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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153570
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】腫瘍を処置するための薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241022BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241022BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20241022BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20241022BHJP
   A61K 31/4035 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K39/395 Y
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/454
A61K47/68
A61K39/395 T
A61P43/00 121
A61K47/65
A61K47/60
A61K31/4035
A61K39/395 V
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024064306
(22)【出願日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】63/459,249
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517405987
【氏名又は名称】イミュンワーク インク.
【氏名又は名称原語表記】Immunwork Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】朱▲シン▼懋
(72)【発明者】
【氏名】游▲約▼翔
(72)【発明者】
【氏名】田偉廷
(72)【発明者】
【氏名】張子文
(72)【発明者】
【氏名】林韋辰
(72)【発明者】
【氏名】程識軒
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腫瘍を処置するための薬学的組成物を提供する。
【解決手段】薬学的組成物は分子構築物を備え、それは抗CD38抗体及び抗CD38抗体と結合された複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える。本開示の一部の実施形態によると、薬学的組成物の投与は、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の有効量を実現する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を処置するための薬学的組成物であって、抗CD38抗体と、該抗CD38抗体に結合される複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子と、を備える分子構築物を含み、前記薬学的組成物の投与が、前記腫瘍の処置のために単独で又は前記抗CD38抗体との併用で使用される前記レナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1の前記レナリドミド分子又は前記加水分解レナリドミド分子の有効量を実現する、薬学的組成物。
【請求項2】
前記レナリドミド分子又は前記加水分解レナリドミド分子の前記有効量は、前記腫瘍の処置のために単独で又は前記抗CD38抗体との併用で使用される前記レナリドミド分子の前記有効量の約10000分の1である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記薬学的組成物は、約0.1~10mg/Kgの量で投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記薬学的組成物は、4週間に1回投与される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記抗CD38抗体は、
免疫グロブリンG(IgG)の一対のCH2-CH3セグメントであって、リシン(K)及びシステイン(C)残基からなる群から独立して選択される複数の結合残基を備える一対のCH2-CH3セグメントと、
前記一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38一本鎖可変フラグメント(scFv)と、
を備え、
前記複数のレナリドミド分子は、それぞれ前記複数の結合残基に結合される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記抗CD38抗体は、
IgGの一対のCH2-CH3セグメントと、
前記一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFvと、
前記一対のCH2-CH3セグメントのC末端にそれぞれ結合された一対の結合ペプチドであって、複数のC残基を備える一対の結合ペプチドと、
を備え、
前記複数のレナリドミド分子は、それぞれ前記一対の結合ペプチドの前記複数のC残基に結合される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記一対の結合ペプチドの各々は、「CGGHA」(配列番号1)、「CPGHA」(配列番号2)、「CGAHA」(配列番号3)、「CPAHA」(配列番号4)、「GCGGHA」(配列番号5)、「ACPGHA」(配列番号6)又は「GCPGHA」(配列番号7)のアミノ酸配列を備える、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記一対の結合ペプチドの各々は、「ACPGHA」(配列番号6)のアミノ酸配列を備える、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記分子構築物はリンカーユニットをさらに備え、該リンカーユニットは、
直線状である中心コアであって、
2~10個のK残基と、
2個のK残基の間に独立して配置された少なくとも1つのフィラーと、
2つの末端を有する末端スペーサーであって、前記末端の一方が最初の前記K残基のN末端又は最後の前記K残基のC末端に結合され、前記末端の他方が前記抗CD38抗体の前記結合ペプチドの前記C残基に結合される、末端スペーサーと、
を備え、
前記フィラー及び前記末端スペーサーの各々は、独立して、(1)1~12個の非Kアミノ酸残基又は(2)エチレングリコール(EG)ユニットの1~12個の反復を有するPEG化アミノ酸を備える、中心コアと、
2~10個の結合アームであって、各結合アームの一端は前記中心コアの前記K残基のうちの1個に結合され、各結合アームの他端は各レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子に結合される、結合アームと、
を備える、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記末端スペーサーは、少なくとも3個の負電荷アミノ酸残基を備える、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記末端スペーサーは、「EDEDEAGG」(配列番号8)、「EGEGEAGG」(配列番号9)又は「EGEGE」(配列番号10)のアミノ酸配列を備える、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記中心コアは、「EDEDEGAGGKGAGKGAGKG」(配列番号11)のアミノ酸配列を備える、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記結合アームの各々は、2~12個の非Kアミノ酸残基、EGユニットの2~24個の反復を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖又はそれらの組合せを備える、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記結合アームの各々は、前記K残基のε-アミノ基に結合される、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記腫瘍は、固形腫瘍又はびまん性腫瘍である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記固形腫瘍が、黒色腫、食道癌、胃癌、脳腫瘍、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、腎癌、肝細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、精巣癌又は頭頸部扁平上皮癌である、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記びまん性腫瘍が、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫又は多発性骨髄腫である、請求項15に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2023年4月13日に出願された米国仮特許出願第63/459249号に関連しかつその利益を主張し、本出願の内容はその全体において参照によりここに取り込まれる。
【0002】
本開示は、概して、腫瘍処置の分野に関する。より詳細には、本開示は、抗CD38抗体及び複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える分子構築物を使用することによる腫瘍を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
骨髄腫又は形質細胞性骨髄腫としても知られている多発性骨髄腫(MM)は骨髄の癌の一種であり、癌性の形質細胞が骨髄に蓄積し、正常な血液細胞を押し出し、その結果、過剰なモノクローナルパラプロテイン(Mタンパク質;異常抗体)、骨の破壊及び他の造血細胞株の置換を引き起こす。癌性の形質細胞は体の様々な領域に影響を及ぼすため、多発性骨髄腫の症状及び徴候は患者によって大きく異なる。多発性骨髄腫に関連する一般的な症状及び徴候は、骨痛、骨折、脊髄圧迫、貧血、反復性感染症、高カルシウム血症、異常出血、血液過粘稠、疲労、腎障害及び神経障害を含む。
【0004】
RVdレジメン、すなわち、ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標))、レナリドミド(Revlimid(登録商標))及びデキサメタゾンの併用は、多発性骨髄腫に対する一次処置として使用されることが多い。報告によると、骨髄腫患者の90%超がこの処置によく反応する。しかしながら、この処置は単に患者の骨髄中の癌性細胞の数を減少させ、それによって多発性骨髄腫の症状を緩和するのみであり、根本的な疾患を治癒しない。さらに、併用レジメンにおける高用量のレナリドミド又は他の薬剤は、通常、重篤な悪影響(例えば、出血、呼吸困難又は努力性呼吸、血栓塞栓症、好中球減少、血小板減少症、発熱、けいれん、発作、不整脈、発語及び動作の問題並びに錯乱)を引き起こす。多発性骨髄腫患者のほとんどが高齢者(50~70歳)であるため、強い副作用が懸念される。
【0005】
上記に鑑みて、関連技術では、多発性骨髄腫を処置するための新規な方法へのニーズが存在する。
【発明の概要】
【0006】
以下では、読者に基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化した概要を提示する。この概要は本開示の広範な概観ではなく、本発明の主要な/重要な要素を特定するものでも、本発明の範囲を境界付けるものでもない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の序章として、ここで開示される一部の概念を簡略化した形式で提示することである。
【0007】
ここで具体化されかつ広範に記載されるように、本開示の一態様は、被検体において腫瘍を処置する方法に向けられる。この方法は、抗CD38抗体及び抗CD38抗体に結合された複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える分子構築物を被検体に投与することを含む。
【0008】
本開示の一部の実施形態によると、分子構築物の投与が、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の有効量を実現する。特定の好適な実施形態では、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の有効量は、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の約10000分の1である。
【0009】
好ましくは、分子構築物は、1回あたり約0.01~100mg/Kg体重;より好ましくは、1回あたり約0.1~10mg/Kg体重の量で被検体に投与される。一部の好適な実施形態によると、分子構築物は、被検体に4週間ごとに1回投与される。
【0010】
特定の実施形態によると、抗CD38抗体は、免疫グロブリンG(IgG)の一対のCH2-CH3セグメント及び一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38一本鎖可変フラグメント(scFv)を備える。これらの実施形態において、一対のCH2-CH3セグメントはリシン(K)残基及びシステイン(C)残基からなる群から独立して選択される複数の結合残基を備え、複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は複数の結合残基にそれぞれ結合される。
【0011】
代替の実施形態によると、抗CD38抗体は、IgGの一対のCH2-CH3セグメント、一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFv及び一対のCH2-CH3セグメントのC末端にそれぞれ結合された一対の結合ペプチドを備える。これらの実施形態では、一対の結合ペプチドは複数のC残基及びそれぞれ一対の結合ペプチドの複数のC残基に結合される複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える。
【0012】
好ましくは、抗CD38抗体の結合ペプチドの各々は、「CGGHA」(SEQ ID NO:(配列番号)1)、「CPGHA」(配列番号2)、「CGAHA」(配列番号3)、「CPAHA」(SEQ ID NO:4)、「GCGGHA」(配列番号5)、「ACPGHA」(配列番号6)又は「GCPGHA」(配列番号7)のアミノ酸配列を備える。例示的な一実施形態では、抗CD38抗体の結合ペプチドの各々は、「ACPGHA」(配列番号6)のアミノ酸配列を備える。
【0013】
一部の例示的な実施形態によると、抗CD38抗体の結合ペプチドの各々は、「CGGHA」(配列番号1)、「CPGHA」(配列番号2)、「CGAHA」(配列番号3)、「CPAHA」(配列番号4)、「GCGGHA」(配列番号5)、「ACPGHA」(配列番号6)又は「GCPGHA」(配列番号7)のアミノ酸配列からなる。一具体例では、抗CD38抗体の結合ペプチドの各々は、「ACPGHA」(配列番号6)のアミノ酸配列からなる。
【0014】
任意選択的に、分子構築物は、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子及び結合ペプチドを結合するように構成されたリンカーユニットをさらに備える。その構造におけるリンカーユニットは中心コア及び複数の結合アームを備え、中心コアは2~10個のK残基と、2個のK残基の間に独立して配置された少なくとも1個のフィラーと、2個の末端を有する末端スペーサーと、を備える。末端の一方は最初のK残基のN末端又は最後のK残基のC末端に結合され、末端の他方は抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。本開示の一部の任意選択的な実施形態によると、各結合アームの一方の末端は中心コアのK残基のうちの1個に結合され、各結合アームの他方の末端は各レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子に結合される。
【0015】
本開示の種々の実施形態によると、フィラー及び末端スペーサーの各々は、独立して、(1)1~12個の非Kアミノ酸残基又は(2)エチレングリコール(EG)ユニットの1~12個の反復を有するPEG化アミノ酸を備える。好ましくは、末端スペーサーは、少なくとも3個の負電荷アミノ酸残基を備える。一部の例示的な実施形態では、末端スペーサーは、「EDEDEAGG」(配列番号8)、「EGEGEAGG」(配列番号9)又は「EGEGE」(配列番号10)のアミノ酸配列を備える。一具体例によると、中心コアは、「EDEDEGAGGKGAGKGAGKG」(配列番号11)のアミノ酸配列を備える。
【0016】
結合アームは、2~12個の非Kアミノ酸残基、EGユニットの2~24個の反復を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖又はそれらの組合せを備える。例示的な一実施形態では、結合アームは、バリン-アラニン(Val-Ala)ジペプチド及びEGユニットの3個の反復を有するPEG鎖を備える。
【0017】
特定の実施形態では、結合アームの各々は、K残基のε-アミノ基に結合される。
【0018】
本方法で処置可能な腫瘍は、固形腫瘍又はびまん性腫瘍であり得る。固形腫瘍の例は、黒色腫、食道癌、胃癌、脳腫瘍、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、腎臓癌、肝細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、精巣癌、頭頸部扁平上皮癌及びこれらの組合せを含むが、これらに限定されない。例示的なびまん性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えば、リンパ球形質細胞性リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫又は辺縁帯リンパ腫)、多発性骨髄腫及びこれらの組合せを含むが、これらに限定されない。本開示の一実施形態によると、腫瘍は、多発性骨髄腫である。
【0019】
本記載の付随する特徴及び有利な効果の多くは、添付図面と関連して考慮される以下の詳細な説明を参照することにより、より深く理解されるはずである。
【0020】
本記載は、添付図面に照らして読まれる以下の詳細な説明からより深く理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A図1Aは、本開示の実施形態に係る分子構築物10の構造を示す模式図である。
図1B図1Bは、本開示の実施形態に係る分子構築物20の構造を示す模式図である。
図1C図1Cは、本開示の実施形態に係る分子構築物30の構造を示す模式図である。
図2図2は、本開示の実施例1に係るレナリドミドバンドルの構造を示す模式図である。
図3図3は、本開示の実施例1に係るMal-レナリドミドバンドルの逆相分析高速液体クロマトグラフィー(HPLC)溶出プロファイルを示す。
図4図4は、本開示の実施例1に係るMal-レナリドミドバンドルのエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS)の結果を示す。
図5A図5Aは、本開示の実施例2に係る二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の構造を示す模式図である。
図5B図5Bは、本開示の実施例3に係る二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の非還元ラウリル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析を示す。
図6A図6Aは、本開示の実施例4に係る天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの構造を示す模式図である。
図6B図6Bは、本発明の実施例4に係る組換え二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの非還元SDS-PAGE分析を示す。
図7A図7Aは、本発明の実施例6に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの非還元SDS-PAGE分析の結果を示す。
図7B図7Bは、本発明の実施例6に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのサイズ排除クロマトグラフィーの溶出プロファイルの結果を示す。
図8A図8Aは、本開示の実施例9に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルで処置されたMM細胞からのレナリドミドの放出を示すHPLCの結果である。
図8B(A)】図8Bは、本開示の実施例9に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルで処理されたMM細胞からのレナリドミドの放出を示すESI-MSの結果である。図8B(A):MM細胞からの放出されたレナリドミドのESI-MSプロファイル。
図8B(B)】図8Bは、本開示の実施例9に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルで処理されたMM細胞からのレナリドミドの放出を示すESI-MSの結果である。図8B(B):図8B(A)で示されたESI-MSプロファイルのピーク(1)に対応する2つのレナリドミド代謝物及びレナリドミドのESI-MSの結果。
図8B(C)】図8Bは、本開示の実施例9に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルで処理されたMM細胞からのレナリドミドの放出を示すESI-MSの結果である。図8B(C):図8B(A)で示されたESI-MSプロファイルのピーク(2)に対応する2つのレナリドミド代謝物及びレナリドミドのESI-MSの結果。
図8B(D)】図8Bは、本開示の実施例9に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルで処理されたMM細胞からのレナリドミドの放出を示すESI-MSの結果である。図8B(D):図8B(A)で示されたESI-MSプロファイルのピーク(3)に対応する2つのレナリドミド代謝物及びレナリドミドのESI-MSの結果。
図9図9は、本発明の実施例10に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI-TOF)の結果を示す。
図10図10は、本発明の実施例13に係る二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(未結合)及び安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(安定化複合体)のヒトCD38発現細胞に対する結合親和性を示す酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)の結果である。
図11図11は、本開示の実施例14に係る安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(安定化複合体)のH929及びU266-CD38多発性骨髄腫(MM)細胞株に対する結合親和性を示すフローサイトメトリーの結果である。
図12A図12Aは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、抗CD38モノクローナル抗体(mAb)、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで5時間処置したH929細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12B図12Bは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、抗CD38モノクローナル抗体(mAb)、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで1日間処置したH929細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12C図12Cは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、抗CD38モノクローナル抗体(mAb)、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたラツムマブ又はレナリドミドで3日間処置したH929細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12D図12Dは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、抗CD38モノクローナル抗体(mAb)、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで5日間処置したH929細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12E図12Eは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体、抗CD38mAb、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで5日間処置したMM.1S細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12F図12Fは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体、抗CD38mAb、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで5日間処置したU266-CD38細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図12G図12Gは、本開示の実施例16に係る指定薬剤のin vitro細胞毒性を示す。安定化複合体、抗CD38mAb、ダラツムマブ、レナリドミドと併用されたダラツムマブ又はレナリドミドで5日間処置したDaudi細胞の細胞生存パーセント(%)を示す。
図13図13は、本開示の実施例18に係るヒト血漿中で指定薬剤のin vitro安定性を示し、ダラツムマブ、未結合(すなわち、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質)及び結合Ab(安定化)(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)をそれぞれヒト血漿に溶解し、37℃で7日間、14日間、21日間及び28日間インキュベートし、続いて、安定化ADC(総Ab):HRP-結合抗ヒトIgG-Fc抗体で検出された生成物、安定化ADC(結合Ab):抗レナリドミドバンドル抗体及び抗マウスIgG-Fc抗体で検出された生成物についてELISA分析した。
図14図14は、本開示の実施例20に係る異種移植腫瘍モデルにおける指定処置の抗腫瘍効果を示し、担腫瘍マウス(腫瘍の平均サイズは115±15mm)はそれぞれ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:コントロール群としての役割を果たす)、安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)及びダラツムマブ(Dara)を投与された。
図15A図15Aは、本開示の実施例21に係る異種移植腫瘍モデルにおける腫瘍サイズを阻害することに対する指定処置の効果を示し、担腫瘍マウス(腫瘍の平均サイズは150±20mm)は、それぞれ、PBS、安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、ダラツムマブ(Dara)、レナリドミドと併用されたダラツムマブ(Dara/Lena)及びレナリドミド(Lena)を投与された。**はP<0.01、***はP<0.001である。
図15B図15Bは、本開示の実施例21に係る異種移植腫瘍モデルにおける腫瘍重量を阻害することに対する指定処置の効果を示し、担腫瘍マウス(腫瘍の平均サイズは150±20mm)は、それぞれ、PBS、安定化複合体(すなわち、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)、ダラツムマブ(Dara)、レナリドミドと併用されたダラツムマブ(Dara/Lena)及びレナリドミド(Lena)を投与された。**はP<0.01、***はP<0.001である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般的な慣行に従って、記載された種々の特徴/要素は縮尺通りに描かれていないが、代わりに、本発明に関連する特定の特徴/要素を最もよく説明するように描かれている。また、種々の図面における符号及び指定は、要素/部分を示すために使用される。
【0023】
添付図面に関連して以下に与えられる詳細な説明は、本実施例の説明としてのものであり、本実施例が構成又は利用され得る唯一の形態を表すものではない。この説明は、本実施例の機能及び本実施例を構成して動作させるためのステップの順序を説明する。ただし、同一又は同等の機能及び順序が、異なる実施例によって実現され得る。
【0024】
I.定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲において採用される特定の用語をここにまとめる。ここに特に断りがない限り、本開示で採用される科学的及び技術的用語は、当業者に一般に理解及び使用される意味を有するものである。また、文脈上特に要件とされない限り、単数形の用語はその複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。具体的には、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」及び「an」は、そうでないことを文脈が明示しない限り、複数の参照を含む。また、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「少なくとも1つ」及び「1以上」は、同じ意味を有し、1、2、3又はそれ以上を含む。
【0025】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、具体的な実施例で説明される数値は可能な限り厳密に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。また、ここで使用するように、用語「約」は、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%内を一般に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合の平均の許容標準誤差内を意味する。運用/実施例以外においても、又は明示の断りがない限り、ここに開示されるその材料の量、継続時間、温度、動作条件、量の比率などに対するものなどの数値範囲、量、値及び割合の全ては、いずれの場合においても用語「約」によって変更されるものとして理解されるべきである。したがって、逆のことが示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲で説明される数値パラメータは、所望のように変わり得る概数である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効桁数を考慮してかつ通常の四捨五入手段を適用して少なくとも解釈されるべきである。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲において、用語「抗体」は、最も広義の意味として用いられ、完全にアセンブルされた抗体、抗原結合フラグメント(Fab/Fab´)、(ジスルフィド結合によって相互に結合された2つの抗原結合Fab部分を有する)F(ab´)2フラグメント、可変フラグメント(Fv)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、二重特異性一本鎖可変フラグメント(bi-scFv)、ナノボディ(単一ドメイン抗体sdAbともいう)、ユニボディ及びダイアボディなど、抗原と結合する抗体フラグメントを包含する。「抗体フラグメント」は、無傷の抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合領域又は可変領域を備える。抗体フラグメントは、ヒト免疫グロブリン(Ig)由来の一対のCH2-CH3セグメントのN末端又はC末端に融合された一対のscFvを備え得る。通常、「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされた1以上のポリペプチドからなるタンパク質をいう。周知の免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びミュー定常領域遺伝子、並びに多数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、カッパ又はラムダのいずれかとして分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ又はイプシロンとして分類され、それは同様に免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEをそれぞれ定義する。標準的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは四量体を備えることが知られ、それはポリペプチド鎖の2つの同一の対からなり、各対が1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のN端末は、主に抗原認識を担う約100~110以上のアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)という用語は、それぞれそれらの軽鎖及び重鎖をいう。本開示の一部の実施形態によると、抗体フラグメントは、天然抗体を修飾することによって又は組換えDNA法を用いるデノボ合成によって生成可能である。本開示の特定の実施形態では、抗体は二重特異性であってもよいし、種々の構成のものであってもよい。例えば、二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合部位(可変領域)を備え得る。種々の実施形態において、二重特異性抗体は、ハイブリドーマ技術又は組換えDNA技術によって生成可能である。
【0027】
ここで使用するように、用語「結合する(link)」、「結合する(couple)」及び「結合する(conjugate)」は、2つの構成要素間の直接の結合又は間接的結合のいずれかを介して2つの構成要素を接続する任意の手段を互換可能に指すのに使用される。
【0028】
用語「ポリペプチド」及び「ペプチド」は、少なくとも2つのアミノ酸残基を有するポリマーを互換可能に指すのに用いられる。通常、ポリペプチドは2~約200個の残基長を範囲とするアミノ酸残基を備え、それでも、それは200個よりも多いアミノ酸残基を有する高分子も包含する。アミノ酸配列がここに与えられる場合、その配列のL-、D-又はベータアミノ酸バージョンも考慮される。ポリペプチドは、1以上のアミノ酸残基が対応の天然に存在するアミノ酸及び天然に存在するアミノ酸ポリマーに対する人工的な化学的類似体であるアミノ酸ポリマーも含む。さらに、当該用語は、ペプチド結合によって、又は例えば、ペプチド結合がαエステル、βエステル、チオアミド、ホスホルアミド、カルボメート、ハイドロキシレートなどによって置換される他の「修飾結合」によって接合されたアミノ酸にも当てはまる。
【0029】
ここで使用するように、用語「フラグメント結晶化可能領域」又は「Fc領域」は、Fc受容体といわれる細胞表面受容体及び/又は補体系の一部のタンパク質と相互作用する免疫グロブリンの尾部領域を指す。構造において、Fc領域は、N末端からC末端へ、少なくともヒンジ領域(CH1及びCH2ドメインを結合する重鎖の短い配列)、CH2ドメイン(重鎖の第2の定常ドメイン)及びCH3ドメイン(重鎖の第3の定常ドメイン)を備える。IgG1抗体のFc領域は、例えば、パパインによるIgG1抗体の消化によって生成され得る。
【0030】
ここで同定されるアミノ酸配列に関する「パーセンテージ(%)配列同一性」は、最大パーセントの配列同一性を得るように必要に応じて配列をアラインしてギャップを導入した後、保存的置換を配列同一性の一部として考慮せずに、特定参照配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセンテージ配列同一性を判定する目的のためのアライメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR社)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いる当技術内の種々の態様で達成可能である。当業者であれば、対比されている配列の全長にわたって最大アライメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを特定することができる。ここでの目的のため、2つのアミノ酸配列間の配列比較は、国立生物工学情報センター(NCBI)によってオンラインで提供されるコンピュータプログラムBlastp(protein-protein BLAST)によって実行された。対象配列Bに対する所与の配列Aのパーセンテージ配列同一性(あるいは、所与の配列Bに対して所定%の配列同一性を有する所与の配列Aということもできる)は、以下の式で計算される。
X/Y×100%
なお、Xは、そのプログラムのA及びBのアライメントにおいて配列アライメントプログラムBLASTによる同一の一致としてスコアリングされたアミノ酸残基の数であり、Yは、対象配列Bにおけるアミノ酸残基の合計数である。
【0031】
特定の実施形態では、ここに記載される配列のいずれかを備えるアミノ酸の保存的な置換が考慮される。種々の実施形態では、1、2、3、4又は5個の異なる残基が置換される。用語「保存的な置換」は、分子の活性(例えば、生物学的又は機能的な活性及び/又は特異性)を実質的に変更しないアミノ酸置換を反映するのに使用される。通常、保存的なアミノ酸置換は、1つのアミノ酸を類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水度)を有する他のアミノ酸に置換することを伴う。ある保存的な置換は、親残基から最小限に異なる非標準(例えば、希少性、合成など)のアミノ酸によって標準アミノ酸が置換される「類似置換」を含む。アミノ酸類似体は、親構造に対する大きな変化なく標準アミノ酸に合成的に由来するものであり、異性体であり、又は代謝物質前駆体である。本出願では、アミノ酸残基の(1)その側鎖にアミン基を含むリシン、(2)その側鎖にチオール基を含むシステイン、(3)それらの側鎖にヒドロキシル基を含むセリン及びスレオニン、並びに(4)それらの側鎖にカルボキシル基を含むアスパラギン酸及びグルタミン酸が、アミノ酸の特徴的な4基とみなされる。アミノ酸のこれらの4基の各々は、それらの側鎖において、種々の化学成分に結合するために応用され得る固有の官能基を含む。側鎖に同じ官能基を含む非天然アミノ酸が、同様の目的のために置換されてもよい。
【0032】
特定の実施形態では、ここに記載する配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%又は90%、より好ましくは少なくとも95%又は98%の配列同一性を備えるポリペプチドも考慮される。
【0033】
ここで使用する用語「PEG化アミノ酸」は、1つのアミノ基及び1つのカルボキシル基を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をいう。本開示の実施形態によると、PEG化アミノ酸は、NH-(CHCHO)-COHの式を有する。本開示では、nの値は、1~20の範囲であり、好ましくは2~12の範囲である。
【0034】
ここで使用するように、ポリペプチドに関する用語「末端」とは、ポリペプチドのN端又はC端におけるアミノ酸残基のことをいう。ポリマーに関しては、用語「末端」とは、ポリマー骨格の端部に位置するポリマー(例えば、本開示のポリエチレングリコール)の構成ユニットのことをいう。本明細書及び特許請求の範囲において、用語「遊離末端」は、末端アミノ酸残基又は構成ユニットが他のいずれの分子にも化学結合されていないことを意味するのに使用される。
【0035】
用語「適用」及び「投与」は、ここでは、その処置を必要とする被検体への本発明の分子構築物の適用を意味するのに互換可能に使用される。
【0036】
ここで使用する用語「処置/治療/処理する」、「処置/治療/処理している」又は「処置/治療/処理」は、予防的(例えば、予防の)治癒的又は緩和的な処置/治療/処理を含む。特に、ここで使用する用語「処置/治療/処理する」、「処置/治療/処理している」又は「処置/治療/処理」は、上記特定の疾患、障害及び/又は病状の1以上の症状又は特徴の部分的若しくは完全な軽減、改善、解放、発症の遅延、進行の阻害、重症度の低減及び/若しくは発症率の低減を目的で、医学的状態(例えば、癌)、医学的状態に関連する症状、医学的状態に対して二次的な疾患若しくは障害、又は医学的状態に対する素質を有する被検体への本分子構築物の適用又は投与をいう。処置/治療/処理は、疾患、障害及び/若しくは病状に関連する進展する病理のリスクを減少させる目的のために、疾患、障害及び/若しくは病状の兆候を示さない被検体、又は疾患、障害及び/又は病状の早期の兆候のみを示す被検体に施され得る。処置/治療/処理は、一般に、当該用語がここに定義されるように1以上の症状又は臨床的マーカーが低減される場合に「有効」である。あるいは、処置/治療/処理は、症状、障害又は病状が軽減又は停止される場合に「有効」である。
【0037】
ここで使用する用語「有効量」とは、所望の治療応答を得るのに充分な量の本分子構築物をいう。薬剤の有効量は、疾患又は病状を治癒するのに必要ではないが、疾患若しくは病状の発症が遅延、阻害若しくは予防され又は疾患若しくは病状が改善されるように疾患又は病状に対する処置を与える。有効量は、指定期間全体にわたって1回、2回又はそれ以上で投与される適切な形態の1回、2回又はそれ以上の用量に分割されてもよい。具体的な有効量又は充分な量は、処置されている特定の病状、患者の体調(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、処置されている被検体の種類、処置期間、(もしあれば)併用療法の性質、並びに化合物又はその誘導体の採用される具体的な配合及び構造のような要因によって変化する。有効量は、例えば、活性成分の総量(例えば、グラム、ミリグラム又はマイクログラム)又は体重に対する活性成分の質量の比、例えば、キログラムあたりのミリグラム(mg/kg)又はキログラムあたりのナノモル(nmol/kg)として表現され得る。当業者であれば、動物モデルから決定される用量に基づいて(本分子構築物のような)医薬品についてのヒト等価用量(HED)を計算し得る。例えば、ヒト被検体での使用に対する最大安全投与量を推定する際に、米国食品医薬品局(FDA)によって発行された「Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」と題された工業用ガイダンスに従うことができる。
【0038】
ここで使用する用語「腫瘍」は、悪性であるか良性であるかにかかわらず、全ての腫瘍性細胞の成長及び増殖、並びに全ての前癌性及び癌性細胞及び組織をいう。本明細書及び特許請求の範囲では、用語「腫瘍」は、固形腫瘍及びびまん性腫瘍を含む。
【0039】
ここで使用する用語「固形腫瘍」は、通常は嚢胞又は液体領域を含まない異常な組織の塊を示す。様々な種類の固形腫瘍が、それらを形成する細胞の種類について命名されている。固形腫瘍の例は、これらに限定されないが、肉腫及び癌腫を含む。一般に、「肉腫」は、骨又は筋肉などの結合又は支持組織から発生する癌である。「癌腫」は、身体組織を覆う腺細胞及び上皮細胞から発生する癌である。
【0040】
ここで使用する用語「びまん性腫瘍」は、造血(血液形成)細胞から形成されて血液、骨髄又はリンパ節に影響を与える白血病及び/又は血液悪性腫瘍をいう。びまん性腫瘍の例は、これらに限定されないが、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び骨髄腫を含む。
【0041】
ここで使用する用語「被検体」は、本発明の分子構築物及び/又は方法によって処置可能なヒト種を含む動物をいう。用語「被検体」は、一方の性別が具体的に示されない限り、雄及び雌の両方の性別をいうものとする。したがって、用語「被検体」は、本開示の処置方法から利益を受け得る任意の哺乳動物を含む。「被検体」の例は、これらに限定されないが、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及び家禽を含む。例示的な実施形態では、被検体はヒトである。
【0042】
II.本発明の説明
従来の抗体-薬物複合体(ADC)構築物では、抗体は約150000ダルトンの分子量の非常に大きな高分子であり、薬物分子(ペイロード)は数百ダルトンの範囲内の分子量の小さな化合物である。ADCの標準的な投与量は、100mg~数百mgの範囲内である。したがって、細胞毒性若しくは免疫調節活性又は腫瘍に対する他の種類の効果を媒介するものを示すADCの構成に対する抗体との併用のために適用可能となる治療薬について、薬剤の効能はナノモル以下の範囲のIC50を有して非常に高くなければならない(例えば、David Dahlgren他、Antibody-Drug Conjugates and Targeted Treatment Strategies for Hepatocellular Carcinoma:A Drug-Delivery Perspective;Molecules(2020)、25、2861;又はAlain Beck他、Strategies and challenges for the next generation of antibody-drug conjugates;Nature Reviews Drug Discovery(2017)、16:315-337参照)。例えば、微小管破壊剤(例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メルタンシン(mertansine)(DM-1)及びエリブリン(eribulin))、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン(camptothecin)、エキサテカン(exatecan)及びSN38)及びDNA合成阻害剤(例えば、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)及びその誘導体)は、ナノモル以下の範囲において、すなわち、ナノモル以下の範囲のEC50で標的細胞に対して致死的な影響を及ぼす。サリドマイド類似体であるレナリドミドは、通常は他の薬剤との併用で、複数の疾患適応症、最も顕著には多発性骨髄腫において、臨床的に使用される薬剤である。これは、処置中のほとんどの日に1日あたり20~40mgの投与量において経口的に摂取される。種々の研究では、レナリドミドは、3μM~30μMの範囲内のEC50を有することが分かっている(例えば、A Lopez-Girona他、Cereblon is a direct protein target for immunomodulatory and antiproliferative activities of lenalidomide and pomalidomide;Leukemia(2012)、26:2326-2335参照)。そのため、レナリドミドがADC構築物における治療薬として採用されるのには適さないことはよく知られている。
【0043】
本開示は、結合薬剤としてレナリドミドを採用するADC構築物が腫瘍成長を減少させ又は排除することに対する治療効果を示すという発見に少なくともある程度基づく。本開示の実施形態によると、レナリドミド分子への抗CD38抗体の結合は、28日周期を伴う標準的なレナリドミド処置スケジュールと比較して、腫瘍(例えば、多発性骨髄腫)に対するレナリドミド分子の治療効果を大幅に向上する。当該28日周期中、レナリドミド分子は、疾患の進行又は許容できない毒性のいずれかが起こるまで毎日投与され、単回用量の併用処置(すなわち、抗CD38抗体及びレナリドミド分子のバイオコンジュゲート)は、被検体の腫瘍成長を抑制することについて満足のいく効果を与え、それはレナリドミド分子の繰り返しの投与を回避してその悪影響を大きく減少させる。
【0044】
したがって、本開示は、被検体の腫瘍を処置する方法を提供する。方法は、抗CD38抗体、及び抗CD38抗体に結合された複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える分子構築物を被検体に投与することを含む。
【0045】
本開示の一部の実施形態によると、分子構築物は、抗CD38抗体に結合された複数のレナリドミド分子を備える。これらの実施形態では、分子構築物の投与は、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で(すなわち、レナリドミド分子及び抗CD38抗体が別個に被検体に投与される併用処置で)使用されるレナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1のレナリドミド分子の有効量を実現する。例えば、レナリドミド分子の有効量は、治療目的を達成するために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100、5200、5300、5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000、6100、6200、6300、6400、6500、6600、6700、6800、6900、7000、7100、7200、7300、7400、7500、7600、7700、7800、7900、8000、8100、8200、8300、8400、8500、8600、8700、8800、8900、9000、9100、9200、9300、9400、9500、9600、9700、9800、9900、10000、11000、12000又はそれ以上分の1であり得る。一部の好適な実施形態によると、レナリドミド分子の有効量は、単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の約10000分の1である。例示的な一実施形態では、レナリドミド分子の有効量は、単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の約10640分の1である。
【0046】
本開示の一部の実施形態によると、分子構築物は、抗CD38抗体に結合された複数の加水分解レナリドミド分子を備える。これらの実施形態では、分子構築物の投与は、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1の加水分解レナリドミド分子の有効量を実現する。例えば、加水分解レナリドミド分子の有効量は、治療目的を達成するために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100、5200、5300、5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000、6100、6200、6300、6400、6500、6600、6700、6800、6900、7000、7100、7200、7300、7400、7500、7600、7700、7800、7900、8000、8100、8200、8300、8400、8500、8600、8700、8800、8900、9000、9100、9200、9300、9400、9500、9600、9700、9800、9900、10000、11000、12000又はそれ以上分の1であり得る。一部の好適な実施形態によると、加水分解レナリドミド分子の有効量は、単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の約10000分の1である。例示的な一実施形態では、加水分解レナリドミド分子の有効量は、単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の約10640分の1である。
【0047】
一部の実施形態によると、レナリドミド分子は、
【化1】
の構造を有し、加水分解レナリドミド分子は、
【化2】
の構造を有する。
【0048】
特定の実施形態によると、被検体はマウスである。これらの実施形態では、分子構築物は、1用量につき体重あたり約1nmol/Kg~1000nmol/Kg(約0.12mg/Kg~120mg/Kg)の量で投与される。例えば、本分子構築物は、治療目的を達成するために、1用量につき体重あたり約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990又は1000nmol/Kg(あるいは、約0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110又は120mg/Kg)の量で投与され得る。好ましくは、分子構築物は、1用量につき体重あたり約1nmol/Kg~100nmol/Kg(約0.12mg/Kg~12mg/Kg)の量で投与される。より好ましくは、分子構築物は、1用量につき体重あたり約10nmol/Kg~50nmol/Kg(約1.2mg/Kg~6mg/Kg)の量で投与される。一部の例示的な実施形態では、1用量につき体重あたり約20nmol/Kg(約2.3mg/Kg~2.4mg/Kg)の本分子構築物は、被検体における腫瘍成長を充分に阻害する。
【0049】
熟練者は、本出願の有効な実施例において与えられる動物での検討から決定された用量に基づいて本分子構築物のヒト等価用量(HED)を容易に決定し得る。したがって、ヒト被検体での使用に適した本分子構築物の有効量は、1用量につき体重あたり約0.08nmol/Kg~100nmol/Kg(約0.01mg/Kg~12mg/Kg)の範囲、例えば、1用量につき体重あたり約0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100nmol/Kg(あるいは、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10、10.1、10.2、10.3、10.4、10.5、10.6、10.7、10.8、10.9、11、11.1、11.2、11.3、11.4、11.5、11.6、11.7、11.8、11.9又は12mg/Kg)となり得る。好ましくは、分子構築物は、1用量につき体重あたり約0.8nmol/Kg~83nmol/Kg(約0.1mg/Kg~10mg/Kg)の量で投与される。より好ましくは、分子構築物は、1用量につき体重あたり約0.8nmol/Kg~33nmol/Kg(約0.1mg/Kg~4mg/Kg)の量で投与される。用量は、単一アリコート、あるいは2以上のアリコートで投与され得る。熟練者又は臨床医は、患者の体調又は疾患の重症度に応じて投与量又はレジームを調整し得る。
【0050】
好ましくは、分子構築物は、4週間に1回被検体に投与される。特定の例では、分子構築物は、所望の治療効果が達成されるまで、複数回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回又はそれ以上の回数)にわたって4週間の間隔で被検体に投与される。理解できるように、熟練者は、患者の体調又は疾患の重症度に応じて投与量又はレジームを調整し得る。
【0051】
本開示の特定の実施形態によると、分子構築物は、抗体-薬物複合体(ADC)の形態であり、これは、当技術では周知であるように、通常は治療薬(例えば、細胞毒性剤)に共有結合的に付着したモノクローナル抗体(mAb)からなる。具体的には、実施形態では、分子構築物の抗CD38抗体は、従来的な構造を有し、すなわち、一対の重鎖及び一対の軽鎖を備え、各重鎖が、N末端からC末端へ、重鎖可変(HV)ドメイン、CH1ドメイン(重鎖の第1の定常ドメイン)、ヒンジドメイン、CH2ドメイン(重鎖の第2の定常ドメイン)及びCH3ドメイン(重鎖の第3の定常ドメイン)を備え、各軽鎖は、N末端からC末端へ、軽鎖可変(VL)ドメイン及びCLドメイン(軽鎖の定常ドメイン)を備える。抗CD38抗体は、その定常ドメインに、好ましくはCH2及びCH3ドメイン(すなわち、CH2-CH3セグメント)に複数の結合残基を備え、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は抗CD38抗体の結合残基にそれぞれ結合される。結合残基は、K及びC残基からなる群から独立して選択される。一実施形態によると、抗CD38抗体は、そのCH2-CH3セグメントにおいて複数のK残基を備える。この場合、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は、それとアミド結合を形成することによってK残基にそれぞれ結合される。他の実施形態によると、抗CD38抗体は、そのCH2-CH3セグメントにおいて複数のC残基を備える。この場合、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は、C残基のスルフヒドリル(SH)基と反応することによってC残基にそれぞれ結合される。
【0052】
ここで、本開示の一部の実施形態に係る分子構築物10を示す模式図である図1Aを参照する。図示するように、分子構築物10の抗CD38抗体は、上述したように一対の重鎖110a、110b(VHドメイン、CH1ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを備える各重鎖110a、110b)及び一対の軽鎖120a、120b(各軽鎖120a、120bはVLドメイン及びCLドメインを備える)を備え、4個の結合残基(図1Aの星印130a、130b、130c、130d)はCH2及びCH3ドメインにそれぞれ配置される。したがって、4個の治療薬T(すなわち、4個のレナリドミド分子又は4個の加水分解レナリドミド分子)が、結合残基130a、130b、130c、130dを介して抗CD38抗体にそれぞれ結合される。
【0053】
意図する目的に応じて、レナリドミド分子及び加水分解レナリドミド分子の各々が、リンカーの存在下又は不存在下において結合残基に結合され得る。好ましくは、レナリドミド分子及び加水分解レナリドミド分子の各々は、リンカー、例えば、開裂性リンカー又は非開裂性リンカーを介して結合残基に結合される。例示的な開裂性リンカーは、これらに限定されないが、プロテアーゼ感受性リンカー(例えば、バリン-シトルリンジペプチド、バリン-アラニンジペプチド、バリン-リシンジペプチド、バリン-アルギニンジペプチド及びグルタミン酸-バリン-シトルリントリペプチド)、pH感受性リンカー(例えば、ヒドラゾンリンカー、エステルリンカー及びアミドリンカー)及びグルタチオン感受性リンカー(例えば、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)及びN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP))を含む。非開裂性リンカーの非限定的な例は、マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボキシレート(MCC)及びスクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)を含む。あるいは、リンカーは、免疫複合体における2つの機能性モチーフを接続する(例えば、抗体及びADCのペイロードを接続する)ことが当技術分野で知られているリンカーであり得る。熟練者は、意図する目的に応じて本分子構築物を生成するための適切なリンカーを選択し得る。一部の例示的な実施形態によると、本抗CD38抗体及びレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子を接続するリンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)鎖及びPEG鎖に接続されたプロテアーゼ感受性リンカーを備える。好ましくは、PEG鎖は、EGユニットの1~10個の反復を有する。具体的な一実施形態では、リンカーは、PEG鎖及びPEG鎖に接続されたバリン-アラニンジペプチドを備え、PEG鎖はEGユニットの3個の反復を有する。
【0054】
本開示の一部の実施形態によると、分子構築物はscFv-Fc融合タンパク質の形態であり、それは免疫グロブリン(例えば、IgG)のFc領域に融合されたscFvを備える。これらの実施形態では、分子構築物の抗CD38抗体は、免疫グロブリンの一対のCH2-CH3セグメント、及びヒンジドメインを介して一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFvを備える。抗CD38抗体はCH2-CH3セグメントに複数の結合残基を備え、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は抗CD38抗体の結合残基にそれぞれ結合される。結合残基は、K及びC残基からなる群から独立して選択される。一実施形態によると、抗CD38抗体は、そのCH2-CH3セグメントに複数のK残基を備える。この場合、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は、それとのアミド結合を形成することによってK残基にそれぞれ結合される。他の実施形態によると、抗CD38抗体は、そのCH2-CH3セグメントに複数のC残基を備える。この場合、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は、C残基のSH基と反応することによってC残基にそれぞれ結合される。上述したように、各レナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子は、好ましくは、リンカー、例えば、開裂性リンカー又は非開裂性リンカーを介して結合残基に結合される。
【0055】
図1Bは、本開示の一部の実施形態に係る分子構築物20の模式図を与える。構造において、分子構築物20の抗CD38抗体は、免疫グロブリン(例えば、IgG)の一対のCH2-CH3ドメイン220a、220b、一対のCH2-CH3ドメイン220a、220bのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFv210a、210bを備え、6個の結合残基(図1Bの星印230a、230b、230c、230d、230e、230f)がCH2及びCH3ドメイン220a、220bにそれぞれ配置される。したがって、6個の治療薬T(すなわち、6個のレナリドミド分子又は6個の加水分解レナリドミド分子)が、結合残基230a、230b、230c、230d、230e、230fを介して抗CD38抗体にそれぞれ結合される。
【0056】
理解できるように(ADC又はscFv-Fc融合タンパク質の形態の)本分子構築物に担持されるレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の数は、抗CD38抗体のCH2-CH3セグメントからなる結合残基の数に応じる。したがって、熟練者は、必要に応じて結合残基の数を調整して治療効能を最適化し得る。
【0057】
本開示の代替の実施形態によると、分子構築物は、薬剤バンドルの形態である。これらの実施形態では、分子構築物は抗CD38抗体及び抗CD38抗体に結合された少なくとも1つのリンカーユニットを備え、各リンカーユニットは複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を担持する。具体的には、抗CD38抗体は、免疫グロブリン(例えば、IgG)の一対のCH2-CH3セグメント、ヒンジドメインを介して一対のCH2-CH3セグメントのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFv、及び一対のCH2-CH3セグメントのC末端にそれぞれ結合された一対の結合ペプチドを備える。一対の結合ペプチドは複数のC残基を備え、少なくとも1つのリンカーユニットは結合ペプチドのC残基を介して抗CD38抗体に結合される。一部の好適な実施形態によると、一対の結合ペプチドの各々は、「CGGHA」(配列番号1)、「CPGHA」(配列番号2)、「CGAHA」(配列番号3)、「CPAHA」(配列番号4)、「GCGGHA」(配列番号5)、「ACPGHA」(配列番号6)又は「GCPGHA」(配列番号7)のアミノ酸配列を備える。具体的な一実施形態では、結合ペプチドの各々は、「ACPGHA」(配列番号6)のアミノ酸配列を備える。特定の例示的な実施形態によると、一対の結合ペプチドの各々は、「CGGHA」(配列番号1)、「CPGHA」(配列番号2)、「CGAHA」(配列番号3)、「CPAHA」(配列番号4)、「GCGGHA」(配列番号5)、「ACPGHA」(配列番号6)又は「GCPGHA」(配列番号7)のアミノ酸配列からなる。例示的な一実施形態では、結合ペプチドの各々は、「ACPGHA」(配列番号6)のアミノ酸配列からなる。
【0058】
ここで、本開示の特定の実施形態に係る分子構築物30の模式図を示す図1Cを参照する。図示するように、分子構築物30の抗CD38抗体は、免疫グロブリン(例えば、IgG)の一対のCH2-CH3ドメイン320a、320b、一対のCH2-CH3ドメイン320a、320bのN末端にそれぞれ結合された一対の抗CD38scFv310a、310b、及び一対のCH2-CH3ドメイン320a、320bのC末端にそれぞれ結合された一対の結合ペプチド330a、330bを備え、結合ペプチド330a、330bの各々はC残基を備える。この場合、2つのリンカーユニット340a、340bは、抗CD38抗体の結合ペプチド330a、330bのC残基にそれぞれ結合される。
【0059】
理解できるように、抗CD38抗体に結合されたリンカーユニットの数は、結合ペプチドからなるC残基の数に応じる。例えば、結合ペプチドの各々が2個のC残基を備える場合には、4個のリンカーユニットが抗CD38抗体に結合され得る。熟練者は、実際の用途に応じて結合ペプチドのC残基の数を調整し得る。
【0060】
本開示の一部の実施形態によると、リンカーユニットは、中心コア及びその中心コアに結合された複数の結合アームを備える。中心コアは、直線状であるポリペプチドであり、2~10個のK残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のK残基)及び末端スペーサーを備える。結合アームは中心コアのK残基にそれぞれ結合され、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は結合アームの遊離末端(すなわち、いずれの分子にも化学的に結合されていない末端)にそれぞれ結合される。
【0061】
一部の例示的な実施形態によると、「天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル」として指定される分子構築物は、抗CD38抗体の一対の結合ペプチド(各結合ペプチドは「ACPGHA」のアミノ酸配列(配列番号6、Zn2+-結合モチーフ、及びそれに従って本開示では「BM」として指定される)を有する)にそれぞれ結合された2個のリンカーユニットを備え、各リンカーユニットは結合アームを介して3個のレナリドミド分子を担持し、結果として抗CD38抗体のC末端において薬剤バンドルを形成する。一部の例示的な実施形態によると、「安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル」として指定される分子構築物は、抗CD38抗体の一対の結合ペプチド(各結合ペプチドは「ACPGHA」のアミノ酸配列(配列番号6)を有する)にそれぞれ結合された2個のリンカーユニットを備え、各リンカーユニットは結合アームを介して3個の加水分解レナリドミド分子を担持し、結果として抗CD38抗体のC末端において薬剤バンドルを形成する。一実施形態では、加水分解レナリドミド分子は、
【化3】
の構造を有する。他の実施形態では、加水分解レナリドミド分子は、
【化4】
の構造を有する。
【0062】
リンカーユニットは、末端スペーサーを介して抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。本開示の種々の実施形態によると、末端スペーサーは、N末端スペーサー又はC末端スペーサーであり得る。一部の実施形態では、末端スペーサーは、2つの末端(すなわち、第1の末端及び第2の末端)を有するN末端スペーサーであり、当該末端の一方は中心コアの(中心コアのN末端から開始する)第1のK残基のN末端に結合され、当該末端の他方は抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。一部の例示的な実施形態によると、N末端スペーサーは、第1の末端にCOH基を有し、第2の末端にSH反応基(例えば、マレイミド基、スルホン基、ハロアセチル基又はピリジルジスルフィド基)を有する。この場合、末端スペーサーの第1の末端は、N末端スペーサーのCOH基と第1のK残基のNH基との間のアミド結合を形成することによって第1のK残基のN末端に結合され、末端スペーサーの第2の末端は、C末端スペーサーのSH反応基とC残基のSH基との間に発生するチオール-マレイミド反応よって抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。
【0063】
一部の実施形態では、末端スペーサーは2つの末端(すなわち、第1の末端及び第2の末端)を有するC末端スペーサーであり、当該末端の一方は中心コアの(中心コアのN末端から開始する)最後のK残基のC末端に結合され、当該末端の他方は抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。一部の例示的な実施形態によると、C末端スペーサーは、第1の末端にNH基を有し、第2の末端にSH反応基(例えば、マレイミド基、スルホン基、ハロアセチル基又はピリジルジスルフィド基)を有する。この場合、末端スペーサーの第1の末端は、C末端スペーサーのNH基と最後のK残基のCOH基との間のアミド結合を形成することによって最後のK残基のC末端に結合され、末端スペーサーの第2の末端は、N末端スペーサーのSH反応基とC残基のSH基との間に発生するチオール-マレイミド反応よって抗CD38抗体の結合ペプチドのC残基に結合される。
【0064】
本開示の特定の実施形態によると、中心コアは3~120アミノ酸残基長を有し、少なくとも2つのリシン(K)残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれ以上のK残基)をそのアミノ酸配列に含み、K残基のいずれか2つが相互に隣接し、又はフィラーによって離隔される。
【0065】
フィラー及び末端スペーサーの各々は、独立して(1)1~12個の非Kアミノ酸残基(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の非Kアミノ酸残基)又は(2)エチレングリコール(EG)ユニットの1~12個の反復(例えば、EGユニットの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の反復)を有するPEG化アミノ酸を備える。一般に、非Kアミノ酸残基の各々は、グリシン(G)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、スレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、プロリン(P)、アラニン(A)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)残基からなる群から独立して選択される。好ましくは、末端スペーサーは、アスパラギン酸(D)及び/又はグルタミン酸(E)残基など、少なくとも3個の負電荷アミノ酸残基をpH=7において備える。一部の例示的な実施形態によると、末端スペーサーは、「EDEDEAGG」(配列番号8)、「EGEGEAGG」(配列番号9)又は「EGEGE」(配列番号10)のアミノ酸配列を備える。一具体例では、中心コアは、「EDEDEGAGGKGAGKGAGKG」(配列番号11)のアミノ酸配列を備える。
【0066】
本開示の特定の実施形態によると、結合アームは、2~12個の非Kアミノ酸残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12個の非Kアミノ酸残基)、EGユニットの2~24個の反復(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24個のEGユニット)を有するPEG鎖、又はこれらの組合せを備える。具体的な一実施形態では、結合アームはPEG鎖及びそのPEG鎖に接続されたバリン-アラニン(Val-Ala)ジペプチドを備え、PEG鎖はEGユニットの3個の反復を有する。任意選択的に、結合アームのペプチド又はPEG鎖は、概ね同じ長さのポリマーに置換されてもよい。炭水化物又はその他の親水性ビルディングブロックを備えるポリマーが、結合アームとしての使用に適する。
【0067】
構造において、結合アームの各々は2つの末端(すなわち、第1の末端及び第2の末端)を有し、第1の末端は中心コアのK残基の1つに結合され、第2の末端はレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子に結合される。一部の実施形態によると、結合アームの第1の末端はそれとのアミド結合を形成することによってK残基のεアミノ基に結合され、結合アームの第2の末端はパラ-アミノベンジルカルバメート(PABC)試薬を介してレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子に結合される。
【0068】
あるいは、結合アームの第2の末端は、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を結合するための官能基を有する。意図する目的に応じて、官能基は、NH基、COH基、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)基、アジド基、アルキン基、シクロオクチン基、テトラジン基又はシクロオクテン基であり得る。レナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子は、以下の化学反応のいずれかによって結合アームの第2の末端に結合される。
(1)その間のアミド結合を形成すること。この場合、官能基はNH基、COH基又はNHS基であり、レナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子はNH基又はCOH基を有する(すなわち、レナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子はNH基又はCOH基で修飾される)。
(2)銅(I)触媒によるアルキン-アジド環化付加反応(CuAAC反応)。この反応において、官能基及びレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子の一方がアジド基又はピコリルアジド基を有し、他方がアルキン基を有する。
(3)逆電子要請性Diels-Alder(iEDDA)反応。この反応において、官能基及びレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子の一方がテトラジン基を有し、他方がシクロオクテン基(例えば、TCO基又はノルボルネン基)を有する。
(4)歪み促進型アジド-アルキンクリックケミストリー(SPAAC)反応。この反応において、官能基及びレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子の一方がアジド基を有し、他方がシクロオクチン基を有する。
【0069】
本開示の種々の実施形態によると、テトラジン基は1,2,3,4-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、1,2,4,5-テトラジン又はこれらの誘導体であり、シクロオクテン基はノルボルネン基又はトランス-シクロオクテン(TCO)基であり、シクロオクチン基はジベンゾシクロオクチン(DIBO)、ジフルオロ化シクロオクチン(DIFO)、ビシクロノニン(BCN)及びジベンゾアザシクロオクチン(DIBAC又はDBCO)からなる群から選択される。本開示の一実施形態によると、テトラジン基は、6-メチル-テトラジンである。
【0070】
理解できるように、本リンカーユニットに担持されるレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の数は、中心コアのK残基の数(及びしたがって結合アームの数)に応じる。例えば、中心コアが3個のK残基を備える場合には、3個の結合アームが中心コアのK残基にそれぞれ結合され、3個のレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子が結合アームの遊離末端にそれぞれ結合される。あるいは、中心コアが10個のK残基を備える場合には、10個の結合アームが中心コアのK残基にそれぞれ結合され、10個のレナリドミド分子/加水分解レナリドミド分子が結合アームの遊離末端にそれぞれ結合される。したがって、当業者は、中心コアのK残基の数(及びしたがって結合アームの数)を所望の目的に応じて変更することによってリンカーユニットに担持されるレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の数を調整し得る。
【0071】
本開示の代替の実施形態によると、レナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子は、上述したように開裂性リンカー又は非開裂性リンカーであり得るリンカーを介して結合ペプチドのC残基のSH基と反応することによって、抗CD38抗体にそれぞれ結合される。
【0072】
本方法によって処置可能な腫瘍は、固形腫瘍又はびまん性腫瘍であり得る。固形腫瘍の例は、これらに限定されないが、黒色腫、食道癌、胃癌、脳腫瘍、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、大腸癌、腎臓癌、肝細胞癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、精巣癌、頭頸部扁平上皮癌及びこれらの組合せを含む。例示的なびまん性腫瘍は、これらに限定されないが、ALL、CLL、AML、CML、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えば、リンパ球形質細胞性リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫又は辺縁帯リンパ腫)、多発性骨髄腫及びこれらの組合せを含む。本開示の一実施形態によると、腫瘍は多発性骨髄腫である。
【0073】
本方法で処置可能な被検体は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ及びウサギである。好ましくは、被検体はヒトである。
【0074】
本開示の分子構築物は、経口、経腸、経鼻、局所、経粘膜又は非経口投与などの適切な経路によって被検体に投与され得る。意図する目的に応じて、非経口投与は、腫瘍内、筋肉内、静脈内、腹腔内又は動脈内注射であり得る。
【0075】
腫瘍(例えば、固形腫瘍又はびまん性腫瘍)を処置するための薬学的組成物も、ここに開示される。本開示の一部の実施形態によると、薬学的組成物は、上述したように、抗CD38抗体及びその抗CD38抗体に結合された複数のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子を備える本分子構築物を備える。これらの実施形態では、薬学的組成物の投与は、腫瘍の処置のために単独で又は抗CD38抗体との併用で使用されるレナリドミド分子の有効量の少なくとも1000分の1のレナリドミド分子又は加水分解レナリドミド分子の有効量を実現する。
【0076】
一部の好適な実施形態によると、薬学的組成物は、約0.1~10mg/Kgの量で投与される。好ましくは、薬学的組成物は、4週間に1回投与される。
【0077】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を明らかにして当業者が本発明を実施するのを補助するために与えられる。これらの実施例は、いかなる態様でも本発明の範囲を限定するものとみなされてはならない。更なる詳述がなくても、当業者は、ここでの説明に基づいて、本発明を最大限に利用可能であると考えられる。ここで引用される全ての刊行物は、それらの全体において参照によりここに取り込まれる。
【実施例0078】
実施例1 Mal-レナリドミドバンドルの合成
3個のレナリドミド分子を含有する薬剤バンドルを、本実施例において合成した。図2に示す構造のように、中心コアは「EDEDEGAGGKGAGKGAGKG」の配列(N末端からC末端へ、配列番号11)を有していた。マレイミド-エチル-COH基(コンジュゲート基としての役割を果たす)を第1のアミノ酸残基のNH基(すなわち、配列番号11の最初の「E」残基)とコンジュゲート基のCOH基との間のアミド結合を形成することによって中心コアのN末端に結合させた。3個の結合アームを中心コアのリシン(K)残基のεアミノ基にそれぞれ結合させた。各結合アームはエチレングリコール(EG)ユニットの3個の反復、カテプシンBによって認識及び開裂されるVal-Alaジペプチド、並びにレナリドミド分子を結合するためのパラ-アミノベンジルカルバメート(PABC)からなっていた。
【0079】
マレイミド含有レナリドミドバンドル(以下、「Mal-レナリドミドバンドル」)を、中心コアを合成して薬剤バンドルをアセンブルするために標準Fmocベースの固相合成を実行し、ビルディングブロックを合成するために液相合成を行う併用法を用いて合成した。製造をWuXi STA Co.,Ltd.(中国、上海)に外注した。本Mal-レナリドミドバンドルの合成は、(i)ビルディングブロック合成、(ii)中心コア合成及び(iii)薬剤バンドルアセンブリを含む3ステップからなっていた。簡潔には、Boc保護Val-Alaジペプチド(化合物1)を溶液中で(4-アミノフェニル)メタノール(化合物2)及びビス(4-ニトロフェニル)カーボネートに順次結合して化合物3を得て、それを同様にレナリドミドに結合して化合物4とした。Boc保護基を除去した後に、結果として得られた化合物5を固相ペプチド合成(SPPS)によって(EG)に結合して化合物6を生成し、それをSPPSによってFmoc保護Gly-Lys-GlyトリペプチドのLysのεアミノ基に結合してビルディングブロック7とした。中心コア8を標準FmocベースのSPPSによって合成し、その後に溶液中でC末端において2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェノールに結合して化合物9を得た。ビルディングブロック7、化合物9、Fmoc-Ala-OH及びN-スクシンイミジル3-マレイミドプロピオネートを用いて、レナリドミドバンドル10をSPPSによってアセンブルした。
【0080】
結果として生成されたMal-レナリドミドバンドルの精製サンプルを逆相分析高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。図3はMal-レナリドミドバンドルの逆相HPLCプロファイルを示し、これは、Mal-レナリドミドバンドルのピークが13.777分の滞留時間を有することを示していた。
【0081】
Mal-レナリドミドバンドルの同定を質量分析法ESI-MSによって実行した。図4は、質量分析法ESI-MSの結果を示し、本分子構築物は[M+3H]3+に対応する1379.235において強い分子イオンを有していた。これは、Mal-レナリドミドバンドルの実際の分子量(M.W.)は、計算した4135.1474に合致した1379.235×3-3=4134.705ダルトンであることを示す。
【0082】
実施例2 組換え二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の構築
ヒトCD38に特異なscFvのV及びVは、ダラツムマブ由来であった。抗CD38scFv-Fc融合タンパク質をコードする遺伝子配列を、ヒトIgG1のFc領域をコードする遺伝子配列(フレキシブルなヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインを備えるhIgG.Fc)の上流側に融合することによって構築した。Zn2+結合モチーフをコードする遺伝子配列ACPGHA(配列番号6、結合ペプチドとしての役割を果たし、本検討では「BM」として指定される)を、hIgG1.FcのCH3ドメイン(C末端のLysが欠如)及び短い(Gly)リンカーをコードする遺伝子配列の下流側に融合した。結果として得られた遺伝子配列構築物をFREEDOM(登録商標)pCHO1.0発現カセットに入れた。結果として生成した融合タンパク質は(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BMの二量体の形態であり、それは配列番号12のアミノ酸配列を有し、抗CD38scFvはV-リンカー-Vを有し、V及びVは親水性リンカーGSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号13)によって接続されていた。
【0083】
調製した二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の構成を図5Aに与える。
【0084】
実施例3:組換え二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の発現及び精製
安定的に融合タンパク質を発現させるために、発現プラスミドをSspI消化によって線状化し、その後にCHO-S(商標)細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を37℃でトランスフェクション後40~48時間オービタルシェーカー(150rpm)でインキュベートし、続いて安定プール選択のために10μg/mLのピューロマイシン及び200nMのメトトレキサート(MTX)を含有する選択培地中でインキュベートした。選択培地を毎週2回変え、組換え二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の発現を毎週確認した。2~3週間後、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質について安定的に発現する細胞を凍結保存した。融合タンパク質を、安定したCHO-S(商標)細胞の上清から回収して、タンパク質Aクロマトグラフィーを用いて精製した。緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と交換し、融合タンパク質の濃度をSDS-PAGEを用いて特定及び分析した。図5Bのデータは分析結果を示し、融合タンパク質を、予想サイズと一致する約110kDaにおける主要なバンド(図5Bのレーン1)として確認した。Mは、タンパク質マーカーの略である。抗体を、50%グリセロールとともにPBS中に溶解し、以降の検討のために約-20℃で保存した。
【0085】
実施例4 組換え二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質及び2つのレナリドミドバンドルを含有する分子構築物の合成
本実施例では、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BMのBM(すなわち、ACPGHA、配列番号6)の2つのシステイン残基にそれぞれ結合された2つのレナリドミドバンドルを有する分子構築物を調製した。この分子構築物の構造を示す模式図を図6Aに与える。実施例3の精製した二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質をコンジュゲーションバッファー(10mMのコハク酸ナトリウム、30mMのスクロース、pH6.0)中に調製した。最終濃度を15μMに調整し、その後に6当量のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)とともに37℃で30分間インキュベートすることによって還元して、培地中のCys又はグルタチオンとの無用なジスルフィド結合を形成し得るZn2+結合Cysを遊離させた。還元したタンパク質を、60μMのZnClを含有するコンジュゲーションバッファーに対してslide-A-lyzer透析カセットによって25℃で2時間透析して(i)ヒンジジスルフィド結合を再構築し、(ii)Zn2+結合モチーフをZn2+と結合させた。実施例1の3当量のMal-レナリドミドバンドル(10mMのコハク酸ナトリウムバッファー、30mMのスクロース、60μMのZnCl、pH6.0において45μMの最終濃度)を添加し、融合タンパク質とともに丸底フラスコ内で撹拌(600rpm)しながら25℃で10分間インキュベートした。生成物を可溶化するために、等量の100%(w/v)スクロースを、結果として得られた溶液に添加し、25℃で16~18時間撹拌した。結合生成物をSDS-PAGEによって分析した。
【0086】
図6Bに示すデータのように、2つのレナリドミドバンドルを備える分子構築物は約120kDaのM.W.を有し(レーン2において「#1」としてラベル付けしたタンパク質バンド参照)、それは予想サイズよりも幾らか大きかった。未結合分子構築物は、図6Bではレーン1であり、#2としてラベル付けした。Mは、タンパク質マーカーの略である。図6Bに示すように、2つのレナリドミドバンドルとの二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(以下、「天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル」)の複合体の収率は、約85%であった。
【0087】
実施例5 塩基性溶液中の天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの安定化
チオエーテル結合のβ脱離反応を防止するため、1/10の体積の加水分解バッファー(100mMのトリス、100mMのNaCl、100mMのL-アルギニン及び50%のスクロース(w/v)、pH9.0)を実施例4の二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルに添加することによって、チオール-マレイミド複合体を加水分解してマレイミド環の開環を誘発した。そして、結果として得られた溶液を25℃で2日間撹拌してマレイミド環を加水分解した。
【0088】
実施例4で得られた分子構築物の反応生成物を、カラムを用いてバッファー交換してトリスバッファー(pH9.0において100mMのトリス、100mMのL-アルギニン及び100mMの塩化ナトリウム)とした。そして、結果として得られた溶液を37℃で5時間加熱した。溶液を冷却し、遠心分離によってバッファー交換してpH5.5の50mMのBis-Trisバッファーとした。最終サンプルを約1~3mg/mLのタンパク質まで濃縮した。結果として生成された生成物を「安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル」として指定した。
【0089】
実施例6 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの精製
精製の前に、実施例5の安定化生成物をバッファーA(50mMのNaHPO、1MのNaCl、pH7.0)と交換した。未結合分子又は1つの薬剤バンドルのみとの複合体を除去するために、混合物を、予め平衡化した疎水性相互作用カラム(HIC)に適用し、続いて10、20及び15カラム体積についてそれぞれ0、50及び65%のバッファーB(50mMのリン酸ナトリウム、pH7.0)による3回の洗浄ステップを行った。2つの薬剤バンドルとの複合体を、100%のバッファーBで20カラム体積について流量1.0ml/minで溶出した。先行するHIC精製の回収サンプルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムに適用してタンパク質凝集物から分子構築物を分離した。HIC及びSEC精製後、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを取得した。
【0090】
図7Aは安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのSDS-PAGE分析の結果を示し、1でラベル付けしたレーン及び2でラベル付けしたレーンは、それぞれ未結合分子構築物及び2つのレナリドミドバンドルと結合した分子構築物に対応する。サイズ排除クロマトグラフィーの溶出プロファイルの結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは95%超の純度を有することを示した(図7B)。
【0091】
実施例7 天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの精製
天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを得るために、精製前に、実施例4の生成物をバッファーA(50mMのNaHPO、1MのNaCl、pH6.0)と交換した。簡潔には、反応混合物を、予め平衡化した疎水性相互作用カラム(HIC)に適用し、続いて10、20及び15カラム体積についてそれぞれ0、50及び65%のバッファーB(50mMのリン酸ナトリウム、pH6.0)による3回の洗浄ステップを行った。2つのレナリドミドバンドルとの複合体を、100%のバッファーBで20カラム体積について流量1.0ml/minで溶出した。先行するHIC精製の回収サンプルを、サイズ排除クロマトグラフィーカラムに適用してタンパク質凝集物から分子構築物を分離した。HIC及びSEC精製後、天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを高純度で取得した。
【0092】
実施例8 HPLCベースのレナリドミド放出アッセイの確立
内在化後の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルからの遊離レナリドミドの放出を評価するために、薬剤放出アッセイを確立した。簡潔には、PBS又はRPMI培地中に溶解したレナリドミド(1μM)、RPMI培地中に溶解した安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(1μM)、RPMI培地中で培養したH929細胞、及びRPMI培地中で1×10個のH929細胞と共培養した安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(1μM)をそれぞれ37℃で5日間インキュベートした。全ての上清を上記の条件により回収し、遠心分離して細胞の残骸を除去した。3kDa未満のM.W.の分子をカラムによって回収した。調製したサンプルをHPLC分析のためのC8カラムに注入した。HPLCシステムを1mL/minの流量の勾配モードで動作させた。溶媒Aを0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)の水で構成し、溶媒Bを0.1%のTFAのアセトニトリルで構成した。0%の溶媒Bから開始したHPLCプログラムを8分間維持し、その後、線形勾配を0%の溶媒Bで開始し、20分以内に100%の溶媒Bまで増加させた。純溶媒Bを10分間維持した後、カラムを7分以内に100%の溶媒Aで再生した。注入体積は100mLであり、カラムのオーブン温度を25℃に設定した。合計稼働時間は45分であった。
【0093】
実施例9 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルから放出されたレナリドミド分子の構造の分析
放出レナリドミド分子の構造を分析する検討では、PBS中で5日間インキュベートしたレナリドミドをコントロール群として作用させ、それは長期インキュベーション後にレナリドミド分子に対応するピーク(p3という)及びその2つの加水分解形態にそれぞれ対応する2つの更なるピーク(p2及びp1)を示した(図8A、グループ(1):レナリドミド)。HPLCプロファイルにおける3個のピークを質量分析法によって確認した。図8Bに示す分析結果によると、3個のピーク(それぞれ(1)、(2)及び(3)という)を、PBS中のレナリドミドをRPMI培地に置換した後に検出し、ピーク(1)は、
【化5】
の構造を有する加水分解レナリドミドに対応し(図8Bのパネル(A)及び(B))、ピーク(2)は、
【化6】
の構造を有する加水分解レナリドミドに対応し(図8Bのパネル(A)及び(C))、ピーク(3)は、
【化7】
の構造を有するレナリドミドに対応した(図8Bのパネル(A)及び(D))。2つの加水分解形態のレナリドミド(p1及びp2)は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルとともに5日間インキュベートしたH929細胞の培養上清中に検出することができ、元のレナリドミド(p3)は検出されなかった(図8A、グループ(6):H929細胞+複合体)。p1、p2又はp3のピークは、RPMI培地単体(図8A、グループ(2):RPMI)、RPMI培地中で5日間インキュベートした安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(図8A、グループ(4):RPMI+複合体)又はRPMI培地中で5日間培養したH929細胞の上清(図8A、グループ(5):H929細胞)では見られなかった。
【0094】
したがって、これらの結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質に担持されるレナリドミド分子が加水分解形態(p1及びp2)で放出されることを示した。
【0095】
実施例10 DARの特定のための安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのMALDI-TOF分析
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI-TOF)によって分析した。脱離マトリックスとして飽和シナピン酸(アセトニトリル:水が30:70(v/v)の0.1%のTFA中に2mg/mL)を用いてMALDI標的プレート上に直接スポットした。各スポットを、200Hzレーザーが装備されたMALDI TOF/TOFにおいて分析した。データ取得及び処理をソフトウェアによって行った。分析結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルはm/z(z=1):[M+H]及びm/z(z=2):[M+2H]2+にそれぞれ対応する58382及び116705ダルトンのM.W.を有し(図9の下側パネル)、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(薬剤なし、コントロールとしての役割を果たす)は54300及び108537ダルトンのM.W.を有し、それらはm/z(z=1):[M+H]及びm/z(z=2):[M+2H]2+に対応する(図9の上側パネル)。
【0096】
MALDI-TOF分析において、一重(Z=1)及び二重(Z=2)に帯電した安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの確認されたm/z値は、それぞれ116820及び58501Daであり、薬剤なしの二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の対応するm/z値は、それぞれ108534及び54311Daであった(データ不図示)。レナリドミドバンドルは4205DaのM.W.を有するので、Z=1種に対する未結合の二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの8286DaのM.W.の増加は、2つのレナリドミドバンドルのM.W.を示した。したがって、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル分子の薬剤抗体比(DAR)は6である。
【0097】
実施例11 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルに対する薬剤バンドル結合部位の分析
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-Fc-BM-レナリドミドバンドルにおけるシステイン残基を同定するために、LC-MSを用いてサンプルを消化及び分析した。簡潔には、ジスルフィド結合を減少させるために、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(2μg)をpH7.4においてPBS中に溶解し、17mMの炭酸水素トリエチルアンモニウム(TEAB)バッファー中で18mMのTCEPとともに55℃で10分間遮光してインキュベートした。暗所での室温における30分間の最終濃度15.6mMのヨードアセトアミド(IAA)によるアルキル化の後に、各検体をトリプシン(0.2μg)とともに37℃で一晩インキュベートした。サンプルを、質量分析計において液体クロマトグラフィー(LC)ESI-MSによって検出した。消化溶液(5μl)を流量1μl/minで毛細管カラム(C18、0.075mm×150mm、ID3μm)に注入した。以下の勾配プログラムをクロマトグラフ分離に使用した。最初に100%移動相A(水中の0.1%のギ酸)を用いて流量300nL/minとし、それを2分において2%移動相B(80%のアセトニトリル中の0.1%のギ酸)によって98%まで低下させ、さらに40分において40%移動相Bによって60%まで低下させた。フルスキャン質量分析を記録し、標的m/zをNCE35及び最大注入時間100msによって衝突誘起解離のために単離した。LC-MSスペクトルを、カルバミドメチル基(58ダルトン)又はレナリドミドバンドル(4205ダルトン)の追加のM.W.によってペプチド(1366ダルトン)の予想分子量に対して検索した。Mascot検索エンジンを用いてシステイン含有ペプチド配列を同定した。
【0098】
質量分析の分析結果は、MSスペクトルにおけるフラグメントのm/z値が5571.29ダルトンに対応することを示し(データ不図示)、これは、分子構築物のアミノ酸配列「SLSLSPGGGGACPGHA」(配列番号14、配列番号12のアミノ酸残基472-487)(1366ダルトン)及び1つのレナリドミドバンドル(4205ダルトン)を含有するフラグメントの分子量と一致した。
【0099】
実施例12 安定的ヒトCD38過剰発現HEK293T細胞の生成
完全長ヒトCD38のcDNAをpCDH-CMV-MCS-Ef1α-Puro発現ベクターにクローニングしてレンチウイルスベースのCD38発現プラスミドpCDH-CMV-CD38を生成した。レンチウイルスを、pCDH-CMV-CD38、pCMV-VSV-G及びpCMVδR8.91をHEK293T細胞に共トランスフェクトすることによってパッケージ化した。ヒトCD38過剰発現HEK293T細胞を、レンチウイルス感染によって形質導入し、感染3日後に1μg/mLのピューロマイシンとともに培養した。ヒトCD38の発現をフローサイトメトリーによって確認した。
【0100】
実施例13 ヒトCD38過剰発現HEK293T細胞に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの結合活性
抗体C末端で結合した2つのレナリドミドバンドルが抗体の標的能力を変化させなかったことを確かめるため、ヒトCD38に対する二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質及び安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの結合活性を、ヒトCD38過剰発現293T細胞を用いて細胞ベースのELISAによって特定した。安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(「安定化複合体」としてラベル付けされる)及び二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(「未結合」としてラベル付けされる)は、ヒトCD38への同様の結合活性を示した(図10)。結果によると、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及び二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質のEC50値は、それぞれ0.65及び0.84nMであった。したがって、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質への2つのレナリドミドバンドルの結合は、ヒトCD38に対する結合親和性を悪化させなかった。
【0101】
実施例14 ヒト多発性骨髄腫H929細胞株に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの結合活性
生存ヒトCD38多発性骨髄腫H929細胞(H929及びU266-CD38細胞を含む)に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの結合親和性を本実施例において検証した。
【0102】
簡潔には、約2×10個のH929細胞又はU266-CD38細胞をフローサイトメトリー染色(FACS)バッファー(1%ウシ胎児血清を有するPBS)で3回洗浄し、異なる濃度(1μM、100nM、10nM、1nM、100pM、10pM及び1pM)の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及びダラツムマブとともに20分間インキュベートした。FACSバッファーを用いて洗浄した後、細胞を、フィコエリスリン(PE)結合抗ヒトIgG-Fc抗体でラベル付けして細胞面における安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及びダラツムマブのレベルを検出した。染色のない細胞及び二次抗体のみで処置した細胞を陰性コントロールとして用いた。細胞関連蛍光を、フローサイトメトリーを用いて特定し、ソフトウェアによって分析した。
【0103】
「親」ダラツムマブ(「dara」としてラベル付けされる)と同様に、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(「安定化複合体」としてラベル付けされる)は、特異的かつ用量依存的態様でH929及びU266-CD38細胞に対する結合活性を示した(図11)。ただし、H929細胞(4.06nM)及びU266-CD38細胞(1.66nM)に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルについてのEC50値は「親」ダラツムマブについてのもの(それぞれ1.02及び0.13nM)よりも大きく、ヒトCD38に対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの結合活性はダラツムマブのものよりも低いことを示した。
【0104】
実施例15 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの細胞内在化
内在化アッセイを実施例において実行してH929細胞への安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの内在化の程度を検証した。
【0105】
簡潔には、2×10個/ウェルのH929細胞を、1μMの安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(FACSバッファー中)とともに氷上で20分間インキュベートした。新鮮な培地によって洗浄及び再懸濁した後、細胞を37℃で0.5、1、2又は3時間インキュベートした。細胞を、洗浄し、PE結合ヤギ抗ヒトIgG-Fc抗体とともに氷上で20分間インキュベートした。洗浄後、細胞関連蛍光を、フローサイトメトリーを用いて特定し、ソフトウェアによって分析した。内在化パーセンテージを、式(1)に従って、背景平均蛍光強度に対する所与の時間tにおける平均蛍光強度であるdMから計算した。
%内在化=[dM(t=0)-dM(t=x)]×100/dM(t=0) (1)
【0106】
生存H929細胞の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの信号強度は、30分間のインキュベーション後に約15%低下し、3時間後にさらに60%低下し(表1、生存細胞)、これは、より少ない安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの分子が細胞面に結合し続けたことを示す。これに対して、3時間のインキュベーション後、固定細胞の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの信号強度の損失は検出されず(表1、固定細胞)、これは、生存細胞における信号強度の低下はインキュベーション中に分子構築物の乖離から生じたものではないことを示す。
表1 H929細胞における安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの内在化の動力学
【表1】
【0107】
実施例16 加水分解レナリドミド分子放出を通じた安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vitro細胞毒性活性
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vitro細胞毒性活性を評価するために、alamarBlue(商標)細胞生存性アッセイを行った。簡潔には、H929、U266-CD38、MM.1S及びDaudi細胞を、96ウェルプレートに5000個の細胞/ウェルで播種し、指示された濃度の異なる被験物質を含有する新鮮な培地とともに37℃で5時間、1日、3日又は5日間共培養した。細胞の生存率をalamarBlue(商標)細胞生存性試薬によって特定した。約10μlのalamarBlue(商標)細胞生存性試薬を最終濃度10%v/vで細胞に添加し、それに続いて、37℃で1.5時間インキュベートした。蛍光を、560nmでの励起及び590nmでの発光に続いて任意の蛍光単位でマイクロプレートリーダーにおいて測定した。
【0108】
多発性骨髄腫(MM)細胞のパネルに対する安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vitro腫瘍細胞殺傷効果を、(1)ダラツムマブ、(2)安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルにおけるレナリドミドと併用される二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質に類似したモル比1:6でレナリドミドと併用されるダラツムマブ、及び(3)(ダラツムマブ/レナリドミドの併用で使用されるレナリドミドの量に等しい)レナリドミドを含む他の3個の抗MM薬剤と比較した。異なるMM細胞を、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(「安定化複合体」としてラベル付けされる)、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(未結合、「α-CD38mAb」としてラベル付けされる)、ダラツムマブ、ダラツムマブ及びレナリドミドの併用(「ダラツムマブ/レナリドミド」としてラベル付けされる)並びにレナリドミドの段階希釈とともにインキュベートした。H929細胞を5時間、1日、3日又は5日間インキュベートし(図12A~12D)、MM.1S、U266-CD38及びDaudi細胞を5日間インキュベートした(図12E~12G)。その後、細胞生存率を特定した。
【0109】
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「安定化複合体」)の処置は、H929及びMM.1S細胞の双方に対して約0.45μMのEC50での用量依存的細胞毒性効果を示した(図12B~12E)。これに対して、ダラツムマブ媒介細胞死はナチュラルキラー細胞などの他の免疫細胞の存在に依存するため、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(未結合、すなわち「抗CD38mAb」)及び親ダラツムマブは、20μM超の用量であっても、同じ細胞に対する細胞死の効果を示さなかった(図12B~12E)。10μM超の用量でのレナリドミド又はダラツムマブ/レナリドミドの併用は、H929及びMM.1S細胞の弱い殺傷力しか示さず(図12B~12E)、これは、ごく一部のみのレナリドミドが標的MM細胞に侵入し、一旦内部に入ると、MM細胞に対して細胞毒性効果を示したことを示す。加水分解レナリドミド(レナリドミドではなく)の分子は安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「安定化複合体」)から放出されたが、図12D及び12Eでの結果は安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは、単体又はダラツムマブとの併用でのレナリドミドよりも100倍以上有効であることを示した。U266-CD38細胞について、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「安定化複合体」)、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM(未結合、すなわち「抗CD38mAb」)及びダラツムマブには殺傷効果はないが、レナリドミド及びそのダラツムマブとの併用は、レナリドミドの効果に起因する可能性のある高い濃度で殺傷効果を示した(図12F)。DaudiBリンパ腫細胞はCD38を発現したが、これらの細胞がおそらくはレナリドミドに対する耐性を有するため、5種類の処置はいずれも殺傷効果を示さなかった(図12G)。
【0110】
またさらに、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは、MM細胞表面上でCD38に密に結合してCD38の複合体を形成することによって腫瘍細胞に対する所望の毒性を示し、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルをエンドサイトーシスによって効率的に内在化させ、リソソームカテプシンBによって開裂させて細胞毒性レナリドミドを放出させ、細胞死をもたらした。レナリドミド、ダラツムマブ又はそれらの併用はこの作用の機序を有さず、ダラツムマブに未結合のレナリドミドは容易には細胞に侵入することはできないが、ダラツムマブはCD38発現腫瘍細胞を殺傷するFc依存性エンドエフェクター機能を必要とした。したがって、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは、レナリドミド、ダラツムマブ又はそれらの併用よりもin vitroアッセイでの有効な細胞毒性効果を有していた。
【0111】
実施例17 天然レナリドミド分子の放出を通じた天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vitro細胞毒性活性
ヒト多発性骨髄腫H929及びMM.1S細胞に対する実施例4の天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vitro細胞毒性活性のアッセイを、上記実施例で説明したように実行した。
【0112】
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「安定化複合体」)を陽性コントロールとして用いるが、表2の結果は、天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「天然複合体」)はH929細胞に対して2時間の処置に対して0.722μM及び5日間の処置に対して0.207μMのEC50値で有効な細胞毒性を示すことを示した。
表2 H929細胞における指定処置のin vivo細胞毒性
【表2】
【0113】
また、表3の結果は、天然二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(すなわち「天然複合体」)はMM.1S細胞に対して2時間の処置に対して0.661μM及び5日間の処置に対して0.190μMのEC50値で有効な細胞毒性を示すことを実証した。
表3 MM.1S細胞における指定処置のin vivo細胞毒性
【表3】
【0114】
実施例18 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの血漿安定性
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの血漿安定性を評価するために、必要量の二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM(未結合抗体)、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル又はダラツムマブを、最終濃度2mg/mLで90%ヒト血漿中に溶解させ、その後37℃で28日間インキュベートした。サンプルアリコートを0、3、7、10、14、21及び28日目に回収し、ELISAによって分析した。組換えヒトCD38タンパク質を抗原として被覆してダラツムマブ、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM(未結合抗体)及び安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを捕捉した。二次抗体であるHRP結合抗ヒトIgG-Fc抗体を用いて3個のCD38結合抗体を検出した。2つのレナリドミドバンドルが安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの抗体に結合したままであるか否かを判定するために、HRP結合抗マウスIgG-Fc抗体によってさらに検出可能な抗レナリドミドバンドルscFv-マウスIgG-Fc抗体を用いた。96ウェルELISAプレートを、組換えヒトCD38タンパク質(0.1μg/100μL/ウェル)によって16時間4℃で被覆した。PBSTバッファー(0.1%TWEEN(登録商標)20を有するPBS)によって洗浄した後、各ウェルをブロッキングバッファー(1%ウシ胎児血清を有するPBS)で30分間ブロックした。標準物を、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルをヒト血漿とともに溶解し、それをブロッキングバッファー中に希釈することによって調製した。全てのサンプルを、計算曲線の線形性に合わせるようにブロッキングバッファー中に希釈することによって調製した。標準及び希釈サンプルを各ウェルに添加し、室温で1.5時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ブロッキングバッファー中の適切な希釈による二次抗体を対応するウェルに添加した。安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを検出するために、抗レナリドミドバンドルscFvマウスIgG-Fc抗体を洗い流した後に、HRP結合抗マウスIgG-Fc抗体をさらに添加した。最後に、各抗体の濃度を、テトラメチルベンジジン試薬及びマイクロプレートリーダーを用いて定量化した。半減期(T1/2)をソフトウェアによって計算した。データを、平均±SDで示した。
【0115】
図13に示す結果は、ダラツムマブ、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質(「未結合」としてラベル付けされる)及び安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルはヒト血漿中で約6~7日の同等の半減期(T1/2)を28日間共有することを示した。二次抗体、すなわち、HRP結合抗ヒトIgG-Fc抗体は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルと、1以下のレナリドミドバンドルに結合された二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質とを区別できない。そのため、二次抗体、すなわち、HRP結合抗マウスIgG-Fc抗体によって検出された抗レナリドミドバンドルscFv-マウスIgG-Fc抗体を用いて、2つのレナリドミドバンドルが抗CD38抗体に結合したままであるか否かを判定した。種々の時点でのレナリドミドバンドル結合抗体の濃度は、そのT1/2(7.7日)(「安定化ADC(結合Ab)」としてラベル付けされ、すなわち、抗レナリドミドバンドル抗体及びHRP結合抗マウスIgG-Fc抗体によって検出された二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル)が、HRP結合抗ヒトIgG-Fc抗体によって検出された合計の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのT1/2(7.5日)(二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及び1以下のレナリドミドバンドルに結合された二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM融合タンパク質の双方を含有する「安定化ADC(合計Ab)」としてラベル付けされる)とほぼ同一であることを示した(図13)。これは、2つのレナリドミドバンドルがヒト血漿中で抗CD38抗体に安定的に結合されたことを示唆する。またさらに、抗CD38抗体のscFvの減少にかかわらず、そのT1/2はダラツムマブのT1/2と比較して減少しなかった。
【0116】
実施例19 安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルのin vivo腫瘍モデルの確立
皮下腫瘍を生成するために、PBS中の2×10個のH929細胞を50%(v/v)細胞外マトリクスゲルに混合し、NOD-SCIDマウスの両脇腹に皮下注射した。腫瘍サイズ及び体重を2~3日ごとに記録した。in vivo皮下異種移植腫瘍の体積を、外部ノギスを用いて特定し、腫瘍体積を修正楕円体の公式、1/2×(長さ×幅×幅)によって計算した。腫瘍の平均サイズが115±15mm(移植後7日)又は150±20mm(移植後14日)の範囲であった場合、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル、二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM(未結合抗体)及びダラツムマブをPBS中にそれぞれ調製し、マウスに腹腔内(i.p.)投与した。実験の全てにおいて、単回用量(20nmol/kg、約2.3mg/kg)の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル又はダラツムマブを投与した。実験の終わりに、腫瘍を回収及び重量測定した。データをソフトウェアによって分析し、図面に示すように平均±SD又は平均±SEMとして表した。統計分析をスチューデントt検定で行い、グループ間の統計的差をBonferroniの多重比較後検定による一元ANOVAで分析した。
【0117】
実施例20 マウス異種移植腫瘍モデルにおける安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及びダラツムマブの抗腫瘍効能
H929細胞を用いるパイロット研究では、腫瘍が115±15mmの平均サイズに成長すると、単回用量(20nmol/kg)の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル又はダラツムマブを移植後7日でi.p.投与した。21日間にわたって2~3日ごとに測定した腫瘍サイズの変化は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルが腫瘍サイズを効果的に縮小させることができるが、ダラツムマブ(「Dara」としてラベル付けされる)はPBSと比較して腫瘍の成長を減速可能であるにすぎないことを実証した。薬剤投与後21日目に全てのマウスからの腫瘍を摘出して重量測定した。結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(「安定化複合体」としてラベル付けされる)はダラツムマブと比較してH929腫瘍に対する非常に良好な成長阻害活性を示すことを示した。
【0118】
実施例21 マウス異種移植腫瘍モデルにおける安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル、ダラツムマブ、レナリドミド及びダラツムマブ/レナリドミドの併用の抗腫瘍効能
さらに数日間腫瘍をより大きく成長させた場合に腫瘍成長を阻害するその能力について、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルを引き続き検討した。H929細胞の移植後14日目に、腫瘍が約150±20mmの平均体積に達すると、マウスに(1)単回用量のダラツムマブ(20nmol/kg)、(2)毎日のレナリドミド(46mmol/kg/day)のi.p.注射、(3)ダラツムマブ/レナリドミドの併用(単回用量の20nmol/kgのダラツムマブ+46mmol/kg/dayのレナリドミド)及び(4)単回用量の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(「安定化複合体」としてラベル付けされる)(20nmol/kg、約2.3mg/kg)をそれぞれ投与した。図15Aの結果は、PBS処置と比較して、ダラツムマブ(Dara)又はレナリドミド(Lena)の処置が腫瘍成長を阻害し、ダラツムマブ/レナリドミドの併用(Dara/Lena)処置は腫瘍成長に対してより大きな阻害効果を示すことを実証した。薬剤投与後28日目に全てのマウスからの腫瘍を摘出して重量測定した(図15B)。驚くべきことに、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル(安定化複合体)の処置はマウスの腫瘍成長を完全に抑制し、マウスのうちの一匹に微小結節を残した(図15A及び15B)。結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルはダラツムマブ、レナリドミド又はダラツムマブ/レナリドミドの併用の処置のものと比較してH929腫瘍に対して非常に良好な抗腫瘍効果を示すことを示した。
【0119】
特に、28日間の経過にわたって46mmol/kg/dayの処置で採用されたレナリドミドの合計量は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの単回用量(20nmol/kg)によって与えられるレナリドミドの量の10640倍であった。
【0120】
実施例22 患者由来の多発性骨髄腫細胞を用いた安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル及びダラツムマブ/レナリドミドの併用の抗腫瘍効能
患者由来の多発性骨髄腫(MM)細胞における安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルの有効性を評価するために、新たにMM患者と診断された5名の患者(No.1~No.5)の骨髄から単離したMM細胞を、種々の濃度(0.00064、0.0032、0.016、0.08、0.4、2、10μM)の安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドル又はダラツムマブ及びレナリドミドの併用(すなわち、ダラツムマブ/レナリドミドの併用、コントロールグループとしての役割を果たす)を5日間37℃で処置した。細胞生存率を、alamarBlue(商標)細胞生存性試薬を用いて特定した。
【0121】
安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルによって処置したMM細胞の細胞生存率の結果は、生存率の大幅な低下を明らかとした。安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルに対する半最大阻害濃度(IC50)値は0.07~0.27μMの範囲となり、各併用処置グループのIC50値は100μMを超えた(表4)。
表4 指定処置のIC50
【表4】
【0122】
またさらに、IC50値の分析は、ダラツムマブ/レナリドミドの併用処置における遊離レナリドミドと比較して、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルによるIC50値の100倍を超える減少を実証した。この結果は、安定化複合体に担持されるレナリドミドはMM細胞を殺傷する際により一層効果的であり、MM細胞によって内在化されるとその有効性を強調することを示す。
【0123】
結果は、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは患者由来のMM細胞における有効な抗腫瘍効能を示すことを示唆する。レナリドミドなしと比較したIC50値の大幅な低下は、レナリドミドバンドル結合の高められた有効性を強調している。
【0124】
まとめると、安定化二本鎖(抗CD38scFv)-hIgG1.Fc-(Gly)-BM-レナリドミドバンドルは、レナリドミド、ダラツムマブ又はそれらの併用よりもin vivoアッセイにおいて有効な細胞毒性効果を示した。
【0125】
実施形態の上記説明は例示としてのみ与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な記載を与える。本発明の種々の実施形態がある程度の特殊性を以て又は1以上の個々の実施形態を参照して上述されてきたが、当業者は、本発明の主旨又は範囲から逸脱することなく、開示される実施形態に対して多数の変更を行い得る。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B(A)】
図8B(B)】
図8B(C)】
図8B(D)】
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図12G
図13
図14
図15A
図15B
【配列表】
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【外国語明細書】