処理槽10には配管46nの他端が接続されている。
【0052】
図5に示す水処理装置2では、例えば、以下のようにしてアンモニアガス濃度が測定される。まず、配管46aを通る被処理水の一部が第1サンプル液として、配管46kから単一測定槽52に流入する。そして、pH計により第1サンプル液のpHが随時測定され、測定されたpH値に基づいて、アルカリ剤供給装置から、所定量のアルカリ剤が単一測定槽52に供給され、槽内がアルカリ性条件に保たれる。単一測定槽52では、アルカリ性条件にして、第1サンプル液中に溶存しているアンモニア態窒素の一部をアンモニアガスとして気相部に移行させて、アンモニアガス濃度計によりアンモニアガス濃度C
1を測定する。所定時間経過後、単一測定槽52への第1サンプル液の供給を停止して、アンモニアガス濃度C
1の測定を終了する。次に、配管46bを通る処理水の一部が第2サンプル液として、配管46mから単一測定槽52に流入し、単一測定槽52内の第1サンプル液を第2サンプル液に置き換える。槽内の第1サンプル液が第2サンプル液に置き換わった段階で、前述と同様に、槽内をアルカリ性条件にして、第2サンプル液中に溶存しているアンモニア態窒素の一部をアンモニアガスとして気相部に移行させて、アンモニアガス濃度計によりアンモニアガス濃度C
2を測定する。このように、
図5に示す水処理装置2では、単一測定槽52内でアンモニアガス濃度C
1及びC
2の測定を所定時間毎に繰り返し行う。
【0053】
図6は、本実施形態に係る水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
図6に示す水処理装置3において、
図1に示す水処理装置1と同様の構成については同値の符号を付している。
図6に示す水処理装置3は、複数の生物処理槽を有する。
図6に示すように、生物処理槽10aと生物処理槽10bとは配管46pにより接続されている。
図6に示す水処理装置3では、最前段の生物処理槽10aに流入する被処理水の一部を第1サンプル液として、第1測定槽24に流入させ、アンモニアガス濃度C
1を測定する。また、最後段の生物処理槽10bから排出される処理水の一部を第2サンプル液として、第2測定槽32に流入させ、アンモニアガス濃度C
2を測定する。
【0054】
[実験例1]
液相部容積が1L、気相部容積が0.4Lであり、覆蓋した測定槽に、アンモニア態窒素(1~50mg-N/L)、カルシウム(400mg-Ca/L)、無機炭素(20mg-C/L)、リン(1mg-P/L)、微量金属を含む模擬排水を、水理学的滞留時間(HRT)が10分となるように流入させた。そして、測定槽内のpHが11以上となるように、25%水酸化ナトリウムを測定槽へ添加し、攪拌により完全混合させた。水温は20~23oCとし、大気圧下で、模擬排水を流入させてから30分後に、測定槽の気相部に移行したアンモニアガス濃度をアンモニアガスセンサにより測定した。また、模擬排水中のアンモニア態窒素濃度はインドフェノール青吸光光度法により測定した。
【0055】
図7に、実験例1の模擬排水中のアンモニア態窒素濃度と気相部中のアンモニアガス濃度の関係を示す。
図7に示すように、模擬排水中のアンモニア態窒素濃度と気相部中のアンモニアガス濃度には正の相関関係(決定係数R
2=0.9956)がある。したがって、近似式を用いて気相部中のアンモニアガス濃度から、模擬排水中のアンモニア態窒素濃度を算出できることがわかる。
【0056】
[実験例2]
アンモニア態窒素濃度20mg-N/L、カルシウム濃度0~400mg-Ca/Lを含む模擬排水を測定槽へ流入させた。その他の条件は実験例1と同一とした。
【0057】
図8に、実験例2の模擬排水中のカルシウム濃度(0~400mg-Ca/L)に対する気相部中のアンモニアガス濃度を示した。
図8に示すように、模擬排水中のカルシウム濃度が変わっても、気相部中のアンモニア濃度にはほとんど影響がない。このように、気相部中のアンモニアガス濃度は、模擬排水中のカルシウム濃度に非依存的であるため、アンモニアガス濃度を測定する際には、排水からカルシウムを除去する前処理を実施しなくてもよい。
【0058】
[実験例3]
アンモニア態窒素濃度20mg-N/Lを含む模擬排水を測定槽へHRTが10分となるように流入させた。流入開始0分、5分、10分、15分、30分、45分、60分後に、気相部中のアンモニアガス濃度を測定した。その他の条件は実験例1と同一とした。
【0059】
[実験例4]
アンモニア態窒素濃度20mg-N/Lを含む模擬排水を測定槽へHRTが5分となるように流入させた。流入開始0分、2.5分、5分、10分、15分、20分、30分後に、気相部中のアンモニアガス濃度を測定した。その他の条件は実験例1と同一とした。
【0060】
図9に、実験例3及び4における気相部中のアンモニアガス濃度の時間変化を示す。
図9に示すように、気相部中のアンモニアガス濃度が最大値に達するには、測定槽のHRTの4倍の時間を要する。少なくとも生物処理槽の1HRT内に1回以上はNH
3ガス濃度が最大値に達することが好ましいため、測定槽のHRTは生物処理槽のHRTの1/4以下に設定するのが好ましい。測定槽のHRTは、測定槽への模擬排水の流入量を制御することで増減できる。測定槽は生物処理槽よりも十分に小さければ、模擬排水の流入量が少なくてもよく、測定槽へ模擬排水を供給するポンプを小型化できる。
【0061】
[実験例5]
アンモニア態窒素を含有する半導体工場排水を測定槽へ流入させた。その他の条件は実験例1と同一とした。インドフェノール青吸光光度法で測定した半導体工場排水中のアンモニア態窒素濃度の実測値と、気相部中のアンモニアガス濃度の測定値から、実験例1のように本排水を用いて相関関係を確認し、得られた近似式を使用して算出したアンモニア態窒素濃度の値の誤差率は13%であった。この結果から、排水をろ過処理しないで測定した気相部中のアンモニアガス濃度を、半導体工場排水中のアンモニア態窒素濃度の算出に利用できる。
【0062】
[実験例6]
スポンジ状担体を充填した硝化槽に、実験例1で使用した模擬排水を供給して生物処理を行った。そして、硝化槽から排出された処理水を、測定槽に流入させた。その他の条件は実験例1と同一とした。
【0063】
処理水中の浮遊物質量(Suspended solid:SS)は18mg/L、インドフェノール青吸光光度法で測定したアンモニア態窒素濃度は17.9mg-N/Lであった。測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度は14.5ppmであったため、実験例1で求めた近似式を用いて排水中のアンモニア態窒素濃度を算出すると18.2mg-N/Lとなった。インドフェノール青吸光光度法で求めた実測値と、気相部アンモニアガス濃度から算出した値の誤差率は1.6%であった。
【0064】
[実験例7]
半回分式活性汚泥窒素除去法により生物処理を行う硝化槽に、実験例1で使用した模擬排水を供給して生物処理を行った。そして、硝化槽から排出された処理水を、測定槽に流入させた。その他の条件は実験例1と同一とした。
【0065】
処理水中のSSは1700mg/L、インドフェノール青吸光光度法で測定したアンモニア態窒素濃度は12.9mg-N/Lであった。測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度は9.5ppmであったため、実験例1で求めた近似式を用いて排水中のアンモニア態窒素濃度を算出すると11.9mg-N/Lとなった。インドフェノール青吸光光度法で求めた実測値と、気相部アンモニアガス濃度から算出した値の誤差率は7.6%であった。この結果から、ろ過処理なしに測定した気相部中のアンモニアガス濃度を、処理水中のアンモニア態窒素濃度の算出に利用できると言える。
【0066】
[実験例8]
実験例1で使用した測定槽に20%塩酸を添加し、槽内pHを2以下にして、5分間、槽内を攪拌した。その結果、アルカリ性条件で析出した槽内のスケールは溶解した。
【0067】
[実験例9]
アンモニア態窒素濃度20mg-N/Lを含む模擬排水を、覆蓋されていない測定槽へ流入させた。その他の条件は実施例1と同一とした。
【0068】
図10に、実験例1の覆蓋されている測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度の測定結果と、実験例9の覆蓋されていない測定槽の気相部中のアンモニアガス濃度の測定結果を示す。
図10に示すように、覆蓋されている測定槽を使用して、気相部中のアンモニアガス濃度を測定する方が、アンモニアガスの希釈が抑制される。
【0069】
[付記]
(1)
生物処理槽において、アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理工程と、
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定工程と、
前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定工程と、
前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御する制御工程と、を有することを特徴とする水処理方法。
(2)
前記制御工程は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することを特徴とする上記(1)に記載の水処理方法。
(3)
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定工程を有し、
前記制御工程は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理工程の運転条件を制御することを特徴とする上記(2)に記載の水処理方法。
(4)
前記第1測定槽の水理学的滞留時間、及び前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の水処理方法。
(5)
前記生物処理工程の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の水処理方法。
(6)
アンモニア態窒素が溶存された被処理水を生物処理する生物処理槽と、
第1測定槽を有し、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の一部を第1サンプル液として前記第1測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第1サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第1測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C1を測定する第1測定装置と、
第2測定槽を有し、前記生物処理槽で生物処理された処理水の一部を第2サンプル液として前記第2測定槽に流入させ、アルカリ性条件下で、前記第2サンプル液に溶存しているアンモニア態窒素をアンモニアガスとして前記第2測定槽の気相部に移行させて、アンモニアガス濃度C2を測定する第2測定装置と、
前記アンモニアガス濃度C1及び前記アンモニアガス濃度C2に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御する制御装置と、を有することを特徴とする水処理装置。
(7)
前記制御装置は、前記アンモニアガス濃度C2から推定される処理水中のアンモニア態窒素濃度を、前記アンモニアガス濃度C1から推定される被処理水中のアンモニア態窒素濃度で除することにより求められるアンモニア除去率に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することを特徴とする上記(6)に記載の水処理装置。
(8)
前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量を測定する流量測定手段を有し、
前記制御装置は、前記アンモニア除去率、及び前記被処理水中のアンモニア態窒素濃度に前記被処理水の流量を乗じることにより求められる流入アンモニア負荷に基づいて、前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件を制御することを特徴とする上記(7)に記載の水処理装置。
(9)
前記第1測定槽の水理学的滞留時間、前記第2測定槽の水理学的滞留時間はそれぞれ、前記生物処理槽の水理学的滞留時間の1/4以下であることを特徴とする上記(6)~(8)のいずれか1つに記載の水処理装置。
(10)
前記生物処理槽における前記生物処理の運転条件は、前記生物処理槽に流入する前記被処理水の流量、前記生物処理槽内の温度、前記生物処理槽内のpH、前記生物処理槽内の無機炭素濃度、前記生物処理槽内の汚泥濃度のうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする上記(6)~(9)のいずれか1つに記載の水処理装置。
【符号の説明】
【0070】
1~3 水処理装置、10,10a,10b 生物処理槽、12 第1測定装置、14 第2測定装置、16 制御装置、18 流量計、20 被処理水供給ポンプ、22 散気装置、24 第1測定槽、26a,26b pH計、28a,28b アンモニアガス濃度計、30 撹拌機、32 第2測定槽、34 アルカリ剤貯留槽、36a,36b アルカリ剤供給ポンプ、38a,38b アルカリ剤供給配管、39 アルカリ剤供給装置、40 酸剤貯留槽、42a,42b 酸剤供給ポンプ、44a,44b 酸剤供給配管、45 酸剤供給装置、46a~46f,46k,46m,46n,46p 配管、50 単一測定装置、52 単一測定槽。