(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153497
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子用正極及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20241022BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241022BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241022BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241022BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067430
(22)【出願日】2023-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA22
5H050CA25
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子用正極を提供する。また、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面の非水電解質蓄電素子用正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を備え、上記正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素が存在し、引張伸度が1.0%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を備え、
上記正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、
上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素が存在し、
引張伸度が1.0%以下である非水電解質蓄電素子用正極。
【請求項2】
上記正極活物質層における上記バインダの含有量が0.5質量%以上2.0質量%以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子用正極。
【請求項3】
上記バインダがフッ素樹脂である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子用正極。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の正極を備える非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用正極及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタ等も広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の正極に含まれる活物質として、コバルト元素、ニッケル元素、マンガン元素等の遷移金属元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物が各種開発され、広く用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-182783号公報
【特許文献2】特開2017-45725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有することで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を向上できる。しかしながら、このようなリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を含む正極を用いた非水電解質蓄電素子は、高温環境下での保存後における容量維持率が十分でないという課題がある。
【0006】
本発明は、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子用正極を提供することを目的とする。また、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の非水電解質蓄電素子用正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を備え、上記正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素が存在し、引張伸度が1.0%以下である。
【0008】
本発明の他の一側面の非水電解質蓄電素子は、当該非水電解質蓄電素子用正極を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用正極は、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。また、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子によれば、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子用正極及び非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0012】
(1)本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を備え、上記正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素が存在し、引張伸度が1.0%以下である。
【0013】
上記(1)に記載の非水電解質蓄電素子用正極によれば、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。当該非水電解質蓄電素子用正極においては、正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有することで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を向上できる。
一方、α-NaFeO2型結晶構造を有し、上記リチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質は、非水電解質との間の副反応によりフッ化物等の副生成物が生成されやすく、この副生成物とバインダとの反応が、高温環境下におけるバインダの膨張の要因になると考えられる。当該非水電解質蓄電素子用正極は、上記正極活物質の表面に上記異種元素が存在することで、上記正極活物質の表面が適切に被覆され、非水電解質との間の副反応が抑制される。その結果、上記副生成物の生成が抑制されることで、高温環境下におけるバインダの膨張が抑制されるという効果が得られるものと推測される。
さらに、正極の引張伸度を1.0%以下と小さくすることで、非水電解質の分解生成物とバインダが反応してバインダが膨張しても、正極活物質層が膨張し難いため、容量維持率の低下を抑制できる。従って、上記(1)に記載の非水電解質蓄電素子用正極は、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できると推測される。
【0014】
ここで、「異種元素」は、正極活物質の表面の少なくとも一部に存在していればよい。上記「異種元素」とは、正極活物質に含まれる元素の含有量が、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して4.0mol%以下である元素をいう。すなわち、正極活物質がタングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、及びジルコニウム元素のいずれかの元素を、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して4.0mol%超含む場合、当該元素は異種元素に含まない。「引張伸度[%]」は、長さ170mm、幅20mmに正極を裁断して測定試料とし、オートグラフを用い、JIS-K-7161(2014)に準拠して測定する。正極は正極基材に対して正極活物質層を両面に備えたものであり、測定環境は20℃前後の室温にて実施するものとする。測定試料は次の手順で準備する。非水電解質蓄電素子を組み立てる前の正極が準備できる場合には、そのまま用いる。組み立て後の非水電解質蓄電素子から準備する場合は、まず非水電解質蓄電素子を、0.1Cの電流で、通常使用時の放電終止電圧まで定電流放電し、放電された状態とする。なお、「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合である。この放電された状態の非水電解質蓄電素子を解体し、正極を取り出して、ジメチルカーボネートにより正極に付着した成分(電解質等)を十分に洗浄した後、室温にて24時間減圧乾燥を行う。非水電解質蓄電素子の解体から測定対象とする正極の準備までの作業は、露点-40℃以下の乾燥空気雰囲気中で行う。
【0015】
(2)上記(1)に記載の非水電解質蓄電素子用正極において、上記正極活物質層の上記バインダの含有量が0.5質量%以上2.0質量%以下であってもよい。
【0016】
上記(2)に記載の非水電解質蓄電素子用正極によれば、上記バインダの含有量を上記下限以上かつ上記上限以下とすることで、正極の引張伸度を低減し、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果を向上できる。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)に記載の非水電解質蓄電素子用正極において、上記バインダがフッ素樹脂であってもよい。
【0018】
上記(3)に記載の非水電解質蓄電素子用正極によれば、上記バインダがフッ素樹脂であることで、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果がより発揮される。
【0019】
(4)本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、上記(1)から(3)のいずれか一つに記載の非水電解質蓄電素子用正極を備える。
【0020】
上記(4)に記載の非水電解質蓄電素子によれば、上記(1)から(3)のいずれか一つに記載の非水電解質蓄電素子用正極を備えるので、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用正極の構成、非水電解質蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び非水電解質蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<非水電解質蓄電素子用正極>
当該非水電解質蓄電素子用正極(以下、単に正極ともいう。)は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0023】
[正極基材]
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0024】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、任意の10カ所で測定した厚さの平均値を意味する。他の部材等の「平均厚さ」も同様に定義される。
【0025】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0026】
正極活物質層は、正極活物質及びバインダを含有する。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0027】
正極活物質は、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有する。正極活物質としては、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物、又はニッケル元素、コバルト元素及びアルミニウム元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすること等ができる。
【0028】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、下記式1で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-αO2 ・・・1
式1中、MeはNiと、Coと、Al及びMnの少なくとも一方とを含む金属元素(Liを除く)である。0≦α<1である。
【0029】
式1中のMeは、実質的にNi、Co及びMnの三元素、又はNi、Co及びAlの三元素から構成されていることがさらに好ましい。但し、Meは、その他の金属元素が含有されていてもよい。
【0030】
電気容量がより大きくなること等の観点から、式1で表される化合物における各構成元素の好適な含有量(組成比)は以下の通りである。なお、モル比は、原子数比に等しい。
【0031】
式1中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2又は0.3がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.9が好ましく、0.8、0.7、0.6、0.5又は0.4がより好ましい場合もある。
【0032】
式1中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1、0.2又は0.3がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Co/Me)の上限としては、0.7が好ましく、0.5又は0.4がより好ましい場合もある。
【0033】
式1中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1、0.2又は0.3がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.6が好ましく、0.5又は0.4がより好ましい場合もある。
【0034】
式1中、Meに対するAlのモル比(Al/Me)としては、0.04超が好ましく、0.05以上がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Al/Me)の上限としては、0.20が好ましく、0.10、0.08がより好ましい場合もある。
【0035】
式1中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)の上限としては、1.6が好ましく、1.4又は1.2がより好ましい場合もある。
【0036】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの放電電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属Liを対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの放電電流で、正極電位が3.0V vs.Li/Li+となるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した成分(電解質等)を十分に洗浄し、室温にて24時間減圧乾燥後、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。非水電解質蓄電素子の解体から測定用のリチウム遷移金属複合酸化物の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0037】
好適なリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi3/5Co1/5Mn1/5O2、LiNi1/2Co1/5Mn3/10O2、LiNi1/2Co3/10Mn1/5O2、LiNi8/10Co1/10Mn1/10O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2等を挙げることができる。
【0038】
正極活物質粒子は、上記したニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物以外のその他の正極活物質粒子を含有してもよい。上記その他の正極活物質粒子としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。その他の正極活物質としては、例えば、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。
【0039】
正極活物質粒子の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、正極活物質粒子は、上記ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を、使用する全正極活物質粒子のうち50質量%以上(好ましくは70質量%から100質量%、より好ましくは80質量%から100質量%)の割合で含有することが好ましく、実質的に上記ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物のみからなる正極活物質を用いることがより好ましい。
【0040】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0041】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の非水溶媒を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0042】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0043】
当該非水電解質蓄電素子用正極においては、上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素が存在する。当該非水電解質蓄電素子用正極は、正極活物質の表面に上記異種元素が存在することで、高温環境下での正極活物質と非水電解質との副反応が低減される。上記異種元素の中でも、タングステン元素、ホウ素元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせが、高温環境下での正極活物質と非水電解質との副反応がより低減されるという点で好ましく、タングステン元素、ホウ素元素又はこれらの組み合わせがより好ましい。なお、異種元素は、正極活物質の表面の少なくとも一部に存在していればよい。異種元素は、正極活物質の表面に点在していてもよく、被覆層を形成していてもよい。また、異種元素は、正極活物質の内部にも存在していてもよい。正極活物質が二次粒子である場合、異種元素は、正極活物質の一次粒子の粒界に存在していてもよい。異種元素は正極活物質の表面に正極活物質とは異なる化合物として存在していてもよい。正極活物質に含まれる各異種元素の含有量は正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して4.0mol%以下である。すなわち、正極活物質がタングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、及びジルコニウム元素のいずれかの元素を、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して4.0mol%超含む場合、当該元素は異種元素に含まない。
【0044】
正極活物質に含まれる異種元素の含有量の下限としては、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して0.2mol%以上1.5mol%以下が好ましく、0.5mol%以上1.2mol%以下がより好ましい。上記正極活物質に含まれる異種元素の含有量が、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して上記範囲であることで、当該非水電解質蓄電素子用正極を備える非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下をより向上できる。なお、異種元素が複数存在する場合、上記異種元素の含有量は、各異種元素の含有量とする。
【0045】
本発明において、窒素元素以外の上記異種元素及び正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素の含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)により求めることができる。窒素元素以外の上記異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の含有量の測定は、以下の手順で行う。初めに、上記した方法により完全放電状態とした正極から正極活物質を採取し、マイクロ波分解法により、正極活物質及び異種元素を溶解可能な酸に正極活物質を全溶解させる。次に、この溶液を純水で一定量に希釈し、測定溶液とする。そして、マルチ型ICP発光分光分析装置ICPE-9820(島津製作所社製)を用い、ICP発光分光分析により上記測定溶液の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の濃度を測定する。得られた異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の濃度から、正極活物質中の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の含有量を定量する。なお、上記測定溶液の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の濃度の算出においては、既知の濃度の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の溶液から検量線を作成し、上記測定溶液の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の濃度を求める検量線法を用いることができる。また、窒素元素の含有量は、以下の手順で、酸素・窒素分析装置により求めることができる。上記した方法により完全放電状態とした正極から正極活物質を採取し、酸素・窒素分析装置により、正極活物資中の窒素元素を窒素ガスとして抽出して熱伝導度検出器で検出し、窒素元素の含有量を定量する。なお、正極活物質の表面に異種元素が存在していることは、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型エックス線分析装置(SEM-EDX)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)等で正極活物質表面の異種元素及び正極活物質に含まれる金属元素の分布を観察することにより確認することができる。
【0046】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0047】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0048】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。これらの中でも、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果がより発揮される観点から、フッ素樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。
【0049】
上記正極活物質層が含有するバインダの重量平均分子量の下限としては、70万が好ましく、80万がより好ましい。一方、上記バインダの重量平均分子量の上限としては、特に限定されないが、例えば150万であってもよい。上記バインダの重量平均分子量が上記下限以上かつ上記上限以下であることで、正極合剤ペーストの塗布性を良好に維持するとともに、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果をより向上できる。上記「重量平均分子量」とは、JIS-K-7252-1(2008)「プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第1部:通則」に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される重量平均分子量を意味する。
【0050】
正極活物質層における上記バインダの含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、1.0質量%がさらに好ましい。上記バインダの含有量の上限としては、4.0質量%が好ましく、2.5質量%がより好ましく、2.0質量%がさらに好ましい。バインダの含有量を上記下限以上かつ上記上限以下とすることで、正極の引張伸度を低減し、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果を向上できる。
【0051】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0052】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0053】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0054】
正極活物質層の平均厚さは、30μm以上100μm以下が好ましく、40μm以上90μm以下がより好ましい。正極活物質層の平均厚さを上記範囲とすることで、非水電解質蓄電素子の容量と出力とを適切な範囲で両立できるという利点がある。なお、上記正極活物質層の平均厚さは、正極活物質層が正極基材の両面に設けられている場合は、それぞれ設けた2層の平均厚さの合計の値である。
【0055】
正極基材の平均厚さに対する正極活物質層の平均厚さの比としては、10以上20以下が好ましく、12以上15以下がより好ましい。正極基材の平均厚さに対する正極活物質層の平均厚さの比を上記範囲とすることで、正極の引張伸度をより低減することができる。
【0056】
正極活物質層の多孔度の上限としては、40%が好ましく、35%がより好ましい。一方、この多孔度の下限としては、25%が好ましく、30%がより好ましい。正極活物質層の多孔度を40%以下とすることで、正極活物質粒子同士の接触を良好にできる。正極活物質層の多孔度を25%以上とすることで、正極基材の変形を抑制できる。また、多孔度が上記範囲内であることで、正極の引張伸度を低減し、当該非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制する効果を向上できる。
【0057】
ここで、正極活物質層の「多孔度」とは、正極活物質層を構成する各成分の真密度から算出される正極活物質層の真密度と充填密度とから、下記式により求められる値をいう。上記充填密度とは、正極活物質層の質量を正極活物質層の見かけの体積で除した値をいう。上記見かけの体積とは、空隙部分を含む体積をいい、正極活物質層においては、厚さと面積との積として求めることができる。
多孔度(%)=100-(充填密度/真密度)×100
【0058】
正極の引張伸度としては、1.0%以下であり、0.8%以下が好ましく、0.6%以下がより好ましく、0.4%以下がさらに好ましい。正極の引張伸度を1.0%以下とすることで、当該非水電解質蓄電素子における高温環境下での保存後における容量維持率の低下の抑制効果が良好である。正極の引張伸度の下限は、例えば0%であってもよく、0.1%が好ましい場合もある。正極の引張伸度は、正極活物質の微小圧縮強度、バインダの種類及び含有量、正極基材の材質及び平均厚さ、正極活物質層の平均厚さ及び多孔度等により調整することができる。
【0059】
<非水電解質蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して重ねられた積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して重ねられた状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸された状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0060】
(正極)
当該非水電解質蓄電素子が備える正極は、上記したとおりである。当該非水電解質蓄電素子は当該正極を備えるので、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。
【0061】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0062】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0063】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0064】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0065】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0066】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電された状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。入出力特性に優れるという観点で、天然黒鉛が好ましい。
【0068】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電された状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0069】
ここで、黒鉛等の炭素材料の「放電された状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオン等の電荷輸送イオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、リチウム金属(Li)電極を対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0070】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0071】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0072】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0073】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0074】
導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0075】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0076】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0077】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0078】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、非水電解質蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0079】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0080】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0081】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0082】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0083】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0084】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0085】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0086】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0087】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0088】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0089】
非水電解液は、非水溶媒及び電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0091】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0092】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質、ゲルポリマー電解質等が挙げられる。
【0093】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0094】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0095】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0096】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)を備える蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子1の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0097】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を重ねる又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0098】
正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。正極合剤ペーストには、正極活物質、バインダ及び任意成分である導電剤等、正極活物質層を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。上記正極活物質の表面に、タングステン元素、ホウ素元素、硫黄元素、リン元素、ケイ素元素、チタン元素、窒素元素、ゲルマニウム元素、アルミニウム元素、ジルコニウム元素又はこれらの組み合わせである異種元素を存在させる方法としては、例えば、正極活物質粒子を上記異種元素のイオン等を含有する溶液に浸漬する方法や、上記異種元素のイオン等を含有する溶液を正極活物質粒子に噴霧する方法、正極活物質粒子と上記異種元素を含む化合物とを混合する方法等を挙げることができる。上記異種元素を存在させる方法の後に熱処理をおこなってもよい。また、上記異種元素を存在させる方法は、正極合剤ペーストを調製する前に行うことができる。
【0099】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。非水電解質蓄電素子を構成する各部材の詳細は上述の通りである。
【0100】
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できる。
【0101】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0102】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0103】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0104】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0105】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダである高分子量型ポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量80万以上)及び分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。正極活物質、導電剤及びバインダの質量比率は95:4:1(固形分換算)とした。また、正極活物質は、予め表面に異種元素としてホウ素元素を存在させたものを用い、ホウ素化合物により、正極活物質の表面の少なくとも一部が被覆(コート)されるようにした。異種元素であるホウ素元素の含有量は、正極活物質に含まれるリチウム元素と異種元素とを除く金属元素に対して1.0mol%であった。正極基材としての平均厚さ15μmのアルミニウム箔(A1085)の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。正極活物質層の塗布質量は2.0g/100cm2であり、平均厚さは120μmであった。なお、正極活物質層の塗布質量及び平均厚さは、正極基材の両面にそれぞれ設けた2層の合計の値である。また、上記測定方法により測定した正極の引張伸度[%]は、0.2%であった。
【0106】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛、バインダであるスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)及び分散媒である水を混合して負極合剤ペーストを調製した。なお、負極活物質、バインダ及び増粘剤の質量比率は97:2:1(固形分換算)とした。負極基材としての銅箔の両面に負極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。負極活物質層の塗布質量は1.0g/100cm2であった。なお、負極活物質層の塗布質量は、負極基材の両面にそれぞれ設けた2層の合計の値である。
【0107】
(非水電解質)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを30:35:35の体積比率で混合した溶媒に、1.0mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させ、非水電解質を得た。
【0108】
(セパレータ)
セパレータとして、厚さが20μmのポリオレフィン製微多孔膜を用いた。
【0109】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
上記正極と負極とセパレータとを用いて巻回型の電極体を得た。電極体を角型の容器に収納し、非水電解質を注入して封口して、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0110】
[実施例2から実施例4及び比較例1]
バインダである高分子量型ポリフッ化ビニリデンの含有量及び正極の引張伸度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2から実施例4及び比較例1の各非水電解質蓄電素子を得た。なお、正極の引張伸度は、バインダの含有量を変更することにより調整した。また、正極合剤ペーストにおけるバインダの含有量は表1に記載の通りとし、導電剤の含有量は4質量%とし、正極活物質の含有量は残部とした。
【0111】
[実施例5]
正極活物質としてLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)をLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5の非水電解質蓄電素子を得た。
【0112】
[実施例6]
正極活物質としてLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)をLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6の非水電解質蓄電素子を得た。
【0113】
[実施例7から実施例10]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用い、バインダの含有量及び正極の引張伸度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7から実施例10の非水電解質蓄電素子を得た。なお、正極の引張伸度は、バインダの含有量を変更することにより調整した。また、正極合剤ペーストにおけるバインダの含有量は表1に記載の通りとし、導電剤の含有量は4質量%とし、正極活物質の含有量は残部とした。
【0114】
[比較例2]
正極活物質の表面に異種元素が存在しないこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の非水電解質蓄電素子を得た。
【0115】
[比較例3]
バインダとして低分子量型ポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量50万以上80万未満)を用い、引張伸度を表1に記載の通りに変更した以外は比較例1と同様にして、比較例3の非水電解質蓄電素子を得た。なお、正極の引張伸度は、バインダの種類を変更することにより調整した。
【0116】
[比較例4]
正極活物質の表面に異種元素が存在しないこと以外は比較例3と同様にして、比較例4の非水電解質蓄電素子を得た。
【0117】
[比較例5]
バインダとして低分子量型ポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量50万以上80万未満)を用い、正極活物質、導電剤及びバインダの質量比率を93.5:4:2.5(固形分換算)としたこと以外は実施例1と同様にして正極合剤ペーストを調製した。正極基材としての平均厚さ15μmのアルミニウム箔(A1085)の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。しかしながら、ロールプレスを行うと正極活物質層が正極基材から剥離し、正極基材との密着が確保できなかったため、比較例5の正極及び非水電解質蓄電素子を作製することができなかった。
【0118】
[比較例6]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用いた以外は比較例1と同様にして、比較例6の非水電解質蓄電素子を得た。
【0119】
[比較例7]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用いた以外は比較例2と同様にして、比較例7の非水電解質蓄電素子を得た。
【0120】
[比較例8]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用いた以外は比較例3と同様にして、比較例8の非水電解質蓄電素子を得た。
【0121】
[比較例9]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用いた以外は比較例4と同様にして、比較例9の非水電解質蓄電素子を得た。
【0122】
[比較例10]
正極基材としてアルミニウム箔(A1085)の代わりにアルミニウム合金箔(A3003)を用いた以外は比較例5と同様にして、正極基材としての平均厚さ15μmのアルミニウム合金箔(A3003)の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。しかしながら、ロールプレスを行うと正極活物質層が正極基材から剥離し、正極基材との密着が確保できなかったため、比較例10の正極及び非水電解質蓄電素子を作製することができなかった。
【0123】
[評価]
(初期放電容量の測定)
得られた実施例1から実施例10、比較例1から比較例4、及び比較例6から比較例9の各非水電解質蓄電素子について、25℃の温度環境下、充電電流0.1Cで4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで定電圧充電をおこなった。充電の終了条件は総充電時間が15時間になるまでとした。10分間の休止時間を設けた後、放電電流0.1Cで2.75Vまで定電流放電をおこない、10分間の休止時間を設けた。続いて、充電電流1.0Cで4.2Vまで定電流充電を行った後、4.2Vで定電圧充電をおこなった。充電の終了条件は総充電時間が3時間になるまでとした。10分間の休止時間を設けた後、放電電流1.0Cで2.75Vまで定電流放電をおこなった。この放電電流1.0Cでの放電容量を「初期放電容量」とした。
【0124】
(高温環境下で保存後の容量維持率)
上記初期放電容量の測定後の実施例1から実施例10、比較例1から比較例4、及び比較例6から比較例9の各非水電解質蓄電素子について、25℃の温度環境下、充電電流1.0Cで4.2Vまで定電流充電したのちに、4.2Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.2Cになるまでとした。このようにして充電した後、60℃の恒温槽内にて14日間静置した。14日経過後、上記各非水電解質蓄電素子を、25℃の環境下で3時間静置したのちに、放電電流1.0Cで2.75Vまで定電流放電した。このときの放電容量を「高温環境下で保存後の放電容量」とした。上記初期放電容量に対する高温環境下での保存後の放電容量の百分率を「高温環境下で保存後の容量維持率[%]」とした。高温環境下で保存後の容量維持率を表1に示す。
【0125】
【0126】
表1に示されるように、正極活物質が、α-NaFeO2型結晶構造を有し、ニッケル元素と、コバルト元素と、アルミニウム元素及びマンガン元素の少なくとも一方とを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有し、正極活物質の表面に異種元素が存在し、引張伸度が1.0%以下である正極を備える実施例1から実施例10は、正極基材の種類によらず比較例1から比較例4及び比較例6から比較例9と比較して高温環境下で保存後の容量維持率の低下が抑制されていることがわかる。
【0127】
バインダの含有量が大きい比較例1、比較例3、比較例6及び比較例8は、高分子量型バインダと低分子量型バインダのどちらを含有したかによらず、また正極基材の種類にもよらず、高温環境下での保存後における容量維持率の低下が大きくなった。これは、バインダの含有量が大きいために、高温環境下での保存時にバインダの膨張が大きくなったためと考えられる。低分子量型バインダの含有量を低減した比較例5及び比較例10は、ロールプレス時の正極活物質層の剥離により、正極の作製自体が困難であった。また、正極活物質の表面に異種元素が存在しない比較例2及び比較例7も、正極基材の種類によらず、高温環境下での保存後における容量維持率の低下が大きくなった。特に、低分子量型バインダの含有量が大きく、かつ正極活物質の表面に異種元素が存在しない比較例4及び比較例9は、正極基材の種類によらず、高温環境下での保存後における容量維持率の低下が非常に大きくなった。
【0128】
以上の結果、当該正極は、非水電解質蓄電素子の高温環境下での保存後における容量維持率の低下を抑制できることが示された。