(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153823
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】機能および抑制性環境に対する抵抗性を増強するための免疫細胞のマルチプレックスゲノム編集
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20241022BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N15/113 140Z
C12N15/113 ZNA
C12N15/09 110
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124210
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2021530101の分割
【原出願日】2019-11-27
(31)【優先権主張番号】62/772,406
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バサール、ラフェット
(72)【発明者】
【氏名】シュポール、エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(57)【要約】
【課題】操作された免疫細胞を特に含む癌免疫療法に関する組成物および方法を提供する
。
【解決手段】複数の遺伝子が破壊されている免疫細胞を作製するための方法が本明細書中
に提供される。免疫細胞の遺伝子の遺伝子座にキメラ抗原レセプターを挿入するための方
法がさらに提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫細胞の少なくとも2つの遺伝子を破壊するためのインビトロ方法であって、前記少なくとも2つの遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5およびCD7からなる群より選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年11月28日出願の米国仮特許出願第62/772,406号に対
する優先権を主張する。この仮出願は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本開示は、概して、免疫学、細胞生物学、分子生物学および医学の分野に関する。より
詳細には、本発明は、免疫細胞のマルチプレックス編集およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞免疫療法は、癌を処置できる大きな可能性を秘めている。しかしながら、ほとんど
の免疫療法のアプローチが、単独で適用されたとき、悪性腫瘍、特に固形腫瘍の大部分に
対する価値は限定的である。この成功が限定的である理由としては、腫瘍細胞の表面上で
の腫瘍抗原の発現が低く、免疫系による腫瘍細胞の検出が低下していること、免疫細胞の
不活性化を誘導する阻害性レセプター(例えば、PD1、NKG2A、TIGITまたは
CISH)に対するリガンドが発現していること;および免疫応答を抑制し、腫瘍細胞の
増殖および生存を促進する物質(例えば、トランスフォーミング成長因子-β(TGFβ
)およびアデノシン)を放出する細胞(例えば、制御性T細胞または骨髄系由来サプレッ
サー細胞)が微小環境において誘導されることが挙げられる。このように、細胞免疫療法
の方法の改善に対するニーズが未だ対処されていない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、操作された免疫細胞を特に含む癌免疫療法に関する組成物および方法を提供
する。具体的な実施形態は、1つ、2つまたはそれ以上の遺伝子の発現を欠くようにまた
はその発現を低下させるように人間の手によって改変されたある特定の免疫細胞に関し、
具体的な場合において、そのような改変を有する細胞は、抗原レセプターのような非天然
のタンパク質を含む1つ以上の異種タンパク質も発現する。非天然の免疫細胞を作製する
方法も含まれる。ある特定の場合において、異種抗原レセプターの導入は、発現が低減ま
たは排除される遺伝子のゲノム遺伝子座において行われる。
【0005】
1つの実施形態において、本開示は、免疫細胞の少なくとも2つの遺伝子を破壊するた
めのインビトロ方法を提供し、その少なくとも2つの遺伝子は、NKG2A、SIGLE
C-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD
96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIR
PA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL2
1R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5、CD7および
それらの組み合わせからなる群より選択される。特定の態様において、3つ、4つ、5つ
もしくは6つまたはそれ以上の遺伝子が破壊される。具体的な態様において、2つ以上の
遺伝子の破壊は、同じ方法工程における破壊など、同時である。その方法は、各遺伝子に
対するガイドRNA(gRNA)を免疫細胞に導入する工程を含み得る。
【0006】
上記方法は、例えば以下のような特定の遺伝子の組み合わせ:(a)NKG2Aおよび
CISH、(b)NKG2AおよびTGFBRII、(c)CISHおよびTGFBRI
I、(d)TIGITおよびFOXO1、(e)TIGITおよびTGFBRII、(f
)CD96およびFOXO1、(g)CD96およびTGFBRII、(h)FOXO1
およびTGFBRII、(i)CD96およびTIGIT、(j)CISHおよびTIG
IT、(k)TIM3およびCISH、(l)TIM3およびTGFBRII、(m)F
OXO1およびTGFBRII、(n)TIM3およびTIGIT、(o)SIGLEC
7およびCISH、(p)SIGLEC7およびTGFBRII、(q)CD47および
CISH、(r)CD47およびTGFBRII、(s)SIRPAおよびCISH、(
t)SIRPAおよびTGFBRII、(u)CD47およびTIGIT、(v)CD4
7およびSIRPA、(w)A2ARおよびCISH、(x)A2ARおよびTGFBR
II、(y)ADAM17およびCISH、(z)TGFBRIIおよびADAM17、
(a)A2ARおよびTIGIT、(b)SHP1およびCISH、(c)CISHおよ
びTGFBRII、(d)SHP1およびTGFBRII、(e)SHP1およびTIG
IT、または(f)SHP1およびTIM3のノックダウンを含み得る。上記方法は、(
1)NKG2A、CISHおよびTGFBRII、(2)TIGIT、FOXO1および
TGFBRII、(3)TGFBRII、CD96およびTIGIT、(4)TGFBR
2、CISHおよびTIGIT、(5)TIM3、CISHおよびTGFBRII、(6
)CD96、FOXO1およびTGFBRII、(7)TGFBRII、TIM3および
TIGIT、(8)SIGLEC7、CISHおよびTGFBRII、(9)CD47、
CISHおよびTGFBRII、(10)SIRPA、CISHおよびTGFBRII、
(11)TGFBRII、CD47およびTIGIT、(12)TGFBRII、CD4
7およびSIRPA、(13)A2AR、CISHおよびTGFBRII、(14)TG
FBRII、CISHおよびADAM17、(15)TGFBRII、TIM3およびT
IGIT、(16)TGFBRII、A2ARおよびTIGIT、(17)SHP1、C
ISHおよびTGFBRII、(18)TGFBRII、CISHおよびSHP1、(1
9)TGFBRII、SHP1およびTIGIT、または(20)TGFBRII、SH
P1およびTIM3のノックダウンを含み得る。任意の上記サブグループを、上に開示さ
れたような第2のサブグループと組み合わせてもよい。例えば、サブグループa~j1の
いずれか1つが、他のサブグループa~j1のうちのいずれか1つ以上と組み合わされ得
るか、サブグループa~j1のいずれか1つ以上が、他のサブグループ1~23のいずれ
か1つ以上と組み合わされ得るか、またはサブグループ1~23のいずれか1つ以上が、
他のサブグループ1~23のいずれか1つ以上と組み合わされ得る。
【0007】
いくつかの態様において、上記方法は、Cas9などのRNAガイドエンドヌクレアー
ゼを上記細胞に導入する工程をさらに含む。RNAガイドエンドヌクレアーゼの導入は、
RNAガイドエンドヌクレアーゼをコードする核酸(例えば、mRNA)を上記免疫細胞
に導入することを含み得る。
【0008】
ある特定の態様において、免疫細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、マクロファージ、
NKT細胞または幹細胞である。代替の場合において、免疫細胞は、CAR T細胞では
ないなど、T細胞ではない。いくつかの態様において、免疫細胞は、1つ以上のキメラ抗
原レセプター(CAR)および/または1つ以上のT細胞レセプター(TCR)を発現す
るように操作されている。免疫細胞は、ウイルス特異的T細胞など、ウイルス特異的であ
り得る。T細胞は、制御性T細胞であり得る。B細胞は、制御性B細胞であり得る。いく
つかの態様において、幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)または人工多能性幹(iPS)
細胞である。特定の態様において、T細胞は、CD8+T細胞、CD4+T細胞またはガ
ンマ-デルタT細胞である。免疫細胞は、末梢血、臍帯血、骨髄またはそれらの混合物か
ら単離され得る。いくつかの態様において、臍帯血は、2単位以上の個々の臍帯血単位か
らプールされている。
【0009】
いくつかの態様において、導入工程は、トランスフェクトまたは形質導入を含む。例え
ば、導入は、2回以上行われ得るエレクトロポレーション、例えば、2回または3回のエ
レクトロポレーションを含む。いくつかの態様において、第1の群のCRISPR gR
NAが、第1のエレクトロポレーションにおいて導入され、第2の群のCRISPR g
RNAが、2回目のエレクトロポレーションにおいて導入される。具体的な場合において
、第1の群のCRISPR gRNAは、第2の群のCRISPR gRNAと異なる。
特定の態様において、第1の群および/または第2の群のCRISPR gRNAは、1
つ、2つ、3つまたは4つ以上のCRISPR gRNAを含む。いくつかの態様におい
て、2つのCRISPR gRNAが、第1のエレクトロポレーションにおいて導入され
、異なる2つのCRISPR gRNAが、2回目のエレクトロポレーションにおいて導
入される。具体的な実施形態では、ある群のCRISPR gRNAが、ある群のgRN
Aを含み、そのうちの少なくとも2つは、異なる遺伝子を標的化し、特定の実施形態では
、その群のgRNAはそれぞれ、異なる遺伝子を標的化する。
【0010】
特定の態様において、上記方法は、NKG2A、CD47、TGFβR2およびCIS
H;NKG2A、CISH、TGFβR2およびADORA2;NKG2A、TGFβR
2およびCISH;TIGIT、CD96、CISHおよびADORA2;またはADA
M17、TGFβR2、NKG2AおよびSHP1を破壊する工程を含む。
【0011】
いくつかの態様では、破壊によって、免疫細胞の抗腫瘍細胞傷害性の増強、インビボ増
殖、インビボ持続性および/または機能の改善がもたらされる。特定の態様において、そ
の免疫細胞は、改変が無い場合と比べて、IFN-γ、CD107および/またはTNF
αの分泌を増加させている。いくつかの態様において、その免疫細胞は、改変が無い場合
と比べて、パーフォリンおよび/またはグランザイムBの産生を増加させている。
【0012】
追加の態様において、上記方法は、CARおよび/またはTCRを免疫細胞に導入する
工程(例えば、CARおよび/またはTCRをコードする核酸を免疫細胞に導入する工程
)をさらに含む。いくつかの態様において、その核酸は、レトロウイルスベクターなどの
発現ベクター内に存在する。ある特定の態様において、そのベクターは、AAV6などの
アデノウイルス関連ベクターである。いくつかの態様において、そのベクターは、NKG
2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、
TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、
CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、
CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD
5、CD7およびそれらの組み合わせからなる群より選択される阻害性遺伝子配列などの
阻害性遺伝子配列をさらに含む。特定の態様において、そのベクターは、阻害性遺伝子に
対するガイドRNAをさらに含む。CARは、阻害性遺伝子に対する相同性アームに隣接
していることがある。いくつかの態様において、CAR配列を含むベクターを導入するこ
とにより、免疫細胞の阻害性遺伝子の遺伝子座(例えば、阻害性遺伝子のエキソン)にC
ARが挿入され、そのCARは、阻害性遺伝子の内在性プロモーターの支配下になる。特
定の態様において、ベクターの導入は、阻害性遺伝子の発現をさらに妨害する。
【0013】
別の実施形態では、免疫細胞の少なくとも2つの遺伝子の発現が妨害された免疫細胞(
例えば、開示される実施形態の免疫細胞)が提供され、その免疫細胞は、各遺伝子に対す
るCRISPRガイドRNA(gRNA)を前記免疫細胞に導入することを含む工程によ
って少なくとも作製され、少なくとも2つの遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、
LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、A
DORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、S
HIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、I
CAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5、CD7およびそれらの
組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様において、3つ、4つ、5つもし
くは6つまたはそれ以上の遺伝子が、破壊される。
【0014】
ある特定の態様において、免疫細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞または幹細胞である
。いくつかの態様において、免疫細胞は、キメラ抗原レセプター(CAR)および/また
はT細胞レセプター(TCR)を発現するように操作されている。免疫細胞は、ウイルス
特異的T細胞など、ウイルス特異的であり得る。T細胞は、制御性T細胞であり得る。B
細胞は、制御性B細胞であり得る。いくつかの態様において、幹細胞は、間葉系幹細胞(
MSC)または人工多能性幹(iPS)細胞である。特定の態様において、T細胞は、C
D8+T細胞、CD4+T細胞またはガンマ-デルタT細胞である。免疫細胞は、末梢血
、臍帯血または骨髄から単離され得る。いくつかの態様において、臍帯血は、2単位以上
の個々の臍帯血単位からプールされている。
【0015】
特定の態様において、上記方法は、特定の遺伝子群(例えば、NKG2A、CD47、
TGFβR2およびCISH;NKG2A、CISH、TGFβR2およびADORA2
;NKG2A、TGFβR2およびCISH;TIGIT、CD96、CISHおよびA
DORA2;またはADAM17、TGFβR2 NKG2AおよびSHP1)を破壊す
る工程を含む。
【0016】
いくつかの態様では、破壊によって、免疫細胞の抗腫瘍細胞傷害性の増強、インビボ増
殖、インビボ持続性および/または機能の改善がもたらされる。特定の態様において、そ
の免疫細胞は、IFN-γ、CD107および/またはTNFαの分泌を増加させている
。いくつかの態様において、その免疫細胞は、パーフォリンおよび/またはグランザイム
Bの産生を増加させている。
【0017】
いくつかの態様において、上記細胞は、CARおよび/またはTCRを発現するように
操作されている。CARは、例えば、その細胞の内在性の阻害性遺伝子の遺伝子座に挿入
され得、阻害性遺伝子の遺伝子座は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM
3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR
3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADA
M17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD9
5、CD80、CD86、IL10R、CD5、CD7およびそれらの組み合わせからな
る群より選択される。いくつかの態様において、CARは、阻害性遺伝子の内在性プロモ
ーターの支配下にある。ある特定の態様において、CARは、CRISPR媒介性の遺伝
子編集によって、阻害性遺伝子の遺伝子座に挿入される。
【0018】
いくつかの態様において、CARは、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fvおよび
scFvからなる群より選択される抗原結合ドメインを含む。ある特定の態様において、
CARは、CD19、CD319(CS1)、ROR1、CD20、癌胎児抗原、アルフ
ァフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、上皮性腫瘍抗原、黒色腫関連抗原、変
異型p53、変異型ras、HER2/Neu、ERBB2、葉酸結合タンパク質、HI
V-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp
41、GD2、CD5、CD123、CD23、CD30、CD56、c-Met、メソ
テリン、GD3、HERV-K、IL-11Rアルファ、カッパー鎖、ラムダ鎖、CSP
G4、ERBB2、WT-1、TRAIL/DR4、VEGFR2、CD33、CD47
、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99
およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の腫瘍関連抗原を標的化す
る。特定の態様において、CARは、CD3ξ、CD28、OX40/CD134、4-
1BB/CD137、FcεRIγ、ICOS/CD278、ILRB/CD122、I
L-2RG/CD132、DAP12、CD70、CD40およびそれらの組み合わせか
らなる群より選択される少なくとも1つのシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様
において、免疫細胞は、1つ以上の異種サイトカイン(例えば、IL-7、IL-2、I
L-15、IL-12、IL-18およびIL-21の1つ以上)を含む。ある特定の態
様において、CARは、膜結合型非分泌性TNF-アルファ変異体または誘導性カスパー
ゼ9などの自殺遺伝子をさらに含む。
【0019】
少なくとも1つのCARおよび/またはTCR、少なくとも1つの阻害性遺伝子配列な
らびに少なくとも1つのgRNAをコードする発現ベクターがさらに本明細書中に提供さ
れる。いくつかの態様において、その阻害性遺伝子配列は、NKG2A、SIGLEC-
7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96
、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA
、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R
、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5およびCD7からな
る群より選択される阻害性遺伝子由来である。特定の態様において、gRNAは、阻害性
遺伝子に特異的である。いくつかの態様において、ベクターは、AAVベクターなどのウ
イルスベクターである。CARは、阻害性遺伝子に対する相同性アームに隣接しているこ
とがある。上記実施形態のベクターを発現するように操作された宿主細胞(例えば、実施
形態の細胞)も本明細書中に提供される。態様において、その細胞は、T細胞、NK細胞
、B細胞または幹細胞である。
【0020】
開示される実施形態の免疫細胞の集団を含む薬学的組成物も本明細書中に提供される。
別の実施形態は、免疫関連障害、感染症および/または癌を処置するための、開示される
実施形態の細胞の集団を含む組成物を提供する。
【0021】
さらなる実施形態では、被験体の疾患または障害を処置する方法が提供され、その方法
は、有効量の開示される実施形態の免疫細胞をその被験体に投与する工程を含む。いくつ
かの態様において、その疾患または障害は、感染症、癌(例えば、固形癌または血液悪性
腫瘍)または免疫関連障害である。免疫関連障害は、例えば、自己免疫障害、移植片対宿
主病、同種移植片拒絶または炎症状態であり得る。いくつかの態様において、免疫関連障
害は、炎症状態であり、免疫細胞は、糖質コルチコイドレセプターの発現を本質的に有し
ない。ある特定の態様において、免疫細胞は、レシピエント個体に対して自己または同種
異系である。
【0022】
追加の態様において、上記方法は、免疫細胞を投与される個体に少なくとも第2の治療
薬を投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、その少なくとも第2の治療薬
には、化学療法、免疫療法、手術、放射線療法、ホルモン療法または生物療法が含まれる
。ある特定の態様において、免疫細胞および/または少なくとも第2の治療薬は、静脈内
に、腹腔内に、気管内に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下
に、領域性に、または直接注射もしくは灌流によって、投与される。
【0023】
別の実施形態は、CARを発現するように免疫細胞を操作するための方法を提供し、そ
の方法は、CRISPR gRNAを使用して、そのCARをその免疫細胞の阻害性遺伝
子の遺伝子座に挿入する工程を含む。いくつかの態様において、CARは、発現ベクター
(例えば、レトロウイルスベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイ
ルスベクター、アデノウイルス関連ウイルスベクターなど)によってコードされる。ある
特定の態様において、ウイルスベクターは、AAV6などのアデノウイルス関連ベクター
である。
【0024】
いくつかの態様において、上記ベクターは、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3
、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA
2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1
、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1
、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5、CD7およびそれらの組み合わ
せからなる群より選択される阻害性遺伝子配列などの阻害性遺伝子配列をさらに含む。い
くつかの態様において、CRISPR gRNAは、阻害性遺伝子に対するものである。
ある特定の態様において、CARは、阻害性遺伝子に対する相同性アームに隣接している
。特定の態様において、CARは、阻害性遺伝子の任意の部分(例えば、阻害性遺伝子の
エキソン)において、その阻害性遺伝子の遺伝子座に挿入される。CARは、阻害性遺伝
子の内在性プロモーターの支配下であり得る。具体的な態様において、CARは、阻害性
遺伝子の発現を妨害する。
【0025】
いくつかの態様において、CARは、CD19、CD319(CS1)、ROR1、C
D20、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、上皮性腫
瘍抗原、黒色腫関連抗原、変異型p53、変異型ras、HER2/Neu、ERBB2
、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エ
ンベロープ糖タンパク質gp41、GD2、CD5、CD123、CD23、CD30、
CD56、c-Met、メソテリン、GD3、HERV-K、IL-11Rアルファ、カ
ッパー鎖、ラムダ鎖、CSPG4、ERBB2、WT-1、TRAIL/DR4、VEG
FR2、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAF
F-R、BCMA、CD99およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以
上の腫瘍関連抗原を標的化する。特定の態様において、CARは、CD3ξ、CD28、
OX40/CD134、4-1BB/CD137、FcεRIγ、ICOS/CD278
、ILRB/CD122、IL-2RG/CD132、DAP12、CD70およびCD
40からなる群より選択される少なくとも1つのシグナル伝達ドメインを含む。いくつか
の態様において、CARをコードするベクターは、サイトカイン(例えば、IL-7、I
L-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21またはそれらの組み合わせ)
もコードする。代替の場合において、そのサイトカインは、CARをコードするベクター
とは別個のベクター上に存在する。ある特定の態様において、CARをコードする発現構
築物は、自殺遺伝子(例えば、誘導性カスパーゼ9または膜結合型非分泌性TNF-アル
ファ変異体)をさらに含む。
【0026】
本方法によって作製される免疫細胞などの免疫細胞の阻害性遺伝子に少なくとも1つの
CARが挿入されている免疫細胞が、さらに本明細書中に提供される。本開示の実施形態
の免疫細胞の集団(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、
幹細胞の集団、それらの混合物などの集団)を含む組成物も本明細書中に提供される。
【0027】
別の実施形態は、上記実施形態の細胞の集団を含む組成物を提供し、ある特定の実施形
態において、その集団は、任意の種類の病状の処置のために(少なくとも、免疫関連障害
、感染症および/または癌の処置などのために)利用される。
【0028】
さらなる実施形態は、被験体の疾患または障害を処置する方法を提供し、その方法は、
有効量の上記実施形態の免疫細胞をその被験体に投与する工程を含む。いくつかの態様に
おいて、その疾患または障害は、感染症;癌(例えば、固形癌または血液悪性腫瘍);お
よび/または免疫関連障害である。免疫関連障害は、いくつかの場合において、自己免疫
障害、移植片対宿主病、同種移植片拒絶および/または炎症状態であり得る。いくつかの
態様において、免疫関連障害は、炎症状態であり、免疫細胞は、糖質コルチコイドレセプ
ターの発現を本質的に有しない。ある特定の態様において、免疫細胞は、レシピエント個
体に対して自己または同種異系である。
【0029】
追加の態様において、上記方法は、少なくとも第2の治療薬を個体に投与する工程をさ
らに含む。いくつかの態様において、その少なくとも第2の治療薬には、化学療法、免疫
療法、手術、放射線療法、ホルモン療法または生物療法が含まれる。ある特定の態様にお
いて、免疫細胞および/または少なくとも第2の治療薬は、静脈内に、腹腔内に、気管内
に、腫瘍内に、筋肉内に、内視鏡的に、病巣内に、経皮的に、皮下に、領域性に、または
直接注射もしくは灌流によって、投与される。免疫細胞および少なくとも第2の治療薬は
、同時に投与されてもよいし、異なる時点において投与されてもよく、それらは、異なる
時点において投与されるとき、または同時であるが同じ製剤としてではなく投与されると
き、同じ経路によって投与されてもよいし、そうでなくてもよい。
【0030】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。し
かしながら、この詳細な説明から当業者には本開示の趣旨および範囲内での様々な変更お
よび改変が明らかになるので、その詳細な説明および具体例は、本開示の特定の実施形態
を示すが、単に例証として与えられることを理解するべきである。
【0031】
以下の図面は、本明細書の一部を成し、本発明のある特定の態様をさらに実証するため
に含められる。本発明は、本明細書中に提示される具体的な実施形態の詳細な説明と併せ
てこれらの図面の1つ以上を参照することによって、より理解される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】CRISPR/Cas9は、NK細胞において複数の遺伝子(NKG2A、CD47、TGFBR2およびCISH)の効率的な破壊を媒介する。この遺伝子セットでは、1回目のエレクトロポレーションにおいてNKG2AおよびCD47をノックアウトし、2回目のエレクトロポレーションにおいてCISHおよびTGFBR2を標的化した。両方の回のエレクトロポレーションについて、PCRおよびフローサイトメトリーを使用してノックアウト効率を検証することに成功した。フローパネル内の赤色(右側のピーク)および青色(左側のピーク)のヒストグラムは、それぞれ、CRISPR KOの前および後のタンパク質の発現を表している。
【0033】
【
図2】別の遺伝子セット(TIGIT(T)、CD96(C)、CISH(CH)、アデノシン(A))を用いた、NK細胞におけるマルチプレックス遺伝子編集の検証。この遺伝子セットでは、1回目のエレクトロポレーションにおいてTIGITおよびCD96をノックアウトし、2回目のエレクトロポレーションにおいてCISHおよびアデノシンを標的化した。両方の回のエレクトロポレーションについて、PCRおよびフローサイトメトリーを使用してノックアウト効率を検証することに成功した。フローパネル内の赤色(右側のピーク)および青色(左側のピーク)のヒストグラムは、それぞれ、CRISPR KOの前および後のタンパク質の発現を表している。
【0034】
【
図3】NK細胞において複数の遺伝子(NKG2A、CD47、TGFBR2およびCISH)を破壊することにより、標的腫瘍細胞に対する機能が高まる。標的細胞株による刺激後に、IFN-γ、TNFαおよびCD107の分泌が増大した。ブレフェルジンAの存在下において標的細胞株で5時間、共刺激された様々なNK細胞(編集済み 対 Cas9のみ)を用いて、IFN-γ、TNFαおよびCD107産生のフローサイトメトリー解析を行った。
【0035】
【
図4A】NK細胞において複数の遺伝子(NKG2A、CD47、TGFBR2およびCISH)を破壊することにより、抗腫瘍細胞傷害性が高まる。遺伝子編集されたNK細胞の細胞傷害活性 対 Cas9のみのNK細胞の細胞傷害活性を、K562に対する
51Cr放出アッセイによって測定した。
【
図4B】NK細胞において複数の遺伝子(NKG2A、CD47、TGFBR2およびCISH)を破壊することにより、抗腫瘍細胞傷害性が高まる。組換えTGF-B処置(50ng/ml)の30分後に、pSMAD活性をフローサイトメトリーによって測定した。外来性TGF-βを添加しても、KO CAR-NK細胞においてpSMADの活性化は誘導されなかった。
【0036】
【
図5】CyTOF解析によって示されるように、NK細胞は、サイトカインの刺激を受けるかまたは標的を認識すると、CD16およびCD62Lの発現を失う。
【0037】
【
図6】NK細胞においてADAM17をノックアウトすると、CD16およびCD62Lのシェディングが阻止される。
【0038】
【
図7】NK細胞においてADAM17をノックアウトすると、K562標的に対するADCCおよび細胞傷害性が改善される。
【0039】
【
図8】72時間後のNK細胞におけるSHP1ノックアウト効率のFACSベースのスクリーニング。
【0040】
【
図9】NK細胞においてSHP1を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。NK細胞をK562細胞またはRaji細胞と1:1の比で4時間共培養した。インキュベーションの後、それらの細胞をアネキシンVで染色し、生細胞および死細胞を解析した。K562細胞は、NK細胞の殺滅に対して感受性であり、Raji細胞は、NK細胞の殺滅に対して抵抗性である。
【0041】
【
図10A】NK細胞においてSHP1を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。NK細胞をK562細胞またはRaji細胞と2:1の比で5時間共培養した。
【
図10B】NK細胞においてSHP1を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。様々なエフェクター:標的比での溶解パーセント、IFNγ、TNFαおよびCD107aのパーセンテージ、ならびに生細胞または死細胞のパーセンテージを示している。
【0042】
【
図11】NK-CAR細胞においてSHP1を破壊すると、アポトーシスアッセイによって評価される抗腫瘍効果が高まる。
【0043】
【
図12A】7日目のFACSベースのNKG2Aノックアウト効率。
【
図12B】拡大されたNK細胞においてNKG2Aを破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。
【
図12C】NK-CAR細胞においてNKG2Aを破壊すると、Raji標的に対する抗腫瘍効果が高まる。
【0044】
【
図13】別の遺伝子セット、つまり、TIGIT(T)、CD96(C)、CISH(CH)およびアデノシン(ADORA2A)(A)を用いて、アプローチを検証した。この遺伝子セットの場合、1回目のエレクトロポレーションの間にTIGITおよびCD96を1セットのNK細胞においてノックアウトした。TIGITおよびCD96 KO細胞における2回目のノックアウトでは、CISHおよびアデノシン(ADORA2A)を標的化した。両方の回のエレクトロポレーションについて、PCRおよびフローサイトメトリーを使用してノックアウト効率を検証することに成功した。フローパネル内の赤色(右側のピーク)および青色(左側のピーク)のヒストグラムは、それぞれ、CRISPR KOの前および後のタンパク質の発現を表している。
【0045】
【
図14】NK細胞において複数の遺伝子を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。これを評価するために、複数の遺伝子(NKG2A、CISH、TGFBRIIおよびアデノシン(ADORA2A))のノックアウト細胞およびcas9だけをエレクトロポレーションした細胞を、コントロールとして、K562(NK感受性)細胞およびRaji(NK抵抗性)細胞とともに、5時間使用した。NK細胞の機能をフローサイトメトリー測定によって評価したところ、標的細胞株による刺激を受けたとき、KO細胞ではTNFα、IFNγおよびCD107aの増加が観察された。
【0046】
【
図15】NK細胞において複数の遺伝子を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。これを評価するために、複数の遺伝子(NKG2A、CISH、TGFBRII)のノックアウト細胞およびcas9だけをエレクトロポレーションした細胞を、コントロールとして使用した。NKG2Aの発現をフローサイトメトリーによって確認した。外来性TGF-βを添加しても、KO CAR-NK細胞においてpSMADの活性化は誘導されなかった。
【0047】
【
図16】NK-CAR細胞において複数の遺伝子(NKG2A、TGFβR2およびCISH)を破壊すると、抗腫瘍効果が高まる。
【0048】
【
図17】TGFβR2のKOは、TGFβの抑制作用からNK-CAR細胞を守る。
【0049】
【
図18】マルチプレックス遺伝子編集は、種々のNK-CAR構築物で、種々の標的に対して再現性がある。
【0050】
【
図19】複数の阻害性遺伝子のマルチプレックス遺伝子編集は、NKの構造を維持し、TFGβによって誘導される疲弊からNK細胞を守る。
【発明を実施するための形態】
【0051】
ある特定の実施形態において、本開示は、CRISPR-Cas9技術を用いて、ヒト
免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、CARを形質導入されたT細胞またはCARを形
質導入されたNK細胞)において2つ以上の遺伝子(例えば、遺伝子(例えば、アデノシ
ン2aレセプター、TGFβR2、NKG2A、TIGITおよび/またはCISHをは
じめとした表1に列挙される遺伝子))を同時にノックダウン(またはノックアウト)す
る新規アプローチを提供する。それらの免疫細胞は、末梢血または臍帯血またはそれらの
組み合わせに由来し得る。
【0052】
本研究は、これらのタンパク質の低発現が、T細胞およびNK細胞の機能の改善、イン
ビボにおける増殖および持続性ならびに細胞傷害性と相関することを実証した。このスト
ラテジーはまた、T細胞、NK細胞、NKT細胞およびiNKT細胞を、TGFβおよび
アデノシンによって主に駆動される免疫抑制性の腫瘍微小環境から守る。したがって、本
方法を用いることにより、様々な養子細胞療法用の生成物(例えば、NK細胞、T細胞(
例えば、ウイルス特異的T細胞および制御性T細胞)、B細胞(例えば、制御性B細胞)
、CARを形質導入されたNK細胞、CAR-T細胞、ならびにTCRによって操作され
たTおよびNK細胞、iNKT細胞、NKT細胞)の有効性を改善することができる。そ
の養子細胞療法用の生成物は、例えば癌(例えば、血液悪性腫瘍または固形悪性腫瘍)か
ら感染症および免疫障害にまで及ぶ様々な疾患を処置するために使用され得る。
【0053】
特定の実施形態において、上記免疫細胞は、少なくとも1つのCARを発現する。CA
R技術は、過去数年間でいくつもの進歩が見られた。実際に、CAR-CD19が、B細
胞白血病およびリンパ腫を有する患者において目覚ましい臨床結果を示し、昨年、2つの
CAR T製品がFDAに承認された。CARを形質導入されたT細胞が、過去数年間で
先頭に立ったが、たくさんの前臨床研究、ならびに本出願人らが主導する第I/II相C
AR NK試験も、癌に対してCAR-NK細胞の有効性を示した。CAR技術が前進し
ているにもかかわらず、未だにCARは、大部分がウイルスベクターを用いてT細胞また
はNK細胞に形質導入されており、ウイルスベクターは、ランダムにしか細胞のDNAに
インテグレートせず、クローン増殖、癌化、導入遺伝子の発現の変化または転写のサイレ
ンシングをもたらす恐れがある。したがって、特定のDNA遺伝子座へのCARの挿入を
標的化する方法を見つけることが有益であろう。
【0054】
したがって、1つの実施形態において、本開示は、CRISPR/Cas9を用いて、
特定の遺伝子の遺伝子座(例えば、阻害性遺伝子またはチェックポイントタンパク質の遺
伝子座)にCARを挿入するための方法を提供する。遺伝子の遺伝子座におけるCARの
挿入は、所望であれば必要に応じてそのCARをその遺伝子のプロモーターの支配下に置
きつつ、同時に遺伝子の発現を妨害するためにも使用することができる。具体的には、本
方法は、AAV6ベクターおよびCRISPR/Cas9技術を用いて、阻害性遺伝子(
例えば、NKG2A、CISH、PD-1、TIGIT、TIM3、SHP1またはTG
FβR2を含むがこれらに限定されない表1に列挙される遺伝子など)の遺伝子座におけ
るCARの挿入を導き得る。阻害性遺伝子の遺伝子座におけるCARの挿入により、CA
Rの発現がチェックポイントのプロモーターの制御下になって、腫瘍微小環境においてア
ップレギュレートされることも可能にしつつ、チェックポイント分子(例えば)の阻害効
果を妨害することができる。これは、固形腫瘍にCAR治療を適用する場合に有用であり
、ここで、チェックポイント分子のアップレギュレーションは、CAR治療の成功に悪影
響を及ぼし得る。したがって、高い安全性プロファイルを有し得るCAR挿入方法を用い
て養子細胞療法(例えば、T細胞、B細胞、NK、NKTまたはiNKT細胞)を作製す
るためのさらなる方法が提供される。
I.定義
【0055】
本明細書中で使用されるとき、特定の構成要素に関する「本質的に含まない」は、その
特定の構成要素が、意図的に組成物に製剤化されていないことおよび/または夾雑物とし
てでさえもしくは微量でさえ存在しないことを意味するために本明細書中で使用される。
ゆえに、ある組成物の任意の意図されない混入に起因する、その特定の構成要素の総量は
、0.05%未満、好ましくは、0.01%未満である。標準的な分析方法ではその特定
の構成要素の量を検出できない組成物が最も好ましい。
【0056】
本明細書中で使用されるとき、「a」または「an」は、1つ以上を意味し得る。請求
項で使用されるとき、語「a」または「an」は、語「~を含む」とともに使用されると
き、1つまたは1つより多いことを意味し得る。本明細書中で使用されるとき、「別の」
は、少なくとも第2のものまたはそれ以上のものを意味し得る。なおもさらには、用語「
~を有する」、「~を含む(including)」、「~を含む(containin
g)」および「~を含む(comprising)」は、相互交換可能であり、当業者は
、これらの用語がオープンエンドの用語であることを承知している。具体的な実施形態に
おいて、本開示の態様は、例えば、本開示の1つ以上の配列「から本質的になり」得るか
、またはそれら「からなり」得る。本発明のいくつかの実施形態は、本開示の1つ以上の
エレメント、方法工程および/または方法からなり得るか、またはそれらから本質的にな
り得る。本明細書中に記載される任意の方法または組成物は、本明細書中に記載される他
の任意の方法または組成物に対して実行され得ることが企図される。本願の範囲は、本明
細書に記載されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法および工程の特定の実施形
態に限定されると意図されていない。本明細書中で使用されるとき、用語「または」およ
び「および/または」は、複数の構成要素を組み合わせてまたは互いから排除して記載す
るために使用される。例えば、「x、yおよび/またはz」とは、「x」のみ、「y」の
み、「z」のみ、「x、yおよびz」、「(xおよびy)またはz」、「xまたは(yお
よびz)」または「xまたはyまたはz」のことを指し得る。x、yまたはzが、ある実
施形態から明確に排除され得ることが明確に企図される。
【0057】
請求項での用語「または」の使用は、選択肢だけを指すと明示的に示されない限り、ま
たはそれらの選択肢が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用
されるが、本開示は、選択肢だけおよび「および/または」を指すという定義を支持する
。本明細書中で使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2のものまたはそれ以上のも
のを意味し得る。用語「約」、「実質的に」および「およそ」は、一般に、述べられてい
る値プラスまたはマイナス5%を意味する。
【0058】
本明細書全体にわたる「1つの実施形態」、「ある実施形態」、「特定の実施形態」、
「関連する実施形態」、「ある特定の実施形態」、「追加の実施形態」または「さらなる
実施形態」またはそれらの組み合わせに対する言及は、その実施形態に関連して記載され
る特定の特徴、構造または特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含められること
を意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な箇所における前述の句の出現は、
必ずしもすべてが同じ実施形態について言及しているわけではない。さらに、特定の特徴
、構造または特性が、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わされ得る
。
【0059】
「免疫障害」、「免疫関連障害」または「免疫媒介性障害」とは、免疫応答が、その疾
患の発症または進行において重要な役割を果たす障害のことを指す。免疫媒介性障害とし
ては、自己免疫障害、同種移植片拒絶、移植片対宿主病ならびに炎症状態およびアレルギ
ー状態が挙げられる。
【0060】
「免疫応答」は、刺激に対する、B細胞またはT細胞または自然免疫細胞などの免疫系
細胞の応答である。1つの実施形態において、応答は、特定の抗原に特異的である(「抗
原特異的応答」)。
【0061】
本明細書中で使用される用語「阻害性遺伝子」とは、その遺伝子産物が、1つ以上のタ
イプの免疫細胞の活性、増殖および/または持続性にとって直接または間接的に有害であ
る遺伝子のことを指す。
【0062】
「自己免疫疾患」とは、免疫系が、正常な宿主の一部である抗原(すなわち、自己抗原
)に対して免疫応答(例えば、B細胞応答またはT細胞応答)を起こし、その結果、組織
が傷害される疾患のことを指す。自己抗原は、宿主細胞に由来し得るか、または共生生物
(例えば、通常、粘膜表面にコロニー形成する微生物(共生生物として知られる))に由
来し得る。
【0063】
本明細書中で使用される用語「操作された」とは、細胞、核酸、ポリペプチド、ベクタ
ーなどをはじめとした、人間の手によって作製された実体のことを指す。少なくともいく
つかの場合において、操作された実体は、合成物であり、天然に存在しないエレメントま
たは本開示において使用されるように構成されたエレメントを含む。
【0064】
疾患または状態を「処置する」またはそれらの処置とは、その疾患の徴候または症状を
軽減する目的で、1つ以上の薬物を患者に投与することを含み得るプロトコルを実行する
ことを指す。処置の望ましい効果としては、疾患の進行速度の低下、疾患状態の回復また
は緩和、および予後の緩解または改善が挙げられる。軽減は、現れる疾患または状態の徴
候または症状が現れる前ならびに現れた後において生じ得る。したがって、「処置する」
または「処置」は、疾患または望ましくない状態を「予防する」またはそれらの「予防」
を含み得る。さらに、「処置する」または「処置」は、徴候または症状の完全な軽減を必
要とせず、治癒を必要とせず、詳細には、患者に対して周辺効果しか及ぼさないプロトコ
ルを含む。
【0065】
本願全体にわたって使用される用語「治療効果」または「治療的に有効な」とは、この
状態の医学的処置に関して被験体の福祉を増進または向上させる何らかのことを指す。こ
れには、ある疾患の徴候または症状の頻度または重症度の低下が含まれるが、これらに限
定されない。例えば、癌の処置は、例えば、腫瘍サイズの減少、腫瘍の侵襲性の低下、癌
の成長速度の低下、または転移の予防を含み得る。癌の処置とは、癌を有する被験体の生
存時間の延長のことも指し得る。
【0066】
「被験体」および「患者」とは、ヒトまたは非ヒト、例えば、霊長類、哺乳動物および
脊椎動物のことを指す。特定の実施形態において、被験体は、ヒトである。
【0067】
本明細書中で使用されるとき、「哺乳動物」は、本発明の方法にとって適切な被験体で
ある。哺乳動物は、ヒトを含む、高等脊椎動物の哺乳綱の任意のメンバーであり得、生児
出生、体毛、および子を養うための乳を分泌する女性(雌)の乳腺を特徴とし得る。さら
に、哺乳動物は、気候条件の変動にもかかわらず体温を一定に維持する能力を特徴とする
。哺乳動物の例は、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、ヒツジおよ
びチンパンジーである。哺乳動物は、「患者」または「被験体」または「個体」と称され
ることがある。
【0068】
句「薬学的にまたは薬理学的に許容され得る」とは、ヒトなどの動物に適宜投与された
とき、有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応をもたらさない分子実体および
組成物のことを指す。抗体またはさらなる活性成分を含む薬学的組成物の調製は、本開示
に照らせば当業者に公知である。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与の場合、調製物
は、FDA Office of Biological Standardsが要求す
る無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度の規格を満たすべきであることが理解され
る。
【0069】
本明細書中で使用されるとき、「薬学的に許容され得るキャリア」は、当業者に公知で
あるように、任意のおよびすべての水性溶媒(例えば、水、アルコール溶液/水溶液、食
塩水、非経口ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム、リンゲルデキストロースなど)、非水
溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油および注射可能
な有機エステル、例えば、オレイン酸エチル)、分散媒、コーティング、界面活性剤、酸
化防止剤、保存剤(例えば、抗菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性
ガス)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、
潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、流動性および栄養補給剤、そのような同様の材料ならび
にそれらの組み合わせを含む。薬学的組成物中の様々な構成要素のpHおよび正確な濃度
は、周知のパラメータに従って調整される。
【0070】
本明細書中で使用されるとき、遺伝子の「破壊」とは、破壊が無い場合の遺伝子産物の
発現レベルと比べて、ある細胞における対象遺伝子によってコードされる1つ以上の遺伝
子産物の発現が無くなることまたは低下することを指す。例示的な遺伝子産物としては、
遺伝子によってコードされるmRNAおよびタンパク質産物が挙げられる。破壊は、いく
つかの場合では、一過性または可逆的であり、他の場合では、永続的である。切断型また
は非機能性の産物が生成され得るという事実があるにもかかわらず、破壊は、いくつかの
場合において、機能的なまたは完全長のタンパク質またはmRNAの破壊である。本明細
書中のいくつかの実施形態において、遺伝子の活性または機能は、発現とは全く異なって
妨害される。遺伝子破壊は、一般に、人工的な方法、すなわち、化合物、分子、複合体も
しくは組成物の添加もしくは導入、および/または当該遺伝子の核酸もしくは当該遺伝子
に関連する核酸の、DNAレベルなどでの破壊によって誘導される。遺伝子破壊のための
例示的な方法としては、遺伝子のサイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、および
/または遺伝子編集などの遺伝子破壊の手法が挙げられる。例としては、一般に発現の一
過性の低下をもたらすアンチセンス技術(例えば、RNAi、siRNA、shRNAお
よび/またはリボザイム)、ならびに例えば切断および/または相同組換えの誘導によっ
て、標的化された遺伝子の不活性化または破壊をもたらす遺伝子編集の手法が挙げられる
。例としては、挿入、変異および欠失が挙げられる。破壊は、通常、遺伝子によってコー
ドされる正常な産物または「野生型」産物の発現を阻止し、かつ/またはその発現を完全
に無くす。そのような遺伝子破壊の例示は、遺伝子または遺伝子の一部の挿入、フレーム
シフト変異およびミスセンス変異、欠失、ノックインならびにノックアウト(遺伝子全体
の欠失を含む)である。そのような破壊は、コード領域、例えば、1つ以上のエキソンに
おいて生じ得るため、停止コドンの挿入などによって完全長の産物、機能的な産物または
任意の産物を生成することができなくなる。そのような破壊は、遺伝子の転写を防ぐよう
に、プロモーターもしくはエンハンサーまたは転写の活性化に影響する他の領域における
破壊によっても生じ得る。遺伝子破壊には、相同組換えによる標的化された遺伝子不活性
化を含む遺伝子ターゲティングが含まれる。
II.マルチプレックス遺伝子編集
【0071】
ある特定の実施形態において、本開示は、任意のタイプの免疫細胞のマルチプレックス
遺伝子編集に関する。CRISPRは、免疫細胞において2つ以上の遺伝子(例えば、3
、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の遺伝子)の発現を妨害するために使
用することができる一例である。それらの遺伝子は、表1に列挙される遺伝子、例えば、
NK細胞レセプターA(NKG2A)、シアル酸結合Ig様レクチン7(SIGLEC-
7、CD328)、リンパ球活性化3(LAG3)、T細胞免疫グロブリンムチンファミ
リーメンバー3(TIM3、CD366、HAVCR2)、サイトカイン誘導性SH2含
有タンパク質(CISH、CIS-1、SOCS)、フォークヘッドボックスO1(FO
XO1)、トランスフォーミング成長因子ベータレセプター2(TGFβR2)、Igお
よびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)、CD96、アデノシン
レセプター2A(ADORA2)、核レセプターサブファミリー3グループCメンバー1
(NR3C1)、プログラム細胞死1(PD1)、プログラム細胞死1リガンド1(PD
L-1)、プログラム細胞死1リガンド2(PDL-2)、CD47、シグナル調節タン
パク質アルファ(SIRPA)、SH2ドメイン含有イノシトール5-ホスファターゼ1
(SHIP1)、ADAMメタロペプチダーゼドメイン17(ADAM17)、リボソー
ムタンパク質S6(RPS6)、真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1(4EBP
1)、CD25、CD40、インターロイキン21レセプター(IL21R)、細胞間接
着分子1(ICAM1)、CD95、CD80、CD86、インターロイキン21レセプ
ター(IL10R)、CD5、CD7から選択され得るか、または他の阻害性遺伝子も存
在し得る。遺伝子編集によって、複数の遺伝子の発現を同時に妨害することが可能になる
。
【0072】
いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、その遺伝子において破壊をもたらすこと
(例えば、ノックアウト、挿入、ミスセンス変異またはフレームシフト変異、例えば、両
アレルフレームシフト変異、遺伝子の全部または一部の欠失、例えば、1つ以上のエキソ
ンもしくはゆえに一部分の欠失、および/またはノックイン)によって行われる。例えば
、破壊は、遺伝子またはその一部分の配列に標的化されるように特異的にデザインされた
、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレ
アーゼ(TALEN)などのDNA結合標的化ヌクレアーゼ、ならびにCRISPR会合
ヌクレアーゼ(Cas)などのRNAガイドヌクレアーゼをはじめとした、配列特異的ヌ
クレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼによってもたらされ得る。
【0073】
いくつかの実施形態において、破壊は、一過性または可逆的であり、その遺伝子の発現
は、後になって回復する。他の実施形態において、破壊は、可逆的または一過性でなく、
例えば、永続的である。
【0074】
いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、その遺伝子における、通常は標的化様式
での、1つ以上の二本鎖切断および/または1つ以上の一本鎖切断の誘導によって行われ
る。いくつかの実施形態において、二本鎖または一本鎖の切断は、ヌクレアーゼ、例えば
、遺伝子標的化ヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼによって行われる。いくつかの態
様において、その切断は、遺伝子のコード領域、例えば、エキソンにおいて誘導される。
例えば、いくつかの実施形態において、その誘導は、コード領域、例えば、第1のエキソ
ン、第2のエキソンまたはそれ以降のエキソンのN末端部分の近くにおいて生じる。
【0075】
上記免疫細胞には、ガイドRNAおよびCRISPR酵素、またはCRISPR酵素を
コードするmRNAが導入され得る。いくつかの態様において、その細胞には、1つ、2
つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のガイドRNAが同時に導入される。例えば、その
細胞には、第1のエレクトロポレーションの間に1つ、2つまたは3つのガイドRNAが
導入され得、次いで、第2のエレクトロポレーションなどの間に1つ、2つまたは3つの
さらなるガイドRNAがさらに導入され得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、遺伝子破壊は、アンチセンス法(例えば、RNA干渉(
RNAi)、低分子干渉RNA(siRNA)、短ヘアピン(shRNA)および/また
はリボザイム)を用いて達成され、それらを用いることにより、遺伝子の発現が選択的に
抑制または阻止される。siRNA技術は、遺伝子から転写されるmRNAのヌクレオチ
ド配列と相同な配列およびそのヌクレオチド配列と相補的な配列を有する二本鎖RNA分
子を使用するRNAiである。siRNAは、一般に、遺伝子から転写されるmRNAの
1つの領域と相同/相補的であるか、または種々の領域と相同/相補的である複数のRN
A分子を含むsiRNAであり得る。いくつかの態様において、siRNAは、ポリシス
トロニック構築物に含められる。
【0077】
いくつかの実施形態において、破壊は、遺伝子に特異的に結合するかまたはハイブリダ
イズする、DNA標的化分子(例えば、DNA結合タンパク質またはDNA結合核酸)ま
たはそれを含む複合体、化合物もしくは組成物を用いて達成される。いくつかの実施形態
において、DNA標的化分子は、DNA結合ドメイン、例えば、ジンクフィンガータンパ
ク質(ZFP)のDNA結合ドメイン、転写活性化因子様タンパク質(TAL)のDNA
結合ドメインもしくはTALエフェクター(TALE)のDNA結合ドメイン、クラスタ
ー化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)のDNA結合ドメイン、
またはメガヌクレアーゼのDNA結合ドメインを含む。ジンクフィンガー、TALEおよ
びCRISPRシステムの結合ドメインは、例えば、天然に存在するジンクフィンガーま
たはTALEタンパク質の認識ヘリックス領域の操作(1つ以上のアミノ酸の変更)を介
して、所定のヌクレオチド配列に結合するように操作され得る。操作されたDNA結合タ
ンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は、天然に存在しないタンパク質である。
デザインに対する合理的基準としては、置換ルールの適用、ならびに既存のZFPおよび
/またはTALEのデザインおよび結合データの情報を保存しているデータベースにおけ
る情報を処理するためのコンピュータアルゴリズムが挙げられる。
【0078】
CRISPR媒介性の破壊の場合、ガイドRNAおよびエンドヌクレアーゼは、細胞ま
たは細胞内コンパートメントの内側への送達を可能にする当該分野で公知の任意の手段に
よって免疫細胞に導入され得、使用され得る作用物質/化学物質および/または分子(タ
ンパク質および核酸)としては、非限定的な例として、リポソーム送達手段、高分子キャ
リア、化学的キャリア、リポプレックス、ポリプレックス、デンドリマー、ナノ粒子、エ
マルジョン、天然のエンドサイトーシスまたは貪食経路、ならびにエレクトロポレーショ
ンなどの物理的な方法が挙げられる。具体的な態様では、エレクトロポレーションを用い
て、ガイドRNAおよびエンドヌクレアーゼまたはエンドヌクレアーゼをコードする核酸
を導入する。
【0079】
例示的な1つの具体的な方法では、複数の遺伝子のCRISPRノックアウトのための
方法は、臍帯血または末梢血からの、NK細胞などの免疫細胞の単離を含み得る。NK細
胞を単離し、照射済みのフィーダー細胞と、一例として1:2の比などで培養プレート上
に播種し得る。次いで、それらの細胞に、200IU/mLの濃度などのIL-2の存在
下において、gRNAおよびCas9をエレクトロポレーションし得る。培地は、一例と
して、1日おきに交換し得る。1~3日後に、NK細胞を単離してフィーダー細胞を除去
し、次いで、そのNK細胞にCAR構築物を形質導入し得る。次いで、そのNK細胞を、
さらなる遺伝子に対する第2のCRISPR Cas9ノックアウトに供し得る。エレク
トロポレーションの後、NK細胞をフィーダー細胞とともに、例えば5~9日間、播種し
得る。
【0080】
【0081】
【0082】
いくつかの実施形態において、本開示の免疫細胞は、2つ以上の遺伝子の発現が変更さ
れるように改変される。いくつかの実施形態において、遺伝子発現の変更は、その遺伝子
において破壊をもたらすこと(例えば、ノックアウト、挿入、ミスセンス変異またはフレ
ームシフト変異、例えば、両アレルフレームシフト変異、その遺伝子の全部または一部の
欠失、例えば、1つ以上のエキソンもしくはゆえに一部分の欠失、および/またはノック
イン)によって行われる。具体的な実施形態において、遺伝子発現の変更は、遺伝子また
はその一部分の配列に標的化されるように特異的にデザインされたDNA結合標的化ヌク
レアーゼ、例えば、CRISPR会合ヌクレアーゼ(Cas)などのRNAガイドヌクレ
アーゼをはじめとした、配列特異的ヌクレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼによってもた
らされ得る。
【0083】
いくつかの実施形態において、遺伝子の発現、活性および/または機能の変更は、その
遺伝子を破壊することによって行われる。いくつかの態様において、遺伝子は、その発現
が、遺伝子改変が無い場合の発現または改変をもたらす構成要素の導入が無い場合の発現
と比べて、少なくとも10、20、30もしくは40%または約10、20、30もしく
は40%低下するように、通常、少なくとも50、60、70、80、90、91、92
、93、94、95、96、97、98、99もしくは100%または約50、60、7
0、80、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99もしくは10
0%低下するように、改変される。
【0084】
いくつかの実施形態において、変更は、一過性または可逆的であり、所望であれば、遺
伝子の発現は、後になって回復する。他の実施形態において、変更は、可逆的または一過
性でなく、例えば、永続的である。
【0085】
いくつかの実施形態において、遺伝子の変更は、その遺伝子における、通常は標的化様
式での、1つ以上の二本鎖切断および/または1つ以上の一本鎖切断の誘導によって行わ
れる。いくつかの実施形態において、二本鎖または一本鎖の切断は、ヌクレアーゼ、例え
ば、遺伝子標的化ヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼによって行われる。いくつかの
態様において、その切断は、遺伝子のコード領域、例えば、エキソンにおいて誘導される
。例えば、いくつかの実施形態において、その誘導は、コード領域、例えば、第1のエキ
ソン、第2のエキソンまたはそれ以降のエキソンのN末端部分の近くにおいて生じる。
【0086】
いくつかの態様において、二本鎖または一本鎖の切断は、非相同末端結合(NHEJ)
または相同組換え修復(HDR)などによる細胞の修復プロセスを介した修復を受ける。
いくつかの態様において、この修復プロセスは、エラーが発生しやすく、遺伝子の完全な
ノックアウトをもたらし得る遺伝子の破壊、例えば、フレームシフト変異、例えば、両ア
レルのフレームシフト変異をもたらす。例えば、いくつかの態様において、破壊は、欠失
、変異および/または挿入を誘導することを含む。いくつかの実施形態では、破壊によっ
て、停止コドンが早期に存在するようになる。いくつかの態様において、挿入、欠失、転
座、フレームシフト変異および/または中途での停止コドンが存在することにより、遺伝
子の発現、活性および/または機能が妨害される。
【0087】
いくつかの実施形態において、上記変更は、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGE
N)を介した変更など、1つ以上のDNA結合核酸を用いて行われる。例えば、上記変更
は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)およびCR
ISPR会合(Cas)タンパク質を用いて行われ得る。一般に、「CRISPRシステ
ム」とは、CRISPR会合(「Cas」)遺伝子(Cas遺伝子をコードする配列を含
む)、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまた
は活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内在性のCRISPRシス
テムの文脈では「直列反復配列」、およびtracrRNAによってプロセシングされた
部分的な直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内在性のCRISPRシステムの文脈
では「スペーサー」とも称される)、ならびに/またはCRISPR遺伝子座由来の他の
配列および転写物の発現に関与するかまたはその活性を指示する転写物および他のエレメ
ントのことを総称する。
【0088】
CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステム
は、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレ
アーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば
、Cas9)を含み得る。CRISPRシステムの1つ以上のエレメントが、I型、II
型またはIII型CRISPRシステムに由来し得、例えば、内在性のCRISPRシス
テムを含む特定の生物(例えば、Streptococcus pyogenes)に由
来し得る。
【0089】
いくつかの態様において、CasヌクレアーゼおよびgRNA(標的配列に特異的なc
rRNAと既定のtracrRNAとの融合物を含む)が、細胞に導入される。一般に、
gRNAの5’末端における標的部位が、相補的な塩基対形成によって、Casヌクレア
ーゼをその標的部位、例えば、遺伝子に標的化する。標的部位は、プロトスペーサー隣接
モチーフ(PAM)配列(例えば、通常、NGGまたはNAG)のすぐ5’の位置に基づ
いて選択され得る。この点において、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイ
ドRNAの最初の20、19、18、17、16、15、14、14、12、11または
10ヌクレオチドを改変することによって、所望の配列に標的化される。一般に、CRI
SPRシステムは、標的配列の部位においてCRISPR複合体の形成を促進するエレメ
ントを特徴とする。通常、「標的配列」とは、一般に、ガイド配列が相補性を有するよう
にデザインされる配列のことを指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーション
が、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CR
ISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必
要ない。
【0090】
CRISPRシステムは、標的部位における二本鎖切断(DSB)に続いて、本明細書
中で論じられるような破壊または変更を誘導し得る。他の実施形態では、「ニッカーゼ」
とみなされるCas9バリアントが、標的部位において一本鎖にニックを入れるために使
用される。例えば特異性を改善するために、対のニッカーゼを使用することができ、その
ニッカーゼの各々は、配列を標的化する異なるgRNAの対によって導かれ、ニックが同
時に導入されると、5’オーバーハングが導入される。他の実施形態では、遺伝子発現に
影響するように、触媒的に不活性なCas9が、転写抑制因子または転写活性化因子など
の異種エフェクタードメインに融合される。
【0091】
標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリ
ヌクレオチドを含み得る。標的配列は、細胞のオルガネラ内など、細胞の核または細胞質
に位置し得る。一般に、標的配列を含む標的化される遺伝子座への組換えのために使用さ
れ得る配列または鋳型は、「編集鋳型」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配
列」と称される。いくつかの態様では、外来性の鋳型ポリヌクレオチドが、編集鋳型と称
されることがある。いくつかの態様において、組換えは、相同組換えである。
【0092】
通常、内在性のCRISPRシステムの文脈では、CRISPR複合体(標的配列にハ
イブリダイズし、1つ以上のCasタンパク質と複合体化するガイド配列を含む)の形成
によって、標的配列においてまたは標的配列の近くで(例えば、標的配列から1、2、3
、4、5、6、7、8、9、10、20、50塩基対以内またはそれ以上以内において)
一方または両方の鎖の切断が生じる。野生型tracr配列の全部もしくは一部分(例え
ば、野生型tracr配列の約20ヌクレオチド、約26ヌクレオチド、約32ヌクレオ
チド、約45ヌクレオチド、約48ヌクレオチド、約54ヌクレオチド、約63ヌクレオ
チド、約67ヌクレオチド、約85ヌクレオチドもしくはそれ以上または約20ヌクレオ
チド超、約26ヌクレオチド超、約32ヌクレオチド超、約45ヌクレオチド超、約48
ヌクレオチド超、約54ヌクレオチド超、約63ヌクレオチド超、約67ヌクレオチド超
、約85ヌクレオチド超もしくはそれ以上)を含み得るかまたはそれからなり得るtra
cr配列も、ガイド配列に作動可能に連結されたtracrメイト配列の全部または一部
分へのtracr配列の少なくとも一部分に沿ったハイブリダイゼーションなどによって
、CRISPR複合体の一部を形成し得る。tracr配列は、ハイブリダイズし、CR
ISPR複合体の形成に参加する、tracrメイト配列に対して十分な相補性(例えば
、最適にアラインメントされたとき、tracrメイト配列の長さに沿って少なくとも5
0%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性)を有する。
【0093】
CRISPRシステムの1つ以上のエレメントの発現によって、1つ以上の標的部位に
おいてCRISPR複合体の形成が指示されるように、そのCRISPRシステムのそれ
らのエレメントの発現を駆動する1つ以上のベクターが細胞に導入され得る。また、構成
要素がタンパク質および/またはRNAとして細胞に送達され得る。例えば、Cas酵素
、tracrメイト配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列がそれぞれ、別
個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に連結され得る。あるいは、同じまた
は異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ以上が、単一ベクターにおいて
組み合わされ得、ここで、1つ以上のさらなるベクターが、第1のベクターに含まれてい
ないCRISPRシステムの任意の構成要素を提供する。そのベクターは、制限エンドヌ
クレアーゼ認識配列などの1つ以上の挿入部位(「クローニング部位」とも称される)を
含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の挿入部位が、1つ以上のベクターの
1つ以上の配列エレメントの上流および/または下流に配置される。複数の異なるガイド
配列が使用されるとき、単一の発現構築物が、細胞内の異なる複数の対応する標的配列に
対してCRISPR活性を標的化するために使用され得る。
【0094】
ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に
作動可能に連結された調節エレメントを含み得る。Casタンパク質の非限定的な例とし
ては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、C
as7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても知られる)、Cas1
0、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa
5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr
3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Cs
x14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf
l、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログまたはそれらの改変バージョンが
挙げられる。これらの酵素は、公知であり;例えば、S.pyogenesのCas9タ
ンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにアクセッション番号Q9
9ZW2として見られ得る。
【0095】
CRISPR酵素は、Cas9(例えば、S.pyogenesまたはS.pneum
onia由来のもの)であり得る。CRISPR酵素は、標的配列の位置(例えば、標的
配列内および/または標的配列の相補鎖内)において、一方または両方の鎖の切断を指示
し得る。ベクターは、対応する野生型酵素に対して変異したCRISPR酵素をコードし
得、その変異したCRISPR酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方また
は両方の鎖を切断する能力を欠く。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRu
vC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、両
方の鎖を切断するヌクレアーゼ由来のCas9をニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換
する。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、DN
A標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ標的化する2つのガイド配列と組み合
わせて使用され得る。この組み合わせは、両方の鎖にニックを入れることができ、NHE
JまたはHDRを誘導するために使用される。
【0096】
いくつかの実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核
細胞などの特定の細胞における発現に向けてコドンが最適化される。真核細胞は、特定の
生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたは非ヒト霊長類を含むがこれら
に限定されない哺乳動物)の細胞またはそれらの生物に由来する細胞であり得る。一般に
、コドンの最適化とは、天然のアミノ酸配列を維持しつつ、天然の配列の少なくとも1つ
のコドンをその宿主細胞の遺伝子においてより高頻度にまたは最も高頻度に使用されるコ
ドンで置き換えることによって、目的の宿主細胞において発現が高まるように核酸配列を
改変するプロセスのことを指す。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンについ
て特定の偏りを示す。コドンの偏り(生物間でのコドン使用頻度の差異)は、メッセンジ
ャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関することが多く、その翻訳効率は、とりわけ、
翻訳されるコドンの特性および特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存す
ると考えられている。細胞において優勢に選択されるtRNAは、通常、ペプチド合成に
おいて最も高頻度に使用されるコドンを反映する。したがって、コドンの最適化に基づい
て、遺伝子を所与の生物における最適な遺伝子発現に適応させることができる。
【0097】
一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズする標的ポリヌクレオチド配列であ
って標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示する標的ポリヌクレオチド
配列に対して十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施
形態において、ガイド配列と対応する標的配列との相補性の程度は、好適なアラインメン
トアルゴリズムを用いて最適にアラインメントしたとき、約50%、60%、75%、8
0%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上であるか、またはそれら
を超える。
【0098】
最適なアラインメントは、配列をアラインメントするための任意の好適なアルゴリズム
を使用して決定され得、そのアルゴリズムの非限定的な例としては、Smith-Wat
ermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burro
ws-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burro
ws Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、
BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies,EL
AND(Illumina,San Diego,Calif.)、SOAP(soap
.genomics.org.cnにおいて利用可能)およびMaq(maq.sour
ceforge.netにおいて利用可能)が挙げられる。
【0099】
CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部
であり得る。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列、およ
び必要に応じて、任意の2つのドメインの間にリンカー配列を含み得る。CRISPR酵
素に融合され得るタンパク質ドメインの例としては、エピトープタグ、レポーター遺伝子
配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写
阻止活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性の
うちの1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられるがこれらに限定されない。エピ
トープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタ
グ、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグおよびチオ
レドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、グルタチオン
-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラ
ムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT) ベータガラクトシダーゼ、ベー
タ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、
DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および
青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定
されない。CRISPR酵素は、DNA分子に結合するかまたは他の細胞分子に結合する
タンパク質またはタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子配列に融合され得、それ
らのタンパク質としては、マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A
DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4A DNA結合ドメイン融合物および
単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物が挙げられるが、これらに限
定されない。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得るさらなるドメイ
ンは、参照により本明細書中に援用されるUS20110059502に記載されている
。
III.阻害性遺伝子の遺伝子座におけるCARおよび/またはTCRの挿入
【0100】
いくつかの実施形態において、本開示は、免疫細胞の特定の遺伝子の遺伝子座における
CARおよび/またはTCRの挿入に関する。CARおよび/またはTCRは、阻害性遺
伝子の遺伝子座(例えば、NKG2A、Siglec7、LAG3、TIM3、CISH
、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、アデノシンレセプター2A、NR
3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPa、SHIP1、ADA
M17、pS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95
、CD80、CD86、IL10R、CD5、CD7およびそれらの組み合わせからなる
群より選択される遺伝子)に挿入され得る。
【0101】
本明細書中に開示される方法のいずれかにおける1つ以上のCARおよび/またはTC
Rの挿入は、部位特異的であり得る。例えば、1つ以上のCARおよび/またはTCRは
、プロモーターに隣接して、またはプロモーターの近くに、挿入され得る。別の例では、
1つ以上の導入遺伝子が、遺伝子(例えば、阻害性遺伝子)のエキソンに隣接して、遺伝
子のエキソンの近くに、または遺伝子のエキソン内に、挿入され得る。そのような挿入は
、遺伝子の発現を妨害しながら、同時にCARおよび/またはTCRをノックインするた
めに使用され得る。別の例では、1つ以上のCARおよび/またはTCRが、遺伝子のイ
ントロンに隣接して、遺伝子のイントロンの近くに、または遺伝子のイントロン内に、挿
入され得る。CARおよび/またはTCRは、アデノ随伴ウイルス(AAV)のウイルス
ベクターによって導入され得、標的化されたゲノム位置にインテグレートされ得る。いく
つかの場合において、rAAVベクターを使用して、ある特定の位置への導入遺伝子の挿
入を指示することができる。例えば、いくつかの場合において、CARおよび/またはT
CRが、rAAVまたはAAVベクターによって、NKG2A、Siglec7、LAG
3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、アデノシ
ンレセプター2A、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRP
a、SHIP1、ADAM17、pS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R
、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、CD5またはCD7遺伝子
の少なくとも一部分にインテグレートされ得る。
【0102】
細胞の標的化される遺伝子座の改変は、細胞にDNAを導入することによって行うこと
ができ、ここで、そのDNAは、標的遺伝子座に対して相同性を有する。DNAは、マー
カー遺伝子を含むことができ、それにより、インテグレートされた構築物を含む細胞の選
択が可能になる。標的ベクター内の相補DNAは、標的遺伝子座において染色体DNAと
組み換わり得る。マーカー遺伝子は、相補DNA配列、3’組換えアームおよび5’組換
えアームに隣接し得る。細胞内の複数の遺伝子座が標的化され得る。例えば、複数のゲノ
ム改変が一工程で行われるように、1つ以上の標的遺伝子座に特異的な組換えアームを有
する導入遺伝子が同時に導入され得る。相同性アームは、約0.2kb~約5kb長(例
えば、約0.2kb、0.4kb 0.6kb、0.8kb、1.0kb、1.2kb、
1.4kb、1.6kb、1.8kb、2.0kb、2.2kb、2.4kb、2.6k
b、2.8kb、3.0kb、3.2kb、3.4kb、3.6kb、3.8kb、4.
0kb、4.2kb、4.4kb、4.6kb、4.8kbから約5.0kb長など)で
あり得る。
【0103】
1つの方法において、ガイドRNAは、阻害性遺伝子の遺伝子座の領域(例えば、その
遺伝子のプロモーター、エキソンまたはイントロンに隣接した領域)を標的化するように
デザインされ得る。ガイドRNAは、阻害性遺伝子のエキソン(例えば、第1、第2また
は第3のエキソン)の5’末端を標的化し得る。ガイドRNAは、AAVベクター修復マ
トリックスに含められ得る。AAVベクターは、P2Aペプチドなどの自己切断2Aペプ
チドに続いてCARcDNAをコードし得る。CARカセットおよびガイドRNA配列は
、阻害性遺伝子に対する相同性アームに隣接していることがある。次いで、免疫細胞に、
AAVベクターおよびCas9(例えば、Cas9 mRNA)が導入(例えば、エレク
トロポレーション)され得る。
IV.免疫細胞
【0104】
本開示のある特定の実施形態は、複数の遺伝子のノックアウトを有するようにおよび/
または阻害性遺伝子の遺伝子座にCARのノックインを有するように操作された免疫細胞
に関する。それらの免疫細胞は、T細胞(例えば、制御性T細胞、CD4+T細胞、CD
8+T細胞またはガンマ-デルタT細胞)、NK細胞、インバリアントNK細胞、NKT
細胞、B細胞、幹細胞(例えば、間葉系幹細胞(MSC)または人工多能性幹(iPSC
)細胞)であり得る。それらの免疫細胞は、ウイルス特異的であり得、CARを発現し得
、かつ/またはTCRを発現し得る。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、単
球または顆粒球、例えば、骨髄性細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞
、好酸球および/または好塩基球である。免疫細胞を作製および操作する方法、ならびに
養子細胞療法のためにそれらの細胞を使用および投与する方法も本明細書中に提供され、
その場合、それらの細胞は、自己または同種異系であり得る。したがって、それらの免疫
細胞は、癌細胞を標的化するためなどの免疫療法として使用され得る。
【0105】
上記免疫細胞は、被験体、特にヒト被験体から単離され得る。それらの免疫細胞は、目
的の被験体(例えば、特定の疾患もしくは状態を有すると疑われる被験体、特定の疾患も
しくは状態の素因を有すると疑われる被験体、または特定の疾患もしくは状態に対する治
療を受けている被験体)から得ることができる。免疫細胞は、それらが被験体内に存在す
る任意の位置から回収することができ、それらの位置としては、血液、臍帯血、脾臓、胸
腺、リンパ節および骨髄が挙げられるが、これらに限定されない。単離された免疫細胞は
、直接使用され得るか、または凍結などによって、ある時間にわたって保存され得る。
【0106】
上記免疫細胞は、それらが存在する任意の組織から濃縮/精製されてもよく、それらの
組織としては、血液(血液バンクまたは臍帯血バンクによって回収された血液を含む)、
脾臓、骨髄、外科手技中に除去および/または露出された組織、ならびに生検手技を介し
て得られた組織が挙げられるが、これらに限定されない。免疫細胞が濃縮、単離および/
または精製される組織/器官は、生存している被験体と生存していない被験体の両方から
単離され得る。ここで、生存していない被験体は、臓器ドナーである。特定の実施形態に
おいて、免疫細胞は、末梢血もしくは臍帯血またはそれらの混合物などの血液から単離さ
れる。いくつかの態様において、臍帯血から単離された免疫細胞は、CD4陽性またはC
D8陽性T細胞の抑制によって測定されるような、高い免疫調節能を有する。具体的な態
様において、免疫細胞は、高い免疫調節能を求めて、プールされた血液、特に、プールさ
れた臍帯血から単離される。プールされた血液は、2つ以上の起源(例えば、3、4、5
、6、7、8、9、10個以上の起源(例えば、ドナー被験体))からの血液であり得る
。
【0107】
免疫細胞の集団は、治療を必要とする被験体または低い免疫細胞活性に関連する疾患に
罹患している被験体から得ることができる。したがって、それらの細胞は、治療を必要と
する被験体にとって自己であり得る。あるいは、免疫細胞の集団は、ドナー、好ましくは
、組織適合性がマッチしたドナーから得ることができる。その免疫細胞集団は、末梢血、
臍帯血、骨髄、脾臓、または免疫細胞が被験体もしくはドナーに存在する他の任意の器官
/組織から収集され得る。それらの免疫細胞は、被験体および/またはドナーのプール、
例えば、プールされた臍帯血から単離され得る。
【0108】
免疫細胞集団が、被験体とは異なるドナーから得られるとき、そのドナーは、好ましく
は同種異系であるが、但し、得られる細胞は、それらの細胞が被験体に導入可能であると
いう点で、被験体と適合している。同種異系ドナー細胞は、ヒト白血球抗原(HLA)が
適合していてもよいし、そうでなくてもよい。
A.T細胞
【0109】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞である。機能的な抗腫瘍エフェクタ
ー細胞の誘導、活性化および拡大のためのいくつかの基本的なアプローチが、過去20年
で報告されてきた。これらとしては、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの自己細胞;自己
DC、リンパ球、人工抗原提示細胞(APC)、またはT細胞リガンドおよび活性化抗体
でコーティングされたビーズ、または標的細胞膜の捕捉によって単離された細胞を用いて
エキソビボで活性化されたT細胞;抗宿主腫瘍T細胞レセプター(TCR)を天然に発現
している同種異系細胞;および「T-ボディ」として知られる抗体様腫瘍認識能を示す腫
瘍反応性TCR分子またはキメラTCR分子を発現するように遺伝的に再プログラムされ
たまたは「再指示された」非腫瘍特異的な自己細胞または同種異系細胞が挙げられる。こ
れらのアプローチは、本明細書中に記載される方法において使用され得る、T細胞を調製
および免疫化するための数多くのプロトコルの元となった。
【0110】
いくつかの実施形態において、T細胞は、血液、骨髄、リンパ液、臍帯またはリンパ系
器官に由来する。いくつかの態様において、それらの細胞は、ヒト細胞である。それらの
細胞は、通常、初代細胞であり、例えば、被験体から直接単離された細胞、および/また
は被験体から単離され、凍結された細胞である。いくつかの実施形態において、それらの
細胞には、T細胞または他の細胞型の1つ以上のサブセット(例えば、T細胞集団全体、
CD4+細胞、CD8+細胞、およびそれらの部分集団、例えば、機能、活性化状態、成
熟度、分化の可能性、拡大、再循環、局在化および/または残存能、抗原特異性、抗原レ
セプターのタイプ、特定の器官もしくはコンパートメントに存在すること、マーカーもし
くはサイトカイン分泌のプロファイル、および/または分化の程度によって定義される部
分集団)が含まれる。処置される被験体に関して、細胞は、同種異系細胞および/または
自己細胞であり得る。いくつかの態様において、既存技術などの場合、細胞は、多能性お
よび/または複能性である(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)などの幹細胞)。い
くつかの実施形態において、上記方法は、被験体から細胞を単離する工程、それらを本明
細書中に記載されるように調製、処理、培養および/または操作する工程、ならびに凍結
保存の前または後にそれらを同じ患者に再導入する工程を含む。
【0111】
T細胞(例えば、CD4+および/またはCD8+T細胞)のサブタイプおよび部分集
団に含まれるのは、ナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリ
ーT細胞およびそのサブタイプ(例えば、幹細胞メモリーT(TSCM)、セントラルメ
モリーT(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)または最終分化型エフェクター
メモリーT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細
胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、内在性および獲得
型(adaptive)の制御性T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞(例えば、TH1
細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性ヘル
パーT細胞)、アルファ/ベータT細胞およびデルタ/ガンマT細胞である。
【0112】
いくつかの実施形態において、T細胞集団の1つ以上は、表面マーカーなどの特異的マ
ーカーが陽性であるかまたは特異的マーカーが陰性である細胞が濃縮されているか、また
は枯渇している。いくつかの場合において、そのようなマーカーは、ある特定のT細胞集
団(例えば、非メモリー細胞)上に存在しないかまたは比較的低レベルでしか発現されな
いが、ある特定の他のT細胞集団(例えば、メモリー細胞)上には存在するかまたは比較
的高レベルで発現されるマーカーである。
【0113】
いくつかの実施形態において、T細胞は、非T細胞(例えば、B細胞、単球または他の
白血球)上に発現されているマーカー(例えば、CD14)のネガティブ選択によってP
BMCサンプルから分離される。いくつかの態様では、CD4+またはCD8+選択工程
を用いることにより、CD4+ヘルパーT細胞およびCD8+細胞傷害性T細胞が分離さ
れる。そのようなCD4+およびCD8+集団は、1つ以上のナイーブ、メモリーおよび
/またはエフェクターT細胞の部分集団上に発現されているまたは比較的高い程度に発現
されているマーカーのポジティブまたはネガティブ選択によって、さらに部分集団にソー
ティングされ得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、CD8+T細胞は、それぞれの部分集団に関連する表面
抗原に基づくポジティブ選択またはネガティブ選択などによって、ナイーブ、セントラル
メモリー、エフェクターメモリーおよび/またはセントラルメモリー幹細胞がさらに濃縮
されるかまたは枯渇される。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーT(TC
M)細胞の濃縮は、投与後の長期生存率、拡大および/または生着を改善するなどの有効
性を高めるために行われ、これは、いくつかの態様において、そのような部分集団におい
て特に頑健である。
【0115】
いくつかの実施形態において、T細胞は、自己T細胞である。この方法では、腫瘍サン
プルを患者から入手し、単一細胞の懸濁液を得る。その単一細胞の懸濁液は、任意の好適
な様式で、例えば、機械的に(例えば、gentleMACSTMDissociato
r,Miltenyi Biotec,Auburn,Calif.を用いて腫瘍を脱凝
集させて)または酵素的に(例えば、コラゲナーゼまたはDNase)得ることができる
。腫瘍の酵素消化物の単一細胞の懸濁液を、インターロイキン-2(IL-2)中で培養
する。
【0116】
培養されたT細胞は、プールされ、急速に拡大され得る。約10~約14日間にわたる
急速な拡大によって、抗原特異的T細胞の数が少なくとも約50倍(例えば、50、60
、70、80、90もしくは100倍またはそれ以上)増加する。より好ましくは、約1
0~約14日間にわたる急速な拡大によって、少なくとも約200倍(例えば、200、
300、400、500、600、700、800、900またはそれ以上)増加する。
【0117】
当該分野で公知であるようないくつかの方法のうちのいずれかによって、拡大が達成さ
れ得る。例えば、T細胞は、フィーダーリンパ球と、インターロイキン-2(IL-2)
またはインターロイキン-15(IL-15)のいずれか(IL-2が好ましい)との存
在下において非特異的T細胞レセプター刺激を用いて容易に拡大され得る。その非特異的
T細胞レセプター刺激は、およそ30ng/mlの、マウスモノクローナル抗CD3抗体
であるOKT3(Ortho-McNeil(登録商標),Raritan,N.J.か
ら入手可能)を含み得る。あるいは、T細胞は、T細胞成長因子(例えば、300IU/
mlのIL-2またはIL-15(IL-2が好ましい))の存在下において1つ以上の
癌抗原(エピトープなどのその抗原性部分、または細胞を含む)で末梢血単核球(PBM
C)をインビトロにおいて刺激することによって容易に拡大され得、その癌抗原は、必要
に応じてベクターから発現され得、例えば、ヒト白血球抗原A2(HLA-A2)結合ペ
プチドである。そのインビトロで誘導されたT細胞は、HLA-A2を発現している抗原
提示細胞に対してパルスされた同じ癌抗原による再刺激によって急速に拡大される。ある
いは、それらのT細胞は、例えば、照射された自己リンパ球または照射されたHLA-A
2+同種異系リンパ球およびIL-2で再刺激され得る。
【0118】
上記自己T細胞は、それらの自己T細胞の増殖および活性化を促進するT細胞成長因子
を発現するように改変され得る。好適なT細胞成長因子としては、例えば、インターロイ
キン(IL)-2、IL-7、IL-15およびIL-12が挙げられる。好適な改変方
法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook et al.,Molecu
lar Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,
Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Har
bor,N.Y.2001;およびAusubel et al.,Current P
rotocols in Molecular Biology,Greene Pub
lishing Associates and John Wiley & Sons
,NY,1994を参照のこと。特定の態様において、改変された自己T細胞は、T細胞
成長因子を高レベルで発現する。T細胞成長因子コード配列(例えば、IL-12のコー
ド配列)は、T細胞成長因子コード配列への作動可能な連結が高レベル発現を促進するプ
ロモーターと同様に、当該分野において容易に入手可能である。
B.NK細胞
【0119】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞である。N
K細胞は、種々の腫瘍細胞、ウイルスに感染した細胞、ならびに骨髄および胸腺における
一部の正常細胞に対して自発的な細胞傷害性を有するリンパ球の部分集団である。NK細
胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺において分化し、成熟する。NK細胞は、
ヒトにおいては、CD16、CD56およびCD8などの特定の表面マーカーによって検
出され得る。NK細胞は、T細胞抗原レセプター、汎TマーカーCD3、または表面免疫
グロブリンB細胞レセプターを発現しない。
【0120】
ある特定の実施形態において、NK細胞は、当該分野で周知の方法によってヒト末梢血
単核球(PBMC)、未刺激の白血球搬出法生成物(PBSC)、ヒト胚性幹細胞(hE
SC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、骨髄または臍帯血から得られる。特に、臍帯血
が、NK細胞を得るために使用される。ある特定の態様において、NK細胞は、以前に報
告された、NK細胞をエキソビボで拡大する方法(Spanholtz et al.,
2011;Shah et al.,2013)によって単離され、拡大される。この方
法では、CB単核細胞をフィコール密度勾配遠心分離によって単離し、IL-2および人
工抗原提示細胞(aAPC)とともにバイオリアクター内で培養する。7日後に、細胞培
養物から、CD3を発現する任意の細胞を枯渇させ、さらに7日間、再培養する。再度、
細胞のCD3枯渇を行い、CD56+/CD3-細胞またはNK細胞のパーセンテージを
測定するために特徴付ける。他の方法では、臍帯血を使用し、CD34+細胞の単離、な
らびにSCF、IL-7、IL-15およびIL-2を含む培地中で培養することによる
CD56+/CD3-細胞への分化によって、NK細胞を得る。
【0121】
具体的な実施形態において、NK細胞は、調製中のある時点において拡大される。具体
的な場合において、NK細胞の拡大は、臍帯血由来の単核細胞(MNC)を抗原提示細胞
(APC)およびIL-2の存在下において刺激すること;およびそれらの細胞をAPC
で再刺激して、拡大されたNK細胞を生成することを含み、少なくともいくつかの場合に
おいて、この方法は、バイオリアクター内で行われる。刺激工程は、MNCをNK細胞に
向かわせることができる。再刺激工程は、IL-2の存在を含んでもよいし、含まなくて
もよい。特定の態様において、その方法は、刺激工程中に任意の培地構成要素の除去また
は添加を含まない。特定の態様において、その方法は、ある特定の時間枠内(例えば、1
5日未満、例えば、14日)で行われる。
【0122】
ある特定の実施形態において、NK細胞は、拡大するためのエキソビボでの方法によっ
て拡大され、その方法は、(a)臍帯血から単核細胞(MNC)の出発集団を得る工程;
(b)そのMNCを抗原提示細胞(APC)およびIL-2の存在下において刺激する工
程;および(c)その細胞をAPCで再刺激して、拡大されたNK細胞を生成する工程を
含み、その方法は、バイオリアクター内で行われ、優良製造規範(good manuf
acturing practice)(GMP)に準拠している。工程(b)の刺激に
よって、MNCをNK細胞に向かわせることができる。工程(c)は、IL-2の存在を
含んでもよいし、含まなくてもよい。特定の態様において、その方法は、工程(b)の間
に任意の培地構成要素の除去または添加を含まない。特定の態様において、その方法は、
15日未満(例えば、14日)で行われる。
【0123】
いくつかの態様において、上記方法は、例えばCD3などの1つ以上の特定のマーカー
が陽性の細胞を枯渇させる工程をさらに含む。ある特定の態様において、枯渇工程は、工
程(b)と工程(c)の間に行われる。いくつかの態様において、それらの細胞は、CD
3枯渇のためにバイオリアクターから取り出され、工程(c)のためのバイオリアクター
に入れられる。
【0124】
ある特定の態様において、臍帯血からMNCの出発集団を得る工程は、デキストラン、
ヒト血清アルブミン(HSA)、DNAseおよび/または塩化マグネシウムの存在下に
おいて臍帯血を解凍する工程を含む。特定の態様において、臍帯血からMNCの出発集団
を得る工程は、デキストランおよび/またはDNaseの存在下において臍帯血を解凍す
る工程を含む。具体的な態様において、臍帯血は、5~20%(例えば、10%)のデキ
ストランの存在下において洗浄される。ある特定の態様において、臍帯血は、100~3
00mMの濃度、特に200mMなどの塩化マグネシウムの存在下において懸濁される。
いくつかの態様において、得る工程は、フィコール密度勾配遠心分離を行って単核細胞(
MNC)を得る工程を含む。
【0125】
ある特定の態様において、バイオリアクターは、気体透過性のバイオリアクターである
。特定の態様において、気体透過性のバイオリアクターは、G-Rex100MまたはG
-Rex100である。いくつかの態様において、工程(b)の刺激は、3~5Lの培地
(例えば、3、3.5、4、4.5または5L)において行われる。
【0126】
いくつかの態様において、APCは、ガンマ線を照射される。ある特定の態様において
、APCは、膜結合型IL-21(mbIL-21)を発現するように操作される。特定
の態様において、APCは、IL-21、IL-15および/またはIL-2を発現する
ように操作される。いくつかの態様において、MNCとAPCとは、1:2の比で培養さ
れる。いくつかの態様において、IL-2は、50~200IU/mLの濃度(例えば、
100IU/mL)で存在する。特定の態様において、IL-2は、2~3日ごとに補充
される。
【0127】
特定の態様において、工程(b)は、6~8日間(例えば、7日間)行われる。いくつ
かの態様において、工程(c)は、6~8日間(例えば、7日間)行われる。いくつかの
態様において、工程(c)は、細胞の分割を含まない。特定の態様において、上記細胞に
は、工程(c)の間にIL-2が2回供給され、具体的な場合では、工程(c)の間に他
の培地構成要素が添加されないか、または除去されない。
【0128】
いくつかの態様において、上記方法は、3つ、4つ、5つまたは6つのバイオリアクタ
ーの使用を含む。特定の態様において、上記方法は、10個未満のバイオリアクターの使
用を含む。
【0129】
具体的な態様において、NK細胞は、少なくとも500倍、800倍、1000倍、1
200倍、1500倍、2000倍、2500倍、3000倍または5000倍拡大され
る。特定の態様において、バイオリアクター内でNK細胞を培養することにより、静置液
体培養と比べて1000倍超のNK細胞が生成される。
【0130】
ある特定の態様において、上記方法は、ヒト白血球抗原(HLA)の適合を含まない。
いくつかの態様において、NK細胞の出発集団は、ハプロタイプ一致ドナーから得られな
い。
【0131】
いくつかの態様において、上記の拡大されたNK細胞は、末梢血から拡大されたNK細
胞と比べて高い抗腫瘍活性を有する。ある特定の態様において、上記の拡大されたNK細
胞は、末梢血から拡大されたNK細胞と比べて、1つ以上の細胞周期遺伝子、1つ以上の
細胞分裂遺伝子および/または1つ以上のDNA複製遺伝子を高発現している。いくつか
の態様において、上記の拡大されたNK細胞は、末梢血から拡大されたNK細胞と比べて
、より高い増殖能を有する。いくつかの態様において、上記の拡大されたNK細胞は、疲
弊を示さない。ある特定の態様において、疲弊は、パーフォリン、グランザイム、CD5
7、KLRG1および/またはPD1の発現を測定することによって検出される。いくつ
かの態様において、上記の拡大されたNK細胞は、パーフォリンおよび/またはグランザ
イムを高発現している。ある特定の態様において、上記の拡大されたNK細胞は、CD5
7、KLRG1および/またはPD1を低発現しているか、または発現していない。
【0132】
いくつかの態様において、拡大されたNK細胞は、臨床的に妥当な用量を含む。ある特
定の態様において、臍帯血は、凍結臍帯血である。特定の態様において、凍結臍帯血は、
1つ以上の感染症(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、Trypanosoma
cruzi、HIV、ヒトTリンパ向性ウイルス、梅毒、ジカウイルスなど)について試
験済みである。いくつかの態様において、臍帯血は、3、4、5、6、7または8単位の
個々の臍帯血単位などからプールされた臍帯血である。
【0133】
いくつかの態様において、NK細胞は、例えばレシピエント自体に対して、自己のNK
細胞ではない。ある特定の態様において、NK細胞は、例えばレシピエント自体に対して
、同種異系のNK細胞ではない。
【0134】
いくつかの態様において、APCは、ユニバーサル抗原提示細胞(uAPC)である。
ある特定の態様において、uAPCは、(1)CD48および/またはCS1(CD31
9)、(2)膜結合型インターロイキン-21(mbIL-21)、ならびに(3)41
BBリガンド(41BBL)を発現するように操作される。いくつかの態様において、u
APCは、CD48を発現する。ある特定の態様において、uAPCは、CS1を発現す
る。特定の態様において、uAPCは、CD48およびCS1を発現する。いくつかの態
様において、uAPCは、内在性のHLAクラスI、IIおよび/またはCD1d分子の
発現を本質的に有しない。ある特定の態様において、uAPCは、ICAM-1(CD5
4)および/またはLFA-3(CD58)を発現する。特定の態様において、uAPC
はさらに、K562細胞などの白血病細胞由来のaAPCと定義される。
C.幹細胞
【0135】
いくつかの実施形態において、本開示の免疫細胞は、人工多能性幹細胞(PSC)、間
葉系幹細胞(MSC)または造血幹細胞(HSC)などの幹細胞であり得る。
【0136】
本明細書中で使用される多能性幹細胞は、通常、iPS細胞またはiPSCと省略され
る、人工多能性幹(iPS)細胞であり得る。生殖細胞を除く任意の細胞をiPSCの出
発点として使用することができる。例えば、細胞型は、ケラチノサイト、線維芽細胞、造
血細胞、間葉系細胞、肝臓細胞または胃細胞であり得る。細胞分化の程度または細胞が回
収される動物の年齢に制限はない。未分化な前駆細胞(体性幹細胞を含む)および最終分
化した成熟細胞でさえも、本明細書中に開示される方法において体細胞の起源として使用
することができる。
【0137】
体細胞は、当業者に公知の方法を用いて初期化されて、iPS細胞を生成し得る。一般
に、体細胞から多能性幹細胞を生成するために、核の初期化因子が使用される。いくつか
の実施形態において、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、Nanogおよ
びLin28のうちの少なくとも3つまたは少なくとも4つが使用される。他の実施形態
では、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4が使用されるか、またはOc
t3/4、Sox2、NanogおよびLin28が使用される。
【0138】
iPSCは、いったん誘導されると、多能性を維持するのに十分な培地中で培養するこ
とができる。ある特定の実施形態では、不確定条件が使用され得る。例えば、多能性細胞
は、その幹細胞を未分化な状態で維持するために、線維芽細胞フィーダー細胞上で、また
は線維芽細胞フィーダー細胞に曝露された培地上で培養され得る。いくつかの実施形態に
おいて、その細胞は、細胞分裂を終結させるために照射または抗生物質で処置されたマウ
ス胎仔線維芽細胞をフィーダー細胞として共存させて培養される。あるいは、多能性細胞
は、TESRTM培地またはE8TM/Essential 8TM培地などのフィーダ
ー非依存性の明確な培養系を用いて、本質的に未分化な状態で培養および維持され得る。
V.遺伝的に操作された抗原レセプター
【0139】
本開示の免疫細胞は、抗原レセプター(例えば、操作されたTCR、CAR、キメラサ
イトカインレセプター、ケモカインレセプター、それらの組み合わせなど)を発現するよ
うに遺伝的に操作され得る。例えば、免疫細胞は、癌抗原に対する抗原特異性を有するC
ARおよび/またはTCRを発現するように改変される。複数のCARおよび/またはT
CR(例えば、種々の抗原に対するもの)が、免疫細胞に加えられ得る。いくつかの態様
において、免疫細胞は、CRISPRを用いた阻害性遺伝子の遺伝子座におけるCARま
たはTCRのノックインによって、CARまたはTCRを発現するように操作される。
【0140】
好適な改変方法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook and Au
subel,前出を参照のこと。例えば、上記細胞は、Heemskerk et al
.,2008およびJohnson et al.,2009に記載されている形質導入
法を用いて、癌抗原に対する抗原特異性を有するTCRを発現するように形質導入され得
る。
【0141】
レトロウイルスによって形質導入されたTCR鎖と内在性のTCR鎖との対形成によっ
て引き起こされる自己反応性に関する長期的な問題を克服する選択肢として、完全長TC
Rαおよびβ(またはγおよびδ)鎖をコードするRNAのエレクトロポレーションを使
用することができる。そのような代替の対形成が、一過性のトランスフェクションストラ
テジーにおいて起きたとしても、導入されたTCRαおよびβ鎖は、一過性に発現される
だけなので、生成される可能性がある自己反応性T細胞は、しばらくするとこの自己反応
性を失う。導入されたTCRαおよびβ鎖の発現が減少すると、正常な自己のT細胞だけ
が残る。これは、完全長TCR鎖が、安定したレトロウイルス形質導入によって導入され
たときは当てはまらず、導入されたTCR鎖は失われることはなく、患者に絶えず自己反
応性が存在するようになる。
【0142】
いくつかの実施形態において、上記細胞は、1つ以上の抗原レセプターをコードする、
遺伝子操作を介して導入された1つ以上の核酸、およびそのような核酸の遺伝的に操作さ
れた産物を含む。いくつかの実施形態において、それらの核酸は、異種であり、すなわち
、正常には、細胞または細胞から得られるサンプルに存在しない(例えば、別の生物また
は細胞から得られ、それは、例えば、操作されている細胞および/またはそのような細胞
が由来する生物において通常見られない)。いくつかの実施形態において、それらの核酸
は、自然界に見られない核酸(例えばキメラ)など、天然に存在しない。
【0143】
いくつかの実施形態において、上記CARは、抗原に特異的に結合する細胞外の抗原認
識ドメインを含む。いくつかの実施形態において、その抗原は、細胞表面上に発現される
タンパク質である。いくつかの実施形態において、上記CARは、TCR様CARであり
、抗原は、TCRと同様に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の状況において細胞
表面上で認識される、プロセシングを受けたペプチド抗原(例えば、細胞内タンパク質の
ペプチド抗原)である。
【0144】
CARおよび組換えTCRをはじめとした例示的な抗原レセプター、ならびにそれらの
レセプターを操作するための方法およびそれらのレセプターを細胞に導入するための方法
としては、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257、WO2013126
726、WO2012/129514、WO2014031687、WO2013/16
6321、WO2013/071154、WO2013/123061、米国特許出願公
開番号US2002131960、US2013287748、US201301493
37、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,
592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,1
79号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,20
9号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353
号および同第8,479,118号、ならびに欧州特許出願番号EP2537416に記
載されているもの、および/またはSadelain et al.,2013;Dav
ila et al.,2013;Turtle et al.,2012;Wu et
al.,2012によって記載されたものが挙げられる。いくつかの態様において、遺
伝的に操作された抗原レセプターには、米国特許第7,446,190号に記載されてい
るようなCAR、および国際特許出願公開番号WO/2014055668Alに記載さ
れているものが含まれる。
A.キメラ抗原レセプター
【0145】
いくつかの実施形態において、上記CARは、a)1つ以上の細胞内のシグナル伝達ド
メイン、b)膜貫通ドメイン、およびc)抗原結合領域を含む細胞外のドメインを含む。
【0146】
いくつかの実施形態において、操作された抗原レセプターには、活性化型または刺激型
のCAR、共刺激型のCAR(WO2014/055668を参照のこと)および/また
は阻害型のCAR(iCAR、Fedorov et al.,2013を参照のこと)
をはじめとしたCARが含まれる。それらのCARは、一般に、1つ以上の細胞内のシグ
ナル伝達構成要素に、いくつかの態様ではリンカーおよび/または膜貫通ドメインを介し
て連結された、細胞外の抗原(またはリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は
、通常、天然の抗原レセプターを介するシグナル、共刺激レセプターとともにそのような
レセプターを介するシグナル、および/または共刺激レセプターのみを介するシグナルを
模倣するかまたはまねる。
【0147】
本開示のある特定の実施形態は、細胞内のシグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、お
よび1つ以上のシグナル伝達モチーフを含む細胞外のドメインを含む、抗原特異的CAR
ポリペプチド(免疫原性を低減するためにヒト化されたCAR(hCAR)を含む)をコ
ードする核酸を含む核酸の使用に関する。ある特定の実施形態において、そのCARは、
1つ以上の抗原の間で共有される空間を含むエピトープを認識し得る。ある特定の実施形
態において、結合領域は、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の
可変領域、および/またはそれらの抗原結合フラグメントを含み得る。別の実施形態にお
いて、その特異性は、レセプターに結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来す
る。
【0148】
ヒトCAR核酸は、ヒト患者に対する細胞免疫療法を増強するために使用されるヒト遺
伝子であり得ると企図される。具体的な実施形態において、本発明は、CARの完全長c
DNAまたはコード領域を含む。その抗原結合領域またはドメインは、特定のヒトモノク
ローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)のVH鎖およびVL鎖のフ
ラグメント(例えば、参照により本明細書中に援用される米国特許第7,109,304
号に記載されているもの)を含み得る。そのフラグメントは、ヒト抗原特異的抗体の任意
の数の異なる抗原結合ドメインでもあり得る。より具体的な実施形態において、そのフラ
グメントは、ヒト細胞における発現のためにヒトのコドン使用頻度に最適化された配列に
よってコードされる抗原特異的scFvである。
【0149】
配置は、多量体であり得る(例えば、ダイアボディまたは多量体)。その多量体は、軽
鎖および重鎖の可変部分がダイアボディに交差対形成することによって形成される可能性
が最も高い。その構築物のヒンジ部分には、完全欠失から、1つ目のシステインが維持さ
れること、セリン置換ではなくプロリン置換であること、1つ目のシステインまで切断さ
れることにまで及ぶ複数の選択肢があり得る。Fc部分を欠失させることができる。安定
したかつ/または二量体化する任意のタンパク質が、この目的にかない得る。Fcドメイ
ンのうちの1つだけ、例えば、ヒト免疫グロブリンのCH2ドメインまたはCH3ドメイ
ンを使用することができる。二量体化を改善するように改変されたヒト免疫グロブリンの
ヒンジ、CH2およびCH3領域を使用することもできる。免疫グロブリンのヒンジ部分
だけを使用することもできる。CD8アルファの部分を使用することもできる。
【0150】
いくつかの実施形態において、上記CAR核酸は、膜貫通ドメインおよび改変されたC
D28細胞内シグナル伝達ドメインなどの、他の共刺激レセプターをコードする配列を含
む。他の共刺激レセプターとしては、CD28、CD27、OX-40(CD134)、
DAP10、DAP12および4-1BB(CD137)のうちの1つ以上が挙げられる
が、これらに限定されない。CD3ζによって惹起される1次シグナルに加えて、ヒトC
ARに挿入されたヒト共刺激レセプターによって提供されるさらなるシグナルが、NK細
胞の完全な活性化にとって重要であり、インビボでの持続性および養子免疫療法の治療の
成功の改善を助け得る。
【0151】
いくつかの実施形態において、CARは、養子療法によって標的化される特定の細胞型
において発現される抗原などの特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)、例えば、
癌マーカーおよび/または減衰応答を誘導することを目的とした抗原(例えば、正常細胞
型上または非罹患細胞型上に発現される抗原)に対する特異性を有するように構築される
。したがって、上記CARは通常、その細胞外の部分に、1つ以上の抗原結合分子(例え
ば、1つ以上の抗原結合フラグメント、抗原結合ドメインもしくは抗原結合部分)または
1つ以上の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。いくつかの実施形態にお
いて、上記CARは、抗体分子の抗原結合部分(例えば、モノクローナル抗体(mAb)
の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)に由来する一本鎖抗体フラグメント(scF
v))を含む。
【0152】
キメラ抗原レセプターのある特定の実施形態において、そのレセプターの抗原特異的部
分(抗原結合領域を含む細胞外ドメインと称され得る)は、腫瘍関連抗原または病原体特
異的抗原結合ドメインを含む。抗原には、デクチン-1などのパターン認識レセプターに
よって認識される糖鎖抗原が含まれる。腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面上に発現さ
れる限り、任意の種類であってよい。腫瘍関連抗原の例示的な実施形態としては、CD1
9、CD20、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、C
D56、EGFR、c-Met、AKT、Her2、Her3、上皮性腫瘍抗原、黒色腫
関連抗原、変異型p53、変異型rasなどが挙げられる。ある特定の実施形態において
、CARは、腫瘍関連抗原の量が少ないとき、持続性を改善するためにサイトカインと同
時発現され得る。例えば、CARは、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、I
L-18、IL-21またはそれらの組み合わせなどの1つ以上のサイトカインと同時発
現され得る。
【0153】
キメラレセプターをコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA
起源、cDNA起源から得ることができるか、または合成することができるか(例えば、
PCRを介して)、またはそれらの組み合わせであり得る。イントロンはmRNAを安定
化すると見出されているので、ゲノムDNAのサイズおよびイントロンの数に応じて、c
DNAまたはそれらの組み合わせを使用することが望ましい場合がある。また、mRNA
を安定化するために内在性または外来性の非コード領域を使用することもさらに有益であ
り得る。
【0154】
上記キメラ構築物は、裸のDNAとしてまたは好適なベクターに入った状態で免疫細胞
に導入され得ることが企図される。裸のDNAを用いたエレクトロポレーションによって
細胞を安定的にトランスフェクトする方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許
第6,410,319号を参照のこと。裸のDNAとは、一般に、発現にとって適切な向
きでプラスミド発現ベクターに含められたキメラレセプターをコードするDNAのことを
指す。
【0155】
あるいは、キメラ構築物を免疫細胞に導入するために、ウイルスベクター(例えば、レ
トロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレ
ンチウイルスベクター)を用いることができる。本開示の方法に従って使用するのに適し
たベクターは、免疫細胞において非複製性のベクターである。ウイルスに基づくベクター
が多数知られており(例えば、HIV、SV40、EBV、HSVまたはBPVに基づく
ベクター)、細胞内に維持されるそのウイルスのコピー数は、その細胞の生存能を維持す
るほど十分低い。
【0156】
いくつかの態様において、抗原に特異的に結合する構成要素または抗原特異的認識構成
要素は、1つ以上の膜貫通ドメインおよび細胞内のシグナル伝達ドメインに連結される。
いくつかの実施形態において、上記CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫
通ドメインを含む。1つの実施形態において、そのCARにおけるドメインの1つと天然
に会合する膜貫通ドメインが使用される。いくつかの場合において、その膜貫通ドメイン
は、レセプター複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるためにそのようなド
メインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合するのを回避するよ
うに、選択されるかまたはアミノ酸置換によって改変される。
【0157】
膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、天然起源または合成起源に由来する
。起源が天然である場合、そのドメインは、いくつかの態様において、任意の膜結合型タ
ンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞レセプターのアルフ
ァ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD3ガ
ンマ、CD3デルタ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22
、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD
154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2DおよびDAP分子に
由来する(すなわち、それらの分子の膜貫通領域を少なくとも含む)膜貫通領域を含む。
あるいは、膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、合成の膜貫通ドメインであ
る。いくつかの態様において、合成の膜貫通ドメインは、ロイシンおよびバリンなどの疎
水性残基を主に含む。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバ
リンのトリプレットが、合成の膜貫通ドメインの各末端に見られることがある。
【0158】
ある特定の実施形態において、NK細胞などの免疫細胞を遺伝的に改変するための本明
細書中に開示されるプラットフォーム技術としては、(i)エレクトロポレーションデバ
イス(例えば、ヌクレオフェクター)を用いた非ウイルス遺伝子導入、(ii)エンドド
メイン(例えば、CD28/CD3-ζ、CD137/CD3-ζまたは他の組み合わせ
)を介してシグナル伝達するCAR、(iii)長さが不定の細胞外ドメインであって抗
原認識ドメインを細胞表面に接続する細胞外ドメインを有するCAR、およびいくつかの
場合では、(iv)CAR+免疫細胞を頑強かつ数値的に拡大することができる、K56
2に由来する人工抗原提示細胞(aAPC)(Singh et al.,2008;S
ingh et al.,2011)が挙げられる。
B.T細胞レセプター(TCR)
【0159】
いくつかの実施形態において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、組換えTCR
、および/または天然に存在するT細胞からクローニングされたTCRが含まれる。「T
細胞レセプター」または「TCR」とは、可変a鎖および可変β鎖(それぞれTCRαお
よびTCRβとしても知られる)または可変γ鎖および可変δ鎖(それぞれTCRγおよ
びTCRδとしても知られる)を含む分子であって、MHCレセプターに結合した抗原ペ
プチドに特異的に結合することができる分子のことを指す。いくつかの実施形態において
、TCRは、αβ型である。
【0160】
通常、αβ型およびγδ型として存在するTCRは、一般に構造が似ているが、それら
を発現しているT細胞は、解剖学的位置または機能が異なり得る。TCRは、細胞表面上
にまたは可溶型として見られ得る。一般に、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表
面上に見られ、通常、その表面上で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合し
た抗原の認識に関与する。いくつかの実施形態において、TCRは、定常ドメイン、膜貫
通ドメイン、および/または短い細胞質テイルも含み得る(例えば、Janeway e
t al,1997を参照のこと)。例えば、いくつかの態様において、TCRの各鎖は
、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫
通領域、およびC末端に短い細胞質テイルを有し得る。いくつかの実施形態において、T
CRは、シグナル伝達の媒介に関わるCD3複合体のインバリアントタンパク質と会合さ
れる。別段述べられない限り、用語「TCR」は、その機能的TCRフラグメントを包含
すると理解されるべきである。この用語は、αβ型またはγδ型のTCRをはじめとした
インタクトなまたは完全長のTCRも包含する。
【0161】
したがって、本明細書中の目的では、TCRへの言及には、任意のTCRまたは機能的
フラグメント(例えば、MHC分子において結合した特異的な抗原ペプチド、すなわち、
MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分)が含まれる。交換可能に使用
され得る、TCRの「抗原結合部分」または抗原結合フラグメントとは、TCRの構造ド
メインの一部分しか含まないが、完全なTCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチ
ド複合体)に結合する分子のことを指す。いくつかの場合において、抗原結合部分は、特
異的なMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分なTCRの
可変ドメイン(例えば、TCRの可変a鎖および可変β鎖)を含み、例えば一般に、各鎖
が3つの相補性決定領域を含む。
【0162】
いくつかの実施形態において、TCR鎖の可変ドメインは、会合してループ、または免
疫グロブリンに類似の相補性決定領域(CDR)を形成し、それにより、抗原認識がもた
らされ、TCR分子の結合部位を形成することによってペプチド特異性が決定され、ペプ
チド特異性が決定される。通常、免疫グロブリンと同様に、CDRは、フレームワーク領
域(FR)によって隔てられる(例えば、Jores et al.,1990;Cho
thia et al.,1988;Lefranc et al.,2003を参照の
こと)。いくつかの実施形態において、CDR3は、プロセシングされた抗原の認識に関
与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部と相互
作用するとも示されているのに対して、ベータ鎖のCDR1は、そのペプチドのC末端部
と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。いくつかの実施
形態において、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含み得る。
【0163】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブ
リンと同様に、TCR鎖の細胞外の部分(例えば、a鎖、β鎖)は、2つの免疫グロブリ
ンドメインである、N末端における可変ドメイン(例えば、VaまたはVp;通常、Ka
batナンバリングであるKabat et al.,“Sequences of P
roteins of Immunological Interest,US Dep
t.Health and Human Services,Public Healt
h Service National Institutes of Health,
1991,5th ed.に基づくアミノ酸1~116)、および細胞膜に隣接した1つ
の定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメインまたはCa、通常、Kabatに基づくアミ
ノ酸117~259、β鎖定常ドメインまたはCp、通常、Kabatに基づくアミノ酸
117~295)を含み得る。例えば、いくつかの場合、それらの2本の鎖によって形成
されるTCRの細胞外の部分は、2つの膜近位定常ドメイン、およびCDRを含む2つの
膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスル
フィド結合を形成する短い接続配列を含み、それにより、それらの2本の鎖の間に連結が
形成される。いくつかの実施形態では、TCRが、定常ドメインに2つのジスルフィド結
合を含むように、そのTCRは、α鎖およびβ鎖の各々に追加のシステイン残基を有して
もよい。
【0164】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含み得る。いくつかの実
施形態において、膜貫通ドメインは、正に帯電している。いくつかの場合において、TC
R鎖は、細胞質テイルを含む。いくつかの場合において、その構造のおかげで、TCRは
CD3のような他の分子と会合することができる。例えば、膜貫通領域とともに定常ドメ
インを含むTCRは、そのタンパク質を細胞膜に固定し得、CD3シグナル伝達装置また
は複合体のインバリアントサブユニットと会合し得る。
【0165】
一般に、CD3は、哺乳動物においては3つの異なる鎖(γ、δおよびε)およびζ鎖
を有し得る多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、この複合体は、CD3γ
鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、およびホモ二量体のCD3ζ鎖を含み得る。CD3
γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブ
リンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD
3δ鎖およびCD3ε鎖の膜貫通領域は、負に帯電しており、これは、これらの鎖が、正
に帯電したT細胞レセプター鎖と会合できるようにする特性である。CD3γ鎖、CD3
δ鎖およびCD3ε鎖の各細胞内テイルは、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはIT
AMとして知られる保存された単一のモチーフを含むのに対して、各CD3ζ鎖は、3つ
含む。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能に関わる。これらのアクセサ
リー分子は、負に帯電した膜貫通領域を有し、TCRから細胞へのシグナルの伝播におい
て役割を果たす。CD3鎖およびζ鎖は、TCRと一体となって、T細胞レセプター複合
体として知られる複合体を形成する。
【0166】
いくつかの実施形態において、TCRは、2本の鎖αおよびβ(または必要に応じてγ
およびδ)のヘテロ二量体であり得るか、または一本鎖TCR構築物であり得る。いくつ
かの実施形態において、TCRは、ジスルフィド結合などによって連結された2本の別個
の鎖(α鎖とβ鎖またはγ鎖とδ鎖)を含むヘテロ二量体である。いくつかの実施形態に
おいて、標的抗原(例えば、癌抗原)に対するTCRが特定され、細胞に導入される。い
くつかの実施形態において、TCRをコードする核酸は、公的に入手可能なTCR DN
A配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅などによって、種々の起源から得ることが
できる。いくつかの実施形態において、TCRは、生物学的起源、例えば、細胞、例えば
、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマまたは他の公的に入手可
能な起源から得られる。いくつかの実施形態において、T細胞は、インビボで単離された
細胞から得ることができる。いくつかの実施形態において、高親和性T細胞クローンが、
患者から単離され得、TCRが単離され得る。いくつかの実施形態において、T細胞は、
培養されたT細胞ハイブリドーマまたはクローンであり得る。いくつかの実施形態におい
て、標的抗原に対するTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系
またはHLA)で操作されたトランスジェニックマウスにおいて産生されたクローンであ
る。例えば、腫瘍抗原(例えば、Parkhurst et al.,2009およびC
ohen et al.,2005)を参照のこと。いくつかの実施形態では、ファージ
ディスプレイを用いて、標的抗原に対するTCRが単離される(例えば、Varela-
Rohena et al.,2008およびLi,2005を参照のこと)。いくつか
の実施形態において、TCRまたはその抗原結合部分は、TCRの配列の知識によって合
成的に作製され得る。
C.抗原提示細胞
【0167】
マクロファージ、Bリンパ球および樹状細胞を含む抗原提示細胞は、特定のMHC分子
の発現によって識別される。APCは、抗原を内部移行し、その抗原の一部をMHC分子
とともにその細胞膜の外膜上に再発現する。MHCは、複数の遺伝子座を含む大きな遺伝
子複合体である。MHC遺伝子座は、クラスIおよびクラスII MHCと称されるMH
C膜分子の主要な2クラスをコードする。Tヘルパーリンパ球は、一般に、MHCクラス
II分子と会合した抗原を認識し、T細胞傷害性リンパ球は、MHCクラスI分子と会合
した抗原を認識する。MHCは、ヒトではHLA複合体と称され、マウスではH-2複合
体と称される。
【0168】
いくつかの場合において、上記実施形態の治療的組成物および細胞療法用の生成物を調
製する際には、aAPCが有用である。抗原提示システムの調製および使用に関する一般
的ガイダンスについては、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,
479号、同第6,362,001号および同第6,790,662号;米国特許出願公
開第2009/0017000号および同第2009/0004142号;ならびに国際
公開番号WO2007/103009を参照のこと。
【0169】
aAPCシステムは、少なくとも1つの外来性の補助分子を含み得る。任意の好適な数
および組み合わせの補助分子が使用され得る。補助分子は、共刺激分子および接着分子な
どの補助分子から選択され得る。例示的な共刺激分子としては、CD86、CD64(F
cγRI)、41BBリガンドおよびIL-21が挙げられる。接着分子としては、例え
ば細胞間の接触または細胞とマトリックスとの接触を促進する、セレクチンなどの糖結合
糖タンパク質、インテグリンなどの膜貫通結合糖タンパク質、カドヘリンなどのカルシウ
ム依存性タンパク質、および細胞間接着分子(ICAM)などの1回膜貫通型免疫グロブ
リン(Ig)スーパーファミリータンパク質が挙げられ得る。例示的な接着分子としては
、LFA-3、およびICAM-1などのICAMが挙げられる。共刺激分子および接着
分子をはじめとした例示的な補助分子の選択、クローニング、調製および発現に有用な手
法、方法および試薬は、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,4
79号および同第6,362,001号に例証されている。
D.抗原
【0170】
遺伝的に操作された抗原レセプターによって標的化される抗原には、養子細胞療法を介
して標的化される疾患、状態または細胞型の状況において発現される抗原が含まれる。そ
れらの疾患および状態には、血液癌、免疫系の癌(例えば、リンパ腫、白血病および/ま
たはミエローマ、例えば、B、Tおよび骨髄性白血病、リンパ腫ならびに多発性骨髄腫)
をはじめとした癌および腫瘍を含む、増殖性、腫瘍性および悪性の疾患および障害が含ま
れる。いくつかの実施形態において、抗原は、正常細胞もしくは正常組織または非標的化
細胞もしくは非標的化組織と比べて、その疾患または状態の細胞上、例えば、腫瘍細胞上
または病原性細胞上に、選択的に発現されるかまたは過剰発現される。他の実施形態にお
いて、抗原は、正常細胞上に発現され、かつ/または操作された細胞上に発現される。
【0171】
任意の好適な抗原が、本方法において標的化され得る。その抗原は、ある特定の癌細胞
に関連することもあるが、いくつかの場合では、非癌性細胞と関連しないこともある。例
示的な抗原としては、感染性物質、自己(auto)抗原/自己(self)抗原、腫瘍
関連抗原/癌関連抗原、および腫瘍新抗原に由来する抗原性分子(Linnemann
et al.,2015)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において
、それらの抗原には、NY-ESO、EGFRvIII、Muc-1、Her2、CA-
125、WT-1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/
DR4およびCEAが含まれる。特定の態様において、2つ以上の抗原レセプターに対す
る抗原としては、CD19、EBNA、WT1、CD123、NY-ESO、EGFRv
III、MUC1、HER2、CA-125、WT1、Mage-A3、Mage-A4
、Mage-A10、TRAIL/DR4および/またはCEAが挙げられるが、これら
に限定されない。これらの抗原に対する配列は、当該分野で公知であり、例えば、Gen
Bank(登録商標)データベースにおける以下のものである:CD19(アクセッショ
ン番号NG_007275.1)、EBNA(アクセッション番号NG_002392.
2)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、CD123(アクセッシ
ョン番号NC_000023.11)、NY-ESO(アクセッション番号NC_000
023.11)、EGFRvIII(アクセッション番号NG_007726.3)、M
UC1(アクセッション番号NG_029383.1)、HER2(アクセッション番号
NG_007503.1)、CA-125(アクセッション番号NG_055257.1
)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、Mage-A3(アクセッ
ション番号NG_013244.1)、Mage-A4(アクセッション番号NG_01
3245.1)、Mage-A10(アクセッション番号NC_000023.11)、
TRAIL/DR4(アクセッション番号NC_000003.12)、および/または
CEA(アクセッション番号NC_000019.10)。
【0172】
腫瘍関連抗原は、例として、前立腺癌、乳癌、直腸結腸癌、肺癌、膵臓癌、腎癌、中皮
腫、卵巣癌、肝臓癌、脳癌、骨癌、胃癌、脾臓癌、精巣癌、子宮頸癌、肛門癌、胆嚢癌、
甲状腺癌または黒色腫に由来し得る。例示的な腫瘍関連抗原または腫瘍細胞由来抗原とし
ては、MAGE1、3およびMAGE4(または他のMAGE抗原、例えば、国際特許公
開番号WO99/40188に開示されているもの);PRAME;BAGE;RAGE
、Lage(NY ESO1としても知られる);SAGE;およびHAGEまたはGA
GEが挙げられる。腫瘍抗原のこれらの非限定的な例は、黒色腫、肺癌、肉腫および膀胱
癌などの広範囲の腫瘍タイプにおいて発現される。例えば、米国特許第6,544,51
8号を参照のこと。前立腺癌の腫瘍関連抗原としては、例えば、前立腺特異的膜抗原(P
SMA)、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺酸性リン酸塩、NKX3.1および前立
腺の6回膜貫通上皮抗原(STEAP)が挙げられる。
【0173】
他の腫瘍関連抗原としては、Plu-1、HASH-1、HasH-2、Cripto
およびCriptinが挙げられる。さらに、腫瘍抗原は、多くの癌の処置において有用
な自己ペプチドホルモン、例えば、完全長の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)
、短い10アミノ酸長のペプチドであり得る。
【0174】
腫瘍抗原には、HER-2/neuの発現などの腫瘍関連抗原の発現を特徴とする癌に
由来する腫瘍抗原が含まれる。目的の腫瘍関連抗原には、系列特異的腫瘍抗原、例えば、
メラノサイト-黒色腫系列抗原MART-1/Melan-A、gp100、gp75、
mda-7、チロシナーゼおよびチロシナーゼ関連タンパク質が含まれる。例証的な腫瘍
関連抗原としては、p53、Ras、c-Myc、細胞質セリン/トレオニンキナーゼ(
例えば、A-Raf、B-RafおよびC-Raf、サイクリン依存性キナーゼ)、MA
GE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MA
GE-A10、MAGE-A12、MART-1、BAGE、DAM-6、-10、GA
GE-1、-2、-8、GAGE-3、-4、-5、-6、-7B、NA88-A、MA
RT-1、MC1R、Gp100、PSA、PSM、チロシナーゼ、TRP-1、TRP
-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、hTERT、hTRT、iCE、
MUC1、MUC2、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、TRKレセプター、
PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-3、ウィルムス腫瘍抗
原(WT1)、AFP、-カテニン/m、カスパーゼ-8/m、CEA、CDK-4/m
、ELF2M、GnT-V、G250、HSP70-2M、HST-2、KIAA020
5、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE、SART-2、T
RP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/m、TPI/mbc
r-abl、BCR-ABL、インターフェロン制御因子4(IRF4)、ETV6/A
ML、LDLR/FUT、Pml/RAR、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質1(T
ACSTD1)TACSTD2、レセプターチロシンキナーゼ(例えば、上皮成長因子レ
セプター(EGFR)(特に、EGFRvIII)、血小板由来成長因子レセプター(P
DGFR)、血管内皮成長因子レセプター(VEGFR))、細胞質チロシンキナーゼ(
例えば、srcファミリー、syk-ZAP70ファミリー)、インテグリン結合キナー
ゼ(ILK)、シグナル伝達性転写因子STAT3、STATSおよびSTATE、低酸
素誘導因子(例えば、HIF-1およびHIF-2)、核因子-カッパーB(NF-B)
、Notchレセプター(例えば、Notch1~4)、c-Met、ラパマイシンの哺
乳動物標的(mTOR)、WNT、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)およびそれら
の調節サブユニット、PMSA、PR-3、MDM2、メソテリン、腎細胞癌-5T4、
SM22-アルファ、炭酸脱水酵素I(CAI)およびIX(CAIX)(G250とし
ても知られる)、STEAD、TEL/AML1、GD2、プロテイナーゼ3、hTER
T、肉腫転座切断点(sarcoma translocation breakpoi
nts)、EphA2、ML-IAP、EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融
合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲンレセプター、サイクリンB1、
ポリシアル酸、MYCN、RhoC、GD3、フコシルGM1、メソテリアン(meso
thelian)、PSCA、sLe、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLo
boH、NY-BR-1、RGsS、SART3、STn、PAX5、OY-TES1、
精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B
7H3、レグマイン(legumain)、TIE2、Page4、MAD-CT-1、
FAP、MAD-CT-2、fos関連抗原1、CBX2、CLDN6、SPANX、T
PTE、ACTL8、ANKRD30A、CDKN2A、MAD2L1、CTAG1B、
SUNC1、LRRN1ならびにイディオタイプのうちのいずれか1つ以上に由来するか
またはいずれか1つ以上を含む腫瘍抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0175】
抗原は、腫瘍細胞において変異した遺伝子由来の、または正常細胞と比べて腫瘍細胞に
おいて異なるレベルで転写される遺伝子由来の、エピトープ領域またはエピトープペプチ
ド(例えば、テロメラーゼ酵素、サバイビン、メソテリン、変異型ras、bcr/ab
l再配列、Her2/neu、変異型または野生型p53、シトクロムP450 1B1
、およびN-アセチルグルコサミン転移酵素-Vなどの異常に発現されるイントロン配列
);ミエローマおよびB細胞リンパ腫においてユニークなイディオタイプを生成する免疫
グロブリン遺伝子のクローン性再配列;オンコウイルスのプロセスに由来するエピトープ
領域またはエピトープペプチドを含む腫瘍抗原(例えば、ヒトパピローマウイルスタンパ
ク質E6およびE7);エプスタイン・バーウイルスタンパク質LMP2;腫瘍選択的に
発現する変異していない腫瘍胎児性タンパク質(例えば、癌胎児抗原およびアルファ-フ
ェトプロテイン)を含み得る。
【0176】
他の実施形態において、抗原は、病原性微生物または日和見病原性微生物(本明細書中
で感染症微生物とも呼ばれる)(例えば、ウイルス、真菌、寄生生物および細菌)から得
られるかまたはそれらに由来する。ある特定の実施形態において、そのような微生物に由
来する抗原には、完全長タンパク質が含まれる。
【0177】
本明細書中に記載される方法において使用が企図される抗原を有する例証的な病原性生
物としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸
器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウ
イルス(EBV)、インフルエンザA、BおよびC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、
水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルスおよびJ
Cウイルス)、アデノウイルス、メチシリン耐性Staphylococcus aur
eus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種、ならびにStreptococcus p
neumoniaeを含む連鎖球菌属の種が挙げられる。当業者が理解するように、本明
細書中に記載されるような抗原として使用するためのこれらおよび他の病原性微生物に由
来するタンパク質、ならびにそれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、刊行
物ならびにGENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTR
EMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る。
【0178】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来する抗原には、HIVビリオン構造タンパク質
(例えば、gp120、gp41、p17、p24)、プロテアーゼ、逆転写酵素、また
はtat、rev、nef、vif、vprおよびvpuによってコードされるHIVタ
ンパク質のうちのいずれかが含まれる。
【0179】
単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV1およびHSV2)に由来する抗原としては、
HSV後期遺伝子から発現されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。後
期群の遺伝子は、ビリオン粒子を形成するタンパク質を主にコードする。そのようなタン
パク質としては、ウイルスキャプシドを形成する(UL)の5つのタンパク質:UL6、
UL18、UL35、UL38ならびに主要キャプシドタンパク質UL19、UL45お
よびUL27(これらの各々が、本明細書中に記載されるような抗原として使用され得る
)が挙げられる。本明細書中で抗原としての使用が企図される他の例証的なHSVタンパ
ク質としては、ICP27(H1、H2)、糖タンパク質B(gB)および糖タンパク質
D(gD)タンパク質が挙げられる。HSVゲノムは、少なくとも74個の遺伝子を含み
、その各々が、抗原として使用され得る可能性があるタンパク質をコードする。
【0180】
サイトメガロウイルス(CMV)に由来する抗原としては、CMV構造タンパク質、ウ
イルス複製の前初期および初期に発現されるウイルス抗原、糖タンパク質IおよびIII
、キャプシドタンパク質、コートタンパク質、低分子マトリックスタンパク質(lowe
r matrix protein)pp65(ppUL83)、p52(ppUL44
)、IE1および1E2(UL123およびUL122)、UL128~UL150の遺
伝子クラスターのタンパク質産物(Rykman,et al.,2006)、エンベロ
ープ糖タンパク質B(gB)、gH、gN、ならびにpp150が挙げられる。当業者が
理解するように、本明細書中に記載される抗原として使用するためのCMVタンパク質は
、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL
(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る(例えば、Bennekov
et al.,2004;Loewendorf et al.,2010;Mars
chall et al.,2009を参照のこと)。
【0181】
ある特定の実施形態において使用が企図されるエプスタイン・バンウイルス(EBV)
に由来する抗原としては、EBV溶解性タンパク質gp350およびgp110、エプス
タイン・バン核抗原(EBNA)-1、EBNA-2、EBNA-3A、EBNA-3B
、EBNA-3C、EBNA-リーダータンパク質(EBNA-LP)、ならびに潜伏感
染膜タンパク質(LMP)-1、LMP-2AおよびLMP-2Bを含む、潜伏感染サイ
クル中に生成されるEBVタンパク質が挙げられる(例えば、Lockey et al
.,2008を参照のこと)。
【0182】
本明細書中で使用が企図される呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に由来する抗原には、
RSVゲノムによってコードされる11個のタンパク質またはそれらの抗原性フラグメン
ト:NS1、NS2、N(ヌクレオキャプシドタンパク質)、M(マトリックスタンパク
質)SH、GおよびF(ウイルスコートタンパク質)、M2(第2のマトリックスタンパ
ク質)、M2-1(伸長因子)、M2-2(転写制御)、RNAポリメラーゼ、ならびに
リンタンパク質Pのうちのいずれかが含まれる。
【0183】
使用が企図される水疱性口内炎ウイルス(VSV)に由来する抗原には、VSVゲノム
によってコードされる主要な5つのタンパク質およびそれらの抗原性フラグメント:巨大
タンパク質(L)、糖タンパク質(G)、核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)お
よびマトリックスタンパク質(M)のうちのいずれか1つが含まれる(例えば、Ried
er et al.,1999を参照のこと)。
【0184】
ある特定の実施形態において使用が企図されるインフルエンザウイルスに由来する抗原
としては、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、
マトリックスタンパク質M1およびM2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、P
B1-F2、ならびにPB2が挙げられる。
【0185】
例示的なウイルス抗原としては、アデノウイルスのポリペプチド、アルファウイルスの
ポリペプチド、カリシウイルスのポリペプチド(例えば、カリシウイルスのキャプシド抗
原)、コロナウイルスのポリペプチド、ジステンパーウイルスのポリペプチド、エボラウ
イルスのポリペプチド、エンテロウイルスのポリペプチド、フラビウイルスのポリペプチ
ド、肝炎ウイルス(AE)のポリペプチド(B型肝炎コアまたは表面抗原、C型肝炎ウイ
ルスのE1もしくはE2糖タンパク質、コアまたは非構造タンパク質)、ヘルペスウイル
スのポリペプチド(単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの糖タンパク質を
含む)、感染性腹膜炎ウイルスのポリペプチド、白血病ウイルスのポリペプチド、マール
ブルグウイルスのポリペプチド、オルトミクソウイルスのポリペプチド、パピローマウイ
ルスのポリペプチド、パラインフルエンザウイルスのポリペプチド(例えば、赤血球凝集
素ポリペプチドおよびノイラミニダーゼポリペプチド)、パラミクソウイルスのポリペプ
チド、パルボウイルスのポリペプチド、ペスチウイルスのポリペプチド、ピコルナウイル
スのポリペプチド(例えば、ポリオウイルスのキャプシドポリペプチド)、ポックスウイ
ルスのポリペプチド(例えば、ワクシニアウイルスのポリペプチド)、狂犬病ウイルスの
ポリペプチド(例えば、狂犬病ウイルスの糖タンパク質G)、レオウイルスのポリペプチ
ド、レトロウイルスのポリペプチド、およびロタウイルスのポリペプチドも挙げられるが
、これらに限定されない。
【0186】
ある特定の実施形態において、抗原は、細菌抗原であり得る。ある特定の実施形態にお
いて、目的の細菌抗原は、分泌型ポリペプチドであり得る。他のある特定の実施形態にお
いて、細菌抗原には、細菌の細胞外面上に露出したポリペプチドの一部分を有する抗原が
含まれる。
【0187】
使用が企図される、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(M
RSA)を含むブドウ球菌属の種に由来する抗原としては、ビルレンス制御因子、例えば
、Agrシステム、SarおよびSae、Arlシステム、Sarホモログ(Rot、M
grA、SarS、SarR、SarT、SarU、SarV、SarX、SarZおよ
びTcaR)、SrrシステムならびにTRAPが挙げられる。抗原として役立ち得る他
のブドウ球菌属のタンパク質としては、Clpタンパク質、HtrA、MsrR、アコニ
ターゼ、CcpA、SvrA、Msa、CfvAおよびCfvBが挙げられる(例えば、
Staphylococcus:Molecular Genetics,2008 C
aister Academic Press,Ed.Jodi Lindsayを参照
のこと)。Staphylococcus aureusの2種(N315およびMu5
0)のゲノムが、配列決定済みであり、例えば、PATRIC(PATRIC:The
VBI PathoSystems Resource Integration Ce
nter,Snyder et al.,2007)において公的に入手可能である。当
業者が理解するように、抗原として使用するためのブドウ球菌属のタンパク質は、Gen
Bank(登録商標)、Swiss-Prot(登録商標)およびTrEMBL(登録商
標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。
【0188】
本明細書中に記載されるある特定の実施形態において使用が企図されるStrepto
coccus pneumoniaeに由来する抗原としては、ニューモリシン、Psp
A、コリン結合タンパク質A(CbpA)、NanA、NanB、SpnHL、PavA
、LytA、Phtおよびピリンタンパク質(RrgA;RrgB;RrgC)が挙げら
れる。Streptococcus pneumoniaeの抗原性タンパク質も、当該
分野で公知であり、いくつかの実施形態において抗原として使用され得る(例えば、Zy
sk et al.,2000を参照のこと)。Streptococcus pneu
moniaeの毒性株の全ゲノム配列は、配列決定済みであり、当業者が理解するように
、本明細書中で使用するためのS.pneumoniaeタンパク質は、GENBANK
(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)など
の他の公的データベースにおいても特定され得る。本開示に係る抗原として特に興味深い
タンパク質としては、肺炎球菌の表面に露出すると予測される病原性因子およびタンパク
質が挙げられる(例えば、Frolet et al.,2010を参照のこと)。
【0189】
抗原として使用され得る細菌抗原の例としては、アクチノマイセス属のポリペプチド、
バチルス属のポリペプチド、バクテロイデス属のポリペプチド、ボルデテラ属のポリペプ
チド、バルトネラ属のポリペプチド、ボレリア属のポリペプチド(例えば、B.burg
dorferi OspA)、ブルセラ属のポリペプチド、カンピロバクター属のポリペ
プチド、キャプノサイトファーガ属のポリペプチド、クラミジア属のポリペプチド、コリ
ネバクテリウム属のポリペプチド、コクシエラ属のポリペプチド、デルマトフィルス属の
ポリペプチド、エンテロコッカス属のポリペプチド、エーリキア属のポリペプチド、エシ
ェリキア属のポリペプチド、フランシセラ属のポリペプチド、フソバクテリウム属のポリ
ペプチド、ヘモバルトネラ属のポリペプチド、ヘモフィルス属のポリペプチド(例えば、
H.influenzae b型外膜タンパク質)、ヘリコバクター属のポリペプチド、
クレブシエラ属のポリペプチド、L型細菌のポリペプチド、レプトスピラ属のポリペプチ
ド、リステリア属のポリペプチド、マイコバクテリウム属のポリペプチド、マイコプラズ
マ属のポリペプチド、ナイセリア属のポリペプチド、ネオリケッチア属のポリペプチド、
ノカルジア属のポリペプチド、パスツレラ属のポリペプチド、ペプトコッカス属のポリペ
プチド、ペプトストレプトコッカス属のポリペプチド、肺炎球菌のポリペプチド(すなわ
ち、S.pneumoniaeのポリペプチド)(本明細書中の説明を参照のこと)、プ
ロテウス属のポリペプチド、シュードモナス属のポリペプチド、リケッチア属のポリペプ
チド、ロシャリメア属のポリペプチド、サルモネラ属のポリペプチド、シゲラ属のポリペ
プチド、ブドウ球菌属のポリペプチド、A群連鎖球菌のポリペプチド(例えば、S.py
ogenesのMタンパク質)、B群連鎖球菌(S.agalactiae)のポリペプ
チド、トレポネーマ属のポリペプチド、およびエルシニア属のポリペプチド(例えば、Y
pestisのF1およびV抗原)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
真菌抗原の例としては、アブシディア属のポリペプチド、アクレモニウム属のポリペプ
チド、アルテルナリア属のポリペプチド、アスペルギルス属のポリペプチド、バシジオボ
ラス属のポリペプチド、ビポラーリス属のポリペプチド、ブラストミセス属のポリペプチ
ド、カンジダ属のポリペプチド、コクシジオイデス属のポリペプチド、コニディオボラス
属のポリペプチド、クリプトコッカス属のポリペプチド、カーバラリア属のポリペプチド
、エピデルモフィトン属のポリペプチド、エクソフィアラ属のポリペプチド、ゲオトリク
ム属のポリペプチド、ヒストプラズマ属のポリペプチド、マヅレラ属のポリペプチド、マ
ラセチア属のポリペプチド、ミクロスポルム属のポリペプチド、モニリエラ属のポリペプ
チド、モルチエレラ属のポリペプチド、ケカビ属のポリペプチド、ペシロマイセス属のポ
リペプチド、ペニシリウム属のポリペプチド、フィアレモニウム属(Phialemon
ium)のポリペプチド、フィアロフォラ属のポリペプチド、プロトテカ属のポリペプチ
ド、シュードアレシェリア属のポリペプチド、シュードミクロドキウム属(Pseudo
microdochium)のポリペプチド、フィチウム属のポリペプチド、リノスポリ
ジウム属のポリペプチド、クモノスカビ属のポリペプチド、スコレコバシジウム属(Sc
olecobasidium)のポリペプチド、スポロトリクス属のポリペプチド、ステ
ンフィリウム属(Stemphylium)のポリペプチド、白癬菌属のポリペプチド、
トリコスポロン属のポリペプチドおよびキシロヒファ属(Xylohypha)のポリペ
プチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0191】
原生動物の寄生生物抗原の例としては、バベシア属のポリペプチド、バランチジウム属
のポリペプチド、ベスノイチア属(Besnoitia)のポリペプチド、クリプトスポ
リジウム属のポリペプチド、エイメリア属のポリペプチド、エンセファリトゾーン属のポ
リペプチド、エントアメーバ属のポリペプチド、ジアルジア属のポリペプチド、ハモンデ
ィア属(Hammondia)のポリペプチド、ヘパトゾーン属のポリペプチド、イソス
ポラ属のポリペプチド、リーシュマニア属のポリペプチド、微胞子虫門のポリペプチド、
ネオスポラ属のポリペプチド、ノゼマ属のポリペプチド、ペンタトリコモナス属のポリペ
プチド、プラスモディウム属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。蠕
虫寄生生物抗原の例としては、アカントケイロネマ属のポリペプチド、アエルロストロン
ギルウス属(Aelurostrongylus)のポリペプチド、鉤虫属のポリペプチ
ド、住血線虫属のポリペプチド、回虫属のポリペプチド、ブルギア属のポリペプチド、ブ
ノストムム属のポリペプチド、キャピラリア属のポリペプチド、カベルチア属(Chab
ertia)のポリペプチド、クーペリア属のポリペプチド、クレノソマ属(Creno
soma)のポリペプチド、ディクチオカウルス属のポリペプチド、ジオクトフィーメ属
のポリペプチド、ディペタロネマ属のポリペプチド、裂頭条虫属のポリペプチド、ジプリ
ジウム属のポリペプチド、イヌ糸状虫属のポリペプチド、ドラクンクルス属のポリペプチ
ド、エンテロビウス属のポリペプチド、フィラロイデス属(Filaroides)のポ
リペプチド、ヘモンクス属のポリペプチド、ラゴキラスカリス属(Lagochilas
caris)のポリペプチド、ロア糸状虫属(Loa)のポリペプチド、マンソネラ属の
ポリペプチド、ムエレリウス属(Muellerius)のポリペプチド、ナノフィエツ
ス属(Nanophyetus)のポリペプチド、アメリカ鉤虫属のポリペプチド、ネマ
トジルス属のポリペプチド、腸結節虫属のポリペプチド、オンコセルカ属のポリペプチド
、オピストルキス属のポリペプチド、オステルタギア属のポリペプチド、パラフィラリア
属(Parafilaria)のポリペプチド、肺吸虫属のポリペプチド、パラスカリス
属(Parascaris)のポリペプチド、フィサロプテラ属のポリペプチド、プロト
ストロンギルス属(Protostrongylus)のポリペプチド、セタリア属のポ
リペプチド、スピロセルカ属(Spirocerca)のポリペプチド スピロメトラ属
のポリペプチド、ステファノフィラリア属のポリペプチド、ストロンギロイデス属のポリ
ペプチド、ストロンギルス属のポリペプチド、テラジア属のポリペプチド、トキサスカリ
ス属のポリペプチド、トキソカラ属のポリペプチド、旋毛虫属のポリペプチド、毛様線虫
属のポリペプチド、鞭虫属のポリペプチド、ウンシナリア属のポリペプチドおよびウケレ
リア属のポリペプチド(例えば、P.falciparumのスポロゾイト周囲ポリペプ
チド(PfCSP))、スポロゾイト表面タンパク質2(PfSSP2)、肝臓状態抗原
(liver state antigen)1のカルボキシル末端(PfLSA1 c
末端)、ならびに搬出タンパク質1(PfExp-1)、ニューモシスチス属のポリペプ
チド、サルコシスティス属のポリペプチド、住血吸虫属のポリペプチド、タイレリア属の
ポリペプチド、トキソプラズマ属のポリペプチド、ならびにトリパノソーマ属のポリペプ
チドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0192】
外寄生生物抗原の例としては、ノミ;カタダニおよびヒメダニを含むマダニ;ハエ、例
えば、小虫、蚊、スナバエ、ブユ、ウマバエ、ノサシバエ、メクラアブ、ツェツェバエ、
サシバエ、ハエ幼虫症の原因となるハエおよび刺して血を吸う小さな羽虫(biting
gnats);アリ;クモ、シラミ;ダニ;ならびに半翅類の昆虫、例えば、トコジラ
ミおよびサシガメのポリペプチド(抗原ならびにアレルゲンを含む)が挙げられるが、こ
れらに限定されない。
E.自殺遺伝子
【0193】
いくつかの場合において、本開示の任意の細胞が、異種サイトカイン、操作されたレセ
プターなど以外の1つ以上の作用物質を産生するように改変される。具体的な実施形態に
おいて、NK細胞などの細胞は、1つ以上の自殺遺伝子を有するように操作され、本明細
書中で使用される用語「自殺遺伝子」は、プロドラッグが投与された際に、遺伝子産物が
、宿主細胞を殺滅する化合物に変化する遺伝子と定義される。いくつかの場合において、
NK細胞療法は、NK細胞療法を受けている個体および/またはNK細胞療法を受けた個
体が、1つ以上の有害事象の1つ以上の症状(例えば、サイトカイン放出症候群、神経毒
性、アナフィラキシー/アレルギーおよび/またはオンターゲット/オフ腫瘍毒性(例と
して))を示したとき、または1つ以上の症状を有するリスクがあると考えられるとき(
切迫した場合を含む)、任意の種類の1つ以上の自殺遺伝子の利用の対象となり得る。自
殺遺伝子の使用は、治療のために計画されたプロトコルの一部であり得るか、またはそれ
を使用する必要性が認められたときにだけ使用され得る。いくつかの場合において、細胞
療法は、もはや必要なくなったという理由で、自殺遺伝子またはその遺伝子産物を標的化
する作用物質を使用することによって終結される。
【0194】
自殺遺伝子の例としては、操作された非分泌性(膜結合型を含む)の腫瘍壊死因子(T
NF)-アルファ変異ポリペプチド(その全体が参照により本明細書中に援用されるPC
T/US19/62009を参照のこと)が挙げられ、それらのポリペプチドは、TNF
-アルファ変異体に結合する抗体の送達によって標的化され得る。使用され得る自殺遺伝
子/プロドラッグの組み合わせの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HS
V-tk)と、ガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼと
シクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチ
ミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)とAZT;およびデオキシシチジンキナーゼとシ
トシンアラビノシドである。プロドラッグである6-メチルプリンデオキシリボシドを毒
性のプリンである6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子であるE.coliの
プリンヌクレオシドホスホリラーゼが使用され得る。他の自殺遺伝子としては、CD20
、CD52、誘導性カスパーゼ9、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シト
クロムp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステ
ラーゼ(CE)、ニトロ還元酵素(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(X
GRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)およびチミ
ジンホスホリラーゼ(TP)が例として挙げられる。
F.送達方法
【0195】
当業者であれば、本開示の抗原レセプターを発現させるために標準的な組換え手法(例
えば、Sambrook et al.,2001およびAusubel et al.
,1996(両方が参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)によってベクタ
ーを構築する能力を十分に備えているだろう。ベクターとしては、プラスミド、コスミド
、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体
(例えば、YAC)、例えば、レトロウイルスベクター(例えば、モロニーマウス白血病
ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV、SNVなどに由来す
るもの)、レンチウイルスベクター(例えば、HIV-1、HIV-2、SIV、BIV
、FIVなどに由来するもの)、アデノウイルス(Ad)ベクター(その複製可能型、複
製欠損型およびガットレス型(gutless forms)を含む)、アデノ随伴ウイ
ルス(AAV)ベクター、サルウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウ
イルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワ
クシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルス
ベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ポリオウイルスベク
ター、水疱性口内炎ウイルスベクター、マラバウイルス(maraba virus)ベ
クターおよびB群アデノウイルスenadenotucirevベクターが挙げられるが
これらに限定されない。
【0196】
具体的な実施形態において、ベクターは、PCT/US19/62014(その全体が
参照により本明細書中に援用される)に記載されているようなマルチシストロニックベク
ターである。そのような場合、単一のベクターが、CARまたはTCR(その発現構築物
は、CARまたはTCRの部分の相互交換を可能にするためにモジュール形式で構成され
得る)、自殺遺伝子および1つ以上のサイトカインをコードし得る。
a.ウイルスベクター
【0197】
抗原レセプターをコードするウイルスベクターが、本開示のある特定の態様において提
供され得る。組換えウイルスベクターを作製する際、必須ではない遺伝子は、通常、異種
(または非天然)タンパク質の遺伝子またはコード配列で置き換えられる。ウイルスベク
ターは、ウイルス配列を利用して、核酸および場合によってはタンパク質を細胞に導入す
る一種の発現構築物である。ある特定のウイルスが細胞に感染する能力またはレセプター
媒介性のエンドサイトーシスを介して細胞に侵入する能力、および宿主細胞のゲノムにイ
ンテグレートし、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現する能力によって、それらのウ
イルスが、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に移行させるための魅力的な候補に
なった。本発明のある特定の態様の核酸を送達するために使用され得るウイルスベクター
の非限定的な例を下記に記載する。
【0198】
レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子であ
るgag、polおよびenvに加えて、調節機能または構造機能を有する他の遺伝子も
含む。レンチウイルスベクターは、当該分野で周知である(例えば、米国特許第6,01
3,516号および同第5,994,136号を参照のこと)。
【0199】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、インビボとエキ
ソビボの両方において遺伝子導入および核酸配列発現のために使用され得る。例えば、非
分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルス(ここで、好適な宿主細胞が、パ
ッケージング機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、polおよびenv、
ならびにrevおよびtatでトランスフェクトされる)は、参照により本明細書中に援
用される米国特許第5,994,136号に記載されている。
b.調節エレメント
【0200】
本開示において有用なベクターに含められる発現カセットは、特に、タンパク質コード
配列に作動可能に連結された真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグ
ナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方向で)含む。タンパク
質をコードする遺伝子の転写を真核細胞において制御するプロモーターおよびエンハンサ
ーは、複数の遺伝的エレメントから構成される。細胞機構は、各エレメントによって運ば
れる調節情報を集め、統合することができ、それにより、異なる遺伝子が、多くの場合は
複雑なパターンである異なるパターンの転写制御を展開することが可能になる。本開示の
状況において使用されるプロモーターとしては、構成的プロモーター、誘導性プロモータ
ーおよび組織特異的プロモーターが挙げられる。
(i)プロモーター/エンハンサー
【0201】
本明細書中に提供される発現構築物は、抗原レセプターの発現を駆動するプロモーター
を含む。プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位の位置を特定するように
機能する配列を含む。これの最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、哺
乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターお
よびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、一部のプロモーターでは、TATAボック
スを欠き、開始部位自体と重なっている不連続なエレメントが、開始の場所を固定するの
を助ける。さらなるプロモーターエレメントが、転写開始の頻度を制御する。通常、これ
らは、開始部位の30110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、
開始部位の下流にも機能的エレメントを含むと示されている。コード配列をプロモーター
「の支配下に」するためには、転写読み枠の転写開始部位の5’末端を、選択されたプロ
モーターの「下流」(すなわち、3’)に置く。「上流」のプロモーターは、DNAの転
写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0202】
プロモーターエレメント間の間隔は、変更がきくことが多く、エレメントが、反転され
るかまたは互いに対して移動された場合でも、プロモーターの機能は保存される。tkプ
ロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔は、活性が低下し始めるまで最大50
bp広げられ得る。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協同的にまたは独自に
機能して転写を活性化し得るとみられる。プロモーターは、核酸配列の転写性の活性化に
関わるシス作用性制御配列のことを指す「エンハンサー」と併せて使用されてもよいし、
使用されなくてもよい。
【0203】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コ
ード配列を単離することによって得られることがあるような、ある核酸配列と天然に会合
したプロモーターであり得る。そのようなプロモーターは、「内在性」プロモーターと呼
ぶことができる。同様に、エンハンサーは、ある核酸配列の下流または上流に位置する、
その配列と天然に会合したエンハンサーであり得る。あるいは、ある核酸配列とその天然
の環境では天然には会合していないプロモーターのことを指す、組換えプロモーターまた
は異種プロモーターの支配下にコード核酸セグメントを置くことによって、一定の利点が
得られる。また、組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーは、その天然の環境では核
酸配列と天然には会合していないエンハンサーのことを指す。そのようなプロモーターま
たはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任
意のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハ
ンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち、種々の転写制御領域の種々のエレメ
ントおよび/または発現を変化させる変異を含む、プロモーターまたはエンハンサーが含
まれ得る。例えば、組換えDNAの構築において最もよく使用されるプロモーターとして
は、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp-)
プロモーターシステムが挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成
的に作製することに加えて、組換えクローニング、および/またはPCRTMをはじめと
した核酸増幅技術を用いて、ある配列が、本明細書中に開示される組成物に関連して作製
され得る。さらに、核以外のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)内での
配列の転写および/または発現を指示する調節配列も同様に使用できることが企図される
。
【0204】
当然、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、器官または生物におけるD
NAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使
用することが重要になる。分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のために、プ
ロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせを使用することを承知している(例
えば、参照により本明細書中に援用されるSambrook et al.1989を参
照のこと)。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター
、誘導性プロモーター、および/または導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指
示する、適切な条件下において有用なプロモーター(例えば、組換えタンパク質および/
または組換えペプチドの大規模生成において有益なプロモーター)であり得る。そのプロ
モーターは、異種であっても、内在性であってもよい。
【0205】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、epd.isb-
sib.ch/のワールドワイドウェブを介したEukaryotic Promote
r Data Base EPDBに従って)も、発現を駆動するために使用され得る。
T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用が、別の実行可能な実施形態である。適切な
細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝的発現構築物として提
供される場合、真核細胞は、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質での転写を支持し
得る。
【0206】
プロモーターの非限定的な例としては、初期ウイルスプロモーターまたは後期ウイルス
プロモーター(例えば、SV40初期または後期プロモーター、サイトメガロウイルス(
CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター);真核
細胞プロモーター(例えば、ベータアクチンプロモーター、GADPHプロモーター、メ
タロチオネインプロモーター);および連鎖状応答エレメントプロモーター(例えば、サ
イクリックAMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモー
ター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)およびミニマルTATAボ
ックス近傍の応答エレメントプロモーター(tre))が挙げられる。ヒト成長ホルモン
プロモーター配列(例えば、Genbank(登録商標)に記載されているヒト成長ホル
モンミニマルプロモーター、アクセッション番号X05244、ヌクレオチド283~3
41)またはマウス乳腺腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能,Cat.No.AT
CC45007)を使用することも可能である。ある特定の実施形態において、プロモー
ターは、CMV IE、デクチン-1、デクチン-2、ヒトCD11c、F4/80、S
M22、RSV、SV40、Ad MLP、ベータ-アクチン、MHCクラスIまたはM
HCクラスIIプロモーターであるが、しかしながら、治療用の遺伝子の発現を駆動する
ために有用な他の任意のプロモーターも本開示の実施に適用できる。
【0207】
ある特定の態様において、本開示の方法は、エンハンサー配列、すなわち、プロモータ
ーの活性を増加させる核酸配列であって、シスで、かつその向きを問わず、比較的長い距
離(標的プロモーターから最大数キロベース離れた距離)にわたって作用する能力を有す
る核酸配列にも関する。しかしながら、エンハンサーは、所与のプロモーターに対して近
位でも機能し得るので、エンハンサーの機能は必ずしもそのような長い距離に限定されな
い。
(ii)開始シグナルおよび連結発現
【0208】
コード配列の効率的な翻訳のために、本開示に提供される発現構築物において、特異的
な開始シグナルも使用され得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは隣接配列
を含む。外来性の翻訳制御シグナル(ATG開始コドンを含む)が提供される必要がある
場合がある。当業者であれば、これを判断することおよび必要なシグナルを提供すること
が容易にできるだろう。インサート全体の翻訳を確保するためには、開始コドンが、所望
のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。その外
来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然のものまたは合成のものであり得る。
適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって、発現効率が高められ得る。
【0209】
ある特定の実施形態において、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使
用は、多重遺伝子のメッセージ、すなわちポリシストロニックなメッセージを生成するた
めに使用される。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存的翻訳のリボソーム
スキャニングモデルを迂回し、内部の部位において翻訳を開始することができる。ピコル
ナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント、な
らびに哺乳動物のメッセージ由来のIRESが、報告されている。IRESエレメントは
、異種のオープンリーディングフレームに連結できる。各々がIRESによって隔てられ
た複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写することができ、ポリシストロニッ
クなメッセージを生成できる。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディング
フレームが、効率的な翻訳のためにリボソームに接近できるようになる。単一のプロモー
ター/エンハンサーを用いて複数の遺伝子を効率的に発現して、単一のメッセージを転写
することもできる。
【0210】
さらに、本開示に提供される構築物内の遺伝子の連結発現または同時発現をもたらすた
めに、ある特定の2A配列エレメントが使用され得る。例えば、オープンリーディングフ
レームを連結して単一のシストロンを形成することによって遺伝子を同時発現するために
、切断配列が使用され得る。例示的な切断配列は、F2A(口蹄疫ウイルス2A)または
「2A様」配列(例えば、Thosea asignaウイルス2A;T2A)である。
(iii)複製開始点
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、そのベクターは、1つ以上の複製開始
部位(「ori」と呼ばれることが多い)、例えば、複製が開始される特異的な核酸配列
である、上に記載されたようなEBVのoriPまたはプログラミングにおける機能が似
ているかもしくは高められた遺伝的に操作されたoriPに対応する核酸配列を含み得る
。あるいは、上に記載されたような染色体外で複製する他のウイルスの複製起点、または
自律複製配列(ARS)を使用することができる。
c.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
【0211】
いくつかの実施形態において、本開示の構築物を含む細胞は、マーカーを発現ベクター
に含めることによって、インビトロまたはインビボにおいて特定され得る。そのようなマ
ーカーは、発現ベクターを含む細胞を容易に特定できるようにする特定可能な変化を細胞
にもたらす。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するマーカーである
。ポジティブ選択マーカーは、そのマーカーが存在することによってその選択が可能にな
るマーカーであり、ネガティブ選択マーカーは、その存在が選択を妨げるマーカーである
。ポジティブ選択マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0212】
通常、薬物選択マーカーを含めることにより、形質転換体のクローニングおよび特定が
助けられ、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、G
PT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対して耐性にする遺伝子が、有用な選択マーカー
である。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカー
に加えて、比色解析を基礎とする、GFPなどのスクリーニング可能なマーカーをはじめ
とした他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキ
ナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)など
の、ネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が利用され得る。当業者で
あれば、免疫学的マーカーをおそらくはFACS解析と併せて使用する方法も承知してい
るだろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されること
が可能である限り、重要ではないと考えられている。選択マーカーおよびスクリーニング
可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
d.他の核酸送達方法
【0213】
抗原レセプターをコードする核酸のウイルス送達に加えて、以下の方法が、所与の宿主
細胞への組換え遺伝子送達のさらなる方法であるので、本開示において考慮される。
【0214】
本開示の免疫細胞へのDNAまたはRNAなどの核酸の導入は、本明細書中に記載され
るようにまたは当業者に公知であるように、細胞を形質転換するための核酸送達に適した
任意の方法を使用し得る。そのような方法としては、DNAの直接送達(例えば、エキソ
ビボトランスフェクション、注射(マイクロインジェクションを含む));エレクトロポ
レーション;リン酸カルシウム沈殿;DEAE-デキストランに続くポリエチレングリコ
ールの使用;直接的な音波負荷;リポソーム媒介性のトランスフェクションおよびレセプ
ター媒介性のトランスフェクション;微粒子銃(microprojectile bo
mbardment);炭化ケイ素繊維を伴った撹拌;アグロバクテリウム媒介性の形質
転換;乾燥/阻害媒介性のDNA取り込み、およびそのような方法の任意の組み合わせが
挙げられるが、これらに限定されない。これらの手法などの手法の適用により、オルガネ
ラ、細胞、組織または生物が安定にまたは一過性に形質転換され得る。
VI.処置方法
【0215】
本開示の実施形態は、癌、任意の種類の感染症および任意の免疫障害について個体を処
置する方法を含む。その個体は、最初の処置として、または別の処置の後にもしくは別の
処置の最中に、本開示の処置方法を使用し得る。免疫療法の方法は、癌のタイプまたはス
テージに基づいて、癌を有する個体のニーズに合わせることができ、少なくともいくつか
の場合では、免疫療法は、処置の期間中にその個体に対して改変され得る。
【0216】
具体的な場合において、処置方法は、以下のとおりである:1)任意のタイプの血液悪
性腫瘍を有する癌患者を処置するために、TまたはNK細胞(エキソビボで拡大されたT
もしくはNK細胞、またはCARもしくはTCRを発現するTもしくはNK細胞)を用い
る養子細胞療法、(2)任意のタイプの固形癌を有する癌患者を処置するために、Tまた
はNK細胞(エキソビボで拡大されたTもしくはNK細胞、またはCARもしくはTCR
を発現するTもしくはNK細胞)を用いる養子細胞療法、(3)免疫障害を有する患者を
処置するために、Tregおよび制御性B細胞を用いる養子細胞療法(エキソビボ拡大さ
れた、またはCARまたはTCRを発現する)、(4)感染症を有する患者を処置するた
めに、TまたはNK細胞(エキソビボで拡大されたTもしくはNK細胞、またはCARも
しくはTCRを発現するTもしくはNK細胞)を用いる養子細胞療法。本開示は、ヒトN
K細胞における複数の遺伝子をノックダウン/ノックアウトすることが、細胞の機能の改
善および腫瘍微小環境に対する抵抗性に寄与することを初めて示した。具体的な実施形態
において、これには、患者自身の免疫細胞または養子移入された免疫細胞の機能を高める
新規の免疫療法アプローチを用いた患者のケアに対して直接の意味がある。実施形態は、
免疫療法に向けて高度に機能的なT、NKおよびB細胞(エキソビボで拡大され、かつC
ARまたはTCRが操作された細胞)を作製する新規アプローチを提供する。これらには
、癌(血液腫瘍と固形腫瘍の両方)(NK細胞およびT細胞、また、CAR T細胞およ
びCAR NK細胞)、自己免疫障害および同種免疫障害(B細胞、制御性B細胞および
制御性T細胞)の標的化、および感染症の処置(病原体特異的T細胞)が含まれる。
【0217】
いくつかの実施形態において、本開示は、有効量の本開示の免疫細胞を投与する工程を
含む、免疫療法のための方法を提供する。1つの実施形態において、免疫応答を誘発する
免疫NK細胞集団の移入によって、内科疾患または内科障害が処置される。本開示のある
特定の実施形態において、免疫応答を誘発する免疫細胞集団の移入によって、癌または感
染症が処置される。個体の癌を処置するためまたは癌の進行を遅延させるための方法が本
明細書中に提供され、その方法は、有効量の抗原特異的細胞療法を個体に投与する工程を
含む。本方法は、免疫障害、固形癌、血液癌およびウイルス感染症の処置に適用され得る
。
【0218】
本処置方法が有用な腫瘍には、任意の悪性細胞タイプ、例えば、固形腫瘍または血液腫
瘍に見られる細胞タイプが含まれる。例示的な固形腫瘍としては、膵臓、結腸、盲腸、胃
、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、黒色腫、前立腺および乳房から
なる群より選択される器官の腫瘍が挙げられ得るが、これらに限定されない。例示的な血
液腫瘍としては、骨髄の腫瘍、TまたはB細胞悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、芽腫、ミエ
ローマなどが挙げられる。本明細書中に提供される方法を用いて処置され得る癌のさらな
る例としては、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、
腹膜癌、胃(gastric)癌または胃(stomach)癌(消化器癌および消化管
間質癌を含む)、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌
、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌または腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌
、様々なタイプの頭頸部癌、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0219】
癌は、具体的には以下の組織タイプの癌であり得るが、これらに限定されない:新生物
、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上
皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガス
トリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌・胆管癌の混合型;索状腺癌;腺様嚢胞
癌;腺腫性ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍
、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性
癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状・濾胞腺癌;非被包性硬化癌;副腎皮質
癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺
癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;
浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上
皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性
;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細
胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色
細胞腫;グロムス血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;悪性黒子
黒色腫;末端黒子型黒色腫;結節性黒色腫;巨大色素性母斑内悪性黒色腫;類上皮細胞黒
色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;
平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、
悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、
悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚腫;胎児性癌;奇形腫、悪性
;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉
腫;血管外皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍皮質骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫
、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル
上皮歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫
;グリオーマ、悪性;上衣腫;アストロサイトーマ;原形質性アストロサイトーマ;細線
維性アストロサイトーマ;星芽腫;膠芽腫;乏突起膠腫;希突起芽腫;原始神経外胚葉性
;小脳肉腫;神経節神経芽腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅神経原腫瘍;髄膜腫、悪性;神経
線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン;
側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性;悪性リン
パ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の特定の非ホジキンリンパ腫;B細胞リンパ腫;低悪性度
/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞
性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性
NHL;高悪性度小非切れ込み型細胞NHL;巨大病変(bulky disease)
NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;ワルデンシュトレームマクログ
ロブリン血症;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;
白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性
白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球
性白血病;骨髄性肉腫;ヘアリー細胞白血病;慢性リンパ性白血病(CLL);急性リン
パ芽球性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);および慢性骨髄芽球性白血病
。
【0220】
特定の実施形態は、白血病の処置方法に関する。白血病は、血液または骨髄の癌であり
、血液細胞、通常は白血球細胞(白血球)の異常な増殖(分裂増殖による生成)を特徴と
する。白血病は、血液腫瘍と呼ばれる広範な疾患群の一部である。白血病は、多種多様な
疾患を網羅する広義語である。白血病は、急性および慢性の形態に臨床的におよび病理学
的に分けられる。
【0221】
本開示のある特定の実施形態において、免疫細胞は、それを必要とする個体(例えば、
癌または感染症を有する個体)に送達される。次いで、それらの細胞は、その個体の免疫
系を増強して、それぞれの癌細胞または病原性細胞を攻撃する。いくつかの場合では、そ
の個体に免疫細胞が1回以上提供される。個体に免疫細胞が2回以上提供される場合、投
与間の時間は、その個体において伝播するのに十分な時間であるべきであり、具体的な実
施形態では、投与間の時間は、l、2、3、4、5、6、7日間またはそれ以上である。
【0222】
本開示のある特定の実施形態は、免疫媒介性障害を処置または予防するための方法を提
供する。1つの実施形態において、被験体は、自己免疫疾患を有する。自己免疫疾患の非
限定的な例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性ア
ジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵
巣炎および自己免疫性睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱
瘡、心筋症、セリアック多発性皮膚炎(celiac spate-dermatiti
s)、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、
チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素病、クロ
ーン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球
体腎炎、グレーヴズ病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減
少紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデ
ス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、1型糖尿病または免疫媒介性糖尿病
、重症筋無力症、ネフローゼ症候群(例えば、微小変化群、巣状糸球体硬化症または膜性
腎症)、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リ
ウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発
性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、
サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテ
マトーデス、エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎(例えば、結節性多
発性動脈炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎または疱疹状皮膚炎脈管炎)、白
斑ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。したがって、本明細書中に開示される方法
を用いて処置され得る自己免疫疾患のいくつかの例としては、多発性硬化症、関節リウマ
チ、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、クローン病;潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、
糸球体腎炎、強直性脊椎炎、脈管炎または乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。
被験体は、喘息などのアレルギー性障害も有し得る。
【0223】
さらに別の実施形態では、被験体は、移植される器官または幹細胞のレシピエントであ
り、拒絶反応を予防および/または処置するために免疫細胞が使用される。特定の実施形
態において、被験体は、移植片対宿主病を有するか、または移植片対宿主病を発症するリ
スクがある。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは
含む任意の移植に関して起こり得る合併症である。GVHDには、急性と慢性の2種類が
ある。急性GVHDは、移植後の最初の3ヶ月以内に現れる。急性GVHDの徴候として
は、手および足における赤みがかった発疹が挙げられ、それは、剥皮または皮膚の水疱形
成を伴って広がることがあり、より重篤になることがある。急性GVHDは、胃および腸
にも影響することがあり、その場合、筋痙攣、悪心および下痢が認められる。皮膚および
目の黄変(黄疸)は、急性GVHDが肝臓に影響していることを示す。慢性GVHDは、
その重症度に基づいて等級付けされる:ステージ/グレード1が軽度であり;ステージ/
グレード4が重度である。慢性GVHDは、移植の3ヶ月後またはそれ以降に発症する。
慢性GVHDの症状は、急性GVHDの症状と似ているが、さらに、慢性GVHDは、眼
の粘液腺、口の唾液腺ならびに胃壁および腸を滑らかにする腺にも影響し得る。本明細書
中に開示される任意の免疫細胞集団を使用することができる。移植される器官の例として
は、臓器移植片、例えば、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、肺および/または心臓、あるいは細
胞移植片、例えば、小島、肝細胞、筋芽細胞、骨髄または造血性幹細胞もしくは他の幹細
胞が挙げられる。移植片は、複合性の移植片、例えば、顔面の組織であり得る。免疫細胞
は、移植の前、移植と同時、または移植の後に、投与され得る。いくつかの実施形態にお
いて、免疫細胞は、移植の前に、例えば、移植の少なくとも1時間前、少なくとも12時
間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少
なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なく
とも3週間前、少なくとも4週間前または少なくとも1ヶ月前に投与される。1つの非限
定的な具体例では、治療有効量の免疫細胞の投与は、移植の3~5日前に行われる。
【0224】
いくつかの実施形態において、被験体には、免疫細胞療法の前に骨髄非破壊的なリンパ
球除去化学療法が施され得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、任意の好適
な経路によって投与され得る任意の好適なそのような治療であり得る。その骨髄非破壊的
なリンパ球除去化学療法は、特に、癌が転移性であり得る黒色腫である場合、例えば、シ
クロホスファミドおよびフルダラビンの投与を含み得る。シクロホスファミドおよびフル
ダラビンの例示的な投与経路は、静脈内である。同様に、任意の好適な用量のシクロホス
ファミドおよびフルダラビンが投与され得る。特定の態様では、およそ60mg/kgの
シクロホスファミドが2日間投与され、その後、およそ25mg/m2のフルダラビンが
5日間投与される。
【0225】
ある特定の実施形態では、免疫細胞の増殖および活性化を促進する成長因子が、免疫細
胞と同時にまたは免疫細胞に続いて被験体に投与される。免疫細胞成長因子は、免疫細胞
の増殖および活性化を促進する任意の好適な成長因子であり得る。好適な免疫細胞成長因
子の例としては、インターロイキン(IL)-2、IL-7、IL-12、IL-15、
IL-18およびIL-21が挙げられ、これらは、単独でまたは様々な組み合わせで(
例えば、IL-2とIL-7、IL-2とIL-15、IL-7とIL-15、IL-2
とIL-7とIL-15、IL-12とIL-7、IL-12とIL-15またはIL-
12とIL2)使用され得る。
【0226】
治療有効量の免疫細胞が、非経口投与をはじめとしたいくつかの経路、例えば、静脈内
、腹腔内、筋肉内、胸骨内もしくは関節内の注射または注入によって投与され得る。
【0227】
養子細胞療法において使用するための免疫細胞の治療有効量は、処置される被験体にお
いて所望の効果を達成する量である。例えば、これは、進行を阻害するために必要な免疫
細胞の量、または自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を後退させるために必要な免疫細胞
の量、または自己免疫疾患によって引き起こされる症状、例えば、疼痛および炎症を和ら
げることができる量であり得る。これは、炎症に伴う症状、例えば、疼痛、浮腫および体
温上昇を和らげるために必要な量であり得る。これは、移植された器官の拒絶反応を減少
させるまたは予防するために必要な量でもあり得る。
【0228】
上記免疫細胞集団は、疾患状態を回復させるために、上記疾患と一致した処置レジメン
で、例えば、1日から数日間にわたって1回または数回で、投与され得るか、または疾患
の進行を阻害するためおよび疾患の再発を予防するために、長期間にわたる定期的な投与
で投与され得る。製剤において用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害
の重篤度にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。免
疫細胞の治療有効量は、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプならびに投与様式
に依存する。いくつかの実施形態において、ヒト被験体の処置において使用され得る用量
は、少なくとも3.8×104、少なくとも3.8×105、少なくとも3.8×106
、少なくとも3.8×107、少なくとも3.8×108、少なくとも3.8×109ま
たは少なくとも3.8×1010免疫細胞/m2で変動する。ある特定の実施形態におい
て、ヒト被験体の処置において使用される用量は、約3.8×109~約3.8×101
0免疫細胞/m2で変動する。さらなる実施形態において、免疫細胞の治療有効量は、約
5×106細胞/kg体重~約7.5×108細胞/kg体重、例えば、約2×107細
胞~約5×108細胞/kg体重または約5×107細胞~約2×108細胞/kg体重
で変動し得る。免疫細胞の正確な量は、被験体の年齢、体重、性別および生理学的状態に
基づいて当業者によってすぐに決定される。有効量は、インビトロモデルまたは動物モデ
ルの試験系から導かれた用量反応曲線から外挿され得る。
【0229】
上記免疫細胞は、免疫媒介性障害を処置するための1つ以上の他の治療薬と併用して投
与され得る。併用療法としては、1つ以上の抗菌剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤お
よび抗真菌剤)、抗腫瘍剤(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキ
セル、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫枯渇剤
(例えば、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫抑
制剤(例えば、アザチオプリンまたは糖質コルチコイド、例えば、デキサメタゾンまたは
プレドニゾン)、抗炎症剤(例えば、糖質コルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デ
キサメタゾンまたはプレドニゾン)または非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アセチルサ
リチル酸、イブプロフェンまたはナプロキセンナトリウム))、サイトカイン(例えば、
インターロイキン-10またはトランスフォーミング成長因子-ベータ)、ホルモン(例
えば、エストロゲン)またはワクチンが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに
、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリンおよびタクロリムス);mTOR阻
害剤(例えば、ラパマイシン);ミコフェノール酸モフェチル、抗体(例えば、CD3、
CD4、CD40、CD154、CD45、IVIGまたはB細胞を認識する抗体);化
学療法剤(例えば、メトトレキサート、トレオスルファン、ブスルファン);照射;また
はケモカイン、インターロイキンもしくはそれらの阻害剤(例えば、BAFF、IL-2
、抗IL-2R、IL-4、JAKキナーゼ阻害剤)を含むがこれらに限定されない免疫
抑制剤または免疫寛容誘発剤が投与され得る。そのようなさらなる医薬品は、所望の効果
に応じて免疫細胞の投与前、投与中または投与後に投与され得る。上記細胞および作用物
質のこの投与は、同じ経路または異なる経路による投与、および同じ部位または異なる部
位における投与であり得る。
A.薬学的組成物
【0230】
免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞またはNK細胞)および薬学的に許容され得るキャ
リアを含む薬学的組成物および製剤も本明細書中に提供される。
【0231】
本明細書中に記載されるような薬学的組成物および製剤は、所望の程度の純度を有する
活性成分(例えば、抗体またはポリペプチド)を1つ以上の自由選択の薬学的に許容され
得るキャリア(Remington’s Pharmaceutical Scienc
es 22nd edition,2012)と混合することによって、凍結乾燥された
製剤または水溶液の形態で調製され得る。薬学的に許容され得るキャリアは、一般に、使
用される投与量および濃度においてレシピエントにとって無毒性であり、それらのキャリ
アとしては、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸);酸化防止剤(アス
コルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベン
ジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム
;フェノールアルコール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベ
ン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;
シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残
基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グ
ロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グ
リシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、
二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレ
ート剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース
またはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Z
n-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレン
グリコール(PEG))が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な本明細書中の
薬学的に許容され得るキャリアとしては、間質薬物分散剤、例えば、中性で活性な可溶性
ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒア
ルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標),B
axter International,Inc.)がさらに挙げられる。rHuPH
20を含むある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許公開第200
5/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。1つの
態様において、sHASEGPは、1つ以上のさらなるグリコサミノグリカナーゼ、例え
ば、コンドロイチナーゼと併用される。
B.併用療法
【0232】
ある特定の実施形態において、本実施形態の組成物および方法は、少なくとも1つのさ
らなる治療と併用される免疫細胞集団を含む。そのさらなる治療は、放射線療法、手術(
例えば、ランペクトミーおよび乳房切除術)、化学療法、遺伝子治療、DNA治療、ウイ
ルス治療、RNA治療、免疫療法、骨髄移植、ナノ治療、モノクローナル抗体治療または
前述の組み合わせであり得る。そのさらなる治療は、アジュバント療法またはネオアジュ
バント療法の形態であり得る。
【0233】
いくつかの実施形態において、さらなる治療は、小分子酵素阻害剤または抗転移剤の投
与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、副作用制限剤(例えば、処置
の副作用の発生率および/または重症度を下げることを目的とする作用物質、例えば、抗
悪心剤など)の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法
である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、手術である。いくつかの実施形
態において、さらなる治療は、放射線療法と手術の併用である。いくつかの実施形態にお
いて、さらなる治療は、ガンマ線照射である。いくつかの実施形態において、さらなる治
療は、PBK/AKT/mTOR経路を標的化する治療、HSP90阻害剤、チューブリ
ン阻害剤、アポトーシス阻害剤および/または化学予防剤である。さらなる治療は、当該
分野で公知の化学療法剤の1つ以上であり得る。
【0234】
免疫細胞療法は、免疫チェックポイント療法などのさらなる癌治療の前、最中、後また
は様々な組み合わせで投与され得る。それらの投与は、同時から数分、数日、数週間まで
の範囲の間隔で行われ得る。免疫細胞療法がさらなる治療薬とは別に患者に提供される実
施形態では、それら2つの化合物が、なおも患者に対して有益な併用効果を発揮できるよ
うに、各送達時点の間にかなりの期間が経過しないことを保証するのが一般的である。そ
のような場合、抗体療法と抗癌療法とが、互いの約12~24または72時間以内に、よ
り詳細には、互いの約6~12時間以内に患者に提供され得ることが企図される。いくつ
かの状況において、それぞれの投与間に数日(2、3、4、5、6または7)から数週間
(1、2、3、4、5、6、7または8)が経過した場合、処置期間をかなり延長するこ
とが望ましいことがある。
【0235】
様々な組み合わせが使用され得る。下記の例の場合、免疫細胞療法が、「A」であり、
抗癌療法が、「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/
B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A
B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A
A/A/B/A
【0236】
本実施形態の任意の化合物または治療の患者への投与は、それらの作用物質に毒性があ
る場合はそれを考慮して、そのような化合物を投与するための一般的なプロトコルに従う
。ゆえに、いくつかの実施形態では、併用療法に起因し得る毒性をモニタリングする工程
が存在する。
1.化学療法
【0237】
多種多様の化学療法剤が、本実施形態に従って使用され得る。用語「化学療法」とは、
薬物を使用して癌を処置することを指す。「化学療法剤」は、癌の処置において投与され
る化合物または組成物を意味するために使用される。これらの作用物質または薬物は、細
胞内でのそれらの活性様式によって、例えば、それらが細胞周期に影響するか否かおよび
どのステージにおいて細胞周期に影響するかによって、分類される。あるいは、作用物質
は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に
影響することによって染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて特徴付け
られ得る。
【0238】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロスホスファミ
ド);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスル
ファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツ
レドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミン
およびメチルアメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリ
エチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよ
びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む);ア
セトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成アナログで
あるトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼ
レシン、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin
)合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプト
フィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログであるKW-2189
およびCB1-TM1を含む);エレウセロビン(eleutherobin);パンク
ラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodic
tyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスター
ド(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コ
ロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファ
ミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(n
ovembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムス
チン、トロフォスファミド(trofosfamide)およびウラシルマスタード);
ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、
ニムスチンおよびラニムヌスチン(ranimnustine));抗生物質(例えば、
エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマlIお
よびカリケアマイシンオメガI1));ジネマイシン(dynemicin)(ジネマイ
シンAを含む);ビスホスホネート(例えば、クロドロネート);エスペラミシン;なら
びにネオカルチノスタチンクロモフォアおよび関連色素タンパク質であるエンジイン抗生
物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラルニシン、アザセ
リン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミ
ノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophil
in)、クロモミシニス、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(deto
rubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モル
ホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソル
ビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esor
ubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マ
イトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ミコフェノール酸、ノガラルニシン、オリ
ボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピュ
ーロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodoru
bicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、
ジノスタチンおよびゾルビシン;抗代謝産物(例えば、メトトレキサートおよび5-フル
オロウラシル(5-FU));葉酸アナログ(例えば、デノプテリン(denopter
in)、プテロプテリンおよびトリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダ
ラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)およびチオグ
アニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジ
ン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン
およびフロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモ
スタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタンおよびテストラクトン);抗副腎(a
nti-adrenals)(例えば、ミトタンおよびトリロスタン);葉酸補給剤(例
えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミ
ドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリ
ン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビ
サントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デ
ホファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン(
elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acet
ate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロ
ニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoid
s)(例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocins));ミ
トグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリ
ン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサント
ロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic a
cid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リ
ゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクォン(tri
aziquone);2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特
に、T-2トキシン、ベラクリンA、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン
(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミ
トブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine)
;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリ
タキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金
配位錯体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラ
スチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンク
リスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシ
ン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート;イリノテカン(例
えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオル
ニチン(DMFO);レチノイド(例えば、レチノイン酸);カペシタビン;カルボプラ
チン、プロカルバジン、プリコマイシン、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシル-
タンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)
、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容され得る塩、酸または誘導体が挙げられる。
2.放射線療法
【0239】
DNA損傷を引き起こす、広く使用されてきた他の因子としては、γ線、X線および/
または腫瘍細胞への放射性同位体の定方向送達として一般的に知られているものが挙げら
れる。マイクロ波、陽子ビーム照射およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も企
図される。これらの因子のすべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復
ならびに染色体のアセンブリおよび維持に対して広範囲のダメージをもたらす可能性が最
も高い。X線の線量の範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンと
いう1日線量から、2000~6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放
射性同位体の線量の範囲は、大きく異なり、同位体の半減期、放射される放射線の強度お
よびタイプ、ならびに腫瘍性細胞による取り込みに依存する。
3.免疫療法
【0240】
当業者は、さらなる免疫療法が上記実施形態の方法と併用してまたは併せて使用され得
ることを理解する。癌の処置の状況において、免疫治療薬は、通常、癌細胞を標的化し、
破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子を使用することに頼る
。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))が、そのような例である。免疫エフェク
ターは、例えば、腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であり得る。その
抗体は、単独で治療のエフェクターとして機能し得るか、または他の細胞をリクルートし
て、実際に細胞殺滅に影響し得る。その抗体はまた、薬物またはトキシン(化学療法剤、
放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合体化され得、標的化剤と
して役立ち得る。あるいは、そのエフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相
互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷
害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0241】
抗体-薬物結合体(ADC)は、殺細胞薬に共有結合的に連結されたモノクローナル抗
体(MAb)を含み、併用療法において使用され得る。このアプローチは、抗原標的に対
するMAbの高い特異性を非常に強力な細胞傷害性薬物と組み合わせることから、豊富な
レベルの抗原を有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「武装した」MAbをも
たらす。また、薬物の標的化送達は、正常組織への曝露を最小限に抑えることから、毒性
の低減および治療指数の改善をもたらす。例示的なADC薬物としては、ADCETRI
S(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)およびKADCYLA(登録商標)(トラ
スツズマブエムタンシンまたはT-DM1)が挙げられる。
【0242】
免疫療法の1つの態様において、腫瘍細胞は、標的化の影響を受けやすい何らかのマー
カー、すなわち、他の大部分の細胞上に存在しない何らかのマーカーを有さなければなら
ない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれかが、本実施形態の状況において標
的化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、癌胎児抗原、チロシ
ナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原
、MucA、MucB、PLAP、ラミニンレセプター、erb Bおよびp155が挙
げられる。免疫療法の代替の態様は、抗癌効果と免疫刺激効果とを組み合わせることであ
る。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFNなどのサイトカイ
ン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなど
の成長因子をはじめとした免疫刺激分子も存在する。
【0243】
免疫療法の例としては、免疫アジュバント、例えば、Mycobacterium b
ovis、Plasmodium falciparum、ジニトロクロロベンゼンおよ
び芳香族化合物);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL
-1、GM-CSFならびにTNF;遺伝子治療、例えば、TNF、IL-1、IL-2
およびp53;ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドG
M2および抗p185が挙げられる。1つ以上の抗癌療法が、本明細書中に記載される抗
体療法とともに使用され得ることが企図される。
【0244】
いくつかの実施形態において、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。
免疫チェックポイントは、シグナル(例えば、共刺激分子)を強めるかまたはシグナルを
弱めるかのいずれかである。免疫チェックポイントの遮断によって標的化され得る阻害性
免疫チェックポイントとしては、アデノシンA2Aレセプター(A2AR)、B7-H3
(CD276としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、
細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CD152としても知られるCTLA-4)、
インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(K
IR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死1(PD-1)、T細胞
免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、ならびにT細胞活性化
のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)が挙げられる。特に、免疫チェックポイ
ント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的化する。
【0245】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、組換え型のリガンドまたはレセプターなどの
薬物であり得るか、または特に、ヒト抗体などの抗体である。免疫チェックポイントタン
パク質またはそのアナログの公知の阻害剤が、使用され得、特に、キメラ化型、ヒト化型
またはヒト型の抗体が使用され得る。当業者が承知しているように、代替のおよび/また
は等価な名称が、本開示において述べられるある特定の抗体に対して使用され得る。その
ような代替のおよび/または等価な名称は、本開示の文脈において相互交換可能である。
例えば、ランブロリズマブが、代替のおよび等価な名称であるMK-3475およびペン
ブロリズマブとしても知られていることは公知である。
【0246】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がそのリガン
ド結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PD-1
リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。別の実施形態にお
いて、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1がその結合パートナーに結合するのを阻
害する分子である。具体的な態様において、PDL1結合パートナーは、PD-1および
/またはB7-1である。別の実施形態において、PDL2結合アンタゴニストは、PD
L2がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、
PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合フ
ラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドであり得る。
【0247】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例え
ば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)である。いくつかの実施形態において、抗
PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブおよびCT-011からなる群より選択
される。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシ
ン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPDL1
またはPDL2の細胞外の部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である
。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である
。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-93655
8およびOPDIVO(登録商標)としても知られるニボルマブは、使用され得る抗PD
-1抗体である。MK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTR
UDA(登録商標)およびSCH-900475としても知られるペンブロリズマブは、
例示的な抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても知られるCT-0
11も、抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても知られるAMP-224は、P
DL2-Fc融合可溶性レセプターである。
【0248】
本明細書中に提供される方法において標的化され得る別の免疫チェックポイントは、C
D152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)であ
る。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15
006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上に見られ、抗原提示細胞の表面上のC
D80またはCD86に結合したとき「切」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘ
ルパーT細胞の表面上に発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり
、T細胞に阻害シグナルを伝達する。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質であるCD
28に似ており、両分子は、抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-
1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA4は、T細胞に阻害シグナルを伝
達するのに対して、CD28は、刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は、制御性
T細胞にも見られ、それらの細胞の機能にとって重要であり得る。T細胞レセプターおよ
びCD28を介したT細胞の活性化により、B7分子に対する阻害性レセプターであるC
TLA-4が高発現される。
【0249】
いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(
例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)、それらの抗原結合フラグメント、イ
ムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドである。
【0250】
本方法における使用に適した抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれ由来のVHおよび/
もしくはVLドメイン)は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。あるいは、当
該分野で認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例示的な抗CTL
A-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101およびYer
voy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合フラグメントおよびバリアン
トである。他の実施形態において、その抗体は、イピリムマブの重鎖CDRおよび軽鎖C
DRまたは重鎖VRおよび軽鎖VRを含む。したがって、1つの実施形態において、その
抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインならびに
イピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の実施
形態において、その抗体は、CTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープへの結合に
ついて競合し、かつ/またはCTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープに結合する
。別の実施形態において、その抗体は、上述の抗体に対して少なくとも約90%の可変領
域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%または99
%の可変領域同一性)を有する。
4.手術
【0251】
癌を有する人のおよそ60%が、予防的手術、診断的手術または進行度診断手術、根治
的手術および緩和手術をはじめとした何らかのタイプの手術を受ける。根治的手術には、
癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除および/または破壊する摘出術が含まれ
、他の治療(例えば、本実施形態の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子
治療、免疫療法および/または代替療法)と併せて使用され得る。腫瘍摘出術とは、腫瘍
の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。手術による処置には、腫瘍摘出術に加
えて、レーザー手術、凍結手術、電気手術および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0252】
癌性細胞、組織または腫瘍の一部または全部を切除する際、身体に空洞が形成され得る
。処置は、さらなる抗癌療法によるその領域の灌流、直接注射または局所適用によって達
成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、
または1、2、3、4および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9
、10、11もしくは12ヶ月ごとに、反復され得る。これらの処置は、様々な投与量の
処置でもあり得る。
5.他の作用物質
【0253】
処置の治療効果を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて他の作
用物質が使用され得ることが企図される。これらのさらなる作用物質としては、細胞表面
レセプターおよびギャップ結合のアップレギュレーションに影響する作用物質、細胞分裂
抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の
感度を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が挙げられる。ギャップ結合数を増
加させることによる細胞間のシグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する
抗過剰増殖効果を高め得る。他の実施形態では、処置の抗過剰増殖の有効性を改善するた
めに、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて細胞分裂抑制剤または分化剤が使用さ
れ得る。本実施形態の有効性を改善するために、細胞接着の阻害剤が企図される。細胞接
着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。アポトー
シスに対する過剰増殖細胞の感度を高める他の作用物質(例えば、抗体c225)が、処
置の有効性を改善するために本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用され得るこ
とがさらに企図される。
VII.製品またはキット
【0254】
免疫細胞を含む製品またはキットも本明細書中に提供される。その製品またはキットは
、個体の癌を処置するためもしくは癌の進行を遅延させるためにまたは癌を有する個体の
免疫機能を高めるために免疫細胞を使用するための指示を含む添付文書をさらに含み得る
。本明細書中に記載される抗原特異的免疫細胞のいずれかが、その製品またはキットに含
められ得る。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが
挙げられる。その容器は、ガラス、プラスチック(例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリオ
レフィン)または金属合金(例えば、ステンレス鋼またはハステロイ)などの種々の材料
から形成され得る。いくつかの実施形態において、その容器は、製剤およびラベルを保持
し、そのラベルは、容器に付着しているかまたは関連付けられており、その容器には、使
用法が示されている場合がある。その製品またはキットは、商業的な観点およびユーザー
の観点から望ましい他の材料をさらに含むことがあり、それらの材料としては、他の緩衝
液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用するための指示を含む添付文書が挙
げられる。いくつかの実施形態において、その製品は、1つ以上の別の作用物質(例えば
、化学療法剤および抗悪性腫瘍剤)をさらに含む。その1つ以上の作用物質に適した容器
としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが挙げられる。
【実施例0255】
VIII.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含められる。以下の実施
例に開示される手法は、本発明の実施において十分に機能すると本発明者が発見した手法
であり、ゆえにその実施に対する好ましい形式であると考えることができることが当業者
によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される
具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、それらの変更は、本発明の趣旨
および範囲から逸脱することなく、なおも同様または類似の結果をもたらすと認識するは
ずである。
実施例1-マルチプレックス遺伝子編集
【0256】
T細胞およびNK細胞などの免疫細胞において複数の遺伝子の発現を同時に妨害するこ
との有効性を試験するために、いくつかの研究を行って、CRISPRを用いて異なる遺
伝子の組み合わせの破壊を試験した。第1の研究では、CRISPR/Cas9を使用し
て、NK細胞においてNKG2A、CD47、TGFBR2およびCISHの発現を妨害
した。この遺伝子セットでは、NKG2AおよびCD47を1回目のエレクトロポレーシ
ョンにおいてノックアウトし、2回目のエレクトロポレーションにおいてCISHおよび
TGFBR2を標的化した。両方の回のエレクトロポレーションに対してPCRおよびフ
ローサイトメトリーを用いたノックアウト効率の検証が成功した(
図1)。
【0257】
TIGIT、CD96、CISH、アデノシン(
図2)、ならびにNKG2A、CD4
7、TGFBR2およびCISH(
図3)を含むさらなる遺伝子セットにおいて、複数の
遺伝子を破壊する方法を検証した。複数の遺伝子を破壊することにより、標的腫瘍細胞に
対する機能が高まることが見出された。ブレフェルジンAの存在下において5時間、標的
細胞株で共刺激された様々なNK細胞(編集済み 対 Cas9のみ)を用いて、IFN
-γ、TNFαおよびCD107の産生のフローサイトメトリー解析を行った。標的細胞
株による刺激の後、IFN-γ、TNFαおよびCD107の分泌が増大した(
図3)。
【0258】
この機能の増強を、NK細胞におけるNKG2A、CD47、TGFBR2およびCI
SHの破壊によって確かめた。そのNK細胞は、
51Cr放出アッセイによって測定した
とき、K562細胞に対して抗腫瘍細胞傷害性の増大を示した(
図4A)。さらに、組換
えTGF-Bのよる処置(50ng/ml)の30分後に、pSMAD活性をフローサイ
トメトリーによって測定した(
図4B)。NK細胞は、サイトカインで刺激されるかまた
は標的を認識すると、CD16およびCD62Lの発現を失うこと(
図5)、およびNK
細胞においてADAM17をノックアウトすると、CD16およびCD62Lのシェディ
ングが阻止され(
図6)、K562標的に対するADCCおよび細胞傷害性が改善される
こと(
図7)も観察された。
【0259】
さらなる研究は、NK細胞においてSHP1を破壊すると、抗腫瘍効果が高まることを
示した(
図9および10)。NK細胞を、K562/Raji細胞と1:1の比で4時間
共培養した。インキュベーションの後、それらの細胞をアネキシンVで染色し、生細胞お
よび死細胞を解析した。K562細胞は、NK細胞の殺滅に対して感受性であり、Raj
i細胞は、NK細胞の殺滅に対して抵抗性である。さらに、NK-CAR細胞においてN
KG2Aを破壊すると、Raji標的に対する抗腫瘍効果が高まった(
図12)。
【0260】
本アプローチを、さらなる遺伝子セット、つまり、TIGIT、CD96、CISHお
よびアデノシン、ならびにNKG2A、CISH、TGFBRIIおよびアデノシンを用
いてさらに検証した。NK細胞の機能をフローサイトメトリー測定によって評価したとこ
ろ、標的細胞株で刺激すると、それらの細胞においてTNFα、IFNγおよびCD10
7aの増加が観察された(
図13~14)。
【0261】
したがって、本方法は、免疫細胞において複数の遺伝子の発現を同時に妨害して、その
免疫細胞の機能を高めるために用いることができる。
実施例2-方法
【0262】
sgRNA-Cas9のプレ複合体化およびエレクトロポレーション:近接領域にまた
がる1つまたは2つのsgRNAを各遺伝子に対してデザインし、使用した。1ugのc
as9(PNA Bio)および500ngのsgRNA(全sgRNAの合計)の反応
物を各遺伝子に対して作製し、氷上で20分間インキュベートした。20分後、250,
000個のNK細胞を、T-緩衝液*(Neon Electroporation K
it,Invitrogenに添付されているもの、RNP複合体および細胞を含む総体
積は14ulであるべきである)に再懸濁し、Neon Transfection S
ystemを用いて10ulのエレクトロポレーションチップでエレクトロポレーション
した。NK細胞に対するエレクトロポレーション条件は、1600V、10msおよび3
パルス*である。次いで、それらの細胞を、APC(1NK:2APC)、SCGM培地
(優先的には抗生物質不含)、200IU/mlのIL2を含む培養プレートに加え、3
7℃恒温器において回復させた。
【0263】
crRNAのプレ複合体化およびエレクトロポレーション:crRNAとtracrR
NAとの二重鎖をピペットおよび遠心機を用いて混合した。その混合物をサーモサイクラ
ーにおいて95℃で5分間インキュベートし、次いで、卓上で室温に冷却した。
【0264】
【0265】
【0266】
【0267】
crRNA:tracrRNA二重鎖を、ピペットを用いてCas9ヌクレアーゼミッ
クスと合わせ、室温で15分間インキュベートした。次いで、その混合物をcrRNAと
合わせた。
【0268】
【0269】
まず、APC(1NK:2APC)、SCGM培地(好ましくは抗生物質不含)および
200IU/mLのIL-2を含む培養プレートを調製することによって、エレクトロポ
レーションを行った。1ウェルあたり250,000個の細胞の調製物を、使用の直前に
、7.5ulのT緩衝液に再懸濁した。エレクトロポレーション条件は、1600V、1
0msおよび3パルス*であった。次いで、それらの細胞を培養プレートに加え、37℃
恒温器において回復させた。
【0270】
NK細胞の拡大:MiltenyiのNK細胞単離キット(130-092-657)
を用いて臍帯血または末梢血からNK細胞を単離する。NK細胞をフィーダー細胞と1:
2の比(1NK細胞2フィーダー細胞)でIL2(200IU/ml)の存在下において
SCGM培地に入れる。培地を1日おきにIL2とともに交換する。4日目に、NK細胞
単離キットを用いてNK細胞を再度選択して、フィーダー細胞を除去するか、またはすべ
てのフィーダー細胞が死ぬまで7日目まで待つ。キメラ抗原レセプターを形質導入するか
、またはCRISPR-Cas9に対するエレクトロポレーションを行う。
【0271】
本明細書中に開示および特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験
を行うことなく実施および実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態
の点から説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細
書中に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更が適用されてもよいこと
が当業者には明らかだろう。より詳細には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化
学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質を本明細書中に記載される作用物質の代わ
りに用いてもよいことが明らかだろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および
改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲
内であるとみなされる。
文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順または
他の詳細を提供する範囲で、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
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