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特開2024-153471胎盤様オルガノイドの製造方法、胎盤様オルガノイド、及び胎盤様オルガノイドの評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153471
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】胎盤様オルガノイドの製造方法、胎盤様オルガノイド、及び胎盤様オルガノイドの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241022BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
C12N1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067387
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 欣広
(72)【発明者】
【氏名】塚本 善之
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS40
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB23
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】出産後には不要となる胎盤から採取される絨毛細胞から胎盤様オルガノイドをよりも簡便かつ短期間に樹立できる胎盤様オルガノイドの製造方法を提供する。
【解決手段】ヒト絨毛細胞を、基礎培地、培地サプリメント、及び細胞外マトリックスを含む培地と接触させて培養する培養工程とを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法であって、前記培地サプリメントが、N2サプリメント、B27サプリメントマイナスビタミンA、プリモシン、N-アセチル-L-システイン、ヒト上皮成長因子、CHIR99021、ヒトR-スポンジン-1、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒト肝細胞増殖因子、A83-01、及びプロスタグランジンEを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト絨毛細胞を、基礎培地、培地サプリメント、及び細胞外マトリックスを含む培地と接触させて培養する培養工程とを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法であって、
前記培地サプリメントが、N2サプリメント、B27サプリメントマイナスビタミンA、プリモシン、N-アセチル-L-システイン、ヒト上皮成長因子、CHIR99021、ヒトR-スポンジン-1、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒト肝細胞増殖因子、A83-01、及びプロスタグランジンEを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法。
ただし、CHIR99021は6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(CAS登録番号:252917-06-9)を、A83-01は3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(CAS登録番号:909910-43-6)を意味する。
【請求項2】
前記細胞外マトリックスがマウスエンゲルブレスホルムスウォーム腫瘍から抽出された基底膜抽出物を含む、請求項1に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
【請求項3】
前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞を、基礎培地及び前記培地サプリメントを含む培養液中で浮遊培養する前培養工程を含む、請求項1に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
【請求項4】
前記前培養工程の後かつ前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞の凝集塊をセルストレーナーで単一細胞にふるいわける単一細胞化工程を含む、請求項3に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
【請求項5】
前記基礎培地がダルベッコ改変イーグル培地である、請求項1に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法により製造された、胎盤様オルガノイド。
【請求項7】
請求項6に記載の胎盤様オルガノイドの評価方法であって、
合胞体性栄養膜細胞に特異的な検出方法と細胞性栄養膜細胞に特異的な検出方法とを組み合わせることを含む、胎盤様オルガノイドの評価方法。
【請求項8】
請求項6に記載の胎盤様オルガノイドの評価方法であって、
前記胎盤様オルガノイドを被験物質と接触させ、メタボローム解析を行うことを含む、胎盤様オルガノイドの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤様オルガノイドの製造方法、胎盤様オルガノイド、及び胎盤様オルガノイドの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胎盤は、子宮における胎仔発生のために重要な臓器である。胎盤は、胎仔と母体環境とを、臍帯を介して連絡し、ガス、栄養、及び排泄物の交換を行い、さらに妊娠関連ホルモンの産生及び胎仔の免疫防御の支援を行っている。胎盤は、栄養膜系列の細胞から構成されている。
妊婦が摂取した物質は、胎盤を透過すると胎児に曝露される。物質が胎盤を透過するかどうかは、その物質による胎児への発生毒性の発現に大きく影響することから、物質が及ぼすヒト胎盤機能への影響やその物質の胎盤透過性を評価するためのイン・ビトロ試験系の開発が求められている。しかし、細胞を二次元の接着培養により栄養外胚葉、さらに栄養膜細胞系へと分化誘導した場合には、妊娠中に産生されるホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピン(Human chorionic gonadotropin、略称:hCG)の産生が2週間前後で停止し、長期の培養は困難である。
このように、ヒトの胎盤オルガノイドの作成は他の臓器に比べ困難で最も開発が遅れている。
【0003】
特許文献1には、多能性幹細胞を骨形成蛋白質4(BMP4)の存在下において浮遊培養することを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、絨毛細胞から胎盤様オルガノイドを樹立する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-081375号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sheridan,M.A.,外6名、“Establishment and differentiation of long-term trophoblast organoid cultures from the human placenta”、Nature Protocols、2020年10月、第15巻、p.3441-3463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2020年にようやくヒト胎盤モデルが報告(非特許文献1)されたがその作成法は現実的には非常に難しいものであった。
特許文献1に記載された胎盤様オルガノイドの製造方法は、多能性幹細胞をBMP4存在下で浮遊培養することを含む。特許文献1には、前記多能性幹細胞として、ES細胞(胚性幹細胞)又はIPS細胞(人工多能性幹細胞)が好ましいことが記載されている。しかし、ES細胞を樹立するためにはヒト胚を壊す必要があることから倫理的問題があり、IPS細胞はがん化のリスクがあることから、得られた胎盤様オルガノイドをミニ胎盤として利用できないおそれがある。
非特許文献1に記載された方法で得られる胎盤様オルガノイドは、絨毛細胞処理過程で大きさが均一でなく樹立まで複数回の継代が必要であり、適切な細胞濃度が不明であり研究応用が困難である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、出産後には不要となる胎盤から採取される絨毛細胞から胎盤様オルガノイドをよりも簡便かつ短期間に樹立できる胎盤様オルガノイドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ヒト絨毛細胞を特定の成分を含む培地サプリメント及び細胞外マトリックスを含む培地と接触させて培養することで、従来よりも簡便かつ短期間で胎盤様オルガノイドを樹立できることを知得し、本発明を完成させた。
本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1] ヒト絨毛細胞を、基礎培地、培地サプリメント、及び細胞外マトリックスを含む培地と接触させて培養する培養工程とを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法であって、
前記培地サプリメントが、N2サプリメント、B27サプリメントマイナスビタミンA、プリモシン、N-アセチル-L-システイン、ヒト上皮成長因子、CHIR99021、ヒトR-スポンジン-1、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒト肝細胞増殖因子、A83-01、及びプロスタグランジンEを含む、胎盤様オルガノイドの製造方法。
ただし、CHIR99021は6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(CAS登録番号:252917-06-9)を、A83-01は3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(CAS登録番号:909910-43-6)を意味する。
[2] 前記細胞外マトリックスがマウスエンゲルブレスホルムスウォーム腫瘍から抽出された基底膜抽出物を含む、[1]に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
[3] 前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞を、基礎培地及び前記培地サプリメントを含む培養液中で浮遊培養する前培養工程を含む、[1]又は[2]に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
[4] 前記前培養工程の後かつ前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞の凝集塊をセルストレーナーで単一細胞にふるいわける単一細胞化工程を含む、[3]に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
[5] 前記基礎培地がダルベッコ改変イーグル培地である、[1]~[4]のいずれかに記載の胎盤様オルガノイドの製造方法。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の胎盤様オルガノイドの製造方法により製造された、胎盤様オルガノイド。
[7] [6]に記載の胎盤様オルガノイドの評価方法であって、
合胞体性栄養膜細胞に特異的な検出方法と細胞性栄養膜細胞に特異的な検出方法とを組み合わせることを含む、胎盤様オルガノイドの評価方法。
[8] [6]に記載の胎盤様オルガノイドの評価方法であって、
前記胎盤様オルガノイドを被験物質と接触させ、メタボローム解析を行うことを含む、胎盤様オルガノイドの評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、出産後には不要となる胎盤から採取される絨毛細胞から胎盤様オルガノイドをよりも簡便かつ短期間に樹立できる胎盤様オルガノイドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1回目の継代後の培養細胞の光学顕微鏡による観察結果である。A,継代0日目lB,継代3日目;C,継代6日目;D,継代10日目。
図2】絨毛組織(妊娠9週)の蛍光観察像である。A(左上),Syndecan染色;B(左下),ITGA6染色;C(右上),DAPI染色;D(右下),全合成写真。
図3】製造した胎盤様オルガノイドの蛍光観察像である。A(左上),Syndecan染色;B(左下),ITGA6染色;C(右上),DAPI染色;D(右下),全合成写真。
図4】FACS解析の結果である。A,全細胞;B,ITGA6染色細胞(52.44%)。
図5】FACS解析の結果である。A,全細胞;B,Syndecan染色細胞(39.04%)。
図6】メタボローム解析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では本発明の胎盤様オルガノイドの製造方法、胎盤様オルガノイド、及び胎盤様オルガノイドの評価方法の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の改変が可能である。
【0014】
[胎盤様オルガノイドの製造方法]
<培養工程>
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法は、ヒト絨毛細胞を、基礎培地、培地サプリメント、及び細胞外マトリックスを含む培地と接触させて培養する培養工程とを含む。
基礎培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地等の従来細胞培養に使用されている基礎培地が挙げられる。
培養は、COインキュベーターを用いて、5%CO濃度、37℃で行うことが好ましい。
培養時間は、10~14日間とすることが好ましい。
細胞外マトリックス中で細胞を培養することにより、三次元の構造を形成することができる。
【0015】
<前培養工程>
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法は、前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞を、基礎培地及び培地サプリメントを含む培養液中で浮遊培養する前培養工程を含むことが好ましい。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法は、前記前培養工程の後かつ前記培養工程の前に、ヒト絨毛細胞の凝集塊をセルストレーナーで均一細胞塊に分離する工程を含むことが好ましい。
セルストレーナーは特に限定されない。セルストレーナーの容量は、最大6mLと制限されるため1~5mLであることがより好ましく、2~4mLであることがさらに好ましく、約3mLでことが特に好ましい。セルストレーナーのポアサイズは、特に限定されないが、70~100μmであることが好ましい。
【0016】
<細胞外マトリックス>
前記細胞外マトリックスは、マウスエンゲルブレスホルムスウォーム腫瘍から抽出された基底膜抽出物を含むことが好ましく、Corning マトリゲル基底膜マトリックス(コーニング社製)又はその相当品を用いることがより好ましい。Corning マトリゲル基底膜マトリックスは、ラミニン(主成分)、コラーゲンIV、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び数々の増殖因子を含むECMタンパク質が豊富なEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した、可溶化基底膜調製品である。
【0017】
<培地サプリメント>
前記培地サプリメントの一実施形態は、N2サプリメント、B27サプリメントマイナスビタミンA、プリモシン、N-アセチル-L-システイン、ヒト上皮成長因子、CHIR99021、ヒトR-スポンジン-1、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヒト肝細胞増殖因子、A83-01、及びプロスタグランジンEを含む培地サプリメントである。
【0018】
N2サプリメントは、神経細胞をはじめとするさまざまな細胞の無血清培養を行うことを可能としたサプリメントである。N2サプリメントにより、従来、血清添加の条件で培養されていた細胞が既知の因子により培養できるようになった。N2サプリメントは、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、2-メルカプトエタノール、及び亜セレン酸ナトリウムの5因子を含み、これらの5因子に加えてさらにオレイン酸を含んでもよい。
N2サプリメントとしては、例えばGibco N-2 Supplement(100×)(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:17502048)、NDiff Neuro-2 Medium Supplement(200×)(メルク社製、製品番号:SCM012)、N2サプリメント〔トランスフェリン(ホロ)含有)〕(×100)(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:141-08941)、又はN2サプリメント〔トランスフェリン(アポ)含有〕(×100)(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:141-09041)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のN2サプリメントの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、100×濃度のGibco N-2 Supplement(100×)を基準として、0.7~1.3×濃度となることが好ましく、0.8~1.2×濃度となることがより好ましく、1×濃度となることがより好ましい。
【0019】
B27サプリメントマイナスビタミンAは、インスリン等の20因子を含むB27サプリメントの組成からビタミンAを抜いたものである。
B27サプリメントマイナスビタミンAとしては、例えばGibco B-27 Supplement(50×),minus vitamin A(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:12587010)、B-27 Supplement(50×),minus Vitamin A(Tribioscience社製、製品番号:TBS8080)、又はNeuroCult SM1 Without Vitamin A(50×)(STEMCELL Technologies社製、製品番号:05731)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のB27サプリメントマイナスビタミンAの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、50×濃度のGibco B-27 Supplement(50×),minus vitamin Aを基準として、0.7~1.3×濃度となることが好ましく、0.8~1.2×濃度となることがより好ましく、1×濃度となることがさらに好ましい。
【0020】
プリモシンは、マイコプラズマ、細菌、及び菌類(酵母、黴)に対する抗菌剤である。マイコプラズマは、細菌であるが、細胞壁を持たず細胞の形状に可塑性があり、0.22μmフィルターを通過する。そのため、細胞培養に用いる培地は、ろ過滅菌してもマイコプラズマによるコンタミネーションを回避することが難しい。また、細胞壁を持たないので、細胞壁合成酵素を標的とするβ-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)の抗菌剤は効果がない。プリモシンには4種類の抗菌剤が含まれており、そのうち3種類は、グラム陽性菌、グラム陰性菌、及びマイコプラズマのDNAとタンパク質合成を阻害する。4種類目の抗菌剤は、菌類(酵母、黴)の細胞膜を介したイオン交換を妨害する。
プリモシンとしては、Primocin(InvivoGen社製、製品番号:ant-pm-1、製品濃度:50mg/mL)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のプリモシンの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、70~130μg/mLとなることが好ましく、90~110μg/mLとなることがより好ましく、100μg/mLとなることがさらに好ましい。
【0021】
N-アセチル-L-システイン(略称:NAC、CAS登録番号:616-91-1)は、抗酸化物質である。細胞内のフリーラジカルスカベンジャー蓄積量を増加させる。神経細胞のアポトーシスを防止する働きが知られている。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のN-アセチル-L-システインの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、1.0~1.5mMとなることが好ましく、1.1~1.4mMとなることがより好ましく、1.25mMとなることがさらに好ましい。
【0022】
ヒト上皮成長因子(human Epidermal Growth Factor、略称:hEGF、CAS登録番号:62229-50-9)は、53アミノ酸残基及び3つの分子内ジスルフィド結合からなる分子量6045のタンパク質である。細胞表面に存在する上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、略称:EGFR)にリガンドとして結合し、細胞の成長と増殖の調節に重要な役割をする。hEGFとしては、組換え体を使用してもよい。
hEGFとしては、例えば上皮細胞成長因子(EGF),ヒト,組換え体,動物由来物フリー(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:059-07873)、rhEGF(Human,Recombinant)(東京化成工業社製、製品番号:R0262)、又はEGF,Human,Recombinant,E. coli(メルク社製、製品番号:324831)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のhEGFの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、75~125ng/mLとなることが好ましく、90~110ng/mLとなることがより好ましく、100ng/mLとなることがさらに好ましい。
【0023】
CHIR99021〔IUPAC名:6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル、CAS登録番号:252917-06-9〕は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(。GSK3、GSK3α及びGSK3β)の阻害剤である。GSK3、GSK3α及びGSK3βのIC50値は、それぞれ10及び6.7nMである。
CHIR99021としては、例えばCHIR99021(ケイマンケミカル社製、製品番号:13122)、Laduviglusib(MedExpress社製、製品番号:HY-10182)、Laduviglusib(CHIR-99021)(Selleck Chemicals社製、製品番号:S1263)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のCHIR99021の濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、2.7~3.3μMとなることが好ましく、2.85~3.15μMとなることがより好ましく、3μMとなることがさらに好ましい。
【0024】
ヒトR-スポンジン-1(略称:Rspo-1)は、WntモジュレーターのRspoファミリー(Rspo1-4)に属するタンパク質である。Rspo-1は副腎、卵巣、精巣、甲状腺及び気管と同様に中枢神経発生の特定部位で発現される。RspoはWnt/β-カテニンシグナル伝達パスウェイ刺激において、Frizzled/LRP6レセプター複合体と相互作用する。
Rspo-1としては、例えばR-スポンジン-1,ヒト,組換え体(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:181-02801)、recombinant human R-spondin 1 protein(Qkine社製、製品番号:Qk006-0100)、又はRecombinant Human R-Spondin 1,Carrier-free(R&D Systems社製、製品番号:4645-RS-025/CF)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のRspo-1の濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、70~90ng/mLとなることが好ましく、75~85ng/mLとなることがより好ましく、80ng/mLとなることがさらに好ましい。
【0025】
ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor、略称:bFGF、FGF-basic、FGF2、CAS登録番号:106096-93-9)は多面的な作用を示す成長因子であり、血管新生に加えて神経系、肺、筋肉、骨、皮膚の発生への関与が示唆されている。bFGFはヒト胚性幹細胞の培地の重要な構成要素である。FGF2は細胞を未分化状態に維持するために必要である。
bFGFとしては、線維芽細胞成長因子(塩基性)(FGF-basic / bFGF / FGF2),ヒト,組換え体,動物由来物フリー(154aa)(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:060-05383)、Recombinant Human bFGF(HYGIEIA BIOSCIENCE社製、製品番号:16000101)、又はFibroblast Growth Factor basic,human recombinant,animal-free(メルク社製、製品番号:GF003AF-100UG)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のbFGFの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、7~13ng/mLとなることが好ましく、8.5~11.5ng/mLとなることがより好ましく、10ng/mLとなることがさらに好ましい。
【0026】
ヒト肝細胞増殖因子(human Hepatocyte Growth Factor、略称:hHGF)は、初代培養肝細胞の増殖を強く促進する因子として精製されたサイトカインである。hHGFは増殖因子としては大きく、分子量約6万の重鎖と約3.5万の軽鎖がジスルフィド結合したヘテロダイマーの構造をもつ。
hHGFとしては、例えばHuman HGF recombinant protein(プロテインテック社製、製品番号:HZ-1084)又は肝細胞増殖因子 ヒト(メルク社製、製品番号:H5791)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のhHGFの濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、7~13ng/mLとなることが好ましく、8.5~11.5mg/mLとなることがより好ましく、10mg/mLとなることがさらに好ましい。
【0027】
A83-01(別名:3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、CAS登録番号:909910-43-6)は、TGF-βtype I/activin受容体様キナーゼ(ALK5)、type I activin/nodal受容体様キナーゼ(ALK4)、type I nodal受容体様キナーゼ(ALK7)の選択的阻害剤である。Smad2/3のリン酸化やTGF-β誘導性の上皮間充織転換を阻害する。
A83-01としては、例えばCultureSure A-83-01(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:035-24113)、A83-01(メルク社製、製品番号:SML0788)、又はA83-01(R&D Systems社製、製品番号:2939/10)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のA83-01の濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、400~600nMとなることが好ましく、450~550nMとなることがより好ましく、500nMとなることがさらに好ましい。
【0028】
プロスタグランジンE(略称:PGE2、CAS登録番号:363-24-6)は。生理活性物質であるプロスタグランジンの一種であり、PGE受容体を介して発熱や破骨細胞による骨吸収、分娩などに関与している。PGE2の命名法はプロスタグランジン類に共通するものであり、五員環部分の9位にオキソ基と11位にヒドロキシル基、側鎖部分の15位にヒドロキシル基を有するので“E”、5位、13位の2箇所に二重結合を有するので“2”とされる。
PGE2としては、例えばプロスタグランジンE2(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:165-10813)、プロスタグランジンE2(ナカライテスク社製、製品番号:29334-34)、又はプロスタグランジンE2(東京化成工業社製、製品番号:P1884)などの市販品を使用することができる。
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメント中のPGE2の濃度は、特に限定されないが、本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントを添加した培地中の終濃度で、0.7~1.3μMとなることが好ましく、0.85~1.15μMとなることがより好ましく、1.0μMとなることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントは、0.7~1.3×濃度 N2サプリメント、0.7~1.3×濃度 B27サプリメントマイナスビタミンA、70~130μg/mL プリモシン、1.0~1.5mM N-アセチル-L-システイン、75~125ng/mL ヒト上皮成長因子、2.7~3.3μM CHIR99021、70~90ng/mL ヒトR-スポンジン-1、7~13ng/mL ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、50~60ng/mLヒト肝細胞増殖因子、400~600nM A83-01、及び0.7~1.3μM プロスタグランジンEを、各濃度の比で含むことが好ましい。但し、前記N2サプリメントの前記培地サプリメント中の濃度は、Gibco N-2 Supplement(100×)(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:17502048)を基準とする濃度であり、前記B27サプリメントマイナスビタミンAの前記培地サプリメント中の濃度は、50×濃度のGibco B-27 Supplement(50×),minus vitamin A(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:12587010)を基準とする濃度である。
【0030】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントは、本発明の効果を妨げない範囲で、上述した成分以外の成分を含んでもよい。
【0031】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントは、各成分を水に溶解又は分散することによって調製することができる。
【0032】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントの調製に用いる水は、精製された水が好ましく、例えば蒸留水、RO水(RO膜(逆浸透膜)によるろ過処理がされた水)、イオン交換水(イオン交換樹脂によりイオン性の不純物を除去した水)、Elix水(RO膜とEDI膜(連続イオン交換膜)により精製された水)などを使用することができる。
【0033】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントのpHは、特に限定されないが、6.5~7.5であることが好ましく、6.8~7.4であることがより好ましく、7.1~7.3であることがさらに好ましい。なお、前記pHは、pHメーターを用いて測定して得られる測定値である。
【0034】
本実施形態の胎盤様オルガノイドの製造方法において用いる培地サプリメントは、濃縮液の形態で提供され、使用時に希釈するようにしてもよい。
【0035】
[胎盤様オルガノイド]
本発明の胎盤様オルガノイドは、上述した本発明の胎盤様オルガノイドの製造方法により製造される胎盤様オルガノイドである。
本発明の胎盤様オルガノイドは、ヒト胎盤の絨毛組織と同様に、細胞性栄養膜細胞(VCT)及び合胞体性栄養膜細胞(SCT)の二層構造となっている。ただし、ヒト胎盤の絨毛組織とは逆に、細胞性栄養膜細胞(VCT)が外側、合胞体性栄養膜細胞(SCT)が内側となっている。中の間質は疎なマトリックス構造と毛細血管から構築されている。オルガノイドを樹立すると反転する。すなわち外側にあるVCTのさらに外側のBM(基底膜)がマトリゲルと接する構造となっている。
【0036】
[胎盤様オルガノイドの評価方法]
本発明の胎盤様オルガノイドの評価方法の一実施形態は、合胞体性栄養膜細胞に特異的な検出方法と細胞性栄養膜細胞に特異的な検出方法とを組み合わせることを含む。
合胞体性栄養膜細胞に特異的な検出方法としては、例えばSydecan染色が挙げられる。
細胞性栄養膜細胞に特異的な検出方法としては、例えばITGA6染色が挙げられる。
【0037】
本発明の胎盤様オルガノイドの評価方法の別の一実施形態は、本発明の胎盤様オルガノイドを被験物質と接触させ、メタボローム解析を行うことを含む。メタボローム解析の方法は特に限定されない。
【実施例0038】
以下では本発明を実施例によってより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0039】
[製造例1]培地サプリメントの調製
<材料>
・N2サプリメント
Gibco N-2 Supplement(100×)(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:17502048)
・B27サプリメントマイナスビタミンA
Gibco B-27 Supplement(50×),minus vitamin A(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製、製品番号:12587010)
・プリモシン
Primocin(InvivoGen社製、製品番号:ant-pm-1、製品濃度:50mg/mL)
・N-アセチル-L-システイン
N-アセチル-L-システイン(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:015-05132)
・ヒト上皮成長因子
上皮細胞成長因子(EGF),ヒト,組換え体,動物由来物フリー(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:059-07873)
・CHIR99021
CHIR99021(ケイマンケミカル社製、製品番号:13122)
・ヒトR-スポンジン-1
R-スポンジン-1,ヒト,組換え体(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:181-02801)
・ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子
線維芽細胞成長因子(塩基性)(FGF-basic / bFGF / FGF2),ヒト,組換え体,動物由来物フリー(154aa)(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:060-05383)
・ヒト肝細胞増殖因子
肝細胞増殖因子 ヒト(メルク社製、製品番号:H5791)
・A83-01
CultureSure A-83-01(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:035-24113)
・プロスタグランジンE
プロスタグランジンE2(富士フイルム和光純薬社製、製品番号:165-10813)
・水
イオン交換水
【0040】
<調製方法>
各成分を以下の濃度となるように水に溶解して、10倍濃度の濃縮液を調製した。
N2サプリメント 10×濃度
B27サプリメントマイナスビタミンA 10×濃度
プリモシン 1mg/mL
N-アセチル-L-システイン 12.5mM
ヒト上皮成長因子 1μg/mL
CHIR99021 30μM
ヒトR-スポンジン-1 800ng/mL
ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子 100ng/mL
ヒト肝細胞増殖因子 500ng/mL
A83-01 5μM
プロスタグランジンE 10μM
【0041】
[実施例1]胎盤様オルガノイドの製造
<材料>
基礎培地 Advanced DMEM/F12(Gibco社製)
培地サプリメント 製造例1で調製したもの
洗浄用培養液 ダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク社製)
消化用培養液 0.17%コラゲナーゼB(ロシュ社製)
ROCK Inhibitor(Y-27632)(メルク社製、製品番号:SCM075)
マトリゲル Corningマトリゲル基底膜マトリックス(コーニング社製)
セルストレーナー(Corning社製、容量:3mL、ポアサイズ:70μmもしくは100μm)
【0042】
<手順>
以下の手順でヒト絨毛細胞から胎盤様オルガノイドを製造した。
(1) 分娩等で得られたヒト絨毛細胞(約1g)を細切した。
(2) 洗浄用培養液約10mLとともに15mLチューブへ入れた。
(3) 組織の自然沈下後に上清を除いた。
(4) 再度、洗浄用培養液(1×ダルベッコ改変イーグル培地)約10mLでピペッティングした。
(5) (3)を繰り返した。
(6) 消化用培養液4mL及び4μLの10mM ROCK inhibitor(1000倍希釈)を添加した。
(7) 37℃で30分間振盪した。セルストレーナーで細胞塊を均一サイズに調整した。
(8) 組織の自然沈下後に上清を別の15mLチューブ(氷上)へ移した。
(9) 残ったペレットに対して(6)~(7)を繰り返した。
(10) 全量を先ほどの氷上の15mLチューブへ混注した。
(11) 4℃で5分間遠心(200rpmした)。
(12) 上清を捨て、ペレットをマトリゲル(1×ダルベッコ改変イーグル培地+培地サプリメントで膨潤)で包埋し24ウェルのプレート上に1ウェルあたり6ドロップ程度(20μL/ドロップ)播いた。
(13)培養液(1×ダルベッコ改変イーグル培地+培地サプリメント)を1mL/1ウェル添加した。
(14)COインキュベーター(37℃)に入れ培養を行った。
1ウェルあたりのマトリゲル組成:マトリゲル90μL、培養液(1×ダルベッコ改変イーグル培地+培地サプリメント)30μL、10mM ROCK inhibitor 1μL
【0043】
<細胞の光学観察>
1回目の継代後の培養細胞を光学顕微鏡により撮影した。撮影結果を図1に示す。図1のA~Dは、それぞれ、継代0日目、3日目、6日目、及び10日目を表す。
【0044】
<免疫染色>
絨毛組織(妊娠9週)及び製造した胎盤様オルガノイドを、合胞体性栄養膜細胞選択的なSyndecan、細胞性栄養膜細胞選択的なITGA6、及び核選択的なDAPIで染色し、撮影した。
図2に絨毛組織の蛍光観察像を、図3に製造した胎盤様オルガノイドの蛍光観察像を示す。
A(左上):Syndecan染色
B(左下):ITGA6染色
C(右上):DAPI染色
D(右下):全合成写真
【0045】
<FACSによる細胞分布の解析>
FACS解析により分画比を確認した。結果を図4図5に示す。
図4のAは全細胞、BはITGA6染色細胞を表す(52.44%)。
図5のAは全細胞、BはSyndecan染色細胞を表す(39.04%)。
【0046】
<メタボローム解析>
48ウェルを用いて1つのマトリゲルに同濃度の製造した胎盤様オルガネを播き、低酸素下で時間依存性に上清中に分布される一次代謝産物をメタボローム解析した。時間は(0、1、3,6、24時間)に上清200uLを採取して解析した。
図6に示すようにOPLS-DA解析で時間ごとに明確にクラスター化して均一に増殖していた(N=3)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の胎盤様オルガノイドの製造方法を用いて製造されるヒト胎盤モデルである胎盤様オルガノイド(ミニ胎盤)を使用することで、これまでほとんど解明できなかった生の組織として胎盤研究が飛躍的に進歩することが予想される。今後の強力な胎盤研究ツールの1つとなることが期待できる。具体的な応用例としてヒトにおいて妊娠時の胎盤のおける毒性検査、流産、早産の医学モデルによる病態解明、不妊症領域の受精卵の着床メカニズムの解明など医学的な進歩と病気治療のための創薬など多岐にわたって貢献できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6