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特開2024-153836金属層一体型ポリプロピレンフィルム
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  • 特開-金属層一体型ポリプロピレンフィルム 図1
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  • 特開-金属層一体型ポリプロピレンフィルム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153836
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】金属層一体型ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/085 20060101AFI20241022BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20241022BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20241022BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B32B15/085 Z
H01G4/32 511G
H01G4/32 511L
C23C14/14 B
C23C14/24 Z
B32B27/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124587
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2021067335の分割
【原出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】藤城 義和
(72)【発明者】
【氏名】日當 和之
(72)【発明者】
【氏名】奥山 佳宗
(72)【発明者】
【氏名】中田 将裕
(57)【要約】
【課題】加工適性を一定レベルで備えており、且つ静電容量安定性を一定レベルで備えるコンデンサを得ることができるのみならず、さらに、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性に優れたコンデンサを得ることができる金属層一体型ポリプロピレンフィルム、を提供すること。
【解決手段】ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレンフィルムの厚さが1.0~3.0μmである、請求項1に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記ポリプロピレンフィルムの120℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~8%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-2~2%である、請求項1又は2に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレンフィルムの140℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~10%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-1~5%である、請求項1~3のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレンフィルムの第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の引張弾性率が3GPa以上である、請求項1~4のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記ポリプロピレンフィルムが二軸延伸フィルムである、請求項1~5のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記ポリプロピレンフィルムが単層フィルムである、請求項1~6のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
コンデンサ用である、請求項1~7のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを含む、コンデンサ。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの巻回物を含む、請求項9に記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層一体型ポリプロピレンフィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、高い耐電圧性や低い誘電損失特性等の優れた電気特性を有し、且つ、高い耐湿性を有する。そのため、広く電子機器や電気機器に用いられている。具体的には、例えば、高電圧コンデンサ、各種スイッチング電源、フィルター用コンデンサ(例えば、コンバータ、インバータ等)、平滑用コンデンサ等に使用されるフィルムとして利用されている。
【0003】
特に、近年、ポリプロピレンフィルムは、電気自動車やハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ電源機器用コンデンサとして、広く用いられ始めている。自動車等に用いられるインバータ電源機器用コンデンサは、小型、軽量、高容量であり、且つ、長期間に亘る高い信頼性が求められている。 特許文献1には、突起の0.1mmあたりの個数及び10点平均粗さが所定の関係を満たしているコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムが開示されている。特許文献1には、上述した構成のコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの効果として、薄いフィルムであっても加工適性に優れ、低温(-40℃)から高温(150℃)までの広範囲の雰囲気温度条件下でも高耐電圧性を発揮することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/146367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に車載用(例えばxEV用)コンデンサ向けフィルムは、小型化、高効率化の要請から、ますます薄膜化へのニーズが高まっている。しかしながら、薄いポリプロピレンフィルムは、加工適性が低い、例えばコンデンサを作製する際の素子巻き加工において、シワや巻きずれを発生し易い、という問題がある。
【0006】
また、本発明者は、長期間に亘る信頼性に対するニーズの高まりを踏まえると、長期間使用に対する静電容量安定性のみならず、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性が特に重要であることに着目した。ここで、静電容量/絶縁抵抗安定性とは、コンデンサが使用された場合に、静電容量/絶縁抵抗の初期値からの変化が小さいことを指す。高温高電圧負荷時に絶縁抵抗が大きく低下してしまうと、漏れ電流が急増し、熱暴走を引き起こし、最終的にはショートや発火を引き起こし得る。
【0007】
さらに、本発明者は、研究を進める中で、コンデンサ作製のために使用する金属層一体型ポリプロピレンフィルムの状態での物性値が重要であることに着目した。
【0008】
そこで、本発明は、加工適性を一定レベルで備えており、且つ静電容量安定性を一定レベルで備えるコンデンサを得ることができるのみならず、さらに、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性に優れたコンデンサを得ることができる金属層一体型ポリプロピレンフィルム、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進める中で、ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてよりさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0011】
項2. 前記ポリプロピレンフィルムの厚さが1.0~3.0μmである、項1に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0012】
項3. 前記ポリプロピレンフィルムの120℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~8%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-2~2%である、項1又は2に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0013】
項4. 前記ポリプロピレンフィルムの140℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~10%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-1~5%である、項1~3のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0014】
項5. 前記ポリプロピレンフィルムの第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の引張弾性率が3GPa以上である、項1~4のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0015】
項6. 前記ポリプロピレンフィルムが二軸延伸フィルムである、項1~5のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0016】
項7. 前記ポリプロピレンフィルムが単層フィルムである、項1~6のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0017】
項8. コンデンサ用である、項1~7のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【0018】
項9. 項1~8のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを含む、コンデンサ。
【0019】
項10. 項1~8のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの巻回物を含む、項9に記載のコンデンサ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加工適性を一定レベルで備えており、且つ静電容量安定性を一定レベルで備えるコンデンサを得ることができるのみならず、さらに、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性に優れたコンデンサを得ることができる金属層一体型ポリプロピレンフィルム、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例、比較例として作製した金属層一体型ポリプロピレンフィルムを説明するための模式的斜視図である。1:金属層一体型ポリプロピレンフィルム、2:二軸延伸ポリプロピレンフィルム、3:金属蒸着電極、3a:金属蒸着層、3b:電極取り出し部、4:絶縁マージン
図2】実施例、比較例に係る金属層一体型ポリプロピレンフィルムの製造方法を説明するための模式図である。1:金属層一体型ポリプロピレンフィルム、1R:金属層一体型ポリプロピレンフィルムロール、2:二軸延伸ポリプロピレンフィルム、2a:蒸着面、2b:冷却ロール接触面、2R:二軸延伸ポリプロピレンフィルムロール、101:誘電体フィルム供給部、102:絶縁マージン形成部、103:特殊蒸着パターンマージン形成部、103d:版ロール、104:蒸着部、104a:金属蒸気生成部、104b:金属蒸気生成部(電極取り出し部生成用)、104c:冷却ロール、105:静電気除去部、105a:DCマグネトロン放電電極、105b:DCマグネトロン放電電極、105c:DCマグネトロン放電電極、105d:DCマグネトロン放電電極、106:金属層一体型フィルム巻取り部
図3】累積絶縁破壊点数密度の測定装置の模式図である。1:金属層一体型ポリプロピレンフィルム、1a:金属蒸着面、201:真鍮板、202:導電性ゴム、203:アルミニウム箔、204:絶縁用ポリプロピレンフィルム(5μm)、204a:窓、205:円柱真鍮電極、206:抵抗素子(10kΩ)、207:直流電源、301:累積絶縁破壊点数密度試験装置
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本明細書においては、各パラメータについて記載された上限及び/又は下限からなる範囲を基に、複数の範囲間で上限及び/又は下限を任意に入れ替えた範囲も、例示される。
【0024】
本明細書において、「X以上」(Xは負の値)とは、X~0、及び0より大きい値からなる範囲である。また、「X以下」(Xは負の値)とは、X、及びXより絶対値が大きな負の値からなる範囲である。
【0025】
1.金属層一体型ポリプロピレンフィルム
本発明は、その一態様において、ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム(本明細書において、「本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルム」と示すこともある。)に関する。また、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムが有する前記ポリプロピレンフィルム(金属層が積層されていないポリプロピレンフィルム)を、本明細書において、「本発明のポリプロピレンフィルム」と示すこともある。以下に、これらについて説明する。
【0026】
本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムは、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度(425V/μmにおける、20℃の累積絶縁破壊点数密度)が1000個/m以下である。累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下であることにより、加工適性を一定レベルで発揮しつつ、且つ静電容量安定性を一定レベルで備えるコンデンサを得ることができるのみならず、さらに、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性に優れたコンデンサを得ることができる。累積絶縁破壊点数密度は、好ましくは900個/m以下、より好ましくは800個/m以下、さらに好ましくは700個/m以下、よりさらに好ましくは600個/m以下、とりわけ好まし
くは500個/m以下、とりわけより好ましくは400個/m以下、とりわけさらに好ましくは300個/m以下、とりわけよりさらに好ましくは200個/m以下、特に好ましくは100個/m以下である。累積絶縁破壊点数密度は、当該特に好ましい態様の中でも、好ましくは50個/m以下、より好ましくは20個/m以下、さらに好ましくは10個/m以下、よりさらに好ましくは5個/m以下、とりわけ好ましくは0個/mである。
【0027】
累積絶縁破壊点数密度は、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを測定装置に図3に示す構成となるようにセットし、次のように測定する。20℃の環境下、350V/μmの直流電圧を1分間印加した後、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の領域(100mm×10mm)における絶縁破壊点数を目視で数える。数えた後、375V/μmの直流電圧を1分間印加した後、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の領域における累積絶縁破壊点数を目視にて数える。次いで、直流電圧を25V/μmずつ上げ、425V/μmまで、この操作を繰り返し行い、累積的に直流電圧を印加する。試験は5枚の金属層一体型ポリプロピレンフィルムで行い、425V/μmにおける、20℃のの累積絶縁破壊点数の平均値を、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の面積(100mm×10mm=1,000mm=0.001m)で割り、425V/μmにおける、20℃のの累積絶縁破壊点数密度(単位:個/m)を求める。
【0028】
図3及び測定方法の詳細は次の通りである。図3は、累積絶縁破壊点数密度測定を説明するための模式図である。まず、真鍮板201(320mm×250mm)、導電性ゴム202(280mm×150mm)、及び、アルミニウム箔203(280mm×150mm)、更に、アルミニウム箔203の上に、アルミニウム箔203の外周を覆うようにして、中央部に四角形状(100mm×10mm)の切り抜き部分(以下、当該部分を「窓204a」と表記する)を有する絶縁用ポリプロピレンフィルム204(300mm×210mm、窓100mm×10mm)を順次積層する。
【0029】
上記のように積層した絶縁用ポリプロピレンフィルム204に、絶縁用ポリプロピレンフィルム204の外周からはみ出さないようにして、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1を重ねる。このとき、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の金属蒸着面1aを上面にし、かつ、金属蒸着層3aが絶縁用ポリプロピレンフィルム204の窓204aを覆うようにして重ねる。但し、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に特殊蒸着パターンマージンが形成されている場合、窓204aに重なる部分は、金属蒸着層3aの特殊マージンの無い部分、いわゆる、金属蒸着層3aのベタ蒸着部分とするのが好ましい。上記のようにして、絶縁用ポリプロピレンフィルム204に重ねた金属層一体型ポリプロピレンフィルム1は、冷却ロール接触面2bが、絶縁用ポリプロピレンフィルム204の窓204aを通じてアルミニウム箔203の面に接することになる。
【0030】
さらに、上記のように絶縁用ポリプロピレンフィルム204に重ねた金属層一体型ポリプロピレンフィルム1について、窓204aから離れた場所の金属蒸着層3aに、円柱真鍮電極205(直径25mm、高さ65mm)を置く。このとき、円柱真鍮電極205は、金属蒸着層3aに接触した状態になる。
【0031】
円柱真鍮電極205は、過電流防止用の抵抗素子(10kΩ)206を介して直流電源207に電気的に接続される。また、真鍮板201は、直接、直流電源207に電気的に接続される。上記のようにして、累積絶縁破壊点数密度試験装置301が構成される。
【0032】
累積絶縁破壊点数密度試験装置301により、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の累積絶縁破壊点数密度測定を行えば、コンデンサを作製しなくても、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの段階で、コンデンサにしたときの耐電圧性を予想できる。累積絶縁
破壊点数密度試験装置301において、直流電源207により高い電圧を印加すると、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の耐電圧的に弱い箇所が絶縁破壊を起こす。絶縁破壊が生じると瞬間的に発熱するため、金属蒸着層3aが蒸散し、絶縁が回復する(セルフヒーリング)。セルフヒーリングが発生した箇所は,金属蒸着層3aが無くなるため、白濁状に視認される。所定の電圧を一定時間印加した後に、セルフヒーリングが発生した箇所の数(以下、「絶縁破壊点数」と表記する)を数えることにより、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの耐電圧性を評価することができる。
【0033】
この絶縁破壊点数は、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の耐電圧性と金属蒸着層3aの性質に依存する。つまり、金属蒸着層3aが蒸散しやすいかどうかということも絶縁破壊点数の大小に影響する。累積絶縁破壊点数密度試験装置301は、上側導体として金属蒸着層3aを用いているので、実際にコンデンサにしたときに近い特性を見ることが可能である。
【0034】
累積絶縁破壊点数密度試験は、所定の開始電圧から終了電圧まで、一定の間隔で段階的に電圧上げて、一定時間印加し、都度、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の絶縁破壊点数を累積で数えることを繰り返す(累積でカウントした数を、以下、「累積絶縁破壊点数」と表記する)。そして、終了電圧まで繰り返した後、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の累積絶縁破壊点数を、窓204aの面積(100mm×10mm=1,000mm=0.001m)で割り、累積絶縁破壊点数密度(単位:個/m)を求めることにより実施される。累積絶縁破壊点数密度測定は、窓204aにより、一定の面積に電圧を印加することが可能で、かつ、沿面放電が防止されるので、より高い精度の、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの累積絶縁破壊点数密度測定が可能となる。
【0035】
本発明のポリプロピレンフィルムは、120℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~8%(より好ましくは0~6%、さらに好ましくは0~4%)であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-2~2%(より好ましくは-1~1%)であることが好ましい。なお、本明細書において、本発明のポリプロピレンフィルムが二軸延伸ポリプロピレンフィルムである場合、第1方向はポリプロピレンフィルムのMD方向(Machine Direction)であることが好ましく、第2方向はポリプロピレンフィルムのTD方向(Transverse Dirrection)であることが好ましい。120℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0%以上の場合(すなわち熱膨張率が0%以下の場合)、且つ、第2方向の熱収縮率が-2%以上の場合(すなわち熱膨張率が2%以下の場合)、且つ、第1方向の熱収縮率が8%以下の場合(すなわち熱膨張率が-8%以上の場合)、且つ、第2方向の熱収縮率が2%以下の場合(すなわち熱膨張率が-2%以上の場合)、金属蒸着加工時に冷却ロール上でフィルムの熱膨張、および、熱収縮をより抑制して搬送シワを抑制し、ポリプロピレンフィルムの冷却ロールへの密着性をより高めることができ、熱ダメージを抑制し、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの耐電圧性をより高めることができる。
【0036】
120℃で15分の処理条件における熱収縮率(120℃熱収縮率)(単位:%)は次のようにして測定する。測定に使用するサンプルは、ロールより切り出すが、サンプルの大きさは、第1方向の120℃熱収縮率を測定する場合、第1方向130mm、第2方向20mmとし、第2方向の120℃熱収縮率を測定する場合、第1方向20mm、第2方向130mmとする。第1方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル、および、第2方向の120℃熱収縮率を測定するサンプルは、各々3本準備する。次に、第1方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本については、第1方向130mmの各々の端から15mmの位置に標線を印す。このとき、標線と標線の間隔は100mmとなる。また、第2方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本については、第2方向130mmの各々の端から15mmの位置に標線を印す。このとき、標線と標線の間隔は100mmとな
る。次いで、標線を印した各々のサンプルを、120℃の熱風循環式恒温槽内に130mmに切り出した方向が、鉛直方向になるように、無荷重で吊るして15分間保持する。その後、室温(23℃)で冷却し、標線の間隔を定規で測定し、次の式:
熱収縮率(%)=(加熱前の標線間隔-加熱後の標線間隔)/加熱前の標線間隔×100
を用いて、各々のサンプルについて熱収縮率(%)を算出する。第1方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本の、熱収縮率の平均値を第1方向の120℃熱収縮率(%)とする。また、第2方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本の、熱収縮率の平均値を第2方向の120℃熱収縮率(%)とする。なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 2151:2019の「25.寸法変化」に準じる。
【0037】
本発明のポリプロピレンフィルムは、140℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~10%(より好ましくは0~8%、さらに好ましくは0~7%)であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-1~5%(より好ましくは0~4%)であることが好ましい。140℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0%以上の場合(すなわち熱膨張率が0%以下の場合)、且つ、第2方向の熱収縮率が-1%以上の場合(すなわち熱膨張率が1%以下の場合)、且つ、第1方向の熱収縮率が10%以下の場合(すなわち熱膨張率が-10%以上の場合)、且つ、第2方向の熱収縮率が5%以下の場合(すなわち熱膨張率が-5%以上の場合)、金属蒸着加工時に冷却ロール上でフィルムの熱膨張、および、熱収縮をより抑制して搬送シワを抑制し、ポリプロピレンフィルムの冷却ロールへの密着性をより高めることができ、熱ダメージを抑制し、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの耐電圧性をより高めることができる。
【0038】
140℃で15分の処理条件における熱収縮率(140℃熱収縮率)(単位:%)は、120℃熱収縮率の測定方法のうち、120℃の熱風循環式恒温槽を、140℃の熱風循環式恒温槽に変更すること以外は、120℃熱収縮率と同様の方法で、第1方向の140℃熱収縮率(%)、および、第2方向の140℃熱収縮率(%)を算出する。
【0039】
本発明のポリプロピレンフィルムは、第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上(より好ましくは2.0GPa以上)であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の引張弾性率が3.0GPa以上(より好ましくは4.0GPa以上)であることが好ましい。第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上、且つ、第2方向の引張弾性率が3.0GPa以上の場合、金属蒸着加工時の搬送シワがより抑制され、ポリプロピレンフィルムの冷却ロールへの密着性をより高めることができ、熱ダメージを抑制し、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの耐電圧性をより高めることができる。本発明の一態様において、本発明のポリプロピレンフィルムの引張弾性率は、いずれの方向ともに、上限は特に限定されないが、実質的に6.0GPaを上限とすることができる。
【0040】
引張弾性率(単位:GPa)は、JIS K-7127(1999)に準拠して測定する。測定に使用するサンプルは、ロールより、切り出すが、サンプルの大きさは、第1方向の引張弾性率を測定する場合、第1方向200mm、第2方向15mmとし、第2方向の引張弾性率を測定する場合、第1方向15mm、第2方向200mmとする。サンプル切り出し後、引張圧縮試験機(ミネベア株式会社製)を用いて、測定温度23℃、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分の試験条件で引張試験を行う。次いで、同試験機に内蔵されたデータ処理ソフトによる自動解析より、第1方向の引張弾性率(GPa)、および、第2方向の引張弾性率(GPa)を各々求める。
【0041】
本発明のポリプロピレンフィルムは、厚さが、9.5μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましく、2.9μm以下がさらに一層好ましく、2.8μm以下が特に好ましく、2.5μm以下が特に一層好ましい。また、本発明のポリプロピレンフィルムの厚さは、0.8μm以上が好ましく、1.0μm以上が
より好ましく、1.4μm以上がさらに好ましく、1.5μm以上がさらに一層好ましく、1.8μm以上が特に好ましい。特に、1.0~6.0μm、1.0~3.0μm、1.0~2.9μm等の範囲内である場合、ポリプロピレンフィルムが非常に薄いにもかかわらずスリット工程加工性、蒸着工程時のブロッキング抑制性及び素子巻き加工性に優れるため、好ましい。厚さが、9.5μm以下であると、静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。また、製造上の観点から、厚さ0.8μm以上とすることができる。
【0042】
フィルム厚さは、シチズンセイミツ社製の紙厚測定器MEI-11を用いて100±10kPaで測定すること以外、JIS-C2330に準拠して測定する。
【0043】
本発明のポリプロピレンフィルムのヘーズ値は、特に制限されないが、例えば2.2~5.0%、好ましくは2.3~4.5%、より好ましくは2.5~4.5%、さらに好ましくは2.5~4.0%、よりさらに好ましくは2.5~3.5%である。
【0044】
ヘーズ値は、次のように測定する。ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製「NDH-5000」)を用いて、JIS K 7136:2000に準拠して測定する。サンプルの大きさは50mm×100mmとする。
【0045】
本発明のポリプロピレンフィルムは、二軸延伸フィルムであってもよく、一軸延伸フィルムであってもよく、無延伸フィルムであってもよい。なかでも、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0046】
本発明のポリプロピレンフィルムの層構成は特に制限されない。本発明のフィルムは、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。本発明のポリプロピレンフィルムは、好ましくは1層又は複数層のフィルム状成形層からなるフィルムであり、より好ましくは単層フィルム(1層のフィルム状成形層からなるフィルム)である。 本発明のポリプロピレンフィルムは、主成分としてポリプロピレン樹脂を含有する。本明細書において、主成分としてポリプロピレン樹脂を含有する、とは、ポリプロピレンフィルム全体に対して(ポリプロピレンフィルム全体を100質量%としたときに)、ポリプロピレン樹脂を50質量%以上含有することをいう。ポリプロピレンフィルム全体に対する前記ポリプロピレン樹脂の含有量は、好ましくは、75質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上である。前記ポリプロピレン樹脂の含有量の上限は、ポリプロピレンフィルム全体に対して、例えば、100質量%、98質量%等である。
【0047】
前記ポリプロピレン樹脂は、特に限定されず、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。前記ポリプロピレン樹脂は、なかでも、キャストシートとした際にβ型球晶を形成するポリプロピレン樹脂が好適である。
【0048】
直鎖状ポリプロピレン樹脂が好ましく、直鎖状ホモポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0049】
ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。総灰分は、少ないほど、重合触媒残渣などの不純物が少ないことを意味する。
【0050】
本実施形態のポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂は、たとえば、下
記第1ポリプロピレン樹脂のみを含むことができるし、第1ポリプロピレン樹脂とともに、下記第2ポリプロピレン樹脂を含むこともできる。
【0051】
ポリプロピレン樹脂は第1ポリプロピレン樹脂を含むことができる。ポリプロピレン樹脂が第1ポリプロピレン樹脂を含む場合、第1ポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。第1ポリプロピレン樹脂の含有量は、上限に関しては、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、たとえば100重量%以下、99重量%以下、98重量%以下、95重量%以下などが挙げられ、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。このように、本実施形態のポリプロピレンフィルムは、第1ポリプロピレン樹脂を主成分として含むことができる。第1ポリプロピレン樹脂として、たとえばアイソタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
【0052】
第1ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、好ましくは25万以上40万未満、より好ましくは26万以上37万以下、さらに好ましくは27万以上35万以下である。Mwが25万以上40万未満であると、樹脂流動性が適度となり、キャスト原反シートの厚さの制御が容易であり、厚み均一性が良好で薄い延伸フィルムを作製することが容易となる。また、Mwが25万以上35万未満であると、より、樹脂流動性が適度となり、キャスト原反シートの厚さの制御が容易であり、厚み均一性が良好で薄い延伸フィルムを作製することがより容易となる。
【0053】
第1ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mnは、好ましくは30000以上52000以下、より好ましくは32000以上50000以下、さらに好ましくは34000以上48000以下である。
【0054】
第1ポリプロピレン樹脂のz平均分子量Mzは、好ましくは600000以上1650000以下、より好ましくは700000以上1600000以下である。
【0055】
第1ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上である。第1ポリプロピレン樹脂の前記Mw/Mnは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。前記第1ポリプロピレン樹脂のMw/Mnが5.0以上11.0以下であると、二軸延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、厚みムラのない極薄化された二軸延伸プロピレンフィルムを得ることが容易となるため好ましい。なお、前記分子量分布Mw/Mnは、重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する比である。
【0056】
第1ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mz/Mn)は、10以上60以下であることが好ましく、12以上50以下であることがより好ましく、15以上45以下であることがさらに好ましい。なお、前記分子量分布Mz/Mnは、数平均分子量Mnに対するz平均分子量Mzの比である。
【0057】
本明細書において、前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、z平均分子量(Mz)、及び、分子量分布(Mw/Mn、及び、Mz/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置を用いて測定した値である。より具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機のHLC-8121GPC-HT(商品名)を使用して測定した値である。GPCカラムとして、東ソー株式会社製の3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用する。カラム温度を140℃に設定して、溶離液としてトリクロロベンゼンを1.0ml/10分の流速で流して、MwとMnの測定値を得る。東ソー株式会社製の標準ポリスチレ
ンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成して、測定値をポリスチレン値に換算して、Mw、Mn及びMzを得る。
【0058】
第1ポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは8.0g/10分以下、より好ましくは7.0g/10分以下、さらに好ましくは6.0g/10分以下である。また、230℃におけるメルトフローレートは、3.5g/10分以上が好ましい。230℃でのメルトフローレートは、JIS K 7210-1999に準拠し、荷重2.16kg、230℃で測定される。前記メルトフローレートの単位g/10分は、dg/minともいう。
【0059】
第1ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分は、好ましくは97.0%以上である。ヘプタン不溶分は、好ましくは98.5%以下である。ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。前記ヘプタン不溶分(HI)が、97.0%以上98.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、ポリプロピレンフィルム中でのポリプロピレン樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。さらに、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。ヘプタン不溶分(HI)の測定方法は、実施例記載の方法による。
【0060】
第1ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、第1ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。
【0061】
ポリプロピレン樹脂は第2ポリプロピレン樹脂をさらに含むことができる。本実施形態のポリプロピレンフィルムは、第1ポリプロピレン樹脂に加えて第2ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレンフィルムを構成する樹脂が第1ポリプロピレン樹脂および第2ポリプロピレン樹脂であることがさらに好ましい。
【0062】
ポリプロピレン樹脂が第2ポリプロピレン樹脂を含む場合、第2ポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、50重量%以下が好ましく、49重量%以下がより好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、40重量%以下が特に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂が第2ポリプロピレン樹脂を含む場合、第2ポリプロピレン樹脂の含有量は、下限に関しては、例えば、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して1重量%以上、2重量%以上、5重量%以上などが挙げられ、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。第2ポリプロピレン樹脂として、たとえばアイソタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
【0063】
第2ポリプロピレン樹脂のMwは好ましくは30万以上、より好ましくは35万以上である。第2ポリプロピレン樹脂におけるMwは、好ましくは45万以下、より好ましくは40万以下である。
【0064】
第2ポリプロピレン樹脂のMnは、好ましくは40000以上54000以下、より好ましくは42000以上50000以下、さらに好ましくは44000以上48000以下である。
【0065】
第2ポリプロピレン樹脂のMzは、好ましくは1550000超え2000000以下、より好ましくは1580000以上1700000以下である。
【0066】
第2ポリプロピレン樹脂において、MwのMnに対する比(Mw/Mn)は、好ましく
は5.5以上、さらに好ましくは7.0以上、特に好ましくは7.5以上である。第2ポリプロピレン樹脂におけるMw/Mnの上限は、たとえば11.0、10.0、9.0、8.5などである。
【0067】
第2ポリプロピレン樹脂における、MzのMnに対する比(Mz/Mn)は、好ましくは30以上40以下、より好ましくは33以上37以下である。
【0068】
第2ポリプロピレン樹脂における230℃のメルトフローレートは、好ましくは4.0g/10分未満、より好ましくは3.9g/10分以下、さらに好ましくは3.8g/10分以下である。また、230℃のメルトフローレートは、1.0g/10分以上が好ましく、1.5g/10分以上がより好ましく、2.0g/10分以上がさらに好ましい。
【0069】
第2ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分は、好ましくは97.5%以上、より好ましくは98.0%以上、さらに好ましくは98.5%超え、特に好ましくは98.6%以上である。また、ヘプタン不溶分は、好ましくは99.5%以下であり、より好ましくは99.0%以下である。
【0070】
第2ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、第2ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。
【0071】
第1ポリプロピレン樹脂と第2ポリプロピレン樹脂との合計量は、ポリプロピレン樹脂全体を100重量%とした場合、たとえば90重量%以上であることができ、95重量%以上であることもでき、100重量%であることもできる。
【0072】
前記ポリプロピレン樹脂は、一般的に公知の重合方法を用いて製造することができる。本実施形態のポリプロピレンフィルムに用い得るポリプロピレン樹脂を製造することができる限り、特に制限されることはない。そのような重合方法として、例えば、気相重合法、塊状重合法及びスラリー重合法を例示できる。
【0073】
重合は、1つの重合反応器を用いる単段(一段)重合であってよく、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合であってもよい。更に、反応器中に水素又はコモノマーを分子量調整剤として添加して行ってもよい。
【0074】
重合の際の触媒には、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒を使用することができ、前記ポリプロピレン樹脂を得ることができる限り特に限定されない。前記触媒は、助触媒成分やドナーを含んでもよい。触媒や重合条件を調整することによって、分子量、分子量分布等を制御することができる。
【0075】
前記ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等は、例えば、(i)重合方法及び重合の
際の温度・圧力等の各条件、(ii)重合の際の反応器の形態、(iii)添加剤の使用有無、種
類及び使用量、(iv)触媒の種類及び使用量、などを適宜選択することより調整することができる。
【0076】
具体的に、前記ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等の調整は、例えば、多段重合反応により行うことができる。多段重合反応としては、例えば、次のような方法が例示できる。
【0077】
まず、第1重合工程において、プロピレン及び触媒が第1重合反応器に供給される。こ
れらの成分とともに、分子量調整剤としての水素を、要求されるポリマーの分子量に到達するために必要な量で混合される。反応温度は、例えばスラリー重合の場合、70~100℃程度、滞留時間は20分~100分程度である。複数の反応器は、例えば直列に使用することができる。この場合、第1の工程の重合生成物は、追加のプロピレン、触媒、分子量調整剤とともに連続的に次の反応器に送られ、続いて、第1重合工程より低分子量あるいは高分子量に分子量を調整した第2の重合が行われる。第1及び第2の反応器の収量(生産量)を調整することによって、高分子量成分及び低分子量成分の組成(構成)を調整することが可能となる。
【0078】
また、前記ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等の調整は、過酸化分解によって行うこともできる。例えば、過酸化水素や有機過酸化物などの分解剤による過酸化処理による方法が例示できる。
【0079】
ポリプロピレンのような崩壊型ポリマーに過酸化物を添加すると、ポリマーからの水素引抜き反応が起こり、生じたポリマーラジカルは一部再結合し架橋反応も起こすが、殆どのラジカルは二次分解(β開裂)を起こし、より分子量の小さな二つのポリマーに分かれる。すなわち、高分子量成分ほど高い確率で分解が進行する。これにより、低分子量成分が増大し、分子量分布の構成を調整することができる。
【0080】
ブレンド(樹脂混合)により低分子量成分の含有量を調整する場合には、少なくとも2種以上の異なる分子量の樹脂を、ドライ混合あるいは、溶融混合するのがよい。一般的には、主樹脂に、それより平均分子量が高いか、あるいは低い添加樹脂を1~40質量%程度混合する2種のポリプロピレン混合系が、低分子量成分量の調整が行い易いため、好ましく利用される。
【0081】
また、この混合調整の場合、平均分子量の目安として、メルトフローレート(MFR)を用いても構わない。この場合、主樹脂と添加樹脂のMFRの差は、1~30g/10分程度としておくのが、調整の際の利便性の観点から良い。
【0082】
前記ポリプロピレン樹脂としては、市販品を用いることもできる。
【0083】
本発明のポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂以外の他の樹脂(以下「他の樹脂」ともいう)を含んでもよい。「他の樹脂」とは、一般的に、主成分の樹脂とされるポリプロピレン樹脂以外の樹脂であって、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。他の樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(1-メチルペンテン)などのポリプロピレン以外の他のポリオレフィン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のα-オレフィン同士の共重合体、スチレン-ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体ランダム共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体-ビニル単量体ランダム共重合体等が挙げられる。本発明のポリプロピレンフィルムは、目的とするポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。本発明のポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、他の樹脂を好ましくは10質量部以下含んでよく、より好ましくは5質量部以下含んでよい。また、本発明のポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、他の樹脂を好ましくは0.1質量部以上含んでよく、より好ましくは1質量部以上含んでよい。
【0084】
本発明のポリプロピレンフィルムは、樹脂成分に加えて、更に、添加剤を少なくとも1種含有してもよい。「添加剤」とは、一般的に、ポリプロピレンに使用される添加剤であ
って、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。添加剤には、例えば、造核剤(α晶造核剤、β晶造核剤)、酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の必要な安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー等が含まれる。前記無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。前記添加剤を用いる場合、目的とするポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。
【0085】
「造核剤」は、ポリプロピレンに一般的に用いられ、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。
【0086】
造核剤としては、α晶を優先的に造核させるα晶造核剤とβ晶を優先的に造核させるβ晶造核剤とが挙げられる。
【0087】
α晶造核剤のうち有機系造核剤としては、分散型造核剤と溶解型造核剤とが挙げられる。分散型造核剤としては、リン酸エステル金属塩系造核剤、カルボン酸金属塩系造核剤、ロジン金属塩系造核剤等が挙げられる。溶解型造核剤としては、ソルビトール系造核剤、ノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、アミド系造核剤等が挙げられる。
【0088】
β晶造核剤としては、アミド系造核剤、ジまたはポリカルボン酸金属塩系造核剤、キナクリドン系造核剤、芳香族スルホン酸系造核剤、フタロシアニン系造核剤、テトラオキサスピロ化合物系造核剤等が挙げられる。
【0089】
造核剤は、ポリプロピレン原料とドライブレンド又はメルトブレンドし、ペレット化して用いることもできるし、ポリプロピレンペレットと共に押出機に投入して用いることもできる。造核剤を用いることによりフィルムの表面粗さを所望の粗さに調節することができる。造核剤の代表的市販品の例としては、例えばβ晶造核剤として、新日本理化株式会社製のエヌジェスターNU-100が挙げられる。本発明のポリプロピレンフィルムがβ晶造核剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)好ましくは1~1000質量ppm、より好ましくは50~600質量ppmである。
【0090】
「酸化防止剤」とは、一般に酸化防止剤と呼ばれ、ポリプロピレンに使用され、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。酸化防止剤は、一般的に2種類の目的で使用される。一つの目的は、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制することであり、他の目的は、コンデンサ用フィルムとしての長期使用における劣化抑制及びコンデンサ性能向上に寄与することである。押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する酸化防止剤を「1次剤」ともいい、コンデンサ性能向上に寄与する酸化防止剤を、「2次剤」ともいう。
【0091】
これらの2つの目的に、2種類の酸化防止剤を用いてもよいし、2つの目的に1種類の酸化防止剤を使用してもよい。
【0092】
1次剤としては、例えば、2,6-ジ-ターシャリー-ブチル-パラ-クレゾール(一般名称:BHT)が挙げられる。1次剤は、通常、後述のポリプロピレンフィルムの製造方法において説明するポリプロピレン樹脂組成物の調製の際に、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する目的で添加することができる。この目的でポリプロピレン樹脂組成物に添加される酸化防止剤は、押出機内での成形工程にてほとんどが消費され、製膜成形後のフィルム中には、ほとんど残存しない。したがって、本発明のポリプロピレンフィルムが1次剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)通常100質量ppm未満である。
【0093】
2次剤としては、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0094】
「カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤」とは、通常、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤とされ、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。
【0095】
カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-ターシャリー-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス245)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス259)、ペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチルー4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1035)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:イルガノックス1076)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)(商品名:イルガノックス1098)などが挙げられるが、高分子量であり、ポリプロピレンとの相溶性に富み、低揮発性かつ耐熱性に優れたペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、とりわけ好ましい。
【0096】
本発明のポリプロピレンフィルムは、長期使用時における時間と共に進行する劣化を抑制する目的で、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤(2次剤)を1種類以上含んでもよい。本発明のポリプロピレンフィルムがカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を1種類以上含有する場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)、好ましくは2000質量ppm以上6000質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以上6000質量ppm以下である。フィルム中のカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が2000質量ppm以上6000質量ppm以下であることが、適切な効果発現の観点から好ましい。
【0097】
ポリプロピレンと分子レベルで相溶性が良好であるカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を、最適な特定範囲の量を含有させたポリプロピレンフィルムは、長期耐用性が向上するので好ましい。
【0098】
「塩素吸収剤」とは、一般に塩素吸収剤と呼ばれ、ポリプロピレンに使用され、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。塩素吸収剤として、例えば、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸等を例示できる。そのような塩素吸収剤を用いる場合、目的とするポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。
【0099】
図1は、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの一実施形態を説明するための模式的斜視図である。図1に示すように、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2と、フィルム幅方向一方の端部にフィルムの長手方向に連続した絶縁マージン4(絶縁溝部:幅方向の長さは、金属蒸着電極3の面積が小さくなり過ぎてコンデンサとしたときの静電容量を著しく損なわない限り、特に制限されないが、例えば2mm以上)を残すように二軸延伸ポリプロピレンフィルム2上に積層された金
属蒸着電極3とを有する。金属蒸着電極3は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2に直接接するように二軸延伸ポリプロピレンフィルム2上に積層された金属蒸着層3aと、金属蒸着層3aの一部上面に形成された電極取り出し部3bとを有する。金属蒸着層3aは、金属層一体型ポリプロピレンフィルムをコンデンサとして使用する際に、電極として機能する。電極取り出し部3bは、いわゆるヘビーエッジと呼ばれる部分である。
【0100】
金属蒸着層3a、および、電極取り出し部3bに用いられる金属としては、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、それらの合金などを使用することができるが、環境、経済性及びコンデンサ性能などを考慮すると、亜鉛、アルミニウムが好ましい。
【0101】
金属層の層構成は特に制限されない。金属層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。
【0102】
金属蒸着層3a、および、電極取り出し部3bの厚さは、膜抵抗(単位面積当たりの抵抗値、単位:Ω/sq)で管理する。抵抗値は厚さに反比例するので、膜抵抗が低いほど、膜厚は厚いという関係になる。 金属層一体型ポリプロピレンフィルム1をコンデンサとして使用したとき、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の耐電圧的に弱い箇所が絶縁破壊を起こすことがある。絶縁破壊が生じると瞬間的に発熱するため、金属蒸着層3aが蒸散し、絶縁が回復する(セルフヒーリング)。金属蒸着層3aが蒸散する(セルフヒーリングが発生する)ことで、コンデンサの機能が回復し、継続的に使用することが可能となる。
【0103】
金属蒸着層3aの蒸散し易さ(セルフヒーリングの発生し易さ)は、膜抵抗(膜厚)により変化する。金属蒸着層3aの膜抵抗は、1Ω/sq以上であることが好ましく、5Ω/sq以上であることがより好ましい。膜抵抗が1Ω/sqより低いと、金属蒸着層3aの蒸散は発生し難く(セルフヒーリングが発生し難く)なるため、絶縁破壊により漏れ電流が流れて、発熱によって発火する危険性が高まるので好ましくない。
【0104】
金属蒸着層3aの膜抵抗は、30Ω/sq以下であることが好ましく、27Ω/sq以下であることがより好ましい。膜抵抗が、30Ω/sqを超えると、金属蒸着層3aの蒸散は発生し易く(セルフヒーリングが発生し易く)なり、コンデンサの容量低下が著しくなるので好ましくない。
【0105】
電極取り出し部3b(ヘビーエッジ)の膜抵抗は、1Ω/sq以上、7Ω/sq以下であることが好ましく、2Ω/sq以上、6Ω/sq以下であることがより好ましい。
【0106】
2.ポリプロピレンフィルムの製造方法
本発明のポリプロピレンフィルムは、上述の通り二軸延伸されていることが好ましい。本発明のポリプロピレンフィルムが二軸延伸ポリプロピレンフィルムである場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、一般的に知られている二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法により製造することができる。例えば、第1ポリプロピレン樹脂、及び、第2ポリプロピレン樹脂、或いは第1ポリプロピレン樹脂を、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に混合することにより得られたポリプロピレン樹脂組成物からキャストシートを作製し、次いでキャストシートを二軸延伸することにより製造することができる。
【0107】
本発明の一態様においては、後述のように、キャストシート作製における加熱溶融温度を比較的高温に設定すること、キャストシート作製における冷却ドラム温度を比較的高温に設定すること、縦延伸温度を比較的高温に設定すること、その他延伸条件を適切に調節すること等が、好ましい。また、本発明の一態様においては、キャストシート作製におけ
る加熱溶融温度を比較的高温に設定すること、及び、キャストシート作製における冷却ドラム温度、もしくは縦延伸温度を比較的高温に設定すること等が、好ましい。
【0108】
2-1.ポリプロピレン樹脂組成物の調製
前記ポリプロピレン樹脂組成物を調製する方法としては、特に制限はないが、第1ポリプロピレン樹脂、及び、第2ポリプロピレン樹脂、或いは第1ポリプロピレン樹脂の重合粉あるいはペレットを、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、第1ポリプロピレン樹脂、及び、第2ポリプロピレン樹脂、或いは第1ポリプロピレン樹脂の重合粉あるいはペレットを、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に、混練機に供給し、溶融混練してメルトブレンド樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
【0109】
ミキサー、混練機は、特に制限されない。混練機は、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプ、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでもよい。2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプでも構わない。
【0110】
溶融混練によるブレンドの場合、混練温度は、良好な混練さえ得られれば特に制限はないが、好ましくは170~320℃の範囲であり、より好ましくは200℃~300℃の範囲であり、さらに好ましくは230℃~270℃の範囲内である。樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージしても構わない。溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズすることによって、メルトブレンド樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0111】
ポリプロピレン樹脂組成物の調製の際に、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する目的で、上述の添加剤の項において説明した酸化防止剤としての1次剤を添加することができる。
【0112】
ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含む場合、その含有量は、好ましくは樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)1000質量ppm~5000質量ppmである。この目的の酸化防止剤は、押出機内での成形工程にてほとんどが消費され、製膜成形後のフィルム中には、ほとんど残存しない。
【0113】
上述の添加剤の項において説明したカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を2次剤としてポリプロピレン樹脂組成物に添加することができる。
【0114】
ポリプロピレン樹脂組成物がカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)好ましくは100質量ppm~10000質量ppm、より好ましくは3000質量ppm~7000質量ppmである。押出機内では少なからず、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤も消費される。
【0115】
ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含まない場合、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤をより多く使用することができる。これは、押出機内で、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の消費量が増えるためである。ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含まず、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)4000質量ppm~8000質量ppm以下である。
【0116】
2-2.キャストシートの作製
キャストシートは、予め作製したドライブレンド樹脂組成物および/またはメルトブレ
ンド樹脂組成物のペレット類を押出機に供給して、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、比較的高温、好ましくは255℃~320℃、より好ましくは260℃~300℃、さらに好ましくは265~280℃に加熱溶融してTダイから溶融押し出し、比較的高温、好ましくは96℃~120℃、より好ましくは96℃~110℃、さらに好ましくは96~100℃の温度(キャスト温度)に保持された少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させることにより得ることができる。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけることが好ましい。なお、金属ドラムに接触する側の面が第1の面となり、反対側の面(エアーナイフ側の面)が第2の面となる。
【0117】
前記キャストシートの厚みは、目的とするポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはないが、好ましくは0.05mm~2mm、より好ましくは0.1mm~1mmである。
【0118】
なお、キャストシートの作製工程中(特に、押出機内)においては、ポリプロピレンは、少なからず熱劣化(酸化劣化)やせん断劣化を受ける。このような劣化の進行度合い、即ち分子量分布や立体規則性の変化は、押出器内の窒素パージ(酸化の抑制)、押出機内のスクリュー形状(せん断力)、キャスト時のTダイの内部形状(せん断力)、酸化防止剤の添加量(酸化の抑制)、キャスト時の巻き取り速度(伸長力)などにより抑制することが可能である。
【0119】
2-3.延伸処理
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、前記キャストシートに延伸処理を施すことによって製造することができる。延伸方法としては逐次二軸延伸方法が好ましい。逐次二軸延伸方法としては、まずキャストシートを、比較的高温、好ましくは142~180℃、より好ましくは143~160℃、さらに好ましくは144~150℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に好ましくは3~7倍、より好ましくは4~6に延伸し、直ちに室温に冷却する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて、好ましくは150~160℃、より好ましくは150~159℃、さらに好ましくは150~158℃、よりさらに好ましくは150~157℃の温度で幅方向に3~11倍(好ましくは8~11倍)に横延伸した後、緩和、熱固定を施して、ロール状に巻回する。
【0120】
縦延伸速度は、好ましくは100~100000%/sec、より好ましくは1000~80000%/sec、さらに好ましくは60000~70000%/sec、よりさらに好ましくは65000~70000%/secである。横延伸速度は、好ましくは10~800%/sec、より好ましくは100~600%/sec、さらに好ましくは300~400%/sec、よりさらに好ましくは300~350%/secである。
【0121】
ロール状に巻回されたフィルムは、20~45℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した後、巻き戻されながら(繰り出されながら)、スリッター等で所望の製品幅にスリット加工(断裁)され、各々、再び巻回される。
【0122】
このような延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなる。
【0123】
前記ポリプロピレンフィルムには、延伸及び熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行うことが好ましい。コロナ放電処理を行うことにより、金属蒸着加工工程などの後工程における接着特性を高めることができる。コロナ放電処理は、公知の方法を用いて行うことができる。雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガスを用いて行うことが好ましい。
【0124】
3.金属層一体型ポリプロピレンフィルムの製造方法
本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムは、例えば、本発明のポリプロピレンフィルムの片面又は両面に金属層を積層する工程を含む方法により、得ることができる。 本発明のポリプロピレンフィルムの片面又は両面に金属層を積層する方法としては、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法を例示することができる。生産性及び経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法として、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを例示することができるが、特に限定されることはなく、適宜最適なものを選択することができる。
【0125】
前記真空蒸着法において、金属層の厚さは、膜抵抗で制御する。前記真空蒸着法における蒸着条件として、金属蒸着層3aの膜抵抗は、1Ω/□Ω/sq以上であることが好ましく、5Ω/□Ω/sq以上であることがより好ましい。また、金属蒸着層3aの膜抵抗は、30Ω/□Ω/sq以下であることが好ましく、27Ω/□Ω/sq以下であることがより好ましい。
【0126】
電極取り出し部3b(ヘビーエッジ)の膜抵抗は、1Ω/□Ω/sq以上、7Ω/□Ω/sq以下であることが好ましく、2Ω/□Ω/sq以上、6Ω/□Ω/sq以下であることがより好ましい。
【0127】
蒸着により金属層を積層する際のマージンパターンは、特に限定されるものではないが、コンデンサの保安性等の特性を向上させる点から、フィッシュネットパターン、あるいは、Tマージンパターンに代表される、いわゆる特殊マージンを含むパターンをフィルムの片方の面上に施すことが好ましい。保安性が高まり、コンデンサの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的である。
【0128】
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限無く使用することができる。
【0129】
本発明のポリプロピレンフィルムの片面又は両面に金属層を積層した後に、さらに、後加熱処理を行うこととしてもよい。後加熱処理の条件としては、例えば、120~130℃に熱したシリコンオイルの塗布などが挙げられる。
【0130】
以下に、図2を用いて、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの好適な製造方法について説明する。後述するように蒸着条件(主に、冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比、放電量)を制御することにより、累積絶縁破壊点数密度を抑制することができる。
【0131】
図2は、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの製造方法を説明するための模式図である。金属層一体型ポリプロピレンフィルムは、以下に説明する製造装置により製造することが好ましい。図2に示すように、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの製造装置は、誘電体フィルム供給部101と、絶縁マージン形成部102と、特殊蒸着パターンマージン形成部103と、金属蒸着部104と、DCマグネトロン放電電極105、金属層一体型フィルム巻取り部106とを備える。
【0132】
誘電体フィルム供給部101は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2が巻回された二軸延伸ポリプロピレンフィルムロール2Rを支持し、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2を供給する。二軸延伸ポリプロピレンフィルムロール2Rから供給された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2は絶縁マージン形成部102に搬送される。
【0133】
絶縁マージン形成部102は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2aに絶縁マージン4のパターンに対応するパターンのオイルを塗布してオイルマスクを形成す
る。オイルマスクは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1において絶縁マージンとなる部分に、蒸着工程で金属粒子が付着するのを防止するためのものである。絶縁マージン形成部102は、オイルタンクに貯蔵しているオイルを気化してタンクに設けたノズル(スリット)より、直接、ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2aにオイルを塗布しオイルマスクを形成する。
【0134】
特殊蒸着パターンマージン形成部103は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2aに、金属蒸着層3aの電極パターンに概ね対応するパターンでオイルを塗布し、オイルマスクを形成する。オイルマスクは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1において縦マージンや横マージンとなる部分に、蒸着工程で金属粒子が付着するのを防止するためのものである。特殊蒸着パターンマージン形成部103 は、オイルタンク103
aと、アニロックスロール103bと、転写ロール103cと、版ロール103dと、バックアップロール103e を有する。オイルタンク103aは、貯蔵しているオイルを
気化してノズルから噴出する。アニロックスロール103bと転写ロール103cは、その外周面にオイルタンク103aのノズルから噴出されたオイルが付着した状態で回転する。バックアップロール103eはポリプロピレンフィルム2 を介して版ロール103
dと対向し、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の冷却ロール接触面2bに当接する。
【0135】
絶縁マージン形成部102及び特殊蒸着パターンマージン形成部103を通過した二軸延伸ポリプロピレンフィルム2は蒸着部104へと搬送される。
【0136】
蒸着部104は、金属蒸気生成部104a 、104bと、金属蒸気生成部104a、
104bに二軸延伸ポリプロピレンフィルム2を介して対向する冷却ロール104cとを備える。金属蒸気生成部104aは、金属蒸着層3aの材料である金属のワイヤーに電流を流すことで加熱したボート上に供給することで、金属蒸気を発生させ、その金属蒸気を二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2aに蒸着させる。金属蒸気生成部104bは、電極取り出し部3bの材料である金属を熱して蒸発させて金属蒸気を発生し、金属蒸気生成部104aによって二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2a上に先に形成された金属蒸着層3a上に重ねて蒸着される。これにより、電極取り出し部3b部分の金属蒸着層は、それ以外の部分の金属蒸着層よりも厚くなり、ヘビーエッジ構造が形成される。なお、金属蒸気生成部104a、104bで発生した金属蒸気は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2a上に形成されたオイルマスク以外の部分に付着することで金属蒸着電極3を形成する。
【0137】
冷却ロール104Cには、電圧が印加されていて、電圧印加により、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の冷却ロール接触面2bは冷却ロール104Cに密着して二軸延伸ポリプロピレンフィルム2を冷却する。冷却ロール104Cに対する冷却ロール接触面2bの密着度合いは、冷却ロール104Cの印加電圧(V)に比例し、また、冷却ロールの幅(m)、および、蒸着速度(m/min)に反比例する。この為、冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比(単位:V・min/m)が高いほど、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の冷却ロール接触面2bは冷却ロール104Cにより密着し、冷却効率が上がり、蒸着金属の熱によるダメージを防ぐことが可能となる。冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比は、0.20V・min/m以上0.45V・min/m以下が好ましい。冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比が、0.20V・min/mより小さいと、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の冷却ロール接触面2bが冷却ロール104Cに十分に密着しないことから冷却効率が悪くなり、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が熱ダメージを受けて、結果として、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の耐電圧性が低下して、コンデンサにしたときに絶縁破壊や発熱により寿命が低下する。また、冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比が、0.45V・min/mより大きいと、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の冷却ロール接触面2
bが冷却ロール104Cに十分に密着するので冷却効率が良くなり、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の熱ダメージは軽減するが、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2とロール104Cとの間、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1とロール104Cとの間で放電が発生しやすくなり、放電が発生した場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が電気ダメージを受けて損傷をもたらし、また、放電が発生しない場合でも、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が帯電しやすくなり、金属層一体型フィルム巻取り部106でロール状に巻き取るときに、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の静電気の放電による電気ダメージが発生し、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に損傷をもたらす。二軸延伸ポリプロピレンフィルム2、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が電気ダメージを受けて損傷すると、耐電圧性が低下して、コンデンサにしたときに絶縁破壊や発熱による寿命低下が発生し易くなる。また、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が帯電すると、滑り性が悪化するため、金属層一体型フィルム巻取り部106での巻取り、あるいは、コンデンサ作製の素子巻き工程でシワが発生しやすくなる。また、コンデンサ作製の素子巻き後のプレス処理工程で、帯電による滑り性悪化のため、座屈が発生し易くなる。シワや座屈は、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に損傷を与え、コンデンサの絶縁破壊や発熱による寿命低下の要因となるので好ましくない。冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比は、0.24V・min/m以上、0.41V・min/m以下がさらに好ましい。
【0138】
冷却ロール104Cの温度は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2、あるいは、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の熱ダメージを防止する観点から、-18℃以下が好ましく、-19℃以下がより好ましい。
【0139】
二軸延伸ポリプロピレンフィルム2に蒸着部104で金属蒸着電極3が形成されることで形成された金属層一体型ポリプロピレンフィルム1は、静電気除去部105を通過する。静電気除去部105には、DCマグネトロン放電電極105a、105b、105c、105dが備えられており、アルゴンガスが供給された状態で、DCマグネトロン放電電極部105a、105b、105c、105dに電力を供給する事で、アルゴンガスのイオンが発生する。アルゴンガスのイオンが発生した状態で、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が静電気除去部105を通過すると、アルゴンガスのイオンにより金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の静電気が中和され、金属層一体型ポリプロピレンフィルムロール1Rが帯電することを防ぐ。アルゴンガスのイオンが金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に与える静電気の中和の程度は、放電量で表すことができ、放電量は、DCマグネトロン放電電極部105a、105b、105c、105dの合計の電力(W)に比例し、DCマグネトロン放電電極部の幅(m)、および、蒸着速度(m/min)に反比例する。ここで、DCマグネトロン放電電極部105a、105b、105c、105dの各々の幅は同一であり、前記、DCマグネトロン放電電極部の幅(m)は、DCマグネトロン放電電極部105a、105b、105c、105dの合計の幅ではなく、1本当たりの幅である。放電量は1.5W・min/m以上、3.7W・min/m以下が好ましい。放電量が3.7W・min/mより大きいと、DCマグネトロン放電電極部105a、105b、105c、105dの放電が強くなり過ぎて、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が電気ダメージを受けて損傷をもたらし、また、放電が発生しない場合でも、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1がアルゴンガスのイオンにより帯電する。また、放電量が1.5W・min/mより小さいと、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の静電気の中和が不十分となり帯電する。金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が電気ダメージを受けて損傷すると、耐電圧性が低下して、コンデンサにしたときに絶縁破壊や発熱による寿命低下が発生し易くなる。また、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が帯電すると、金属層一体型フィルム巻取り部106でロール状に巻き取るときに、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1の静電気の放電による電気ダメージが発生し、
金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に損傷をもたらす。金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が損傷すると、耐電圧性が低下して、コンデンサにしたときに絶縁破壊や発熱による寿命低下が発生し易くなる。また、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1が帯電すると、滑り性が悪化するため、金属層一体型フィルム巻取り部106での巻取り、あるいは、コンデンサ作製の素子巻き工程でシワが発生しやすくなる。また、コンデンサ作製の素子巻き後のプレス処理工程で、帯電による滑り性悪化のため、座屈が発生し易くなる。シワや座屈は、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1に損傷を与え、コンデンサの絶縁破壊や発熱による寿命低下の要因となるので好ましくない。放電量は1.9W・min/m以上、3.3W・min/m以下がより好ましい。
【0140】
静電気除去部105を通過した金属層一体型ポリプロピレンフィルム1は、金属層一体型フィルム巻取り部106に搬送され巻き取られ、金属層一体型ポリプロピレンフィルムロール1Rとなる。
【0141】
上記製造装置を用い、ポリプロピレンフィルム2の金属蒸着面2a上に金属蒸着電極3を形成し、金属層一体型ポリプロピレンフィルム1を得ることができる。
【0142】
4.コンデンサ
本発明は、その一態様において、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを含む、コンデンサ(本明細書において、「本発明のコンデンサ」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0143】
本発明のコンデンサは、長期間使用に対する静電容量安定性を一定レベルで備えるのみならず、さらに、高温高電圧負荷時の絶縁抵抗安定性に優れている。
【0144】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の高温短時間耐圧試験により測定される、静電容量の変化率が、好ましくは―5%以上、より好ましくは-2%以上である。当該静電容量変化率の上限は特に制限されず、例えば2%、1%、0.5%、0.2%、又は0%である。
【0145】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の105℃寿命試験により測定される、静電容量の変化率が、好ましくは-25%以上、より好ましくは-20%以上、さらに好ましくは-15%以上である。当該静電容量変化率の上限は特に制限されず、例えば2%、1%、0.5%、0.2%、又は0%である。
【0146】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の105℃寿命試験により測定される、絶縁抵抗値が、好ましくは20MΩ以上、より好ましくは300MΩ以上、さらに好ましくは500MΩ以上、よりさらに好ましくは800MΩ以上、とりわけ好ましくは1000MΩ以上である。当該絶縁抵抗値の上限は特に制限されず、例えば20000MΩ、15000MΩ、又は13000MΩである。
【0147】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の115℃寿命試験により測定される、静電容量の変化率が、好ましくは-30%以上、より好ましくは-25%以上、さらに好ましくは-20%以上である。当該静電容量変化率の上限は特に制限されず、例えば2%、1%、0.5%、0.2%、又は0%である。
【0148】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の115℃寿命試験により測定される、絶縁抵抗値が、好ましくは20MΩ以上、より好ましくは100MΩ以上、さらに好ましくは150MΩ以上、よりさらに好ましくは200MΩ以上、とりわけ好ましくは250MΩ以上である。当該絶縁抵抗値の上限は特に制限されず、例えば20000MΩ、15
000MΩ、又は13000MΩである。
【0149】
例えば、本発明のコンデンサは、実施例に記載の高電圧印加試験により測定される。絶縁抵抗値が、好ましくは20MΩ以上、より好ましくは3000MΩ以上、さらに好ましくは5000MΩ以上、よりさらに好ましくは8000MΩ以上、とりわけ好ましくは10000MΩ以上である。当該絶縁抵抗値の上限は特に制限されず、例えば20000MΩ、15000MΩ、又は13000MΩである。
【0150】
本発明の一態様において、コンデンサを作製する工程では、例えば、フィルムの巻き付け加工が行われる。例えば、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムにおける金属層と本発明のポリプロピレンフィルムとが交互に積層されるように、更には、絶縁マージン部が逆サイドとなるように、2枚1対の本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを重ね合わせて巻回する。この際、2枚1対の本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを、電極取り出し部が1対になる相手の絶縁マージン部よりも外側に出るように1~2mmずらして積層することが好ましい。用いる巻回機は特に制限されず、例えば、株式会社皆藤製作所製の自動巻取機3KAW-N2型等を利用することができる。
【0151】
扁平型コンデンサを作製する場合、巻回後、通常、得られた巻回物に対してプレスが施される。プレスによってコンデンサの巻締まり・素子成形を促す。層間ギャップの制御・安定化を施す点から、与える圧力は、本発明のフィルムの厚み等によってその最適値は変わるが、荷重1~20kgf/cmである。
【0152】
続いて、巻回物の両端面に金属を溶射してメタリコン電極を設けることによって、コンデンサを作製する。
【0153】
コンデンサに対して、更に所定の熱処理が施される。すなわち、本発明では、コンデンサに対し、熱処理を施す工程(以下、「熱エージング」と称することがある)を含む。熱処理温度は、特に制限されないが、例えば80~190℃である。コンデンサに対して熱処理を施す方法としては、特に制限されないが、例えば、大気圧、または、真空雰囲気下で、恒温槽を用いる方法や高周波誘導加熱を用いる方法等を含む公知の方法から適宜選択してもよい。熱処理を施す時間は、特に制限されないが、例えば、真空雰囲気下で、恒温槽を用いる場合、機械的及び熱的な安定を得る点で、1時間以上とすることが好ましく、3時間以上とすることがより好ましいが、熱シワや型付等の成形不良を防止する点で、20時間以下とすることがより好ましい。
【0154】
熱処理を施すことによって熱エージングの効果が得られる。具体的には、本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムに基づくコンデンサを構成するフィルム間の空隙が減少し、コンデンサの使用時にコロナ放電が抑制され、しかも本発明の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの内部構造が変化して結晶化が進む。その結果、耐電圧性がより向上するものと考えられる。
【0155】
熱エージングを施したコンデンサのメタリコン電極には、通常、リード線が溶接される。また、特に制限されないが、耐候性を付与し、とりわけ湿度劣化を防止するため、コンデンサをケースに封入してエポキシ樹脂でポッティングすることが好ましい。
【0156】
本発明のポリプロピレンフィルムを利用した、本発明のコンデンサは、高温環境で好適に使用され、小型、さらには、高容量(例えば、静電容量が、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上、よりさらに好ましくは30μF以上、とりわけ好ましくは40μF以上。静電容量の上限は特に制限されず、例えば100μF、80μF、70μF、又は60μFである。)のコンデンサとすることができる。従って、
本発明のコンデンサは、電子機器、電気機器などに使用されている、高電圧コンデンサ、各種スイッチング電源、コンバータ及びインバータ等のフィルタ用コンデンサ及び平滑用コンデンサ等として利用することができる。また、本発明のコンデンサは、近年需要が高まっている電気自動車及びハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ用コンデンサ、コンバータ用コンデンサ等としても好適に利用することができる。
【実施例0157】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0158】
(1)ポリプロピレン樹脂の準備
実施例及び比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するために使用したポリプロピレン樹脂を、表1に示す。
【0159】
表1に示す樹脂Aは、プライムポリマー株式会社製の製品である。樹脂Bは、大韓油化社製のS802Mである。樹脂A、Bは、いずれも直鎖状ホモポリプロピレン樹脂である。
【0160】
表1に、直鎖状ホモポリプロピレン樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、分子量分布(Mz/Mn)、メルトフローレート(MFR)、及び、ヘプタン不溶分(HI)を示した。これらの値は、原料樹脂ペレットの形態での値である。測定方法は以下の通りである。
【0161】
(1-1)直鎖状ポリプロピレン樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mn)の測定
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mn)を測定した。
【0162】
具体的に、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC装置であるHLC-8121GPC-HT型を使用した。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel
GMHHR-H(20)HTを3本連結して使用した。140℃のカラム温度で、溶離液として、トリクロロベンゼンを、1.0ml/minの流速で流して測定した。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成し、測定値をQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算して、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、z平均分子量(Mz)を得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。また、このMzとMnの値を用いて分子量分布(Mz/Mn)を得た。
【0163】
(1-2)メルトフローレート(MFR)の測定
各樹脂について原料樹脂ペレットの形態でのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックサを用いてJIS K 7210の条件Mに準じて測定した。具体的には、まず、試験温度230℃にしたシリンダ内に、4gに秤りとった試料を挿入し、2.16kgの荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された試料の重量を測定し、MFR(g/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。結果を表1に示す。
【0164】
(1-3)ヘプタン不溶分(HI)の測定
各樹脂について、10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。結果を表1に示す。
【0165】
(1-4)ポリプロピレン樹脂の物性値
【0166】
【表1】
【0167】
(2)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの作製
樹脂Aと樹脂Bとをドライブレンドした。混合比率は、質量比で(樹脂A):(樹脂B)=75:25とした。その後、ドライブレンドした樹脂を用い、樹脂温度270℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を98℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させた。これにより、厚さ115μmのキャストシートを作製した。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけながらキャストシートを作製した。得られた未延伸のキャストシートを146℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して、延伸速度67300%/秒で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。引き続き、延伸フィルムをテンターに導いて、155℃の温度で、延伸速度335%/秒で、幅方向に10倍に延伸した後、緩和、熱固定を施した。次いで、フィルム表面(金属ドラム接触面側)に25W・分/mの処理速度で大気中でコロナ放電処理を行った後、巻き取り、30℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した。これにより、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0168】
(3)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの物性測定
(3-1)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さ測定
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さ(単位:μm)を測定した。具体的に、シチズンセイミツ社製の紙厚測定器MEI-11を用いて100±10kPaで測定すること以外、JIS-C2330に準拠して測定した。結果、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、2.3μmであった。
【0169】
(3-2)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの120℃熱収縮率測定
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムの120℃で15分の処理条件における熱収縮率(120℃熱収縮率)(単位:%)を測定した。具体的には、サンプルをロールより、切り出したが、サンプルの大きさは、MD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプルは、MD方向130mm、TD方向20mmとし、TD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプルは、MD方向20mm、TD方向130mmとした。MD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル、および、TD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプルは、各々3本準備した。次に、MD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本については、MD方向130mmの各々の端から15mmの位置に標線を印した。このとき、標線と標線の間隔は100mmとなる。また、TD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本については、TD方向130mmの各々の端から15mmの位置に標線を印した。このとき、標線と標線の間隔は100mmとなる。次いで、標線を印した各々のサンプルを、120℃の熱風循環式恒温槽内に130mmに切り出した方向が、鉛直方向になるように、無荷重で吊るして15分間保持した。その後、室温(23℃)で冷却し、標線の間隔を定規で測定し、次の式:熱収縮率(%)=(加熱前の標線間隔-加熱後の標線間隔)/加熱前の標線間隔×100 を用いて、各々のサンプルについて熱収縮率(%)を算出した。
【0170】
MD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本の、熱収縮率の平均値をMD方向の120℃熱収縮率(%)とした。また、TD方向の120℃熱収縮率を測定するサンプル3本の、熱収縮率の平均値をTD方向の120℃熱収縮率(%)とした。
【0171】
なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 2151:2019の「25.寸法変化」に準じた。
【0172】
結果、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのMD方向の120℃熱収縮率は、3.7%、また、TD方向の120℃熱収縮率は、0.4%であった。
【0173】
(3-3)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの140℃熱収縮率測定
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムの140℃で15分の処理条件における熱収縮率(140℃熱収縮率)(単位:%)を測定した。120℃熱収縮率の測定方法のうち、120℃の熱風循環式恒温槽を、140℃の熱風循環式恒温槽に変更したこと以外は、120℃熱収縮率と同様の方法で、MD方向の140℃熱収縮率(%)、および、TD方向の140℃熱収縮率(%)を算出した。
【0174】
結果、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのMD方向の140℃熱収縮率は、6.1%、また、TD方向の140℃熱収縮率は、3.1%であった。
【0175】
(3-4)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの引張弾性率測定
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムの引張弾性率(単位:GPa)は、JIS K-7127(1999)に準拠して測定した。具体的には、サンプルをロールより、切り出したが、サンプルの大きさは、MD方向の引張弾性率を測定するサンプルは、MD方向200mm、TD方向15mmとし、TD方向の引張弾性率を測定するサンプルは、MD方向15mm、TD方向200mmとした。次いで、引張圧縮試験機(ミネベア株式会社製)を用いて、試験条件(測定温度23℃、チャック間距離100mm、引張速度200mm/分)で引張試験を行った。次いで、同試験機に内蔵されたデータ処理ソフトによる自動解析より、MD方向の引張弾性率(GPa)、および、TD方向の引張弾性率(GPa)を各々求めた。
【0176】
結果、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのMD方向の引張弾性率は、2.76GPa、また、TD方向の引張弾性率は、4.56GPaであった。
【0177】
(3-5)二軸延伸ポリプロピレンフィルムのヘーズ測定
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムのヘーズ(単位:%)は、ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製「NDH-5000」)を用いて、JIS K 7136:2000に準拠して測定した。サンプルは、ロールより切り出したが、サンプルの大きさはMD方向50mm、TD方向100mmとした。結果、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのヘーズは、3.1%であった。
【0178】
(4)断裁後フィルムロールの作製
上記(2)で作製した二軸延伸ポリプロピレンフィルムのロールからフィルムを巻き出し、幅方向にスリッターにて断裁した。断裁後のポリプロピレンフィルムを巻回する際は、外径が176mmの繊維強化プラスチック製のコアを使用し、接圧ロールを備える巻き取り装置を用いて、ポリプロピレンフィルムに面圧を付与しながら巻回する方式を採用した。断裁条件は、速度300m/min、巻出張力40N/m、巻取張力50N/m、巻取面圧400N/mとし、接圧ロールはゴム製の外径152mm、表面硬度40°のものを使用し、幅620mm、長さ75,000mの二軸延伸ポリプロピレンロール(断裁後フィルムロール)を仕上げた。巻取り中のフィルムを目視観察し、シワの発生がない事を
確認した。また、得られた断裁後フィルムロールの端面の観察を行い、2mm以上のズレが発生していない事を確認した。
【0179】
(5)金属層一体型ポリプロピレンフィルムの作製
<実施例1>
蒸着装置(アルバック社製、製品名:巻取式真空蒸着装置EWE-060)を用い、冷却ロール温度-22℃、冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比0.32V・min/m、放電量2.5W・min/mの条件で、上記(4)で作製した断裁後フィルムロールにフィルムコンデンサ保安性を付与するための特殊蒸着パターンマージン、絶縁マージンを形成し、金属膜の表面抵抗率が20Ω/sqになるようにアルミニウム蒸着を施すことにより、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。金属層一体型ポリプロピレンフィルムの模式図を図1に示す。製造装置の模式図を図2に示す。
【0180】
<実施例2>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.21V・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0181】
<実施例3>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.44V・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0182】
<実施例4>
放電量を1.6W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0183】
<実施例5>
放電量を3.6W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0184】
<実施例6>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.21V・min/m、放電量を3.6W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0185】
<比較例1>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.18V・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0186】
<比較例2>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.47V・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0187】
<比較例3>
放電量を1.3W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0188】
<比較例4>
放電量を3.9W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0189】
<比較例5>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.18V・min/m、放電量を3.9W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0190】
<比較例6>
冷却ロールの単位幅当たりの電圧速度比を0.47V・min/m、放電量を3.9W・min/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。
【0191】
(6)金属層一体型ポリプロピレンフィルムの物性測定
実施例1から実施例6、および、比較例1から比較例6で得られた金属層一体型ポリプロピレンフィルムについて、図3に示す構成で、下記、手順にて、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度(425V/μmにおける、20℃の累積絶縁破壊点数密度)を測定した。20℃の環境下、350V/μmの直流電圧を1分間印加した後、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の領域(100mm×10mm)における絶縁破壊点数を目視で数えた。数えた後、375V/μmの直流電圧を1分間印加した後、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の領域における累積絶縁破壊点数を目視にて数えた。次いで、直流電圧を25V/μmずつ上げ、425V/μmまで、この操作を繰り返し行い、累積的に直流電圧を印加した。試験は5枚の金属層一体型ポリプロピレンフィルムで行い、425V/μmにおける、20℃の累積絶縁破壊点数の平均値を、絶縁用ポリプロピレンフィルムの窓の面積(100mm×10mm=1,000mm=0.001m)で割り、425V/μmにおける、20℃の累積絶縁破壊点数密度(単位:個/m)を求めた。結果を表2及び表3に示す。
【0192】
(7)評価
(7-1)プレス処理歩留率評価
実施例、比較例で作製した金属層一体型ポリプロピレンフィルムを30mm幅の小巻にスリットした。次に、30mm幅の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの小巻のうち、巻き出し側から見て左側に絶縁マージン(幅方向の長さ2mm)がある小巻1本と、巻き出し側から見て右側に絶縁マージン(幅方向の長さ2mm)がある小巻1本とを用い、互いに、相手の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの小巻の絶縁マージンよりも、自身の電極取り出し部がはみ出るように2枚組合せて、皆藤製作所製自動巻取機3KAW―N2型を用い、巻取り速度4m/sec、巻取り張力180g、コンタクトローラー接圧260gにて、1350ターン巻回を行った。
【0193】
素子巻きした素子は、荷重5.9kgf/cmでプレス処理を行い扁平化させた。
【0194】
プレス処理を行い扁平化させた素子について、プレス荷重を加えたまま側面を観察し、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの座屈の有無を確認した。座屈が発生したものは全て不合格とした。全ての扁平化させた素子に対し、前記基準で合格となった扁平化させた素子の個数割合をプレス処理歩留率αとして算出し、以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0195】
A:α=100%
B:100%>α≧80%
C:80%>α。
【0196】
(7-2)コンデンサの性能評価
上記(7-1)でプレス処理を行い扁平化させた素子について、プレス荷重を加えたま
ま、素子端面に亜鉛金属を溶射した。溶射条件としては、フィード速度20mm/s、溶射電圧21V、溶射圧力0.4MPaとし、厚さ0.6mm~0.7mmになるよう溶射を行い電極取り出し部を形成、真空雰囲気下で、120℃にて15時間の加熱処理を真空恒温槽で施し、熱硬化させた。こうして扁平型フィルムコンデンサを得た。その後、扁平型フィルムコンデンサの、素子端面にリード線をはんだ付けし、エポキシ樹脂で封止した。エポキシ樹脂の硬化は、90℃で2.5時間加熱した後、さらに、120℃で2.5時間加熱して行った。出来上がったコンデンサの静電容量は、すべて50μF(±3μF)であった。得られたコンデンサを、以下の6つの試験で使用した。
【0197】
(7-2-1)コンデンサの高温短時間耐圧試験(静電容量の変化率)
得られたコンデンサについて、試験前の初期静電容量(C0)を、日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50を用いて測定した。次に、コンデンサに105℃の恒温槽中にて、325 V/μmの直流電圧を10秒印加した。電圧印加後のコンデンサの
静電容量を同様に測定し、試験前後の容量変化率(ΔC)を、次の式:
ΔC=[(電圧印加後の静電容量)-C0]/C0×100(%)
により算出した。
【0198】
次に、105℃の恒温槽中にて、350 V/μmの直流電圧を10秒印加し、静電容
量を同様に測定した。次いで、105℃の恒温槽中にて、直流電圧を25V/μmずつ上げ、425V/μmまで、この操作を繰り返し行い、累積的に直流電圧を印加した。試験は2個のサンプルで行い、425V/μmの静電容量の変化率の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0199】
A:ΔC≧-2%
B:-2%>ΔC≧-5%
C:-5%>ΔC
【0200】
(7-2-2)コンデンサの105℃寿命試験(静電容量の変化率)
得られたコンデンサの試験前の初期静電容量(C0)を、日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50を用いて測定した。次に、105℃の恒温槽中にて、コンデンサに325 V/μmの直流電圧を1,500時間負荷し続けた。1,500時間経過後
のコンデンサの静電容量(C1500H105C)を同様に測定し、電圧負荷前後の容量変化率(ΔC105C)を、次の式:ΔC105C=(C1500H105C-C0)/C0 により算出した。試験は2個のサンプルで行い、その容量変化率(ΔC105C)の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0201】
A:ΔC105C≧-15%
B:-15%>ΔC105C≧-25%
C:-25%>ΔC105C
【0202】
(7-2-3)コンデンサの105℃寿命試験(絶縁抵抗値)
得られたコンデンサを、105℃の恒温槽中にて、325 V/μmの直流電圧を1,
500時間負荷し続けた。日置電機株式会社製超絶縁抵抗計DSM8104に遮蔽箱SME-8350を接続し、遮蔽箱内に1,500時間経過後のコンデンサを入れ、500Vの直流電圧を印加し、1分経過時の絶縁抵抗値(IR105C)を読み取った。試験は2個のサンプルで行い、その絶縁抵抗値(IR105C)の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0203】
なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 5101-16:2009の「4.2.4 絶縁抵抗」に準じた。
【0204】
A:IR105C≧500MΩ
B:500MΩ>IR105C≧20MΩ
C:20MΩ>IR105C
【0205】
(7-2-4)コンデンサの115℃寿命試験(静電容量の変化率)
得られたコンデンサの試験前の初期静電容量(C0)を、日置電機株式会社製LCRハイテスター3522-50を用いて測定した。次に、115℃の恒温槽中にて、コンデンサに325 V/μmの直流電圧を1,500時間負荷し続けた。1,500時間経過後
のコンデンサの静電容量(C1500H115C)を同様に測定し、電圧負荷前後の容量変化率(ΔC115C)を、次の式:ΔC115C=(C1500H115C-C0)/C0 により算出した。試験は2個のサンプルで行い、その容量変化率(ΔC115C)の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0206】
A:ΔC115C≧-20%
B:-20%>ΔC115C≧-30%
C:-30%>ΔC115C
【0207】
(7-2-5)コンデンサの115℃寿命試験(絶縁抵抗値)
得られたコンデンサを、115℃の恒温槽中にて、325 V/μmの直流電圧を1,
500時間負荷し続けた。日置電機株式会社製超絶縁抵抗計DSM8104に遮蔽箱SME-8350を接続し、遮蔽箱内に1,500時間経過後のコンデンサを入れ、500Vの直流電圧を印加し、1分経過時の絶縁抵抗値(IR115C)を読み取った。試験は2個のサンプルで行い、その絶縁抵抗値(IR115C)の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0208】
なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 5101-16:2009の「4.2.4 絶縁抵抗」に準じた。
【0209】
A:IR115C≧150MΩ
B:150MΩ>IR115C≧20MΩ
C:20MΩ>IR115C
【0210】
(7-2-6)コンデンサの高電圧印加試験(絶縁抵抗値)
得られたコンデンサを、105℃の恒温槽中にて、1200Vの直流電圧を10分負荷し続けた。日置電機株式会社製超絶縁抵抗計DSM8104に遮蔽箱SME-8350を接続し、遮蔽箱内に10分経過後のコンデンサを入れ、500Vの直流電圧を印加し、1分経過時の絶縁抵抗値(IR10)を読み取った。試験は2個のサンプルで行い、その絶縁抵抗値(IR10)の平均値を以下の基準を与えて評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0211】
なお、ここに記載した以外の測定条件については、JIS C 5101-16:2009の「4.2.4 絶縁抵抗」に準じた。
【0212】
A:IR10≧5000MΩ
B:5000MΩ>IR10≧20MΩ
C:20MΩ>IR10
【0213】
【表2】
【0214】
【表3】
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-08-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンフィルムと、前記ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層されたアルミニウム蒸着膜である金属層とを有する金属層一体型ポリプロピレンフィルムであって、20℃且つ350~425V/μmの累積直流電圧印可試験後の累積絶縁破壊点数密度が1000個/m以下である、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレンフィルムの厚さが1.0~3.0μmである、請求項1に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記ポリプロピレンフィルムの120℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~8%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-2~2%である、請求項1又は2に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記ポリプロピレンフィルムの140℃で15分の処理条件における第1方向の熱収縮率が0~10%であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の熱収縮率が-1~5%である、請求項1~3のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記ポリプロピレンフィルムの第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の引張弾性率が3GPa以上である、請求項1~4のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記ポリプロピレンフィルムの第1方向の引張弾性率が1.5GPa以上であり且つ前記第1方向に直交する第2方向の引張弾性率が3GPa以上である、請求項3又は4に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記ポリプロピレンフィルムが二軸延伸フィルムである、請求項1~のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
前記ポリプロピレンフィルムが単層フィルムである、請求項1~のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項9】
コンデンサ用である、請求項1~のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを含む、コンデンサ。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムの巻回物を含む、請求項10に記載のコンデンサ。