(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153490
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】鋳造方案の解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたプログラム、鋳造方法および鋳物
(51)【国際特許分類】
B22C 9/08 20060101AFI20241022BHJP
B22D 46/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B22C9/08 E
B22D46/00
B22C9/08 B
B22C9/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067420
(22)【出願日】2023-04-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.集会名:公益社団法人日本鋳造工学会 第180回全国講演大会 (開催日:2022年9月27日~9月30日、10月3日) 開催場所:広島大学 (発表日:2022年9月30日) 刊行物:公益社団法人日本鋳造工学会 第180回全国講演大会 講演概要集 (発行日:2022年9月27日)
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】512189277
【氏名又は名称】株式会社コイワイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 朋之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 修二
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PA01
4E093PA10
4E093PB01
4E093PB20
(57)【要約】
【課題】鋳造方案の基本設計部分を高速で検証することにより無数の鋳造方案を検証することを可能にし、従来にない形状の製品でも鋳造方案設計の最適解を容易に導出することができる、鋳造方案の解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いた
プログラム、鋳造方法および鋳物を提供する。
【解決手段】鋳造方案に対する型内空間の溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、溶融金属と型内空間の圧力を算出する解析手法において、製品形状の液柱モデルを作成し、鋳造方案を追加し、液柱モデルの分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、分岐部分および液柱モデルの合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を運動方程式と連立して解く。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品形状の液柱モデルを作成し、鋳造方案を追加し、
前記液柱モデルの分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、
前記分岐部分および前記液柱モデルの合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を前記運動方程式と連立して解くことで、
前記鋳造方案に対する型内空間の前記溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、前記溶融金属と前記型内空間の圧力を算出する、解析方法。
【請求項2】
前記型内空間の任意の点における前記溶融金属または型内気体の変位および圧力の目標値に対して、型内に前記溶融金属を流入するための複数の流入口候補から少なくとも1つの最適な流入口を選択する、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
演算処理装置と、
記憶装置とを備え、
前記演算処理装置が、前記記憶装置に記憶されたプログラムに、
製品形状の液柱モデルを作成し、鋳造方案を追加し、
前記液柱モデルの分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、
前記分岐部分および前記液柱モデルの合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を前記運動方程式と連立して解くことで、
前記鋳造方案に対する型内空間の前記溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、前記溶融金属と前記型内空間の圧力を算出する、
ことを実行させる、解析装置。
【請求項4】
前記演算処理装置が、前記プログラムに、
前記型内空間の任意の点における前記溶融金属または型内気体の変位および圧力の目標値に対して、型内に前記溶融金属を流入するための複数の流入口候補から少なくとも1つの最適な流入口を選択する、
ことを実行させる、請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
コンピュータに、請求項1または2に記載の解析方法を実行させるプログラム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の解析方法を用いて、製品の向き、溶融金属の流入口、押湯の位置を含む鋳造方案の基本設計部分を検証し、検証結果を鋳造方案設計に反映させ、最適化した前記鋳造方案を用いて、鋳物を製造する、鋳造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の鋳造方法を用いて作製した鋳物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造方案の型内空間の溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、溶融金属と型内空間の圧力を算出する、解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたブログラム、鋳造方法および鋳物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型部品や複雑形状部品などの鋳造品適応が増加傾向にあり、従来のパワートレイン部品にない考え方で鋳造方案を設計する必要が出てきている。
【0003】
従来、設計者の経験や勘、今までの類似形状品からの流用により湯口、湯道および押湯などの鋳造方案の設計を行い、流動解析や凝固解析を用いた鋳造シミュレーションによる確認が行われていた(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】野村宏之,寺嶋一彦,慶縞浩二,「三次元シミュレーションによるダイカスト湯流れの予測」,鋳物,63巻5号(1991),p.425-p.430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の鋳造方案設計と鋳造シミュレーションによる確認を繰り返す方法では、欠陥の少ない最適解を得るための鋳造シミュレーションに時間が掛かるため、数方案から多くても十数方案を検証することしかできなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鋳造方案の基本設計部分を高速で検証することにより無数の方案を検証することを可能にし、従来にない形状の製品でも鋳造方案設計の最適解を容易に導出することができる、鋳造方案の解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたブログラム、鋳造方法および鋳物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するため、製品形状の液柱モデルを作成し、前記液柱モデルの分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、鋳造方案を追加し、前記分岐部分および前記液柱モデルの合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を前記運動方程式と連立して解くことで、前記鋳造方案に対する型内空間の前記溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、前記溶融金属と前記型内空間の圧力を算出する、解析方法を提供する。
【0008】
前記解析方法では、前記型内空間の任意の点における前記溶融金属または型内気体の変位および圧力の目標値に対して、型内に前記溶融金属を流入するための複数の流入口候補から少なくとも1つの最適な流入口を選択することができる。
【0009】
また、本発明は、演算処理装置と、記憶装置とを備え、前記演算処理装置が、前記記憶装置に記憶されたプログラムに、製品形状の液柱モデルを作成し、鋳造方案を追加し、前記液柱モデルの分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、前記分岐部分および前記液柱モデルの合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を前記運動方程式と連立して解くことで、前記鋳造方案に対する型内空間の前記溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、前記溶融金属と前記型内空間の圧力を算出する、ことを実行させる、解析装置を提供する。
【0010】
前記解析装置では、前記演算処理装置が、前記プログラムに、前記型内空間の任意の点における前記溶融金属または型内気体の変位および圧力の目標値に対して、型内に前記溶融金属を流入するための複数の流入口候補から少なくとも1つの最適な流入口を選択する、ことを実行させることができる。
【0011】
また、本発明は、コンピュータに、上記の解析方法を実行させるプログラムを提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の解析方法を用いて、製品の向き、溶融金属の流入口、押湯の位置を含む鋳造方案の基本設計部分を検証し、検証結果を鋳造方案設計に反映させ、最適化した前記鋳造方案を用いて、鋳物を製造する、鋳造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記の鋳造方法を用いて作製した鋳物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋳造方案の解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたブログラム、鋳造方法および鋳物によれば、解析時間を大幅に短縮することができるので、製品の向きや、溶融金属の流入口、押湯の位置などの鋳造方案の基本設計部分を高速で検証することにより無数の鋳造方案を検証し、従来にない形状の製品でも鋳造方案設計の最適解を容易に導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】コンピュータプログラムをインストールして、コンピュータを本実施形態の解析装置として機能させる一例を概略的に示すブロック図である。
【
図3】実施例の解析対象とする鋳物モデルの正面図である。
【
図8】水モデルを使用した実験の実験装置を示す概略図である。
【
図9】流量を106ml/sとしたときの解析結果を示すグラフ図である。
【
図10】流量を106ml/sとしたときの実験結果を示すグラフ図である。
【
図11】流量を98ml/sとしたときの解析結果を示すグラフ図である。
【
図12】流量を98ml/sとしたときの実験結果を示すグラフ図である。
【
図13】流量を80ml/sとしたときの解析結果を示すグラフ図である。
【
図14】流量を80ml/sとしたときの実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0017】
<解析装置の基本構成>
図1は、コンピュータプログラムをインストールして、コンピュータを本実施形態の解析装置1として機能させる一例を概略的に示すブロック図である。当該解析装置1は、例えばCPU(中央演算装置)などの演算処理装置2を有するコンピュータにおいて、例えばHDD(ハードディスク駆動装置)からなる記憶装置3に、コンピュータプログラム(ソフトウェア)4をインストールすることによって実現される。解析装置1の機能は、コンピュータのハードウェア資源とコンピュータプログラム4のソフトウェアとが協働して実現される。コンピュータプログラム4は、入出力などの制御を行う他、本実施形態の解析方法をコンピュータに実行させる。記憶装置3は、コンピュータプログラム4、後述する液柱モデル5、および、解析結果6などを記憶する。
【0018】
コンピュータプログラム4のソースコードを、コンピュータで読み取り可能な記録媒体(図示せず)に記録する構成とすることもできる。これにより、本実施形態の解析方法を用いて鋳造方案設計を行うためのコンピュータプログラムを記録した、持ち運び自在な記録媒体を提供することができる。記録媒体としては、例えば、磁気テープ、または、FDやHDDなどの磁気ディスク、CD-ROMやMO、DVDなどの光ディスク、USBメモリなどの半導体メモリを用いた記録媒体などが挙げられる。
【0019】
演算処理装置2は、コンピュータプログラム4に基づき様々な演算処理を実行する。コンピュータプログラム4は、上記の可搬性の記録媒体から記憶装置3に取り込まれてもよく、LAN(Local Area Network)やインターネットといったコンピュータネットワークから記憶装置3に取り込まれてもよい。演算処理装置2と記憶装置3とは例えばバス7で相互に接続される。バス7には、さらに入力インターフェース8、出力インターフェース9、およびバッファ部10が接続される。
【0020】
入力インターフェース8は、液柱モデル5を含む入力データなどを解析装置1に入力する一種のインターフェースとして機能するものであり、例えばキーボードやマウスなどの入力装置81に接続される。
【0021】
出力インターフェース9は、例えばディスプレイなどの表示装置91に接続される。この出力インターフェース9を介して、解析装置1に入力された入力データや、コンピュータプログラム4による解析結果6などが、表示装置91に表示される。
【0022】
バッファ部10は、例えばRAMにより構成され、コンピュータプログラム4の演算処理に必要なデータを一時的に格納する。例えば、バッファ部10は、入力インターフェース9から入力された入力データを格納する。格納された入力データは、コンピュータプログラム4による演算処理に使用される。なお、入力データは、記憶装置3に記憶し、コンピュータプログラム4の指示により、記憶装置3からバッファ部10に呼び出すようにしてもよい。
【0023】
<液柱運動>
本実施形態の解析方法の基本となる液柱運動の運動方程式について、
図2を用いて説明する。
【0024】
図2において、大気中の液柱について、管の中の液面がつり合いの位置からxだけ変位させて振動を起こす。このとき、断面積をS、密度をρ、重力加速度をg、液柱の長さをhとすると、この液柱にはつり合いの位置に戻ろうとする復元力がかかる。このとき、左側の高い部分(2xの範囲)の重力Fは、(数1)のようになる。
【0025】
【0026】
そして、この液柱の運動方程式は、(数2)により表される。
【0027】
【0028】
本実施形態の解析方法では、製品形状の液柱モデル5を作成し、鋳造方案を追加し、液柱モデル5の分岐部分での水圧の比較により運動方程式を立式し、分岐部分および液柱モデル5の合流部分での連続の式、ならびに、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式を運動方程式と連立して解くことで、鋳造方案に対する型内空間の溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、溶融金属と型内空間の圧力を算出する。
【実施例0029】
<解析例>
(液柱モデルの作成)
図3の鋳物モデルを液柱モデル5に変換したものを
図4に示す。液柱モデル5では、分岐部分および合流部分はT字型とする。それぞれの液柱は鉛直方向に延び、分岐および合流前後以外での断面積の変化はないものとする。空気穴aに繋がる液柱をa1、a2、・・・、a9、空気穴bに繋がる液柱をb1、b2、b3、b4と番号付けする。液柱の番号iに対し、液柱の高さをH
i、断面積をS
iとし、これらが鋳造方案設計のための各種パラメータとなる。
【0030】
図5に示すように、管路の最下部で仮想断面Dを考えて、仮想断面Dを通して伝達する力を想定して運動方程式を導出する。管路の最下部からの各液柱における液面の高さx
iをそれぞれxa1、xa2、・・・xa9、xb1、・・・、xb4とする。
【0031】
仮想断面Dの左側、すなわち、a側の最下部における圧力Paと、仮想断面Dの右側、すなわち、b側の最下部における圧力Pbは、それぞれ(数3)、(数4)により表される。本実施例では、密度をρ=1000kg/m3、重力加速度をg=9.81m/s2、液柱iから液柱j、kへの分岐部分の損失係数をζi_jk、液柱l、mから液柱nへの合流部分の損失係数をζlm_nとする。
【0032】
【0033】
【0034】
(運動方程式の導出)
液柱モデル5の分岐部分での水圧を比較すると、仮想断面Dの両側で圧力が一致するため、Pa=Pbが運動方程式となる。すなわち、液柱モデル5の最下部における仮想断面Dの両側の圧力が等しいとして、運動方程式を立式する。また、任意の枝分かれ部分において液柱の上昇速度の正負によって分岐と合流が入れ替わるため、分岐および合流の損失係数ζが変化する。本実施例の解析では、文献値より、分岐部分の損失係数ζi_jkは、分岐時は1.29、合流時は0.5として計算を行う。合流部分の損失係数ζlm_nに関しても、同様とする。
【0035】
(連続の式)
図6に示す液柱モデル5の分岐部分、および、
図7に示す液柱モデル5の合流部分では、分岐および合流前後で流量が変化しないため、連続の式(数5)が成り立つ。
【0036】
【0037】
(液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式)
各液柱の体積の和は注入した溶融金属の総量Vと一致するため、(数6)が成り立つ。溶融金属の総量Vは、すべての液柱について、液面の高さxi(変数)と断面積Siを乗じたものであり、時間の関数となる。本実施例の解析では、注入される溶融金属の総量Vは、後述する実験によって得られた0.157L/sとして計算を行う。
【0038】
【0039】
(数3)=(数4)の運動方程式と、連続の式(数5)と、液柱の体積と溶融金属の総量の一致の式(数6)とを連立することにより、加速度d2xi/dt2、速度dxi/dt、および、各液柱の液面の高さxiを計算することができる。これらを(数3)および(数4)に代入することにより、圧力Pa、Pbを算出することができる。
【0040】
<水モデルを使用した実験>
(実験装置)
実験装置の概要図を
図8に示す。本体21は、ABS樹脂で液柱モデル5の形状を構成する。ABS樹脂部分をアクリル部分でカバーし、両者をボルトとネジによって固定した。液面の高さを測定するために、アクリル部分に目盛(図示せず)を貼り付けた。ホース22を通して水中ポンプ23から本体21へ水が注入される。水中ポンプから本体21へ注入される水の流量を測定するために、流量計(図示せず)を設けた。本体21のa側およびb側の空洞部分の気圧を測定するために、微圧計24を使用した。
【0041】
(実験手順)
以下の手順により実験を行った。
(1)水中ポンプ23の流量を流量計で測定する。
(2)水中ポンプ23と本体21とをホース22でつなぐ。
(3)b側の空気穴をシリコン栓でふさぎ、水中ポンプ23を起動する。
(4)a側の液柱の高さが50mmになった瞬間にシリコン栓を抜き、液柱の振動の様子を撮影する。
(5)シリコン栓を抜くときの高さを100mm、150mmと変化させ、(3)、(4)を繰り返す。
(6)a側の空気穴をシリコン栓でふさぎ、水中ポンプ23を起動する。
(7)b側の液柱の高さが50mmになった瞬間にシリコン栓を抜き、液柱の振動の様子を撮影する。
(8)シリコン栓を抜くときの高さを100mm、150mmと変化させ、(6)、(7)を繰り返す。
(9)微圧計が0kPaを示すとき、すなわちシリコン栓を抜いた瞬間を開始時間とし、撮影した液柱の様子を観察し、0.1秒ごとの高さをプロットしてグラフ化する。
【0042】
<解析および実験結果>
(流量:106ml/s)
流量を106ml/sとしたときの解析結果と実験結果のグラフを
図9および
図10に示す。このときの解析時間は13.38秒であった。
【0043】
(流量:98ml/s)
流量を98ml/sとしたときの解析結果と実験結果のグラフを
図11および
図12に示す。このときの解析時間は13.26秒であった。
【0044】
(流量:80ml/s)
流量を80ml/sとしたときの解析結果と実験結果のグラフを
図13および
図14に示す。このときの解析時間は12.60秒であった。
【0045】
上記3通りの解析の平均解析時間は13.08秒であり、1時間以上の解析時間を要する有限要素法解析に比べ、解析時間を大幅に短縮できることが確認できた。
【0046】
合流部分での液柱のかぶさりの様子について、流量106ml/sにおける合流部分の解析結果と実験結果の比較を表1に示す。かぶさりの有無に関して、解析結果と実験結果で一致した。これにより、溶湯のかぶさりを考えることで、湯境の予測が可能になる。かぶさる液柱が逆になる箇所があったが、これは、実験において流量が大きいと波立ちによって初期流速の計算との誤差が大きくなることが原因であると考えられる。
【0047】
【0048】
<最適な流入口の選択>
本実施形態の解析方法を用いて、型内空間の任意の点における溶融金属または型内気体の変位および圧力の目標値に対して、型内に溶融金属を流入するための複数の流入口候補から少なくとも1つの最適な流入口を選択することができる。
【0049】
<解析方法を用いた鋳造方法>
本実施形態の解析方法を用いて、製品の向き、溶融金属の流入口、押湯の位置を含む鋳造方案の基本設計部分を検証する。検証結果を鋳造方案設計に反映させ、最適化した鋳造方案を用いて、鋳物を製造する。
【0050】
<発明の効果>
以上、本実施形態の解析方法によれば、従来、設計者の経験や勘、今までの類似形状品からの流用により行っていた鋳造方案の設計を、一設計案当たり十数秒の解析に置き換えることにより、無数の鋳造方案の設計案を検証することができるようになり、最適な鋳造方案の設計を容易かつ高精度に行うことができる。
【0051】
<適用分野>
本願発明は、押湯をもって収縮巣を低減する必要がある砂型鋳造法や、金型鋳造法への適用に限定されず、低圧鋳造法や、高圧鋳造法、ダイキャスト鋳造法などの加圧鋳造の方案検討にも、適用することができる。
本発明は、鋳造方案の型内空間の溶融金属の流入変位および流入時間、ならびに、溶融金属と型内空間の圧力を算出する、解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたプログラム、鋳造方法および鋳物に関する。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鋳造方案の基本設計部分を高速で検証することにより無数の方案を検証することを可能にし、従来にない形状の製品でも鋳造方案設計の最適解を容易に導出することができる、鋳造方案の解析方法および解析装置、ならびに、当該解析方法を用いたプログラム、鋳造方法および鋳物を提供する。