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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153608
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ケレン装置および吊下型ケレン装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20241022BHJP
   E01D 11/02 20060101ALI20241022BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20241022BHJP
   B08B 1/12 20240101ALI20241022BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D11/02
E01D19/16
B08B1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066862
(22)【出願日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2023066874
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592185585
【氏名又は名称】本四高速道路ブリッジエンジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】明石 良男
(72)【発明者】
【氏名】西川 一基
【テーマコード(参考)】
2D059
3B116
【Fターム(参考)】
2D059AA47
2D059BB06
2D059GG39
3B116AA31
3B116AA46
3B116AB53
3B116BA02
3B116BA15
3B116BB72
(57)【要約】
【課題】ハンガーロープのケレン作業を自動化する。
【解決手段】ケレン装置は、所定の間隔に垂下される第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとを含む複数のハンガーロープをガイドローラーによってそれぞれ挟み、第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとの間において自装置の位置を保持しつつ、ハンガーロープの垂下方向に移動可能な支持枠部と、支持枠部に取り付けられ、第1ハンガーロープを囲う格納容器と、格納容器に取り付けられ、第1ハンガーロープのうち、格納容器内にある所定の照射範囲に線状のレーザー光を照射する照射部と、第1ハンガーロープの垂下方向に対する、照射部が照射するレーザー光の線の傾斜角を所定角度に調整する照射角度調整部と、第1ハンガーロープの断面周方向において、照射部が照射するレーザー光の照射方向を調整する照射方向調整部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔に垂下される第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとを含む複数のハンガーロープをガイドローラーによってそれぞれ挟み、前記第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとの間において自装置の位置を保持しつつ、前記ハンガーロープの垂下方向に移動可能な支持枠部と、
前記支持枠部に取り付けられ、前記第1ハンガーロープを囲う格納容器と、
前記格納容器に取り付けられ、前記第1ハンガーロープのうち、前記格納容器内にある所定の照射範囲に線状のレーザー光を照射する照射部と、
前記第1ハンガーロープの垂下方向に対する、前記照射部が照射する前記レーザー光の線の傾斜角を所定角度に調整する照射角度調整部と、
前記第1ハンガーロープの断面周方向において、前記照射部が照射する前記レーザー光の照射方向を調整する照射方向調整部と、
を備えるケレン装置。
【請求項2】
前記照射方向調整部は、前記照射方向を、前記第1ハンガーロープの断面周方向のうち、少なくとも6方向に調整可能である
請求項1に記載のケレン装置。
【請求項3】
前記照射角度調整部は、前記第1ハンガーロープを構成するストランドの傾斜方向に合わせて、前記レーザー光の線の方向を調整可能である
請求項1に記載のケレン装置。
【請求項4】
前記格納容器内に取り付けられ、前記第1ハンガーロープに接して前記第1ハンガーロープをケレンするローラーブラシ
をさらに備える請求項1に記載のケレン装置。
【請求項5】
負圧によって前記格納容器内の塵埃を吸引する吸引部を前記格納容器内に備え、前記吸引部から吸引された塵埃を貯留する貯留部と、前記負圧を発生させる負圧発生部とを、前記支持枠部の前記第2ハンガーロープ側に備える
請求項1に記載のケレン装置。
【請求項6】
前記支持枠部は、前記ハンガーロープの断面周方向のうち、少なくとも6方向にカウンターウエイトを取り付け可能なウエイト取付部
をさらに備える請求項1に記載のケレン装置。
【請求項7】
前記格納容器を前記第1ハンガーロープの断面周方向に回転させる回転駆動部
をさらに備える請求項1に記載のケレン装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のケレン装置と、
前記ケレン装置を吊り下げる吊りワイヤを巻き取る巻取部と、巻取部を駆動する駆動部と、を備える吊り上げ装置と、
前記レーザー光のレーザー光源装置と、
を備える吊下型ケレン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケレン装置および吊下型ケレン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吊橋は、2本の主塔と、2本の主塔間に渡されたにメインケーブルと、メインケーブルに垂らされたハンガーロープとにより桁を支持する。ハンガーロープは鋼製で通常、塗装などを施しており、塗装膜表面及び鋼材が経年劣化をする。このためハンガーロープが損傷していないかを定期的に点検することや、錆が生じている場合にはケレン作業などをする必要がある。従来、斜張橋のケーブルや送電線の周りを一周に渡り簡単に、かつ短時間で点検できる点検装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-163402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置によると、ハンガーロープのケレン作業を自動化することまではできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、所定の間隔に垂下される第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとを含む複数のハンガーロープをガイドローラーによってそれぞれ挟み、前記第1ハンガーロープと第2ハンガーロープとの間において自装置の位置を保持しつつ、前記ハンガーロープの垂下方向に移動可能な支持枠部と、前記支持枠部に取り付けられ、前記第1ハンガーロープを囲う格納容器と、前記格納容器に取り付けられ、前記第1ハンガーロープのうち、前記格納容器内にある所定の照射範囲に線状のレーザー光を照射する照射部と、前記第1ハンガーロープの垂下方向に対する、前記照射部が照射する前記レーザー光の線の傾斜角を所定角度に調整する照射角度調整部と、前記第1ハンガーロープの断面周方向において、前記照射部が照射する前記レーザー光の照射方向を調整する照射方向調整部と、を備えるケレン装置である。
【0006】
また、本発明の一態様のケレン装置において、前記照射方向調整部は、前記照射方向を、前記第1ハンガーロープの断面周方向のうち、少なくとも6方向に調整可能である。
【0007】
また、本発明の一態様のケレン装置において、前記照射角度調整部は、前記第1ハンガーロープを構成するストランドの傾斜方向に合わせて、前記レーザー光の線の方向を調整可能である。
【0008】
また、本発明の一態様のケレン装置において、前記格納容器内に取り付けられ、前記第1ハンガーロープに接して前記第1ハンガーロープをケレンするローラーブラシをさらに備える。
【0009】
また、本発明の一態様のケレン装置において、負圧によって前記格納容器内の塵埃を吸引する吸引部を前記格納容器内に備え、前記吸引部から吸引された塵埃を貯留する貯留部と、前記負圧を発生させる負圧発生部とを、前記支持枠部の前記第2ハンガーロープ側に備える。
【0010】
また、本発明の一態様のケレン装置において、前記支持枠部は、前記ハンガーロープの断面周方向のうち、少なくとも6方向にカウンターウエイトを取り付け可能なウエイト取付部をさらに備える。
【0011】
また、本発明の一態様のケレン装置において、前記格納容器を前記第1ハンガーロープの断面周方向に回転させる回転駆動部をさらに備える。
【0012】
また、本発明の一態様は、上述のケレン装置と、前記ケレン装置を吊り下げる吊りワイヤを巻き取る巻取部と、巻取部を駆動する駆動部と、を備える吊り上げ装置と、前記レーザー光のレーザー光源装置と、を備える吊下型ケレン装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハンガーロープのケレン作業を自動化することができるケレン装置および吊下型ケレン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る吊橋の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係るケレン装置を用いたケレン作業の一例を示す図である。
図3】本実施形態のケレン装置の外観の一例を示す図である。
図4】本実施形態の格納容器の内部構造の一例を示す図である。
図5】本実施形態のケレン装置を上面視した構成の一例を示す図である。
図6】本実施形態の第1格納容器を上面視した構成の一例を示す図である。
図7】本実施形態のハンガーロープの断面の一例を示す図である。
図8】本実施形態の照射方向調整部による照射方向の調整の一例を示す図である。
図9】本実施形態のハンガーロープの側面と照射範囲との関係の一例を示す図である。
図10】本実施形態のケレン装置の照射角度調整部の一例を示す図である。
図11】変形例のケレン装置を上面視した構成の一例を示す図である。
図12】変形例の格納容器を側面視した場合の内部構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。本実施形態では、ケレン装置1が、吊橋のハンガーロープをケレン作業する場合について説明をする。吊橋の構造について図1を参照し説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る吊橋の一例を示す図である。吊橋は、河川や海の底に基礎を備える。この基礎の上に、主塔10が構築される。橋の両端には、アンカレイジ11が構築されている。メインケーブル12が、主塔10とアンカレイジ11との間、及び主塔10間に架けられている。ハンガーロープ13は、メインケーブル12から垂下され、橋桁14を支える。
以下の説明において必要な場合には、3次元直交座標系XYZとする。ここで、3次元直交座標系XYZのX軸は、吊橋の橋軸方向と平行であり、Z軸は、鉛直方向上向きである。XY平面は、鉛直方向(つまりZ軸)に直交する水平面である。
【0017】
主塔10は、メインケーブル12を支持し、両岸から全長の凡そ4分の1の位置に設置される。主塔10は、鋼や鉄筋コンクリートにより構築される。アンカレイジ11は、吊橋の両端にあるコンクリートのブロックであり、メインケーブル12を繋ぎ止める碇として機能する。メインケーブル12は、主塔10に架けられ、ハンガーロープ13を通じて桁をつり下げる。メインケーブル12には、通常、鋼製のワイヤを並行に束ねたものが用いられる。
ハンガーロープ13は、メインケーブル12から所定の間隔に垂下され、懸垂線を描くメインケーブル12と橋桁14を結ぶため位置により長さが異なる。ハンガーロープ13には、通常、撚ったワイヤロープが用いられる。本実施形態の一例においては、ハンガーロープ13は、ワイヤロープを撚り束ねたストランドどうしを、さらに撚り束ねることによって構成されている。
【0018】
図2は、本実施形態に係るケレン装置1を用いたケレン作業の一例を示す図である。
図2において、3次元直交座標系XYZの各軸の向きは、図1の3次元直交座標系XYZの各軸の向きと共通である。図2は、図1の吊橋をX軸の正の向きにみた場合の断面図である。
【0019】
メインケーブル12には、ハンガーロープ13が垂下されている。メインケーブル12は、ハンガーロープ13が定着部15に定着されることにより橋桁14を支える。このハンガーロープ13は、1本のハンガーロープ13がメインケーブル12の周方向に巻きかけられてメインケーブル12から垂下される。メインケーブル12の左右からそれぞれハンガーロープ13-1及び第2ハンガーロープ13-2が所定の間隔に垂下される。ハンガーロープ13-1は左側に垂下されている。第2ハンガーロープ13-2は右側に垂下されている。
【0020】
すなわち、第1ハンガーロープ13-1と第2ハンガーロープ13-2とは、メインケーブル12の左右方向に、所定の間隔に垂下される。
【0021】
吊り上げ装置21は、メインケーブル12上に設置され、滑車24と、ブーム25と、ウインチ26とを備えている。ウインチ26(巻取部)は、不図示の駆動部を備えており、ウインチワイヤ23を巻き取る。ブーム25、およびブーム25の先端に取り付けられた滑車24は、第1ハンガーロープ13-1と第2ハンガーロープ13-2との間にウインチワイヤ23が上下動するようにガイドする。ウインチワイヤ23は、第1ハンガーロープ13-1と第2ハンガーロープ13-2との間において、ケレン装置1を吊り下げる。
【0022】
ケレン装置1は、ウインチワイヤ23により吊るされている。ケレン装置1は、支持枠部20と、格納容器35と、照射部51とを備える。
【0023】
照射部51は、いわゆるレーザーヘッドであり、レーザー光源装置61から光ファイバー67を介して供給されるレーザー光を所定の照射方向および照射範囲に照射する。
なお、本実施形態では、同図に示すように、レーザー光源装置61は、吊橋の路面に置かれている場合を一例にして説明するが、これに限られない。例えば、レーザー光源装置61は、支持枠部20に備えられ、支持枠部20と共に移動可能であってもよい。
【0024】
図3は、本実施形態のケレン装置1の外観の一例を示す図である。支持枠部20は、第1ローラー41および第2ローラー42を備える。第1ローラー41および第2ローラー42は、Z軸の方向に摺動可能に第1ハンガーロープ13-1及び第2ハンガーロープ13-2を把持する。
【0025】
格納容器35は、この一例では直方体の容器である。格納容器35は、天面と底面との間をハンガーロープ13が貫通する。格納容器35には、第1ハンガーロープ13-1が貫通する第1格納容器35-1と、第2ハンガーロープ13-2が貫通する第2格納容器35-2とがある。
すなわち、格納容器35のうち、第1格納容器35-1は、支持枠部20に取り付けられ、第1ハンガーロープ13-1を囲う。格納容器35のうち、第2格納容器35-2は、支持枠部20に取り付けられ、第2ハンガーロープ13-2を囲う。
【0026】
支持枠部20は、第1格納容器35-1と第2格納容器35-2とをZ軸方向に支持する。
すなわち、支持枠部20は、所定の間隔に垂下される第1ハンガーロープ13-1と第2ハンガーロープ13-2とを含む複数のハンガーロープ13を第1ローラー41および第2ローラー42(ガイドローラー)によってそれぞれ挟み、第1ハンガーロープ13-1と第2ハンガーロープ13-2との間においてケレン装置1(自装置)の位置を保持しつつ、ハンガーロープ13の垂下方向に移動可能である。
【0027】
なお、上述した、ケレン装置1と、吊り上げ装置21と、レーザー光源装置61とをあわせて、吊下型ケレン装置ともいう。
【0028】
照射部51は、第1格納容器35-1の開口部35Aに取り付けられる。図4に、格納容器35の内部構造を示す。
【0029】
図4は、本実施形態の格納容器35の内部構造の一例を示す図である。照射部51は、照射軸51-1方向にレーザー光を出射するレーザー出射部511を備える。レーザー出射部511は、格納容器35の開口部35Aから格納容器35の内部に突出して備えられている。照射軸51-1は、開口部35Aから第1ハンガーロープ13-1に向かう。すなわち、照射部51は、第1ハンガーロープ13-1に向かう照射軸51-1方向に、レーザー光を出射する。
【0030】
照射部51から照射されるレーザー光の出力(強さ)は、ハンガーロープ13の表面に生じている錆をハンガーロープ13から除去できる程度にあらかじめ調整されている。例えば、レーザー光の出力(強さ)は、照射部51から照射されたレーザー光によって1種ケレン相当の作業が行える出力(強さ)である。
【0031】
[照射方向調整部について]
次に、ケレン装置1の照射方向調整部について説明する。図3に戻り、ケレン装置1は、照射方向調整ピン66を備える。照射方向調整ピン66は、支持枠部20と第1格納容器35-1との間の、第1ハンガーロープ13-1周りにおける相対的な設置角度を固定する。
【0032】
図5は、本実施形態のケレン装置1を上面視した構成の一例を示す図である。第1格納容器35-1は、ケレン装置1を上面視した場合(つまり、XY平面において)、多角形の形状を有している。同図に示す一例では、第1格納容器35-1は、上面視した場合、正六角形の形状を有している。すなわち、第1格納容器35-1は、六角柱形状である。
なお、第1格納容器35-1が六角柱形状(あるいは正多角注形状)であることは一例である。第1格納容器35-1は、第1ハンガーロープ13-1周りにおけるレーザー光の照射方向を相対的に可変に設定できればよく、その形状は問わない。
【0033】
図6は、本実施形態の第1格納容器35-1を上面視した構成の一例を示す図である。第1格納容器35-1は、複数のピン挿入穴35Bを備えている。本実施形態の第1格納容器35-1の場合、正六角形のそれぞれの頂点に対応する6か所にピン挿入穴35Bを備えている。これらのピン挿入穴35Bには、上述した照射方向調整ピン66が挿入可能である。
【0034】
図5に戻り、照射方向調整ピン66は、支持枠部20に対してZ軸方向(つまり、鉛直上下方向)に移動可能に支持されている。つまり、照射方向調整ピン66は、支持枠部20に対してXY平面内では位置が変化せず、Z方向の上下動が可能である。照射方向調整ピン66を下向き(Z軸の負の方向)に移動させることにより、第1格納容器35-1のピン挿入穴35Bに照射方向調整ピン66が挿入される。
なお、照射方向調整ピン66は、第1格納容器35-1のピン挿入穴35Bに挿入した位置で上下動の移動を固定できるネジや抜け止めピンなどのロック機構を備えていてもよい。
【0035】
第1格納容器35-1は、複数のピン挿入穴35Bのうち、いずれのピン挿入穴35Bに照射方向調整ピン66を挿入するかによって、第1格納容器35-1の第1ハンガーロープ13-1周りの角度を変更可能である。
第1格納容器35-1の第1ハンガーロープ13-1周りの角度を変更することにより、第1格納容器35-1に取り付けられている照射部51の照射軸51-1の、第1ハンガーロープ13-1周りの角度が変化する。すなわち、第1格納容器35-1の第1ハンガーロープ13-1周りの角度を変更することにより、第1ハンガーロープ13-1の周方向のうち、いずれの方向からレーザー光を照射するかを選択可能である。
これら、照射方向調整ピン66と、ピン挿入穴35Bとを合わせて、照射方向調整部ともいう。
【0036】
ケレン装置1の照射方向調整部は、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向において、照射部51が照射するレーザー光62の照射方向を調整する。
【0037】
本実施形態の一例では、照射方向調整ピン66は、照射方向を、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向のうち、少なくとも6方向に調整可能である。
【0038】
図7は、本実施形態のハンガーロープ13の断面の一例を示す図である。本実施形態の一例において、ハンガーロープ13は、心綱13Aの周りに、6本のストランド13Bが単層あるいは多層に撚り合された構造を有している。このため、ハンガーロープ13の断面(XY断面)は、略六角形の形状となる。このハンガーロープ13の断面の略六角形は、中心角60度ごとに谷部63を形成する。谷部63とは、ハンガーロープ13の表面のうち、断面の包絡線よりも中心側に落ち窪んだ領域をいう。この谷部63を構成する中心角の角度を、谷部角度θ1ともいう。
【0039】
図8は、本実施形態の照射方向調整部による照射方向の調整の一例を示す図である。上述したように、本実施形態の第1格納容器35-1は、照射方向調整ピン66を挿入するピン挿入穴35Bを変更することにより、レーザー光の照射方向を、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向のうち、少なくとも6方向に調整可能である。
同図に示すように、照射部51は、第1ハンガーロープ13-1に対して、照射部51A~Fのいずれかの位置からレーザー光を照射可能である。同図には、照射部51が照射部51Aに位置する場合の照射軸51-1の方向(つまり、照射軸51-1A)を示す。同様に、照射部51が照射部51B~Fにそれぞれ位置する場合の照射軸51-1の方向(つまり、照射軸51-1B~F)を示す。
【0040】
すなわち、ケレン装置1は、レーザー光の照射方向を、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向のうち、少なくとも6方向に調整可能であるため、第1ハンガーロープ13-1に少なくとも6か所ある谷部63に対して、レーザー光を出射することができる。つまり、ケレン装置1は、谷部63に対してレーザー光の照射軸51-1を正対させて、レーザー光を照射することができる。
ここで、ハンガーロープ13の谷部63は、ハンガーロープ13の断面の包絡線よりも中心側に落ち窪んだ領域である。このため、谷部63に錆が生じている場合、一般的にケレン作業が困難である。
本実施形態のケレン装置1によれば、谷部63に対して正対する方向からレーザー光を照射することができるため、谷部63に生じている錆を効率的に除去することができる。すなわち、本実施形態のケレン装置1によれば、谷部63のケレン作業を容易化することができる。
【0041】
ここで、本実施形態のケレン装置1によるレーザー光の照射範囲の一例について説明する。
図9は、本実施形態のハンガーロープ13の側面と照射範囲との関係の一例を示す図である。照射部51は、平面に照射された場合に線状の軌跡を描くレーザー光を出射する。例えば、照射部51は、ガルバノミラーなどの走査機構を備えており、点光源を線状(例えば、直線状)の軌跡にして出射する。この結果、照射部51からハンガーロープ13に照射されるレーザー光の軌跡62は、照射範囲64内において線状(例えば、直線状)になる。
【0042】
すなわち、照射部51は、格納容器35(第1格納容器35-1)に取り付けられ、第1ハンガーロープ13-1のうち、格納容器35内にある所定の照射範囲に線状のレーザー光を照射する。
【0043】
照射部51が照射するレーザー光の軌跡62の幅W1(レーザー光の軌跡62のうち、図中のY軸方向の長さ)が長い(大きい)ほど、ケレン作業1回あたりに錆を除去することができる面積(施工面積)を大きくすることができる。
このレーザー光の軌跡62の幅W1は、ハンガーロープ13断面の谷部角度θ1(上述の例では、60度)よりも大きい角度範囲になるように設定されていることが好ましい。
【0044】
本実施形態のケレン装置1は、照射部51によって照射されるレーザー光の軌跡62の長さ(例えば、走査機構による走査幅)は、図7に示した谷部角度θ1よりも大きい角度範囲(例えば、照射範囲角度θ2)を照射できるように設定されている。すなわち、本実施形態のケレン装置1は、レーザー光の照射範囲を谷部角度θ1よりも大きい照射範囲角度θ2にして、レーザー光を照射する。
このよう本実施形態のケレン装置1によれば、レーザー光の軌跡62が、谷部角度θ1よりも大きい角度範囲(例えば、照射範囲角度θ2)を照射できるように設定されているため、ケレン作業1回あたりに錆を除去することができる面積(施工面積)を大きくすることができる。
【0045】
なお、本実施形態のケレン装置1を使用したケレン作業は、次のような手順で実施される。
(1)ケレン装置1を、ハンガーロープ13に取り付ける。
(2)照射部51によってレーザー光をハンガーロープ13に照射しながら、ウインチ26を動作させて、ケレン装置1をハンガーロープ13に沿って上下移動させる。
(3)所定の回数(例えば、下から上の片道、1往復、2往復など)だけケレン装置1を上下移動させたのち、ハンガーロープ13の1照射方向分のケレン作業を終了する。
(4)照射方向調整ピン66をピン挿入穴35Bに対して挿抜して、照射部51の取り付け方向を変更する。
(5)上述の(2)から(4)を繰り返して、ハンガーロープ13の全照射方向分(例えば、6方向分)のケレン作業を終了する。
(6)他のハンガーロープ13について(1)から(5)を繰り返す。
【0046】
[照射角度調整部について]
図10は、本実施形態のケレン装置1の照射角度調整部の一例を示す図である。図10(A)には、第1格納容器35-1の側面視の一例を示す。図10(B)には、ハンガーロープ13(第1ハンガーロープ13-1)の側面視の一例を示す。
第1格納容器35-1の開口部35Aは、照射角度調整長穴65Bを有している。照射角度調整長穴65Bは、照射部51の照射軸51-1を中心とする円弧状の開口である。照射部51は、照射角度調整ネジ65Aによって、照射角度調整長穴65Bのいずれかの位置に固定される。照射角度調整ネジ65Aによって照射部51を固定する位置を変更することにより、照射軸51-1を中心とする、照射部51と第1格納容器35-1との相対角度を調整することができる。
照射角度調整ネジ65Aおよび照射角度調整長穴65Bを、照射角度調整部ともいう。
上述したように、照射部51は、線状のレーザー光を照射する。照射軸51-1を中心とする照射部51と第1格納容器35-1との相対角度を調整すれば、線状のレーザー光の照射角度を調整することができる。
【0047】
ここで、ケレン装置1の照射角度調整部は、第1ハンガーロープ13-1の垂下方向に対する、照射部51が照射するレーザー光62の線の角度θ1(傾斜角)を所定角度に調整する。
上述したように、ハンガーロープ13は、心綱13Aの周りに、6本のストランド13Bが撚り合された構造を有している。このため、ハンガーロープ13を側面視すると、ストランド13Bが所定の角度(図10(B)の角度θ3)に配置される。
【0048】
ケレン装置1の照射角度調整部は、第1ハンガーロープ13-1を構成するストランドの傾斜方向に合わせて、レーザー光62の線の方向を調整可能である。
【0049】
照射角度調整部は、照射部51による照射角度θ4を、ストランド13Bの角度θ3に一致させることにより、ストランド13Bの谷部63に生じた錆を効率的に除去することができる。
【0050】
[変形例]
なお、ケレン装置1は、ローラーブラシ(ケレンローラー55)を備えていてもよい。上述した図4に示すように、ケレンローラー55は、格納容器35内に取り付けられている。ケレンローラー55は、第1ハンガーロープ13-1に接して回転することにより、第1ハンガーロープ13-1をケレンする。ケレン装置1は、ケレンローラー55を備えることにより、照射部51によるレーザーケレンに加えて、ケレンローラー55による物理的(機械的)ケレンを行うことができる。したがって、ケレン装置1によれば、ケレン作業の作業効率を高めることができる。
【0051】
また、ケレン装置1は、負圧によって格納容器35内の塵埃を吸引する吸引部52を備えていてもよい。この変形例の場合、ケレン装置1は、上述した図4に示すように、第2格納容器35-2側に、貯留部53および負圧発生部54を備え、第1格納容器35-1と、第2格納容器35-2との間を接続する吸引ホース53Aを備える。
負圧発生部54は、負圧を発生させることで、吸引力を生み出す。吸引部52は、例えば、第1格納容器35-1内に開口する吸引口であって、格納容器35内の塵埃を吸引する。貯留部53は、吸引部52から吸引された塵埃を貯留する。貯留部53に貯留された塵埃は、支持枠部20が定着部15付近まで下げられた際に、回収される。
【0052】
このように構成されたケレン装置1によれば、ケレン作業でハンガーロープ13から除去された錆などの塵埃を、作業中に吸引することができる。このため、ケレン装置1によれば、ケレン作業中に上空で塵埃が舞ってしまうことを抑止でき、環境負荷を低減することができる。
また、このように構成されたケレン装置1によれば、照射部51を備えない側の格納容器35の空きスペースを有効活用することができる。また、このように構成されたケレン装置1によれば、第1格納容器35-1と第2格納容器35-2との重量バランスを均衡させることで、支持枠部20の水平維持を容易にすることができる。
【0053】
また、ケレン装置1は、ウエイト取付部(不図示)を備えていてもよい。ウエイト取付部は、支持枠部20は、ハンガーロープ13の断面周方向のうち、少なくとも6方向にカウンターウエイト(不図示)を取り付け可能である。上述したように、第1格納容器35-1は照射方向調整部(照射方向調整ピン66およびピン挿入穴35B)を備えており、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向において、照射部51が照射する方向を調整可能である。つまり、第1格納容器35-1は、第1ハンガーロープ13-1に対する照射部51の取り付け方向が変化する。このため、照射部51の取り付け方向によっては、ハンガーロープ13に対するケレン装置1の重心位置がずれて、支持枠部20を水平に維持することが困難になる場合がある。
上述のようにウエイト取付部を備えるケレン装置1によれば、ハンガーロープ13に対して、照射部51の取り付け方向とは反対側にカウンターウエイトを取り付けることで、ケレン装置1の重心位置を調整することができる。したがって、ウエイト取付部を備えるケレン装置1によれば、支持枠部20を水平に維持することを容易することができる。
【0054】
[変形例2]
なお、ケレン装置1は、格納容器35(格納容器35-1a)を第1ハンガーロープ13-1の断面周方向に回転させる回転駆動部72を備えていてもよい。
【0055】
図11は、変形例のケレン装置1を上面視した構成の一例を示す図である。
図12は、変形例の格納容器35-1aを側面視した場合の内部構成の一例を示す図である。
【0056】
具体的には、ケレン装置1は、回転機構70を備えている。回転機構70は、固定歯車71と、回転駆動部72と、案内輪73とを備えている。
固定歯車71は、第1ハンガーロープ13-1側の支持枠部20に固定された歯車である。固定歯車71は、その中心軸の位置が、第1ハンガーロープ13-1の位置に配置される。
回転駆動部72は、格納容器35-1aに固定されており、固定歯車71と噛み合うピニオンギア(不図示)と、ピニオンギアを回転させるモータ(不図示)とを備えている。回転駆動部72は、モータを回転駆動することによりピニオンギアを回転させる。ピニオンギアが回転すると、格納容器35-1aは、ピニオンギアに噛み合っている固定歯車71の外周部を、図示する時計回り方向CW(あるいは反時計回り方向CCW)に回転する。
案内輪73は、格納容器35-1aを保持する部材に固定されており、格納容器35-1aの移動方向が、固定歯車71の中心軸を回転中心にして、固定歯車71の周方向に回転するように案内する。例えば、案内輪73は、固定歯車71の中心軸を中心として周方向に120度ずつ離れた位置(つまり、正三角形の頂点の位置)に配置される。
【0057】
回転駆動部72は、遠隔操作によってモータを回転させることにより、格納容器35-1aを第1ハンガーロープ13-1の周方向に回転させてもよい。
また、回転駆動部72は、コンピュータ装置(不図示)によって、ケレン装置1の上昇速度あるいは下降速度に応じた回転角速度で、格納容器35-1aを第1ハンガーロープ13-1の周方向に回転させてもよい。
【0058】
上述の変形例2のように構成したケレン装置1によれば、照射部51aが照射するレーザー光の照射方向を、第1ハンガーロープ13-1の断面周方向の任意の方向に設定することができる。
また、上述のように構成したケレン装置1によれば、レーザー光の照射方向を、回転機構70を遠隔操作する(あるいは、自律動作させる)ことにより、変更することができる。このため、ケレン装置1がハンガーロープ13を上下方向に移動しながらレーザー光の照射方向を変更したり、ケレン装置1が高所にある場合にレーザー光の照射方向を変更したりすることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した各実施形態を適宜組み合わせることができる。
【0060】
なお、上述の各装置は内部にコンピュータを有している。そして、上述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0061】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…ケレン装置、10…主塔、11…アンカレイジ、12…メインケーブル、13…ハンガーロープ、13-1…第1ハンガーロープ、13-2…第2ハンガーロープ、14…橋桁、15…定着部、20…支持枠部、21…吊り上げ装置、23…ウインチワイヤ、24…滑車、25…ブーム、26…ウインチ、35…格納容器、35-1…第1格納容器、35-2…第2格納容器、51…照射部、51-1…照射軸、52…吸引部、53…貯留部、54…負圧発生部、55…ケレンローラー、61…レーザー光源装置、62…レーザー光の軌跡、63…谷部、64…照射範囲、65…照射角度調整ネジ、66…照射方向調整ピン、67…光ファイバー
図1
図2
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図10
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図12