(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153609
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】断熱材およびその利用
(51)【国際特許分類】
B65D 81/38 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
B65D81/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066882
(22)【出願日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2023067186
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】沓水 竜太
(72)【発明者】
【氏名】根岩 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】金鹿 渉
【テーマコード(参考)】
3E067
【Fターム(参考)】
3E067AA22
3E067AB51
3E067AC01
3E067BA01A
3E067BB17A
3E067BC03A
3E067CA18
3E067FA01
3E067FC01
3E067GA11
3E067GD10
(57)【要約】
【課題】温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制し、かつ、高温での寸法変化を抑制し得る断熱材を実現する。
【解決手段】断熱材(20)は、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含み、貯湯タンク(4)の外周部に設置され、前記樹脂発泡成形体は、90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、
前記樹脂発泡成形体は、90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下である、断熱材。
【請求項2】
輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、
前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂の少なくとも1種が(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂であり、
平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)が0.0300W/mK以下であり、
平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である、断熱材。
λ2/λ1<1.08
【請求項3】
前記樹脂発泡成形体の平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)が0.0324W/mK以下である、請求項1または2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記樹脂発泡成形体は、発泡粒子成形体である、請求項1または2に記載の断熱材。
【請求項5】
前記輻射伝熱抑制剤は、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ、コークス、酸化チタン、アルミニウム、および銅からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱材。
【請求項6】
前記輻射伝熱抑制剤の含有量は、前記樹脂発泡成形体100重量%に対して、1重量%~20重量%である、請求項1または2に記載の断熱材。
【請求項7】
前記樹脂発泡成形体は、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である、請求項1記載の断熱材。
λ2/λ1<1.08
【請求項8】
前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂は、スチレン系樹脂を含む、請求項1に記載の断熱材(ただし、前記スチレン系樹脂はスチレンホモポリマー100%を除く)。
【請求項9】
前記スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有する、請求項8に記載の断熱材。
【請求項10】
前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂100重量%に対し、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂が50~100重量%である、請求項2または9に記載の断熱材。
【請求項11】
請求項1または2に記載の断熱材を備える、貯湯タンク。
【請求項12】
請求項11に記載の貯湯タンクを備える、貯湯式給湯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材およびその利用に関し、特に、温水容器の外周部に設置される断熱材およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貯湯式給湯機の貯湯タンクといった温水容器の外周部を断熱材で覆うことによって、温水容器内の温水の放熱を防ぐ技術が知られている。例えば、特許文献1の技術では、貯湯タンクの外周部を覆う断熱材として、耐熱性スチレン系樹脂発泡成形体を用いている。
【0003】
一方、断熱性能を向上するため、特許文献2には、輻射伝熱抑制剤であるグラファイトを3~8重量%含有するスチレン系樹脂発泡成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-145968号公報
【特許文献2】国際公開2015/137363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような、耐熱性スチレン系樹脂発泡成形体からなる断熱材は、温度上昇によって熱伝導率が大きく上昇し、断熱性能が悪化する場合がある。そして、その影響により、当該断熱材は、貯湯タンクの保温性能が十分でなくなるという課題があり、改善の余地が残されている。
【0006】
また、貯湯タンクの外周部を覆う断熱材として、特許文献2に記載のスチレン系樹脂発泡成形体からなる断熱材を用いた場合、当該断熱材は、温水温度での寸法変化の抑制という点で改善の余地が残されている。
【0007】
本発明の一態様は、温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制し、かつ、高温での寸法変化を抑制し得る断熱材およびその利用を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、前記樹脂発泡成形体は、90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下である、断熱材。
【0010】
〔2〕輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、
前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂の少なくとも1種が(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂であり、
平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)が0.0300W/mK以下であり、
平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である、断熱材。
λ2/λ1<1.08。
【0011】
〔3〕前記樹脂発泡成形体の平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)が0.0324W/mK以下である、〔1〕または〔2〕の断熱材。
【0012】
〔4〕前記樹脂発泡成形体は、発泡粒子成形体である、〔1〕~〔3〕の何れかの断熱材。
【0013】
〔5〕前記輻射伝熱抑制剤は、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ、コークス、酸化チタン、アルミニウム、および銅からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかの断熱材。
【0014】
〔6〕前記輻射伝熱抑制剤の含有量は、前記樹脂発泡成形体100重量%に対して、1重量%~20重量%である、〔1〕~〔5〕のいずれかの断熱材。
【0015】
〔7〕前記樹脂発泡成形体は、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である、〔1〕~〔6〕のいずれかの断熱材。
λ2/λ1<1.08。
【0016】
〔8〕前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂は、スチレン系樹脂を含む、〔1〕~〔7〕のいずれかの断熱材(ただし、前記スチレン系樹脂はスチレンホモポリマー100%を除く)。
【0017】
〔9〕前記スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有する、〔8〕の断熱材。
【0018】
〔10〕前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂100重量%に対し、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂が50~100重量%である、〔2〕または〔9〕の断熱材。
【0019】
〔11〕〔1〕~〔10〕のいずれかの断熱材を備える、貯湯タンク。
【0020】
〔12〕〔11〕の貯湯タンクを備える、貯湯式給湯機。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制し、かつ、高温での寸法変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る断熱材の適用対象となる貯湯式給湯機の構成例を概略的に示す構成図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係る断熱材の一例を示す分解斜視図である。
【
図3】実施例において保温性能評価に使用した断熱材および温水容器の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表わす「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0024】
<本発明の一実施形態の技術的思想>
省エネルギー化社会への対応の一環として、エコキュート(登録商標)等の自然冷媒ヒートポンプ給湯器・システムのさらなる省エネ化が要求されている。このような省エネ化の要求に対して、本実施形態は、貯湯式給湯機の温水容器の断熱構造に関し、高い保温・断熱性能を有し、かつ脱着性にも優れた断熱材の提供も課題の1つとしている。
【0025】
貯湯式給湯機の温水容器の断熱構造に対して断熱材を実際に適用するに際し、当該断熱材は、(I)温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制すること、および(II)高温での寸法変化を抑制することが必要である。本願発明者は、上記(I)および(II)の効果を奏する断熱材について、鋭意検討した結果、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含み、かつ当該樹脂発泡成形体における90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が特定の数値範囲である断熱材を用いれば、上記(I)および(II)の効果を奏することを見出し、本実施形態に係る断熱材を開発するに至った。
【0026】
併せて、本願発明者は、上記(I)および(II)の効果を奏する断熱材について、別の観点から鋭意検討した結果、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含み、かつ(a)前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂の少なくとも1種が(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂であり、(b)平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)が特定の範囲であり、かつ、(c)平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比λ2/λ1が特定の範囲である断熱材を用いれば、上記(I)および(II)の効果を奏することを見出し、本実施形態に係る断熱材を開発するに至った。
【0027】
すなわち、本実施形態に係る第1の断熱材は、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、前記樹脂発泡成形体は、90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下である。
【0028】
さらに、本実施形態に係る第2の断熱材は、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む、温水容器の外周部に設置される断熱材であって、前記樹脂発泡成形体を構成する樹脂の少なくとも1種が(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂であり、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)が0.0300W/mK以下であり、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である。
λ2/λ1<1.08。
【0029】
以下、本実施形態に係る第1の断熱材および本実施形態に係る第2の断熱材を「本実施形態に係る断熱材」と称することがある。
【0030】
なお、特許文献2のように輻射伝熱抑制剤を樹脂発泡成形体に配合することは知られていた。しかしながら、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体が、温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制する効果を奏するという知見は、これまで知られておらず、本願発明者が新たに見出した知見であるといえる。
【0031】
<温水容器および断熱材の構成>
本実施形態に係る断熱材は、温水容器の外周部に設置される断熱材である。当該断熱材の設置対象となる温水容器は、加熱した水(湯)を貯蔵できる構造であれば、特に限定されない。
【0032】
本実施形態に係る断熱材に用いられる温水容器は、例えば、貯湯式給湯機に備えられた貯湯タンクが挙げられる。
図1は、本実施形態に係る断熱材の適用対象となる貯湯式給湯機の構成例を概略的に示す構成図である。
【0033】
図1に示すように、当該貯湯式給湯機は、タンクユニット1と、ヒートポンプ式の加熱器2と、給湯栓3と、を備えている。当該貯湯式給湯機では、加熱器2により加熱された温水は、タンクユニット1にて貯湯される。そして、当該貯湯式給湯機は、給湯要求があった時に、給湯栓3から温水を給湯する構成となっている。
【0034】
タンクユニット1は、貯湯タンク4と、給水管5と、出湯管6と、給水バイパス管7と、給湯混合弁8と、給湯管9と、加熱往き管10と、加熱戻り管11と、加熱循環ポンプ12と、制御装置13と、沸き上げ運転制御手段14と、を備えている。
【0035】
貯湯タンク4は、温水を貯湯するタンクであり、例えば、エコキュート(登録商標)である。給水管5は、貯湯タンク4の下部に接続されている。また、出湯管6は、貯湯タンク4の上部に接続されている。給水バイパス管7は、給水管5の途中で分岐した分岐管であり、給水管5と出湯管6との間をバイパスする。給湯混合弁8は、出湯管6を流れる温水と給水バイパス管7を流れる市水とを所定の比率で適宜混合して給湯設定温度を調節する弁である。給湯管9は、給湯混合弁8により混合された混合水が流通する管である。
【0036】
加熱往き管10は、貯湯タンク4の下部と加熱器2の流入側部分とを接続する管である。加熱戻り管11は、貯湯タンク4の上部と加熱器2の流出側部分とを接続する管である。そして、加熱循環ポンプ12は、加熱往き管10の途中に設けられている。加熱循環ポンプ12は、貯湯タンク4内の温水を、貯湯タンク4と加熱器2との間で循環させて、熱交換するためのものである。
【0037】
制御装置13は、貯湯式給湯機の給湯動作の運転制御を担う装置である。沸き上げ運転制御手段14は、制御装置13に設けられており、沸き上げ運転時に加熱循環ポンプ12および加熱器2を制御して沸き上げ運転を行う。
【0038】
本実施形態に係る断熱材は、例えば
図1に示す貯湯式給湯機において、貯湯タンク4に取り付けられる。
図2は、本実施形態に係る断熱材20の一例を示す分解斜視図である。
【0039】
図2において、貯湯タンク4内の上部には高温層の温水、下部には低温層の温水が貯湯される。断熱材20は、貯湯タンク4から貯湯タンク4の外部への放熱を防ぐために、貯湯タンク4の外周部を覆うように設けられている。断熱材20は、右側面断熱材21と、左側面断熱材22と、上面断熱材23と、下面断熱材24と、が組み合わされ貯湯タンク4の外周部を覆う構成となっている。右側面断熱材21は、貯湯タンク4の側面の右半分を覆う。左側面断熱材22は、貯湯タンク4の側面の左半分を覆う。また、上面断熱材23および下面断熱材24は、それぞれ、貯湯タンク4の上面部および下面部を覆う。
【0040】
なお、本実施形態に係る断熱材の構成は、
図2に示す断熱材20に限定されず、貯湯タンク4の外周部を覆うことができれば、任意の構成を採用することができる。
【0041】
<輻射伝熱抑制剤>
本実施形態に係る断熱材は、輻射伝熱抑制剤を含有した樹脂発泡成形体を含む。これにより、高い断熱性を有し、温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制し得る、温水容器用の断熱材を実現できる。その結果、当該断熱材を温水容器の外周に設置することによって、断熱性能が良好になり、温水容器の保温性能が向上する。
【0042】
ここでいう輻射伝熱抑制剤とは、近赤外又は赤外領域の光を反射、散乱又は吸収する特性を有する物質をいう。当該輻射伝熱抑制剤としては、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭、膨張黒鉛、コークス等の炭素材料;酸化アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム系化合物;二酸化チタン、四塩化チタン等のチタン系化合物;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の硫酸金属塩;三酸化二アンチモン、三フッ化アンチモン等のアンチモン系化合物;金属酸化物等の熱線反射剤;フタロシアニン、錫ドープ酸化インジウム等の熱線吸収剤;銅等の金属粒子等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、輻射伝熱抑制剤は、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ、コークス、酸化チタン、アルミニウム、および銅からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。さらに、コストに対する輻射伝熱抑制効果の高さから、輻射伝熱抑制剤は、グラファイトおよびカーボンブラックの少なくとも1つであることが好ましい。なお、輻射伝熱抑制剤は、上記にて例示した化合物の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
グラファイトとしては、例えば、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、又は人造黒鉛等が挙げられ、これらのうち、鱗片状黒鉛は、高い輻射抑制効果を発揮することから好ましい。なお、本明細書において、「鱗片状」という用語は、鱗状、薄片状又は板状のものをも包含する。
【0045】
また、グラファイトの平均粒径は、1μm~10μmであることが好ましく、2.5μm~9μmであることがより好ましく、3.0μm~6.0μmであることがさらに好ましく、4.0μm~6.0μmであることが最も好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、輻射伝熱抑制剤の平均粒径は、次のように定義される。すなわち、ISO13320:2009,JIS Z8825-1に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒径(レーザー回折散乱法による体積平均粒径)を上記平均粒径とする。
【0047】
グラファイトは、平均粒径が大きいほど製造コストが低くなる。特に平均粒径が1μm以上であるグラファイトは、粉砕のコストを含め製造コストが低いため、非常に安価であり、コストを低減することができる。さらに、グラファイトの平均粒径が1μm以上であると、断熱性の良好なスチレン系樹脂発泡成形体を製造することが可能となる。グラファイトの平均粒径が10μm以下であると、発泡性スチレン系樹脂粒子から予備発泡粒子及びスチレン系樹脂発泡成形体を製造する際に、セル膜が破れにくくなるため、高発泡化が容易である、成形容易性が増加する、スチレン系樹脂発泡成形体の圧縮強度が増加する、といった効果がある。
【0048】
グラファイトの平均粒径が3.0μm以上であれば、より低い熱伝導率、従ってより高い断熱性を有する成形体を得ることができる。また、グラファイトの平均粒径が6.0μm以下であれば、成形体の表面美麗性に優れ、かつ、より低い熱伝導率、従ってより高い断熱性を有する成形体を得ることができる。
【0049】
また、カーボンブラックとしては、特に制限がなく、着色用カーボンブラック、導電性カーボンブラックなどを用いることができる。
【0050】
カーボンブラックの平均1次粒子径は、好ましくは20~100nmである。カーボンブラックの平均1次粒子径が前記範囲であれば、気泡径及び膜厚みの制御が容易となり、成形性、断熱性能に優れる断熱材が得られやすい。カーボンブラックの平均1次粒子径は、カーボンブラックを含有する樹脂発泡成形体を透過型電子顕微鏡により観察することにより測定できる。
【0051】
また、樹脂発泡成形体中における輻射伝熱抑制剤の分散性が高いほど、樹脂発泡成形体の熱伝導率が低くなり、断熱性能が向上する傾向にある。樹脂発泡成形体中における輻射伝熱抑制剤の分散性を示す指標としては、輻射伝熱抑制剤の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を採用することが好ましい。当該レーザー散乱強度の範囲としては、5.0{%/(mg/ml)}/重量%以上が好ましい。前記レーザー散乱強度の具体的な測定方法については、後述の実施例で説明する。
【0052】
<樹脂発泡成形体の寸法変化率>
本実施形態に係る断熱材において、前記樹脂発泡成形体は、90℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下であり、0.9%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0%である。また、前記樹脂発泡成形体は、95℃、168hr加熱前後の寸法変化率が1.0%以下であり、0.9%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0%である。
【0053】
加熱前後の寸法変化率が上記数値範囲であれば、樹脂発泡成形体の寸法安定性が非常に高い。このため、温水で高温下に長期間晒される温水容器の断熱材に当該樹脂発泡成形体を用いても、断熱材の寸法変化が充分に抑えられる。さらには、複数の断熱材によって温水容器の外周を被覆する場合、断熱材同士の隙間の発生を確実に防ぐことができる。その結果、外気との温度差により対流が発生して空気が当該隙間から流動して放熱してしまうのを確実に防止することができる。さらには、樹脂発泡成形体における表面荒れ、色あせも抑えられる。
【0054】
<樹脂発泡成形体>
本実施形態において、上記樹脂発泡成形体は、特に限定されないが、例えば、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、メラミンフォーム等の熱硬化性樹脂発泡成形体;ニトリルゴム等のゴム発泡成形体;(a)ポリスチレン(PS)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(耐熱PS)、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体(HIPS)、N-フェニルマレイミド-スチレン-無水マレイン酸の3元共重合体、それとASとのアロイ(IP)等のスチレン系樹脂、(b)ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂等のビニル系樹脂、(c)ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン3元共重合体、シクロオレフィン系(共)重合体等のポリオレフィン系樹脂、及びこれらに分岐構造、架橋構造を導入してレオロジーがコントロールされたポリオレフィン系樹脂、(d)ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、MXDナイロン等のポリアミド系樹脂、(e)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、(f)ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂、(g)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(変性PPE)、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等のエンジニアリングプラスチック、といった熱可塑性樹脂の発泡成形体;が挙げられる。これらの樹脂発泡成形体を構成する樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これら樹脂発泡成形体の中でも、安価で、且つ、発泡成形が容易な点から、スチレン系樹脂または変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(変性PPE)の樹脂発泡成形体が好ましい。
【0055】
前記スチレン系樹脂は、スチレン単独重合体(ポリスチレンホモポリマー)のみならず、本実施形態に係る効果を損なわない範囲で、(a)スチレン、及び、(b)スチレンと共重合可能な他の単量体又はその誘導体(以下、単に「他の単量体又はその誘導体」と称する。)が共重合されている共重合体であってもよい。
【0056】
前記「他の単量体又はその誘導体」としては、例えば、(a)メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のスチレン誘導体;(b)ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;(c)アクリル酸、メタアクリル酸等の(メタ)アクリル酸化合物;(d)アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;(e)(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;(f)ブタジエン等のジエン系化合物又はその誘導体;(g)無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2)-クロロフェニルマレイミド、N-(4)-ブロモフェニルマレイミド、及びN-(1)-ナフチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本実施形態に用いられるスチレン系樹脂は、スチレン単独重合体、及び/又は、スチレンと他の単量体もしくはその誘導体との共重合体に限らず、本実施形態に係る効果を損なわない範囲で、(a)スチレン単独重合体、及び/又は、スチレンと他の単量体もしくはその誘導体との共重合体と、(b)上述の他の単量体もしくは誘導体の単独重合体、又はそれらの共重合体と、のブレンド物であってもよい。
【0058】
好ましい態様として、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂は、スチレン系樹脂を含む(ただし、前記スチレン系樹脂はスチレンホモポリマー100%を除く)。より具体的には、当該樹脂は、スチレン系樹脂を主成分として含む。「スチレンホモポリマー100%」とは、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂に含まれるスチレン系樹脂の全量を100重量%としたとき、当該スチレン系樹脂に対するスチレンホモポリマーの割合が100重量%であることを意味する。上記好ましい態様では、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂がスチレン系樹脂を含む態様のうち、スチレン系樹脂に対するスチレンホモポリマーの割合が100重量%である態様が除かれている。さらに、上記スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有することがより好ましい。これにより、後述する実施例に示すように、高温環境(90℃)下での断熱材の寸法変化を抑制できる。当該スチレン系樹脂は、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(耐熱PS)であることが好ましい。特に、上述した貯湯タンク4等の温水容器にて貯湯される湯水の温度は、70℃以上100℃未満での温度範囲である場合が多いので、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂を用いれば、上記温度範囲での樹脂発泡成形体の変形を抑制することができる。後述の実施例に示すように、前記スチレン系樹脂がスチレンホモポリマー100%であり、かつ輻射伝熱抑制剤を含む場合、樹脂発泡成形体が大幅に収縮し、上記温度範囲での変形が抑制できない。
【0059】
上記好ましい態様において、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(単量体単位)は、樹脂発泡成形体の変形を抑制するために、好ましくは3.0重量%~30重量%であり、より好ましくは5.0重量%~25重量%である。但し、スチレン系樹脂の全量を100重量%とする。
【0060】
また、上記好ましい態様おいて、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂と、スチレンホモポリマーと、を含むことが好ましい。すなわち、上記好ましい態様においては、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂とスチレンホモポリマーとをブレンドしてもよい。
【0061】
上記樹脂発泡成形体を構成するスチレン系樹脂組成物を100重量%とした場合、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂の組成比率は、50重量%~100重量%であることが好ましく、60重量%~90重量%であることがより好ましい。すなわち、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂100重量%に対し、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂が50~100重量%であることが好ましく、60重量%~90重量%であることがより好ましい。また、スチレンホモポリマーの組成比率は、0重量%~50重量%であることが好ましく、5重量%~40重量%であることがより好ましい。
【0062】
(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂およびスチレンホモポリマーの組成比率を上記数値範囲内にすることによって、スチレンホモポリマーの効果により発泡成形時の加工性が向上するとともに、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂の効果により樹脂発泡成形体に対して高い耐熱性能を付与することができる。
【0063】
また、上記好ましい態様において、スチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を有するスチレン系樹脂に限定されず、スチレンホモポリマー100%以外のスチレン系樹脂であればよい。当該スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンホモポリマー/ジエン系ゴム強化ポリスチレンとポリフェニレンエーテル系樹脂とのアロイが挙げられる。
【0064】
上記好ましい態様において、樹脂発泡成形体の変形を抑制するためには、上記樹脂発泡成形体を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は、105℃~135℃が好ましく、より好ましくは110℃~130℃である。
【0065】
尚、例えばエコキュート(登録商標)等の貯湯タンクは、製造後10~15年程度で劣化・更新を迎えることが一般的であり、その際には産業廃棄物として廃棄され得る。循環型社会に対応できる樹脂発泡成形体として、マテリアルリサイクル可能な上記スチレン系樹脂発泡体に代表される熱可塑性樹脂の発泡成形体がより好ましい。また、基材樹脂がスチレン系樹脂であれば、魚箱や家電緩衝材として使用された発泡スチロールを再度リサイクルし、本発明の発泡成形体を構成する原料として使用可能である。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」等の達成にも貢献するものである。
【0066】
さらに、本実施形態において、断熱材の設置対象となる貯湯タンクは、複雑な形状を有する。このような貯湯タンクの外周形状に対応した形状の断熱材を低コストで製造する観点では、上記樹脂発泡成形体は、型内発泡成形体であることが好ましい。
【0067】
さらに、樹脂発泡成形体の生産性の観点から、上記樹脂発泡成形体は、発泡粒子成形体であることが好ましい。発泡粒子成形体は、発泡粒子を成形用金型に充填し加熱成形することによって得られた成形体であり、魚箱、緩衝材、自動車バンパー等の用途として広く用いられている。発泡粒子成形体は、後述する予備発泡粒子を加熱成形することによって得られることが好ましい。
【0068】
<輻射伝熱抑制剤の添加量>
本実施形態において、上記輻射伝熱抑制剤の含有量は、発泡成形の容易性と熱伝導率低減効果とのバランスの観点から、1重量%~20重量%であることが好ましい。但し、樹脂発泡成形体の全量を100重量%とする。すなわち、前記輻射伝熱抑制剤の含有量は、前記樹脂発泡成形体100重量%に対して、1重量%~20重量%であることが好ましい。輻射伝熱抑制剤の含有量が1重量%以上では、熱伝導率低減効果が十分となる傾向があり、一方、20重量%以下では、発泡性熱可塑性樹脂粒子から、発泡成形体を製造するときに、セル膜が破れにくくなるため、高発泡化が容易であり、発泡倍率の制御が容易になる傾向がある。
【0069】
より好ましくは、上記輻射伝熱抑制剤の含有量は、3重量%~10重量%である。輻射伝熱抑制剤の含有量が3重量%以上であることにより、得られる樹脂発泡成形体は熱伝導率が低くなるので、高温環境時においてもより高い断熱性、ひいては温水容器の保温性能を得ることができる。また、輻射伝熱抑制剤の含有量が10重量%以下であることにより、基材樹脂の発泡・成形性に悪影響を及ぼさず、かつ得られる発泡成形体の表面美麗性が良好となる。
【0070】
<スチレン系樹脂発泡成形体>
次に、上記樹脂発泡成形体として、構成樹脂がスチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂発泡成形体について、さらに詳述する。
【0071】
(発泡剤)
スチレン系樹脂発泡成形体の製造に際し、スチレン系樹脂組成物にさらに発泡剤を含ませて発泡性スチレン系樹脂組成物としてもよい。発泡性スチレン系樹脂組成物を用いて、後述の発泡性スチレン系樹脂粒子を製造したり、樹脂発泡成形体に成形することができる。発泡剤は、特に限定されないが、発泡性と製品ライフとのバランスが良く、実際に使用する際に高倍率化しやすい観点から、炭素数3~6の炭化水素が好ましく、炭素数4~5の炭化水素がさらに好ましい。炭素数を3以上としたのは、発泡剤は揮発性が低くなるので、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子は発泡剤が逸散しにくくなるからである。これにより、実際に発泡工程にて発泡性スチレン系樹脂粒子を使用する際に、発泡性スチレン系樹脂粒子内に発泡剤が十分に残り、十分な発泡力を得ることが可能となり、高倍率化が容易となる。また、炭素数を6以下としたのは、発泡剤の沸点が高すぎないため、予備発泡時の加熱により十分な発泡力を得やすく、高発泡化が易しい傾向にあるからである。炭素数3~6の炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、又はシクロヘキサン等の炭化水素が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本実施形態において使用され得る他の発泡剤としては、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0072】
また、発泡剤の添加量は、スチレン系樹脂組成物100重量部に対して、4~10重量部であることが好ましい。これにより、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子は、発泡速度と発泡力とのバランスがより良く、より安定して高倍率化しやすいという効果を奏する。具体的には、発泡剤の添加量を4重量部以上としたのは、発泡に必要な発泡力が十分であるから、高発泡化が容易となり、発泡倍率30~50倍程度の本実施形態に係る断熱材として必要な強度を有するスチレン系樹脂発泡成形体を製造し易くなる傾向があるからである。また、発泡剤の添加量を10重量部以下としたのは、難燃性能が良好となると共に、スチレン系樹脂発泡成形体を製造する際の製造時間(成形サイクル)が短くなるため、製造コストが低くなる傾向となるからである。なお、発泡剤の添加量は、スチレン系樹脂組成物100重量部に対して、4.5~9.0重量部であることがより好ましく、5.0~8.5重量部であることがさらに好ましい。
【0073】
(難燃剤)
上記スチレン系樹脂組成物には難燃剤を含有してもよい。当該難燃剤としては、特に限定されず、従来からスチレン系樹脂発泡成形体に用いられる任意の難燃剤を使用できる。その中でも、難燃性付与効果が高い臭素系難燃剤を用いることが好ましい。当該臭素系難燃剤としては、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル))、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル))等の臭素化ビスフェノール系化合物;テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、臭素化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、臭素化ランダムスチレン・ブタジエン共重合体、臭素化スチレン・ブタジエングラフト共重合体等の臭素化ブタジエン・ビニル芳香族炭化水素共重合体(例えば、特表2009-516019号公報に開示されている)等が挙げられる。これら臭素系難燃剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
臭素系難燃剤は、目的とする発泡倍率に制御しやすいと共に、輻射伝熱抑制剤の添加時の難燃性等のバランスの点から、スチレン系樹脂組成物100重量%に対して、臭素系難燃剤に由来する臭素含有量が0.8重量%以上であることが好ましく、5.0重量%以下であることがより好ましい。臭素含有量が0.8重量%以上であると、難燃性付与効果が大きくなる傾向にあり、5.0重量%以下であると、得られるスチレン系樹脂発泡成形体の強度が増加しやすい。より好ましい態様では、臭素系難燃剤は、臭素含有量が1.0~3.5重量%になるように、スチレン系樹脂組成物または発泡性スチレン系樹脂粒子に配合される。
【0075】
(熱安定剤)
スチレン系樹脂発泡成形体の製造に際し、さらに、熱安定剤を併用することによって、製造工程における臭素系難燃剤の分解による難燃性の悪化及びスチレン系樹脂の劣化を抑制することができる。熱安定剤は、用いられるスチレン系樹脂の種類、発泡剤の種類及び含有量、炭素の種類及び含有量、難燃剤の種類及び含有量等に応じて、適宜組み合わせて用いることができる。
【0076】
熱安定剤としては、臭素系難燃剤含有混合物の熱重量分析における重量減少温度を任意に制御できる点から、ヒンダードアミン化合物、リン系化合物、フェノール系安定剤、又はエポキシ化合物が好ましい。熱安定剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、これらの熱安定剤は、後述するように耐光性安定剤としても使用できる。
【0077】
(ラジカル発生剤)
スチレン系樹脂発泡成形体の製造に際し、スチレン系樹脂組成物にラジカル発生剤をさらに含有させ、臭素系難燃剤と併用することによって、高い難燃性能を発現することができる。
【0078】
ラジカル発生剤は、用いるスチレン系樹脂の種類、発泡剤の種類及び含有量、輻射伝熱抑止剤の種類及び含有量、臭素系難燃剤の種類及び含有量に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0079】
ラジカル発生剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、又はポリ-1,4-イソプロピルベンゼン等が挙げられる。ラジカル発生剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0080】
(その他の添加剤)
スチレン系樹脂組成物は、上述した効果を損なわない範囲で、必要に応じて、加工助剤、耐光性安定剤、造核剤、発泡助剤、帯電防止剤、及び顔料等の着色剤よりなる群から選ばれる1種以上の添加剤を含有していてもよい。
【0081】
加工助剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、又は流動パラフィン等が挙げられる。
【0082】
耐光性安定剤としては、前述したヒンダードアミン類、リン系安定剤、エポキシ化合物の他、フェノール系抗酸化剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、又はベンゾトリアゾール類等が挙げられる。
【0083】
造核剤としては、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、タルク等の無機化合物;メタクリル酸メチル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等の高分子化合物;ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックス;メチレンビスステアリルアマイド、エチレンビスステアリルアマイド、ヘキサメチレンビスパルミチン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド等の脂肪酸ビスアマイド等が挙げられる。
【0084】
発泡助剤としては、大気圧下での沸点が200℃以下である溶剤が好ましく、例えば、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル等が挙げられる。
【0085】
なお、帯電防止剤及び着色剤は、樹脂組成物に用いられる従来のものを使用することができる。
【0086】
これらの他の添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0087】
<発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法>
次に、スチレン系樹脂発泡成形体の製造に使用される発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法について、説明する。当該製造方法としては、以下の(A)および(B)の2つの方法が挙げられる。
【0088】
(A)スチレン系樹脂、輻射伝熱抑制剤、必要に応じて難燃剤、ラジカル発生剤、安定剤等の添加剤を押出機で溶融混練し、小孔を有するダイスを通じてスチレン系樹脂組成物の溶融物を押し出した後、カッターで切断することにより造粒化し、スチレン系樹脂粒子を得る。その後、該スチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させると共に、発泡剤を供給して、発泡剤をスチレン系樹脂粒子に含有させることで、発泡性スチレン系樹脂粒子を得る。(A)の方法において、カッターによる造粒化は、コールドカット法であっても、ホットカット法であってもよい。
【0089】
(B)スチレン系樹脂、輻射伝熱抑制剤、必要に応じて、難燃剤、ラジカル発生剤、安定剤等の添加剤を押出機に供給、溶融混練し樹脂組成物(I)を得る。前記押出機もしくは押出機以降の分散設備によって、樹脂組成物(I)に発泡剤を溶解、分散させ、発泡剤含有スチレン系樹脂組成物の溶融物を得る。得られた溶融物を、押出機以降に取り付けた小孔を多数有するダイスを通じて、加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に押し出す。そして、押し出し直後から、ダイスと接する回転カッターにより溶融物を切断すると共に加圧循環水により冷却固化して、発泡性スチレン系樹脂粒子を得る。
【0090】
なお、上記(B)の方法においては、設備の簡便性から、スチレン系樹脂、輻射伝熱抑制剤、及び、難燃剤、ラジカル発生剤、安定剤等の添加剤を供給、溶融混練する押出機に直接発泡剤を圧入し、発泡剤を樹脂に溶解・分散させ、発泡剤含有スチレン系樹脂組成物の溶融物を得ることが好ましい。
【0091】
(造粒条件)
(A)および(B)の製造方法における発泡性スチレン系樹脂粒子の造粒条件について説明する。
【0092】
まず、造粒に使用されるダイスは、特に限定されないが、例えば、直径0.3mm~2.0mm、望ましくは0.4mm~1.0mmの小孔を有するものが挙げられる。
【0093】
上記(B)の製造方法において、ダイスより押出される直前の上記溶融物の温度は、発泡剤を含まない状態での樹脂のガラス転移温度をTgとすると、Tg+40℃以上であることが好ましく、Tg+40℃~Tg+110℃であることがより好ましく、Tg+60℃~Tg+90℃であることがさらに好ましい。なお、スチレンホモポリマーの場合、Tgは約100℃であるため、好ましい温度範囲は140~210℃であり、さらに好ましい範囲は160℃~190℃である。
【0094】
上記(B)の製造方法において、ダイスより押出される直前の溶融樹脂の温度がTg+40℃以上であれば、押出された上記溶融物の粘度が低くなり、小孔詰まりが発生しにくく、実質小孔開口率の低下が起きないため、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子の形状が歪もしくは不揃いとなる事態を避けることができる。一方で、ダイスより押出される直前の上記溶融物の温度がTg+110℃以下であれば、押出された溶融物が固化し易くなり、回転カッターに巻き付き難くなり、安定的に切断できる。
【0095】
上記(B)の製造方法において、冷却のための加圧循環水中へ押出された溶融物を切断するための切断装置は、特に限定されないが、例えば、ダイスに接触する回転カッターで切断されて小球化され、加圧循環水中を発泡性スチレン系樹脂粒子が発泡することなく、遠心脱水機まで移送されて脱水・集約される装置、等が挙げられる。
【0096】
加圧循環水の条件は、使用するスチレン系樹脂、添加剤、発泡剤、輻射伝熱抑制剤の種類、含有量に応じて適宜設定され得るが、ダイスより押し出される溶融物の発泡が抑制され、カッターにより安定的に切断される条件が好ましい。具体的には、加圧循環水の温度条件としては、好ましくは45℃~90℃、より好ましくは50~85℃である。加圧条件としては、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子の真密度が好ましくは950kg/m3~1,050kg/m3、より好ましくは1,000~1,050kg/m3となるように、圧力を調整する。使用する発泡剤の種類にも依存するが、ブタン、ペンタンを発泡剤として使用する場合、加圧条件は、好ましくは0.6~2.0MPa、より好ましくは0.7~1.7MPa、さらに好ましくは0.8~1.5MPaである。
【0097】
また、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法において、上記(A)の製法での発泡剤の含浸条件等は、一般的に行なわれる条件と同様でよく、適宜設定すればよい。
【0098】
<予備発泡粒子及び樹脂発泡成形体>
本実施形態に係る断熱材に用いられる熱可塑性樹脂の予備発泡粒子は、発泡剤を含む熱可塑性樹脂粒子(発泡性熱可塑性樹脂粒子と称する場合がある)を予備発泡(一次発泡)させることによって得られる。発泡性熱可塑性樹脂粒子としては、例えば、上述した発泡性スチレン系樹脂粒子が挙げられる。
【0099】
予備発泡粒子は、上述のように得られるため、予備発泡直後の収縮が軽減されるものである。そのため、予備発泡粒子は、高い発泡倍率を有し、当該予備発泡粒子を二次発泡および成形するにより得られた樹脂発泡成形体は、高い発泡倍率を有する、すなわち軽量である。また、予備発泡粒子は、輻射伝熱抑制剤を有する。このため、予備発泡粒子から得られた樹脂発泡成形体は、低い熱伝導率を有する。すなわち、予備発泡粒子は、低い熱伝導率を有する、換言すれば高い断熱性を有する樹脂発泡成形体を提供できる。
【0100】
また、発泡性熱可塑性樹脂粒子は、従来公知の予備発泡工程、例えば、加熱水蒸気によって10~110倍に発泡させて予備発泡粒子とし、必要に応じて一定時間養生させた後、成形に使用される。得られた予備発泡粒子は、従来公知の成形機を用い、水蒸気によって成形(例えば型内成形)されて樹脂発泡成形体が作製される。使用される金型の形状により、複雑な形の型内成形体およびブロック状の成形体を得ることができる。
【0101】
<樹脂発泡成形体の熱伝導率>
本実施形態に係る断熱材に用いられる樹脂発泡成形体の熱伝導率について、説明する。当該樹脂発泡成形体の熱伝導率は、好ましくは、以下を満たす。
【0102】
すなわち、前記樹脂発泡成形体は、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式であることが好ましい。
λ2/λ1<1.08。
【0103】
上記「平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)」とは、樹脂発泡成形体を60℃温度下で48時間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、当該樹脂発泡成形体についてJIS A9511:2006Rに準拠して測定した、中心温度20℃での熱伝導率を意味する。中心温度20℃での熱伝導率とは、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にてプレート温度を10℃及び30℃に設定した(平均温度20℃、温度差20℃で)低温域での熱伝導率をいう。
【0104】
また、上記「平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)」とは、樹脂発泡成形体を60℃温度下で48時間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、当該樹脂発泡成形体についてJIS A9511:2006Rに準拠して測定した、中心温度40℃での熱伝導率を意味する。中心温度40℃での熱伝導率とは、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にてプレート温度を10℃及び70℃に設定した(平均温度40℃、温度差60℃)高温域の熱伝導率をいう。
【0105】
本実施形態によれば、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比λ2/λ1が1.08未満であるので、樹脂発泡成形体は、熱伝導率の温度依存性が小さく、高温域での断熱性能の維持を発揮できる。λ2/λ1が1.08以上である場合、熱伝導率の温度依存性が大きくなり、高温域での断熱性能の維持発揮が困難になる傾向にある。λ2/λ1は、より好ましくは1.05以下である。
【0106】
また、熱伝導率(λ1)は、0.0300W/mK以下であることが好ましく、0.0295W/mK以下であることがより好ましく、0.0290W/mK以下であることがさらに好ましく、0.0285W/mK以下であることが最も好ましい。熱伝導率(λ1)が上記数値範囲であれば、長期にわたって非常に低い熱伝導率、ひいては高い断熱性を維持する樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0107】
また、熱伝導率(λ2)は、0.0324W/mK以下であることが好ましく、0.0308W/mK以下であることがより好ましく、0.0300W/mK以下であることが更に好ましい。熱伝導率(λ2)が上記数値範囲であれば、高温域での断熱性能維持という効果を奏する。
【0108】
樹脂発泡成形体の熱伝導率は、次の設定であってもよい:平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)が0.0300W/mK以下であり、かつ、平均温度20℃測定における熱伝導率(λ1)と平均温度40℃測定における熱伝導率(λ2)との比が、次式である。
λ2/λ1<1.08。
【0109】
さらに、樹脂発泡成形体は、発泡倍率が高いほど、原料である発泡性熱可塑性樹脂粒子の使用量が少なくなる。このことから、本実施形態によれば、高い発泡倍率の樹脂発泡成形体を安価に製造することができる。
【0110】
具体的には、本実施形態に係る断熱材に用いられる樹脂発泡成形体は、発泡倍率が30倍(cm3/g)以上であることが好ましい。さらに、当該樹脂発泡成形体の発泡倍率は、より好ましくは40倍(cm3/g)以上、さらに好ましくは50倍(cm3/g)以上である。当該構成によれば、30倍以上の樹脂発泡成形体とした場合であっても低い熱伝導率を達成できるため、製造コストが安く、軽量性でも有利な、より高発泡の樹脂発泡成形体であっても高性能な断熱性を発現できる。
【0111】
なお、本明細書において、発泡倍率を「倍」又は「cm3/g」という単位で示すがこれらは互いに同じ意味である。
【0112】
樹脂発泡成形体の平均セル径は、好ましくは70~500μm、より好ましくは70~250μm、さらに好ましくは90~200μm、さらに好ましくは100~180μmである。平均セル径が上記数値範囲にあることによって、断熱性が高い樹脂発泡成形体となる。平均セル径が70μm以上では、発泡成形体の独立気泡率が増加し、また、平均セル径が500μm以下では、熱伝導率が低下する。平均セル径は、例えば、造核剤の量を適宜選択することにより調整できる。
【0113】
また、樹脂発泡成形体は、低い熱伝導率を有すると共に、自己消火性を有し、かつ酸素指数26以上に調整することが可能である。このような樹脂発泡成形体は、貯湯タンク用断熱材としての用途に加え、建築用断熱材としても好適に使用できる。すなわち、本発明の一実施形態には、上述した断熱材を備える、貯湯タンクが含まれ得る。また、前記貯湯タンクを備える、貯湯式給湯機(貯湯式給湯システム)も含む。
【0114】
樹脂発泡成形体は、前記熱可塑性樹脂の予備発泡粒子を成形した熱可塑性樹脂発泡成形体であることが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂発泡成形体は、高い発泡倍率を有することができ、すなわち軽量となり得る。また、熱可塑性樹脂発泡成形体は、低い熱伝導率を有し、すなわち高い断熱性を有する。
【実施例0115】
以下に実施例、比較例および参考例を挙げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0116】
なお、以下の実施例、比較例および参考例における測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0117】
(スチレン系樹脂発泡成形体の熱伝導率の測定)
スチレン系樹脂発泡成形体から、長さ300mm×幅300mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。サンプルを60℃温度下にて48時間静置し、さらに、23℃温度下にて24時間静置した後、熱伝導率測定装置(英弘精機(株)製、HC-074)を用いて、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にてプレート温度を10℃及び30℃に設定し(平均温度20℃、温度差20℃で)低温域での熱伝導率(λ1)を測定した。
【0118】
他方、貯湯タンク用断熱材として、断熱材が温水の温度にさらされる高温環境下を想定し、高温下の断熱性を評価するために、プレート温度を10℃及び70℃に設定し(平均温度40℃、温度差60℃)で高温域の熱伝導率(λ2)を測定した。
【0119】
(発泡倍率の測定)
スチレン系樹脂発泡成形体から、上記(スチレン系樹脂発泡成形体の熱伝導率の測定)と同様に、長さ300mm×幅300mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。サンプルの重量(g)を測定すると共に、ノギスを用いて、縦寸法、横寸法、厚さ寸法を測定した。測定された各寸法からサンプルの体積(cm3)を計算し、下記計算式に従って発泡倍率を算出した。
【0120】
発泡倍率(cm3/g)=サンプル体積(cm3)/サンプル重量(g)
なお、前述したように、スチレン系樹脂発泡成形体の発泡倍率の単位「倍」は、慣習的に「cm3/g」でも表されている。
【0121】
(難燃性の評価)
作製された樹脂発泡成形体に対して、70℃温度下にて168時間静置し、さらに23℃温度下にて24時間静置した後、JIS K7201に準じて、酸素指数を測定した。
【0122】
(スチレン系樹脂発泡成形体の平均セル径の測定方法)
スチレン系樹脂発泡成形体をカミソリで切削し、光学顕微鏡で断面を観察した。断面の1,000μm×1,000μm四方の範囲内に存在するセル数を計測し、下記式(面積平均径)で測定した値を平均セル径とした。各サンプル5個の平均セル径を測定し、その平均を水準の平均セル径とした。
【0123】
平均セル径(μm)=2×[1,000μm×1,000μm/(セル数×π)]1/2
(加熱寸法変化率)
得られたスチレン系樹脂発泡成形体から、長さ150mm×幅150mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。当該サンプルを、JIS K 6767:1999(高温時の寸法安定性:B法)に準拠して、90℃×168時間加熱前後および95℃×168時間加熱前後それぞれにおいて、長さ方向及び幅方向の加熱寸法変化率を下記式に基づき測定した。その後、測定した、長さ方向及び幅方向の加熱寸法変化率のうち大きい値を加熱寸法変化率とした。
【0124】
S=|(L1―L0)|/L0×100
S;加熱寸法変化率(%)、L1:加熱後の寸法(mm)、L0:加熱前の寸法(mm)。
【0125】
(スチレン系樹脂発泡成形体の保温性能評価)
図3は、保温性能評価に使用した断熱材20Aおよび温水容器(金属容器40A)の概略構成を示す断面図である。
図3に示すように、厚み2mmのステンレスで構成された外寸372mm×106mm×106mm、容積3.8Lの金属容器4Aの外周部に、厚み25mmのスチレン系樹脂発泡成形体(
図3に示す、右側面断熱材21Aおよび左側面断熱材22Aからなる断熱材20A)を隙間なく設置した。23℃の室温環境下において、前記金属容器4Aに温度90℃の温水を3.7l注入し、金属容器4A中の温水温度が85℃から70℃までの温度低下に必要な時間を計測した。尚、温水温度測定箇所は
図3の通りとし、金属容器4Aの上部から下側へ50mmの位置の水温を測定した。
【0126】
(輻射伝熱抑制剤の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度)
(1)試料溶液の調製
スチレン系樹脂発泡成形体500mgを0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液20mLに溶解・分散させ、試料溶液とした。
【0127】
なお、上記の溶解・分散とは、樹脂が溶解して、グラファイトが分散している状態のことをいう。
【0128】
0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液とは、トルエンに界面活性剤であるスパン80を0.1%(w/w)加えたものを指す。
【0129】
次いで、超音波洗浄器にて、前記の試料溶液に超音波を照射し、グラファイトの凝集を緩和させた。
【0130】
(2)超音波照射条件
使用装置 :アズワン株式会社製 超音波洗浄器 型番USM
発振周波数:42kHz
照射時間 :10分
温度 :室温。
【0131】
(3)粒径測定条件
測定装置:マルバーン社製 レーザー回折式粒度分布測定装置 マスターサイザー3000
光源 :632.8nm赤色He-Neレーザー及び470nm青色LED
分散ユニット:湿式分散ユニット Hydro MV。
【0132】
以下の設定で分析を実施し、ISO13320:2009、JIS Z8825-1に準拠したMie理論に基づくレーザー回折・散乱法による測定・解析により、体積分布を求め、サンプル中の炭素のD50粒径を算出した。
【0133】
粒子の種類:非球形
グラファイト屈折率:2.42
グラファイト吸収率:1.0
分散媒体:0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液
分散媒体の屈折率:1.49
分散ユニット中の攪拌数:2500rpm
解析モデル:汎用、単一モードを維持
測定温度:室温。
【0134】
(4)測定手順
0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液120mlを分散ユニットに注入し、2500rpmで攪拌し、安定化させた。測定セルに試料溶液サンプルが存在せず、分散媒体のみの状態で632.8nm赤色He-Neレーザー光を照射した際の中央検出器で測定された光の強度を、透過光の強度Lbとした。次いで、超音波処理した試料溶液を2ml採取し、分散ユニットに追加した。試料溶液を追加して1分後の632.8nm赤色He-Neレーザー光を照射した際の中央検出器で測定された光の強度を、透過光の強度Lsとした。また、同時に粒径(D50)を測定した。得られたLs及びLbより、以下の式で試料溶液のレーザー散乱強度Obを算出した。
【0135】
Ob=(1-Ls/Lb)×100(%)。
【0136】
なお、中央検出器はレーザー光の出力に対して対向した正面に位置する検出部であり、ここで検出される光が、散乱に使用されなかった透過光の尺度である。レーザー散乱強度とは、解析装置のレーザーに試料を散乱させた際に失われるレーザー光の量の尺度である。
【0137】
(5)スチレン系樹脂発泡成形体の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度の算出
以下の式にて、スチレン系樹脂発泡成形体の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度X(%/(mg/ml))を算出した。
【0138】
X(%/(mg/ml)=レーザー散乱強度(Ob)/{サンプル重量(500mg)/トルエン量(20ml)×試料注入量(2ml)/分散ユニット内の全トルエン量(120ml+2ml)}。
【0139】
ここで、単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度とは、測定したレーザー散乱強度をトルエン中のサンプル濃度で割った値である。ここで用いた測定装置は、溶液で測定する必要のある装置であるため、トルエン溶液中のサンプル濃度を一定とし、一定のサンプル量における測定値を得ている。
【0140】
(6)スチレン系樹脂発泡成形体の輻射伝熱抑制剤単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度の算出
以下の式にて、スチレン系樹脂発泡成形体(以下、「測定対象」と略す。)中に含有される輻射伝熱抑制剤単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度Y{%/(mg/ml)}/重量%を算出した。
【0141】
Y{%/(mg/ml)}/重量%=測定対象の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度(%/(mg/ml))/測定対象のグラファイト含有量(重量%)。
【0142】
(実施例1)
[発泡性スチレン系樹脂粒子の作製]
メタクリル酸変性耐熱ポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;G9001、メタクリル酸8重量%)93重量部、グラファイト((株)丸豊鋳材製作所製、鱗片状黒鉛SGP-40B、平均粒径5.8μm)4.5重量部、および臭素系難燃剤(第一工業製薬(株)製、GR-170p(2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパンと安定剤との混合物))2.5重量部を口径40mmの同方向噛み合い二軸押出機(第一押出機)に供給した。そして、二軸押出機の原料フィード部以降のシリンダ温度を200℃として、供給物を溶融混練した。次いで、二軸押出機の原料フィード部以降のシリンダの途中部分に、溶融混練して得た溶融物100重量部に対して、発泡剤としての混合ペンタン(n-ペンタン80重量%とイソペンタン20重量%との混合物(エスケイ産業株式会社製))8.0重量部を圧入し、さらに溶融混練した。
【0143】
その後、得られた熱可塑性樹脂溶融物(発泡剤が含浸された熱可塑性樹脂溶融物)を、250℃に設定した継続管を通じて、口径90mmの単軸押出機(第二押出機)に供給した。単軸押出機の先端には、温度を180℃に設定したギアポンプ、およびダイバータバルブを接続し、ダイバータバルブの下流側には、直径0.65mm、ランド長5.0mmの小孔を60個有する、温度を250℃に設定したダイを接続した。そして、単軸押出機のシリンダ温度を180℃として、熱可塑性樹脂溶融物を混練した後、単軸押出機の先端に接続したダイから、溶融混練して得た溶融物を押出(吐出)量60kg/hrで、温度80℃および水圧1.2MPaの加圧水中に押出した。
【0144】
その直後、刃を有する回転カッターを用い、溶融物を切断して粒子化した。これにより、型内成形用の発泡性スチレン系樹脂粒子を形成した。得られた発泡性スチレン系樹脂粒子の粒重量は、平均で1mgであった。
【0145】
[予備発泡粒子の形成]
得られた発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡機に投入し、0.1MPaの水蒸気を導入して発泡させた。これにより、予備発泡粒子を形成した。得られた予備発泡粒子の嵩発泡倍率は50倍(cc/g)であった。
【0146】
[発泡粒子発泡体(発泡成形体)の作製]
得られた予備発泡粒子を、発泡スチレン用成形機に取り付けた金型(型内成形用金型)内に充填して、0.12MPaの水蒸気を導入して型内発泡させた。その後、金型内の樹脂発泡成形体が金型を押す圧力が0.015MPa(ゲージ圧力)になるまで水冷し、長さ400mm×幅400mm×厚さ25mm、発泡倍率50倍のスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0147】
得られた樹脂発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0148】
(実施例2)
予備発泡粒子及び樹脂発泡成形体の発泡倍率を30倍に変更した以外は実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0149】
(実施例3)
メタクリル酸変性耐熱ポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;G9001)88重量部、グラファイト((株)丸豊鋳材製作所製、鱗片状黒鉛SGP-40B)9.5重量部に変更した以外は実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0150】
(実施例4)
[発泡性スチレン系樹脂粒子の作製]
使用するスチレン系樹脂を、メタクリル酸変性耐熱ポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;G9001、メタクリル酸8重量%)65重量部、及びポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;680)28重量部に変更し、水温を70℃、水圧を0.9MPaに変更した以外は実施例1と同様の処理により発泡性スチレン系樹脂粒子を得た。
【0151】
[予備発泡粒子の形成]
実施例1と同様の操作により、嵩倍率50倍(cc/g)の予備発泡粒子を得た。
【0152】
[発泡体の作製]
金型に導入する水蒸気圧力を0.08MPaに変更した以外は実施例1と同様の操作によりスチレン系樹脂発泡成形体を作成した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0153】
(実施例5)
[発泡性スチレン系樹脂粒子の作製]
使用するスチレン系樹脂を、メタクリル酸変性耐熱ポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;MR100、メタクリル酸4重量%)75重量部、及びポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;680)18重量部に変更し、水温を70℃、水圧を0.9MPaに変更した以外は実施例1と同様の処理により発泡性スチレン系樹脂粒子を得た。
【0154】
[予備発泡粒子の形成]
実施例1と同様の操作により、嵩倍率55倍(cc/g)の予備発泡粒子を得た。
【0155】
[発泡体の作製]
金型に導入する水蒸気圧力を0.08MPaに変更した以外は実施例1と同様の操作によりスチレン系樹脂発泡成形体を作成した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0156】
(比較例1)
輻射抑制剤であるグラファイトを使用せず、代わりにタルク(林化成株式会社製;タルカンパウダーPK-C)に変更した以外は実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0157】
(比較例2)
メタクリル酸変性耐熱ポリスチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製;G9001)をポリスチレン系樹脂樹脂(PSジャパン株式会社製;680)に変更した以外は実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0158】
(参考例1)
[予備発泡粒子の形成]
輻射抑制剤を含有しない株式会社カネカ製の発泡性耐熱スチレン系樹脂粒子カネパール(登録商標)FQを予備発泡機に導入し、0.1MPaの水蒸気を導入して発泡させた。これにより、予備発泡粒子を形成した。得られた予備発泡粒子の嵩発泡倍率は50倍(cc/g)であった。
【0159】
[発泡粒子発泡体の作製]
得られた予備発泡粒子を、発泡スチレン用成形機に取り付けた金型(型内成形用金型)内に充填して、0.06MPaの水蒸気を導入して型内発泡させた。その後、金型内の樹脂発泡成形体が金型を押す圧力が0.015MPa(ゲージ圧力)になるまで水冷し、長さ400mm×幅400mm×厚さ25mm、発泡倍率50倍の発泡成形体を作製した。
【0160】
得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0161】
【0162】
表1の結果から、温度上昇した場合に熱伝導率の上昇を抑制し、かつ、高温での寸法変化を抑制し得るスチレン系発泡樹脂成形体を得られることがわかった。
【0163】
さらに、表1の保温性能の評価結果から、実施例1~5の断熱材を使用した場合、比較例1の断熱材を使用した場合と比較して、温水容器内部の熱水の温度がより長時間にわたって維持できることがわかった。