(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153774
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】正極活物質の作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241022BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241022BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20241022BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 B
C01G51/00 A
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024121887
(22)【出願日】2024-07-29
(62)【分割の表示】P 2019224696の分割
【原出願日】2019-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2018233928
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018238383
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019019437
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019031705
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】成田 和平
(72)【発明者】
【氏名】町川 一仁
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池に用いる正極活物質としての利用において、レートや出
力耐性といった負荷耐性の向上を図りつつ、粉体物性の改善を行い、さらに製造のタクト
が短く低コスト化することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化マグネシウムの融点よりも低い温度で加熱処理を行うために、フッ化
リチウムを混合することでフッ化マグネシウムを溶融させ、コバルト酸リチウム粉末の表
面改質を行う。フッ化リチウムを混合することでフッ化マグネシウムは融点よりも低い温
度で溶融させることができ、この共融現象を利用して正極活物質を作製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化マグネシウムと、フッ化リチウムと、ニッケル源と、アルミニウム源と、をそれぞれ微粉化した後にコバルト酸リチウム粉末と混合して第1の混合物を作製する第1のステップと、
前記コバルト酸リチウムの耐熱温度未満の温度で加熱して第2の混合物を作製する第2のステップと、を有し、
前記アルミニウム源は、水酸化アルミニウム、またはアルミニウムイソプロポキシドであり、
前記ニッケル源は、水酸化ニッケルであり、
前記フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比は、x:1(0≦x≦1.9)である、正極活物質の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第2のステップの加熱温度は700℃以上950℃以下である正極活物質の作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、得られる前記正極活物質の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である正極活物質の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明の一態様は、
プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)
に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置ま
たは電子機器、またはそれらの製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる
正極活物質、二次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指す
ものである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチ
ウムイオンキャパシタ、全固体電池、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置
を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装
置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二
次電池は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、もしくはノート型コンピュータ等の
携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(
HEV)、電気自動車(EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次
世代クリーンエネルギー自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し
、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高エネルギー密度化、
サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
特に、4V級の高い電圧が得られるため、リチウムイオン二次電池の正極活物質としてコ
バルト酸リチウム(LiCoO2)が広く普及している。
【0007】
電気自動車などに利用されるモータ駆動用二次電池として、携帯電話やノートPCに比べ
て高い出力特性、高いエネルギー密度、変化の少ないサイクル特性を有することが求めら
れている。また、モータ駆動用二次電池は、充電時間においても短時間で終了できる急速
充電が可能であることも求められている。
【0008】
リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極活物質の
改良が検討されている(特許文献1および特許文献2)。また、正極活物質の結晶構造に
関する研究も行われている(非特許文献1乃至非特許文献4)。
【0009】
X線回折(XRD)は、正極活物質の結晶構造の解析に用いられる手法の一つである。
非特許文献5に紹介されているICSD(Inorganic Crystal Str
ucture Database)を用いることにより、XRDデータの解析を行うこと
ができる。
【0010】
特許文献3にはニッケル系層状酸化物におけるヤーン・テラー効果について述べられて
いる。
【0011】
特許文献4には充電状態と放電状態において、結晶構造の変化が少ない正極活物質が開
示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-216760号公報
【特許文献2】特開2006-261132号公報
【特許文献3】特開2017-188466号公報
【特許文献4】国際公開第2018/211375号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Toyoki Okumura et al,”Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【非特許文献2】Motohashi, T. et al,”Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2(0.0≦x≦1.0) ”, Physical Review B, 80(16) ;165114
【非特許文献3】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【非特許文献4】W. E. Counts et al,“Fluoride Model Systems:II,The Binary Systems CaF2-BeF22, MgF2-BeF2, and LiF-MgF2” Journal of the American Ceramic Society,(1953) 36[1] 12-17. Fig.01471
【非特許文献5】Belsky, A. et al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD): accessibility in support of materials research and design”, Acta Cryst.,(2002) B58 364-369.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
二次電池に印加される充電電圧を上昇できれば、高い電圧で充電できる時間が伸びて単位
時間あたりの充電量が大きくなり、充電時間が短縮される。リチウムイオン二次電池で代
表される電気化学セルの分野において、電圧が4.5Vを超えるような高電圧になると、
電池の劣化が生じる。
【0015】
二次電池に印加される充電電圧を上昇させると、副反応が生じ電池性能が大幅に低下する
ことがある。副反応とは、活物質または電解液が化学反応を起こすことで生じる反応物の
形成または酸化や電解液の分解が促進されることなどを指す。また、電解液の分解により
ガスの発生、及び体積膨張が生じることもある。
【0016】
本発明の一態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。本発明の一態様
は、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一
態様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0017】
充電電圧4.5V以上、好ましくは4.6V以上で充放電を繰り返した際の容量維持率を
向上することが可能な正極活物質とその製造方法を提供することも課題の一とする。
【0018】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、二次電池、又はそれらの作製方法
を提供することを課題の一とする。
【0019】
具体的には、本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いる正極活物質としての利
用において、レートや出力耐性といった負荷耐性の向上を図りつつ、粉体物性の改善を行
い、さらに製造のタクトが短く低コスト化することのできる製造方法を提供することを課
題の一とする。
【0020】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請
求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様は、フッ化マグネシウムと、フッ化リチウムと、ニッケル源と、アルミ
ニウム源と、をそれぞれ微粉化した後にコバルト酸リチウム粉末と混合して第1の混合物
を作製する第1のステップと、コバルト酸リチウムの耐熱温度未満の温度で加熱して第2
の混合物を作製する第2のステップと、を有する正極活物質の作製方法である。
【0022】
本明細書において、コバルト酸リチウムの耐熱温度を1000℃とする。理由として、コ
バルト酸リチウムの融点は1130℃であり、その手前の1000℃程度からLiの蒸散
やLiとCoのカチオンミキシング等が生じやすくなり、LiCoO2を後処理等でアニ
ールする場合、1000℃未満が望ましいからである。フッ化マグネシウムの融点(12
63℃)よりも低い温度で加熱処理を行うために、フッ化リチウム(融点848℃)を混
合することでフッ化マグネシウムを溶融させ、コバルト酸リチウム粉末の表面改質を行う
。フッ化リチウムを混合することでフッ化マグネシウムは融点よりも低い温度で溶融させ
ることができ、この共融現象を利用して正極活物質を作製する。なお、耐熱温度や融点は
示差走査熱量測定(DSC)または示差熱分析(DTA)または示差熱熱重量同時測定(
SDT)を用いて測定する。
【0023】
共融現象を利用して製造された正極活物質を用いた二次電池は、充電電圧を4.5V以上
、好ましくは4.6V以上としても電池の劣化が抑えられる。
【0024】
また、コバルト酸リチウム粉末の表面改質を行うことで加熱温度の低い製造プロセスを提
供することができる。加熱温度の低い製造プロセスを提供することは、製造コスト低減に
つながる。
【0025】
また、加熱温度の低い製造プロセスを提供するため、ニッケル源及びアルミニウム源も融
点の低い水酸化物を用いる。具体的には、水酸化アルミニウム(融点300℃)や、水酸
化ニッケル(融点230℃)を用いる。水酸化物を用いるため、アルミニウム、及びニッ
ケルは共融点の近傍において共融解しうる。
【0026】
また、加熱処理の回数を少なくすることも製造コスト低減につながる。上記作製方法にお
いては、1回の加熱処理としている。加熱処理条件としては、1000℃未満、好ましく
は、700℃以上950℃以下が好ましく、850℃程度がさらに好ましい。加熱時間は
、1時間以上80時間以下とすることが好ましい。
【0027】
また、上記作製方法においては、1回の加熱処理としているが、特に限定されず、2回ま
たはそれ以上の回数の加熱処理を行ってもよい。2回の加熱処理を行う本明細書で開示す
る他の構成は、フッ化マグネシウム及びフッ化リチウムを微粉化した後にコバルト酸リチ
ウム粉末と混合して第1の混合物を作製する第1のステップと、コバルト酸リチウムの耐
熱温度未満の温度で加熱して第2の混合物を作製する第2のステップと、ニッケル源を微
粉化した後に第2の混合物と混合して第3の混合物を作製する第3のステップと、第3の
混合物にアルミニウム源を混合した後、コバルト酸リチウムの耐熱温度未満の温度で加熱
して第4の混合物を作製する第4のステップと、を有する正極活物質の作製方法である。
【0028】
上記2回の加熱処理における加熱温度は1000℃未満、好ましくは、700℃以上95
0℃以下の加熱温度とし、加熱時間は、2時間以上80時間以下とすることが好ましい。
【0029】
上記作製方法においては、例えば、1回目の加熱処理を900℃、20時間として、2回
目の加熱処理を850℃、2時間とすると加熱処理にかかる合計の時間を短縮することが
できる。上記作製方法は、フッ化マグネシウムの融点が最も高いため、ニッケル源やアル
ミニウム源を加える前に予め十分な反応をさせて混合物を得る作製フローにしているとも
いえる。
【0030】
また、上記各作製方法において、アルミニウム源として水酸化物に限定されず、アルミニ
ウムイソプロポキシドを用いることもできる。アルミニウムイソプロポキシドは、アルミ
ニウムアルコキシドの一種であり、Al[OCH(CH3)2]3で表せる材料である。
アルミニウムイソプロポキシドは、イソプロパノールや、エタノールに溶けやすく、水で
分解する。
【0031】
また、本明細書において、共融点とは、2成分の固体相-液体相曲線において2成分が固
溶体を形成せずに液体状態で完全に溶けて混ざる点を言う。
【0032】
例えば、2成分の金属元素A、Bが溶解する時、A、Bが固溶体を形成せずに、別々に固
相を形成するか、分子化合物を形成し、液相ではA,Bが完全に溶け合う場合がある。A
,Bの混合物はAもしくはB単独の融点より低い温度の融点となり、あるA、Bの濃度比
を有する混合物の時、最低の融点を示し、この温度を共融点、この混合物を共融混合物と
も呼ぶ。2成分に限定されるものではなく、3成分、4成分または5成分以上であっても
よい。
【0033】
フッ化リチウムは、添加することでフッ化マグネシウムの融点を下げるため、フッ化マグ
ネシウムの共融解剤とも言える。フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2の
モル比は、LiF:MgF2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF
:MgF2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF2=x:1
(x=0.33近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0
.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0034】
なお、共融解剤の使用量を前記範囲より多くしても効果が得られず、共融解剤が不純物と
して残ってしまい、二次電池を作製した場合での電池特性が低下してしまう。
【0035】
上記作製方法で得られた正極活物質を用いた二次電池は、充電電圧を4.5V以上、好ま
しくは4.6V以上としても電池の劣化が抑えられる。
【0036】
上記作製方法で得られた正極活物質は、リチウムおよびコバルトを有する酸化物である。
また、本発明の一態様の正極活物質は例えば、空間群R-3mで表される。
【0037】
また、本発明の一態様の正極活物質は、特に充電深度が深い場合において、後述する擬
スピネル構造を有することが好ましい。
【0038】
またフッ素等のハロゲンは、正極活物質の表層部の濃度が、粒子全体の平均よりも高い
ことが好ましい。電解液に接する領域である表層部にハロゲンが存在することで、フッ酸
に対する耐食性を効果的に向上させることができる。
【0039】
このように正極活物質の表層部は内部よりも、フッ素の濃度が高い、内部と異なる組成
であることが好ましい。またその組成として常温で安定な結晶構造をとることが好ましい
。そのため、表層部は内部と異なる結晶構造を有していてもよい。例えば、正極活物質の
表層部の少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。また表層部と内部が
異なる結晶構造を有する場合、表層部と内部の結晶の配向が概略一致していることが好ま
しい。
【0040】
正極活物質の表層部は少なくとも元素Mを有し、放電状態においては元素Aも有し、元
素Aの挿入脱離の経路を有している必要がある。なお、元素Aは、キャリアイオンとなる
金属である。元素Aとして例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、お
よびカルシウム、ベリリウム、マグネシウム等の第2族の元素を用いることができる。
【0041】
元素Mは例えば、遷移金属である。遷移金属としては例えば、コバルト、マンガン、ニッ
ケルの少なくとも一を用いることができる。本発明の一態様の正極材料は例えば元素Mと
してコバルト、ニッケル、マンガンのうち一以上を有し、特にコバルトを有することが好
ましい。また、元素Mの位置に、アルミニウムなど、価数変化がなく、かつ元素Mと同じ
価数をとり得る元素、より具体的には例えば三価の典型元素を有してもよい。
【0042】
または、本発明の一態様は上記に記載の正極活物質のいずれかを有する正極活物質層が
集電体上に担持された正極と、負極と、を有する二次電池である。
【0043】
また、本明細書等において結晶面および方向はミラー指数で示す。結晶面および方向の
表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数
字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合があ
る。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は
< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれ
ぞれ表現する。
【0044】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(例えばA,B,C)からなる固体におい
て、ある元素(例えばB)が空間的に不均一に分布する現象をいう。
【0045】
本明細書等において、活物質等の粒子の表層部とは、表面から10nm程度までの領域
をいう。ひびやクラックにより生じた面も表面といってよい。また表層部より深い領域を
、内部という。
【0046】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶
構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属と
リチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能であ
る結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、
層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合
がある。
【0047】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列し
ている構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0048】
また本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する擬スピネル型
の結晶構造とは、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト
、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た
対称性を有する結晶構造をいう。なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元
素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対
称性を有する。
【0049】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の
結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結
晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06Ni
O2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状
岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0050】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造
)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これ
らが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在
する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩
型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純
な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミ
ラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書
では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより
構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合
がある。
【0051】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STE
M(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子
顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断すること
ができる。X線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることが
できる。TEM像等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観
察できる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶
間で、明線と暗線の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である
様子が観察できる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観
察できない場合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができ
る。
【0052】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可
能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えばLiCoO2の理論容量は27
4mAh/g、LiNiO2の理論容量は274mAh/g、LiMn2O4の理論容量
は148mAh/gである。
【0053】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深
度を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1
ということとする。
【0054】
また本明細書等において、充電とは、電池内において正極から負極にリチウムイオンを
移動させ、外部回路において負極から正極に電子を移動させることをいう。正極活物質に
ついては、リチウムイオンを離脱させることを充電という。また充電深度が0.7以上0
.9以下の正極活物質を、高電圧で充電された正極活物質と呼ぶ場合がある。
【0055】
同様に、放電とは、電池内において負極から正極にリチウムイオンを移動させ、外部回
路において正極から負極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウ
ムイオンを挿入することを放電という。また充電深度が0.06以下の正極活物質、また
は高電圧で充電された状態から充電容量の90%以上の容量を放電した正極活物質を、十
分に放電された正極活物質ということとする。
【0056】
また本明細書等において、非平衡な相変化とは、物理量の非線形変化を起こす現象をい
うこととする。例えば容量(Q)を電圧(V)で微分(dQ/dV)することで得られる
dQ/dV曲線におけるピークの前後では、非平衡な相変化が起き、結晶構造が大きく変
わっていると考えられる。
【発明の効果】
【0057】
本発明の一態様により、高容量で充放電サイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電池
用正極活物質、およびその作製方法を提供することができる。また、生産性のよい正極活
物質の作製方法を提供することができる。また、リチウムイオン二次電池に用いることで
、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。
また、高容量の二次電池を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を
提供することができる。また、高電圧で充電した状態を長時間保持した場合でもコバルト
等の遷移金属の溶出が抑制された正極活物質を提供することができる。また、安全性又は
信頼性の高い二次電池を提供することができる。また、新規な物質、活物質粒子、蓄電装
置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図2】本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図3】本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図4】正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図5】正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図6】(A)及び(B)は、導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図である。
【
図7】(A)及び(B)は、本発明の一態様の二次電池の例を説明する断面図である。
【
図8】(A)及び(B)は、本発明の一態様の二次電池の例を説明する断面図である。
【
図9】(A)及び(B)は、本発明の一態様の二次電池の作製例を説明する図であり、(C)は断面拡大図である。
【
図10】(A)は、本発明の一態様の二次電池の例を説明する斜視図であり、(B)は、断面図である。
【
図11】(A)及び(B)は、コイン型二次電池を説明する図であり、(C)は充電時の電池の断面を示す図である。
【
図12】(A)、(B)及び(C)は、円筒型二次電池を説明する斜視図であり、(D)は上面図である。
【
図13】(A)及び(B)は、二次電池の例を説明する図である。
【
図14】(A1)、(A2)、(B1)及び(B2)は、二次電池の例を説明する図である。
【
図15】(A)及び(B)は、二次電池の例を説明する図である。
【
図17】(A)、(B)及び(C)は、ラミネート型の二次電池を説明する斜視図である。
【
図18】(A)は、ラミネート型の二次電池を説明する上面図であり、(B)は、断面図である。
【
図21】(A)、(B)及び(C)は、二次電池の作製方法を説明するための図である。
【
図22】(A)は、曲げることのできる二次電池を説明する上面図であり、(B1)、(B2)、(C)及び(D)は、断面図である。
【
図23】(A)及び(B)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
【
図24】(A)及び(B)は、本発明の一態様の二次電池およびその作製方法の例を説明する図である。
【
図25】(A)、(B)、(D)、(F)、(G)及び(H)は、電子機器の一例を説明する斜視図であり、(C)及び(E)は二次電池の一例を示す図である。
【
図26】(A)及び(B)は、電子機器の一例を説明する図であり、(C)はブロック図である。
【
図28】(A)、(B)及び(C)は、車両の一例を説明する図である。
【
図32】(A)及び(B)は、二次電池のサイクル特性を示す図である。
【
図33】本発明の一態様の正極活物質のSEM写真を示す図である。
【
図34】(A)及び(B)は、二次電池のサイクル特性を示す図である。
【
図35】(A)及び(B)は、二次電池のサイクル特性を示す図である。
【
図36】二次電池のサイクル特性を示す図である(比較例)。
【
図37】本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図38】実施例4の二次電池のサイクル特性を示す図である。
【
図39】実施例4のサンプルのdQ/dVvsVのグラフ。
【
図40】実施例5のサンプルのXRDパターン(低角度側)。
【
図41】実施例5のサンプルのXRDパターン(高角度側)。
【
図42】実施例5のサンプルのXRDパターン(低角度側及び高角度側)。
【
図43】比較例のサンプルのXRDパターン(低角度側及び高角度側)。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈さ
れるものではない。
【0060】
(実施の形態1)
図1を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例について説明する。
【0061】
<ステップS11>
まず混合物902の材料として、フッ素源や塩素源等のハロゲン源およびマグネシウム
源を用意する。また、リチウム源も用意することが好ましい。
【0062】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等を用いることができ
る。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で
溶融しやすいため好ましい。塩素源としては、例えば塩化リチウム、塩化マグネシウム等
を用いることができる。マグネシウム源としては、例えばフッ化マグネシウム、酸化マグ
ネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を用いることができる。リチウム源
としては、例えばフッ化リチウム、炭酸リチウムを用いることができる。つまり、フッ化
リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができる。またフッ化マグネ
シウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。
【0063】
本実施の形態では、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リチウムLiFを用意し、
フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF
2を用意することとする
(
図1のステップS11)。
【0064】
フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2は、LiF:MgF2=65:35
(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる(非特許文献4)。一方、
フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念が
ある。そのため、フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2のモル比は、Li
F:MgF2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF2=x
:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF2=x:1(x=0.33
近傍)がさらに好ましい。
【0065】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う場合は、溶媒を用意する。溶媒としてはア
セトン等のケトン、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオ
キサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができ
る。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本
実施の形態では、アセトンを用いることとする(
図1のステップS11参照)。
【0066】
<ステップS12>
次に、上記の混合物902の材料を混合および粉砕する(
図1のステップS12)。混
合は乾式または湿式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため
好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミル
を用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この
混合および粉砕工程を十分に行い、混合物902を微粉化することが好ましい。
【0067】
混合手段は、ブレンダー、ミキサー、ボールミルによる混合が好適である。
【0068】
<ステップS13、ステップS14>
上記で混合、粉砕した材料を回収し(
図1のステップS13)、混合物902を得る(
図1のステップS14)。
【0069】
混合物902は、例えばD50が600nm以上20μm以下であることが好ましく、
1μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように微粉化された混合物90
2ならば、後の工程でリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と混合したとき
に、複合酸化物の粒子の表面に混合物902を均一に付着させやすい。複合酸化物の粒子
の表面に混合物902が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物粒子の表層部にもれ
なくハロゲンおよびマグネシウムを分布させやすいため好ましい。表層部にハロゲンおよ
びマグネシウムが含まれない領域があると、充電状態において前述の擬スピネル型の結晶
構造になりにくいおそれがある。
【0070】
<ステップS15、ステップS16、ステップS17>
また、ステップS31で混合するために微粉化した水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を
用意する。微粉化した水酸化ニッケルは、予め水酸化ニッケルとアセトンを混合するステ
ップS15と回収するステップS16を行っておく。ステップS16によって、微粉化し
た水酸化ニッケルが得られる(ステップS17)。
【0071】
<ステップS18、ステップS19、ステップS20>
また、ステップS31で混合するために微粉化した水酸化アルミニウム(Al(OH)3
)を用意する。微粉化した水酸化アルミニウムは、予め水酸化アルミニウムとアセトンを
混合するステップS18と回収するステップS19を行っておく。ステップS19によっ
て、微粉化した水酸化アルミニウムが得られる(ステップS20)。
【0072】
<ステップS25>
また、ステップS31で混合するためにリチウム源を用意する。ステップS25としてあ
らかじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を用いる。
【0073】
あらかじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を用いる場合
、不純物の少ないものを用いることが好ましい。本明細書等では、リチウム、遷移金属お
よび酸素を有する複合酸化物、および正極活物質について主成分をリチウム、コバルト、
ニッケル、マンガン、アルミニウムおよび酸素とし、上記主成分以外の元素を不純物とす
る。例えばグロー放電質量分析法で分析したとき、不純物濃度があわせて10,000p
pm wt以下であることが好ましく、5000ppm wt以下がより好ましい。特に
、チタン等の遷移金属およびヒ素の不純物濃度があわせて3000ppm wt以下であ
ることが好ましく、1500ppm wt以下であることがより好ましい。
【0074】
例えば、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムとして、日本化学工業株式会社製の
コバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-10N)を用いることができる。これ
は平均粒子径(D50)が約12μmであり、グロー放電質量分析法(GD-MS)によ
る不純物分析において、マグネシウム濃度およびフッ素濃度が50ppm wt以下、カ
ルシウム濃度、アルミニウム濃度およびシリコン濃度が100ppm wt以下、ニッケ
ル濃度が150ppm wt以下、硫黄濃度が500ppm wt以下、ヒ素濃度が11
00ppm wt以下、その他のリチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度が150
ppm wt以下である、コバルト酸リチウムである。
【0075】
ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物は欠陥およびひず
みの少ない層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。そのため、不純物の少ない複
合酸化物であることが好ましい。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物に不
純物が多く含まれると、欠陥またはひずみの多い結晶構造となる可能性が高い。
【0076】
<ステップS31>
次に、混合物902と、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と、微粉化
した水酸化アルミニウムと、微粉化した水酸化ニッケルを混合する(
図1のステップS3
1)。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中の遷移金属の原子数TMと、
混合物902が有するマグネシウムの原子数MgMix1との比は、TM:MgMix1
=1:y(0.005≦y≦0.05)であることが好ましく、TM:MgMix1=1
:y(0.007≦y≦0.04)であることがより好ましく、TM:MgMix1=1
:0.02程度がさらに好ましい。
【0077】
ステップS31の混合は、複合酸化物の粒子を破壊しないためにステップS12の混合
よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数
が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏
やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることがで
きる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いること
が好ましい。
【0078】
上記で混合した材料を回収し(
図1のステップS32)、混合物903を得る(
図1の
ステップS33)。
【0079】
次に、混合物903を加熱する。本工程は、アニールまたは焼成という場合がある。
【0080】
アニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。適切な温度および時間は、
ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物の粒子の大きさおよ
び組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または
短い時間がより好ましい場合がある。
【0081】
例えばステップS25の粒子の平均粒子径(D50)が12μm程度の場合、アニール
温度は例えば700℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば3時間以上が
好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0082】
アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0083】
混合物903をアニールすると、まず混合物903のうち融点の低い材料(例えばフッ
化リチウム、融点848℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる
。次に、この溶融した材料の存在により他の材料の融点降下が起こり、他の材料が溶融す
ると推測される。例えば、フッ化マグネシウム(融点1263℃)が溶融し、複合酸化物
粒子の表層部に分布すると考えられる。
【0084】
この混合物903が有する元素の拡散は、複合酸化物粒子の内部よりも、表層部および
粒界近傍の方が速い。そのためマグネシウムおよびハロゲンは、表層部および粒界近傍に
おいて、内部よりも高濃度となる。後述するが表層部および粒界近傍のマグネシウム濃度
が高いと、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0085】
上記でアニールした材料を回収する(
図1のステップS35)。さらに、粒子をふるい
にかけることが好ましい。上記の工程で、本発明の一態様の正極活物質100A-1を作
製することができる(
図1のステップS36)。
【0086】
(実施の形態2)
図2を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例について説明する。
【0087】
本実施の形態は、実施の形態1と一部異なる以外は同一であるため、同一の部分は簡略化
のため、省略することとする。
【0088】
<ステップS21>
図2のステップS21に示すように、まず混合物901の材料として、フッ素源や塩素
源等のハロゲン源、マグネシウム源、ニッケル源、アルミニウム源を用意する。また、リ
チウム源も用意することが好ましい。
【0089】
本実施の形態では、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リチウムLiFを用意し、
フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF2を用意し、ニッケル源
として水酸化ニッケルを用意し、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用意するこ
ととする(ステップS21)。
【0090】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う溶媒を用意する。溶媒としてはアセトンを
用いる。
【0091】
<ステップS22>
次に、上記材料を混合および粉砕する(
図2のステップS22)。混合は乾式または湿
式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため好ましい。混合に
は例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、
例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この混合および粉砕工
程を十分に行い、上記材料を微粉化することが好ましい。
【0092】
<ステップS23、ステップS24>
上記で混合、粉砕した材料を回収し(ステップS23)、混合物901を得る(ステッ
プS24)。
【0093】
また、ステップS25としてあらかじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有
する複合酸化物を用いる。
【0094】
<ステップS31>
次に、混合物901と、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と、を混合
する(ステップS31)。
【0095】
ステップS31以降の作製手順は実施の形態1と同一であるため、詳細な説明は省略する
こととする。ステップS31以降の作製手順に従えば、ステップS36で正極活物質10
0A-1が得られる。
【0096】
本実施の形態は、実施の形態1におけるステップS15からステップS20を省略するこ
とができる。
【0097】
本実施の形態は実施の形態1と自由に組み合わせることができる。
【0098】
(実施の形態3)
図3を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例について説明する。
【0099】
図3のステップS11に示すように、まず混合物902の材料として、フッ素源であるフ
ッ化リチウム、およびマグネシウム源であるフッ化マグネシウムを用意する。フッ化リチ
ウムは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい
。フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができる。またフッ
化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。
【0100】
本実施の形態では、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リチウムLiFを用意し、
フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF
2を用意することとする
(
図3のステップS11)。フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF
2のモル
比は、LiF:MgF
2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:M
gF
2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF
2=x:1(x
=0.33近傍)がさらに好ましい。
【0101】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う場合は、溶媒を用意する。溶媒としてはア
セトン等のケトン、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオ
キサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができ
る。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本
実施の形態では、アセトンを用いることとする(
図3のステップS11参照)。
【0102】
次に、上記の混合物902の材料を混合および粉砕する(
図3のステップS12)。混
合は乾式または湿式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため
好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミル
を用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この
混合および粉砕工程を十分に行い、混合物902を微粉化することが好ましい。
【0103】
上記で混合、粉砕した材料を回収し(
図3のステップS13)、混合物902を得る(
図3のステップS14)。
【0104】
混合物902は、例えばD50が600nm以上20μm以下であることが好ましく、
1μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように微粉化された混合物90
2ならば、後の工程でリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と混合したとき
に、複合酸化物の粒子の表面に混合物902を均一に付着させやすい。複合酸化物の粒子
の表面に混合物902が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物粒子の表層部にもれ
なくハロゲンおよびマグネシウムを分布させやすいため好ましい。表層部にハロゲンおよ
びマグネシウムが含まれない領域があると、充電状態において前述の擬スピネル型の結晶
構造になりにくいおそれがある。
【0105】
次に、ステップS25に示すようにリチウム源を用意する。ステップS25としてあら
かじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を用いる。
【0106】
例えば、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムとして、日本化学工業株式会社製の
コバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-10N)を用いることができる。これ
は平均粒子径(D50)が約12μmであり、グロー放電質量分析法(GD-MS)によ
る不純物分析において、マグネシウム濃度およびフッ素濃度が50ppm wt以下、カ
ルシウム濃度、アルミニウム濃度およびシリコン濃度が100ppm wt以下、ニッケ
ル濃度が150ppm wt以下、硫黄濃度が500ppm wt以下、ヒ素濃度が11
00ppm wt以下、その他のリチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度が150
ppm wt以下である、コバルト酸リチウムである。
【0107】
ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物は欠陥およびひず
みの少ない層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。そのため、不純物の少ない複
合酸化物であることが好ましい。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物に不
純物が多く含まれると、欠陥またはひずみの多い結晶構造となる可能性が高い。
【0108】
次に、混合物902と、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と、を混合
する(
図3のステップS31)。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中の
遷移金属の原子数TMと、混合物902が有するマグネシウムの原子数MgMix1との
比は、TM:MgMix1=1:y(0.005≦y≦0.05)であることが好ましく
、TM:MgMix1=1:y(0.007≦y≦0.04)であることがより好ましく
、TM:MgMix1=1:0.02程度がさらに好ましい。
【0109】
ステップS31の混合は、複合酸化物の粒子を破壊しないためにステップS12の混合
よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数
が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏
やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることがで
きる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いること
が好ましい。
【0110】
上記で混合した材料を回収し(
図3のステップS32)、混合物903を得る(
図3の
ステップS33)。
【0111】
次に、混合物903を加熱する(
図3のステップS34。
【0112】
アニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。適切な温度および時間は、
ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物の粒子の大きさおよ
び組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または
短い時間がより好ましい場合がある。
【0113】
例えばステップS25の粒子の平均粒子径(D50)が12μm程度の場合、アニール
温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば3時間以上が
好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0114】
一方、ステップS25の粒子の平均粒子径(D50)が5μm程度の場合、アニール温
度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば1時間以上10
時間以下が好ましく、2時間程度がより好ましい。
【0115】
アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0116】
混合物903をアニールすると、まず混合物903のうち融点の低い材料(例えばフッ
化リチウム、融点848℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる
。次に、この溶融した材料の存在により他の材料の融点降下が起こり、他の材料が溶融す
ると推測される。例えば、フッ化マグネシウム(融点1263℃)が溶融し、複合酸化物
粒子の表層部に分布すると考えられる。
【0117】
この混合物903が有する元素の拡散は、複合酸化物粒子の内部よりも、表層部および
粒界近傍の方が速い。そのためマグネシウムおよびハロゲンは、表層部および粒界近傍に
おいて、内部よりも高濃度となる。後述するが表層部および粒界近傍のマグネシウム濃度
が高いと、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0118】
上記でアニールした材料を回収し(
図3のステップS35)、混合物904を得る(図
3のステップS36)。
【0119】
次いで、ステップS50に示すように混合物904と微粉化した水酸化ニッケルを混合す
る。そして、混合した材料を回収する(ステップS51)。微粉化した水酸化ニッケルは
、予め水酸化ニッケルとアセトンを混合するステップS15と回収するステップS16を
行っておく。ステップS16によって、微粉化した水酸化ニッケルが得られる(ステップ
S17)。
【0120】
ステップS50で混合した材料をステップS51で回収し、混合物905を得る(
図3の
ステップS52)。
【0121】
次いで、ステップS53乃至ステップS55を経て、本発明の一態様の正極活物質におい
て、金属Zを添加する。金属Zの添加は例えば、ゾルゲル法をはじめとする液相法、固相
法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレーザデポ
ジション)法等の方法を適用することができる。
【0122】
図3に示すように、まずステップS52において、金属源を準備する。また、ゾルゲル
法を適用する場合には、ゾルゲル法に用いる溶媒を準備する。金属源としては、金属アル
コキシド、金属水酸化物、金属酸化物、等を用いることができる。金属Zがアルミニウム
の場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有
するアルミニウムが0.001倍以上0.02倍以下となればよい。金属Zがニッケルの
場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有す
るニッケルが0.001倍以上0.02倍以下となればよい。金属Zがアルミニウムおよ
びニッケルの場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、
金属源が有するアルミニウムが0.001倍以上0.02倍以下、かつ、金属源が有する
ニッケルが0.001倍以上0.02倍以下となればよい。
【0123】
ここでは一例として、ゾルゲル法を適用し、金属源としてアルミニウムイソプロポキシ
ドを、溶媒としてイソプロパノールを用いる例を示す(
図3のステップS52)。
【0124】
次に、アルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解させ、さらにコバルト酸リチウム
粒子を混合する(
図3のステップS53)。
【0125】
コバルト酸リチウムの粒径によって、金属アルコキシドの必要量は異なる。たとえばア
ルミニウムイソプロポキシドを用いる場合でコバルト酸リチウムの粒径(D50)が20
μm程度ならば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、アルミニウム
イソプロポキシドが有するアルミニウムが0.001倍以上0.02倍以下となるよう加
えることが好ましい。
【0126】
次に、金属アルコキシドのアルコール溶液とコバルト酸リチウムの粒子の混合液を、水
蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことがで
きる。撹拌時間は、雰囲気中の水と金属アルコキシドが加水分解および重縮合反応を起こ
すのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relati
ve Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。また、湿度制御、お
よび温度制御がされていない雰囲気下、例えばドラフトチャンバー内の大気雰囲気下にお
いて攪拌を行ってもよい。そのような場合には攪拌時間をより長くすることが好ましく、
例えば室温において12時間以上、とすればよい。
【0127】
雰囲気中の水蒸気と金属アルコキシドを反応させることで、液体の水を加える場合より
もゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。また常温で金属アルコキシドと水を反
応させることで、たとえば溶媒のアルコールの沸点を超える温度で加熱を行う場合よりも
ゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。ゆっくりとゾルゲル反応を進めることで
、厚さが均一で良質な被覆層を形成することができる。
【0128】
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する(
図3のステップS54)。回収方
法としては、ろ過、遠心分離、蒸発乾固等を適用することができる。沈殿物は金属アルコ
キシドを溶解させた溶媒と同じアルコールで洗浄することができる。なお、蒸発乾固を適
用する場合には、本ステップにおいては溶媒と沈殿物の分離を行なわなくてもよく、例え
ば次のステップ(ステップS54)の乾燥工程において、沈殿物を回収すればよい。
【0129】
次に、回収した残渣を乾燥し、混合物904を得る(
図3のステップS54)。乾燥工
程は例えば、80℃で1時間以上4時間以下、真空または通風乾燥することができる。
【0130】
次に、得られた混合物を加熱する(
図3のステップS55)。
【0131】
加熱時間は、加熱温度の範囲内での保持時間を1時間以上80時間以下とすることが好
ましい。
【0132】
加熱温度としては1000℃未満、好ましくは、700℃以上950℃以下が好ましく
、850℃程度がさらに好ましい。
【0133】
また、加熱は酸素を含む雰囲気で行うことが好ましい。
【0134】
本実施の形態では、加熱温度を850℃として2時間保持することとし、昇温は200
℃/h、酸素の流量は10L/minとする。
【0135】
ステップS55における加熱温度は、ステップS34における加熱温度よりも低いことが
好ましい。
【0136】
<ステップS56、ステップS57>
次に、冷却された粒子を回収する(
図3のステップS56)。さらに、粒子をふるいに
かけることが好ましい。上記の工程で、本発明の一態様の正極活物質100A-2を作製
することができる(
図3のステップS57)。
【0137】
上記作製方法で得られた正極活物質100A-2について説明する。また、正極活物質1
00A-2を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microsc
ope:SEM)を用いて撮影した写真を
図33に示す。
【0138】
[正極活物質の構造]
コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの層状岩塩型の結晶構造を有する材料は、放
電容量が高く、二次電池の正極活物質として優れることが知られている。層状岩塩型の結
晶構造を有する材料として例えば、LiMO2で表される複合酸化物が挙げられる。元素
Mの一例としてCoまたはNiより選ばれる一以上が挙げられる。また、元素Mの一例と
してCoおよびNiより選ばれる一以上に加えて、AlおよびMnより選ばれる一以上が
挙げられる。
【0139】
遷移金属化合物におけるヤーン・テラー効果は、遷移金属のd軌道の電子の数により、
その効果の強さが異なることが知られている。
【0140】
ニッケルを有する化合物においては、ヤーン・テラー効果により歪みが生じやすい場合
がある。よって、LiNiO2において高電圧における充放電を行った場合、歪みに起因
する結晶構造の崩れが生じる懸念がある。LiCoO2においてはヤーン・テラー効果の
影響が小さいことが示唆され、高電圧における充放電の耐性がより優れる場合があり好ま
しい。
【0141】
図4および
図5を用いて、正極活物質について説明する。
図4および
図5では、正極活
物質が有する遷移金属としてコバルトを用いる場合について述べる。
【0142】
<正極活物質>
本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充放電の繰り返しにおいて、CoO2層のず
れを小さくすることができる。さらに、体積の変化を小さくすることができる。よって、
本発明の一態様の正極活物質は、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本
発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態において安定な結晶構造を取り得る。よ
って、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショ
ートが生じづらい場合がある。そのような場合には安全性がより向上するため、好ましい
。
【0143】
本発明の一態様の正極活物質では、十分に放電された状態と、高電圧で充電された状態
における、結晶構造の変化および同数の遷移金属原子あたりで比較した場合の体積の差が
小さい。
【0144】
正極活物質100A-1の充放電前後の結晶構造を、
図5に示す。正極活物質100A
-1はリチウムと、コバルトと、酸素と、を有する複合酸化物である。上記に加えてマグ
ネシウムを有することが好ましい。またフッ素、塩素等のハロゲンを有することが好まし
い。また、アルミニウム及びニッケルを有することが好ましい。
【0145】
図5の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、
図4と同じR-3m(O3)である。一
方、正極活物質100A-1、混合物904は、十分に充電された充電深度の場合、H1
-3型結晶構造とは異なる構造の結晶を有する。本構造は、空間群R-3mであり、スピ
ネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を
占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。よって、本構造を本明細書等
では擬スピネル型の結晶構造と呼ぶ。なお、
図5に示されている擬スピネル型の結晶構造
の図では、コバルト原子の対称性と酸素原子の対称性について説明するために、リチウム
の表示を省略しているが、実際はCoO
2層の間にコバルトに対して例えば20原子%以
下のリチウムが存在する。また、O3型結晶構造および擬スピネル型の結晶構造のいずれ
の場合も、CoO
2層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在するこ
とが好ましい。また、酸素サイトに、ランダムかつ希薄に、フッ素等のハロゲンが存在す
ることが好ましい。
【0146】
なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場
合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0147】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の
結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結
晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06Ni
O2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状
岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0148】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造
)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これ
らが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在
する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩
型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純
な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミ
ラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書
では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより
構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合
がある。
【0149】
正極活物質100A-1、混合物904では、高電圧で充電し多くのリチウムが離脱し
たときの、結晶構造の変化が、比較例の正極活物質100Cよりも抑制されている。例え
ば、
図5中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO
2層のずれがほとんどない
。
【0150】
より詳細に説明すれば、正極活物質100A-1、混合物904は、充電電圧が高い場
合にも構造の安定性が高い。例えば、比較例の正極活物質100CにおいてはH1-3型
結晶構造となる充電電圧、例えばリチウム金属の電位を基準として4.6V程度の電圧に
おいてもR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、さらに充電
電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.65V乃至4.7V程度
の電圧においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。さらに充電電圧を
高めるとようやく、H1-3型結晶が観測される場合がある。なお、二次電池において例
えば負極活物質として黒鉛を用いる場合には、例えば二次電池の電圧が4.3V以上4.
5V以下においてもR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、
さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.35V以上4
.55V以下においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。
【0151】
そのため、正極活物質100A-1、混合物904においては、高電圧で充放電を繰り
返しても結晶構造が崩れにくい。
【0152】
なお擬スピネル型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co
(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことが
できる。
【0153】
CoO2層間、つまりリチウムサイトにランダムかつ希薄に存在するマグネシウムは、
CoO2層のずれを抑制する効果がある。そのためCoO2層間にマグネシウムが存在す
ると、擬スピネル型の結晶構造になりやすい。そのためマグネシウムは正極活物質100
A-1、混合物904の粒子全体に分布していることが好ましい。またマグネシウムを粒
子全体に分布させるために、正極活物質100A-1、混合物904の作製工程において
、加熱処理を行うことが好ましい。
【0154】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じてマグネシウ
ムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。マグネシウムがコバルトサイトに存在すると
、R-3mの構造を保つ効果がなくなってしまう。さらに、加熱処理の温度が高すぎると
、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念さ
れる。
【0155】
そこで、マグネシウムを粒子全体に分布させるための加熱処理よりも前に、コバルト酸
リチウムにフッ素化合物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。ハロゲン化合
物を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチ
オンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易と
なる。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性
が向上することが期待できる。
【0156】
なお、マグネシウム濃度を所望の値以上に高くすると、結晶構造の安定化への効果が小
さくなってしまう場合がある。マグネシウムが、リチウムサイトに加えて、コバルトサイ
トにも入るようになるためと考えられる。本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシ
ウムの原子数は、コバルトの原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.0
1倍より大きく0.04倍未満がより好ましく、0.02倍程度がさらに好ましい。ここ
で示すマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元
素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に
基づいてもよい。
【0157】
コバルト酸リチウムにコバルト以外の金属(以下、金属Z)として、例えばニッケル、
アルミニウム、マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムから選ばれる一以上の金属を
添加してもよく、特にニッケルおよびアルミニウムの一以上を添加することが好ましい。
マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムは安定に4価を取りやすい場合があり、構造
安定性への寄与が高い場合がある。金属Zを添加することにより本発明の一態様の正極活
物質では例えば、高電圧での充電状態において結晶構造がより安定になる場合がある。こ
こで、本発明の一態様の正極活物質100A-1において、金属Zは、コバルト酸リチウ
ムの結晶性を大きく変えることのない濃度で添加されることが好ましい。例えば、前述の
ヤーン・テラー効果等を発現しない程度の量であることが好ましい。金属Zは、正極活物
質の製造工程の途中でコバルト酸リチウムに添加する金属を指している。
【0158】
本発明の一態様の正極活物質100A-1のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正
極活物質の容量が減少することがある。その要因として例えば、リチウムサイトにマグネ
シウムが入ることにより、充放電に寄与するリチウム量が減少する可能性が考えられる。
また、過剰なマグネシウムが、充放電に寄与しないマグネシウム化合物を生成する場合も
ある。本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてニッケルを有
することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。
また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてアルミニウムを
有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある
。また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えてニッケルおよびアルミニウム
を有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合があ
る。
【0159】
以下に、本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウム、金属Z、等の元素の濃度
を原子数を用いて表す。
【0160】
本発明の一態様の正極活物質100A-1が有するニッケルの原子数は、コバルトの原
子数の7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%
以下がより好ましい。ここで示すニッケルの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極
活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程にお
ける原料の配合の値に基づいてもよい。
【0161】
本発明の一態様の正極活物質100A-1が有するアルミニウムの原子数は、コバルト
の原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。
ここで示すアルミニウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体
の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の
値に基づいてもよい。
【0162】
電解液がLiPF6を有する場合、加水分解により、フッ化水素が発生する場合がある
。また、正極の構成要素として用いられるPVDFとアルカリとの反応によりフッ化水素
が発生する場合もある。電解液中のフッ化水素濃度が低下することにより、集電体の腐食
や被膜はがれを抑制できる場合がある。また、PVDFのゲル化や不溶化による接着性の
低下を抑制できる場合がある。
【0163】
<粒径>
正極活物質100A-1、混合物904の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しく
なる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方
、小さすぎると、集電体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過
剰に進む等の問題点も生じる。そのため、平均粒子径(D50:メディアン径ともいう。
)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより
好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。
【0164】
<分析方法>
ある正極活物質が、高電圧で充電されたとき擬スピネル型の結晶構造を示す本発明の一
態様の正極活物質100A-1、混合物904であるか否かは、高電圧で充電された正極
を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NM
R)等を用いて解析することで判断できる。特にXRDは、正極活物質が有するコバルト
等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較
できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た
正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。
【0165】
本発明の一態様の正極活物質100A-1、混合物904は、これまで述べたように高
電圧で充電した状態と放電状態とで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で
充電した状態で、放電状態との変化が大きな結晶構造が50wt%以上を占める材料は、
高電圧の充放電に耐えられないため好ましくない。そして不純物元素を添加するだけでは
目的の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよ
びフッ素を有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、高電圧で充電した状
態で擬スピネル型の結晶構造が60wt%以上になる場合と、H1-3型結晶構造が50
wt%以上を占める場合と、がある。また、所定の電圧では、擬スピネル型の結晶構造が
ほぼ100wt%になり、さらに当該所定の電圧をあげるとH1-3型結晶構造が生じる
場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100A-1、混合物904である
か否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析が必要である。
【0166】
ただし、高電圧で充電した状態または放電状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構
造の変化を起こす場合がある。例えば擬スピネル型の結晶構造からH1-3型結晶構造に
変化する場合がある。そのため、サンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハ
ンドリングすることが好ましい。
【0167】
<比較例の正極活物質100C>
図5に示す比較例の正極活物質100Cは、後述する作製方法にてハロゲンおよびマグ
ネシウムが添加されないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
図5に示すコバル
ト酸リチウムは、非特許文献1および非特許文献2等で述べられているように、充電深度
によって結晶構造が変化する。
【0168】
図5に示すように、充電深度0(放電状態)であるコバルト酸リチウムは、空間群R-
3mの結晶構造を有する領域を有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。その
ためこの結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルト
に酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする
。
【0169】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCo
O2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0170】
また充電深度が0.88程度のときのコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構
造を有する。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
2の構造と、R-3m(O
3)のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの
結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造
は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図5
をはじめ本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユ
ニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0171】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルに
おけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O
1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.
00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。このよう
にH1-3型結晶構造は、1つのコバルトおよび2つの酸素を用いたユニットセルにより
表される。一方、後述するように、本発明の一態様の擬スピネル型の結晶構造は好ましく
は、1つのコバルトおよび1つの酸素を用いたユニットセルにより表される。これは、擬
スピネルの構造の場合とH1-3型構造の場合では、コバルトと酸素との対称性が異なり
、擬スピネルの構造の方が、H1-3型構造に比べてO3の構造からの変化が小さいこと
を示す。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すのがより好ま
しいか、の選択は例えば、XRDのリートベルト解析において、GOF(goodnes
s of fit)の値がより小さくなるように選択すればよい。
【0172】
充電電圧がリチウム金属の酸化還元電位を基準に4.6V以上になるような高電圧の充
電、あるいは充電深度が0.8以上になるような深い深度の充電と、放電とを繰り返すと
、コバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、
の間で結晶構造の変化(つまり、非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0173】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図5に点線お
よび矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層がR-3m(O3)から大
きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与
えうる。
【0174】
さらに体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶
構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.0%以上である。
【0175】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO2層が連続
した構造は不安定である可能性が高い。
【0176】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。
結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで
、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなる
ためだと考えられる。
【0177】
(実施の形態4)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100A-1、混合物904
を有する二次電池に用いることのできる材料の例について説明する。
【0178】
<二次電池の構成例1>
以下に、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明す
る。
【0179】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0180】
<正極活物質層>
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を有する。また、正極活物質層は、正極活物質
に加えて、活物質表面の被膜、導電助剤またはバインダなどの他の物質を含んでもよい。
【0181】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100A-1、100A-
2を用いることができる。先の実施の形態で説明した正極活物質100A-1、100A
-2を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0182】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いること
ができる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する
導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以
下がより好ましい。
【0183】
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電
助剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に
導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができ
る。
【0184】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素
繊維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊
維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、
カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナ
ノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、
例えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒
子、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、
ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等
を用いることができる。
【0185】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0186】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および
高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェ
ン化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能と
する。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で
導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いる
ことにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。ス
プレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン
化合物を被膜として形成することが好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合があ
るため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェン、マルチグラフェン
、又はRGOを用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(
graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0187】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積
が大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多
くなりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持
量が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤とし
てグラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成す
ることができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0188】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場
合の断面構成例を説明する。
【0189】
図6(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物
質100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を
含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェン
を用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ま
しい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複
数のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0190】
活物質層200の縦断面においては、
図6(B)に示すように、活物質層200の内部
において概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。
図6(B)において
はグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は
多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活
物質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に張り付
くように形成されているため、互いに面接触している。
【0191】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合
物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成すること
ができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士
を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくする
ことができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の
比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0192】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物
質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成
に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン
化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一
に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還
元するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、
互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる
。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて
行ってもよい。
【0193】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフ
ェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤
よりも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上さ
せることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させ
ることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0194】
また、予め、スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤
であるグラフェン化合物を被膜として形成し、さらに活物質同士間をグラフェン化合物で
導電パスを形成することもできる。
【0195】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプ
レン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-
プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとし
て、フッ素ゴムを用いることができる。
【0196】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高
分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメ
チルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピル
セルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉な
どを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して
用いると、さらに好ましい。
【0197】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸
メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニ
ルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、
ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデ
ン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー
、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0198】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0199】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。
例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難し
い場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合するこ
とが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いると
よい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカ
ルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキ
シプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘
導体や、澱粉を用いることができる。
【0200】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチ
ルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり
、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラ
リーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書に
おいては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、
それらの塩も含むものとする。
【0201】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダと
して組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して
分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすい
ことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は
、例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するため
に高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0202】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜と
しての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、
電気の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に
不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することが
できる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導でき
るとさらに望ましい。
【0203】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこ
れらの合金など、導電性が高い材料を用いることができる。また正極集電体に用いる材料
は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカ
ンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用
いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成して
もよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チ
タン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン
、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチング
メタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが
5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0204】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤お
よびバインダを有していてもよい。
【0205】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0206】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが
可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、
ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち
少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が
大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質に
シリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。
例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、
V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag
3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、
InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電
反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合が
ある。
【0207】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、Si
Oxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、
0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0208】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハ
ードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよ
い。
【0209】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソ
カーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げ
られる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例
えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面
積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば
、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0210】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時
)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li
/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。
さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価で
ある、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0211】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4
Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5
)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いること
ができる。
【0212】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をも
つLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.
6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を
示し好ましい。
【0213】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため
、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わ
せることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合で
も、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質と
してリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0214】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例え
ば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウ
ムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応
が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3
等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge
3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等
のフッ化物でも起こる。
【0215】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が
有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0216】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、
リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0217】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好
ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブ
チレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロ
ラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネー
ト(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エ
チル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、
1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスル
ホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テ
トラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意
の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0218】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を
一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇し
ても、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオ
ンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四
級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン
等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等
の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系
アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキ
ルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレー
トアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフ
ェートアニオン等が挙げられる。
【0219】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、L
iAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO
4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9S
O3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2
)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリ
チウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いるこ
とができる。
【0220】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「
不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。
具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より
好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0221】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチル
ベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサ
レート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリ
ル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対し
て0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0222】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0223】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電
池の薄型化および軽量化が可能である。
【0224】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル
、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマー
のゲル等を用いることができる。
【0225】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキ
シド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれら
を含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(
HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポ
リマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0226】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、
PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることがで
きる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、
電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0227】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、
紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポ
リビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン
を用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ
状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0228】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機
材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを
混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アル
ミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例え
ばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料と
しては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いること
ができる。
【0229】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレ
ータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料を
コートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる
。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の
安全性を向上させることができる。
【0230】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコ
ートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウ
ムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい
。
【0231】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性
を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0232】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用
いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては
、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド
等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた
金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエス
テル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0233】
<二次電池の構成例2>
以下に、二次電池の構成の一例として、固体電解質層を用いた二次電池の構成について説
明する。
【0234】
図7(A)に示すように、本発明の一態様の二次電池400は、正極410、固体電解質
層420および負極430を有する。
【0235】
正極410は正極集電体413および正極活物質層414を有する。正極活物質層414
は正極活物質411および固体電解質421を有する。また正極活物質層414は、導電
助剤およびバインダを有していてもよい。
【0236】
固体電解質層420は固体電解質421を有する。固体電解質層420は、正極410と
負極430の間に位置し、正極活物質411および負極活物質431のいずれも有さない
領域である。
【0237】
負極430は負極集電体433および負極活物質層434を有する。負極活物質層434
は負極活物質431および固体電解質421を有する。また負極活物質層434は、導電
助剤およびバインダを有していてもよい。なお、負極430に金属リチウムを用いる場合
は、
図7(B)のように、固体電解質421を有さない負極430とすることができる。
負極430に金属リチウムを用いると、二次電池400のエネルギー密度を向上させるこ
とができ好ましい。
【0238】
また、
図8(A)に示すように、正極410、固体電解質層420および負極430の組
み合わせを積層した二次電池としてもよい。複数の正極410、固体電解質層420およ
び負極430を積層することで、二次電池の電圧を高くすることができる。
図8(A)は
、正極410、固体電解質層420および負極430の組み合わせを4層積層した場合の
概略図である。
【0239】
また本発明の一態様の二次電池400は、薄膜型全固体電池であってもよい。薄膜型全固
体電池は気相法(真空蒸着法、パルスレーザー堆積法、エアロゾルデポジション法、スパ
ッタ法)を用いて正極、固体電解質、負極、配線電極等を成膜して作製することができる
。たとえば
図8(B)のように、基板440上に配線電極441および配線電極442を
形成した後、配線電極441上に正極410を形成し、正極410上に固体電解質層42
0を形成し、固体電解質層420および配線電極442上に負極430を形成して二次電
池400を作製することができる。基板440としては、セラミックス基板、ガラス基板
、プラスチック基板、金属基板などを用いることができる。
【0240】
固体電解質層420が有する固体電解質421としては、例えば硫化物系固体電解質、酸
化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質等を用いることができる。
【0241】
硫化物系固体電解質には、チオシリコン系(Li10GeP2S12、Li3.25Ge
0.25P0.75S4等)、硫化物ガラス(70Li2S・30P2S5、30Li2
S・26B2S3・44LiI、63Li2S・38SiS2・1Li3PO4、57L
i2S・38SiS2・5Li4SiO4、50Li2S・50GeS2等)、硫化物結
晶化ガラス(Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等)が含まれる。硫化物系
固体電解質は、高い伝導度を有する材料がある、低い温度で合成可能、また比較的やわら
かいため充放電を経ても導電経路が保たれやすい等の利点がある。
【0242】
酸化物系固体電解質には、ペロブスカイト型結晶構造を有する材料(La2/3-xLi
3xTiO3等)、NASICON型結晶構造を有する材料(Li1+xAlxTi2-
x(PO4)3等)、ガーネット型結晶構造を有する材料(Li7La3Zr2O12等
)、LISICON型結晶構造を有する材料(Li14ZnGe4O16等)、LLZO
(Li7La3Zr2O12)、酸化物ガラス(Li3PO4-Li4SiO4、50L
i4SiO4・50Li3BO3等)、酸化物結晶化ガラス(Li1.07Al0.69
Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等)が含まれ
る。酸化物系固体電解質は、大気中で安定であるといった利点がある。
【0243】
ハロゲン化物系固体電解質には、LiAlCl4、Li3InBr6、LiF、LiCl
、LiBr、LiI等が含まれる。また、これらハロゲン化物系固体電解質を、ポーラス
酸化アルミニウムやポーラスシリカの細孔に充填したコンポジット材料も固体電解質とし
て用いることができる。
【0244】
また、異なる固体電解質を混合して用いてもよい。
【0245】
中でも、NASICON型結晶構造を有するLi1+xAlxTi2-x(PO4)3(
0<x<1)(以下、LATP)は、アルミニウムとチタンという、本発明の一態様の二
次電池400に用いる正極活物質が有してもよい元素を含むため、サイクル特性の向上に
ついて相乗効果が期待でき好ましい。また、工程の削減による生産性の向上も期待できる
。なお本明細書等において、NASICON型結晶構造とは、M2(XO4)3(M:遷
移金属、X:S、P、As、Mo、W等)で表される化合物であり、MO6八面体とXO
4四面体が頂点を共有して3次元的に配列した構造を有するものをいう。
【0246】
[外装体と二次電池の形状]
本発明の一態様の二次電池400の外装体には、様々な材料および形状のものを用いるこ
とができるが、正極、固体電解質層および負極を加圧する機能を有することが好ましい。
【0247】
例えば
図9は、全固体電池の材料を評価するセルの一例である。
【0248】
図9(A)は評価セルの断面模式図であり、評価セルは、下部部材761と、上部部材7
62と、それらを固定する固定ねじや蝶ナット764を有し、押さえ込みねじ763を回
転させることで電極用プレート753を押して評価材料を固定している。ステンレス材料
で構成された下部部材761と、上部部材762との間には絶縁体766が設けられてい
る。また上部部材762と、押さえ込みねじ763の間には密閉するためのOリング76
5が設けられている。
【0249】
評価材料は、電極用プレート751に載せられ、周りを絶縁管752で囲み、上方から電
極用プレート753で押されている状態となっている。この評価材料周辺を拡大した斜視
図が
図9(B)である。
【0250】
評価材料としては、正極750a、固体電解質層750b、負極750cの積層の例を示
しており、断面図を
図9(C)に示す。なお、
図9(A)、(B)、(C)において同じ
箇所には同じ符号を用いる。
【0251】
正極750aと電気的に接続される電極用プレート751および下部部材761は、正極
端子に相当するということができる。負極750cと電気的に接続される電極用プレート
753および上部部材762は、負極端子に相当するということができる。電極用プレー
ト751および電極用プレート753を介して評価材料に押圧をかけながら電気抵抗など
を測定することができる。
【0252】
また、本発明の一態様の二次電池の外装体には、気密性に優れたパッケージを使用するこ
とが好ましい。例えばセラミックパッケージや樹脂パッケージを用いることができる。ま
た、外装体を封止する際には、外気を遮断し、密閉した雰囲気下、例えばグローブボック
ス内で行うことが好ましい。
【0253】
図10(A)に、
図9と異なる外装体および形状を有する本発明の一態様の二次電池の斜
視図を示す。
図10(A)の二次電池は、外部電極771、772を有し、複数のパッケ
ージ部材を有する外装体で封止されている。
【0254】
図10(A)中の一点破線で切断した断面の一例を
図10(B)に示す。正極750a、
固体電解質層750bおよび負極750cを有する積層体は、平板に電極層773aが設
けられたパッケージ部材770aと、枠状のパッケージ部材770bと、平板に電極層7
73bが設けられたパッケージ部材770cと、で囲まれて封止された構造となっている
。パッケージ部材770a、770b、770cには、絶縁材料、例えば樹脂材料やセラ
ミックを用いることができる。
【0255】
外部電極771は、電極層773aを介して電気的に正極750aと電気的に接続され、
正極端子として機能する。また、外部電極772は、電極層773bを介して電気的に負
極750cと電気的に接続され、負極端子として機能する。
【0256】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0257】
(実施の形態5)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形
状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の
形態の記載を参酌することができる。
【0258】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。
図11(A)はコイン型(単層偏平
型)の二次電池の外観図であり、
図11(B)は、その断面図である。
【0259】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極
缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている
。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層30
6により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設
けられた負極活物質層309により形成される。
【0260】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活
物質層は片面のみに形成すればよい。
【0261】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウ
ム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス
鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニ
ウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極3
07とそれぞれ電気的に接続する。
【0262】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、
図11(
B)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307
、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を
介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0263】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイク
ル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0264】
ここで
図11(C)を用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用
いた二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向
きになる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソ
ード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電
位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書に
おいては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、
充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負
極は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関
連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とで
は、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソ
ード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽
極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極
(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0265】
図11(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。
二次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0266】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について
図12を参照して説明する。円筒型の二次電池60
0の外観図を
図12(A)に示す。
図12(B)は、円筒型の二次電池600の断面を模
式的に示した図である。
図12(B)に示すように、円筒型の二次電池600は、上面に
正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有し
ている。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン
)610によって絶縁されている。
【0267】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ
605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセ
ンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いてい
る。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン
等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を
用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を
電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およ
びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟ま
れている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)
が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができ
る。
【0268】
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成
することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負
極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負
極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子6
03は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接され
る。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature C
oefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。
安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601
と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が
上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して
異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系
半導体セラミックス等を用いることができる。
【0269】
また、
図12(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板61
4の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続
されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接
続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで
、大きな電力を取り出すことができる。
【0270】
図12(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613
を点線で示した。
図12(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600
を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設
けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していても
よい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池
600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのた
めモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。温度制御装置617が有する
熱媒体は絶縁性と不燃性を有することが好ましい。
【0271】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイク
ル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0272】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、
図13乃至
図16を用いて説明する。
【0273】
図13(A)及び
図13(B)は、二次電池の外観図を示す図である。二次電池913
は、回路基板900を介して、アンテナ914、及びアンテナ915に接続されている。
また、二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、
図13(B)に示す
ように、二次電池913は、端子951と、端子952と、に接続されている。
【0274】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子95
1、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお
、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端
子などとしてもよい。
【0275】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914
及びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また
、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電
体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915
は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能す
ることができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、ア
ンテナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だ
けでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0276】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これに
より、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0277】
二次電池は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916
を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能
を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0278】
【0279】
例えば、
図14(A1)及び
図14(A2)に示すように、
図13(A)及び
図13(
B)に示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよ
い。
図14(A1)は、上記一対の面の一方を示した外観図であり、
図14(A2)は、
上記一対の面の他方を示した外観図である。なお、
図13(A)及び
図13(B)に示す
二次電池と同じ部分については、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池の説明を
適宜援用できる。
【0280】
図14(A1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでア
ンテナ914が設けられ、
図14(A2)に示すように、二次電池913の一対の面の他
方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913
による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を
用いることができる。
【0281】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大き
くすることができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことが
できる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のア
ンテナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方
式としては、NFC(近距離無線通信)など、二次電池と他の機器との間で用いることが
できる応答方式などを適用することができる。
【0282】
又は、
図14(B1)に示すように、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池9
13に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続さ
れる。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお
、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池と同じ部分については、
図13(A)及
び
図13(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0283】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを
表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレク
トロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペ
ーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0284】
又は、
図14(B2)に示すように、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池9
13にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に
電気的に接続される。なお、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池と同じ部分に
ついては、
図13(A)及び
図13(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0285】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、
光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、
流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよ
い。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデー
タ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0286】
さらに、二次電池913の構造例について
図15及び
図16を用いて説明する。
【0287】
図15(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が
設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸さ
れる。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより
筐体930に接していない。なお、
図15(A)では、便宜のため、筐体930を分離し
て図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子9
52が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニ
ウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0288】
なお、
図15(B)に示すように、
図15(A)に示す筐体930を複数の材料によっ
て形成してもよい。例えば、
図15(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体
930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体
950が設けられている。
【0289】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテ
ナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界
の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930a
の内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930b
としては、例えば金属材料を用いることができる。
【0290】
さらに、捲回体950の構造について
図16に示す。捲回体950は、負極931と、
正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟
んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回
体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに
複数重ねてもよい。
【0291】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して
図13に示す端子911に接
続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して
図13に示す端子9
11に接続される。
【0292】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイク
ル特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0293】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、
図17乃至
図24を参照して説明する。
ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なく
とも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げること
もできる。
【0294】
図17を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二
次電池980は、
図17(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極99
4と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、
図16で説明し
た捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重な
り合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0295】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要
な容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリ
ード電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード
電極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される
。
【0296】
図17(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム9
82とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納す
ることで、
図17(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体9
93は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有
するフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0297】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材
料や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982
の材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部
を有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する蓄電池を作製すること
ができる。
【0298】
また、
図17(B)および
図17(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが
、1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体9
93を収納してもよい。
【0299】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイク
ル特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0300】
また
図17では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池
980の例について説明したが、例えば
図18のように、外装体となるフィルムにより形
成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としても
よい。
【0301】
図18(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活
物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有す
る負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外
装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置され
ている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、
実施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0302】
図18(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および
負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正
極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するよう
に配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509か
ら外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負
極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0303】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポ
リプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、
アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該
金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成
樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0304】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を
図18(B)に示す。
図18
(A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、
図18(B
)に示すように、複数の電極層で構成する。
【0305】
図18(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16と
しても二次電池500は、可撓性を有する。
図18(B)では負極集電体504が8層と
、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、
図18(B)は負極
の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿
論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場
合には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない
場合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0306】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図19及び
図20に示す。図
19及び
図20は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リ
ード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0307】
図21(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体5
01を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正
極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負
極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形
成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ
領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図21(A)に示す例に
限られない。
【0308】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、
図19に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図2
1(B)、(C)を用いて説明する。
【0309】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図21(B)に積層
された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極
を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタ
ブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いれ
ばよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極
リード電極511の接合を行う。
【0310】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0311】
次に、
図21(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。そ
の後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この
時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)
に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0312】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508(図示しない。)を外装体
509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下
で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート
型の二次電池500を作製することができる。
【0313】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイク
ル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0314】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について
図22および
図23を参照して説明す
る。
【0315】
図22(A)に、曲げることのできる二次電池250の上面概略図を示す。
図22(B
1)、(B2)、(C)はそれぞれ、
図22(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-
C4、切断線A1-A2における断面概略図である。二次電池250は、外装体251と
、外装体251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極21
1aと電気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリ
ード212bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域
には、正極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている
。
【0316】
二次電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、
図23を用いて説
明する。
図23(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順
を説明する斜視図である。
図23(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リ
ード212aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0317】
図23(A)に示すように、二次電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の
短冊状の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極
211bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方
の面のタブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の
部分に負極活物質層が形成される。
【0318】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活
物質層の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積
層される。
【0319】
また、正極211aの正極活物質層が形成された面と、負極211bの負極活物質層が
形成された面の間にはセパレータ214が設けられる。
図23(A)では見やすくするた
めセパレータ214を点線で示す。
【0320】
また
図23(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部21
5aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部
215bにおいて電気的に接続される。
【0321】
次に、外装体251について
図22(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明
する。
【0322】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むよ
うに2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部
262と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび
負極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部2
63は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶ
ことができる。
【0323】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線
272が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部2
62及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0324】
図22(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、
図22(B2)は
、谷線272と重なる部分で切断した断面である。
図22(B1)、(B2)は共に、二
次電池250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0325】
ここで、正極211aおよび負極211bの幅方向の端部、すなわち正極211aおよ
び負極211bの端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする。二次電池25
0に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極211bが
長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体251
と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してしまう場合が
ある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により
腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好
ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、二次電池250の体積が増大してしまう
。
【0326】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、正極21
1aおよび負極211bと、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好まし
い。
【0327】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bおよび図示しないがセパ
レータ214の合計の厚さをtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍
以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下
であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対
する信頼性の高い電池を実現できる。
【0328】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを正極211
aおよび負極211bの幅(ここでは、負極211bの幅Wb)よりも十分大きくするこ
とが好ましい。これにより、二次電池250に繰り返し曲げるなどの変形を加えたときに
、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触しても、正極211aおよび
負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正極211aおよび負極211
bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0329】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正
極211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8
倍以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好まし
い。
【0330】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式1の関係を満たすことが好
ましい。
【0331】
【0332】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好まし
くは1.0以上2.0以下を満たす。
【0333】
また、
図22(C)はリード212aを含む断面であり、二次電池250、正極211
aおよび負極211bの長さ方向の断面に対応する。
図22(C)に示すように、折り曲
げ部261において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体25
1との間に空間273を有することが好ましい。
【0334】
図22(D)に、二次電池250を曲げたときの断面概略図を示している。
図22(D
)は、
図22(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0335】
二次電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に
位置する他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置す
る部分は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体
251の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変
形する。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251に
かかる応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。
その結果、外装体251は破損することなく、小さな力で二次電池250を曲げることが
できる。
【0336】
また、
図22(D)に示すように、二次電池250を曲げると、正極211aおよび負
極211bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよ
び負極211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折
り曲げ部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正
極211aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211
b自体が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損するこ
となく二次電池250を曲げることができる。
【0337】
また、正極211aおよび負極211bと外装体251との間に空間273を有してい
ることにより、曲げた時内側に位置する正極211aおよび負極211bが、外装体25
1に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0338】
図22および
図23で例示した二次電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外
装体の破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化
しにくい電池である。二次電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明し
た正極活物質を用いることで、さらにサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0339】
図24(A)は、3個のラミネート型の二次電池500を第1のプレート521と第2の
プレート524の間に挟み、固定する様子を示す斜視図である。
図24(B)に示すよう
に固定器具525aおよび固定器具525bを用いて第1のプレート521と第2のプレ
ート524との間の距離を固定することで、3個の二次電池500を加圧することができ
る。
【0340】
図24(A)、及び
図24(B)では3個のラミネート型の二次電池500を用いる例を
示したが、特に限定されず、4個以上の二次電池500を用いることもでき、10個以上
を用いれば、小型車両の電源として利用することができ、100個以上用いれば車載用の
大型電源として利用することもできる。また、過充電を防ぐために保護回路や、温度上昇
をモニタするための温度センサをラミネート型の二次電池500に設けてもよい。
【0341】
全固体電池においては、積層した正極や負極の積層方向に所定の圧力を加えることで、内
部における界面の接触状態を良好に保つことができる。正極や負極の積層方向に所定の圧
力を加えることで、全固体電池の充放電によって積層方向に膨張することを抑えることが
でき、全固体電池の信頼性を向上させることができる。
【0342】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0343】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説
明する。
【0344】
まず実施の形態5の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装す
る例を
図25(A)乃至
図25(G)に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電
子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)
、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォ
トフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情
報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0345】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動
車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0346】
図25(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体740
1に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、
スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二
次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用
いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0347】
図25(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機74
00を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電
池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図25(
C)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状
態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極
を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接
する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い
構成となっている。
【0348】
図25(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は
、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える
。また、
図25(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は
曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部また
は全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径
の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半
径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部
または全部が変形する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上15
0mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明
の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0349】
図25(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200
は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7
205、入出力端子7206などを備える。
【0350】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、イン
ターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することがで
きる。
【0351】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行う
ことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面
に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7
207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0352】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オ
フ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を
持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティング
システムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0353】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能
である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリー
で通話することもできる。
【0354】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクター
を介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充
電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により
行ってもよい。
【0355】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している
。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる
。例えば、
図25(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状
態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0356】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋セ
ンサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度セ
ンサ、等が搭載されることが好ましい。
【0357】
図25(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部
7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、
表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させ
ることもできる。
【0358】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うこと
ができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示
状況を変更することができる。
【0359】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接
データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる
。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0360】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、
軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0361】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図25(H)、
図26および
図27を用いて説明する。
【0362】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿
命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、
電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを
考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0363】
図25(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図25(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、ア
トマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカー
トリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や
過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図25(H)に示
した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池
7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽い
ことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため
、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を
提供できる。
【0364】
次に、
図26(A)および
図26(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を
示す。
図26(A)および
図26(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体963
0a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表
示部9631aと表示部9631bを有する表示部9631、スイッチ9625乃至スイ
ッチ9627、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には
、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とする
ことができる。
図26(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、
図26
(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0365】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄
電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐
体9630bに渡って設けられている。
【0366】
表示部9631は、全て又は一部の領域をタッチパネルの領域とすることができ、また
当該領域に表示されたアイコンを含む画像、文字、入力フォームなどに触れることでデー
タ入力をすることができる。例えば、筐体9630a側の表示部9631aの全面にキー
ボードボタンを表示させて、筐体9630b側の表示部9631bに文字、画像などの情
報を表示させて用いてもよい。
【0367】
また、筐体9630b側の表示部9631bにキーボードを表示させて、筐体9630
a側の表示部9631aに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。また、表示
部9631にタッチパネルのキーボード表示切り替えボタンを表示するようにして、当該
ボタンに指やスタイラスなどで触れることで表示部9631にキーボードを表示するよう
にしてもよい。
【0368】
また、筐体9630a側の表示部9631aのタッチパネルの領域と筐体9630b側
の表示部9631bのタッチパネルの領域に対して同時にタッチ入力することもできる。
【0369】
また、スイッチ9625乃至スイッチ9627には、タブレット型端末9600を操作
するためのインターフェースだけでなく、様々な機能の切り替えを行うことができるイン
ターフェースとしてもよい。例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくと
も一は、タブレット型端末9600の電源のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能
してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、
縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替える機能、又は白黒表示やカラー表示の切り
替える機能を有してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少
なくとも一は、表示部9631の輝度を調整する機能を有してもよい。また、表示部96
31の輝度は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の
外光の光量に応じて最適なものとすることができる。なお、タブレット型端末は光センサ
だけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内
蔵させてもよい。
【0370】
また、
図26(A)では筐体9630a側の表示部9631aと筐体9630b側の表
示部9631bの表示面積とがほぼ同じ例を示しているが、表示部9631a及び表示部
9631bのそれぞれの表示面積は特に限定されず、一方のサイズと他方のサイズが異な
っていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表
示を行える表示パネルとしてもよい。
【0371】
図26(B)は、タブレット型端末9600を2つ折りに閉じた状態であり、タブレッ
ト型端末9600は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を
含む充放電制御回路9634を有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に
係る蓄電体を用いる。
【0372】
なお、上述の通り、タブレット型端末9600は2つ折りが可能であるため、未使用時
に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折
りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐
久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は
高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレ
ット型端末9600を提供できる。
【0373】
また、この他にも
図26(A)および
図26(B)に示したタブレット型端末9600
は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付
又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集
するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、
等を有することができる。
【0374】
タブレット型端末9600の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッ
チパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池96
33は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率
的に行う構成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を
用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0375】
また、
図26(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について
図26
(C)にブロック図を示し説明する。
図26(C)には、太陽電池9633、蓄電体96
35、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、
表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コ
ンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、
図26(B)に示す充放電制御回路9
634に対応する箇所となる。
【0376】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する
。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDC
コンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電
池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ963
7で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部963
1での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の
充電を行う構成とすればよい。
【0377】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、
圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄
電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信
して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成と
してもよい。
【0378】
図27に、他の電子機器の例を示す。
図27において、表示装置8000は、本発明の
一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置80
00は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ
部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、
筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を
受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よっ
て、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係
る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能と
なる。
【0379】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発
光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Dev
ice)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0380】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用な
ど、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0381】
図27において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8
103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、
光源8102、二次電池8103等を有する。
図27では、二次電池8103が、筐体8
101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例
示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明
装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に
蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給
が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用い
ることで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0382】
なお、
図27では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示して
いるが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床
8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓
上型の照明装置などに用いることもできる。
【0383】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることがで
きる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発
光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0384】
図27において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは
、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室
内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。
図27
では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二
次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室
外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナ
ーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された
電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8
203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコ
ンディショナーの利用が可能となる。
【0385】
なお、
図27では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナー
を例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコ
ンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0386】
図27において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304
を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、
冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。
図27では、
二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は
、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力
を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない
時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気
冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0387】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電
子機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補
助するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器
の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0388】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量
のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二
次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑え
ることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉83
02、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を
蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行
われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用
率を低く抑えることができる。
【0389】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させるこ
とができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よっ
て、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化すること
ができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器
に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。
【0390】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0391】
(実施の形態7)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0392】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又は
プラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現でき
る。
【0393】
図28において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図28(A
)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車
である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用い
ることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様である二次電池を用いること
で、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有
する。二次電池は、車内の床部分に対して、
図12(C)および
図12(D)に示した二
次電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、
図15に示す二次電池を複数組み合
わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター84
06を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発
光装置に電力を供給することができる。
【0394】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表
示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビ
ゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0395】
図28(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン
方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することがで
きる。
図28(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された
二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際
しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定
の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーション
でもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部から
の電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる
。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行
うことができる。
【0396】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供
給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を
組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給
電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部
に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触
での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0397】
また、
図28(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図2
8(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指
示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給すること
ができる。
【0398】
また、
図28(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池86
02を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であって
も、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能と
なっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収
納すればよい。
【0399】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大
きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池
自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることが
できる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもでき
る。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができ
る。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および
二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二
次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減ら
すことができる。
【0400】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例0401】
本実施例では、正極活物質100A-1、混合物904、および比較例の正極活物質10
0Cを作製し、電池セルの特性を評価した。
【0402】
<正極活物質の作製>
[Sample 1]
正極活物質100A-1として、
図1に示すフローを参照し、Sample 1を作製し
た。
【0403】
まずマグネシウムおよびフッ素を有する混合物902を作製した(ステップS11乃至ス
テップS14)。LiFとMgF2のモル比が、LiF:MgF2=1:3となるよう秤
量し、溶媒としてアセトンを加えて湿式で混合および粉砕をした。混合および粉砕はジル
コニアボールを用いたボールミルで行い、400rpm、12時間行った。処理後の材料
を回収し、混合物902とした。
【0404】
次に、金属源である水酸化ニッケルと、アセトンと、を混合し、微粉化した水酸化ニッケ
ルを作製した(ステップS15乃至ステップS17)。
【0405】
次に、金属源である水酸化アルミニウムと、アセトンと、を混合し、微粉化した水酸化ア
ルミニウムを作製した(ステップS18乃至ステップS20)。
【0406】
次に、リチウムおよびコバルトを有する複合酸化物として、コバルト酸リチウムを準備
した。より具体的には、日本化学工業株式会社製のセルシードC-10Nを準備した(ス
テップS25)。
【0407】
次に、ステップS31において、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子量に対して
、混合物902が有するマグネシウムの原子量が1.0%となるように秤量した。また水
酸化ニッケルが有するニッケルの原子量を、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子
量と、ニッケルの原子量と、の和に対して0.5%となるように秤量した。また水酸化ア
ルミニウムが有するアルミニウムの原子量を、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原
子量と、ニッケルの原子量と、の和に対して0.5%となるように秤量した。秤量した混
合物902、水酸化ニッケル、水酸化アルミニウムおよびコバルト酸リチウムを混合した
。混合は、乾式で混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150
rpm、1時間行った。
【0408】
次に、処理後の材料を回収し、混合物903を得た(ステップS32およびステップS
33)。
【0409】
次に、混合物903を酸化アルミニウム坩堝に入れ、酸素雰囲気のマッフル炉にて85
0℃、60時間アニールした(ステップS34)。アニールの際には、酸化アルミニウム
坩堝にふたをした。酸素の流量は10L/minとした。昇温は200℃/hrとし、降
温は10時間以上かけて行った。加熱処理後の材料を回収し、ふるいにかけ(ステップS
35)、正極活物質100A-1を得た(ステップS36)。
【0410】
[Sample 2]
正極活物質として混合物904を用いる試料を作製する。
図3に示すフローの一部を参照
し、Sample 2を作製した。
【0411】
まず、マグネシウムおよびフッ素を有する混合物902を作製した(ステップS11乃
至ステップS14)。LiFとMgF2のモル比が、LiF:MgF2=1:3となるよ
う秤量し、溶媒としてアセトンを加えて湿式で混合および粉砕をした。混合および粉砕は
ジルコニアボールを用いたボールミルで行い、400rpm、12時間行った。処理後の
材料を回収し、混合物902とした。
【0412】
次に、コバルトを有する正極活物質を準備した(ステップS25)。ここではあらかじ
め合成されたコバルト酸リチウムとして、日本化学工業株式会社製のセルシードC-10
Nを用いた。セルシードC-10Nは、D50が12μm程度で不純物の少ないコバルト
酸リチウムである。
【0413】
次に、混合物902およびコバルト酸リチウムを混合した(ステップS31)。コバル
ト酸リチウムが有するコバルトの原子量に対して、混合物902が有するマグネシウムの
原子量が0.5%となるように秤量した。混合は、乾式で混合した。混合はジルコニアボ
ールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。
【0414】
次に処理後の材料を回収し、混合物903を得た(ステップS32およびステップS3
3)。
【0415】
次に、混合物903を酸化アルミニウム坩堝に入れ、酸素雰囲気のマッフル炉にて85
0℃、60時間アニールした(ステップS34)。アニールの際には、酸化アルミニウム
坩堝にふたをした。酸素の流量は10L/minとした。昇温は200℃/hrとし、降
温は10時間以上かけて行った。加熱処理後の材料を回収し(ステップS35)、ふるい
を行い、混合物904を得た(ステップS36)。混合物904は正極活物質100A-
1と比べてアルミニウムやニッケルを添加しないため、製造工程を短縮することができる
。混合物904も共融現象を利用して製造しているため、本発明の一つの形態に含まれる
。
【0416】
比較例の正極活物質100Cとして、セルシードC-10Nを用いた。
【0417】
<電池セルの作製>
次に、上記で得られたSample 1およびSample 2を各々、正極活物質とし
て用い、各々の正極を作製した。正極活物質、ABおよびPVDFを活物質:AB:PV
DF=95:3:2(重量比)で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。ス
ラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0418】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。その後、210kN/mで加圧を
行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正
極活物質の担持量はおよそ20mg/cm2とした。
【0419】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm、高さ3.2mm)のコイ
ン型の電池セルを作製した。
【0420】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0421】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を
用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)が
EC:DEC=3:7(体積比)、で混合されたものを用いた。なお、サイクル特性の評
価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加
した。
【0422】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0423】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0424】
<サイクル特性>
得られた正極活物質100A-1と、混合物904と、比較例の正極活物質100Cのそ
れぞれを用いて電池セルを作製してサイクル特性(45℃)を測定した結果を
図29、図
31に示す。
図29は縦軸に放電容量、横軸にサイクル数としたグラフである。また、同
じ測定結果を用いて
図31に容量維持率を縦軸、横軸にサイクル数としたグラフを示す。
また、
図29及び
図31に使用した全てのサンプルは、正極活物質の担持量7mg/cm
2とした。
【0425】
サイクル特性の測定条件として、45℃において、充電をCCCV(0.5C、4.6V
、終止電流0.05C)、放電をCC(0.5C、2.5V)で繰り返し充放電を行った
。Cレートは200mA/gとした。
【0426】
図31に示すように比較例の正極活物質100Cに比べて正極活物質100A-1、混合
物904は大幅に容量維持率が高い。また、50サイクル後において正極活物質100A
-1の容量維持率は約90%となり、混合物904の容量維持率は約79%となった。5
0サイクル後において正極活物質100A-1は混合物904よりも約10%以上容量維
持率が向上した。
【0427】
次に、正極活物質100A-1と、混合物904と、比較例の正極活物質100Cのそれ
ぞれを用いて電池セルを作製してサイクル特性(25℃)を測定した結果を
図32(A)
、
図32(B)に示す。また、サイクル特性の測定条件として、25℃において、充電を
CCCV(0.5C、4.6V、終止電流0.05C)、放電をCC(0.5C、2.5
V)で繰り返し充放電を行った。Cレートは200mA/gとした。
図32(A)は縦軸
に放電容量、横軸にサイクル数としたグラフである。また、同じ測定結果を用いて
図32
(B)に容量維持率を縦軸、横軸にサイクル数としたグラフを示す。また、
図32(A)
及び
図32(B)に使用した全てのサンプルは、正極活物質の担持量7mg/cm
2とし
た。
【0428】
図32(A)に示すように比較例の正極活物質100Cに比べて正極活物質100A-1
、混合物904は大幅に容量維持率が高い。また、50サイクル後において正極活物質1
00A-1の容量維持率は約98%となり、混合物904の容量維持率は約96%となっ
た。
【0429】
<レート特性>
混合物904と、正極活物質100A-1と、比較例をそれぞれ用いた二次電池について
、レート特性を評価した結果を表1に示す。
【0430】
【0431】
レート特性評価用のコインセルは、正極活物質層の担持量を8mg/cm2とし、密度3
.8g/cc以上、LCO:AB:PVDFの配合比95:3:2、電解液が有する電解
質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液は、エチ
レンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(
体積比)、で混合されたものを用いた。また、電解液にビニレンカーボネート(VC)を
2wt%添加した。
【0432】
初回の充電は上限を4.5Vまたは4.6Vとし、CCCV、0.2C、4.6V、カッ
トオフ電流0.02Cで行った。初回の放電はCC、0.2C、カットオフ電圧2.5V
で行った。なおここでの1Cは正極活物質重量あたりの電流値で200mA/gとした。
2回目以降の充放電で、放電レートのみ変化させ、0.2C充電/0.2C放電、0.2
C充電/0.5C放電、0.2C充電/1.0C放電、0.2C充電/2.0C放電、0
.2C充電/3.0C放電、0.2C充電/4.0C放電、0.2C充電/5.0C放電
、の順で測定した。休止10分とし、測定温度は25℃とした。
【0433】
表1からわかるように比較例は容量劣化が大きく、混合物904を用いたサンプルと、正
極活物質100A-1を用いたサンプルは、劣化が小さい。
【0434】
<粉体抵抗及び導電率>
混合物904と、正極活物質100A-1と、比較例(市販のLCO)の粉体抵抗および
導電率をそれぞれ測定した。測定装置は、三菱化学アナリテック社製のMCP-PD51
を用い、4探針法の機器部分はロレスタ-GPとハイレスタ-GPを使い分けた。混合物
904の体積抵抗率は、8.2.E+04(Ω・cm)であり、導電率は1.2.E-0
5(S/cm)であった。また、正極活物質100A-1の体積抵抗率は、8.0.E+
07(Ω・cm)であり、導電率は1.3.E-08(S/cm)であった。また、比較
例の体積抵抗率は、9.9.E+02(Ω・cm)であり、導電率は1.0.E-03(
S/cm)であった。なお、体積抵抗率及び導電率は、粉体へ荷重20kN加えた時の測
定値である。
【0435】
また、HIOKI製の電極抵抗測定器で、混合物904の合剤層を測定したところ、0.
9(Ω・cm)であり、界面抵抗は、0.003(Ω・cm2)であった。また、正極活
物質100A-1の合剤層を測定したところ、1.6(Ω・cm)であり、界面抵抗は、
0.005(Ω・cm2)であった。また、比較例の合剤層を測定したところ、4.2(
Ω・cm)であり、界面抵抗は、0.009(Ω・cm2)であった。
【0436】
<連続充電耐性>
次に、得られた正極活物質100A-1と、混合物904と、比較例の正極活物質100
Cのそれぞれを用いて電池セルを作製して連続充電耐性を測定した結果を
図30に示す。
また、
図30に使用した全てのサンプルは、正極活物質の担持量20mg/cm
2とした
。
【0437】
連続充電耐性の測定条件として、まず、充電をCCCV(0.2C、4.5V、終止電流
0.02C)、放電をCC(0.2C、2.5V)として25℃において1サイクル測定
した。1Cは191.7mA/gとした。
【0438】
その後、60℃にて、充電をCCCV(0.5C)で行った。上限電圧の4.6V到達
後にCV充電となり、電流値が徐々に低下し、その後低い電流値で安定し、その後電流値
が大きく上昇するまで測定を続けた。60℃4.6V定電圧充電を続けて電流値が大きく
上昇する場合には例えば、ショートなどの現象が生じている可能性がある。1Cは191
.7mA/gとした。
【0439】
連続充電時間が74時間という混合物904の結果に比べて、連続充電時間が136時間
である正極活物質100A-1のほうが、良好な結果となった。なお、連続充電時間は、
短絡時間から満充電時間を差し引いた時間を指すものとする。
【0440】
45℃でのサイクル特性と、連続充電耐性の両方を兼ね備える正極活物質が二次電池の信
頼性を向上させるために最適であり、これらの実験結果から正極活物質100A-1が最
も優れている材料と言える。