(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001536
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】天井構造、及び、天井構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
E04B9/18 E
E04B9/18 B
E04B9/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100250
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 優也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 浩文
(72)【発明者】
【氏名】達冨 浩
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 征夫
(57)【要約】
【課題】天井の面内方向の剛性・強度を高める。
【解決手段】上部構造から垂下する吊り材と、前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、前記天井下地材に固定される補強線材と、を備え、前記補強線材は、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造から垂下する吊り材と、
前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、
前記天井下地材に固定される補強線材と、
を備え、
前記補強線材は、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成している、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項2】
請求項1に記載の天井構造であって、
前記区画は、複数の前記グリッドで構成されている、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項3】
請求項1に記載の天井構造であって、
前記補強線材は、前記天井下地材よりも上方に配置されている、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項4】
請求項3に記載の天井構造であって、
前記補強線材と前記天井下地材との間には鉛直方向に隙間が設けられており、
前記隙間は、前記グリッドに取り付けられる天井材の厚さよりも大きい、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項5】
請求項4に記載の天井構造であって、
前記連続区画内部には、斜材が設けられている、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項6】
請求項5に記載の天井構造であって、
前記斜材は、前記補強線材よりも上方に配置されている、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の天井構造であって、
前記基準区画には減衰部材が設けられている、
ことを特徴とする天井構造。
【請求項8】
請求項7に記載の天井構造であって、
前記基準区画には、前記上部構造の下に補強フレームが設けられており、
前記減衰部材は、前記補強フレームと前記補強線材との間に設けられている。
ことを特徴とする天井構造。
【請求項9】
上部構造から垂下する吊り材と、前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成する補強線材と、を備える天井構造の設計方法であって、
前記補強線材をモデル化した解析モデルを用いて、前記補強線材の静的解析を行い、天井に水平力を作用させたときの前記天井下地材と前記補強線材との接合部に生じる応力及び変形を導出するステップと、
前記静的解析の結果が目標性能を満足しているかを確認するステップと、
を有する天井構造の設計方法。
【請求項10】
請求項9に記載の天井構造の設計方法であって、
前記水平力は、前記天井の時刻歴応答解析、もしくは告示等に基づいて定めた天井加速度から導出する、
ことを特徴とする天井構造の設計方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の天井構造の設計方法であって、
前記基準区画及び前記連続区画以外の領域の前記天井下地材をモデル化した解析を行い、前記補強線材の有効性を確認するステップをさらに有することを特徴とする天井構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井構造、及び、天井構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天井構造として、吊りボルトで吊られたTバーをグリッド(格子)状に接続し、天井ボードや設備機器をグリッドの枠内に組み込んだ天井(所謂システム天井)が知られている。例えば、特許文献1には、設備機器と吊りボルトを補強材により接続することで、双方の揺れの違いに起因する衝突を避けるようにしたシステム天井が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
システム天井では、Tバーが天井ボード等と緊結されていないため、面内方向の剛性・強度が小さいという問題がある。上述した特許文献1の天井構造においても、天井単体の面内方向の剛性・強度を高めることはできないおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、天井の面内方向の剛性・強度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、上部構造から垂下する吊り材と、前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、前記天井下地材に固定される補強線材と、を備え、前記補強線材は、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成している、ことを特徴とする天井構造である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、天井の面内方向の剛性・強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】Tバー10と天井ボード100についての説明図である
【
図4】Tバー10と補強線材20との接合部の説明図である。
【
図5】天井構造の設計方法の一例を示すフロー図である。
【
図6】
図6Aは、天井構造における抜き出し箇所の一例を示す図である。
図6Bは、抜き出した箇所の解析モデルを示す図である。
図6Cは、解析結果を示す図である。
【
図7】
図7Aは、Tバー10をモデル化した解析モデルを示す図である。
図7Bは、解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0011】
上部構造から垂下する吊り材と、前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、前記天井下地材に固定される補強線材と、を備え、前記補強線材は、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成している、ことを特徴とする天井構造。
【0012】
このような天井構造によれば、天井の面内方向の剛性・強度を高めることができる。
【0013】
かかる天井構造であって、前記区画は、複数の前記グリッドで構成されていることが望ましい。
【0014】
このような天井構造によれば、補強を効率的に行うことができる。
【0015】
かかる天井構造であって、前記補強線材は、前記天井下地材よりも上方に配置されていることが望ましい。
【0016】
このような天井構造によれば、天井下地材で補強線材を支持することができる。
【0017】
かかる天井構造であって、前記補強線材と前記天井下地材との間には鉛直方向に隙間が設けられており、前記隙間は、前記グリッドに取り付けられる天井材の厚さよりも大きいことが望ましい。
【0018】
このような天井構造によれば、隙間の部分に天井材を配置することが出来るので、メンテをする際などに作業が容易になる。
【0019】
かかる天井構造であって、前記連続区画内部には、斜材が設けられていることが望ましい。
【0020】
このような天井構造によれば、天井の面内方向の剛性・強度をより高めることができる。
【0021】
かかる天井構造であって、前記斜材は、前記補強線材よりも上方に配置されていることが望ましい。
【0022】
このような天井構造によれば、連続区画に照明機器や空調設備などを配置する際に、斜材と干渉しないようにできる。
【0023】
かかる天井構造であって、前記基準区画には減衰部材が設けられていることが望ましい。
【0024】
このような天井構造によれば、基準区画において制振性能を高めることができ、変形を抑えることができる。
【0025】
かかる天井構造であって、前記基準区画には、前記上部構造の下に補強フレームが設けられており、前記減衰部材は、前記補強フレームと前記補強線材との間に設けられていることが望ましい。
【0026】
このような天井構造によれば、より変形を抑えることができる。
【0027】
また、上部構造から垂下する吊り材と、前記吊り材に吊られ、グリッドを構成する天井下地材と、前記グリッドを1又は複数有する区画であって、基準区画と、前記基準区画の前後左右のうちの2又は3又は4方向に前記基準区画に連続して設けられる連続区画と、を形成する補強線材と、を備える天井構造の設計方法であって、前記補強線材をモデル化した解析モデルを用いて、前記補強線材の静的解析を行い、天井に水平力を作用させたときの前記天井下地材と前記補強線材との接合部に生じる応力及び変形を導出するステップと、前記静的解析の結果が目標性能を満足しているかを確認するステップと、を有する天井構造の設計方法。
【0028】
このような天井構造の設計方法によれば、例えば地震時の補強線材の変形や接合部に生じる力を求めることができ、クライテリア内であるかどうか確認することができる。
【0029】
かかる天井構造の設計方法であって、前記水平力は、前記天井の時刻歴応答解析、もしくは告示等に基づいて定めた天井加速度から導出することが望ましい。
【0030】
このような天井構造の設計方法によれば、天井構造に応じた水平力を作用させることができる。
【0031】
かかる天井構造の設計方法であって、前記基準区画及び前記連続区画以外の領域の前記天井下地材をモデル化した解析を行い、前記補強線材の有効性を確認するステップをさらに有することが望ましい。
【0032】
このような天井構造の設計方法によれば、区画(補強線材)から離れた場所においても、補強線材によって面内剛性・強度が向上することを確認することができる。
【0033】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
===本実施形態===
<天井構造について>
図1は、本実施形態の天井構造の概略平面図であり、所謂、伏図に相当する。
図2は、本実施形態の天井構造の概略断面図である。本実施形態では、
図1、
図2に示すように、互いに直交する3方向(上下方向、前後方向、左右方向)を定義する。なお、上下方向は、鉛直方向であり、鉛直方向上側を「上」とし、鉛直方向下側を「下」とする。また、前後方向および左右方向は、水平方向である。また、
図3は、Tバー10と天井ボード100についての説明図である。
図3では、便宜上、補強線材20等の図示を省略している。
【0035】
本実施形態の天井構造は、吊り天井の一種(具体的にはシステム天井)であり、吊りボルト4、Tバー10、補強線材20、ターンバックル30、補強フレーム40、ダンパー50を備えている。
【0036】
吊りボルト4(吊り材に相当)は、鋼製の棒状部材で形成されており、
図2に示すように、上層の躯体である上部構造2から垂下している。また、
図1では図示していないが、吊りボルト4は、グリッド12の縦横の接合部に設けられており、前後方向及び左右方向に、それぞれ等間隔に配置されている。具体的には、吊りボルト4は、後述するTバー10で形成されるグリッド12の2つ分(2グリッド)ごとに設けられている。
【0037】
したがって、
図1のグリッド12の一辺の長さがa(例えば640mm)の場合、
図2に示すように、吊りボルト4の間隔は2a(例えば1280mm)になる。なお、グリッド12と吊りボルト4の関係は、上述したものには限られない。例えば、グリッド12の一辺の長さaが600mmでもよい。この場合、吊りボルト4の間隔は、1200mmになる。また、吊りボルト4が、3グリッドごとに設けられていてもよい。
【0038】
Tバー10(天井下地材に相当)は、吊りボルト4に吊られた金属製(例えばアルミ合金製)の部材であり、前後方向及び左右方向にそれぞれ沿って配置されており、複数のグリッド12を構成している。なお、
図3に示すように、Tバー10の断面は逆T字状であり、各グリッド12において、Tバー10の下端部の上に、天井ボード100や設備器具(照明機器、空調設備、音響機器)などが載置される。
【0039】
より具体的には、天井ボード100は、周囲(側部)において、厚さ方向(ここでは上下方向)の上部が外側に突出しており、その突出部分がTバー10の下端部(逆T字部分)の上に配置されている。このため、例えば、下側から天井ボード100を上方に向けて押すと、天井ボード100が持ち上がることになる。
【0040】
このように、システム天井では、Tバー10は天井ボード100と緊結されていない。このため、Tバー10のみでは面内方向の剛性・強度が小さいという問題がある。そこで、本実施形態では、後述するように、補強線材20やターンバックル30を設けることにより、天井の面内方向の剛性・強度の向上を図っている。なお、剛性(N/mm)とは、曲げなどの力に対する、変形のしにくさ(硬さ)を示す値である。また、強度(N)とは、どの程度の力に耐えられるか(強さ)を示す値である。
【0041】
補強線材20は、金属製(例えばアルミ合金製)の棒状の部材であり、Tバー10に固定されるとともに、Tバー10(グリッド12)に沿って配置されている。なお、補強線材20とTバー10は、吊りボルト4の構面で接合されている。Tバー10と補強線材20との接合部分の詳細については後述する。
【0042】
また、補強線材20は、複数(ここでは4つ(又は2つ))のグリッド12を有する区画(区画D1,D2)を形成している。
【0043】
区画D1は、補強フレーム40やダンパー50(後述)の設けられた区画である。また、区画D2は、区画D1を起点として、その前後左右に区画D1に連続する区画である。本実施形態では、区画D2は、区画D1の前後左右(4方向)に連続しているが、これには限られない。例えば、区画D1が天井の角部に位置している場合は、前後左右のうちの2方向に連続して設けられる。また、区画D1が天井の端部(辺)に位置している場合は、前後左右のうちの3方向に連続して設けられる。本実施形態において、区画D1は基準区画に相当し、区画D2は連続区画に相当する。
【0044】
ターンバックル30(斜材に相当)は、
図1に示すように、補強線材20で形成された区画D2において、前後方向及び左右方向に対して斜めに設けられた部材である。本実施形態では、ターンバックル30は、区画D2の内部において(X状に)配置されている。ターンバックル30は、ボルト(不図示)などにより、補強線材20に接合されている。
【0045】
また、
図2に示すように、ターンバックル30は、補強線材20よりも上方に設けられている。これにより、例えば、区画D2に照明機器や空調設備などを配置する場合に、ターンバックル30との干渉を抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、区画D2において、ターンバックル30をX状に設けているが、何れか一方のみ設けてもよい(X状でなくてもよい)。また、区画D2にターンバックル30を設けていなくてもよい。これらの場合においても、補強線材20によって天井の面内方向の剛性・強度を高めることができる。ただし、本実施形態のように、区画D2にターンバックル30をX状に設けると、天井の面内方向の剛性・強度をより高めることができる。
【0047】
補強フレーム40は、鋼材で形成された剛性の高い部材であり、区画D1において、上部構造2の下端に取り付けられている。また、補強フレーム40は、平面視において、例えば、区画D1の各辺に沿うように(矩形状に)配置されている。
【0048】
ダンパー50(減衰部材に相当)は、振動エネルギーを吸収し、振動を減衰させる装置である。本実施形態では、ダンパー50として、回転方向に制御力を発揮するロータリーダンパーを用いている。区画D1において、ダンパー50(ロータリーダンパー)は、補強フレーム40の周囲に、複数設けられている。これにより、区画D1では、制振性能が高く、回転変形しにくくなっている。
【0049】
また、ダンパー50は、補強フレーム40と、補強線材20との間に設けられている。より具体的には、区画D1の補強線材20の上には、ダンパー下部プレート(不図示)が設けられており、ダンパー50は、ダンパー下部プレートと、補強フレーム40の間に接続されている。
【0050】
なお、ダンパー50は、ロータリーダンパーには限られない。例えば、オイルダンパーや摩擦ダンパーでもよく、あるいは、これらのダンパーを組み合わせたものでもよい。
【0051】
<Tバー10と補強線材20との接合について>
図4は、Tバー10と補強線材20との接合部の一例を示す説明図である。Tバー10と補強線材20との接合には、接合用ブラケット70が用いられている。
【0052】
図において、接合用ブラケット70は、一対(ここでは左右一対)用いられている。一対の接合用ブラケット70は、Tバー10を挟んだ状態で、ボルト72aとナット72bにより、Tバー10に接合されている。また、一対の接合用ブラケット70は、それぞれ、ボルト74により、補強線材20に接合されている。これにより、補強線材20は、Tバー10に固定される。なお、本実施形態では、接合用ブラケット70は一対(2個)設けられているが、これには限られず、片側1個(例えば
図4の左側のみ)でもよい。また、
図4(及び
図2)に示すように、補強線材20は、Tバー10よりも上方に設けられており、補強線材20の自重は、Tバー10によって支えられている。
【0053】
なお、
図3の補強線材20に示す破線は、実線で示す補強線材20と直交する補強線材20(同図において接合用ブラケット70で挟まれたTバー10と平行な補強線材20)を示している。図に示すように、補強線材20は、Tバー10から少しずれた位置(例えばグリッド12の内側)に設けられている。例えば、グリッド12の一辺aが640mmの場合に、片側45mm内側に寄せた場合、平行な2本の補強線材20の芯々距離は、1280-(45×2)=1190mmとなる。このように、補強線材20の位置をTバー10からずらすことにより、Tバー10に接続される吊りボルト4を避けて補強線材20を配置することができる。
【0054】
また、
図4に示すように、上下方向において、Tバー10の上端と、補強線材20の下端との間には隙間sが形成されている。この隙間sは、天井ボード100の厚さdよりも大きいことが望ましい。本実施形態の場合、隙間sは20mmであり、天井ボード100の厚さdは15mmである。これにより、天井ボード100を持ち上げて、隙間sに移動させることができるので、例えば、メンテをする際などに作業が容易になる。
【0055】
以上、説明したように、本実施形態では、Tバー10に補強線材20を設けており、補強線材20で4つ(又は2つ)のグリッド12を有する区画(区画D1,D2)を形成している。これにより、システム天井の面内方向の剛性・強度を高めることができ、変形を抑制することができる。特に、本実施形態では、
図1に示すように、補強フレーム40やダンパー50の設けられた区画D1の前後左右の4方向に、区画D1に連続する区画D2を設けているので、システム天井の面内方向の剛性・強度を効率的に高めることができる。
【0056】
<天井構造の設計方法>
次に、本実施形態の天井構造の設計方法について説明する。
図5は、天井構造の設計方法の一例を示すフロー図である。なお、以下の説明において、左右方向のことをx方向、前後方向のことをy方向、上下方向のことをz方向ともいう。
【0057】
まず、天井の各諸元の仮定を行う(S01)。例えば、天井仕様(各部位の長さ、重心、面積等)、壁とのクリアランス、空調機の配置等の各設定を行う。
【0058】
次に、補強フレーム40の解析を行なう(S02)。ここでは、補強フレーム40の吊り元強度、水平剛性、及び水平耐力などを確認する。吊り元強度は、補強フレーム40の下端に荷重を作用させて、吊り元に作用する力を計算する。水平剛性に関しては、例えば、補強フレーム40の下端に任意の節点荷重を作用させて、フレーム40の変位量の平均値を算出する。
【0059】
次に、天井の時刻歴応答解析により、変位・加速度、ダンパー力等を導出する(S03)。ここでは、詳細な説明は省略するが、「天井」、「空調機」、「ダンパー」についての運動方程式を解くことにより、「制振天井」の時刻歴応答解析を行う。なお、後述するように、耐震天井の場合は、告示等により規定される天井加速度を用いてもよい。
【0060】
次に、天井補強材(補強線材20、ターンバックル30)の静的解析により、天井補強材の各種構成部材に作用する応力・変形を導出する(S04)。この解析は、補強フレーム40部分(区画D1)を固定とし、時刻歴応答解析等により得られた「天井」に作用する水平力の最大値を作用させることで行う。なお、解析は、左右方向(x方向)、前後方向(y方向)のそれぞれについて行う。ただし、天井補強材を全てモデル化する必要はなく、対称等の理由で、応力状態が同程度になる箇所や、明らかに安全側になると考えられる箇所については省略し、一部を抜き出しても良い。例えば、x方向とy方向の構成が同じ場合、x方向、y方向の何れかの一部を抜き出しても良い。以下では、x方向に沿った部分を抜き出して、y方向加振の解析を行う場合の例について説明する。
【0061】
図6Aは、天井構造における抜き出し箇所の一例を示す図である。ここでは、
図1の天井構造のうち、補強フレーム40の設けられた区画D1とx方向に連続する区画D2を含む領域(一点鎖線で囲まれた領域)を抜き出している。なお、図の各区画の角の丸印は、補強線材20とTバー10との接合部を示している。また、
図6Aのy方向に沿った破線は、それぞれの接合部(補強線材20とTバー10との接合部)が負担する支配領域を示している。
【0062】
図6Bは、抜き出し箇所の解析モデルを示す図である。
図6Bに示すように、天井補強材(補強線材20及びターンバックル30)を線材モデルでモデル化し、Tバー10との接合部に生じる地震力を節点荷重として作用させる。なお、節点荷重は、天井の時刻歴応答解析等における最大加速度に、各接合部が負担する天井質量(破線で区切られた領域の天井質量)を乗じることで求める。
【0063】
図6Cは、解析結果の一例を示す図である。図ではy方向へ加振したときの変形例を示している。この解析結果により、地震時における天井補強材の変形、および天井補強材の各種部材・接合部(例えば
図6Aで丸印で囲んだ部分)に生じる力を求め、目標性能を満たしているか(クライテリア内であるか)を確認する(S05)。例えば、以下の性能を満たすかを確認する。
天井、ダンパー、壁の最大変形×安全率≦天井と周辺の壁等とのクリアランス
各部材、接合部に生じる力、応力×安全率≦同部材、接合部の許容応力、耐力
【0064】
次に、Tバー10をモデル化した解析により、天井補強材の有効性を確認する(S06)。具体的には、天井補強材が存在しない領域(区画D1,D2以外の領域)について、離れた場所に存在する天井補強材により、面内剛性・強度が向上することを確認する。
【0065】
図7Aは、Tバー10をモデル化した解析モデルの一例を示す図である。
図7Aは、x方向及びy方向のそれぞれについて区画D2に隣接する(具体的には左端及び下端に補強線材20、ターンバックル30が配置されている)領域のモデルである。なお、
図7Aは
図6の例においては2.5×2.5スパンの領域であるが、解析モデルでは、これよりも平面寸法が大きい5×5スパン(1スパン1280mm)としている。ここでは、グリッドの各点に吊りボルト4が配置されている。
【0066】
図7Aに示すように、吊りボルト4の構面のTバー10、吊りボルト4をモデル化し、天井補強材(補強線材20、ターンバックル30)との接合部、及び吊りボルト4の吊り元を固定支持とする。また、Tバー10同士の接合部はピン接合とする。そして、図に示すように水平方向に節点荷重を作用させる。
【0067】
図7Bは、解析結果の一例を示す図である。図より、全体座屈は生じず、吊りボルト4の構面のTバー10の1か所の座屈が生じていることが確認できる。また、座屈荷重は897Nである。これは、1280mm間隔のTバー10の両端をピンとした場合のオイラー座屈荷重と等しいことから、吊りボルト4により全体座屈が抑えられていることが確認できる。また、Tバー10は、鉛直方向の強軸まわりの断面二次モーメントが、面内の弱軸まわりの断面二次モーメントよりも十分に大きいため、面内の座屈が支配的となり、全体座屈が生じないものと考えられる。以上により、広がりがある天井に対しても、両端をピンとするTバー10の座屈を検討すればよい。
【0068】
なお、
図5のステップS01~S05については、物件ごとに個別に行う必要があるが、ステップS06は、汎用的な確認であるため、物件ごとに行う必要はない。
【0069】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0070】
前述の実施形態では、区画D1に補強フレーム40やダンパー50を設けていたが、区画D1に補強フレーム40やダンパー50を設けていなくてもよい。この場合においても、補強線材20を設ける(区画を形成する)ことにより、Tバー10のみの場合と比べて、面内方向の剛性・強度を高めることができる。また、補強フレーム40、ダンパー50の代わりに、耐震ブレースを設けてもよい(すなわち耐震天井でもよい)。
【0071】
なお、前述の実施形態では、「制振天井」の場合の設計方法について説明したが、「耐震天井」の場合は、
図5のステップS02において、メーカー規定の耐震ブレースの許容応力・耐力を確認する。また、ステップS03における天井加速度の設定において、告示等に規定されている式等を用いてもよい(制振天井と同様、時刻歴応答解析でもよい)。例えば、仕様ルートの2.2Gを採用してもよいし、計算ルートに規定されている分類・計算式を用いて詳細に加速度を求めてもよい。そして、ステップS04において、天井加速度から得られた水平力を天井に作用させて、静的解析を行う。
【0072】
また、前述の実施形態では、補強線材20で形成される区画(区画D1,D2)は、複数(例えば4つ)のグリッド12を有していたが、1つのグリッド12のみを有するようにしてもよい。ただし、本実施形態のように複数のグリッド12を有するように区画を構成(すなわち補強線材20を設置)すると、補強を効率的に行うことが出来る。
【符号の説明】
【0073】
2 上部構造
4 吊りボルト(吊り材)
10 Tバー(天井下地材)
12 グリッド
20 補強線材
30 ターンバックル(斜材)
40 補強フレーム
50 ダンパー(減衰部材)
70 接合用ブラケット
72a ボルト
72b ナット
74 ボルト
100 天井ボード(天井材)
D1 区画(基準区画)
D2 区画(連続区画)