(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153565
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】液体展開用シート、及び液体展開用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20241022BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241022BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/18 Z
B32B27/18 J
G01N33/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058530
(22)【出願日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023066879
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 豊
(72)【発明者】
【氏名】川端 裕介
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【テーマコード(参考)】
2G045
4F100
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA16
2G045BA11
2G045BB03
2G045BB30
2G045HA01
4F100AH02B
4F100AH03B
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK42A
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4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】本発明は、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することをその課題とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有し、前記液体受容層がビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む液体展開用シート。である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有し、前記液体受容層がビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む液体展開用シート。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の含有量が前記液体受容層100.0質量%中、80質量%以上99.8質量%以下であり、前記界面活性剤及び前記導電性樹脂の合計含有量が0.2質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の液体展開用シート。
【請求項3】
前記保護基材と前記液体受容層との間の剥離強度が0.1mN/10mm以上10mN/10mm以下である請求項2に記載の液体展開用シート。
【請求項4】
前記液体受容層の厚みが0.1μm以上5.0μm以下である、請求項3に記載の液体展開用シート
【請求項5】
前記保護基材及び前記基材フィルムがいずれもポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項4に記載の液体展開用シート。
【請求項6】
前記保護基材を構成する樹脂の結晶化度が0.25以上0.35以下である、請求項5に記載の液体展開用シート。
【請求項7】
前記保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率が1.0%以下である、請求項6に記載の液体展開用シート。
【請求項8】
前記撥水層がシリコーン樹脂を主成分とする、請求項7に記載の液体展開用シート。
【請求項9】
生体液展開用シートとして用いられる、請求項1~8のいずれかに記載の液体展開用シート。
【請求項10】
前記ポリエステル樹脂、前記界面活性剤及び前記導電性樹脂を含む塗料組成物を前記基材フィルム上に塗布して液体受容膜を形成した後に、前記保護基材と前記液体受容層を40℃以上100℃以下で熱ラミネートする工程を有する請求項1~8のいずれかに記載の液体展開用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体展開用シート、及び液体展開用シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床医療の現場におけるPOCT(Point Of Care Testing)が、幅広い検査項目への広がりを見せている。これらPOCT検査機器においては、高精度かつ、迅速に検査結果が得られることが強く求められている。特に、検査シートの撥水性と親水性は、検査精度と検査速度に支配的に影響を及ぼす重要な役割を果たすため、これまで様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、検査速度を制御する手法として液体受容層にバインダーと界面活性剤を用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、POCT検査機器が課題とする検査精度を補う方法として、チップ基材の片面に親水層、親水層の反対面に撥水層を積層する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-349860号公報
【特許文献2】特開平10-246717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の技術では、液体展開性に優れるものの、粘度が著しく低い生体液を展開させた場合に、裏面への裏移りが発生するため、検査精度の観点で課題がある。
【0006】
一方、特許文献2に記載の技術では、チップ基材をロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合に、親水層と撥水層が接触することで親水層に撥水層成分の転写が発生するため、液体展開性に課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するため、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体受容層の成分が裏面に裏移りすることが抑制され、かつ、液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次によって解決することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の液体展開用シートに関する好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)少なくとも保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有し、前記液体受容層がビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む液体展開用シート。
(2)前記ポリエステル樹脂の含有量が前記液体受容層100.0質量%中、80質量%以上99.8質量%以下であり、前記界面活性剤及び前記導電性樹脂の合計含有量が0.2質量%以上20質量%以下である(1)に記載の液体展開用シート。
(3)前記保護基材と前記液体受容層との間の剥離強度が0.1mN/10mm以上10mN/10mm以下である(2)に記載の液体展開用シート。
(4)前記液体受容層の厚みが0.1μm以上5.0μm以下である(3)に記載の液体展開用シート
(5)前記保護基材及び前記基材フィルムがいずれもポリエチレンテレフタレートフィルムである、(4)に記載の液体展開用シート。
(6)前記保護基材を構成する樹脂の結晶化度が0.25以上0.35以下である、(5)に記載の液体展開用シート。
(7)前記保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率が1.0%以下である、(6)に記載の液体展開用シート。
(8)前記撥水層がシリコーン樹脂を主成分とする(7)に記載の液体展開用シート。
(9)生体液展開用シートとして用いられる、(1)~(8)のいずれかに記載の液体展開用シート。
(10)前記ポリエステル樹脂、前記界面活性剤及び前記導電性樹脂を含む塗料組成物を前記基材フィルム上に塗布して液体受容膜を形成した後に、前記保護基材と前記液体受容層を40℃以上100℃以下で熱ラミネートする工程を有する(1)~(8)のいずれかに記載の液体展開用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合においても液体受容層の成分が裏面に裏移りが抑制され、かつ、液体展開性に優れた液体展開用シートを提供することができる。これにより、本発明の液体展開用シートを用いた検査シートは、検査精度、検査速度、品位、及び耐久性に優れる。すなわち、本発明の液体展開用シートを用いた検査シートにより安価で迅速かつ正確な検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の液体展開用シートの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液体展開用シートは、少なくとも保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有し、前記液体受容層がビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む。このような態様とすることにより、本発明の液体展開用シートは、ロール状に巻き取る場合や枚葉で積層した場合においても液体受容層の成分が裏面に裏移りが抑制され、かつ、液体展開性に優れる。そして、本発明の液体展開用シートを用いた検査シートは、検査精度、検査速度、生産性、品位及び耐久性に優れる。以下、本発明の液体展開用シートについて具体的に説明する。
【0012】
なお、液体展開用シートの生産性が優れることで、この液体展開用シートを用いた検査シートの生産性も優れたものとなる。また、液体展開用シートの品位が優れることで、この液体展開用シートを用いた検査シートの品位も優れたものとなる。また、液体展開用シートの耐久性が優れることで、この液体展開用シートを用いた検査シートの耐久性も優れたものとなる。
【0013】
ここで、
図1は、本発明の一実施形態の液体展開用シートの模式的な断面図である。この液体展開用シートは、保護基材1、液体受容層2、基材フィルム3、撥水層4をこの順に有している。
【0014】
(液体受容層)
本発明の液体展開用シートが備える液体受容層は、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む。このような形態をとることで、液体展開用シートは生産性および耐久性に優れたものとなり、この液体展開用シートを用いた検査シートは検査精度、検査速度、生産性、及び耐久性に優れたものとなる。
【0015】
上記のビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂は、ビスフェノールA構造を有するグリコール成分と二塩基酸成分を共重合したポリエステル樹脂のことをいう。このような形態をとることで、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂を含む液体受容層と基材フィルム及び保護基材との密着性が向上する。液体受容層と基材フィルムとの密着性が向上することで、液体展開用シートとして用いた場合に液体受容層が基材フィルムから剥離することが抑制されるため、液体展開用シートとして耐久性に優れる。また、液体受容層と保護基材との密着性が向上することで、、ロール状に巻き取る場合や、枚葉で積層した場合において保護基材のハンドリングが容易となるため、液体展開用シートとして生産性に優れる。また、ビスフェノールAがノニオン系界面活性剤と親和性が高く、ノニオン系界面活性剤の保護基材側へブリードアウトすることを制御できるため、この液体展開性シートを用いた検査シートは検査精度に優れる。
【0016】
ビスフェノールA構造を有するグリコール成分としては、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、等が挙げられる。
【0017】
二塩基酸成分としては、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボンル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族や脂環族二塩基酸が挙げられる。
【0018】
本発明のビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度は、基材フィルムとの密着性及び保護基材との密着性をより向上させる観点から40℃以上100℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃以下であることにより、基材フィルムとの密着性及び保護基材との密着性が十分となり、液体展開用シートとして生産性に優れたものとなる。同様の観点から、ガラス転移温度を90℃以下とすることがより好ましい。また、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度が40℃以上であることにより、液体展開用シートとして用いる温度領域での液体受容層の硬さが向上するため、液体展開用シートとして耐久性に優れたものとなる。同様の観点から、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度は、60℃以上とすることがより好ましい。上記の観点からガラス転移温度は、60℃以上100℃以下とすることがより好ましい。
【0019】
本発明のビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂は溶剤可溶性を有することが好ましい。ここで意味する溶剤可溶性とは、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルの単独またはこれら内の任意の複数種からなる任意の混合比からなる混合溶媒の内のいずれか一種以上に25℃で3質量%以上溶解するものをいう。
【0020】
ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂の含有量としては、液体受容層100.0質量%中、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂を80.0質量%以上含むことで、基材フィルムとの密着性及び保護基材との密着性が向上し、かつ液体受容層の表面硬度が向上するため、液体展開用シートとして生産性及び耐久性に優れるものとなる。同様の観点で、85.0質量%以上含有することがより好ましく、90.0質量%以上含むことがさらに好ましい。また、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂の含有量は99.8質量%以下とすることで、液体受容層中に後述するノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂の含有量比率を増やすことができるため、液体展開用シートを用いた検査シートを検査精度、および検査速度に優れたものとすることができる。同様の観点で、99.0質量%以下含有することがより好ましく、97.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0021】
上記の観点から本発明におけるビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂は、液体受容層100.0質量%中、80.0質量%以上99.8質量%以下含有することが好ましく、85.0質量%以上99.0質量%以下含有することがより好ましく、90.0質量%以上97.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0022】
本発明に用いるノニオン系界面活性剤は、それ単独を純水に5質量%含ませると、当該純水の表面張力を30%以上小さくすることができる物質をいう。液体受容層の濡れ性を向上させるとともに、保護基材との密着性を向上させる観点から、液体受容層はノニオン系界面活性剤を含有しており、アセチレングリコール系界面活性剤やアセチレングリコール類のエチレンオキサイド付加物界面活性剤がさらに好ましい。
【0023】
ノニオン系界面活性剤の含有量を0.1質量%以上とすることで、液体受容層の濡れ性向上させることができるため、液体展開用シートを用いた検査シートを検査速度に優れたものとなる。同様の観点から、1.0質量%以上含有することがより好ましく、3.0質量%以上含有することがさらに好ましい。
【0024】
また、ノニオン系界面活性剤の含有量を19.9質量%以下とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合にノニオン系界面活性剤が電極の上にまでブリードするなどして検査の感度不良が発生してしまうことを防止するものとなり、この液体展開用シートを用いた検査シートは検査精度に優れたものとなる。また、液体展開用シートとして保護基材との密着性が向上するため、液体展開用シートとして生産性に優れる。同様の観点から、15.0質量%以下含有することがより好ましく、10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0025】
上記の観点から本発明におけるノニオン系界面活性剤は、液体受容層100.0質量%中、0.1質量%以上19.9質量%以下含有することが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下含有することがより好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0026】
なお、液体受容層の濡れ性向上の観点から、ノニオン系界面活性剤の分子量は1000以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の導電性樹脂は、それ単独での体積抵抗率が1×108Ω・m以下の樹脂であり、帯電防止効果、すなわち表面抵抗値を低減させる観点からカチオン系導電性樹脂が好ましく、第4級アンモニウム塩重合物であることがより好ましく、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、及び/又はポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであることがさらに好ましい。
【0028】
導電性樹脂の含有量を0.1質量%以上とすることで、前記液体受容層の表面抵抗値を下げることによる帯電防止効果がさらに得られるため、液体展開用シート上に電極を形成する際の異物付着が抑制され、液体展開用シートとして生産性に優れたものとなる。同様の観点から、1.0質量%以上含有することがより好ましく、3.0質量%以上含有することがさらに好ましい。
【0029】
また、導電性樹脂の含有量を合計19.9質量%以下とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合に短絡などして検査の感度が不良となることを防止するものとなり、液体展開用シートを検査シートに用いた場合に、この検査シートは検査精度に優れたものとなる。同様の観点で、15.0質量%以下含有することがより好ましく、10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。なお、導電性樹脂の重量平均分子量は5000以上であることが好ましい。
【0030】
上記の観点から、本発明における導電性樹脂は、層A100.0質量%中、0.1質量%以上19.9質量%以下含有することが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下含有することがより好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下含有することがさらに好ましい。また、このような形態をとることにより、液体受容層の表面抵抗値を1×108Ω以上、1×1010Ω以下とすることができる。
【0031】
上記の観点から、ポリエステル樹脂の含有量は液体受容層100.0質量%中、80質量%以上99.8質量%以下であり、さらに、界面活性剤及び導電性樹脂の合計含有量が0.2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明において、液体受容層の表面抵抗値は1×108Ω以上、1×1010Ω以下であることが好ましい。表面抵抗値を1×108Ω以上とすることで、液体展開用シート上に電極を形成した場合に短絡などして検査の感度が不良となることを防止するものとなり、この液体展開用シートを用いた検査シートは検査精度に優れたものとなる。同様の観点で、5×108Ω以上とすることがより好ましく、7×108Ω以上とすることがさらに好ましい。
【0033】
また、表面抵抗値を1×1010Ω以下とすることで帯電防止効果が得られるため、液体展開用シート上に電極を形成する際の異物付着が抑制され、液体展開用シートとして品位に優れたものとなる。同様の観点で7×109Ω以下とすることがより好ましく、5×109Ω以下とすることがさらに好ましい。
なお、表面抵抗値は実施例に記載の方法で求めることとする。
【0034】
本発明の液体受容層の厚みは、液体展開用シートの生産性を優れたものとし、さらに、この液体展開用シートを用いた検査シートの検査精度も優れたものとするとの観点から、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。液体受容層の厚みを0.1μm以上とすることで、液体展開用シート加工時の擦り傷等による液体受容層の滑落や、ピンホールの発生を防ぐことができるため、液体展開用シートとして品位に優れ、さらに、この液体展開用シートを用いた検査シートは検査精度に優れたものとなる。同様の観点で0.5μm以上とすることがより好ましい。
【0035】
また、液体受容層の厚みを5.0μm以下とすることで、作業性を改善し、またロール状に巻いた際のブロッキングを防ぐことができるため、液体展開用シートとして生産性に優れたものとなる。同様の観点で3.0μm以下とするがより好ましい。
【0036】
本発明の液体受容層のビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂の組成に関し、原料の配合から把握できないときは、定性・定量分析方法として以下のLC/MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)、及び熱分解GC/MSを好ましく用いることができる。
【0037】
<分離・抽出>
層0.04gを25mLメスフラスコに秤量する。続いて、メスフラスコにHFIP(1,1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール)/クロロホルム(体積比1/1)を1mL加えて層を溶解させ、クロロホルムを2mL加えた後に、アセトニトリルを徐々に加えて、ポリエステル樹脂成分を不溶化させる。
【0038】
アセトニトリルを加え、25mLに定容後、調整した溶液をアセトニトリルで100倍希釈し、PTFEディスクフィルタ(0.45μm)で濾過して得られた濾液を測定溶液とする。
【0039】
<定性分析>
前記測定溶液をLC/MS/MSに供し、クロマトグラムからノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂由来のピークが検出されるリテンションタイム及びピーク面積を確認する。続いて、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂由来のピークについて質量分析を行うことで定性分析する。ノニオン系界面活性剤についてはそれ由来の正イオン及び負イオンの式量を確認して定性する。
【0040】
前記不溶化されたポリエステル樹脂を熱分解GC/MSに供し、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂由来のピークについて質量分析を行うことで定性分析する。
【0041】
<標準溶液調整及び検量線作成>
定性済みのノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂の標品0.01gを10mLメスフラスコに秤量後、メタノールで溶解して10mLに定容することで標準溶液とする。標準溶液を分取し、メタノールでそれぞれ希釈することで計4種類の任意の濃度の標準溶液を得、LC/MS/MSに供することで、各濃度に対するクロマトグラムのピーク面積を確認する。溶液濃度とピーク面積の関係について直線近似することで検量線を得る。
【0042】
<定量分析>
定性分析で確認したクロマトグラムからノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂由来のピークが検出されるピーク面積を検量線の式に代入し、層に含まれる界面活性剤及び導電性樹脂の濃度を算出することで、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂の含有量を得る。
【0043】
上記のLC/MS/MSによる分析は、LC20-A(LCシステム、株式会社島津製作所製)、API4000(MSシステム、株式会社AB SCIEX製)ODS-3(ジーエルサイエンス株式会社製、カラム、“Intersil”(登録商標))を用い、イオン化法APCI(大気圧化学イオン化法)、正イオン検出及び負イオン検出、測定モードSRM(Selected reAction monitoring)、カラム温度50℃、流量0.25mL/min、注入量1μLの条件にて実施することができる。
【0044】
また、熱分解GC/MSは、PY3030D(フロンティア・ラボ株式会社)、及びGCMS-QP2010(株式会社島津製作所製)を用い、加熱温度500℃、昇温速度50℃/minの条件にて実施することができる。
【0045】
(基材フィルム)
本発明の液体展開用シートにおける基材フィルムは、寸法安定性や耐久性の観点からポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6-ナフタレート、ポリエチレンα,β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン4,4’-ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましい。これらは共重合体であってもよい。これらの中でも、液体展開用シートの取り扱い性と耐久性に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム、すなわち、ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましく、同様の観点から二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが最も好ましい。
【0046】
基材フィルムの厚みは寸法安定性や耐久性に優れる観点から10μm以上とすることが好ましい。同様の観点で、20μm以上とすることがより好ましく、30μm以上とすることがさらに好ましい。また、前記基材フィルムの厚みは検査シートとしての取り扱い性に優れる観点から500μm以下とすることが好ましい。同様の観点から300μm以下とすることがより好ましく、200μm以下とすることがさらに好ましい。
【0047】
上記の観点から基材フィルムの厚みは、10μm以上500μm以下とすることが好ましく、20μm以上300μm以下とすることがより好ましく、30μm以上200μm以下とすることがより好ましい。
【0048】
(保護基材)
従来の液体展開用シートについては、ロール状にしたときに液体受容層と撥水層とが接触することから撥水層のシリコーン樹脂が液体受容層に転写し、従来の液体展開用シートを用いた検査シートは、検査速度が遅くなるという課題があった。
【0049】
これに対して本発明の液体展開用シートは、ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む塗料組成物を基材フィルム上に塗布して液体受容膜を形成した後に、保護基材と液体受容層を40℃以上100℃以下で熱ラミネートし、保護基材と液体受容層との間の剥離強度が0.1mN/10mm以上10mN/10mm以下とすることで、液体展開用シートとして生産性を損なうことなく、保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有するため、撥水層のシリコーン樹脂が液体受容層に転写するのを防ぎ、この液体展開シートを用いた検査シートは検査精度と検査速度に優れたものとなる。上記の観点から、保護基材と液体受容層との間の剥離強度は0.1mN/10mm以上10mN/10mm以下であることが好ましい。
【0050】
保護基材と液体受容層を熱ラミネートする加熱温度を40℃以上することで、保護基材と液体受容層との間の剥離強度が0.1mN/10mm以上となり、熱ラミネート後のシート搬送やロール状に巻き取り性が向上することから、液体展開用シートとして生産性が優れたものとなる。同様の観点で45℃以上とすることが好ましく、50℃以上とすることがさらに好ましい。
【0051】
また、保護基材と液体受容層を熱ラミネートする加熱温度を100℃以下とすることで、ラミネート工程における保護基材の熱収縮によるシワを低減させることができるため、液体展開用シートとして品位が優れたものとなる。このような形態をとることで、保護基材と液体受容層との間の剥離強度が10mN/10mm以下とすることができる。
【0052】
本発明の液体展開用シートにおける保護基材は、寸法安定性や耐久性の観点からポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6-ナフタレート、ポリエチレンα,β-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン4,4’-ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましい。これらは共重合体であってもよい。これらの中でも、液体展開用シートの加工性に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム、すなわち、ポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましく、同様の観点から二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが最も好ましい。
【0053】
保護基材の厚みは寸法安定性や耐久性に優れるとともに、熱ラミネートの際に液体受容層への加熱が効率よくできる観点から5μm以上とすることが好ましい。同様の観点で、8μm以上とすることがより好ましく、10μm以上とすることがさらに好ましい。また、前記基材フィルムの厚みは検査シートとしての取り扱い性に優れる観点から100μm以下とすることが好ましい。同様の観点から50μm以下とすることがより好ましく、38μm以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
保護基材を構成する樹脂の結晶化度は、熱ラミネートの際に保護基材の熱収縮を抑制し、液体展開用シートの熱寸法安定性が良好なものとなり液体展開用シートとしての巻き取り性が優れるとの観点から、0.25以上とすることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造工程における熱固定温度を上げたり、製造後に熱処理を施したりすることで保護基材を構成する樹脂の結晶成長が促進されるため、結晶化度は大きくすることができ、上記樹脂の結晶化度を0.25以上とすることができる。同様の観点から0.27以上とすることがより好ましい。また、保護基材を構成する樹脂の結晶化度は、熱ラミネートの際に保護基材の熱膨張を抑制し、液体展開用シートの熱寸法安定性が良好なものとなり液体展開用シートとしての巻き取り性が優れるとの観点から0.35以下とすることが好ましい。同様の観点から0.33以下とすることがより好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造工程における熱固定温度を下げることで、保護基材を構成する樹脂の結晶成長を抑制されるため、結晶化度を0.35以下とすることができる。
【0055】
保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率は、熱ラミネートの際に保護基材のカールやシワ等の発生が抑制され、液体展開用シートとしての巻き取り性が優れるとの観点から、1.0%以下とすることが好ましい。同様の観点から、保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率は、0.5%以下とすることがより好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造工程における熱固定温度を上げたり、製造後に熱処理を施したりすることで保護基材を構成する樹脂の結晶成長が促進することで180℃の熱膨張率を1.0%以下とすることができる。
【0056】
上記の観点から保護基材の厚みは、5μm以上100μm以下とすることが好ましく、8μm以上50μm以下とすることがより好ましく、10μm以上38μm以下とすることがより好ましい。
【0057】
液体展開用シートの加工性がさらに優れたものとなるとの点から、本発明の液体展開用シートにおいては、保護基材及び基材フィルムのいずれもがポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
【0058】
(撥水層)
本発明の液体展開用シートにおける撥水層は、シリコーン樹脂を主成分とすることが好ましい。シリコーン樹脂を主成分とすることで、液体展開用シートの液体受容層側に液体を滴下させた際に、液体が液体受容層の中を広がっていくが、液体展開用シートの表面を伝って撥水層側まで液体が広がることを抑制し、液体展開用シートを検査シートに用いた場合に、この検査シートは検査精度に優れたものとなる。撥水層におけるシリコーン樹脂を主成分とすることとは、撥水層中のシリコーン樹脂の含有量が80質量%以上含むことをいう。
【0059】
シリコーン樹脂としては、撥水層の撥水性能が向上し、液体展開シートとしての液体の濡れ性を制御し、液体展開用シートを検査シートに用いた場合に、この検査シートは検査精度に優れるとの観点から付加反応型シリコーン樹脂、縮重合反応型シリコーン樹脂、紫外線硬化型シリコーン樹脂、電子線硬化型シリコーン樹脂、及び無溶剤型シリコーン樹脂からなる群から選ばれるものが好ましい。同様の観点から付加反応型シリコーン樹脂とすることがより好ましく、末端ビニル基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとの付加重合型シリコーン樹脂とすることがさらに好ましい。このような形態をとることで、撥水層の表面自由エネルギーを30mN/m以下とすることができる。撥水層の表面自由エネルギーが30mN/m以下であると、良好な撥水性が得られるため、液体受容層の成分が裏面に裏移りすることが抑制され、本発明の液体展開用シートを用いた検査シートの検査精度はより優れたものとなる。
【0060】
撥水層の厚みを0.02μm以上とすることで、良好な撥水性能が得られるとともに厚みのバラツキも抑制できるため、液体展開用シートとして用いた場合に、液体展開用シートの品位は優れたものとなり、さらに、この液体展開用シートを用いた検査シートの検査精度も優れるものとなる。同様の観点から0.05μm以上とすることがより好ましい。また、撥水層の厚みを0.5μm以下とすることで、乾燥性能を維持しシリコーン樹脂の移行も抑えることができるため、液体展開用シートを検査シートに用いた場合に、この検査シートは検査精度に優れるものとなる。同様の観点から0.3μm以下とすることがより好ましい。
【0061】
上記の観点から撥水層の厚みは、0.02μm以上0.5μm以下とすることが好ましく、0.05μm以上0.3μm以下がより好ましい。
【0062】
また、撥水層と基材フィルムとの密着性を向上させる観点で、撥水層と基材フィルムとの間にγ-メタクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン、ビニル基含有オルガノアルコキシシラン、およびビニル基含有アセトキシシランからなる群より選ばれる1種以上を硬化させたアンカー層を設けてもよい。
【0063】
(液体展開用シート)
本発明の液体展開用シートは、少なくとも保護基材、液体受容層、基材フィルム、撥水層をこの順に有することで、この液体展開用シートを検査シートに用いた場合に、この検査シートは検査精度、検査速度、生産性、及び耐久性に優れる。上記のことにより、例えば、血液や尿等の生体試料や食品工業における原料や製品、果汁等の試料中に含まれる特定成分の検査・定量する液体展開用シートとして、好適に用いることができる。
【0064】
本発明の液体展開用シートの製造方法は、例えば、以下の例示の材料、使用量、処理内容、処理手順等を挙げることができる。
【0065】
本発明の液体展開用シートは、例えば、基材フィルムの片面に、撥水層用塗材組成物を塗布し、熱処理を施すことで撥水層を積層した基材フィルムを得て、その後に基材フィルムの撥水層の裏面側にビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む塗料組成物を塗布し、熱処理を施すことで液体受容層を形成した後に、保護基材と液体受容層を40℃以上100℃以下で熱ラミネート処理を施すことで製造することができる。
【0066】
液体受容層を得るためのビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂、ノニオン系界面活性剤及び導電性樹脂を含む塗料組成物を得るにあたって、各成分を混合分散する方法については特に制限はなく、マグネチックスターラー、ホモディスパー、超音波照射、振動分散、及び手動による混合分散などの公知の混合分散方法を用いることができる。また、塗布組成物は、基材フィルムに対する塗工性を向上させる観点から有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒としては例えば、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、メタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、塗材組成物には、本発明の効果を損なわない限り、フィルムロールに巻き取った際のブロッキング防止や基材フィルムに対する塗工性を向上させる観点で、無機粒子、有機粒子、レベリング剤等を配合することができる。撥水層用塗材組成物も、同様の方法で得ることができる。
【0067】
液体受容層、及び撥水層を基材フィルムに積層する方法としては例えば、コンマコート法、アプリケーター法、ディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、リバースコート法、キスコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号参照)などが好ましく、加工性の観点から、ワイヤーバーコート法、リバースコート法、及びグラビアコート法が更に好ましい。
【0068】
また、本発明の液体展開用シートは、生体液展開用シートに好適に用いることができる。ここで、体液とは、血液や尿等を意味する。
【実施例0069】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにのみ限定されるものではない。
【0070】
[測定および評価方法]
(1)液体受容層の厚み
液体受容層の厚み(μm)は、手動回転式ミクロトーム(ライカマイクロシステムズ株式会社製、“HistoCore BIOCUT”(登録商標)R)を用いて液体展開用シートを厚みに対して垂直方向に切削して液体展開用シートの断面を得て、走査型電子顕微鏡(FEI社製、XL30 SFEG)用いて導電層の断面を加速電圧20kV、観察倍率100,000倍で観察し、その断面写真より任意の5ヶ所を測定して得られた値の平均値を算出することにより求めた。
【0071】
(2)保護基材と液体受容層との間の剥離強度(N/10mm)
ロール状に巻き取った液体展開用シートをフィルム全長の10%、50%、90%の3箇所で幅10mm×150mmの矩形に切り出して、保護基材と液体受容層との間で、強制的に剥離し、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離100mm、引張速度を20mm/分として、180°剥離試験を行った。剥離長さ130mm(チャック間距離230mm)になるまで測定を行い、剥離長さ25mm~125mmの荷重の平均値を剥離強度とした。
【0072】
(3)液体受容層と基材フィルムとの密着性
ロール状に巻き取った液体展開用シートを無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して、液体受容層と基材フィルムとの密着性をクロスカットガイドCCJ-1(コーテックス株式会社製)を用いて、JIS K5600-5-6(1999)に基づき、液体受容層と基材フィルムとの密着性を以下の基準で評価し、C以上を合格とした。
A:分類0
B:分類1
C:分類2
D:分類3、分類4、分類5
(4)液体受容層の液体展開性
ロール状に巻き取った液体展開用シートをフィルム全長の10%、50%、90%の3箇所において、100mm×100mmの正方形状に切り出して測定用サンプルとし、ブドウ糖注射液(大塚製薬社製「大塚糖液50%」)5μlを測定用サンプルの液体受容層表面に滴下し、滴下30秒後のブドウ糖注射液の拡がりを測定した。拡がりは液の直径を測定し、液が楕円状の場合は短径を直径とみなした。3箇所の平均値を算出し、ブドウ糖注射液の拡がりが5mm以上であるときを合格とした。但し、拡がりが5mm以上であっても液体受容層の裏面側にブドウ糖注射液が流れる場合は、Nとし不合格とした。
【0073】
(5)液体受容層の表面抵抗値
ロール状に巻き取った液体展開用シートをロール表層の3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して試験片とし、試験片の液体受容層表面の表面抵抗値を抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製、ハイレスターUX MCP-HT800)を用いて測定し、3箇所の平均値を算出した。
【0074】
(6)液体受容層の表面外観
ロール状に巻き取った液体展開用シートをロール表層の3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して試験片とし、液体展開用シートの状態を観察した。そして以下の基準で評価してB以上を合格とした。
A:3個所の全てで擦り傷等による液体受容層の滑落や、ピンホールが目視で観察されなかった。
B:1個所若しくは2個所で擦り傷等による液体受容層の滑落や、ピンホールが目視で観察された。
C:3個所の全てで擦り傷等による液体受容層の滑落や、ピンホールが目視で観察された。
【0075】
(7)撥水層の表面自由エネルギー
ロール状に巻き取った液体展開用シートを無作為に抽出した3箇所で100mm×100mmの正方形状に切り出して、室温23℃、相対湿度65%の条件下で24時間調湿し、測定用サンプルとした。測定用サンプルの撥水層について、水、エチレングリコ-ル、及びヨウ化メチレンの3種類の測定液について、接触角計(協和界面科学株式会社製DMs-401)を用いて静的接触角を求めた。続いて、J.Panzer :J.Colloid Interface Sci.,44,142 (1973).に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散項、極性項、水素結合項を、北崎寧昭、畑 敏雄:日本接着協会紙,8,(3) 131(1972).に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、表面自由エネルギー解析アドインソフトウェア(協和界面科学株式会社製FAMAS)連立方程式を解くことにより撥水層の表面自由エネルギーを算出し、3箇所の平均値を算出した。そして以下の基準で評価してC以上を合格とした。
A:20mN/m未満
B:20mN/m以上25mN/m以下
C:25mN/m以上30mN/m以下
D:30mN/m超過
(8)液体展開用シートの巻き取り性
液体展開用シート製造時のロール状に巻き取られた液体展開用シートの状態を観察した。そして以下の基準で評価してB以上を合格とした。
A:巻き取った液体展開用シートのロールに皺、凹み、凸状変形、巻きズレが目視で観察されなかった。
B:巻き取った液体展開用シートのロールに実用上問題ない程度の皺、凹み、凸状変形、巻きズレが目視で観察された。
C:巻き取った液体展開用シートのロールに実用上問題となる皺、凹み、凸状変形、巻きズレが目視で観察された。
【0076】
(9)保護基材を構成する樹脂の結晶化度
ロール状に巻き取った液体展開用シートから保護基材のみ5mg切り出して試験片とし、JIS K7121(1987)に従って、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製DSC、RDC220)、データ解析装置(セイコーインスツルメンツ社社製ディスクステーション、SSC/5200)を用いて、25℃から300℃まで、昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピークの熱量を結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0
ここでいう、ΔHm0(完全結晶PETの融解熱量)は140.10J/gとした。
【0077】
(10)保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率
ロール状に巻き取った液体展開用シートから保護基材のみを取り出し、上記の保護基材において無作為に抽出した5箇所で幅方向150mm、機械方向10mmに切り出して試験片とし、180℃、30分で熱処理を行い、熱処理前後の寸法変化から180℃での熱収縮率を算出し、5箇所の平均値を算出した。この平均値を熱収縮率とした。 [材料]
(ポリエステル樹脂A)
ビスフェノールA構造を有するポリエステル樹脂(高松油脂株式会社製“ペスレジン”(登録商標)S140)
(ポリエステル樹脂B)
ビスフェノールA構造を有さないポリエステル樹脂(三菱ケミカル株式会社製“ニチゴーポリエスター”(登録商標)TP-235)
(界面活性剤A)
アセチレングリコール類のエチレンオキサイド付加物界面活性剤(日信化学工業株式会社製“オルフィン”(登録商標)E1004)
(界面活性剤B)
アルキルトリメチルアンモニウム塩界面活性剤(東邦化学工業株式会社製“カチナール”(登録商標)LTC-35A)
(導電性樹脂)
第4級アンモニウム塩重合物(東邦化学工業株式会社製“アンステックス”(登録商標)C-200X)
(シリコーン樹脂)
付加反応型シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)LTC750A)
(白金触媒)
ダウ・東レ株式会社製“DOWSIL”(登録商標)SRX212Catalyst
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂(大成ファインケミカル株式会社製8BS-900)
(基材フィルムA)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)S10、厚み75μm)
(基材フィルムB)
ポリブチレンテレフタレートフィルム(大倉工業株式会社製ESRM、厚み75μm)
(保護基材A)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)S10、厚み12μm)
(保護基材B)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製“エステル”(登録商標)ET510、厚み12μm)
(保護基材C)
220℃、10秒の熱処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)S56、厚み12μm)
[実施例1]
液体受容層及び撥水層を得るための原料を表1に示す組成とし、それぞれをエチルメチルケトンに溶解して、ホモディスパー(プライミクス株式会社製)を用いて原料を混合分散し、10質量%調整溶液とした。次いで、厚み75μmの基材フィルム(東レ株式会社製二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)S10)の片面に撥水層を得るための調整溶液をグラビアコート法で塗布し、120℃で乾燥後、厚み0.2μmの撥水層積層フィルムを得て、これをロール状に巻き取った。続いて、得られた撥水層積層フィルムの撥水層の裏面側に液体受容層を得るための調整溶液をグラビアコート法で塗布し、120℃で乾燥後、厚み1.0μmの液体受容層を積層し、さらに厚み12μmの保護基材A(東レ株式会社製二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム“ルミラー”(登録商標)S10)を液体受容層に50℃の熱ラミネートを施し、液体展開用シートを得て、これをロール状に巻き取った。
【0078】
[実施例2~19、比較例1~3]
各層の、溶媒を除く組成、基材フィルム、保護基材を表1~5に記載のとおりとし、比較例1においては保護基材の形成を省略した以外は実施例1と同様にして、液体展開用シートを製造した。評価結果を表1および2に示す。
【0079】
実施例1~19の液体展開用シートはいずれも、液体受容層の液体展開性に優れ、さらに、撥水層の表面自由エネルギーが低いことから上記の液体展開用シートを用いた検査シートは検査精度に優れ、液体受容層の液体展開性が高いことから上記の液体展開用シートを用いた検査シートは検査速度に優れ、さらに、保護基材を構成する樹脂の結晶化度および保護基材の幅方向における180℃での熱収縮率の少なくとも何れか一方が好適なものであることから液体展開用シートの熱寸法安定性が良好であり、巻き取り性に優れることから上記の液体展開用シートを用いた検査シートは品位に優れ、液体受容層と基材フィルムとの密着性に優れることから上記の液体展開用シートは耐久性に優れるものであった。
【0080】
一方で、比較例1の液体展開用シートは実施例の液体展開用シートに比べ、液体受容層の液体展開性および撥水層の表面自由エネルギーに劣っており、比較例1の液体展開用シートを用いた検査シートは液体展開性および検査精度に劣るものであった。
【0081】
また、比較例2の液体展開用シートは実施例の液体展開用シートに比べ、液体受容層と基材フィルムとの密着性および巻き取り性に劣っており、比較例2の液体展開用シートは耐久性および品位に劣るものであった。
【0082】
また、比較例3の液体展開用シートは実施例の液体展開用シートに比べ、液体受容層と基材フィルムとの密着性および巻き取り性に劣っており、比較例3の液体展開用シートは耐久性および品位に劣るものであった。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】