IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ ドゥ ローザンヌの特許一覧

特開2024-153816制御性T細胞を調節し腫瘍増殖を阻害する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153816
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】制御性T細胞を調節し腫瘍増殖を阻害する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241022BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 31/18 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/06
A61K31/18
A61K31/381
A61K31/44
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124104
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2021514336の分割
【原出願日】2019-09-13
(31)【優先権主張番号】62/731,351
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】510275286
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ローザンヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LAUSANNE
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ホ ピン-チー
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハイピン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】その必要がある対象において腫瘍内制御性T細胞の数を減少させる方法を提供する。
【解決手段】CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、方法である。好ましくは、CD36阻害剤が抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤である、方法、または、PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、方法である。さらに好ましくは、PPARβ阻害剤が抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤である、方法である。
【選択図】図7-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内制御性T細胞の数を減少させる方法。
【請求項2】
PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内制御性T細胞の数を減少させる方法。
【請求項3】
腫瘍内制御性T細胞がCD4+細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法。
【請求項5】
PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法。
【請求項6】
腫瘍内細胞傷害性T細胞がCD8+細胞である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
CD36阻害剤が抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤である、請求項1または4に記載の方法。
【請求項8】
抗CD36抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
低分子CD36阻害剤が、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
CD36阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項1、4、および7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
PPARβ阻害剤が抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤である、請求項2または5に記載の方法。
【請求項12】
抗PPARβ抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
低分子PPARβ阻害剤が、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
PPARβ阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項2、5、および11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
追加の治療剤を対象に投与する段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
追加の治療剤が免疫チェックポイント調節因子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
免疫チェックポイント調節因子が、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSに特異的な抗体を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
追加の治療剤が、抗PD-1 mAb、抗CTLA4 mAb、またはそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
対象ががんを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
がんが、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんからなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
CD36阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて対象に投与する段階を含む、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法。
【請求項22】
PPARβ阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて対象に投与する段階を含む、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法。
【請求項23】
CD36阻害剤が抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
抗CD36抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
低分子CD36阻害剤が、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
CD36阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項21および23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
PPARβ阻害剤が抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤である、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
抗PPARβ抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
低分子PPARβ阻害剤が、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247からなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
CD3阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項22および27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
追加の治療剤が免疫チェックポイント調節因子を含む、請求項21~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
免疫チェックポイント調節因子が、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSに特異的な抗体などに特異的な抗体を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
がんが、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんからなる群より選択される、請求項21~32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下で、2018年9月14日に出願された米国仮特許出願第62/731,351号に対する優先権を主張する。前述の出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、対象において腫瘍内制御性T (Treg) 細胞を調節し、腫瘍増殖を阻害する方法に関し、より具体的には、CD36阻害剤またはPPARβ阻害剤により、対象において腫瘍内Treg細胞を調節し、腫瘍増殖を阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
制御性T (Treg) 細胞は、免疫系を調節し、自己抗原に対する耐性を維持し、自己反応性T細胞の異常な活性化を抑制し、自己免疫疾患を抑止するT細胞の独特の集団である。Treg細胞は、いくつかの機構を介してその調節機能を媒介する。まず、Treg細胞は、IL-10、TGFβ、およびIL-35を含む抗炎症性サイトカインを発現する。別の調節機構は、細胞間の接触によるものである。Treg細胞上に発現する細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (CTLA-4) は、抗原提示細胞 (APC) 上の共刺激B7分子に、CD28よりも約10倍高い親和性で結合し、ひいてはAPCがナイーブT細胞を活性化するのを防ぐ。Treg細胞はまた、T細胞の活性化および分極化に必要なサイトカイン(例えば、IL-2、IL-4、IL-7)を消費することにより、エフェクターT細胞の分化を妨げることが提唱されている(Ward-Hartstonge and Kemp. Clinical & Translational Immunology, 6:9 (2017)(非特許文献1))。
【0004】
免疫監視を回避するためにがん細胞によって使用される1つの機構は、Treg細胞の誘導であり、これは次に、生物の自然免疫応答を抑制する。Treg細胞を不活性化することにより、免疫系の抑制を回避することができ、免疫系が、原発腫瘍および転移腫瘍を破壊するための応答を開始することができるようになることが企図される。Treg細胞を枯渇させることで、抗腫瘍免疫の制御が解かれ、免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME) の形成が阻止されることが示されている。しかしながら、Treg枯渇によるTreg細胞の全身的消失は、しばしば重度の自己免疫につながる(Wang, H., et al. Trends Cancer 3, 583-592 (2017)(非特許文献2))。
【0005】
Tregはマウスおよびヒトの両方のがんにおいて高頻度で見出され(Roychoudhuri, R., Eil, R. L. & Restifo, N. P. The interplay of effector and regulatory T cells in cancer. Current opinion in immunology 33, 101-111 (2015)(非特許文献3);Delgoffe, G. M. et al. Nature 501, 252-256 (2013)(非特許文献4);Saito, T. et al. Nat Med 22, 679-684 (2016)(非特許文献5))、そこでそれらは抗腫瘍免疫およびがん免疫療法に対する主要な障壁となっている(Rech, A. J. et al. Sci Transl Med 4, 134ra162 (2012)(非特許文献6); Sutmuller, R. P. et al. J Exp Med 194, 823-832 (2001)(非特許文献7))。Tregを枯渇させる戦略は抗腫瘍応答を増加させるが、Tregの全身的消失によって引き起こされる重度の自己免疫およびエフェクターT細胞の望ましくない枯渇は、Treg標的化アプローチの治療可能性を制限する。加えて、Tregにおいて発現する、OX40、GITR、およびCTLA-4などの免疫チェックポイントを標的とする処置の際の、Tregの抑制機能の全身的な障害はまた、がんの処置におけるTreg標的化アプローチの適用を妨げる(Nishikawa, H. & Sakaguchi, S. International journal of cancer 127, 759-767 (2010)(非特許文献8);Simpson, T. R. et al. J Exp Med 210, 1695-1710 (2013)(非特許文献9);Curtin, J. F. et al. PLoS One 3, e1983 (2008)(非特許文献10))。今日に至るまで、腫瘍内Tregを選択的に破壊する効果的な標的化アプローチの探索が、がん免疫療法の課題として残っている。
【0006】
したがって、自己免疫応答を誘発することなく抗腫瘍免疫を誘導するために、腫瘍内Treg細胞を特異的に標的とする方法が急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ward-Hartstonge and Kemp. Clinical & Translational Immunology, 6:9 (2017)
【非特許文献2】Wang, H., et al. Trends Cancer 3, 583-592 (2017)
【非特許文献3】Roychoudhuri, R., Eil, R. L. & Restifo, N. P. The interplay of effector and regulatory T cells in cancer. Current opinion in immunology 33, 101-111 (2015)
【非特許文献4】Delgoffe, G. M. et al. Nature 501, 252-256 (2013)
【非特許文献5】Saito, T. et al. Nat Med 22, 679-684 (2016)
【非特許文献6】Rech, A. J. et al. Sci Transl Med 4, 134ra162 (2012)
【非特許文献7】Sutmuller, R. P. et al. J Exp Med 194, 823-832 (2001)
【非特許文献8】Nishikawa, H. & Sakaguchi, S. International journal of cancer 127, 759-767 (2010)
【非特許文献9】Simpson, T. R. et al. J Exp Med 210, 1695-1710 (2013)
【非特許文献10】Curtin, J. F. et al. PLoS One 3, e1983 (2008)
【発明の概要】
【0008】
本開示は、対象において腫瘍内Treg細胞の数を減少させる方法、および対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法を記載する。該方法を用いて、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害することができる。
【0009】
1つの局面において、本開示は、対象において腫瘍内Treg細胞(例えば、CD4+細胞)の数を減少させる方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。いくつかの態様において、該方法は、PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。
【0010】
第2の局面において、本開示は、対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞(例えば、CD8+細胞)の数を増加させる方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。いくつかの態様において、該方法は、PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。
【0011】
CD36阻害剤は、抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤であってよい。抗CD36抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体であってよい。低分子CD36阻害剤の非限定的な例には、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308が含まれ得る。同様に、PPARβ阻害剤は、抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤であってよい。低分子PPARβ阻害剤の例には、非限定的に、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247が含まれ得る。
【0012】
いくつかの態様において、対象において腫瘍内Treg細胞の数を減少させる方法は、追加の治療剤を対象に投与する段階をさらに含み得る。追加の治療剤は、免疫チェックポイント調節因子、例えば、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSに特異的な抗体などであってよい。
【0013】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与することができる。
【0014】
いくつかの態様において、対象はがんを有し得る。がんの非限定的な例には、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんが含まれ得る。
【0015】
第3の局面において、本開示は、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて、対象に投与する段階を含み得る。いくつかの態様において、該方法は、PPARβ阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて、対象に投与する段階を含み得る。
【0016】
CD36阻害剤は、抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤であってよい。CD36阻害剤は、抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤であってよい。抗CD36抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体であってよい。低分子CD36阻害剤の非限定的な例には、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308が含まれ得る。同様に、PPARβ阻害剤は、抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤であってよい。低分子PPARβ阻害剤の例には、非限定的に、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247が含まれ得る。
【0017】
追加の治療剤は、免疫チェックポイントに特異的な抗体などの免疫チェックポイント調節因子であってよい。免疫チェックポイントの例には、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSが含まれ得る。いくつかの態様において、追加の治療剤はPD-1阻害剤を含む。いくつかの態様において、追加の治療剤はCTLA-4阻害剤を含む。いくつかの態様において、追加の治療剤は、PD-1阻害剤およびCTLA-4阻害剤の両方を含む。
【0018】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与することができる。
【0019】
[本発明1001]
CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内制御性T細胞の数を減少させる方法。
[本発明1002]
PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内制御性T細胞の数を減少させる方法。
[本発明1003]
腫瘍内制御性T細胞がCD4+細胞である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法。
[本発明1005]
PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含む、その必要がある対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法。
[本発明1006]
腫瘍内細胞傷害性T細胞がCD8+細胞である、本発明1004または1005の方法。
[本発明1007]
CD36阻害剤が抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤である、本発明1001または1004の方法。
[本発明1008]
抗CD36抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、本発明1007の方法。
[本発明1009]
低分子CD36阻害剤が、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308からなる群より選択される、本発明1007の方法。
[本発明1010]
CD36阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、本発明1001、1004、および1007~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
PPARβ阻害剤が抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤である、本発明1002または1005の方法。
[本発明1012]
抗PPARβ抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
低分子PPARβ阻害剤が、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247からなる群より選択される、本発明1011の方法。
[本発明1014]
PPARβ阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、本発明1002、1005、および1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
追加の治療剤を対象に投与する段階をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1016]
追加の治療剤が免疫チェックポイント調節因子を含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
免疫チェックポイント調節因子が、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSに特異的な抗体を含む、本発明1016の方法。
[本発明1018]
追加の治療剤が、抗PD-1 mAb、抗CTLA4 mAb、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1015の方法。
[本発明1019]
対象ががんを有する、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1020]
がんが、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんからなる群より選択される、本発明1019の方法。
[本発明1021]
CD36阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて対象に投与する段階を含む、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法。
[本発明1022]
PPARβ阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて対象に投与する段階を含む、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法。
[本発明1023]
CD36阻害剤が抗CD36抗体または低分子CD36阻害剤である、本発明1021の方法。
[本発明1024]
抗CD36抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
低分子CD36阻害剤が、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308からなる群より選択される、本発明1023の方法。
[本発明1026]
CD36阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、本発明1021および1023~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
PPARβ阻害剤が抗PPARβ抗体または低分子PPARβ阻害剤である、本発明1022の方法。
[本発明1028]
抗PPARβ抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
低分子PPARβ阻害剤が、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247からなる群より選択される、本発明1027の方法。
[本発明1030]
CD3阻害剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、本発明1022および1027~1030のいずれかの方法。
[本発明1031]
追加の治療剤が免疫チェックポイント調節因子を含む、本発明1021~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
免疫チェックポイント調節因子が、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSに特異的な抗体などに特異的な抗体を含む、本発明1031の方法。
[本発明1033]
がんが、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんからなる群より選択される、本発明1021~1032のいずれかの方法。
前述の概要は、本開示のあらゆる局面を定義することを意図したものではなく、さらなる局面は、以下の詳細な説明などの他の節に記載される。本願全体は、統一された開示として関連することが意図されており、たとえ本願の同一の文章または段落または節の中で特徴の組み合わせが共に見いだされない場合であっても、本明細書に記載される特徴のすべての組み合わせが企図されることが理解されるべきである。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本開示の精神および範囲の範囲内の様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明らかとなると考えられるため、詳細な説明および具体例は、本開示のある特定の態様を示しながら、例示として与えられているに過ぎないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1-1】図1a、1b、1c、1d、1e、および1fは、腫瘍内Tregが、CD36、および脂質代謝に関与する遺伝子の発現を上昇させたことを示す一連の図である。図1aは、乳がん患者の乳がんおよびPBMC由来のTregにおけるRNA発現についての、代謝機構に重点を置いた経路濃縮解析を示す。腫瘍内TregとPBMC Tregとの間で発現が有意に異なる経路 (P<0.05) を提示した。図1bは、遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) によって同定された、PBMC Tregと比較した腫瘍内Tregにおける脂肪酸代謝過程経路(上部)および脂質結合経路(下部)の濃縮プロットを示す。ヒートマップは、各シグネチャー遺伝子の発現レベルを示す。列は個々の試料を示し、行は各遺伝子である。高発現レベルおよび低発現レベルを示す。図1cおよび1dは、Yumm1.7黒色腫保有B6マウスの表示された組織由来のTregにおける、Bodipy FL C12(図1c)およびBodipy 493/503(図1d)の代表的なヒストグラム(左側)および幾何平均 (GeoMean) 蛍光強度の定量的結果(右側)を示す。DLN:流入領域リンパ節 (n≧5);LN: 非流入領域リンパ節 (n=5);脾臓 (n≧5);胸腺 (n=5);腫瘍 (n≧5)。図1eおよび1fは、黒色腫患者のPBMCおよびTIL (n=12)(図1e)、ならびにYumm1.7黒色腫B6マウスの表示された組織(DLN、n=15;脾臓、n=15;胸腺、n=9;腫瘍、n=14)(図1f)由来のTregにおける、CD36表面染色の代表的なヒストグラム(左側)および幾何平均 (GeoMean) 蛍光強度の定量的結果を示す。TIL:腫瘍浸潤リンパ球。データは、3回の独立した実験の代表的な結果(図1cおよび1d)、または3回の独立した実験からの累積結果(図1eおよび1f)である。各記号は1個体を表す。データは平均値±S.D.であり、両側独立スチューデントt検定により解析した。**P<0.01、***P<0.001。
図1-2】図1-1の続きの図である。
図2-1】図2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、および2jは、CD36を破壊すると、腫瘍内Tregの蓄積および抑制機能が選択的に損なわれることを示す一連の図である。図2aは、21~23週齢のWTマウスおよびTregCD36-/-マウス由来の表示された組織の、ヘマトキシリンおよびエオシン (H&E) 染色の代表的な画像を示す。スケールバー、200μm。図2bおよび2cは、Yumm1.7黒色腫保有WTマウスまたはTregCD36-/-マウス由来の脾臓Tregおよび腫瘍内Tregにおける、Bodipy FL C12(図2b)およびBodipy 493/503(図2c)の代表的なヒストグラム(左側)および幾何平均 (GeoMean) 蛍光強度の定量的結果(右側)を示す(1群当たりn=6)。図2dおよび2eは、野生型 (WT) マウスまたはTregCD36-/-マウス由来のYUMM1.7黒色腫の腫瘍増殖(図2d)および腫瘍重量(図2e)を示す(WT、n>9;TregCD36-/-、n>13)。Foxp3YFP-CreマウスをWTマウスとして使用した。図2fは、腫瘍保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウスの表示された組織における、CD4+ T細胞のうちのFoxP3+ Tregの代表的なプロット(左側)および割合を示す(脾臓、n>12;LN、n>11;腫瘍、n>13)。図2gは、表示されたマウス由来の全腫瘍浸潤CD8+ T細胞のうちの表示されたサイトカイン産生CD8+ T細胞の代表的なプロット(左側)および割合(右側)を示す(1群当たりn=5)。図2hおよび2iは、注釈された比率での、腫瘍(図2h)または脾臓(図2i)から選別されたWT TregおよびTregCD36-/- Tregによる、CFSE標識WTナイーブCD8+ T細胞の増殖のエクスビボ抑制を示す。図2jは、ナイーブCD4+ T細胞を単独で、またはWT TregまたはTregCD36-/- Tregのいずれかと組み合わせて受け取ったRag1-/-マウスにおける体重測定値を示す(媒体、n=4;ナイーブCD4、n=7;WT Treg、n=6;TregCD36-/-、n=6)。データは、少なくとも2回の独立した実験の代表的な結果(図2b、2c、および2g)、または3回の独立した実験からの累積結果(図2d、2e、2f、2h、2i、および2j)である。各記号は1個体を表す。データは平均値±S.D.(図2b、2c、2e、2f、2g、2h、およびi)または平均値±S.E.M.(図2dおよび2j)であり、両側独立スチューデントt検定(図2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、および2i)またはテューキーの多重比較検定を伴う一元配置ANOVA(図2j)により解析した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001、ns、有意差なし。
図2-2】図2-1の続きの図である。
図3図3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、および3iは、腫瘍内TregにおけるCD36欠損刺激性のアポトーシスを示す一連の図である。図3aは、RNA-seqにより評価した、WTおよびTregCD36-/-の腫瘍内Tregにおける、アポトーシス経路に関連する遺伝子の発現を示す(1群当たりn=3)。P値<0.05で差次的に発現される遺伝子を示した。図3bは、WT (n=13) およびTregCD36-/- (n=14) の腫瘍保有マウス由来の腫瘍内Tregにおける、切断型カスパーゼ-3レベルの代表的なヒストグラム(左側)および定量的解析(右側)を示す。図3cは、腫瘍保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウス由来の脾臓、非流入領域リンパ節 (LN)、流入領域リンパ節 (DLN)、血液、胸腺、および腫瘍のTregにおける、MitoTracker Deep Red (MDR) 染色の代表的なヒストグラム(左側)および定量的解析(右側)を示す(1群当たりn>8)。図3dおよび3eは、腫瘍保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウス由来の脾臓Tregおよび腫瘍内Tregにおけるミトコンドリア数(図3d)およびクリステ密度(図3e)の代表的な電子顕微鏡画像(左側)および定量的プロット(右側)を示す。スケールバー:(図3d)では500 nmおよび(図3e)では200 nm。図3fは、がん細胞馴化培地中で48時間培養した、表示されたiTregのOCRを示す(1群当たりn≧4)。図3gは、上記のようにがん細胞馴化培地中で培養し、次いで表示濃度の乳酸でさらに72時間処理したWT iTregまたはTregCD36-/- iTregのいずれかの生存能を示す(1群当たりn≧4)。図3hは、がん細胞馴化培地中で48時間培養した、表示されたiTregのNAD/NADH比を示す(WT、n=11;TregCD36-/-、n=13)。図3iは、NR (400μM) を補充したまたは補充しないがん細胞馴化培地で72時間処理したWT iTregまたはTregCD36-/- iTregのいずれかの相対的生存率を示す(1群当たりn=11)。結果は、表示された群における対照処理の生存細胞に対して正規化した。NR:ニコチンアミドリボシド。データは、3回の独立した実験の代表的な結果(図3fおよび3g)、または3回の独立した実験の累積結果(図3b、3c、3h、および3i)である。データは平均値±S.D.であり、両側独立スチューデントt検定により解析した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001、ns、有意差なし。
図4図4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h、および4iは、腫瘍内Tregの代謝適応にPPARβシグナル伝達が必要であることを示す一連の図である。図4aは、遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) によって同定された、PBMC Tregと比較した腫瘍内TregにおけるPPARシグナル伝達経路の濃縮プロットを示す。ヒートマップは、各シグネチャー遺伝子の発現レベルを示す。図4bは、腫瘍保有WTマウスおよびTregPPARβ-/-マウス由来のCD4+腫瘍浸潤Tリンパ球のうちのFoxP3+ Tregの割合を示す。図4cおよび4dは、野生型 (WT) マウスまたはTregPPARβ-/-マウス由来のYUMM1.7黒色腫の腫瘍増殖(図4c)および腫瘍重量(図4d)を示す(WT、n=15;TregCD36-/-、n=10)。Foxp3YFP-CreマウスをWTマウスとして使用した。図4eは、WTマウスおよびTregPPARβ-/-マウス由来の腫瘍内Tregにおける、MDR染色の幾何MFIの定量的結果を示す(1群当たりn=5)。図4fおよび4gは、WTマウスおよびTregCD36-/-マウスにYUMM1.7黒色腫細胞を移植し、次いで方法に記載された通りにDMSOまたはPPARβアゴニストのいずれかで処理したことを示す。腫瘍増殖(図4f)(WT+DMSO、n=6;TregCD36-/-+DMSO、n=11;WT+PPARβアゴニスト、n=5;TregCD36-/-+PPARβアゴニスト、n=9)、およびCD4+腫瘍浸潤Tリンパ球のうちのFoxP3+ Tregの割合(図4g)(1群当たりn≧9)を解析した。図4hおよび4iは、表示の処理で処理したWTマウスおよびTregCD36-/-マウスの腫瘍内Tregにおける、MitoTracker Deep Red (MDR) 染色(図4h)および切断型カスパーゼ-3の発現(図4i)の定量的解析を示す(1群当たりn≧9)。データは、3回の独立した実験の代表的な結果(図4bおよび4e)、または少なくとも3回の独立した実験からの累積結果(図4c、4d、4f、4g、4h、および4i)である。データは平均値±S.D.(図4b、4d、4e、4g、4h、および4i)または平均値±S.E.M.(図4cおよび4f)であり、両側独立スチューデントt検定により解析した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns、有意差なし。
図5図5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g、および5hは、CD36を標的とすることで、腫瘍内Tregが損なわれ、腫瘍がPD-1遮断に対してプライミングされることを示す一連の図である。図5a、5b、および5cは、表示の処理を行ったYUMM1.7黒色腫保有B6マウスの腫瘍増殖(図5a)(対照、n=4、α-CD36 Ab、n=6)、表示された組織のCD4+ T細胞のうちのFoxP3+ Tregの割合(図5b)(対照、n=4、α-CD36 Ab、n=4)、および表示された組織から単離されたTregにおける切断型カスパーゼ-3の発現(図5c)(対照、n=4;α-CD36 Ab、n=5)を示す。図5dは、対照媒体(対照)またはα-CD36 mAbのいずれかで処理したYUMM1.7黒色腫保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウスの腫瘍増殖を示す(WT+対照、n=12;WT+α-CD36 Ab、n=10;TregCD36-/-+対照、n=11;TregCD36-/-+α-CD36 Ab、n=10)。図5eは、表示の処理を行ったYUMM1.7黒色腫保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウスの腫瘍増殖を示す(WT+対照、n=12;WT+α-CD36 Ab、n=10;TregCD36-/-+対照、n=11;TregCD36-/-+α-CD36 Ab、n=10)。図5fおよび5gは、表示の処理を行ったYUMM1.7黒色腫保有WTマウスおよびTregCD36-/-マウスの腫瘍増殖(図5f)およびカプラン・マイヤー生存曲線(図5g)を示す(WT、n=5;TregCD36-/-、n=4;WT+α-PD1、n=4;TregCD36-/-+α-PD1、n=5)。生存期間の差は、ロングランク (long-rank)(マンテル・コックス)検定により解析した。図5hは、表示の処理を行った誘発性Braf/Pten黒色腫保有マウスの腫瘍増殖を示す(対照、n=10;α-PD1、n=11;α-CD36、n=11;α-CD36+αPD-1、n=11)。矢印は処理の日を示す。データは、3回の独立した実験の代表的な結果(図5a、5b、および5c)、または少なくとも2回の独立した実験からの累積結果(図5d、5e、5f、5g、および5h)である。各記号は1個体を表す。データは平均値±S.D.(図5bおよび5c)または平均値±S.E.M.(図5a、5d、5e、および5f)であり、両側独立スチューデントt検定により解析した。*P<0.05、**P<0.01、ns、有意差なし。
図6-1】図6a、6b、6c、および6dは、CD36を標的とすることで宿主の抗腫瘍免疫の制御が解かれることを示す一連の図である。図6a、6b、6c、および6dは、表示の処理を行ったYUMM1.7黒色腫保有マウスからの、腫瘍1グラム当たりのFoxP3+ Tregの絶対数(1群当たりn=10)(図6a)、腫瘍浸潤T細胞のうちのCD8+ T細胞の割合(1群当たりn=19)(図6b)、ならびに全腫瘍浸潤CD8+ T細胞のうちの表示されたサイトカイン産生CD8+ T細胞(図6c)および全腫瘍浸潤CD4+ T細胞のうちの表示されたサイトカイン産生CD4+ 細胞(図6d)の代表的なプロットおよび割合(1群当たりn=10)を示す。
図6-2】図6-1の続きの図である。
図7-1】図7a、7b、7c、7d、7e、7f、7g、および7hは、チェックポイント遮断阻害剤の相乗効果を示す一連の図である。図7aは、表示された組織のCD4+ T細胞のうちのFoxP3+ Tregの割合を示す(対照、n=4;α-CTLA4 mAb、n=4;α-CD36 mAb、n=4)。各記号は1個体を表す。データは平均値±S.D.であり、両側独立スチューデントt検定により解析した。*P<0.05、**P<0.01。図7b、7c、7d、7e、7f、7g、および7hは、表示の処理を行ったYUMM1.7黒色腫保有B6マウスの腫瘍増殖およびカプラン・マイヤー生存曲線を示す(対照、n=10;α-PD1、n=10;α-CTLA4、n=7;α-CD36、n=11;α-CTLA4+αPD-1、n=7;α-CD36+αPD-1、n=11)。矢印は処理の日を示す。各記号は1個体を表す。
図7-2】図7-1の続きの図である。
図7-3】図7-2の続きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
対象において腫瘍内制御性T (Treg) 細胞を調節し、腫瘍増殖を阻害するための開示された方法は、CD36のTreg特異的除去が腫瘍内Tregの蓄積を減少させ、腫瘍増殖を抑制するという予期せぬ発見に部分的に基づいている。有利なことに、Treg特異的CD36欠損は自己免疫を引き起こさず、CD36欠損Treg細胞は、例えばCD4 T細胞誘発性炎症性腸疾患の抑制において、その抑制活性を維持する。
【0022】
Treg細胞の誘導は、CD8+細胞傷害性T細胞などの腫瘍特異的T細胞が腫瘍細胞を攻撃することを抑制することにより、腫瘍関連抗原に対する免疫応答が起こらないことの根本的な理由であると考えられている。したがって、Treg細胞を不活性化することにより、免疫系の抑制を回避することができ、免疫系が、原発腫瘍および転移腫瘍を攻撃する応答を開始することができるようになることが企図される。
【0023】
本開示は、Treg細胞の不活性化がCD36欠損によって誘導され得ることを実証する。CD36は、脂肪酸トランスロカーゼ (FAT) としても公知である表面糖タンパク質である。CD36は炎症反応に関与し、脂質吸収、脂質貯蔵、および脂質利用などのいくつかの機能を調節する (Glatz and Luiken, JLR, 2018)。腫瘍浸潤T細胞は、脂肪酸取り込みが異常に高く、細胞内脂質含量が高く、かつCD36の発現レベルが高い(Yin et al., J Immunol, 2016;Cui and Kaech, Cancer Immunol Res, 2016)。CD36発現は、PPARシグナル伝達を介してミトコンドリア適応性を微調整することにより、腫瘍内Treg細胞の生存を支持する。このように、腫瘍内Treg細胞における高発現レベルのCD36は、代謝調節に介入することによって腫瘍内のTreg細胞の代謝適応を調整し、さらに抗腫瘍免疫応答を抑制することによって腫瘍増殖を促進する。したがって、CD36またはPPARシグナル伝達経路を標的とすることは、腫瘍内Treg細胞を調節し、腫瘍増殖を阻害するための魅力的な治療アプローチであると考えられる。
【0024】
I. 腫瘍内Treg細胞の数を減少させ、腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法
本開示は、対象において腫瘍内Treg細胞の数を減少させる方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤またはPPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。
【0025】
本開示はまた、対象において腫瘍内細胞傷害性T細胞の数を増加させる方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。いくつかの態様において、該方法は、PPARβ阻害剤の有効量を対象に投与する段階を含み得る。
【0026】
本明細書で用いられる場合、「対象」はヒトまたは非ヒト哺乳動物を指す。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびマウス哺乳動物などの家畜およびペットが含まれる。ある特定の態様において、対象はヒトである。「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするかまたは遺伝子によって指定されるポリヌクレオチドに機能的に連結された場合に、実質的には細胞がそのプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチド配列である。
【0027】
本明細書で用いられる場合、「腫瘍内」は、腫瘍細胞島内に位置する(すなわち、明らかに悪性の上皮細胞に近位である)T細胞を指すのに対して、腫瘍周辺T細胞は、腫瘍を取り囲みそこに浸潤する間質に位置する。したがって、T細胞は腫瘍内に位置し得るが、実際の悪性細胞以外の間質と密接に関連しているために、それは腫瘍内T細胞と見なされない場合もある。腫瘍構造を保持するT細胞を検出するための当技術分野で公知の任意の方法を用いて、それが腫瘍内であるかどうかを確認することができる。
【0028】
本明細書で用いられる場合、「制御性T細胞」または「Treg細胞」という用語は、抑制特性を備えたCD4+CD25+ FoxP3+ T細胞を指す。本明細書で用いられる場合、「ヘルパーT細胞」という用語は、CD4 T細胞を指す。ヘルパーT細胞(例えば、Th1およびTh2)は、MHCクラスII分子に結合された抗原を認識し、異なるサイトカインを産生する。本明細書で用いられる場合、本明細書で用いられる場合の「細胞傷害性T細胞」という用語は、CD8+ T細胞を指す。細胞傷害性T細胞は、MHCクラスI分子に結合された抗原を認識する。
【0029】
Treg細胞には、CD4、CD25、およびFOXP3を発現するT細胞、例えば、CD4+、CD4+CD25+、CD4+ Foxp3+制御性T細胞が含まれ得る。キラーT細胞としても公知である細胞傷害性T細胞には、CD8+ T細胞が含まれ得る。
【0030】
CD36阻害剤には、非限定的に、核酸分子(例えば、酵素核酸分子、アンチセンス核酸分子、三重鎖オリゴヌクレオチド、dsRNA、ssRNA、RNAi、siRNA、アプタマー、2,5-Aキメラ)、脂質、ステロイド、ペプチド、タンパク質、アロザイム、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、および低分子(例えば、抗ウイルス化合物)が含まれ得る。同様に、PPARβ阻害剤には、非限定的に、核酸分子(例えば、酵素核酸分子、アンチセンス核酸分子、三重鎖オリゴヌクレオチド、dsRNA、ssRNA、RNAi、siRNA、アプタマー、2,5-Aキメラ)、脂質、ステロイド、ペプチド、タンパク質、アロザイム、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、および低分子(例えば、抗ウイルス化合物)が含まれ得る。例えば、抗CD36抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体であってよい。低分子CD36阻害剤の非限定的な例には、AP-5258、AP5055、EP-80317、MPE-002、CHEML1789142、CHEML1789302、CHEML1789297、CHEML1789141、CHEML1789270、CHEML1789308が含まれ得る。
【0031】
低分子PPARβ阻害剤の非限定的な例には、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247が含まれ得る。
【0032】
いくつかの態様において、対象において腫瘍内Treg細胞の数を減少させる方法は、抗がん剤などの追加の治療剤と組み合わせて、CD36阻害剤またはPPARβ阻害剤を対象に投与する段階を含み得る。
【0033】
追加の治療剤は、免疫チェックポイントに特異的な抗体などの免疫チェックポイント調節因子であってよい。免疫チェックポイントの例には、非限定的に、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSが含まれ得る。免疫チェックポイント調節因子の非限定的な例には、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、ピジリズマブ、MPDL3280A、MEDI4736、BMS-936559、MSB0010718C、およびAMP-224が含まれる。
【0034】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、経口投与、局所投与、または非経口投与用の任意の適切な担体中で、同時にまたは逐次的に投与することができる。
【0035】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与することができる。
【0036】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、薬学的組成物として調製することができる。薬学的組成物は、経口、直腸、膣、非経口、局所、肺、鼻腔内、頬側、または眼の投与経路に適した製剤で調製、包装、または販売することができる。製剤には、有効成分を含有する突起付きナノ粒子、リポソーム調製物、再封赤血球、および免疫学に基づく製剤が含まれ得る。例えば、非経口投与用に製剤化された薬学的組成物は、滅菌水または滅菌等張生理食塩水などの薬学的に許容される担体と組み合わせた有効成分(例えば、CD36阻害剤、PPAR阻害剤)を含み得る。注射用製剤は、アンプル中、または保存剤を含む複数回用量容器中など、単位剤形で調製、包装、または販売することができる。非経口投与用の製剤には、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液、乳濁液、ペースト、および埋め込み可能な持続放出性または生分解性の製剤が含まれるが、それらに限定されない。そのような製剤は、懸濁化剤、安定化剤、または分散剤などの、1種または複数種の追加の成分をさらに含み得る。非経口投与用製剤の一例では、有効成分は、再構成組成物の非経口投与の前に適切な媒体(例えば、発熱物質不含の滅菌水)で再構成するための乾燥(すなわち、粉末または顆粒)形態で提供される。
【0037】
II. 腫瘍増殖を阻害する方法
本開示はまた、がんを有する対象において腫瘍増殖を阻害する方法を提供する。該方法は、CD36阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤(例えば、抗がん剤)と組み合わせて、対象に投与する段階を含み得る。あるいはまたは加えて、該方法は、PPARβ阻害剤の治療有効量を単独でまたは追加の治療剤(例えば、抗がん剤)と組み合わせて、対象に投与する段階を含み得る。
【0038】
CD36阻害剤には、非限定的に、核酸分子(例えば、酵素核酸分子、アンチセンス核酸分子、三重鎖オリゴヌクレオチド、dsRNA、ssRNA、RNAi、siRNA、アプタマー、2,5-Aキメラ)、脂質、ステロイド、ペプチド、タンパク質、アロザイム、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、および低分子(例えば、抗ウイルス化合物)が含まれ得る。同様に、PPARβ阻害剤には、非限定的に、核酸分子(例えば、酵素核酸分子、アンチセンス核酸分子、三重鎖オリゴヌクレオチド、dsRNA、ssRNA、RNAi、siRNA、アプタマー、2,5-Aキメラ)、脂質、ステロイド、ペプチド、タンパク質、アロザイム、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、および低分子(例えば、抗ウイルス化合物)が含まれ得る。低分子PPARβ阻害剤の非限定的な例には、FH535、GSK0660、GSK3787、PT-S58、PT-S77、およびST-247が含まれ得る。
【0039】
追加の治療剤は、免疫チェックポイントに特異的な抗体などの免疫チェックポイント調節因子であってよい。免疫チェックポイントの例には、非限定的に、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、およびGALSが含まれ得る。免疫チェックポイント調節因子の非限定的な例には、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、ピジリズマブ、MPDL3280A、MEDI4736、BMS-936559、MSB0010718C、およびAMP-224が含まれる。
【0040】
いくつかの態様において、追加の治療剤には、化学療法剤および免疫療法剤を含む、1種または複数種の抗腫瘍剤/抗がん剤が含まれ得る。
【0041】
「化学療法剤」は、がんの処置に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、以下のものが含まれる:アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド(CYTOXAN(商標))など;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなど;アジリジン、例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メチルドパ、およびウレドパなど;エチレンイミンおよびメチロールメラミン (methylamelamine)、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチロールメラミン (trimethylolomelamine) が含まれる;アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼルシン、およびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCBI-TMIを含む);エリュテロビン;パンクラスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド (cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなど; ニトロソ尿素 (nitrosurea)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなど;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、例えば、Agnew Chem. Intl. Ed. Engl. 33:183-186 (1994) を参照されたい;ダイネミシンAを含むダイネミシン;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン (aclacinomysin)、アクチノマイシン、アントラマイシン (authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン (carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなど;代謝拮抗剤、例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル (5-FU) など;葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなど;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなど;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FUなど;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなど;抗副腎物質、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなど;葉酸補充液、例えば、フォリン酸など;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート (edatraxate);デフォファミン;デメコルチン;ジアジクオン;エフロルニチン (elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサマイトシンなど;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸 (podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン (sizofuran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベルカリンA (verracurin A)、ロリジンA、およびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン (gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton, N.J.)およびドセタキセル (doxetaxel)(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、Antony, France)など;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えば、シスプラチンおよびカルボプラチンなど;ビンブラスチン;白金;エトポシド (VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン (DMFO);レチノイン酸;カペシタビン;ならびに上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体。この定義には、以下のものもまた含まれる:腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、抗エストロゲン、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン (Fareston) が含まれる;ならびに抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリンなど;ならびに上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体。
【0042】
「免疫療法剤」とは、がんの処置に有用な生物学的薬剤である。免疫療法剤の例には、アテゾリズマブ、アベルマブ、ブリナツモマブ、ダラツムマブ、セミプリマブ、デュルバルマブ、エロツズマブ、ラハーパレプベック、イピリムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、ペンブロリズマブ、およびタリモジーンが含まれる。
【0043】
方法は、CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、免疫チェックポイント調節因子、またはそれらの任意の組み合わせを含有する組成物を対象に投与する段階を含み得る。追加の治療剤、CD36阻害剤、および/またはPPARβ阻害剤は、経口投与、局所投与、または非経口投与用の任意の適切な担体中で、同時にまたは逐次的に投与することができる。CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または免疫チェックポイント調節因子
は、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与することができる。
【0044】
がんには以下のものが含まれ得るが、それらに限定されない:心臓がん、例えば、肉腫、例えば、血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、および脂肪肉腫;粘液腫;横紋筋腫;線維腫;脂肪腫、ならびに奇形腫が含まれる;肺がん、例えば、気管支原性がん、例えば、扁平上皮がん、未分化小細胞がん、未分化大細胞がん、および腺がん;肺胞および細気管支がん;気管支腺腫;肉腫;リンパ腫;軟骨腫様過誤腫;ならびに中皮腫が含まれる;胃腸がん、例えば、食道のがん、例えば、扁平上皮がん、腺がん、平滑筋肉腫、およびリンパ腫;胃のがん、例えば、がん腫、リンパ腫、および平滑筋肉腫;膵臓のがん、例えば、腺管腺がん、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、およびビポーマ;小腸のがん、例えば、腺がん、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、および線維腫;大腸のがん、例えば、腺がん、管状線種、絨毛腺腫、過誤腫、および平滑筋腫、が含まれる;泌尿生殖器がん、例えば、腎臓のがん、例えば、腺がん、ウィルムス腫瘍(腎芽細胞腫)、リンパ腫、および白血病;膀胱および尿道のがん、例えば、扁平上皮がん、移行上皮がん、および腺がん;前立腺のがん、例えば、腺がんおよび肉腫;精巣のがん、例えば、セミノーマ、奇形腫、胎児性がん、奇形がん、絨毛がん、肉腫、間質細胞がん、線維腫、線維腺腫、腺腫様腫瘍、および脂肪腫、が含まれる;肝臓がん、例えば、ヘパトーマ、例えば、肝細胞がん;胆管がん;胚芽腫;血管肉腫;肝細胞腺腫;および血管腫が含まれる;骨がん、例えば、骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍 脊索腫、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨腫)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨骨腫、および巨細胞腫が含まれる;神経系がん、例えば、頭蓋骨のがん、例えば、骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、および変形性骨炎;髄膜のがん、例えば、髄膜腫、血管肉腫、および神経膠腫症;脳のがん、例えば、星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫(松果体腫)、多形性膠芽腫、乏突起膠腫、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、および先天性腫瘍;ならびに脊髄のがん、例えば、神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、および肉腫、が含まれる;婦人科がん、例えば、子宮のがん、例えば、子宮内膜がん;子宮頸部のがん、例えば、子宮頸がんおよび前腫瘍子宮頸部異形成;卵巣のがん、例えば、漿液性嚢胞腺がん、粘液性嚢胞腺がん、未分類のがん、顆粒膜莢膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、および悪性奇形腫を含む卵巣がん;外陰のがん、例えば、扁平上皮がん、上皮内がん、腺がん、線維肉腫、および黒色腫;膣のがん、例えば、明細胞がん、扁平上皮がん、ブドウ状肉腫、および胎児性横紋筋肉腫;ならびに卵管のがん、例えば、がん腫、が含まれる;血液がん、例えば、血液のがん、例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、および骨髄異形成症候群、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)、およびワルデンストレームマクログロブリン血症、が含まれる;皮膚がん、例えば、悪性黒色腫、基底細胞がん、扁平上皮がん、カポジ肉腫、黒子異形成母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、および乾癬が含まれる;乳がん、例えば、乳管がん、小葉がん、炎症性乳がん、髄様がん、粘液(膠様)がん、乳房パジェット病、管状がん、葉状腫瘍、化生性がん、肉腫、微小乳頭 (microcapillary) がん、および腺様嚢胞がんが含まれる;ならびに副腎がん、例えば、神経芽細胞腫が含まれる。
【0045】
がんは、転移性である場合もあれば転移性でない場合もある固形腫瘍であってよい。がんはまた、白血病のようにびまん性組織として発生する場合もある。
【0046】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、疾患または状態に関連した症状の発現の前または後のいずれかに、患者に投与することができる。さらに、いくつかの分割投薬量および時差投薬量を毎日もしくは逐次的に投与してもよく、または用量は連続注入してもよいし、もしくはボーラス注射であってもよい。さらに、治療用製剤の投薬量は、治療状況または予防状況の緊急性によって示されるように、比例して増減させることができる。
【0047】
対象への投与は、患者における疾患または状態を処置するのに有効な投薬量および期間で、公知の手順を使用して行うことができる。治療効果を達成するために必要な治療用化合物の有効量は、利用される特定の化合物の活性;投与時間;化合物の排出速度;処置の持続時間;化合物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、または材料;処置される患者の疾患または障害の状態、年齢、性別、体重、状態、全身健康状態、および過去の病歴、ならびに医学分野において周知である同様の要因などの要因によって変動し得る。最適な治療応答をもたらすように、投薬計画を調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を毎日投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように、用量を比例して減少させてもよい。本発明の治療用化合物の有効用量範囲の非限定的な例は、約0.01~50 mg/kg体重/日である。当業者は、関連性のある要因を検討し、過度の実験を行うことなく治療用化合物の有効量に関する決定を行うことができるであろう。
【0048】
投与は1日数回程度の頻度で行うことができ、またはより少ない頻度で、例えば、1日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回など、またはさらに少ない頻度で、例えば、数ヶ月に1回もしくはさらには1年に1回もしくはそれ未満などで投与することができる。1日に投薬される化合物の量は、非限定的な例において、毎日、隔日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、または5日ごとに投与されてもよいと理解される。例えば、隔日投与の場合、1日当たり5 mgの用量を月曜日に開始し、1日当たり5 mgの1回目の後続用量を水曜日に投与し、1日当たり5 mgの2回目の後続用量を金曜日に投与することができ、以下同様である。投薬頻度は、当業者に容易に明白であり、処置される疾患の種類および重症度、動物の種類および年齢などであるがそれらに限定されない多数の要因に依存するであろう。
【0049】
投与経路には、吸入、経口、経鼻、直腸、非経口、舌下、経皮、経粘膜(例えば、舌下、舌、(経)頬側、(経)尿道、膣(例えば、経膣および膣周囲)、鼻腔(内)、ならびに(経)直腸)、膀胱内、肺内、十二指腸内、胃内、くも膜下腔内、皮下、筋肉内、皮内、頭蓋内、動脈内、静脈内、気管支内、吸入、ならびに局所投与が含まれ得る。
【0050】
本明細書で用いられる場合、「非経口投与」には、対象の組織の物理的突破および組織内の突破口を通した薬学的組成物の投与を特徴とする任意の投与経路が含まれる。したがって、非経口投与には、組成物の注射、外科的切開を通した組成物の適用、組織を貫通する非外科的創傷を通した組成物の適用等による薬学的組成物の投与が含まれるが、これらに限定されない。特に、非経口投与にはまた、頭蓋内注射、皮下注射、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉注射内、胸骨内注射、および腎臓透析注入技法が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0051】
CD36阻害剤、PPARβ阻害剤、または追加の治療剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、ゲルカプセル剤、トローチ剤、分散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、顆粒剤、ビーズ剤、経皮パッチ剤、ゲル剤、散剤、ペレット剤、マグマ剤、舐剤、クリーム剤、ペースト剤、硬膏剤、ローション剤、ディスク剤、坐剤、経鼻または経口投与用液体スプレー剤、吸入用乾燥粉末製剤またはエアロゾル製剤、膀胱内投与用組成物および製剤等を含む、様々な適切な組成物および剤形で提供され得る。本発明において有用であろう製剤および組成物は、本明細書に記載される特定の製剤および組成物に限定されないことが理解されるべきである。経口適用には、錠剤、糖衣錠剤、液剤、液滴剤、坐剤、またはカプセル剤、カプレット剤、およびゲルカプセル剤が特に適している。経口投与に適した他の製剤には、粉末もしくは顆粒製剤、水性もしくは油性懸濁剤、水性もしくは油性液剤、ペースト剤、ゲル剤、練り歯磨き剤、洗口剤、コーティング剤、経口リンス剤、または乳剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
III. 定義
本開示による組成物および方法の詳細な説明の理解を助ける目的で、本開示の様々な局面の明白な開示を容易にするために、いくつかの明確な定義が提供される。特に定義されていない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「PPARβ」および「PPARδ」は、本開示において互換的に使用され、同一のPPAR受容体を指す。
【0054】
本明細書で用いられる場合、「対象」は、ヒトを含む哺乳動物を指す。診断または処置を受ける非ヒト動物対象には、例えば、霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等が含まれ得る。
【0055】
本明細書で用いられる場合、「処置」という用語は、障害の発症を防止するかまたは障害の病態もしくは症状を変更することを意図して行われる介入を指す。したがって、「処置」は、治療的処置および予防的もしくは防止的手段の両方を指す。処置を必要とするものには、既に障害を有するもの、および障害が防止されるべきものが含まれる。腫瘍(例えば、がん)の処置において、治療剤は、腫瘍細胞の病態を直接減少させてもよいし、または他の治療剤、例えば放射線療法および/もしくは化学療法による処置に対して腫瘍細胞をより感受性にしてもよい。
【0056】
したがって、「処置すること」は、抑制すること、阻害すること、防止すること、処置すること、またはそれらの組み合わせを含み得る。「処置すること」は、とりわけ、持続的進行までの時間を延長すること、寛解を促進すること、寛解を誘導すること、寛解を増進すること、回復を早めること、代替治療の有効性を高めるかもしくは代替治療への抵抗性を低下させること、またはそれらの組み合わせを指す。「抑制すること」または「阻害すること」は、とりわけ、症状の発症を遅らせること、疾患の再発を防止すること、再発エピソードの回数もしくは頻度を減少させること、症状エピソード間の潜伏期間を延長すること、症状の重症度を軽減すること、急性エピソードの重症度を軽減すること、症状の数を減少させること、疾患に関連する症状の発生率を低下させること、症状の潜伏期間を短縮すること、症状を改善させること、二次症状を軽減すること、二次感染を減少させること、患者の生存期間を延長すること、またはそれらの組み合わせを指す。
【0057】
本明細書で用いられる場合、「調節する」または「調節すること」という用語は、言及された活性のいずれかを、例えば、増加させる、増強する、増加させる、増大させる、刺激する(アゴニストとして作用する)、促進する、減少させる、低下させる、抑制する、阻止する、または弱める(アンタゴニストとして作用する)ことを意味する。調節によって、活性を、ベースライン値と比べて1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、100倍等を超えるまで増加させることができる。調節によって、ベースライン値を下回るまでその活性を減少させることもできる。
【0058】
「防止する」、「防止すること」、「防止」、「予防的処置」等の用語は、障害または状態を有していないが、それを発症するリスクがあるかまたは発症しやすい対象において、障害または状態を発症する可能性を低下させることを指す。
【0059】
本明細書で用いられる「疾患」という用語は、「障害」および「状態」(医学的状態などの場合)という用語と一般的に同義であることが意図され、それらと互換的に使用される。これらの用語がすべて、正常な機能を損ない、典型的には特徴的な徴候および症状によって現れ、かつヒトまたは動物の寿命または生活の質を低下させる、ヒトまたは動物の身体またはその部分のうちの1つの異常な状態を反映するためである。
【0060】
「減少する」、「低下した」、「低下」、「減少する」、または「阻害する」という用語はすべて、一般的には統計的に有意な量の減少を意味するように本明細書において用いられる。しかしながら、誤解を避けるために、「低下した」、「低下」、または「減少する」もしくは「阻害する」は、参照レベルと比較して少なくとも10%の減少、例えば、参照レベルと比較して少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の減少、もしくは100%を含む最大100%の減少(例えば、参照試料と比較してレベルが存在しない)、または10~100%の間の任意の減少を意味する。
【0061】
「増加した」、「増加する」、または「増強する」もしくは「活性化する」という用語はすべて、一般的には統計的に有意な量の増加を意味するように本明細書において用いられる;いかなる誤解も避けるために、「増加した」、「増加する」、または「増強する」もしくは「活性化する」という用語は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増加、例えば、参照レベルと比較して少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の増加、もしくは100%を含む最大100%の増加、または10~100%の間の任意の増加、あるいは参照レベルと比較して少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍の増加、または2倍~10倍の間もしくはそれ以上の任意の増加を意味する。
【0062】
「有効量」、「有効用量」、または「有効投薬量」という用語は、所望の効果を達成するかまたは少なくとも部分的に達成するのに十分な量として定義される。薬物または治療剤の「治療有効量」または「治療有効投薬量」は、単独でまたは別の治療剤と組み合わせて使用された場合に、疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度および持続時間の増加、または疾患罹患による機能障害もしくは身体障害の防止によって証明される疾患の退縮を促進する薬物の任意の量である。薬物の「予防有効量」または「予防有効投薬量」は、疾患を発症するまたは疾患を再発するリスクのある対象に単独でまたは別の治療剤と組み合わせて投与された場合に、疾患の発症または再発を阻害する薬物の量である。治療剤または予防剤が疾患退縮を促進するまたは疾患の発症もしくは再発を阻害する能力は、臨床試験中のヒト対象において、ヒトにおける効果を予測する動物モデル系において、またはインビトロアッセイにおいて薬剤の活性をアッセイすることによってなど、当業者に公知の種々の方法を用いて評価することができる。
【0063】
用量は、体重との関連で表される場合が多い。したがって、[g、mg、またはその他の単位]/kg(またはg、mg等)として表される用量は、たとえ「体重」という用語が明示的に言及されていないとしても、通常は「体重1 kg(またはg、mg等)当たりの」[g、mg、またはその他の単位]を指す。
【0064】
「薬剤」という用語は、化学化合物、化学化合物の混合物、生体高分子(核酸、抗体、タンパク質、もしくはその一部、例えばペプチド、など)、または例えば細菌、植物、真菌、もしくは動物(特に哺乳動物)の細胞もしくは組織などの生体材料から作製された抽出物を示すために用いられる。そのような薬剤は、その活性によって、対象において局所的にまたは全身に作用する生物学的、生理学的、または薬理学的に活性のある物質(複数可)である「治療剤」として適したものとなり得る。
【0065】
「治療剤」、「治療可能薬剤」、または「処置剤」という用語は、互換的に使用され、対象への投与に際して何らかの有益な効果を付与する分子または化合物を指す。有益な効果には、診断の決定を可能にすること;疾患、症状、障害、または病的状態を改善すること;疾患、症状、障害、または状態の発症を低減させるまたは防止すること;および一般的に疾患、症状、障害、または病的状態を打ち消すことが含まれる。
【0066】
本明細書で用いられる場合、「治療有効量」または「有効量」は、所望の生物学的結果をもたらすための薬剤の非毒性であるが十分な量を指す。その結果は、疾患もしくは障害の徴候、症状、もしくは原因の低減および/もしくは軽減、または生物系の任意の他の所望の変化であってよい。任意の個々の症例における適切な治療量は、日常的実験を使用して当業者によって決定することができる。
【0067】
「併用」療法は、本明細書で用いられる場合、文脈から明らかでない限り、協調した様式での2種またはそれ以上の治療剤の投与を包含することを意味し、同時投薬を含むがこれに限定されない。具体的には、併用療法は、一方の治療剤の投与が、もう一方の治療剤の投与に対して何らかの方法で条件付けられている限り、同時投与(例えば、合剤の投与または別個の治療用組成物の同時投与)および連続または逐次投与の両方を包含する。例えば、一方の治療剤は、異なる治療剤が投与され、規定の期間作用させた後にのみ投与され得る。例えば、Kohrt et al. (2011) Blood 117:2423を参照されたい。
【0068】
本明細書で用いられる場合、「枯渇」という用語は、所与の細胞型の機能を低下させるもしくは除去すること、細胞を無効にすること、細胞の増殖を部分的もしくは完全に除去すること、および/または細胞を死滅させることを指す。
【0069】
本明細書で用いられる場合、「抗体」(Ab) という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体および多反応性抗体)、ならびに抗体断片を含む。したがって、本明細書内の任意の文脈で用いられる「抗体」という用語は、任意の特異的結合メンバー、免疫グロブリンのクラスおよび/またはアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgD、IgE、およびIgM);ならびに、Fab、F(ab')2、Fv、およびscFv(一本鎖または関連実体)などを含むがこれらに限定されない、生物学的に関連する断片またはその特異的結合メンバー、を含むがこれらに限定されないことを意味する。抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重 (H) 鎖および2本の軽 (L) 鎖を有する糖タンパク質またはその抗原結合部分であることが、当技術分野で理解されている。重鎖は、重鎖可変領域 (VH) ならびに重鎖定常領域(CH1、CH2、およびCH3)からなる。軽鎖は、軽鎖可変領域 (VL) および軽鎖定常領域 (CL) からなる。重鎖および軽鎖の両方の可変領域は、フレームワーク領域 (FWR) および相補性決定領域 (CDR) を含む。4つのFWR領域は比較的保存されているが、CDR領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)は超可変領域を表し、NH2末端からCOOH末端に向かって以下のように配置されている:FWR1、CDR1、FWR2、CDR2、FWR3、CDR3、およびFWR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含むが、アイソタイプによっては、定常領域が宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。本明細書で用いられる「抗体」の定義には、キメラ抗体、ヒト化抗体、および組換え抗体、トランスジェニック非ヒト動物から作製されたヒト抗体、ならびに当業者が利用できる濃縮技術を使用してライブラリーから選択された抗体もまた含まれる。
【0070】
本明細書で用いられる場合、「インビトロ」という用語は、多細胞生物内ではなく、人工的環境において、例えば、試験管または反応容器内、細胞培養物内などで起こる事象を指す。
【0071】
本明細書で用いられる場合、「インビボ」という用語は、非ヒト動物などの多細胞生物内で起こる事象を指す。
【0072】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、「1つの (a)」、「1つの (an)」、または「その」という単数形は、文脈がそうでないことを明らかに示していない限り、複数の対象物を含むことが、本明細書において留意される。
【0073】
「含む (including)」、「含む (comprising)」、「含有する」、または「有する」という用語、およびそれらの変化形は、特に断りのない限り、その後に列挙される項目およびそれらの等価物ならびに追加の事項を包含することを意味する。
【0074】
「1つの態様において」、「様々な態様において」、「いくつかの態様において」等の語句は、繰り返して使用される。このような語句は、必ずしも同じ態様を指すわけではないが、文脈がそうでないことを示していない限り、同じ態様を指す場合もある。
【0075】
「および/または」または「/」という用語は、この用語に関連する項目の任意の1つ、項目の任意の組み合わせ、または項目のすべてを意味する。
【0076】
「実質的に」という単語は「完全に」を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物はYを完全に含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に」という単語は、本発明の定義から省略してもよい。
【0077】
本明細書で用いられる場合、「各」という用語は、項目の収集物に関連して用いられる場合には、収集物中の個々の項目を特定することが意図されるが、必ずしも収集物中のあらゆる項目を指すわけではない。明確な開示または文脈がそうではないことを明らかに示す場合、例外も生じ得る。
【0078】
本明細書において提供されるありとあらゆる実施例または例示的な言語(例えば、「~など」)の使用は、単に本発明をより良く明らかにすることを意図しているに過ぎず、別に特許請求されない限り、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書におけるいかなる言語も、特許請求されていない任意の要素を本発明の実施に必須なものとして示していると解釈されるべきではない。
【0079】
本明細書に記載される方法はすべて、本明細書において別段の指示がない限りまたは文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われる。提供される方法のいずれに関しても、方法の段階は、同時にまたは逐次的に行われ得る。方法の段階が逐次的に行われる場合、特に断りのない限り、段階は任意の順序で行われ得る。
【0080】
方法が段階の組み合わせを含む場合、本明細書において特に断りのない限り、段階のありとあらゆる組み合わせまたはサブ組み合わせが本開示の範囲内に包含される。
【0081】
本明細書で引用される各出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、本開示と矛盾しない程度にまで、その全体が参照により組み入れられる。本明細書で開示されている出版物は、本発明の出願日よりも前にそれらが開示されたというだけの理由で提供される。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のためにそのような出版物に先行する資格がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供された出版物の日付は、実際の出版日とは異なる場合があり、個別に確認する必要がある場合がある。
【0082】
本明細書に記載される実施例および態様は例示目的にすぎないこと、ならびにそれらを考慮した様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【実施例0083】
IV. 実施例
実施例1
本実施例では、以降の実施例で使用する材料および方法を説明する。
【0084】
マウス
C57BL/6/J、FoxP3YFP-Cre、Rag1-/- (B6.129S7-Rag1tm1Mom/J) マウスは、Jackson Laboratoriesから購入した。CD36fl/flマウスは、以前に記載された通りに作製した (Son, N. H. et al. J Clin Invest 128, 4329-4342 (2018).)。PPARγfl/flおよびPPARβfl/flマウスは、Dammone, G.ら (Dammone, G. et al. International journal of molecular sciences 19 (2018)) に記載された通りに作製した。BRafCA; Tyr::CreER; Ptenlox4-5 (Braf/Pten) は、Dankortら (Dankort et al. Nature Genetics volume 41, pages544-552 (2009)) に記載されている。NSCLCのK-rasLSL-G12D/+/p53fl/fl条件付きマウスモデルは、DuPageら (DuPage et al. Nature Protocols volume 4, pages1064-1072 (2009)) に記載されている。動物は、University of Lausanneの特定病原体除去施設で飼育し、実験研究はすべて、Swiss Animal Welfare Ordinanceにより施行される指針および規制に従って承認され、実施した。
【0085】
細胞株およびインビトロ培養
YUMM1.7黒色腫細胞株は、Meeth, K., et al. (Meeth, K., et al. Pigment cell & melanoma research 29, 590-597, (2016)) に記載されている。YUMM1.7およびB16-ova黒色腫細胞株は、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEMで培養し、対数増殖期にある時に実験に使用した。MC38結腸腺がん細胞株は、Hovesら (Hoves et al. Journal of Experimental Medicine, 215 (3) 859-876 (2018)) に記載されている。MC38細胞株は、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むIMDM中で維持した。
【0086】
がん細胞馴化培地およびiTregの培養
iTregは、10% FBS、10ng/ml TGFβ、および50U/ml IL-2を補充したRMPI培地中で、抗CD3 mAbおよび抗CD28 mAb結合Dynabeads (ThermoFisher) を用いてナイーブCD4+ T細胞を3日間活性化することにより作製した。次いで、活性化CD4+ T細胞を、RPMI培地+10% FBSおよび50U/ml IL-2中でさらに2日間維持した。分化したiTregは、まず初めにFACSセルソーターを使用して選別し、次いで表示された培養条件において48時間インキュベートした。次いで、iTregの生存率およびNAD/NADHレベルを、それぞれlive/dead染色およびELISAキットにより決定した。PPARβアゴニストで処理したCD36-KO iTregのNAD/NADH測定のために、選別されたiTregを、DMSOまたはGW50156の存在下においてがん細胞馴化培地中で48時間培養した。iTregインビトロ処理用の対照RPMIは、RPMI1640培地 (Biological Industries) に2mMグルコース、10mMグルタミン、10%透析済みFBS、0.1% β-ME、および表示レベルの乳酸を補充して調製した。YUMM1.7がん細胞馴化培地は、YUMM1.7細胞(70~80%密度)を上記の対照RPMIと共に18時間インキュベートすることにより収集した。次いで、培養液を収集し、2000 rpmで15分間遠心分離して、残屑およびがん細胞を除去し、がん細胞馴化培地とした。上記のように収集したYUMM1.7がん細胞馴化培地は、Treg培養の前に、製造業者の説明書に従って1:5の容積比でCleanascite(商標)試薬 (Biotech Support Group) で処理した。
【0087】
エクスビボ抑制アッセイ
Ly5.1マウスの脾臓由来のCD8 T細胞を、負の選択キット(MojoSortマウスCD8 T細胞単離キット、Biolegend)を用いて濃縮し、CellTrace(商標)CFSE細胞増殖キット (ThermoFisher) を用いて37℃で15分間染色した。1×104個のCD8細胞を、50U/ml IL-2からなるRPMI培地で96ウェル丸型プレートに播種した。FoxP3YFP-CreマウスまたはTregCD36-/-マウスの脾細胞またはTILから単離されたCD44+/YFP+ Treg (CD45.2+)を、Treg:Teffの表示比率に従って添加した。次いで、陰性対照群を除き、抗CD3/CD28結合Dynabeads (ThermoFisher) を培養物に補充した。細胞を37℃、5% CO2で72時間インキュベートし、次いでCD8+ T細胞の増殖を、フローサイトメトリー解析を用いてCFSE希釈により決定した。
【0088】
腫瘍の移植および腫瘍保有マウスの処理
腫瘍誘発については、3週齢Braf/Ptenマウスの皮膚表面を、以前に記載された通りに4-ヒドロキシタモキシフェンで処理して、腫瘍形成を誘発した (Ho, P. C. et al. Cancer Res 74, 3205-3217 (2014))。腫瘍移植については、5×104個の細胞のYUMM1.7腫瘍細胞、B16-OVA腫瘍細胞、または100万個のMC38腫瘍細胞を、50μl PBS中で皮下注入した。腫瘍移植後または表示の処理後2~3日ごとに腫瘍を測定し、算出した。腫瘍体積は、移植した腫瘍の場合は、体積=(長さ×幅2)/2、または誘発性腫瘍の場合は、体積=(長さ×幅×高さ)によって算出した。インビボ処理については、Yumm1.7保有マウスに、DMSOまたはPPARβアゴニスト (GW 501516)(体重1kg当たり1 mg、Cayman Chemical)のいずれかを3日ごとに腹腔内注射により投与した。抗体に基づいた処理については、腫瘍保有マウスを、表示の組み合わせに従って抗PD-1抗体(注射1回当たり200μg、BioXcell、クローン29F.1A12)および抗CD36抗体(注射1回当たり200μg、クローンCRF D-2712 (Driscoll, W. S., et al. Circulation research 113, 52-61 (2013))で、腹腔内注射により処理した。Braf/Ptenマウスモデルにおける抗体処理については、腫瘍誘発の4週間後に、腫瘍保有Braf/Ptenマウスを、上記の通りに抗CD36抗体および/または抗PD-1抗体で10日間処理した。実験はすべて、スイス連邦規則に従って実施した。
【0089】
腫瘍の消化および細胞の単離
腫瘍を、2% FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン (p/s)、DNase I(1μg/ml、Sigma-Aldrich)、およびコラゲナーゼ(0.5 mg/ml、Sigma-Aldrich)を含有するRPMI中で小片になるよう分割し、消化のために37℃で40分間維持し、その後70μmのセルストレーナーでろ過した。ろ過した細胞をACK溶解緩衝液 (Invitrogen) と共にインキュベートして赤血球を溶解し、次いで蛍光活性化セルソーター (FACS) 緩衝液(2%ウシ胎仔児血清および2 mM EDTAを含むリン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した。腫瘍浸潤白血球を、以前に記載された通りに、室温でのパーコール密度勾配遠心分離(800×g、30分)によりさらに濃縮した (Cheng, W. C. et al. Nat Immunol 20, 206-217 (2019))。
【0090】
フローサイトメトリー、細胞選別、および抗体
単一細胞懸濁液を、染色の前に、Fc受容体遮断性の抗CD16/32 (93) 抗体および抗CD351 (TX61) 抗体 (Biolegend) と共に氷上で10分間インキュベートした。細胞懸濁液を、まずLIVE/DEAD(登録商標)固定可能バイオレット死細胞染色キット (ThermoFisher) を用いて37℃で10分間染色した。洗浄後、表面タンパク質を4℃で30分間染色した。エクスビボ再刺激時のサイトカイン産生を検出するために、細胞懸濁液を、10% FBSを含むRPMI 1640に再懸濁し、次いで、1μg/ml抗CD3抗体(クローン145-2C11、Biolegend)および抗CD28抗体(クローン37.51、Biolegend)でコーティングされたプレートに添加し、2.5μg/mlブレフェルジンA溶液 (BFA)(Biolegend) の存在下において37℃でさらに5時間置いた。細胞を処理して上記のように表面マーカー染色を行い、次いで細胞内サイトカイン染色を行った。試料はLSRIIフローサイトメーター (BD Biosciences) で解析し、データはFlowJoで解析した。細胞は、FACSAria(商標)IIIソーター (BD Biosciences) またはSH800Sセルソーター (Sony) のいずれかで選別した。マウスタンパク質に対する以下の抗体を使用した:抗CD45 (30-F11)、抗CD3ε (17A2)、抗CD4 (RM4-5)、抗CD8a (53.6.7)、抗CD44 (IM7)、抗62L (Mel-14)、抗PD1 (RMP1-30)、抗CD134 (OX40) (OX-86)、抗CD357 (GITR) (DTA-1)、抗CD36 (CRF D-2712)、抗IgA (mA-6E1)、抗FoxP3 (MF-14)、抗IFN-γ (XMG1.2)、抗TNF-α (MP6-XT22)、抗IL17A (TC11-18H10.1)、抗Ki67 (16A8)、抗CD278 (ICOS) (15F9)、抗CD152 (CTLA4) (UC10-4B9)、切断型カスパーゼ-3(Asp175)。これらの抗体は、Biolegend、eBiosciences、およびCell Signalingから購入した。
【0091】
ミトコンドリア、脂肪酸取り込み、および脂質含有量のアッセイ
ミトコンドリア膜電位を測定するために、細胞を洗浄し、それぞれ作業濃度10nmおよび100nMのMitoTracker(登録商標)Deep Red FM (ThermoFisher) およびMitoTracker(登録商標)Green FM (ThermoFisher) を含有する予め加温した(37℃)染色液(2% FBSを含むRPMI)と共に15分間インキュベートした。染色後、細胞を洗浄し、新鮮なFACS緩衝液に再懸濁して、上記のように表面マーカー染色を行った。脂肪酸取り込みを測定するために、細胞を、最終濃度0.5μMのC1-BODIPY(登録商標)500/510 C12 (Life Technologies) を含有するRPMI培地(またはヒトT細胞培養液)中で37℃で15分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をFACS緩衝液で洗浄し、表面染色を行った。脂質含有量の検出については、細胞を透過処理および固定化した後、最終濃度500ng/mlのBODIPY(登録商標)493/503 (Life Technologies) を用いて、他の細胞内タンパク質と共に染色した。
【0092】
RNA配列決定およびバイオインフォマティクス解析
FoxP3YFP-CreマウスまたはTregCD36-/-マウス由来の500~600個の生存CD4+/CD44+/YFP+腫瘍内Tregを、FACSセルソーターにより、0.2% (vol/vol) Triton X-100溶液 (MgBCH-Axon Lab) およびRNase阻害剤 (Clontech) からなる4μl溶解緩衝液中に直接単離した(少なくとも99%の純度で)。試料を含むプレートを密封し、瞬間凍結させ、-80℃で維持し、その後、以前に記載されたSmart-Seq2プロトコールのバージョンに従ってさらに処理した (Picelli, S. et al. Nature protocols 9, 171-181 (2014))。RNA配列決定生データは、標準的なRNA-seq解析パイプラインによって処理した。簡潔に説明すると、リードのアラインメントをtophat2 v2.1.0を用いて調べ、次いでハツカネズミ (Mus musculus) GRCm38.p4ゲノムバージョンと比較した。アライメントの後、各遺伝子にマッピングされたリードを、HTseqカウントを用いて注釈付けした。差次的発現解析は、DESeq2 Rライブラリーに基づいて行った。次いで、START WebベースのRNA-seq解析資源により、差次的発現試験および可視化を検討した (Nelson, J. W., et al. Bioinformatics 33, 447-449 (2017).)。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) は、GSEAソフトウェアを用いて行った。
【0093】
電子顕微鏡解析および組織学的解析
電子顕微鏡解析のために、選別された細胞をグルタルアルデヒド2.5% (EMS) および四酸化オスミウム1% (EMS) 中で4℃で一晩固定し、翌日に水およびアセトン (Sigma) で数回洗浄し、Epon (Sigma) 樹脂に包埋した。画像化の前に、Leicaウルトラカットミクロトームを使用して50nmのスライドを調製し、酢酸ウラニル (Sigma) およびReynoldsクエン酸鉛 (Sigma) を使用してコントラストをつけた。電子顕微鏡画像は、透過型電子顕微鏡Philips CM100で80kVの加速にて、TVIPS TemCam-F416デジタルカメラを用いて4800倍および11'000倍の倍率で撮影した。画像解析および定量化は、EMMENU、3dmod (University of Colorado)、およびFifi (ImageJ) ソフトウェアを用いて行った。選別された細胞1個当たりのミトコンドリアを定量化するために、グリッドを適用し、各交点を核、細胞質、またはミトコンドリアの一部であると定義し、クリステ密度の決定のために、各クリステの長さをミトコンドリアの面積で割って測定した。組織学的解析のために、臓器を切り取りラベル付きカセットに入れ、ホルマリン中で24時間固定し、さらに溶融パラフィンワックスに包埋した。厚さ3~5μmのパラフィン切片を、標準的な手順に従ってヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。画像は、Nikon Eclipse Ti-S倒立顕微鏡で撮影し、エクスポートした。
【0094】
ヒト患者の評価
本研究は、承認されたプロトコールの下で、ヒト試料の倫理規制の指針に従って実施した。ヒト試料は安全規制に従って解析し、FACS解析のために以下の抗体で染色した:抗CD45 (2D1)、抗CD3 (SK7)、抗CD4 (SK3)、抗CD25 (BC96)、抗CD8 (RPA-TP)、抗CD36 (TR9)、抗PD1 (E12.1)、および抗FoxP3 (150D)。
【0095】
大腸炎のT細胞移植モデル
FoxP3YFP-CreマウスまたはTregCD36-/-マウスのいずれかの脾臓からWT TregおよびCD36-KO Tregを選別し、負の磁気選択(MojoSortマウスCD4 T細胞単離キット、Biolegend)とFACS選別の組み合わせを用いてナイーブCD4+ T細胞を回収した(>純度98%)。大腸炎を誘発するために、ナイーブCD4+ 細胞(5×105個の細胞)をRag1-/-レシピエントに静脈内より移植した。いくつかのレシピエントでは、FoxP3YFP-CreマウスまたはTregCD36-/-マウスの脾細胞から単離された4×105個のCD44+/YFP+ TregをナイーブCD4+ T細胞と同時移植した。レシピエントマウスを、体重減少などの疾患の徴候について、移植後2日または3日ごとにモニターし、体重測定した。疾患の発症は通常、移植後4~5週間で起こる。本研究のエンドポイントには、体重減少、大腸炎の長さ、および下痢の判定を含めた。加えて、結腸および小腸を採取し処理して、ヘマトキシリンおよびエオシン染色によりさらに評価した。
【0096】
NADおよびNADHの測定
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD) とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水和物 (NADH) の比率は、市販のNAD/NADH定量キット (Sigma-Aldrich MAK037) を用いて測定した。酵素によるNADおよびNADHの消費を防ぐために、細胞をまず脱タンパクした。冷PBSで洗浄した後、NAD/NADH抽出緩衝液 (200μl) に懸濁した細胞ペレットを2回繰り返しの凍結融解サイクルで処理し、次いで13000×gで4℃で5分間遠心した。次いで、上清を2つの一定分量に分割し、一方はNAD総量の検出用であり、他方はNAD分解のために60℃で30分間加熱した。次いで、試料を96ウェルプレートに移し、450 nmの吸光度を測定した。酸化型NAD (NAD+) の量は、NAD総量からNADHを差し引いて提示した。試料中のNAD/NADHの比率は、以下の式によって決定することができた:比率=(NAD総量-NADH)/NADH。
【0097】
Seahorse細胞外フラックス解析
細胞外フラックス解析は、わずかな修正を加えて、以前に記載された通りにXF96 Seahorse細胞外フラックスアナライザー用いて行った (Liu, P. S. et al. Nat Immunol 18, 985-994 (2017))。細胞をオリゴマイシン(0.5μM、Sigma-Aldrich)、FCCP(2μM、Sigma-Aldrich)、ロテノン(0.5μM、Sigma-Aldrich)、アンチマイシンA(0.5μM、Sigma-Aldrich)、グルコース(10mM、Sigma-Aldrich)、および2-DG(50mM、Sigma-Aldrich)で処理した。各条件は、1つの実験において3~6回繰り返して行った。
【0098】
統計解析
統計解析は、両側独立スチューデントt検定を用いて行った。生存曲線解析には、ログランク(マンテル・コックス)検定を使用した。各点は生物学的複製物を表し、データはすべて、表示の通りに平均値±SDまたは平均値±SEMとして提示した。P値は以下のように表示した:***P<0.001、**P<0.01、および*P<0.05。P<0.05を統計的に有意であると見なした。
【0099】
データの利用可能性
腫瘍内Tregに関するRNA-seqデータは、遺伝子発現Omnibusデータベースにおいて利用可能である。
【0100】
実施例2
腫瘍内Tregは脂質代謝およびCD36発現を増加させた
腫瘍内Tregが特定の代謝経路に優先的に関与しているかどうかを明らかにするために、以前に公表された研究における、乳がん患者から得られた腫瘍内Tregおよび循環TregからのRNA配列結果をまず解析した (Plitas, G. et al. Immunity 45, 1122-1134)。特に代謝経路に重点を置いた遺伝子経路解析から、腫瘍内Tregは、循環Tregと比較して、脂質代謝に関与する代謝遺伝子を高発現していることが明らかになり(図1aおよび1b)、腫瘍内Tregがその脂質代謝を増加させ得ることが示唆された。実際に、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者由来の末梢血単核細胞 (PBMC) と腫瘍内のTregを比較すると、腫瘍内Tregが、緑色蛍光脂肪酸であるBodipy FL C12をより多く取り込み、Bodipyの染色に基づいて中性脂質をより多く含んでいたことが示される。これらの表現型をさらに探索するために、黒色腫細胞移植モデルを用いて、腫瘍およびその他の末梢組織に存在するTregの脂質代謝を評価した。結果から、腫瘍内Tregは、YUMM1.7黒色腫保有マウスの他の組織由来のTregと比較して、脂肪酸を取り込む高い能力を示し(図1c)、脂質含有量がより高い(図1c)ことが示された。同様に、B16黒色腫保有マウスの腫瘍内Tregもまた、脂肪酸取り込みの増強を示した。これらの知見から、腫瘍内Tregによる脂質代謝の増加は、ヒトおよびマウスモデルの両方で保存された表現型であることが示唆される。注目すべきことには、脂質取り込みを制御する遺伝子のうち、長鎖脂肪酸および酸化低密度リポタンパク質の取り込みに関与するスカベンジャー受容体であるCD36が、乳がん患者由来の循環Tregと比較して腫瘍内Tregにおいて有意に上方制御されていた(Plitas, G. et al. Immunity 45, 1122-1134)。黒色腫患者由来のPBMCおよび腫瘍浸潤リンパ節 (TILN) 内のTregを調べることにより、大多数の患者由来の腫瘍内Tregが高レベルのCD36を発現していることが確認された(図1e)。加えて、Yumm1.7黒色腫保有マウス由来の腫瘍内Tregは高レベルのCD36を発現していたが、他の末梢組織または二次リンパ器官に存在するTregはそうではなかった(図1f)。著しくは、腫瘍内Tregで見られたCD36の発現増加はまた、B16黒色腫モデル、遺伝子操作されたBraf/PTEN黒色腫マウスモデル、およびNSCLCのK-rasLSL-G12D/+/p53fl/fl条件付きマウスモデルでも観察された。さらに、がん細胞培養物から得られた馴化培地中で誘導性Treg (iTreg) を培養すると、CD36の発現が劇的に増加したが、低酸素および乳酸ではTregにおけるCD36発現を誘導することはできなかった。注目すべきことには、脂質を除去すると、TregにおけるCD36発現の刺激に及ぼすがん細胞馴化培地の効果は消失した。まとめると、これらの結果から、TMEはTregにおけるCD36発現を刺激することができ、これが腫瘍内Tregの代謝適応の要求を支持し得ることが示唆される。
【0101】
実施例3
CD36は腫瘍内Tregの蓄積および抑制機能を制御する
CD36の発現が腫瘍におけるTregの挙動を調節するかどうかを検討するために、CD36fl/flマウスとFoxp3YFP-Creマウスを交配させることによりTreg特異的CD36欠損マウス(TregCD36-/-と命名)を作製した。Tregにおける重要な調節因子の遺伝的除去により、Tregの抑制機能の障害に起因してTリンパ球の全身的活性化および自己免疫が起こり得ることを考慮して、TregにおけるCD36の欠損が免疫恒常性に影響を及ぼすどうかをまず調べた。老齢TregCD36-/-マウス(21~23週)は、雌雄ともにFoxp3YFP-Creマウス(本研究を通して野生型マウスと称される)と同等の体重を示すことが見出された。TregCD36-/-マウスはまた、WTマウスと比較して、CD4+およびCD8+の両方のT細胞区画において同様の割合のエフェクターまたはメモリー集団(CD44hiCD62Llo)を含んでいた。さらに、TregCD36-/-マウスは、様々な臓器におけるリンパ球および骨髄系細胞の異常な浸潤も、重篤な全身性の炎症性障害も示さず(図2a)、このことから、CD36はTregが免疫恒常性を維持するために必要ではないことが示唆された。
【0102】
次いで、YUMM1.7黒色腫細胞をWTマウスおよびTregCD36-/-マウスに移植した。TregにおけるCD36の遺伝的除去により、腫瘍内Tregにおける脂質の取り込みおよび含有量は劇的に減少するが、脾臓Tregではそのように減少しないことが観察され(図2bおよび2c)、腫瘍内TregがCD36発現に依存して脂質取り込みの増強を支持することが示される。TregCD36-/-マウスにおける、移植されたYUMM1.7黒色腫(図2dおよび2e)、B16黒色腫、ならびにMC38結腸がんの増殖の減速もまた観察された。さらに、TregCD36-/-マウスでは、解析の終了時に腫瘍内Tregが大きく減少していたが、脾臓および流入領域リンパ節内のTregではそのように減少していなかった(図2f)。これは、強い抗腫瘍応答に関連する好ましいパラメータである、CD8+ TILの頻度およびCD8+ TILとTreg TILの比率の有意な増加を伴っていた。加えて、TregCD36-/-マウスにおける高頻度のCD8+ TILおよびCD4+/FoxP3- TILは、インターフェロン-γ (IFNγ) および腫瘍壊死因子-α (TNFα) を含む抗腫瘍エフェクターサイトカインを産生し(図2g)、このことから、TregCD36-/-マウスのTMEは免疫抑制が少ないことが示唆された。
【0103】
腫瘍内Tregの蓄積を支持する上でのCD36への依存性をさらに検証するために、X染色体の不活性化により媒介されて、WT Treg集団、およびFoxP3発現により駆動されるCD36ノックアウトTreg集団を同時に保有するヘテロ接合性Foxp3YFP-Cre/+/CD36fl/fl雌マウスを作製した。WT TregおよびCD36欠損Tregは、黄色蛍光タンパク質 (YFP) の発現に基づいて検出することができる。Creリコンビナーゼによって誘導される潜在的な毒性を排除するために、対照マウスとしてヘテロ接合性Foxp3YFP-Cre/+雌マウスもまた作製した。腫瘍を保有するFoxp3YFP-Cre/+/CD36fl/fl雌マウスおよびFoxp3YFP-Cre/+雌マウスの両方においてFoxP3+ Tregの中のYFP+集団を比較したところ、腫瘍におけるCD36欠損Treg(Foxp3YFP-Cre/+/CD36fl/flマウスにおけるCre+集団)の頻度の減少のみが検出され、一方、脾臓および流入領域リンパ節の両方におけるCre+ TregとCre- Tregとの頻度比は、Foxp3YFP-Cre/+/CD36fl/flマウスとFoxp3YFP-Cre/+マウスとの間で同等であった。この結果から、CD36発現が消失すると、内因性の調節により腫瘍内Tregの蓄積が選択的に妨げられることが示唆された。まとめると、これらの結果から、TMEに蓄積する能力をTregに選択的に付与する上でのCD36の重要な役割が明らかになる。
【0104】
実施例4
CD36は末梢恒常性を維持するのにTregにおいて必要ではなかった
興味深いことに、マウス黒色腫モデルにおいて、腫瘍内のエフェクターTreg (CD44hi/CD62Llo)は、腫瘍内のCD44lo Treg(休止Treg)と比較してより高レベルのCD36を発現していることもまた見出された。同様に、黒色腫患者のTIL由来の、エフェクターTregの最も抑制的なサブセットである腫瘍浸潤性のGITR+/CD25+エフェクターTregは、黒色腫患者および健常ドナー由来のPBMCにおけるGITR+/CD25+エフェクターTregと比較して、より高い割合でCD36を発現していた。腫瘍内Tregにおける免疫調節受容体の発現についても調べた。CD36-KO Tregは、WT Tregと比較して、グルココルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質 (GITR) およびOX40の発現を減少させるが、プログラム細胞死タンパク質1 (PD-1)、CD25、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA-4)、または誘導性T細胞共刺激因子 (ICOS) の発現は減少させないことが見出された。これらの結果から、CD36発現がエフェクターTregの抑制機能に寄与することが示唆される。この考えを支持するように、TregCD36-/-マウス由来の腫瘍内Tregは、エクスビボ抑制アッセイにおいて、WTの腫瘍内Tregと比較して抑制能力の低下を示した(図2h)。しかしながら、WTおよびCD36欠損の脾臓Tregは同等の抑制能力を示し(図2i)、このことから、CD36は腫瘍内Tregの抑制活性を支持するためにのみ必要であり、脾臓Tregの抑制活性を支持するためには必要ないことが示唆された。
【0105】
Tregが末梢性炎症を抑制するのにCD36が必要でないかどうかをさらに調べるために、T細胞移植誘発大腸炎の抑制に対するCD36欠損Tregの能力を解析した。ナイーブCD4+ T細胞移植後の2週間の時点で、体重減少などの疾患発症が検出された。しかしながら、CD36-KO Tregを同時移植すると、WT Tregと同等に、レシピエントマウスの体重減少を改善することができた(図2j)。さらに、研究終了時にいくつかの臓器を取り出し、処理して、組織学的検査によりさらに評価した。リンパ球および骨髄系細胞の大量の浸潤を誘発するナイーブCD4+ T細胞移植と比較して、WT TregまたはCD36-KO Tregのいずれかの同時移植は、レシピエントマウスにおいて、リンパ球および骨髄系細胞の浸潤、ならびに結腸および小腸の形態変化、結腸の短縮、および脾臓の肥大を妨げた。さらに、CD36の遺伝的除去は、腫瘍内Tregにおける、CD44、CD103、およびKLRG1を含む活性化マーカーの発現にも、FoxP3の発現(YFPの蛍光強度によって示される)にも影響しないことが見出された。しかしながら、CD36欠損の腫瘍内Tregでは、炎症性サイトカインであるIFNγおよびTNFの産生がわずかに増強され、このことから、CD36が、腫瘍内Tregにおいて炎症性サイトカインを産生する能力を抑制することが示唆された。まとめると、これらの結果から、CD36発現が腫瘍内Tregの抑制機能を特異的に支持することが示唆される。
【0106】
実施例5
CD36の欠損は腫瘍内Tregにおいてアポトーシスを刺激した
TMEにおけるCD36欠損Tregの細胞充実性の低下の根本的な基礎を検討するために、Ki67を染色することにより増殖能力をまず調べた。CD36欠損により腫瘍内Tregの増殖は変化しないことが見出された。WTの腫瘍内TregとCD36欠損の腫瘍内Tregのトランスクリプトームを比較したところ、CD36欠損Tregは、アポトーシスを制御する遺伝子の発現上昇を示すことが示された(図3a)。実際に、CD36欠損の腫瘍内Tregにおいて、より高レベルの切断型カスパーゼ-3(図3b)およびアネキシンV染色(図4h)が観察された。著しくは、流入領域リンパ節におけるわずかな増加を除いて、胸腺およびその他の二次リンパ器官由来のTregでは、CD36の欠損により切断型カスパーゼ-3レベルは増強されず、このことから、腫瘍内Tregが、アポトーシスを防ぐためにCD36を介した調節を必要とすることが示される。
【0107】
ミトコンドリアの代謝および適応性は、Tregの抑制機能および生存を調節することが示唆されているため(Yang, K. et al. Nature 548, 602-606 (2017);Weinberg, S. E. et al. Nature 565, 495-499 (2019);He, N. et al. PNAS 114, 12542-12547 (2017);Beier, U. H. et al. FASEB J 29, 2315-2326 (2015))、CD36欠損の腫瘍内Tregがミトコンドリア適応性を維持することができないかどうかを次に調べた。驚くべきことに、WT Tregと比較して、CD36欠損の腫瘍内Tregは、MitoTracker DeepRed染色により測定してミトコンドリア膜電位の低下を示したが、他の組織におけるTregはそのような低下を示さなかった(図3c)。この知見は、TregCD36-/-マウス由来の腫瘍内Tregでは、ミトコンドリアの数が少なく(図3d)、かつ各ミトコンドリア内のクリステの数も少ない(図3e)ことを示す電子顕微鏡解析により、さらに支持された。それにもかかわらず、WTとCD36欠損の脾臓Tregは、同等のミトコンドリア数およびクリステ密度を示した。CD36がTregのミトコンドリア代謝に及ぼす影響をさらに明らかにするために、WTまたはCD36欠損のCD4+ T細胞のいずれかから作製されたiTregを、先に示したようにCD36発現を誘導するためにがん細胞馴化培地で処理した。Seahorse細胞外フラックスアッセイを行った。図3fに示されるように、CD36欠損Tregは、酸素消費速度 (OCR) の低下を示した一方で、解糖速度の上昇を示した。これらの結果から、CD36の除去により酸化的リン酸化 (OXPHOS) が損なわれ、Tregの代謝優先度が好気的解糖に偏り得ることが示唆される。これらの知見から、腫瘍内TregにおけるCD36発現の増強は、TMEが課す代謝ストレスに応答したミトコンドリア適応性の調節を介してTregの代謝柔軟性を支持し得ることが示唆された(Li, X. et al. Nat Rev Clin Oncol (2019);Ho, P. C. et al. Cell 162, 1217-1228 (2015);Siska, P. J. & Rathmell, J. C. Trends Immunol 36, 257-264 (2015))。
【0108】
CD36欠損Tregが代謝負荷に応答して生存障害を示すかどうかもまた調べた。通常の培養条件(RMPI+10% FBS;RMPIとする命名)とは対照的に、がん細胞馴化培地に曝露されたCD36欠損Tregは、生存率の低下を示した。がん細胞馴化培地中では乳酸レベルが悪化し得、乳酸の蓄積がTMEの共通の特徴であるため、CD36欠損Tregは、多量の乳酸に起因してこの条件下で生存を維持することができない可能性があると仮定された。この仮説を支持するように、CD36欠損Tregは、乳酸の漸増用量に応答して深刻な生存障害を示すことが見出された(図3g)。この結果と一致して、電子伝達系活性の上昇が、TregにおいてNAD/NADH比の上昇をもたらして乳酸のピルビン酸への変換を支持することが、最近の研究により示唆され(Angelin, A. et al. Cell Metab 25, 1282-1293 e1287 (2017))、これは乳酸濃縮状態においてTregの生存を支持し得る。したがって、CD36欠損Tregは、ミトコンドリア適応性およびOXPHOSの低下に起因して、WT Tregと比較してより低いNAD/NADH比を有し得ると仮定された。実際、図3hに示されるように、CD36欠損TregはWT Tregと比較してより低いNAD/NADH比を有し、NADを補給するためにニコチンアミドリボシド (NR) を補充すると、がん細胞馴化培地に曝露されたCD36欠損Tregの生存率が部分的に回復した(図3i)。したがって、CD36欠損の腫瘍内Tregがインビボで存続できないのは、NADによって調節される代謝過程を介してTregが乳酸濃縮状態において生存できるようにするミトコンドリア適応性およびOXPHOSの低下による可能性がある。
【0109】
実施例6
CD36-PPARβシグナル伝達は腫瘍内Tregにおいて代謝適応を調整した
CD36が腫瘍内Tregにおいてミトコンドリア適応性をどのように刺激するのかを理解するために、乳がん患者由来の腫瘍内Tregと循環Tregのトランスクリプトームの変化を評価した。予測通り、腫瘍内Tregは、ミトコンドリアの機能および新生を制御する遺伝子を上方制御した。さらに、腫瘍内Tregは、PPARシグナル伝達経路に関与する遺伝子の発現増加を示すことが見出された(図4a)。CD36は、ミトコンドリアの活性および新生のPPARβ(PPARβはまたPPARβとも称される)依存的およびPPARγ依存的な調節を高めることにより、代謝組織における代謝柔軟性を支持することが示唆されているため、CD36誘導性の代謝再プログラミングは、脂質シグナルを提供してPPAR転写調節を調整することにより、腫瘍内Tregにおいてミトコンドリア適応性を促進する可能性がある。この考えを検証するために、PPARβfl/flマウスおよびPPARγfl/flマウスの両方とFoxp3YFP-Creマウスを交配させて、それぞれTreg特異的なPPARβ欠損マウス(TregPPARβ-/-と命名)およびPPARγ欠損マウス(TregPPARγ-/-と命名)を得た。TregにおけるPPARγの遺伝的除去により、腫瘍内Tregの蓄積もYUMM1.7黒色腫の増殖も損なわれないことが観察された。対照的に、TregPPARβ-/-マウスは、腫瘍内Tregの蓄積の減少(図4b)、移植したYUMM1.7黒色腫の増殖の減速(図4cおよび4d)、ならびにCD8+ TILの増加を含む、TregCD36-/-マウスの特徴的特性を再現した。CD36欠損の腫瘍内Tregと同様に、PPARβ欠損の腫瘍内Tregは、WTの腫瘍内Tregと比較して、ミトコンドリア膜電位の低下を示した(図4e)。注目すべきことには、PPARβ欠損の腫瘍内Tregは、WTの腫瘍内Tregと比較してより少ないCD36を発現した。脂質を除去すると、がん細胞馴化培地がTregにおいてCD36発現を誘導する能力が消失したことを考慮して、これらの結果から、脂質誘導性のPPARβシグナルが腫瘍内TregにおけるCD36誘導に寄与し得ることがさらに示唆される。
【0110】
CD36およびPPARβの活性化と、腫瘍内Tregの蓄積を支持する上でのそれらの役割との関係を明らかにするため、YUMM1.7黒色腫を移植したWTマウスおよびTregCD36-/-マウスを、PPARβ選択的アゴニスト (GW501516) または対照媒体のいずれかで2週間処理した。図4fおよび4gに示されるように、GW501516で処理することで、TregCD36-/-マウスにおいて腫瘍の増殖および腫瘍内Tregの存在量が回復した(図4fおよび4g)。加えて、GW501516で処理したTregCD36-/-マウス由来の腫瘍内Tregでは、ミトコンドリア膜電位が上昇しており、切断型カスパーゼ-3のレベルが低かった(図4hおよび4i)。これと並行して、CD36欠損TregにおいてGW501516処理するとNAD/NADH比が上昇し、このことから、CD36制御性の脂質取り込みがPPARβ経路を活性化して、腫瘍内Tregにおけるミトコンドリア適応性およびNAD/NADH比の増強を支持することが示される。さらに、PPARβ経路の活性化は、CD36発現を増強することにより、腫瘍内TregにおけるCD36媒介性の代謝適応をさらに増幅させる可能性がある。まとめると、これらの結果から、CD36-PPARβシグナル伝達は、代謝プログラムを調整して、TMEにおけるTregの持続性を支持したことが明らかになる。
【0111】
実施例7
CD36の標的化は、腫瘍内Tregを損なうことにより抗腫瘍免疫を強化した
次に、CD36媒介性の代謝適応を阻止することで、Tregの全身的消失およびTreg抑制機能の全体的障害を伴わずに、腫瘍内Tregを特異的に妨げることができるかどうかを検討した。Yumm1.7黒色腫を移植したマウスを、CD36媒介性の脂肪酸および酸化低密度リポタンパク質の取り込みを妨げる抗CD36モノクローナル抗体 (mAb) で処理した。図5aに示されるように、抗CD36 mAbで処理すると、腫瘍増殖は減少し、腫瘍内Tregの蓄積の減少を伴ったが、その一方で脾臓および流入領域リンパ節ではTreg集団は維持された(図5bおよび6a)。TregにおけるCD36の遺伝的除去と同様に、抗CD36 mAb処理は、腫瘍内Tregにおいてアポトーシスを促進し(図5c)、CD8+ T細胞の腫瘍浸潤の有意な増加をもたらした(図6b)。加えて、抗CD36 mAbでマウスを処理すると、CD8+ TILおよびCD4+ TILにおける抗腫瘍エフェクターサイトカインの産生が改善された(図6cおよび6d)。CD36発現は、代謝柔軟性ならびにがん細胞およびその他の免疫細胞における転移を支持し得るため、抗CD36 mAbによって誘導される抗腫瘍応答は、Treg非依存的である可能性がある。この考えを検証するために、TregCD36-/-マウスをレシピエントとして使用して同様の処理を行った。結果から、抗CD36 mAb処理は、TregCD36-/-マウスにおいて腫瘍進行を抑制することができないことが示され(図5d)、このことから、抗CD36 mAb処理によって誘導される抗腫瘍応答は、他のCD36発現細胞ではなくTregにおいて発現したCD36を標的とすることに主に起因し得ることが示される。
【0112】
T細胞の疲弊は、Treg標的化介入の治療結果を制限する可能性があるため、疲弊したT細胞をPD-1遮断により再活性化させることで、CD36遮断の抗腫瘍効果が強化されて、腫瘍進行が抑制され得る可能性がある。実際に、抗PD-1 mAbは、WTマウスと比較して腫瘍保有TregCD36-/-マウスにおいて、より効果的に腫瘍進行を制限し、生存期間を延長した(図5eおよび5f)。TregにおけるCD36の遺伝的除去に加えて、抗PD-1 mAbはまた、遺伝子操作されたBraf/PTEN黒色腫マウスモデル(図5g)およびYUMM1.7移植モデル(図5h)の両方において、抗CD36 mAbの抗腫瘍応答を強化した。これらの結果から、TregにおけるCD36を標的とすることで、TMEをより免疫刺激的な状態に再プログラミングできることが実証され、これは、T細胞の疲弊を防ぐためのPD-1遮断の効果を治療的に補完する可能性がある。このことは、CD36の遮断が、Tregの全身的な機能障害によって起こる副作用が軽減された新たな潜在的免疫療法介入であることを示唆している。
【0113】
チェックポイント遮断阻害剤(例えば、PD1阻害剤およびCTLA4阻害剤)の相乗効果が、図7a~fにおいてさらに実証される。腫瘍移植については、5×104個の細胞のYUMM1.7腫瘍細胞を、50μl PBS中で皮下注入した。腫瘍移植後または表示の処理後2~3日ごとに腫瘍を測定し、算出した。腫瘍体積は、体積=(長さ×幅2)/2、によって算出した。抗体に基づいた処理については、腫瘍保有マウスを、表示の組み合わせに従って抗PD-1抗体(注射1回当たり200μg、BioXcell、クローン29F.1A12)、抗CTLA4抗体(注射1回当たり200μg、BioXcell、クローン9D9)、および抗CD36抗体(注射1回当たり200μg、クローンCRF D-2712)で、腹腔内注射により処理した。
【0114】
図7a、7c、7d、および7eに示されるように、Yumm1.7黒色腫を移植したマウスを抗CD36モノクローナル抗体 (mAb)および抗CTLA4 mAbで処理した。抗CD36 mAbで処理すると、腫瘍増殖は減少し、腫瘍内Tregの頻度の低下を伴ったが、その一方で脾臓および流入領域リンパ節ではTreg集団は維持された。抗CTLA4 mAbの処理によって、これを達成することはできなかった。加えて、図5hに示された結果と同様に、抗PD-1 mAbはまた、YUMM1.7移植モデルにおいて抗CD36 mAbの抗腫瘍応答を強化したが、抗PD-1 mAbと抗CTLA4 mAbの併用処理でも腫瘍増殖は減少した。これらの結果から、TregにおけるCD36を標的とすることで、TMEをより免疫刺激的な状態に再プログラミングできることが示され、これは、腫瘍進行を防ぐためのPD-1遮断の効果を治療的に埋め合わせる可能性がある。
【0115】
本開示において提示された結果は、腫瘍内TregがCD36の発現を上方制御して、脂肪酸の取り込みを促進することを示す。取り込まれた脂肪酸は、ミトコンドリアの新生および機能を制御するPPARβ媒介性の転写プログラムを活性化することにより、ミトコンドリア適応性をさらに支持する。CD36を発現している腫瘍内Tregにおいてミトコンドリア適応性が増強されることで、電子伝達系複合体Iを介してNADの再生が起こり、これは次に乳酸→ピルビン酸の変換を維持する。NADの再生を介して乳酸→ピルビン酸の変換が継続的に支持される結果として、腫瘍内Tregは酸性の腫瘍微小環境において生存することができ、免疫抑制活性を支持するために乳酸由来のピルビン酸を利用する可能性がある。
【0116】
代謝過程が免疫細胞における免疫応答を調整する調節回路を利用することは、疾患における宿主免疫を微調整するための魅力的な戦略である。本開示は、CD36-PPARβシグナル伝達が、ミトコンドリア適応性およびNADレベルを調節することにより、腫瘍内Tregにおいて生存および機能的適応性を維持することを実証した。TMEで生じる代謝ストレスの特有性および腫瘍内Tregに対するCD36-PPARβシグナル伝達の選択性により、CD36を標的とすることで、がん患者において免疫および末梢組織の恒常性に悪影響をほとんど及ぼすことなく幅広い治療可能性を提供することができる。さらに、PD-1遮断とCD36標的化による併用処理によって誘発される相加的な抗腫瘍効果は、潜在的ながん処理としてCD36阻害アプローチの開発をさらに保証する。
【0117】
本明細書において開示され特許請求される方法および装置はすべて、本開示の観点から過度の実験を行うことなく作製および実行することができる。本発明を好ましい態様に関して記載してきたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、装置、方法、および方法の段階の順序に変更がなされ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、ある特定の成分を本明細書に記載される成分に添加し、該成分と組み合わせ、または該成分に対して置き換えて、同じまたは同様の結果が達成されることは明白であろう。当業者にとって明白であるそのような同様の置換物および修飾物はすべて、定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD36阻害剤である抗CD36抗体を含む、対象のがんの処置において腫瘍内CD4+制御性T細胞の頻度を減少させるためのまたは腫瘍内CD8+細胞傷害性T細胞の頻度を増加させるための、薬学的組成物。
【請求項2】
抗CD36抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または二重特異性抗体である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
抗CD36抗体が、腫瘍内に、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
処置が、追加の治療剤の投与をさらに含む、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
追加の治療剤が免疫チェックポイント調節因子を含む、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
免疫チェックポイント調節因子が、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、キラー免疫グロブリン受容体 (KIR)、LAG3、B7-H3、B7-H4、TIM3、A2aR、CD40L、CD27、OX40、4-IBB、TCR、BTLA、ICOS、CD28、CD80、CD86、ICOS-L、B7-H4、HVEM、4-1BBL、OX40L、CD70、CD40、および/またはGALSに特異的な抗体を含む、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
追加の治療剤が、抗PD-1 mAb、抗CTLA4 mAb、またはそれらの組み合わせを含む、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
対象ががんを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
がんが、口腔がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、呼吸器がん、泌尿生殖器がん、消化器がん、中枢もしくは末梢神経系組織のがん、内分泌もしくは神経内分泌がんまたは造血系のがん、神経膠腫、肉腫、がん腫、リンパ腫、黒色腫、線維腫、髄膜腫、脳がん、口腔咽頭がん、上咽頭がん、腎臓がん、胆道がん、褐色細胞腫、膵島細胞がん、リー・フラウメニ腫瘍、甲状腺がん、副甲状腺がん、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、骨肉腫、多発性神経内分泌腫瘍I型およびII型、乳がん、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、食道がん、気管がん、肝臓がん、膀胱がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、結腸がん、直腸がん、ならびに皮膚がんからなる群より選択される、請求項8に記載の薬学的組成物。