(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153458
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】半導体発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/16 20060101AFI20241022BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01S5/16
H01S5/042 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067361
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】片山 雅之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
(72)【発明者】
【氏名】和田 章良
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AH12
5F173AK08
5F173AK21
5F173AR68
5F173AR72
(57)【要約】
【課題】半導体層への不純物の拡散ではない構造で、半導体材料や構造の制限を受けず、良好な放熱性も得られる半導体発光装置を提供する。
【解決手段】発光素子基板11の一面側に各層を形成して構成される素子部4、発光素子基板11上に形成されたn型電極10、および、素子部4を挟んでn型電極10の反対側に配置されたp型電極18を含み、一方向を共振方向として、共振方向の両端面の少なくとも一方から光を出射する発光素子2と、p型電極18に接続された基材3と、を有している。そして、p型電極18は、発光素子2側に配置された第1電極と基材側に配置された第2電極との接合構造であり、第1電極と第2電極との接合層18d~18fは、少なくともAuとSnとNiとを含み、共振方向の両端においてそれより内側となる中央部よりもNiの濃度であるNi濃度が大きくなっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光装置であって、
第1導電型の半導体材料で構成された発光素子基板(11)を有し、前記発光素子基板の一面側に第1導電型の第1クラッド層(12)と、第1導電型の第1ガイド層(13)と、活性層(14)と、第2導電型の第2ガイド層(15)と、第2導電型の第2クラッド層(16)が順に配置された素子部(4)、前記発光素子基板における前記第1クラッド層と反対側に形成された第1導電型電極(10)、および、前記素子部を挟んで前記第1導電型電極の反対側に配置された第2導電型電極(18)を含み、一方向を共振方向として、前記共振方向の両端面の少なくとも一方から光を出射する発光素子(2)と、
前記第2導電型電極に接続された基材(3)と、を有し、
前記第2導電型電極は、前記発光素子側に配置された第1電極と前記基材側に配置された第2電極との接合構造であり、前記第1電極と前記第2電極との接合層(18d~18f)は、少なくともAuとSnとNiとを含み、前記共振方向の両端においてそれより内側となる中央部よりも前記Niの濃度であるNi濃度が大きくなっている、半導体発光装置。
【請求項2】
前記接合層は、前記共振方向の両端と中央部とのNi濃度差が5mol%以上である、請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記第1電極にはNi層(18c)が含まれている、請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記Ni層は、前記共振方向の両端において中央部よりも厚くなっている、請求項3に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記Ni層は、前記共振方向の両端において中央部よりも分布量が多くなっている、請求項3に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記第2電極にはNi層(18c)が含まれている、請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記Ni層は、前記共振方向の両端において中央部よりも厚くなっている、請求項6に記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記Ni層は、前記共振方向の両端において中央部よりも分布量が多くなっている、請求項6に記載の半導体発光装置。
【請求項9】
前記活性層が窒化物系の半導体材料で構成されている、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザを有する半導体発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザでは両端面において界面準位が多く存在する。このため、非発光再結合により温度上昇が生じ、バンドギャップが小さくなり、光を吸収し、光吸収により温度上昇をさらに繰り返し、光学損傷(COD:Catastrophic Optical Damage)が生じることが知られている。これに対し、両端面のバンドギャップを大きくし、光吸収を生じにくくする窓構造と呼ばれる構造が提案されている。
【0003】
例えば、光の発生する半導体活性層を量子井戸で形成して不純物を拡散させ、量子井戸を無秩序化、つまり混晶化することでバンドギャップを大きくする構造がある。しかし、不純物を拡散するためにはGaAsやInP系材料であることが必要なため活性層の材料に制限があり、また、活性層構造として井戸層厚に制限がある。
【0004】
一方、GaN系活性層において電子陰性度の大きい不純物を含有することで同様の効果を得ることができる。この構造は、プラズマ処理により形成できるため、熱の影響が無いといった利点がある。ただし、この構造を適用できるのは、分極を生じるGaN系材料で活性層が構成される場合に限定される。したがって、半導体材料、素子の構造に制限がある。
【0005】
これに対し、特許文献1において、窒化物系材料についてCODを抑制できるようにした技術として、端面付近において切欠き部を設けることで、共振器の端面の下端が半導体基板と接しないようにして歪を低減する構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案されている構造では、光吸収は抑制されるが、切欠き部とされた端面付近の発熱を放熱することができないし、活性層が引張歪みの場合でしか適用できない。
【0008】
本開示は上記点に鑑みて、半導体層への不純物の拡散ではない構造で、半導体材料や構造の制限を受けず、良好な放熱性も得られる半導体発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
半導体発光装置であって、
第1導電型の半導体材料で構成された発光素子基板(11)を有し、発光素子基板の一面側に第1導電型の第1クラッド層(12)と、第1導電型の第1ガイド層(13)と、活性層(14)と、第2導電型の第2ガイド層(15)と、第2導電型の第2クラッド層(16)が順に配置された素子部(4)、発光素子基板における第1クラッド層と反対側に形成された第1導電型電極(10)、および、素子部を挟んで第1導電型電極の反対側に配置された第2導電型電極(18)を含み、一方向を共振方向として、共振方向の両端面の少なくとも一方から光を出射する発光素子(2)と、
第2導電型電極に接続された基材(3)と、を有し、
第2導電型電極は、発光素子側に配置された第1電極と基材側に配置された第2電極との接合構造であり、第1電極と第2電極との接合層(18d~18f)は、少なくともAuとSnとNiとを含み、共振方向の両端においてそれより内側となる中央部よりもNiの濃度であるNi濃度が大きくなっている。
【0010】
このように、第2導電型電極について、光の共振方向の両端が中央部よりもNi濃度が高くなるようにしているため、活性層に対して圧縮歪を印加することが可能となる。これにより、光の共振方向における両端において、バンドギャップが大きくなり、光吸収を生じにくくすることができて、CODを抑制することが可能となる。そして、光の共振方向における両端面に切欠きなどを設けなくても済み、端面を単なる平坦面のままにできる。したがって、半導体層への不純物の拡散ではない構造で、半導体材料や構造の制限を受けずに、良好な放熱性も得られる半導体発光装置にできる。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の第1実施形態にかかる半導体発光装置の断面図である。
【
図2A】
図1に示す半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2B】
図2Aに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2C】
図2Bに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2D】
図2Cに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図2E】
図2Dに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3A】本開示の第2実施形態にかかる半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3B】
図3Aに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図4】本開示の第3実施形態にかかる半導体発光装置の断面図である。
【
図5A】
図4に示す半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5B】
図5Aに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5C】
図5Bに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5D】
図5Cに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5E】
図5Dに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図6A】本開示の第4実施形態にかかる半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図6B】
図6Aに続く半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図7】本開示の第5実施形態にかかる半導体発光装置の断面図である。
【
図8】
図7に示す半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【
図9】本開示の第6実施形態にかかる半導体発光装置の断面図である。
【
図10】
図9に示す半導体発光装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の半導体発光装置1は、発光素子2と基材3とを備えている。半導体発光装置1は、例えばレーザレーダやLiDARなどに適用される。LiDARはLight Detection And Rangingの略である。
【0015】
発光素子2は、半導体レーザを構成する部分であり、レーザ光を発生させる光源である。
図1に示すように、発光素子2は、n型電極10、発光素子基板11、第1クラッド層12、第1ガイド層13、活性層14、第2ガイド層15、第2クラッド層16、コンタクト層17、p型電極18を有している。そして、発光素子2は、一方向、ここでは
図1の紙面左右方向を共振方向として、共振方向の両端面の少なくとも一方から光を出射するようになっている。
【0016】
n型電極10は、発光素子基板11上に形成されている。発光素子基板11は、発光素子2を構成する各層が形成される基材となるものであり、n型とされている。ここでは、発光素子基板11としてInP(インジウムリン)基板が用いられている。第1クラッド層12は、n-InPで構成され、発光素子基板11の一面側に配置されている。第1ガイド層13は、n-InGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン)で構成され、第1クラッド層12に挟んで発光素子基板11と反対側に配置されている。活性層14は、InGaAsPなどで構成されており、第1ガイド層13に挟んで第1クラッド層12と反対側に配置されている。第2ガイド層15は、p-InGaAsPで構成され、活性層14に挟んで第1ガイド層13と反対側に配置されている。第2クラッド層16は、p-InGaAsPで構成され、第2ガイド層15に挟んで活性層14と反対側に配置されている。コンタクト層17は、p-InGaAsで構成され、第2クラッド層16に挟んで第2ガイド層15と反対側に配置されている。このように、発光素子基板11のうちの紙面下方側の一面側に、第1クラッド層12、第1ガイド層13、活性層14、第2ガイド層15、第2クラッド層16、コンタクト層17が順に積層された構造とされている。
【0017】
第1クラッド層12および第2クラッド層16は、活性層14の接合領域の電子密度およびホール密度を高めると共に、第1ガイド層13や第2ガイド層15およびコンタクト層17と共に活性層14内に光を閉じ込める役割を果たす。
【0018】
第1ガイド層13や第2ガイド層15は、活性層14で発せられた光を活性層14内に閉じ込める役割を果たす。
【0019】
コンタクト層17は、低コンタクト用として必要に応じて形成される。活性層14からp型電極18に向うに連れて第2ガイド層15、第2クラッド層16とバンドギャップが広くなってコンタクト抵抗が大きくなるため、バンドギャップを狭くしてコンタクト抵抗を小さくするためにコンタクト層17が形成されている。
【0020】
活性層14は、注入されたキャリアが再結合することでバンドギャップに応じた波長に光を共振発光する。活性層14は、詳細構造については省略するが、例えば結晶成長や微細加工などによって形成された粒状の量子ドットを備える複数の量子ドット層が複数層繰り返された積層構造とされることで多重量子井戸構造とされている。
【0021】
これら第1クラッド層12、第1ガイド層13、活性層14、第2ガイド層15、第2クラッド層16およびコンタクト層17によって発光素子2における素子部4が構成されている。
【0022】
p型電極18は、素子部4とのコンタクトを図るための金属層であり、素子部4を挟んでn型電極10と反対側に配置されている。本実施形態では、p型電極18は、素子部4側から順に、Ti(チタン)層18a、Pt(白金)層18b、Ni層18c、AuNiSn(金ニッケル錫)層18d、Au5Sn層18e、AuSn(金錫)層18f、Pt層18g、Ti層18hが積層されている。
【0023】
Ti層18aは素子部4とのコンタクトを取るための層である。Pt層18bは、必要に応じて形成される層で、Ti層18a側へのAuSnの到達を抑制するバリア層である。Ni層18cは、接合時に後述するAu層181およびAuSn層182と部分的に合金化される層であるが、表層部の一部のみが合金化され、合金化せずに残った部分により構成されている。AuNiSn層18d、Au5Sn層18eおよびAuSn層18fは、素子部4およびTi層18aやPt層18bと基材3との接合を図るための接合層である。AuNiSn層18d、Au5Sn層18eおよびAuSn層18fは、接合前の際には、後述するAu層181、AuSn層182、Au層183となっているが、溶融により合金化してこれら各層となる。Pt層18gも必要に応じて形成される層で、Ti層18h側へのAuSnの到達を抑制するバリア層である。Ti層18hは、基材3と接着しやすくするための接着補助層である。後述するように基材3をSiで構成しているため、接着補助層としてTi層18hを用いているが、基材3をSi以外で構成する場合にはその材料に対して接着性の良い金属を選択すれば良い。勿論、基材3をSiで構成する場合であっても接着補助層をTi以外の金属で構成しても良い。
【0024】
基材3は、p型電極18を介して発光素子2が搭載されるものであり、ここではSiで構成された半導体基板とされている。この基材3に、p型電極18と電気的に接続される配線パターンなどが形成され、p型電極18に対して所望の電圧印加を行うことが可能となっている。なお、基材3についてもSi以外の材料で構成しても良い。
【0025】
このように構成された半導体発光装置1では、紙面左右方向を光の共振方向として、光が共振させられて少なくとも一方の端面から外部に出射させられるようになっている。そして、その共振方向の両端において、それよりも内側となる中央部よりもNi濃度が大きくなっている。本実施形態の場合、共振方向の両端部において、Ni層18cの厚みを中央部よりも厚くすることで、当該場所でのNi濃度が中央部よりも大きくなるようにしている。また、Ni層18cの上に形成されたAuNiSn層18dについても、Ni層18cの上に形成されることで、紙面左右方向の両端部がそれより内側の中央部よりも基材3側に突き出た状態になっている。
【0026】
このように、半導体発光装置1における光の共振方向の両端において、中央部よりもNi濃度が大きくすること、例えば本実施形態のようにNi層18cを厚く構成することにより、後述するように活性層14に対して圧縮歪を印加することが可能となる。これにより、光の共振方向における両端において、バンドギャップが大きくなり、光吸収を生じにくくすることができて、CODを抑制することが可能となる。そして、光の共振方向の両端において、中央部よりもNi濃度が大きくすること、例えばNi層18cという電極材料の一部について、光の共振方向における両端での厚みを中央部よりも厚くするだけでCOD抑制効果が得られる。このため、当該端面に切欠きなどを設けなくても済むため、端面を単なる平坦面のままにできる。したがって、半導体発光装置1を半導体層への不純物の拡散ではない構造で、半導体材料や構造の制限を受けずに、良好な放熱性も得られるものにできる。
【0027】
続いて、本実施形態にかかる半導体発光装置1の製造方法について、
図2A~
図2Eを参照して説明する。
【0028】
まず、
図2Aに示す工程として、発光素子基板11を用意し、この発光素子基板11の上に素子部4を構成する各層とp型電極18を構成するための一部の金属層を形成する。具体的には、発光素子基板11の上に、第1クラッド層12、第1ガイド層13、活性層14、第2ガイド層15、第2クラッド層16、コンタクト層17を順に形成することで素子部4を形成する。そして、コンタクト層17の上に、Ti層18aおよびPt層18bを成膜したのち、その上にNi層18cを成膜する。Ni層18cについては、一方向の両端部、つまり半導体発光装置1としたときの共振方向における両端部がそれより内側の中央部よりも厚くなるようにしており、本実施形態ではリフトオフ法を用いてNi層18cを形成する。
【0029】
より詳しくは、
図2Aに示すように、Ni層18cのうちの第1層18caを成膜したのち、その上にレジスト30を成膜し、レジスト30が第1層18caのうちの中央部に位置する部分に残り、両端部に位置する部分に残らないように露光する。そして、レジスト30の上からNi層18cの残りの部分となる第2層18cbを成膜する。これにより、第1層18caの両端部では第2層18cbが積み増しされ、両端部以外ではレジスト30の上に第2層18cbが形成される。この後、
図2Bに示すように、剥離液などによってレジスト30を除去すると、第2層18cbのうちレジスト30の上に形成された部分も一緒に除去される。これにより、一方向の両端部において、厚みが厚くされたNi層18cを形成することができる。
【0030】
さらに、
図2Cに示す工程として、Ni層18cの上にAu層181を形成する。このAu層181は、必要に応じて形成される層で、Ni層18cが最表面にあると周囲の酸素によって酸化され得るため、酸化防止のために形成している。
【0031】
このようにして、発光素子基板11の上に発光素子2およびp型電極18を構成するための一部の金属層を形成することができる。なお、このときに形成されたp型電極18を構成するための一部の金属層が第1電極に相当する。
【0032】
一方、
図2A~
図2Cに示す工程とは別に、
図2Dに示す工程を行うことで、基材3の上にTi層18h、Pt層18g、Au層183およびAuSn層182を順に成膜する。これにより、p型電極18を構成するための残りの一部の金属層が形成される。なお、このときに形成されたp型電極18を構成するための残りの一部の金属が第2電極に相当する。
【0033】
この後、
図2Eに示す工程として、
図2Cに示す工程を経て発光素子2とp型電極18を構成するための一部の金属層が形成された発光素子基板11と、
図2Dに示す工程を経てp型電極18を構成するための残りの一部の金属層が形成された基材3を接合する。それぞれ、p型電極18を構成するための各金属層が対向するように配置し、例えば280℃以上で加熱することにより接合する。
【0034】
このとき、AuSn層182とNi層18cに含まれるAuSnおよびNiにより、下記の化学式の反応が生じる。また、Au層181やAu層183を構成するAuがその反応に適宜使用される。これにより、Au層181、AuSn層182およびAu層183がAu
5Sn層18eやAuSn層18fになる。また、Ni層18c中のNiがAuSn層182まで拡散し、AuSnと反応してAuNiSn層18dを形成する。そして、これらAuNiSn層18d、Au
5Sn層18e、AuSn層18fが接合層として機能して、第1電極と第2電極とが接合される。なお、Ni
3Sn
2については
図1中に記載していないが、AuNiSn層18dとNi層18cとの界面などに形成されている。
【0035】
[化1]
7Au0.71Sn0.29+1.53Ni→0.51Ni3Sn2+Au5Sn
ここで、上記化学式で記載した反応が生じると、22mol%のNiが反応し、3.2%の体積収縮が生じることが知られている(Materials Science & Engineering A 773 (2020) 138738参照)。1軸方向では1%の収縮が生じる。
【0036】
このため、共振方向において端面付近で接合層となるAuNiSn層18d中のNi含有量を多くすることで、活性層14に対する圧縮歪を増大できる。つまり、本実施形態のように、Ni層18cのうちの両端部の厚みを厚くすることで当該場所でのNi拡散量、Ni濃度が多くなり、体積収縮率が大きくなるため、圧縮歪を増大できる。そして、圧縮歪を印加した場合、光デバイスの発光層のバンドギャップを増大することができる(Phys, Rev.B (43) 12 pp9649-9661)。したがって、端面での光吸収によるCOD抑制を抑制することが可能となる。
【0037】
また、半導体レーザの出射光のエネルギ広がりは10meV以下である。10meV以上のバンドシフトを生じさせることで、よりCOD抑制効果が見込める。その場合、0.25%の圧縮歪を付加することが好ましく、5mol%以上のNiを接合層に取り込むこと、つまり接合層のうちの共振方向における両端と中央部とのNi濃度差が5mol%以上となるようにすることで、よりCODを抑制することが可能となる。
【0038】
この後の工程については図示しないが、発光素子基板11の上にn型電極10を形成することで、半導体発光装置1が完成する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の半導体発光装置1では、中央部よりもNi濃度が大きくすること、例えば本実施形態のようにNi層18cを厚く構成することにより、後述するように活性層14に対して圧縮歪を印加することが可能となる。これにより、光の共振方向における両端において、バンドギャップが大きくなり、光吸収を生じにくくすることができて、CODを抑制することが可能となる。そして、光の共振方向の両端において、中央部よりもNi濃度が大きくすること、例えばNi層18cという電極材料の一部について、光の共振方向における両端での厚みを中央部よりも厚くするだけでCOD抑制効果が得られる。このため、当該端面に切欠きなどを設けなくても済むため、端面を単なる平坦面のままにできる。したがって、半導体発光装置1を半導体層への不純物の拡散ではない構造で、半導体材料や構造の制限を受けずに、良好な放熱性も得られるものにできる。
【0040】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してAu層183の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0041】
第1実施形態でリフトオフ法によってNi層18cを形成する場合に、Ni層18cの第1層18caを形成した際に、第1層18caが露出した状態になる。このため、
図3Aに示す工程として、第1層18caの上にAu層181の一部を形成し、その後、レジスト30と第2層18cbを形成した後に第2層18cbの上にAu層181の残りの一部を形成するようにしてもよい。この場合、その後の
図3Bに示す工程として、レジスト30を除去する際にレジスト30の上の第2層18cbおよびAu層181の残りの一部についても除去できる。このように、Au層181を第1層18caや第2層18cbそれぞれの上に形成しても良い。
【0042】
(第3実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してAu層183の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
図4に示すように、本実施形態の半導体発光装置1も、発光素子2と基材3とを備えた構成とされているが、そのうちのp型電極18を構成する各金属層の積層順が第1実施形態と異なっている。
【0044】
具体的には、本実施形態では、p型電極18は、素子部4から順に、Ti層18a、Pt層18b、AuSn層18f、Au5Sn層18e、AuNiSn層18d、Ni層18cおよびTi層18hの積層構造によって構成されている。そして、両端部の厚みを厚くしたNi層18cを基材3側に形成してから素子部4側のp型電極18を構成するための一部の金属層と接合した構造とされている。なお、p型電極18を構成する各金属層の積層順については第1実施形態と異なっているが、各金属層の役割については第1実施形態と同様である。また、本実施形態では、基材3の上に形成したTi層18hの表面にPt沿う18gを形成していないが、形成することもできる。
【0045】
このような構造の半導体発光装置1については、
図5A~
図5Eに示す工程を経て製造することができる。
【0046】
まず、
図5A~
図5Cに示す工程として、配線パターンなどが形成された基材3を用意し、この基材3の上にp型電極18を構成するための一部の金属層を形成する。具体的には、
図5A、
図5Bに示す工程として、基材3の上に、Ti層18hを成膜したのち、その上にNi層18cを成膜する。Ni層18cについては、一方向の両端部、つまり半導体発光装置1としたときの共振方向における両端部がそれより内側の中央部よりも厚くなるようにしており、本実施形態ではリフトオフ法を用いてNi層18cを形成している。
【0047】
より詳しくは、
図5Aに示すように、Ni層18cのうちの第1層18caを成膜したのち、その上にレジスト30を成膜し、レジスト30が第1層18caのうちの中央部に位置する部分に残り両端部に位置する部分に残らないように露光する。そして、レジスト30の上からNi層18cの残りの部分となる第2層18cbを成膜する。これにより、第1層18caの両端部では第2層18cbが積み増しされ、両端部以外ではレジスト30の上に第2層18cbが形成される。この後、
図5Bに示すように、剥離液などによってレジスト30を除去すると、第2層18cbのうちレジスト30の上に形成された部分も一緒に除去される。これにより、一方向の両端部において、厚みが厚くされたNi層18cを形成することができる。
【0048】
さらに、
図5Cに示す工程として、必要に応じて、Ni層18cの上にNi層18cの酸化防止のためのAu層181を形成する。
【0049】
このようにして、基材3の上にp型電極18を構成するための一部の金属層を形成することができる。なお、このときに基材3の上に形成されたp型電極18を構成するための一部の金属層が第2電極に相当する。
【0050】
一方、
図5A~
図5Cに示す工程とは別に、
図5Dに示す工程を行うことで、発光素子2を形成すると共に、p型電極18を構成するための残りの一部の金属層を形成する。具体的には、発光素子基板11の上に、素子部4を構成する各層を形成する。そして、コンタクト層17の上に、Ti層18a、Pt層18b、Au層183、AuSn層182を形成することで、p型電極18を構成するための残りの一部の金属層が形成される。なお、このときに形成されたp型電極18を構成するための残りの一部の金属が第1電極に相当する。
【0051】
この後、
図5Eに示す工程として、
図5Cに示す工程を経てp型電極18を構成するための一部の金属層が形成された基材3と、
図5Dに示す工程を経て発光素子2とp型電極18を構成するための残りの一部の金属層が形成されたものを接合する。それぞれ、p型電極18を構成するための各金属層が対向するように配置し、例えば280℃以上で加熱することにより接合する。これにより、
図4に示した本実施形態の半導体発光装置1が完成する。
【0052】
このように、両端部の厚みを厚くしたNi層18cを基材3側に形成してから素子部4側のp型電極18を構成するための一部の金属層と接合する構造としても、共振方向の端面付近で活性層14に対する圧縮歪を増大できる。これにより、当該場所でのNi拡散量が多くなり、体積収縮率が大きくなるため、圧縮歪を増大でき、光デバイスの発光層のバンドギャップを増大することができる。したがって、端面での光吸収によるCOD抑制を抑制することが可能となり、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
(第1、第3実施形態の変形例)
上記第1、第3実施形態では、リフトオフ法を用いてNi層18cのうちの両端部が中央部よりも厚くなる構造を実現した。この構造については、他の手法によって実現しても良い。例えば、図示しないが、Ni層18cを全面厚く形成したあと、Ni層18cのうちの中央部が開口しつつ両端部を覆うマスクを配置し、そのマスクでNi層18cを覆った状態でNi層18cを厚み途中までエッチングする。このようにしても、Ni層18cのうちの両端部が中央部よりも厚くなる構造を実現できる。
【0054】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対してAu層181の構成を変更したものであり、その他については第3実施形態と同様であるため、第3実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
第3実施形態でリフトオフ法によってNi層18cを形成する場合に、Ni層18cの第1層18caを形成した際に、第1層18caが露出した状態になる。このため、
図6Aに示す工程として、第1層18caの上にAu層181の一部を形成し、その後、レジスト30と第2層18cbを形成した後に第2層18cbの上にAu層181の残りの一部を形成するようにしてもよい。この場合、その後の
図6Bに示す工程として、レジスト30を除去する際にレジスト30の上の第2層18cbおよびAu層181の残りの一部についても除去できる。このように、Au層181を第1層18caや第2層18cbそれぞれの上に形成しても良い。
【0056】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してNi層18cの構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
図7に示すように、本実施形態では、Ni層18cの厚みを略均一にしつつ、共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状とし、両端部において中央部よりもNi層18cの幅を広くしている。つまり、両端部において中央部よりもNi層18cの分布量が多くされている。
【0058】
このような構造は、
図8に示すように、Ni層18cを形成する際に、共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状とし、そのNi層18cの上にAu層181を成膜して、素子部4側と基材3側を接合すれば良い。
【0059】
なお、ここでは共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状にする構造としたが、形状についてはストライプ状に限らず任意であり、共振方向における両端部において中央部よりもNi層18cの分布量が多くなるように、Ni層18cに面内分布を設ければ良い。
【0060】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第4実施形態に対して第5実施形態と同様にNi層18cの構成を変更したものであり、その他については第4実施形態と同様であるため、第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図9に示すように、本実施形態では、Ni層18cの厚みを略均一にしつつ、共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状とし、両端部において中央部よりもNi層18cの幅を広くしている。つまり、両端部において中央部よりもNi層18cの分布量が多くされている。
【0062】
このような構造は、
図10に示すように、Ni層18cを形成する際に、共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状とし、そのNi層18cの上にAu層181を成膜して、素子部4側と基材3側を接合すれば良い。
【0063】
なお、ここでは共振方向においてNi層18cを複数に分断してストライプ状にする構造としたが、形状についてはストライプ状に限らず任意であり、共振方向における両端部において中央部よりもNi層18cの分布量が多くなるように、Ni層18cに面内分布を設ければ良い。
【0064】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0065】
例えば、上記実施形態において、p型電極18を構成する各金属層はすべて必要な訳では無く、必要に応じて備えられていれば良く、また材質についても適宜変更可能である。同様に、発光素子2の素子部4や基材3を構成する半導体材料についても一例を示したに過ぎず、他の半導体材料を用いても良い。特に、活性層について、GaAsやInP系材料でなくてもよく、窒化物系の半導体材料を用いることもできる。
【0066】
また、上記各実施形態では、第1導電型をn型、第2導電型をp型として、発光素子基板11側をn型としたが、p型としても良い。つまり、第1導電型の発光素子基板11上に、第1導電型の第1クラッド層12および第1ガイド層13、活性層14、第2導電型の第2ガイド層15および第2クラッド層16、第1電極が順に形成され、基材3側に形成された第2電極と接合される構造であれば良い。
【符号の説明】
【0067】
1…半導体発光装置、2…発光素子、3…基材、4…素子部、10…n型電極
11…発光素子基板、12…第1クラッド層、13…第1ガイド層
14…活性層、15…第2ガイド層、16…第2クラッド層
17…コンタクト層、18…p型電極、18a…Ti層、18b…Pt層
18c…Ni層、18ca…第1層、18cb…第2層、18d…AuNiSn層
18e…Au5Sn層、18f…AuSn層、18g…Pt層、18h…Ti層、
30…レジスト、181…Au層、182…AuSn層、183…Au層