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特開2024-153571廃繊維品を用いた微生物セルロースの生産プロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153571
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】廃繊維品を用いた微生物セルロースの生産プロセス
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
C12P19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024064391
(22)【出願日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】23167596.8
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】110003292
【氏名又は名称】弁理士法人三栄国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハリル イブラヒーム アクバス
(72)【発明者】
【氏名】メフメト エルカン オズセイハン
(72)【発明者】
【氏名】ギズデ オクテム
(72)【発明者】
【氏名】メリフ カンス
(72)【発明者】
【氏名】ゼイネプ カルデス
(72)【発明者】
【氏名】セミフ カザンシュ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】廃繊維品を用いて微生物セルロースを生産するプロセスを提供する。
【解決手段】本発明は、廃繊維品材料、例えば綿100%または綿/ポリエステル/エラスタンの混紡廃繊維品を用いた微生物セルロースの生産プロセスに関し、セルロースを含む当該廃繊維品材料を準備する工程は、当該廃繊維品材料を所定量用意する工程と、前処理された生地を得るために、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液を用い、-25℃~+30℃の範囲で前処理する工程と、当該前処理された生地をセルラーゼ酵素で処理し、当該セルロースをグルコースに変換して、グルコースを含む混合物を得る工程と、グルコースを含む当該混合物を含む培養培地を調製する工程と、当該培養培地に微生物セルロース生産微生物を接種する工程と、当該微生物セルロース生産微生物を培養して微生物セルロースを得る工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃繊維品材料から微生物セルロースの生産プロセスであって、当該廃繊維品材料はセルロースを含むセルロース繊維を含み、当該微生物セルロースの生産プロセスは、
a)当該廃繊維品材料を準備する工程と、
b)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
c)当該セルロースをグルコースに変換して固相と液相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程と、
d)グルコースを含む液体混合物を得るために、当該液相を当該固相から分離する工程と、
e)グルコースを含む当該液体混合物を用いて微生物セルロース生産微生物を含む当該微生物培養物を調製する工程と、
f)微生物セルロースを得るために当該微生物培養物を培養する工程とを含むことを特徴とする微生物セルロースの生産プロセス。
【請求項2】
セルロースを含むセルロース繊維を構成する廃繊維品材料の酵素糖化プロセスであって、当該酵素糖化プロセスは、
a) 当該廃繊維品材料を準備する工程と、
b)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
c)当該セルロースをグルコースに変換して固相と液相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程とを含み、
工程b)で得られる当該前処理済繊維品材料は、工程c)の前に、酵素糖化に好適な寸法を有する複数の断片に細断されることを特徴とする酵素糖化プロセス。
【請求項3】
当該廃繊維品材料は、セルロース繊維および非セルロース繊維を含み、かつ糸、生地および当該生地を含む製品から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
当該セルロース繊維は、綿繊維、麻繊維、亜麻(リネン)繊維、黄麻繊維、ビスコース繊維、リヨセル繊維、モダール繊維、アセテート繊維、キュプラ繊維、およびそれらの混合物から選択され、好ましくは当該繊維は、リサイクル繊維であり、当該非セルロース繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、エラスタン繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、アクリル繊維、およびそれらの混合物から選択され、好ましくは当該繊維は、リサイクル繊維であることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
NaOHおよび尿素を含む当該水溶液中のNaOHの量は1w/v%~15w/v%(質量体積パーセント)、好ましくは2w/v%~10w/v%、より好ましくは3w/v%~9w/v%であり、当該水溶液中の尿素の量は1w/v%~25w/v%、好ましくは3w/v%~20w/v%、より好ましくは5w/v%~15w/v%であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項6】
NaOHと尿素の質量比(NaOH/尿素)が1.0/1.0~1.0/2.0、好ましくは1.0/1.5~1.0/2.0、より好ましくは1.0/1.5~1.0/1.8であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項7】
当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する当該工程において、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液の体積に対する当該廃繊維品材料の質量は、1w/v%~20w/v%、好ましくは2w/v%~15w/v%、より好ましくは2.5w/v%~10w/v%、最も好ましくは5w/v%であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項8】
当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する当該工程は、-25℃~+30℃、好ましくは-15℃~+25℃、より好ましくは4℃~+25℃、最も好ましくは+15℃~+25℃で行われることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項9】
当該前処理工程は、0.5時間~10時間、好ましくは1時間~8時間、より好ましくは2時間~7時間行われることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項10】
当該セルラーゼは、セルロース1グラムあたり1FPU~50FPU、好ましくはセルロース1グラムあたり10FPU~30FPU、より好ましくはセルロース1グラムあたり15FPU~25FPUの酵素活性を有し、必要に応じて当該セルラーゼは、セルラーゼ酵素を含む溶液の形態であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項11】
当該廃繊維品材料は染料を含み、当該染料の少なくとも一部は、当該工程c)の前、好ましくは当該工程b)の前に当該廃繊維品材料から除去されるか、または、当該工程d)の後に、固相および液相を含む当該混合物の当該固相または当該液相から除去されることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項12】
当該非セルロース繊維は、固相と液相とを含む当該混合物の当該固相から回収されることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項13】
当該工程d)で得られるグルコースを含む当該混合物は、当該工程e)で用いる前に当該セルラーゼ酵素を不活性化するために熱処理が行われ、これにより、当該不活性化された酵素が当該微生物の栄養源となることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
グルコースを含む当該液体混合物中のグルコース濃度が10g/L~30g/L、好ましくは15g/L~25g/Lであり、グルコースを含む当該液体混合物の量が微生物培養物の質量の99質量%~80質量%、好ましくは95質量%~85質量%であることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
グルコースを含む当該液体混合物は、微生物セルロース生産微生物を含むスターター微生物培養物と混合され、微生物セルロース生産微生物を含む当該スターター微生物培養物の量は、当該微生物培養物の質量の1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%であることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項16】
グルコースを含む当該液体混合物を用いて微生物培養物を調製する当該工程は、グルコースを含む当該液体混合物に少なくとも1種の添加剤を添加する工程を含み、当該添加剤は、好ましくは、チタン(IV)ビス(乳酸アンモニウム)ジヒドロキシド(TiBALDH)、グリセロール、アスコルビン酸、エテホン(2-クロロエチルリン酸)およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項17】
当該微生物セルロースは洗浄され、必要に応じて乾燥され、当該洗浄は、漂白剤、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を0.01w/v%~10w/v%、好ましくは0.1w/v%~0.05w/v%を含む水溶液を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
当該微生物セルロースはセルロース繊維を生産するために用いられることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
ポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントとセルロース繊維とを含む混紡繊維品をリサイクルするプロセスであって、当該プロセスは、
g)廃繊維品材料を準備する工程と、
h)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
i)当該セルロースをグルコースに変換して、液相とポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントを含む固相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程と、
j)グルコースを含む当該液体混合物を得るために、当該液相を当該固相から分離する工程と、
k)当該固相から当該ポリエステル繊維または当該ポリエステルフィラメントを回収する工程とを含むことを特徴とするプロセス。
【請求項20】
当該廃繊維品材料は、セルロース繊維および非セルロース繊維を含み、かつ糸、生地および当該生地を含む製品から選択されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
NaOHおよび尿素を含む当該水溶液中のNaOHの量は1w/v%~15w/v%、好ましくは2w/v%~10w/v%、より好ましくは3w/v%~9w/v%であり、当該水溶液中の尿素の量は1w/v%~25w/v%、好ましくは3w/v%~20w/v%、より好ましくは5w/v%~15w/v%であることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項22】
NaOHと尿素の質量比(NaOH/尿素)が1.0/1.0~1.0/2.0、好ましくは1.0/1.5~1.0/2.0、より好ましくは1.0/1.5~1.0/1.8であることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項23】
当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する当該工程において、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液の体積に対する当該廃繊維品材料の質量は、1w/v%~20w/v%、好ましくは2w/v%~15w/v%、より好ましくは2.5w/v%~10w/v%、最も好ましくは5w/v%であることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項24】
当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する当該工程は、-25℃~+30℃、好ましくは-15℃~+25℃、より好ましくは4℃~+25℃、最も好ましくは+15℃~+25℃で行われることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項25】
当該前処理工程は、0.5時間~10時間、好ましくは1時間~8時間、より好ましくは2時間~7時間行われることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【請求項26】
当該廃繊維品材料は染料を含み、当該染料の少なくとも一部は、当該工程i)の前、好ましくは当該工程h)の前に当該廃繊維品材料から除去されるか、または、当該工程j)の後に、固相および液相を含む当該混合物の当該固相または当該液相から除去されることを特徴とする請求項19に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃繊維品材料を用いた微生物セルロースの生産プロセスに関する。より詳細には、本発明は、セルロース繊維および必要に応じて合成繊維を含む廃繊維品材料から出発する微生物セルロースの生産プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物セルロースは、最もよく知られ、研究されている細菌バイオポリマーの1つである。微生物セルロースは、植物セルロースと同じ化学式(C10)の有機化合物で、細菌などの特定の種類の微生物から細胞外ポリマーとして生産される。微生物セルロース、例えば細菌セルロースは、植物セルロースと同じ分子式を有するが、高分子特性が植物セルロースとは異なる。実際、微生物セルロースは、一般に植物セルロースよりも化学的に純粋であり(つまり、ヘミセルロースやリグニンを含まず)、より高い保水力、より高い引張強度、より高い重合度、より高い結晶化度を有する。このような特異な特性のため、微生物セルロースは、食品産業、医療分野(例えば、創傷被覆材や血管再生)、紙の修復など、いくつかの技術分野で応用されている。微生物セルロース(例えば細菌セルロース)の繊維分野への応用も知られている。
【0003】
「廃繊維品」としても公知である使用済み繊維品のリサイクルは、繊維品産業における主要な目標となっており、リサイクルのための新しい効率的なプロセスが活発に研究されている。その目標の1つは、廃繊維品に含まれる材料、例えば、廃繊維品に含まれる繊維を、微生物セルロースの生産プロセスなどの異なるプロセスで用いるのに好適な原料に変換することによって、リサイクルすることである。
【0004】
廃繊維品材料から細菌セルロースを得るプロセスは、当該技術分野で公知である。これらのプロセスにおいては、綿繊維を含む糸を含む生地を、酵素加水分解の前に、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)または1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムイオン液体などの有機塩で前処理することは公知である。
【0005】
例えば、特許文献1は、廃綿布から細菌セルロースを調製する方法を開示している。特許文献1による方法は、綿布をイオン液体中で90℃~130℃で15分~10時間前処理する工程を含む。次に、セルラーゼ酵素を添加して酵素加水分解し、酵素分解液を得る。この酵素分解液は、細菌セルロース生産細菌の培養培地を調製するために用いられる。
【0006】
特許文献2は、廃ポリエステル生地から細菌セルロースを調製する方法であって、水酸化バリウム溶液を添加し、生地を120℃~126℃の温度で90~100分間処理する工程を含む方法を開示している。加水分解後、沈殿物が生じなくなるまで硫酸を添加し、溶液のpH値を中性に調整し、遠心分離して上澄み液、すなわちポリエステル加水分解物を得る。このポリエステル加水分解物は、細菌セルロースを生産する細菌の培養培地を調製するための炭素源として用いられる。
【0007】
廃繊維品材料から微生物セルロースを得るための現在利用可能なプロセスには、いくつかの欠点がある。
【0008】
例えば、現在利用可能なプロセスでは、一般に、酵素によるグルコースへの変換効率が低下するが、出願人は、この効率低下の原因は、前処理後に得られる液相中に溶解したセルロースが存在すること、および/またはセルロースをグルコースに変換する前にセルロース繊維が少なくとも部分的に分解されることにあることに気付いた。例えば、非特許文献1による「Gluconacetobacter xylinus による細菌セルロース生産のための溶解前処理済み廃セルロース生地の酵素糖化」から、生地をイオン液体で処理するとセルロースが溶解することが公知である。セルロース含有繊維をイオン液体(NMMOまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([BMIM]Cl)など)または強酸(リン酸およびその溶液など)で処理すると、セルロースの大部分が溶解するため、セルラーゼ酵素による処理の前に、セルロースを固体の形で得るための再生工程が必要になる。従って、セルロース溶液は、セルロースをグルコースに酵素変換するための好適な出発物質ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願公開第102080114号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第111269953号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】CHIA-HUNG KUO他著、「JOURNAL OF CHEMICAL TECHNOLOGY AND BIOTECHNOLOGY」、第85 巻、第 10 号、1346-1352頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の問題に加えて、セルロース繊維(例えば、綿、リヨセル、ビスコース繊維)および非セルロース繊維(例えば、ポリエステル繊維などの合成繊維)の両方を含む廃繊維品に対して行われる現在利用可能なプロセスは、非セルロース材料、例えばポリエステル繊維の少なくとも部分的な劣化をもたらす。ポリマーの加水分解によるポリエステル繊維の劣化は、必要な機械的特性を有する新しいポリエステル繊維を押出成形するためにポリエステル繊維を溶融して再利用する可能性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0012】
一方、生地のセルロース繊維をグルコースに酵素変換する速度を高める方法を実現し、セルロース繊維から始まり(リサイクルされた)セルロース繊維で終わる循環型リサイクルプロセスの全体コストを削減することが必要である。
【0013】
さらに、現在利用可能なプロセスは、例えば、当該プロセスの条件を考慮すると、大量のエネルギーを必要とする。また、現在利用可能なプロセスで用いられる試薬(例えば、イオン液体)は、回収して再利用するために高価な化学プロセスを必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、廃繊維品を効果的に用いた微生物セルロースの生産プロセスを提供することである。特に、本発明の目的は、効率的で工業的規模での適用が容易なセルロースの糖化プロセスを提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、セルロース繊維と非セルロース合成繊維、特にポリエステル繊維の両方を含む廃繊維品に対して実施するのに好適な廃繊維品を用いた微生物セルロースの生産プロセスを提供することである。このプロセスは、綿およびセルロース繊維をほぼ含まない、合成繊維、例えばポリエステル繊維からなるか、または合成繊維を含む最終製品を提供すべきである。このプロセスは、本発明の処理を受ける繊維品中に存在するポリエステルまたは別の合成繊維の解重合を低減するか、または防止するのにも役立つべきである。
【0016】
また、本発明の目的は、エネルギー消費を低減することができる、廃繊維品を用いた微生物セルロースの生産プロセスを提供することである。
【0017】
これらの目的は、本発明としての請求項1に記載のプロセス、ならびに請求項2に記載のセルロース生地の酵素糖化プロセス、および請求項19に記載の混紡繊維品のリサイクルプロセスによって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の記載による。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のプロセスの一実施形態の模式図である。
図2】本発明のプロセスによる前処理の前後における例示的な廃繊維品材料のSEM画像である。
図3A】本発明のプロセスによって得られる例示的な細菌セルロースの顕微鏡画像である。
図3B図3Aの顕微鏡画像を異なる倍率で示した細菌セルロースの顕微鏡画像である。
図4A】本発明によって室温でNaOHおよび尿素を含む水溶液を用いて前処理を行った100%ポリエステル生地のSEM画像である。
図4B】本発明によって50℃の温度でNaOHおよび尿素を含む水溶液を用いて前処理を行った100%ポリエステル生地のSEM画像である。
図5A】本発明のプロセスによる前処理および酵素処理の前のSEM画像である。
図5B】本発明のプロセスによる前処理および酵素処理の後の例示的な廃繊維品のSEM画像である。特に、本発明のプロセスの実施形態によって、0℃で前処理を行い、セルラーゼで処理した後の例示的な廃繊維品材料を示している。
図5C】本発明のプロセスによる前処理および酵素処理の後の例示的な廃繊維品のSEM画像である。特に、本発明のプロセスの実施形態によって、室温で前処理を行い、セルラーゼで処理した後の例示的な廃繊維品材料を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、一態様によれば、本発明は、セルロース繊維の形態のセルロースを含む廃繊維品材料から微生物セルロースの生産プロセスに関し、当該プロセスは、
a)当該廃繊維品材料を準備する工程と、
b)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料を塩基、好ましくはNaOHおよびアミド、好ましくは尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
c)当該セルロースをグルコースに変換して、固相と液相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程と、
d)グルコースを含む液相混合物を得るために、当該液相を当該固相から分離する工程と、
e)グルコースを含む当該液相混合物を用いて微生物セルロース生産菌を含む微生物培養物を調製する工程と、
f)微生物セルロースを得るために当該微生物培養物を培養する工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
有利なことに、本発明は、廃繊維品材料から出発して微生物セルロースを効果的な方法で得ることができる。また、本発明は、省エネルギー、従って、コスト削減の方法で、廃繊維品材料から出発して微生物セルロースを得ることができる。
【0021】
可能な実施形態では、本発明のプロセスで得られる微生物セルロースは、微生物セルロースを再生セルロース繊維に変換するビスコースのようなプロセスにおける出発セルロース材料として用いられる。
【0022】
手頃な価格のセルロース前処理溶液による費用対効果とは別に、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド、例えばチオ尿素)の存在は、微生物セルロースの生産プロセスの以下の工程を強化する改善されたセルロース特性などの利点を実現する。さらに詳しくは、上記の試薬を指定の温度、特に室温で使用することで、酵素分解が促進され、酵素糖化後に得られるグルコースの収量が増加することが判明した。また、驚くべきことに、処理される繊維品、すなわち生地が、NaOH/尿素による前処理の工程を経た後に細断される(または、一般的には、そのサイズを縮小するプロセスにかけられる)と、セルロースからグルコースへの変換収率が高くなることがわかった。繊維品は細断される前に乾燥されることが好ましい。
【0023】
第一の理由は、NaOH および尿素による前処理中に溶解するセルロースの量が、以下の工程でセルラーゼの酵素活性を損なったり大幅に低下させたりしないほど少量であることだと考えられている。さらに、生地をNaOHおよび尿素で前処理する際に溶解するセルロースはごくわずかであるため、特に処理する生地の面積が大きい場合には、細断する前に、セルロース溶液に水を加えて溶解させた後にセルロースを固体として沈殿させる再生工程は不要である。さらなる理由としては、尿素の添加により自由水が捕捉され、水素結合によるセルロース鎖間の相互作用を防ぐことができ、また、この処理によりセルロースの結晶化度が低下し、セルロースの重合度の変化が無視できるほど小さくなるためであると考えられる。
【0024】
従って、本発明は、さらに、セルロースを含むセルロース繊維を構成する廃繊維品材料の酵素糖化プロセスに関し、当該酵素糖化プロセスは、
a)当該廃繊維品材料を準備する工程と、
b)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
c)当該セルロースをグルコースに変換して、固相と液相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程とを含み、
工程b)で得られる当該前処理済繊維品材料は、工程c)の前に、酵素糖化に好適な寸法を有する複数の断片に細断されることを特徴とする。
【0025】
実際のところ、本発明のプロセスで用いられる前処理により、セルロース繊維をグルコースに酵素変換するために必要な酵素の量が低減され、すなわち、酵素反応後に酵素を回収することを止めることが経済的に実行可能になるほど酵素の量が少なくなる。この効果により、セルラーゼ酵素を除去することなく、グルコース含有溶液を微生物セルロースを生産する基礎として用いることが可能になる。セルラーゼ酵素は、セルロース生産菌がグルコース + 酵素溶液に添加される前に実際に不活性化され、バイオセルロース生産のための窒素と炭素の供給源となる。
【0026】
実施形態では、塩基は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化リチウム(LiOH)、および炭酸ナトリウム(Na2CO3)から選択される。
【0027】
実施形態では、アミドは尿素およびチオ尿素から選択される。前処理溶液の好ましい実施形態では、塩基/アミド、すなわちNaOH/尿素の質量比は1.0/1.0~1.0/2.0、好ましくは1.0/1.5~1.0/2.0、より好ましくは1.0/1.5~1.0/1.8であり、好ましい質量比は約1.0/1.7である。
【0028】
前処理工程は、塩基(好ましくはNaOH)およびアミド(好ましくは尿素)を含む水溶液を用いて、-25℃~+30℃で行われるため、省エネルギーとなる。好適な温度は、-25℃~+25℃であり、好ましくは-10℃~+25℃、さらに好ましくは+10℃~+25℃、最も好ましくは室温、すなわち20℃±5℃である。実際、上記の温度、好ましくは +15℃ ~ +25℃でNaOHおよび尿素を含む水溶液を用いると、生地の糸が膨潤し (繊維は溶解しない)、セルロース繊維間に空間が生成され、セルラーゼ酵素がより利用しやすくなる前処理済みの生地が得られる。同時に、セルロース繊維の劣化レベルおよび溶解レベルが最小限に抑えられる。本発明のプロセスのさらなる利点は、混紡繊維品、例えば混紡生地において、この方法により混紡繊維品のポリエステル部分への損傷が最小限に抑えられる。つまり、ポリエステルフィラメントまたは繊維の劣化が最小限に抑えられ、ポリエステル材料を回収してリサイクルできるようになる。
【0029】
本プロセスでは、NaOHおよび尿素の水溶液は、セルロースの非晶質領域を加水分解するマーセル化処理と同様に、セルロースI構造をセルロースII構造に変換することにより、結晶性セルロース構造を改質する。有利なことに、セルロースがII構造を有する場合、セルラーゼ酵素は、I構造を有するセルロースと比較して、セルロースをグルコースに変換するのにより効果的であることが観察されている。天然綿のセルロースは、ほとんどがセルロースI構造であることがわかっている。NaOH/尿素による前処理後、セルロースは、ほとんどがセルロースII構造になる。前述のように、セルロースI構造は、セルロースII構造に比べて、セルラーゼ酵素によってグルコースに変換されにくい。実際、セルロースI構造 は、酵素加水分解に対してより耐性がある。セルロースIは高度に秩序化された構造を持っているため、セルラーゼ酵素がセルロース鎖にアクセスして加水分解することがより困難となる。一方、セルロースIIは、より無秩序な構造を持っているため、セルラーゼ酵素がよりアクセスしやすく、加水分解されやすくなる。特定の科学的説明に縛られることなく、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)の水溶液を用いた前処理は、セルロースIをセルロースIIに変換するために用いることができ、それによって、メルカプト化プロセスで発生するのと同様に、溶解するセルロースの量を最小限に抑えながら、セルラーゼ酵素へのセルロースのアクセス性を高め、セルロース加水分解の効率を高めることができることが観察されている。
【0030】
さらに、NaOHおよび尿素による処理は、セルロースの非晶質領域の膨潤および溶解を促進し、不純物の抽出を可能にし、繊維の表面積および反応性を増加させ、酵素前処理の準備を整える。換言すれば、本発明の前処理工程は、処理された繊維品、特に生地の糸におけるセルロース繊維の表面積を増加させ、セルラーゼ酵素と接触させることができるため、前処理された糸または生地をセルラーゼで処理すると、セルロースのグルコースへの酵素変換の効率が劇的に増大する。また、水溶液を-25℃~+30℃、好ましくは0℃ ~室温で用いると、特にプロセスが室温で行われる場合、エネルギー消費を削減し、全体的なコストを削減することができる。
【0031】
換言すれば、本発明によるプロセスは、公知のプロセスに比べて低コストで、かつプロセスの有効性を損なうことなく、廃繊維品材料から微生物セルロースを得ることを可能にする。有利なことに、本発明のプロセスは、前処理工程中のセルロース繊維の劣化および/または溶解を劇的に低減することを可能にし、その結果、セルロースのグルコースへの効率的な変換が得られる。有利なことに、本発明のプロセスは、塩基、好ましくは NaOHおよびアミド、好ましくは尿素を含む水溶液による前処理後に固体セルロースを再生する工程を含まない、すなわち、必要としない。
【0032】
さらに、本発明のプロセスは、廃繊維品に天然繊維(例えば綿繊維)および合成繊維(例えばポリエステル繊維)の両方が含まれる場合に特に好適である。実際、塩基(好ましくは NaOH)およびアミド(好ましくは尿素)を含む水溶液を、-25℃~+30℃、好ましくは室温(20℃ ± 5℃)で用いると、ポリエステル繊維(または別の合成繊維)の劣化が低減された前処理済み生地が得られ、これを回収してリサイクルおよび再利用することができる。有利なことに、本発明のプロセスは、セルロースをグルコースに効果的かつ完全に変換し、出発繊維品材料がセルロースおよび非セルロース材料を含む廃繊維品材料である場合にも、微生物セルロースの生産において高い収率を得ることを可能にする。
【0033】
実施形態によれば、廃繊維品材料は、セルロース繊維および非セルロース繊維の形態のセルロースを含む。
【0034】
実施形態では、セルロース繊維は、植物繊維、人工セルロース繊維、リサイクル植物繊維、リサイクル人工セルロース繊維、およびそれらの混合物から選択されるバージン繊維またはリサイクル繊維である。実施形態によれば、植物繊維は、綿繊維、麻繊維、亜麻(リネン)繊維、黄麻繊維、ココヤシ繊維、サイザル麻繊維、アバカ繊維(マニラ麻繊維)、カポック繊維、ラミー繊維、ケナフ繊維、アガベ繊維、ヘネケン繊維、蓮繊維、イラクサ繊維、サトウキビバガス繊維、パイナップルの葉繊維、バナナの木の幹繊維、稲わら繊維、およびそれらの混合物から選択することができる。実施形態によれば、人造セルロース繊維は、ビスコース繊維、リヨセル繊維、モダール繊維、アセテート繊維、キュプロ繊維、カルバメート繊維、およびそれらの混合物から選択することができる。実施形態では、セルロース繊維は、綿繊維、ビスコース繊維、およびそれらの混合物から選択される。
【0035】
実施形態では、非セルロース繊維は、合成繊維、生合成繊維、リサイクル合成繊維、リサイクル生合成繊維、およびそれらの混合物から選択される。
【0036】
実施形態によれば、合成繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、エラスタン繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、CO2系繊維、およびそれらの混合物から選択されるバージン繊維またはリサイクル繊維である。例えば、ポリエステル繊維は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)繊維、ポリブチレンサクシネート(PBS)繊維、ポリブチレンアジペートコテレフタレート(PBAT)繊維、ポリ乳酸(PLA)繊維、またはポリヒドロキシアルカノエート(PHA)繊維とすることができる。リサイクル繊維を、リサイクルポリマーから繊維を作ることによっても得ることができる。例えば、リサイクルポリエステル繊維を、廃繊維品、例えば綿ポリエステル生地から得られるリサイクルポリエステルポリマーから得ることができる。
【0037】
生合成繊維は、化石由来繊維、バイオ由来繊維、およびそれらの混合物から選択することができる。化石由来生合成繊維は、ポリ乳酸繊維(PLA)繊維、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)繊維、ポリウレタン(PU)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンサクシネート(PBS)繊維、ポリブチレンアジペートコテレフタレート(PBAT)繊維、およびそれらの混合物から選択することができる。実施形態によれば、バイオ由来の生合成繊維は、バイオ由来のポリ乳酸繊維(バイオPLA)繊維、バイオ由来のポリヒドロキシアルカン酸(バイオPHA)繊維、バイオ由来のポリウレタン(バイオPU)繊維、バイオ由来のポリトリメチレンテレフタレート(バイオPTT)繊維、バイオ由来のポリブチレンサクシネート(バイオPBS)繊維、バイオ由来のポリブチレンアジペートコテレフタレート(バイオPBAT)繊維、およびそれらの混合物から選択することができる。実施形態によれば、リサイクル合成繊維は、リサイクルポリエチレンテレフタレート(rPET)繊維、リサイクルポリアミド(ナイロン)繊維、リサイクルエラスタン繊維、リサイクルポリプロピレン(PP)繊維、リサイクルアクリル繊維、リサイクルポリウレタン(PU)繊維、リサイクルポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンサクシネート(PBS)繊維、およびそれらの混合物から選択される。
【0038】
実施形態によれば、廃繊維品材料は、衣類、生地または糸から選択され、一般に、このプロセスは生地および衣類に対して行われる。実施形態によれば、廃繊維品材料は衣類である。例えば、生地または衣類は、綿の生地または衣類(すなわち、綿100%の生地または衣類)とすることができ、または綿および/またはビスコース繊維、場合によってはポリエステル繊維および/またはエラスタン繊維の組み合わせを含むことができる。実施形態では、廃繊維品材料は、ビスコース(または綿、またはビスコースと綿の両方)、ポリエステル、およびエラスタンを含む廃繊維品である。実施形態によれば、廃繊維品材料は、ポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントとセルロース繊維とを含む混紡繊維品材料である。
【0039】
実施形態によれば、廃繊維品材料は、NaOHおよび尿素を含む水溶液で当該廃繊維品材料を前処理する工程の前に洗浄することができる。
【0040】
実施形態では、廃繊維品材料中に必要に応じて存在する、例えば、ラベルタグ(例えば、皮革またはポリウレタン製)、ボタン、ジッパー(例えば、アルミニウム、真鍮またはプラスチック製)などの非繊維品要素は、必要に応じて洗浄後に、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の前に除去される。非繊維品要素の除去は、当該技術分野でそれ自体公知の技術および/または機械を用いて、手動で、および/または自動で行うことができる。
【0041】
実施形態によれば、このプロセスは、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の前または後に、廃繊維品材料を選別する工程をさらに含むことができる。好ましくは、このプロセスは、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の前に、廃繊維品材料を選別する工程をさらに含む。実施形態では、この選別は、色、廃繊維品材料中に存在する染料の種類(例えば、藍、硫化染料、または黒色反応性染料)、繊維品(例えば、生地)の組成、セルロースの質量パーセント、非セルロース成分、またはそれらの組み合わせに基づいて行われる。例えば、色および/または繊維品(例えば、生地および/または衣類)の組成に基づく繊維品(例えば、生地および/または衣類)の近赤外線(NIR)選別は、当該技術分野で公知である。
【0042】
実施形態によれば、廃繊維品材料には染料が含まれる。染料が存在する場合、本発明の方法は、好ましくは、繊維品をセルラーゼで処理する工程の前に、好ましくは、当該廃繊維品をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程の前に、廃繊維品材料から染料の少なくとも一部を除去する工程を含む。有利なことに、セルラーゼによる酵素工程の前に廃繊維品材料から染料を除去すると、セルロースからグルコースへの特に効率的な変換が得られる。
【0043】
実施形態によれば、染料は、それ自体当該技術分野で公知の技術を用いて除去することができる。実施形態によれば、染料は、オゾン洗浄、還元溶液による洗浄、例えばソックスレー抽出器を用いた染料の抽出、およびそれらの組み合わせから選択される方法によって廃繊維品材料から除去することができる。
【0044】
実施形態によれば、染色された廃繊維品材料を、好ましくは60℃~80℃(例えば70℃)で、好ましくは密閉式洗濯機内で、NaOHおよび亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)を含む還元溶液で処理することにより、廃繊維品材料から染料を除去することができる。実施形態によれば、還元溶液中のNaOH の濃度は、1g/L~60g/L、好ましくは 10g/L ~ 30 g/L、より好ましくは15g/L ~22.5g/Lである。還元溶液中の亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)の濃度は 、1g/L~ 30g/L 、好ましくは 5g/L ~ 15g/L、より好ましくは 7.5g/L~ 10g/Lである。
【0045】
実施形態によれば、このプロセスは、好ましくは、NaOH および尿素を含む当該水溶液で当該廃繊維品を前処理する工程の後に、廃繊維品材料のサイズを縮小する工程をさらに含む。例えば、前処理済繊維品材料は、必要に応じて染料の少なくとも一部を除去した後、当該前処理済繊維品をセルラーゼで処理する工程の前に切断または細断することができる。この場合、有利なことに、前処理済繊維品材料とセルラーゼとの接触面積が増加する。実施形態では、工程b)における前処理済繊維品は、工程c)の前に、酵素糖化に好適な寸法を有する複数の断片に細断される。例えば、工程b)で得られる繊維は、工程c)の前に、平均寸法が 0.5mm2(0.005cm2)~ 2500mm2(25cm2)、好ましくは 1mm2(0.01cm2)~ 625mm2(6.25cm2)、より好ましくは 10mm2(0.1cm2)~400mm2(4cm2)、例えば面積が 100mm2の複数の断片に細断される。
【0046】
さらに、廃繊維品材料を細断する前に前処理することにより、前処理工程で溶解するセルロースの量が減少する。すなわち、セルロースからグルコースへの酵素変換を危険にさらすことなく、NaOHおよび尿素を含む水溶液による前処理中に溶解するセルロースの量が減少する。さらに、廃繊維品材料にポリエステル繊維などの非セルロース繊維が含まれている場合、前処理工程後に繊維材料を切断または細断することにより、前処理工程の前の切断または細断により失われる可能性のある非セルロース材料(ポリエステルなど)の量を減らすことができる。また、廃繊維品材料にポリエステル繊維などの非セルロース繊維が含まれている場合、前処理工程後に繊維品材料を切断または細断することにより、NaOH/尿素溶液が非セルロース材料(ポリエステルなど)に及ぼす可能性のある悪影響を軽減または回避することができる。有利なことに、NaOHおよび尿素を含む水溶液による前処理工程の前に繊維品材料を切断または細断すると、ポリエステル粒子の一部が NaOH/尿素溶液によって失われるため、前処理工程の後に繊維品材料を切断または細断することで、より多くの非セルロース材料 (例えば、ポリエステル繊維) を回収することができる。
【0047】
細断は、当該技術分野で公知であるように、機械的に行うことができる。一実施形態では、廃繊維品を断熱容器に移し、廃繊維品に液体窒素を注ぐ。このようにして得られる凍結した廃繊維品は、1mm ~5mm の小片が得られるまで粉砕される。平均サイズは1mmが好ましい。サイズが小さくなった粒子は、次にセルラーゼ処理などの本発明のプロセス工程によって処理される。有利なことに、前処理される生地のサイズはかなり大きくすることができ、例えば、幅が約 180cm、長さが 4~6mとすることができる。同様に、非繊維品要素が除去された衣類は、最初に前処理され、その後 NaOH/尿素で前処理した後にのみ細断することができる。
【0048】
前述のように、廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程は、セルラーゼによる生地セルロースのグルコースへの酵素変換の時間と効率の点で、改善された結果をもたらす。特定の科学的説明に束縛されることなく、-25℃~+30℃、好ましくは+10℃~+25℃、より好ましくは+15℃~+25℃の室温で、NaOHおよび尿素を含む水溶液で廃繊維品材料を前処理する本発明は、繊維品材料が膨潤し、セルラーゼ酵素を用いて、セルロースのグルコースへの効果的な変換ができることが観察されている。換言すれば、本発明の前処理により、膨潤としても知られる効果で繊維品の繊維の分離(例えば、繊維間の距離の増加)が生じ、セルラーゼ酵素がセルロース鎖に効果的に到達できるようになり、それによってセルロースがグルコースに効果的に変換されることが観察されている。
【0049】
実施形態によれば、NaOHおよび尿素を含む水溶液は、1w/v%~15w/v%(質量体積パーセント)、好ましくは2w/v%~10w/v%、より好ましくは3w/v%~9w/v%のNaOHを含む。例えば、NaOHおよび尿素を含む水溶液は、6w/v%~8w/v%、例えば7w/v%のNaOHを含むことができる。
【0050】
実施形態によれば、NaOHおよび尿素を含む水溶液は、1w/v%~25w/v%、好ましくは3w/v%~20w/v%、より好ましくは 5w/v% ~15w/v% の尿素を含む。例えば、NaOHおよび尿素を含む水溶液は、11w/v% ~13w/v%、例えば12w/v%の尿素を含むことができる。
【0051】
実施形態によれば、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程において、この廃繊維品材料は、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液の体積に対して1w/v%~20w/v% 、好ましくは2w/v%~15w/v% 、より好ましくは2.5w/v%~10w/v% の範囲の質量である。例えば、廃繊維品材料は、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液の体積に対して、3w/v%~7w/v%、好ましくは3.5w/v%~6.5w/v%、より好ましくは4w/v%~6w/v%、例えば5w/v%の範囲の質量とすることができる。
【0052】
実施形態によれば、当該廃繊維品材料を、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程は、-15℃~+25℃で、好ましくは室温、すなわち+15℃~+25℃で行われる。
【0053】
実施形態によれば、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程は、0.5時間~10時間、好ましくは1時間~8時間、より好ましくは2時間~7時間の継続時間を有する。例えば、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程は、4時間~6時間、例えば5時間の継続時間を有することができる。
【0054】
例えば、当該廃繊維品材料を前処理する工程は、3w/v%~9w/v%、好ましくは6w/v%~8w/v%のNaOHと、5w/v%~15w/v%、好ましくは11w/v%~13w/v%の尿素とを含むNaOHおよび尿素を含む水溶液を用いて、-15℃~+25℃で、好ましくは室温で、1時間~8時間、より好ましくは2時間~7時間実施することができる。一実施形態では、約7w/v% NaOH、12w/v%尿素を含む前処理溶液を室温で2時間用いて、綿/ポリエステル混紡生地(5w/v%)の繊維の必要な分離 (たとえば、繊維の膨潤による分離) を実現する。
【0055】
実施形態によれば、NaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の後に得られる前処理済み繊維品を洗浄する。洗浄は、例えば弱酸溶液(例えば酢酸溶液)または水で行うことができる。水は、例えば水道水、蒸留水、逆浸透水、またはそれらの混合物とすることができる。洗浄は、好ましくは10℃~30℃、好ましくは15℃~28℃、例えば25℃で行われる。実施形態によれば、洗浄工程後、前処理済繊維品の水性抽出後のpHは6~8、好ましくは6.5~7.5、例えば7である。前処理済繊維品の水性抽出後のpHは、ISO 3071:2020の規格に準じて測定される。
【0056】
実施形態によれば、NaOH および尿素を含む水溶液で前処理する工程の後、および必要に応じて洗浄した後に、得られる繊維品を乾燥する。例えば、乾燥は、回転式乾燥機またはコンベアベルト乾燥機などの当該技術分野でそれ自体公知の工業用乾燥機で、50℃~100℃で、好ましくは70℃~90℃で、例えば90℃で行われる。実施形態によれば、NaOH および尿素を含む水溶液で前処理する工程の後に得られる繊維品は、前処理済繊維品材料のサイズを縮小するために、必要に応じて洗浄した後、必要に応じて乾燥した後、切断または細断(例えば、小片または断片に)される。例えば、NaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の後に得られる繊維品は、平均寸法(面積)が0.5mm2(0.005cm2)~2500mm2(25cm2)、好ましくは1mm2(0.01cm2)~625mm2(6.25cm2)、より好ましくは10mm2(0.1cm2)~400mm2(4cm2)、例えば100mm2(1cm2、例えば1x1cm)である複数の断片に切断または細断される。
【0057】
実施形態によれば、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)を含む水溶液で繊維品を前処理する工程の後、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)を含む水溶液は再利用することができる。実施形態によれば、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)を含む水溶液は、1~20回、好ましくは5~15回、より好ましくは8~12回、例えば10回再利用することができる。実施形態では、必要に応じて、再利用する前に、NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)の濃度を調整することができる。例えば、必要に応じて、NaOH 濃度は1w/v%~15w/v%、好ましくは2w/v%~10w/v%、より好ましくは3w/v%~9w/v%の範囲に調整することができる。例えば、必要に応じて、尿素濃度は1w/v%~25w/v%、好ましくは3w/v%~20w/v%、より好ましくは5w/v%~15w/v%の範囲に調整することができる。
【0058】
実施形態によれば、当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む当該水溶液で前処理する工程は、反応チャンバで行われ、NaOHおよび尿素を含むこの水溶液は、当該反応チャンバの廃繊維品材料に供給され、当該廃繊維品を通して循環される。好ましくは、廃繊維品は静止状態、すなわち静的状態にあり、前処理済繊維品を提供するために、NaOHおよび尿素を含む溶液が廃繊維品に循環される。NaOHおよび尿素を含む水溶液が当該廃繊維品に循環されることで、前処理の時間を特に短くすることができる。
【0059】
NaOH(または別の塩基)および尿素(または別のアミド)を含む水溶液で言及した「循環される」という用語は、溶液が繊維品を通して、かつ繊維品が保持されている反応チャンバを通して強制的に流れが生ずることと定義される。この流れは、好ましくは、溶液を反応チャンバに供給して繊維品および反応チャンバを通過させるポンプによって行われる。溶液は反応チャンバから出て、その後再び反応チャンバに戻され、繊維品と反応チャンバを通って再び循環する。実施形態によれば、NaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の後に得られる前処理済み繊維品を洗浄する際に、NaOHおよび尿素を含む溶液と同様に、洗浄溶液を繊維品に複数回循環させることもできる。実施形態では、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液で当該廃繊維品材料を前処理する工程を行うプラントは、典型的には反応チャンバへの入口および出口を含む流体回路を備える。好ましくは、この実施形態では、浴比、すなわち溶液の体積に対する生地の質量は、NaOHおよび尿素を含む当該水溶液の体積に対して5w/v%である。
【0060】
「静止」状態または「静的」状態という用語は、繊維品が反応チャンバに収容され、NaOHおよび尿素を含む水溶液(または洗浄液)が繊維品を通して供給される間、そこに保持されていることと定義される。繊維品は、溶液とともに移動しないように、すなわち、溶液の流れの作用下で変位しないように、反応チャンバ内を満たす。実施形態では、繊維品は反応チャンバ内で圧縮されている。
【0061】
一態様によれば、本発明のプロセスは、繊維品中に存在するセルロースをグルコースに変換するために、NaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理して得られる繊維品材料をセルラーゼで処理する工程をさらに含む。
【0062】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料は、セルラーゼ、すなわちセルラーゼ酵素を含む溶液で処理される。
【0063】
実施形態によれば、セルラーゼを含む溶液の体積に対する前処理済繊維品材料の質量は、1w/v%~20w/v%、好ましくは2w/v%~15w/v%、より好ましくは2.5w/v%~10w/v%である。例えば、5gの前処理済み廃繊維品を、セルラーゼを含む溶液100mLで処理することができる。この場合、前処理済み繊維品材料は、セルラーゼを含む溶液の体積に対して5w/v%である。
【0064】
実施形態によれば、セルラーゼは、酵素活性がセルロース1gあたり1FPU(Filter Paper Unit濾紙単位)からセルロース1gあたり50FPU、好ましくはセルロース1gあたり10FPUからセルロース1gあたり30FPU、より好ましくはセルロース1gあたり15FPUからセルロース1gあたり25FPUとなるような量である。セルラーゼの酵素活性は、当該技術分野でそれ自体公知の方法に準じて測定することができる。例えば、セルラーゼの酵素活性は、Adney B. および Baker J.、「セルラーゼ活性の測定」、国立再生可能エネルギー研究所、1996年、または Selig M.、Weiss N.、および Ji Y.、「リグノセルロース系バイオマスの酵素糖化」、国立再生可能エネルギー研究所、2008年に準じて測定することができる。本発明によって用いるのに好適なセルラーゼは、それ自体、当該技術分野で公知である。例えば、現在市販されている好適な製品である Novozymes Cellic(登録商標)CTec3 HS、AB Enzyme ‐ Flashzyme Plus 200、Novozymes Cellic(登録商標)CTec2、および Novozymes Cellusoft(登録商標)AB Conc を用いることができる。
【0065】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する酵素工程は、30℃~70℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは45℃~55℃で行われる。例えば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、50℃で行うことができる。
【0066】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、10分~144時間、好ましくは30分~96時間、より好ましくは12時間~72時間、さらに好ましくは18時間~48時間、さらにより好ましくは20時間~36時間行われる。例えば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、24時間行うことができる。
【0067】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、5rpm~200rpm(revolutions per minute毎分回転数)、例えば50rpm~100rpmで撹拌しながら行うことができる。好ましくは、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する酵素工程は、撹拌せずに行われる。
【0068】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、pH3.0~6.0、好ましくはpH4.0~5.0で行われる。例えば、前処理された繊維材料をセルラーゼで処理する工程は、pH5.0で行うことができる。
【0069】
実施形態によれば、前処理された繊維材料には染料が含まれており、染料の少なくとも一部は前処理された繊維材料から除去される。換言すれば、実施形態では、廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程の後、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程の前に、染料の少なくとも一部を除去することができる。
【0070】
好ましい実施形態では、前処理済繊維品材料は染色されていない。換言すれば、実施形態では、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、染色されていない前処理済繊維品材料に対して行われる。
【0071】
例えば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、セルロース1グラムあたり1FPU(Filter Paper Unit濾紙単位)からセルロース1グラムあたり50FPU、好ましくはセルロース1グラムあたり10FPUからセルロース1グラムあたり30FPU、より好ましくはセルロース1グラムあたり15FPUからセルロース1グラムあたり25FPUのセルラーゼ酵素を含む水溶液を用いて、30℃~70℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは45℃~55℃で、10分~144時間、好ましくは30分~96時間、より好ましくは12時間~72時間、さらに好ましくは18時間~48時間、さらにより好ましくは20時間~36時間、撹拌せずに行うことができる。
【0072】
実施形態によれば、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程の最後に、固相と液相とを含む混合物が得られる。例えば、固相には、廃繊維品材料に含まれていた非セルロース繊維(例えば、ポリエステル繊維)と、必要に応じて、存在する場合には不溶性染料(例えば、藍染料および硫化染料)と、必要に応じて、未消化のセルロース繊維および材料を含むことができる。例えば、液相は、前処理済繊維品材料の処理に用いられるセルラーゼ溶液、グルコース、および、必要に応じて、存在する場合には可溶性染料(反応性黒色染料など)を含むことができる。
【0073】
一態様によれば、本発明のプロセスは、グルコースを含む液体混合物を得るために、当該固相から当該液相を分離する工程を含む。
【0074】
実施形態によれば、この廃繊維品材料が非セルロース繊維を含む場合、当該非セルロース繊維は、例えば、当該分離工程の後に、固相および液相を含む当該混合物の当該固相から回収される。
【0075】
実施形態によれば、固相から液相の分離は重力によって行うことができ、好ましくは重い物質(ポリエステル、エラスタン)が反応器の底に沈殿するのを待ってから上澄みの液相を排出する。さらに、または代替的に、固相から液相の分離は、好ましくは0.3mm~0.5cmの孔径を有する篩を介する、好ましくは5000rpm(revolutions per minute毎分回転数)~50000rpmの速度での遠心分離を介する、またはそれらの組み合わせを含む濾過または多段濾過(逐次カスケード濾過としても公知である)の工程を含むことができる。例えば、実施形態では、固相および液相を含む混合物を、好ましくは孔径0.3mmの篩を用いて濾過することができる。実施形態では、固相および液相を含む混合物、または液相を、例えば9000rpmで30分間遠心分離することができる。遠心分離後に得られる上清は、グルコースを含む液体混合物として回収することができる。換言すれば、分離工程後に、例えば、固相から液相を分離した後に(例えば、濾過もしくは多段濾過、遠心分離を介して、またはそれらの組み合わせを用いて)、得られる液相は、グルコースを含む液体混合物として回収することができる。好適な分離器は、清澄器、特に食材用の清澄器である。
【0076】
実施形態によれば、セルラーゼ酵素は液相から回収することができ、好ましくは再利用することができる。セルラーゼ酵素は、例えば透析または限外濾過など、当該技術分野でそれ自体が公知の技術を用いて回収することができる。実施形態によれば、回収したセルラーゼ酵素は、1~10回、好ましくは2~8回、より好ましくは2~5回、例えば3回再利用することができる。実施形態において、セルラーゼ量を必要に応じて調整することができる。例えば、必要に応じて、酵素活性がセルロース1グラム当たり1FPU(Filter Paper Unit濾紙単位)からセルロース1グラム当たり50FPU、好ましくはセルロース1グラム当たり10FPUからセルロース1グラム当たり30FPU、より好ましくはセルロース1グラム当たり15FPUからセルロース1グラム当たり25FPUとなるように、セルラーゼ量を再利用のために調整することができる。
【0077】
実施形態によれば、セルラーゼ酵素は回収され、分離工程後に得られる固相を処理するため、および/または1種以上の追加の前処理された廃繊維品材料を処理するために再利用することができる。
【0078】
実施形態によれば、セルラーゼ酵素は、分離工程後に得られる固相を処理するために、例えば1~10回、好ましくは2~8回、より好ましくは2~5回、例えば3回、回収して再利用することができる。分離工程後に得られる固相を処理するためにセルラーゼ酵素を再利用すると、セルラーゼによる前回の処理または複数回の処理で消化されなかったセルロース繊維および材料を消化することができ、その結果、セルロースからグルコースへの変換収率が向上する。固相の酵素処理により、上記のように固相および液相を含む混合物がさらに得られる。
【0079】
実施形態によれば、1種以上の追加の前処理された廃繊維品材料を処理するために、セルラーゼ酵素は、例えば1~10回、好ましくは2~8回、より好ましくは2~5回、例えば3回、回収して再利用することができる。
【0080】
実施形態によれば、固相および液相を含む当該混合物の当該固相または当該液相から、好ましくは当該固相から当該液相を分離する当該工程の後に、染料の少なくとも一部を除去および/または回収することができる。例えば、染料を液相から除去および/または回収する場合、液相を活性炭カラムに通すことによって染料を液相から除去することができる。
【0081】
一態様によれば、本発明のプロセスは、好ましくは分離工程後に得られるグルコースを含む混合物を用いて微生物培養物を調製する工程を含み、この微生物培養物は、微生物セルロース生産菌を含む。
【0082】
実施形態によれば、グルコースを含む混合物を用いて微生物培養物を調製する工程は、当該グルコースの濃度を高めるために、必要に応じて、グルコースを含む混合物を濃縮する工程を含む。有利なことに、グルコースを含む混合物を濃縮することにより、混合物の体積が減少するので、混合物の取り扱いおよび、必要に応じて、混合物の保管が容易になる。実施形態によれば、濃縮工程は、熱交換器、ロータリーエバポレーター、真空エバポレーター、またはそれらの組み合わせを用いて行うことができる。グルコースを含む混合物を、熱交換器中で、例えば、100℃で、1時間~12時間処理することによって、必要に応じて、濃縮すべきグルコースを含む混合物の体積および/または得られる最終グルコースの濃度に応じて、グルコースを含む混合物中のグルコースの濃度を増加させることができる。
【0083】
実施形態によれば、グルコースを含む混合物中のグルコースの量は、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法を用いて測定することができる。DNS法は、それ自体、当該技術分野で公知の方法である。DNS法は、例えば、Ghose, T.K., 1987,“セルラーゼ活性の測定”, Pure & Applied Chemistry 59:257-268およびMiller G.L., 1959, “還元糖の測定のためのジニトロサリチル酸試薬の使用”, Analytical Chemistry 31:426-428に開示されている。
【0084】
実施形態では、セルロースがグルコースに変換される割合が決定される。好ましくは、セルロースがグルコースに変換される割合は、以下の式を用いて計算される。
セルロース変換率(%)=((酵素加水分解により遊離したグルコース(g/L)×反応体積(L))/(基質質量(g)×セルロース含有量(%)))×0.9×100%
ここで、「酵素溶液から遊離されるグルコース」は、DNS法を用いて決定される。「反応体積」は、前処理済繊維品の処理に用いるセルラーゼを含む溶液の体積である。「基質質量」は、廃繊維品材料の初期質量である。「セルロース含有量」は、廃繊維品材料の初期質量に対する割合で表される廃繊維品材料中のセルロースの量であり、「0.9」は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
【0085】
実施形態によれば、グルコースを含む当該混合物を用いて微生物培養物を調製する工程は、グルコースを含む当該混合物中のグルコースの濃度を10g/L~30g/L、好ましくは15g/L~25g/Lの濃度に調整する工程を含む。実施形態によれば、グルコースを含む当該混合物中のグルコースの濃度を調整する工程を含むことは、グルコースを含む混合物を濃縮することによって、グルコースを含む混合物を希釈することによって、またはそれらの組み合わせによって行うことができる。例えば、グルコースを含む混合物を濃縮し、グルコースを含む濃縮された混合物中のグルコースの量を測定した後、必要な濃度のグルコース、例えば、10g/L~30g/L、好ましくは15g/L~25g/Lの濃度のグルコースを得るために希釈することができる。実施形態では、グルコースを含む混合物を濃縮せずに、必要な濃度を得るために希釈することができる。実施形態では、分離工程後に得られる液相から透析によってセルラーゼを除去すると、グルコースを含む混合物中のグルコース濃度が低下する。この場合、混合物中のグルコースの濃度を、グルコースの必要な濃度、例えば、10g/L~30g/L、好ましくは15g/L~25g/Lの濃度のグルコースを得るように調整することができる。
【0086】
実施形態によれば、グルコースを含む混合物は、滅菌され、好ましくはオートクレーブで滅菌される。この場合、有利なことに、混合物中に存在し得る酵素は不活性化され、微生物セルロース生産菌のアミノ酸源として用いることができる。実施形態では、セルラーゼ酵素は、分離工程後に得られる液相から除去されない。実施形態では、必要に応じて、混合物中のアミノ酸の濃度を調整することができる。例えば、混合物中のアミノ酸の濃度は、混合物にペプトンを添加することによって調整することができる。例えば、酵素を回収し、追加の前処理済み繊維品の処理に再利用する場合、追加の窒素源および炭素源(ペプトンなど)を添加することができる。実際、追加のそれぞれの繊維品の酵素処理により、混合物中のグルコースが増加し、その結果、グルコースを含む混合物中のアミノ酸の量が不足する。実施形態では、酵素が回収され、追加の前処理済繊維品を処理するために再利用される場合、セルラーゼ酵素は、最後の繊維品の酵素処理後に行われる分離工程の後に得られる液相から除去されない。実施形態では、セルラーゼ酵素が回収され、分離工程後に得られる固相の処理(すなわち、単一の出発廃繊維品材料から得られる固相に対して行われる第2の酵素処理)に再利用される場合、追加の窒素源および炭素源(ペプトンなど)は必要とされない可能性がある。実施形態では、セルラーゼ酵素が回収され、分離工程後に得られる固相の処理(すなわち、単一の出発廃繊維品材料から得られる固相に対して行われる第2の酵素処理)に再利用される場合、セルラーゼ酵素は、最後の酵素処理後に行われる最後の分離ステップ後に得られる液相から除去されない。
【0087】
一態様によれば、グルコースを含む混合物は、好ましくは、当該混合物中のグルコース濃度が10g/L~30g/L、好ましくは15g/L~25g/L、例えば20g/Lであり、微生物培養物の調製のための「廃繊維品グルコース」(WTG)培地として用いることができる。
【0088】
実施形態によれば、グルコースを含む混合物を用いて微生物培養物を調製する工程は、グルコースを含む混合物を、微生物セルロース生産菌を含むスターター微生物培養物と混合する工程を含む。
【0089】
実施形態によれば、微生物培養物中のグルコースを含む当該混合物の量は、微生物培養物の質量の99質量%~80質量%、好ましくは95質量%~85質量%である。
【0090】
実施形態によれば、微生物培養物中の微生物セルロース生産菌を含むスターター微生物培養物の量は、微生物培養物の質量の1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%である。
【0091】
本明細書で用いる場合、「スターター微生物培養物」という用語は、一群の培地に接種して発酵させるために、通常少量用いられる菌の培養物を指す。スターター培養物は、通常、実際に発酵を行う微生物学的培養物であり、発酵プロセスを開始するために培地に添加される。
【0092】
実施形態によれば、グルコースを含む当該混合物を用いて微生物培養物を調製する工程は、グルコースを含む当該混合物に少なくとも1種の添加剤を添加する工程を含み、当該添加剤は、好ましくはチタン(IV)ビス(乳酸アンモニウム)二水酸化物(TiBALDH)、グリセロール、アスコルビン酸、エテホン(2-クロロエチルリン酸)およびそれらの混合物から選択される。
【0093】
有利なことに、1種以上の添加剤を用いると、得られる微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)の量は、添加剤を用いない場合に得られる量に比べて増加する。
【0094】
実施形態によれば、添加剤は、チタン(IV)ビス(乳酸アンモニウム)二水酸化物(TiBALDH)であり、好ましくは0.0005w/v%~1w/v%、より好ましくは0.0025w/v%~0.4w/v%、さらに好ましくは0.05w/v%~0.3w/v%、例えば0.25w/v%である。
【0095】
実施形態によれば、添加剤は、グリセロールであり、好ましくは0.1w/v%~10w/v%、より好ましくは0.5w/v%~2w/v%、さらに好ましくは0.75w/v%~1.5w/v%、例えば1w/v%である。
【0096】
実施形態によれば、添加剤は、アスコルビン酸であり、好ましくは0.05w/v%~10w/v%、より好ましくは0.25w/v%~2w/v%、さらに好ましくは0.3w/v%~1w/v%、例えば0.5w/v%である。
【0097】
実施形態によれば、添加剤は、エテホン(2-クロロエチルリン酸)であり、好ましくは0.001mM~10mM、より好ましくは0.005mM~2mM、さらに好ましくは0.01mM~1mM、例えば0.01mMである。
【0098】
実施形態によれば、添加剤は、グリセロールとチタン(IV)ビス(乳酸アンモニウム)二水酸化物(TiBALDH)との混合物であり、当該グリセロールは、グルコースを含む当該混合物に、好ましくは0.1w/v%~10w/v%、より好ましくは0.5w/v%~2w/v%、さらにより好ましくは1w/v%で添加され、当該チタン(IV)ビス(乳酸アンモニウム)二水酸化物(TiBALDH)は、グルコースを含む当該混合物に、好ましくは0.0005w/v%~1w/v%、より好ましくは0.0025w/v%~0.4w/v%、さらにより好ましくは0.25w/v%で添加される。
【0099】
本明細書で用いる場合、「微生物」という用語は、肉眼では見えないほど小さい生物を指す。本明細書で用いる場合、「微生物」という用語は、遺伝子組み換えされていない(すなわち、野生型の)微生物と遺伝子組み換え微生物との両方が含まれる。
【0100】
実施形態によれば、微生物セルロース生産菌は、細菌、藻類、酵母、およびそれらの混合物から選択される。実施形態によれば、微生物セルロース生産菌は、遺伝子組み換え微生物であってもよい。好ましい実施形態では、微生物セルロース生産菌は細菌である。
【0101】
実施形態では、微生物セルロースは、細菌によって生産される微生物セルロース(すなわち、細菌セルロース)、藻類によって生産される微生物セルロース、酵母によって生産される微生物セルロース、およびそれらの混合物から選択することができる。実施形態によれば、微生物セルロースは、細菌によって生産される微生物セルロース(すなわち、細菌セルロース)、藻類によって生産される微生物セルロース、およびそれらの混合物から選択することができる。好ましくは、微生物セルロースは、細菌セルロースである。
【0102】
実施形態によれば、微生物セルロース生産細菌は、グルコンアセトバクター、遺伝子組み換えグルコンアセトバクター、コマガテイバクター、遺伝子組み換えコマガテイバクター、アエロバクター、遺伝子組み換えアエロバクター、アセトバクター、遺伝子組み換えアセトバクター、アクロモバクター、遺伝子組み換えアクロモバクター、アグロバクテリウム、遺伝子組み換えアグロバクテリウム、アゾトバクター、遺伝子組み換えアゾトバクター、サルモネラ、遺伝子組み換えサルモネラ、アルカリゲネス、遺伝子組み換えアルカリゲネス、シュードモナス、遺伝子組み換えシュードモナス、リゾビウム、遺伝子組み換えリゾビウム、サルシナ、遺伝子組み換えサルシナ、遺伝子組み換えエンテロバクター、エシェリキア、遺伝子組み換えエシェリキア、バチルス、遺伝子組み換えバチルス属、クレブシエラ、遺伝子組み換えクレブシエラ、およびそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態によれば、微生物セルロース生産細菌は、グルコンアセトバクター・ハンセニイ、グルコンアセトバクター・キシリヌス、コマガテイバクター・キシリヌス、およびそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態によれば、細菌セルロース生産細菌は、グルコンアセトバクター・ハンセニイ ATCC 53582、グルコンアセトバクター・キシリヌス ATCC 23770、コマガテイバクター・キシリヌス DSM46604、およびそれらの混合物から選択される。例えば、細菌セルロース生産細菌は、グルコンアセトバクター・ハンセニイ ATCC 53582細菌とすることができる。
【0103】
実施形態によれば、微生物セルロース生産藻類は、褐藻類、緑藻類、紅藻類、褐藻類、子嚢菌類、クロレラ、ナンノクロロプシス、アオサ、シオグサ、バロニア、およびそれらの混合物から選択される。実施形態によれば、微生物セルロース生産藻類は、アスコピラム・ノドサム、クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・ガディタナ、アオサ・プロリフェラ、アオサ・ペルツサ、シオグサ・グロメラータ、バロニア・ベントリコサ、およびそれらの混合物から選択される。当該技術分野では、暗条件下での藻類の従属栄養および混合栄養培養には、炭素源としてグルコースが必要であることが知られている。
【0104】
セルロース生産酵母は、例えば、「土着酵母によるバイオセルロース生産に関する最初の報告」Jasme、Nurshafqah et al. (2022) Pichia kudriavzevii USM-YBP2. Green Processing and Synthesis. Vol 11 issue 1.が知られている。
【0105】
一態様によれば、本発明のプロセスは、微生物セルロースを得るために微生物培養物を培養する工程を含む。実施形態では、細菌セルロースを得るために細菌培養物を培養する。
【0106】
実施形態によれば、培養工程は、15℃~35℃、好ましくは20℃~30℃で行われる。例えば、培養工程は、25℃~30℃、例えば28℃で行うことができる。
【0107】
実施形態によれば、培養工程は、1~30日間、好ましくは5~20日間、より好ましくは10~16日間とすることができる。例えば、培養工程は、13~15日間、例えば14日間とすることができる。
【0108】
実施形態では、スターター培養培地は、ヘストリンシュラム(HS)培地とすることができ、例えば、以下の組成を有することができる:グルコース20.0g/L、大豆、酵素消化物由来のペプトン5.0g/L、酵母エキス5.0g/L、リン酸水素二ナトリウム二水和物3.4g/L、クエン酸一水和物1.5g/L、蒸留水1.0L。
実施形態では、出発培養物を添加する前のグルコースを含む混合物は、例えば、廃繊維品材料中のセルロースの酵素分解に由来するグルコース20.0g/L、分解されたセルラーゼ酵素に由来するペプトン2.85mL/L、セルラーゼ酵素による処理に用いられるクエン酸緩衝液に由来するクエン酸10.5g/L、セルラーゼ酵素による処理に用いられる混合物に由来する使用済み水1.0Lを有することができる。
【0109】
実施形態によれば、グルコースおよびスターター培養物を含む混合物は、グルコース:スターター培養物を含む混合物の体積比を99:1~80:20、好ましくは95:5~85:15、例えば90:10で混合することができる。
【0110】
微生物セルロース生産菌を含む培養物は、例えば、1つ以上の無菌容器内で培養することができる。容器はカバー付きとすることも、カバー無しとすることもできる。容器はカバー付きとすることが好ましい。例えば、容器は、物理的バリアとして機能するカバー(すなわち、空気透過性のないバリア、例えばプラスチック製の蓋)または部分的な物理的バリアとして機能するカバー(例えば、空気透過性が高いスパンボンド不織布層、または空気透過性が低いメルトブローン不織布層)を設けることができる。
【0111】
培養は、15℃~35℃、好ましくは20℃~30℃で、1~30日間、好ましくは5~20日間、より好ましくは10~16日間行うことができる。例えば、培養工程は、25℃~30℃、例えば28℃で、13~15日間、例えば14日間行うことができる。
【0112】
実施形態によれば、得られる微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)を洗浄し、必要に応じて乾燥する。
【0113】
実施形態によれば、洗浄は、漂白剤を含む水溶液を用いて行われる。実施形態では、漂白剤は、NaOCl、NaOH、H2O2、またはそれらの混合物から選択することができる。好ましい実施形態では、漂白剤は、NaOClである。実施形態によれば、洗浄は、0.01w/v%~10w/v%、好ましくは0.1w/v%~0.05w/v%のNaOClを含む水溶液を用いて行われる。
【0114】
実施形態によれば、微生物セルロース層/洗浄液の質量比は1/10、好ましくは1/4である。
【0115】
実施形態によれば、洗浄は、0.01w/v%~10w/v%、好ましくは1w/v%~5w/v%のNaOHを含む水溶液を用いて行われる。
【0116】
実施形態によれば、洗浄は、0.01w/v%~10w/v%、好ましくは1w/v%~5w/v%のH2O2を含む水溶液を用いて行われる。
【0117】
実施形態によれば、微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)を洗浄する工程は、20℃~80℃、好ましくは25℃~50℃、より好ましくは25℃~35℃で行われる。細菌セルロースを洗浄する工程は、30±2℃で行われる。実施形態によれば、微生物セルロースを洗浄する工程は、洗濯袋に入れた微生物セルロースに対して行われる。例えば、洗濯袋は、50マイクロメートルから100マイクロメートル、好ましくは75マイクロメートルのメッシュサイズを有する生地から作ることができる。
【0118】
実施形態によれば、微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)を洗浄する工程は、5rpm(revolutions per minute毎分回転数)~250rpm、好ましくは50rpm~75rpmで撹拌しながら行うことができる。例えば、微生物セルロース(例えば、細菌セルロース)を洗浄する工程は、100rpmで撹拌しながら行うことができる。
【0119】
有利なことに、本発明の方法により、無機化合物の含有量が低い微生物セルロース、特に細菌セルロースを得ることができる。有利なことに、本発明の微生物セルロース中の無機物質の含有量は、ISO 1762:2019に準じて測定され、525℃での点火時の残留物(灰分含有量)の測定で1質量%未満である。
【0120】
上述したように、本発明のプロセスの1つの利点は、混紡繊維品、例えば混紡生地において、混紡繊維品のポリエステル部分への損傷を最小限に抑えること、すなわち、ポリエステル材料を回収し、リサイクルするために、ポリエステルフィラメントまたは繊維の劣化を最小限に抑えるということである。
【0121】
従って、本発明は、ポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントとセルロース繊維とを含む混紡繊維品をリサイクルするプロセスにも関し、当該プロセスは、
g)廃繊維品材料を準備する工程と、
h)前処理済繊維品材料を得るために、-25℃~+30℃で当該廃繊維品材料をNaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する工程と、
i)当該セルロースをグルコースに変換して、液相とポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントを含む固相とを含む混合物を得るために、当該前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程と、
j)グルコースを含む液体混合物を得るために、当該液相を当該固相から分離する工程と、
k)当該固相から当該ポリエステル繊維または当該ポリエステルフィラメントを回収する工程とを含むことを特徴とする。
【0122】
本明細書において、廃繊維品材料から微生物セルロースの生産プロセス、および廃繊維品材料の酵素糖化プロセスに関して説明したすべての特徴は、上記のポリエステル繊維またはポリエステルフィラメントとセルロース繊維とを含む混紡繊維のリサイクル方法にも適用される。
【0123】
図1は、本発明のプロセスの例示的な実施形態を以下のように模式的に要約している。
【0124】
廃繊維品材料は回収され、必要に応じてきれいにするために洗浄される(図1のブロック1)。廃繊維品材料は、セルロース、例えば綿繊維などの天然セルロース繊維および/またはビスコース繊維などの再生セルロース繊維を含み、必要に応じて、ポリエステルおよび/またはエラスタンなどの非セルロース繊維をさらに含むことができる。例えば、廃繊維品材料は、糸、生地、衣類、およびそれらの組み合わせから選択することができる。
【0125】
廃繊維品材料の収集および洗浄後、必要に応じて、ラベルタグ(例えば、革製またはポリウレタン製)、ボタンおよびジッパー(例えば、一般にアルミニウム、真鍮またはプラスチック製)などの非繊維品要素が、廃繊維品材料から手動または自動(それ自体は当該技術分野で公知の機械および装置を使用)で除去される(図1のブロック2)。
【0126】
次に、廃繊維品材料は、例えば、色、廃繊維品材料中に存在する染料の種類(例えば、藍、硫化染料、または黒色反応性染料)、または繊維品(例えば、生地)の組成(例えば、綿100%の繊維品は、綿繊維およびポリエステル繊維の両方を含む繊維から分離することができる)を考慮して選別される。例えば、色および/または繊維品(例えば、生地および/または衣服)の組成に基づいて繊維品(例えば、生地および/または衣服)を近赤外線(NIR)で選別することは、当該技術分野で公知である(図1のブロック3)。
【0127】
廃繊維品材料に1種以上の染料が含まれている場合、例えば、生地をNaOHおよび亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)の還元溶液で処理することによって染料を除去することが好ましい(図1のブロック4)。
【0128】
廃繊維品材料は、糸を膨潤させ、セルロース繊維をフィブリル化するために、NaOHおよび尿素を含む水溶液で-25℃~+30℃の範囲の温度で前処理される(ブロック5)。前処理工程は、前処理溶液の温度および濃度に応じて、異なる時間で行うことができる。典型的な処理時間は、1時間~8時間であり、より好ましくは2時間~5時間である。処理された繊維品材料は、例えば弱酸溶液(例えば酢酸溶液)または水で洗浄することができる(図1のブロック5)。前処理済繊維品材料を、洗浄後に乾燥することが好ましい。前処理された廃繊維品は、細断されて廃繊維品材料のサイズが縮小され、セルラーゼ酵素を含む溶液と接触できる表面積を増加させることが好ましい(図1のブロック5a)。NaOHおよび尿素を含む水溶液は、必要に応じて、例えばさらなる廃繊維品材料の前処理において最大20 回まで再利用することができ、必要に応じて、NaOHおよび/または尿素の濃度を再利用のために調整することができる。
【0129】
前処理および洗浄工程の後、このようにして得られる繊維品材料(好ましくは乾燥され細断された繊維品材料)をセルラーゼ酵素を含む溶液と接触させて、繊維品材料のセルロース繊維をグルコースに変換する(ブロック6)。好ましくは、前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程は、pH4.0~5.0の範囲で撹拌せずに行われる。セルロース繊維をグルコースに酵素変換する工程の最後に、固相と液相とを含む混合物が得られる(図1のブロック6)。
【0130】
固相には、非セルロース繊維(例えば、ポリエステル繊維および/またはエラスタン繊維)、未消化のセルロース繊維、および染料がまだ存在する場合には不溶性染料(藍染料および硫化染料など)が含まれる。液相には通常、前処理済繊維品材料の処理に用いられるセルラーゼ溶液、グルコース、および、存在する場合は必要に応じて可溶性染料(反応性黒色染料など)が含まれる。
【0131】
前処理済繊維品材料をセルラーゼで処理する工程の後、固相から液相を分離するために、得られる混合物を処理する(図1のブロック7)。分離工程の最後に、グルコースを含む液体混合物が得られる (図1のブロック9)。この液体混合物には、前の工程で添加されたセルラーゼ酵素が含まれている。実施形態では、セルラーゼ酵素は回収され、必要に応じて、分離ステップ後に得られる固相の処理に最大10回まで再利用することができる (図1には示されていない)。実施形態では、セルラーゼ酵素は回収され、1種以上の追加の前処理済み廃繊維品材料(図1には示されていない)の処理に再利用することができる。セルラーゼ酵素は、例えば透析によって回収することができる。有利なことに、酵素処理の最後に、酵素は混合物から除去されない。例えば、非セルロース繊維(例えば、ポリエステル繊維および/またはエラスタン繊維)、および不溶性染料(存在する場合、藍染料および硫化染料)などの材料は、固相(図1のブロック8)から回収することができる。このようにして回収されたポリエステル繊維または別の合成繊維は、リサイクル糸および生地用のフィラメントおよび繊維を作るための出発材料としてリサイクルすることができる(ブロック8a)。
【0132】
得られるグルコースおよび酵素を含む液体混合物は、次に、バイオセルロース(すなわち、細菌セルロース)を生産するための微生物培養物の調製(図1のブロック12)に用いられる。この目的のために、混合物はその中に存在する酵素を不活性化するために熱処理される。好ましくは、グルコースを含む混合物は、例えば微生物セルロースの生産に好適な反応器内で、例えば121℃で加熱することにより滅菌される。必要に応じて、グルコースを含む混合物に添加剤を添加して滅菌することもできる(図1のブロック10)。必要に応じて、混合物中のグルコースの濃度を調整することができる。
【0133】
次に、微生物セルロース生産菌をスターター培養物としてグルコースを含む液体混合物に添加する(図1のブロック11)。分解された酵素はもはや活性を失い、代わりに、例えばアミノ酸またはアミノ酸の一部の形で、微生物の栄養源として窒素と炭素の供給源となる。必要に応じて、混合物中のアミノ酸濃度を調整することができる。例えば、混合物中のアミノ酸濃度は、混合物にペプトンを添加することによって調整することができる。
【0134】
次に、このようにして得られる微生物セルロース生産菌を含む培養物を、微生物セルロースを増殖させるために培養する(図1のブロック13)。培養の最後に、通常は微生物セルロースの層として、微生物セルロースが得られる。
【0135】
微生物セルロース、例えば微生物セルロース層は、1つ以上の容器から回収され、洗浄され、必要に応じて乾燥される(図1のブロック14)。洗浄は、漂白剤を含む水溶液を用いて行うことができる。次に、洗浄された微生物セルロースは、必要に応じて乾燥される。実施形態では、微生物セルロースを、好ましくは洗浄後に、部分的に乾燥することができる。例えば、微生物セルロースを部分的に乾燥させると、99質量%~80質量%、好ましくは90質量%~80質量%、より好ましくは85質量%の水分含有量を有する微生物セルロースが得られる。
【0136】
ブロック14で得られる微生物セルロースは、再生セルロース繊維を調製するプロセスにおいて出発セルロース材料として有利に用いることができる。図1のブロック15の工程に好適なプロセスは、ビスコース生産に用いられるプロセスである。再生されたセルロース繊維は、その後、完全な循環サイクルで糸および生地を生産するのに用いることができる (ブロック15a)。
【0137】
次に、本発明を以下の非限定的な実施例を参照してさらに説明する。
【0138】
実施例1- 廃繊維品材料から出発する細菌セルロースの生産
本発明のプロセスは、廃繊維品原料から細菌セルロースを生産するために行われた。
廃繊維品材料
未染色の混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を廃繊維品材料として用いた。
NaOHおよび尿素を含む水溶液による前処理
NaOHおよび尿素の水溶液を得るために、NaOH7w/v%と尿素12w/v%を40Lの蒸留水に溶解し、空調管理された部屋で0℃まで冷却した。2kgの生地をNaOHおよび尿素の冷水溶液に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)洗浄で中和することができる。次に、前処理した生地をステンター機により120℃で乾燥させた。
セルラーゼ酵素による処理
前処理した生地を細断し(約1cm×1cm)、40Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。40Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)を以下のように調製した:420gのクエン酸一水和物を計量し、35Lの蒸留水に溶解した。クエン酸一水和物が完全に溶解するまで混合液を撹拌した。NaOHを用いてpHを5.0に調整した。40Lになるまで蒸留水を加えた。114.28mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1グラムあたり20FPU酵素に相当)をこの溶液に添加した。酵素を溶液に添加した後、酵素を均一に溶解させるために、溶液を100rpmで1分間撹拌した。その後、セルラーゼ酵素を含む溶液中で、撹拌せずに生地を50℃で24時間培養した。処理の最後に、固相(例えばこれらに限定されないがポリエステルやエラスタンなどの主に非セルロース材料、部分的に分解したビスコースなどの部分的に分解したセルロース材料)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
固相から液相の分離
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取した。
微生物培養物の調製
必要に応じて、グルコースを含む混合物を、例えばロータリーエバポレーターで濃縮することができる。例えば、混合物40Lを最終体積10Lまで濃縮することができる。濃縮工程を行わずに、グルコースを含む混合物を用いて酵素反応の収率を測定した。
本実施例では、DNS法によると、1.52kgのビスコースを含む2kgの混紡生地から38.8g/Lのグルコース(上記のグルコースを含む40Lの混合物で測定)が放出された。
混合物を最終体積10Lまで濃縮すると、混合物中のグルコース濃度は155.2g/Lまで増加する。
本実施例では、NREL法によると、収率は91.9%であり、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((酵素加水分解により放出されるグルコース(g/L)×反応体積(L))/(基質重量(g)×セルロース含有量(%)))×0.9×100%
セルロース変換率(%)=((38.8(g/L)×40(L))/(2000(g)×(76/100)))×0.9×100%=91.9%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加される水分子の補正係数である。
グルコース(38.8g/L)を含む混合物40Lと蒸留水37.6Lとを混合し、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物を得た。グルコースを含む希釈混合物77.6Lを121℃で15分間オートクレーブ処理した。
得られたグルコースを含む混合物は、「廃繊維品グルコース」(WTG)培地としても知られている。
得られたグルコースを含む混合物は、以下の組成を有することができる。
廃繊維品材料中のセルロースのグルコースへの酵素変換に由来するグルコース20.0g/L、
分解されたセルラーゼ酵素に由来するペプトン2.85mL/L、
クエン酸緩衝液に由来するクエン酸10.5g/L、
セルラーゼ酵素で処理する工程の後に得られる混合物に由来する水。
細菌セルロース生産細菌のスターター培養物の調製
スターター細菌培養物は次のようにして生産された。以下の成分を混合し、オートクレーブ処理して、8LのHestrin‐Schramm(HS)培地を調製した。
グルコース160g、
大豆、酵素消化物由来のペプトン40g、
酵母エキス40g、
リン酸水素二ナトリウム二水和物27.2g、
クエン酸一水和物12g、
水8L、
0.8Lのオートクレーブ処理したHS培地にGluconacetobacter hanseii ATCC 53582菌を接種し、28℃で2日間培養した。
新しく調製した0.8Lの細菌培養物を7.2Lのオートクレーブ処理したHS培地と混合した。その後、振とう培養器を用いて150rpmで2日間撹拌した。
8Lの新しく調製したスターター細菌培養物が得られ、使用する準備が整った。
グルコースを含む混合物(WTG培地)とスターター細菌培養物の混合
グルコース(20gグルコース/L)を含む希釈混合物(すなわち、廃繊維品グルコース培地)77.6Lと新しく調製したスターター細菌培養液8Lを無菌的に混合した。次に、このようにして得られる新しい細菌混合物4Lを21個のプラスチック容器(幅730mm×長さ460mm×高さ193mm)に分配し、蓋をした。
細菌培養物の培養
蓋をしたプラスチック容器を28℃の空調管理された部屋で14日間培養し、細菌セルロースを得た。
細菌セルロースの洗浄および乾燥
平均して、85.6Lの細菌培養物から17±0.35kgの湿った汚れた細菌セルロース層を回収することができる。これらの細菌セルロース層を容器から取り出し、リアクターに回収した。次に、細菌セルロース層を、1%の漂白剤を含む100Lの高温水(80℃)を用いて100rpmで撹拌しながら3時間洗浄した。ここで、漂白剤は5w/v%の次亜塩素酸ナトリウムを含んでいた(すなわち、0.05w/v%の次亜塩素酸ナトリウムを含む100Lの高温水を用いた)。その後、100Lの汚染水を排出し、別の100Lのきれいな高温水(80℃)を加え、溶液を100rpmで3時間撹拌した。
平均して、17±0.35kgの湿った汚れた細菌セルロース層から16±0.32kgの湿ったきれいな細菌セルロース層を得ることができる。
これらの細菌セルロース層を28℃で12時間乾燥させると、乾燥細菌セルロースが得られる。平均して、16±0.32kgの湿った清潔な細菌セルロースから470±10gの乾燥細菌セルロースを得ることができる。
【0139】
実施例2- 未染色の混紡廃生地の例示的な室温化学的前処理および酵素処理
未染色の混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を廃繊維品材料として用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解した。
50gの生地をNaOHおよび尿素の水溶液(1L)に浸し、室温(20~25℃)で2時間前処理した。2時間後、生地を20℃の水道水でpH7まで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。2.85mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。セルラーゼ酵素を含む溶液で、生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(主にポリエステルおよびエラスタンなどの非セルロース材料、および部分的に分解したセルロース材料、例えば部分的に分解したビスコース)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取した。
酵素反応の収率を測定した。
DNS法によれば、38gのビスコースを含む50gの混紡生地から36.2g/Lのグルコースが放出された。
NREL法によると、収率は85.7%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((36.2(g/L)×1(L))/(50(g)×(76/100)))×0.9×100%=85.7%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
グルコース(36.2g/L)を含む混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0140】
実施例3- 未染色の綿100%廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
廃繊維品材料として、未染色の廃生地(生地組成:綿100%)を用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。50gの生地をNaOHおよび尿素の水溶液(1L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。3.76mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で96時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(主に部分的に分解されたセルロース材料、例えば部分的に分解された綿)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
固相および液相を含む混合物を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取した。
酵素反応の収率を測定した。
DNS法によれば、50gの綿100%の生地から51.3gr/Lのグルコースが放出される。
NREL法によれば、収率は92.34%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((51.3(g/L)×1(L))/(50(g)×(100/100)))×0.9×100%=92.3%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
グルコース(51.3g/L)を含む混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0141】
実施例4- 未染色の混紡廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
【0142】
未染色の混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を廃繊維品材料として用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。50gの生地をNaOHおよび尿素の冷たい水溶液(1L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。2.85mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(主にポリエステルおよびエラスタンなどの非セルロース材料、および部分的に分解されたセルロース材料、例えば部分的に分解されたビスコース)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取した。
酵素反応の収率を測定した。
DNS法によれば、38gのビスコースを含む50gの混紡生地から38.4g/Lのグルコースが放出された。
NREL法によれば、収率は90.9%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((38.4(g/L)×1(L))/(50(g)×(76/100)))×0.9×100%=90.9%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
グルコース(38.4g/L)を含む混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0143】
実施例5- 藍染め混紡廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
藍染め混紡廃生地(生地組成:綿99%、エラスタン1%、藍染め)を廃繊維品材料として用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。
60gの生地をNaOHおよび尿素の冷たい水溶液(1L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1.2Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。4.47mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(主に綿および非セルロースエラスタンなどの部分的に分解されたセルロース材料)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取し、藍染料を含む沈殿物を回収した。
グルコースを含む混合物(すなわち、廃繊維品グルコース溶液、すなわち、グルコースに富んだシロップ)を蒸留水と混合して、グルコース濃度が20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち、廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0144】
実施例6- 硫化染料で染色した混紡廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
硫化染料で染色した混紡廃生地(生地組成:綿92.5%、ポリエステル5%、エラスタン2.5%、硫化染料)を廃繊維品材料として用いた。
7w/v%のNaOHおよび10.5w/v%の尿素を2Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。100gの生地をNaOHおよび尿素の冷たい水溶液(2L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、2Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。6.95mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(これらに限定されないが、主にポリエステルおよびエラスタンを含む非セルロース材料、および綿などの部分的に分解されたセルロース材料)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取し、硫化染料を含む沈殿物を回収する。
グルコースを含む混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度が20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち、廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0145】
実施例7- 黒色反応性染料で染色した混紡廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
廃繊維品材料として、黒色反応性染料で染色した混紡廃生地(生地組成:綿90%、ポリエステル6%、エラスタン4%、黒色反応性染料)を用いた。
7w/v%のNaOHおよび14.0w/v%の尿素を2Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。100gの生地をNaOHおよび尿素の冷たい水溶液(2L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、2Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。6.77mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(これらに限定されないが、主にポリエステルおよびエラスタンを含む非セルロース材料、および綿などの部分的に分解されたセルロース材料)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコース(例えば、グルコースに富んだシロップ)を含み、さらに黒色反応性染料を含む混合物として採取した。
活性炭カラムクロマトグラフィーにより液体混合物から染料を除去した。特に、染料を除去するために、グルコースに富んだシロップを2mL/minの流量で活性炭カラムに注いだ。5cm×50cmのカラムには、直径2.88mm±0.26mmの活性炭ビーズが1kg入っている。
染料の除去後に得られる混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0146】
実施例8- Hestrin-Schramm(HS)培地および廃繊維品グルコース(WTG)培地の比較
細菌株Gluconacetobacter hansenii ATCC 53582を、密閉蓋付きプラスチックボックス内で、500mLの廃繊維品グルコース(WTG)培地またはHestrin-Schramm(HS)培地で、培養温度28℃~30℃で14日間培養した。
培養終了後、得られた湿潤細菌セルロースを機械装置で圧搾または圧縮して、余分な培養培地を除去した。次に、得られた湿潤細菌セルロース量を測定した。

廃繊維品グルコース培地を用いることにより、HS培地と比較して湿潤細菌セルロース収量が約20%増加することが観察された。
【0147】
実施例9- 添加物の比較(TiBALDH、グリセロール、アスコルビン酸)
細菌株 Gluconacetobacter hansenii ATCC 53582 を、密閉蓋付きプラスチックボックス内で、500mLの廃繊維グルコース培地で、培養温度28℃~30℃で14日間培養した。
様々な濃度の様々な添加剤(TiBALDH、グリセロール、アスコルビン酸)の添加が細菌セルロースの生成に及ぼす影響をテストするために、様々な実験を行った。
培養終了時に得られた湿潤細菌セルロース量を測定した。表2、表3、表4、表5における湿潤細菌セルロース量の変化(%)の比較は、表1のデータに基づいている。
TiBALDH
最初に試験した添加剤は、CAS番号65104-06-5のチタン(IV)ビス(アンモニウムラクタト)ジヒドロキシド溶液(TiBALDH)であった。

得られた結果によると、廃繊維品グルコース培地に0.25%のTiBALDHを添加すると、得られる湿潤細菌セルロース量が最も増加した(+55.30%)。
グリセロール
二番目に試験した添加剤は、CAS番号56-81-5のグリセロールであった。

得られた結果によると、廃繊維品グルコース培地に1%のグリセロールを添加すると、湿潤細菌セルロース量が最も増加した(+19.74%)。
アスコルビン酸(ビタミンC)
三番目に試験した添加剤は、CAS番号50-81-7のアスコルビン酸(ビタミンC)であった。

得られた結果によると、廃繊維品グルコース培地に0.5%のアスコルビン酸を添加すると、湿潤細菌セルロース量が最も増加した(+9.25%)。
添加剤の組み合わせ
TiBALDH、グリセロール、アスコルビン酸の3つの添加剤のさまざまな組み合わせがテストされた。

得られる結果によると、1%のグリセロールと0.25%のTiBALDHの添加で、最も高い湿潤細菌セルロース量が達成された(58.04%)。
【0148】
実施例10- NaOHおよび尿素を含む水溶液で前処理する前と後の廃繊維品材料の比較
混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素の溶液において0℃で5時間処理した。処理前と処理後の生地の画像を撮影し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した。図2からわかるように、処理後の生地は膨潤しており、すなわち、処理後の生地の繊維は、処理前の生地の繊維に比べて分離している。
【0149】
実施例11- NaOHおよび尿素を含む水溶液による室温および50℃での前処理がポリエステルに及ぼす影響
ポリエステル100%の生地の2つのサンプルを、7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素の溶液で、それぞれ室温と50℃で5時間処理した。処理後、サンプルの画像を撮影し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した。図4Aからわかるように、室温で行った前処理は、ポリエステル繊維に損傷を与えていない。逆に、50℃で行った前処理では、ポリエステル繊維に損傷を与えている(図4B)。
【0150】
実施例12- NaOHおよび尿素を含む水溶液による前処理(0℃および室温)および酵素処理する前と後の廃繊維品材料の比較
混紡廃生地のサンプル(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素の溶液において0℃または室温で5時間前処理し、その後セルラーゼ酵素で処理した。処理の前後でサンプルの画像を撮影し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した。図5Aは、前処理および酵素処理の前のサンプルのSEM画像である。図5Bは、0℃で前処理を行い、セルラーゼで処理した後のサンプル材料を示している。図5Cは、室温で前処理を行い、セルラーゼで処理した後のサンプル材料を示している。本発明のプロセスは、ポリエステル繊維に損傷を与えていないことが分かる。
【0151】
実施例13- セルラーゼ処理後に得られたグルコースの特性
混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)および綿100%の廃生地を、本発明のプロセスによって、NaOHおよび尿素の溶液で前処理し、その後セルラーゼ酵素で処理した。
セルラーゼ酵素による処理工程の後に得られたグルコースを核磁気共鳴(NMR)で分析した。以下の結果が得られた。
混紡生地:DO中のグルコースのH-NMR。α-グルコース40.7%、β-グルコース59.3% 5.21ppm(bs、H1-α)、4.63ppm(d、J=7.6Hz、H1-β)、3.87ppm(d、J=12.0Hz、H6-β)、3.81ppm(d、J=10.9Hz、H5-αおよび H6-α)、3.77-3.64ppm(m、H6-αおよびH3-αおよびH6-β)、3.52ppm(d、J=8.0Hz、H2-α)、3.46ppm(dd、J=18.2、9.1Hz、H3-βおよびH5-β)、3.38ppm(dd、J=15.3、8.6Hz、H4-αおよびH4-β)、3.23ppm(t、J=8.1Hz、H2-β)
綿100%の生地:DO中のグルコースのH-NMR。α-グルコース43.3%、β-グルコース56.7% 5.23ppm(d、J=3.7Hz、H1-α)、4.65ppm(d、J=7.9Hz、H1-β)、3.90ppm(dd、J=12.3、1.9Hz、H6-β)、3.87-3.81ppm(m、H5-αまたはH6-α)、3.76ppm(dd、J=12.5、5.5Hz、H6-α)、3.75-3.69ppm(m、H3-αおよびH6-β)、3.53ppm(dd、J=9.8、3.7Hz、H2-α)、3.50-3.45ppm(m、H3-βおよびH5-β)、3.41ppm(dt、J=9.4、6.1Hz、H4-αおよびH4-β)、3.24ppm(dd、J=9.1、8.1Hz、H2-β
【0152】
実施例14- 本発明のプロセスによって得られる例示的な細菌セルロースの構造
本発明のプロセスによって得られる例示的な細菌セルロースのサンプルを分析し、特性評価を行った。
以下の結果が得られた。
粘度: 980ml/g(ISO 5351:2010に準拠して測定)
分子量分布:Mn=88047g/mol、Mw=510577g/mol、DI=5.8(0.5w/v% LiCl/DMAc移動相でのSEC分析)
細菌セルロース中のセルロース含有率>99%
細菌セルロース中のヘミセルロース含有率<1%;アラビノース0.08g/kg、ガラクトース0.03g/kg、キシロース0.05g/kg、マンノース0.4g/kg、グルコース882g/kg(SCAN-CM71:09)
灰分含有率<0.5%(ISO 1762:2019に準拠)
図3Aおよび図3Bは、光学顕微鏡で観察した細菌セルロースの構造を2つの倍率、すなわち図3Aでは150倍、図3Bでは75倍で示している。
図3Aおよび図3Bからわかるように、細菌セルロースの構造は細い繊維と太い繊維の両方のネットワークで縞模様になっている。
【0153】
実施例15- 細菌セルロースの洗浄
細菌セルロース(BC)の発酵が終わると、BC層は発酵容器から取り出され、再密封可能なマジックテープ(登録商標)で閉じられたランドリーバッグに入れられる。ランドリーバッグは、50マイクロメートルから100マイクロメートル、好ましくは75マイクロメートルのメッシュサイズの生地で作られている。ランドリーバッグは、布絞り器で絞られ、余分な細菌溶液が除去される。その後、ランドリーバッグを業務用洗濯機に入れて、細菌を不活性化して除去し、BC層を白くする。洗濯プロトコルは次のとおりである。
細菌セルロース層/水の重量比:1/10、好ましくは1/4、
ホワイトニング剤:1%漂白剤
温度:30℃
所要時間:30分
【0154】
実施例16- 未染色の綿100%廃生地の例示的な室温化学的前処理および酵素処理
廃繊維品材料として、未染色の廃生地(生地組成:綿100%)を用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解した。
50gの生地をNaOHおよび尿素の水溶液(1L)に浸し、室温(20~25℃)で2時間前処理した。2時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。3.76mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(部分的に分解されたセルロース材料、例えば部分的に分解された綿)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコース(例えば、グルコースに富んだシロップ)を含む混合物として採取した。酵素反応の収率を測定した。
DNS法によれば、50gの綿100%の生地から45.62g/Lのグルコースが放出された。
NREL法によれば、収率は82.12%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((45.62(g/L)×1(L))/(50(g)×(100/100)))×0.9×100%=82.12%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
グルコース(45.62g/L)を含む混合物を蒸留水と混合して、グルコース濃度20g/Lのグルコースを含む希釈混合物、すなわち廃繊維品グルコース(WTG)培地を得ることができる。
【0155】
実施例17- 化学的前処理温度の違いによる酵素活性の比較:-20℃、0℃および室温
未染色の廃繊維品生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を用いた(実施例1および実施例2と同様)。
NaOHおよび尿素による前処理を-20℃で24時間行った。その後、実施例1と同じプロセスを行った。酵素処理から得られたセルロース変換収率は89.6%であった。
実施例1によれば、NaOHおよび尿素による前処理を0℃で5時間行った。酵素処理から得られたセルロース変換収率は91.9%であった(実施例1も参照)。
実施例2によれば、NaOHおよび尿素による前処理を室温(20~25℃)で2時間行った。酵素処理から得られたセルロース変換収率は87.5%であった(実施例2も参照)。
結果:NaOHおよび尿素による前処理工程を室温で行うことにより、前処理時間を大幅に短縮しながら、セルロースのグルコースへの高い変換率を得ることができる。
【0156】
実施例18- 未染色の綿100%廃生地の例示的な化学的前処理および酵素処理
未染色の廃繊維品生地(生地組成:綿100%)を廃繊維品材料として用いた。
Novozymes Cellic(登録商標)CTec3 HSの代わりに酵素AB Enzyme-Flashzyme Plus 200を用いて、実施例3と同じプロセスを行った。

酵素処理から得られるセルロース変換収率は、144時間後に93.51%であった。
【0157】
実施例19- セルラーゼ酵素のリサイクル
未染色の廃繊維品生地(生地組成:綿100%)を廃繊維品材料として用いた。
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を1Lの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。50gの生地をNaOHおよび尿素の水溶液(1L)に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)で洗浄して中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。
前処理した生地を細断し(例えば1cm×1cm)、1Lのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、バイオリアクターにおいて50℃で加熱した。3.76mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)を溶液に添加した。その後、酵素を溶液に添加し、溶液を100rpmで1分間撹拌して酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液で、この生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後に、固相(主に部分的に分解されたセルロース材料、例えば部分的に分解された綿)およびグルコースを含む液相を含む混合物が得られる。
固相および液相を含む混合物を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコースを含む混合物(例えば、グルコースに富んだシロップ)として採取した。
遠心分離後、酵素を、以下のように透析(透析カセット:Thermo Scientific - Slide-A-Lyzer カセット(10 K MWCO))によって上清(すなわち、グルコースを含む混合物)から除去した。
0.05Mクエン酸(pH5)緩衝液1Lを調製し、氷上に置いた。
透析カセットを緩衝液に入れ、マグネチックスターラーで3時間攪拌し、セルロース分解で生じたグルコースを透析カセット内の混合物から酵素リサイクルにより除去した。
酵素の分解を防ぐため、透析は低温条件下で行った。酵素が透析カセットを通過するのを防ぐため、セルラーゼのおおよその分子量に基づいて10kDaの透析カセットを選択した。
3時間後、透析カセットからの溶液を用いて、連続酵素分解のために上述したように得られた固相(主に部分的に分解されたセルロース材料、例えば部分的に分解された綿)と接触させた。
撹拌せずに50℃で24時間培養した後(酵素処理の合計時間:48時間)、得られた固相およびグルコースを含む液相を含む混合物を遠心分離した。遠心分離後、酵素を上清から除去し、遠心分離後に得られた固相と接触させて再利用した。
酵素処理、固相から液相の分離、透析による酵素の回収、酵素の再利用という同じ工程をさらに2回行った(酵素処理72時間および96時間)。
酵素溶液の2回目の使用後(すなわち、合計48時間の酵素処理後)のセルロースからグルコースへの変換率(収率%)は、79.77%であった。
酵素溶液の4回目の使用後(すなわち、合計96時間の酵素処理後)のセルロースからグルコースへの変換率(収率%)は、99.18%であった。
【0158】
実施例20- 細断による溶解セルロース量への影響
廃繊維品材料として未染色の廃繊維品生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を用いた。
2gの生地サンプルをNaOHおよび尿素の水溶液に浸し、前処理した。前処理後、生地を20℃の水道水でpH7になるまで中和した。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。得られた前処理した生地の重量は1.86gであった。
2gの生地を細断した。この細断した生地をNaOHおよび尿素の水溶液に浸し、前処理を行った。前処理後、生地を20℃の水道水でpH7まで中和した。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。得られた前処理済みの細断生地の重量は1.48gであった。
見て分かるように、処理前に生地を細断しなかった場合、前処理中に0.14gの綿が失われ、セルロース損失は7%に相当する。逆に、処理前に生地を細断した場合、前処理中に0.52gの綿が失われ、セルロース損失は26%に相当する。
前処理後に廃繊維品材料を細断することで、セルラーゼ酵素により多くのセルロースを供給することができ、その結果、セルロースからグルコースへの酵素変換の最後に、より多くのグルコースが得られる。
【0159】
実施例21- 未染色の混紡廃生地の化学的前処理および非前処理の例示的な比較
未染色の混紡廃生地(生地組成:ビスコース76%、ポリエステル23%、エラスタン1%)を廃繊維品材料として用いた。
化学的前処理
7w/v%のNaOHおよび12w/v%の尿素を100mLの蒸留水に溶解し、冷蔵庫で0℃まで冷却し、NaOHおよび尿素の水溶液を得た。5gの生地をNaOHおよび尿素の冷水溶液に浸し、0℃で5時間前処理した。5時間後、生地を20℃の水道水でpH7まで中和した。別の方法として、生地を弱酸(例えば酢酸)洗浄で中和することができる。次に、前処理した生地をオーブンで80℃で乾燥させた。前処理した生地を細断した(例えば、1cm×1cm)。
非前処理
5gの生地を細断した(例えば1cm×1cm)。
セルラーゼ酵素による処理
前処理した生地および前処理していない生地を100mLのクエン酸緩衝液(0.05M、pH5.0)に浸し、オービタルシェーカーで50℃に加熱した。0.28mLのNovozyme Cellic(登録商標)CTec3 HSセルラーゼ(セルロース1gあたり20FPU酵素に相当)をその溶液に添加した。酵素を溶液に添加した後、溶液を100rpmで1分間撹拌し、酵素を均一に溶解させた。次に、セルラーゼ酵素を含む溶液中で生地を50℃で24時間、攪拌せずに培養した。処理の最後には、固相(主にポリエステル、エラスタンなどの非セルロース材料、および部分的に分解したセルロース材料、例えば部分的に分解したビスコース)およびグルコースを含む液相の2つの混合物が得られる。
培養後、0.3mmの篩で濾過し、混合物の固相を混合物の液相から分離した。濾過した液相を9000RPMで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清をグルコース(例えば、グルコースに富んだシロップ)を含む混合物として採取した。
酵素反応の収率
- 化学的前処理
DNS法によれば、3.8gのビスコースを含む5gの混紡生地から38.4g/Lのグルコースが放出された。
NREL法によれば、収率は90.9%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((37.7(g/L)×0.1(L))/(5(g)×(76/100)))×0.9×100%=89.3%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
非前処理
DNS法によれば、3.8gのビスコースを含む5gの混紡生地から12.7g/Lのグルコースが放出された。
NREL法によれば、収率は90.9%で、以下のように計算された。
セルロース変換率(%)=((12.7(g/L)×0.1(L))/(5(g)×(76/100)))×0.9×100%=30.1%
ここで、0.9は、セルロースの加水分解時に添加された水分子の補正係数である。
見て分かるように、本発明によって廃繊維品材料を前処理することにより、セルロースからグルコースへの変換収率を30.1%から89.3%に増加させることができる。
【0160】
上記の実施例は、本発明のプロセスが、綿およびセルロース繊維をリサイクルする方法、ならびに廃繊維品、すなわち生地からポリエステルまたは別の合成繊維をリサイクルする方法を提供するという証拠となる。セルロース繊維はグルコースに変換され、これを用いて微生物セルロースが生産され、次に溶解してビスコースまたは類似のセルロース繊維に変換され、最初のセルロース繊維の完全なリサイクルサイクルが達成される。
【0161】
また、請求項に記載の温度範囲、特に室温(20℃±5℃)において、NaOHおよび尿素の両方を含む請求項に記載の溶液による前処理工程におけるポリエステル繊維の劣化は、先行技術の処理と比較して大幅に低減されるため、セルロース繊維の酵素変換後に回収されたポリエステルは、リサイクルポリエステルのフィラメントにリサイクルして再び紡糸するのに好適である。
【0162】
さらに、このプロセスは、セルロースの酵素変換に用いられる酵素がセルラーゼ酵素で構成することができることを提供する。また、グルコースおよびグルコース含有溶液中に存在する酵素を熱で不活性化することができるため、セルロース生成微生物を培養する次の工程でグルコース含有溶液を直接用いることができるという利点もある。ここで、不活性化された酵素は、当該微生物の栄養源として機能する。
【0163】
このプロセスは、例えば繊維を繊維形態に維持する機械的プロセスによってセルロース繊維をそのままリサイクルすることが困難な合成繊維とセルロース繊維との混紡糸のリサイクルに特に有利である。一例として、セルロース繊維が、すでにリサイクルされた生地および糸に由来する綿繊維であり、そのため平均長さが短く、その結果、糸として用いるにはリサイクル繊維の長さが短すぎる場合に、このプロセスは有用である。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
【外国語明細書】