(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153941
(43)【公開日】2024-10-29
(54)【発明の名称】子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメント及び離乳期子牛用サプリメント
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20241022BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20241022BHJP
A23K 40/35 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/142
A23K40/35
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024135267
(22)【出願日】2024-08-14
(62)【分割の表示】P 2022165759の分割
【原出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武本 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲誠
(57)【要約】
【課題】哺乳期間中の子牛に発生しやすい症状や、離乳ストレスによる症状、健康状態への悪影響の軽減に有用な新規な手段を提供すること。
【解決手段】リジンを含む、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメント、バイパス加工されたリジンを含む、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメント、並びに、これらを組み合わせた子牛用サプリメントセットを提供した。本発明によれば、哺乳期~離乳期の子牛の健康状態を改善ないし向上することができる。
【選択図】
図2-3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジンを含む、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメントであって、1日当り0.75 g~6 gのリジンを前記子牛に補給するために用いられる、サプリメント。
【請求項2】
前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、及び粗飼料摂取量の向上から選択される少なくとも1種である、請求項1記載のサプリメント。
【請求項3】
バイパス加工されたリジンを含む、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメントであって、リジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量のバイパス加工されたリジンを前記子牛に補給するために用いられる、離乳期子牛用サプリメント。
【請求項4】
前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、粗飼料摂取量の向上、糖新生の改善、白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに治療日数の低減から選択される少なくとも1種である、請求項3記載のサプリメント。
【請求項5】
請求項1又は2記載の哺乳期子牛用サプリメントと、請求項3又は4記載の離乳期子牛用サプリメントとを含む、子牛用サプリメントセット。
【請求項6】
1日当り0.75 g~6 gのリジンを哺乳期の子牛に補給することにより、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための、リジンを含む哺乳期子牛用サプリメントの使用。
【請求項7】
前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、及び粗飼料摂取量の向上から選択される少なくとも1種である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
リジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量のバイパス加工されたリジンを離乳期の子牛に補給することにより、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための、バイパス加工されたリジンを含む離乳期子牛用サプリメントの使用。
【請求項9】
前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、粗飼料摂取量の向上、糖新生の改善、白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに治療日数の低減から選択される少なくとも1種である、請求項8記載の使用。
【請求項10】
請求項1又は2記載のサプリメントを哺乳期の子牛に給与することを含む、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善する方法。
【請求項11】
請求項3又は4記載のサプリメントを離乳期の子牛に給与することを含む、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善する方法。
【請求項12】
哺乳期間中の又は離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善する方法であって、哺乳期の前記子牛に対し、請求項1又は2記載のサプリメントをリジン換算で1日当り0.75 g~6 gの量で給与すること、及び、離乳期の前記子牛に対し、請求項3又は4記載のサプリメントをリジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量で給与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメント、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメント、並びにこれらを組み合わせた子牛用サプリメントセットに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜における過度のストレスはアニマルウェルフェア上の問題となるだけでなく、生産性の低下や畜産物の品質の悪化を引き起こす。子牛の場合には、母牛からの分離、離乳、飼料の変化、飼育環境の変化など、様々な社会的・環境的ストレスの負荷を強いられ、体重の減耗や免疫力低下など健康上の問題を生じることが知られている。離乳に伴う生理的反応として、血漿中コルチゾール濃度の増加(非特許文献1)、好中球とリンパ球の比率(N/L比)の増加(非特許文献2)などが知られている。
【0003】
一方、反すう動物のルーメン内微生物に分解されないように、ルーメンをバイパスする加工(バイパス加工)を施した飼料添加物が種々利用されており(例えば特許文献1)、リジンをバイパス加工したもの(以下、バイパスリジンということがある)も公知である(特許文献2~4)。バイパスリジンは、乳牛において不足しやすいリジンを補給し、泌乳成績を改善する飼料添加剤として利用されている(非特許文献3)。また、乳量、乳蛋白生産の向上のほか繁殖成績の改善、脂肪肝やケトーシスに対する効果も得られる牛用の飼料添加剤として、リジン及びメチオニンを併用した製品が知られている(非特許文献4)。
【0004】
リジンと動物のストレスに関しては、例えば、ラットにおいてリジン欠乏により扁桃体内のセロトニン放出が増大し、ストレスによる不安症状が増大すること(非特許文献5)、ヒトにおいてリジン及びアルギニンの経口補給が不安症状を低減すること(非特許文献6)が知られている。
【0005】
哺乳期~離乳期の子牛に対するリジン給与に関する報告としては、例えば非特許文献7には、粗タンパク質18%のスターター(人工乳、濃厚飼料とも呼ばれる)にリジンを添加して子牛に1日当り6.640 gのリジンを摂取させることにより、リジン添加しないスターターを給与した場合と比べて離乳前の一日増体量が有意に増加したが、離乳後の一日増体量には影響がなかったことが記載されている。非特許文献8には、リジンやメチオニンの補給が早期離乳後の子牛の窒素バランス及び血中遊離アミノ酸に及ぼす影響を調べる目的で、離乳後の子牛に対しリジン及びメチオニンを併用投与する試験、及びリジン単独で投与する試験を行なったことが記載されている。一日増体量のデータも示されているが、有意な増体促進効果が認められているのはリジン及びメチオニンを併用した場合であり、リジン単独では増体を促進する効果が全く認められていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-145962号公報
【特許文献2】特許第3728738号公報
【特許文献3】特許第5040919号公報
【特許文献4】国際公開第2019/189605号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lay et al. Applied Animal Behaviour Science, 56 (1998), pp. 109-119
【非特許文献2】Hickey et al., J Anim Sci, 81: 2847-2855 (2003).
【非特許文献3】味の素ヘルシーサプライ株式会社、“AjiPro(登録商標)-L 乳牛用リジン製剤”、[2022年8月26日検索]、インターネット<URL: https://www.ahs.ajinomoto.com/products/feed/feed_4.html>
【非特許文献4】バイオ科学株式会社、“バイパスサプリ「乳肝プラスリジン」”、[2022年8月26日検索]、インターネット<URL: https://www.bioscience.co.jp/products/livestock/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%B3-%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%B3/>
【非特許文献5】Smriga et al., The Journal of Nutrition, December 2002, Volume 132, Issue 12, Pages 3744-3746
【非特許文献6】Smriga et al., Biomedical Research, 2007, Volume 28, Issue 2, Pages 85-90
【非特許文献7】Niroumand et al., South African Journal of Animal Science 2020, 50 (No. 3), pp.442-451
【非特許文献8】Abe et al., Anim. Sci. Technol. (Jpn.) 67 (12): 1058-1067, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、哺乳期間中の子牛に発生しやすい症状や、離乳ストレスによる症状、健康状態への悪影響の軽減に有用な新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、哺乳期間中の子牛へのリジン補給や、離乳期間中の子牛へのバイパスリジン補給により、哺乳期~離乳期の子牛における上記の課題を解決できることを見出し、本願発明を完成した。すなわち、本発明は、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメントとしてのリジンの使用、及び離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメントとしてのバイパスリジンの使用に関する発明であり、以下の態様を包含する。
【0010】
[1] リジンを含む、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメントであって、1日当り0.75 g~6 gのリジンを前記子牛に補給するために用いられる、サプリメント。
[2] 前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、及び粗飼料摂取量の向上から選択される少なくとも1種である、[1]記載のサプリメント。
[3] バイパス加工されたリジンを含む、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメントであって、リジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量のバイパス加工されたリジンを前記子牛に補給するために用いられる、離乳期子牛用サプリメント。
[4] 前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、粗飼料摂取量の向上、糖新生の改善、白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに治療日数の低減から選択される少なくとも1種である、[3]記載のサプリメント。
[5] [1]又は[2]記載の哺乳期子牛用サプリメントと、[3]又は[4]記載の離乳期子牛用サプリメントとを含む、子牛用サプリメントセット。
[6] 1日当り0.75 g~6 gのリジンを哺乳期の子牛に補給することにより、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための、リジンを含む哺乳期子牛用サプリメントの使用。
[7] 前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、及び粗飼料摂取量の向上から選択される少なくとも1種である、[6]記載の使用。
[8] リジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量のバイパス加工されたリジンを離乳期の子牛に補給することにより、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための、バイパス加工されたリジンを含む離乳期子牛用サプリメントの使用。
[9] 前記症状又は状態の改善が、増体量の向上、粗飼料摂取量の向上、糖新生の改善、白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに治療日数の低減から選択される少なくとも1種である、[8]記載の使用。
[10] [1]又は[2]記載のサプリメントを哺乳期の子牛に給与することを含む、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善する方法。
[11] [3]又は[4]記載のサプリメントを離乳期の子牛に給与することを含む、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善する方法。
[12] 哺乳期間中の又は離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善する方法であって、哺乳期の前記子牛に対し、[1]又は[2]記載のサプリメントをリジン換算で1日当り0.75 g~6 gの量で給与すること、及び、離乳期の前記子牛に対し、[3]又は[4]記載のサプリメントをリジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量で給与することを含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち、バイパス加工されていないリジンを給与する発明によれば、哺乳期間中の子牛に発生しやすい症状を軽減し、哺乳期の子牛の健康状態を改善ないし向上できる。バイパスリジンを給与する発明によれば、離乳ストレスによる症状、健康状態への悪影響を軽減し、離乳期の子牛の健康状態を改善ないし向上できる。さらに、これらを組み合わせることで、哺乳期~離乳期の子牛の健康状態を改善ないし向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2-3】Lys区及び対照区のステージ別一日平均増体量。
【
図3-2】Lys区及び対照区のステージ別総人工乳摂取量。
【
図3-4】Lys区及び対照区のステージ別総粗飼料摂取量。†:P<0.10、*:P<0.05
【
図4-1】Lys区及び対照区の飼料効率。†:P<0.10、*:P<0.05
【
図4-2】Lys区及び対照区のステージ別飼料効率。†:P<0.10、*:P<0.05
【
図5】Lys区及び対照区の血清中リジン濃度。*:P<0.05
【
図6】Lys区及び対照区のステージ別治療日数。†:P<0.10
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のうち、バイパス加工されていないリジンを給与する発明では、哺乳期の子牛が対象となり、バイパスリジンを給与する発明では、離乳期の子牛が対象となる。いずれも、ホルスタイン種やジャージー種等の乳生産用の品種(乳牛)の子牛、及び黒毛和種等の食肉用の品種(肉牛)の子牛が包含される。分娩及び初乳摂取後早期に母子分離し、代用乳(液状飼料)及び人工乳(固形飼料、スターターとも呼ばれる)を用いて哺育する早期母子分離による人工哺育管理を受けている子牛でもよいし、離乳まで母子分離せず、母牛からの授乳により哺育する自然哺乳の子牛でもよく、母子の同居時間の制限や母子を柵で仕切る等の手段により母牛からの授乳の時間ないし回数を制限する哺育管理下の子牛でもよい。子牛は単飼育でも群飼育でもよく、代用乳の自動哺乳機の利用の有無も問わない。酪農現場では早期母子分離による人工哺育が主流であり、畜産現場でも人工哺育管理が増えてきている。
【0014】
哺乳期とは、離乳前の代用乳又は母乳などの液状飼料を給与されている期間であり、0週齢~離乳までの期間である。この期間は液状飼料だけでなく、固形飼料として人工乳及び粗飼料も給与されている。離乳期とは、離乳後の、人工乳及び粗飼料を給与されている期間であり、一般に離乳~離乳後10週間程度の期間である。離乳の時期は哺育管理の方式に応じて農場ごとに適宜設定されているが、早期母子分離による人工哺育管理では6~12週齢で離乳することが一般的である。肉牛の自然哺育では、一般に離乳時期は3ヶ月齢程度である。
【0015】
本発明による、哺乳期間中の子牛の症状又は状態を改善するための哺乳期子牛用サプリメントは、リジンを含有し、1日当り0.75 g~6 gのリジンを哺乳期間中の子牛に補給するために用いられる。該サプリメントによる1日当りのリジン補給量は0.75 g~6 gの範囲内であれば特に制限はないが、例えば、1 g~6 g、1.2 g~6 g、1.5 g~6 g、1.7 g~6 g、2 g~6 g、2.2 g~6 g、2.5 g~6 g、2.7 g~6 g、3 g~6 g、3.2 g~6 g、又は3.5 g~6 gとしてもよい。補給量の上限値は5.5 g又は5 gであってもよい。哺乳期子牛用サプリメントの補給期間中、リジンとして上記した量のサプリメントを毎日給与することが好ましい。1日当りの量を複数回に分けて給与してもよいが、1回で給与することが簡便で好ましい。
【0016】
哺乳期間中の子牛は飼料から、主として母乳又は代用乳、及び人工乳からもリジンを摂取しているが、本発明では、サプリメントによって上記した量のリジンを上乗せで補給する。飼料からのリジン摂取量と、本発明の哺乳期子牛用サプリメントからのリジン摂取量とを合わせた、哺乳期の子牛の1日当りのリジンの摂取量は、子牛に給与する母乳又は代用乳、人工乳のリジン含量に応じて変動するため特に制限されないが、例えば10 g~40 g程度、11 g~40 g程度、又は12 g~40 g程度であってよい。
【0017】
哺乳期子牛用サプリメントによる哺乳期間中の子牛の症状又は状態の改善は、例えば、哺乳期における増体量(例えば、一日増体量又は一日平均増体量)の向上及び粗飼料摂取量の向上から選択される少なくとも1種である。
【0018】
哺乳期子牛用サプリメントを哺乳期の子牛に給与する期間は、少なくとも離乳前3週間~離乳までの期間であればよく、例えば、離乳前25日~離乳までを含む期間、又は離乳前4週間~離乳までを含む期間であってよい。
【0019】
哺乳期子牛用サプリメントは、リジンをバイパス加工されていない形態で含有するものであり、実質的にリジンのみからなっていてもよいし、ルーメンバイパス効果のない添加剤等をさらに含んでいてもよい。1つの態様において、哺乳期子牛用サプリメントは、メチオニン及びバイパスメチオニンのいずれとも組み合わせずに用いられる。
【0020】
哺乳期子牛用サプリメントは、代用乳等の飼料に添加して給与してもよいし、飼料に添加せず直接又は飲料水に溶解させて経口補給させてもよい。また、該サプリメントは、代用乳等の哺乳期の子牛用の飼料に添加された形態で提供することも可能である。
【0021】
本発明による、離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善するための離乳期子牛用サプリメントは、バイパス加工されたリジン(バイパスリジン)を含有し、リジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量のバイパスリジンを離乳期の子牛に補給するために用いられる。該サプリメントによる1日当りのリジン換算補給量は、0.35 g~4 gの範囲内であれば特に制限はないが、例えば、0.5 g~4 g、0.7 g~4 g、1 g~4 g、1.2 g~4 g、又は1.5 g~4 gとしてもよく、上限値は3.7 g、3.5 g、3.2 g、3 g、2.7 g、又は2.5 gであってもよい。離乳期子牛用サプリメントの補給期間中、リジン換算で上記した量のサプリメントを毎日給与することが好ましい。1日当りの量を複数回に分けて給与してもよいが、1回で給与することが簡便で好ましい。
【0022】
離乳後はルーメンの発達が進むが、本発明においては、ルーメン微生物への栄養源としてではなく子牛にリジンを吸収させることを目的とするため、離乳期の子牛に対してバイパスリジンを補給する。ルーメンをバイパスするバイパス加工自体は、この分野において周知である。例えば、バイパス加工は、硬化油などのバイパス加工に使用される原料を加工する原料に対してスプレーコーティングやパンコーティングをすることにより行うことができる。バイパスリジンは市販されているので、市販品を用いて本発明を実施することもできる。
【0023】
離乳期子牛用サプリメントを離乳期の子牛に給与する期間は、少なくとも離乳~離乳後2週間の期間であればよく、例えば、離乳~離乳後18日を含む期間、又は離乳~離乳後3週間を含む期間であってよい。
【0024】
離乳期子牛用サプリメントによる離乳に伴う子牛の症状又は状態の改善は、例えば、離乳期における、増体量の向上、粗飼料摂取量の向上、糖新生の改善、白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに治療日数の低減から選択される少なくとも1種である。
【0025】
離乳期子牛用サプリメントは、バイパス加工されたリジンを含有するものであり、実質的にバイパスリジンのみからなっていてもよいし、ルーメンバイパス効果を損なわない添加剤等をさらに含んでいてもよい。1つの態様において、離乳期子牛用サプリメントは、メチオニン及びバイパスメチオニンのいずれとも組み合わせずに用いられる。
【0026】
本発明の離乳期子牛用サプリメントは、人工乳や粗飼料等の飼料に添加して給与してもよいし、飼料に添加せず直接又は飲料水に溶解させて経口補給させてもよい。また、該サプリメントは、人工乳等の離乳期の子牛用の飼料に添加された形態で提供することも可能である。
【0027】
本発明の哺乳期子牛用サプリメント及び離乳期子牛用サプリメントは、両者を組み合わせて子牛用サプリメントとして提供されてもよい。
【0028】
本発明による哺乳期間中の又は離乳に伴う子牛の症状又は状態を改善する方法では、子牛に対し、哺乳期において哺乳期子牛用サプリメントをリジン換算で1日当り0.75 g~6 gの量で給与し、離乳期において離乳期子牛用サプリメントをリジン換算で1日当り0.35 g~4 gの量で給与する。該方法による、哺乳期間中の又は離乳に伴う子牛の症状又は状態の改善は、例えば、哺乳期及び離乳期における増体量の向上、哺乳期及び離乳期における粗飼料摂取量の向上、離乳期における糖新生の改善、離乳期における白血球数変化の軽減及びN:L比上昇の抑制、並びに離乳期における治療日数の低減から選択される少なくとも1種である。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例:リジン補給が離乳ストレス軽減に及ぼす影響
1.材料及び方法
(ア) 試験期間:令和3年3月~令和3年6月
(イ) 試験場所:笠間乳肉牛研究室 哺育舎
(ウ) 供試動物:4週齢のホルスタイン種雌子牛20頭(生後1時間以内に母牛から分離)
(エ) 試験区分;以下の2区を設けた(各区n=10)。
a. 対照区;農場の慣行に従い管理した(代用乳は
図1の通りに給与、固形飼料(人工乳及び粗飼料)は全期間で給与)。0~3週(4~7週齢)を哺乳期、4~6週(8~10週齢)を離乳期として、合計6週間を試験期間とした。
b. リジン区;対照区の管理に加えて、3週目まではリジン(製品名L-リジン塩酸塩、新疆梅花アミノ酸有限責任公司製、主成分リジン(含有割合98.5%))を原物4 g/頭/日(リジン換算で3.94 g/頭/日)で、4週目以降はバイパスリジン(製品名スプレイリジン、Bioscreen Technologies Srl製、主成分リジン、含有割合40%、バイパス率80%)を原物4 g/頭/日(リジン換算で1.6 g/頭/日)で、それぞれ経口補給した。リジン及びバイパスリジンの給与量は予備検討し、血液中リジン濃度が増加した量としてどちらも原物4 g/頭/日に設定した。
(オ) 飼養管理;飼料は1日2回給与とし、自由飲水とした。治療、ワクチンおよび除角などの管理は農場の規則に則り行った。
【0031】
(カ) 調査項目:
a. 飼料摂取量;毎日
b. 体重;毎週
c. 生化学検査;体重測定に併せて採血し、遠心分離後の血清を用いてTP、Alb、AST、γ-GTP、BUN、Tcho、グルコース(Glu)、コルチゾール、白血球数、白血球分画、遊離アミノ酸濃度を測定した。
(キ) 統計解析:全てのデータは、JMPVer.15のモデルあてはめにより処理および時間を要因とした二元配置反復測定分散分析を行った。有意差(P<0.05)が認められた場合、Student t検定を実施した。体重を基に算出した一日平均増体量(ADG)、飼料摂取量、飼料効率、白血球数および白血球分画については、哺乳期、離乳期、全期に区分けして、その期間毎の区間差をStudent t検定した。
【0032】
2.結果及び考察
(ア) 体重(
図2-1~
図2-3)
Lys区の試験4週目以降の体重は対照区に比べて有意に増加もしくは増加傾向を示した。試験3-4週、5-6週において、Lys区のDGは対照区のDGに比べて高く、ステージ別で区切っても、哺乳期、離乳期ともにLys区のDGのほうが対照区のDGより高かった。これらのデータは、子牛に対するリジン補給が哺育期のADGを高めることを示唆している。
【0033】
(イ) 飼料摂取量(
図3-1~
図3-4)
人工乳摂取量に区間差はなく、人工乳摂取量はリジン給与の影響を受けなかった(
図3-1、3-2)。粗飼料摂取量については、リジンは粗飼料摂取量の推移には影響しなかったが、試験期間全体にわたってLys区の方が対照区よりも摂取量が多い傾向があり(
図3-3)、ステージ別にみると、哺乳期、離乳期、試験期間全体のLys区の総粗飼料摂取量は対照区の総粗飼料摂取量に比べ有意に増加もしくは増加傾向を示した(
図3-4)。これらのデータは、子牛に対するリジン補給が試験全期間の粗飼料摂取量を改善することを示唆している。
【0034】
(ウ) 飼料効率(
図4-1、
図4-2)
試験開始3週間と5週目のLys区の飼料効率は対照区と差はなかったが、4週目と6週目の飼料効率はLys区で対照区に比べ高かった。ステージ別に取りまとめると、哺乳期と試験期間全体のLys区の飼料効率は対照区の飼料効率より高かった。これらの結果は、子牛に対するリジン補給が哺育期の飼料効率を改善することを示唆している。
【0035】
(エ) 血液成分(生化学検査)(表1)
試験2-6週のLys区のGlu濃度は対照区に比べ高かった。この結果は、子牛に対するリジン補給が糖新生を促進し血清中Glu濃度を高めることを示唆している。
試験2、6、7週目のLys区のコルチゾール濃度は対照区に比べ低かった。したがって、リジン補給により、離乳ストレスによるコルチゾール濃度増加を部分的に低減する可能性が考えられた。
【0036】
【0037】
(オ) 血液成分(白血球分画)(表2-1、表2-2)
N:L比において、試験4-6週のLys区の値は対照区の値に比べ低かった。リジン補給は離乳後の炎症反応を軽減する可能性がある。一方、ステージ別に区切り比較したところ、対照区に比べ、Lys区の離乳期および全期間の白血球数やリンパ球数、哺乳期および全期間の単球数は高く、離乳期の好酸球数や好中球数は低く、離乳期のN:L比が低値を示した。Lys区の白血球数の増加はリンパ球数の増加による結果であると考えられる。離乳は子牛の血中リンパ球数を低下させ、好中球数を増加させ、N:L比を増加させることが知られており(Hickey et al., J Anim Sci, 81: 2847-2855 (2003).)、子牛へのリジン補給は離乳による血中リンパ球数の低下、好中球数の増加、N:L比の増加を軽減することが示唆された。
【0038】
【0039】
【0040】
(カ) 血清中リジン濃度(
図5)
Lys区の血清中リジン濃度は試験4から6週目まで対照区より高かった。代用乳摂取量の低下に伴い血清中リジン濃度は低下した。代用乳給与期間中はリジン補給の影響は認められなかった。おそらく、添加剤によるリジン補給よりも代用乳によるリジン補給のほうがリジン補給源として大きいため、哺乳期間中の血清中リジン濃度には代用乳給与量の影響が大きく添加剤によるリジン補給の影響がマスキングされると推察された。
【0041】
なお、本試験で供試した代用乳のアミノ酸組成におけるリジン割合は2.35%であり、代用乳として1日当り0.4-0.8 kg給与したので、哺乳期の子牛は代用乳から9.4-18.8 g/日のリジンを摂取していたことになる。また、本試験で供試した人工乳のアミノ酸組成におけるリジン割合は1.07%であり、人工乳の摂取量は、哺乳期で60-1,774 g/日、離乳期で849-1,900 g/日であったので、本試験において、哺乳期の子牛は人工乳から0.642-18.985 g/日のリジンを、離乳期の子牛は人工乳から9.08-20.33 g/日のリジンをそれぞれ摂取していたことになる。本試験において、哺乳期の子牛が飼料(代用乳、人工乳)から摂取したリジンは12.70-30.16g/日であった。離乳期にはルーメンがある程度発達しており、通常のリジンはルーメンで分解されてしまうことから、離乳期の子牛の血清中リジン濃度の上昇は添加剤として経口摂取させたバイパスリジンによるものと考えられる。
【0042】
(キ)治療日数(
図6)
対照区の治療内容は血便、下痢、発熱、発咳であり、列挙した順に多かった。Lys区の治療内容は血便のみであった。哺乳期の治療日数には差がなかった。Lys区の離乳期の治療日数は対照区より低い傾向であった。また、試験期間全体の治療日数もLys区で少ない傾向を示した。
【0043】
3.結論
リジン補給により、子牛の全期間のADG、粗飼料摂取量、離乳期の糖新生が改善し、離乳期のリンパ球数の増加、好中球数の低下及びN:L比の低下が生じ、離乳期の治療日数が減少した。