(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153711
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】急性増悪をポリクローナル免疫グロブリンで予防または治療するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241022BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241022BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241022BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241022BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241022BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241022BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241022BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20241022BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20241022BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20241022BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K39/395 Y
A61P11/00
A61P29/00
A61P31/16
A61P31/04
A61K9/12
A61K47/22
A61P11/08
A61K9/72
A61K9/19
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024116639
(22)【出願日】2024-07-22
(62)【分割の表示】P 2021530815の分割
【原出願日】2019-12-02
(31)【優先権主張番号】18209556.2
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ピエール・ヴォナーブルク
(72)【発明者】
【氏名】イルカ・シュルツェ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】急性増悪を予防または治療するために、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)および非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)のような感染症関連増悪を伴うものに対するさらなる改善された治療用組成物を提供する。
【解決手段】COPDおよびNCFBのような慢性肺疾患における急性増悪を、ポリクローナル免疫グロブリンの気道への投与、特にポリクローナル免疫グロブリンを含むエアロゾル化組成物の直接適用により予防または治療するための組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性肺疾患を有するヒト対象の急性増悪の予防または治療において使用するためのポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物であって、対象の気道に投与される前記組成物。
【請求項2】
慢性肺疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
COPDは中等度から重度のCOPDである、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
慢性肺疾患は非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
COPDおよび/またはNCFBの急性増悪の予防における使用のための、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
対象は低IgGレベルを有する、例えば700mg/dL未満の血漿レベルを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
対象は喀痰中のIgGレベルが低い、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
対象は予防または治療開始前の12ヶ月に1回またはそれ以上の急性増悪を経験している、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
対象は、IL-1bおよび/またはIL-6および/またはIL-8のような1つまたはそれ以上の検出可能な炎症誘発性サイトカインを彼または彼女の喀痰中に有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
対象は肺炎に罹患している、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
対象はウイルス性気道感染症、例えばライノウイルス感染症を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
対象は細菌性気道感染症、例えば緑膿菌感染症を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
ポリクローナル免疫グロブリンは対象の気道の炎症を低下させる、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
ポリクローナル免疫グロブリンは、対象の気道の1つまたはそれ以上の炎症誘発性サイトカイン、例えばIL-1bおよび/またはIL6および/またはIL8のレベルを低下させる、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
ポリクローナル免疫グロブリンは、対象の気道に感染する少なくとも1つの潜在的に病原性の微生物の免疫排除をもたらす、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
ポリクローナル免疫グロブリンは、少なくとも1つの病原体に起因する対象の上皮組織
の直接損傷を低減し、例えばポリクローナル免疫グロブリンは細胞外酵素の活性を低減し、上皮バリアの完全性の喪失を低減し、および/またはウイルスの排出を低減する、請求項10~12または15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
ヒト血漿由来IgGを含む、特に少なくとも95%、より具体的には少なくとも98%
IgGである、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
プロリン、例えばLプロリン約210~約290mmol/L、好ましくはLプロリン約250mmol/Lを含む、請求項17に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
エアロゾルとして投与される、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
50mg/mL~150mg/mL、例えば約100mg/mLのポリクローナル免疫グロブリン濃度を有する水溶液である、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
2~10mLで投与される、請求項1~20のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
治療中48時間に1回または24時間に1回または12時間に1回投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
秋季および冬季に投与される、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
抗生物質、コルチコステロイド、ベータ2刺激薬および抗コリン作用性気管支拡張薬の1つまたはそれ以上との併用療法で投与される、請求項1~23のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
乾燥粉末である、請求項19に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患および非嚢胞性線維症気管支拡張症のような慢性肺疾患における急性増悪を、ポリクローナル免疫グロブリンの気道への投与、特にポリクローナル免疫グロブリンを含むエアロゾル化組成物の直接適用により予防または治療する分野のものである。
【背景技術】
【0002】
慢性肺疾患、特に感染症が主な駆動因子である増悪を伴うものは、対象が肺で十分に空気を吐き出すことが難しくなることを特徴とする。そうした慢性肺疾患を有する患者は、肺から全ての空気を吐き出すことが困難なために息切れがする。肺の損傷または肺内部の気道の狭窄のために、呼気は正常よりゆっくり吐き出される。完全呼気の終わりに、異常に高い空気量が依然として肺に残存し得る。慢性閉塞性肺疾患(COPD)および非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)はそうした慢性肺疾患の例である。COPDは持続的な気流制限を特徴とする。該気流制限は、通常は進行性であり、有害な粒子またはガスに対する気道および肺での慢性炎症応答の亢進と関連している。増悪および併存疾患は、個々の患者の全体的な重症度に寄与する[1]。NCFBは、気道拡大のX線表示によって(すなわちCTスキャンによって)臨床的に同定される気道の病的拡張を特徴とする[2]。増悪は、NCFBの進行における重要事象と考えられる[3]。
【0003】
呼吸器症状の急性増悪は、COPDおよびNCFBのような慢性肺疾患を有する患者でしばしば生じる。これらの急性増悪は、細菌またはウイルス(共存し得る)による感染によって引き起こされる。増悪中には、炎症の再燃、過膨張およびガス詰まり(trapping)の増加、呼気流の低下、および呼吸困難の増加が認められる。肺炎のような他の医学的状態は、例えばCOPDの増悪を悪化させ得る。
【0004】
COPDの急性増悪は、正常な日間変動を超える、およびさらなる薬物療法をもたらす患者の呼吸器症状の急性悪化として、慢性閉塞性肺疾患のためのグローバルイニシアチブ(GOLD)によって定義されている[4]。増悪が生じる割合は患者間で大いに異なる。COPD患者における増悪の慢性化は気道の組織リモデリングを支持し、疾患の悪化に寄与する。これらの急性増悪は、高度の全身性炎症および免疫活性化と相関する。COPD重症度が悪化するにつれて増悪の頻度は増加する。同様に、急性増悪はCOPDの進行を増加させる可能性があり、さらに、急性増悪によって作り出される炎症状態はさらなる再発性急性増悪に対する感受性を高める可能性がある。これはCOPDの進行を駆動する悪循環をもたらす。
【0005】
NCFBの増悪は、正常な日間変動を超えるNCFBの1つまたはそれ以上の症状の急性悪化、例えば、咳嗽の増加、喀痰量の増加、または喀痰膿性度の悪化のような1つまたはそれ以上の症状の存在下での抗生物質の必要性として定義される。重度の増悪は、予定外の入院または救急科受診の必要として定義される[3]。
【0006】
COPDまたはNCFBのような慢性肺疾患を有する患者は、急性増悪を引き起こし得る再発性気道感染症を呈する可能性がある。COPDの急性増悪の最も一般的な原因は、上気道および気管気管支樹のウイルス感染症である。COPD増悪中に検出される最も一般的なウイルスは、細菌気道マイクロバイオームの増殖と関連している[5]ヒトライノウイルス(HRV)である[6]。COPDにおける細菌叢は概して高度に多様である。多くの異なる細菌がCOPDと関連している。しかし、最も病原性の細菌には、インフル
エンザ菌、肺炎連鎖球菌、カタル球菌、パラインフルエンザ菌および黄色ブドウ球菌が挙げられる。さらに、緑膿菌(PA)は、安定なCOPDにおいておよび増悪中に極端に重度の気流閉塞を有する患者で見出される、最も有害な細菌の1つであることが記載されている[7]。
【0007】
COPDの治療は、吸入コルチコステロイド(ICS)、長時間作用性β2刺激薬を含む吸入気管支拡張薬、および長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬を含む抗コリン作用薬、ならびにこれらの組み合わせに基づく。例えば、増悪のリスクが高い重度のCOPDは、一般に、3つ全てのクラスの薬物の組み合わせを用いて治療される。これらの療法は増悪を低減するが、最大吸入療法を受けている患者は増悪を経験し続け、それ故に新たな治療的アプローチが必要とされる。実際にICS療法は、高リスクの肺炎、口腔カンジダ症、嗄声および皮膚挫傷を含む副作用と関連している。他の副作用には、新規発症糖尿病、糖尿病の進行、白内障および結核のリスクの増加が挙げられる。長期使用は、COPD患者における骨折のリスクの増加とも関連がある[8]。特に、ICS療法は増悪の頻度をわずかに低減するのみであり、臨床試験はCOPDにおけるICS使用による肺炎のリスクの増加を報告している。これは、ICSが抗ウイルス免疫を低減し、粘液分泌過多および肺の細菌量の増加をもたらすらしいことが理由であり得る[9]。
【0008】
慢性気管支炎を有するCOPD患者では、ホスホジエステラーゼ4酵素阻害剤(例えばロフルミラスト)が選択された治療に追加される。ロフルミラストは、COPDと関連した全身性炎症および肺の炎症の両方をターゲティングするために設計された非ステロイド抗炎症活性物質である。ロフルミラストは、頻回増悪の既往を有する成人患者における慢性気管支炎と関連した重度のCOPDの維持治療に、気管支拡張薬治療の補助療法として適応される。
【0009】
COPDの急性増悪は、気管支拡張薬、ICSおよび抗生物質を含む薬物療法により現在管理される。ICS療法は、上で論じたように副作用と関連している。抗生物質は、増悪の発生および重症度を低減するために、細菌性気道感染症を治療するのに使用される。マクロライド系も抗炎症効果を有し、重度のCOPDおよび頻回増悪の既往を有する患者で使用される。しかし、長期マクロライド療法は、微生物耐性および心血管有害作用のリスクと関連している。現在、COPDにおいてライノウイルス感染症のようなウイルス感染症を治療するための薬剤はない。
【0010】
NCFBに利用可能な治療はない。NCFBの急性増悪は一般に、根底にある気道感染症を排除するために抗生物質で治療される。一部のNCFB患者は、増悪を予防するために予防的抗生物質療法を受けるが、そうした療法の効能は証明されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Vestbo et al. (2013) Am J Respir Crit Care Med 187(4):347~65頁.
【非特許文献2】Flume et al. (2018) Lancet 392(10150):880~90頁.
【非特許文献3】Chalmers et al. (2018) Am J Respir Crit Care Med 197(11):1410~20頁.
【非特許文献4】Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease, 2018 report; Global initiative for chronic obstructive lung disease (GOLD).
【非特許文献5】Mohan A et al. (2010) Respirology 15(3):536~42頁.
【非特許文献6】Molyneaux et al. (2013) Am J Respir Crit Care Med 188(10):1224~31頁.
【非特許文献7】Hassett et al. (2014) J Microbiol 52(3):211~26頁.
【非特許文献8】Miravitlles et al. (2017) Respiratory Research 18:198頁.
【非特許文献9】Singanayagam et al. (2018) Nature Communications 9(1):2229頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特に急性増悪を予防または治療するために、慢性肺疾患、特にCOPDおよびNCFBのような感染症関連増悪を伴うものに対するさらなる改善された治療を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
急性増悪を予防または治療するための、抗生物質(場合によりコルチコステロイド、ベータ2刺激薬および/または抗コリン作用性気管支拡張薬と組み合わせた)に基づく先行技術療法とは対照的に、本発明によれば急性増悪は、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物をヒト対象の気道に投与して予防または治療される。
【0014】
故に、本発明は、慢性肺疾患を有するヒト対象の急性増悪の予防または治療において使用するためのポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物であって、対象の気道に投与される前記組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物を対象の気道に投与して慢性肺疾患を有するヒト対象の急性増悪を予防または治療する方法も提供する。
【0016】
本発明はまた、慢性肺疾患を有するヒト対象の急性増悪を予防または治療するための医薬品の製造のためのポリクローナル免疫グロブリンの使用も提供し、医薬品は対象の気道に投与される。
【0017】
驚くべきことに、気道の粘膜上皮への免疫グロブリンの適用は、炎症を低下させ、粘膜層に存在する潜在的に病原性の微生物(例えば細菌および/またはウイルス)の免疫排除を駆動し、例えば細菌の細胞外酵素および毒素、ならびに/またはウイルス複製(排出)による上皮への直接損傷を予防し得る。これらの効果は、例えば細菌および/またはウイルスによる気道感染症に起因し得る急性増悪の予防または治療に有利である。
【0018】
市販の免疫グロブリン組成物は、静脈内または皮下に、すなわち全身投与によって投与される。例えばエアロゾル吸入による標的気道への直接局所投与は、気道における免疫グロブリンへの同じ曝露を達成することができるが、全身投与(例えば静脈内)に必要とされるより小さい総用量を必要とする。それによって、標的気道組織に直接のこの限局投与は全身性副作用を回避することができる。さらに、全身投与された免疫グロブリンのごく一部しか気道に行き着かないため、気道への投与は、全身投与によって達成し得るより高い局所濃度の達成を可能にし得る。
【0019】
さらに、静脈内または皮下免疫グロブリン療法は高額である。気道への直接標的化限局投与は、全身投与によって得られるのと同じ、気道における免疫グロブリン、例えばIg
Gへの曝露を達成するのにより小さい用量の投与を必要とし得る。結果として、気道において同じ治療効果を達成するのにより少ない組成物が必要とされるため、気道への直接投与はより費用対効果が高い可能性がある。
【0020】
さらに、静脈内または皮下免疫グロブリン療法は通常、医療専門家の注意を必要とする。例えば、静脈内投与は看護師または医師を必要とし、通常はクリニックで行われる。エアロゾル免疫グロブリンの吸入は医療専門家による監督を必要としない可能性があり、それ故に自宅での自己投与に適している可能性がある。その結果として、気道への直接投与は対象にとってより実用的であり得、それ故に対象は治療を遵守する可能性が高くなり得る。遵守の向上は、例えば急性増悪および入院につながり得る治療不全を低減する。
【0021】
急性増悪
本発明は、慢性肺疾患、典型的にはCOPDまたはNCFBを有するヒト対象の急性増悪の予防または治療を含む。
【0022】
急性増悪は、正常な日間変動を超える、およびさらなる療法を必要とする患者の呼吸器症状の悪化を特徴とする急性事象である。そうした急性増悪は重症度が異なり得る。
【0023】
COPDを有する対象では、軽度の急性増悪は、対象、特に短時間作用性気管支拡張薬(SABD)で治療される対象にとって薬物治療の変更を必要とするものである。中等度の急性増悪は、医療介入、特にSABDプラス抗生物質および/または経口コルチコステロイドによる治療を必要とする。重度の急性増悪は、入院または救急科の受診を必要とする。本発明の対象は、軽度、中等度または重度の急性増悪を有し得る。典型的には、対象は中等度または重度の急性増悪を有する。
【0024】
NCFBを有する対象では、急性増悪は、局所症状の悪化(咳嗽、喀痰量の増加または粘度の変化、喘鳴、息切れ、喀血の増加を伴うまたは伴わない喀痰膿性度の増加)および/または全身の不調を特徴とする[10]。重度の急性増悪は、予定外の入院または救急科の受診を必要とするものとして特徴付けられる[3]。
【0025】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、急性増悪の予防、すなわち予防的療法における使用のためである。特定の実施形態において、本発明の組成物は、急性増悪の予防における使用のためであり、組成物は対象の気道で確立している感染症を予防および/または治療する。この予防的療法は、ウイルス感染症および細菌感染症を予防することができ、1つまたはそれ以上の抗生物質に耐性を有する細菌に対して有効であるため特に有効であり得る。
【0026】
したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、特に根底にある気道の感染症を治療および/または予防することによる急性増悪の予防における使用のためである。ポリクローナル免疫グロブリンは、ウイルス感染症および細菌感染症を治療することができ、1つまたはそれ以上の抗生物質に耐性を有する細菌に対して有効であるため特に適切である。
【0027】
別の実施形態において、本発明の組成物は、急性増悪の治療において使用される。典型的には、急性増悪は気道のウイルスまたは細菌感染症に起因する。ポリクローナル免疫グロブリンは、気道中の広範囲の潜在的に病原性の微生物(典型的には細菌およびウイルス)を認識する。広範囲の細菌の認識は、免疫グロブリンが、例えば免疫排除によって細菌性気道感染症の治療に有効であることを意味する。広範囲のウイルスの認識は、免疫グロブリンが、例えば宿主細胞へのウイルスの結合を予防し、それによってウイルス複製および排出を予防することによってウイルス性気道感染症の治療に有効であることを意味する
。本発明の組成物はまた、急性増悪を引き起こす可能性がある、または引き起こしている特定の細菌またはウイルス感染症を同定するための診断検査の必要なく有効に使用することもできる。これは、組成物の投与をより早く開始できることを意味する。
【0028】
急性増悪の治療は、急性増悪の重症度が悪化するのを予防ことができる。例えば、軽度急性増悪の治療は、これが重度の急性増悪に進行するのを予防することができる。
【0029】
本発明の組成物は、急性増悪の治療または予防における使用のためである。急性増悪のこの治療または予防のために、本発明の組成物は特定の病原体を認識する抗体が濃縮されている。1つの実施形態において、急性増悪を有する対象は、急性増悪の根底にある感染症を引き起こす病原体(例えば細菌および/またはウイルス)を同定するために検査され、本発明の組成物は同定された病原体に特異的な抗体が濃縮されている。1つの実施形態において、本発明の組成物は、同定された病原体に特異的なモノクローナル抗体を組成物に追加することにより濃縮される。別の実施形態において、本発明の組成物は、対象の気道で同定されている病原体に特異的なモノクローナル抗体を追加することにより濃縮される。さらに、またはあるいは、組成物は、例えば、ヒト免疫グロブリンを産生するように改変されているトランスジェニック動物の免疫化により、または所望の病原体に特異性を有する抗体についてヒト抗体レパートリーのライブラリーをスクリーニングし、次いで同定された抗体を組換え的に産生して得られる、特定の病原体に特異的なポリクローナル免疫グロブリンが濃縮される。
【0030】
特定の実施形態において、組成物は、対象の気道の重複感染の予防または治療における使用のためである。重複感染は、気道の第1の感染中に気道で生じる第2の感染である。特に、気道重複感染は、第1の感染因子に対して使用されている治療に耐性を示す第2の感染因子による感染症と共に生じ得る。1つの実施形態において、感染症は両方とも細菌性気道感染症である。別の実施形態において、感染症は、1つの細菌性気道感染症および1つのウイルス性気道感染症を含む。
【0031】
1つの実施形態において、本発明の対象は、少なくとも1つの抗生物質に耐性を示す細菌に起因する気道感染症を有する。特に、細菌は複数の抗生物質に耐性を示すことがある(多剤耐性)。ポリクローナル免疫グロブリンは、抗生物質活性および耐性の機構と関係がないエピトープを含む細菌の多くのエピトープを認識するため、本発明の組成物は多剤耐性菌を含むこれらの耐性菌に対して有効である。
【0032】
1つの実施形態において、本発明の対象は、ウイルスに起因する気道感染症を有する。本発明の組成物はウイルスを認識し、該感染症を治療する。特に、ポリクローナル免疫グロブリンはウイルスに結合し、その宿主細胞、例えば上皮細胞へのウイルス結合を予防する。ポリクローナル免疫グロブリンは、宿主細胞へのウイルスの侵入、ウイルス複製およびウイルスの排出を予防する。気道感染症の治療において使用するための有効な抗ウイルス剤はないため、この治療は特に有用であり得る。
【0033】
患者病歴
本発明の対象は、急性増悪の既往がある慢性肺疾患患者であってもよい。
【0034】
急性増悪の割合は対象間で異なり得る。本発明の対象は頻回の急性増悪を有することがあり、例えば1年に2回またはそれ以上の急性増悪を経験する。頻回の急性増悪を有する対象の最良の予測因子の1つは、以前の治療を受けた急性増悪の既往である。本発明の組成物はそれ故に、増悪の既往を有する対象に相当する、頻回の急性増悪のリスクがある対象の治療に特に有用である。したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、対象の急性増悪の予防または治療における使用のためであり、該対象は予防または治療前
の12ヶ月で1回またはそれ以上の急性増悪を経験している。好ましくは、対象は、予防または治療前の12ヶ月で2回またはそれ以上の急性増悪を経験している。特に、対象は、予防または治療前の12ヶ月で3回またはそれ以上の急性増悪を経験している。
【0035】
維持療法(以下に論じる)は、急性増悪の既往を有するそうした対象に特に適している。したがって、特定の実施形態において、本発明の対象は療法前の12ヶ月に少なくとも1回の急性増悪を経験しており、少なくとも12ヶ月間該組成物で治療される。
【0036】
具体的には、COPDにおいて患者のさらなる急性増悪の頻度の最も強い予測因子の1つは、前年に経験された急性増悪の回数である[4]。特に、前年に2回またはそれ以上の急性増悪を経験しているCOPDを有する対象は、頻回増悪を有する可能性がある。したがって、特定の実施形態において、本発明の組成物は、COPDを有する対象の急性増悪の予防における使用のためであり、予防はCOPDを有する対象の維持療法であり、対象は維持療法開始前の12ヶ月に2回またはそれ以上の急性増悪を経験しており、維持療法は少なくとも12ヶ月間継続する。
【0037】
具体的には、NCFBにおいて、患者のさらなる急性増悪の頻度の最も強い予測因子の1つは、前年に経験された急性増悪の回数である[3]。特に、前年に3回またはそれ以上の急性増悪を経験しているNCFBを有する対象は、頻回増悪を有する可能性がある。したがって、特定の実施形態において、本発明の組成物は、NCFBを有する対象の急性増悪の予防における使用のためであり、予防はNCFBを有する対象の維持療法であり、対象は維持療法開始前の12ヶ月に3回またはそれ以上の急性増悪を経験しており、維持療法は少なくとも12ヶ月間継続する。
【0038】
慢性肺疾患
本発明は、慢性肺疾患、特に感染症が増悪の主な駆動因子である慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療を含む。
【0039】
COPD
COPDを有する対象は、典型的には、気管支拡張薬後のFEV1(1秒間の強制呼気量)/FVC(強制肺活量)比0.7未満を有する。FEV1およびFVCは、当技術分野で標準的な方法を使用してスパイロメトリーによって測定することができる[11]。例として、気管支拡張薬後スパイロメトリー測定に関してスパイロメトリーは:(i)短時間作用性ベータ2刺激薬(400μg)が投与された10~15分;(ii)短時間作用性抗コリン作用薬(160μg)が投与された30~45分後;または(iii)薬物の2つのクラスの組み合わせが投与された30~45分後に行われる。
【0040】
本発明は、中等度から非常に重度のCOPD、すなわち中等度のCOPD、重度のCOPD、または非常に重度のCOPDを有する対象の急性増悪の予防または治療に特に適している。典型的には、対象は重度または非常に重度のCOPDを有する。
【0041】
COPDの重症度のそうした等級付けは、参考文献に説明されており[1]、対象における気流制限の重症度に基づく。簡単には、FEV1/FVC比が<0.7の対象では、気流制限の重症度の等級付けは、測定された気管支拡張薬後FEV1、およびこの測定値を健康な対象の予測値とどのように比較するかに基づく。軽度のCOPDを有する対象は、予測値の少なくとも80%のFEV1を有する。中等度のCOPDを有する対象は、予測値の50%~80%のFEV1を有する。重度のCOPDを有する対象は、予測値の30%~50%のFEV1を有する。非常に重度のCOPDを有する対象は、予測値の30%未満のFEV1を有する。
【0042】
健康な対象の予測FEV1は、式[12]:
男性FEV1{リットル}=4.30×身長{メートル}-0.029×年齢{歳}-2.49
女性FEV1{リットル}=3.95×身長{メートル}-0.025×年齢{歳}-2.60
を使用して算出される。
【0043】
例として、年齢50歳、身長1.8mの男性対象は、3.8L(4.3×1.8-0.029×50-2.49)の予測FEV1を有することになる。この対象が次いで、スパイロメトリーによって気管支拡張薬後FEV1が2.09Lであると測定されたならば、この値は予測FEV1(3.8L)の55%であることになり、そのため該対象は中等度のCOPDを有すると見なされるであろう。
【0044】
中等度から非常に重度のCOPDは治療が困難であり、トリプル療法(吸入コルチコステロイド/ベータ2刺激薬/抗コリン作用性気管支拡張薬)でさえ必ずしも成功するとは限らない。本発明のポリクローナル免疫グロブリンは、現在の治療の機構と異なる機構(気道感染症の予防および気道炎症の低下を含む)によってCOPDを有する対象の急性増悪を予防または治療すると考えられ、そのためさらなるおよび補完的な治療を提供する。
【0045】
別の態様において、本発明の組成物は、対象のCOPDの治療における使用のためであり、組成物は対象の気道に投与される。急性増悪はCOPDの病理に寄与し、炎症とさらなる感染症の間の悪循環に寄与する可能性がある。急性増悪の予防は、それ故にCOPDの治療である。COPDを有する対象における本発明の組成物を使用した維持療法(以下に論じる)は、急性増悪を予防する(急性増悪の発生の低下および/または重症度の低下を包含する)ためCOPDの治療に特に適している。同様の理由で、本発明の組成物の季節的投与は、COPDの治療に特に適している。
【0046】
非嚢胞性線維症気管支拡張症
本発明は、慢性肺疾患、特に感染症が増悪の主な駆動因子である慢性肺疾患、典型的にはNCFBを有する対象の急性増悪の治療を含む。NCFBは複数の原因があり、広範囲の徴候を呈し得る。NCFBは気道の病的拡張を特徴とする。特に、NCFBは、X線撮影で、例えばコンピュータ断層撮影(CT)スキャンによって立証される気道の永久的拡大として定義される[2]。NCFBの徴候は、気道のかすかな拡張から嚢胞性変化にわたる。患者は無症候性(および予想外に発見された気道拡張)であり得、または咳嗽および/もしくは喀痰産生のような、周期的増悪を伴う一連の症状を有し得る。
【0047】
本発明は、NCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療に特に適している。1つの実施形態において、本発明の組成物は、NCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療における使用のためである。該組成物は、NCFBを有する対象の重度の急性増悪の予防における使用に特に適している。別の態様において、本発明の組成物は、対象のNCFBの治療における使用のためであり、組成物は対象の気道に投与される。急性増悪はNCFBの病理に寄与し、炎症とさらなる感染症の間の悪循環に寄与する可能性がある。急性増悪の予防は、それ故にNCFBの治療である。NCFBを有する対象における本発明の組成物を使用する維持療法(以下に論じる)は、急性増悪を予防する(急性増悪の発生の低下および/または重症度の低下を包含する)ためNCFBの治療に特に適している。同様の理由で、本発明の組成物の季節的投与は、NCFBの治療に特に適している。
【0048】
対象は、COPDおよびNCFBを as 併存疾患として呈することがある。実際に、NCFBはより進行した段階のCOPDと関連している[2]。したがって、別の実施形態において本発明の組成物は、COPDおよびNCFBを有する対象の急性増悪の予防
または治療における使用に特に適している。
【0049】
低IgGレベル
本発明の対象は、健康な成人の正常範囲より低いレベルの免疫グロブリンG(IgG)を有するものであってもよい。これらの対象は、COPDに罹患するリスクが上昇し、COPDの重症度が増加し、および/またはCOPDの急性増悪のリスクが上昇する。NCFBも、低レベルのIgGを含む免疫不全を有する対象の一般的な徴候である。
【0050】
気道、特に肺のIgGは、2つの源に由来する:気管支粘膜にある血漿細胞によって局所的に産生される、および濾出によって血漿から得られる。したがって、本発明の対象は、例えばIgGの低い全身レベルおよび/またはIgGの低い局所産生のために、気道のIgGのレベルが低い可能性がある。
【0051】
1つの実施形態において、対象はIgGの血漿レベルが低い。参考文献に提示されているように[13]、健康な成人の血漿総IgGの正常範囲は639~1,349mg/dLであり、平均は994mg/dLである。成人の血漿IgGの低レベルは、700mg/dL未満のレベルであり得る。成人のより低い血漿総IgGレベルは、軽度~中等度(300~600mg/dL)、多い(100~300mg/dL)、または著しく低下(約100mg/dL未満)として分類される。特定の実施形態において対象は、約700mg/dL未満、約600mg/dL未満、約300mg/dL未満、または約100mg/dL未満の血漿IgGレベルを有する。一部の実施形態において対象は、約100~約600mg/dLの範囲の血漿IgGレベルを有する(約300~約600mg/dL、または約100~約300mg/dLの範囲を含む)。
【0052】
血漿総IgG濃度を決定する様々な方法、例えば速度論的比濁法(rate nephelometry)および/または放射免疫拡散法は、当技術分野で公知である[14]。血清IgGはELISAによって、例えば以下の本発明を実施するための方法に記載されたプロトコルに従って定量化することもできる。
【0053】
本発明によって予防または治療される急性増悪は気道に現れる。そのため、気道のIgGの局所濃度は、気道感染症のリスク、およびそれ故にまた急性増悪のリスクを決定する上で重要な因子となる。気道のIgGのレベルが健康な成人より低い対象は、気道感染症および急性増悪のリスクがより大きい。したがって、1つの実施形態において、本発明の対象は気道のIgGのレベルが健康な成人より低い。
【0054】
気道のIgGのレベルは、対象由来の喀痰を分析して測定することができる。喀痰は、典型的にはCOPDまたはNCFBのような感染症または他の疾患の結果として、気道から喀出される唾液および粘液の混合物である。喀痰は、医療診断を補助するためにしばしば顕微鏡で検査される。喀痰はまた、免疫グロブリン(例えばIgG、IgAおよび/またはIgM)、およびサイトカイン(例えばIL-1b、IL-6および/またはIL-8)を含む生体分子の含量について分析することもできる。喀痰免疫グロブリン濃度を決定するための様々な方法、例えば速度論的比濁法および/または放射免疫拡散法は、当技術分野で公知である[15]。喀痰免疫グロブリンはELISAによって、例えば以下の本発明を実施するための方法に記載されたプロトコルに従って定量化することもできる。
【0055】
本発明の治療効果
気道感染症の予防および/または治療
気道感染症は急性増悪の1つの原因となり得る。そのため、気道感染症を予防または治療することは急性増悪の予防または治療に特に有用である。1つの実施形態において、本発明の組成物は、ポリクローナル免疫グロブリンが気道中の1つまたはそれ以上の潜在的
に病原性の微生物(例えば細菌および/またはウイルス)の免疫排除をもたらす、急性増悪の予防における使用のためである。ポリクローナル免疫グロブリンは、気道中の潜在的に病原性の微生物への結合によって免疫排除をもたらすことができる。例えば、ポリクローナル免疫グロブリンは潜在的に病原性の微生物に結合し、気道の粘膜上皮にそれらが接着するのを予防する。
【0056】
別の実施形態において、本発明の組成物は、ポリクローナル免疫グロブリンが気道中の1つまたはそれ以上の潜在的に病原性の微生物(例えば細菌および/またはウイルス)に集合体を形成させる、急性増悪の予防または治療における使用のためである。微生物の集合体形成は凝集としても知られる。
【0057】
別の実施形態において、本発明の組成物は、ポリクローナル免疫グロブリンが、例えば抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)と呼ばれる過程で微生物を死滅させる免疫細胞を動員する、急性増悪の予防または治療における使用のためである。
【0058】
気道感染症に起因する損傷の予防および/または低減
対象の気道の微生物の活性は、病原作用を有することがある。したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、ポリクローナル免疫グロブリンが病原体(例えば細菌および/またはウイルス)に起因する気道の損傷を低減する、急性増悪の予防または治療における使用のためである。例えば、ポリクローナル免疫グロブリンは細胞外酵素の活性を阻害することができる。そうした細胞外酵素は、例えば細菌によって粘膜に分泌される酵素であり、これには例えば、プロテアーゼのような組織分解活性を有する酵素が挙げられる。そうした細胞外酵素の活性をブロックすることは対象の気道上皮を損傷から保護する。特定の実施形態において、本発明の組成物は上皮バリアの完全性の喪失を予防し、上皮を越えて病原体が通過するのを予防する。特定の実施形態において、病原体はウイルスであり、ポリクローナル免疫グロブリンはウイルスに結合し、対象の気道で宿主細胞にウイルスが直接結合するのを予防する。免疫グロブリンはそれ故に、対象の気道におけるウイルスの侵入、複製および排出を予防する。
【0059】
炎症の低下
慢性炎症は小気道の構造変化および狭窄を引き起こし、COPDの徴候、ならびにNCFBにおける気管支の不可逆的拡張をもたらす気道傷害およびリモデリングに寄与する。炎症およびその結果生じる損傷の増加は、急性増悪のリスクを増加させ得る。本発明の組成物は対象の炎症を低下させ得る。そのため、本発明の組成物は、典型的にはCOPDまたはNCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療における使用に特に適している。
【0060】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、対象の炎症、典型的には局所炎症、例えば気道炎症を低下させる。特に、該組成物は、病原体誘発炎症、特に対象の気道の病原体誘発炎症を低下させる。
【0061】
炎症は、IL-1bおよび/またはIL-6および/またはIL-8のような1つまたはそれ以上の炎症誘発性サイトカインのレベルの上昇を特徴とし得る。したがって、特定の実施形態において本発明の組成物は、特に気道の粘液層のIL-1bおよび/またはIL-6および/またはIL-8のレベルを低下させる。
【0062】
気道の粘液層の1つまたはそれ以上のサイトカインのレベル(例えば、IL-1bおよび/またはIL-6および/またはIL-8のレベル)は、対象によって産生される喀痰中のレベルを分析して定量化することができる。喀痰中のサイトカイン濃度は、標準的な方法に従って、例えば速度論的比濁法[14]またはELISA(例えば、以下に記載された本発明の方法の)によって定量化することができる。
【0063】
ポリクローナル免疫グロブリン
本発明は、慢性肺疾患を有する対象の急性増悪の予防または治療のためのポリクローナル免疫グロブリンの使用を含む。そうしたポリクローナル免疫グロブリンは、原発性免疫不全障害を有する対象における補充療法として感染症の治療に、ならびに様々な炎症状態および自己免疫状態、ならびに特定の神経障害の予防および治療に使用され成功している。
【0064】
これらのポリクローナル免疫グロブリン調製物は全身投与用に開発され、大部分がIgGを含む。現在、これらの調製物は、数千人の健康なドナー(1,000~60.000人のドナー)のプール血漿に由来し、ドナー集団の累積抗原経験を反映して特異的および天然抗体の両方を含有する。特異的および天然抗体のこの大きなスペクトルは、広範囲の抗原(例えば、病原体、外来抗原および自己(self)/自己(auto)抗原)を認識することができる。
【0065】
一般にポリクローナル免疫グロブリンは、静脈内または皮下に投与される。これらの投与経路用にいくつかの商業的製剤が利用可能である。
【0066】
本発明の組成物は、Igとも呼ばれるポリクローナル免疫グロブリンを含む。典型的には、ポリクローナル免疫グロブリンはヒトドナーの血漿から得られる。好ましくは、標的抗原特異性の多様性を最大化するために、複数のドナー由来の、例えば100人を超えるドナー、好ましくは500人を超えるドナー、さらにより好ましくは1,000人を超えるドナー由来の血漿がプールされる。
【0067】
典型的には、血漿プールは、エタノール分画工程と、さらなる沈殿工程および/またはカラムクロマトグラフィー工程のようなその後のいくつかの精製工程、ならびにナノ濾過または溶媒/界面活性剤処理のようなウイルスおよび他の病原体を不活性化し除去するための工程、例えば参考文献1に示されるような方法に供される。
【0068】
あるいは、ポリクローナル免疫グロブリンは、ヒト免疫レパートリーを含む例えばライブラリーから組換え的に産生される。
【0069】
典型的には、ポリクローナル免疫グロブリンは、ポリクローナルIgG、ポリクローナル単量体IgA、ポリクローナル二量体IgA、ポリクローナルIgM、またはそれらの組み合わせである。特定の実施形態において、組成物はポリクローナルIgGを含む。ポリクローナル免疫グロブリンはまた、WO2013/132052に記載されている分泌成分と組み合わされた、J鎖含有IgAおよび/またはIgMも含み得る。
【0070】
IgG
本発明は、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療において使用するためのポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物に関する。驚くべきことに、大きな免疫複合体がIgGと緑膿菌の間に形成されることが本発明者らによって見出された。免疫グロブリンによる抗原結合は、標的抗原結合(Fab)ドメインに大部分依存している。IgGはFabドメインに関してたったの二価であることから、緑膿菌とIgGの間のそうした集合体(免疫複合体)は予想外であった。したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、ポリクローナルヒト血漿由来IgGを含む。ポリクローナル免疫グロブリンは、少なくとも95% IgG、好ましくは少なくとも98% IgGである。ポリクローナルIgGは、1つまたはそれ以上の気道感染症を治療および/または予防することによる、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の急性増悪の予防または治療における使用に特に適
している。
【0071】
IgGと緑膿菌の免疫複合体の予想外の形成に対する1つの説明は、IgGはもしかするとその糖を通じて、Fab領域の外で緑膿菌にさらに結合し得るというものである。IgGはそれ故に、緑膿菌について、免疫系にシグナルを送って伝えることに想像以上に驚くほど強力である可能性がある。その結果として、特定の実施形態において、IgGを含む本発明の組成物は、対象が同時緑膿菌感染している、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する前記対象の急性増悪の予防または治療に使用される。別の実施形態において、IgGを含む本発明の組成物は、緑膿菌気道感染症を予防するために対象に投与される。故に、好ましい実施形態において、IgGを含む本発明の組成物は急性増悪の予防に使用され、組成物は維持療法として投与される。緑膿菌はCOPDまたはNCFB患者のような肺防御が損なわれた対象に影響を与え得る日和見病原体であるため、この組成物は、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の維持療法に特に有用である。特に、緑膿菌は、COPDを有する対象においておよびCOPDの急性増悪中に見出される最も有害な細菌の1つであることが記載されている[7]。
【0072】
正常なヒトIgGは、少なくとも95% IgGの純度で得ることができる。これは、ポリクローナルIgの95%がIgGであることを意味する。故に、1つの実施形態において、本発明の組成物に含有されるIgGは、少なくとも95% IgG、好ましくは少なくとも96% IgG、より好ましくは少なくとも98% IgG、例えば少なくとも99% IgGの純度を一般に有する。
【0073】
選択的IgA欠損を有する対象へのIgAを含む組成物の投与は、対象にアナフィラキシーをもたらすことがある。アナフィラキシーは、しばしば急激に始まる、対象の死につながり得る重篤なアレルギー反応である。したがって、一部の実施形態において、本発明の組成物は、ごく微量のIgA、例えば200μg/mL未満のIgA、好ましくは25μg/mL未満のIgAを含む。これらの組成物は、選択的IgA欠損を有する対象への投与に特に適している。さらに、選択的IgA欠損は重度の症状がなく、そのため本発明の対象は選択的IgA欠損があることに気づいていないことがある。したがって、これらの組成物は、選択的IgA欠損があるか否かに気づいていない対象への投与に特に有用である。
【0074】
故に好ましい実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも98% IgGであり、25μg/mL未満のIgAを含むポリクローナル免疫グロブリンを含む。
【0075】
特定の実施形態において、本発明で使用する組成物はピリヴィジェン(商標)である。同様に本発明により使用される市販の免疫グロブリン製剤には:Bivigam(商標)、Clairyg(商標)、Flebogam(商標)5%、Flebogamma(商標)DIF 5%、Gammagard(商標)液体 10%、Gammaplex(商標)、Gamunex(商標) 10%、IG Vena(商標)N、Intratect(商標)、Kiovig(商標)、Nanogam(商標)、Octagam(商標)、Octagam(商標)10%、Polyglobin(商標)N10%、Sandoglobulin(商標)NF 液体、Vigam(商標)およびIQYMUNE(商標)が挙げられる。
【0076】
特異的抗体用に濃縮されたポリクローナル免疫グロブリン
本発明は、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の急性増悪の予防および/または治療において使用するための組成物に関する。上に記載したように、急性増悪は対象の気道感染症に起因し得る。1つの実施形態において、本発明の
組成物は、1つもしくはそれ以上の特定の病原体(例えば細菌および/またはウイルス)または潜在的に病原性の微生物(例えば細菌および/またはウイルス)に特異的な1つまたはそれ以上の抗体が濃縮されている。そうした組成物は、微生物または病原体に対して活性な免疫グロブリンの有効投与量を増加させる効果があるため特に有用であり得、それ故により大きな治療効果を有し、またはより低い総用量の組成物が投与されるとき、等価の治療効果を達成することができる。1つの実施形態において、本発明の組成物は、病原体に特異的なモノクローナル抗体を組成物に追加することにより病原体に特異的な抗体が濃縮されている。
【0077】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、ライノウイルス、A型インフルエンザ、ヒトメタニューモウイルス、RSV、コロナウイルス、B型インフルエンザ、アデノウイルス、緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎連鎖球菌、カタル球菌、パラインフルエンザ菌および/または黄色ブドウ球菌の1つまたはそれ以上に特異的な抗体が濃縮されている。これらの病原体は慢性閉塞性呼吸器疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の急性増悪の最も一般的な原因であるため、そうした組成物は特に有用であり得る。好ましくは、本発明の組成物は、緑膿菌に特異的な抗体が濃縮されている。緑膿菌は、COPDを有する対象においておよびCOPDの増悪中に見出される最も有害な細菌の1つであることが記載されている[7]。好ましくは、本発明の組成物は、COPDの急性増悪を引き起こす最も一般的なウイルス感染症であるヒトライノウイルスに特異的な抗体が濃縮されている。
【0078】
1つの実施形態において、特定の病原体に特異性を有する抗体が濃縮されている本発明の組成物は、ライノウイルス、A型インフルエンザ、ヒトメタニューモウイルス、RSV、コロナウイルス、B型インフルエンザ、アデノウイルス、緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎連鎖球菌、カタル球菌、パラインフルエンザ菌および/または黄色ブドウ球菌から選択される1つまたはそれ以上の病原体に特異性を有するモノクローナルAbまたは2つもしくはそれ以上のモノクローナル抗体の混合物を、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物に追加することにより得ることができる。
【0079】
1つの実施形態において、特定の病原体に特異性を有する抗体が濃縮されている本発明の組成物は、特定の病原体による免疫化後にヒト免疫グロブリンを発現するように改変されたトランスジェニック動物から得られるポリクローナル免疫グロブリンを、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物に追加することにより得ることができる。
【0080】
1つの実施形態において、特定の病原体に特異性を有する抗体が濃縮されている本発明の組成物は、ヒト抗原結合部位のライブラリーを特定の病原体または特定の病原体に由来する抗原でスクリーニングし、これらの抗原結合部位を有する病原体特異的免疫グロブリンを組換え産生することから得られるいくつかの特異的免疫グロブリンを、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物に追加することにより得ることができる。
【0081】
IgAおよびIgM
1つの実施形態において、本発明の組成物はIgAおよび/またはIgMを含む。特定の実施形態において、ポリクローナル免疫グロブリンの少なくとも95重量%はIgAおよび/またはIgMである。IgAおよび/またはIgMは、組換え分泌成分と組み合わせて分泌抗体へと構築される。特定の実施形態において組成物は、IgAおよびIgMを約2:1の質量比で含む。
【0082】
好ましくはIgAおよび/またはIgMは、例えばWO2013/132053に詳細に記載されているように血漿から製造される。
【0083】
本発明で好ましくは使用される組成物は、WO2013/132053に詳細に記載されているように製造される。好ましくは、IgAおよび/またはIgMを含む血漿由来調製物は、二量体/多量体J鎖含有IgA/IgMの事前精製を必要とすることなくSCとインビトロで組み合わされる。そうした物質は分泌様IgAもしくは分泌様IgMと呼ばれ、またはSCIgAもしくはSCIgMと略される。しかし、この物質は、インビボ産生分泌型IgA(通常は略されたSIgA)およびインビボ産生分泌型IgM(通常は略されたSIgM)によく似た振る舞いをする。
【0084】
1つの実施形態において組成物は、ポリクローナルヒト血漿由来多量体IgAおよびIgMを含む。好ましい実施形態においてIgAおよびIgMは、組換え分泌成分(SC)との組み合わせにより分泌抗体へと構築される。好ましくは組成物は、IgAおよびIgMを2:1質量比で含む。
【0085】
別の特定の実施形態において、組成物は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも94%、さらにより好ましくは少なくとも96%、最も好ましくは少なくとも98%の純度でIgAを含む。好ましくは、IgAはヒト血漿から精製される;しかし、乳、唾液、または他のIgA含有体液のようなIgAの他の源も使用することができる。別の特定の実施形態において、IgAは単量体IgAである。さらに別の特定の実施形態において、IgAは二量体IgAが濃縮されており、これはJ鎖も含み;IgAの好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%は二量体形態である。場合により、IgA組成物は、分泌成分(SC)、好ましくは組換え産生分泌成分をさらに含んでもよい。例えば、その全体を参考文献として組み入れるWO2013/132052に開示されている組成物が使用される。
【0086】
さらに別の特定の実施形態において、組成物はIgMを含む。1つの実施形態において、組成物はIgMおよびIgAを含む。好ましい実施形態において組成物はIgMおよび二量体IgAを含み、J鎖も含む。場合により組成物は、分泌成分、好ましくは組換え産生分泌成分も含んでもよい。さらに別の実施形態において、組成物はIgM、IgAおよびIgGを含む。特定の実施形態において、そうした組成物は76% IgG、12% IgAおよび12% IgMを含有してもよい。
【0087】
IgAおよび/またはIgMはヒト血漿から製造される。好ましくは、IgAおよび/またはIgMは、分泌成分(SC)とインビトロで組み合わされる。より好ましくはSCはヒト分泌成分である。さらにより好ましくはSCは、哺乳動物細胞株で発現された組換えSCである。
【0088】
組成物中のタンパク質の好ましくは少なくとも10%はSCIgA(SCと組み合わされたIgA)であり、組成物中のタンパク質のより好ましくは少なくとも15%、18%、20%、または25%、さらにより好ましくは少なくとも30%、40%または50%はSCIgAである。組成物中のタンパク質の好ましくは少なくとも10%はSCIgM(SCと組み合わされたIgM)であり、組成物中のタンパク質のより好ましくは少なくとも15%、18%、20%または25%、さらにより好ましくは少なくとも30%、40%または50%はSCIgMである。
【0089】
組成物中のタンパク質の好ましくは少なくとも10%はSCIgAであり、および組成物中のタンパク質の少なくとも10%はSCIgMであり、より好ましくは少なくとも15%はSCIgAであり、および少なくとも15%はSCIgMであり、さらにより好ましくは少なくとも20%はSCIgAであり、および少なくとも20%はSCIgMである。
【0090】
エアロゾル
本発明は、慢性肺疾患、特にCOPDおよび/またはNCFB患者の急性増悪の治療または予防において使用するためのポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物に関し、該組成物は対象の気道に投与される。典型的には、本発明の組成物はエアロゾルとして対象の気道に投与される。エアロゾルは、液体水性ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物を噴霧して生成される。あるいは、エアロゾルは、例えば乾燥粉末吸入システムによって産生される乾燥粉末エアロゾルであってもよい[17]。あるいは、ソフトミスト吸入器、水性液滴吸入器、もしくは加圧噴霧式定量吸入器、または患者の気道に免疫グロブリンを送達するのに適した任意の他の装置が使用される。
【0091】
液体水性組成物
液体水性組成物は、対象の気道に投与するエアロゾルを形成するための噴霧に特に適している。したがって、本発明の組成物は一般に液体水性形態である。液体水性組成物は、液体担体または溶媒が主にまたは完全に水からなる液体系である。特定のケースでは、液体担体は、水と少なくとも部分的に混和性である1種類またはそれ以上の液体の小画分を含有し得る。
【0092】
本発明は、対象の気道への本発明の組成物の投与に関する。気道へのそうした投与には、高濃度ポリクローナル免疫グロブリンを使用することが好ましい。一般に、高用量のポリクローナル免疫グロブリンは効能を高めるのに有用であるが、投与される容量をできるだけ最小化する、例えばネブライザーによって投与される場合、噴霧時間をできるだけ短く保つのにも有用である。噴霧時間をできるだけ短く保つことは、対象のコンプライアンスを維持するのに特に有用である。故に、1つの実施形態において、本発明の組成物は、例えば約20~約200mg/mLの高濃度のポリクローナル免疫グロブリンを有する。ポリクローナル免疫グロブリンの濃度は、20~190mg/mL、20~180mg/mL、20~170mg/mL、20~160mg/mL、20~150mg/mL、30~200mg/mL、30~190mg/mL、30~180mg/mL、30~170mg/mL、30~160mg/mL、30~150mg/mL、40~200mg/mL、40~190mg/mL、40~180mg/mL、40~170mg/mL、40~160mg/mL、40~150mg/mLにわたり得る。本発明の組成物に適したポリクローナル免疫グロブリン濃度は、20~140mg/mL、20~130mg/mL、20~120mg/mL、30~140mg/mL、30~130mg/mL、30~120mg/mL、40~140mg/mL、40~130mg/mL、40~120mg/mL、50~140mg/mL、50~130mg/mLまたは50~120mg/mLにわたり;特に、ポリクローナル免疫グロブリンの濃度は、約50mg/mL、約60mg/mL、約70mg/mL、約80mg/mL、約90mg/mL、約100mg/mL、約110mg/mL、または約120mg/mLである。
【0093】
比較的高い濃度は、低充填容量および短い噴霧時間を可能にし、故に、治療の治療効率を確保するのに重要である。特定の好ましい実施形態において、組成物は約50mg/mL~約100mg/mLの濃度でポリクローナルIgGを含む。最も好ましくは、組成物は約100mg/mLの濃度でポリクローナルIgGを含む。
【0094】
典型的には、本発明の液体水性組成物は1つまたはそれ以上の安定剤を含有する。液体免疫グロブリン製剤を製剤化するとき一般に遭遇する問題は、適当な添加剤で十分に安定化されない場合、免疫グロブリンが集合体および沈殿物を形成する傾向があることである。したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、安定剤、例えば、プロリン、グリシンおよびヒスチジンのようなアミノ酸、またはサッカライド、または糖アルコール、またはアルブミンのようなタンパク質、またはそれらの組み合わせを含む。これらの
添加剤の各々は、液体水性製剤中の免疫グロブリンを安定化させることが知られており、本発明の液体水性組成物において使用される。特定の実施形態において、本発明の組成物は安定剤を含み、安定剤はプロリン、グリシンまたはヒスチジン、好ましくはプロリンである。
【0095】
液体水性組成物中の免疫グロブリン濃度の増加は、粘度の非線形増加をもたらす。WO2011/095543に開示されているように、ポリクローナル免疫グロブリンの濃度が高くても比較的低粘度の本発明の組成物は達成されるため、高粘度に起因する噴霧問題を避けるために、プロリンが安定剤として特に適切であることが見出されている。プロリンは、一方で液体水性組成物中のポリクローナル免疫グロブリンの所望の安定性を提供し、他方では組成物の粘度を低減し、故に高ポリクローナル免疫グロブリン濃度で小液体容量の噴霧を可能にし、噴霧による迅速および有効な治療をもたらす。したがって、特定の実施形態において、本発明の組成物は、特に本発明の組成物が液体水性形態である場合プロリンを含む。
【0096】
L-プロリンは通常、人体内に存在し、極めて好ましい毒性プロファイルを有するため、本発明の組成物における使用に特に適している。L-プロリンの安全性は反復投与毒性試験、生殖毒性試験、変異原性試験および安全性薬理試験で調査されており、有害作用は確認されなかった。したがって、好ましい実施形態において、本発明の組成物はL-プロリンを含む。
【0097】
一般に、本発明の組成物は、プロリン、好ましくはL-プロリンを約10~約1000mmol/L、例えば約100~約500mmol/L、特に約250mmol/Lの範囲で含む。
【0098】
好ましい実施形態において、本発明の組成物は、L-プロリン約210~290mmol/L、特にL-プロリン250mmol/Lを含有する。特定の実施形態において、組成物は、ポリクローナルIgGおよびL-プロリン約250mmol/Lを含む。
【0099】
1つの実施形態において、ポリクローナル免疫グロブリンおよびプロリンを含む本発明の液体水性組成物の粘度は、1mPa-s~17mPa-sにわたる(20.0℃+/-0.1℃の温度で)。特定の実施形態において、100mg/mLポリクローナルIgGおよびL-プロリン250mmol/Lを含む組成物の粘度は、20.0℃+/-0.1℃の温度で約3mPa-sである。
【0100】
典型的には、ポリクローナルIgGを含み、プロリンを含有する本発明の組成物は、調製物の高い安定性にさらに寄与する4.2~5.4、好ましくは4.6~5.0、最も好ましくは約4.8のpHを有する。
【0101】
プロリンの使用は、1つの単剤を使用することにより製剤の安定性が向上し、組成物の粘度が低減される組成物の調整を可能にする。これは、メッシュ式ネブライザーでエアロゾルを生成する方法において特に有用である組成物をもたらす。
【0102】
本発明の組成物は、通常はポリクローナル免疫グロブリンに加えて成分を含む。例えば該組成物は、典型的には1つまたはそれ以上のさらなる薬学的担体および/または賦形剤を含む。そうした成分の考察は参考文献2で入手可能である。
【0103】
1つの実施形態において、本発明の組成物はまた、組成物の特性および/またはエアロゾルの特性を最適化するのに役立つ薬学的に許容される賦形剤も含む。そうした賦形剤の例はpHを調整または緩衝するための賦形剤、浸透圧を調整するための賦形剤、抗酸化剤
、界面活性剤、徐放または持続的局所保持のための賦形剤、味覚マスキング剤、甘味料、および香料である。これらの賦形剤は、製剤安定性、吸入時の製剤のエアロゾル化、忍容性および/または効能を支持する最適なpH、浸透圧、粘度、表面張力および味覚を得るのに使用される。
【0104】
本発明の液体水性組成物は、典型的には約60~75mLM/m、好ましくは約64~71mLM/mの表面張力を有する。界面活性剤が本発明の組成物に添加される。これらは、組成物中(すなわち、保管中およびリザーバー中)および噴霧中(すなわち、ネブライザーのメッシュを通過中および通過後)のポリクローナル免疫グロブリンの集合体形成速度を制御するのに役立ち得、それによってエアロゾル中のポリクローナル免疫グロブリンの活性に影響を与え得る。したがって、1つの実施形態において、本発明の組成物は、界面活性剤、例えば、ポリソルベート80のようなポリソルベートを含む液体水性組成物である。
【0105】
噴霧
本発明は、対象の気道への組成物の投与を含む。本発明の組成物は、ネブライザーを使用した本発明の液体水性組成物の噴霧によって生成されるエアロゾルとして対象の気道に投与される。
【0106】
ネブライザーは、液体物質を分散液体相中にエアロゾル化することができる装置である。エアロゾルは連続気相と、その中に分散された、固体または液体粒子(液体水性組成物の噴霧によって生成される場合、典型的には液体粒子)の非連続相または分散相を含む系である。
【0107】
本発明の液体水性組成物は、メッシュ式ネブライザーもしくは超音波ネブライザーもしくはジェット式ネブライザー、または本発明の組成物を噴霧することができる任意の他の装置によって噴霧される。1つの実施形態において、対象への投与のためのエアロゾルを生成するのにメッシュ式ネブライザーが使用される。例えば、その全体を参照により本明細書に組み入れるWO2015/150510に開示されているメッシュ式ネブライザーおよび生成されたエアロゾルが使用される。
【0108】
分散液体相(エアロゾル)は本質的に液滴からなる。分散相の液滴は、ポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせを液体環境に含む。液体環境は、以下にさらに記載されるさらなる賦形剤を含むまたは含まない、主に水相である。本明細書に開示されている液体組成物に関する特徴および優先度は、そこから生成されるエアロゾルの分散相にも適用され、逆もまた同じであることが当業者に理解されるであろう。
【0109】
2つの値が実験で決定され、生成されたエアロゾルの粒径または液滴径を記述するのに有用であり得る:質量中央径(MMD)および空気力学的質量中央径(MMAD)。2つの値の違いは、MMADが水の密度に正規化される(等価の空気力学)点である。
【0110】
MMADはインパクター、例えば、アンダーセンカスケードインパクター(ACI)または次世代インパクター(NGI)によって測定される。あるいは、MMDを測定するのにレーザー回折方法、例えばMalvern MasterSizer X(商標)が使用される。
【0111】
本発明の方法によって生成されるエアロゾルの分散相は、典型的には粒径、例えば、好ましくは10μm未満、好ましくは約1~約6μm、より好ましくは約1.5~約5μm、さらにより好ましくは約2~約4.5μmのMMDを示す。あるいは、粒径は、好まし
くは10μm未満、好ましくは約1~約6μm、より好ましくは約1.5~約5μm、さらにより好ましくは約2~約4.5μmのMMADを有してもよい。エアロゾルの分散相を記述する別のパラメータは、エアロゾル化液体粒子または液滴の粒径分布である。幾何標準偏差(GSD)は、生成されたエアロゾル粒子または液滴の粒径または液滴径分布の広がりに関するしばしば使用される尺度である。上記範囲内の正確なMMDの選択は、エアロゾルの沈降の標的領域または組織を考慮するべきである。例えば、最適な液滴径は、経口、鼻または気管吸入が意図されるかどうか、ならびに上気道および/または下気道送達(例えば、中咽頭、咽頭、気管、気管支、肺胞、肺、鼻、および/または副鼻腔への)に焦点が置かれているかどうかに応じて異なるであろう。さらに、年齢に依存した解剖学的幾何的形状(例えば、鼻、口または呼吸気道の幾何的形状)ならびに対象の呼吸疾患および状態ならびに対象の呼吸パターンは、下気道または上気道への薬物送達に最適な粒径(例えばMMDおよびGSD)を決定する重要な因子に属する。
【0112】
一般に、2mmより小さい内径によって定義される小気道は肺容量のほぼ99%に相当し、それ故に肺機能において重要な役割を果たす。肺胞は、酸素および二酸化炭素が血液により交換される深部肺の部位である。一部のウイルスまたは細菌によって誘発された肺胞の炎症は、その場で体液分泌をもたらし、肺による酸素摂取量に直接影響を与える。エアロゾルを用いる深部肺の気道の治療ターゲティングは5.0μmより下、好ましくは4.0μmより下、より好ましくは3.5μmより下、さらにより好ましくは3.0μmより下のMMDを有するエアロゾルを必要とする。そうしたMMD値は、それ故に本発明における使用に想定される。
【0113】
気道へのエアロゾル送達のために、エアロゾルは10.0μmより下、好ましくは5.0μmより下、より好ましくは3.3μmより下、さらにより好ましくは2.0μmより下のMMDを有する。好ましくは、MMD(液滴径)は約1.0~約5.0μmの範囲であり、サイズ分布は2.2未満、好ましくは2.0未満、より好ましくは1.8未満、またはさらにより好ましくは1.6未満のGSDを有する。そうした粒径および粒径分布パラメータは、エアロゾル化される薬物の量と比較して気管支および細気管支を含むヒトの気道(例えば肺)の高い局所薬物濃度を達成するのに特に有用である。これに関連して、深部肺沈着は、成人および小児の中央気道での沈着より小さいMMDを必要とし、幼児および乳児には約1.0~約3.3μmの範囲のさらにより小さい液滴径(MMDの)がより好ましく、2.0μmより下の範囲がさらにより好ましいことが考慮されなければならない。故に、エアロゾル療法では、5μmより小さい(成人による呼吸に適した画分に相当する)および3.3μmより小さい(小児による呼吸に適した画分、または成人のより深部の肺に沈着される画分に相当する)液滴の画分を評価することが一般的である。また、2μmより小さい液滴の画分がしばしば評価される。その理由は、該画分が成人および小児の終末細気管支および肺胞に最適に達し得、幼児および乳児の肺に浸透することができるエアロゾルの画分に相当するためである。
【0114】
本発明において、5μmより小さい粒径を有する液滴の画分は、好ましくは65%超、より好ましくは70%超、さらにより好ましくは80%超である。3.3μmより小さい粒径を有する液滴の画分は、好ましくは25%超、より好ましくは30%超、さらにより好ましくは35%超、さらにより好ましくは40%超である。2μmより小さい粒径を有する液滴の画分は、好ましくは4%超、より好ましくは6%超、さらにより好ましくは8%超である。
【0115】
エアロゾルもまた、呼吸シミュレーション実験で決定されるその送達量(DD)も特徴とし得る。送達量は、レーザー回折(例えば Malvern MasterSizer
X(商標))によって、またはインパクター(例えば、アンダーセンカスケードインパクター-ACI、または次世代インパクター-NGI)を使用して測定された例えば吸入
性画分(RF)に基づき、吸入量(respirable dose)(RD)を算出するのに使用される。呼吸シミュレーション実験(例えば、Copley製BRS3000またはPARI製Compass II(商標)のような呼吸シミュレーターを使用する)で本発明の方法を成人呼吸パターン(正弦流(sinusoidal flow)、500mL 1回換気量、15呼吸回数/分)により適用し、組成物2mL(例えば200mg Ig、200mg IgG、200mg IgA、200mg IgMまたはそれらの組み合わせ)をメッシュ式ネブライザーに充填する場合、送達量(DD)は、好ましくは40%より高い(80mg Ig、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせ)、より好ましくは45%より高い(90mg Ig、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせ)、さらにより好ましくは50%より高い(100mg
Ig、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせ)。
【0116】
上気道、特に鼻、鼻粘膜および/または副鼻腔粘膜、中鼻道自然口ルート(osteomeatal complex)、ならびに副鼻腔の治療には、約5.0μmより下、または約4.5μmより下、または約4.0μmより下、または約3.3μmより下もしくは約3.0μmより下のMMDが特に適切である。
【0117】
生成されたエアロゾルを上気道に適用する適合性は、WO2009/027095に記載されたヒト鼻成型モデルのような鼻吸入モデルで評価することができる。鼻へのエアロゾル送達には、例えばPARI製Sinus(商標)装置(ジェット式ネブライザー)およびまたメッシュ式ネブライザー(Vibrent(商標)技術のプロトタイプ)が存在する。
【0118】
本発明で使用されるネブライザーは、メッシュ式ネブライザーであってもよい。好ましくは、メッシュ式ネブライザーは振動膜型ネブライザーである。後者のタイプのネブライザーは、噴霧用の液体が充填されるリザーバーを含む。ネブライザーを操作するとき液体は、揺動する、すなわち振動する(例えばピエゾ素子によって)ように作られたメッシュに送られる。振動メッシュの片側に存在する液体は、これによって振動メッシュの開口部(「孔」または「ホール」とも呼ばれる)を通って輸送され、振動メッシュの反対側でエアロゾルの形態をとる(例えば、PARI製eFlow高速およびeRapid、Health and Life製HL100、ならびにAerogen製AeronebGoおよびAeronebSolo)。そうしたネブライザーは、「能動膜型ネブライザー(active membrane nebulizer)」と呼ばれる。
【0119】
他の有用なメッシュ式ネブライザーでは、組成物は膜よりむしろ液体を振動させて噴霧される。そうした揺動流体メッシュ式ネブライザー(oscillating fluid mesh nebulizer)は、噴霧される液体が充填されるリザーバーを含む。ネブライザーを操作するとき液体は、揺動する(すなわち、例えばピエゾ素子によって振動する)ように作られた送液システムにより膜に送られる。この送液システムは、リザーバーの振動する後壁(例えばAerovectRx(商標)Technology、Pfeifer Technology)または振動液体輸送スライダー(例えば、Respironics製I-Neb(商標)装置、またはOmron製U22(商標)装置)であってもよい。これらのネブライザーは、「受動メッシュ式ネブライザー(passive mesh nebulizer)」と呼ばれる。
【0120】
メッシュ式ネブライザーによる液体の噴霧に関して異なる膜タイプが利用可能である。これらの膜は、異なる液滴径(MMDおよびGSDの)を有するエアロゾルを生成する異なる孔径を特徴とする。組成物の特性および所望のエアロゾル特性に応じて、異なる膜タイプ(すなわち、異なる改変メッシュ式ネブライザーまたはエアロゾル発生器)が使用される。本発明において、MMDが2.0μm~5.0μの範囲、好ましくは3.0μm~
4.9μmの範囲、より好ましくは3.4μm~4.5μmの範囲のエアロゾルを生成する膜タイプを使用することが好ましい。本発明の別の実施形態において、MMDが2.8μm~5.5μmの範囲、好ましくは3.3μm~5.0μmの範囲、より好ましくは3.3μm~4.4μmの範囲のエアロゾル、例えば等張性生理食塩水(NaCI 0.9%)を生成するエアロゾル発生器装置に組み込まれた膜タイプを使用することが好ましい。本発明の別の実施形態において、MMDが2.8μm~5.5μmの範囲、好ましくは2.9μm~5.0μmの範囲、より好ましくは3.8μm~5.0μmの範囲のエアロゾル、例えば等張性生理食塩水を生成するエアロゾル発生器装置に組み込まれた膜タイプを使用することが好ましい。
【0121】
気管支または深部肺のような下気道をターゲティングする治療が意図される場合、圧電穿孔メッシュ型ネブライザーがエアロゾルの生成のために選択されることが特に好ましい。適切なネブライザーの例には、I-Neb(商標)、U22(商標)、U1(商標)、Micro Air(商標)のような受動メッシュ式ネブライザー、超音波ネブライザー、例えばMultisonic(商標)、ならびに/またはHL100(商標)、Respimate(商標)、eFlow(商標)Technologyネブライザー、AeroNeb(商標)、AeroNeb Pro(商標)、AeronebGo(商標)、および AeroDose(商標)装置ファミリーのような受動メッシュ式ネブライザー、ならびにプロトタイプPfeifer、Chrysalis(Philip Morris)もしくはAerovectRx(商標)装置が挙げられる。下気道に薬物をターゲティングするための特に好ましいネブライザーは、振動穿孔膜型ネブライザー、または例えばeFlow(商標)ネブライザー(PARI、ドイツから入手可能な電子振動膜型ネブライザー)のようないわゆる能動メッシュ式ネブライザーである。あるいは、受動メッシュ式ネブライザー、例えば、Omron製U22(商標)もしくはU1(商標)またはTelemaq.fr技術もしくはIng. Erich Pfeiffer GmbH技術に基づくネブライザーが使用される。
【0122】
上気道をターゲティングするための好ましいメッシュ式ネブライザーは、eFlow(商標)技術を使用する改変調査膜型ネブライザー(modified investigational membrane nebulizer)のような穿孔振動膜原理によりエアロゾルを生成するネブライザーであるが、該ネブライザーは脈動気流を排出することもできるため、生成されたエアロゾル雲は、所望の位置でまたはエアロゾル雲を所望の位置(例えば副鼻腔(sinonasal sinus)または副鼻腔(paranasal sinus))へ輸送中に脈動する(すなわち圧力変動を受ける)。このタイプのネブライザーは、エアロゾル雲を鼻に輸送するフローを方向づけるためのノーズピースを有する。そうした改変電子ネブライザーによって送達されるエアロゾルは、エアロゾルが連続(非脈動)モードで送達される場合よりはるかに良好に副鼻腔(sinonasal
cavity)または副鼻腔(paranasal cavity)に達することができる。脈動圧波は副鼻腔のより集中的な換気を達成するため、同時に適用されるエアロゾルはこれらの腔により良好に分散され、沈着される。
【0123】
より具体的には、対象の上気道をターゲティングするための好ましいネブライザーは、約5リットル/分未満の有効流量でエアロゾルを生成し、同時に、約10~約90Hzの範囲の振動数でエアロゾルの圧力脈動をもたらすための手段を操作するのに適したネブライザーであり、有効流量は、対象の呼吸器系に入るときのエアロゾルの流量である。そうした電子噴霧装置の例はWO2009/027095に開示されている。
【0124】
本発明の好ましい実施形態において、上気道をターゲティングするためのネブライザーは、エアロゾル雲が所望の位置に達すると中断され、次いでエアロゾル雲の脈動を例えば交互モードで開始する輸送フローを使用するネブライザーである。詳細はWO2010/
097119およびWO2011/134940に記載されている。
【0125】
肺送達に適していようと副鼻腔送達に適していようと、ネブライザーは好ましい排出率で単位用量をエアロゾル化することができるように好ましくは選択または適合されるべきである。単位用量は、単回投与中に投与されるよう指定された、活性化合物、すなわちIg、IgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせの有効量を含む液体水性組成物の容量として本明細書で定義される。好ましくは、ネブライザーは、そうした単位用量を少なくとも0.1mL/分の速度で、または、組成物の相対密度が通常はおよそ1となると仮定して少なくとも100mg/分の速度で送達することができる。より好ましくは、ネブライザーは、少なくとも0.4mL/分または400mg/分の排出率をそれぞれ生成することができる。さらなる実施形態において、ネブライザーまたはエアロゾル発生器の液体排出率は少なくとも0.50mL/分、好ましくは少なくとも0.55mL/分、より好ましくは少なくとも0.60mL/分、さらにより好ましくは少なくとも0.65mL/分、最も好ましくは少なくとも0.7mL/分であり、エアロゾル発生器と呼ばれるそうした装置は排出量が高く、または排出率が高い。好ましくは、液体排出率は、約0.35~約1.0mL/分または約350~約1000mg/分にわたり;好ましくは液体排出率は、約0.5~約0.90mL/分または約500~約800mg/分にわたる。液体排出率は、時間単位あたりの噴霧される液体組成物の量を意味する。液体は、活性化合物、薬物、Ig、IgG、IgA、IgMもしくはそれらの組み合わせおよび/または塩化ナトリウム0.9%のような代替物を含んでもよい。
【0126】
ネブライザーの排出率は、典型的には、液体組成物の短い噴霧時間を達成するように選択されるべきである。明らかに、噴霧時間はエアロゾル化されるべき組成物の容量、および排出率に依存するであろう。好ましくは、ネブライザーは、ポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせの有効用量を含む液体組成物の容量を、20分以内にエアロゾル化することができるように選択または適合されるべきである。より好ましくは、単位用量の噴霧時間は15分以下である。さらなる実施形態において、ネブライザーは10分以下、より好ましくは6分以下、さらにより好ましくは3分以下の単位用量あたりの噴霧時間を可能にするように選択または適合される。現在最も好ましいのは、0.5~5分の範囲の噴霧時間である。
【0127】
本発明により噴霧される組成物の容量は、短い噴霧時間を可能にするために好ましくは低い。投与容量、または投与単位容量、または単位投与容量とも呼ばれる容量は、1回の投与またはネブライザー療法セッションに使用されるために意図された容量と理解されるべきである。具体的には、容量は0.3mL~6.0mL、好ましくは0.5mL~4.0mL、またはより好ましくは1.0mL~約3.0mL、またはさらにより好ましくは約2.0mLの範囲であってもよい。残留容量が望まれる、または役立つ場合には、この残留容量は1.0mL未満、より好ましくは0.5mL未満、最も好ましくは0.3mL未満であるべきである。有効噴霧容量は、次いで、好ましくは0.2~3.0mLもしくは0.5~2.5mLの範囲、またはより好ましくは0.75~2.5mLもしくは1.0~2.5mLの範囲である。
【0128】
好ましくは、ネブライザーは、液体組成物の充填用量の主要画分がエアロゾルとして送達されるエアロゾルを生成する、すなわち排出量が高くなるように適合される。より具体的には、ネブライザーは、組成物中のIg、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせの用量の少なくとも50%を含有する、または、言い換えれば、リザーバーに充填された液体組成物の少なくとも50%を排出するエアロゾルを生成するように適合される。特に、その特異性のために用量がそれほど高い必要がないモノクローナル抗体と比較して、そうした高排出量のポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせを生成することができるネブライザーを選択することが重要である
。本発明の方法において使用されるメッシュ式ネブライザーは、排出量が特に高い組成物中のポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせのエアロゾルを生成することができることが見出された。
【0129】
乾燥粉末吸入
本発明の組成物は、乾燥粉末でもあってもよい。様々な形態の乾燥粉末吸入器、例えば、カプセル乾燥粉末吸入器および複数回投与乾燥粉末吸入器、回転式吸入器のような単回投与形態、Accuhaler吸入器およびディスク吸入器のような複数回投与形態が利用可能である。乾燥粉末吸入器は、より頻繁な使用に適した使いやすさ、急速吸入システムを提供することにより有利となり得る。
【0130】
投薬
本発明の組成物は、急性増悪の予防または治療における使用のためである。
【0131】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、慢性肺疾患(典型的にはCOPDまたはNCFB)を有する対象の急性増悪の予防における使用のためであり、組成物は維持療法として投与される。維持療法は、療法が始まると、対象が長期間療法を継続することを意味する。例えば、療法は少なくとも6ヶ月間続く。典型的には、療法は少なくとも1年間続く。
【0132】
本発明の組成物は、対象の気道に典型的にはエアロゾルとして投与される、特に、エアロゾルは、ネブライザーを使用して液体水性組成物から生成される。適切な液体水性組成物は上記に記載されている。好ましい実施形態において、液体水性組成物は、約50mg/mL~約150mg/mL、例えば約100mg/mLのポリクローナル免疫グロブリン(例えば、IgG、IgA、IgMまたはそれらの組み合わせ)濃度を有する。
【0133】
本発明の対象の気道への投与のために、エアロゾルを生成するのに使用される液体水性組成物は、2~10mLの容量で投与される。
【0134】
急性増悪、例えばCOPDまたはNCFBの急性増悪の治療または予防(典型的には予防)における使用のために、組成物は、療法中48時間に1回、24時間に1回または12時間に1回投与される。特定の実施形態において、本発明の組成物は12時間に1回投与される。特定の実施形態において、本発明の組成物は24時間ごとに投与される。特定の実施形態において、本発明の組成物は48時間ごとに投与される。
【0135】
急性増悪、例えばCOPDまたはNCFBの急性増悪の予防または治療(典型的には予防)における使用のために、ポリクローナル免疫グロブリンの約0.01g~約1.5gの用量が使用される。本発明の組成物の特に適切な用量は、ポリクローナル免疫グロブリン約0.1g~約1.5g、例えば約0.2g~約1gの用量であり、特に、該用量は約0.2gである。特定の実施形態において、約0.2gの用量が1日1回投与される。
【0136】
そうした用量は、急性増悪のリスク、例えば気道感染症のリスクを増加させ得る因子に応じて調整することができる。例として、本発明による投与の用量および/または頻度は秋季および冬季、特に冬季に増加する。
【0137】
別の実施形態において、エアロゾルは乾燥粉末吸入器を使用して乾燥組成物から生成される。典型的には、1回の投与で送達される用量は、およそ0.5mgのように比較的低くてもよいが、対象は1日に複数回の吸入、例えば1日の間に1回~約20回、好ましくは2回~約15回の吸入を使用してもよい。
【0138】
季節的投与
本発明の療法(予防または治療)は、慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象の気道感染症および急性増悪の割合の増加に関連するより寒冷な天候の間に特に有用である。1つの実施形態において、組成物は秋および/または冬季に投与される。特に、組成物は冬季に投与される。COPDの急性増悪の発生は季節変動を示し、秋季および冬季に割合がより高い[19]。急性増悪のこの増加は、気道感染症、例えばライノウイルス感染症の割合の増加に起因し得る。したがって、秋季および冬季に組成物を投与することは、リスク増加期間中のそうした感染症に対する防御をもたらす。
【0139】
そうした季節変動はCOPDを有する全ての対象に影響すると考えられ、それ故に、例えば秋季および冬季、特に冬季のこの季節的投与は、本明細書で特徴付けられたCOPDを有する任意の対象に有用である。COPDとNCFBの類似性、特に気道感染症に起因し得る急性増悪は、そうした季節により異なる投与がNCFBを有する対象に有用であることが見込まれることを示唆するものである。
【0140】
本明細書で使用される場合、用語「秋季」は、秋(fall)または秋(autumn)の間に生じると一般に認識される月を指す。北半球では、これらの月には9月、10月および11月が挙げられる。南半球では、これらの月には3月、4月および5月が挙げられる。
【0141】
本明細書で使用される場合、用語「冬季」は、冬の間に生じると一般に認識される月を指す。北半球では、これらの月には10月、11月、12月、1月および2月が挙げられる。南半球では、これらの月には4月、5月、6月、7月および8月が挙げられる。
【0142】
抗生物質との併用療法
本発明のポリクローナル免疫グロブリンは、例えば慢性肺疾患、典型的にはCOPDおよび/またはNCFBを有する対象における細菌性気道感染症を予防または治療するための、抗生物質と組み合わせた投与に特に適している。
【0143】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、対象が抗生物質療法を受けている間、細菌感染症の急性期に抗生物質と共に投与され、すなわち組成物は、標準的な抗生物質療法に加えて、感染症の最初の2日間、特に最初の3日間、最初の4日間、または最初の5日間の間に投与される。
【0144】
全般
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「なる(consisting)」を包含する。例えばXを「含む(comprising)」組成物はXだけからなってもよく、または追加の何か、例えばX+Yを含んでもよい。単語「実質的に」は「完全に」を排除しない。例えばYが「実質的にない」組成物は、Yが完全になくてもよい。必要に応じ、単語「実質的に」は本発明の定義から削除されてもよい。
【0145】
数値xと関連した用語「約」は任意であり、例えば、x±10%を意味する。
本発明の組成物は、ポリクローナル免疫グロブリンを含む組成物である。特に具体的に記載のない限り、組成物に起因する効果は、不特定の追加の成分ではなくポリクローナル免疫グロブリンによって媒介される。
【0146】
具体的に記載のない限り、2つまたはそれ以上の成分を混合する工程を含むプロセスは、任意の特定の混合の順序を必要としない。故に成分は任意の順序で混合することができる。3つの成分がある場合、2つの成分が互いに組み合わされ、次いで該組み合わせが第
3の成分等と組み合わされる。
【0147】
本発明はこれより、以下の図を参照しながら以下の非限定的な例で例示される。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【
図1】血漿由来Ab製剤が緑膿菌(PA)と相互作用することを示す図である。ELISAによって決定される、コーティングPAへの血漿由来Abまたは分泌性IgA/Mの漸増濃度の結合。
【
図2】血漿由来IgG製剤とPAとの結合は凝集を促進することを示す図である。血漿由来IgGと結合されたPAの免疫複合体のレーザー走査型共焦点顕微鏡画像。細菌はCFSEで標識され、IgGはCy3色素で標識された。画像は、2つの独立したスライドからの5~10回の観察から得られた1つの観察野の代表である。
【
図3】血漿由来免疫グロブリン製剤PA誘発LDH組織放出を示す図である。組織損傷は、MucilAir(商標)の基底培地でLDH放出を測定して評価された。溶媒のみまたは血漿由来免疫グロブリン製剤を受け取る非感染トランスウェルは対照として機能した。PA感染トランスウェルは陽性対照として機能した。データは3つの独立した実験の代表である。
【
図4】血漿由来IgG製剤が経上皮電気抵抗の喪失を用量依存的に予防することを示す図である。組織の完全性は、経上皮電気抵抗を測定して評価された。非感染およびプロリン処理トランスウェルは陰性対照として機能し、PA感染トランスウェルは組織損傷の陽性対照として機能した。データは3つの独立した実験の代表である。
【
図5】血漿由来IgG製剤がPA誘発組織損傷を用量依存的に予防することを示す図である。パラフィン固定MucilAir(商標)切片のレーザー走査型共焦点顕微鏡画像が取得され、サイトケラチンおよびベータチューブリンの発現について分析された。溶媒のみまたはIgG製剤を受け取る非感染トランスウェルは対照として機能した。溶媒で処理されたPA感染トランスウェルは陽性対照として機能した。データは3つの独立した実験の代表である。
【
図6】血漿由来免疫グロブリン製剤が上皮細胞によるPA誘発IL-8放出を低減することを示す図である。IL-8はMucilAir(商標)の基底培地で測定された。溶媒のみまたは免疫グロブリン製剤を受け取る非感染トランスウェルは対照として機能した。プロリンで処理されたPA感染トランスウェルは陽性対照として機能した。データは3つの独立した実験の代表である。
【
図7】血漿由来IgG製剤が上皮細胞によるPA誘発IL-8放出を用量依存的に低減することを示す図である。IL-8分泌の相対濃度は、10CFUのPAで24時間曝露された場合のMucilAir(商標)によって分泌されたIL-8に関して算出された。溶媒のみまたは免疫グロブリン製剤を受け取る非感染トランスウェルは対照として機能した。プロリンで処理されたPA感染トランスウェルは陽性対照として機能した。データは、1条件につき3人の異なるドナー由来のMucilAir(商標)を使用した1つの実験の代表である。
【
図8】血漿由来Ab製剤が上皮細胞によるPA誘発IL-6放出を低減することを示す図である。IL-6はMucilAir(商標)の基底培地で測定された。溶媒のみまたは免疫グロブリン製剤を受け取る非感染トランスウェルは対照として機能した。溶媒で処理されたPA感染トランスウェルは陽性対照として機能した。データは3つの独立した実験の代表である。
【
図9】血漿由来Ab製剤がヒトライノウイルスC15と相互作用することを示す図である。ELISAによって決定される、コーティングHRV C15への血漿由来Abまたは分泌性IgAMの漸増濃度の結合。
【
図10】血漿由来AbがHRV排出を低減することを示す図である。HRV-C15ゲノムのコピー数は、q-PCRを使用して頂端洗浄で測定された。プロリンで処理されたHRV感染トランスウェルは、感染の陽性対照として機能した。効能測定には、ルピントリビル処理トランスウェルが陽性対照として機能した。
【
図11】血漿由来AbがHRV誘発組織損傷を低減することを示す図である。組織の完全性は、経上皮電気抵抗を測定して評価された。プロリンで処理された非感染トランスウェルは陰性対照として機能した。プロリンで処理されたHRV感染トランスウェルは、感染の陽性対照として機能した。効能測定には、ルピントリビル処理トランスウェルが陽性対照として機能した。
【
図12】血漿由来AbがHRV誘発粘液線毛クリアランス低下を予防することを示す図である。粘液線毛クリアランスは、MucilAir(商標)の頂端面に添加された直径30μmのポリスチレンマイクロビーズの速度を測定して評価された。プロリンで処理された非感染トランスウェルは陰性対照として機能した。プロリンで処理されたHRV感染トランスウェルは、感染の陽性対照として機能した。効能測定には、ルピントリビル処理トランスウェルが陽性対照として機能した。
【
図13-1】血漿由来免疫グロブリン製剤がHRV増殖を用量依存的に阻害することを示す図である。HRV-C15ゲノムのコピー数は、4μg/ウェル、20μg/ウェル、100μg/ウェルおよび500μg/ウェルの異なる免疫グロブリン製剤で処理後、q-PCRを使用して頂端洗浄で測定された。プロリンで処理されたHRV感染トランスウェルは、感染の陽性対照として機能した。効能測定には、ルピントリビル処理トランスウェルが陽性対照として機能した。
【
図14-1】血漿由来免疫グロブリン製剤がインフルエンザウイルス増殖を用量依存的に阻害することを示す図である。インフルエンザウイルスゲノムのコピー数は、4μg/ウェル、20μg/ウェル、100μg/ウェルおよび500μg/ウェルの異なる免疫グロブリン製剤で処理後、q-PCRを使用して頂端洗浄で測定された。プロリンで処理されたインフルエンザウイルス感染トランスウェルは、感染の陽性対照として機能した。効能測定には、オセルタミビル処理トランスウェルが陽性対照として機能した。
【発明を実施するための形態】
【0149】
以下の非限定的な例は、本発明を例示するのに役立つ。
以下の例に包含される試験は、気道組織に送達された免疫グロブリンが抗菌効果(免疫排除)および抗炎症効果を併せ持つことができ、それ故に、COPDおよびNCFBのような慢性肺疾患に罹患している対象における増悪、特に感染症関連増悪の有効な治療または予防の魅力的な選択肢であることを示している。特に、慢性感染症および急性増悪を予防することは、これらの疾患を有する対象の維持療法に適している、
【0150】
微生物による定着ならびに可能性のある侵入および浸潤に対する粘膜表面の防御は、構成的な非特異的物質(粘液、リゾチームおよびデフェンシン)の組み合わせによってもたらされ、また、液性レベルでの分泌型Ig(SIg)を含む特異的免疫機構によってももたらされる[20;21]。インビボでは、感染に対する実験的および臨床的耐性は、粘膜表面で免疫学的バリアとして機能する特異的分泌型IgA(SIgA)抗体(Ab)と相関し得る[22;23]。粘膜表面での病原体の集合体形成、固定化および中和は、SIgAの多価性によって促進されると考えられている[24;25]。IgA不全者においてSIgAの代替物として機能するSIgMは、同様の防御機構を介して作用するようである[26]。
【0151】
ポリオウイルス、サルモネラ、またはインフルエンザのようないくつかの病原体に関して、粘膜感染に対する防御は、承認されたワクチンによる能動粘膜免疫化によって誘導することができる。しかし、粘膜病原体の大多数に関して、能動的粘膜ワクチンは利用できない。あるいは、防御レベルのAbが受動免疫化によって粘膜表面に直接送達される。天然には、これは、乳を介した子への移行抗体の移入によって多くの哺乳動物種で生理的に
起こる[27]。受動粘膜免疫化を使用したヒトおよび動物試験は、経口、鼻腔内、子宮内または肺注入によって投与されたpIgAおよびSIgA抗体分子が、細菌およびウイルス感染症を予防し、減少させ、または治癒し得ることを示している[28]。しかし、粘膜表面で天然に見出されるIgAの分泌型はほとんど使用されなかった。SIgAの大規模生産は今日まで可能ではない。バイオテクノロジー方法を用いたSIgAの構築は困難ではあるが、そうした分子は重要な臨床適用を有する可能性がある[29]。同じことが分泌成分含有IgMにも当てはまる。
【0152】
血漿由来免疫グロブリンは、致死的となり得る感染症から免疫不全患者を守るために何十年にもわたって使用されてきた[30]。血漿由来免疫グロブリンは、一般にIgGが高純度である。しかし、製剤中に濃縮IgMを含むIgG製品はほとんどない(例えばPentaglobin(商標))。血漿由来免疫グロブリンの送達は、身体中の免疫グロブリンの全身性分布を確保する静脈内または皮下送達である。免疫補充療法は免疫不全患者における肺炎の発生を低下させることが示されているが、上気道感染症および気管支感染症に対する影響は限定的であるように思われる。血漿由来免疫グロブリンの局所適用は、全身性Ig送達を増加させることなく粘膜表面のより高いIg含量を支持し得る。
【0153】
HRVおよびPAは、COPDおよびNCFB増悪におけるそれらの主な役割を理由に、上皮組織感染を予防する血漿由来免疫グロブリンの効能をテストするために選択した。ヒトでの状況をより良く模倣するために、ヒト初代細胞ベースの気道モデル、MucilAir(商標)(Epithelix Sarl、ジュネーブ)を使用した。MucilAir(商標)は、インビトロで再構成されたヒト気道上皮の細胞モデルである。MucilAir(商標)プールは、14人の異なるドナーまたはただ1人のドナーからそれぞれ単離された鼻または気管支細胞の混合物から作られている。気液界面で培養されることにより、モデルは高い経上皮電気抵抗、繊毛の鼓動および粘液産生を示す。これは、インビボで存在するような上皮組織の十分な機能性を証明するものである。サイトカイン放出(例えばIL-8およびIL-6)および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出は感染中に検出され、感染がこのモデルで炎症および組織損傷とどう関連しているかを反映する。
【0154】
材料および方法
気道の感染症は、気道上皮の頂端側に病原性細菌およびウイルスが沈着することで始まる。組織に到達するために、ウイルスは上皮細胞に感染するが、細菌は外毒素の分泌を通じて細胞を損傷する傾向がある。組織損傷を予防する血漿由来免疫グロブリンの効能をテストするために、緑膿菌感染モデルを使用した。
【0155】
細菌株
このモデルに使用された緑膿菌(PA)は、感染症研究所(ベルン大学、スイス)から入手した臨床単離株である。PAはヒトに疾患を引き起こし、肺の感染症に関与する病原菌である。PAを血液寒天ペトリ皿で培養した。コロニーを選択し、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地で37℃、400毎分回転数(RPM)で24時間培養した。翌日、培養物を新鮮なBHI培地で1:10希釈し、37℃、400rpmでさらに1時間置いた。ODを次いで測定し、実験前に複数の培養物を用いて生成したOD/細菌負荷曲線から細菌数を推定した。投薬の前にさらなる希釈のためにアリコートを回収し、第2のアリコートを血液寒天プレートでのさらなるプレーティングのために回収して細菌負荷を正確に検証した。
【0156】
ウイルス株
ライノウイルスC15は、ジュネーブ病院から入手した臨床単離株(名称S07-09-08-U)である。ウイルスストックをMucilAir(商標)培養物で作製し、培養培地に希釈した。これらは、精製も濃縮もしなかった。
【0157】
用量反応試験のために、ライノウイルスC15(2009)およびA型インフルエンザ/Switzerland/7717739/2013(H1N1)を、[31]に記載されている臨床標本からMucilAir(商標)で直接単離した。実験用のウイルスストックをMucilAir(商標)で作製し、培養培地で頂端洗浄物を回収した。数日の作製物をプールし、qPCRによって定量化し、分注し、-80℃で保管した。
【0158】
組織
MucilAir(商標)(Epithelix Sarl、ジュネーブ)を使用してヒト気管支組織を模倣した。試験群ごとに、3つのMucilAir(商標)トランスウェルを使用し、各トランスウェルは、1人の異なるドナーまたは用量反応試験で使用した14人のドナーの混合のどちらかに由来した。MucilAir(商標)の培養は気液界面で行った。基底側で使用した培地は、成長因子およびフェノールレッドを含有するMucilAir(商標)培養培地(Epithelix Sarl、ジュネーブ)であった。培地は血清を含有しない。
【0159】
緑膿菌感染モデルおよび治療
PAを使用する感染モデルは、10μLの容量下、1つのMucilAir(商標)トランスウェルの頂端側への10という低いコロニー形成単位(CFU)のPAの沈着に基づく。24時間かけてPAは成長して>109CFU/トランスウェルに達する。感染は、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(組織損傷に関連する)ならびにIL-8およびIL-6のような炎症性誘発性分子の放出をもたらす。組織の損傷は、組織の穴の外観および経上皮電気抵抗の喪失によっても証明される。
【0160】
いくつかの実験では、免疫グロブリンは細菌より10分前または同時に沈着させた。免疫グロブリンは10μL最終容量で適用した。免疫グロブリンの効果を溶媒液(25mMプロリン)と比較した。
【0161】
ヒトライノウイルスC15およびインフルエンザH1N1感染モデルおよび治療
t=0時点で、概念実証実験(
図10)の3.8×10
7ゲノムコピー/mL HRV
C15(臨床株:S07-09-08-U)15μLストック溶液、ならびに用量反応試験(
図13および14)のHRVおよびインフルエンザH1N1の両方に対して1.0×10
8ゲノムコピー/mL 10μLを、MucilAir(商標)の頂端側に34℃および5% CO2で3時間適用した。免疫グロブリンはウイルスと同時に5μLでMucilAir(商標)の頂端面に適用し、3.5および24時間時点で新しくした。免疫グロブリンの効果を溶媒液(25mMプロリン)と比較した。接種3時間後、接種材料を取り除くために上皮をPBS(Ca2+/Mg2+)で3回洗浄した。
【0162】
200μL MucilAir(商標)培養培地による無細胞頂端洗浄物(20分間)を、接種後3.5時間、次いで24、48時間時点で回収し、-80℃で保管した。
【0163】
免疫グロブリン
ヒト血漿由来IgG調製物(IgPro10、ピリヴィジェン)は、報告されているように製造した[32]。IgAおよびIgMを含有する調製物は、ヒト血漿由来のIgGの大規模製造で使用されるイオン交換クロマトグラフィー副画分から得た。IgAおよびIgMを含有する溶出画分を、タンジェンシャルフロー濾過(TFF;Pellicon
XL Biomax 30、Merck Millipore)によって濃縮し、PBS中50g/lタンパク質に再緩衝化した。IgAおよびIgMを2:1質量比で含有する得られたIgA/M溶液をさらに処理して、インビトロで組換えヒトSCとIgA/Mを組み合わせてSCIgA/Mを得た[33]。
【0164】
ELISA
感染時のヒト気管支組織による炎症誘発性サイトカイン放出を、感染後24時間で回収した基底培地のアリコートで測定した。特に、IL-8(RnD Systems;DY208)およびIL-6(RnD Systems;DY206)を評価した。測定はユーザーマニュアルに従って行った。
【0165】
PA ELISAのために、PAをBBL Todd Hewitt Broth培地で37℃、一晩培養した。PAを10分間、遠心分離(3220g)によってペレット化した。上清を除去し、ペレットを0.1M炭酸塩緩衝液(pH 9.6)で2回洗浄した。ペレットを炭酸塩緩衝液に再懸濁し、50μl/ウェル(4×106細菌)をポリソルベートプレートに添加した。コーティングを2~8℃で一晩行った。翌日、ウェルをPBS/Tween(0.05%)で3時間洗浄し、PBS/FCS(2.5%)を用いて室温で1.5時間ブロックした。ウェルを次いでPBS/Tween(0.05%)で3時間洗浄した。Ig製剤(0.7μg/ml~500μg/ml)をウェルに室温で添加し2時間置いた。PBS/Tween(0.05%)で2回洗浄後、二次抗体、ヤギ抗ヒトIgG/A/M-HRP(1mg/ml、ブロッキング緩衝液中1:2’000)を室温で2時間、試料でインキュベートした。PBS/Tween(0.05%)による最終洗浄を3回行なった後、ペルオキシダーゼのTMB基質を使用した。青色沈殿物形成は各ウェルの酵素の量に線形比例する。酵素反応を50μl/ウェルHCl 1Mで止めた。吸光度を450nmで読み取った(参考波長620nm)。各三通りの平均ブランク吸光度を、細菌コート吸光度から差し引いた。
【0166】
ライノウイルスELISAのために、Maxisorpプレート(Nunc)を、0.1M炭酸塩緩衝液中精製ライノウイルスCストック(3×106/ml;臨床名:S07-09-09-U)(2~4℃)で一晩コーティングした。第2のMaxisorpプレートを0.1M炭酸塩緩衝液中5% BSAでコーティングし、「ブランク」プレートとした。翌日、ウェルをPBS/Tween(0.05%)で3時間洗浄し、PBS/FCS(2.5%)を用いて室温で1.5時間ブロックした。ウェルを次いでPBS/Tween(0.05%)で3回洗浄した。Ig製剤(0.7μg/ml~500μg/ml)をウェルに室温で添加し2時間置いた。PBS/Tween(0.05%)で2回洗浄後、二次抗体、ヤギ抗ヒトIgG/A/M-HRP(1mg/ml、ブロッキング緩衝液中1:2’000)を室温で2時間、試料でインキュベートした。PBS/Tween(0.05%)による最終洗浄を3回行なった後、ペルオキシダーゼのTMB基質を使用した。青色沈殿物形成は各ウェルの酵素の量に線形比例する。酵素反応を50μl/ウェルHCl 1Mで止めた。吸光度を450nmで読み取った(参考波長620nm)。各三通りの平均ブランク吸光度を、ウイルスコート吸光度から差し引いた。
【0167】
免疫組織化学
組織損傷をレーザー走査型共焦点顕微鏡法を使用して評価した。組織は以下のように製造した。MucilAir(商標)トランスウェルをPBSで1回洗浄し、4℃で一晩、4%パラホルムアルデヒドで固定した。翌日、トランスウェルをPBSで3回洗浄し、組織を氷冷メタノールで-20℃、30分間透過処理した。組織を次いでPBSで3回洗浄し、PBS中3%ヤギ血清を使用してブロッキング工程を4℃で一晩行なった。PBS(3回)による別の洗浄工程後、抗サイトケラチン抗体(Abcam;ab192643)(1/200)、抗ベータチューブリン抗体(Abcam;ab11309)(1/200)およびDAPI(Sigma D9542)(1/2000)を用いて4℃で48時間~72時間、組織を染色し、全てをPBSに希釈した。組織を次いでPBS中で3回洗浄し、トランスウェルを組織から分離した。組織を次いでスライドに乗せ、封入剤およびカバースリップで覆った。スライドを室温で24時間維持して乾燥させた後、Zeiss
LSM800共焦点顕微鏡で撮像した。
【0168】
経上皮電気抵抗(TEER)
TEERは上皮の状態を反映する動的パラメータである。しかし、いくつかの要因に影響される。例えば、穴が存在した場合、または細胞タイトジャンクションが失われている場合、TEER値は100Ω.cm2より下の値に達するであろう。対照的に、上皮が健康な場合、TEER値は典型的には200Ω.cm2より上になる。
【0169】
未処理試料および、ウイルスまたは細菌なしの溶媒で処理した試料を陰性対照とし、10% Triton X-100を陽性対照として使用した。
【0170】
TEER値を測定するために、MucilAir(商標)培地200μLをMucilAir(商標)培養物の頂端コンパートメントに添加し、EVOMXボルトオームメーター(World Precision Instruments UK、スティーブニッジ)を用いて抵抗を条件ごとに測定した。抵抗値(Ω)は、以下の式:
TEER(Ω.cm2)=(抵抗値(Ω)-100(Ω))×0.33(cm2)
(式中、100Ωは膜の抵抗性であり、0.33cm2は上皮の全表面である)
を使用してTEER(Ω.cm2)に変換した。
【0171】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイ
乳酸デヒドロゲナーゼは、血漿膜が破れると培養培地に迅速に放出される安定な細胞質酵素である。100μL基底培地を各時点で回収し、製造者の説明指示書に従ってCytotoxicity Detection KitPLUSの反応混合物とインキュベートした(Sigma、Roche、11644793001)。放出されたLDHの量を、次いで各試料の吸光度をマイクロプレートリーダーにより490nmで測定して定量化した。未処理および溶媒(ウイルスまたは細菌なし)は陰性対照として機能し、LDHの生理学的放出に対応する(≦5%)。10% Triton X-100は陰性対照として使用され、大量LDH放出(100%細胞傷害性に等しい)に対応する。細胞傷害性のパーセンテージを決定するために、以下の等式を使用した(A=吸光度値):
細胞傷害性(%)=(A(実験値)-A(低対照)/A(高対照)-A(低対照))×100
【0172】
ウイルスの排出
試験の各時点で、200μL MucilAir(商標)培養培地を用いて頂端洗浄を行った。20μLをウイルスRNA抽出(QIAamp(登録商標)Viral RNA
kit(Qiagen))にさらに使用し、RNA溶出容量60μLを得た。ウイルスRNA 5μLを使用して定量RT-PCR(QuantiTect Probe RT-PCR、Qiagen)によってウイルスRNAを定量化した。2種類のピコルナウイルスファミリー特異的プライマー、汎ピコルナウイルスプライマーおよびピコルナウイルスプライマー、ならびにA型インフルエンザ特異的プライマーならびにFAM-TAMRAレポーター-クエンチャー色素を有するプローブも使用した。
【0173】
HRV-A16またはH3N2 RNAの既知濃度の4つの希釈物およびRT-PCR用の対照を含め、プレートをApplied Biosystems製TaqMan ABI 7000またはBio-Rad製Chromo4 PCR Detection Systemのどちらかで実行した。Ctデータを標準曲線に対して報告し、希釈係数を補正し、1mlあたりのゲノムコピー数をグラフに表した。
【0174】
粘液線毛クリアランス
粘液線毛クリアランスは、5×対物レンズを備えたOlympus BX51顕微鏡に
接続されたSony XCD-U100CRカメラを使用してモニターした。30μm直径のポリスチレンマイクロビーズ(Sigma、84135)をMucilAir(商標)の頂端面に添加した。マイクロビーズの動きを、室温で30枚の画像に対して毎秒2フレームでビデオトラッキングした。1インサートあたり3本の動画を撮影した。平均ビーズ運動速度(μm/秒)をImageProPlus 6.0ソフトウェアで算出した。データを平均+SEM(n=3インサート)として表した。
【実施例0175】
血漿由来免疫グロブリンは緑膿菌と相互作用する
PAは、嚢胞性線維症または重度のCOPDを有する対象におけるような多くの気道感染症と関連している。多くの異なる株が存在する。臨床装置との関連のために臨床単離株を使用した。市販の血漿由来免疫グロブリンは主に、数千人の健康な成人ドナーから回収された血漿プールから得られる高度に精製されたIgGからなる。複数のドナー起源のために、単離された免疫グロブリンは、ワクチン接種からの結果として、多価性および多クローン性だけでなく特定の病原体に対するより高い力価も提供する。単量体IgAならびに、五量体IgMおよび単量体/二量体IgAの混合物は、廃棄画分から単離することができる。本発明者らは、多反応性の血清由来多量体IgA、IgMおよび2つのアイソタイプの混合物(IgA/M)が、組換え分泌成分(SC)と組み合わせると分泌性Abへと構築されることを以前に確立している[34]。局所受動免疫化にそれらを使用する裏付けとして、該分子はプロテアーゼに富んだ腸洗浄物への曝露時に高いインビトロ安定性を示す[35]。
【0176】
図1は、ELISAアッセイにおけるPAへの血漿由来免疫グロブリンの結合を示す。重要なことに、全ての血漿由来免疫グロブリンは、このアッセイにおいてPA臨床単離株に結合することができた(材料および方法セクション参照)。PAへの結合は用量依存的であり、免疫グロブリン量は0.7μg/mL~500μg/mLまで変動した。免疫グロブリン製剤間の比較は、PAの結合能の差を示した。例えば、SCと結合したまたはしていないIgAおよびIgMの混合物は、PAに対する最も高い親和性を示し、これにIgGおよびIgAが続いた。