(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153453
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】土壌汚染評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20241022BHJP
B09C 1/00 20060101ALI20241022BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N1/22 L
B09C1/00 ZAB
G01N1/22 Y
G01N33/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067355
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽士
【テーマコード(参考)】
2G052
4D004
【Fターム(参考)】
2G052AA19
2G052AB22
2G052AC03
2G052AD02
2G052AD32
2G052AD42
2G052BA14
2G052ED06
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA03
4D004AA41
4D004AB07
4D004CA47
4D004CB31
4D004DA01
4D004DA10
4D004DA17
(57)【要約】
【課題】種々の汚染物質のうち、ダイオキシン類は、人体への影響が懸念される、非揮発性の安定した有機塩素化合物である。このため、先行技術文献に記載されるようなガス分析によりダイオキシン類の汚染状況を確認することは困難である。そこで、本発明は、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できる土壌汚染評価方法を目的とする。
【解決手段】土壌から土壌ガスを採取する工程(I)と、前記土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、前記土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定する工程(II)と、を有する、土壌汚染評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌から土壌ガスを採取する工程(I)と、
前記土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、前記土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定する工程(II)と、を有する、土壌汚染評価方法。
【請求項2】
前記工程(II)において、前記有機化合物の含有量が0.1mg/kg以上のときに、前記土壌が前記ダイオキシン類で高濃度に汚染されていると判定する、請求項1に記載の土壌汚染評価方法。
【請求項3】
前記工程(I)が、前記有機化合物を吸着剤に吸着させる処理と、前記有機化合物が吸着した前記吸着剤から前記有機化合物を脱着させる処理と、を有し、
前記工程(II)において、前記の脱着した有機化合物の種類を特定する処理を有する、請求項1又は2に記載の土壌汚染評価方法。
【請求項4】
前記工程(I)が、前記土壌を加熱する処理を有する、請求項1又は2に記載の土壌汚染評価方法。
【請求項5】
前記有機化合物が2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロアニソール、2,4,5-トリクロロフェノール及び2,4,5-トリクロロアニソールから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の土壌汚染評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌汚染評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属類や揮発性有機化合物や油等の汚染物質で汚染された汚染土壌を浄化処理する場合、従来、処理対象区域内を均等に区画し、各区画単位に対してボーリング調査やガス分析等を行う方法が知られている。ボーリング調査やガス分析等により、各区画単位の汚染具合を確認し、基準値を超える区画単位の土壌に対して浄化処理が行われる。細かく区画した土壌に対する調査は、処理対象区域が広範囲になるほど手間とコストがかかる。
【0003】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、汚染物質の概況調査を行い、概況調査の結果に基づいて土壌の三次元構造を解析し、汚染物質の土壌中の挙動を推定する土壌汚染評価方法が提案されている。特許文献1の発明によれば、浄化処理する区域の選定を効率よく行うことが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種々の汚染物質のうち、ダイオキシン類は、人体への影響が懸念される、非揮発性の安定した有機塩素化合物である。このため、特許文献1に記載されるようなガス分析によりダイオキシン類の汚染状況を確認することは困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できる土壌汚染評価方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]土壌から土壌ガスを採取する工程(I)と、
前記土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、前記土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定する工程(II)と、を有する、土壌汚染評価方法。
[2]前記工程(II)において、前記有機化合物の含有量が0.1mg/kg以上のときに、前記土壌が前記ダイオキシン類で高濃度に汚染されていると判定する、[1]に記載の土壌汚染評価方法。
[3]前記工程(I)が、前記有機化合物を吸着剤に吸着させる処理と、前記有機化合物が吸着した前記吸着剤から前記有機化合物を脱着させる処理と、を有し、
前記工程(II)において、前記の脱着した有機化合物の種類を特定する処理を有する、[1]又は[2]に記載の土壌汚染評価方法。
[4]前記工程(I)が、前記土壌を加熱する処理を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の土壌汚染評価方法。
[5]前記有機化合物が2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロアニソール、2,4,5-トリクロロフェノール及び2,4,5-トリクロロアニソールから選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の土壌汚染評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の土壌汚染評価方法によれば、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る土壌汚染評価方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工程(I)の一例を示す模式図である。
【
図3】土壌から検出される有機化合物の濃度とダイオキシン類の濃度との相関関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る工程(I)の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪土壌汚染評価方法≫
本発明の土壌汚染評価方法は、土壌から土壌ガスを採取する工程(I)と、前記土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、前記土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定する工程(II)と、を有する。
以下、本発明の一実施形態に係る土壌汚染評価方法について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の土壌汚染評価方法は、工程(I)と、工程(II)と、を有する。さらに、本実施形態の土壌汚染評価方法の工程(I)は、土壌を加熱する処理(加熱処理)と、有機化合物を吸着剤に吸着させる処理(吸着処理)と、吸着剤から有機化合物を脱着させる処理(脱着処理)と、を有する。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0012】
<工程(I)>
工程(I)は、土壌から土壌ガスを採取する工程である。
本明細書において、「土壌ガス」とは、土壌中の空気のことをいう。土壌ガスは、微生物と植物の根による酸素の消費と二酸化炭素の放出とにより、大気に比べて酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い。土壌ガスを採取し、分析することで、微生物による代謝や土壌中に含まれる成分を間接的に知ることができる。枯葉剤で汚染された汚染土壌から採取される土壌ガスは、枯葉剤に由来する有機化合物を含む。
本明細書において、「枯葉剤」とは、植物を枯らすために用いられる農薬の一種をいい、除草剤ともいう。本明細書における枯葉剤は、ダイオキシン類の一種である2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-1,4-ジオキシン(TCDD)を含む。
【0013】
本明細書において、「ダイオキシン類」は、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)及びダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCBs)の総称をいう。DL-PCBsは、ダイオキシン類特有の毒性を有するポリ塩化ビフェニル(PCB)をいう。ダイオキシン類の毒性は、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-1,4-ジオキシン(TCDD)の毒性を基準とする毒性の等量(TEQ)を用いて表される。
【0014】
工程(I)の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図2に示すように、土壌ガスを採取する際は、任意の処理対象区域A1(例えば、10m×10mの範囲の領域)に対して、地表面Gから土壌S1中に採取孔を穿孔し、保護管10を埋設する。保護管10の内部に、採取容器20を設置し、採取容器20の内部に吸着剤30を採取容器20の内面に接触しないように設置する。
採取孔の大きさは、特に限定されないが、例えば、採取孔の直径は、50~75mmが好ましい。採取孔の深さは、例えば、0.8~1mが好ましい。
【0015】
保護管10は、ステンレス管、アルミ管等の調査対象物質を吸着しない材質の管が好ましい。
保護管10は、底面又は下部側面に開口部を有することが好ましい。保護管10が底面又は下部側面に開口部を有することで、土壌ガスを保護管10の内部に導入できる。
保護管10は、上部50cm以上が無孔管であることが好ましい。保護管10の上部50cm以上を無孔管とすることで、保護管10の内部に大気が混入することを抑制し、土壌ガスに含まれる成分の分析精度をより高められる。
保護管10は、管頭をゴム栓、パッカー等で密栓できることが好ましい。保護管10の管頭をゴム栓、パッカー等で密栓することで、保護管10の内部に大気が混入することを抑制し、土壌ガスに含まれる成分の分析精度をより高められる。
保護管10の大きさは、特に限定されず、採取孔の直径よりもわずかに小さく、採取孔の深さよりも長いことが好ましい。
【0016】
採取容器20は、保護管10の内部に載置される。
採取容器20の材質は、化学反応、吸着反応等によって土壌ガスの分析結果に影響を与えず、かつ、土壌ガスに含まれる物質によって腐食されにくいものが好ましい。採取容器20の材質としては、例えば、ガラス、シリコン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
採取容器20の内径は、保護管10の直径よりも小さければよく、土壌ガスの流入のしやすさ、採取容器20の強度、洗浄のしやすさ等を考慮して適宜決定できる。採取容器20の長さは、保護管10の長さよりも短ければよく、保護管10の開口部付近まで挿入できる長さであることが好ましい。
一度使用した採取容器20を再度使用する場合は、よく洗浄した後に使用することが好ましい。採取容器20の洗浄方法としては、例えば、水洗浄、加熱洗浄(加熱除去)等が挙げられる。
【0017】
吸着剤30は、土壌ガスに含まれる有機化合物を吸着できるものであればよく、特に限定されない。吸着剤30としては、例えば、細孔を有するシリカ、細孔を有する活性炭、多孔性高分子(ポーラスポリマー)、細孔を有するゼオライト等が挙げられる。
土壌ガスに含まれる有機化合物としては、枯葉剤に由来する有機化合物が挙げられ、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、フェノール、アニソール、及びこれらのハロゲン化物等が挙げられる。
脂肪族炭化水素としては、例えば、ウンデカン、ドデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が挙げられる。
土壌ガスに含まれる有機化合物としては、このほか、有機シロキサン、リモネン、脂肪族カルボン酸、アセトン等が挙げられる。
【0018】
(加熱処理)
本実施形態の土壌汚染評価方法は、工程(I)が、土壌を加熱する処理(以下、「加熱処理」ともいう。)を有することが好ましい。工程(I)が加熱処理を有することで、土壌ガスに含まれる有機化合物をより多く検出できる。
加熱処理における温度(以下、「加熱温度」ともいう。)は、例えば、30℃以上100℃未満が好ましく、40℃以上90℃以下がより好ましく、50℃以上70℃以下がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、有機化合物の検出量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。加熱温度が上記上限値未満であると、水蒸気の発生を抑制できる。加えて、加熱温度が上記上限値未満であると、土壌の変質を抑制できる。
【0019】
加熱処理における時間(以下、「加熱時間」ともいう。)は、例えば、5~120分間が好ましく、10~90分間がより好ましく、20~60分間がさらに好ましい。加熱時間が上記下限値以上であると、有機化合物の検出量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。加熱時間が上記上限値以下であると、土壌の変質を抑制できる。
【0020】
加熱処理の方法は特に限定されず、例えば、土壌に加熱ヒーターを埋め込んで加熱する方法等が挙げられる。土壌に加熱ヒーターを埋め込んで加熱する方法としては、例えば、採取孔内に加熱ヒーターを設置して土壌を直接加熱する方法、採取孔周辺の土壌に加熱ヒーターを埋め込んで間接的に土壌を加熱する方法等が挙げられる。
【0021】
(吸着処理)
工程(I)は、有機化合物を吸着剤に吸着させる処理(以下、「吸着処理」ともいう。)を有することが好ましい。吸着処理を有することで、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量をより効率よく調査できる。すなわち、本実施形態の土壌汚染評価方法は、吸着処理を有することで、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況をより簡便に調査できる。
吸着剤としては、特に限定されず、上述した吸着剤30等が挙げられる。
【0022】
吸着処理における処理時間(以下、「吸着時間」ともいう。)は、例えば、5~120分間が好ましく、10~90分間がより好ましく、20~60分間がさらに好ましい。吸着時間が上記下限値以上であると、有機化合物の検出量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。吸着時間が上記上限値以下であると、土壌ガスを充分吸着でき、評価効率をより高められる。
【0023】
吸着処理における処理温度(以下、「吸着温度」ともいう。)は、例えば、30℃以上100℃未満が好ましく、40℃以上90℃以下がより好ましく、50℃以上70℃以下がさらに好ましい。吸着温度が上記下限値以上であると、有機化合物の検出量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。吸着温度が上記上限値以下であると、吸着剤に吸着する有機化合物の量をより高められる。
【0024】
(脱着処理)
工程(I)は、有機化合物が吸着した吸着剤から有機化合物を脱着させる工程(以下、「脱着処理」ともいう。)を有することが好ましい。脱着処理を有することで、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量をより簡便に測定できる。すなわち、本実施形態の土壌汚染評価方法は、脱着処理を有することで、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況をより簡便に調査できる。
【0025】
有機化合物が吸着した吸着剤から有機化合物を脱着させる方法としては、例えば、加熱する方法、溶媒抽出する方法等が挙げられる。
加熱する方法の場合、脱着処理における処理温度(以下、「脱着温度」ともいう。)は、例えば、150~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましく、220~280℃がさらに好ましい。脱着温度が上記下限値以上であると、有機化合物の脱着量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。脱着温度が上記上限値以下であると、吸着した成分の変質を抑制できる。
【0026】
加熱する方法の場合、脱着処理における処理時間(以下、「加熱脱着時間」ともいう。)は、例えば、0.5~30分間が好ましく、1~20分間がより好ましく、1.5~10分間がさらに好ましい。加熱脱着時間が上記下限値以上であると、有機化合物の検出量をより高められ、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。加熱脱着時間が上記上限値以下であると、有機化合物を充分脱着でき、評価効率をより高められる。
【0027】
溶媒抽出する方法としては、例えば、ジクロロメタン、アセトン、メタノール、エタノール、ヘキサン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、トルエンなどを溶媒として、吸着剤から有機化合物を脱着させ、溶媒へ抽出することができる。この際、溶媒の種類に応じて抽出される物質の抽出率が異なるため、抽出する物質に適した溶媒を予め選定することが望ましい。一般的に、抽出時間が短く、かつ使用する溶媒の量が少ない場合は抽出率が低下する。
【0028】
<工程(II)>
工程(II)は、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定する工程である。
本実施形態の枯葉剤は、TCDDを含む。TCDDは、不揮発性の有機化合物であるため、土壌ガスからは検出されない。
しかしながら、枯葉剤の主成分の一種である2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)は、土壌中で微生物等によって、2,4-ジクロロフェノールと、2,4-ジクロロアニソールとに分解される。
同様に、枯葉剤の主成分の一種である2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)は、土壌中で微生物等によって、2,4,5-トリクロロフェノールと、2,4,5-トリクロロアニソールとに分解される。
これらの分解された有機化合物は、揮発性を有するため、土壌ガス中に含まれ得る。そして、2,4-Dと2,4,5-Tとは、製造過程でTCDD等のダイオキシン類を副生成物として含み得る。
このため、2,4-ジクロロフェノール等の有機化合物を検出した場合に、その土壌ガスを発生した土壌には、ダイオキシン類が含まれると推定できる。
【0029】
工程(I)が脱着処理を有する場合、工程(II)は、脱着した有機化合物の種類を特定する処理(以下、「種類特定処理」ともいう。)を有することが好ましい。
工程(II)が種類特定処理を有することで、ダイオキシン類で汚染されているか否かの判定の精度をより高められる。
種類特定処理としては、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いる方法等が挙げられる。
【0030】
ダイオキシン類が高濃度(例えば、10,000pg-TEQ/g以上)に含まれると推定できる有機化合物の濃度、すなわち、土壌がダイオキシン類で高濃度に汚染されていると判定できる有機化合物の含有量は、ダイオキシン類の濃度に応じて決定できる。土壌がダイオキシン類で高濃度に汚染されていると判定できる有機化合物の含有量は、例えば、ダイオキシン類の濃度が10,000pg-TEQ/gの場合、土壌1kg当たり、0.1mg/kg以上が好ましく、1mg/kg以上がより好ましく、5mg/kg以上がさらに好ましい。有機化合物の含有量が上記下限値以上であると、土壌がダイオキシン類で高濃度に汚染されているとの判断がより確実になる。
土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量は、例えば、GC-MSによって測定できる。
【0031】
上記の有機化合物としては、2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロアニソール、2,4,5-トリクロロフェノール及び2,4,5-トリクロロアニソールから選ばれる1種以上が好ましい。これらの有機化合物は、枯葉剤の主成分の一種である2,4-D又は2,4,5-Tの分解物であり、これらの有機化合物が検出された土壌は、ダイオキシン類で高濃度に汚染されている可能性が高いためである。
【0032】
図3に、枯葉剤で汚染された汚染土壌における2,4-D、2,4,5-T及びダイオキシン類の濃度をGC-MSで測定した結果を示す。
図3に示すように、2,4-Dとダイオキシン類及び2,4,5-Tとダイオキシン類との間には相関関係が認められる。
2,4-Dとダイオキシン類との間には、直線L1に示すような相関関係が認められる。
2,4,5-Tとダイオキシン類との間には、直線L2に示すような相関関係が認められる。
例えば、2,4-Dが10mg/kg含まれる土壌では、17,000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されることが推定できる。
例えば、2,4,5-Tが10mg/kg含まれる土壌では、13,000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されることが推定できる。
このように、本工程では、2,4-D又は2,4,5-Tの濃度から、ダイオキシン類の濃度を推定できる。2,4-D又は2,4,5-Tの濃度は、2,4-ジクロロフェノール等の有機化合物の含有量から求めることができるため、本工程では、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定できる。
【0033】
図2に示すように、本実施形態においては、吸着剤30を載置した採取容器20を保護管10の内部に設置することで、土壌ガスが保護管10の内部から採取容器20の内部に流入する。採取容器20の内部に流入した土壌ガスは、吸着剤30と接触し、土壌ガス中の有機化合物が吸着剤30に吸着される。
有機化合物を吸着した吸着剤30を取り出し、有機化合物を脱着させることで、土壌ガス中の有機化合物の濃度を測定できる。
測定した有機化合物の濃度に基づいて、ダイオキシン類の濃度を推定することで、土壌がダイオキシン類で汚染されているか否かを判断する(工程(II))。
【0034】
本発明の土壌汚染評価方法は、加熱処理、吸着処理及び脱着処理を有していなくてもよい。加熱処理、吸着処理及び脱着処理を有しない、工程(I)の他の実施形態について、図面を参照して説明する。
図4に示すように、本実施形態の場合、任意の処理対象区域A2(例えば、10m×10mの範囲の領域)に対して、地表面Gから土壌S2中に採取孔を穿孔し、保護管10を埋設する。保護管10の上部と、捕集箱40の内部に載置された捕集バッグ42とを導管C1で接続する。捕集箱40と、減圧ポンプ50とを導管C2で接続する。
図2と同じ構成については、
図2と同じ符号を付し、その説明を省略する。
採取孔の大きさは、上述した実施形態における採取孔の大きさと同様である。
【0035】
導管C1としては、例えば、シリコーンゴム管、フッ素ゴム管、軟質塩化ビニル管、肉厚ゴム管等が挙げられる。
導管C2としては、導管C1と同様のものが挙げられる。
【0036】
捕集箱40としては、例えば、ガラス製又は金属製の容器等が挙げられる。
捕集箱40の内容量は、例えば、1~10Lが好ましい。
捕集箱40としては、絶対圧力1kPa以下を1時間以上保持できるものが好ましい。
【0037】
捕集バッグ42としては、例えば、フッ素樹脂、ポリプロピレン等の合成樹脂フィルムのバッグが挙げられる。
捕集バッグ42としては、土壌ガス中の調査対象物質の吸着、透過又は変質を生じないものが好ましい。
捕集バッグ42の内容量は、例えば、1~3Lが好ましい。
【0038】
減圧ポンプ50としては、公知の減圧ポンプを利用できる。
【0039】
図4における工程(I)では、まず減圧ポンプ50を稼働して、捕集箱40の内部を減圧する。
減圧ポンプ50を稼働する際の吸引速度は、例えば、50~150mL/minが好ましい。吸引速度が上記数値範囲内であると、土壌ガスをより確実に採取できる。
【0040】
捕集箱40の内部を減圧することで、捕集バッグ42が膨らみ、保護管10の内部の土壌ガスが導管C1を通流して捕集バッグ42の内部に流入する。
土壌ガスが捕集バッグ42の内部に流入した後、捕集バッグ42の開口部を密栓し、捕集箱40から取り出すことで、土壌ガスを採取できる。
採取した土壌ガスは、GC-MS等で有機化合物の含有量を測定し、ダイオキシン類の濃度を推定し、ダイオキシン類で汚染されているか否かを判断する(工程(II))。
【0041】
本発明の土壌汚染評価方法は、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定するため、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できる。
本発明の土壌汚染評価方法は、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できるため、広範囲の処理対象区域に対しても、手間とコストを掛けずに汚染土壌の汚染状況を調査できる。
本発明の土壌汚染評価方法は、土壌ガスに含まれる有機化合物の含有量から、汚染土壌に含まれるダイオキシン類の濃度を推定するため、汚染土壌を直接採取せずに汚染土壌の汚染状況を調査できる。
【実施例0042】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
(土壌から揮発する有機化合物の捕集試験)
枯葉剤で汚染された汚染土壌(試料)8gを20mLガラスバイアルに取り分け、吸着剤(連続孔を有し、シリカ骨格に細孔を持つシリカゲル)を上部気相に吊り下げた後密栓し、60℃に設定した恒温槽に60分間静置して、土壌ガス中の有機化合物を吸着剤に吸着させた(捕集試験)。
同時に、捕集中の有機化合物(ブランク由来)の吸着を確認するため、以下のブランク試験を行った。
・容器ブランク
試料を入れない空の試験容器(20mLガラスバイアル)に対して、試料と同様の方法で捕集試験を行った(60℃、60分間)。
・ラボブランク
吸着剤を試験容器に入れず、捕集試験中のラボ内雰囲気中に直接曝露した。ラボ内雰囲気の温度は27.7℃、曝露時間は120分間であった。
【0044】
吸着剤に吸着させた有機化合物を、ポータブル・サーマル・ディソーバー(HandyTD TD265、ジーエルサイエンス(株)製)を使用して加熱脱離(250℃、1.5分間)し、全量をGC-MSに導入した。
GC-MSの分析条件を以下に示す。
・機種名:Agilent 6890/5975。
・分離カラム:DB-WAX 60m×25mmφ 膜厚0.25μm。
・カラム温度条件:40℃(3min保持)→10℃/min→100℃→3℃/min→250℃(5min保持)。
・キャリア―ガス:ヘリウム 1.0mL/min。
・データ取得方法:SCANモード(計測範囲 m/z35~550)。
【0045】
[実施例2]
60℃に設定した恒温槽に、試験容器を静置する時間を10分間とした以外は、実施例1と同様に捕集試験を行った。
【0046】
[実施例3]
試験容器を常温(27.7℃)に120分間静置した以外は、実施例1と同様に捕集試験を行った。
【0047】
[実施例4]
試験容器を常温(27.7℃)に静置する時間を30分間とした以外は、実施例3と同様に捕集試験を行った。
【0048】
各例でGC-MSに導入した気体について、気体の各成分が検出器に到達するまでの時間(保持時間)を測定し、定性分析を行った。結果を表1、表2に示す。
表中、「○」は、その成分が検出されたことを示し、「-」は、その成分が検出されなかったことを示す。表中に示す有機化合物名は、ブランク試験で検出された成分を除いたものである。なお、表には、検出された成分のうち、構造を特定できない物質、種々の炭化水素、同一の化合物で保持時間が異なるものの一部の化合物名は記載していない。また、異性体を有する有機化合物については、異性体の識別は行っていない。
【0049】
【0050】
【0051】
表1~2に示すように、試料由来の有機化合物として、構造に塩素を含む有機化合物が多数検出された。このうち、トリクロロアニソールの検出強度が高く、特徴的な有機化合物であった。2,4,5-Tの環境中での分解等によってトリクロロアニソールが生成することから、実施例1~4で使用した汚染土壌は、ダイオキシン類で汚染されている可能性が高いものと推定される。
このほか、枯葉剤由来の可能性がある有機化合物として、ジクロロアニソール、ジクロロフェノール、トリクロロフェノール及びメチルナフタレン等が検出された。
有機化合物を捕集する際の条件としては、常温(27.7℃)よりも高温(60℃)の方がより多くの有機化合物が検出されることが確認できた。また、同じ温度の場合、短時間(10分間又は30分間)よりも長時間(60分間又は120分間)の方が、より多くの有機化合物が検出されることが確認できた。
【0052】
以上の結果から、本発明の汚染土壌の土壌汚染評価方法によれば、ダイオキシン類で汚染された汚染土壌の汚染状況を簡便に調査できることが分かった。
【0053】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係る汚染土壌の土壌汚染評価方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば、「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
10…保護管、20…採取容器、30…吸着剤、40…捕収箱、42…捕集バッグ、50…減圧ポンプ、A1,A2…処理対象区域、S1,S2…土壌、G…地表面、C1,C2…導管